台本概要

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タイトル 溶けては広がる雫のように
作者名 ふらん☆くりん  (@Frank_lin01)
ジャンル ホラー
演者人数 3人用台本(男2、女1) ※兼役あり
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 【あらすじ】
私の中であの子は溶けて広がり染めていく・・・

【著作権について】
本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。
また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。

【禁止事項】
●商業目的での利用
●台本の無断使用、無断転載、自作発言等
●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等

【ご利用に際してのお願い】
●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。
●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。
●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
あきら 90 進藤 あきら(しんどう あきら)。由香の彼氏。会社員。
由香 127 前原 由香(まえはら ゆか)。あきらの彼女。あきらとは別の会社で働いている。
バーテン 71 BAR『癒しの楽園』のマスター
アクア 6 謎の少女(由香と兼役)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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タイトル:「溶けては広がる雫のように」 : 登場人物: あきら:*進藤 あきら《しんどう あきら》・・・由香の彼氏。会社員 由香:*前原 由香《まえはら ゆか》・・・あきらの彼女。あきらとは別の会社で働いている。 バーテン:BAR『癒しの楽園』のマスター アクア:謎の少女(由香と兼役) : :(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声になります。 : 本編: 由香:あきら!久しぶり!今日は誘ってくれてありがとね! あきら:俺の方こそありがとな。お互い仕事が忙しくて、ここんとこなかなか会えなかったからさ。俺も今日由香とデートできて嬉しいよ。 由香:えへへ、今日はいっぱい飲んじゃおっと! あきら:おいおい、あんま羽目外すなよ。 由香:うふふ、めっちゃ楽しみ~!今日はどこに連れてってくれるの? あきら:最近ネットで見つけたオシャレなBARなんだ。えーっと確かこの角を曲がると…お!あった!『癒しの楽園』って看板がかかってる! 由香:へぇ、『癒しの楽園』かぁ…なんだか素敵な名前ね! あきら:だろ?由香のために予約入れといたんだ。 由香:ありがとう!さすがあきら!できる男は違うね! あきら:褒めても何も出んぞ。さあ、入ろっか。 由香:うん!おじゃましまーす。 バーテン:いらっしゃいませ。 あきら:あ、予約していた進藤ですけど。 バーテン:進藤様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。 由香:わぁ!とっても素敵なお店ね! バーテン:ありがとうございます。こちらメニューでございます。ご注文が決まりましたらお声がけください。 あきら:ありがとう。由香、何飲む? 由香:えーっとね、どれにしようかな。たくさんあり過ぎて迷っちゃうな。 あきら:ゆっくりでいいよ。 由香:じゃあ私はソルティ・ドッグにしようかな。 あきら:分かった。すみませーん。 バーテン:ご注文はお決まりでしょうか? あきら:えっと、ソルティ・ドッグとモスコミュールで。 バーテン:かしこまりました。 由香:あきらとこんな素敵なBARでデートなんて、私幸せ者だよ。 あきら:俺も由香が喜ぶ顔が見られて嬉しいよ。 由香:私たち付き合ってもう丸2年だね。 あきら:そうだな。なんだかんだで今までずっと仲良くやってこれたのは由香のおかげだよ。 由香:それは私のセリフだよ。いつもいーっぱい愛してくれてありがとね!あきら、これからもずっと一緒だよ! あきら:ああ、ずっと一緒にいような。 バーテン:お待たせいたしました。ご注文のソルティ・ドッグとモスコミュールでございます。それと、こちらは当店おすすめカクテル『アクアの*雫《しずく》』でございます。 あきら:え?頼んでませんけど。 バーテン:こちら、女性のお客様限定のサービスでございます。良かったらどうぞ。 由香:わぁ!透明ですごく綺麗…なんだかとっても得した気分だよ♪ あきら:良かったな、由香。 由香:うん!じゃあ、二人の久しぶりの再会を祝して。 あきら:かんぱーい!〈同時に〉 由香:かんぱーい!〈同時に〉 : 由香:(ゴク)…はぁー、やっぱりあきらと飲むお酒は美味しいわ。 あきら:そうだな。今日はゆっくり話そうな。 由香:うん!あ…せっかくいただいたからこっちのカクテルも飲んじゃおっかなー。(ゴク)…美味しい!ほんのり甘くて体中に染み渡っていく感じが素敵…。 あきら:そうか、それは良かった。由香の幸せそうな顔見てるとこっちも嬉しくなってくるよ。 由香:えへへ。あきらに言われると照れちゃうな。 あきら:なぁ、由香。今日は由香に話があるんだ。 由香:ん?なになに、どうしたの?そんなに改まっちゃって。 あきら:俺たちそろそろ一緒にならないか? 由香:え…それって…。 あきら:ずっと考えてたんだ。俺、仕事でもそれなりに成果出してきたし、由香のこと本気で大事にしたいって思ってるから。 由香:あきら…。 あきら:だから、結婚しよう! 由香:うん!うん!結婚しよう!うう…私…今とっても幸せ。 あきら:良かった!俺も、めちゃめちゃ嬉しいよ! 由香:あきら…私のこと幸せにしてね。 あきら:もちろんだよ!じゃあ改めて乾杯しよっか。 由香:うん!じゃあ…私はさっきのカクテル美味しかったからあれ飲みたい。 あきら:分かった。すみませーん。 バーテン:はい。何をお持ちいたしましょうか? 由香:このカクテルすごく美味しかったから同じものをお願いします。 バーテン:『アクアの雫』ですね、かしこまりました。そちらのお客様は何にいたしましょう? あきら:じゃあ俺もそれ飲んでみたいな。 バーテン:承知いたしました。 由香:私のを見てあきらも飲みたくなったんでしょ? あきら:うん。由香が美味しそうに飲んでたからな。 由香:とっても美味しいよ! あきら:それは楽しみだ。 バーテン:お待たせいたしました。『アクアの雫』でございます。 由香:わぁ!来た来た! あきら:それじゃあ、改めて俺たちの婚約成立を祝して。 あきら:かんぱーい!〈同時に〉 由香:かんぱーい!〈同時に〉 あきら:(ゴク)……(うわ...マズっ!なんだこのひどい味は。由香はこんなのがうまいのか?) 由香:(ゴク)…はぁぁ!これこれ、この染み渡っていく感じが最高なのよ。どう?あきら、美味しいでしょ? あきら:あ、ああ、美味しいよ。 由香:でしょ?あー…幸せ♪ あきら:(まあ、由香が喜んでくれるならいいか)あ、バーテンさん、俺ジン・トニックをお願いします。 由香:え…もしかして口に合わなかった? あきら:あ…そうじゃないけどさ、俺はオシャレなカクテルよりも、こっちの方が好きかなって。 由香:そっか。じゃあそれもらってもいい? あきら:ああ。 由香:わぁーい!ありがと! あきら:よほど気に入ったんだね。 由香:えへへ。 バーテン:お待たせいたしました。ジン・トニックでございます。 あきら:ありがとう。(ゴクゴク)…ぷはー!やっぱり俺はこの味が好きだな。 由香:うふふ。楽しいね!あきら。 あきら:ああ、すごく楽しいよ。 : :【 2時間後 】 あきら:由香、そろそろ出ようか。 由香:うん、そだね。今日はとっても楽しかった! あきら:俺もだよ。これからよろしくな。 由香:こちらこそだよぉ!二人で幸せになろうね。 あきら:ああ!すみません、お会計をお願いします。 バーテン:かしこまりました。お客様、こちらでお願いします。 由香:私出すよ。 あきら:いいって。今日は俺に奢らせて。 由香:ありがと。じゃあお言葉に甘えて。 あきら:はい。じゃあこれで。 バーテン:まいどありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。 あきら:ご馳走様でした。 由香:バーテンさん!また来ますね。 バーテン:お気をつけて。 : あきら:今日は本当に楽しかった。 由香:うん、私も。それと…とっても嬉しかった。 あきら:俺もだ。由香、プロポーズ受けてくれて本当にありがとな。 由香:えへへ!こちらこそ。じゃあ私はこの辺で。送ってくれてありがとね。 あきら:うん。気をつけてな。 由香:また連絡するね! あきら:ああ、おやすみ。 由香:おやすみ。 : あきら:(M)次の日、俺は急遽新しいプロジェクトのリーダーに抜擢された。俺は会社に認めてもらえた嬉しさと、しばらく由香に会えなくなる寂しさから彼女に電話をかけた。 : あきら:(プルルルル) 由香:(ガチャ)はい。 あきら:あ、由香?起きてる? 由香:あきら、起きてるよ。どうしたの?電話なんてかけてきて。 あきら:実はさ、今日会社で新しいプロジェクトの推進メンバーが発表されて、そこのリーダーを任されたんだ。 由香:え!すごいじゃない! あきら:あはは。まだ実感ないけどな。それで、しばらくの間会社に泊まり込みで仕事することになって、プロジェクトが終わるまでは会えなくなりそうなんだ。 由香:え…そうなの…? あきら:ごめんな…。由香に寂しい想いさせることになって。 由香:…ううん!あきら頑張ってるもん!私、あきらが認められて嬉しいよ! あきら:ありがとう。そう言ってもらえると俺も嬉しいな。時間ができたら必ず連絡するから。 由香:うん。待ってる。体に気をつけて頑張ってね。 あきら:由香もな。おやすみ。 由香:おやすみ…。はぁ…しばらくは一人ぼっちかぁ…。 : :【 BAR『癒しの楽園』 】 バーテン:いらっしゃいませ。 由香:また来ちゃいました。 バーテン:おや、今日はおひとりなのですか? 由香:はい。彼は仕事なので、私一人で来ました。 バーテン:そうですか。ではこちらの席にどうぞ。 由香:今日はカウンターがいいわ。 バーテン:そうですか。ではこちらへ。 由香:ありがとうございます。 バーテン:何になさいますか? 由香:『アクアの雫』で。 バーテン:かしこまりました。 由香:やっぱりこのお店は落ち着くわ。 バーテン:どうぞ、『アクアの雫』でございます。 由香:ありがとう…あら?気のせいかしら?前に飲んだ時は透き通るような透明じゃなかったかしら。今日は少しピンクがかっているように見えるけど。 バーテン:お気づきになられましたか。実はこの『アクアの雫』はお客様の心に寄り添い、共に変化していくお酒なのです。 由香:心に寄り添い、共に変化する…? バーテン:左様でございます。以前ご来店された時、あなたは初めて『アクアの雫』と出会いました。だからお互いまっさらな状態だったのです。 由香:確かに、あの時私は初めてこのお酒を飲んだわ。そしてほのかな甘みとともにすごく体に染み渡る感じが気に入ったの。 バーテン:そうでしたね。そしてあなたはまたいらしてくださった。 由香:ええ、あの時の美味しさが忘れられなかったから。 バーテン:そんなに気に入っていただけて、このお酒も喜んでおります。 由香:まあ、バーテンさんったら冗談がお上手ですのね。 バーテン:いえいえ、私は真実をお伝えしているだけですよ。 由香:じゃあ…いただきます。(ゴクっ)…はぁぁ…前に飲んだ時よりも香りも甘みも強くなってる!じんわり体に溶け込んでいくわ…。 バーテン:それは何よりでございます。どうぞゆっくり堪能していってくださいませ。 由香:(ゴクっ)あぁぁ…すごく美味しくて、すごく幸せ…。バーテンさん、もう一杯ください。 バーテン:かしこまりました。 由香:…体がふわふわして、優しく包まれているみたい…。 バーテン:さぁ、どうぞ。 由香:ありがとう。(ゴクっ)…はぁ。この感じクセになりそう…。 バーテン:あなたが喜べば喜ぶほど、この子はどんどん変化していきますよ。 由香:この子…うふふ、まるで子供みたいね。でもその表現、可愛くて好きよ。 : :【 3時間後 】 バーテン:お客様、そろそろ閉店のお時間でございます。 由香:んん…もうそんな時間?私いつの間に寝てたのかしら。もう少しこの子を味わっていたかったのに残念だわ。 バーテン:またいつでもいらしてくださいませ。 由香:ええ、また来るわ。これ、今日のお代ね。 バーテン:ありがとうございました。お気を付けてお帰りくださいませ。 由香:それじゃあまたね…。 : :【 1週間後 】 あきら:あー、仕事が全然終わらない。この調子じゃ今日も徹夜だな。はぁ…今頃由香どうしてるかな。会いたいなぁ…いやいや、今は仕事に集中しないと。俺は由香を幸せにするって決めたんだろ!だったら今回のプロジェクトを必ず成功させて胸を張って由香に会いに行くんだ! : :【 BAR『癒しの館』 】 由香:こんばんは。 バーテン:いらっしゃいませ。今夜もいらしてくれたのですね。 由香:ええ…今日も一人で来たの。 バーテン:いいのですよ。さ、中へどうぞ。 由香:ありがとう…。 バーテン:最近元気がありませんがどうかなさいましたか? 由香:はぁ…。 バーテン:申し訳ありません。差し出がましいことを聞いてしまいました。 由香:ううん…いいの、気にしないでください。私ね、ここのところずっと悩んでるの。本当にこのまま結婚しちゃっていいのかなぁって。 バーテン:このまま…と仰いますと? 由香:彼にプロポーズされたこと自体は純粋に嬉しかったわ。ただ、結婚したら家庭に入って、毎日彼の帰りを家で待つだけの生活になるのかなって。なんかね、本当の幸せって何だろうって思っちゃったんです。 バーテン:左様でございますか。私は由香さんにはいつも笑顔でいて欲しいと思っているのですよ。この子のためにも。 由香:ありがとうバーテンさん。でも、ごめんなさい…今日は笑顔になれそうもないの。 バーテン:いいんですよ、無理して笑顔でいようとしなくても。では、そんな由香さんのために今日はこちらのお酒をご用意いたしました。 由香:何これ…とっても綺麗な青色だわ。これは何のお酒なの? バーテン:こちらは『サファイアの*吐息《といき》』でございます。 由香:『サファイアの*吐息《といき》』? バーテン:ええ、飲むと気分が晴れやかになりますよ。さぁどうぞ。 由香:いただきます…(ゴク)はぁ…スッキリとしてとっても美味しい!あぁ…心がどんどん澄み渡っていくわ。まるで深い霧が一気に晴れていくみたい! バーテン:いかがですか? 由香:最っ高!私、一体何を悩んでいたのかしら。あははは!心の中の嫌なことが消えて、どんどん楽しい気持ちに置き変わっていくわ!なんて爽快なのかしら! バーテン:やはり由香さんは笑顔がよくお似合いです。ではいつものこちらをどうぞ。 由香:うふふ…会いたかったわ。まぁ素敵!今日はエメラルド色なのね! バーテン:由香さんの心の悩みが消えてこの子も大層喜んでおります。さぁ、どうぞ。 由香:ありがとうバーテンさん!(ゴク)はぁぁ…キレイな緑色の風が心にサーっと吹き抜けて…気分がどんどん高揚していくわ!…ぷっ!あはははは!!あきら、今日も仕事で会社に缶詰なんだって!うふふふふ、おっかしい!笑いが止まらないの!ほんと良い気味だわ!アイツが仕事で必死になっている間に私はこの子と一緒になっていくの!あははは!なんて幸せなの!最高の気分だわ! バーテン:由香さん、あなたはもっと幸せになるべきお人です。 由香:ええ!その通りよ!私はもっと幸せになるの!この子と一緒に!あはははは! : :【 2週間後 】 あきら:(プルルルル…)ダメだ、全然出ない。最近忙しすぎて由香に電話もできなかった。もしかして怒ってるのかな? 由香:(ガチャ)はい。 あきら:由香!良かった、繋がって。 由香:あきら、どうしたの? あきら:ごめんな由香。連絡するって言ったのに、仕事忙しくて全然できなくて…。 由香:ううん、いいの。気にしないで。私も仕事忙しかったから。 あきら:そうなんだ。それでさ、ようやく仕事が一段落ついたから、もし良かったら今度の日曜日にこないだ行ったBARにまた行かないか? 由香:あー…あそこのBARね。やめとくわ。 あきら:どうして?あんなに素敵なお店だって褒めてたのに。 由香:実はね、あそこのお酒が体に合わなかったみたいで、あの後しばらくの間体調を崩してたの。 あきら:そうだったのか…。ごめんな、変なお店に連れてって。 由香:謝らないで。あきらのせいじゃないから。 あきら:ありがとう。じゃあ別の店に行こうか? 由香:あきら。実はね…私その日は大事な友達との約束があってどうしても行けないの。だからごめん。また今度ね。 あきら:そっか…。わかった、また誘うよ。とにかく由香が元気そうで安心したよ。 由香:私も。久しぶりにあきらの声が聞けて嬉しかったわ。 あきら:このプロジェクトが落ち着いたらゆっくり今後のことについて話そうな。 由香:分かったわ。楽しみにしてるね。 あきら:うん。じゃあね。 由香:またね。 : :【 BAR『癒しの楽園』 】 バーテン:いらっしゃいませ。 由香:今日も来ちゃいました! バーテン:ありがとうございます。今日もおひとりですか? 由香:ええ、もちろんよ。今日も待ちきれなくて仕事も手に付かなかったわ。早くあの子に会わせて。 バーテン:かしこまりました。さぁこちらへ 由香:うふふ…。 バーテン:何になさいますか? 由香:もう!バーテンさんの意地悪!*焦《じ》らさないで! バーテン:これは失礼いたしました。さぁどうぞ『アクアの雫』でございます。 由香:あは♡お待たせ。今日も会えたね!まあ!まるで血のようなとっても綺麗な赤色ね!うふふ…可愛いわよ。 バーテン:あの、由香さん。ひとつよろしいですか? 由香:何かしら? バーテン:今でもパートナーの方に会いたいですか? 由香:パートナー?あー、あきらのこと?あんなのどうでもいいわ。 バーテン:ふふふ…左様ですか。 由香:私はキミがいれば幸せだから…。(ゴクっ)…はぁぁぁぁ!!!何コレ!美味しすぎて身体がビリビリ痺れるわぁ♡ バーテン:本日も喜んでいただき誠にありがとうございます。 由香:あはぁ…♡ 頭がふわふわ…気持ち良いのぉ…。 バーテン:由香さんが初めてここにお見えになってからそろそろ1ヶ月になります。 由香:…そうねぇ…いっかげつ…うふふ♡ バーテン:そしてここへ来る度にあなたはこの子の魅力に取り憑かれていきましたね。 由香:(ゴクっ)…はぁぁ♡……魅力…ステキなのぉ…♡ バーテン:それと共に、この子はあなたの心に寄り添いどんどん変化を遂げていきました。 由香:…んふぅ♡…へんかぁ? バーテン:そう、あなたがこの子を飲む度にあなたの心により深く溶け込んでいき、あなたを少しづつ内側から染め上げていったのです。 由香:染まる……この子に……さいこー♡ バーテン:そしてついに時は満ちました!さぁ、由香さん、最後の一口を飲み干して、この子と完全に一つになるのです! 由香:この子と…ひとつに…(ゴクっ)…はぁぁぁぁ!!すごいわ!私の全てが…この子と…完全に溶け合っていくのぉぉ!!!!ああああああああぁぁぁ!!! : バーテン:ふふふふ…これであなたは身も心も完全に彼女のモノになりました。さぁ、目覚めなさい。我が愛しの娘『アクア』よ! アクア:うふふふ…お父様…ごきげんよう。私に素敵な器を与えてくれてありがとう。心から愛しているわ♡ : :【 数日後 】 あきら:はぁ…はぁ…由香!由香ぁ!!ちくしょう、一体由香はどこに行ったんだ!電話にも出ないし、メールも返信がない。思い当たる場所は全部探したのに。…俺のせいだ。俺が由香をちゃんと見てなかったからこんなことに…ん?由香からメール? 由香:『今夜、あのBARで待っています』 あきら:え?あのBARって…どういうことなんだ? : :【 BAR『癒しの楽園』 】 あきら:由香!! バーテン:いらっしゃいませ。 あきら:おい!由香は中にいるのか!? バーテン:ええ、由香様でしたらカウンターでお待ちですよ。さぁどうぞ中へ。 あきら:由香! 由香:あら、あきら。メール見てくれたんだね。 あきら:そんなことより!由香、今までどこに行ってたんだ! 由香:どこって、私はどこにも行ってないわよ。 あきら:心配したんだぞ!電話にも出ないし、メールしても返信ないし。 由香:ごめんなさい。私忙しくて連絡できなくて…。 あきら:いや、いいんだ。由香が元気でいてくれたならそれで…。怒鳴ったりしてごめんな。俺、由香のこと大事にするって言っておきながら、仕事にかまけて由香のことちゃんと見てなくて…。 由香:いいのよ。あきらは頑張ってたんだから。 あきら:でも…でも! 由香:それより一緒に飲みましょ。私、久しぶりにあきらと飲みたくなってメールしたの。 あきら:そうだったのか。え…でもどうしてここに?由香この店にはもう来たくないって言ってたんじゃ…。 由香:あれはウソ。ほんとはね、あきらとここで飲んでからね、毎日一人でここに来てたの。 あきら:え…どういうこと?じゃあ日曜日に大事な友達に会うっていうのもウソだったの? 由香:いいえ、それは本当よ。 あきら:…俺、由香の考えていることが分からなくなってきたよ。 由香:まあとにかく、座って二人で飲みましょ。 あきら:ああ…わかった。 バーテン:お客様、今夜は由香様との久しぶりの再会との事。私からのサービスです。こちらをどうぞ。 あきら:これは…? バーテン:当店のおすすめカクテル『ルビーの涙』です。 あきら:ありがとう…。 由香:じゃあ二人の再会を祝して。 あきら:乾杯〈同時に〉 由香:乾杯〈同時に〉 あきら:(ゴクっ)…このお酒は? 由香:どう?美味しい? あきら:あ、あぁ…なんだか頭がふわふわして…。 由香:あきらってばいつの間に弱くなったの?さぁ、もっと飲んで。 あきら:あ…うん…(ゴクゴク)ん?あれ…だんだん頭が真っ白に…。 由香:ねぇ…そのままよく聞いて。 あきら:…うん。 由香:あなたはこれから深い眠りに落ちるわ。そして目が覚めたら私の存在やこの店のこと、そしてあなた自身のことも全て忘れるの。 あきら:…全て…わすれる…。 由香:そう。あなたは真っ白な存在になる。いい? あきら:…真っ白…うん…わかった。 由香:いい子ね。それじゃあ、おやすみなさい。 あきら:おやすみ…。 : バーテン:アクア、よくやった。これで私たちを知る者はいなくなった。 アクア:うふふ…お父様♡ これからが楽しみだわ。 バーテン:こうやって少しずつ私たちの仲間を増やしていこう。 アクア:ええ、そしていずれこの星の全ては私たちのモノになるの。はぁぁ♡考えただけでゾクゾクするわぁ。 バーテン:それより、この男はどうするんだい? アクア:そうね…新しい記憶を上書きして、私の従順な*下僕《げぼく》にでもしようかしら♡ バーテン:ふふふ…お前らしいな。 アクア:まあ♡ お父様ったら!うふふふふ…♡ : :~完~

タイトル:「溶けては広がる雫のように」 : 登場人物: あきら:*進藤 あきら《しんどう あきら》・・・由香の彼氏。会社員 由香:*前原 由香《まえはら ゆか》・・・あきらの彼女。あきらとは別の会社で働いている。 バーテン:BAR『癒しの楽園』のマスター アクア:謎の少女(由香と兼役) : :(M)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声になります。 : 本編: 由香:あきら!久しぶり!今日は誘ってくれてありがとね! あきら:俺の方こそありがとな。お互い仕事が忙しくて、ここんとこなかなか会えなかったからさ。俺も今日由香とデートできて嬉しいよ。 由香:えへへ、今日はいっぱい飲んじゃおっと! あきら:おいおい、あんま羽目外すなよ。 由香:うふふ、めっちゃ楽しみ~!今日はどこに連れてってくれるの? あきら:最近ネットで見つけたオシャレなBARなんだ。えーっと確かこの角を曲がると…お!あった!『癒しの楽園』って看板がかかってる! 由香:へぇ、『癒しの楽園』かぁ…なんだか素敵な名前ね! あきら:だろ?由香のために予約入れといたんだ。 由香:ありがとう!さすがあきら!できる男は違うね! あきら:褒めても何も出んぞ。さあ、入ろっか。 由香:うん!おじゃましまーす。 バーテン:いらっしゃいませ。 あきら:あ、予約していた進藤ですけど。 バーテン:進藤様ですね。お待ちしておりました。こちらへどうぞ。 由香:わぁ!とっても素敵なお店ね! バーテン:ありがとうございます。こちらメニューでございます。ご注文が決まりましたらお声がけください。 あきら:ありがとう。由香、何飲む? 由香:えーっとね、どれにしようかな。たくさんあり過ぎて迷っちゃうな。 あきら:ゆっくりでいいよ。 由香:じゃあ私はソルティ・ドッグにしようかな。 あきら:分かった。すみませーん。 バーテン:ご注文はお決まりでしょうか? あきら:えっと、ソルティ・ドッグとモスコミュールで。 バーテン:かしこまりました。 由香:あきらとこんな素敵なBARでデートなんて、私幸せ者だよ。 あきら:俺も由香が喜ぶ顔が見られて嬉しいよ。 由香:私たち付き合ってもう丸2年だね。 あきら:そうだな。なんだかんだで今までずっと仲良くやってこれたのは由香のおかげだよ。 由香:それは私のセリフだよ。いつもいーっぱい愛してくれてありがとね!あきら、これからもずっと一緒だよ! あきら:ああ、ずっと一緒にいような。 バーテン:お待たせいたしました。ご注文のソルティ・ドッグとモスコミュールでございます。それと、こちらは当店おすすめカクテル『アクアの*雫《しずく》』でございます。 あきら:え?頼んでませんけど。 バーテン:こちら、女性のお客様限定のサービスでございます。良かったらどうぞ。 由香:わぁ!透明ですごく綺麗…なんだかとっても得した気分だよ♪ あきら:良かったな、由香。 由香:うん!じゃあ、二人の久しぶりの再会を祝して。 あきら:かんぱーい!〈同時に〉 由香:かんぱーい!〈同時に〉 : 由香:(ゴク)…はぁー、やっぱりあきらと飲むお酒は美味しいわ。 あきら:そうだな。今日はゆっくり話そうな。 由香:うん!あ…せっかくいただいたからこっちのカクテルも飲んじゃおっかなー。(ゴク)…美味しい!ほんのり甘くて体中に染み渡っていく感じが素敵…。 あきら:そうか、それは良かった。由香の幸せそうな顔見てるとこっちも嬉しくなってくるよ。 由香:えへへ。あきらに言われると照れちゃうな。 あきら:なぁ、由香。今日は由香に話があるんだ。 由香:ん?なになに、どうしたの?そんなに改まっちゃって。 あきら:俺たちそろそろ一緒にならないか? 由香:え…それって…。 あきら:ずっと考えてたんだ。俺、仕事でもそれなりに成果出してきたし、由香のこと本気で大事にしたいって思ってるから。 由香:あきら…。 あきら:だから、結婚しよう! 由香:うん!うん!結婚しよう!うう…私…今とっても幸せ。 あきら:良かった!俺も、めちゃめちゃ嬉しいよ! 由香:あきら…私のこと幸せにしてね。 あきら:もちろんだよ!じゃあ改めて乾杯しよっか。 由香:うん!じゃあ…私はさっきのカクテル美味しかったからあれ飲みたい。 あきら:分かった。すみませーん。 バーテン:はい。何をお持ちいたしましょうか? 由香:このカクテルすごく美味しかったから同じものをお願いします。 バーテン:『アクアの雫』ですね、かしこまりました。そちらのお客様は何にいたしましょう? あきら:じゃあ俺もそれ飲んでみたいな。 バーテン:承知いたしました。 由香:私のを見てあきらも飲みたくなったんでしょ? あきら:うん。由香が美味しそうに飲んでたからな。 由香:とっても美味しいよ! あきら:それは楽しみだ。 バーテン:お待たせいたしました。『アクアの雫』でございます。 由香:わぁ!来た来た! あきら:それじゃあ、改めて俺たちの婚約成立を祝して。 あきら:かんぱーい!〈同時に〉 由香:かんぱーい!〈同時に〉 あきら:(ゴク)……(うわ...マズっ!なんだこのひどい味は。由香はこんなのがうまいのか?) 由香:(ゴク)…はぁぁ!これこれ、この染み渡っていく感じが最高なのよ。どう?あきら、美味しいでしょ? あきら:あ、ああ、美味しいよ。 由香:でしょ?あー…幸せ♪ あきら:(まあ、由香が喜んでくれるならいいか)あ、バーテンさん、俺ジン・トニックをお願いします。 由香:え…もしかして口に合わなかった? あきら:あ…そうじゃないけどさ、俺はオシャレなカクテルよりも、こっちの方が好きかなって。 由香:そっか。じゃあそれもらってもいい? あきら:ああ。 由香:わぁーい!ありがと! あきら:よほど気に入ったんだね。 由香:えへへ。 バーテン:お待たせいたしました。ジン・トニックでございます。 あきら:ありがとう。(ゴクゴク)…ぷはー!やっぱり俺はこの味が好きだな。 由香:うふふ。楽しいね!あきら。 あきら:ああ、すごく楽しいよ。 : :【 2時間後 】 あきら:由香、そろそろ出ようか。 由香:うん、そだね。今日はとっても楽しかった! あきら:俺もだよ。これからよろしくな。 由香:こちらこそだよぉ!二人で幸せになろうね。 あきら:ああ!すみません、お会計をお願いします。 バーテン:かしこまりました。お客様、こちらでお願いします。 由香:私出すよ。 あきら:いいって。今日は俺に奢らせて。 由香:ありがと。じゃあお言葉に甘えて。 あきら:はい。じゃあこれで。 バーテン:まいどありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。 あきら:ご馳走様でした。 由香:バーテンさん!また来ますね。 バーテン:お気をつけて。 : あきら:今日は本当に楽しかった。 由香:うん、私も。それと…とっても嬉しかった。 あきら:俺もだ。由香、プロポーズ受けてくれて本当にありがとな。 由香:えへへ!こちらこそ。じゃあ私はこの辺で。送ってくれてありがとね。 あきら:うん。気をつけてな。 由香:また連絡するね! あきら:ああ、おやすみ。 由香:おやすみ。 : あきら:(M)次の日、俺は急遽新しいプロジェクトのリーダーに抜擢された。俺は会社に認めてもらえた嬉しさと、しばらく由香に会えなくなる寂しさから彼女に電話をかけた。 : あきら:(プルルルル) 由香:(ガチャ)はい。 あきら:あ、由香?起きてる? 由香:あきら、起きてるよ。どうしたの?電話なんてかけてきて。 あきら:実はさ、今日会社で新しいプロジェクトの推進メンバーが発表されて、そこのリーダーを任されたんだ。 由香:え!すごいじゃない! あきら:あはは。まだ実感ないけどな。それで、しばらくの間会社に泊まり込みで仕事することになって、プロジェクトが終わるまでは会えなくなりそうなんだ。 由香:え…そうなの…? あきら:ごめんな…。由香に寂しい想いさせることになって。 由香:…ううん!あきら頑張ってるもん!私、あきらが認められて嬉しいよ! あきら:ありがとう。そう言ってもらえると俺も嬉しいな。時間ができたら必ず連絡するから。 由香:うん。待ってる。体に気をつけて頑張ってね。 あきら:由香もな。おやすみ。 由香:おやすみ…。はぁ…しばらくは一人ぼっちかぁ…。 : :【 BAR『癒しの楽園』 】 バーテン:いらっしゃいませ。 由香:また来ちゃいました。 バーテン:おや、今日はおひとりなのですか? 由香:はい。彼は仕事なので、私一人で来ました。 バーテン:そうですか。ではこちらの席にどうぞ。 由香:今日はカウンターがいいわ。 バーテン:そうですか。ではこちらへ。 由香:ありがとうございます。 バーテン:何になさいますか? 由香:『アクアの雫』で。 バーテン:かしこまりました。 由香:やっぱりこのお店は落ち着くわ。 バーテン:どうぞ、『アクアの雫』でございます。 由香:ありがとう…あら?気のせいかしら?前に飲んだ時は透き通るような透明じゃなかったかしら。今日は少しピンクがかっているように見えるけど。 バーテン:お気づきになられましたか。実はこの『アクアの雫』はお客様の心に寄り添い、共に変化していくお酒なのです。 由香:心に寄り添い、共に変化する…? バーテン:左様でございます。以前ご来店された時、あなたは初めて『アクアの雫』と出会いました。だからお互いまっさらな状態だったのです。 由香:確かに、あの時私は初めてこのお酒を飲んだわ。そしてほのかな甘みとともにすごく体に染み渡る感じが気に入ったの。 バーテン:そうでしたね。そしてあなたはまたいらしてくださった。 由香:ええ、あの時の美味しさが忘れられなかったから。 バーテン:そんなに気に入っていただけて、このお酒も喜んでおります。 由香:まあ、バーテンさんったら冗談がお上手ですのね。 バーテン:いえいえ、私は真実をお伝えしているだけですよ。 由香:じゃあ…いただきます。(ゴクっ)…はぁぁ…前に飲んだ時よりも香りも甘みも強くなってる!じんわり体に溶け込んでいくわ…。 バーテン:それは何よりでございます。どうぞゆっくり堪能していってくださいませ。 由香:(ゴクっ)あぁぁ…すごく美味しくて、すごく幸せ…。バーテンさん、もう一杯ください。 バーテン:かしこまりました。 由香:…体がふわふわして、優しく包まれているみたい…。 バーテン:さぁ、どうぞ。 由香:ありがとう。(ゴクっ)…はぁ。この感じクセになりそう…。 バーテン:あなたが喜べば喜ぶほど、この子はどんどん変化していきますよ。 由香:この子…うふふ、まるで子供みたいね。でもその表現、可愛くて好きよ。 : :【 3時間後 】 バーテン:お客様、そろそろ閉店のお時間でございます。 由香:んん…もうそんな時間?私いつの間に寝てたのかしら。もう少しこの子を味わっていたかったのに残念だわ。 バーテン:またいつでもいらしてくださいませ。 由香:ええ、また来るわ。これ、今日のお代ね。 バーテン:ありがとうございました。お気を付けてお帰りくださいませ。 由香:それじゃあまたね…。 : :【 1週間後 】 あきら:あー、仕事が全然終わらない。この調子じゃ今日も徹夜だな。はぁ…今頃由香どうしてるかな。会いたいなぁ…いやいや、今は仕事に集中しないと。俺は由香を幸せにするって決めたんだろ!だったら今回のプロジェクトを必ず成功させて胸を張って由香に会いに行くんだ! : :【 BAR『癒しの館』 】 由香:こんばんは。 バーテン:いらっしゃいませ。今夜もいらしてくれたのですね。 由香:ええ…今日も一人で来たの。 バーテン:いいのですよ。さ、中へどうぞ。 由香:ありがとう…。 バーテン:最近元気がありませんがどうかなさいましたか? 由香:はぁ…。 バーテン:申し訳ありません。差し出がましいことを聞いてしまいました。 由香:ううん…いいの、気にしないでください。私ね、ここのところずっと悩んでるの。本当にこのまま結婚しちゃっていいのかなぁって。 バーテン:このまま…と仰いますと? 由香:彼にプロポーズされたこと自体は純粋に嬉しかったわ。ただ、結婚したら家庭に入って、毎日彼の帰りを家で待つだけの生活になるのかなって。なんかね、本当の幸せって何だろうって思っちゃったんです。 バーテン:左様でございますか。私は由香さんにはいつも笑顔でいて欲しいと思っているのですよ。この子のためにも。 由香:ありがとうバーテンさん。でも、ごめんなさい…今日は笑顔になれそうもないの。 バーテン:いいんですよ、無理して笑顔でいようとしなくても。では、そんな由香さんのために今日はこちらのお酒をご用意いたしました。 由香:何これ…とっても綺麗な青色だわ。これは何のお酒なの? バーテン:こちらは『サファイアの*吐息《といき》』でございます。 由香:『サファイアの*吐息《といき》』? バーテン:ええ、飲むと気分が晴れやかになりますよ。さぁどうぞ。 由香:いただきます…(ゴク)はぁ…スッキリとしてとっても美味しい!あぁ…心がどんどん澄み渡っていくわ。まるで深い霧が一気に晴れていくみたい! バーテン:いかがですか? 由香:最っ高!私、一体何を悩んでいたのかしら。あははは!心の中の嫌なことが消えて、どんどん楽しい気持ちに置き変わっていくわ!なんて爽快なのかしら! バーテン:やはり由香さんは笑顔がよくお似合いです。ではいつものこちらをどうぞ。 由香:うふふ…会いたかったわ。まぁ素敵!今日はエメラルド色なのね! バーテン:由香さんの心の悩みが消えてこの子も大層喜んでおります。さぁ、どうぞ。 由香:ありがとうバーテンさん!(ゴク)はぁぁ…キレイな緑色の風が心にサーっと吹き抜けて…気分がどんどん高揚していくわ!…ぷっ!あはははは!!あきら、今日も仕事で会社に缶詰なんだって!うふふふふ、おっかしい!笑いが止まらないの!ほんと良い気味だわ!アイツが仕事で必死になっている間に私はこの子と一緒になっていくの!あははは!なんて幸せなの!最高の気分だわ! バーテン:由香さん、あなたはもっと幸せになるべきお人です。 由香:ええ!その通りよ!私はもっと幸せになるの!この子と一緒に!あはははは! : :【 2週間後 】 あきら:(プルルルル…)ダメだ、全然出ない。最近忙しすぎて由香に電話もできなかった。もしかして怒ってるのかな? 由香:(ガチャ)はい。 あきら:由香!良かった、繋がって。 由香:あきら、どうしたの? あきら:ごめんな由香。連絡するって言ったのに、仕事忙しくて全然できなくて…。 由香:ううん、いいの。気にしないで。私も仕事忙しかったから。 あきら:そうなんだ。それでさ、ようやく仕事が一段落ついたから、もし良かったら今度の日曜日にこないだ行ったBARにまた行かないか? 由香:あー…あそこのBARね。やめとくわ。 あきら:どうして?あんなに素敵なお店だって褒めてたのに。 由香:実はね、あそこのお酒が体に合わなかったみたいで、あの後しばらくの間体調を崩してたの。 あきら:そうだったのか…。ごめんな、変なお店に連れてって。 由香:謝らないで。あきらのせいじゃないから。 あきら:ありがとう。じゃあ別の店に行こうか? 由香:あきら。実はね…私その日は大事な友達との約束があってどうしても行けないの。だからごめん。また今度ね。 あきら:そっか…。わかった、また誘うよ。とにかく由香が元気そうで安心したよ。 由香:私も。久しぶりにあきらの声が聞けて嬉しかったわ。 あきら:このプロジェクトが落ち着いたらゆっくり今後のことについて話そうな。 由香:分かったわ。楽しみにしてるね。 あきら:うん。じゃあね。 由香:またね。 : :【 BAR『癒しの楽園』 】 バーテン:いらっしゃいませ。 由香:今日も来ちゃいました! バーテン:ありがとうございます。今日もおひとりですか? 由香:ええ、もちろんよ。今日も待ちきれなくて仕事も手に付かなかったわ。早くあの子に会わせて。 バーテン:かしこまりました。さぁこちらへ 由香:うふふ…。 バーテン:何になさいますか? 由香:もう!バーテンさんの意地悪!*焦《じ》らさないで! バーテン:これは失礼いたしました。さぁどうぞ『アクアの雫』でございます。 由香:あは♡お待たせ。今日も会えたね!まあ!まるで血のようなとっても綺麗な赤色ね!うふふ…可愛いわよ。 バーテン:あの、由香さん。ひとつよろしいですか? 由香:何かしら? バーテン:今でもパートナーの方に会いたいですか? 由香:パートナー?あー、あきらのこと?あんなのどうでもいいわ。 バーテン:ふふふ…左様ですか。 由香:私はキミがいれば幸せだから…。(ゴクっ)…はぁぁぁぁ!!!何コレ!美味しすぎて身体がビリビリ痺れるわぁ♡ バーテン:本日も喜んでいただき誠にありがとうございます。 由香:あはぁ…♡ 頭がふわふわ…気持ち良いのぉ…。 バーテン:由香さんが初めてここにお見えになってからそろそろ1ヶ月になります。 由香:…そうねぇ…いっかげつ…うふふ♡ バーテン:そしてここへ来る度にあなたはこの子の魅力に取り憑かれていきましたね。 由香:(ゴクっ)…はぁぁ♡……魅力…ステキなのぉ…♡ バーテン:それと共に、この子はあなたの心に寄り添いどんどん変化を遂げていきました。 由香:…んふぅ♡…へんかぁ? バーテン:そう、あなたがこの子を飲む度にあなたの心により深く溶け込んでいき、あなたを少しづつ内側から染め上げていったのです。 由香:染まる……この子に……さいこー♡ バーテン:そしてついに時は満ちました!さぁ、由香さん、最後の一口を飲み干して、この子と完全に一つになるのです! 由香:この子と…ひとつに…(ゴクっ)…はぁぁぁぁ!!すごいわ!私の全てが…この子と…完全に溶け合っていくのぉぉ!!!!ああああああああぁぁぁ!!! : バーテン:ふふふふ…これであなたは身も心も完全に彼女のモノになりました。さぁ、目覚めなさい。我が愛しの娘『アクア』よ! アクア:うふふふ…お父様…ごきげんよう。私に素敵な器を与えてくれてありがとう。心から愛しているわ♡ : :【 数日後 】 あきら:はぁ…はぁ…由香!由香ぁ!!ちくしょう、一体由香はどこに行ったんだ!電話にも出ないし、メールも返信がない。思い当たる場所は全部探したのに。…俺のせいだ。俺が由香をちゃんと見てなかったからこんなことに…ん?由香からメール? 由香:『今夜、あのBARで待っています』 あきら:え?あのBARって…どういうことなんだ? : :【 BAR『癒しの楽園』 】 あきら:由香!! バーテン:いらっしゃいませ。 あきら:おい!由香は中にいるのか!? バーテン:ええ、由香様でしたらカウンターでお待ちですよ。さぁどうぞ中へ。 あきら:由香! 由香:あら、あきら。メール見てくれたんだね。 あきら:そんなことより!由香、今までどこに行ってたんだ! 由香:どこって、私はどこにも行ってないわよ。 あきら:心配したんだぞ!電話にも出ないし、メールしても返信ないし。 由香:ごめんなさい。私忙しくて連絡できなくて…。 あきら:いや、いいんだ。由香が元気でいてくれたならそれで…。怒鳴ったりしてごめんな。俺、由香のこと大事にするって言っておきながら、仕事にかまけて由香のことちゃんと見てなくて…。 由香:いいのよ。あきらは頑張ってたんだから。 あきら:でも…でも! 由香:それより一緒に飲みましょ。私、久しぶりにあきらと飲みたくなってメールしたの。 あきら:そうだったのか。え…でもどうしてここに?由香この店にはもう来たくないって言ってたんじゃ…。 由香:あれはウソ。ほんとはね、あきらとここで飲んでからね、毎日一人でここに来てたの。 あきら:え…どういうこと?じゃあ日曜日に大事な友達に会うっていうのもウソだったの? 由香:いいえ、それは本当よ。 あきら:…俺、由香の考えていることが分からなくなってきたよ。 由香:まあとにかく、座って二人で飲みましょ。 あきら:ああ…わかった。 バーテン:お客様、今夜は由香様との久しぶりの再会との事。私からのサービスです。こちらをどうぞ。 あきら:これは…? バーテン:当店のおすすめカクテル『ルビーの涙』です。 あきら:ありがとう…。 由香:じゃあ二人の再会を祝して。 あきら:乾杯〈同時に〉 由香:乾杯〈同時に〉 あきら:(ゴクっ)…このお酒は? 由香:どう?美味しい? あきら:あ、あぁ…なんだか頭がふわふわして…。 由香:あきらってばいつの間に弱くなったの?さぁ、もっと飲んで。 あきら:あ…うん…(ゴクゴク)ん?あれ…だんだん頭が真っ白に…。 由香:ねぇ…そのままよく聞いて。 あきら:…うん。 由香:あなたはこれから深い眠りに落ちるわ。そして目が覚めたら私の存在やこの店のこと、そしてあなた自身のことも全て忘れるの。 あきら:…全て…わすれる…。 由香:そう。あなたは真っ白な存在になる。いい? あきら:…真っ白…うん…わかった。 由香:いい子ね。それじゃあ、おやすみなさい。 あきら:おやすみ…。 : バーテン:アクア、よくやった。これで私たちを知る者はいなくなった。 アクア:うふふ…お父様♡ これからが楽しみだわ。 バーテン:こうやって少しずつ私たちの仲間を増やしていこう。 アクア:ええ、そしていずれこの星の全ては私たちのモノになるの。はぁぁ♡考えただけでゾクゾクするわぁ。 バーテン:それより、この男はどうするんだい? アクア:そうね…新しい記憶を上書きして、私の従順な*下僕《げぼく》にでもしようかしら♡ バーテン:ふふふ…お前らしいな。 アクア:まあ♡ お父様ったら!うふふふふ…♡ : :~完~