台本概要

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タイトル 片割れの月
作者名 橘りょう  (@tachibana390)
ジャンル ミステリー
演者人数 3人用台本(男1、女2)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 双子の姉妹の柚子と花梨。花梨はしっかり者で、柚子は病弱。
仲良い二人には、本人たちも気付いていない亀裂が入っていた

登場人物の性別変更は不可、読み手の性別は不問。
ご利用の場合は事前の連絡は不要ですが、作者名、タイトルなどの明記をお願いします。
メンションなどして下さると個人的にうれしいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
花梨 148 双子の姉、しっかり者。書店勤めで料理上手
柚子 92 双子の妹、昔から病弱。明るくて愛される人柄
109 花梨の彼氏、穏やかで少し天然。 冒頭のナレーション(N)を兼ねる
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
N:逮捕された容疑者は語る。 N:薄い唇に、笑みを浮かべて。 : 花梨:同じものが…ふたつあるからややこしいのよ。ひとつだけだったら、こんな事ならなかったのに… 花梨:元々ひとつだったものを、あるべき形にしただけなのに…ね。 : 柚子:(M)花梨ちゃんはしっかり者。 柚子:いつもハキハキ喋って、背筋も伸びててかっこいい。優しくて、時々怒ったら怖いけど..大好き。私の憧れの人 花梨:(M)柚子は昔から病弱。 花梨:いつも少し伏し目がちで気が弱いけど、優しくて繊細。思いやりがあって誰にでも好かれる…私の、片割れ… : :料理をしている花梨に話しかける柚子 : 柚子:ねぇ、花梨ちゃん 花梨:んー?何ー? 柚子:今日は、何作ってくれるの? 花梨:肉じゃが 柚子:やったぁ! 花梨:そんなに喜ぶ?ただの肉じゃがだよ? 柚子:花梨ちゃんの肉じゃが、大好き! 花梨:そう? 柚子:うん!花梨ちゃんはお料理上手だからなんでも嬉しいけど、肉じゃがは特に好き! 花梨:そうだったの?麻婆茄子の方が反応良いと思ってたんだけど… 柚子:麻婆茄子も好きなんだけどー!それとこれとは違うんだなぁ 花梨:柚子は好き嫌いなく食べてくれるから作り甲斐があるよ 柚子:それは花梨ちゃんが美味しく作ってくれるからでーす 花梨:ハイハイ、おだてたって何にも出てこないよ 柚子:えぇー食後のアイスはー? 花梨:ほら見ろ 柚子:(くすくす笑っている)ねぇ、明日ってお仕事? 花梨:うん?そうだけど? 柚子:お店寄っていい?邪魔しないから 花梨:好きに来なよ、普通の本屋なんだから。ゆっくり話はできないかも知れないけど。どしたの? 柚子:んーん、内緒! 花梨:何、私に隠し事するの? 柚子:いつもお見通しされちゃうからね!なーいしょ! 花梨:えぇー気になるじゃん 柚子:えへへ 花梨:まーいぃや。楽しみにしとく 柚子:うん! : :(翌日) :花梨の職場の書店 : 透:あの、すみません。本探してて… 花梨:はい、どちらの商品で… 透:柚子?! 花梨:え… 透:あれ?え、柚子…? 花梨:あぁ…ふふっ。柚子のお知り合いですか? 透:えぁ?あ…えぇ…? 花梨:(反応が楽しくて笑っている) 透:あの、すみません。その…平岡柚子の、御家族…ですよね? 花梨:ええ、姉妹です 透:姉妹?!そりゃ似てて当然か…と言うか、まるきり同じ… 花梨:それはそうですよ、私たち… 柚子:(被せるように)花梨ちゃん! 透:柚子 柚子:あれっ?なんで透さんがここに… 透:早く着いたから本屋覗こって思ったんだけど… 花梨:もう、柚子ったら。双子の事、お友達に話してなかったの? 透:双子?!柚子、言わなかったじゃん! 柚子:えへへ~紹介してびっくりさせようと思ったんだけ…先にバレちゃったね 透:めちゃくちゃびっくりしたよ!おんなじ顔でさ、幻かと思った! 花梨:くすくす。他のお客様にご迷惑ですので、もう少しお声を… 透:あっ、すみません…はは 柚子:透さん、こちら花梨ちゃん。私の双子のお姉ちゃん 花梨:平岡花梨です、よろしくお願いします。わざわざ紹介するってことは…彼氏ね? 柚子:ピンポーン 透:香川と言います、よろしくお願いします 花梨:この子、少しそそっかしいのでご迷惑おかけするかもしれませんけど、よろしくお願いしますね 透:はい、大丈夫です! 柚子:ねぇ花梨ちゃん、今度3人でご飯行こ? 花梨:タイミング合えばね。…私、仕事に戻らなきゃ 柚子:大丈夫、お仕事お願い!本探してて… 透:そう、俺もそれで話しかけて… 花梨:(小さく笑う)はい、どの本をお探しでしょうか? 透:これなんですけど…(スマホを見せる) 花梨:(スマホの画面を覗いて)んー…少々お待ちくださいね : :本を探しに離れる : 透:び…くりしたァ… 柚子:脅かそうとは思ったけど、そんなにびっくりするとは思わなかった 透:いや、だってさすがにびっくりするよ。双子が似てるのは当たり前かもしんないけど…そっくりそのままって感じでさ 柚子:お父さんやお母さんもよく間違えてたからね。私たちはそんなに?って思うけど、やっぱり外から見たらそっくりなんだね 透:自分見てる気分にならない? 柚子:んー、なったことないかなぁ。本人からしたらなんで間違えるんだろって思うけど… 柚子:外見は似てるかもしれないけど、花梨ちゃんはいつもシャキッとしててかっこいいの。私の、憧れ 透:双子でもそう思うんだな 柚子:双子でも、別の人間だからね 透:そう言われたら…それもそうか 花梨:お待たせしました。こちらでよろしいですか? 透:あ、そうですコレです。ありがとうございます 柚子:花梨ちゃん、ありがとう 花梨:店員として当たり前よ。じゃあ、私やる事あるから。ごゆっくり 柚子:うん 透:じゃあ、また : :花梨は仕事に戻る : 柚子:それにね、花梨ちんは料理も上手なんだよ 透:そこは似て欲しかったな~ 柚子:えぇー、そんなこと言う?酷いんだけど 透:ははっ、嘘だよ。ごめんごめん。柚子が作るご飯、美味いよ 柚子:それなら良し。そろそろ行こ?映画遅れちゃう 透:お、もうそんな時間か : :数日後 : 柚子:でね、その時花梨ちゃんが走ってきてくれて 透:へぇ、花梨さんかっこいいなぁ 花梨:…… 柚子:私と違って頼りがいあるから、いつもお母さんにも頼られててね 透:うんうん 柚子:私もつい、当てにしちゃって 透:おいおい、そんなんじゃダメだろ~ 柚子:わかってるんだけど… 花梨:…… 柚子:…花梨ちゃん? 花梨:…… 柚子:花梨ちゃん 花梨:えっ?…ごめん、なんだった? 柚子:ずっと心ここに在らずって感じ…大丈夫?体調悪い? 花梨:ううん、そんな事ないよ 透:なんか、生返事というか…本当に大丈夫ですか? 花梨:ええ、ごめんなさい。ちょっと考え事してて 柚子:ごめんね、忙しかった?無理言っちゃったかな? 花梨:そんなじゃないよ、全然予定とか無かったし。気にしなくていいって 透:あの、もしかしてご迷惑でしたか?俺が急に三人で食事したいなんて… 花梨:そんなんじゃないんです、本当に。ちょっと今日、仕事で気になる事あって 柚子:仕事人間だなぁ 透:柚子は本好きだろ?花梨さんも? 花梨:ええ 柚子:花梨ちゃんは本格ミステリー好きだよね 花梨:柚子は純文学。恋愛物も好きよね 透:俺も本、好きなんです。ミステリも好きだしハードボイルド物も海外作品も読みますね 花梨:あ、海外作品。私も好きです 柚子:透さんと花梨ちゃん、好み似てるなーって思ってた 花梨:柚子があんまり外で遊べなかったから…自然に本読むようになってたもんね 柚子:そうそう。私に合わせなくても良かったのに、いつも花梨ちゃん傍にいてくれて 透:俺、兄貴居るけど、一緒に居たら喧嘩ばっかりしてたなぁ。二人、喧嘩とかは? 柚子:んー…したっけ? 花梨:プリンの最後の一つで喧嘩した、かな 柚子:あー、覚えある 透:結果は? 柚子:お母さんに怒られたのは覚えてるけど…どうだっけ? 花梨:どう…だったかな。それは忘れた 透:え?喧嘩ってそれだけ? 柚子:大きな喧嘩はしたことないなぁ。ね、他覚えてる? 花梨:無かったかもね 柚子:あ、昔の写真持ってきたの!子供の頃のやつ 花梨:うわ、懐かしい… 柚子:透さんには見分けつかないでしょ 透:えぇ…いや、これはずるいだろ。服装も髪型も一緒じゃんか! 花梨:これはさすがに。お母さんも分からないやつじゃん 透:うーん…(しばらく写真を眺めている) 柚子:私達はどっちかわかるけどね 透:…こっちが花梨さん 柚子:えっ?! 花梨:…なんで? 透:…違った? 柚子:せい、かい… 透:よっし! 柚子:って言うか!なんでわかったの?! 透:言っとくけど、当てずっぽうじゃないからな? 透:…この子の方が意思が強そうな目してるから、花梨さんかなって 花梨:…っ! 透:あっ!気が強そうとかそういう意味じゃないですからね! 花梨:え、えぇ…分かってます 柚子:凄い、凄いよ!見分けつけれたの凄い! 透:最初はホント、同じ顔に見えたからびっくりしたけどさ。こうして二人が揃って話ししてるの見てたら、やっぱり印象違うなーって 柚子:子供の頃は髪型も同じだったから、お母さんもお父さんもよく間違えてたんだよ! 透:それは同情するね、親御さんに 花梨:…あのっ 柚子:ん?どうしたの? 花梨:その…ごめん、用事思い出した… 柚子:えっ? 花梨:ごめんね、柚子。なんか忘れてるなーって思ってて、今、思い出した 透:そうですか…あ、車出しましょうか? 花梨:いえ、大丈夫です。急にごめんなさい 柚子:花梨ちゃん…? 花梨:ごめんね、ほんとごめん。お金、置いとくから…ほんとごめん : :慌てた様子で去っていく花梨 : 透:なんか、あったのかな… 柚子:花梨ちゃん… : :走っている花梨 : 花梨:なんで…私たちを、見分けた…違う、私を見分けた…? 花梨:見てくれてる…?私のことも、見てくれてる…? : :数日後。 :花梨の勤め先の書店 : 透:すみません 花梨:いらっしゃいませ…透さん… 透:ども。こんにちは 花梨:…何か、探されてるんですか? 透:いや、その…実は誕生日プレゼント探してて 花梨:柚子の、ですね 透:俺、純文学作品明るくなくて…花梨さんなら好みもよく知ってるから 花梨:それは確かに。どうぞ、あちらのコーナーです 透:助かったぁ。読んだこと無さそうな本がいいって言われた時はどうしようかと思って 花梨:あの子、そんなこと言ったんですか?ごめんなさい 透:いや、それは良いんです。どうせ贈るなら面白いのがいいなって思ったから 花梨:…二人の、きっかけは? 透:SNSですね。本好きのタグで何となくやり取りするようになって…たまたま近いって分かって、図書館に行こうって 花梨:ふふ、あの子らしい 透:俺もだったけど、柚子の方がガチガチに緊張してて、途中で気分悪くなっちゃって 花梨:そんな事が…。ここのコーナーが純文学の関連ですね 透:あ、これ柚子がこの間読んでたやつだ 花梨:…今は一緒に暮らしてないので、柚子がどの本を持ってるかは分からないんですけど…新刊ならここの棚です 透:すみません、ありがとうございます 花梨:では、また何かあれば声掛けてください 透:あのっ 花梨:はい? 透:花梨さんの誕生日、いつですか? 花梨:へ?……ぷっ 透:ん?あれ?なんか変なこと言いました? 花梨:くすくす…あの、私と柚子、双子ですよ? 透:あっ!…そう、でした。ははは 花梨:ふふふっ。私はお気持ちだけで。…ラッピングが必要でしたらレジの者に声掛けてくださいね。 花梨:…透さん 透:? 花梨:…面白い人、ですね 透:はは、ホント…すみません 花梨:では、失礼します : :柚子の部屋 :ソファに座ってる柚子 : 柚子:ごめんね 花梨:なんで謝るの? 柚子:だって…また買い物頼んじゃった… 花梨:体調悪いなら仕方ないよ。…熱は下がったね 柚子:あーあ、今日透さんとお出かけしようって話してたのに… 花梨:…連絡したの? 柚子:これから。体調良くなるかなって思って 花梨:無理しちゃダメだからね。長引いたら、余計に迷惑掛けるんだから 柚子:うん…。 柚子:あのね、花梨ちゃん 花梨:ん?なに? 柚子:…私ね、透さんと結婚しようと思ってる 花梨:…っ! 柚子:まだね、具体的に話とか…決まってないんだけど、そういうのもね、視野に入れないかって 花梨:…ふぅん… 柚子:まだお母さんたちに、話してなくて… 花梨:(被せて強めに)ねぇ柚子 柚子:な、何? 花梨:…透さんのこと、私にくれない? 柚子:えっ…え? 花梨:聞こえなかった?私に、彼を譲ってって言ったの 柚子:ちょ、何…何言ってるの? 花梨:何?理解できなかった? 柚子:出来てるよ!出来てるから…(涙ぐんでくる) 花梨:…あんたはさ、ずっと前から…それこそ、物心つく頃には、全部持ってたじゃない。 花梨:体が弱くて、いつもお母さんたちが傍にいて…私、本当は外で遊びたかったのに、柚子が一人で可哀想だからって言われて。 花梨:ねえ、ほんとに忘れた?残ったひとつのプリン、あんたが食べたのよ。 花梨:柚子は可哀想だからって。 花梨:可哀想、可哀想、可哀想…いつもあんたは優遇されてた。双子なのに、あんただけいつも誰かが傍に居てくれたでしょ? 柚子:花梨ちゃん…何、言ってるの…? : :間 : 花梨:…私が熱を出しても、お母さん一緒にいてくれなかったの知らないでしょ?あんたも熱出してたから。 花梨:私が必死に勉強して100点とっても褒められなかったの、なんでだろうね?あんたの病院に付き添いだったから。 花梨:運動だって私頑張ってたのに注目されてるのはあんただった。なんで?体が弱くても頑張って通学する姿がいじらしいってさ 柚子:花梨ちゃん…ごめ… 花梨:なんで謝るかなぁ… 花梨:いつだって無自覚で、自分に差し伸べられた手が当たり前って思って、無邪気に笑ってれば誰かが助けてくれる甘ちゃん。ずっと助けられてきたなんて思ってもないでしょう? 柚子:違う、そんなこと… 花梨:…もう、十分でしょ?今まで沢山、持ってたんだから 柚子:花梨ちゃん… 花梨:透さんを、私にくれるよね? 柚子:…彼は、物じゃないよ…くれるとか、くれないとか、そんなじゃないよ…! 花梨:はぁ…面倒くさい 柚子:ごめんなさい花梨ちゃん…私、ずっと甘えてたよ、それは本当にごめんなさい。だけど、透さんは…! 花梨:あー、そっかァ 柚子:へ…? 花梨:同じものが、ふたつあるから…ややこしいんだ 柚子:な、に…言って… 花梨:だってさ。私達、元々一つだったでしょ?それが分かれて、二つになった。なら…一つ無くしちゃえば良くない?(キッチンに向かう) 柚子:ちょ…何言ってるの…? 花梨:(包丁を向けて微笑む)暴れなかったら、苦しくないと思うよ 柚子:やだやめてよ!本気なの!? 花梨:…冗談でこんなもの、人に向けるとでも思ってるの? 柚子:やめて!来ないで! 花梨:ねぇ柚子。今まで沢山、いい思いしたでしょ?そろそろ、私にバトンタッチしてくれてもいいと思わない? 柚子:いやっ!来ないでっ!(手当たり次第に物を投げつける) 花梨:危ないな…(飛んできたリモコンが額に当たる)痛っ! 柚子:あ、ごめ…っ! 花梨:っ!! : :柚子に向かって包丁を突き出す花梨。 :包丁は柚子の腹部に突き刺さる。 : 柚子:うあっ!…いた、い… 花梨:ほら、あんたが暴れるから…もっと深く刺す予定だったのに 柚子:痛い、痛いよぉ… 花梨:当たり前でしょ、包丁刺さったんだから 柚子:花梨ちゃん…ごめんなさい、謝る…から…すごく、痛いの… 花梨:…はぁ。私さ、あんたの事刺したらもっと色々ぐちゃぐちゃ考えて動揺すると思ってたんだけど… : 花梨:案外、そうでも無いね : :包丁を抜きとる : 柚子:痛ぃぃ…!はっ、はっ、はっ…助けて、花梨ちゃん… 花梨:ごめんね、苦しませたい訳じゃないの 柚子:たすけて… 花梨:あと何回刺したら…楽になるかな?数えよっか 柚子:やだ!やだぁ!ごめんなさいごめんなさい! 花梨:うるさいッ!(刺す) 柚子:ああっ!! 花梨:うるさい、うるさい、うるさい 柚子:(泣き叫ぶ)痛い痛い痛い痛い!!…か、り…とおるさ… : :柚子の呻きが小さくなり、静かになる : 花梨:…はぁはぁはぁ… 花梨:はぁー…ははは…はははは…! : : :(指示まで花梨は柚子の振りをする) 透:はぁ、美味しかった~ 花梨:ここのお店、すごく美味しかったね! 透:柚子が気に入ってくれて、良かった 花梨:いつもいいお店教えてくれてありがとう 透:いや、俺が好きな所連れてってるだけだから 花梨:…ねぇ、透さん 透:ん?どした? 花梨:…あの 透:何?どうしたの? 花梨:(透の服の裾をつまむ)女の子から、こんなこと言ったら…はしたないって思われる…かな 透:あ…。いや、嬉しいよ 花梨:透さん… 透:朝まで…一緒に居よう? 花梨:うん…透さんの部屋、連れてって… : :翌朝 :(花梨、柚子の振りをやめる) : 透:ん…うん… 花梨:透さん?もう、朝だよ 透:んん…。あれ…もう起きてたんだ 花梨:おはよ 透:おはよう、柚子。ふわぁ…今日は早いね 花梨:うん、なんか早く目が覚めちゃって 透:…珍しい…もう着替えてる 花梨:うん 透:…コーヒー、いれたんだ? 花梨:飲みたかったから 透:…柚子? 花梨:なに? 透:……な、んで… 花梨:どうしたの、透さん? 透:か、りんさん… 花梨:ふふふっ、当たり 透:どういう、事だ…? 花梨:昨日から一緒に居たのは、私よ? 透:嘘だ! 花梨:嘘じゃない。駅前で待ち合わせて、一緒にお買い物行って、おすすめのお店でシーフードパスタ食べたでしょ 透:なん… 花梨:やっぱり髪型合わせて、柚子のフリしてたらバレないね。ふふふっ 透:なんのつもりだ! 花梨:なにが? 透:柚子のフリなんか…! 花梨:ねえ、透さん? 花梨:柚子と同じだったでしょう? 透:何を、言って… 花梨:髪も、指も、唇も…ナカだって。柚子と同じだったでしょう? 透:やめろっ!俺に触るなっ! 花梨:疑いもせず、一晩中貴方が抱いたのは私。なら、柚子じゃなくてもいいと思わない? 透:いったい…どうしたんだよ、花梨さん! 花梨:どうした?…貴方が私の何を知ってるの 透:なんで、こんなこと… 花梨:あなたの事が好きになったから。それだけじゃダメ? 透:ダメに決まってるだろ!この事、柚子は… 花梨:何?バレたら嫌? 透:…柚子に連絡する 花梨:ご勝手に。まぁあの子のスマホ、ここにあるから意味ないんだけど 透:…っ! 花梨:ねぇ透さん。私を選んで? 透:何を馬鹿なことを… 花梨:同じでしょう? 透:…違う 花梨:同じだったでしょ?朝まで、気づかなかった 透:それは…! 透:俺が好きなのは、柚子だ…! 花梨:はぁ……なんだ 透:…柚子は、どこだ 花梨:どこだと思う? 透:柚子は、どこだ! 花梨:…つまらない人だったわね、案外 透:答えろ! 花梨:うるさい。 花梨:…自分の部屋で寝てるんじゃないの?私帰るわ 透:花梨さん… :  :出ていく花梨 : :柚子の部屋のドアを叩く透 : 透:柚子!柚子!居るのか? :インターホンも鳴らすが返答は無い 透:クソ…居ないのか!…ん、鍵が…開いてる… :そっとドアを開けて中を覗く 透:柚子…?居るのか、柚子? :中に入り、リビングで倒れている柚子を気付く 透:柚子っっ!!おい、おい柚子!!柚子!あぁ、血が、血がこんなに…柚子ぅ!! :柚子に呼びかけている事で背後の花梨に気付かない 花梨:残念でした 透:っ!うあっ!! : :透の脇腹に深く包丁が突き刺さっている。 : 透:ぐ、あぁ…!! 花梨:もう死んでるよ、それ 透:は、あっ…か、花梨さん…あんた…! 花梨:私ね、もっと自分がまともな人間だと思ってた 透:な、何を、言って… 花梨:でも、もうとっくの昔に私は死んでたんだと思うの。両親の関心も愛情も柚子一人に向けられて、友達も気遣うのは柚子ばっかり。 花梨:…私がどれだけ頑張っても、柚子の片割れとしか見て貰えなかった。 花梨:私を誰も、求めてくれてなかったのよ。だから、私はもうずっと前に死んでたの 透:あ、はっ、はっ…いっつ…! 花梨:柚子もね、痛い痛いって大騒ぎ。昔からそうなの。お腹が痛い、頭が痛い、注射が痛い、検査が辛いって泣き言ばっかり。私が頭痛くて泣いても、誰も撫でることすらしてくれなかったのに 透:か…りん、さん…!! 花梨:今刺さってる包丁ね、柚子にも使ったものなの。刃こぼれするかなって思ったけど、案外丈夫だね : :うずくまってる透から包丁を抜き取ると、再度刺す。 : 透:ぐああっ!! 花梨:貴方が、私を選んでくれてたら…幸せになれてたかな? 花梨:柚子より前に、私と出会ってくれてたら…こんなふうにならなかったかもね : :再度刺す : 透:……!!(声にならない) 花梨:もう、柚子もあなたも要らない 透:(浅い息を繰り返す)ゆ、ず…! : :透のうめき声が静かになるのを見つめている花梨 : 花梨:…誰か、私を愛してよ… : :終

N:逮捕された容疑者は語る。 N:薄い唇に、笑みを浮かべて。 : 花梨:同じものが…ふたつあるからややこしいのよ。ひとつだけだったら、こんな事ならなかったのに… 花梨:元々ひとつだったものを、あるべき形にしただけなのに…ね。 : 柚子:(M)花梨ちゃんはしっかり者。 柚子:いつもハキハキ喋って、背筋も伸びててかっこいい。優しくて、時々怒ったら怖いけど..大好き。私の憧れの人 花梨:(M)柚子は昔から病弱。 花梨:いつも少し伏し目がちで気が弱いけど、優しくて繊細。思いやりがあって誰にでも好かれる…私の、片割れ… : :料理をしている花梨に話しかける柚子 : 柚子:ねぇ、花梨ちゃん 花梨:んー?何ー? 柚子:今日は、何作ってくれるの? 花梨:肉じゃが 柚子:やったぁ! 花梨:そんなに喜ぶ?ただの肉じゃがだよ? 柚子:花梨ちゃんの肉じゃが、大好き! 花梨:そう? 柚子:うん!花梨ちゃんはお料理上手だからなんでも嬉しいけど、肉じゃがは特に好き! 花梨:そうだったの?麻婆茄子の方が反応良いと思ってたんだけど… 柚子:麻婆茄子も好きなんだけどー!それとこれとは違うんだなぁ 花梨:柚子は好き嫌いなく食べてくれるから作り甲斐があるよ 柚子:それは花梨ちゃんが美味しく作ってくれるからでーす 花梨:ハイハイ、おだてたって何にも出てこないよ 柚子:えぇー食後のアイスはー? 花梨:ほら見ろ 柚子:(くすくす笑っている)ねぇ、明日ってお仕事? 花梨:うん?そうだけど? 柚子:お店寄っていい?邪魔しないから 花梨:好きに来なよ、普通の本屋なんだから。ゆっくり話はできないかも知れないけど。どしたの? 柚子:んーん、内緒! 花梨:何、私に隠し事するの? 柚子:いつもお見通しされちゃうからね!なーいしょ! 花梨:えぇー気になるじゃん 柚子:えへへ 花梨:まーいぃや。楽しみにしとく 柚子:うん! : :(翌日) :花梨の職場の書店 : 透:あの、すみません。本探してて… 花梨:はい、どちらの商品で… 透:柚子?! 花梨:え… 透:あれ?え、柚子…? 花梨:あぁ…ふふっ。柚子のお知り合いですか? 透:えぁ?あ…えぇ…? 花梨:(反応が楽しくて笑っている) 透:あの、すみません。その…平岡柚子の、御家族…ですよね? 花梨:ええ、姉妹です 透:姉妹?!そりゃ似てて当然か…と言うか、まるきり同じ… 花梨:それはそうですよ、私たち… 柚子:(被せるように)花梨ちゃん! 透:柚子 柚子:あれっ?なんで透さんがここに… 透:早く着いたから本屋覗こって思ったんだけど… 花梨:もう、柚子ったら。双子の事、お友達に話してなかったの? 透:双子?!柚子、言わなかったじゃん! 柚子:えへへ~紹介してびっくりさせようと思ったんだけ…先にバレちゃったね 透:めちゃくちゃびっくりしたよ!おんなじ顔でさ、幻かと思った! 花梨:くすくす。他のお客様にご迷惑ですので、もう少しお声を… 透:あっ、すみません…はは 柚子:透さん、こちら花梨ちゃん。私の双子のお姉ちゃん 花梨:平岡花梨です、よろしくお願いします。わざわざ紹介するってことは…彼氏ね? 柚子:ピンポーン 透:香川と言います、よろしくお願いします 花梨:この子、少しそそっかしいのでご迷惑おかけするかもしれませんけど、よろしくお願いしますね 透:はい、大丈夫です! 柚子:ねぇ花梨ちゃん、今度3人でご飯行こ? 花梨:タイミング合えばね。…私、仕事に戻らなきゃ 柚子:大丈夫、お仕事お願い!本探してて… 透:そう、俺もそれで話しかけて… 花梨:(小さく笑う)はい、どの本をお探しでしょうか? 透:これなんですけど…(スマホを見せる) 花梨:(スマホの画面を覗いて)んー…少々お待ちくださいね : :本を探しに離れる : 透:び…くりしたァ… 柚子:脅かそうとは思ったけど、そんなにびっくりするとは思わなかった 透:いや、だってさすがにびっくりするよ。双子が似てるのは当たり前かもしんないけど…そっくりそのままって感じでさ 柚子:お父さんやお母さんもよく間違えてたからね。私たちはそんなに?って思うけど、やっぱり外から見たらそっくりなんだね 透:自分見てる気分にならない? 柚子:んー、なったことないかなぁ。本人からしたらなんで間違えるんだろって思うけど… 柚子:外見は似てるかもしれないけど、花梨ちゃんはいつもシャキッとしててかっこいいの。私の、憧れ 透:双子でもそう思うんだな 柚子:双子でも、別の人間だからね 透:そう言われたら…それもそうか 花梨:お待たせしました。こちらでよろしいですか? 透:あ、そうですコレです。ありがとうございます 柚子:花梨ちゃん、ありがとう 花梨:店員として当たり前よ。じゃあ、私やる事あるから。ごゆっくり 柚子:うん 透:じゃあ、また : :花梨は仕事に戻る : 柚子:それにね、花梨ちんは料理も上手なんだよ 透:そこは似て欲しかったな~ 柚子:えぇー、そんなこと言う?酷いんだけど 透:ははっ、嘘だよ。ごめんごめん。柚子が作るご飯、美味いよ 柚子:それなら良し。そろそろ行こ?映画遅れちゃう 透:お、もうそんな時間か : :数日後 : 柚子:でね、その時花梨ちゃんが走ってきてくれて 透:へぇ、花梨さんかっこいいなぁ 花梨:…… 柚子:私と違って頼りがいあるから、いつもお母さんにも頼られててね 透:うんうん 柚子:私もつい、当てにしちゃって 透:おいおい、そんなんじゃダメだろ~ 柚子:わかってるんだけど… 花梨:…… 柚子:…花梨ちゃん? 花梨:…… 柚子:花梨ちゃん 花梨:えっ?…ごめん、なんだった? 柚子:ずっと心ここに在らずって感じ…大丈夫?体調悪い? 花梨:ううん、そんな事ないよ 透:なんか、生返事というか…本当に大丈夫ですか? 花梨:ええ、ごめんなさい。ちょっと考え事してて 柚子:ごめんね、忙しかった?無理言っちゃったかな? 花梨:そんなじゃないよ、全然予定とか無かったし。気にしなくていいって 透:あの、もしかしてご迷惑でしたか?俺が急に三人で食事したいなんて… 花梨:そんなんじゃないんです、本当に。ちょっと今日、仕事で気になる事あって 柚子:仕事人間だなぁ 透:柚子は本好きだろ?花梨さんも? 花梨:ええ 柚子:花梨ちゃんは本格ミステリー好きだよね 花梨:柚子は純文学。恋愛物も好きよね 透:俺も本、好きなんです。ミステリも好きだしハードボイルド物も海外作品も読みますね 花梨:あ、海外作品。私も好きです 柚子:透さんと花梨ちゃん、好み似てるなーって思ってた 花梨:柚子があんまり外で遊べなかったから…自然に本読むようになってたもんね 柚子:そうそう。私に合わせなくても良かったのに、いつも花梨ちゃん傍にいてくれて 透:俺、兄貴居るけど、一緒に居たら喧嘩ばっかりしてたなぁ。二人、喧嘩とかは? 柚子:んー…したっけ? 花梨:プリンの最後の一つで喧嘩した、かな 柚子:あー、覚えある 透:結果は? 柚子:お母さんに怒られたのは覚えてるけど…どうだっけ? 花梨:どう…だったかな。それは忘れた 透:え?喧嘩ってそれだけ? 柚子:大きな喧嘩はしたことないなぁ。ね、他覚えてる? 花梨:無かったかもね 柚子:あ、昔の写真持ってきたの!子供の頃のやつ 花梨:うわ、懐かしい… 柚子:透さんには見分けつかないでしょ 透:えぇ…いや、これはずるいだろ。服装も髪型も一緒じゃんか! 花梨:これはさすがに。お母さんも分からないやつじゃん 透:うーん…(しばらく写真を眺めている) 柚子:私達はどっちかわかるけどね 透:…こっちが花梨さん 柚子:えっ?! 花梨:…なんで? 透:…違った? 柚子:せい、かい… 透:よっし! 柚子:って言うか!なんでわかったの?! 透:言っとくけど、当てずっぽうじゃないからな? 透:…この子の方が意思が強そうな目してるから、花梨さんかなって 花梨:…っ! 透:あっ!気が強そうとかそういう意味じゃないですからね! 花梨:え、えぇ…分かってます 柚子:凄い、凄いよ!見分けつけれたの凄い! 透:最初はホント、同じ顔に見えたからびっくりしたけどさ。こうして二人が揃って話ししてるの見てたら、やっぱり印象違うなーって 柚子:子供の頃は髪型も同じだったから、お母さんもお父さんもよく間違えてたんだよ! 透:それは同情するね、親御さんに 花梨:…あのっ 柚子:ん?どうしたの? 花梨:その…ごめん、用事思い出した… 柚子:えっ? 花梨:ごめんね、柚子。なんか忘れてるなーって思ってて、今、思い出した 透:そうですか…あ、車出しましょうか? 花梨:いえ、大丈夫です。急にごめんなさい 柚子:花梨ちゃん…? 花梨:ごめんね、ほんとごめん。お金、置いとくから…ほんとごめん : :慌てた様子で去っていく花梨 : 透:なんか、あったのかな… 柚子:花梨ちゃん… : :走っている花梨 : 花梨:なんで…私たちを、見分けた…違う、私を見分けた…? 花梨:見てくれてる…?私のことも、見てくれてる…? : :数日後。 :花梨の勤め先の書店 : 透:すみません 花梨:いらっしゃいませ…透さん… 透:ども。こんにちは 花梨:…何か、探されてるんですか? 透:いや、その…実は誕生日プレゼント探してて 花梨:柚子の、ですね 透:俺、純文学作品明るくなくて…花梨さんなら好みもよく知ってるから 花梨:それは確かに。どうぞ、あちらのコーナーです 透:助かったぁ。読んだこと無さそうな本がいいって言われた時はどうしようかと思って 花梨:あの子、そんなこと言ったんですか?ごめんなさい 透:いや、それは良いんです。どうせ贈るなら面白いのがいいなって思ったから 花梨:…二人の、きっかけは? 透:SNSですね。本好きのタグで何となくやり取りするようになって…たまたま近いって分かって、図書館に行こうって 花梨:ふふ、あの子らしい 透:俺もだったけど、柚子の方がガチガチに緊張してて、途中で気分悪くなっちゃって 花梨:そんな事が…。ここのコーナーが純文学の関連ですね 透:あ、これ柚子がこの間読んでたやつだ 花梨:…今は一緒に暮らしてないので、柚子がどの本を持ってるかは分からないんですけど…新刊ならここの棚です 透:すみません、ありがとうございます 花梨:では、また何かあれば声掛けてください 透:あのっ 花梨:はい? 透:花梨さんの誕生日、いつですか? 花梨:へ?……ぷっ 透:ん?あれ?なんか変なこと言いました? 花梨:くすくす…あの、私と柚子、双子ですよ? 透:あっ!…そう、でした。ははは 花梨:ふふふっ。私はお気持ちだけで。…ラッピングが必要でしたらレジの者に声掛けてくださいね。 花梨:…透さん 透:? 花梨:…面白い人、ですね 透:はは、ホント…すみません 花梨:では、失礼します : :柚子の部屋 :ソファに座ってる柚子 : 柚子:ごめんね 花梨:なんで謝るの? 柚子:だって…また買い物頼んじゃった… 花梨:体調悪いなら仕方ないよ。…熱は下がったね 柚子:あーあ、今日透さんとお出かけしようって話してたのに… 花梨:…連絡したの? 柚子:これから。体調良くなるかなって思って 花梨:無理しちゃダメだからね。長引いたら、余計に迷惑掛けるんだから 柚子:うん…。 柚子:あのね、花梨ちゃん 花梨:ん?なに? 柚子:…私ね、透さんと結婚しようと思ってる 花梨:…っ! 柚子:まだね、具体的に話とか…決まってないんだけど、そういうのもね、視野に入れないかって 花梨:…ふぅん… 柚子:まだお母さんたちに、話してなくて… 花梨:(被せて強めに)ねぇ柚子 柚子:な、何? 花梨:…透さんのこと、私にくれない? 柚子:えっ…え? 花梨:聞こえなかった?私に、彼を譲ってって言ったの 柚子:ちょ、何…何言ってるの? 花梨:何?理解できなかった? 柚子:出来てるよ!出来てるから…(涙ぐんでくる) 花梨:…あんたはさ、ずっと前から…それこそ、物心つく頃には、全部持ってたじゃない。 花梨:体が弱くて、いつもお母さんたちが傍にいて…私、本当は外で遊びたかったのに、柚子が一人で可哀想だからって言われて。 花梨:ねえ、ほんとに忘れた?残ったひとつのプリン、あんたが食べたのよ。 花梨:柚子は可哀想だからって。 花梨:可哀想、可哀想、可哀想…いつもあんたは優遇されてた。双子なのに、あんただけいつも誰かが傍に居てくれたでしょ? 柚子:花梨ちゃん…何、言ってるの…? : :間 : 花梨:…私が熱を出しても、お母さん一緒にいてくれなかったの知らないでしょ?あんたも熱出してたから。 花梨:私が必死に勉強して100点とっても褒められなかったの、なんでだろうね?あんたの病院に付き添いだったから。 花梨:運動だって私頑張ってたのに注目されてるのはあんただった。なんで?体が弱くても頑張って通学する姿がいじらしいってさ 柚子:花梨ちゃん…ごめ… 花梨:なんで謝るかなぁ… 花梨:いつだって無自覚で、自分に差し伸べられた手が当たり前って思って、無邪気に笑ってれば誰かが助けてくれる甘ちゃん。ずっと助けられてきたなんて思ってもないでしょう? 柚子:違う、そんなこと… 花梨:…もう、十分でしょ?今まで沢山、持ってたんだから 柚子:花梨ちゃん… 花梨:透さんを、私にくれるよね? 柚子:…彼は、物じゃないよ…くれるとか、くれないとか、そんなじゃないよ…! 花梨:はぁ…面倒くさい 柚子:ごめんなさい花梨ちゃん…私、ずっと甘えてたよ、それは本当にごめんなさい。だけど、透さんは…! 花梨:あー、そっかァ 柚子:へ…? 花梨:同じものが、ふたつあるから…ややこしいんだ 柚子:な、に…言って… 花梨:だってさ。私達、元々一つだったでしょ?それが分かれて、二つになった。なら…一つ無くしちゃえば良くない?(キッチンに向かう) 柚子:ちょ…何言ってるの…? 花梨:(包丁を向けて微笑む)暴れなかったら、苦しくないと思うよ 柚子:やだやめてよ!本気なの!? 花梨:…冗談でこんなもの、人に向けるとでも思ってるの? 柚子:やめて!来ないで! 花梨:ねぇ柚子。今まで沢山、いい思いしたでしょ?そろそろ、私にバトンタッチしてくれてもいいと思わない? 柚子:いやっ!来ないでっ!(手当たり次第に物を投げつける) 花梨:危ないな…(飛んできたリモコンが額に当たる)痛っ! 柚子:あ、ごめ…っ! 花梨:っ!! : :柚子に向かって包丁を突き出す花梨。 :包丁は柚子の腹部に突き刺さる。 : 柚子:うあっ!…いた、い… 花梨:ほら、あんたが暴れるから…もっと深く刺す予定だったのに 柚子:痛い、痛いよぉ… 花梨:当たり前でしょ、包丁刺さったんだから 柚子:花梨ちゃん…ごめんなさい、謝る…から…すごく、痛いの… 花梨:…はぁ。私さ、あんたの事刺したらもっと色々ぐちゃぐちゃ考えて動揺すると思ってたんだけど… : 花梨:案外、そうでも無いね : :包丁を抜きとる : 柚子:痛ぃぃ…!はっ、はっ、はっ…助けて、花梨ちゃん… 花梨:ごめんね、苦しませたい訳じゃないの 柚子:たすけて… 花梨:あと何回刺したら…楽になるかな?数えよっか 柚子:やだ!やだぁ!ごめんなさいごめんなさい! 花梨:うるさいッ!(刺す) 柚子:ああっ!! 花梨:うるさい、うるさい、うるさい 柚子:(泣き叫ぶ)痛い痛い痛い痛い!!…か、り…とおるさ… : :柚子の呻きが小さくなり、静かになる : 花梨:…はぁはぁはぁ… 花梨:はぁー…ははは…はははは…! : : :(指示まで花梨は柚子の振りをする) 透:はぁ、美味しかった~ 花梨:ここのお店、すごく美味しかったね! 透:柚子が気に入ってくれて、良かった 花梨:いつもいいお店教えてくれてありがとう 透:いや、俺が好きな所連れてってるだけだから 花梨:…ねぇ、透さん 透:ん?どした? 花梨:…あの 透:何?どうしたの? 花梨:(透の服の裾をつまむ)女の子から、こんなこと言ったら…はしたないって思われる…かな 透:あ…。いや、嬉しいよ 花梨:透さん… 透:朝まで…一緒に居よう? 花梨:うん…透さんの部屋、連れてって… : :翌朝 :(花梨、柚子の振りをやめる) : 透:ん…うん… 花梨:透さん?もう、朝だよ 透:んん…。あれ…もう起きてたんだ 花梨:おはよ 透:おはよう、柚子。ふわぁ…今日は早いね 花梨:うん、なんか早く目が覚めちゃって 透:…珍しい…もう着替えてる 花梨:うん 透:…コーヒー、いれたんだ? 花梨:飲みたかったから 透:…柚子? 花梨:なに? 透:……な、んで… 花梨:どうしたの、透さん? 透:か、りんさん… 花梨:ふふふっ、当たり 透:どういう、事だ…? 花梨:昨日から一緒に居たのは、私よ? 透:嘘だ! 花梨:嘘じゃない。駅前で待ち合わせて、一緒にお買い物行って、おすすめのお店でシーフードパスタ食べたでしょ 透:なん… 花梨:やっぱり髪型合わせて、柚子のフリしてたらバレないね。ふふふっ 透:なんのつもりだ! 花梨:なにが? 透:柚子のフリなんか…! 花梨:ねえ、透さん? 花梨:柚子と同じだったでしょう? 透:何を、言って… 花梨:髪も、指も、唇も…ナカだって。柚子と同じだったでしょう? 透:やめろっ!俺に触るなっ! 花梨:疑いもせず、一晩中貴方が抱いたのは私。なら、柚子じゃなくてもいいと思わない? 透:いったい…どうしたんだよ、花梨さん! 花梨:どうした?…貴方が私の何を知ってるの 透:なんで、こんなこと… 花梨:あなたの事が好きになったから。それだけじゃダメ? 透:ダメに決まってるだろ!この事、柚子は… 花梨:何?バレたら嫌? 透:…柚子に連絡する 花梨:ご勝手に。まぁあの子のスマホ、ここにあるから意味ないんだけど 透:…っ! 花梨:ねぇ透さん。私を選んで? 透:何を馬鹿なことを… 花梨:同じでしょう? 透:…違う 花梨:同じだったでしょ?朝まで、気づかなかった 透:それは…! 透:俺が好きなのは、柚子だ…! 花梨:はぁ……なんだ 透:…柚子は、どこだ 花梨:どこだと思う? 透:柚子は、どこだ! 花梨:…つまらない人だったわね、案外 透:答えろ! 花梨:うるさい。 花梨:…自分の部屋で寝てるんじゃないの?私帰るわ 透:花梨さん… :  :出ていく花梨 : :柚子の部屋のドアを叩く透 : 透:柚子!柚子!居るのか? :インターホンも鳴らすが返答は無い 透:クソ…居ないのか!…ん、鍵が…開いてる… :そっとドアを開けて中を覗く 透:柚子…?居るのか、柚子? :中に入り、リビングで倒れている柚子を気付く 透:柚子っっ!!おい、おい柚子!!柚子!あぁ、血が、血がこんなに…柚子ぅ!! :柚子に呼びかけている事で背後の花梨に気付かない 花梨:残念でした 透:っ!うあっ!! : :透の脇腹に深く包丁が突き刺さっている。 : 透:ぐ、あぁ…!! 花梨:もう死んでるよ、それ 透:は、あっ…か、花梨さん…あんた…! 花梨:私ね、もっと自分がまともな人間だと思ってた 透:な、何を、言って… 花梨:でも、もうとっくの昔に私は死んでたんだと思うの。両親の関心も愛情も柚子一人に向けられて、友達も気遣うのは柚子ばっかり。 花梨:…私がどれだけ頑張っても、柚子の片割れとしか見て貰えなかった。 花梨:私を誰も、求めてくれてなかったのよ。だから、私はもうずっと前に死んでたの 透:あ、はっ、はっ…いっつ…! 花梨:柚子もね、痛い痛いって大騒ぎ。昔からそうなの。お腹が痛い、頭が痛い、注射が痛い、検査が辛いって泣き言ばっかり。私が頭痛くて泣いても、誰も撫でることすらしてくれなかったのに 透:か…りん、さん…!! 花梨:今刺さってる包丁ね、柚子にも使ったものなの。刃こぼれするかなって思ったけど、案外丈夫だね : :うずくまってる透から包丁を抜き取ると、再度刺す。 : 透:ぐああっ!! 花梨:貴方が、私を選んでくれてたら…幸せになれてたかな? 花梨:柚子より前に、私と出会ってくれてたら…こんなふうにならなかったかもね : :再度刺す : 透:……!!(声にならない) 花梨:もう、柚子もあなたも要らない 透:(浅い息を繰り返す)ゆ、ず…! : :透のうめき声が静かになるのを見つめている花梨 : 花梨:…誰か、私を愛してよ… : :終