台本概要

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タイトル 透明連鎖〜闇自殺サイト事件〜
作者名 大輝宇宙@ひろきうちゅう  (@hiro55308671)
ジャンル ミステリー
演者人数 5人用台本(男2、女3)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 犯罪対策課の黒岩は、最近続いている自殺が、ただの自殺でないことを感じ捜査を進めていた。
天才ハッカーアイミの解析により、自殺者の所有するパソコン、スマホから共通するサイトに辿り着く…。

非商用使用時は連絡不要ですが、予告などで作者名を使用される際は、下記でお願い致します。
作:しろめぇ
編:大輝宇宙

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
高守 97 高守美紀(たかもりみき) 犯罪対策課3年目の刑事。30代前半。 まっすぐ、単純、真面目、元気。上司の黒岩仁を尊敬している
黒岩 87 黒岩仁(くろいわじん) 犯罪対策課課長。50代前半。 穏やか、いぶし銀、面倒見が良い、よく食べる
アイミ 50 倉賀野アイミ(くらかのあいみ) IQ210の天才ハッカー。10代後半 クールぶりたいツンデレ
雪乃 35 黒岩雪乃(くろいわゆきの) 黒岩仁の妻であり、法医学者、監察医。 普段はおっとりしているが、仕事になるとスイッチが入る。 警視庁の協力要請に応える検死、科学捜査の研究所「クライムラボ」に勤めている。
霧斗 27 手嶋霧斗(てしまきりと) 8人目の自殺者、湯川恭子の恋人を名乗るが、実態は闇自殺サイト「安寧の門」の運営者。理屈っぽい
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:クライムラボラトリー解剖室前 0:黒岩と高守が待合ソファに座っている。 0:解剖室から雪乃が出てくる 黒岩:どうだったんだ? 雪乃:そうね…。死因は煉炭による一酸化炭素中毒で間違いないわ。胃の内容物から死後7時間ってところね。 高守:自殺…ってことでしょうか? 黒岩:高守?(注意するように) 高守:しっ…失礼しました。それは、雪乃さんの仕事ではなく、私達が状況なども捜査して判断することでした! 黒岩:分かってんならいい。 雪乃:ふふっ高守さんもだいぶ鬼上司に慣れてきたわね〜。いいこといいこと♡ 高守:はいっ!もう黒岩さんの下に就いて3年目ですからっ! 黒岩:「まだ」3年目だろうが。 雪乃:あら、手厳しい(微笑む)ま、私達のラボにできることは死因の究明、凶器の特定とかそんなもんよ。 雪乃:そこから、事件か事故か、自殺かを判断するのは、あなたたち警察の役割ね。状況から可能性を示すくらいなら、出来るかもしれないけど…少し詳細を伺っても? 高守:はいっ!えっと…今回のガイシャは、OLの島崎マナミさん、26歳。 高守:一人暮らしのマンションのお風呂場にテープで内側から目張りをし空気が漏れないようにして、七輪で煉炭を焚いている状態で発見されました。 高守:第一発見者は、姉のハルカさん。合鍵を持っていたようで、遊びに来て、たまたま発見されたとのことです。 黒岩:内側からテープで密室にしている。…状況から自殺で間違いないんだが… 雪乃:なに?何か腑に落ちないの? 高守:…実は、黒岩さんは、今回の自殺が「殺人」もしくは「自殺教唆(きょうさ)」「自殺幇助(ほうじょ)」なんじゃないかと考えているんです。 雪乃:自殺教唆…誰かが自殺をするように仕向けてるってこと? 黒岩:まぁ、そういうこった。 高守:このところ管内で、かなりハイペースに自殺者が増えています。 雪乃:たしかに、死因を特定して欲しいってラボに持ち込まれるご遺体も増えているわね…。 高守:でも、鑑識の調べや、ラボの解剖からも他殺ではなく自殺だと分かってるんですよね。 黒岩:自殺を誘導することも、俺に言わせりゃ殺人だからな、どっちでも変わらんが、ここんとこそんな事件ばっかりだ。 高守:今回のご遺体も、今犯罪対策課で煉炭や七輪の入手先を調べていますが、本人が買っていない可能性もありまして… 雪乃:誰かが買い与えてるってこと? 黒岩:これを使って死ねってな。 高守:今回は煉炭、七輪ですが、ここのところ続いている自殺処理された事件は、首吊りや、服毒など様々な手法が使われています。 雪乃:だとしたら、特に共通点はないから考えすぎって普通思うんじゃないの? 高守:そこが黒岩さんのすごいところなんですよっ!!長年の刑事のカンが、黒岩さんに「こいつぁ事件だ」って言ってるんです!! 黒岩:バカヤロウ…そんなすげぇもんじゃねぇ。証拠も揃ってねぇのに…俺の考えは捜査を撹乱(かくらん)させるだけかもしれねぇ。 黒岩:高守おめぇは先入観に捕らわれずにしっかり調べろ。仮説も立てる段階じゃねぇかもしれん。 雪乃:高守さんは、相変わらずうちの人びいきね。嬉しいことじゃない?部下にこんなに信じてもらえてるんだもん 黒岩:(照れて)チッ… 雪乃:ふふふ、ごめんなさいね、高守さん。この人本当は自分の考えを疑わないあなたのこと、頼もしく、嬉しく思ってるのよ? 高守:わたしは黒岩さんを信じて着いていきますから! 黒岩:やめろ!バカヤロウ 雪乃:あはははっ。ほんと…いいコンビになってきたわぁ(笑う) 黒岩:まぁ、とにかく俺は殺人、自殺教唆の線も視野に入れて捜査する。また何かあったら頼むわ。 雪乃:ええ。任せてちょうだい。 0:クライムラボを去る黒岩と高守。車中。高守が運転中。黒岩が助手席でスマートフォンで話をしている。 黒岩:(通話相手に向かって)おお、やっぱり前の7件ともそうなんだな?ふん…おかしな話だな。いや、お前は引き続き今回のガイシャのネットの履歴調べてくれ。スマホの解析も引き続き頼む。 黒岩:ああ、サイバー対策課が?おお、そりゃ難儀なこったな。分かった。こっちは任せろ。(電話を切る) 高守:安本くんですか? 黒岩:ああ。やっぱり前7件のガイシャは、ネットの閲覧履歴がゴッソリ消されてたとよ。 高守:まぁネットの履歴なんて恥ずかしいものの代表みたいなところありますしね 黒岩:なんだお前、恥ずかしいもん見てんのか? 高守:えっ!?あ、いや!?そんなことはないですけども!? 黒岩:見てんだな。分かった。 高守:ちっ…違います!わたしは、自殺するならそーゆーの消しててもおかしくないって話をしたかっただけですっ 黒岩:ふん…そんなもんかもなぁ。ただ、消し方がなぁ…サイバー対策課でも復元が極めて難しいって話だ。 高守:えぇっ?そうなんですか? 黒岩:…こりゃアイツに頼むしかねぇか… 0: 0: 0:数日後、警視庁内、犯罪対策課、高守がドアを開けて中に入ると、若い女性(アイミ)が入口付近に立っている 高守:わっ!びっくりした…。ええと…(部屋の中を見回すが職員は一人もいない)あれ?誰もいない?あの…ここは、犯罪対策課という部署ですけど…? アイミ:……。 高守:ええと…生活安全課は、3階ですよ? アイミ:は? 高守:補導された方…ですよね? アイミ:それは、私の髪の毛がピンクで、ピアスばちばちに開けてて、いかにも学校とか行ってなさそうだっていうこの見た目から言ってんの? 高守:ええっ…違うんですか? アイミ:バッカじゃないの?! 高守:…じゃあ、ここ、犯罪対策課に、どんなご用件でしょうか? アイミ:あなたに答える必要ない 高守:なっ…わたしは、ここの刑事です! アイミ:あっそ。 高守:誰かお待ちですか? アイミ:……(ヘッドホンからテクノ調の音楽が漏れ聞こえる) 高守:もしもし? アイミ:……。 高守:もしもーし? アイミ:……。 高守:もしもーーしっ?お嬢さーん? アイミ:……うるっさいなぁ…。何?お、ば、さ、ん♡ 高守:ちょっ…おば…おばさんってあなた… アイミ:頭の悪そうなおばさんの相手してる時間ないんで。ちょっと黙っててもらえます? 高守:若いからって無礼が許されると思ったら大間違いよ!? アイミ:私は子供じゃないし、あなたに言っても仕方ない、言う必要がないと思ったから黙ってるんです。放っておいて。 高守:ぬぅぅあーーーっ!(怒って) 0:黒岩が部屋に入ってくる 黒岩:うるせぇ!廊下まで筒抜けだ! 高守:黒岩さん…だってこの子が… 黒岩:だっても、なにもねぇ!いい大人が、こんな小娘にムキになるんじゃねぇ アイミ:そんな小娘を呼び出したのは誰?黒岩。 黒岩:俺だな。アイミ、よく来てくれた。 アイミ:面白いことがあるって言うから、わざわざ来たのよ?簡単なことだったら…奢らせるから。 黒岩:鉄んとこのお好み焼きな。もともと来てもらった時点でそのつもりだ。 アイミ:やった! 高守:黒岩さんが…この子を呼んだんですか? 黒岩:おお。高守、こいつは倉賀野アイミ、「成り」は小娘だが、IQ210の天才ハッカーだ。昔とある事件で世話してやってからの付き合いでな。 黒岩:アイミ、こいつぁ俺の部下の高守だ。 アイミ:(棒読みで)よろしくお願いしますー。 高守:よろしくお願いします…。黒岩さんが、アイミちゃんを呼んだのって、例の自殺者たちのネット履歴の復元のためですか? 黒岩:おう。サイバー対策課が手こずるような案件だが、こいつならなんとか出来るんじゃないかと思ってな。 高守:でも、一般人の女の子に捜査協力させるって大丈夫なんですか? 黒岩:ああ、安藤警視正も了解済みの話だ。 高守:ええっ?!あの体裁を一番気にされる方が? 黒岩:アイミは、一般人つーか…まぁ、お前も聞いたことあるだろ?アイミーテックの名前くらい。 高守:超有名IT企業ですよね?サイバー対策課にも出向してくれてる方がいるとか…。 アイミ:わたしはそこの社長令嬢であり、技術開発部長よ。 高守:ええっ!?……そんな漫画みたいな… アイミ:おばさんには想像もつかない世界でしょうね。 黒岩:アイミ、歳上は敬うもんだ。 高守:それフォローになってます? 黒岩:ははっ。どうだかなぁ 高守:黒岩さぁん… 0:数時間後 犯罪対策課 アイミ:復元は大体できたけど 高守:は…はやい アイミ:ネット履歴の復元くらいじゃ、簡単すぎてつまらないって思ってたんだけど… 黒岩:おもしろそうなもんが、出てきたのか アイミ:まあね 黒岩:なんだ、勿体ぶらずに教えろ。 アイミ:まず、どの…えーっと被害者?の買い物の履歴にも自殺に使われた物が一切ない。縄とか、七輪とかね。 高守:ネットでも買ってない…近場でも直接購入していない… 黒岩:こいつぁ本当に誰かが渡してる可能性があるな。安本に配送の履歴も調べさせてるが…。 アイミ:もうひとつおもしろいのは、完全に暗号化された文章のやりとりをしてる「痕跡」があった。これが、あんまり使われないタイプの暗号だから、少し時間かかりそう。 高守:何で嬉しそうなわけ?…事件は、おもちゃじゃないんですよ!? アイミ:私にはカンケーないし。 高守:なっ…そんな気持ちで捜査に参加するのって… アイミ:…気持ちなんてどうでもいいけど。 黒岩:やめろ、2人とも。 アイミ:…私は引き続き暗号化の解析を続けるわね。 黒岩:おう、頼んだ 0: 0:アイミが使っているデスクを離れる黒岩と高守 黒岩:おめぇの言うことは間違っちゃいねぇよ。 高守:…!だったらどうしてですか? 黒岩:正しいことだけじゃ、相手を納得させられねぇこともある。経験してきたことが違うんだ。経験したことの違いで、人は違いを認められねぇもんだ。 高守:でも…私は間違ってはいないんですよね? 黒岩:ああ、それはアイミも分かってるんだろう 高守:だったら… 黒岩:たった今知り合った奴に、自分のやり方を真っ向から否定されたらお前は素直に受け入れられるか? 高守:それは…。でもっ…私だったら… 黒岩:お前は、時にはムッとしても自分の考えを通し続けないことをすでに学んでんだ。アイミはまだ学べてねぇんだ。それだけのことだ。同じ土俵で子供と相撲とんじゃねぇぞ。 高守:…はい。すみませんでした…。 黒岩:分かりゃいい。刑事は芝居ができてなんぼだ。涼しい顔で受け流せ。 高守:…はいっ…! 0:数日後 犯罪対策課 アイミのパソコンの前に集まる黒岩、高守。アイミはパソコンに向かって操作している。 黒岩:ガイシャ7人ともこのサイトを使ってたのか… アイミ:うん。全員削除された履歴の暗号化がバラバラの方法だったから少し時間がかかったけど。全員のパソコン、スマホからここへのアクセスが確認できた。 高守:「安寧の門」…? アイミ:表向きは、悩み相談サイトっぽい。訪問者には、IDとパスワードが発行されて、このサイトの中で運営者とやり取りができる仕組みみたい。 黒岩:やりとりの内容は? アイミ:まだ被害者たちと運営者のやりとりまでは行き着いてないけど、IDが発行されると悩みを書き込めるようになってる。 アイミ:わたしもさっき試しに打ってみたんだけどさ、「いのちの相談窓口」の電話番号を知らせる定型文みたいなのが返ってきた。 黒岩:ほぅ…相手を選んでるってことか。 アイミ:内容が嘘っぽ過ぎたのかも。 高守:アイミちゃん!たった数日でサイトまで行き着くなんてすごいですっ アイミ:は?…別に…こんなん簡単だし。 高守:でもっ!サイバー対策課がお手上げだったんですよ?すごいっ!ありがとうございます! アイミ:すごいしか言えないの?別に私は面白そうだったからやっただけだし… 高守:それでも!捜査は1歩前進ですっ! アイミ:あ…そ。 黒岩:アイミ、悪いが引き続きガイシャと運営のやり取りについて解析を進めてくれ。俺はこのサイトの存在を警視正に報告せにゃならん。 0: 0: 0:翌日 犯罪対策課 アイミ:黒岩!聞いてない!!こんなことされるなんて私は聞いてない!! 黒岩:こいつぁ想定外だった…。 アイミ:想定外!?それはこっちのセリフ! 高守:そんなに興奮してどうしたんですか? アイミ:「安寧の門」が、封鎖されてるの! 高守:運営者が私たちに気づいてサイトを閉じたんですか!? アイミ:私がそんなヘマするわけないでしょう!?警察が有害サイトとして一方的にアクセスできないようにしたのよ! 高守:うちが!? 黒岩:安藤警視正の指示らしい…あンのキツネ野郎… 高守:ま、まぁ…でもっ、これで被害がこれ以上拡大することはなくなったわけですよね? アイミ:バッカじゃないの!? 黒岩:マスコミへは情報開示はしないようだが、これで運営者は、俺らが疑って捜査してることに気づいちまっただろうな… アイミ:完全な解析まであと一歩だったのに!あんたたちは自分たちで重要な証拠を闇に葬った!! 高守:だったら、私たちだけアクセスできるようにしたら?アイミちゃんなら可能でしょう? アイミ:バッカじゃ…あぁっ!もぅほんとにバカなおばさん!相手だってそれなりに知識があってこんな闇サイトやってんのよ!?とっくにアクセスされてサイトも何もかも消されちゃったわよ!! 高守:ええ…!? 黒岩:アイミ…復元を急げ。 アイミ:は? 黒岩:できねぇのか。たかだか一般のヤロウが閉じたサイト、できねぇわけはねぇと俺は思うが? アイミ:……分かった。やるわよ。 黒岩:運営者を突き止めることを最優先してくれ。 アイミ:それ、復元じゃないし。…でも一番楽しそう。 黒岩:よし。頼んだぞ。 高守:よろしくお願いしますね アイミ:こないだみたいに…事件はおもちゃじゃないって怒らないの?オバサン 高守:今は、アイミちゃんが頼りですから!解決の為に、私に出来ることがあったら言ってくださいね? アイミ:…別にないし!頭の悪い高守さんに手伝ってもらわなくても、私できるから。 0: 0: 0:クライムラボ。雪乃と高守が室内で話をしている。 雪乃:今回のご遺体は…服毒? 高守:ええ。部屋に青酸性の薬物が残されていました。 雪乃:そう。胃の中身とか見てみないと何とも言えないけど…とりあえずご遺体を解剖室へ運んで。 0:ラボの廊下で大きな声がする 霧斗:早くっ早く恭子の死因をハッキリさせてくださいっ! 雪乃:廊下で騒いでるのは…ご遺族? 高守:ええと…今回亡くなった湯川恭子さんの恋人だそうです。 雪乃:そう。お気の毒に… 黒岩:今からご遺体を解剖させてもらいます。落ち着いてください。 霧斗:早くっ!早く終わらせてくれ…。 黒岩:大丈夫です。すぐに恭子さんをお返しします。 霧斗:……恭子は、自殺なんてするやつじゃないんです…きっと何かあったんだ…。刑事さん…恭子を殺した奴がいると思いませんか?何も知らない恭子に薬物を渡して飲ませたようなやつが… 0:高守が廊下に出てくる 高守:我々は、自殺と殺人両方の面から捜査しています。…必ず真相を突き止めます。 霧斗:やっぱり…誰かに殺されたんだ…。そうだ…そうだよ…一人でこんなことできるわけがない…。 黒岩:終わるまで、こちらでお待ちください。 霧斗:…解剖には、あなた方警察の方も立ち会うんですか? 黒岩:ええ。解剖室に入ります。 霧斗:そうですか…。 高守:申し訳ありません…。 霧斗:いえ…。立ち会いたくて聞いたわけじゃないですから。……いい報せを待ってます(微笑む) 0: 0: 0:解剖室内でご遺体を取り囲むクライムラボの解剖チーム。後方に、黒岩、高守が控える。 雪乃:本日の執刀は、私が担当します。サポートには小岩井さんに就いてもらう。それから…木下くんは記録、写真も併せて撮ってね(部下に指示を出す) 黒岩:…いい報せ… 高守:え?何ですか? 黒岩:いや?いい報せってどういうことかと思ってな… 高守:うーん…たしかに。 雪乃:では、只今より、68番のご遺体の司法解剖を行います。……黙祷。 0:黙祷を捧げる面々 雪乃:まず表面から見ていきましょう。……目立った外傷はなし。背面にも外傷は見当たらないわね。 高守:服毒と見当がついていても外傷のチェックも怠らないんですね。 黒岩:まぁな…ここを思い込みでやらねぇのが、この仕事では大切なんだとよ。 雪乃:口元に傷はなし。肺にも水が入った形跡はない…無理やり何かを飲まされたようでもないわね。…では胃の中を開いて見てましょう(腹部にメスを入れる雪乃) 雪乃:……っ!!全員避難してっ! 黒岩:どうした!雪乃っ 雪乃:青酸ガスが体内に残ってる……! 黒岩:高守っ!避難するぞ! 高守:はいっ 0:解剖室から慌ただしく退室するメンバー。雪乃が逃げ遅れる 雪乃:これは……(気を失う) 黒岩:雪乃っ!ゆきのーーーーっ!! 0: 0: 0:翌日、病室のドアを高守が開ける。ベッドには雪乃、その傍らに黒岩がいる。 雪乃:高守さんっ! 高守:……雪乃さん!…良かった…一時はどうなることかと… 黒岩:縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ! 高守:すっ…すみません! 雪乃:心配かけてごめんなさいね。青酸性の薬物が胃の中に残されている可能性をもっと考えなくちゃいけなかったわ…。 雪乃:私、あのご遺体について気になることがあったの。 高守:なんですか? 雪乃:もうラボのメンバーから聞いているかもしれないけど…あのご遺体…異常な量の青酸カプセルを服用してた。 高守:はい…まだ溶けきっていないカプセルも胃に大量に残されていたみたいです。 雪乃:そう。そこから青酸ガスが発生した。でも、ご遺体は、青酸性薬物中毒で亡くなっている。つまり… 黒岩:ガスを発生させるために、あえてカプセルが溶ける時間をずらしたかった理由がある。 雪乃:そう。しかも、ただ死ぬためだけなら、あんなに大量のカプセルは必要ない。 高守:なんのためです? 黒岩:解剖させるためだろうな「俺達」に 高守:俺達…。え? 雪乃:わたしたちは、ご遺体に殺されかかったってことよ。 高守:えええっ!? 雪乃:解剖されることを見越して、時間をずらした…。法医学者、警察関係者を狙ってるとしか思えない…。ねぇ、あなた、ご遺体は私たちに強い恨みでも抱いていたのかしら? 黒岩:今調べさせてるが、俺は湯川恭子は利用されただけだと思ってる。その証拠に、「早く解剖してくれ」と泣きわめいていた、恋人の男が青酸ガス発生のゴタゴタの最中に消えちまった。 雪乃:あの恋人が、真犯人ってこと? 黒岩:多分な…。自殺サイトと繋がりがあるかは今後の調べ次第だが、あの男が湯川恭子を使った可能性が高いと俺は思う。 雪乃:どうして… 黒岩:俺が感じた違和感はみっつだ。ひとつは、あいつが俺達に解剖に立ち会うのかを訊いたこと、もうひとつは、解剖を早くしろと迫ったこと…これは、ガスがうまく発生する時間に腹を開かせるためだったと俺は思う。 黒岩:もうひとつは…やつが俺に言った言葉と、まとわりつくような笑顔だ。 高守:いい…報せ 黒岩:あぁ。「いい報せ」ってのがどうにも引っ掛かってたんだ。…くそっ! 雪乃:あなた… 黒岩:…危ねぇ目に遭わせちまってすまねぇ。 雪乃:今回のことは、完全に私があまかったの。あなたのせいじゃない。 黒岩:だけどよ… 雪乃:私が倒れるのを見て、解剖室から引きずり出してくれたんでしょう?…そうじゃなかったら多分…。 黒岩:まったく、肝を冷やしたぜ。 高守:本当に、無事で良かったです。 雪乃:ありがとう。 0: 0: 0:犯罪対策課 アイミ:湯川恭子さんも、やっぱり例の自殺サイトの利用者だったよ。 高守:そうでしたか…。 黒岩:運営者は分かったか? アイミ:うん。サイトでのやりとりが復元できた。個人情報に行き着くの本当に大変だったんだからね!? 高守:ありがとうございます、アイミちゃん。 アイミ:…っ!別に!!鉄んとこのお好み焼きで手を打つからいーけど!これ、サイトでのやりとり。アナログな黒岩のためにプリントアウトしといてあげたわ。 黒岩:おぅ、すまねぇな。 高守:被害者達は、もともと自殺願望があったんですね。沢山悩みを書き込んでる…。 黒岩:どうだかな… 高守:えっ…? 黒岩:奴は都内在住か…。さ、運営の顔、拝みに行くぞ、高守。 0:犯罪対策課を出る2人。残されるアイミ アイミ:……被害者と運営のやつとのやりとりは、完全に復元したけど…。何か違和感があるんだよね…。(パソコンのキーボードをパチパチはじく) アイミ:…あ?ここって…さらにロックかけられてるけど…何これ…(パソコンのキーボードをパチパチはじく) 0: 0:手嶋霧斗のアパートの部屋前。インターホンを押す 高守:手嶋さーんっ? 黒岩:……。 高守:いないんでしょうか? 黒岩:いや、室外機が動いてる…礼状はまだだが、蹴破るぞ! 高守:はいっ!! 0:黒岩がドアを破ろうとした瞬間ドアが開く 霧斗:最近の警察は、閉じるも開けるも、好き放題し過ぎですね…。 黒岩:手嶋霧斗…。やっと顔合わせてゆっくり話ができるな… 霧斗:こないだの刑事さんですか。残念です…刑事さん。せっかくの青酸ガスで、どなたも亡くならなかったなんて… 高守:あなたっ…!法医学者の方が危ないところだったんですよ!? 霧斗:…でも、死ななかった…。 黒岩:てめぇ… 霧斗:あなた方が悪いんだ。僕のサイトを勝手に閉じたりするから…。僕はまだ救ってあげなきゃならない子羊たちを沢山抱えていたのに… 高守:救う…? 霧斗:ええ、そうです。「安寧の門」は、死への恐怖を取り除き、安らかにあの世へ逝ける、人々の救いでした。 高守:……。 黒岩:おめぇは…神様きどりか。 霧斗:え? 黒岩:救うだの、恐怖を取り除くだの…。利用者の悩みを聞いて、自殺をすすめて…死に方を手ほどきしてやって、命を左右できる神様にでもなったつもりか。 霧斗:神様…そうですね、僕は「安寧の門」で、確かに神の代わりと言って差し支えないでしょう 黒岩:てめぇは神なんざじゃねぇ。 霧斗:…神ですよ。安らかな死へと皆を導いたんです。だってみんな死にたがっていたんですから。 高守:それは、違うと思います…。 霧斗:あなた方には分からない!安寧の門を叩く者は、助けてあげなくちゃならないんです。 高守:助けるって…自殺に賛同することですか? 霧斗:ええ。楽に死ねる方法を、確実に早く死ねる方法を、簡単に、美しく死ねる方法を、プロデュースするような感じですよ。 高守:みんな…本当に死にたがっていたんでしょうか?…ただ、悩みを聞いて欲しかった、助けが欲しかっただけなんじゃないかって…。 霧斗:バカバカしい!あのサイトは「死にたい」「自殺、死に方」など入力しないと出ないようにしていたし、現にみんな実行したじゃないか! 高守:危うい心に、あなたがつけ込んだ…。 霧斗:つけ込まれる方が悪い。それは死にたかったってことですよ。 黒岩:だがお前は現に、死にたくない奴にまで手を出した。 霧斗:…。 黒岩:最後の被害者、湯川恭子は、お前から送られた青酸カプセルを見て実感したんだろうな…死への恐怖を。 霧斗:…… 高守:「死ぬ気で生きたら何でも出来そうな気がしてきた」彼女は、あなたにこう送っていました…。 高守:それに対してあなたは、「もう死ぬしかないんだよ。その薬物は…」 霧斗:返却不可だ。持っているだけで罪になる。僕は君の住所を知っているし・・・ごめんね、ウェブカメラのハッキングなんて簡単なんだ。君の全てを僕は知っている。 高守:死ぬように脅迫してる…。 霧斗:彼女の死は、あなた方に復讐するために必要だったから。 黒岩:全能感を手に入れたかったのか?何のためにこんなことをした? 霧斗:弱い人間は、この国に必要ないから。 高守:国? 霧斗:死にたがりを抱えた不健康な国は弱い国になってしまうから…だから…だから僕が…! 黒岩:…おめぇとは、きっちり話つけねぇとだな…。 高守:署までご同行下さい…! 霧斗:うっ……!?(胸を銃で撃たれる) 黒岩:どうした!手嶋ぁっ!高守っ!周囲を警戒! 高守:はいっ…! 霧斗:そうか…僕も必要…ないんだ…。僕の役目はもう終わり…ははっ…ここはゴールじゃないですよ…刑事さん…僕が…死んでも…(こと切れる) 黒岩:高守っ!救急車! 高守:はいっ…! 0: 0: 0:犯罪対策課 アイミ:これって…。運営の奴…手嶋霧斗も、もともとはここに書き込んだ利用者だったってこと…?じゃあ、このサイトって一体誰が作ったの? アイミ:……やたら頻繁にアクセスしてるアドレスがある……。所在地だって簡単に割り出しちゃうんだから!(パソコンを弾く) アイミ:出た!位置情報!めちゃくちゃ厳重じゃない?…ここって…え?警視庁の中…じゃあ安寧の門を作ったのは… 0:つづく

0:クライムラボラトリー解剖室前 0:黒岩と高守が待合ソファに座っている。 0:解剖室から雪乃が出てくる 黒岩:どうだったんだ? 雪乃:そうね…。死因は煉炭による一酸化炭素中毒で間違いないわ。胃の内容物から死後7時間ってところね。 高守:自殺…ってことでしょうか? 黒岩:高守?(注意するように) 高守:しっ…失礼しました。それは、雪乃さんの仕事ではなく、私達が状況なども捜査して判断することでした! 黒岩:分かってんならいい。 雪乃:ふふっ高守さんもだいぶ鬼上司に慣れてきたわね〜。いいこといいこと♡ 高守:はいっ!もう黒岩さんの下に就いて3年目ですからっ! 黒岩:「まだ」3年目だろうが。 雪乃:あら、手厳しい(微笑む)ま、私達のラボにできることは死因の究明、凶器の特定とかそんなもんよ。 雪乃:そこから、事件か事故か、自殺かを判断するのは、あなたたち警察の役割ね。状況から可能性を示すくらいなら、出来るかもしれないけど…少し詳細を伺っても? 高守:はいっ!えっと…今回のガイシャは、OLの島崎マナミさん、26歳。 高守:一人暮らしのマンションのお風呂場にテープで内側から目張りをし空気が漏れないようにして、七輪で煉炭を焚いている状態で発見されました。 高守:第一発見者は、姉のハルカさん。合鍵を持っていたようで、遊びに来て、たまたま発見されたとのことです。 黒岩:内側からテープで密室にしている。…状況から自殺で間違いないんだが… 雪乃:なに?何か腑に落ちないの? 高守:…実は、黒岩さんは、今回の自殺が「殺人」もしくは「自殺教唆(きょうさ)」「自殺幇助(ほうじょ)」なんじゃないかと考えているんです。 雪乃:自殺教唆…誰かが自殺をするように仕向けてるってこと? 黒岩:まぁ、そういうこった。 高守:このところ管内で、かなりハイペースに自殺者が増えています。 雪乃:たしかに、死因を特定して欲しいってラボに持ち込まれるご遺体も増えているわね…。 高守:でも、鑑識の調べや、ラボの解剖からも他殺ではなく自殺だと分かってるんですよね。 黒岩:自殺を誘導することも、俺に言わせりゃ殺人だからな、どっちでも変わらんが、ここんとこそんな事件ばっかりだ。 高守:今回のご遺体も、今犯罪対策課で煉炭や七輪の入手先を調べていますが、本人が買っていない可能性もありまして… 雪乃:誰かが買い与えてるってこと? 黒岩:これを使って死ねってな。 高守:今回は煉炭、七輪ですが、ここのところ続いている自殺処理された事件は、首吊りや、服毒など様々な手法が使われています。 雪乃:だとしたら、特に共通点はないから考えすぎって普通思うんじゃないの? 高守:そこが黒岩さんのすごいところなんですよっ!!長年の刑事のカンが、黒岩さんに「こいつぁ事件だ」って言ってるんです!! 黒岩:バカヤロウ…そんなすげぇもんじゃねぇ。証拠も揃ってねぇのに…俺の考えは捜査を撹乱(かくらん)させるだけかもしれねぇ。 黒岩:高守おめぇは先入観に捕らわれずにしっかり調べろ。仮説も立てる段階じゃねぇかもしれん。 雪乃:高守さんは、相変わらずうちの人びいきね。嬉しいことじゃない?部下にこんなに信じてもらえてるんだもん 黒岩:(照れて)チッ… 雪乃:ふふふ、ごめんなさいね、高守さん。この人本当は自分の考えを疑わないあなたのこと、頼もしく、嬉しく思ってるのよ? 高守:わたしは黒岩さんを信じて着いていきますから! 黒岩:やめろ!バカヤロウ 雪乃:あはははっ。ほんと…いいコンビになってきたわぁ(笑う) 黒岩:まぁ、とにかく俺は殺人、自殺教唆の線も視野に入れて捜査する。また何かあったら頼むわ。 雪乃:ええ。任せてちょうだい。 0:クライムラボを去る黒岩と高守。車中。高守が運転中。黒岩が助手席でスマートフォンで話をしている。 黒岩:(通話相手に向かって)おお、やっぱり前の7件ともそうなんだな?ふん…おかしな話だな。いや、お前は引き続き今回のガイシャのネットの履歴調べてくれ。スマホの解析も引き続き頼む。 黒岩:ああ、サイバー対策課が?おお、そりゃ難儀なこったな。分かった。こっちは任せろ。(電話を切る) 高守:安本くんですか? 黒岩:ああ。やっぱり前7件のガイシャは、ネットの閲覧履歴がゴッソリ消されてたとよ。 高守:まぁネットの履歴なんて恥ずかしいものの代表みたいなところありますしね 黒岩:なんだお前、恥ずかしいもん見てんのか? 高守:えっ!?あ、いや!?そんなことはないですけども!? 黒岩:見てんだな。分かった。 高守:ちっ…違います!わたしは、自殺するならそーゆーの消しててもおかしくないって話をしたかっただけですっ 黒岩:ふん…そんなもんかもなぁ。ただ、消し方がなぁ…サイバー対策課でも復元が極めて難しいって話だ。 高守:えぇっ?そうなんですか? 黒岩:…こりゃアイツに頼むしかねぇか… 0: 0: 0:数日後、警視庁内、犯罪対策課、高守がドアを開けて中に入ると、若い女性(アイミ)が入口付近に立っている 高守:わっ!びっくりした…。ええと…(部屋の中を見回すが職員は一人もいない)あれ?誰もいない?あの…ここは、犯罪対策課という部署ですけど…? アイミ:……。 高守:ええと…生活安全課は、3階ですよ? アイミ:は? 高守:補導された方…ですよね? アイミ:それは、私の髪の毛がピンクで、ピアスばちばちに開けてて、いかにも学校とか行ってなさそうだっていうこの見た目から言ってんの? 高守:ええっ…違うんですか? アイミ:バッカじゃないの?! 高守:…じゃあ、ここ、犯罪対策課に、どんなご用件でしょうか? アイミ:あなたに答える必要ない 高守:なっ…わたしは、ここの刑事です! アイミ:あっそ。 高守:誰かお待ちですか? アイミ:……(ヘッドホンからテクノ調の音楽が漏れ聞こえる) 高守:もしもし? アイミ:……。 高守:もしもーし? アイミ:……。 高守:もしもーーしっ?お嬢さーん? アイミ:……うるっさいなぁ…。何?お、ば、さ、ん♡ 高守:ちょっ…おば…おばさんってあなた… アイミ:頭の悪そうなおばさんの相手してる時間ないんで。ちょっと黙っててもらえます? 高守:若いからって無礼が許されると思ったら大間違いよ!? アイミ:私は子供じゃないし、あなたに言っても仕方ない、言う必要がないと思ったから黙ってるんです。放っておいて。 高守:ぬぅぅあーーーっ!(怒って) 0:黒岩が部屋に入ってくる 黒岩:うるせぇ!廊下まで筒抜けだ! 高守:黒岩さん…だってこの子が… 黒岩:だっても、なにもねぇ!いい大人が、こんな小娘にムキになるんじゃねぇ アイミ:そんな小娘を呼び出したのは誰?黒岩。 黒岩:俺だな。アイミ、よく来てくれた。 アイミ:面白いことがあるって言うから、わざわざ来たのよ?簡単なことだったら…奢らせるから。 黒岩:鉄んとこのお好み焼きな。もともと来てもらった時点でそのつもりだ。 アイミ:やった! 高守:黒岩さんが…この子を呼んだんですか? 黒岩:おお。高守、こいつは倉賀野アイミ、「成り」は小娘だが、IQ210の天才ハッカーだ。昔とある事件で世話してやってからの付き合いでな。 黒岩:アイミ、こいつぁ俺の部下の高守だ。 アイミ:(棒読みで)よろしくお願いしますー。 高守:よろしくお願いします…。黒岩さんが、アイミちゃんを呼んだのって、例の自殺者たちのネット履歴の復元のためですか? 黒岩:おう。サイバー対策課が手こずるような案件だが、こいつならなんとか出来るんじゃないかと思ってな。 高守:でも、一般人の女の子に捜査協力させるって大丈夫なんですか? 黒岩:ああ、安藤警視正も了解済みの話だ。 高守:ええっ?!あの体裁を一番気にされる方が? 黒岩:アイミは、一般人つーか…まぁ、お前も聞いたことあるだろ?アイミーテックの名前くらい。 高守:超有名IT企業ですよね?サイバー対策課にも出向してくれてる方がいるとか…。 アイミ:わたしはそこの社長令嬢であり、技術開発部長よ。 高守:ええっ!?……そんな漫画みたいな… アイミ:おばさんには想像もつかない世界でしょうね。 黒岩:アイミ、歳上は敬うもんだ。 高守:それフォローになってます? 黒岩:ははっ。どうだかなぁ 高守:黒岩さぁん… 0:数時間後 犯罪対策課 アイミ:復元は大体できたけど 高守:は…はやい アイミ:ネット履歴の復元くらいじゃ、簡単すぎてつまらないって思ってたんだけど… 黒岩:おもしろそうなもんが、出てきたのか アイミ:まあね 黒岩:なんだ、勿体ぶらずに教えろ。 アイミ:まず、どの…えーっと被害者?の買い物の履歴にも自殺に使われた物が一切ない。縄とか、七輪とかね。 高守:ネットでも買ってない…近場でも直接購入していない… 黒岩:こいつぁ本当に誰かが渡してる可能性があるな。安本に配送の履歴も調べさせてるが…。 アイミ:もうひとつおもしろいのは、完全に暗号化された文章のやりとりをしてる「痕跡」があった。これが、あんまり使われないタイプの暗号だから、少し時間かかりそう。 高守:何で嬉しそうなわけ?…事件は、おもちゃじゃないんですよ!? アイミ:私にはカンケーないし。 高守:なっ…そんな気持ちで捜査に参加するのって… アイミ:…気持ちなんてどうでもいいけど。 黒岩:やめろ、2人とも。 アイミ:…私は引き続き暗号化の解析を続けるわね。 黒岩:おう、頼んだ 0: 0:アイミが使っているデスクを離れる黒岩と高守 黒岩:おめぇの言うことは間違っちゃいねぇよ。 高守:…!だったらどうしてですか? 黒岩:正しいことだけじゃ、相手を納得させられねぇこともある。経験してきたことが違うんだ。経験したことの違いで、人は違いを認められねぇもんだ。 高守:でも…私は間違ってはいないんですよね? 黒岩:ああ、それはアイミも分かってるんだろう 高守:だったら… 黒岩:たった今知り合った奴に、自分のやり方を真っ向から否定されたらお前は素直に受け入れられるか? 高守:それは…。でもっ…私だったら… 黒岩:お前は、時にはムッとしても自分の考えを通し続けないことをすでに学んでんだ。アイミはまだ学べてねぇんだ。それだけのことだ。同じ土俵で子供と相撲とんじゃねぇぞ。 高守:…はい。すみませんでした…。 黒岩:分かりゃいい。刑事は芝居ができてなんぼだ。涼しい顔で受け流せ。 高守:…はいっ…! 0:数日後 犯罪対策課 アイミのパソコンの前に集まる黒岩、高守。アイミはパソコンに向かって操作している。 黒岩:ガイシャ7人ともこのサイトを使ってたのか… アイミ:うん。全員削除された履歴の暗号化がバラバラの方法だったから少し時間がかかったけど。全員のパソコン、スマホからここへのアクセスが確認できた。 高守:「安寧の門」…? アイミ:表向きは、悩み相談サイトっぽい。訪問者には、IDとパスワードが発行されて、このサイトの中で運営者とやり取りができる仕組みみたい。 黒岩:やりとりの内容は? アイミ:まだ被害者たちと運営者のやりとりまでは行き着いてないけど、IDが発行されると悩みを書き込めるようになってる。 アイミ:わたしもさっき試しに打ってみたんだけどさ、「いのちの相談窓口」の電話番号を知らせる定型文みたいなのが返ってきた。 黒岩:ほぅ…相手を選んでるってことか。 アイミ:内容が嘘っぽ過ぎたのかも。 高守:アイミちゃん!たった数日でサイトまで行き着くなんてすごいですっ アイミ:は?…別に…こんなん簡単だし。 高守:でもっ!サイバー対策課がお手上げだったんですよ?すごいっ!ありがとうございます! アイミ:すごいしか言えないの?別に私は面白そうだったからやっただけだし… 高守:それでも!捜査は1歩前進ですっ! アイミ:あ…そ。 黒岩:アイミ、悪いが引き続きガイシャと運営のやり取りについて解析を進めてくれ。俺はこのサイトの存在を警視正に報告せにゃならん。 0: 0: 0:翌日 犯罪対策課 アイミ:黒岩!聞いてない!!こんなことされるなんて私は聞いてない!! 黒岩:こいつぁ想定外だった…。 アイミ:想定外!?それはこっちのセリフ! 高守:そんなに興奮してどうしたんですか? アイミ:「安寧の門」が、封鎖されてるの! 高守:運営者が私たちに気づいてサイトを閉じたんですか!? アイミ:私がそんなヘマするわけないでしょう!?警察が有害サイトとして一方的にアクセスできないようにしたのよ! 高守:うちが!? 黒岩:安藤警視正の指示らしい…あンのキツネ野郎… 高守:ま、まぁ…でもっ、これで被害がこれ以上拡大することはなくなったわけですよね? アイミ:バッカじゃないの!? 黒岩:マスコミへは情報開示はしないようだが、これで運営者は、俺らが疑って捜査してることに気づいちまっただろうな… アイミ:完全な解析まであと一歩だったのに!あんたたちは自分たちで重要な証拠を闇に葬った!! 高守:だったら、私たちだけアクセスできるようにしたら?アイミちゃんなら可能でしょう? アイミ:バッカじゃ…あぁっ!もぅほんとにバカなおばさん!相手だってそれなりに知識があってこんな闇サイトやってんのよ!?とっくにアクセスされてサイトも何もかも消されちゃったわよ!! 高守:ええ…!? 黒岩:アイミ…復元を急げ。 アイミ:は? 黒岩:できねぇのか。たかだか一般のヤロウが閉じたサイト、できねぇわけはねぇと俺は思うが? アイミ:……分かった。やるわよ。 黒岩:運営者を突き止めることを最優先してくれ。 アイミ:それ、復元じゃないし。…でも一番楽しそう。 黒岩:よし。頼んだぞ。 高守:よろしくお願いしますね アイミ:こないだみたいに…事件はおもちゃじゃないって怒らないの?オバサン 高守:今は、アイミちゃんが頼りですから!解決の為に、私に出来ることがあったら言ってくださいね? アイミ:…別にないし!頭の悪い高守さんに手伝ってもらわなくても、私できるから。 0: 0: 0:クライムラボ。雪乃と高守が室内で話をしている。 雪乃:今回のご遺体は…服毒? 高守:ええ。部屋に青酸性の薬物が残されていました。 雪乃:そう。胃の中身とか見てみないと何とも言えないけど…とりあえずご遺体を解剖室へ運んで。 0:ラボの廊下で大きな声がする 霧斗:早くっ早く恭子の死因をハッキリさせてくださいっ! 雪乃:廊下で騒いでるのは…ご遺族? 高守:ええと…今回亡くなった湯川恭子さんの恋人だそうです。 雪乃:そう。お気の毒に… 黒岩:今からご遺体を解剖させてもらいます。落ち着いてください。 霧斗:早くっ!早く終わらせてくれ…。 黒岩:大丈夫です。すぐに恭子さんをお返しします。 霧斗:……恭子は、自殺なんてするやつじゃないんです…きっと何かあったんだ…。刑事さん…恭子を殺した奴がいると思いませんか?何も知らない恭子に薬物を渡して飲ませたようなやつが… 0:高守が廊下に出てくる 高守:我々は、自殺と殺人両方の面から捜査しています。…必ず真相を突き止めます。 霧斗:やっぱり…誰かに殺されたんだ…。そうだ…そうだよ…一人でこんなことできるわけがない…。 黒岩:終わるまで、こちらでお待ちください。 霧斗:…解剖には、あなた方警察の方も立ち会うんですか? 黒岩:ええ。解剖室に入ります。 霧斗:そうですか…。 高守:申し訳ありません…。 霧斗:いえ…。立ち会いたくて聞いたわけじゃないですから。……いい報せを待ってます(微笑む) 0: 0: 0:解剖室内でご遺体を取り囲むクライムラボの解剖チーム。後方に、黒岩、高守が控える。 雪乃:本日の執刀は、私が担当します。サポートには小岩井さんに就いてもらう。それから…木下くんは記録、写真も併せて撮ってね(部下に指示を出す) 黒岩:…いい報せ… 高守:え?何ですか? 黒岩:いや?いい報せってどういうことかと思ってな… 高守:うーん…たしかに。 雪乃:では、只今より、68番のご遺体の司法解剖を行います。……黙祷。 0:黙祷を捧げる面々 雪乃:まず表面から見ていきましょう。……目立った外傷はなし。背面にも外傷は見当たらないわね。 高守:服毒と見当がついていても外傷のチェックも怠らないんですね。 黒岩:まぁな…ここを思い込みでやらねぇのが、この仕事では大切なんだとよ。 雪乃:口元に傷はなし。肺にも水が入った形跡はない…無理やり何かを飲まされたようでもないわね。…では胃の中を開いて見てましょう(腹部にメスを入れる雪乃) 雪乃:……っ!!全員避難してっ! 黒岩:どうした!雪乃っ 雪乃:青酸ガスが体内に残ってる……! 黒岩:高守っ!避難するぞ! 高守:はいっ 0:解剖室から慌ただしく退室するメンバー。雪乃が逃げ遅れる 雪乃:これは……(気を失う) 黒岩:雪乃っ!ゆきのーーーーっ!! 0: 0: 0:翌日、病室のドアを高守が開ける。ベッドには雪乃、その傍らに黒岩がいる。 雪乃:高守さんっ! 高守:……雪乃さん!…良かった…一時はどうなることかと… 黒岩:縁起でもねぇこと言うんじゃねぇ! 高守:すっ…すみません! 雪乃:心配かけてごめんなさいね。青酸性の薬物が胃の中に残されている可能性をもっと考えなくちゃいけなかったわ…。 雪乃:私、あのご遺体について気になることがあったの。 高守:なんですか? 雪乃:もうラボのメンバーから聞いているかもしれないけど…あのご遺体…異常な量の青酸カプセルを服用してた。 高守:はい…まだ溶けきっていないカプセルも胃に大量に残されていたみたいです。 雪乃:そう。そこから青酸ガスが発生した。でも、ご遺体は、青酸性薬物中毒で亡くなっている。つまり… 黒岩:ガスを発生させるために、あえてカプセルが溶ける時間をずらしたかった理由がある。 雪乃:そう。しかも、ただ死ぬためだけなら、あんなに大量のカプセルは必要ない。 高守:なんのためです? 黒岩:解剖させるためだろうな「俺達」に 高守:俺達…。え? 雪乃:わたしたちは、ご遺体に殺されかかったってことよ。 高守:えええっ!? 雪乃:解剖されることを見越して、時間をずらした…。法医学者、警察関係者を狙ってるとしか思えない…。ねぇ、あなた、ご遺体は私たちに強い恨みでも抱いていたのかしら? 黒岩:今調べさせてるが、俺は湯川恭子は利用されただけだと思ってる。その証拠に、「早く解剖してくれ」と泣きわめいていた、恋人の男が青酸ガス発生のゴタゴタの最中に消えちまった。 雪乃:あの恋人が、真犯人ってこと? 黒岩:多分な…。自殺サイトと繋がりがあるかは今後の調べ次第だが、あの男が湯川恭子を使った可能性が高いと俺は思う。 雪乃:どうして… 黒岩:俺が感じた違和感はみっつだ。ひとつは、あいつが俺達に解剖に立ち会うのかを訊いたこと、もうひとつは、解剖を早くしろと迫ったこと…これは、ガスがうまく発生する時間に腹を開かせるためだったと俺は思う。 黒岩:もうひとつは…やつが俺に言った言葉と、まとわりつくような笑顔だ。 高守:いい…報せ 黒岩:あぁ。「いい報せ」ってのがどうにも引っ掛かってたんだ。…くそっ! 雪乃:あなた… 黒岩:…危ねぇ目に遭わせちまってすまねぇ。 雪乃:今回のことは、完全に私があまかったの。あなたのせいじゃない。 黒岩:だけどよ… 雪乃:私が倒れるのを見て、解剖室から引きずり出してくれたんでしょう?…そうじゃなかったら多分…。 黒岩:まったく、肝を冷やしたぜ。 高守:本当に、無事で良かったです。 雪乃:ありがとう。 0: 0: 0:犯罪対策課 アイミ:湯川恭子さんも、やっぱり例の自殺サイトの利用者だったよ。 高守:そうでしたか…。 黒岩:運営者は分かったか? アイミ:うん。サイトでのやりとりが復元できた。個人情報に行き着くの本当に大変だったんだからね!? 高守:ありがとうございます、アイミちゃん。 アイミ:…っ!別に!!鉄んとこのお好み焼きで手を打つからいーけど!これ、サイトでのやりとり。アナログな黒岩のためにプリントアウトしといてあげたわ。 黒岩:おぅ、すまねぇな。 高守:被害者達は、もともと自殺願望があったんですね。沢山悩みを書き込んでる…。 黒岩:どうだかな… 高守:えっ…? 黒岩:奴は都内在住か…。さ、運営の顔、拝みに行くぞ、高守。 0:犯罪対策課を出る2人。残されるアイミ アイミ:……被害者と運営のやつとのやりとりは、完全に復元したけど…。何か違和感があるんだよね…。(パソコンのキーボードをパチパチはじく) アイミ:…あ?ここって…さらにロックかけられてるけど…何これ…(パソコンのキーボードをパチパチはじく) 0: 0:手嶋霧斗のアパートの部屋前。インターホンを押す 高守:手嶋さーんっ? 黒岩:……。 高守:いないんでしょうか? 黒岩:いや、室外機が動いてる…礼状はまだだが、蹴破るぞ! 高守:はいっ!! 0:黒岩がドアを破ろうとした瞬間ドアが開く 霧斗:最近の警察は、閉じるも開けるも、好き放題し過ぎですね…。 黒岩:手嶋霧斗…。やっと顔合わせてゆっくり話ができるな… 霧斗:こないだの刑事さんですか。残念です…刑事さん。せっかくの青酸ガスで、どなたも亡くならなかったなんて… 高守:あなたっ…!法医学者の方が危ないところだったんですよ!? 霧斗:…でも、死ななかった…。 黒岩:てめぇ… 霧斗:あなた方が悪いんだ。僕のサイトを勝手に閉じたりするから…。僕はまだ救ってあげなきゃならない子羊たちを沢山抱えていたのに… 高守:救う…? 霧斗:ええ、そうです。「安寧の門」は、死への恐怖を取り除き、安らかにあの世へ逝ける、人々の救いでした。 高守:……。 黒岩:おめぇは…神様きどりか。 霧斗:え? 黒岩:救うだの、恐怖を取り除くだの…。利用者の悩みを聞いて、自殺をすすめて…死に方を手ほどきしてやって、命を左右できる神様にでもなったつもりか。 霧斗:神様…そうですね、僕は「安寧の門」で、確かに神の代わりと言って差し支えないでしょう 黒岩:てめぇは神なんざじゃねぇ。 霧斗:…神ですよ。安らかな死へと皆を導いたんです。だってみんな死にたがっていたんですから。 高守:それは、違うと思います…。 霧斗:あなた方には分からない!安寧の門を叩く者は、助けてあげなくちゃならないんです。 高守:助けるって…自殺に賛同することですか? 霧斗:ええ。楽に死ねる方法を、確実に早く死ねる方法を、簡単に、美しく死ねる方法を、プロデュースするような感じですよ。 高守:みんな…本当に死にたがっていたんでしょうか?…ただ、悩みを聞いて欲しかった、助けが欲しかっただけなんじゃないかって…。 霧斗:バカバカしい!あのサイトは「死にたい」「自殺、死に方」など入力しないと出ないようにしていたし、現にみんな実行したじゃないか! 高守:危うい心に、あなたがつけ込んだ…。 霧斗:つけ込まれる方が悪い。それは死にたかったってことですよ。 黒岩:だがお前は現に、死にたくない奴にまで手を出した。 霧斗:…。 黒岩:最後の被害者、湯川恭子は、お前から送られた青酸カプセルを見て実感したんだろうな…死への恐怖を。 霧斗:…… 高守:「死ぬ気で生きたら何でも出来そうな気がしてきた」彼女は、あなたにこう送っていました…。 高守:それに対してあなたは、「もう死ぬしかないんだよ。その薬物は…」 霧斗:返却不可だ。持っているだけで罪になる。僕は君の住所を知っているし・・・ごめんね、ウェブカメラのハッキングなんて簡単なんだ。君の全てを僕は知っている。 高守:死ぬように脅迫してる…。 霧斗:彼女の死は、あなた方に復讐するために必要だったから。 黒岩:全能感を手に入れたかったのか?何のためにこんなことをした? 霧斗:弱い人間は、この国に必要ないから。 高守:国? 霧斗:死にたがりを抱えた不健康な国は弱い国になってしまうから…だから…だから僕が…! 黒岩:…おめぇとは、きっちり話つけねぇとだな…。 高守:署までご同行下さい…! 霧斗:うっ……!?(胸を銃で撃たれる) 黒岩:どうした!手嶋ぁっ!高守っ!周囲を警戒! 高守:はいっ…! 霧斗:そうか…僕も必要…ないんだ…。僕の役目はもう終わり…ははっ…ここはゴールじゃないですよ…刑事さん…僕が…死んでも…(こと切れる) 黒岩:高守っ!救急車! 高守:はいっ…! 0: 0: 0:犯罪対策課 アイミ:これって…。運営の奴…手嶋霧斗も、もともとはここに書き込んだ利用者だったってこと…?じゃあ、このサイトって一体誰が作ったの? アイミ:……やたら頻繁にアクセスしてるアドレスがある……。所在地だって簡単に割り出しちゃうんだから!(パソコンを弾く) アイミ:出た!位置情報!めちゃくちゃ厳重じゃない?…ここって…え?警視庁の中…じゃあ安寧の門を作ったのは… 0:つづく