台本概要

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タイトル あの日、明け方の海で
作者名 大輝宇宙@ひろきうちゅう  (@hiro55308671)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(女2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 高校卒業から一年。特にやりたいこともなくアルバイトをしながらボーッと暮らしていた和美は、
父の見舞いで訪れた病院で、同級生のいずみと再会する。
そこで彼女の代わりに様々な経験を「代行」するよう頼まれる。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
和美 101 進藤和美(しんどうかずみ)何となく日々を生きてる18歳
いずみ 97 福田いずみ。病気で入院中。和美の元同級生。高校時代は成績優秀、スポーツ万能だった
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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和美:(モノローグ)彼女は、私とは別世界の住人だった。彼女はなんでも持っているように見えた。それが、私のほしいものであろうが、そうでなかろうが。 0:暖かな陽光がきらめく中庭から、総合病院の1階の大きな窓へ光がさす。和美は花瓶の花を片手で整えながら、父の待つ病室へと向かっている。 いずみ:…進藤さん? 0:背後からかけられた声に和美の意識は向かない。 いずみ:進藤さんでしょう?ねぇ!進藤和美さん!? 和美:(その時初めて声の主が自分を呼んでいると気づき振り返る)えっ…? いずみ:やっぱり! 和美:……(相手の顔を見てしばらく考える間)あ…。福田さん? いずみ:うん!すごく久しぶり!こんなところで会うなんてね。 和美:(パジャマにカーディガンを羽織るいずみを見て)う、うん。 いずみ:お見舞い? 和美:うん、お父さんが足を折っちゃって…それで。 いずみ:そうなんだ!大変だね。でも、どうしてこんなところでお花を?入院病棟にお手洗いあったでしょう? 和美:なんか、感染症の人対策で、生のお花が駄目な病室とかあるみたいで…トイレもどこがよくてどこがダメなのかよく分かんなかったから。ここなら誰でも良さそうで。 いずみ:なるほど…ふふっ 和美:え、何? いずみ:ううん。進藤さん変わってなくて嬉しいなって。 和美:高校以来だけど…1年そこらで人はそんな変わらないよ…。 いずみ:そうかな? 和美:(モノローグ)そう聞いた彼女は、正直とても様変わりしていた。ツヤのあった黒髪は力を無くしており、太めではなくても健康的だった体は、かなり痩せて 和美:(モノローグ)私と変わらない身長だったのに、随分と小さくなったように見えた。 和美:そうだよ。 いずみ:そっかぁ。 和美:うん。福田さんはどうしたの?…別に言いたくなかったら全然。 いずみ:あー…ううん、そういうわけでもないんだけど。うーん…なるほど、そっか。 和美:なに? いずみ:いやぁ、とうとう人に気を遣わせる見た目になってきたかとね(苦笑い) 和美:っ…。ごめん…わたし、こういう時下手くそで。 いずみ:ううん、進藤さんのそういうところ信用できる。 和美:あ、そう…すか。 いずみ:わたし、5階の506号室にいるの。良かったらお父様のお見舞いの後に寄って? 和美:う、うん。 0: 0:指定された病室の引き戸を開ける和美、4人部屋の病室はカーテンで閉ざされてなく、左の奥にいずみはいる。ベッドから体を起こし、こちらを見るいずみ。 いずみ:あ、本当に来てくれた。 和美:え、そっちが来いって言ったんじゃん。 いずみ:それはそうだけど、進藤さん帰っちゃうかなって。 和美:別に暇だから。 いずみ:座って(ベッド脇の丸椅子をすすめる) 和美:ありがとう。一人部屋状態?(腰掛ける) いずみ:そーなの。入院した時はあと2人居て、3人で使ってたんだけどね。みんな退院して残されちゃった。 和美:ふぅん。無人ベッドって、夜怖そ…。 いずみ:もう慣れた。……あ、そうだ。進藤さんって、リアルフォトグラファー好き? 和美:え?うーん…何曲か知ってる曲があるってくらいかな。 いずみ:ほんと? 和美:え、うん。突然なに? いずみ:わたし、すっごく好きでねアルバムは全部盤で持ってるくらいなんだけど、えと、ライブのチケットがあるんだけどさ… 和美:へぇすごい。ライブとか行くんだ福田さん。 いずみ:うん。高校までは親からダメだって言われてて…大学入れたら行っていいよって。それで今回初めて取ったんだチケット。 和美:ふぅん。 いずみ:良かったら…進藤さん行ってくれない? 和美:は?! いずみ:わたし、外出の許可おりなくて、今回行かれそうにないの…だから、もし良かったらなんだけど…。 和美:いやいや、チケット転売するとか、行きたい人に譲るとかすれば良いじゃんか。 いずみ:欲しい人を探したり、連絡取ったりって結構疲れるよ?そう思わない? 和美:チケットって結構するんでしょ?悪いけど私お金ないし、買うほどリアフォトが好きなわけでもないよ? いずみ:チケット代はいいから! 和美:ええ…? いずみ:もし、進藤さんが良ければ、後日感想は聞かせて欲しい…ほんとに、もし、良ければ…で。 和美:わ、分かった…。 いずみ:ありがとう! 和美:え、こっちこそじゃない? いずみ:ライブは2週間後だからさ、(ベッドの脇の箱からCDを何枚も取り出し、ベッドの机に並べる)これと、これと、これ、あ、あとこれも念の為…! 和美:なに? いずみ:ライブを100パーセント楽しんで欲しいから、予習!持って帰って聴いて! 和美:えええ…!? 0: 0:いずみの病室。いずみはベッドから体を起こして座っている。その脇の丸椅子に和美がいる。 和美:しょっぱなにさ、「サイネージ」を歌いだしたんだけど、イントロ無しでアカペラで入ってさ 和美:もうその声量っていうの?圧倒された。それでみんな耳が完全にそっちに向いたっていうか。 いずみ:わぁ〜! 和美:MCでは、ギターのモトハセさんと仲良く喋って、リアフォトの結成馴れ初めとか話してて、 いずみ:歌えないギタリストと弾けないボーカルでしょ? 和美:そうそう!観客席から「その話何度目ぇ?」ってヤジ飛んでてさ(笑う) いずみ:恒例らしいから(微笑む) 和美:ライブ、行ってみたいなって思ってたけど、それ程までのアーティストはいなかったし、チケット取る手順も分からなかったから、福田さんが声掛けてくれてありがとうだった。 いずみ:良かった。 和美:これからリアフォトのチケット自分で取って行くわ。たまたまあの日にここに来て良かった。 いずみ:これでも頼む相手は選んだつもりよ? 和美:え?なんで私だったの? いずみ:読書感想文。…すごく進藤さん上手だったから。 和美:え? いずみ:学年で表彰もされてたでしょ?わたしはあーゆーのは全然だめ。進藤さんの読書感想文読んだけど、すごく分かりやすかったし、わたしも同じ本を読んだような気分になったんだよね。 和美:あ…そ、そう?(照れる) いずみ:だから、進藤さんに行って欲しかったの。ライブの雰囲気を教えて貰えるんじゃないかって。 和美:なるほど… いずみ:ね、また代行頼んでもいい? 和美:い、いいけど…。難しいことは嫌だよ? いずみ:大丈夫、大丈夫! 0: 0: 和美:(モノローグ)それから半年の間に、わたしは福田さんの代行として様々なことをした。多くはスイーツ巡りやラーメン巡りなどの食べ物系。 和美:(モノローグ)大変だったのはシリーズ物の映画の最新作を見に行くことだった。福田さんはそれまでに出ていた7作のDVDを予習として貸し出してくれた。 いずみ:予習してよかったでしょう? 和美:大変だった…もうほんとうに大変だった。何時間かかると思ってんの? いずみ:でも良かったでしょう? 和美:なんでそんな強気なのよ(苦笑い) いずみ:絶対面白いもん。宇宙ウォーズ。 和美:まぁ、こんな機会でも無ければ見てなかっただろうから、まぁ、そうね。実際面白かったしね。 いずみ:ふふふ。もうこれでいくつくらいになるかな? 和美:代行? いずみ:うん。でもね、まだまだあるんだよ?覚悟したほうがいいよ〜和美! 和美:(モノローグ)私達は、互いを下の名前で呼ぶようになった。いずみの白い肌は、より青白くなり、黒髪は少しずつ色を失っているように見えた。 いずみ:あ、そーだ。今日はね、この後検査があるの。 和美:また?こないだも心電図とか言ってなかった? いずみ:今日はね、血液検査と尿検査だって。 和美:ふぅん。じゃあ、検査までいる。 いずみ:ありがとう。 和美:(モノローグ)いずみが良くなってないことは、明らかだった。 いずみ:あとはね〜いつか婚活パーティーに行くでしょ?付き合って、結婚もするでしょ?子供も育てるでしょ? 和美:ちょっと待って。それまさか代行の内容? いずみ:うん。 和美:ばか。それは元気になっていずみがすればいいでしょうが。 いずみ:あー…そっか。あ、あと就活頑張って欲しいでしょ? 和美:なにが「そっか」だ!全然分かってないじゃんか。 いずみ:ふふふ 和美:嫌よ?私には私の将来の計画がー…ないけど!ないけどヤダ。 いずみ:和美はなんでもできるのに。 和美:したくないことはしないの。 いずみ:したいことって? 和美:……ライブ行ったり、ラーメン食べたり? いずみ:なるほど。 和美:あ!そんなことかって思ってるでしょ!?これでもすごく進歩したんだからね。もともとやりたいことは?なんて聞かれたって答えに困るくらいだったんだから。 いずみ:うんうん。分かったー分かった(棒読み) 和美:いずみ! いずみ:ふふふふっ。いいのいいの、私の代行で和美もしたいこと見つけてくれたら、私はこれからも気兼ねなく頼めるもんね。 和美:はぁ…ちゃっかりしてるね〜。 0: 和美:(モノローグ)それから2週間経ち、わたしは遊園地で逆バンジーなるものを代行した感想を伝えに、いずみの病室に来た。 和美:(モノローグ)いずみの口にカップのようなものが乗せられていて、呼吸の補助をしていた。 和美:やだ…なんか繋がれてるもん増えてるじゃん。 いずみ:(酸素吸入マスクを外し)大袈裟で嫌になっちゃう…(起き上がる) 和美:ちょ!外して大丈夫なの? いずみ:逆に苦しいんだよね、制限されてるみたいで。 和美:ならいいけどさ。 いずみ:どうだった?逆バンジー。 和美:遊園地だから、子供もやるからって言ったの誰? いずみ:ふふふふ 和美:ばか!もう二度とやらない。 いずみ:えっ!?(とても驚く) 和美:えっ!(驚いてることに驚く)あっ!逆バンジーをだよ?代行はするけど。 いずみ:あっ、良かった(笑う)……最近日が昇るのが遅いよね。夜が長い。 和美:うん。朝冷えることも多くなってきたねー。 いずみ:夜が明けると、新しい一日が始まったなって思う。たまにね、夜体中が痛い時があるの。朝になったら治るわけでもないのに、早く朝になれって思って耐えるんだ。 いずみ:…次の代行なんだけど、「明け方の海を見る」頼んでもいい?写真も撮ってほしいな。 和美:………。 いずみ:和美? 和美:それは、一緒に行こう。 0: 0:午前4時50分浜辺にタクシーで乗り付けた2人。毛糸の帽子に、マフラー、コートを身につけている。 和美:さぶぅ…! いずみ:(肩を震わせ笑っている) 和美:いつまでひきずってんの!あんた! いずみ:だって…(笑う)タクシーの運転手さん…(笑う)「あんたら、心中じゃないだろうね」って…くっ…あっははははは! 和美:まぁ、こんな暗い時間に、病院の近くから海までだもんね…勘ぐられても仕方ないというか…。 いずみ:そんな面持ちだったかなぁ?…ぷっ…ふふふ 和美:まぁ、ひとり病人だしな。 いずみ:それはそうだけど…!まっくら…今日日の出って何時なんだろ? 和美:5時32分だって。ちょっと早く来すぎたな…。 いずみ:この時間から朝食までは看護師さんの見回りないから、大丈夫。朝食準備とかでバタバタする前に来たかったから。 和美:朝食までに戻れば大丈夫か。何時なの? いずみ:6時半。でも、6時すぎに検温がくる。 和美:おっけ。あ、レジャーシート持ってきたから敷こう。 いずみ:準備がいいね。 和美:……寒くない? いずみ:大丈夫。 和美:ほんとに大丈夫かな…連れ出しちゃったけど。 いずみ:大丈夫。 和美:いずみって、全然大人しい優等生じゃなかった。 いずみ:そうよー? 和美:やりたいことはみーんな過激だしな。 いずみ:え!?ふつーでしょ? 和美:逆バンジーも、大食いチャレンジも普通じゃないよ。 いずみ:そうかなぁ?でも、やってくれる和美も普通じゃないよ? 和美:えー? 0:静かに波音を聴く2人 いずみ:(咳き込む) 和美:だ、大丈夫? いずみ:うん。ね、すこし光を感じない?白んできたね。 和美:ほんとだ。日の出もうすぐだわ。 0:太陽が水平線より昇る いずみ:わぁ… 和美:わたし、日の出って初めて見た いずみ:わたしも。 和美:まっさらなキブンになるもんだね。 いずみ:うん… 和美:(モノローグ)朝日は、昼間の太陽と違って、産まれたての!まだ誰にも汚されていない真っさらなものに思えた。 いずみ:ありがとうね… 和美:うん。これは何となく一緒に見たくて。 いずみ:今日だけじゃなく、ありがとね。 和美:うん… いずみ:ね、運転免許取って? 和美:めんどくさい。 いずみ:色んなところ行けるのよ? 和美:うーん… いずみ:電車なんかより、荷物気にしないで、自由よ?好きなとこ寄れるし、足が疲れない! 和美:うーん…。なんかいずみは本当に乗せるのが上手いなって思う… いずみ:乗っておいたらオトクだよ? 和美:うんー…取ったら色んなところに連れてかされそう(苦笑い) いずみ:でさ、やっぱり恋愛はして?誰かと想いあうって素敵だもん。子供は授かりものだから、どっちでもいい! 和美:いずみー?それはいずみが…(元気になったらすることだと言いかける) いずみ:(和美の続きを遮るように)私、もう元気にはならないの。 和美:………やだ。 いずみ:ワガママ。 和美:やだ!! いずみ:ごめんね。 和美:…やだ…。 いずみ:私の分まで… 和美:やだって言ってんじゃん! いずみ:……私の分まで生きろなんて、そんな代行頼まない。和美のこれからを思いっきり生きてほしいの。誰かの代わりにじゃなくて…! 和美:…… いずみ:わたしの代わりでもなくて。 和美:……これからも、代行は続けるから…。 いずみ:もういいのよ? 和美:わたしがしたいことだから…! いずみ:…ありがとう。(朝日を見ながら)…綺麗だねぇ…。 和美:うん、すごく綺麗…。 0: 0: 0: 和美:(モノローグ)あの日から半年で、いずみは遠いところへ行ってしまった。最後まで彼女の人生を愛しむように、丁寧に生き抜いた。 和美:(モノローグ)それからもう5年経つ。私はなんとなく彼女の思惑通り生きてしまっている。運転免許を取り、車が欲しくて職につき、そこで知り合った彼ともうすぐ結婚する。 和美:(モノローグ)ちゃんと私のために生きている。 和美:(モノローグ)私のために生きる、日々を丁寧に生きる。正直そんなこと毎日意識してられない。忘れていることが大半だ。 和美:(モノローグ)でも、私は時々立ちどまって振り返る。あのひんやりした朝の浜辺を。あの日、明け方の海で話した、いつかの二人の未来を。 0: 0:~完~

和美:(モノローグ)彼女は、私とは別世界の住人だった。彼女はなんでも持っているように見えた。それが、私のほしいものであろうが、そうでなかろうが。 0:暖かな陽光がきらめく中庭から、総合病院の1階の大きな窓へ光がさす。和美は花瓶の花を片手で整えながら、父の待つ病室へと向かっている。 いずみ:…進藤さん? 0:背後からかけられた声に和美の意識は向かない。 いずみ:進藤さんでしょう?ねぇ!進藤和美さん!? 和美:(その時初めて声の主が自分を呼んでいると気づき振り返る)えっ…? いずみ:やっぱり! 和美:……(相手の顔を見てしばらく考える間)あ…。福田さん? いずみ:うん!すごく久しぶり!こんなところで会うなんてね。 和美:(パジャマにカーディガンを羽織るいずみを見て)う、うん。 いずみ:お見舞い? 和美:うん、お父さんが足を折っちゃって…それで。 いずみ:そうなんだ!大変だね。でも、どうしてこんなところでお花を?入院病棟にお手洗いあったでしょう? 和美:なんか、感染症の人対策で、生のお花が駄目な病室とかあるみたいで…トイレもどこがよくてどこがダメなのかよく分かんなかったから。ここなら誰でも良さそうで。 いずみ:なるほど…ふふっ 和美:え、何? いずみ:ううん。進藤さん変わってなくて嬉しいなって。 和美:高校以来だけど…1年そこらで人はそんな変わらないよ…。 いずみ:そうかな? 和美:(モノローグ)そう聞いた彼女は、正直とても様変わりしていた。ツヤのあった黒髪は力を無くしており、太めではなくても健康的だった体は、かなり痩せて 和美:(モノローグ)私と変わらない身長だったのに、随分と小さくなったように見えた。 和美:そうだよ。 いずみ:そっかぁ。 和美:うん。福田さんはどうしたの?…別に言いたくなかったら全然。 いずみ:あー…ううん、そういうわけでもないんだけど。うーん…なるほど、そっか。 和美:なに? いずみ:いやぁ、とうとう人に気を遣わせる見た目になってきたかとね(苦笑い) 和美:っ…。ごめん…わたし、こういう時下手くそで。 いずみ:ううん、進藤さんのそういうところ信用できる。 和美:あ、そう…すか。 いずみ:わたし、5階の506号室にいるの。良かったらお父様のお見舞いの後に寄って? 和美:う、うん。 0: 0:指定された病室の引き戸を開ける和美、4人部屋の病室はカーテンで閉ざされてなく、左の奥にいずみはいる。ベッドから体を起こし、こちらを見るいずみ。 いずみ:あ、本当に来てくれた。 和美:え、そっちが来いって言ったんじゃん。 いずみ:それはそうだけど、進藤さん帰っちゃうかなって。 和美:別に暇だから。 いずみ:座って(ベッド脇の丸椅子をすすめる) 和美:ありがとう。一人部屋状態?(腰掛ける) いずみ:そーなの。入院した時はあと2人居て、3人で使ってたんだけどね。みんな退院して残されちゃった。 和美:ふぅん。無人ベッドって、夜怖そ…。 いずみ:もう慣れた。……あ、そうだ。進藤さんって、リアルフォトグラファー好き? 和美:え?うーん…何曲か知ってる曲があるってくらいかな。 いずみ:ほんと? 和美:え、うん。突然なに? いずみ:わたし、すっごく好きでねアルバムは全部盤で持ってるくらいなんだけど、えと、ライブのチケットがあるんだけどさ… 和美:へぇすごい。ライブとか行くんだ福田さん。 いずみ:うん。高校までは親からダメだって言われてて…大学入れたら行っていいよって。それで今回初めて取ったんだチケット。 和美:ふぅん。 いずみ:良かったら…進藤さん行ってくれない? 和美:は?! いずみ:わたし、外出の許可おりなくて、今回行かれそうにないの…だから、もし良かったらなんだけど…。 和美:いやいや、チケット転売するとか、行きたい人に譲るとかすれば良いじゃんか。 いずみ:欲しい人を探したり、連絡取ったりって結構疲れるよ?そう思わない? 和美:チケットって結構するんでしょ?悪いけど私お金ないし、買うほどリアフォトが好きなわけでもないよ? いずみ:チケット代はいいから! 和美:ええ…? いずみ:もし、進藤さんが良ければ、後日感想は聞かせて欲しい…ほんとに、もし、良ければ…で。 和美:わ、分かった…。 いずみ:ありがとう! 和美:え、こっちこそじゃない? いずみ:ライブは2週間後だからさ、(ベッドの脇の箱からCDを何枚も取り出し、ベッドの机に並べる)これと、これと、これ、あ、あとこれも念の為…! 和美:なに? いずみ:ライブを100パーセント楽しんで欲しいから、予習!持って帰って聴いて! 和美:えええ…!? 0: 0:いずみの病室。いずみはベッドから体を起こして座っている。その脇の丸椅子に和美がいる。 和美:しょっぱなにさ、「サイネージ」を歌いだしたんだけど、イントロ無しでアカペラで入ってさ 和美:もうその声量っていうの?圧倒された。それでみんな耳が完全にそっちに向いたっていうか。 いずみ:わぁ〜! 和美:MCでは、ギターのモトハセさんと仲良く喋って、リアフォトの結成馴れ初めとか話してて、 いずみ:歌えないギタリストと弾けないボーカルでしょ? 和美:そうそう!観客席から「その話何度目ぇ?」ってヤジ飛んでてさ(笑う) いずみ:恒例らしいから(微笑む) 和美:ライブ、行ってみたいなって思ってたけど、それ程までのアーティストはいなかったし、チケット取る手順も分からなかったから、福田さんが声掛けてくれてありがとうだった。 いずみ:良かった。 和美:これからリアフォトのチケット自分で取って行くわ。たまたまあの日にここに来て良かった。 いずみ:これでも頼む相手は選んだつもりよ? 和美:え?なんで私だったの? いずみ:読書感想文。…すごく進藤さん上手だったから。 和美:え? いずみ:学年で表彰もされてたでしょ?わたしはあーゆーのは全然だめ。進藤さんの読書感想文読んだけど、すごく分かりやすかったし、わたしも同じ本を読んだような気分になったんだよね。 和美:あ…そ、そう?(照れる) いずみ:だから、進藤さんに行って欲しかったの。ライブの雰囲気を教えて貰えるんじゃないかって。 和美:なるほど… いずみ:ね、また代行頼んでもいい? 和美:い、いいけど…。難しいことは嫌だよ? いずみ:大丈夫、大丈夫! 0: 0: 和美:(モノローグ)それから半年の間に、わたしは福田さんの代行として様々なことをした。多くはスイーツ巡りやラーメン巡りなどの食べ物系。 和美:(モノローグ)大変だったのはシリーズ物の映画の最新作を見に行くことだった。福田さんはそれまでに出ていた7作のDVDを予習として貸し出してくれた。 いずみ:予習してよかったでしょう? 和美:大変だった…もうほんとうに大変だった。何時間かかると思ってんの? いずみ:でも良かったでしょう? 和美:なんでそんな強気なのよ(苦笑い) いずみ:絶対面白いもん。宇宙ウォーズ。 和美:まぁ、こんな機会でも無ければ見てなかっただろうから、まぁ、そうね。実際面白かったしね。 いずみ:ふふふ。もうこれでいくつくらいになるかな? 和美:代行? いずみ:うん。でもね、まだまだあるんだよ?覚悟したほうがいいよ〜和美! 和美:(モノローグ)私達は、互いを下の名前で呼ぶようになった。いずみの白い肌は、より青白くなり、黒髪は少しずつ色を失っているように見えた。 いずみ:あ、そーだ。今日はね、この後検査があるの。 和美:また?こないだも心電図とか言ってなかった? いずみ:今日はね、血液検査と尿検査だって。 和美:ふぅん。じゃあ、検査までいる。 いずみ:ありがとう。 和美:(モノローグ)いずみが良くなってないことは、明らかだった。 いずみ:あとはね〜いつか婚活パーティーに行くでしょ?付き合って、結婚もするでしょ?子供も育てるでしょ? 和美:ちょっと待って。それまさか代行の内容? いずみ:うん。 和美:ばか。それは元気になっていずみがすればいいでしょうが。 いずみ:あー…そっか。あ、あと就活頑張って欲しいでしょ? 和美:なにが「そっか」だ!全然分かってないじゃんか。 いずみ:ふふふ 和美:嫌よ?私には私の将来の計画がー…ないけど!ないけどヤダ。 いずみ:和美はなんでもできるのに。 和美:したくないことはしないの。 いずみ:したいことって? 和美:……ライブ行ったり、ラーメン食べたり? いずみ:なるほど。 和美:あ!そんなことかって思ってるでしょ!?これでもすごく進歩したんだからね。もともとやりたいことは?なんて聞かれたって答えに困るくらいだったんだから。 いずみ:うんうん。分かったー分かった(棒読み) 和美:いずみ! いずみ:ふふふふっ。いいのいいの、私の代行で和美もしたいこと見つけてくれたら、私はこれからも気兼ねなく頼めるもんね。 和美:はぁ…ちゃっかりしてるね〜。 0: 和美:(モノローグ)それから2週間経ち、わたしは遊園地で逆バンジーなるものを代行した感想を伝えに、いずみの病室に来た。 和美:(モノローグ)いずみの口にカップのようなものが乗せられていて、呼吸の補助をしていた。 和美:やだ…なんか繋がれてるもん増えてるじゃん。 いずみ:(酸素吸入マスクを外し)大袈裟で嫌になっちゃう…(起き上がる) 和美:ちょ!外して大丈夫なの? いずみ:逆に苦しいんだよね、制限されてるみたいで。 和美:ならいいけどさ。 いずみ:どうだった?逆バンジー。 和美:遊園地だから、子供もやるからって言ったの誰? いずみ:ふふふふ 和美:ばか!もう二度とやらない。 いずみ:えっ!?(とても驚く) 和美:えっ!(驚いてることに驚く)あっ!逆バンジーをだよ?代行はするけど。 いずみ:あっ、良かった(笑う)……最近日が昇るのが遅いよね。夜が長い。 和美:うん。朝冷えることも多くなってきたねー。 いずみ:夜が明けると、新しい一日が始まったなって思う。たまにね、夜体中が痛い時があるの。朝になったら治るわけでもないのに、早く朝になれって思って耐えるんだ。 いずみ:…次の代行なんだけど、「明け方の海を見る」頼んでもいい?写真も撮ってほしいな。 和美:………。 いずみ:和美? 和美:それは、一緒に行こう。 0: 0:午前4時50分浜辺にタクシーで乗り付けた2人。毛糸の帽子に、マフラー、コートを身につけている。 和美:さぶぅ…! いずみ:(肩を震わせ笑っている) 和美:いつまでひきずってんの!あんた! いずみ:だって…(笑う)タクシーの運転手さん…(笑う)「あんたら、心中じゃないだろうね」って…くっ…あっははははは! 和美:まぁ、こんな暗い時間に、病院の近くから海までだもんね…勘ぐられても仕方ないというか…。 いずみ:そんな面持ちだったかなぁ?…ぷっ…ふふふ 和美:まぁ、ひとり病人だしな。 いずみ:それはそうだけど…!まっくら…今日日の出って何時なんだろ? 和美:5時32分だって。ちょっと早く来すぎたな…。 いずみ:この時間から朝食までは看護師さんの見回りないから、大丈夫。朝食準備とかでバタバタする前に来たかったから。 和美:朝食までに戻れば大丈夫か。何時なの? いずみ:6時半。でも、6時すぎに検温がくる。 和美:おっけ。あ、レジャーシート持ってきたから敷こう。 いずみ:準備がいいね。 和美:……寒くない? いずみ:大丈夫。 和美:ほんとに大丈夫かな…連れ出しちゃったけど。 いずみ:大丈夫。 和美:いずみって、全然大人しい優等生じゃなかった。 いずみ:そうよー? 和美:やりたいことはみーんな過激だしな。 いずみ:え!?ふつーでしょ? 和美:逆バンジーも、大食いチャレンジも普通じゃないよ。 いずみ:そうかなぁ?でも、やってくれる和美も普通じゃないよ? 和美:えー? 0:静かに波音を聴く2人 いずみ:(咳き込む) 和美:だ、大丈夫? いずみ:うん。ね、すこし光を感じない?白んできたね。 和美:ほんとだ。日の出もうすぐだわ。 0:太陽が水平線より昇る いずみ:わぁ… 和美:わたし、日の出って初めて見た いずみ:わたしも。 和美:まっさらなキブンになるもんだね。 いずみ:うん… 和美:(モノローグ)朝日は、昼間の太陽と違って、産まれたての!まだ誰にも汚されていない真っさらなものに思えた。 いずみ:ありがとうね… 和美:うん。これは何となく一緒に見たくて。 いずみ:今日だけじゃなく、ありがとね。 和美:うん… いずみ:ね、運転免許取って? 和美:めんどくさい。 いずみ:色んなところ行けるのよ? 和美:うーん… いずみ:電車なんかより、荷物気にしないで、自由よ?好きなとこ寄れるし、足が疲れない! 和美:うーん…。なんかいずみは本当に乗せるのが上手いなって思う… いずみ:乗っておいたらオトクだよ? 和美:うんー…取ったら色んなところに連れてかされそう(苦笑い) いずみ:でさ、やっぱり恋愛はして?誰かと想いあうって素敵だもん。子供は授かりものだから、どっちでもいい! 和美:いずみー?それはいずみが…(元気になったらすることだと言いかける) いずみ:(和美の続きを遮るように)私、もう元気にはならないの。 和美:………やだ。 いずみ:ワガママ。 和美:やだ!! いずみ:ごめんね。 和美:…やだ…。 いずみ:私の分まで… 和美:やだって言ってんじゃん! いずみ:……私の分まで生きろなんて、そんな代行頼まない。和美のこれからを思いっきり生きてほしいの。誰かの代わりにじゃなくて…! 和美:…… いずみ:わたしの代わりでもなくて。 和美:……これからも、代行は続けるから…。 いずみ:もういいのよ? 和美:わたしがしたいことだから…! いずみ:…ありがとう。(朝日を見ながら)…綺麗だねぇ…。 和美:うん、すごく綺麗…。 0: 0: 0: 和美:(モノローグ)あの日から半年で、いずみは遠いところへ行ってしまった。最後まで彼女の人生を愛しむように、丁寧に生き抜いた。 和美:(モノローグ)それからもう5年経つ。私はなんとなく彼女の思惑通り生きてしまっている。運転免許を取り、車が欲しくて職につき、そこで知り合った彼ともうすぐ結婚する。 和美:(モノローグ)ちゃんと私のために生きている。 和美:(モノローグ)私のために生きる、日々を丁寧に生きる。正直そんなこと毎日意識してられない。忘れていることが大半だ。 和美:(モノローグ)でも、私は時々立ちどまって振り返る。あのひんやりした朝の浜辺を。あの日、明け方の海で話した、いつかの二人の未来を。 0: 0:~完~