台本概要
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タイトル | ドリーマー(前編) |
---|---|
作者名 | なおと(ばあばら) (@babara19851985) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
自分なりに「ミステリー・ホラー」に挑戦です! 皆さんもぜひ「富山絹江」の正体を推理して、後編で答え合わせをしてみてね! バレバレですかね。。 192 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
北村国彦 | 男 | - | きたむらくにひこ。サラリーマン。会社からの帰宅途中、不思議な雰囲気を持つ女性に出会う。 |
富山絹江/鵺 | 女 | - | 富山絹江(とみやまきぬえ)…国彦の前に現れた謎の女性。鵺(ぬえ)役と兼ね役。 鵺(ぬえ)…自分のことを醜いと思っている女性。富山絹江役と兼ね役。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
鵺(M):私は醜い。
鵺(M):私は周りの人たちと、違う見た目をしている。
鵺(M):顔の造形が、違いすぎている。
鵺(M):これはもう、異形と言っていい。
鵺(M):だから私は迫害される。みんなの輪の中に、決して混じることはできない。
鵺(M):孤独だった。
鵺(M):毎日が、辛くて辛くて、仕方なかった。
鵺(M):誰も私と心を交わしてはくれなかった。
鵺(M):醜いことが、こんなにも私の人生に影響を与えているなんて…。
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0:(深夜0時頃。会社から歩いて帰路につく北村国彦)
国彦:「ふぅ、疲れた…」
国彦(M):今日もすっかり遅くなってしまった。ここ最近、深夜までの残業仕事が当たり前になりつつあるが、今日は特に長引いてしまった。
国彦(M):妻はまだ、起きて私の帰りを待ってくれているだろうか。
国彦(M):いけない。これからタクシーを拾って、家に帰りつくのはきっと一時を過ぎてしまうだろう。いくら残業という正当な理由があるからといって、それまで妻を待たせてしまうのは、あまりにも忍びない。
国彦:「仕方ない。一本、電話を入れておくか」
国彦(M):私は定期入れの中にテレホンカードがあることを確かめ、公衆電話がないか辺りを見渡した。
国彦(M):すると、黒く塗りつぶされた闇の中に、煌々と街灯に照らされた、古びた電話ボックスが、ふと浮かび上がった。まるで、演劇の舞台上にピンスポットが当たったかのように。
国彦(M):あまりにも都合よく私の思惑が成就されたので、幾分訝しくもあったが「まぁ、そんなこともあろうか」と薄く笑い、私は電話ボックスに向かい、歩を進めた。
国彦(M):歩を進めるごとに、じめじめとした嫌な熱気が肌にこびりつき、革靴のコツコツという音にも、その瘴気がまとわりついているようで、私はそれを振り払うように、速足で電話ボックスに近づいた。
国彦:「あ~、すみません。お電話が終わっているようでしたら、そちらから出てきて頂けませんかね?」
国彦(M):私はコンコンと電話ボックスの扉を軽く叩きながら、中にいるご婦人に声をかけた。
国彦(M):そう、電話ボックスには先客がいたのだ。
国彦(M):…いや、そうだったろうか?
国彦(M):果たして、今私の目の前で受話器をじっと見つめ、茫と佇んでいるこのご婦人は、はじめから電話ボックスの中にいたのだろうか。
国彦(M):…思い出せない。
国彦(M):私が電話ボックスに近づいた途端、その姿を現したようでもある。
国彦(M):まさか…そんなことあるはずないか。
絹江:「あら、すみません。私ったら、ぼぅっとしちゃって」
国彦(M):振り向いた女の顔を見て、私は、はっと息を呑んだ。
国彦(M):長い黒髪、高く整った鼻筋、厚くぽってりとした唇、白すぎて薄く血管の浮き出た肌、そして 黒目部分のやたら大きい漆黒の瞳。
国彦(M):あまりに妖麗だった。
国彦(M):いかがわしさすら漂う艶美な魅力に、一瞬たじろぎながらも、私は何とか愛想笑いを顔に貼りつかせた。
国彦:「いえ、こちらこそ。何か急かしてしまうようで申し訳ありません」
国彦(M):ご婦人は電話ボックスからのそりと這い出してきた。かなり背の高い女性だ。おそらく私と同程度の身長はあろうか。
国彦(M):私はご婦人と入れ違いに、電話ボックスに入り込もうとした。
国彦(M):しかし…。
絹江:「ねぇ」
国彦(M):ご婦人は電話ボックスに入ろうとする私の服の裾をつまみ、引き留めた。
絹江:「ねぇ…」
国彦(M):ご婦人の瞳は爛々と輝いていた。まるで、新しい玩具を買ってほしくて、父親におねだりをする少女のように。
絹江:「ねぇ…私、キレイ?」
国彦(M):これが私と、富山絹江との出会いだった。
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鵺(M):醜いことが、こんなにも私の人生に影響を与えているなんて。
鵺(M):はじめて自分の醜さを自覚したのは、小学校二年生の時だった。
鵺(M):「鵺ちゃんって、なんかほかの子と違うよね」
鵺(M):「だよね~。なんか、かおが変」
鵺(M):その日から私は、女子の間で無視をされるようになった。
鵺(M):女子たちは、私が無視されていることを先生に気取られないようにするのが上手だった。
鵺(M):先生のいる前では、女子たちは決して私を不等に扱ったりはしなかった。
鵺(M):しかし、お昼休みや放課後に、いくら私が話しかけても、誰も口をきいてはくれなかった。
鵺(M):私は学校からの帰り道、毎日泣くようになった。
鵺(M):学校に行くことが楽しくなくなった。
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0:(教室。授業中、窓際の席で退屈そうに外を眺める北村国彦)
国彦:「あ~あ。退屈だ。高校の授業って、どうしてこうも退屈なんだろうなぁ…。
国彦:(あくび)ふわぁ…眠くなってきた。数学の川原の奴、気持ちよさそうに喋ってるけど、生徒は誰も聞いてないっての。
国彦:少し寝るかぁ…。どうせちょっとくらい寝たって、期末は一夜漬けすればなんとかなるだろ…。
国彦:…ん?何だ、あれ?…女?」
国彦(M):窓の外。校門に、女が立っていた。長い黒髪、高く整った鼻筋、厚くぽってりとした唇、白すぎて薄く血管の浮き出た肌、そして 黒目部分のやたら大きい漆黒の瞳。
国彦(M):あれは…富山絹江だ。
国彦(M):富山絹江は、ゆっくりと、すたすたと、足早に、のそりのそりと、軽快に、鈍重に、僕の方に近づいてくる。教室の窓にぺったりと顔を貼りつかせるまで、女は接近してきた。僕は富山絹江から視線を外すことができないでいた。僕は何かに導かれるように窓を開け、話しかけていた。
国彦:「…お姉さん。そこで何してるんですか?」
絹江:「ねぇ…私、キレイ?」
国彦:「は?」
絹江:「私、キレイ?」
国彦:「…まぁ、キレイなんじゃないですか?」
絹江:「そう…。ありがとう」
国彦:「あなた、どこから来たんですか?」
絹江:「どこから?」
国彦:「うん」
絹江:「んー…。ここから、とても遠いところ、かな?」
国彦:「へぇ」
絹江:「でも…実際のところは、距離なんてないのかもしれないけどね」
国彦:「距離がない…って、どういうこと?」
絹江:「まぁ、いいじゃない。細かいことは」
国彦:「はぁ…。あとさ…これ、どういうことですか?」
絹江:「これって?」
国彦:「僕は今、授業中にも関わらず立ち上がって窓を開けて、校内に不法侵入してきたお姉さんとこうして話してるんですよ?」
絹江:「うんうん」
国彦:「何で誰もそのことを咎めないんですか?先生も普通に授業続けてるし、みんなも何事もないように退屈そうに授業を受けてるんだけど?」
絹江:「それはね、私がそういう風にしているからだよ?」
国彦:「へぇ、便利ですね」
絹江:「でしょ?」
国彦:「そんなことまでして、お姉さん。一体、何がしたいんですか?」
絹江:「う~ん。何がしたいんだろ…。とりあえず、中、入れてよ?」
国彦(M):そう言うと富山絹江は、窓からぬるりと体を教室に入れて来た。
国彦(M):こうして並び立つと、富山絹江はかなりの高身長で、僕は見上げるように話すことになる。
国彦:「じゃあ、せっかくだし学校の中、歩いてみる?」
絹江:「そうだね。そうしよっか」
国彦(M):僕と富山絹江の、校内デートが始まった。
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鵺(M):中学生になると、同性からのいじめは苛烈さを増していった。
鵺(M):私の上履きは週に一回は紛失した。
鵺(M):私の机には「ばけもの、死ね」とチョークで殴り書きがされていた。
鵺(M):私の給食にはみんなの吐き捨てたリプロミルドが混入されるようになった。
鵺(M):私の教科書には、醜悪な形相の人物がけたたましく笑い声をあげている落書きがされるようになった。――きっと私を模しているつもりなのだろう。
鵺(M):悲しかった。
鵺(M):毎日毎日悲しかった。
鵺(M):こんなに悲しいのに、先生も親も、誰も私を助けてくれないことが、余計に悲しかった。
鵺(M):だんだんと、私は部屋に閉じこもるようになり、学校へは行かなくなった。
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国彦:「お前…いつの間にうちの制服に着替えたんだよ…」
絹江:「え~?いいじゃないですか!教師と生徒が授業中に校内デートっ!何か背徳的じゃありませんか~?」
国彦(M):そう言うと、富山絹江は僕の腕に自身の華奢な腕を絡ませてきた。
国彦:「ば、馬鹿…!こんなとこ、生徒や他の先生に見られたら誤解を受けるだろうが…!」
絹江:「何言ってるんですか。さっきの教室での出来事、もう忘れたんですか?
絹江:北村先生以外の人に、私を認識することはできないんですよ♪」
国彦(M):そうだった…。
国彦(M):確かに教室では、僕以外の生徒には富山絹江が…。
国彦(M):あれ?何だろう、何か…。
国彦(M):何か違和感が…。
絹江:「ねぇ、北村先生」
国彦(M):言い知れぬ不安感が首をもたげかけたが、富山絹江の呼びかけにより、その思考は霧散していった。
絹江:「私って、キレイですか?」
国彦(M):僕はあらためて、富山絹江を観察する。
国彦(M):長い黒髪、高く整った鼻筋、厚くぽってりとした唇、白すぎて薄く血管の浮き出た肌、黒目部分のやたら大きい漆黒の瞳。
国彦:「…あぁ、キレイだよ」
絹江:「…嬉しい」
国彦(M):僕の言葉を聞いて、富山絹江はうっとりとしている。
国彦:「陶然としているところ悪いんだけど、そろそろ君の正体を明かしてくれないかな?」
絹江:「正体?そんなこと知ってどうするの?」
国彦:「いや、別に…たぶんどうもしないけど…気になるじゃないか」
絹江:「ふふふふ。北村先生は、私のことが気になりますか」
国彦:「その言い方は語弊があるけどな」
絹江:「私のこと教えてあげてもいいですけど、一つ心配なことがあります」
国彦:「ん?心配なこと?」
絹江:「はい。そうです。私の正体を知って…果たして先生は、耐えられるでしょうか?」
国彦:「耐えられる?どういうことだ?」
絹江:「恐怖に」
国彦(M):富山絹江は、真っ黒の瞳に僕だけを映して、滔々と言葉を紡ぐ。
絹江:「それは、先生が今まで体験したことのない恐怖です。
絹江:それは、先生が今まで触れたことのない狂気です。
絹江:それは、先生が今まで聞いたことのない呪いです。
絹江:それは、先生が今まで見たことがない異界です。
絹江:それは、先生が今まで感じたことがない『おぞけ』です。
絹江:それは、先生が今まで考えたこともない埒外の思想です。
絹江:それに先生は…耐えられる自身がありますか?」
国彦(M):富山絹江は、笑っていなかった。僕の額に脂汗がにじむ。
絹江:「…怖いでしょう?先生?」
国彦(M):富山絹江は、細くしなやかな指を、僕の顔に這わせる。
絹江:「…だから、いいんです。先生は、私の正体なんて、な~んにも知らなくていんです」
国彦(M):富山絹江は…指に力を込め、ぎりぎりと僕の顔を圧迫し始めた。
絹江:「先生は…ずっとそのまま、そこにいて下さい?」
国彦(M):しかし…僕は。
国彦(M):それでも、僕は。
国彦(M):究明せずにはおれなかった。
国彦(M):富山絹江の、正体を…。
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鵺(M):高校には進学しなかった。出席日数は当たり前に足りなかったし、私は決して頭の出来が良いわけでもなかった。
鵺(M):私は、さらに家の中で過ごす時間が増えていった。
鵺(M):はじめこそ、両親は外出するよう促していたが、一ヶ月もこの状態が続くころには、もう何も言わなくなった。
鵺(M):こんなに醜い娘を生んでしまったことに、後ろめたさを感じているのかもしれない。
鵺(M):…そう。私は醜い。
鵺(M):どうしようもなく醜い。誰が何と言おうと醜い。
鵺(M):レストアーキュレーターも、そのことに異論はないようだった。
鵺(M):私が醜いということは、相対的な価値基準からではなく、絶対的な厳然たる事実なのだから。
鵺(M):百人の人がいれば、百人が百人とも、私のことを醜いと断ずることは明らかだった。
鵺(M):それくらい、私は人と違う見た目をしていた。
鵺(M):あぁ…醜く生まれたくなかったな。
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鵺(M):いつからか私は…ひょっとしたらあり得たかもしれない「醜くない私」を、
鵺(M):夢想するようになった。
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国彦:「(荒い息遣い)はぁ…はぁ…。さぁ、追い詰めたぞ。 富山絹江」
国彦(M):僕は廃工場の一室で、富山絹江に詰め寄っていた。
絹江:「ふふ。刑事さんってば、そんな怖い顔をしないで?」
国彦:「黙れ!犯罪者と言葉を交わす気はない!」
絹江:「おかしな刑事さん。自分から話しかけておいて」
国彦:「お前…!自分が何をしたか、わかっているのか!」
絹江:「あら…、刑事さんはわかっているの?私が何をしたか」
国彦:「……!」
国彦(M):この女、富山絹江は事件の重要参考人だ。それは確かだ。
国彦(M):しかし…一体何の罪を犯したというのだ?
国彦(M):殺人。強盗。詐欺。誘拐。恐喝。
国彦(M):頭の中を様々な犯罪行為が駆け巡るが、そのどれもにこの女の犯した罪は、当てはまらないような気がする。
絹江:「ねぇ、刑事さん」
国彦(M):気が付くと、僕の眼前に富山絹江の顔があった。
絹江:「教えてあげましょうか…?私の正体…」
国彦(M):妖艶な瞳で、富山絹江は僕の体を射すくめる。
絹江:「……ふふ。………ふふふふふ。嘘、嘘。教えるわけないじゃないですか~」
国彦(M):富山絹江は、ふわりとした凄絶さで、微笑んだ。
絹江:「前にも言ったでしょ?私の正体を知った時の恐怖に、刑事さんが耐えられるわけないって」
国彦(M):前にも?僕は以前にも、彼女の正体に迫ったことがあったのか?わからない…わからない。
絹江:「刑事さんは、何にもわからなくていいんです。そうして、一生、私の傀儡でいて下さい」
国彦(M):わからない…わからない…わからない。
絹江:「あれ?ひょっとして、刑事さん」
国彦(M):本当に?本当に僕はわからないのか?
絹江:「自分が主体だとでも思ってました?」
国彦(M):いや、違う。
絹江:「自分で自分の人生を選んでいるとでも、思ってました?」
国彦(M):僕は…僕は。
絹江:「おめでたい人ですね」
国彦:「僕は…わからない…ふりをしていただけだ」
絹江:「…え?」
国彦:「目を…逸らしていただけ」
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国彦(M):瞬間、僕はすべてを理解した。理解してしまった。
国彦(M):そして恐怖した。
国彦(M):それは、今まで体験したことのない恐怖だった。
国彦(M):それは、今まで触れたことのない狂気だった。
国彦(M):それは、今まで聞いたことのない呪いだった。
国彦(M):それは、今まで見たことがない異界だった。
国彦(M):それは、今まで感じたことがない『おぞけ』だった。
国彦(M):それは、今まで考えたこともない埒外の思想だった。
国彦(M):それに僕は…耐えられなかった。
国彦(M):だから、
国彦(M):僕は、
国彦(M):富山絹江を、
国彦(M):殺害することにした。
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0:(ここから国彦が絹江の首を絞めて殺します。おおまかな流れは書きますが、特にこれに沿う必要はなく、国彦役の方は人を殺す時のことを想像して、自由に演じて下さい。絹江役の方は自分が絞殺される時のことを想像して、自由に演じて下さい。ただし、首を絞め始めてから、人ひとりの命が終わるまでは、それなりに時間がかかるはずなので、その点は考慮して演じて下さい。絹江役の方が死んだと思ったら、国彦役の方は最後のセリフを言って下さい)
国彦:「(恐怖に駆られ、絹江に馬乗りになり首を絞める)……!」
絹江:「(国彦に馬乗りにされ首を絞められる)ぐぅ…げ…はぁ…!」
国彦:「(荒い息遣い。力いっぱい首を絞める)はぁ…はぁ…!」
絹江:「(ぎりぎりと首を絞められる。苦しむ)……!!」
国彦:「(苦しむ絹江の姿を見て、一瞬たじろぐが、意を決して再び指に力を込める)!!」
絹江:「(気道が絞められ、喉からひゅーひゅーと変な音を出しながら、苦しそうに呻く)は…は…ひ…ひひ…」
国彦:「(さらに指に力を込める)…うぅ…ふぅう…!!」
絹江:「(ひゅーひゅーという音に力がなくなり、死が近いことを悟る)…へ…ひゅ…」
国彦:「(絹江が死にかけていることを察知し、さらに力を込める)…ぐぅ…うう!!」
絹江:「(全身が痙攣し始め、もう声は出ない)……!!」
国彦:「(力を緩めない)…んぬ…ぐぬ…!」
絹江:「(死ぬ)…………」
国彦:「(念のため、まだ力は緩めない)…はぁああ…ふぅうう…!!」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「(おそるおそる力を緩め始める)…はぇ…はぁ…へぁ…は…!」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「(人を殺したことを実感しながらの息遣い)…はぁ…はぁ…はぁ!」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「(掌にまだ首絞めの感触が残っている)はぁ…はぁ………」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「はぁ…はぁ…はぁ…。やっぱり……知らなきゃよかった」
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0:「ドリーマー(後編)」に続く。
鵺(M):私は醜い。
鵺(M):私は周りの人たちと、違う見た目をしている。
鵺(M):顔の造形が、違いすぎている。
鵺(M):これはもう、異形と言っていい。
鵺(M):だから私は迫害される。みんなの輪の中に、決して混じることはできない。
鵺(M):孤独だった。
鵺(M):毎日が、辛くて辛くて、仕方なかった。
鵺(M):誰も私と心を交わしてはくれなかった。
鵺(M):醜いことが、こんなにも私の人生に影響を与えているなんて…。
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0:(深夜0時頃。会社から歩いて帰路につく北村国彦)
国彦:「ふぅ、疲れた…」
国彦(M):今日もすっかり遅くなってしまった。ここ最近、深夜までの残業仕事が当たり前になりつつあるが、今日は特に長引いてしまった。
国彦(M):妻はまだ、起きて私の帰りを待ってくれているだろうか。
国彦(M):いけない。これからタクシーを拾って、家に帰りつくのはきっと一時を過ぎてしまうだろう。いくら残業という正当な理由があるからといって、それまで妻を待たせてしまうのは、あまりにも忍びない。
国彦:「仕方ない。一本、電話を入れておくか」
国彦(M):私は定期入れの中にテレホンカードがあることを確かめ、公衆電話がないか辺りを見渡した。
国彦(M):すると、黒く塗りつぶされた闇の中に、煌々と街灯に照らされた、古びた電話ボックスが、ふと浮かび上がった。まるで、演劇の舞台上にピンスポットが当たったかのように。
国彦(M):あまりにも都合よく私の思惑が成就されたので、幾分訝しくもあったが「まぁ、そんなこともあろうか」と薄く笑い、私は電話ボックスに向かい、歩を進めた。
国彦(M):歩を進めるごとに、じめじめとした嫌な熱気が肌にこびりつき、革靴のコツコツという音にも、その瘴気がまとわりついているようで、私はそれを振り払うように、速足で電話ボックスに近づいた。
国彦:「あ~、すみません。お電話が終わっているようでしたら、そちらから出てきて頂けませんかね?」
国彦(M):私はコンコンと電話ボックスの扉を軽く叩きながら、中にいるご婦人に声をかけた。
国彦(M):そう、電話ボックスには先客がいたのだ。
国彦(M):…いや、そうだったろうか?
国彦(M):果たして、今私の目の前で受話器をじっと見つめ、茫と佇んでいるこのご婦人は、はじめから電話ボックスの中にいたのだろうか。
国彦(M):…思い出せない。
国彦(M):私が電話ボックスに近づいた途端、その姿を現したようでもある。
国彦(M):まさか…そんなことあるはずないか。
絹江:「あら、すみません。私ったら、ぼぅっとしちゃって」
国彦(M):振り向いた女の顔を見て、私は、はっと息を呑んだ。
国彦(M):長い黒髪、高く整った鼻筋、厚くぽってりとした唇、白すぎて薄く血管の浮き出た肌、そして 黒目部分のやたら大きい漆黒の瞳。
国彦(M):あまりに妖麗だった。
国彦(M):いかがわしさすら漂う艶美な魅力に、一瞬たじろぎながらも、私は何とか愛想笑いを顔に貼りつかせた。
国彦:「いえ、こちらこそ。何か急かしてしまうようで申し訳ありません」
国彦(M):ご婦人は電話ボックスからのそりと這い出してきた。かなり背の高い女性だ。おそらく私と同程度の身長はあろうか。
国彦(M):私はご婦人と入れ違いに、電話ボックスに入り込もうとした。
国彦(M):しかし…。
絹江:「ねぇ」
国彦(M):ご婦人は電話ボックスに入ろうとする私の服の裾をつまみ、引き留めた。
絹江:「ねぇ…」
国彦(M):ご婦人の瞳は爛々と輝いていた。まるで、新しい玩具を買ってほしくて、父親におねだりをする少女のように。
絹江:「ねぇ…私、キレイ?」
国彦(M):これが私と、富山絹江との出会いだった。
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鵺(M):醜いことが、こんなにも私の人生に影響を与えているなんて。
鵺(M):はじめて自分の醜さを自覚したのは、小学校二年生の時だった。
鵺(M):「鵺ちゃんって、なんかほかの子と違うよね」
鵺(M):「だよね~。なんか、かおが変」
鵺(M):その日から私は、女子の間で無視をされるようになった。
鵺(M):女子たちは、私が無視されていることを先生に気取られないようにするのが上手だった。
鵺(M):先生のいる前では、女子たちは決して私を不等に扱ったりはしなかった。
鵺(M):しかし、お昼休みや放課後に、いくら私が話しかけても、誰も口をきいてはくれなかった。
鵺(M):私は学校からの帰り道、毎日泣くようになった。
鵺(M):学校に行くことが楽しくなくなった。
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0:(教室。授業中、窓際の席で退屈そうに外を眺める北村国彦)
国彦:「あ~あ。退屈だ。高校の授業って、どうしてこうも退屈なんだろうなぁ…。
国彦:(あくび)ふわぁ…眠くなってきた。数学の川原の奴、気持ちよさそうに喋ってるけど、生徒は誰も聞いてないっての。
国彦:少し寝るかぁ…。どうせちょっとくらい寝たって、期末は一夜漬けすればなんとかなるだろ…。
国彦:…ん?何だ、あれ?…女?」
国彦(M):窓の外。校門に、女が立っていた。長い黒髪、高く整った鼻筋、厚くぽってりとした唇、白すぎて薄く血管の浮き出た肌、そして 黒目部分のやたら大きい漆黒の瞳。
国彦(M):あれは…富山絹江だ。
国彦(M):富山絹江は、ゆっくりと、すたすたと、足早に、のそりのそりと、軽快に、鈍重に、僕の方に近づいてくる。教室の窓にぺったりと顔を貼りつかせるまで、女は接近してきた。僕は富山絹江から視線を外すことができないでいた。僕は何かに導かれるように窓を開け、話しかけていた。
国彦:「…お姉さん。そこで何してるんですか?」
絹江:「ねぇ…私、キレイ?」
国彦:「は?」
絹江:「私、キレイ?」
国彦:「…まぁ、キレイなんじゃないですか?」
絹江:「そう…。ありがとう」
国彦:「あなた、どこから来たんですか?」
絹江:「どこから?」
国彦:「うん」
絹江:「んー…。ここから、とても遠いところ、かな?」
国彦:「へぇ」
絹江:「でも…実際のところは、距離なんてないのかもしれないけどね」
国彦:「距離がない…って、どういうこと?」
絹江:「まぁ、いいじゃない。細かいことは」
国彦:「はぁ…。あとさ…これ、どういうことですか?」
絹江:「これって?」
国彦:「僕は今、授業中にも関わらず立ち上がって窓を開けて、校内に不法侵入してきたお姉さんとこうして話してるんですよ?」
絹江:「うんうん」
国彦:「何で誰もそのことを咎めないんですか?先生も普通に授業続けてるし、みんなも何事もないように退屈そうに授業を受けてるんだけど?」
絹江:「それはね、私がそういう風にしているからだよ?」
国彦:「へぇ、便利ですね」
絹江:「でしょ?」
国彦:「そんなことまでして、お姉さん。一体、何がしたいんですか?」
絹江:「う~ん。何がしたいんだろ…。とりあえず、中、入れてよ?」
国彦(M):そう言うと富山絹江は、窓からぬるりと体を教室に入れて来た。
国彦(M):こうして並び立つと、富山絹江はかなりの高身長で、僕は見上げるように話すことになる。
国彦:「じゃあ、せっかくだし学校の中、歩いてみる?」
絹江:「そうだね。そうしよっか」
国彦(M):僕と富山絹江の、校内デートが始まった。
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鵺(M):中学生になると、同性からのいじめは苛烈さを増していった。
鵺(M):私の上履きは週に一回は紛失した。
鵺(M):私の机には「ばけもの、死ね」とチョークで殴り書きがされていた。
鵺(M):私の給食にはみんなの吐き捨てたリプロミルドが混入されるようになった。
鵺(M):私の教科書には、醜悪な形相の人物がけたたましく笑い声をあげている落書きがされるようになった。――きっと私を模しているつもりなのだろう。
鵺(M):悲しかった。
鵺(M):毎日毎日悲しかった。
鵺(M):こんなに悲しいのに、先生も親も、誰も私を助けてくれないことが、余計に悲しかった。
鵺(M):だんだんと、私は部屋に閉じこもるようになり、学校へは行かなくなった。
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国彦:「お前…いつの間にうちの制服に着替えたんだよ…」
絹江:「え~?いいじゃないですか!教師と生徒が授業中に校内デートっ!何か背徳的じゃありませんか~?」
国彦(M):そう言うと、富山絹江は僕の腕に自身の華奢な腕を絡ませてきた。
国彦:「ば、馬鹿…!こんなとこ、生徒や他の先生に見られたら誤解を受けるだろうが…!」
絹江:「何言ってるんですか。さっきの教室での出来事、もう忘れたんですか?
絹江:北村先生以外の人に、私を認識することはできないんですよ♪」
国彦(M):そうだった…。
国彦(M):確かに教室では、僕以外の生徒には富山絹江が…。
国彦(M):あれ?何だろう、何か…。
国彦(M):何か違和感が…。
絹江:「ねぇ、北村先生」
国彦(M):言い知れぬ不安感が首をもたげかけたが、富山絹江の呼びかけにより、その思考は霧散していった。
絹江:「私って、キレイですか?」
国彦(M):僕はあらためて、富山絹江を観察する。
国彦(M):長い黒髪、高く整った鼻筋、厚くぽってりとした唇、白すぎて薄く血管の浮き出た肌、黒目部分のやたら大きい漆黒の瞳。
国彦:「…あぁ、キレイだよ」
絹江:「…嬉しい」
国彦(M):僕の言葉を聞いて、富山絹江はうっとりとしている。
国彦:「陶然としているところ悪いんだけど、そろそろ君の正体を明かしてくれないかな?」
絹江:「正体?そんなこと知ってどうするの?」
国彦:「いや、別に…たぶんどうもしないけど…気になるじゃないか」
絹江:「ふふふふ。北村先生は、私のことが気になりますか」
国彦:「その言い方は語弊があるけどな」
絹江:「私のこと教えてあげてもいいですけど、一つ心配なことがあります」
国彦:「ん?心配なこと?」
絹江:「はい。そうです。私の正体を知って…果たして先生は、耐えられるでしょうか?」
国彦:「耐えられる?どういうことだ?」
絹江:「恐怖に」
国彦(M):富山絹江は、真っ黒の瞳に僕だけを映して、滔々と言葉を紡ぐ。
絹江:「それは、先生が今まで体験したことのない恐怖です。
絹江:それは、先生が今まで触れたことのない狂気です。
絹江:それは、先生が今まで聞いたことのない呪いです。
絹江:それは、先生が今まで見たことがない異界です。
絹江:それは、先生が今まで感じたことがない『おぞけ』です。
絹江:それは、先生が今まで考えたこともない埒外の思想です。
絹江:それに先生は…耐えられる自身がありますか?」
国彦(M):富山絹江は、笑っていなかった。僕の額に脂汗がにじむ。
絹江:「…怖いでしょう?先生?」
国彦(M):富山絹江は、細くしなやかな指を、僕の顔に這わせる。
絹江:「…だから、いいんです。先生は、私の正体なんて、な~んにも知らなくていんです」
国彦(M):富山絹江は…指に力を込め、ぎりぎりと僕の顔を圧迫し始めた。
絹江:「先生は…ずっとそのまま、そこにいて下さい?」
国彦(M):しかし…僕は。
国彦(M):それでも、僕は。
国彦(M):究明せずにはおれなかった。
国彦(M):富山絹江の、正体を…。
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鵺(M):高校には進学しなかった。出席日数は当たり前に足りなかったし、私は決して頭の出来が良いわけでもなかった。
鵺(M):私は、さらに家の中で過ごす時間が増えていった。
鵺(M):はじめこそ、両親は外出するよう促していたが、一ヶ月もこの状態が続くころには、もう何も言わなくなった。
鵺(M):こんなに醜い娘を生んでしまったことに、後ろめたさを感じているのかもしれない。
鵺(M):…そう。私は醜い。
鵺(M):どうしようもなく醜い。誰が何と言おうと醜い。
鵺(M):レストアーキュレーターも、そのことに異論はないようだった。
鵺(M):私が醜いということは、相対的な価値基準からではなく、絶対的な厳然たる事実なのだから。
鵺(M):百人の人がいれば、百人が百人とも、私のことを醜いと断ずることは明らかだった。
鵺(M):それくらい、私は人と違う見た目をしていた。
鵺(M):あぁ…醜く生まれたくなかったな。
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鵺(M):いつからか私は…ひょっとしたらあり得たかもしれない「醜くない私」を、
鵺(M):夢想するようになった。
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国彦:「(荒い息遣い)はぁ…はぁ…。さぁ、追い詰めたぞ。 富山絹江」
国彦(M):僕は廃工場の一室で、富山絹江に詰め寄っていた。
絹江:「ふふ。刑事さんってば、そんな怖い顔をしないで?」
国彦:「黙れ!犯罪者と言葉を交わす気はない!」
絹江:「おかしな刑事さん。自分から話しかけておいて」
国彦:「お前…!自分が何をしたか、わかっているのか!」
絹江:「あら…、刑事さんはわかっているの?私が何をしたか」
国彦:「……!」
国彦(M):この女、富山絹江は事件の重要参考人だ。それは確かだ。
国彦(M):しかし…一体何の罪を犯したというのだ?
国彦(M):殺人。強盗。詐欺。誘拐。恐喝。
国彦(M):頭の中を様々な犯罪行為が駆け巡るが、そのどれもにこの女の犯した罪は、当てはまらないような気がする。
絹江:「ねぇ、刑事さん」
国彦(M):気が付くと、僕の眼前に富山絹江の顔があった。
絹江:「教えてあげましょうか…?私の正体…」
国彦(M):妖艶な瞳で、富山絹江は僕の体を射すくめる。
絹江:「……ふふ。………ふふふふふ。嘘、嘘。教えるわけないじゃないですか~」
国彦(M):富山絹江は、ふわりとした凄絶さで、微笑んだ。
絹江:「前にも言ったでしょ?私の正体を知った時の恐怖に、刑事さんが耐えられるわけないって」
国彦(M):前にも?僕は以前にも、彼女の正体に迫ったことがあったのか?わからない…わからない。
絹江:「刑事さんは、何にもわからなくていいんです。そうして、一生、私の傀儡でいて下さい」
国彦(M):わからない…わからない…わからない。
絹江:「あれ?ひょっとして、刑事さん」
国彦(M):本当に?本当に僕はわからないのか?
絹江:「自分が主体だとでも思ってました?」
国彦(M):いや、違う。
絹江:「自分で自分の人生を選んでいるとでも、思ってました?」
国彦(M):僕は…僕は。
絹江:「おめでたい人ですね」
国彦:「僕は…わからない…ふりをしていただけだ」
絹江:「…え?」
国彦:「目を…逸らしていただけ」
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国彦(M):瞬間、僕はすべてを理解した。理解してしまった。
国彦(M):そして恐怖した。
国彦(M):それは、今まで体験したことのない恐怖だった。
国彦(M):それは、今まで触れたことのない狂気だった。
国彦(M):それは、今まで聞いたことのない呪いだった。
国彦(M):それは、今まで見たことがない異界だった。
国彦(M):それは、今まで感じたことがない『おぞけ』だった。
国彦(M):それは、今まで考えたこともない埒外の思想だった。
国彦(M):それに僕は…耐えられなかった。
国彦(M):だから、
国彦(M):僕は、
国彦(M):富山絹江を、
国彦(M):殺害することにした。
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0:(ここから国彦が絹江の首を絞めて殺します。おおまかな流れは書きますが、特にこれに沿う必要はなく、国彦役の方は人を殺す時のことを想像して、自由に演じて下さい。絹江役の方は自分が絞殺される時のことを想像して、自由に演じて下さい。ただし、首を絞め始めてから、人ひとりの命が終わるまでは、それなりに時間がかかるはずなので、その点は考慮して演じて下さい。絹江役の方が死んだと思ったら、国彦役の方は最後のセリフを言って下さい)
国彦:「(恐怖に駆られ、絹江に馬乗りになり首を絞める)……!」
絹江:「(国彦に馬乗りにされ首を絞められる)ぐぅ…げ…はぁ…!」
国彦:「(荒い息遣い。力いっぱい首を絞める)はぁ…はぁ…!」
絹江:「(ぎりぎりと首を絞められる。苦しむ)……!!」
国彦:「(苦しむ絹江の姿を見て、一瞬たじろぐが、意を決して再び指に力を込める)!!」
絹江:「(気道が絞められ、喉からひゅーひゅーと変な音を出しながら、苦しそうに呻く)は…は…ひ…ひひ…」
国彦:「(さらに指に力を込める)…うぅ…ふぅう…!!」
絹江:「(ひゅーひゅーという音に力がなくなり、死が近いことを悟る)…へ…ひゅ…」
国彦:「(絹江が死にかけていることを察知し、さらに力を込める)…ぐぅ…うう!!」
絹江:「(全身が痙攣し始め、もう声は出ない)……!!」
国彦:「(力を緩めない)…んぬ…ぐぬ…!」
絹江:「(死ぬ)…………」
国彦:「(念のため、まだ力は緩めない)…はぁああ…ふぅうう…!!」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「(おそるおそる力を緩め始める)…はぇ…はぁ…へぁ…は…!」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「(人を殺したことを実感しながらの息遣い)…はぁ…はぁ…はぁ!」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「(掌にまだ首絞めの感触が残っている)はぁ…はぁ………」
絹江:「(死んでいる)…………」
国彦:「はぁ…はぁ…はぁ…。やっぱり……知らなきゃよかった」
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0:「ドリーマー(後編)」に続く。