台本概要
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タイトル | 黒猫のいる診療所 |
---|---|
作者名 | のぼライズ (@tomisan5012_2) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 4人用台本(男2、女1、不問1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
安良川先生が営むこの診療所には、こんな都市伝説みたいな噂がある。 この診療所で飼われている黒猫が寝るベッドの患者さんはいずれ死期が訪れるという噂。 724 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
かおり | 女 | 62 | 安良川先生の下で長らくお世話になっている看護師。 |
安良川先生 | 男 | 47 | 診療所を自営する医者。 以前は大きい病院の主任だったらしい |
まこと | 不問 | 41 | 井筒の孫。16〜19歳。 小さい頃に両親を事故で亡くす |
井筒 | 男 | 33 | まことの祖父。 可愛いが故に、孫には厳しくなる。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
かおり:(N)私が働いている診療所には、こんな都市伝説みたいな噂がある。この診療所で飼われている黒猫が寝るベッドの患者さんはいずれ死期が訪れるという噂。
安良川先生:「17時26分、ご臨終です」
かおり:(N)そして今日、また1人の患者さんが亡くなった。そのベッドの上を見れば、黒猫が幸せそうな顔で寝ていた
0:
かおり:『黒猫のいる診療所』
0:
安良川先生:「これでよし!また次の診察までの痛み止め出しておくから、くれぐれもバイクでの暴走行為は止めるのじゃぞ?」
まこと:「っるせぇな、先生には関係ないだろ?」
かおり:「関係なくても、ここで診察してれば心配にもなるよ?まことくん」
まこと:「いちいち口挟みやがって!少しは黙ってろブス!」
かおり:「なっ!?ブスとは何よ、ブスって!」
安良川先生:「まぁまぁ…」
まこと:「俺にとっては…バイクは生き甲斐みてぇなもんなんだよ。誰にも言えねぇ悩みや、イライラして愚痴りたい時とかよ…バイクに乗って走り出したら、感じるんだよ。俺の全ての愚痴とかを聞いてくれてるみてぇに、気持ちよく走ってくれんだよ!」
安良川先生:「そうかそうか、まぁ次からは転ばない程度に安全に走りなさい。この事はおじいちゃんに黙っておくから」
かおり:「ちょ!先生!?」
まこと:「先生はやっぱり分かろうとしてくれる良い先生だ!(ため息を吐く)…それに比べて、このブスときたら…」
かおり:「いい加減になさい!まことくん!」
安良川先生:「ふっふっふっ…まぁかおりくん、良いではないか」
かおり:「もぉ…先生ったら…」
かおり:(N)この方は「安良川 智史(あらかわ ともふみ)」。かつては大きい病院の主任であったが、突然そこを辞め、小さな町に診療所を構え今に至る。この先生の考えてる事は、主任当時から助手をしているが、未だによく分からない人である。
安良川先生:「まことくん、今日もおじいさんの見舞いはいいのか?」
まこと:「あ?ジジイが勝手にぶっ倒れただけだろ?何で見舞いに来ねぇといけねぇんだよ!」
かおり:「ちょっと!おじいさんの事を悪く言うのは…」
安良川先生:「(遮るように)かおりくん、まことくんへのお薬の用意と井筒さんの体調チェックを…お願いね?」
かおり:「(不満ありげに)…分かりました」
まこと:「チッ…何なんだよ、あのブス」
安良川先生:「まぁまぁ、かおりくんは良い子だよ?美人かどうかは…人に寄るだろうけどね」
まこと:「まぁ…そうだよな」
安良川先生:「まことくん、少し時間を貰えんかね?」
まこと:「?…何だよ、先生」
安良川先生:「少し、おじいさんの話をしておいた方が良いかと…ね?」
まこと:「…ジジイの?」
安良川先生:「どう捉えて貰っても良いが、一応医者としての宣告じゃよ」
0:間を空ける
かおり:「井筒さん、点滴変えますね?」
井筒:「……」
かおり:「井筒さん、具合はどうですか?」
井筒:「……」
かおり:「きょ…今日は少し、肌寒くなりそう…ですよ?」
井筒:「あぁ…」
0:5秒空ける
かおり:(N)何だか…空気が重いな…まぁ、いつもの事だけど…
井筒:「まことが来ておったな…」
かおり:「え?えぇ…」
井筒:「言わずとも、ここまであのやかましい声が通る…孫がいつも迷惑を掛けているようじゃな」
かおり:「いえ、ですが…ここんとこ最近よく怪我をしてくるようで…」
井筒:「……」
かおり:「今日も井筒さんのお見舞いは断って帰られましたね…」
井筒:「そういうやつじゃ…仕方あるまい…」
かおり:「そう…ですか…顔ぐらい見せて帰れば良いのに…」
井筒:「なぁ、看護婦さんや…」
かおり:「?…はい」
井筒:「あの子はワシの事を、最期に看取りはせんやろ…」
かおり:「いえ…そんな悲しい事は…」
井筒:「ワシの勘が、そう言っておる」
かおり:「あの…何故、そう思われるんですか?」
0:3秒、間をあける(井筒が何かを思い詰める感じ)
井筒:「お主も知っておると思うが、あの子の両親は事故で亡くなっておる」
かおり:「えぇ。私もその時、居合わせていましたので、今でも覚えております」
井筒:「まだ小学生だったまことと待合室で、手術が終えるのを待っていた…」
0:回想
井筒:「!…先生」
安良川先生:「おじいさん、まことくん…」
0:3秒、間をあける(安良川が言うのを渋る)
安良川先生:「申し訳ありません、最善を尽くしましたが…」
井筒:「じゃ…じゃあ、手術は…」
安良川先生:「どちらも、事故の衝撃で内臓破裂しており…」
井筒:「(深いため息を吐く)…そうですか」
まこと:「(小学生の時のまこと)先生…?」
安良川先生:「まことくん…」
まこと:「(小学生の時のまこと)…お父ちゃんは?…お母ちゃんは?」
安良川先生:「…ごめんね、まことくん」
まこと:「(小学生の時のまこと)?…先生、何で…何で泣いてるの?」
安良川先生:「……」
かおり:「ま…まことくん、あのね…」
安良川先生:「(遮るように)かおりくん」
かおり:「っ…すいません…」
井筒:(N)あの時、あの看護婦が何を言おうとしたのかは分かった。だが先生はすぐ看護婦の口を慎ませ、俯きながら首を振りその後まことを抱き締めた、頭をポンポンと撫でながら。
0:回想終わり
かおり:「…あの後、私もすぐに気付きました。例え医者であれ看護婦であれど、子どもに状況を説明するのは苦では無いかと」
井筒:「その後、まことを引き取って2人の生活が始まった。ワシも婆さんを亡くしたばかりじゃったから、まことと一緒に暮らせるのは嬉しかったんじゃ」
かおり:「そう…ですよね」
井筒:「あんな子でもな…ワシにとっては可愛いもんじゃ…可愛い孫だからこそ、必要以上に厳しく躾けてしまう。はぁ、思うようにいかんもんじゃな…」
かおり:「それでまことくんは、おじいさんの事を避ける様に…?」
井筒:「あぁ、後悔しておる。もう少し、自由に出来んかったもんかと…」
かおり:「そういう…もんなんですかね…?」
井筒:「あぁ…(少し伸びをする)…話しすぎて疲れた、少し寝る」
かおり:「あっ、じゃあ私はこれで…」
かおり:(N)いつもこのおじいさんは寡黙な方で、自分からあまり話したがらない。それどころか、私が訪ねても一言も発してくれない日もある。だけど、何で今日はたくさん話してくれたんだろ…?
0:3秒、間を空ける(回想)
井筒:「待てまこと!こんな時間にどこへ行く!」
まこと:「っるせぇな、じじい!俺の自由だろが!」
井筒:「なんだと!さっさと家に入らぬか!」
まこと:「いちいちやかましいんだよ!じじい!さっさとくたばってしまえ!」
井筒:「コラ!口の聴きか、たぐ…ら…ぃ…」
まこと:「!?…じじい?」
井筒:「(息荒くして)まこと…」
まこと:「おい…冗談よせよ!おい!!」
井筒:「(息荒く)」
まこと:「しっかりしろって!じじいぃ!!」
0:3秒、間を空ける。病院にて
安良川先生:「まことくん、手術は無事に終えたよ。君の通報が、おじいさんの一命を取り留めたよ。よくやった」
まこと:「(鼻を啜りながら)俺の…せいだ…」
安良川先生:「まことくん…」
まこと:「先生…俺…」
安良川先生:「自分を責める事ではない、まことくんが助けた命じゃよ」
まこと:「じじいに…じいちゃんに、合わせる顔が無ぇよ…」
安良川先生:「まことくん、今は自分の心の療養に精進なさい。おじいさんに会うか会わないかは、君次第じゃよ」
まこと:「先生…」
0:まこと、回想から飛び起き、目を覚ます
まこと:「(息荒くしながら)!?…何だ、夢か…あぁもう!嫌な夢だ、スッキリしねぇ!」
0:時計を見る
まこと:「こんな時間か…でもまぁ、じじいは居ねぇし…走るか」
0:間を空ける。まこと、バイクを走らす
まこと:「ふぅぅ!やっぱこの時間はさすがに車も居ねぇなぁ!もっとスピード上げてみっか!」
安良川先生:「(まことの頭の中で)くれぐれもバイクでの暴走行為は止めるのじゃぞ?」
まこと:「(ボソっと)…関係ねぇよ」
安良川先生:「(まことの頭の中で)そうかそうか、まぁ次からは転ばない程度に安全に走りなさい」
まこと:「…チッ」
安良川先生:「(まことの頭の中で)この事はおじいちゃんに黙っておくから…」
まこと:「っ…あぁもう!じじいには関係ねぇだろがぁ!!」
0:アクセルをふかし過ぎる
まこと:「しまった、つい勢いでスピードが…うわ…トラック…?えっ…いや…あっ…う…うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
0:3秒、間を空ける
かおり:(N)まことくんが診察に来て翌日の早朝、1台の救急車が診療所に止まった
安良川先生:「大丈夫か!しっかりするんじゃ!」
かおり:「先生!」
安良川先生:「かおりくん!朝早くに呼び出してすまないが、すぐにオペの準備を!」
かおり:「はい!(まことの顔を見る)…えっ!?」
かおり:(N)緊急搬送されたその担架は、敷いてあったシーツが赤く染まり、その上に寝転がっていたのは、人工呼吸器を付け、至るところボロボロな…まことくんの姿だった。
0:3秒、間を空ける
井筒:「ん?…やけに騒がしいのぉ」
井筒:(N)サイレンの音で目が覚めた時、ワシの膝元に黒猫が乗っており、ワシに鳴いてきおった。
井筒:「ん、なんじゃ?ワシに訴えても、何も出んぞ?(入口の隙間から見えた担架を見て)…ん?」
井筒:(N)病室のドアの磨りガラスには、先生等がバタバタしているのが見えた。そしてそのドア越しから、安良川先生の必死な呼び掛けを聞いたワシは、動揺が隠しきれんかった…
安良川先生:「しっかりするんじゃ!まことくん!まことくん!!」
井筒:「まっ…まこと…じゃと?」
0:3秒、間を空ける
かおり:(N)あれから4日。まことくんの一命は取り留めたものの、意識がまだ戻って来ない状況にあった。だけど、まことくんがもし目覚めたらきっと…愕然(がくぜん)とするかもな。もう…バイクに乗れない体なんだと…
安良川先生:「かおりくん」
かおり:「あっ…はい」
安良川先生:「気持ちは分かるが、何度も言っておろう。あまり1人の患者へ対して思い悩むなと…」
かおり:「はい…」
安良川先生:「…あまり大丈夫そうでは無いがな?」
かおり:「そりゃ…そうですよ」
まこと:「(かおりの頭の中で)いちいち口挟みやがって!少しは黙ってろブス!」
かおり:「あんな元気なまことくんを見た後に…」
まこと:「(かおりの頭の中で)先生はやっぱり分かろうとしてくれる良い先生だ!それに比べて、このブスときたら…」
かおり:「今の…あのまことくん見たら、こうなりますよ…」
安良川先生:「まぁそう…じゃな、無理もないか…」
0:黒猫が安良川先生の足に擦りつく
安良川先生:「おや、みーちゃん!元気だったか?どこ行っとったか?んぅ?」
かおり:「み…みーちゃん?」
安良川先生:「あぁ、鳴き声が「みー」と聞こえるから、黒猫のみーちゃん」
かおり:「いや…じゃなくて、いつの間に名前を?」
安良川先生:「いやぁ、そろそろここで3ヶ月飼ってるから、この子に名前を付けようか思ってね」
かおり:「…はぁ、患者さんの様子を伺ってきます」
安良川先生:「ほら、みーちゃん!チュールだぞぉ?たくさんお食べ?」
0:3秒、間を空ける
井筒:(N)以前、ワシの隣のベッドに同じ歳の患者が入院しておった。だが、その患者は後に亡くなってしまった。
井筒:(N)ある時、トイレに行く道中、2人が言い争っているのを聞いてしまったんじゃ。
安良川先生:「かおりくん…この黒猫は以前、道の真ん中で轢かれて蹲(うずくま)っていたところを、たまたま助けただけじゃ。ただの黒猫じゃぞ?君の言う事は、たまたま偶然…そこに、この黒猫が、寝ていただけじゃぞ?」
かおり:「偶然にしては重なりすぎています。この診療所で亡くなった患者さん全員、その上で黒猫が寝ていたんですよ?」
安良川先生:「この黒猫が、死期を運んでいるとでも?」
かおり:「えぇ、国によっては黒猫を死神と扱われる国があるという程ですよ…よくありませんよ?この黒猫は…」
安良川先生:「単なる迷信じゃろ?」
井筒:「死期を運ぶ…か…」
井筒:(N)その時はただの迷信だと思っていた。そう、思っていたんじゃがな…
0:間を空ける
かおり:(N)人は亡くなった瞬間でも、聴覚だけは最期まで残っていると言われます。それは、その人へ伝えきれなかった遺族の想いを最後に伝える、神様が残した最後の「贈り物(ギフト)」だという言い伝えがあります。
0:間を空ける
井筒:「うーん…もうこんな時間か、最近は寝てばかりで時間が過ぎるのが早いな…ん?」
井筒:(N)真夜中に起き上がった時、黒猫の小さな鳴き声が聴こえた。枕元の照明を点けると、まことの膝上に黒猫が寝ていたのだった。この時、ふと思い出したのじゃった。
かおり:「この診療所で亡くなった患者さん全員、その上で黒猫が寝ていたんですよ?」
安良川先生:「この黒猫が、死期を運んでいるとでも?」
0:3秒空ける
井筒:「黒猫さんや…寝るところが…違うんじゃ無いかい?」
井筒:「やれやれ、迷信を信じるとは…ワシらしくないの」
井筒:(N)ワシは、まことの上で寝ていた黒猫を抱え、ワシの膝元に乗せた。
井筒:「黒猫さんや…まことにはまだ、夢がある、希望がある。そんな若者よりも、後先短いこの…ワシを連れてってくれないか?ワシの余生は、まことにくれたって良い。まことにはまだ、やり直しの効く時間なんてものは、いっぱいあるんじゃ。さぁ…この老いぼれを早く、婆さんのところへ連れてってくれ…可愛い死神さんや…」
井筒:(N)黒猫は撫でられて気持ち良くなり、喉元をぐるぐる鳴らし、小さくおじいさんへ向けて…鳴いた。
0:間を空ける
安良川先生:「6時8分、ご臨終です」
かおり:(N)安良川先生からの連絡を受け、私が診療所に着いた時には…井筒さんが亡くなっていた。そしてその上にはやはり、黒猫が幸せそうな顔で寝ている。
まこと:「じじい…」
かおり:(N)意識の戻ったまことくんがおじいさんのところへ向かおうとするが、足が覚束なく床に崩れ落ち、小刻みに震えていた
安良川先生:「まことくん…」
まこと:「はぃ…」
安良川先生:「ちゃんと、おじいさんに向けて声を掛けてあげなさい…顔を合わせる機会が、最初で最期になってしまったがな…」
まこと:「え…あぁっ…」
かおり:(N)まことくんの口は、何を言おうかという迷いでパクパクと口を開閉していた。どう声を掛けてあげれば良いのか…私は咄嗟(とっさ)に、まことくんに声を掛けてしまった。
かおり:「まことくん」
まこと:「!?…はい」
かおり:「そうね……いつも通りのまことくんで良いんじゃないのかな?おじいさんはね、まことくんとずっと一緒に居れて嬉しかったって言ってたわよ?」
まこと:「え…」
かおり:「私ね、まことくんのおじいさんによく話しかけていたの…最初はずっと黙っててさ、結局何も返してくれなかったのよ?でもね、1日だけおじいさんから話しかけてきてくれた時があってね。おじいさん、ずっと笑顔でまことくんの話をしていたのよ。ワシの言う事を聞いてくれない、すぐバイクでどっか行ってしまうって」
まこと:「(少し微笑む)……何ちゅう話やねん」
かおり:「嬉しかったんじゃないかな?」
まこと:「…嬉しい?」
かおり:「うん、きっとおじいさんにとっては…可愛い孫であるまことくんの事を、人に話す事自体が嬉しかったんじゃないかな?」
まこと:「…訳分かんねぇよ」
かおり:「そうね、私も言ってて頭の整理がつかないわ。でもね、最期の言葉だって特別な事を言おうと身構えてしまうのは分かる気もする。だけどね、日常ってものほど、特別なものは無いと思う」
まこと:「でも…」
かおり:「さぁ、まことくん!いつものまことくんに、涙は似合わないよ!」
まこと:「(ため息を吐く)…無茶言うなよ」
かおり:(N)まことくんは涙を拭い、大きく息を吸った…
まこと:「スゥ…じじいの馬鹿野郎ぉ!!早すぎるんだよぉ!ほら、いつもみてぇに怒れよ!目を開けろよ!こんな…こんな俺で見納めんなよ!!勝手に逝きやがって!黙りやがって…この…このぉ…(鼻を啜って息を吸う)…バカヤロォオ!くっそじじいいぃぃ…」
かおり:(N)まことくんの叫びは、いつもの罵声や怒鳴りとは違った様に聴こえた。まぁ言う言葉は一緒だけども。でも…どこか切なくて、不快にならない優しさの泣き叫びが響いた。
安良川先生:「かおりくん…」
かおり:「はい…」
安良川先生:「あのおじいさんの顔は、ワシは今まで見た事がないよ…」
かおり:「きっと…嬉しいんですよ…」
0:かおりの中の回想
井筒:「あの子はワシの事を、最期に看取りはせんやろ…」
かおり:「いえ…そんな悲しい事は…」
井筒:「ワシの勘が、そう言っておる」
0:回想終わり
かおり:(N)おじいさん…良かったですね、その勘が外れて…
安良川先生:「どうした、かおりくん?」
かおり:「えっ…あっ、いいえ」
安良川先生:「?…まぁいっか、行こう。ここにいては、この空間のお邪魔虫になってしまう」
かおり:「はい」
かおり:(N)そう言い、私と先生はおじいさんとまことくんの病室を後にした。そして黒猫が眠りから目覚め、すかさず安良川先生の足下に来る。朝ご飯をねだりに…
かおり:(N)私が働いている診療所には、こんな都市伝説みたいな噂がある。この診療所で飼われている黒猫が寝るベッドの患者さんはいずれ死期が訪れるという噂。
安良川先生:「17時26分、ご臨終です」
かおり:(N)そして今日、また1人の患者さんが亡くなった。そのベッドの上を見れば、黒猫が幸せそうな顔で寝ていた
0:
かおり:『黒猫のいる診療所』
0:
安良川先生:「これでよし!また次の診察までの痛み止め出しておくから、くれぐれもバイクでの暴走行為は止めるのじゃぞ?」
まこと:「っるせぇな、先生には関係ないだろ?」
かおり:「関係なくても、ここで診察してれば心配にもなるよ?まことくん」
まこと:「いちいち口挟みやがって!少しは黙ってろブス!」
かおり:「なっ!?ブスとは何よ、ブスって!」
安良川先生:「まぁまぁ…」
まこと:「俺にとっては…バイクは生き甲斐みてぇなもんなんだよ。誰にも言えねぇ悩みや、イライラして愚痴りたい時とかよ…バイクに乗って走り出したら、感じるんだよ。俺の全ての愚痴とかを聞いてくれてるみてぇに、気持ちよく走ってくれんだよ!」
安良川先生:「そうかそうか、まぁ次からは転ばない程度に安全に走りなさい。この事はおじいちゃんに黙っておくから」
かおり:「ちょ!先生!?」
まこと:「先生はやっぱり分かろうとしてくれる良い先生だ!(ため息を吐く)…それに比べて、このブスときたら…」
かおり:「いい加減になさい!まことくん!」
安良川先生:「ふっふっふっ…まぁかおりくん、良いではないか」
かおり:「もぉ…先生ったら…」
かおり:(N)この方は「安良川 智史(あらかわ ともふみ)」。かつては大きい病院の主任であったが、突然そこを辞め、小さな町に診療所を構え今に至る。この先生の考えてる事は、主任当時から助手をしているが、未だによく分からない人である。
安良川先生:「まことくん、今日もおじいさんの見舞いはいいのか?」
まこと:「あ?ジジイが勝手にぶっ倒れただけだろ?何で見舞いに来ねぇといけねぇんだよ!」
かおり:「ちょっと!おじいさんの事を悪く言うのは…」
安良川先生:「(遮るように)かおりくん、まことくんへのお薬の用意と井筒さんの体調チェックを…お願いね?」
かおり:「(不満ありげに)…分かりました」
まこと:「チッ…何なんだよ、あのブス」
安良川先生:「まぁまぁ、かおりくんは良い子だよ?美人かどうかは…人に寄るだろうけどね」
まこと:「まぁ…そうだよな」
安良川先生:「まことくん、少し時間を貰えんかね?」
まこと:「?…何だよ、先生」
安良川先生:「少し、おじいさんの話をしておいた方が良いかと…ね?」
まこと:「…ジジイの?」
安良川先生:「どう捉えて貰っても良いが、一応医者としての宣告じゃよ」
0:間を空ける
かおり:「井筒さん、点滴変えますね?」
井筒:「……」
かおり:「井筒さん、具合はどうですか?」
井筒:「……」
かおり:「きょ…今日は少し、肌寒くなりそう…ですよ?」
井筒:「あぁ…」
0:5秒空ける
かおり:(N)何だか…空気が重いな…まぁ、いつもの事だけど…
井筒:「まことが来ておったな…」
かおり:「え?えぇ…」
井筒:「言わずとも、ここまであのやかましい声が通る…孫がいつも迷惑を掛けているようじゃな」
かおり:「いえ、ですが…ここんとこ最近よく怪我をしてくるようで…」
井筒:「……」
かおり:「今日も井筒さんのお見舞いは断って帰られましたね…」
井筒:「そういうやつじゃ…仕方あるまい…」
かおり:「そう…ですか…顔ぐらい見せて帰れば良いのに…」
井筒:「なぁ、看護婦さんや…」
かおり:「?…はい」
井筒:「あの子はワシの事を、最期に看取りはせんやろ…」
かおり:「いえ…そんな悲しい事は…」
井筒:「ワシの勘が、そう言っておる」
かおり:「あの…何故、そう思われるんですか?」
0:3秒、間をあける(井筒が何かを思い詰める感じ)
井筒:「お主も知っておると思うが、あの子の両親は事故で亡くなっておる」
かおり:「えぇ。私もその時、居合わせていましたので、今でも覚えております」
井筒:「まだ小学生だったまことと待合室で、手術が終えるのを待っていた…」
0:回想
井筒:「!…先生」
安良川先生:「おじいさん、まことくん…」
0:3秒、間をあける(安良川が言うのを渋る)
安良川先生:「申し訳ありません、最善を尽くしましたが…」
井筒:「じゃ…じゃあ、手術は…」
安良川先生:「どちらも、事故の衝撃で内臓破裂しており…」
井筒:「(深いため息を吐く)…そうですか」
まこと:「(小学生の時のまこと)先生…?」
安良川先生:「まことくん…」
まこと:「(小学生の時のまこと)…お父ちゃんは?…お母ちゃんは?」
安良川先生:「…ごめんね、まことくん」
まこと:「(小学生の時のまこと)?…先生、何で…何で泣いてるの?」
安良川先生:「……」
かおり:「ま…まことくん、あのね…」
安良川先生:「(遮るように)かおりくん」
かおり:「っ…すいません…」
井筒:(N)あの時、あの看護婦が何を言おうとしたのかは分かった。だが先生はすぐ看護婦の口を慎ませ、俯きながら首を振りその後まことを抱き締めた、頭をポンポンと撫でながら。
0:回想終わり
かおり:「…あの後、私もすぐに気付きました。例え医者であれ看護婦であれど、子どもに状況を説明するのは苦では無いかと」
井筒:「その後、まことを引き取って2人の生活が始まった。ワシも婆さんを亡くしたばかりじゃったから、まことと一緒に暮らせるのは嬉しかったんじゃ」
かおり:「そう…ですよね」
井筒:「あんな子でもな…ワシにとっては可愛いもんじゃ…可愛い孫だからこそ、必要以上に厳しく躾けてしまう。はぁ、思うようにいかんもんじゃな…」
かおり:「それでまことくんは、おじいさんの事を避ける様に…?」
井筒:「あぁ、後悔しておる。もう少し、自由に出来んかったもんかと…」
かおり:「そういう…もんなんですかね…?」
井筒:「あぁ…(少し伸びをする)…話しすぎて疲れた、少し寝る」
かおり:「あっ、じゃあ私はこれで…」
かおり:(N)いつもこのおじいさんは寡黙な方で、自分からあまり話したがらない。それどころか、私が訪ねても一言も発してくれない日もある。だけど、何で今日はたくさん話してくれたんだろ…?
0:3秒、間を空ける(回想)
井筒:「待てまこと!こんな時間にどこへ行く!」
まこと:「っるせぇな、じじい!俺の自由だろが!」
井筒:「なんだと!さっさと家に入らぬか!」
まこと:「いちいちやかましいんだよ!じじい!さっさとくたばってしまえ!」
井筒:「コラ!口の聴きか、たぐ…ら…ぃ…」
まこと:「!?…じじい?」
井筒:「(息荒くして)まこと…」
まこと:「おい…冗談よせよ!おい!!」
井筒:「(息荒く)」
まこと:「しっかりしろって!じじいぃ!!」
0:3秒、間を空ける。病院にて
安良川先生:「まことくん、手術は無事に終えたよ。君の通報が、おじいさんの一命を取り留めたよ。よくやった」
まこと:「(鼻を啜りながら)俺の…せいだ…」
安良川先生:「まことくん…」
まこと:「先生…俺…」
安良川先生:「自分を責める事ではない、まことくんが助けた命じゃよ」
まこと:「じじいに…じいちゃんに、合わせる顔が無ぇよ…」
安良川先生:「まことくん、今は自分の心の療養に精進なさい。おじいさんに会うか会わないかは、君次第じゃよ」
まこと:「先生…」
0:まこと、回想から飛び起き、目を覚ます
まこと:「(息荒くしながら)!?…何だ、夢か…あぁもう!嫌な夢だ、スッキリしねぇ!」
0:時計を見る
まこと:「こんな時間か…でもまぁ、じじいは居ねぇし…走るか」
0:間を空ける。まこと、バイクを走らす
まこと:「ふぅぅ!やっぱこの時間はさすがに車も居ねぇなぁ!もっとスピード上げてみっか!」
安良川先生:「(まことの頭の中で)くれぐれもバイクでの暴走行為は止めるのじゃぞ?」
まこと:「(ボソっと)…関係ねぇよ」
安良川先生:「(まことの頭の中で)そうかそうか、まぁ次からは転ばない程度に安全に走りなさい」
まこと:「…チッ」
安良川先生:「(まことの頭の中で)この事はおじいちゃんに黙っておくから…」
まこと:「っ…あぁもう!じじいには関係ねぇだろがぁ!!」
0:アクセルをふかし過ぎる
まこと:「しまった、つい勢いでスピードが…うわ…トラック…?えっ…いや…あっ…う…うわぁぁぁぁぁぁぁあ!!」
0:3秒、間を空ける
かおり:(N)まことくんが診察に来て翌日の早朝、1台の救急車が診療所に止まった
安良川先生:「大丈夫か!しっかりするんじゃ!」
かおり:「先生!」
安良川先生:「かおりくん!朝早くに呼び出してすまないが、すぐにオペの準備を!」
かおり:「はい!(まことの顔を見る)…えっ!?」
かおり:(N)緊急搬送されたその担架は、敷いてあったシーツが赤く染まり、その上に寝転がっていたのは、人工呼吸器を付け、至るところボロボロな…まことくんの姿だった。
0:3秒、間を空ける
井筒:「ん?…やけに騒がしいのぉ」
井筒:(N)サイレンの音で目が覚めた時、ワシの膝元に黒猫が乗っており、ワシに鳴いてきおった。
井筒:「ん、なんじゃ?ワシに訴えても、何も出んぞ?(入口の隙間から見えた担架を見て)…ん?」
井筒:(N)病室のドアの磨りガラスには、先生等がバタバタしているのが見えた。そしてそのドア越しから、安良川先生の必死な呼び掛けを聞いたワシは、動揺が隠しきれんかった…
安良川先生:「しっかりするんじゃ!まことくん!まことくん!!」
井筒:「まっ…まこと…じゃと?」
0:3秒、間を空ける
かおり:(N)あれから4日。まことくんの一命は取り留めたものの、意識がまだ戻って来ない状況にあった。だけど、まことくんがもし目覚めたらきっと…愕然(がくぜん)とするかもな。もう…バイクに乗れない体なんだと…
安良川先生:「かおりくん」
かおり:「あっ…はい」
安良川先生:「気持ちは分かるが、何度も言っておろう。あまり1人の患者へ対して思い悩むなと…」
かおり:「はい…」
安良川先生:「…あまり大丈夫そうでは無いがな?」
かおり:「そりゃ…そうですよ」
まこと:「(かおりの頭の中で)いちいち口挟みやがって!少しは黙ってろブス!」
かおり:「あんな元気なまことくんを見た後に…」
まこと:「(かおりの頭の中で)先生はやっぱり分かろうとしてくれる良い先生だ!それに比べて、このブスときたら…」
かおり:「今の…あのまことくん見たら、こうなりますよ…」
安良川先生:「まぁそう…じゃな、無理もないか…」
0:黒猫が安良川先生の足に擦りつく
安良川先生:「おや、みーちゃん!元気だったか?どこ行っとったか?んぅ?」
かおり:「み…みーちゃん?」
安良川先生:「あぁ、鳴き声が「みー」と聞こえるから、黒猫のみーちゃん」
かおり:「いや…じゃなくて、いつの間に名前を?」
安良川先生:「いやぁ、そろそろここで3ヶ月飼ってるから、この子に名前を付けようか思ってね」
かおり:「…はぁ、患者さんの様子を伺ってきます」
安良川先生:「ほら、みーちゃん!チュールだぞぉ?たくさんお食べ?」
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井筒:(N)以前、ワシの隣のベッドに同じ歳の患者が入院しておった。だが、その患者は後に亡くなってしまった。
井筒:(N)ある時、トイレに行く道中、2人が言い争っているのを聞いてしまったんじゃ。
安良川先生:「かおりくん…この黒猫は以前、道の真ん中で轢かれて蹲(うずくま)っていたところを、たまたま助けただけじゃ。ただの黒猫じゃぞ?君の言う事は、たまたま偶然…そこに、この黒猫が、寝ていただけじゃぞ?」
かおり:「偶然にしては重なりすぎています。この診療所で亡くなった患者さん全員、その上で黒猫が寝ていたんですよ?」
安良川先生:「この黒猫が、死期を運んでいるとでも?」
かおり:「えぇ、国によっては黒猫を死神と扱われる国があるという程ですよ…よくありませんよ?この黒猫は…」
安良川先生:「単なる迷信じゃろ?」
井筒:「死期を運ぶ…か…」
井筒:(N)その時はただの迷信だと思っていた。そう、思っていたんじゃがな…
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かおり:(N)人は亡くなった瞬間でも、聴覚だけは最期まで残っていると言われます。それは、その人へ伝えきれなかった遺族の想いを最後に伝える、神様が残した最後の「贈り物(ギフト)」だという言い伝えがあります。
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井筒:「うーん…もうこんな時間か、最近は寝てばかりで時間が過ぎるのが早いな…ん?」
井筒:(N)真夜中に起き上がった時、黒猫の小さな鳴き声が聴こえた。枕元の照明を点けると、まことの膝上に黒猫が寝ていたのだった。この時、ふと思い出したのじゃった。
かおり:「この診療所で亡くなった患者さん全員、その上で黒猫が寝ていたんですよ?」
安良川先生:「この黒猫が、死期を運んでいるとでも?」
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井筒:「黒猫さんや…寝るところが…違うんじゃ無いかい?」
井筒:「やれやれ、迷信を信じるとは…ワシらしくないの」
井筒:(N)ワシは、まことの上で寝ていた黒猫を抱え、ワシの膝元に乗せた。
井筒:「黒猫さんや…まことにはまだ、夢がある、希望がある。そんな若者よりも、後先短いこの…ワシを連れてってくれないか?ワシの余生は、まことにくれたって良い。まことにはまだ、やり直しの効く時間なんてものは、いっぱいあるんじゃ。さぁ…この老いぼれを早く、婆さんのところへ連れてってくれ…可愛い死神さんや…」
井筒:(N)黒猫は撫でられて気持ち良くなり、喉元をぐるぐる鳴らし、小さくおじいさんへ向けて…鳴いた。
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安良川先生:「6時8分、ご臨終です」
かおり:(N)安良川先生からの連絡を受け、私が診療所に着いた時には…井筒さんが亡くなっていた。そしてその上にはやはり、黒猫が幸せそうな顔で寝ている。
まこと:「じじい…」
かおり:(N)意識の戻ったまことくんがおじいさんのところへ向かおうとするが、足が覚束なく床に崩れ落ち、小刻みに震えていた
安良川先生:「まことくん…」
まこと:「はぃ…」
安良川先生:「ちゃんと、おじいさんに向けて声を掛けてあげなさい…顔を合わせる機会が、最初で最期になってしまったがな…」
まこと:「え…あぁっ…」
かおり:(N)まことくんの口は、何を言おうかという迷いでパクパクと口を開閉していた。どう声を掛けてあげれば良いのか…私は咄嗟(とっさ)に、まことくんに声を掛けてしまった。
かおり:「まことくん」
まこと:「!?…はい」
かおり:「そうね……いつも通りのまことくんで良いんじゃないのかな?おじいさんはね、まことくんとずっと一緒に居れて嬉しかったって言ってたわよ?」
まこと:「え…」
かおり:「私ね、まことくんのおじいさんによく話しかけていたの…最初はずっと黙っててさ、結局何も返してくれなかったのよ?でもね、1日だけおじいさんから話しかけてきてくれた時があってね。おじいさん、ずっと笑顔でまことくんの話をしていたのよ。ワシの言う事を聞いてくれない、すぐバイクでどっか行ってしまうって」
まこと:「(少し微笑む)……何ちゅう話やねん」
かおり:「嬉しかったんじゃないかな?」
まこと:「…嬉しい?」
かおり:「うん、きっとおじいさんにとっては…可愛い孫であるまことくんの事を、人に話す事自体が嬉しかったんじゃないかな?」
まこと:「…訳分かんねぇよ」
かおり:「そうね、私も言ってて頭の整理がつかないわ。でもね、最期の言葉だって特別な事を言おうと身構えてしまうのは分かる気もする。だけどね、日常ってものほど、特別なものは無いと思う」
まこと:「でも…」
かおり:「さぁ、まことくん!いつものまことくんに、涙は似合わないよ!」
まこと:「(ため息を吐く)…無茶言うなよ」
かおり:(N)まことくんは涙を拭い、大きく息を吸った…
まこと:「スゥ…じじいの馬鹿野郎ぉ!!早すぎるんだよぉ!ほら、いつもみてぇに怒れよ!目を開けろよ!こんな…こんな俺で見納めんなよ!!勝手に逝きやがって!黙りやがって…この…このぉ…(鼻を啜って息を吸う)…バカヤロォオ!くっそじじいいぃぃ…」
かおり:(N)まことくんの叫びは、いつもの罵声や怒鳴りとは違った様に聴こえた。まぁ言う言葉は一緒だけども。でも…どこか切なくて、不快にならない優しさの泣き叫びが響いた。
安良川先生:「かおりくん…」
かおり:「はい…」
安良川先生:「あのおじいさんの顔は、ワシは今まで見た事がないよ…」
かおり:「きっと…嬉しいんですよ…」
0:かおりの中の回想
井筒:「あの子はワシの事を、最期に看取りはせんやろ…」
かおり:「いえ…そんな悲しい事は…」
井筒:「ワシの勘が、そう言っておる」
0:回想終わり
かおり:(N)おじいさん…良かったですね、その勘が外れて…
安良川先生:「どうした、かおりくん?」
かおり:「えっ…あっ、いいえ」
安良川先生:「?…まぁいっか、行こう。ここにいては、この空間のお邪魔虫になってしまう」
かおり:「はい」
かおり:(N)そう言い、私と先生はおじいさんとまことくんの病室を後にした。そして黒猫が眠りから目覚め、すかさず安良川先生の足下に来る。朝ご飯をねだりに…