台本概要
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タイトル | 朱色の盃〜跡取り誘拐事件〜 |
---|---|
作者名 | 大輝宇宙@ひろきうちゅう (@hiro55308671) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女1、不問1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
警視庁の黒岩が立ち上げた「犯罪対策課」には新人の女刑事高守が加わり張り切っていた。 その折、ヤクザの瀧本組の頭が代わることとなり、組長の孫「和久井信一」に殺害予告が届く。 世界観、罪名、組織名などフィクションです。ご了承ください。 非営利使用は連絡不要ですが、上演用予告などの作家名は下記を使用してください。 大輝宇宙・しろめぇ 1253 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
黒岩 | 男 | 66 | 黒岩仁(くろいわじん) 犯罪対策課の刑事。元部下、丸橋鉄のやっているお好み焼き屋に足繁く通っている。年齢は50代ですが、今作では高守より年上として演じれば大丈夫です。 |
高守 | 女 | 75 | 高守美紀(たかもりみき) 犯罪対策課に配属された新米刑事。20代。元気。正義。黒岩を尊敬し、憧れている。すぐ人に影響される。 |
岡島 | 男 | 43 | 岡島保(おかじまたもつ)30代にしてヤクザの瀧本組を取りまとめる、総取締。スマート、狡猾。瀧本組への愛がすごい。 |
信一 | 不問 | 62 | 和久井信一(わくいしんいち)瀧本組組長の孫。現状跡取りと目されているが、他人の評価は「ぼんくら」観察。馬鹿なフリ。用意周到。成人男性として演じても、若者や、子供として演じてもOK |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
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:丸橋鉄が店主を務めるお好み焼き屋店内。カウンター席の入口側に、信一と岡島が座っている。
信一:わぁ〜どれもおいしそうだなぁ…。ねぇ岡島、この店は何がおいしいの?
岡島:そうですね。私はあまりこういった店には来ませんので、若い衆に調べさせましたが、「全部ミックス」がいいんじゃないかと申しておりました。豚、海鮮、どちらも楽しめる人気メニューだそうです。
信一:(納得の相槌)じゃあ僕は、全部ミックスにする。あと、豚ネギ塩焼きそばとー、あん巻きももらおうかな
岡島:若、そんなに食べられるんですか?
信一:大丈夫だよ〜。それに…もし食べ切れなくても、岡島が食べてくれるよね?
岡島:ええ、もちろんです。
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:店の引き戸を開け、黒岩と高守が入店
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黒岩:おっ、席空いてるな
高守:いい匂い〜。あ〜お腹すきますねぇ
黒岩:バカ。腹減ったから来たんだろうが。鉄、カウンター座るぞ。
岡島:お元気そうですね、黒岩さん
黒岩:お、おめェは、瀧本組の岡島。久しぶりだなぁ
岡島:ええ、ご無沙汰しております。ご厄介になることなく、やっておりますよ
黒岩:ははっ。おめぇのやり方はズルいからな。4課の連中も仲々あぶり出せねぇんだろうさ
岡島:恐れ入ります(にこりと微笑む)
高守:黒岩さん、どちら様です?
黒岩:おお。岡島、こいつは俺の部下で駆け出しの、高守だ。
高守:高守美紀です。よろしくおねがいします
岡島:ご丁寧にどうも。瀧本組、総取締(そうとりしまり)をしております、岡島と申します。
信一:だめだよぉ、岡島ぁ。高守さんは、ちゃんと「美紀」って名乗ってくれたよ?岡島も。
岡島:これは失礼しました。岡島保と申します。どうか今後ともお手柔らかに。
高守:どうも…
信一:そんなに警戒しないでいいよぉ。僕達は今日、ピストルも小刀(ドス)も持ってない。ただ美味しいお好み焼きを食べに来ただけなんだからぁ。
黒岩:そうだ。何もしてねぇ、証拠の無いうちは、俺らもノータッチだ
高守:あ、失礼しました
黒岩:すぐ顔に出る癖、直せよ高守ぃ。刑事は芝居ができてナンボだ。
高守:はい…気をつけますっ
信一:ふふふ。うちの岡島くらいポーカーフェイスな女性は、ちょっと恐いけどねぇ…。僕は和久井信一って言います。岡島の上司みたいなことしています。
黒岩:ってぇと、お前さん組の跡取りってことか?
信一:う〜〜ん。おじいちゃんが良いよって言ったらそうなるのかなぁ
岡島:若、注文したものが来ましたよ。いただきましょう
信一:うんっ。おいしそうだなぁ〜いただきまぁす!
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黒岩:お前、マヨネーズかけねぇのか?
高守:はい。昔からちょっと苦手なんですよね…
黒岩:ほぉん。明太追加してんなら、合うと思うがなぁ。チーズと明太とマヨネーズ、そこにこの店の特製ソースがまた合うんだ。ほれ、俺の。一口食ってみろ。
高守:え…
黒岩:ほれ、騙されたと思って。
高守:じゃぁ…いただきます(食べる)…おいしい…!
黒岩:へへへっ。だろう?
高守:(カウンター内の店員、鉄に向かって)すいませーん!黒岩さんと同じもの、私にもお願いします!
黒岩:おう、食え食え。
高守:あれ?ヤクザのお二人、いつの間にか出ていったんですね
黒岩:ああ、岡島が軽く頭下げて行った。
高守:そうでしたか
黒岩:あいつは所謂(いわゆる)インテリヤクザってやつだ。頭の切れるやつでな。次の跡目は、血の繋がりのねぇあいつに。なんて話もあるらしい
高守:え、でも、一緒に来てた和久井さんが、跡取りなんですよね?
黒岩:ああ、そんなこと言ってたな。まぁ、言っちゃあ悪いが、あれは相当なボンクラっつー感じだったな。
高守:そうですね。口調もぼやーっとした感じでしたし…
黒岩:ま、今のうちにあのボンボンに気に入られといて、ボンボンの後ろで好きに組を回したいっつーとこだろ。
高守:なるほど…。一番波風が立たない方法ですね。
黒岩:ああ…。だが高守、覚えとけ。どんな業界でも荒れる時ってのは、頭が変わるときだ。
高守:……?
黒岩:それまでのやり方を変えたくねーヤツ、一気に変えたいヤツ、自分がトップになろうとするヤツ、そいつに便乗して、裏で甘い汁を吸いたいヤツ。色んなヤツの色んな思惑がぶつかり合う。
高守:…それが犯罪につながることも?
黒岩:よく聞くだろう?組の抗争の銃撃戦だとかよぉ
高守:ああ…!はい
黒岩:大丈夫か?あのボンボンをぼやーっとしてるなんつって、おめぇもボヤッとしてるなぁ、おい。
高守:すみませんっ
黒岩:犯罪対策課なんつー、各課の垣根を越えるような所を作りやがって。おかみの考えることは露ほども分からねぇってのに、おめぇみたいな新人を俺の下につけるなんざ、ますます分からねぇ。
高守:私は、ものすごく光栄なことだと思っています!
黒岩:お…おう?
高守:あの、女子大青バラ薬物事件を見事解決し、今回の犯罪対策課の立ち上げにも大きく貢献した黒岩さんの下で働けるんですから!
黒岩:ああ、うるせーうるせー。あの事件は俺が一人でやった山じゃねぇ。そこでお好み焼きを焼いてる鉄が、ほとんど解決したようなもんだ。
高守:それもうかがってます!丸橋さんが引退してもなお「鉄人コンビ」健在だって、署でも噂になってましたし
黒岩:ははっ。俺と鉄で「鉄仁…」なるほどなぁ
高守:いつか私も、黒岩さんの相棒として警視庁検挙率ナンバーワンになりたいです
黒岩:おう、頑張れ。
高守:はいっ!
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:警視庁内 犯罪対策課室内 応接ルームに信一、岡島が来ている。向かいには黒岩、高守が座っている
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信一:……というわけで、犯罪対策課のみなさんには、僕を守ってもらいたいんです。
黒岩:何が「というわけ」だ。ヤクザの抗争に警察を巻き込むんじゃねぇよ
岡島:まだヤクザ同士の抗争と決まったわけではありません。
高守:「和久井信一を殺す」これだけではたしかに他の組からの脅迫とは言えないかもしれませんね
黒岩:(考え込むため息)
信一:僕はたまたまヤクザの親分の孫として生まれてしまった、善良ないち市民なんです。だからどうか警察の皆さんに守ってもらいたいなぁと、今日はやって参りました。
黒岩:チッ、何でうちの課なんだ
岡島:安藤警視正に事前にご相談したところ、「ヤクザ絡みに転ぼうが、殺人未遂になろうが、1課、4課などの垣根のない犯罪対策課なら問題ないだろう」とのお話をいただきましたので、こちらへ出向いた次第です。
黒岩:あんの…狐野郎
高守:黒岩さん、安藤警視正がそう言ってるんじゃお断りできませんよ
黒岩:くそっ。分ぁったよ。ボンボンの警護はうちが担おうじゃねぇか。
信一:わ〜い!ありがとう仁さん!
黒岩:何だと?
信一:え?だってほら、さっきもらった名刺に「黒岩仁」ってあるよ?それに僕だってボンボンじゃなくて和久井信一って名前がちゃんとあるのに〜
黒岩:チッ、俺もボンボンの方が呼びやすいからな。お前も好きに呼べや。
信一:うん、そうさせてもらうね〜
岡島:では、引き受けて頂けるということですね。
高守:はいっ、全力でお守りしますし、犯人の逮捕にも努めます。
岡島:それは頼もしい。では、我々も組の衆を総動員し…
黒岩:おっと、それはやめてくれ。
岡島:何故?
黒岩:お前さん達は、俺らに、警護頼んでんだ。徹底的に協力してもらう。それが飲めねぇつーなら、この話は無しだ。
岡島:なるほど…。若、いかが致します?
信一:え〜っ、僕よく分かんないよぉ。まぁ僕が無事ならそれでいいわけだし、仁さんの言うとおりにして。
岡島:…かしこまりました。
黒岩:ほんじゃまず、ボンボンにはしばらくホテル住まいをしてもらうかね。
信一:わぁ〜い楽しそう!
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:都内ホテル スイートルームの一室
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信一:あああああああ〜たーいーくーつーだー
高守:和久井さん!あなたは命を狙われています。文句ばっかり言ってないで、少しは大人しくしていて下さい。
信一:ごめんなさい…。でも……たーいーくーつーだー
高守:まったく緊張感がないですね…。
信一:この部屋には今、僕と高守さんだけ。高守さんに緊張も何もないでしょう?それにもう3日経った。ホテル住まいにも、あなたの警護にも慣れた。…どころか退屈で…僕死にそうだよ!!
高守:でも、ここから出すわけにはいきませんよ?
信一:ん〜それなんだけどさ、ずーっとここにいても多分犯人は手出しできないだけで、解決にはならないと思うんだよねぇ
高守:……ん?…うん、たしかに。
信一:でしょ?でしょ?だ〜から、犯人逮捕のために外をウロウロしようよ。
高守:う…ん?…ダメですよ!そんなの危険です!
信一:ええ〜っ今、「たしかに」って言ったでしょ?
高守:万が一のことがあったらどうするんですか!
信一:大丈夫だって。そのための犯罪対策課でしょう?
高守:それは…そうですけど…
信一:このまま一生ホテル暮らしってわけにもいかないんだからさぁ
高守:う……
信一:僕、一生犯人に怯えて暮らすの嫌だなぁ〜…。
高守:うう……
黒岩:バカ野郎!何丸め込まれてんだ!おめぇは!(高守の頭をはたく)
高守:いたーっ!何するんですかぁ!
黒岩:おめぇが主導権握らなくてどうすんだ、ばか。
高守:うう…すみませんでしたぁ…
信一:仁さん、いらっしゃい。
黒岩:ボンボン、オメェはボンクラなんだか、頭が回るんだかよく分からねぇな。
信一:そう?あっ!それより、買ってきてくれた!?
黒岩:おう、こりゃもはや俺スペシャルと言っても過言じゃないぞ。おらっ(テーブルに買ってきたものを置く)
信一:わっ!これが豚玉 明太、チーズ、ネギ増しの餅増しましかぁ〜!えっと、箸〜…あった!いっただっきまーす
黒岩:それにしてもすげぇな、この部屋。
高守:和久井さんの方で支払ってグレードアップしたんですよ。
黒岩:おお、何部屋あるんだ。
高守:このリビングの他に寝室が2つあります。お陰様で寝室は別という高待遇の警護をさせてもらってます。
黒岩:ふーん
高守:あ、あとですね、お風呂にジャグジーまでついてるんですよ!
黒岩:贅沢なこった。高守、遊びじゃねーんだぞ
高守:は…はいっ!
信一:おいしいっ!仁さんこれサイコー!
黒岩:おめぇら…もう少し気を引き締めろ。いくら外に出なくていいからってな。
岡島:それが、そういうわけにも行かなくなりました。
高守:わっ!!びっくりした
信一:岡島、ハロー。
岡島:若。ご機嫌麗しゅう(頭を下げる)
黒岩:行かなくなったって…どういうことだ。
岡島:先程、光荻(みつおぎ)様が逝かれました。
信一:そう。とうとうおじいちゃん死んじゃったか〜
岡島:先代は、跡目は信一様に継がせるとのご遺言を残されましたので、一刻も早く下々までこれからの頭は若であると知らしめなくては…
黒岩:内部の混乱を招くってことか。
岡島:ええ。この機に乗じて、我こそが時期頭だと調子に乗る輩に釘を刺さねばなりませんから。
黒岩:で、どうするんだ?
岡島:若には、先代の葬儀と、襲名の集まりに参加していただきます。
信一:わ〜外に出られるんだね!いいよ、いいよ〜
高守:ちょ…おじいさんが亡くなったんですよ?
信一:そうだね。でも僕には関係ないよ。父さんが死んで、兄さんが死んで、たまたま僕が生きてたから、僕に役目が回ってくるだけ。おじいちゃんの顔だって小さい頃に見たきりだもん。何も悲しかったりしないんだよね。瀧本組に愛着があるわけでもないし、本当にどうでもいいの。
岡島:…では、私は葬儀などの手配を進めますので。
信一:うん、よろしく〜
黒岩:お、岡島。俺も出る。詳しいことを打ち合わせせんといかんしな。
岡島:では、警視庁までお送りしましょうか?
黒岩:ヤクザの車でか?そりゃ勘弁だ。
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:エレベーターに乗り込んだ岡島と黒岩
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黒岩:おめぇも大変だな、ボンボンのお守りも。
岡島:いえ、これも仕事ですので。
黒岩:ま、ボンボンを盾に、今後はお前の天下っつーことだな。
岡島:なんです?それ。
黒岩:お?いや…腹の内は見せねぇってか。
岡島:……私はね、どうしようもないクズだったんです。私がいようがいまいが関係ない両親の元に生まれて、望み通り家を飛び出して、しょうもない輩に喧嘩を吹っかけ返り討ちに遭い、路地裏で死にかけていたところを先代に拾われた。学もつけてもらい、喧嘩も強くしてもらい、重用していただいた。…経験から身につけた、このポーカーフェイスは自慢です。私はね、瀧本が生き残るためなら命すら惜しくないんですよ…。甘く見ないで下さい。
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:家具が一切置かれていない部屋。信一と高守が、後ろ手に縛られている。
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高守:…っ…ん…
信一:あっ!高守さん、気がついた!?…良かったぁ
高守:ん…。っ!ここは!?
信一:僕にも分からない。多分どっかのマンションの一室だと思う。
高守:…頭がぼーっとしていて…
信一:僕達は、おじいちゃんの葬儀に行くために予定通りホテルを出た。
高守:ええ…。
信一:そして、手配されていたバンに乗り込んだところで、僕は初めから乗っていた何者かに袋を被せられ、手錠で自由を奪われた。
高守:……
信一:高守さんは、バンを覗くような体勢でいたところ、後ろから頭を殴られて車になだれ込むように押し込められたんだろうね。
高守:なるほど…だから頭が痛いと…。
信一:大丈夫?ひとまず意識が戻って一安心だけど…
高守:多分大丈夫です。それより早く、黒岩さんに知らせないと!
信一:う〜ん…それがねぇ
高守:なんですか?
信一:スマホは没収されてしまいました。あと、高守さんのピストルもおそらく…
高守:そんなぁ…!
信一:まぁ、焦らず時を待とう。
高守:随分落ち着いたものですね。
信一:まぁ僕は、瀧本組の次期当主だからねぇ
高守:……。私達をどうするつもりなんでしょうか。
信一:ん〜そこだよね。すぐには殺さないっていう目的。
高守:何か、和久井さんしか知り得ない組の情報を得るためとか…
信一:見せしめにどこかで殺人ショー的に僕を殺して、僕の派閥を黙らせたいか…
高守:ひえ…っ
信一:あとは身代金目的かなぁ
高守:身代金…
信一:僕は、次期頭だからねぇ。巨額の金が動くわけだよ
高守:岡島さんなら、間違いなくポーンと払うでしょうしね
信一:……そうだねぇ。ま、僕の部下がうまくやってくれるさ。
高守:黒岩さんもきっと助けてくれます。
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:外から喧騒が聞こえドアが開く
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岡島:若!!ご無事ですか!?
信一:岡島。遅かったね。
岡島:犯人グループとの交渉が長引きました。犯罪対策課には身代金を出すようにと言われたのですが…
高守:交渉に応じず、ここに乗り込んで来たんですか!?
黒岩:まったく。先走りやがって。見張りのやつ全員一人でのしちまった…
岡島:そいつらの拘束はお任せしますよ。黒岩さん、若、本当にご無事で良かった。
信一:岡島、一人で来たの?
高守:すごい…強いんですね。
岡島:先代に一通りの喧嘩は叩き込まれておりますから。さぁ、参りましょう若。
信一:……岡島、やっぱり僕の右腕は岡島しかいないよ。おじいちゃんびいきの岡島をこのまま僕の下に付けてるのもどうかなって実は思ってたんだけど。これからも僕の役に立ってくれるよね?
黒岩:影ボスの誕生ってこったな。
岡島:私は、この瀧本組に育てていただいた恩義があります。それを若の下でお返しできたら…
信一:ありがとう。
岡島:いいえ。若と瀧本の為ならば、この岡島、命すら惜しくはございません。
信一:……ねぇ岡島、ここを出る前に、僕の質問に2つ答えてくれる?
岡島:なんでしょう?
信一:僕も高守さんもスマホとられちゃってね、犯人だって馬鹿じゃない。ここらへんには置いてないかキチンとGPSは切ってあると思うんだ。…どうしてここが分かったの?
岡島:ああ、そんなことですか。若の左耳のピアス、それには発信機が付いているのですよ。若がどちらにいらっしゃるか分かるようになっているんです。
信一:ふーん…。そうなんだ。おっかしいなぁ〜この発信機、ホテルに泊まる前には僕が取り出して壊しちゃってるんだよね。
高守:え!?和久井さん?
信一:2つ目の質問!岡島、その胸ポケットに入ってる注射器は、なあに?
岡島:……
信一:答えろ。
岡島:……
信一:言わないなら、僕の答えを言うよ。まずひとつ、僕らの居場所が分かったのは、お前がここに閉じ込めるよう指示を出した張本人だったから。ふたつ、注射器の中身は僕を殺すための毒物…ってところかなぁ〜。ここに助けに入ったお前に僕が感謝してこれからも重用すると言わなければ、使うつもりだったんでしょう?
黒岩:岡島。おめぇ、本当にボンボンを?
岡島:殺すわけないじゃないですか。私は若をとても大事にしてきたんですから…。
高守:そう…ですよね
信一:お前が僕をよく思っていないことくらい、ボンボンの僕にも分っていたよ岡島。殺人予告が届いたときから、お前が何か仕掛けてくるって予想してたんだ。お前が動くのはきっと、お前の敬愛するおじいちゃんが死んだときだって。
岡島:…この薬物は、人間を愚か者に変えてしまう薬。とでも言いましょうかね。幼児に戻すような薬ですよ。「殺すわけがない」に何の矛盾もありません。
高守:そんなもの…どうして?
岡島:私は、瀧本組を第一に考えて生きてるんですよ。頭の、光荻様のためなら、若の面倒だって喜んでみますとも。でも…愚鈍な孫は、この組なんてどうでもいいと…私のたったひとつの居場所を軽んじたんだ!!
黒岩:ふん。それでボンボンを生かしたまま、てめぇが頭をとろうと思ったってのか
岡島:いいえ。先代の遺言は絶対です。組を引き継ぐのは若です。
信一:でも、僕がお前の意のままにならないならば…幼児のような僕を頭に置いて裏で組を動かすつもりだったんでしょう?計画が失敗して…可哀想に。
岡島:(土下座をして)若!どうか、どうか組を無くさないでください!私は…私にはここが全てなんです!!
信一:そんなふうに顔を歪めて懇願することもできるんだね、自慢のポーカーフェイスはどうしたの?岡島
高守:和久井さん…
信一:……お前は、偽計業務妨害と僕と高守さんへの傷害、監禁と…色々やらかしているからね。次シャバに出てくるのはいつになるんだろうね。その時、お前の帰る場所が…ちゃんとあるといいけど。僕は愚鈍な孫だからね、組、潰しちゃうかもしれないなぁ〜。
岡島:若…。(床に脱力し伏せる)
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:鉄のお好み焼き屋店内 ボックス席 向かい合って座る黒岩と高守
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高守:和久井さんは、組をぶっつぶすつもりなんでしょうか
黒岩:どうだろうな
高守:黒岩さん、随分冷たくないですか?
黒岩:おめぇこそなんだ。ボンボンと数日寝食ともにして情が移ったか?
高守:そんなことはありませんけど…。っていうか、むしろ和久井さんが恐ろしくなりました。
黒岩:ボンクラじゃなかったってか?
高守:はい。発信機や、岡島さんの思惑に気づいていたってことですよね?それでも決定的な証拠を掴むまで馬鹿なふりしてたっていうか…
黒岩:ま、俺も見抜けなかったしな。
高守:黒岩さんは、単純ですから。
黒岩:あ?…ま、ボンボンは組をぶっ潰したりはしねぇだろ。あのしたたかさだ。先代が残したもんは有意義に使うだろうな。それに…岡島が帰る場所をちゃんと守っていくつもりなんだろう。
高守:どうして分かるんですか?
黒岩:お前の傷害と監禁、偽計業務妨害はちゃんと罪を償わせる気らしいが、自分への傷害と監禁については罪に問わないって言ってるらしい。
高守:ええ!?命狙われてたのに!?幼児がえりさせられそうだったのに!?
黒岩:ボンボンもやるよなぁ。岡島に恩売って、戻ってきたら右腕として働かせるつもりだぞありゃ。
高守:ええええ〜!?任侠全然わかりません!!奥が深すぎる…っていうか変人の集まりすぎます…。
黒岩:そうだな。お、今日はマヨネーズたっぷりにしたのか?
高守:はいっ!こないだのが美味しかったので!これからも黒岩さんのこと色々と真似させてください!!そしていつか警視庁検挙率ナンバーワンに!
黒岩:ははっ…俺の部下も変人の集まりにならねぇといいがなぁ
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:丸橋鉄が店主を務めるお好み焼き屋店内。カウンター席の入口側に、信一と岡島が座っている。
信一:わぁ〜どれもおいしそうだなぁ…。ねぇ岡島、この店は何がおいしいの?
岡島:そうですね。私はあまりこういった店には来ませんので、若い衆に調べさせましたが、「全部ミックス」がいいんじゃないかと申しておりました。豚、海鮮、どちらも楽しめる人気メニューだそうです。
信一:(納得の相槌)じゃあ僕は、全部ミックスにする。あと、豚ネギ塩焼きそばとー、あん巻きももらおうかな
岡島:若、そんなに食べられるんですか?
信一:大丈夫だよ〜。それに…もし食べ切れなくても、岡島が食べてくれるよね?
岡島:ええ、もちろんです。
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:店の引き戸を開け、黒岩と高守が入店
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黒岩:おっ、席空いてるな
高守:いい匂い〜。あ〜お腹すきますねぇ
黒岩:バカ。腹減ったから来たんだろうが。鉄、カウンター座るぞ。
岡島:お元気そうですね、黒岩さん
黒岩:お、おめェは、瀧本組の岡島。久しぶりだなぁ
岡島:ええ、ご無沙汰しております。ご厄介になることなく、やっておりますよ
黒岩:ははっ。おめぇのやり方はズルいからな。4課の連中も仲々あぶり出せねぇんだろうさ
岡島:恐れ入ります(にこりと微笑む)
高守:黒岩さん、どちら様です?
黒岩:おお。岡島、こいつは俺の部下で駆け出しの、高守だ。
高守:高守美紀です。よろしくおねがいします
岡島:ご丁寧にどうも。瀧本組、総取締(そうとりしまり)をしております、岡島と申します。
信一:だめだよぉ、岡島ぁ。高守さんは、ちゃんと「美紀」って名乗ってくれたよ?岡島も。
岡島:これは失礼しました。岡島保と申します。どうか今後ともお手柔らかに。
高守:どうも…
信一:そんなに警戒しないでいいよぉ。僕達は今日、ピストルも小刀(ドス)も持ってない。ただ美味しいお好み焼きを食べに来ただけなんだからぁ。
黒岩:そうだ。何もしてねぇ、証拠の無いうちは、俺らもノータッチだ
高守:あ、失礼しました
黒岩:すぐ顔に出る癖、直せよ高守ぃ。刑事は芝居ができてナンボだ。
高守:はい…気をつけますっ
信一:ふふふ。うちの岡島くらいポーカーフェイスな女性は、ちょっと恐いけどねぇ…。僕は和久井信一って言います。岡島の上司みたいなことしています。
黒岩:ってぇと、お前さん組の跡取りってことか?
信一:う〜〜ん。おじいちゃんが良いよって言ったらそうなるのかなぁ
岡島:若、注文したものが来ましたよ。いただきましょう
信一:うんっ。おいしそうだなぁ〜いただきまぁす!
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黒岩:お前、マヨネーズかけねぇのか?
高守:はい。昔からちょっと苦手なんですよね…
黒岩:ほぉん。明太追加してんなら、合うと思うがなぁ。チーズと明太とマヨネーズ、そこにこの店の特製ソースがまた合うんだ。ほれ、俺の。一口食ってみろ。
高守:え…
黒岩:ほれ、騙されたと思って。
高守:じゃぁ…いただきます(食べる)…おいしい…!
黒岩:へへへっ。だろう?
高守:(カウンター内の店員、鉄に向かって)すいませーん!黒岩さんと同じもの、私にもお願いします!
黒岩:おう、食え食え。
高守:あれ?ヤクザのお二人、いつの間にか出ていったんですね
黒岩:ああ、岡島が軽く頭下げて行った。
高守:そうでしたか
黒岩:あいつは所謂(いわゆる)インテリヤクザってやつだ。頭の切れるやつでな。次の跡目は、血の繋がりのねぇあいつに。なんて話もあるらしい
高守:え、でも、一緒に来てた和久井さんが、跡取りなんですよね?
黒岩:ああ、そんなこと言ってたな。まぁ、言っちゃあ悪いが、あれは相当なボンクラっつー感じだったな。
高守:そうですね。口調もぼやーっとした感じでしたし…
黒岩:ま、今のうちにあのボンボンに気に入られといて、ボンボンの後ろで好きに組を回したいっつーとこだろ。
高守:なるほど…。一番波風が立たない方法ですね。
黒岩:ああ…。だが高守、覚えとけ。どんな業界でも荒れる時ってのは、頭が変わるときだ。
高守:……?
黒岩:それまでのやり方を変えたくねーヤツ、一気に変えたいヤツ、自分がトップになろうとするヤツ、そいつに便乗して、裏で甘い汁を吸いたいヤツ。色んなヤツの色んな思惑がぶつかり合う。
高守:…それが犯罪につながることも?
黒岩:よく聞くだろう?組の抗争の銃撃戦だとかよぉ
高守:ああ…!はい
黒岩:大丈夫か?あのボンボンをぼやーっとしてるなんつって、おめぇもボヤッとしてるなぁ、おい。
高守:すみませんっ
黒岩:犯罪対策課なんつー、各課の垣根を越えるような所を作りやがって。おかみの考えることは露ほども分からねぇってのに、おめぇみたいな新人を俺の下につけるなんざ、ますます分からねぇ。
高守:私は、ものすごく光栄なことだと思っています!
黒岩:お…おう?
高守:あの、女子大青バラ薬物事件を見事解決し、今回の犯罪対策課の立ち上げにも大きく貢献した黒岩さんの下で働けるんですから!
黒岩:ああ、うるせーうるせー。あの事件は俺が一人でやった山じゃねぇ。そこでお好み焼きを焼いてる鉄が、ほとんど解決したようなもんだ。
高守:それもうかがってます!丸橋さんが引退してもなお「鉄人コンビ」健在だって、署でも噂になってましたし
黒岩:ははっ。俺と鉄で「鉄仁…」なるほどなぁ
高守:いつか私も、黒岩さんの相棒として警視庁検挙率ナンバーワンになりたいです
黒岩:おう、頑張れ。
高守:はいっ!
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:警視庁内 犯罪対策課室内 応接ルームに信一、岡島が来ている。向かいには黒岩、高守が座っている
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信一:……というわけで、犯罪対策課のみなさんには、僕を守ってもらいたいんです。
黒岩:何が「というわけ」だ。ヤクザの抗争に警察を巻き込むんじゃねぇよ
岡島:まだヤクザ同士の抗争と決まったわけではありません。
高守:「和久井信一を殺す」これだけではたしかに他の組からの脅迫とは言えないかもしれませんね
黒岩:(考え込むため息)
信一:僕はたまたまヤクザの親分の孫として生まれてしまった、善良ないち市民なんです。だからどうか警察の皆さんに守ってもらいたいなぁと、今日はやって参りました。
黒岩:チッ、何でうちの課なんだ
岡島:安藤警視正に事前にご相談したところ、「ヤクザ絡みに転ぼうが、殺人未遂になろうが、1課、4課などの垣根のない犯罪対策課なら問題ないだろう」とのお話をいただきましたので、こちらへ出向いた次第です。
黒岩:あんの…狐野郎
高守:黒岩さん、安藤警視正がそう言ってるんじゃお断りできませんよ
黒岩:くそっ。分ぁったよ。ボンボンの警護はうちが担おうじゃねぇか。
信一:わ〜い!ありがとう仁さん!
黒岩:何だと?
信一:え?だってほら、さっきもらった名刺に「黒岩仁」ってあるよ?それに僕だってボンボンじゃなくて和久井信一って名前がちゃんとあるのに〜
黒岩:チッ、俺もボンボンの方が呼びやすいからな。お前も好きに呼べや。
信一:うん、そうさせてもらうね〜
岡島:では、引き受けて頂けるということですね。
高守:はいっ、全力でお守りしますし、犯人の逮捕にも努めます。
岡島:それは頼もしい。では、我々も組の衆を総動員し…
黒岩:おっと、それはやめてくれ。
岡島:何故?
黒岩:お前さん達は、俺らに、警護頼んでんだ。徹底的に協力してもらう。それが飲めねぇつーなら、この話は無しだ。
岡島:なるほど…。若、いかが致します?
信一:え〜っ、僕よく分かんないよぉ。まぁ僕が無事ならそれでいいわけだし、仁さんの言うとおりにして。
岡島:…かしこまりました。
黒岩:ほんじゃまず、ボンボンにはしばらくホテル住まいをしてもらうかね。
信一:わぁ〜い楽しそう!
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:都内ホテル スイートルームの一室
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信一:あああああああ〜たーいーくーつーだー
高守:和久井さん!あなたは命を狙われています。文句ばっかり言ってないで、少しは大人しくしていて下さい。
信一:ごめんなさい…。でも……たーいーくーつーだー
高守:まったく緊張感がないですね…。
信一:この部屋には今、僕と高守さんだけ。高守さんに緊張も何もないでしょう?それにもう3日経った。ホテル住まいにも、あなたの警護にも慣れた。…どころか退屈で…僕死にそうだよ!!
高守:でも、ここから出すわけにはいきませんよ?
信一:ん〜それなんだけどさ、ずーっとここにいても多分犯人は手出しできないだけで、解決にはならないと思うんだよねぇ
高守:……ん?…うん、たしかに。
信一:でしょ?でしょ?だ〜から、犯人逮捕のために外をウロウロしようよ。
高守:う…ん?…ダメですよ!そんなの危険です!
信一:ええ〜っ今、「たしかに」って言ったでしょ?
高守:万が一のことがあったらどうするんですか!
信一:大丈夫だって。そのための犯罪対策課でしょう?
高守:それは…そうですけど…
信一:このまま一生ホテル暮らしってわけにもいかないんだからさぁ
高守:う……
信一:僕、一生犯人に怯えて暮らすの嫌だなぁ〜…。
高守:うう……
黒岩:バカ野郎!何丸め込まれてんだ!おめぇは!(高守の頭をはたく)
高守:いたーっ!何するんですかぁ!
黒岩:おめぇが主導権握らなくてどうすんだ、ばか。
高守:うう…すみませんでしたぁ…
信一:仁さん、いらっしゃい。
黒岩:ボンボン、オメェはボンクラなんだか、頭が回るんだかよく分からねぇな。
信一:そう?あっ!それより、買ってきてくれた!?
黒岩:おう、こりゃもはや俺スペシャルと言っても過言じゃないぞ。おらっ(テーブルに買ってきたものを置く)
信一:わっ!これが豚玉 明太、チーズ、ネギ増しの餅増しましかぁ〜!えっと、箸〜…あった!いっただっきまーす
黒岩:それにしてもすげぇな、この部屋。
高守:和久井さんの方で支払ってグレードアップしたんですよ。
黒岩:おお、何部屋あるんだ。
高守:このリビングの他に寝室が2つあります。お陰様で寝室は別という高待遇の警護をさせてもらってます。
黒岩:ふーん
高守:あ、あとですね、お風呂にジャグジーまでついてるんですよ!
黒岩:贅沢なこった。高守、遊びじゃねーんだぞ
高守:は…はいっ!
信一:おいしいっ!仁さんこれサイコー!
黒岩:おめぇら…もう少し気を引き締めろ。いくら外に出なくていいからってな。
岡島:それが、そういうわけにも行かなくなりました。
高守:わっ!!びっくりした
信一:岡島、ハロー。
岡島:若。ご機嫌麗しゅう(頭を下げる)
黒岩:行かなくなったって…どういうことだ。
岡島:先程、光荻(みつおぎ)様が逝かれました。
信一:そう。とうとうおじいちゃん死んじゃったか〜
岡島:先代は、跡目は信一様に継がせるとのご遺言を残されましたので、一刻も早く下々までこれからの頭は若であると知らしめなくては…
黒岩:内部の混乱を招くってことか。
岡島:ええ。この機に乗じて、我こそが時期頭だと調子に乗る輩に釘を刺さねばなりませんから。
黒岩:で、どうするんだ?
岡島:若には、先代の葬儀と、襲名の集まりに参加していただきます。
信一:わ〜外に出られるんだね!いいよ、いいよ〜
高守:ちょ…おじいさんが亡くなったんですよ?
信一:そうだね。でも僕には関係ないよ。父さんが死んで、兄さんが死んで、たまたま僕が生きてたから、僕に役目が回ってくるだけ。おじいちゃんの顔だって小さい頃に見たきりだもん。何も悲しかったりしないんだよね。瀧本組に愛着があるわけでもないし、本当にどうでもいいの。
岡島:…では、私は葬儀などの手配を進めますので。
信一:うん、よろしく〜
黒岩:お、岡島。俺も出る。詳しいことを打ち合わせせんといかんしな。
岡島:では、警視庁までお送りしましょうか?
黒岩:ヤクザの車でか?そりゃ勘弁だ。
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:エレベーターに乗り込んだ岡島と黒岩
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黒岩:おめぇも大変だな、ボンボンのお守りも。
岡島:いえ、これも仕事ですので。
黒岩:ま、ボンボンを盾に、今後はお前の天下っつーことだな。
岡島:なんです?それ。
黒岩:お?いや…腹の内は見せねぇってか。
岡島:……私はね、どうしようもないクズだったんです。私がいようがいまいが関係ない両親の元に生まれて、望み通り家を飛び出して、しょうもない輩に喧嘩を吹っかけ返り討ちに遭い、路地裏で死にかけていたところを先代に拾われた。学もつけてもらい、喧嘩も強くしてもらい、重用していただいた。…経験から身につけた、このポーカーフェイスは自慢です。私はね、瀧本が生き残るためなら命すら惜しくないんですよ…。甘く見ないで下さい。
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:家具が一切置かれていない部屋。信一と高守が、後ろ手に縛られている。
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高守:…っ…ん…
信一:あっ!高守さん、気がついた!?…良かったぁ
高守:ん…。っ!ここは!?
信一:僕にも分からない。多分どっかのマンションの一室だと思う。
高守:…頭がぼーっとしていて…
信一:僕達は、おじいちゃんの葬儀に行くために予定通りホテルを出た。
高守:ええ…。
信一:そして、手配されていたバンに乗り込んだところで、僕は初めから乗っていた何者かに袋を被せられ、手錠で自由を奪われた。
高守:……
信一:高守さんは、バンを覗くような体勢でいたところ、後ろから頭を殴られて車になだれ込むように押し込められたんだろうね。
高守:なるほど…だから頭が痛いと…。
信一:大丈夫?ひとまず意識が戻って一安心だけど…
高守:多分大丈夫です。それより早く、黒岩さんに知らせないと!
信一:う〜ん…それがねぇ
高守:なんですか?
信一:スマホは没収されてしまいました。あと、高守さんのピストルもおそらく…
高守:そんなぁ…!
信一:まぁ、焦らず時を待とう。
高守:随分落ち着いたものですね。
信一:まぁ僕は、瀧本組の次期当主だからねぇ
高守:……。私達をどうするつもりなんでしょうか。
信一:ん〜そこだよね。すぐには殺さないっていう目的。
高守:何か、和久井さんしか知り得ない組の情報を得るためとか…
信一:見せしめにどこかで殺人ショー的に僕を殺して、僕の派閥を黙らせたいか…
高守:ひえ…っ
信一:あとは身代金目的かなぁ
高守:身代金…
信一:僕は、次期頭だからねぇ。巨額の金が動くわけだよ
高守:岡島さんなら、間違いなくポーンと払うでしょうしね
信一:……そうだねぇ。ま、僕の部下がうまくやってくれるさ。
高守:黒岩さんもきっと助けてくれます。
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:外から喧騒が聞こえドアが開く
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岡島:若!!ご無事ですか!?
信一:岡島。遅かったね。
岡島:犯人グループとの交渉が長引きました。犯罪対策課には身代金を出すようにと言われたのですが…
高守:交渉に応じず、ここに乗り込んで来たんですか!?
黒岩:まったく。先走りやがって。見張りのやつ全員一人でのしちまった…
岡島:そいつらの拘束はお任せしますよ。黒岩さん、若、本当にご無事で良かった。
信一:岡島、一人で来たの?
高守:すごい…強いんですね。
岡島:先代に一通りの喧嘩は叩き込まれておりますから。さぁ、参りましょう若。
信一:……岡島、やっぱり僕の右腕は岡島しかいないよ。おじいちゃんびいきの岡島をこのまま僕の下に付けてるのもどうかなって実は思ってたんだけど。これからも僕の役に立ってくれるよね?
黒岩:影ボスの誕生ってこったな。
岡島:私は、この瀧本組に育てていただいた恩義があります。それを若の下でお返しできたら…
信一:ありがとう。
岡島:いいえ。若と瀧本の為ならば、この岡島、命すら惜しくはございません。
信一:……ねぇ岡島、ここを出る前に、僕の質問に2つ答えてくれる?
岡島:なんでしょう?
信一:僕も高守さんもスマホとられちゃってね、犯人だって馬鹿じゃない。ここらへんには置いてないかキチンとGPSは切ってあると思うんだ。…どうしてここが分かったの?
岡島:ああ、そんなことですか。若の左耳のピアス、それには発信機が付いているのですよ。若がどちらにいらっしゃるか分かるようになっているんです。
信一:ふーん…。そうなんだ。おっかしいなぁ〜この発信機、ホテルに泊まる前には僕が取り出して壊しちゃってるんだよね。
高守:え!?和久井さん?
信一:2つ目の質問!岡島、その胸ポケットに入ってる注射器は、なあに?
岡島:……
信一:答えろ。
岡島:……
信一:言わないなら、僕の答えを言うよ。まずひとつ、僕らの居場所が分かったのは、お前がここに閉じ込めるよう指示を出した張本人だったから。ふたつ、注射器の中身は僕を殺すための毒物…ってところかなぁ〜。ここに助けに入ったお前に僕が感謝してこれからも重用すると言わなければ、使うつもりだったんでしょう?
黒岩:岡島。おめぇ、本当にボンボンを?
岡島:殺すわけないじゃないですか。私は若をとても大事にしてきたんですから…。
高守:そう…ですよね
信一:お前が僕をよく思っていないことくらい、ボンボンの僕にも分っていたよ岡島。殺人予告が届いたときから、お前が何か仕掛けてくるって予想してたんだ。お前が動くのはきっと、お前の敬愛するおじいちゃんが死んだときだって。
岡島:…この薬物は、人間を愚か者に変えてしまう薬。とでも言いましょうかね。幼児に戻すような薬ですよ。「殺すわけがない」に何の矛盾もありません。
高守:そんなもの…どうして?
岡島:私は、瀧本組を第一に考えて生きてるんですよ。頭の、光荻様のためなら、若の面倒だって喜んでみますとも。でも…愚鈍な孫は、この組なんてどうでもいいと…私のたったひとつの居場所を軽んじたんだ!!
黒岩:ふん。それでボンボンを生かしたまま、てめぇが頭をとろうと思ったってのか
岡島:いいえ。先代の遺言は絶対です。組を引き継ぐのは若です。
信一:でも、僕がお前の意のままにならないならば…幼児のような僕を頭に置いて裏で組を動かすつもりだったんでしょう?計画が失敗して…可哀想に。
岡島:(土下座をして)若!どうか、どうか組を無くさないでください!私は…私にはここが全てなんです!!
信一:そんなふうに顔を歪めて懇願することもできるんだね、自慢のポーカーフェイスはどうしたの?岡島
高守:和久井さん…
信一:……お前は、偽計業務妨害と僕と高守さんへの傷害、監禁と…色々やらかしているからね。次シャバに出てくるのはいつになるんだろうね。その時、お前の帰る場所が…ちゃんとあるといいけど。僕は愚鈍な孫だからね、組、潰しちゃうかもしれないなぁ〜。
岡島:若…。(床に脱力し伏せる)
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:鉄のお好み焼き屋店内 ボックス席 向かい合って座る黒岩と高守
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高守:和久井さんは、組をぶっつぶすつもりなんでしょうか
黒岩:どうだろうな
高守:黒岩さん、随分冷たくないですか?
黒岩:おめぇこそなんだ。ボンボンと数日寝食ともにして情が移ったか?
高守:そんなことはありませんけど…。っていうか、むしろ和久井さんが恐ろしくなりました。
黒岩:ボンクラじゃなかったってか?
高守:はい。発信機や、岡島さんの思惑に気づいていたってことですよね?それでも決定的な証拠を掴むまで馬鹿なふりしてたっていうか…
黒岩:ま、俺も見抜けなかったしな。
高守:黒岩さんは、単純ですから。
黒岩:あ?…ま、ボンボンは組をぶっ潰したりはしねぇだろ。あのしたたかさだ。先代が残したもんは有意義に使うだろうな。それに…岡島が帰る場所をちゃんと守っていくつもりなんだろう。
高守:どうして分かるんですか?
黒岩:お前の傷害と監禁、偽計業務妨害はちゃんと罪を償わせる気らしいが、自分への傷害と監禁については罪に問わないって言ってるらしい。
高守:ええ!?命狙われてたのに!?幼児がえりさせられそうだったのに!?
黒岩:ボンボンもやるよなぁ。岡島に恩売って、戻ってきたら右腕として働かせるつもりだぞありゃ。
高守:ええええ〜!?任侠全然わかりません!!奥が深すぎる…っていうか変人の集まりすぎます…。
黒岩:そうだな。お、今日はマヨネーズたっぷりにしたのか?
高守:はいっ!こないだのが美味しかったので!これからも黒岩さんのこと色々と真似させてください!!そしていつか警視庁検挙率ナンバーワンに!
黒岩:ははっ…俺の部下も変人の集まりにならねぇといいがなぁ