台本概要
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タイトル | 焼きすぎた焼き菓子 |
---|---|
作者名 | Sui@シナリオライター (@fM1KaY5J95ORcNN) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ある日唐突に「お前の手作りクッキーが食べたい!」と言われたミキオはクッキーを作り始める。 短気なミキオにクッキー作りが難しかったのか、完成したクッキーは無残にも黒焦げ… そんな黒焦げのクッキーが…喋りだした…だと!? そんなお話。 基本、アドリブ・アレンジ・改変等 自由ですので 楽しんで遊んで頂けると嬉しく思います。 最後に…無いとは思いますが、無断転載等は お控えください。 247 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ミキオ | 男 | 74 | 伽羅短気男(きゃら みきお) 人生初のクッキー作りに挑戦する。 気が短い。 |
クキ | 女 | 66 | 言弾久喜(こだま くき) 素で弾丸トークをかますクッキー。 焦げてる。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:【焼きすぎた焼き菓子】
0:
0:ミキオが調理場に立っている。
0:
ミキオ:(M)なぜこうなった!?
ミキオ:いや、原因は分かっている…
0:
ミキオ:(M)俺の彼女が唐突にこう言ってきた。
クキ:(若)「ねぇねぇねぇ!クッキーが食べたい!もう、モーレツにクッキーが食べたいの!
クキ:待って待って、クッキーが食べたいと言っても、ただのクッキーじゃないんだよ!
クキ:気になる?気になるよねぇ? その正体は…でぅるるるるるるる…ババン!
クキ:お前の手作りクッキーだぁぁぁぁぁ!さあ作れ!やれ作れ!今作れ!…あ、今は無理か…
クキ:明日まで待ってやるから、必ず作ってくる事!分かったね? そんじゃまた明日!楽しみにしてるねぇぇぇ!」
ミキオ:(M)…と言う訳で、作るハメになった。
ミキオ:作らないという選択肢もあるが…あの弾丸トークで延々と恨み言を聞くのは正直キツい…
ミキオ:クッキーを作るには…
ミキオ:小麦粉、バター、卵、砂糖…
ミキオ:これを…小麦粉を、ふるいにかけて…混ぜて…寝かせて…
ミキオ:だぁぁぁあぁあぁ!めんどくせぇ!全部混ぜて!焼く!
ミキオ:何だと!170℃で15分焼くだと!? 余熱!?
ミキオ:めんどくせぇぇぇぇぇ!340℃にして7分だ!余熱も無視!待ってられるかぁぁぁ!
ミキオ:…って工程を踏んだら…真っ黒コゲになった…そして…
0:
ミキオ:「あれ…このクッキー(のような物)の表面…人の顔っぽくね?」
クキ:「…チラっ」
ミキオ:「おわぁ! う…動いた!?」
クキ:「ジロリ…」
ミキオ:「クッキーがこっち見たぁ!」
クキ:「あらあら、いい男じゃないの。 オバちゃんの好みだわ!
クキ:端正(たんせい)な顔立ちと通った鼻筋、程よくついた筋肉も魅力的!
クキ:あなた韓流スターみたいね、ううん、なれるわ!韓流スターに!」
ミキオ:「すみません、俺…日本人なのですが…」
クキ:「あらやだ! もー…最近の若い子ってホントにキレイな子が多いから、オバちゃん目移りしちゃうじゃないの!?
クキ:オバちゃんも、あと十年若ければ、ピッチピチであなたを誘惑できたのに!
クキ:オバちゃんの若い頃はね、もうそれはそれは可愛い美少女だったのよ…クラスでは、もうモテモテで…」
ミキオ:「ちょちょちょ…待って? 色々待って?
ミキオ:ツッコむ隙間が無かったから、一通りツッコませて?」
クキ:「オバちゃんに…ツッコむの!? もう…いやらしくて大胆な子!でもステキ! 良いわ!いらっしゃい!」
ミキオ:「ごめん、少し黙って?
ミキオ:あのね、オバちゃん…オバちゃんが何者なのか知らないけど、今のオバちゃんはクッキーなのね?」
クキ:「あらやだ! やたら香ばしいと思ったらそんなに!?」
ミキオ:「だから十年前どころか、一時間前には影も形も無かったの。」
クキ:「オバちゃん、産まれたて!? ピッチピチじゃないの!? もうピッチピチを通り越してデゥルンデゥルンじゃないの!?」
ミキオ:「黙れクソババア!」
クキ:「何あなた、今オバちゃんの事を「クソババア」って言った!?言ったわよね!?
クキ:ババアは許さないからね! 百歩譲って、今のオバちゃんはクッキーだからワンチャン、クソになるかも知れないけど…
クキ:ババアは許さん!」
ミキオ:「(キレながら)ごめん、オバちゃん! すんませんでしたぁ!」
クキ:「謝る気ゼロじゃないの!? 謝れ!今すぐ!土下座しろ!」
ミキオ:「めんどくせぇ! どっかの誰かさんみたいで、めんどくせぇ!」
クキ:「どっかの誰かさんて!誰よ!」
ミキオ:「俺の彼女だよ!」
0:間
クキ:「オバちゃんが…彼女(嬉)!!?」
ミキオ:「オメーじゃねェからな!?」
クキ:「あーあー照れちゃって! オバちゃんが…キ・レ・イ・だから?」
ミキオ:「焦げ魔人が何言ってんの!?」
クキ:「そーでした。」
ミキオ:「もう…何でここに来たの?」
クキ:「それそれ! ちょっとオバちゃんに語らせてもらって良い?」
ミキオ:「ダメって言っても語るんでしょ?どーせ…」
クキ:「オバちゃんの事、分かってるぅ!」
ミキオ:「いや、分かりたくもないけどね?」
クキ:(発声練習)「あーあー…あー…」
ミキオ:「発声練習するレベルで語る気!?」
クキ:「オバちゃん学生時代に付き合った男の人と、結婚したんだけどね、正直もっといろんな恋をしておけば良かったと後悔しているのよ。
クキ:ほら、オバちゃん美少女だったって言ったでしょ? 引く手数多(あまた)だった訳よ。 それでもその彼が好きでたまらなかったのね。
クキ:正直、彼は短気で口も悪かったかも知れない。 でも彼には、それを差し引いても余りあるほどの魅力があった訳よ!」
ミキオ:「はいはい。」
クキ:「その後、結婚した訳よ。 結婚して子供ができて、旦那は優しかった。優しかったけど、オバちゃんこんな性格でしょ? 刺激が欲しかったのよ!
クキ:ここで言う刺激が何か分かる?分からないわよね?」
ミキオ:「なに? 浮気でもしたの?」
クキ:「ぶっぶー!ハズレ!正解は万引きでした!」
ミキオ:「何やってんだよ!?」
クキ:「そしたらね、旦那を呼ばれるでしょ?問い詰められるでしょ?旦那は短気でしょ?
クキ:旦那がね…警察の人を殴ってしまったのよ…男ってホントバカ…でも、そんな所に惚れてしまったオバちゃんも…バカなのかもしれない…
クキ:そんなバカなオバちゃんはね…旦那が殴った警察官にトドメを刺しちゃったの。
クキ:こう…倒れてる警察官にフライングエルボーをしたら、キレイに喉に入っちゃって、旦那と共に収監…ほーんとバカな事したわ…」
ミキオ:「…んで…その後どうなったの?」
クキ:「懲役もらっちゃってねぇ…旦那はホント短気で…」
ミキオ:「短気で?」
クキ:「刑務所で首吊って死んじゃったらしいのよ…オバちゃん、本当ビックリしたわ。」
ミキオ:「軽いな! 旦那だろ!?」
クキ:「やぁねぇ、切り替えは大切よ?」
ミキオ:「旦那…浮かばれねぇなぁ…」
クキ:「オバちゃんね、それ聞いて、あと追わなきゃ…って首吊ったら…ここに居ましたとさ…」
ミキオ:「何だよそれ! 謎しかねぇじゃねぇかよ!
ミキオ:死んで…転生したってか!? 俺に関係あんのかよ…俺の作ったクッキーに転生するなんて…」
クキ:「あるわよ?」
ミキオ:「は?」
0:間
クキ:「オバちゃん、一目見た時からピーンと来たのよ…」
ミキオ:「何が…?」
クキ:「あなた…伽羅短気男(きゃら みきお)でしょ?」
ミキオ:「何で俺の名前を!?」
クキ:「都立山神学園に通う高校生…高校生よね?私の知ってるミキオ君に間違いないから!
クキ:もうちょっと言うと、あなたの実家は果物屋よね?両親共に働いていて、稼ぎが少ないときは父親がバイトをしに行く。
クキ:両親の出会った場所は、オバちゃんたちと同じ都立山神学園よね?オバちゃん運命を感じちゃったのよ!」
ミキオ:「ちょちょ、仮にね?君がね?クキちゃんだとしてよ? 俺の両親の馴れ初めを知ってるの…気持ち悪くない!?」
クキ:「あなたと結婚してから、お義母さんに耳にタコができるほど聞かされたからねぇ…
クキ:それだけじゃないのよ?もう、色んな事まで…隅から隅まで…」
ミキオ:「やめろ!? 両親の色んな事なんて聞きたくないって!」
クキ:「そう?」
ミキオ:「そうだよ!」
0:間
ミキオ:「それでさ…ちょっと気になったんだけど…」
クキ:「何が聞きたいの?なんでも答えるわよ?オバちゃんお喋りだからね、ホント何でも喋っちゃうわよ!?」
ミキオ:「何でもは喋らなくて良いんだけど…
ミキオ:収監される…ってマジ?」
クキ:「マジもマジ、大マジよ! だって公務執行妨害の上にトドメさして息の根を止めちゃったからねぇ…」
ミキオ:「やだよ!ふざけんなよ!逮捕されたくないに決まってんだろ!?」
クキ:「なるほどなるほど…オバちゃん分かっちゃったわよ…?」
ミキオ:「何が分かったんだよ!?」
クキ:「オバちゃん…あなたを更生して短気を治すためにここに来たんだわ。」
ミキオ:「んな無茶苦茶な!」
クキ:「そもそも、転生してくる事そのものが、無茶苦茶なんだから、今更些細な問題じゃないかしら?」
ミキオ:「確かに?」
クキ:「じゃ、ミキオ君の短気を治してみましょう!」
ミキオ:「は?」
クキ:「え?逮捕されたいの?収監されたいの?
クキ:オバちゃん、あなたの短気のせいでストレス溜まって、万引きしちゃったんだから、そもそも短気が治れば何事も無く幸せな人生を送れると思うの。」
ミキオ:「待て!? 俺のせいなの!?」
クキ:「そうよ?」
ミキオ:「何でそれを俺に言わない?注意すれば言う事聞くぞ?
ミキオ:ほら、今だって聞く気マンマンな訳で…」
クキ:「何言ってんの? 加齢による精神の消耗は激しいものよ? 数年前まで気の長かった男性が、突然短気になる…なんて話はよく聞くことよ?
クキ:そもそも短気だった男性であるミキオ君が、さらに短気になる…そんな事象ちょっと考えれば起こり得るとは思わない?
クキ:会社勤めも大変よね、自営業の果物屋を継いでいればこんな事にならなかったのに…ああそれなのに…それなのに…さめざめ(泣)…」
ミキオ:「ごめん!ごめんて!果物屋を継げばいいんだな!?」
クキ:「それだけじゃ、やーだー! 短気を治してくれないと、やーだー!」
ミキオ:「分かった分かった、抑えるから…」
クキ:「ホントに?」
ミキオ:「ホントだよ、抑えるよ。」
クキ:「ホントにホント?」
ミキオ:「抑えるよ。」
クキ:「ホントにホントにホント?」
ミキオ:「(キレて)うっせぇ…! (抑えて)抑…えて…るよ!」
クキ:「もうちょっと続けても大丈夫?」
ミキオ:「(キレて)黙れ! …(抑えて)それを聞くな?」
0:間
クキ:「まぁ…及第点(きゅうだいてん)かな…しっかりと抑えられるようにこれからも精進する様に!」
ミキオ:「はぁ… あ、そうそう。」
クキ:「なに? このオバちゃんに聞きたい事何かあるの?」
ミキオ:「あの…すっごい聞きにくい事なんだけどね?」
クキ:「どーんと聞いてきなさい!」
ミキオ:「オバちゃんは、将来のクキちゃんなんだよね?」
クキ:「間違いないわ。」
ミキオ:「クキちゃんを黙らせる方法って…ある?」
クキ:「オバちゃんを黙らせようなんて、百万年早いわよ!?」
ミキオ:「いやね、俺が短気になったの…クキちゃんがマシンガントーク過ぎて自分の意思が全く通らなくなったからなのね?
ミキオ:大きな声出して、話遮って、ツッコんで… 何とか対等に話せるようになったんだけどさ?
ミキオ:知ってるよ? クキちゃんが、すっごいモテる事。 でも口数が多すぎて、最終的にウザがられて振られる事ばっかりだったでしょ?
ミキオ:だから、そういうキャラになってしまったと思うんだよね… いや、クキちゃんが悪い訳じゃ無いんだよ? それに対応しきれなかった俺が悪いわけで。
ミキオ:正直さ、女の子にモテる…いや、クラス一学校一の美少女が奇跡的に彼女になってくれたんなら、それに合わせたくなるのが男心ってもんじゃないか?
ミキオ:クキちゃんには、ありのままで居てほしかったんだ。 だって、それこそがクキちゃんの魅力でしょ?そうでしょ?そうじゃないの?」
クキ:「あ…ええ…」
ミキオ:「だからだよ。キレキャラってのを身につけて、ようやく対等になったんだからそれを貫くでしょ?
ミキオ:そうしないと、釣り合わないでしょ!?」
クキ:「なに?…ミキオ君…めっちゃ喋るやん。」
ミキオ:「あ…もしかして、クキちゃんを黙らせる方法って、俺が喋り続ける事!?」
クキ:「…そうかも…」
ミキオ:「いや待て! 今度はクキちゃんがキレキャラになって、俺が万引きする未来がやってくる可能性が見えてきたぞ。
ミキオ:これを回避する為には、別の可能性を模索する必要があると思うんだ! …と言う訳で、クキちゃんの苦手な事を教えて!?」
クキ:「苦手な事…?」
ミキオ:「何かあるでしょ!? 甘い言葉が苦手とか、メンヘラが嫌いとか、優柔不断が苦手とか!」
クキ:「それ…一通りダメだわ…」
ミキオ:「なるほどね、照れちゃうのかな!? 照れちゃうんだな!? 甘い言葉!」
クキ:「いや…そうだけど!」
0:ミキオ、クキの唇を指でなぞり
ミキオ:「君の唇…ちょっとザラッとしてる…焦げちゃってるんだもんね…当然か…
ミキオ:でも…そんな唇も…キュートで可愛いよ。」
クキ:「うきゃぁぁぁあ! オバちゃんのラブロマンスが始まっちゃう!」
ミキオ:「だ・ま・れ☆」
クキ:「黙り…ますぅ…」
ミキオ:「なるほど…平和的解決法が…コレだな!」
クキ:「天にも昇る気分だわ~…」
0:
ミキオ:(M)そう言うと、良く分からん内に オバちゃんになったクキちゃんの宿ったクッキーはピクリとも動かなくなった。
ミキオ:どうも元の時代に帰ったみたいだ。 いや…対処法が分かったから、きっと未来の世界でハッピーな生活を送るクキオバちゃんに生まれ変わったんだ。 そうに違いない。
0:
ミキオ:(M)翌日…時間が無かったこともあり、恥ずかしながら、焦げたクッキーをクキちゃんに渡した。
0:
クキ:(若)「ちょと、これどう言う事よ!? 私はクッキーが食べたいって言ったじゃない!? こんな焦げたクッキー食べられるわけが無いでしょ!?
クキ:今すぐ作り直しなさい! 私のクッキー食べたい欲は今、はちきれんばかりに…」
0:
ミキオ:(M)俺は、クキちゃんの言葉を遮り、昨日オバちゃんになったクキちゃんが乗り移ったクッキーにしたように、唇に指を添わせて…
0:
ミキオ:「だ・ま・れ☆」
クキ:(若)「…はい…」
0:
ミキオ:(M)案外チョロかった…
ミキオ:これで、未来から来たクキちゃんの言う感じにはならないだろう…一安心だ。
ミキオ:さて…仕方なかったとは言え、クキちゃんに焦げっ焦げのクッキーを渡した事は不本意だ。
ミキオ:明日、ちゃんとしたクッキーを作って渡そう。
ミキオ:クキちゃん、喜んでくれるといいなぁ…
0:
ミキオ:(M)短気は損気、しっかりと分量を測ってクッキーを作る。
ミキオ:出来上がったクッキーは…しっとりとして美味しそうだった…
ミキオ:ん…んん!?
ミキオ:このクッキー…人の顔に見えるけど!?
0:
クキ:「あの…その…私…」
ミキオ:「もしかして…クキちゃん?」
クキ:「ミキオ君!? 何で判ったの!?」
ミキオ:「いや、前にもこんな事あったから…」
クキ:「ミキオ君、私困っているの。」
ミキオ:「随分と雰囲気が変わってるけど…どうしたの?」
クキ:「私ね…ミキオ君に『黙れ』って言われた日から、おしとやかになろうと思って努力したの。」
ミキオ:「ほうほう?」
クキ:「そしたらね…すっごいモテて、浮気しまくった結果…殺されちゃったの。」
ミキオ:「何でそうなったぁぁぁぁ!?」
0:
ミキオ:(M)本当、いい塩梅(あんばい)と言うやつは難しい。
ミキオ:だが、これは俺の責任でもある。
ミキオ:どうも何か未来におかしな事があって、クッキーを作ったら未来のクキちゃんが取り憑くみたいだ。
ミキオ:俺は、クキちゃんを色々誘導しつつ…毎日クッキーを作ってみようと思う。
ミキオ:未来のクキちゃんが取り憑かない、幸せな未来が来るバランスになるまで…
ミキオ:気長にクッキーを作る事にしてみよう。
0:
0:
0:おしまい!
0:【焼きすぎた焼き菓子】
0:
0:ミキオが調理場に立っている。
0:
ミキオ:(M)なぜこうなった!?
ミキオ:いや、原因は分かっている…
0:
ミキオ:(M)俺の彼女が唐突にこう言ってきた。
クキ:(若)「ねぇねぇねぇ!クッキーが食べたい!もう、モーレツにクッキーが食べたいの!
クキ:待って待って、クッキーが食べたいと言っても、ただのクッキーじゃないんだよ!
クキ:気になる?気になるよねぇ? その正体は…でぅるるるるるるる…ババン!
クキ:お前の手作りクッキーだぁぁぁぁぁ!さあ作れ!やれ作れ!今作れ!…あ、今は無理か…
クキ:明日まで待ってやるから、必ず作ってくる事!分かったね? そんじゃまた明日!楽しみにしてるねぇぇぇ!」
ミキオ:(M)…と言う訳で、作るハメになった。
ミキオ:作らないという選択肢もあるが…あの弾丸トークで延々と恨み言を聞くのは正直キツい…
ミキオ:クッキーを作るには…
ミキオ:小麦粉、バター、卵、砂糖…
ミキオ:これを…小麦粉を、ふるいにかけて…混ぜて…寝かせて…
ミキオ:だぁぁぁあぁあぁ!めんどくせぇ!全部混ぜて!焼く!
ミキオ:何だと!170℃で15分焼くだと!? 余熱!?
ミキオ:めんどくせぇぇぇぇぇ!340℃にして7分だ!余熱も無視!待ってられるかぁぁぁ!
ミキオ:…って工程を踏んだら…真っ黒コゲになった…そして…
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ミキオ:「あれ…このクッキー(のような物)の表面…人の顔っぽくね?」
クキ:「…チラっ」
ミキオ:「おわぁ! う…動いた!?」
クキ:「ジロリ…」
ミキオ:「クッキーがこっち見たぁ!」
クキ:「あらあら、いい男じゃないの。 オバちゃんの好みだわ!
クキ:端正(たんせい)な顔立ちと通った鼻筋、程よくついた筋肉も魅力的!
クキ:あなた韓流スターみたいね、ううん、なれるわ!韓流スターに!」
ミキオ:「すみません、俺…日本人なのですが…」
クキ:「あらやだ! もー…最近の若い子ってホントにキレイな子が多いから、オバちゃん目移りしちゃうじゃないの!?
クキ:オバちゃんも、あと十年若ければ、ピッチピチであなたを誘惑できたのに!
クキ:オバちゃんの若い頃はね、もうそれはそれは可愛い美少女だったのよ…クラスでは、もうモテモテで…」
ミキオ:「ちょちょちょ…待って? 色々待って?
ミキオ:ツッコむ隙間が無かったから、一通りツッコませて?」
クキ:「オバちゃんに…ツッコむの!? もう…いやらしくて大胆な子!でもステキ! 良いわ!いらっしゃい!」
ミキオ:「ごめん、少し黙って?
ミキオ:あのね、オバちゃん…オバちゃんが何者なのか知らないけど、今のオバちゃんはクッキーなのね?」
クキ:「あらやだ! やたら香ばしいと思ったらそんなに!?」
ミキオ:「だから十年前どころか、一時間前には影も形も無かったの。」
クキ:「オバちゃん、産まれたて!? ピッチピチじゃないの!? もうピッチピチを通り越してデゥルンデゥルンじゃないの!?」
ミキオ:「黙れクソババア!」
クキ:「何あなた、今オバちゃんの事を「クソババア」って言った!?言ったわよね!?
クキ:ババアは許さないからね! 百歩譲って、今のオバちゃんはクッキーだからワンチャン、クソになるかも知れないけど…
クキ:ババアは許さん!」
ミキオ:「(キレながら)ごめん、オバちゃん! すんませんでしたぁ!」
クキ:「謝る気ゼロじゃないの!? 謝れ!今すぐ!土下座しろ!」
ミキオ:「めんどくせぇ! どっかの誰かさんみたいで、めんどくせぇ!」
クキ:「どっかの誰かさんて!誰よ!」
ミキオ:「俺の彼女だよ!」
0:間
クキ:「オバちゃんが…彼女(嬉)!!?」
ミキオ:「オメーじゃねェからな!?」
クキ:「あーあー照れちゃって! オバちゃんが…キ・レ・イ・だから?」
ミキオ:「焦げ魔人が何言ってんの!?」
クキ:「そーでした。」
ミキオ:「もう…何でここに来たの?」
クキ:「それそれ! ちょっとオバちゃんに語らせてもらって良い?」
ミキオ:「ダメって言っても語るんでしょ?どーせ…」
クキ:「オバちゃんの事、分かってるぅ!」
ミキオ:「いや、分かりたくもないけどね?」
クキ:(発声練習)「あーあー…あー…」
ミキオ:「発声練習するレベルで語る気!?」
クキ:「オバちゃん学生時代に付き合った男の人と、結婚したんだけどね、正直もっといろんな恋をしておけば良かったと後悔しているのよ。
クキ:ほら、オバちゃん美少女だったって言ったでしょ? 引く手数多(あまた)だった訳よ。 それでもその彼が好きでたまらなかったのね。
クキ:正直、彼は短気で口も悪かったかも知れない。 でも彼には、それを差し引いても余りあるほどの魅力があった訳よ!」
ミキオ:「はいはい。」
クキ:「その後、結婚した訳よ。 結婚して子供ができて、旦那は優しかった。優しかったけど、オバちゃんこんな性格でしょ? 刺激が欲しかったのよ!
クキ:ここで言う刺激が何か分かる?分からないわよね?」
ミキオ:「なに? 浮気でもしたの?」
クキ:「ぶっぶー!ハズレ!正解は万引きでした!」
ミキオ:「何やってんだよ!?」
クキ:「そしたらね、旦那を呼ばれるでしょ?問い詰められるでしょ?旦那は短気でしょ?
クキ:旦那がね…警察の人を殴ってしまったのよ…男ってホントバカ…でも、そんな所に惚れてしまったオバちゃんも…バカなのかもしれない…
クキ:そんなバカなオバちゃんはね…旦那が殴った警察官にトドメを刺しちゃったの。
クキ:こう…倒れてる警察官にフライングエルボーをしたら、キレイに喉に入っちゃって、旦那と共に収監…ほーんとバカな事したわ…」
ミキオ:「…んで…その後どうなったの?」
クキ:「懲役もらっちゃってねぇ…旦那はホント短気で…」
ミキオ:「短気で?」
クキ:「刑務所で首吊って死んじゃったらしいのよ…オバちゃん、本当ビックリしたわ。」
ミキオ:「軽いな! 旦那だろ!?」
クキ:「やぁねぇ、切り替えは大切よ?」
ミキオ:「旦那…浮かばれねぇなぁ…」
クキ:「オバちゃんね、それ聞いて、あと追わなきゃ…って首吊ったら…ここに居ましたとさ…」
ミキオ:「何だよそれ! 謎しかねぇじゃねぇかよ!
ミキオ:死んで…転生したってか!? 俺に関係あんのかよ…俺の作ったクッキーに転生するなんて…」
クキ:「あるわよ?」
ミキオ:「は?」
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クキ:「オバちゃん、一目見た時からピーンと来たのよ…」
ミキオ:「何が…?」
クキ:「あなた…伽羅短気男(きゃら みきお)でしょ?」
ミキオ:「何で俺の名前を!?」
クキ:「都立山神学園に通う高校生…高校生よね?私の知ってるミキオ君に間違いないから!
クキ:もうちょっと言うと、あなたの実家は果物屋よね?両親共に働いていて、稼ぎが少ないときは父親がバイトをしに行く。
クキ:両親の出会った場所は、オバちゃんたちと同じ都立山神学園よね?オバちゃん運命を感じちゃったのよ!」
ミキオ:「ちょちょ、仮にね?君がね?クキちゃんだとしてよ? 俺の両親の馴れ初めを知ってるの…気持ち悪くない!?」
クキ:「あなたと結婚してから、お義母さんに耳にタコができるほど聞かされたからねぇ…
クキ:それだけじゃないのよ?もう、色んな事まで…隅から隅まで…」
ミキオ:「やめろ!? 両親の色んな事なんて聞きたくないって!」
クキ:「そう?」
ミキオ:「そうだよ!」
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ミキオ:「それでさ…ちょっと気になったんだけど…」
クキ:「何が聞きたいの?なんでも答えるわよ?オバちゃんお喋りだからね、ホント何でも喋っちゃうわよ!?」
ミキオ:「何でもは喋らなくて良いんだけど…
ミキオ:収監される…ってマジ?」
クキ:「マジもマジ、大マジよ! だって公務執行妨害の上にトドメさして息の根を止めちゃったからねぇ…」
ミキオ:「やだよ!ふざけんなよ!逮捕されたくないに決まってんだろ!?」
クキ:「なるほどなるほど…オバちゃん分かっちゃったわよ…?」
ミキオ:「何が分かったんだよ!?」
クキ:「オバちゃん…あなたを更生して短気を治すためにここに来たんだわ。」
ミキオ:「んな無茶苦茶な!」
クキ:「そもそも、転生してくる事そのものが、無茶苦茶なんだから、今更些細な問題じゃないかしら?」
ミキオ:「確かに?」
クキ:「じゃ、ミキオ君の短気を治してみましょう!」
ミキオ:「は?」
クキ:「え?逮捕されたいの?収監されたいの?
クキ:オバちゃん、あなたの短気のせいでストレス溜まって、万引きしちゃったんだから、そもそも短気が治れば何事も無く幸せな人生を送れると思うの。」
ミキオ:「待て!? 俺のせいなの!?」
クキ:「そうよ?」
ミキオ:「何でそれを俺に言わない?注意すれば言う事聞くぞ?
ミキオ:ほら、今だって聞く気マンマンな訳で…」
クキ:「何言ってんの? 加齢による精神の消耗は激しいものよ? 数年前まで気の長かった男性が、突然短気になる…なんて話はよく聞くことよ?
クキ:そもそも短気だった男性であるミキオ君が、さらに短気になる…そんな事象ちょっと考えれば起こり得るとは思わない?
クキ:会社勤めも大変よね、自営業の果物屋を継いでいればこんな事にならなかったのに…ああそれなのに…それなのに…さめざめ(泣)…」
ミキオ:「ごめん!ごめんて!果物屋を継げばいいんだな!?」
クキ:「それだけじゃ、やーだー! 短気を治してくれないと、やーだー!」
ミキオ:「分かった分かった、抑えるから…」
クキ:「ホントに?」
ミキオ:「ホントだよ、抑えるよ。」
クキ:「ホントにホント?」
ミキオ:「抑えるよ。」
クキ:「ホントにホントにホント?」
ミキオ:「(キレて)うっせぇ…! (抑えて)抑…えて…るよ!」
クキ:「もうちょっと続けても大丈夫?」
ミキオ:「(キレて)黙れ! …(抑えて)それを聞くな?」
0:間
クキ:「まぁ…及第点(きゅうだいてん)かな…しっかりと抑えられるようにこれからも精進する様に!」
ミキオ:「はぁ… あ、そうそう。」
クキ:「なに? このオバちゃんに聞きたい事何かあるの?」
ミキオ:「あの…すっごい聞きにくい事なんだけどね?」
クキ:「どーんと聞いてきなさい!」
ミキオ:「オバちゃんは、将来のクキちゃんなんだよね?」
クキ:「間違いないわ。」
ミキオ:「クキちゃんを黙らせる方法って…ある?」
クキ:「オバちゃんを黙らせようなんて、百万年早いわよ!?」
ミキオ:「いやね、俺が短気になったの…クキちゃんがマシンガントーク過ぎて自分の意思が全く通らなくなったからなのね?
ミキオ:大きな声出して、話遮って、ツッコんで… 何とか対等に話せるようになったんだけどさ?
ミキオ:知ってるよ? クキちゃんが、すっごいモテる事。 でも口数が多すぎて、最終的にウザがられて振られる事ばっかりだったでしょ?
ミキオ:だから、そういうキャラになってしまったと思うんだよね… いや、クキちゃんが悪い訳じゃ無いんだよ? それに対応しきれなかった俺が悪いわけで。
ミキオ:正直さ、女の子にモテる…いや、クラス一学校一の美少女が奇跡的に彼女になってくれたんなら、それに合わせたくなるのが男心ってもんじゃないか?
ミキオ:クキちゃんには、ありのままで居てほしかったんだ。 だって、それこそがクキちゃんの魅力でしょ?そうでしょ?そうじゃないの?」
クキ:「あ…ええ…」
ミキオ:「だからだよ。キレキャラってのを身につけて、ようやく対等になったんだからそれを貫くでしょ?
ミキオ:そうしないと、釣り合わないでしょ!?」
クキ:「なに?…ミキオ君…めっちゃ喋るやん。」
ミキオ:「あ…もしかして、クキちゃんを黙らせる方法って、俺が喋り続ける事!?」
クキ:「…そうかも…」
ミキオ:「いや待て! 今度はクキちゃんがキレキャラになって、俺が万引きする未来がやってくる可能性が見えてきたぞ。
ミキオ:これを回避する為には、別の可能性を模索する必要があると思うんだ! …と言う訳で、クキちゃんの苦手な事を教えて!?」
クキ:「苦手な事…?」
ミキオ:「何かあるでしょ!? 甘い言葉が苦手とか、メンヘラが嫌いとか、優柔不断が苦手とか!」
クキ:「それ…一通りダメだわ…」
ミキオ:「なるほどね、照れちゃうのかな!? 照れちゃうんだな!? 甘い言葉!」
クキ:「いや…そうだけど!」
0:ミキオ、クキの唇を指でなぞり
ミキオ:「君の唇…ちょっとザラッとしてる…焦げちゃってるんだもんね…当然か…
ミキオ:でも…そんな唇も…キュートで可愛いよ。」
クキ:「うきゃぁぁぁあ! オバちゃんのラブロマンスが始まっちゃう!」
ミキオ:「だ・ま・れ☆」
クキ:「黙り…ますぅ…」
ミキオ:「なるほど…平和的解決法が…コレだな!」
クキ:「天にも昇る気分だわ~…」
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ミキオ:(M)そう言うと、良く分からん内に オバちゃんになったクキちゃんの宿ったクッキーはピクリとも動かなくなった。
ミキオ:どうも元の時代に帰ったみたいだ。 いや…対処法が分かったから、きっと未来の世界でハッピーな生活を送るクキオバちゃんに生まれ変わったんだ。 そうに違いない。
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ミキオ:(M)翌日…時間が無かったこともあり、恥ずかしながら、焦げたクッキーをクキちゃんに渡した。
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クキ:(若)「ちょと、これどう言う事よ!? 私はクッキーが食べたいって言ったじゃない!? こんな焦げたクッキー食べられるわけが無いでしょ!?
クキ:今すぐ作り直しなさい! 私のクッキー食べたい欲は今、はちきれんばかりに…」
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ミキオ:(M)俺は、クキちゃんの言葉を遮り、昨日オバちゃんになったクキちゃんが乗り移ったクッキーにしたように、唇に指を添わせて…
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ミキオ:「だ・ま・れ☆」
クキ:(若)「…はい…」
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ミキオ:(M)案外チョロかった…
ミキオ:これで、未来から来たクキちゃんの言う感じにはならないだろう…一安心だ。
ミキオ:さて…仕方なかったとは言え、クキちゃんに焦げっ焦げのクッキーを渡した事は不本意だ。
ミキオ:明日、ちゃんとしたクッキーを作って渡そう。
ミキオ:クキちゃん、喜んでくれるといいなぁ…
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ミキオ:(M)短気は損気、しっかりと分量を測ってクッキーを作る。
ミキオ:出来上がったクッキーは…しっとりとして美味しそうだった…
ミキオ:ん…んん!?
ミキオ:このクッキー…人の顔に見えるけど!?
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クキ:「あの…その…私…」
ミキオ:「もしかして…クキちゃん?」
クキ:「ミキオ君!? 何で判ったの!?」
ミキオ:「いや、前にもこんな事あったから…」
クキ:「ミキオ君、私困っているの。」
ミキオ:「随分と雰囲気が変わってるけど…どうしたの?」
クキ:「私ね…ミキオ君に『黙れ』って言われた日から、おしとやかになろうと思って努力したの。」
ミキオ:「ほうほう?」
クキ:「そしたらね…すっごいモテて、浮気しまくった結果…殺されちゃったの。」
ミキオ:「何でそうなったぁぁぁぁ!?」
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ミキオ:(M)本当、いい塩梅(あんばい)と言うやつは難しい。
ミキオ:だが、これは俺の責任でもある。
ミキオ:どうも何か未来におかしな事があって、クッキーを作ったら未来のクキちゃんが取り憑くみたいだ。
ミキオ:俺は、クキちゃんを色々誘導しつつ…毎日クッキーを作ってみようと思う。
ミキオ:未来のクキちゃんが取り憑かない、幸せな未来が来るバランスになるまで…
ミキオ:気長にクッキーを作る事にしてみよう。
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0:おしまい!