台本概要

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タイトル 甘々仕立て
作者名 瓶の人  (@binbintumeru)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 70 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 あまーい2人のあまーい日常
時々ほろ苦くても
この先も、いつまでも、ずっと家族

※注意事項
●過度なアドリブ、改変をしたい場合(キャラクターの性転換、セリフを丸々変える等)はご連絡下さい。
●男性が女性キャラを女性として、女性が男性キャラを男性として演じる際や語尾等の軽微な改変はご連絡不要です。
●配信等でご利用される場合は、可能であれば作者名、作品名、掲載サイトのURLを提示して頂けると幸いです。
●全力で楽しんで下さると幸いです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
367 深田尊(ふかだ たける)21歳~ 料理が出来て要領のいい優男 人当たりが良く、人たらしな一面も
366 笠間栞(かさま しおり)19歳~ 明るく、笑顔の素敵な愛嬌のある子 料理は壊滅的に下手、現在修行中
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
尊:「ねえ?しーちゃん?」 栞:「んー?」 尊:「そろそろどいてくれない?」 栞:「なーんでー?」 尊:「いや、買い物に行きたいからさ…」 栞:「んー…やだ。」 尊:「なんでよ?」 栞:「今いいところだし。」 尊:「漫画は後でも読めるでしょ?っていうかそこじゃなくても読めるじゃん。」 栞:「いーやーなーのー。」 尊:「なんでそんな駄々こねるのよしーちゃん。」 栞:「だって、たーくんに膝枕されてる状態で読みたいんだもん。」 尊:「はあ……」 栞:「膝枕…嫌だった?」 尊:「違うよ。」 栞:「じゃあ、なに?」 尊:「だって、しーちゃんにそんな風に言われたら…さ。」 栞:「そんな風?」 尊:「だから!俺に膝枕されてる状態でーって可愛く言われたらなんも言えなくなるじゃん。」 栞:「え?なーんだ。たーくん照れてたんだ?」 尊:「~~っ!そうだよ、そりゃ照れるでしょうが!」 栞:「えー?たーくん可愛いー!」 尊:「だー!もういいから!もう、買い物行ってくるけど何かいる?」 栞:「んー、じゃあたーくんの愛!」 尊:「いつもあげてるでしょうが。」 栞:「それもそうでした!じゃあ、ポテチ買ってきて!」 尊:「おっけー、じゃあ大人しく待っててね。」 栞:「もう、ペットじゃないんだからちゃんと待ってますよー!」 尊:「じゃあ、行ってくるね。」 栞:「いってらっしゃーい!」 0:部屋から出る尊 栞:「……行っちゃった。人が一人いなくなるだけで部屋がすごく広く感じるなぁ……はやく…帰ってこないかな…」 0:  0:  0:  尊:「さってと…買い物はこんなもんでいいかな?今日はしーちゃんの大好物の肉じゃがだから、喜んでくれるといいな。」 0:  0:  0:  栞:「時計の音って普段は気にならないのに、こういうときだけ大きく感じる。すごく孤独って感じる……」 0:  0:  0:  尊:「しーちゃんが居なかった時の俺ってどうやって過ごしてきたんだろう。今じゃすっかり、しーちゃんありきの生活になっちゃったもんなぁ…早く顔が見たい…」 0:  0:  0:  栞:「まだ、帰ってこないのかな…寂しいな…」 0:玄関から扉を開ける音がする 尊:「ただいまー!」 栞:「あ!たーくん!!」 尊:「しーちゃんただいま、ちゃんと待ってられた?」 栞:「当たり前じゃん、私だし!」 尊:「えー?しーちゃんだから心配なんだよ?」 栞:「どーいうことー?」 尊:「そういうこと。」 栞:「なにそれ、わかんないー!」 尊:「はいはい落ち着いてしーちゃん。今日の夕食はね、しーちゃんの大好きな甘めの肉じゃがだよ。」 栞:「え、ほんと!?やったー!」 尊:「はは、すぐ準備するからね。」 栞:「あ、ねえねえポテチはー?」 尊:「もちろん買ってきたよ。」 栞:「やったー!今食べていい?」 尊:「ごはん前はダメでーす。」 栞:「えーーー!だめぇ…?」 尊:「あ…う……もう……少しだけね!」 栞:「やったー!たーくん大好き!」 尊:「ったく…俺も大好きだよしーちゃん。」 0: 尊:【N】彼女の甘い声と甘い仕草は、俺の心を甘く仕立てる 栞:【N】彼の甘い顔と甘い香りに、私の気持ちは甘く蕩ける 尊:【N】甘い2人の間にも、時々ほろ苦い時間はやってくる 0: 0: 0: 栞:「ねえ、たーくん。」 尊:「なに?しーちゃん?」 栞:「1つ聞きたいんだけどさ…」 尊:「うん?」 栞:「私に何か隠し事してない?」 尊:「隠し事…?」 栞:「うん、隠し事。」 尊:「……何もないよ?」 栞:「本当に?絶対?」 尊:「う、うん…」 栞:「そっかぁ……」 尊:「急にどうしたの?」 栞:「うん…私ね、この間たまたま見ちゃったんだけどさ…」 尊:「うん。」 栞:「たーくん、女の人と一緒にお買い物してなかった?」 尊:「え…?」 栞:「その反応…やっぱり見間違いじゃなかったんだ…」 尊:「…いや、うん。買い物してた…」 栞:「なんでさっき隠したの…」 尊:「それは…」 栞:「そっか、そう…なんだ……浮気…してたんだ。」 尊:「ち、違うよ!浮気じゃない!隠したのは…その、ごめんだけど……あの人は職場の先輩で、少し買い物に付き合ってもらってたんだよ!」 栞:「あんなに仲良さそうなのに何もないの?」 尊:「何もやましいことはしてないよ。」 栞:「お買い物はその女の先輩じゃないとダメだったの?」 尊:「まあ、うん、ダメってわけじゃないけど…買い物の内容的に、その先輩の方がいいかなって思ったんだよ。」 栞:「…そっか。何買う予定だったの?」 尊:「それは…」 栞:「言えないんだ?」 尊:「今言わなくちゃダメ、かな?」 栞:「言えないなら…いいよ…」 尊:「…ああ、もう…!分かった言うよ!」 栞:「いいよ、無理しなくて。」 尊:「ちょっと待っててね。」 栞:「だからいいって。」 尊:「いいから、まってて。」 栞:「………うん…」 0:何かを取りに行く尊 尊:「お待たせしーちゃん。」 栞:「…たーくん、その箱は何?」 尊:「開けてみてよ。」 栞:「いいの?」 尊:「いいから。」 栞:「うん……わあ、綺麗な指輪。」 0:箱の中に指輪が入っていた 尊:「それ、ちょっと薬指にはめてみてよ。」 栞:「え?私がはめるの?」 尊:「他に誰が居るのさ?」 栞:「う、うん……わぁ…ピッタリだ。」 尊:「よかった、合うかどうか少し不安だったんだ。」 栞:「え?」 尊:「買いに行ったのはその指輪だったんだよ。」 栞:「どういう事?」 尊:「もう、しーちゃん忘れたの?もうすぐしーちゃん誕生日でしょ?」 栞:「…あ……」 尊:「誕生日プレゼント何が良いかなって悩んでたら、先輩が相談に乗ってくれてさ。それで探しに行ってたんだよ。」 栞:「そうなんだ…」 尊:「サプライズしたかったからさっき嘘ついちゃった、ごめんね。」 栞:「…ううん、私こそちゃんと話を聞かなくてごめんね…」 尊:「しーちゃんに指輪は一度もあげたことなかったし、デザインとかは俺が選んだから不安なんだけど…どうかな?」 栞:「うん、凄くかわいい。でもどこかで見たような…」 尊:「良かった…実はそれ、俺とお揃いのペアリングなんだよ。」 栞:「え?あ…ほんとだ……気が付かなかった…」 尊:「ははは、これで、しーちゃんが他の人に取られる心配が少し減ったね。」 栞:「もう、たーくんてば……ごめんねたーくん。」 尊:「ん?」 栞:「疑ったりしてごめんなさい…先輩さんにも悪いことしちゃった。」 尊:「いいよ、もう謝らなくて。俺もちゃんと言わなかったのが悪いんだし。」 栞:「ううん、私が感情的にならなければ…」 尊:「いやいや俺が…」 栞:「ううん、私が…」 尊:「………。」 栞:「………。」 尊:「…っぷ。」 栞:「ふふ。」 尊:「ははっ。」 0:お互い顔を見合って笑う 栞:「なんか、笑えて来ちゃったね。」 尊:「そうだね、なんかおかしくなっちゃったね。 尊:「…そうだ。ねえ、しーちゃん?」 栞:「なにたーくん?」 尊:「今度さ、一緒に指輪を見に行かない?」 栞:「え?指輪?もう指輪あるのに?」 尊:「うん、それとは別に婚約指輪を選びたいなって思ってさ。」 栞:「婚約指輪…?それって…」 尊:「そろそろちゃんと考えないとってずっと思ってたんだ。」 栞:「たーくん…」 尊:「しーちゃん、こんな俺だけどこれからもしーちゃんの隣に居ていいですか?」 栞:「たーくん……もちろんだよ…?むしろ居てくれなきゃ嫌だよ…」 尊:「うん、良かった……大好きだよしーちゃん。」 栞:「私も、大好きだよ。たーくん、大好き…。」 0: 0:その日の夕方 0: 栞:「たーくーん。」 尊:「んー?なにー?」 栞:「今日のご飯何ー?」 尊:「肉じゃがだよー。」 栞:「ホント!?じゃあ手伝うー!」 尊:「え、いいよしーちゃんはゆっくりしてて。」 栞:「やだー!何したらいい?何切る?」 尊:「えー、もうしょうがないなあ…じゃあニンジン切ってくれる?」 栞:「任せて!」 尊:「ちゃんと皮剥くんだよ?」 栞:「分かってるって!」 尊:「でもどうしたの?急に手伝いなんて?」 栞:「私も料理できるようになりたいの!」 尊:「なんでまた?」 栞:「だって、たーくんに美味しいご飯作ってあげたいんだもん…」 尊:「……。」 栞:「な、なんで黙っちゃうのー?」 尊:「いや、可愛いなって。」 栞:「変なところで可愛さを感じないでよたーくん!」 尊:「あはは、でもそっかありがとうしーちゃん。そしたら今日の肉じゃがはいつもより張り切って作らなきゃね!」 栞:「たーくんの肉じゃが早く食べたーい!」 尊:「えー?手伝ってくれるんじゃないのー?」 栞:「たった今から、食べる専門になったのです!」 尊:「ったくもう…早く作るから待っててね。しーちゃんの大好きな甘めの肉じゃがを、ね。」 0: 0: 尊:【N】甘めの肉じゃがが大好きな彼女、それを食べている彼女の笑顔を見ていると、ふと思い出す 尊:彼女と出会ったあの日の事を、彼女の笑顔を見たあの時の事を… 栞:【N】甘く仕立てた肉じゃがは、彼の得意料理の1つであると同時に、私の大好きな料理の1つ 栞:そして、口に運ぶとたくさんの思い出が味と共に広がっていく… 0: 0: 0:寝室でアルバムを広げている栞 尊:「しーちゃん、ほら早く寝るよー。」 栞:「んー、ちょっとまってー!」 尊:「何してるのさ、しーちゃん?」 栞:「ちょっと昔のアルバム見てたら懐かしくなっちゃって。」 尊:「アルバム?」 栞:「うん、私たちの大学時代とかの!」 尊:「あー、そんな時期もあったね。」 栞:「もー、たーくんなんかその言い方おじさんっぽいよ!」 尊:「ははは、ごめんごめん。」 栞:「ふふ、じゃあ寝よっか。」 尊:「うん、おやすみしーちゃん。」 栞:「おやすみたーくん。」 尊:「………大学時代か…。」 0:  0:数年前 0:  尊:【N】俺としーちゃんが出会ったのは大学生の時だった。 0: 尊:「ねえ、キミ。そこのキミ!ハンカチ、落としたよ!」 栞:「え?あ、すみません…ありがとうございます…」 尊:「はは、いいよいいよ。それよりさ、そのハンカチ可愛いね。」 栞:「え?あ、はい。ありがとうございます?」 尊:「猫、好きなの?」 栞:「はい、好きですけど…」 尊:「俺も猫好きなんだ。良く大学近くの猫カフェに行ってるんだよね。」 栞:「はあ…そうなんですね。あの、私…」 尊:「あ、ごめんね引き止めちゃって。」 栞:「いいえ…ハンカチありがとうございました。それじゃ。」 尊:「うん、じゃあね。」 0: 尊:【N】最初の頃のキミは、とても静かでどこか冷たい印象だった。だけど、あまり目立たないはずのキミは俺の中で何故か色濃く記憶されていた。 0: 栞:「いらっしゃいませ…あ。」 尊:「…あ。」 0: 尊:【N】休日、行きつけのカフェが休みだったので普段とは違うカフェに入ったら彼女と再会した。 0: 尊:「…驚いたな、キミここでバイトしてるの?」 栞:「はい。」 尊:「そうなんだ。お店のエプロン、似合ってるね。」 栞:「……ありがとうございます。ご注文はお決まりですか?」 尊:「あー、そうだったね。ブレンド1つ。」 栞:「かしこまりました。少々お待ちください。」 尊:「…ここのカフェ、雰囲気良いな…客もまばらで落ち着くし。」 栞:「…それは誉め言葉として受け取ってもいいですか?」 尊:「うわ!あはは…ご、ごめん。」 栞:「別に、いいですよ。ブレンドお待たせいたしました。どうぞ、ごゆっくり。」 尊:「あ、まって。」 栞:「はい?まだ何かご注文でも?」 尊:「あのさ、名前教えてくれない?」 栞:「……はい?」 尊:「いや、同じ大学だしここでまた会えたのも何かの縁っていうかさ…嫌ならいいんだ。」 栞:「……笠間です。」 尊:「笠間さんかぁ…ありがと!俺は深田尊、たけるはとうといって書くんだ。よろしくね!」 栞:「そうですか…とても綺麗な名前ですね…。」 尊:「自分も気に入ってるんだこの名前。」 栞:「そうなんですね…あ、すみません。呼ばれてしまいましたので私はこれで。」 尊:「あ、うん。ごめんね仕事中に。」 栞:「いえ、ごゆっくりどうぞ。」 0: 尊:【N】それからも俺は彼女の働くカフェに通うようになっていき、少しずつだけど話すようになり彼女の事を色々知ることが出来た。 尊:本が好きだとか絶叫系の乗り物が苦手とか意外な所を知ることが出来て、話せてとても嬉しかった。 0: 尊:「ねえ、笠間さんの好きな食べ物ってなに?」 栞:「…好きな食べ物…ですか?」 尊:「うん、俺料理好きでさ。何か作ってこようかなってさ。やっぱり女の子って甘いのとか好きなのかな?」 栞:「女性だからって、甘いのが必ずしも好きとは限りませんよ。」 尊:「はは…そうだよね…」 栞:「……そうです、少なくとも私は甘いのは苦手ですし。」 尊:「あ、そうなの?」 栞:「はい。」 尊:「そっか…じゃあ今度甘くない何かを作ってくるね!ちなみに、好きな料理とかある?」 栞:「いえ、これといってなにもありません。」 尊:「そうなの?ハンバーグとかは?」 栞:「無いです…でも強いて言えば………肉…じゃがですかね…。」 尊:「肉じゃが?」 栞:「あ、いえ、なんでもありません。」 尊:「そう…?あ、もうこんな時間…ごめん大学に行く用事があるんだった…!じゃあ、俺行かないとだから!また来るね。」 栞:「…はい、お気を付けて。」 0: 尊:【N】俺はその時の彼女の悲しげな表情が忘れられずにいた。でも、自分が踏み込んで聞いていいのかと思い何も聞けなかった。それから数日後再びカフェに行った時そこには彼女の姿はなかった。 0: 尊:「え、笠間さん数日も来てないんですか!?体調を崩したって…あの、すみません…彼女の住所教えてくれませんか?」 0: 尊:【N】家にまで行くなんて怖がられるかもしれないし、距離を取られるかもしれない。自分でもなんでこんな行動を取ったのかも分からない。 尊:それでも居ても立っても居られなかった。それだけ彼女の存在は自分の中で大きくなっていた。 0: 栞:【N】真っ暗な部屋、静かな部屋、孤独な部屋、看病なんてしてくれる人はいない。このまま消えてしまいそうになる。 0:咳をしている栞 栞:「…体調崩してると余計にマイナス思考になる…だめだね………明日は大学に行かないと…大事な講義があるし……ケホッ 栞:バイトも…行かないと迷惑かけちゃうし…ケホッケホッ……深田さん、心配してるかな…なんてそんなわけないよね。」 0: 栞:【N】何故か体調を崩してからの数日、頭の中で深田さんをよく思い浮かべるようになっていた。 栞:彼はただの同じ大学に通う生徒、バイト先によく来る常連客。ただそれだけなのに気が付けば彼は、私の心を埋め尽くしていた 0: 栞:「……会いたいな…って何を思ってるんだろ私…ん?誰だろ…」 0: 栞:【N】すると不意に部屋のインターホンが鳴った。 0:  0: 尊:「教えてもらった住所はここの辺りだよな…このアパートで合ってるはずだけど……笠間…あ、この部屋だ…なんか緊張するな……すーはー、よし押すぞ…!」 0: 尊:【N】勇気を振り絞ってインターホンを押すと中から足音が聞こえ玄関がそっと小さく開いた。 0: 栞:「はい、どなた……で…しょう、か……え?」 尊:「あ、ど、どうも。」 栞:「な、なんで…深田さん…どうしてここに…」 尊:「今日カフェに行ったんだけどさ、笠間さんが体調崩してるって聞いて…その迷惑だとは思ったんだけど、マスターから住所を聞いてお見舞いに来ました…」 栞:「そ、そうなんですね…ありがとうございます…」 尊:「あのさ、これ良かったら。ゼリーとか飲み物とか入ってるから!じゃ、じゃあお大事にね!」 栞:「あ、ま、待って下さい…!」 尊:「え?」 栞:「せっかく来たんですから…その、上がってって下さい…」 尊:「へ?」 0:招かれて室内へと入る 栞:「…汚いですが…どうぞ…」 尊:「そんな、すごく綺麗。俺、女の子の部屋に上がったのなんて初めてだよ。」 栞:「あの、そんなじろじろ見ないでください。」 尊:「あ、ごめん…」 栞:「お茶淹れますね…ケホッ」 尊:「あー、いいよいいよ!俺やるから!笠間さんは休んでてよ!」 栞:「いえ、お客様にそんなこと…あっ」 0:よろめく栞を受け止める尊 尊:「ほら、病人は休んでなさいっての。」 栞:「……わかりました…」 0:お茶をテーブルに置く尊 尊:「はい、どうぞ。」 栞:「…ありがとうございます…」 尊:「どういたしまして。」 栞:「………あの…聞いてもいいですか?」 尊:「なに?」 栞:「なんでお見舞いに来ようと思ったんですか?出会って間もない、行きつけのカフェ店員の私のお見舞いなんかに。」 尊:「…聞きたい?」 栞:「もったいぶらないで下さい。」 尊:「もったいぶってるんじゃなくて、恥ずかしいんだよね。」 栞:「…?どういうことですか?」 尊:「初めてキミ、笠間さんと大学で会ったときにさ。なんでか分からないけどすごく印象に残ってさ。」 栞:「印象…ですか?」 尊:「そう、悲しそうっていうか寂しそうっていうかさ。誰も寄せ付けない印象っていうのかな。それがすごく俺の中に残ったんだ。」 栞:「……。」 尊:「で、たまたま入ったカフェでキミと再会してさ、改めて笠間さんが俺の中でより濃くなっていったんだよ。もっと笠間さんの事が知りたい、何が好きで何が嫌いで何をしてると楽しいのか知りたくなったんだ。」 栞:「…そうですか。深田さんはそれを知ってどうするんですか?」 尊:「どうする…うーん、キミと共有したいかな?」 栞:「共有…ですか?」 尊:「うん、辛いことも、楽しいことも共有して一緒に過ごしたいなって…」 栞:「それはどういう…」 尊:「えっと、つまりね……笠間さん。俺はキミの事が好きなんだ。」 栞:「………好き…?」 尊:「もちろん、異性としての…」 栞:「ごめんなさい。」 尊:「え?」 栞:「私は、誰かと付き合うつもりはないんです。」 尊:「あ…」 栞:「私は誰とも付き合えません。そんな資格はないんです。」 尊:「資格?」 栞:「深田さんには…関係のないことです…」 尊:「……そっか。」 栞:「…ごめんなさい……」 0:しばしの沈黙 尊:「…あ、そ、そうだ。キッチン借りてもいい?」 栞:「え?」 尊:「ごはん作り置きしておくからさ、食べれるようになったら食べてほしいんだ。」 栞:「え…?」 尊:「材料買ってきてよかったよ、腕によりをかけて作るからね。」 栞:「あの別に…そこまでしなくてもいいんですよ。」 尊:「いいや、するよ。」 栞:「……。」 尊:「これは、キミの事が好きだからとかじゃない。人としてのただのお節介だ。気分が落ち込んでる時だからこそ美味しい料理を食べるんだ。気持ちのこもった料理を食べれば心も体も元気になるんだよ。」 栞:「……そういうものですか…」 尊:「そういうもんなの。よーし、これからキミが前に好きって言ってた肉じゃがを作るよ。」 栞:「…肉じゃが…ですか。」 尊:「嫌だった?」 栞:「いえ…その…」 尊:「どうしたの?」 栞:「えっと……図々しいかも知れませんが…その…」 尊:「いいから、言って?」 栞:「…甘めってできます…?」 尊:「甘め?肉じゃがの甘め?でも甘いのは苦手って…」 栞:「…いえ、何でもないです…」 尊:「…ふふ、おっけー!任せて、甘めの肉じゃがを丹精込めて作るね。」 0: 0:肉じゃがを作り終えた尊がこちらを向く 0:  尊:「完成したよ、お腹がすいて食べられそうだったら食べてね。じゃあ俺はここで…」 栞:「あ、あの…」 尊:「ん?なに?」 栞:「あの…その…今…食べたい…です…」 尊:「え?大丈夫…?食べられそう?」 栞:「はい…大丈夫です。」 尊:「わかった…はい、どうぞ。召し上がれ。」 栞:「ありがとうございます。いただきます……っ!」 尊:「どうかな?」 栞:「……おいしい…」 尊:「はは、よかった。」 栞:「…懐かしい味です……すごく…すごく美味しい…です…」 0:涙をポロポロとこぼす栞 尊:「え、笠間さん?どうしたの?なんで泣いて…」 栞:「いえ、すみません何でもないです…」 尊:「そんなわけないじゃないか…どうかしたの?」 栞:「……この味そっくりなんです…母の作った肉じゃがに…」 尊:「笠間さんのお母さんの…?」 栞:「母は…とても料理が上手な人で、特に肉じゃがが得意で私も母の作った肉じゃがが大好きでした。」 尊:「でした…?」 栞:「私が高校に上がった頃でした。母は脳梗塞で倒れ…亡くなりました。父は母が倒れたショックで心を病み、去年に母の後を追うように身を投げこの世を去りました。」 尊:「………そんな…」 栞:「私は母が亡くなった後に、懸命に父を支え一緒に母の分まで生きていこうと頑張りました。でも私の力だけでは父の心に空いた穴を埋めることは出来ませんでした。」 尊:「……。」 栞:「私まで後を追ってしまうと母も父も悲しんでしまうと思い、可能な限り自分の力で頑張って両親の分まで生きたい。そう思ってここまで頑張りました……頑張ったんですけどね…」 尊:「笠間さん…」 栞:「って…ごめんなさい。深田さんにこんな話を…忘れて下さい。」 尊:「……ねえ。笠間さん。」 栞:「なんですか…?」 尊:「俺に、笠間さんのことを支えさせてほしいんだ。」 栞:「…え?唐突に何を…」 尊:「一人で二人分背負ったらそりゃ体壊すに決まってる。だから、もう一人くらい支える人が居てもいいんじゃないかな?」 栞:「でも、深田さんは…」 尊:「関係ない?」 栞:「……。」 尊:「もう関係ないなんて言わせないよ。キミの話を聞いた以上、俺ももう関係者さ。キミを支える人になったって文句は言えないね。」 栞:「…深田さん…」 尊:「キミの心に空いた穴は俺が埋める、笠間さんの事が好きだから力になりたいのもある。でもそれ以上に放っておけないから。」 栞:「…つくづくお人好しですね……」 尊:「自分に正直なだけだよ。」 栞:「いいですね、私には無いです。正直になりたくてもなれません。」 尊:「たまには正直になってもバチは当たらないよ。」 栞:「そう…ですか?」 尊:「そうだよ。」 栞:「そうですか……そうですね…………深田さん。」 尊:「ん?なに?」 0:真っすぐな目で尊を見つめる栞 栞:「好き……あなたの事が…好きだと…思います。」 尊:「え…?思います…?」 栞:「突然ですみません、なんで急にこんな事を言ったのか自分でもよくわかりません。でも多分…私は深田さんの事が好きなんだと思います。ここに、深田さんが来る前までずっとあなたの事を思い浮かべていました… 栞:深田さんの中で私が大きな存在になっていたように、私の中でも深田さんは大きな存在になっていたんです…今急にではなく、以前からずっと。」 尊:「笠間さん…そっか…そっかそっか!へへ…嬉しいな。それは…めちゃくちゃ嬉しいな…!」 栞:「でも…私の中ではそれが好きなのかどうなのか、まだ整理が追い付いていません…なので…その…」 尊:「うん、わかってるよ。笠間さんの中で全部まとまってからでいいよ。それまで俺は待ってるから。」 栞:「……はい、ありがとうございます…」 0:  栞:【N】久しぶりに食べた甘い肉じゃがは、とっても甘くて、しょっぱくて、すごく美味しかった。母の作ってくれた肉じゃがのように温かくて、父のように優しい味で、冷え切った私の心を包み込んで、氷を溶かしてくれた。 0: 0: 尊:【N】笠間さんのお見舞いにいった日からしばらくして再びカフェを訪れると、彼女が笑顔で出迎えてくれた。 栞:「深田さん…!いらっしゃいませ。」 尊:「っ!笠間さん!もう体調が大丈夫なの?」 栞:「はいっ、おかげさまでもう元気になりました!」 尊:「そっか、ならよかったよ!それよりもなんか雰囲気変わった?」 栞:「そうですか…?でもそうですね…深田さんのおかげで心の突っかかりが取れた気がします、感謝してもしきれません。」 尊:「…そっか。お節介が役に立ったようで良かった。ずっと暗い顔してるより、笠間さんは笑顔が一番いいよ。すごくかわいい。」 栞:「え、ええっ!?そんな…ことないです……ああ、もう注文は何ですか!?」 尊:「はは…じゃあ……俺の事、下の名前で呼んで?」 栞:「…え?」 尊:「ほらほら。」 栞:「え?あの、ブレンドとかなにか…」 尊:「名前、呼んでほしいなぁ…」 栞:「……うう…わかりましたよ…た、たけ…」 尊:「たけ…?」 栞:「…る…さん…」 尊:「繋げて言ってみてよ。」 栞:「…たけ…るさん……」 尊:「よし、もっかい言おう!さん、はい!」 栞:「意地悪ですね…!」 尊:「ははは!そりゃ、栞ちゃんが可愛いからねー。」 栞:「んん!私の名前…!…もう………尊さん。」 尊:「あ、今…」 栞:「好きです。大好きです。」 尊:「………。」 栞:「あの…勇気出して言ったんですけど…黙らないでくれますか?」 尊:「…いや、キュンってしすぎて…固まってしまった…」 栞:「照れたんですか?」 尊:「当然でしょ!あーもう…ダメだ…抑えらんない…」 栞:「え?」 尊:「ごめん、気持ちが高まりすぎて待ってられない!」 栞:「な、なんですか?」 尊:「改めて言うね……俺と付き合って下さい。」 0:ぽかんとする栞、少し照れ笑いしながら 栞:「……はい、私で良ければ。」 0: 尊:【N】カフェのマスターと店内に居た数人の客に、歓声と拍手を贈られ俺たちは祝福されながら付き合い始めた。なぜかマスターは半泣き状態で俺に握手をしてきた。 尊:きっとマスターも1人で頑張っていた彼女の事を気にかけていたんだろう。そして、俺らは大学を無事卒業し就職をして同棲を始めた。 0:  0:現在 0:  尊:【N】しーちゃんは付き合い始めてからすぐに本来の明るさを取り戻して、いつもニコニコして太陽のように周りに活力を与える存在になった。 尊:それと同時に最初の頃では考えられないような甘えん坊さと寂しがり屋な一面も出て来るようになった。きっとこれは、両親を失って頼る相手が居なかった反動だと俺は思っている。 栞:「んん…たーくん……」 尊:「よしよし…俺はしーちゃんのそばにいるからね。」 栞:「…えへへ……たーくん……愛してるぅ…すーすー…」 尊:「俺も、愛してるよしーちゃん。」 0: 0:次の日の夕食 栞:「あーもう!じゃがいもの皮むき難しい!」 尊:「ははは、ほんと不器用だねしーちゃん。」 栞:「んー、たーくん剥いて!」 尊:「料理できるようになりたいんじゃなかったの?」 栞:「とりあえず工程だけ覚えることにします!」 尊:「妥協したなー。」 栞:「いいのー、もうお腹ペコペコだから今優先するのは私のお腹なのです。」 尊:「こりゃまたとんでもないわがままなお姫様な事で。」 栞:「それにせっかくの記念日だから、たーくんの肉じゃがが食べたいし!」 尊:「俺はしーちゃんの手作り肉じゃがが食べたいんだけど?」 栞:「それはまたいつかね!」 尊:「いつになるやら…」 栞:「あ、じゃあ皮を剥いたじゃがいもを切るよ!」 尊:「ケガしないでよー?」 栞:「大丈夫だって!…いたっ!」 尊:「言わんこっちゃない…ほらしーちゃんはリビングで待っててねー。」 栞:「むー。」 尊:「腕によりをかけて作るから待っててね、記念日特製の甘々仕立てな肉じゃがを。」 0:   栞:【N】私の心を埋めてくれたあなたに甘い温もりを 尊:【N】大切な存在になってくれたキミに甘い優しさを 0:  尊:「ねえ、しーちゃん。」 栞:「んー?」 尊:「大好きだよ。」 栞:「えへへ、私も大好き!」 0: 0: 尊:【N】甘い2人の甘い日常 栞:【N】甘い時間と甘い空気 尊:【N】この先も、続いていくと信じていた 栞:【N】でも、甘いだけの味なんてなかった 尊:【N】味が変わる、その瞬間は、少しずつ、音もなく近づいていた 0: 0: 0:食事後に夜道を尊と栞が並んで歩く 栞:「ごはんすっごくおいしかったね!たーくん!」 尊:「うん、すごくおいしかった!予約してよかったよ。」 栞:「あそこってなかなか予約取れないんだよね?よく取れたよね。」 尊:「たまたまキャンセル待ちで取れたんだよ。たまたま。」 栞:「そうなんだ!運がよかったんだねー!」 尊:「日頃の行いが良いからですね。」 栞:「えへへ、そうだね。たーくんは日頃の行いが良いからだね。」 尊:「そこは少しこう、ツッコミをね?じゃないと少し恥ずかしいよしーちゃん…」 栞:「えへへー。」 尊:「もう…」 栞:「ありがとねたーくん、連れてきてくれて。」 尊:「…うん、せっかくボーナス入ったし、たまには良い所でと思ってさ。」 栞:「えへへ、うれしい!ありがと!」 尊:「どういたしまして。」 栞:「ねえねえたーくん。ここ、すっごく綺麗に星が見えるね!」 尊:「ここら辺は街灯も少ないし、星がよく見えるんだよね。」 栞:「たーくんと綺麗な星空が見れて嬉しいな!ぎゅー!」 尊:「もう、そんなくっつかれると歩きづらいよー、しーちゃん。」 栞:「くっつくのダメ?」 尊:「うっ…」 栞:「ダメ?」 尊:「あー…もう!俺がその顔に弱いの知っててやってるでしょ!」 栞:「えへへ~、ぎゅー!」 尊:「まったくもう…」 栞:「たーくん大好き!」 尊:「俺も大好きだよしーちゃん。っとと…」 栞:「大丈夫たーくん?ちょっと寄っかかり過ぎちゃったかな?」 尊:「あ、ううん大丈夫だよしーちゃん。最近運動してないからね、筋肉が弱っちゃってるのかも。」 栞:「確かに、ちょこっとお肉付いちゃってるもんねー…ぷにぷに。」 尊:「あー!やめてしーちゃん!現実を突きつけないで!」 栞:「えへへ、じゃあ頑張って運動してください!そして私が寄りかかってもバランスが崩れない程度には筋肉つけてね!」 尊:「くう…頑張るよ。」 栞:「応援してるよ、たーくん。」 尊:「はは…ありがとしーちゃん。」 0: 0:後日、夕食の買い出し中 尊:「えーっと、じゃがいもじゃがいも…うん、これでいっか。あと必要なものあったかな。」 栞:「たーくんたーくん!」 尊:「ん?なに?」 栞:「はい、これ買ってー!」 尊:「ダメです、戻してきてください。」 栞:「えー!ポテチくらい良いじゃーん!」 尊:「この間買ったのがまだ残ってるでしょ?」 栞:「でもぉ…これ期間限定の味だもん…次来た時には無いかもだし……」 尊:「しーちゃん最近お菓子食べ過ぎだよ?」 栞:「でもたーくんみたいにお肉ぷよぷよしてないし!」 尊:「うぐっ…」 栞:「ね、ダメ?」 尊:「またそれ…」 栞:「たーくん…ダメ?」 尊:「~~っ!わかった、わかったよ…ほんとそれに弱いんだよなあ…情けない…」 栞:「えへへー!ありがとたーくん!大好き!」 尊:「なんか今回に関しては素直に喜べないよしーちゃん…」 栞:「じゃあ、パパっとお会計済ませちゃおー!」 尊:「はいはい。しーちゃんは向こうで待ってて。」 栞:「はーい。」 0:  栞:【N】たーくんと一緒に過ごすようになってもう数年、お互いに平日は仕事をして同じ日に休日を過ごす日々 栞:暗く寂しかった毎日は、たーくんと出会ったおかげで明るく楽しい毎日に変わった 栞:本当に毎日幸せ、この幸せがいつまでも続くといいな……そういえば、婚約指輪を作るって話を前にしたけど…その後は特にこれといって何もない…たーくんは…私との将来ってどう考えてるのかな… 0:  尊:「お待たせしーちゃん。」 栞:「お帰りたーくん!」 尊:「それじゃいこっか。」 栞:「うん!」 0:帰宅後、夕食の準備中 尊:「しーちゃん。気を付けてね?」 栞:「分かってるって、静かにしてて…」 尊:「う、うん…」 栞:「ここを…こうして…そのまま……」 尊:「ああ…危ない…」 栞:「んん!やっぱり難しい!ニンジンの皮むきできない!」 尊:「ピーラーで剥くだけなのになあ…」 栞:「んっ!たーくん続きお願いします!」 尊:「え、俺が続きやるの?」 栞:「私は味見係なのです。」 尊:「やっぱこうなるのかあ、じゃあ見ながら覚えてよね。いつかしーちゃんの肉じゃが食べたいんだから。」 栞:「任せて!」 尊:「期待してるからね?」 栞:「期待されました!」 尊:「はは、じゃあニンジンの皮剥いちゃうかぁ…っと…」 0:ニンジンを落とす 尊:「……落としちゃった。」 栞:「どうしたのたーくん?」 尊:「……。ううん。なんでもないよ、手が滑っただけ。」 栞:「そう?」 尊:「うん、じゃあ続きやっちゃうね。」 栞:「それじゃあ私は向こうでポテチでも食べながら待ってるね。」 尊:「しーちゃん。ここで見てなさい。ポテチもダメだからね?」 栞:「うう、はあい…」 0: 0: 0:数週間後 栞:「ねえ、たーくん?」 尊:「どうしたの?しーちゃん。」 栞:「なんか最近だいぶシュッとしてきたよね。運動してたっけ?」 尊:「んー、まあ…そうだね、実はあれから少し運動してたんだ。」 栞:「そうなんだ、でもちょっとやせすぎじゃない?もう少しお肉あってもいいと思うよ?」 尊:「そう?でも…そうだね、もう少し食べてお肉付けようかな?」 栞:「うんうん、じゃあさっそく今日のご飯の買い出しをしましょー!なにが良いかな?お肉付けるならやっぱりお肉だよね!」 尊:「はは、すーぐ食べ物の話をするんだからしーちゃんは。」 栞:「だって、食べ物を食べてる時って幸せじゃん?」 尊:「うん、そうだねー。」 栞:「それに加えて、たーくんのご飯を食べてる時が更に幸せなのです!」 尊:「お、それは嬉しいね。」 栞:「たーくんのご飯が毎日食べられて私は幸せだぁ~。」 尊:「なんかその言い方、おばあちゃんぽいよー?」 栞:「えへへ、でも幸せなんだもん。」 尊:「…うん、俺もしーちゃんにご飯を作れて幸せだぁー、」 栞:「ふふ、おじいちゃんぽいよ~?」 尊:「はは、幸せだからね?」 栞:「えへへ。」 尊:「じゃあ、買い物いこっかしーちゃん。」 栞:「ん!いこいこー!」 0:ふらつく尊 尊:「おっと…」 栞:「たーくん?大丈夫…?」 尊:「あーうん、ちょっとふらついただけ。」 栞:「…最近、物落としたりつまづいたりが多くない…?」 尊:「そう…かな?もしかしたら一気に瘦せたからかな…」 栞:「病院行ってみた方が…」 尊:「大丈夫大丈夫!寝たらすぐ治るよ!ほら、行こしーちゃん!」 栞:「え…あ、うん…」 0:  尊:【N】最近、手に力が入らない事が多くなり物を落とすことが多くなった。いや、手だけではない、足にも力が入らずふらついたりする事も。 尊:初めは過労によるものかと思っていつも以上に睡眠を取ったりもしてみたが、治る気配は無かった。 尊:その後に仕事の合間を縫って、病院に行ったら…聞いたことの無い病名を言い渡された。 0: 0:休日の朝 尊:「おはよう、しーちゃん。」 栞:「おはよう、たーくん。」 尊:「ご飯もう出来てるからね、顔洗っておいで?」 栞:「うん、わかった。」 尊:「あっ…」 0:食器を落とす 栞:「たーくん!?どうしたの!」 尊:「あ、あー…はは、お皿落としちゃった…」 栞:「ケガは?大丈夫?」 尊:「うん、大丈夫だよ。しーちゃんは顔洗っておいで?ここは俺がやっとくからさ。」 栞:「でも…」 尊:「大丈夫だって、ほら行った行った!」 栞:「…うん。」 尊:「………くそ…思ったより、早いな…」 0:  栞:「いただきます。」 尊:「いただきます。おかわりあるからね、たくさん食べてね。」 栞:「うん、ありがとたーくん。」 尊:「…ん、んぐ…もぐ」 栞:「…なんか食べづらそうだねたーくん…大丈夫?」 尊:「ん?ああ、うん…ちょっと口内炎が出来ちゃっててさ、食べづらいんだよねーはは。」 栞:「…ほんと?」 尊:「ほんとだよ?これが結構おっきいんだよね。」 栞:「たーくん…」 尊:「…しーちゃん?どうかしたの?」 栞:「どうかしたのは…たーくんの方だよ…」 尊:「しーちゃん…?」 栞:「見るからにおかしいの分かるよ、私だってバカじゃないよ?一緒に暮らしてるんだもん分かるよ。何を隠してるのか教えて?たーくん…」 尊:「………。」 栞:「たーくん…私じゃたーくんを支えるには頼りない…?まだ私は、お父さんを支えられなかったあの時の弱い私のままなの…?」 尊:「っ!そんな…ことはない!」 栞:「じゃあ…教えてよたーくん。」 尊:「……。」 栞:「ねえ…」 尊:「…っ……心配かけたくなかったから最後まで隠し通すつもりだったけど……無理があるよねそりゃ…」 栞:「……。」 0:悲しげな顔で語る尊 尊:「病気…なんだ、俺。」 栞:「…え………それは治るの…?」 尊:「難しいってさ……最後は、呼吸不全になって死んじゃうんだって。」 栞:「…っ!!」 尊:「筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)っていう病気なんだけど、俺みたいに若い人がなるのは珍しいんだってさ… 尊:どんどん手足の筋肉が衰えて物を取ったり歩いたりするのが困難になって、舌とか喉の筋肉も衰えて喋ることも呼吸も難しくなるんだって 尊:…はは、なんで…どうしてこんな病気に選ばれちゃったんだろうね…」 栞:「…たーくん…」 尊:「早ければ1、2年長ければ5~10年は生きたケースはあるみたい、進行を遅らせる薬も貰ってるから現状なんとかなる…でももう少し症状が悪化したら、入院かな。」 栞:「…入院……たーくん…私たち、これからなんだよ…これからなのに……」 尊:「ほんとにね…これからなのに、なんでだろうね……ごめんね…」 栞:「たーくん…!」 0:尊を抱きしめる栞 尊:「しーちゃん…ごめんね、病気になっちゃって…」 栞:「たーくん…たーくん……!」 尊:「ごめんね……」 0: 0:数週間後 尊:【N】しーちゃんに病気であることを告白して早数週間が経ち、あれから日に日に俺の手足は細くなり、力が以前より入りづらくなってきた 尊:飲み物や食べ物はまだ喉を通るけど、時折飲み込みづらさを感じることがある。 0:  尊:「えーっと、バッグバッグ…よいしょっと…おっとと…」 栞:「たーくん大丈夫?」 尊:「はは、大丈夫だよ。」 栞:「たーくん、私が買い物行くからお留守番してて?」 尊:「え、いやいいよ俺が行くよ?さすがにまだ大丈夫だって。」 栞:「大丈夫じゃないよ、今だってよろけたでしょ?私が行くから待ってて?」 尊:「今のは少しバランス崩しただけで…」 栞:「いいから!!」 尊:「っ!」 栞:「あ……えっとごめん……いいから…私が買い物行くから…じゃあ、まってて。」 尊:「あ、しーちゃん……なんでこうなっちゃうんだろうな…」 0:  栞:「なんでこうなっちゃうんだろう…私はただ心配で心配でとにかく心配で…たーくんを支えたくて……なのにあんな感情的になって声を荒げて… 栞:一番つらいのはたーくんなのに…早く帰って、笑顔見せなきゃだよね…私が落ち込んでちゃダメだよね。」 0:帰宅する栞  栞:「ただいま、たーくん。さっきはごめん…ね…?っ!?たーくん!?」 尊:「うう……」 栞:「たーくん!たーくん!!どうしたの、なにがあったの!?たーくん!!そうだ、救急車!!…もしもし、あの、えっと……!!」 0:  0:病室で尊、目を覚ます 尊:「…ん…」 栞:「っ!たーくん!?たーくん!私の事わかる!?」 尊:「しーちゃん…?あれ、ここは…っつう!」 栞:「大丈夫!?」 尊:「あ、ああ…うん、大丈夫…」 栞:「私が買い物から帰ったら、たーくん倒れてたんだよ?何があったの?」 尊:「倒れ…?ああ、そっか……しーちゃんを怒らせちゃったから、お詫びにお菓子でも作ろうと思ったんだよ。 尊:それで、上の戸棚から道具を取り出そうとしたら、足踏み外しちゃったみたい…」 栞:「……そっか…ごめんなさい。」 尊:「え?」 栞:「私、たーくんの事が心配で心配し過ぎて余裕が無くなってたの…それであんな大きな声上げちゃって……ごめんなさい…」 尊:「しーちゃん…ううん、いいんだ。俺が病気になんてならなきゃ、しーちゃんの余裕が無くなるなんて事なかったんだから。」 栞:「…私も一緒に、たーくんと一緒に戦う。一緒に病気と戦うからね。」 尊:「…一緒に戦ってくれるの?しーちゃん?」 栞:「当たり前だよ、私たちこれまでも、この先も。ずっと一緒でしょ?」 尊:「でも…これからもっと迷惑かけるよ…?」 栞:「いいの、迷惑かけていいんだよ?」 尊:「しーちゃん…そうだね…ありがとう。」 0: 0: 0:部屋で探し物をする栞  栞:【N】たーくんが倒れてから更に数週間が過ぎ、そのまま入院することになった。たーくんの容態も、徐々にだけど体の変化を感じるようになった 栞:呂律が若干だけど甘くなり、時折聞き取りづらさを感じるようになり、お箸も上手く使えなくなってきたのでフォークやスプーンを使い食事を取るようになった。 栞:そして今日は、たーくんの着替えを持っていくついでに頼まれた物を探していた。 0:  栞:「えーっと、着替えはこれでいいとして…小説…小説っと……これとこれとこれでいっか 栞:うん?本の裏に箱がある…なんだろこれ…」 0:箱の中に指輪が収められている 栞:「……え…?これって…」 0: 0:尊が入院する病室 栞:「たーくん!」 尊:「あ、しーちゃん。今日も、荷物、ありがとね。」 栞:「ううん、それはいいんだけど……あのね、聞きたいことがあって。」 尊:「うん?」 栞:「小説を探してたら偶然見つけちゃって…その…これなんだけど……」 尊:「あ…それ……」 栞:「中も…勝手に見ちゃった…ごめんね。」 尊:「そっか、バレちゃったか、次の、交際記念日に、渡そうと思ってたんだけどね。ほら、俺今こんなんじゃん?だから、それ渡すの、やめたんだけど…」 栞:「たーくん……私、うれしかった。」 尊:「え?」 栞:「私たち、付き合ってもう長いでしょ?たーくんって私との将来ってどう考えてるのかなって時々自分でも重いかなって思うようなことを考えてて… 栞:だから、この指輪を見つけた時にちゃんと考えてくれてたんだなってすごく嬉しくなったんだ。」 尊:「しーちゃん…そりゃちゃんと考えるに決まってるでしょ、俺の大切な、大切な人なんだから。」 栞:「たーくん…ありがと…」 尊:「………しーちゃん。その箱、貸して?」 栞:「え?うん。」 0:箱を開け、指輪を栞に向ける 尊:「…しーちゃん…ううん、栞ちゃん。これから待ってる事は、絶対に栞ちゃんにとって辛いと思う。もっと弱っていく、俺の姿を見せて、悲しませてしまうと思う。 尊:でも、最後まで俺は、しーちゃんのそばに居たい。しーちゃんを、愛していたい。だから、俺と……結婚して下さい。」 栞:「…うん……うん!よろしくお願いします…たーくん…!」 尊:「しーちゃん…!」 0:抱きしめあう二人 尊:「愛してるよ、しーちゃん…」 栞:「私も、愛してる…たーくん…」 0: 栞:【N】プロポーズを受けて数日後、ささやかながら後日に挙式をする事となりその準備に勤しんでいると、腹部の軽い痛み、だるさや吐き気などの体の異変が私に起こり始めた。 栞:まさかと思い、病院へ受診すると…結果は陽性だった…… 0:病院内 尊:「ん?しーちゃん?どうしたの?そんな暗い顔して…なにか、あった?」 栞:「えっとね…たーくんに言わなきゃいけないことがあるんだ…」 尊:「え…?なに?」 栞:「実は私…ね…」 尊:「うん…」 栞:「………。」 尊:「…し、しーちゃん?」 栞:「できたの。」 尊:「え?できた?」 栞:「うん、できたの。赤ちゃん。」 尊:「え…?え?」 栞:「2か月くらいだってさ。」 尊:「…ほ、ほんと…?俺らの、子供…?」 栞:「うん…そうだよ、私たちの子供だよ…?」 尊:「…そっか……そっか…俺たちに、子供が、出来たんだね…そっか…」 0:涙を流し、栞のお腹をさする尊 栞:「もう、たーくん…そんな泣かないの。」 尊:「だって…こんな嬉しい事ないでしょ…しーちゃんを1人にしないで済むって考えたら…」 栞:「たーくん……ねえ、名前決めよっか。私たちの子供の名前。」 尊:「…うん、そうだね、決めようか。どんな名前がいいかな…」 栞:「えへへ、私はねもう考えてあるんだよね~。」 尊:「え、ずるい!なんて名前、考えたの?」 栞:「男の子でも女の子でも付けられる名前が良いなって考えて…暖かいって書いて『暖(はる)』なんてどうかな。」 尊:「暖か…いい名前、だね。なんでこの、名前なの?」 栞:「たーくんみたいに、関わる人の心を暖かく包み込んでくれる人になりますようにって意味を込めてみました。」 尊:「そっか…すごく素敵な、名前だね。でも、しーちゃん、も周りの人に、暖かい笑顔を向けてくれて、とても心がポカポカするよ?」 栞:「そっかな?」 尊:「そーだよ。」 栞:「えへへ、じゃあこの子は2人の暖かさを持った子になるんだね。」 尊:「そうだね。暖かい子に、なるよきっと。」 栞:「たーくんは?なにか思いついた?」 尊:「…うーん、しーちゃん、のが良いなって思った。でも、そうだね、男の子だったら『暖(はる)』で 尊:女の子だったら、『陽(ひなた)』なんてのは、どう?太陽のように、暖かく…って。」 栞:「わあ!いいね!ひなた…うん、すごくいいと思う!」 尊:「はは、じゃあ…決まりだね。」 0: 尊:【N】俺たち2人の間に子供が授かってから5か月ほどが経ち、しーちゃんも安定期に入った。俺の方も以前に比べると進行が緩やかになり少し安定してきた気もする。 尊:だが、当然だが手足に力は入らないので移動の際は車椅子が必須だ。そして、迎えたしーちゃんとの結婚式。 尊:両家家族と一部の友人のみの、ささやかな式。俺は、家族に車椅子を押してもらいながら牧師の前へ。 尊:遅れて現れたのは、純白のレースのウェディングドレスに身を包んだしーちゃん。初めて見るその姿に俺は思わず息をのんだ。 尊:そして、ゆっくり、ゆっくりと1歩ずつ俺の前へとやってきて、そして隣へと並んだ。 0:  栞:【N】大きな扉を開けた先には私たちを祝福して送る拍手と、その人たちの先にいる車椅子に座りこちらを見つめるたーくん。 栞:そのたーくんの表情が目をまん丸にしてて、それがなんだか新鮮で可愛い。 栞:ゆっくりと小さな歩幅でたーくんの元へと向かう、暖かい拍手、感動の声、それを一心に受けながら私は歩く。 栞:そして、私を見上げるたーくんの横に並んだ。 栞:私たちを一瞥してから牧師が、誓いの言葉を投げかけてくる。その言葉に私たちは、精一杯の気持ちを込めて誓う。 0:   尊:「はい、誓います。」 栞:「はい、誓います。」 0:  尊:【N】お互いの左薬指に指輪をはめ 0:  栞:【N】そして、私たちは誓いのキスをした 0:  0:数か月後 栞:【N】幸せいっぱいの結婚式が終わって、早数か月が経とうとしていた。私たちはまだ幸せなままでいいんだと思わせてくれるほど平和な何もない時間。 栞:でも、やっぱりそう簡単にはいかなかった。たーくんの容態が急変した。 栞:初めに聞いていた通り、喉の筋肉が衰え呼吸困難に陥ってしまったようだ… 栞:再会した時には、人工呼吸器を着けて苦しそうにしている変わり果てた姿だった。 0: 0:人工呼吸器をつけた尊の前に涙を浮かべる栞 尊:「……。(うっすらとした目で栞をみて微笑む)」 栞:「たーくん…」 尊:「……。(申し訳なさそうな目で見つめる)」 栞:「ねえたーくん…私…私どうしたらいいのかな……私、覚悟決めたはずなのに、どうしたらいいのか分かんないよ…!たーくんが居なくなったら…私、私……」 尊:「……。(痩せ細い腕で力なく栞の手に触れる)」 栞:「たーくんが居たから私は、お母さんとお父さんの為にもう一度頑張ろうって思えたの… 栞:誰も頼る人が居なくて1人寂しく死ぬんだろうって思ってた私を…私の心を救ってくれたのはたーくんなんだよ…? 栞:そのたーくんが居なくなったら私……もう…また1人になっちゃう……」 尊:「………。(栞のお腹を優しくなでる)」 栞:「…っ」 尊:「………。(目を細め微笑む)」 栞:「…たーくん……そう…だよね……お腹には子供がいる…私たちの子供が……」 尊:「……。(小さくうなずく)」 栞:「ごめんね…たーくん……ありがとう…私…1人じゃないよね…」 尊:「…。(力なく手招きをする)」 栞:「え?なに?たーくん…?」 尊:「…あ…い……し…ちゃ……(消え入りそうな声で)」 栞:「え?なに…?聞こえないよ…」 尊:「……あ、い、してる…しー…ちゃ、ん(か細いかすかな声で)」 栞:「…っ!うん…うん…私も、愛してるよたーくん…!」 0: 栞:【N】その小さくて、か細い声は、とても力強く、そしてとても暖かく心を包み込み、背中を押してくれた 0: 0: 0: 0:数か月後、自宅 栞:【N】たーくんの病気が発覚して約3年。自宅で着替えの準備をしていた私に一報が入った。いつ入って来てもおかしくはないその連絡。 栞:たーくんが亡くなった……呼吸不全に陥り、夜中に息を引き取ったと教えられた… 栞:今私の腕にはすでに火葬され、残った彼の遺骨が入った骨壺が収められている、私はただ茫然とするしかない。 栞:この彼と過ごした賑やかだった部屋は、耳鳴りがするほどに静かだ。 栞:彼の使っていたコップ、彼の着ていた服、すべてそのまま残っている。 栞:彼の声も、そのままこの部屋に残っている。彼はまだ生きている、そう錯覚させるほどに。 0:  尊:『ねえ?しーちゃん?』 栞:【N】耳鳴りの奥でふと、優しく私を呼ぶ声が 0:  尊:『もう、しーちゃん忘れたの?もうすぐしーちゃん誕生日でしょ?』 栞:【N】呆れながら微笑んでいるその顔が 0:  尊:『ねえ、キミ。そこのキミ!ハンカチ、落としたよ!』 尊:『はは、いいよいいよ。それよりさ、そのハンカチ可愛いね。』 尊:『猫、好きなの?』 尊:『キミの心に空いた穴は俺が埋める、笠間さんの事が好きだから力になりたいのもある。でもそれ以上に放っておけないから。』 栞:【N】出会った頃の声すらも思い出させる 0:  尊:『……あ、い、してる…しー…ちゃ、ん。』 栞:「っ!たーくん……!たーくんっ!………たーくん……愛してる…」 0:  栞:【N】骨壺を…彼を強く抱きしめ、彼と過ごした部屋の真ん中で、彼との思い出に私は沈んでいった 0: 0: 0: 0:数年後 栞:「はいはい、もうそんなにはしゃがないの!すぐにご飯の準備するからね! 栞:ん?お手伝いしてくれるの?そーだなー、じゃあ陽(ひなた)はニンジンさんの皮むきしてくれますかー? 栞:暖(はる)はじゃがいもさんをお願いしまーす。ってすごーい!2人とも上手だね!ママなんて大人になっても出来なかったのに! 栞:ママはね、大人になってからパパに教わったんだよ。パパの作る肉じゃがは、とっっても美味しいんだから。」 0:  0:ふと、耳に尊の声が聞こえる 尊:『ったくもう…早く作るから待っててね。しーちゃんの大好きな甘めの肉じゃがを、ね。』 尊:『腕によりをかけて作るから待っててね、記念日特性の甘々仕立てな肉じゃがを。』 0:  栞:「っ!たーくん…え?あ、ううんなんでもないよ。」 0:子供たちに満面の笑みを見せ 栞:「よーし、パパに負けないくらいの肉じゃがを腕によりをかけて作るからね!それはもう涙が出るくらいとびっきり美味しくて、甘々仕立てな肉じゃがをね。」 0:  0:  0: 栞:「ねえ、たーくん?この先も、いつまでも。大好きだよ。」 尊:『俺も、大好きだよ。しーちゃん。』 0: 0:FIN 0:

尊:「ねえ?しーちゃん?」 栞:「んー?」 尊:「そろそろどいてくれない?」 栞:「なーんでー?」 尊:「いや、買い物に行きたいからさ…」 栞:「んー…やだ。」 尊:「なんでよ?」 栞:「今いいところだし。」 尊:「漫画は後でも読めるでしょ?っていうかそこじゃなくても読めるじゃん。」 栞:「いーやーなーのー。」 尊:「なんでそんな駄々こねるのよしーちゃん。」 栞:「だって、たーくんに膝枕されてる状態で読みたいんだもん。」 尊:「はあ……」 栞:「膝枕…嫌だった?」 尊:「違うよ。」 栞:「じゃあ、なに?」 尊:「だって、しーちゃんにそんな風に言われたら…さ。」 栞:「そんな風?」 尊:「だから!俺に膝枕されてる状態でーって可愛く言われたらなんも言えなくなるじゃん。」 栞:「え?なーんだ。たーくん照れてたんだ?」 尊:「~~っ!そうだよ、そりゃ照れるでしょうが!」 栞:「えー?たーくん可愛いー!」 尊:「だー!もういいから!もう、買い物行ってくるけど何かいる?」 栞:「んー、じゃあたーくんの愛!」 尊:「いつもあげてるでしょうが。」 栞:「それもそうでした!じゃあ、ポテチ買ってきて!」 尊:「おっけー、じゃあ大人しく待っててね。」 栞:「もう、ペットじゃないんだからちゃんと待ってますよー!」 尊:「じゃあ、行ってくるね。」 栞:「いってらっしゃーい!」 0:部屋から出る尊 栞:「……行っちゃった。人が一人いなくなるだけで部屋がすごく広く感じるなぁ……はやく…帰ってこないかな…」 0:  0:  0:  尊:「さってと…買い物はこんなもんでいいかな?今日はしーちゃんの大好物の肉じゃがだから、喜んでくれるといいな。」 0:  0:  0:  栞:「時計の音って普段は気にならないのに、こういうときだけ大きく感じる。すごく孤独って感じる……」 0:  0:  0:  尊:「しーちゃんが居なかった時の俺ってどうやって過ごしてきたんだろう。今じゃすっかり、しーちゃんありきの生活になっちゃったもんなぁ…早く顔が見たい…」 0:  0:  0:  栞:「まだ、帰ってこないのかな…寂しいな…」 0:玄関から扉を開ける音がする 尊:「ただいまー!」 栞:「あ!たーくん!!」 尊:「しーちゃんただいま、ちゃんと待ってられた?」 栞:「当たり前じゃん、私だし!」 尊:「えー?しーちゃんだから心配なんだよ?」 栞:「どーいうことー?」 尊:「そういうこと。」 栞:「なにそれ、わかんないー!」 尊:「はいはい落ち着いてしーちゃん。今日の夕食はね、しーちゃんの大好きな甘めの肉じゃがだよ。」 栞:「え、ほんと!?やったー!」 尊:「はは、すぐ準備するからね。」 栞:「あ、ねえねえポテチはー?」 尊:「もちろん買ってきたよ。」 栞:「やったー!今食べていい?」 尊:「ごはん前はダメでーす。」 栞:「えーーー!だめぇ…?」 尊:「あ…う……もう……少しだけね!」 栞:「やったー!たーくん大好き!」 尊:「ったく…俺も大好きだよしーちゃん。」 0: 尊:【N】彼女の甘い声と甘い仕草は、俺の心を甘く仕立てる 栞:【N】彼の甘い顔と甘い香りに、私の気持ちは甘く蕩ける 尊:【N】甘い2人の間にも、時々ほろ苦い時間はやってくる 0: 0: 0: 栞:「ねえ、たーくん。」 尊:「なに?しーちゃん?」 栞:「1つ聞きたいんだけどさ…」 尊:「うん?」 栞:「私に何か隠し事してない?」 尊:「隠し事…?」 栞:「うん、隠し事。」 尊:「……何もないよ?」 栞:「本当に?絶対?」 尊:「う、うん…」 栞:「そっかぁ……」 尊:「急にどうしたの?」 栞:「うん…私ね、この間たまたま見ちゃったんだけどさ…」 尊:「うん。」 栞:「たーくん、女の人と一緒にお買い物してなかった?」 尊:「え…?」 栞:「その反応…やっぱり見間違いじゃなかったんだ…」 尊:「…いや、うん。買い物してた…」 栞:「なんでさっき隠したの…」 尊:「それは…」 栞:「そっか、そう…なんだ……浮気…してたんだ。」 尊:「ち、違うよ!浮気じゃない!隠したのは…その、ごめんだけど……あの人は職場の先輩で、少し買い物に付き合ってもらってたんだよ!」 栞:「あんなに仲良さそうなのに何もないの?」 尊:「何もやましいことはしてないよ。」 栞:「お買い物はその女の先輩じゃないとダメだったの?」 尊:「まあ、うん、ダメってわけじゃないけど…買い物の内容的に、その先輩の方がいいかなって思ったんだよ。」 栞:「…そっか。何買う予定だったの?」 尊:「それは…」 栞:「言えないんだ?」 尊:「今言わなくちゃダメ、かな?」 栞:「言えないなら…いいよ…」 尊:「…ああ、もう…!分かった言うよ!」 栞:「いいよ、無理しなくて。」 尊:「ちょっと待っててね。」 栞:「だからいいって。」 尊:「いいから、まってて。」 栞:「………うん…」 0:何かを取りに行く尊 尊:「お待たせしーちゃん。」 栞:「…たーくん、その箱は何?」 尊:「開けてみてよ。」 栞:「いいの?」 尊:「いいから。」 栞:「うん……わあ、綺麗な指輪。」 0:箱の中に指輪が入っていた 尊:「それ、ちょっと薬指にはめてみてよ。」 栞:「え?私がはめるの?」 尊:「他に誰が居るのさ?」 栞:「う、うん……わぁ…ピッタリだ。」 尊:「よかった、合うかどうか少し不安だったんだ。」 栞:「え?」 尊:「買いに行ったのはその指輪だったんだよ。」 栞:「どういう事?」 尊:「もう、しーちゃん忘れたの?もうすぐしーちゃん誕生日でしょ?」 栞:「…あ……」 尊:「誕生日プレゼント何が良いかなって悩んでたら、先輩が相談に乗ってくれてさ。それで探しに行ってたんだよ。」 栞:「そうなんだ…」 尊:「サプライズしたかったからさっき嘘ついちゃった、ごめんね。」 栞:「…ううん、私こそちゃんと話を聞かなくてごめんね…」 尊:「しーちゃんに指輪は一度もあげたことなかったし、デザインとかは俺が選んだから不安なんだけど…どうかな?」 栞:「うん、凄くかわいい。でもどこかで見たような…」 尊:「良かった…実はそれ、俺とお揃いのペアリングなんだよ。」 栞:「え?あ…ほんとだ……気が付かなかった…」 尊:「ははは、これで、しーちゃんが他の人に取られる心配が少し減ったね。」 栞:「もう、たーくんてば……ごめんねたーくん。」 尊:「ん?」 栞:「疑ったりしてごめんなさい…先輩さんにも悪いことしちゃった。」 尊:「いいよ、もう謝らなくて。俺もちゃんと言わなかったのが悪いんだし。」 栞:「ううん、私が感情的にならなければ…」 尊:「いやいや俺が…」 栞:「ううん、私が…」 尊:「………。」 栞:「………。」 尊:「…っぷ。」 栞:「ふふ。」 尊:「ははっ。」 0:お互い顔を見合って笑う 栞:「なんか、笑えて来ちゃったね。」 尊:「そうだね、なんかおかしくなっちゃったね。 尊:「…そうだ。ねえ、しーちゃん?」 栞:「なにたーくん?」 尊:「今度さ、一緒に指輪を見に行かない?」 栞:「え?指輪?もう指輪あるのに?」 尊:「うん、それとは別に婚約指輪を選びたいなって思ってさ。」 栞:「婚約指輪…?それって…」 尊:「そろそろちゃんと考えないとってずっと思ってたんだ。」 栞:「たーくん…」 尊:「しーちゃん、こんな俺だけどこれからもしーちゃんの隣に居ていいですか?」 栞:「たーくん……もちろんだよ…?むしろ居てくれなきゃ嫌だよ…」 尊:「うん、良かった……大好きだよしーちゃん。」 栞:「私も、大好きだよ。たーくん、大好き…。」 0: 0:その日の夕方 0: 栞:「たーくーん。」 尊:「んー?なにー?」 栞:「今日のご飯何ー?」 尊:「肉じゃがだよー。」 栞:「ホント!?じゃあ手伝うー!」 尊:「え、いいよしーちゃんはゆっくりしてて。」 栞:「やだー!何したらいい?何切る?」 尊:「えー、もうしょうがないなあ…じゃあニンジン切ってくれる?」 栞:「任せて!」 尊:「ちゃんと皮剥くんだよ?」 栞:「分かってるって!」 尊:「でもどうしたの?急に手伝いなんて?」 栞:「私も料理できるようになりたいの!」 尊:「なんでまた?」 栞:「だって、たーくんに美味しいご飯作ってあげたいんだもん…」 尊:「……。」 栞:「な、なんで黙っちゃうのー?」 尊:「いや、可愛いなって。」 栞:「変なところで可愛さを感じないでよたーくん!」 尊:「あはは、でもそっかありがとうしーちゃん。そしたら今日の肉じゃがはいつもより張り切って作らなきゃね!」 栞:「たーくんの肉じゃが早く食べたーい!」 尊:「えー?手伝ってくれるんじゃないのー?」 栞:「たった今から、食べる専門になったのです!」 尊:「ったくもう…早く作るから待っててね。しーちゃんの大好きな甘めの肉じゃがを、ね。」 0: 0: 尊:【N】甘めの肉じゃがが大好きな彼女、それを食べている彼女の笑顔を見ていると、ふと思い出す 尊:彼女と出会ったあの日の事を、彼女の笑顔を見たあの時の事を… 栞:【N】甘く仕立てた肉じゃがは、彼の得意料理の1つであると同時に、私の大好きな料理の1つ 栞:そして、口に運ぶとたくさんの思い出が味と共に広がっていく… 0: 0: 0:寝室でアルバムを広げている栞 尊:「しーちゃん、ほら早く寝るよー。」 栞:「んー、ちょっとまってー!」 尊:「何してるのさ、しーちゃん?」 栞:「ちょっと昔のアルバム見てたら懐かしくなっちゃって。」 尊:「アルバム?」 栞:「うん、私たちの大学時代とかの!」 尊:「あー、そんな時期もあったね。」 栞:「もー、たーくんなんかその言い方おじさんっぽいよ!」 尊:「ははは、ごめんごめん。」 栞:「ふふ、じゃあ寝よっか。」 尊:「うん、おやすみしーちゃん。」 栞:「おやすみたーくん。」 尊:「………大学時代か…。」 0:  0:数年前 0:  尊:【N】俺としーちゃんが出会ったのは大学生の時だった。 0: 尊:「ねえ、キミ。そこのキミ!ハンカチ、落としたよ!」 栞:「え?あ、すみません…ありがとうございます…」 尊:「はは、いいよいいよ。それよりさ、そのハンカチ可愛いね。」 栞:「え?あ、はい。ありがとうございます?」 尊:「猫、好きなの?」 栞:「はい、好きですけど…」 尊:「俺も猫好きなんだ。良く大学近くの猫カフェに行ってるんだよね。」 栞:「はあ…そうなんですね。あの、私…」 尊:「あ、ごめんね引き止めちゃって。」 栞:「いいえ…ハンカチありがとうございました。それじゃ。」 尊:「うん、じゃあね。」 0: 尊:【N】最初の頃のキミは、とても静かでどこか冷たい印象だった。だけど、あまり目立たないはずのキミは俺の中で何故か色濃く記憶されていた。 0: 栞:「いらっしゃいませ…あ。」 尊:「…あ。」 0: 尊:【N】休日、行きつけのカフェが休みだったので普段とは違うカフェに入ったら彼女と再会した。 0: 尊:「…驚いたな、キミここでバイトしてるの?」 栞:「はい。」 尊:「そうなんだ。お店のエプロン、似合ってるね。」 栞:「……ありがとうございます。ご注文はお決まりですか?」 尊:「あー、そうだったね。ブレンド1つ。」 栞:「かしこまりました。少々お待ちください。」 尊:「…ここのカフェ、雰囲気良いな…客もまばらで落ち着くし。」 栞:「…それは誉め言葉として受け取ってもいいですか?」 尊:「うわ!あはは…ご、ごめん。」 栞:「別に、いいですよ。ブレンドお待たせいたしました。どうぞ、ごゆっくり。」 尊:「あ、まって。」 栞:「はい?まだ何かご注文でも?」 尊:「あのさ、名前教えてくれない?」 栞:「……はい?」 尊:「いや、同じ大学だしここでまた会えたのも何かの縁っていうかさ…嫌ならいいんだ。」 栞:「……笠間です。」 尊:「笠間さんかぁ…ありがと!俺は深田尊、たけるはとうといって書くんだ。よろしくね!」 栞:「そうですか…とても綺麗な名前ですね…。」 尊:「自分も気に入ってるんだこの名前。」 栞:「そうなんですね…あ、すみません。呼ばれてしまいましたので私はこれで。」 尊:「あ、うん。ごめんね仕事中に。」 栞:「いえ、ごゆっくりどうぞ。」 0: 尊:【N】それからも俺は彼女の働くカフェに通うようになっていき、少しずつだけど話すようになり彼女の事を色々知ることが出来た。 尊:本が好きだとか絶叫系の乗り物が苦手とか意外な所を知ることが出来て、話せてとても嬉しかった。 0: 尊:「ねえ、笠間さんの好きな食べ物ってなに?」 栞:「…好きな食べ物…ですか?」 尊:「うん、俺料理好きでさ。何か作ってこようかなってさ。やっぱり女の子って甘いのとか好きなのかな?」 栞:「女性だからって、甘いのが必ずしも好きとは限りませんよ。」 尊:「はは…そうだよね…」 栞:「……そうです、少なくとも私は甘いのは苦手ですし。」 尊:「あ、そうなの?」 栞:「はい。」 尊:「そっか…じゃあ今度甘くない何かを作ってくるね!ちなみに、好きな料理とかある?」 栞:「いえ、これといってなにもありません。」 尊:「そうなの?ハンバーグとかは?」 栞:「無いです…でも強いて言えば………肉…じゃがですかね…。」 尊:「肉じゃが?」 栞:「あ、いえ、なんでもありません。」 尊:「そう…?あ、もうこんな時間…ごめん大学に行く用事があるんだった…!じゃあ、俺行かないとだから!また来るね。」 栞:「…はい、お気を付けて。」 0: 尊:【N】俺はその時の彼女の悲しげな表情が忘れられずにいた。でも、自分が踏み込んで聞いていいのかと思い何も聞けなかった。それから数日後再びカフェに行った時そこには彼女の姿はなかった。 0: 尊:「え、笠間さん数日も来てないんですか!?体調を崩したって…あの、すみません…彼女の住所教えてくれませんか?」 0: 尊:【N】家にまで行くなんて怖がられるかもしれないし、距離を取られるかもしれない。自分でもなんでこんな行動を取ったのかも分からない。 尊:それでも居ても立っても居られなかった。それだけ彼女の存在は自分の中で大きくなっていた。 0: 栞:【N】真っ暗な部屋、静かな部屋、孤独な部屋、看病なんてしてくれる人はいない。このまま消えてしまいそうになる。 0:咳をしている栞 栞:「…体調崩してると余計にマイナス思考になる…だめだね………明日は大学に行かないと…大事な講義があるし……ケホッ 栞:バイトも…行かないと迷惑かけちゃうし…ケホッケホッ……深田さん、心配してるかな…なんてそんなわけないよね。」 0: 栞:【N】何故か体調を崩してからの数日、頭の中で深田さんをよく思い浮かべるようになっていた。 栞:彼はただの同じ大学に通う生徒、バイト先によく来る常連客。ただそれだけなのに気が付けば彼は、私の心を埋め尽くしていた 0: 栞:「……会いたいな…って何を思ってるんだろ私…ん?誰だろ…」 0: 栞:【N】すると不意に部屋のインターホンが鳴った。 0:  0: 尊:「教えてもらった住所はここの辺りだよな…このアパートで合ってるはずだけど……笠間…あ、この部屋だ…なんか緊張するな……すーはー、よし押すぞ…!」 0: 尊:【N】勇気を振り絞ってインターホンを押すと中から足音が聞こえ玄関がそっと小さく開いた。 0: 栞:「はい、どなた……で…しょう、か……え?」 尊:「あ、ど、どうも。」 栞:「な、なんで…深田さん…どうしてここに…」 尊:「今日カフェに行ったんだけどさ、笠間さんが体調崩してるって聞いて…その迷惑だとは思ったんだけど、マスターから住所を聞いてお見舞いに来ました…」 栞:「そ、そうなんですね…ありがとうございます…」 尊:「あのさ、これ良かったら。ゼリーとか飲み物とか入ってるから!じゃ、じゃあお大事にね!」 栞:「あ、ま、待って下さい…!」 尊:「え?」 栞:「せっかく来たんですから…その、上がってって下さい…」 尊:「へ?」 0:招かれて室内へと入る 栞:「…汚いですが…どうぞ…」 尊:「そんな、すごく綺麗。俺、女の子の部屋に上がったのなんて初めてだよ。」 栞:「あの、そんなじろじろ見ないでください。」 尊:「あ、ごめん…」 栞:「お茶淹れますね…ケホッ」 尊:「あー、いいよいいよ!俺やるから!笠間さんは休んでてよ!」 栞:「いえ、お客様にそんなこと…あっ」 0:よろめく栞を受け止める尊 尊:「ほら、病人は休んでなさいっての。」 栞:「……わかりました…」 0:お茶をテーブルに置く尊 尊:「はい、どうぞ。」 栞:「…ありがとうございます…」 尊:「どういたしまして。」 栞:「………あの…聞いてもいいですか?」 尊:「なに?」 栞:「なんでお見舞いに来ようと思ったんですか?出会って間もない、行きつけのカフェ店員の私のお見舞いなんかに。」 尊:「…聞きたい?」 栞:「もったいぶらないで下さい。」 尊:「もったいぶってるんじゃなくて、恥ずかしいんだよね。」 栞:「…?どういうことですか?」 尊:「初めてキミ、笠間さんと大学で会ったときにさ。なんでか分からないけどすごく印象に残ってさ。」 栞:「印象…ですか?」 尊:「そう、悲しそうっていうか寂しそうっていうかさ。誰も寄せ付けない印象っていうのかな。それがすごく俺の中に残ったんだ。」 栞:「……。」 尊:「で、たまたま入ったカフェでキミと再会してさ、改めて笠間さんが俺の中でより濃くなっていったんだよ。もっと笠間さんの事が知りたい、何が好きで何が嫌いで何をしてると楽しいのか知りたくなったんだ。」 栞:「…そうですか。深田さんはそれを知ってどうするんですか?」 尊:「どうする…うーん、キミと共有したいかな?」 栞:「共有…ですか?」 尊:「うん、辛いことも、楽しいことも共有して一緒に過ごしたいなって…」 栞:「それはどういう…」 尊:「えっと、つまりね……笠間さん。俺はキミの事が好きなんだ。」 栞:「………好き…?」 尊:「もちろん、異性としての…」 栞:「ごめんなさい。」 尊:「え?」 栞:「私は、誰かと付き合うつもりはないんです。」 尊:「あ…」 栞:「私は誰とも付き合えません。そんな資格はないんです。」 尊:「資格?」 栞:「深田さんには…関係のないことです…」 尊:「……そっか。」 栞:「…ごめんなさい……」 0:しばしの沈黙 尊:「…あ、そ、そうだ。キッチン借りてもいい?」 栞:「え?」 尊:「ごはん作り置きしておくからさ、食べれるようになったら食べてほしいんだ。」 栞:「え…?」 尊:「材料買ってきてよかったよ、腕によりをかけて作るからね。」 栞:「あの別に…そこまでしなくてもいいんですよ。」 尊:「いいや、するよ。」 栞:「……。」 尊:「これは、キミの事が好きだからとかじゃない。人としてのただのお節介だ。気分が落ち込んでる時だからこそ美味しい料理を食べるんだ。気持ちのこもった料理を食べれば心も体も元気になるんだよ。」 栞:「……そういうものですか…」 尊:「そういうもんなの。よーし、これからキミが前に好きって言ってた肉じゃがを作るよ。」 栞:「…肉じゃが…ですか。」 尊:「嫌だった?」 栞:「いえ…その…」 尊:「どうしたの?」 栞:「えっと……図々しいかも知れませんが…その…」 尊:「いいから、言って?」 栞:「…甘めってできます…?」 尊:「甘め?肉じゃがの甘め?でも甘いのは苦手って…」 栞:「…いえ、何でもないです…」 尊:「…ふふ、おっけー!任せて、甘めの肉じゃがを丹精込めて作るね。」 0: 0:肉じゃがを作り終えた尊がこちらを向く 0:  尊:「完成したよ、お腹がすいて食べられそうだったら食べてね。じゃあ俺はここで…」 栞:「あ、あの…」 尊:「ん?なに?」 栞:「あの…その…今…食べたい…です…」 尊:「え?大丈夫…?食べられそう?」 栞:「はい…大丈夫です。」 尊:「わかった…はい、どうぞ。召し上がれ。」 栞:「ありがとうございます。いただきます……っ!」 尊:「どうかな?」 栞:「……おいしい…」 尊:「はは、よかった。」 栞:「…懐かしい味です……すごく…すごく美味しい…です…」 0:涙をポロポロとこぼす栞 尊:「え、笠間さん?どうしたの?なんで泣いて…」 栞:「いえ、すみません何でもないです…」 尊:「そんなわけないじゃないか…どうかしたの?」 栞:「……この味そっくりなんです…母の作った肉じゃがに…」 尊:「笠間さんのお母さんの…?」 栞:「母は…とても料理が上手な人で、特に肉じゃがが得意で私も母の作った肉じゃがが大好きでした。」 尊:「でした…?」 栞:「私が高校に上がった頃でした。母は脳梗塞で倒れ…亡くなりました。父は母が倒れたショックで心を病み、去年に母の後を追うように身を投げこの世を去りました。」 尊:「………そんな…」 栞:「私は母が亡くなった後に、懸命に父を支え一緒に母の分まで生きていこうと頑張りました。でも私の力だけでは父の心に空いた穴を埋めることは出来ませんでした。」 尊:「……。」 栞:「私まで後を追ってしまうと母も父も悲しんでしまうと思い、可能な限り自分の力で頑張って両親の分まで生きたい。そう思ってここまで頑張りました……頑張ったんですけどね…」 尊:「笠間さん…」 栞:「って…ごめんなさい。深田さんにこんな話を…忘れて下さい。」 尊:「……ねえ。笠間さん。」 栞:「なんですか…?」 尊:「俺に、笠間さんのことを支えさせてほしいんだ。」 栞:「…え?唐突に何を…」 尊:「一人で二人分背負ったらそりゃ体壊すに決まってる。だから、もう一人くらい支える人が居てもいいんじゃないかな?」 栞:「でも、深田さんは…」 尊:「関係ない?」 栞:「……。」 尊:「もう関係ないなんて言わせないよ。キミの話を聞いた以上、俺ももう関係者さ。キミを支える人になったって文句は言えないね。」 栞:「…深田さん…」 尊:「キミの心に空いた穴は俺が埋める、笠間さんの事が好きだから力になりたいのもある。でもそれ以上に放っておけないから。」 栞:「…つくづくお人好しですね……」 尊:「自分に正直なだけだよ。」 栞:「いいですね、私には無いです。正直になりたくてもなれません。」 尊:「たまには正直になってもバチは当たらないよ。」 栞:「そう…ですか?」 尊:「そうだよ。」 栞:「そうですか……そうですね…………深田さん。」 尊:「ん?なに?」 0:真っすぐな目で尊を見つめる栞 栞:「好き……あなたの事が…好きだと…思います。」 尊:「え…?思います…?」 栞:「突然ですみません、なんで急にこんな事を言ったのか自分でもよくわかりません。でも多分…私は深田さんの事が好きなんだと思います。ここに、深田さんが来る前までずっとあなたの事を思い浮かべていました… 栞:深田さんの中で私が大きな存在になっていたように、私の中でも深田さんは大きな存在になっていたんです…今急にではなく、以前からずっと。」 尊:「笠間さん…そっか…そっかそっか!へへ…嬉しいな。それは…めちゃくちゃ嬉しいな…!」 栞:「でも…私の中ではそれが好きなのかどうなのか、まだ整理が追い付いていません…なので…その…」 尊:「うん、わかってるよ。笠間さんの中で全部まとまってからでいいよ。それまで俺は待ってるから。」 栞:「……はい、ありがとうございます…」 0:  栞:【N】久しぶりに食べた甘い肉じゃがは、とっても甘くて、しょっぱくて、すごく美味しかった。母の作ってくれた肉じゃがのように温かくて、父のように優しい味で、冷え切った私の心を包み込んで、氷を溶かしてくれた。 0: 0: 尊:【N】笠間さんのお見舞いにいった日からしばらくして再びカフェを訪れると、彼女が笑顔で出迎えてくれた。 栞:「深田さん…!いらっしゃいませ。」 尊:「っ!笠間さん!もう体調が大丈夫なの?」 栞:「はいっ、おかげさまでもう元気になりました!」 尊:「そっか、ならよかったよ!それよりもなんか雰囲気変わった?」 栞:「そうですか…?でもそうですね…深田さんのおかげで心の突っかかりが取れた気がします、感謝してもしきれません。」 尊:「…そっか。お節介が役に立ったようで良かった。ずっと暗い顔してるより、笠間さんは笑顔が一番いいよ。すごくかわいい。」 栞:「え、ええっ!?そんな…ことないです……ああ、もう注文は何ですか!?」 尊:「はは…じゃあ……俺の事、下の名前で呼んで?」 栞:「…え?」 尊:「ほらほら。」 栞:「え?あの、ブレンドとかなにか…」 尊:「名前、呼んでほしいなぁ…」 栞:「……うう…わかりましたよ…た、たけ…」 尊:「たけ…?」 栞:「…る…さん…」 尊:「繋げて言ってみてよ。」 栞:「…たけ…るさん……」 尊:「よし、もっかい言おう!さん、はい!」 栞:「意地悪ですね…!」 尊:「ははは!そりゃ、栞ちゃんが可愛いからねー。」 栞:「んん!私の名前…!…もう………尊さん。」 尊:「あ、今…」 栞:「好きです。大好きです。」 尊:「………。」 栞:「あの…勇気出して言ったんですけど…黙らないでくれますか?」 尊:「…いや、キュンってしすぎて…固まってしまった…」 栞:「照れたんですか?」 尊:「当然でしょ!あーもう…ダメだ…抑えらんない…」 栞:「え?」 尊:「ごめん、気持ちが高まりすぎて待ってられない!」 栞:「な、なんですか?」 尊:「改めて言うね……俺と付き合って下さい。」 0:ぽかんとする栞、少し照れ笑いしながら 栞:「……はい、私で良ければ。」 0: 尊:【N】カフェのマスターと店内に居た数人の客に、歓声と拍手を贈られ俺たちは祝福されながら付き合い始めた。なぜかマスターは半泣き状態で俺に握手をしてきた。 尊:きっとマスターも1人で頑張っていた彼女の事を気にかけていたんだろう。そして、俺らは大学を無事卒業し就職をして同棲を始めた。 0:  0:現在 0:  尊:【N】しーちゃんは付き合い始めてからすぐに本来の明るさを取り戻して、いつもニコニコして太陽のように周りに活力を与える存在になった。 尊:それと同時に最初の頃では考えられないような甘えん坊さと寂しがり屋な一面も出て来るようになった。きっとこれは、両親を失って頼る相手が居なかった反動だと俺は思っている。 栞:「んん…たーくん……」 尊:「よしよし…俺はしーちゃんのそばにいるからね。」 栞:「…えへへ……たーくん……愛してるぅ…すーすー…」 尊:「俺も、愛してるよしーちゃん。」 0: 0:次の日の夕食 栞:「あーもう!じゃがいもの皮むき難しい!」 尊:「ははは、ほんと不器用だねしーちゃん。」 栞:「んー、たーくん剥いて!」 尊:「料理できるようになりたいんじゃなかったの?」 栞:「とりあえず工程だけ覚えることにします!」 尊:「妥協したなー。」 栞:「いいのー、もうお腹ペコペコだから今優先するのは私のお腹なのです。」 尊:「こりゃまたとんでもないわがままなお姫様な事で。」 栞:「それにせっかくの記念日だから、たーくんの肉じゃがが食べたいし!」 尊:「俺はしーちゃんの手作り肉じゃがが食べたいんだけど?」 栞:「それはまたいつかね!」 尊:「いつになるやら…」 栞:「あ、じゃあ皮を剥いたじゃがいもを切るよ!」 尊:「ケガしないでよー?」 栞:「大丈夫だって!…いたっ!」 尊:「言わんこっちゃない…ほらしーちゃんはリビングで待っててねー。」 栞:「むー。」 尊:「腕によりをかけて作るから待っててね、記念日特製の甘々仕立てな肉じゃがを。」 0:   栞:【N】私の心を埋めてくれたあなたに甘い温もりを 尊:【N】大切な存在になってくれたキミに甘い優しさを 0:  尊:「ねえ、しーちゃん。」 栞:「んー?」 尊:「大好きだよ。」 栞:「えへへ、私も大好き!」 0: 0: 尊:【N】甘い2人の甘い日常 栞:【N】甘い時間と甘い空気 尊:【N】この先も、続いていくと信じていた 栞:【N】でも、甘いだけの味なんてなかった 尊:【N】味が変わる、その瞬間は、少しずつ、音もなく近づいていた 0: 0: 0:食事後に夜道を尊と栞が並んで歩く 栞:「ごはんすっごくおいしかったね!たーくん!」 尊:「うん、すごくおいしかった!予約してよかったよ。」 栞:「あそこってなかなか予約取れないんだよね?よく取れたよね。」 尊:「たまたまキャンセル待ちで取れたんだよ。たまたま。」 栞:「そうなんだ!運がよかったんだねー!」 尊:「日頃の行いが良いからですね。」 栞:「えへへ、そうだね。たーくんは日頃の行いが良いからだね。」 尊:「そこは少しこう、ツッコミをね?じゃないと少し恥ずかしいよしーちゃん…」 栞:「えへへー。」 尊:「もう…」 栞:「ありがとねたーくん、連れてきてくれて。」 尊:「…うん、せっかくボーナス入ったし、たまには良い所でと思ってさ。」 栞:「えへへ、うれしい!ありがと!」 尊:「どういたしまして。」 栞:「ねえねえたーくん。ここ、すっごく綺麗に星が見えるね!」 尊:「ここら辺は街灯も少ないし、星がよく見えるんだよね。」 栞:「たーくんと綺麗な星空が見れて嬉しいな!ぎゅー!」 尊:「もう、そんなくっつかれると歩きづらいよー、しーちゃん。」 栞:「くっつくのダメ?」 尊:「うっ…」 栞:「ダメ?」 尊:「あー…もう!俺がその顔に弱いの知っててやってるでしょ!」 栞:「えへへ~、ぎゅー!」 尊:「まったくもう…」 栞:「たーくん大好き!」 尊:「俺も大好きだよしーちゃん。っとと…」 栞:「大丈夫たーくん?ちょっと寄っかかり過ぎちゃったかな?」 尊:「あ、ううん大丈夫だよしーちゃん。最近運動してないからね、筋肉が弱っちゃってるのかも。」 栞:「確かに、ちょこっとお肉付いちゃってるもんねー…ぷにぷに。」 尊:「あー!やめてしーちゃん!現実を突きつけないで!」 栞:「えへへ、じゃあ頑張って運動してください!そして私が寄りかかってもバランスが崩れない程度には筋肉つけてね!」 尊:「くう…頑張るよ。」 栞:「応援してるよ、たーくん。」 尊:「はは…ありがとしーちゃん。」 0: 0:後日、夕食の買い出し中 尊:「えーっと、じゃがいもじゃがいも…うん、これでいっか。あと必要なものあったかな。」 栞:「たーくんたーくん!」 尊:「ん?なに?」 栞:「はい、これ買ってー!」 尊:「ダメです、戻してきてください。」 栞:「えー!ポテチくらい良いじゃーん!」 尊:「この間買ったのがまだ残ってるでしょ?」 栞:「でもぉ…これ期間限定の味だもん…次来た時には無いかもだし……」 尊:「しーちゃん最近お菓子食べ過ぎだよ?」 栞:「でもたーくんみたいにお肉ぷよぷよしてないし!」 尊:「うぐっ…」 栞:「ね、ダメ?」 尊:「またそれ…」 栞:「たーくん…ダメ?」 尊:「~~っ!わかった、わかったよ…ほんとそれに弱いんだよなあ…情けない…」 栞:「えへへー!ありがとたーくん!大好き!」 尊:「なんか今回に関しては素直に喜べないよしーちゃん…」 栞:「じゃあ、パパっとお会計済ませちゃおー!」 尊:「はいはい。しーちゃんは向こうで待ってて。」 栞:「はーい。」 0:  栞:【N】たーくんと一緒に過ごすようになってもう数年、お互いに平日は仕事をして同じ日に休日を過ごす日々 栞:暗く寂しかった毎日は、たーくんと出会ったおかげで明るく楽しい毎日に変わった 栞:本当に毎日幸せ、この幸せがいつまでも続くといいな……そういえば、婚約指輪を作るって話を前にしたけど…その後は特にこれといって何もない…たーくんは…私との将来ってどう考えてるのかな… 0:  尊:「お待たせしーちゃん。」 栞:「お帰りたーくん!」 尊:「それじゃいこっか。」 栞:「うん!」 0:帰宅後、夕食の準備中 尊:「しーちゃん。気を付けてね?」 栞:「分かってるって、静かにしてて…」 尊:「う、うん…」 栞:「ここを…こうして…そのまま……」 尊:「ああ…危ない…」 栞:「んん!やっぱり難しい!ニンジンの皮むきできない!」 尊:「ピーラーで剥くだけなのになあ…」 栞:「んっ!たーくん続きお願いします!」 尊:「え、俺が続きやるの?」 栞:「私は味見係なのです。」 尊:「やっぱこうなるのかあ、じゃあ見ながら覚えてよね。いつかしーちゃんの肉じゃが食べたいんだから。」 栞:「任せて!」 尊:「期待してるからね?」 栞:「期待されました!」 尊:「はは、じゃあニンジンの皮剥いちゃうかぁ…っと…」 0:ニンジンを落とす 尊:「……落としちゃった。」 栞:「どうしたのたーくん?」 尊:「……。ううん。なんでもないよ、手が滑っただけ。」 栞:「そう?」 尊:「うん、じゃあ続きやっちゃうね。」 栞:「それじゃあ私は向こうでポテチでも食べながら待ってるね。」 尊:「しーちゃん。ここで見てなさい。ポテチもダメだからね?」 栞:「うう、はあい…」 0: 0: 0:数週間後 栞:「ねえ、たーくん?」 尊:「どうしたの?しーちゃん。」 栞:「なんか最近だいぶシュッとしてきたよね。運動してたっけ?」 尊:「んー、まあ…そうだね、実はあれから少し運動してたんだ。」 栞:「そうなんだ、でもちょっとやせすぎじゃない?もう少しお肉あってもいいと思うよ?」 尊:「そう?でも…そうだね、もう少し食べてお肉付けようかな?」 栞:「うんうん、じゃあさっそく今日のご飯の買い出しをしましょー!なにが良いかな?お肉付けるならやっぱりお肉だよね!」 尊:「はは、すーぐ食べ物の話をするんだからしーちゃんは。」 栞:「だって、食べ物を食べてる時って幸せじゃん?」 尊:「うん、そうだねー。」 栞:「それに加えて、たーくんのご飯を食べてる時が更に幸せなのです!」 尊:「お、それは嬉しいね。」 栞:「たーくんのご飯が毎日食べられて私は幸せだぁ~。」 尊:「なんかその言い方、おばあちゃんぽいよー?」 栞:「えへへ、でも幸せなんだもん。」 尊:「…うん、俺もしーちゃんにご飯を作れて幸せだぁー、」 栞:「ふふ、おじいちゃんぽいよ~?」 尊:「はは、幸せだからね?」 栞:「えへへ。」 尊:「じゃあ、買い物いこっかしーちゃん。」 栞:「ん!いこいこー!」 0:ふらつく尊 尊:「おっと…」 栞:「たーくん?大丈夫…?」 尊:「あーうん、ちょっとふらついただけ。」 栞:「…最近、物落としたりつまづいたりが多くない…?」 尊:「そう…かな?もしかしたら一気に瘦せたからかな…」 栞:「病院行ってみた方が…」 尊:「大丈夫大丈夫!寝たらすぐ治るよ!ほら、行こしーちゃん!」 栞:「え…あ、うん…」 0:  尊:【N】最近、手に力が入らない事が多くなり物を落とすことが多くなった。いや、手だけではない、足にも力が入らずふらついたりする事も。 尊:初めは過労によるものかと思っていつも以上に睡眠を取ったりもしてみたが、治る気配は無かった。 尊:その後に仕事の合間を縫って、病院に行ったら…聞いたことの無い病名を言い渡された。 0: 0:休日の朝 尊:「おはよう、しーちゃん。」 栞:「おはよう、たーくん。」 尊:「ご飯もう出来てるからね、顔洗っておいで?」 栞:「うん、わかった。」 尊:「あっ…」 0:食器を落とす 栞:「たーくん!?どうしたの!」 尊:「あ、あー…はは、お皿落としちゃった…」 栞:「ケガは?大丈夫?」 尊:「うん、大丈夫だよ。しーちゃんは顔洗っておいで?ここは俺がやっとくからさ。」 栞:「でも…」 尊:「大丈夫だって、ほら行った行った!」 栞:「…うん。」 尊:「………くそ…思ったより、早いな…」 0:  栞:「いただきます。」 尊:「いただきます。おかわりあるからね、たくさん食べてね。」 栞:「うん、ありがとたーくん。」 尊:「…ん、んぐ…もぐ」 栞:「…なんか食べづらそうだねたーくん…大丈夫?」 尊:「ん?ああ、うん…ちょっと口内炎が出来ちゃっててさ、食べづらいんだよねーはは。」 栞:「…ほんと?」 尊:「ほんとだよ?これが結構おっきいんだよね。」 栞:「たーくん…」 尊:「…しーちゃん?どうかしたの?」 栞:「どうかしたのは…たーくんの方だよ…」 尊:「しーちゃん…?」 栞:「見るからにおかしいの分かるよ、私だってバカじゃないよ?一緒に暮らしてるんだもん分かるよ。何を隠してるのか教えて?たーくん…」 尊:「………。」 栞:「たーくん…私じゃたーくんを支えるには頼りない…?まだ私は、お父さんを支えられなかったあの時の弱い私のままなの…?」 尊:「っ!そんな…ことはない!」 栞:「じゃあ…教えてよたーくん。」 尊:「……。」 栞:「ねえ…」 尊:「…っ……心配かけたくなかったから最後まで隠し通すつもりだったけど……無理があるよねそりゃ…」 栞:「……。」 0:悲しげな顔で語る尊 尊:「病気…なんだ、俺。」 栞:「…え………それは治るの…?」 尊:「難しいってさ……最後は、呼吸不全になって死んじゃうんだって。」 栞:「…っ!!」 尊:「筋萎縮性側索硬化症(きんいしゅくせいそくさくこうかしょう)っていう病気なんだけど、俺みたいに若い人がなるのは珍しいんだってさ… 尊:どんどん手足の筋肉が衰えて物を取ったり歩いたりするのが困難になって、舌とか喉の筋肉も衰えて喋ることも呼吸も難しくなるんだって 尊:…はは、なんで…どうしてこんな病気に選ばれちゃったんだろうね…」 栞:「…たーくん…」 尊:「早ければ1、2年長ければ5~10年は生きたケースはあるみたい、進行を遅らせる薬も貰ってるから現状なんとかなる…でももう少し症状が悪化したら、入院かな。」 栞:「…入院……たーくん…私たち、これからなんだよ…これからなのに……」 尊:「ほんとにね…これからなのに、なんでだろうね……ごめんね…」 栞:「たーくん…!」 0:尊を抱きしめる栞 尊:「しーちゃん…ごめんね、病気になっちゃって…」 栞:「たーくん…たーくん……!」 尊:「ごめんね……」 0: 0:数週間後 尊:【N】しーちゃんに病気であることを告白して早数週間が経ち、あれから日に日に俺の手足は細くなり、力が以前より入りづらくなってきた 尊:飲み物や食べ物はまだ喉を通るけど、時折飲み込みづらさを感じることがある。 0:  尊:「えーっと、バッグバッグ…よいしょっと…おっとと…」 栞:「たーくん大丈夫?」 尊:「はは、大丈夫だよ。」 栞:「たーくん、私が買い物行くからお留守番してて?」 尊:「え、いやいいよ俺が行くよ?さすがにまだ大丈夫だって。」 栞:「大丈夫じゃないよ、今だってよろけたでしょ?私が行くから待ってて?」 尊:「今のは少しバランス崩しただけで…」 栞:「いいから!!」 尊:「っ!」 栞:「あ……えっとごめん……いいから…私が買い物行くから…じゃあ、まってて。」 尊:「あ、しーちゃん……なんでこうなっちゃうんだろうな…」 0:  栞:「なんでこうなっちゃうんだろう…私はただ心配で心配でとにかく心配で…たーくんを支えたくて……なのにあんな感情的になって声を荒げて… 栞:一番つらいのはたーくんなのに…早く帰って、笑顔見せなきゃだよね…私が落ち込んでちゃダメだよね。」 0:帰宅する栞  栞:「ただいま、たーくん。さっきはごめん…ね…?っ!?たーくん!?」 尊:「うう……」 栞:「たーくん!たーくん!!どうしたの、なにがあったの!?たーくん!!そうだ、救急車!!…もしもし、あの、えっと……!!」 0:  0:病室で尊、目を覚ます 尊:「…ん…」 栞:「っ!たーくん!?たーくん!私の事わかる!?」 尊:「しーちゃん…?あれ、ここは…っつう!」 栞:「大丈夫!?」 尊:「あ、ああ…うん、大丈夫…」 栞:「私が買い物から帰ったら、たーくん倒れてたんだよ?何があったの?」 尊:「倒れ…?ああ、そっか……しーちゃんを怒らせちゃったから、お詫びにお菓子でも作ろうと思ったんだよ。 尊:それで、上の戸棚から道具を取り出そうとしたら、足踏み外しちゃったみたい…」 栞:「……そっか…ごめんなさい。」 尊:「え?」 栞:「私、たーくんの事が心配で心配し過ぎて余裕が無くなってたの…それであんな大きな声上げちゃって……ごめんなさい…」 尊:「しーちゃん…ううん、いいんだ。俺が病気になんてならなきゃ、しーちゃんの余裕が無くなるなんて事なかったんだから。」 栞:「…私も一緒に、たーくんと一緒に戦う。一緒に病気と戦うからね。」 尊:「…一緒に戦ってくれるの?しーちゃん?」 栞:「当たり前だよ、私たちこれまでも、この先も。ずっと一緒でしょ?」 尊:「でも…これからもっと迷惑かけるよ…?」 栞:「いいの、迷惑かけていいんだよ?」 尊:「しーちゃん…そうだね…ありがとう。」 0: 0: 0:部屋で探し物をする栞  栞:【N】たーくんが倒れてから更に数週間が過ぎ、そのまま入院することになった。たーくんの容態も、徐々にだけど体の変化を感じるようになった 栞:呂律が若干だけど甘くなり、時折聞き取りづらさを感じるようになり、お箸も上手く使えなくなってきたのでフォークやスプーンを使い食事を取るようになった。 栞:そして今日は、たーくんの着替えを持っていくついでに頼まれた物を探していた。 0:  栞:「えーっと、着替えはこれでいいとして…小説…小説っと……これとこれとこれでいっか 栞:うん?本の裏に箱がある…なんだろこれ…」 0:箱の中に指輪が収められている 栞:「……え…?これって…」 0: 0:尊が入院する病室 栞:「たーくん!」 尊:「あ、しーちゃん。今日も、荷物、ありがとね。」 栞:「ううん、それはいいんだけど……あのね、聞きたいことがあって。」 尊:「うん?」 栞:「小説を探してたら偶然見つけちゃって…その…これなんだけど……」 尊:「あ…それ……」 栞:「中も…勝手に見ちゃった…ごめんね。」 尊:「そっか、バレちゃったか、次の、交際記念日に、渡そうと思ってたんだけどね。ほら、俺今こんなんじゃん?だから、それ渡すの、やめたんだけど…」 栞:「たーくん……私、うれしかった。」 尊:「え?」 栞:「私たち、付き合ってもう長いでしょ?たーくんって私との将来ってどう考えてるのかなって時々自分でも重いかなって思うようなことを考えてて… 栞:だから、この指輪を見つけた時にちゃんと考えてくれてたんだなってすごく嬉しくなったんだ。」 尊:「しーちゃん…そりゃちゃんと考えるに決まってるでしょ、俺の大切な、大切な人なんだから。」 栞:「たーくん…ありがと…」 尊:「………しーちゃん。その箱、貸して?」 栞:「え?うん。」 0:箱を開け、指輪を栞に向ける 尊:「…しーちゃん…ううん、栞ちゃん。これから待ってる事は、絶対に栞ちゃんにとって辛いと思う。もっと弱っていく、俺の姿を見せて、悲しませてしまうと思う。 尊:でも、最後まで俺は、しーちゃんのそばに居たい。しーちゃんを、愛していたい。だから、俺と……結婚して下さい。」 栞:「…うん……うん!よろしくお願いします…たーくん…!」 尊:「しーちゃん…!」 0:抱きしめあう二人 尊:「愛してるよ、しーちゃん…」 栞:「私も、愛してる…たーくん…」 0: 栞:【N】プロポーズを受けて数日後、ささやかながら後日に挙式をする事となりその準備に勤しんでいると、腹部の軽い痛み、だるさや吐き気などの体の異変が私に起こり始めた。 栞:まさかと思い、病院へ受診すると…結果は陽性だった…… 0:病院内 尊:「ん?しーちゃん?どうしたの?そんな暗い顔して…なにか、あった?」 栞:「えっとね…たーくんに言わなきゃいけないことがあるんだ…」 尊:「え…?なに?」 栞:「実は私…ね…」 尊:「うん…」 栞:「………。」 尊:「…し、しーちゃん?」 栞:「できたの。」 尊:「え?できた?」 栞:「うん、できたの。赤ちゃん。」 尊:「え…?え?」 栞:「2か月くらいだってさ。」 尊:「…ほ、ほんと…?俺らの、子供…?」 栞:「うん…そうだよ、私たちの子供だよ…?」 尊:「…そっか……そっか…俺たちに、子供が、出来たんだね…そっか…」 0:涙を流し、栞のお腹をさする尊 栞:「もう、たーくん…そんな泣かないの。」 尊:「だって…こんな嬉しい事ないでしょ…しーちゃんを1人にしないで済むって考えたら…」 栞:「たーくん……ねえ、名前決めよっか。私たちの子供の名前。」 尊:「…うん、そうだね、決めようか。どんな名前がいいかな…」 栞:「えへへ、私はねもう考えてあるんだよね~。」 尊:「え、ずるい!なんて名前、考えたの?」 栞:「男の子でも女の子でも付けられる名前が良いなって考えて…暖かいって書いて『暖(はる)』なんてどうかな。」 尊:「暖か…いい名前、だね。なんでこの、名前なの?」 栞:「たーくんみたいに、関わる人の心を暖かく包み込んでくれる人になりますようにって意味を込めてみました。」 尊:「そっか…すごく素敵な、名前だね。でも、しーちゃん、も周りの人に、暖かい笑顔を向けてくれて、とても心がポカポカするよ?」 栞:「そっかな?」 尊:「そーだよ。」 栞:「えへへ、じゃあこの子は2人の暖かさを持った子になるんだね。」 尊:「そうだね。暖かい子に、なるよきっと。」 栞:「たーくんは?なにか思いついた?」 尊:「…うーん、しーちゃん、のが良いなって思った。でも、そうだね、男の子だったら『暖(はる)』で 尊:女の子だったら、『陽(ひなた)』なんてのは、どう?太陽のように、暖かく…って。」 栞:「わあ!いいね!ひなた…うん、すごくいいと思う!」 尊:「はは、じゃあ…決まりだね。」 0: 尊:【N】俺たち2人の間に子供が授かってから5か月ほどが経ち、しーちゃんも安定期に入った。俺の方も以前に比べると進行が緩やかになり少し安定してきた気もする。 尊:だが、当然だが手足に力は入らないので移動の際は車椅子が必須だ。そして、迎えたしーちゃんとの結婚式。 尊:両家家族と一部の友人のみの、ささやかな式。俺は、家族に車椅子を押してもらいながら牧師の前へ。 尊:遅れて現れたのは、純白のレースのウェディングドレスに身を包んだしーちゃん。初めて見るその姿に俺は思わず息をのんだ。 尊:そして、ゆっくり、ゆっくりと1歩ずつ俺の前へとやってきて、そして隣へと並んだ。 0:  栞:【N】大きな扉を開けた先には私たちを祝福して送る拍手と、その人たちの先にいる車椅子に座りこちらを見つめるたーくん。 栞:そのたーくんの表情が目をまん丸にしてて、それがなんだか新鮮で可愛い。 栞:ゆっくりと小さな歩幅でたーくんの元へと向かう、暖かい拍手、感動の声、それを一心に受けながら私は歩く。 栞:そして、私を見上げるたーくんの横に並んだ。 栞:私たちを一瞥してから牧師が、誓いの言葉を投げかけてくる。その言葉に私たちは、精一杯の気持ちを込めて誓う。 0:   尊:「はい、誓います。」 栞:「はい、誓います。」 0:  尊:【N】お互いの左薬指に指輪をはめ 0:  栞:【N】そして、私たちは誓いのキスをした 0:  0:数か月後 栞:【N】幸せいっぱいの結婚式が終わって、早数か月が経とうとしていた。私たちはまだ幸せなままでいいんだと思わせてくれるほど平和な何もない時間。 栞:でも、やっぱりそう簡単にはいかなかった。たーくんの容態が急変した。 栞:初めに聞いていた通り、喉の筋肉が衰え呼吸困難に陥ってしまったようだ… 栞:再会した時には、人工呼吸器を着けて苦しそうにしている変わり果てた姿だった。 0: 0:人工呼吸器をつけた尊の前に涙を浮かべる栞 尊:「……。(うっすらとした目で栞をみて微笑む)」 栞:「たーくん…」 尊:「……。(申し訳なさそうな目で見つめる)」 栞:「ねえたーくん…私…私どうしたらいいのかな……私、覚悟決めたはずなのに、どうしたらいいのか分かんないよ…!たーくんが居なくなったら…私、私……」 尊:「……。(痩せ細い腕で力なく栞の手に触れる)」 栞:「たーくんが居たから私は、お母さんとお父さんの為にもう一度頑張ろうって思えたの… 栞:誰も頼る人が居なくて1人寂しく死ぬんだろうって思ってた私を…私の心を救ってくれたのはたーくんなんだよ…? 栞:そのたーくんが居なくなったら私……もう…また1人になっちゃう……」 尊:「………。(栞のお腹を優しくなでる)」 栞:「…っ」 尊:「………。(目を細め微笑む)」 栞:「…たーくん……そう…だよね……お腹には子供がいる…私たちの子供が……」 尊:「……。(小さくうなずく)」 栞:「ごめんね…たーくん……ありがとう…私…1人じゃないよね…」 尊:「…。(力なく手招きをする)」 栞:「え?なに?たーくん…?」 尊:「…あ…い……し…ちゃ……(消え入りそうな声で)」 栞:「え?なに…?聞こえないよ…」 尊:「……あ、い、してる…しー…ちゃ、ん(か細いかすかな声で)」 栞:「…っ!うん…うん…私も、愛してるよたーくん…!」 0: 栞:【N】その小さくて、か細い声は、とても力強く、そしてとても暖かく心を包み込み、背中を押してくれた 0: 0: 0: 0:数か月後、自宅 栞:【N】たーくんの病気が発覚して約3年。自宅で着替えの準備をしていた私に一報が入った。いつ入って来てもおかしくはないその連絡。 栞:たーくんが亡くなった……呼吸不全に陥り、夜中に息を引き取ったと教えられた… 栞:今私の腕にはすでに火葬され、残った彼の遺骨が入った骨壺が収められている、私はただ茫然とするしかない。 栞:この彼と過ごした賑やかだった部屋は、耳鳴りがするほどに静かだ。 栞:彼の使っていたコップ、彼の着ていた服、すべてそのまま残っている。 栞:彼の声も、そのままこの部屋に残っている。彼はまだ生きている、そう錯覚させるほどに。 0:  尊:『ねえ?しーちゃん?』 栞:【N】耳鳴りの奥でふと、優しく私を呼ぶ声が 0:  尊:『もう、しーちゃん忘れたの?もうすぐしーちゃん誕生日でしょ?』 栞:【N】呆れながら微笑んでいるその顔が 0:  尊:『ねえ、キミ。そこのキミ!ハンカチ、落としたよ!』 尊:『はは、いいよいいよ。それよりさ、そのハンカチ可愛いね。』 尊:『猫、好きなの?』 尊:『キミの心に空いた穴は俺が埋める、笠間さんの事が好きだから力になりたいのもある。でもそれ以上に放っておけないから。』 栞:【N】出会った頃の声すらも思い出させる 0:  尊:『……あ、い、してる…しー…ちゃ、ん。』 栞:「っ!たーくん……!たーくんっ!………たーくん……愛してる…」 0:  栞:【N】骨壺を…彼を強く抱きしめ、彼と過ごした部屋の真ん中で、彼との思い出に私は沈んでいった 0: 0: 0: 0:数年後 栞:「はいはい、もうそんなにはしゃがないの!すぐにご飯の準備するからね! 栞:ん?お手伝いしてくれるの?そーだなー、じゃあ陽(ひなた)はニンジンさんの皮むきしてくれますかー? 栞:暖(はる)はじゃがいもさんをお願いしまーす。ってすごーい!2人とも上手だね!ママなんて大人になっても出来なかったのに! 栞:ママはね、大人になってからパパに教わったんだよ。パパの作る肉じゃがは、とっっても美味しいんだから。」 0:  0:ふと、耳に尊の声が聞こえる 尊:『ったくもう…早く作るから待っててね。しーちゃんの大好きな甘めの肉じゃがを、ね。』 尊:『腕によりをかけて作るから待っててね、記念日特性の甘々仕立てな肉じゃがを。』 0:  栞:「っ!たーくん…え?あ、ううんなんでもないよ。」 0:子供たちに満面の笑みを見せ 栞:「よーし、パパに負けないくらいの肉じゃがを腕によりをかけて作るからね!それはもう涙が出るくらいとびっきり美味しくて、甘々仕立てな肉じゃがをね。」 0:  0:  0: 栞:「ねえ、たーくん?この先も、いつまでも。大好きだよ。」 尊:『俺も、大好きだよ。しーちゃん。』 0: 0:FIN 0: