台本概要
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タイトル | 厄介相談部の日常 |
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作者名 | あまくケイ (@amak0331) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 5人用台本(男3、女2) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
不良と生徒会の抗争が絶えない真倭(しんわ)学園 地味に生きたい引きこもり希望の天宮茂(あまみやしげる)は 欠席日数の多さを、教師「三柴(みしば)」に目を付けられ、無理やり 厄介相談部に入部させられることになる そこにいたのは、怪異ハンターを名乗る女子校生、冥咲灯子(めいさきとうこ)がいた ※序盤出てくる怪異役(2台詞のみ)の兼ね役(男女不問)と 高橋役の兼ね役(女性)お願いします 天宮、炭田、三柴は性転換可 巻き込まれ系主人公の学園コメディです 60分くらい シナリオの展開が、大きく崩れないアドリブなら可 ご自由にどうぞ 1015 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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天宮 | 男 | 184 | 天宮 茂(あまみや しげる) 本作の主人公 ツッコミに回ることが多い ひっそりと影薄く学園生活を送っていた男子高校生 将来は引きこもり志望 周りからひかれるレベルの、独自の怠惰哲学を持っている 男性だが、性転換可 |
冥咲 | 女 | 142 | 冥咲 灯子(めいさき とうこ) 厄介相談部の部長で、怪異ハンター(自称)を名乗る 怪異を日々退治している 厄介相談部を、怪異ハンターの拠点として私物化しようとしたところ 三柴に見つかり、強制的に入部させられる |
星凪 | 女 | 111 | 星凪 霧香(ほしなぎ きりか) 生徒会役員 女王気質で、よく暴れている不良グループと対立している 中二病を見かけるとイライラする 人には言えない秘密がある |
炭田 | 男 | 105 | 炭田 永久(すみだ とわ) 不良グループの男子高校生 学校や生徒会が気に食わず、校庭に生徒会を呼びつけてはよく戦う 下っ端をアゴで使える程度の位にいる 同じクラスメイトである高橋のことが気になっている 男性だが、性転換可 |
三柴 | 男 | 98 | 三柴(みしば) 真倭(しんわ)学園の先生 厄介相談部の顧問 時代遅れの熱血教師で、ハリセンを持ってる 突然現れ、天宮たちに助言したりする 男性だが、性転換可 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
天宮:厄介事とは、触れたくないことである
天宮:人生において、この厄介なことがなければないほど、幸福度があがる。過去の経験上、俺はそう心得ている
天宮:そう思いながら、今日の平穏さに感謝を示していたところであった
三柴:ピーンポーンパーンポーン
三柴:えー、こほんこほん
天宮:? 放送?
三柴:1年B組 天宮茂
三柴:今から職員室に来い
天宮:…はて、何かしただろうか
三柴:来ないと、どうなるかな……? ふふ、ふふふふふ
三柴:以上!
天宮:……ええー
0:
0:職員室
三柴:おお、よく来たな!
天宮:当たり前ですよ
天宮:あんな放送されたら身の危険を感じますって。こっちは将来安泰の引きこもり生活を夢見ているのに
三柴:さりげなく引きこもりを宣誓(せんせい)するのは辞めろ、天宮
三柴:ところでだ
三柴:最近、あれじゃないか?
天宮:あれ?
三柴:……そうだ
天宮:……
三柴:自分で答えを探せ
天宮:なんでだよ! そこまで言ったら答えろって!
三柴:お前、欠席が多いんじゃないか?
天宮:……あ
天宮:いや、それはあれですよ。俺、別に赤点はとってないでしょ?
天宮:授業も、ちまたで危ない不良生徒のごとく寝てるわけでもないし、そこは評価されていると思いますよ? 地味な生徒に害はなし
三柴:確かに、素行があらいわけではないな
天宮:欠席日数だって、教師の後始末仕事にならない程度にはでてますよ?
三柴:それが、大きな問題だ
天宮:問題?
三柴:いいか? お前が欠席するのは、そう……逃げだ!
天宮:熱血教師は令和から取り残されますよ
三柴:関係ない! …もしお前がこのままズルズルと引きずれば、どうなる?
天宮:さぁ?
三柴:仕事のしの字もできなくなる
天宮:心配せずとも、引きこもっても運動はしますから
三柴:そういうことじゃない! 社会に出たら、常に厄介事がつきまとうんだぞ、天宮
天宮:掃除洗濯、あと害虫駆除だって立派な厄介事ですよ~
三柴:それとこれとは別だ!
天宮:なかなか押しが強いですね……一体、俺に何をさせるっていうんですか?
三柴:お前には、「厄介相談部」に入ってもらう!
天宮:……えっ?
三柴:ちなみに、入部届は代わりに書いた
天宮:生徒の人権かえせよ!
三柴:これからお前には、厄介事を解決していく日常を送ってもらう
三柴:ただその代わり、欠席に関してはおおめに見てやる
天宮:……厄介相談部…名前からして面倒極まりこのうえなさそうだ……
三柴:いやぁー人がちょうど欲しくてなぁ。そこで思い出した。そういえば、天宮がいたじゃないかと
天宮:絶対人選まちがえてるって
三柴:つべこべいうんじゃない! 場所は1階の、奥の奥だ! さぁ行け!
天宮:……ぐっ
0:
天宮:…相談部……よりによって……この学校でか
天宮:うっ、校庭から、声が…
0:校庭
炭田:ふぁぁぁぁぁぁぁ!!
炭田:きょおおぅこそ決着をつけてやるよぉ! このスットコドッコイの生徒会野郎ども!
星凪:放課後から元気すぎて、迷惑なのよあんたは!
炭田:ご光栄さずかるぜぇ! 生徒会の上級役員さん!
星凪:……炭田 永久(すみだ とわ)。前から目をつけていたけど、今日はやる気満々ね
炭田:最近は生徒会に押され気味だったが……どこかで誰かが、腹を据えなきゃならねえ
炭田:それが、不良道(ふりょうどう)の覚悟ってやつよ!
星凪:知らないわよそんなの
炭田:今度こそ俺達の好きなようにさせてもらうぜ! 星凪霧香(ほしなぎきりか)ぁ!!
星凪:かぁーっ……はらわたが煮えくり返るくらい、めんどくさいやつ……!
星凪:真倭(しんわ)学園生徒会の名の元に! 成敗してあげるわ!
炭田:田中ァ、斎藤ォ! お前ら先発いってこい!
星凪:下っ端をあごで使える実力……
炭田:そういうお前こそ、竹刀片手に持ちながら他の奴に任せっきり
炭田:しかも、ただのお真面目な優秀君ばっかりかと思えばそうでもねえ
星凪:褒めてくれるのかしら?
炭田:あっ! んだよ田中ァ! やられてんじゃねえか!
炭田:斎藤ぉ! お前もかよ
星凪:褒めていただいた通り、ボコボコにしてやるわ
炭田:ちっ、喧嘩慣れもしてやがる。どう考えても普通の生徒会じゃねえな
星凪:それが真倭(しんわ)学園生徒会。ごく普通の学校と比較されちゃぁ困るわね
炭田:自信満々なその言い方……シャクにさわるぜ
星凪:ほら、さっさとかかってきなさいよ
炭田:言われなくても……おらぁ! どけどけどけーっ!
星凪:ブルトーザー並みの突進力……!
炭田:伊達に幹部クラスやってねえんだ俺はぁ!ここで引かれちゃ、先代の幹部に申し訳がたたねえ!
星凪:そんな迷惑グループは、撲滅あるのみよ!
0:星凪は迫ってきた炭田に竹刀を振る
炭田:あっぶねえ、あっぶねえ!
炭田:でも、がら空きだ星凪ぃ!
星凪:ひょいっと! 避ける!
炭田:なっ!
星凪:動きが甘い!
0:炭田の攻撃をよけ、星凪はすかさず竹刀で攻撃を当てて
炭田:いてぇなぁこのヤロー!
炭田:……っ!? んだこれ? 力が、湧いてきやがる?
星凪:はぁ?
炭田:左手が……おぉ……左手がなんか、白いぜ!
炭田:こいつはぁ、灯子(とうこ)がたまにわけのわからねえことを言ってた…怪異ってやつかぁ?
星凪:何をごちゃごちゃ話してるのよ?
炭田:わりぃわりぃ。今すぐ黙らせてやるぜ……この光った拳でな!
炭田:白光拳(はっこうけん)!
星凪:っっ! うるさい!
炭田:だぁーっ! また避けられた!
炭田:なんだよ光るだけか! 使えねえ!
星凪:ははーん……不良生徒が光る拳?
星凪:相当イタイわねぇ……そう…イタイ
星凪:…ぐぬぬぬぬぬ
炭田:なんだ? 怒り心頭な顔しちまってよ!?
星凪:その言い方も……なんだか……どこかの……誰かを思い出すような気がして…イライラするわね
星凪:勝てないことをみっちり教えてあげるわ!
炭田:突撃だこのヤロォォォォ!
星凪:とっとと骨をうずめなさぁぁぁぁい!
0:不良生徒と、生徒会同士がぶつかる
天宮:……どこの不良漫画だよ、ほんと
天宮:ただ残念ながら、俺が住んでるところにある進学校はここのみ。最初から宿命づけられていたわけで
天宮:不良抗争と生徒会、関わるだけで面倒なものは、これまで避けてきた
天宮:「天宮茂(あまみやしげる)は静かに暮らしたい」そんなラノベタイトルを夢見るほどに、俺は影を薄めていたというのに……くっ
0:
0:
天宮:それで…ここか。……誰もいないのか?
天宮:でも、部屋は空いてる? ……失礼します
天宮:……っ!?
0:「厄介相談部」の部屋に入ると、なにやら呪物のような置物やら魔方陣がかかれた垂れ幕がかかっていたりと、奇妙な部屋だった
天宮:おいおい、スーパーウルトラ怪しさ満点じゃないのよこれ~。何? 俺いまから呪術でも授かるの? 少年漫画はじまっちゃうのこれ?
天宮:いやいや、そんな馬鹿な話が……
冥咲:黒(くろ)に報(むく)いよ
天宮:……へ?
冥咲:闇夜(やみよ)の真(ま)を刻(きざ)み、その名(な)を、永久(えいきゅう)の冥王(めいおう)に返還(へんかん)せん
天宮:ど、どこから声が……? っ後ろ!
冥咲:こくま! えん・かっ・さーつ!!
0:後ろを振り向けば、勢いよく女子校生が飛び蹴りをしてきていた
天宮:目の前に、靴下がぁっ!
冥咲:てやぁぁーっ!
天宮:ごふぅーっ!
冥咲:……これで、取りついていた怪異は去ったかしらね
天宮:あ……あが……
冥咲:大丈夫よ、迷いし子羊。ここは私が作った聖域
冥咲:あなたに乗り移っていたモノは、冥府の底へかえったわ
天宮:…勝手にかえさないでくれ
冥咲:そのうち、理解できるようになる……なぜなら、あなたは迷いし子羊であり、選ばれた冥(めい)の眷属(けんぞく)
天宮:一生理解できないの間違いですよそれ
天宮:俺、中二じゃないので!
冥咲:そ、そんな陳腐(ちんぷ)な言葉で片付けないでくれないかしら!
天宮:というかお前、だれだよ。入ってきた人間にいきなりキックくらわすとか、ちょっといま身の危険を感じている
冥咲:なかなか良い冥花術(めいかじゅつ)だったでしょう? 本来、あれは異界の剣術らしいのだけど、私がアレンジして使っているのよ
天宮:唐突の設定押し付けムーブ辞めてもらっていいですか?
三柴:説明しよう!
天宮:うわびっくりしたぁ
三柴:ここにいるのは、冥咲灯子(めいさきとうこ)
三柴:彼女は見ての通り、怪異ハンターだ!
冥咲:じゃじゃーん
天宮:……怪異、はんたー?
三柴:自称な!
三柴:本当の姿は、厄介相談部の部長だ!
冥咲:じゃ、じゃじゃーん……
天宮:いやそりゃそうでしょ。怪異(かいい)なんておとぎ話で…
冥咲:ええ、本当に居るわよ? ほら、あなたの後ろ
天宮:……? うぇぇなんだこいつ!?
怪異:ふわわわわ、ふわわわわ~
三柴:ほえー、なんかうんこみたいな形してるな
天宮:そういうのやめなさいよ
冥咲:まだ退治できてなかったようね……はっ!
怪異:ふわぁぁぁぁ!
天宮:……えっ、死んだの?
冥咲:返ったわ
天宮:完全に虫をたたく時とおんなじだったよ!?
三柴:これが、冥咲の実力だ!
天宮:うっそぉ、本当にいるパティーンかよー
三柴:そうだ天宮! 意識をしたら誰でも見ることが出来る!
三柴:と、冥咲から聞いた!
冥咲:その通りよ、先生
天宮:それで、冥咲はその、怪異を退治してると
冥咲:そういうこと。……さぁ、怪異ハンターの道はこれからよ
天宮:実在してなかったら、タダの痛い人にしかみえないけど
冥咲:して、私の眷属(けんぞく)である、三柴から聞けば……
三柴:三柴先生と呼べバカモノォ!
冥咲:うっ……
冥咲:こほん。三柴先生から聞けば、あなた、厄介相談部に連れてこられたようね
天宮:まったくだ。俺は地味に生きたいっていうのに……
冥咲:でも残念ながら、私は怪異しか興味がないから……
天宮:俺はそもそも関わりたくない
三柴:バカヤロー!
三柴:怪異ばっかりみて現実を解決せずに、なぁぁにが厄介相談部だ!
冥咲:うっ! ……で、でもぉ
三柴:なんだ!?
冥咲:ひ、人と関わるのがめんどくさくて……
三柴:知るかボケぇ!
三柴:怪異を追い払えても金は入らんのじゃあ!
冥咲:うぅぅぅ
三柴:怪異を解決するのも別に構わないが、天宮が入った以上、「現実」の問題をメインに解決しろ! いいな!
天宮:三柴の押しが……強い!
冥咲:ぐ……ぐぐぐぐぐぐぐ
冥咲:わ、私の冥(めい)に従ってそれを拒絶する
三柴:言い訳ふよぉぉぉう!
0:三柴はどこからか持ち出したハリセンを構える
冥咲:ひぃぃぃぃ! ハ、ハリセンは辞めて
天宮:うわぁ……
三柴:厄介相談部の成果、必ず果たせよ! 顧問として、応援するぞ!
天宮:なんてブラックな教師だ…
三柴:心配するな、これでも柔らかくしてある
天宮:そういう問題か!
三柴:じゃ、帰る!!
0:三柴はそう言って退散した
冥咲:いつか必ず、そのまま冥(めい)へと葬ってやるぅ……できないけど
天宮:それで、どうするんだ?
冥咲:何が?
天宮:解決しないといけないんだろ?
冥咲:まぁ、引き下がれないわね
冥咲:怪異ハンターの日常を守る為に、仕事をするわ
天宮:いやどっちでもいいけどさ……というか、お前も強制的に入部された身か?
冥咲:いえ……その。この部屋は、誰も使われていないから……私の居城に出来ると……思ったのよ……
天宮:まさかの黙って占拠
冥咲:でも、あの教師にそれがバレて……うぅ
天宮:自業自得な気もするが……それで、あの奇妙な怪異ばっかりを退治してると
冥咲:ふふ……怪異退治も悪くないわよ?
天宮:さりげなく進めるの辞めてもらっていいですか
冥咲:は、話を戻して……ここは三柴先生の言う事に従うしかないわね
天宮:そうしないと、俺達の身の上だってどうなるかわからない。下手したら退学コースも夢じゃないかもな…
0:そこで、扉の向こうから、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた
天宮:……ん? ドアの向こうから音が?
冥咲:これは、さっそく厄災(やくさい)の音が聞こえるわね
冥咲:姿を見せるのは、果たして約束された怪異か、それ以上の理(ことわり)を持つ魂か……鬼と出るか蛇と出るか……ふふふ、面白いわ
0:扉が勢いよくケリ破られた
炭田:ここかぁ!! 厄介相談部はぁ!
冥咲:ひぃぃぃぃぃぃっ!
天宮:お、お前は……!
炭田:おう、灯子もいるじゃねえか
冥咲:す、炭田くん……
炭田:なんだ、おい? ここ、まるで灯子の部屋そのものじゃねえか
炭田:勝手に自分好みの部屋に変えるなんざ、お前もなかなかやるな
冥咲:怪異ハンターとして、必要なことをしているまでよ
炭田:中学校の時から変わらねえぜ。怪しい笑みを浮かべつつも、大事なところだけはブレない
炭田:不良グループにはいらねえか? お前も
冥咲:それは、お断りよ
天宮:えっ!? 冥咲、この不良と知り合いなの?
炭田:「この不良」だぁ!? チンケな扱い方しやがって! い
天宮:いやいや暴言いったつもりないって!
炭田:灯子とは、近所なんだよ!
天宮:えっ!?
冥咲:そう…あれは、中学校時代よ……
0:
炭田:おーい、灯子(とうこ)。新しいゲーム貸してくれ
冥咲:今、実験中よ
炭田:何の?
冥咲:私の技の実験……いえ、儀式と呼んでいいかしら
冥咲:冥界(めいかい)から授かった天啓(てんけい)を元に、技を編み出したわ
冥咲:本来、冥界に聞けば、この技は剣を用いるらしいのだけど……ふふ、そこは私のやりたいように改良させてもらうのよ
炭田:なんだ、喧嘩に興味あんのか?
冥咲:怪異を倒すための大事な儀式といってくれないかしら?
炭田:面白えじゃん。ほれ、俺が受けてやるよ
炭田:パンチだろうが蹴りだろうが、容赦なくかかってこいや
冥咲:あなた……いつも喧嘩しているからって…まぁいいわ
冥咲:後悔しないかしら?
炭田:あ? 後悔?
炭田:別に大した事ねえだろ、お前
冥咲:むむむむ…なら、一発喰らうがいいわ!
冥咲:黒(くろ)に報(むく)いよ
冥咲:闇夜(やみよ)の魔(ま)を刻(きざ)み、その名(な)を、永久(えいきゅう0の冥王(めいおう)に返還せん!
冥咲:こくま!えん・かっ・さーつ!
0:
冥咲:……ということよ
天宮:軽く実験台にされてるなー
炭田:おい、ここならどんな頼み事も聞いてくれるんだよなぁ?
天宮:頼み事じゃなくて厄介事なんだけど?
炭田:じゃあ、俺にとっての厄介事だ
炭田:それを解決してもらうってんなら、文句ねえだろ
天宮:あ、あぁ
炭田:要件は1つだ
炭田:生徒会の星凪霧香(ほしなぎきりか)は知ってるな?
天宮:星凪? さっきまで争ってた奴じゃん、校庭で
冥咲:その相手と……どうするつもり?
炭田:あいつの……秘密を探りたい
天宮:……秘密を
冥咲:……探る
天宮:……えっ、そんな内容?
炭田:あぁ!? 文句あんのか!?
天宮:ちょちょちょっと掴まないでって!
炭田:何でもいい! 奴の秘密か、バラされてくない何かをこっちが掴めば、俺達が優位にたてる! つまり、あいつの弱点がほしいんだ!
天宮:それ不良グループに肩入れしろってことかよ!
冥咲:生徒会にバレたら、ある意味厄介事になりそうね
天宮:俺達が生徒会に狙われるっていう厄介事がな!
炭田:てめぇ!? 俺の頼みをことわるってかぁ!? ああん!?
天宮:ぼぼぼ暴力反対ぃー!!
三柴:そこは受けるんだ天宮ぁ!!
天宮:って三柴先生ぃ!?
冥咲:あなた、突然あらわれるわね……やはり何かしらの能力を
三柴:そんなものはないわ! ハリセンスラァァッシュ!
0:三柴がどこからか持ち出したハリセンで冥咲を叩く
冥咲:うぅっ!……痛い
三柴:困った時にさっそうと現る教師、それが三柴(みしば)って人間だ!
天宮:それははじめてきいたな…
三柴:天宮。もしここで彼の依頼を断ったらどうなるか
天宮:どうなるって言われてもな…
三柴:星凪の弱みを握れないまま、またあいつらは争いを行うことになる
天宮:それは、合ってるけど
三柴:そう、平行線だ。何処までも続く地平線のかなたまでの
三柴:でも、何か進展があったほうがいいだろ? 解決は進展がなければ達成されない
天宮:…どちらかというと、不良側が有利になったらそれはそれで大変な気がするけど
炭田:安心しな……恩をくれた奴には待遇よくしてやるからよ
天宮:何の待遇だよ…
冥咲:……ふ、ふふ
冥咲:いいわ、受けましょう
炭田:その言葉を待ってたぜ…灯子
冥咲:それに、星凪さんの事は…少し調べてみたいと思っていたところよ
天宮:へ? そうなの?
冥咲:彼女には……あれは、怪異かしら。何か違うものを感じているわ……
天宮:違うもの?
冥咲:私と同類の匂いがするのよ
冥咲:そして我が眷属(けんぞく)に……ふ、ふふふ!
天宮:あ、そうなの。よくわからんけど
冥咲:そうときまれば、厄介相談部……さっそく活動を開始しましょう
冥咲:星凪さんは今どこに?
炭田:生徒会室に戻っていきやがったよ
天宮:あ、ていうか。さっきまで……あの、争ってたんだろ? 勝敗はどうなったんだ?
炭田:奴らは強い
炭田:俺も並みの一般ピーポーよりは勝てる自信があるが、どうにも鍛えてんのか、そういう奴らで構成されてるのか……未知数だぜ、畜生
冥咲:ふっ、大きな組織ほど謎が多いとね
三柴:お! なんだか話がまとまったみたいだなお前ら!
三柴:じゃぁこの辺で先生は退散するぞよ!
冥咲:突然、また来そうな予感はするけれど
三柴:そん時はそん時。じゃあな! 頑張れよ! びゅーん!
0:三柴はさっそうと去っていった
炭田:したら、俺もこの辺りで帰るぜ
炭田:星凪のことが分かったら教えろ。また来る
0:炭田は乱暴に扉を開け、帰った
天宮:まさに逃げ道なし。やるしかないかぁ、これ
冥咲:人間がこうも絡んでくると……がんじがらめになるわね
天宮:面倒事の最初のハードル高すぎやしません? 普通こういうのって、落とし物探しとか、簡単な人間関係のいざこざとか、狭い範囲のコミュニティというか、作業だと思ってたのに
冥咲:普通の学園ならね
冥咲:ここに入った以上、厄介事……それこそ影響力の強い厄介事は避けられないわ
冥咲:だから私は怪異の事だけを……もくもくと1人でやりたいのに
天宮:いやそれもそれで結構でかい事だと思うけど…
冥咲:弱音を吐くと、あのうるさい教師がやってきそうだわ。生徒会へと行きましょう
冥咲:星凪さんが帰る前に捉えておく必要がある
冥咲:彼女の何か……証拠になるものが見つかればいいんだけれど
天宮:証拠かぁ
冥咲:秘密にしているということは、隠したいもの
冥咲:その隠し事なるものが見つかれば、星凪さんを揺さぶる材料にはなるし
天宮:星凪霧香(ほしなぎ きりか)…あいつにバレたらタダじゃすまなそうだ
冥咲:ただ、いきなり会って弱点を聞き出すにもいかない……それなら
0:
0:
星凪:生徒会に体験入会したい?
冥咲:ええ
星凪:なんで?
冥咲:不良グループと抗争を繰り返して、日々の平和を守っている生徒会……
冥咲:それを見て、私は、非常に感銘を、この胸に灯してしまったわ
星凪:それで、興味を持って?
冥咲:雑用でも、トイレ掃除でも構わないから
星凪:ふうん……
星凪:まぁ、そういう理由なら別にいいかしらね
天宮:(小声)……お前、案外はなせるじゃないかよ
冥咲:(小声)いいえ、これは策略というなの嘘つきゲームだから、できるのよ
冥咲:(小声)そして……ふふ、彼女の……裏を
天宮:(小声)笑顔が怖いぜ
星凪:それなら
天宮:へ?
星凪:どれだけこき使われても耐えられるか、試してみようかしらねぇ?
星凪:悪いけど、生徒会は生半可な人間が入れるような場所じゃない
星凪:あたしの拷問に耐えらえるかどうか
天宮:ご、ご、ご?
冥咲:……冥府(めいふ)の極刑(きょっけい)?
天宮:なんじゃそりゃ
星凪:……っ
星凪:冥咲さん……ああ、そう
星凪:あなたの発言……引っかかるところがあるけど
星凪:それを言ってられるかどうか…!
0:
星凪:ほらぁ! とっとと吹く!
天宮:わ、分かってるって!
星凪:はやく!
天宮:尻をけるなって!
星凪:ん? あれれー?
星凪:あーまーみーやーくぅん?
天宮:な、なんだよ?
星凪:窓の「ここ」……みなさいな
天宮:は、はい?
星凪:こ・こ!
天宮:え……えっと
星凪:これなに?
天宮:……な、なんでしょう?
星凪:ヨ・ゴ・レ!
天宮:き、厳しすぎる……。これ、結構ピカピカにしたほうだぞ!?
星凪:はぁ? だからなに?
星凪:あんたの基準なんか知らないのよ!
天宮:そんな無茶苦茶な
星凪:あたしは言ったはずよ…生徒会室を隅から隅まで、かっちりばっちり、ピッカピカの一年生並みに、キレイにしなさいと!
星凪:だから、とっととやれぇ!
天宮:はいー!
冥咲:……て、徹底されているわね
冥咲:この部屋を見渡しても……怪異がいない
冥咲:汚い場所を、奴らは好むはずなのだけど……
天宮:お前なにしに来たんだよ……
星凪:ふぅーん、やっぱりそういう人よね、冥咲さん
冥咲:何かしら?
星凪:その発言、態度……
星凪:あなたを見てたら、こう……はがゆい気持ちが生まれてくるわ!
冥咲:私を見たら……へぇ
星凪:この単語も口にするのも面倒になるくらいだけど……
星凪:「中二病」
星凪:それも極度の!
天宮:あぁ……まぁ、そうよな
冥咲:冥(めい)の名において、断じて違うわ
星凪:その言い方……慣れすぎなのよ
冥咲:慣れている、とは?
星凪:あなた、あれでしょ? 壱から百までぜぇぇぇんぶ設定して、さもそれがあるかのようにふるまって
冥咲:あるかのようではなく、実際にあるのよ!
星凪:あぁぁぁぁぁぁぁァァァァア!!
天宮:うおっ!? な、なんだよ星凪、突然大声上げて
星凪:っ……それ……それよ
天宮:それ?
星凪:病にかかってるやつは、みぃぃぃぃぃぃんな! おんなじことを!まるっきり言うのよ!
冥咲:私は、真実の人間としてここに存在しているわ
星凪:くぅぅぅ!もうその言いようが腹立つ!
星凪:天宮君も掃除が甘かったりで脳無しだけど、あなたはもっと酷いわ!
天宮:の、脳無し……
星凪:せっかく体験入会として、将来の生徒を見極めようとしてみたけど……それどころじゃないわね
冥咲:ふふ……ふふふふふ
星凪:……なによ?
冥咲:やはり、貴方からは感じるわね。その後ろにあるオーラ
冥咲:それは……怪異とは違う…異なるもの
星凪:あーはいはいそうですねー
冥咲:おそらくだけど……
冥咲:何か別の「力」を持っているのではないかしら?
星凪:はぁ?
星凪:あなたほんとに馬鹿じゃないの?
冥咲:ふふ……認めるのよ……
冥咲:そこに本物のあなたがいるわ……
星凪:ぐ……ぐぐぐぐ
星凪:あぁぁぁぁ腹立つ!!
天宮:星凪のやつ、冥咲にペースを掴まれはじめてるな……
星凪:冥咲灯子(めいさきとうこ)……そこに直れ!
星凪:そのゆがんだ考えを持っていたらどれだけ危ういか、説教してやる!
天宮:……あのー
星凪:あなたは黙って掃除をしなさい!
天宮:俺は、もう疲れた
星凪:は?
天宮:掃除なんて、汚くなったあとにやればいい。毎日掃除していたら、読書は?ゲームは? 遊びに使う時間はどこにいってしまうんだ?
冥咲:確かに……怪異退治も、掃除でとられてしまったら、本末転倒だものね……
星凪:いや、意味わからないから
天宮:そういう過ごし方は、最小限に抑えて、掃除したいときに掃除するのが一番だと思うんだ。それが、働かない、歯車にならない、最適で最高の、暇の潰し方だということで……
星凪:すっごくどうでもいい論理展開しても無駄だから。あたしの説教が終わるまで、やりなさい
天宮:ええー
星凪:あっ、掃除が終わったらゴミ出しもしてもらうから
星凪:そこんところよろしく
冥咲:哀れなり、天宮(あまみや)くん。
星凪:いいわんこちゃんになりそうよね、天宮君
星凪:ここでみっちり生徒会の教育を学んで、部屋の掃除も隅々までする、綺麗な人間性を身に着けられることを期待したいところねぇ
星凪:ふふ、楽しみだわ~! あーっはっはっはっは!
天宮:ぐぐぐぐぐぐぐぐっ……完全にもてあそばれている……!
天宮:ゆるすまじ星凪……! 人の時間を軽々しくとるとは、不届き千万……これは不良グループにすっぽり肩入れしてしまいそうな展開になっちまうぜ……!
星凪:ん? 何かいった?
天宮:あ、いやぁなんでも!……ってそうだったぁ。炭田のことは言ったらヤバいんだったな
0:
0:学校を出て、校庭
炭田:ハクション!!(くしゃみ)……あぁ、風邪か?
炭田:というか……帰るとはいったが……あいつら、本気でやってるのか気になっちまうぜ
炭田:適当なことしてんじゃねえだろなぁ?
三柴:心配するな炭田
炭田:うぉ!?
三柴:呼ばれてないのにじゃじゃじゃーん
炭田:突然でてくるんじゃねえよ!
三柴:天宮と冥咲は、しっかりと仕事をしているよ
炭田:あ?
三柴:なにぶん、やると決めたらやってくれる、いい子たちだ
炭田:……それなら良いんだけどな。こっちとしては、星凪の弱みを握ってしまえば、あとはどうでもいい
三柴:そこなんだが、炭田くん
炭田:なんだよ?
三柴:星凪君の弱みを握りたい……それは、優位に立った後、話し合いで解決をしたいということかい?
炭田:……へぇ、頭がまわるじゃねえか
炭田:殴り合うのは嫌いじゃねえが、いかんせん疲れちまう
炭田:無駄に奴らとはりあうなら、相手の弱みを握ったほうがラクだ。大きな戦局が到来した時に、口ひとつで立ち回りやすくなる。カードとして握っておくんだよ
三柴:考えるねぇ、炭田君
炭田:生徒会ばっかりが優秀連中だと思うなよ?
三柴:手を使った争いを行おうとしないその姿勢、ご立派だ……ただ、本当はきみ、争いをしたくないのではないかね?
炭田:なんの話だよ?
三柴:生徒会には、あの子。同じクラスメイトの高橋(たかはし)ちゃんがいたな?
炭田:……なっ!? てめえなんでそれを!
三柴:教師の情報網をなめるんじゃないぞぉ、炭田
炭田:ぐ…
三柴:お前は、その子に対して「印象が悪くなる」から、それをごまかそうとして考えた結果、生徒会とあまり暴力で争う事を避け、高橋の印象を良くしたいんじゃないか?
炭田:……っ
三柴:そんな気持ちがあるなら、今すぐ告白してこればいいじゃないか
炭田:まだ印象が悪ぃ、それはできねえ
三柴:そんな打算的に考えてたら、高校生活なんてすぐに終わってしまう
三柴:……おーい! 高橋ー! こっちにこい! 出てきていいぞ!
高橋:……こんにちは、炭田くん
炭田:は!? 高橋! なんでここに!?
高橋:……み、三柴先生につれられて
炭田:てめぇ……三柴ぁ!どういうことだ!
三柴:私はセッティングをしただけさ!
炭田:ふ、ふざけたことしやがって……!
三柴:男ならどーんと行け!
炭田:ぐ……この野郎
高橋:炭田くんが、話したいことがあるって聞いて
炭田:…あぁ、そうだ、そうだよ
炭田:俺がその、不良グループに入ってるのは、知ってるだろ?
高橋:炭田君は……なんで入ったの?
炭田:学校が気に入らねえだけだよ
炭田:ただ何も無しに、普通に生きたくねえだろ? 机に座って、ただご立派な教育を聞かされてるだけなんてよ
高橋:炭田くん…
三柴:ふふ、それ、教師の前で言うのはなかなか度胸があるが……
三柴:今は、見逃しておいてやろう
三柴:それが、お前の青春の形だからな! 炭田!
炭田:……でも、お前には手を出さねえ
炭田:そりゃ、クラスの中で生徒会の人間がいるなら、牙をむくけどさ……高橋は……その
炭田:…無害だし……それに
炭田:俺は……その……
高橋:でも、炭田くんは……不良グループに入ってて、悪いことをしているんだよね……? そんなの、納得できないよ……!
炭田:…高橋? …っ!?
三柴:な、なななんだぁ!? 突然、高橋ちゃんの様子が……?
0:
0:
冥咲:つまり、怪異(かいい)は世界の均衡のために必要な存在よ!
星凪:だからないっていってるでしょそんなものぉぉぉ!
天宮:……説教してたのになんで討論してんだ
星凪:いい!? あなたのいうそのふやふや~な妄想は、自分が逃げたいだけの妄想!
星凪:そこから卒業しない限り、社会に出てもただのイタイ人で終わる人生を過ごすっていってんのよ!
冥咲:社会から出たら怪異ハンターになる予定よ。すでに私の未来は決まっている
星凪:堂々と言う事じゃなぁぁぁぁぁぁい!!
冥咲:星凪さん……何回も言うけど、あなたが隠している「何か」を……さらけだしなさい
冥咲:そこにあなたの、真の姿が隠れているはずよ……!
冥咲:自分に素直になりなさい……!
星凪:あんたが素直どころじゃないのよぉぉぉぉ!
天宮:これ、決着つくんだろうか?
0:ここで、突然の地震
天宮:うぉっ!? 地震……?
冥咲:気配がするわ!
星凪:え、ええっ!?
天宮:あ! あれ! 校庭!
冥咲:あれは……炭田くんと……三柴先生と……
天宮:……でっかいぬいぐるみみたいな奴がいるな
天宮:……なんてつぶらな目をしているんだ、あれ
冥咲:怪異よ!
天宮:えええええ!?
冥咲:あれはおそらく、暴走して取りつかれた生徒だわ!
星凪:生徒!?
冥咲:このまま野放しにはできない、行きましょう!
星凪:ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
星凪:っ、たくもう……何よあの馬鹿げたぬいぐるみ……! 誰が入ってんのよ!
星凪:……一応、聞いてこうかしら
星凪:(3階の窓から、校庭に向かって叫ぶ)おーい!炭田ぁー!
0:
炭田:? 3階から声? ……あれは、天宮と、灯子(とうこ)と
炭田:…あっ! 星凪の野郎もいるじゃねえか……!
三柴:むむ!? なにか、星凪が叫んでいるな?
0:
星凪:ぬいぐるみの中、だーれーがーいーるーの!
炭田:ぬいぐるみが誰かって?
炭田:……たーかーはーしー!
星凪:え!? てーらーさーき!?
炭田:なんでだよ!!
炭田:寺崎って誰だ!!!
炭田:だから、たーかーはーしーだ!
星凪:たーかーのーはーな!?
炭田:駄目だ、あいつ全然聞こえてない
三柴:最初の2文字はあってるのが、微妙に惜しい
炭田:とっとと降りてこーい!
星凪:わかった!
三柴:「降りてこい」は聞こえているようだ! よかった!
炭田:お前、ちょっと楽しんでるだろ
0:
星凪:はぁ、駄目ね……何を言ってるのか全然わからないわ
冥咲:まるで……炭田くんの言葉が、この世のものとは思えない聞こえ方をしていたわね……
天宮:確かにな……でも、たかのはなとか、てらさきは流石に違う気がするぞ。うん
星凪:うるさいわね、もう一発蹴るよ?
天宮:辞めろって!
冥咲:もしや、時空のゆがみで怪異が?
星凪:はぁー、出た出た
天宮:聞き間違いが怪異のせいって……地味だよなぁ
冥咲:その可能性もありえなくはないわ
冥咲:とにかく、ここにいても仕方がない、早くおりましょう
天宮:ごもっとも
0:校庭に来る一同
炭田:くそっ! おい!高橋! 聞こえねえのか!
三柴:あの、ファンシーなぬいぐるみになってから一つも声が聞こえない!
炭田:なら、この……よくわからねえ、怪異だっけ? なんでもいいぜ! こいつを使って……!
炭田:はぁぁぁっ! 光りとどろけやぁ!
三柴:お! 高橋の奴がっ、少しまぶしそうだ!
炭田:わりぃ高橋。少し痛いが我慢しろ……! 白光拳(はっこうけん)!
三柴:しかし、炭田の拳はむなしく、空を切ったぁ!
炭田:くっそぉ……ほんとに光るだけかよこれ!
冥咲:炭田くん!
三柴:おー来たかぁ! 厄介相談部!
炭田:高橋…なんでそんな姿になっちまったんだよ
星凪:ぬいぐるみを着て、何かの宣伝活動かしら? それなら生徒会に報告を……
冥咲:あぶない! 星凪さん!
星凪:えっ?
炭田:星凪っ! 避けろ!
0:でっかいぬいぐるみの姿になった怪異が、右ストレートを星凪にかまそうとする
0:冥咲は星凪をどけて、腕で防御した
星凪:ふえっ!
三柴:おお! 冥咲がぬいぐるみのパンチを防いだ!
冥咲:ぐっ…このっ! その手をどけなさい!
天宮:風圧やっば!
炭田:高橋…あんな、喧嘩慣れしたパンチ、かませるのか
天宮:そこかよ
冥咲:胴体に一発当てる! 闇の力を受けなさいっ!
三柴:よっしゃぁ! 怪異におしおきの回し蹴り炸裂だぁ!
星凪:め、冥咲さん!? …何よもう……変なパフォーマンスはじめちゃって……
天宮:なんだか、リアルなのか怪異なのか分からなくなってきた
星凪:いや、リアルよ
天宮:ブレないなぁ……
炭田:あいつは……まごうことなく、高橋だ
炭田:俺は、この目で見た……あいつがふわふわと変身する姿を……!
星凪:ふーん、煙を使ったマジックかしら?
天宮:部室で見た怪異といい、このぬいぐるみといい、姿かたちがコミカルすぎやしませんかね……?
冥咲:くっ……駄目か……
炭田:高橋、辞めろ!
三柴:す、炭田氏が高橋の後ろに回った!
炭田:しばらくまぶしいと思うが、耐えてくれよ高橋。
炭田:はぁぁぁぁっ! 白光拳(はっこうけん)!
三柴:おお! 炭田が拳を光らせながら、ぬいぐるみの高橋を、抑えつけている!
炭田:灯子(とうこ)! 俺がこいつを抑える! 今のうちに倒せ!
冥咲:しかし、あなたが犠牲になってしまうわ!
炭田:へっ、こんなことでやられるタマじゃねえんだよ!
冥咲:あなた……そこまでの覚悟で
炭田:灯子(とうこ)お前があの時見せた……。えっと。こ、こくま? こくまなんちゃらってやつ
炭田:そう、お前が見せたあの必殺技なら、一撃で倒せるはずだ!
冥咲:そ、そうなのかしら?
炭田:わからねえ!
天宮:どっちだよ!
三柴:いいぞ炭田ぁ! 助け合いの精神はポイント高いぞぉ!
冥咲:なら、炭田君の言う通り……
三柴:冥咲が距離を取った!
天宮:!? おい、冥咲の周りに、なぞの黒い魔方陣が!
星凪:演出まで無駄に凝ってるわね……
炭田:へっ。灯子のやつ。いい表情してるじゃねえか
冥咲:黒(くろ)に報(むく)いよ
冥咲:闇夜(やみよ)の魔(ま)を刻(きざ)み
冥咲:その名(な)を、永久(えいきゅう)の冥王(めいおう)に返還(へんかん)せん!
星凪:っっっ! ぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁもうううううう!
天宮:おお落ち着けって星凪!
星凪:そういうえいしょうやめてえええ!!ああーーーーーもういやぁぁぁ!
炭田:思いっきり蹴ってこい! 灯子ぉぉぉぉぉぉぉ!!
冥咲:こくま! えん・かっ・さーーーつ!
天宮:これは! 行けるか!!
冥咲:とりゃーーーーーーっ!
三柴:おおお! 冥咲の攻撃が!
炭田:っ! しまっ!
三柴:あーぬいぐるみの高橋がぁ! 突然! 首をひっこめたぁ!
三柴:そしてその先にはぁ! 炭田のがんめんんんん!
炭田:ごふぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
0:冥咲のこくまえんかっさつが、炭田の頭にヒットした
炭田:や……やるな、冥咲……
炭田:お前の蹴り……悪く……なか……ったぜ
冥咲:しまった!
冥咲:くっ……こくまえんかっさつは……もう一度使えるまで時間がかかるのよ
天宮:そんな設定あるんだなぁ
冥咲:星凪さん!
星凪:え?
冥咲:貴方の力を使うときよ
星凪:な、ななななんの話?
冥咲:生徒会室にいるとき、ちゃっかり貴方のカバンがあるものだから、物色させてもらったわ!
三柴:な、なんだってー!?
天宮:お前……! 人が掃除している間に……!
冥咲:あなたが星凪さんに、しっぽり指導されている間にね
冥咲:これを見つけたわ
三柴:!? あれは!?
星凪:っ!!!
冥咲:……星の神が舞い降りた世界……「グランテル」
冥咲:異界の情報がかかれたノートよ
星凪:しまっ……
天宮:えっ、お前、そんなもの持ち歩いて
星凪:ち、違う! これにはわけが!
冥咲:ここに……あなたの名前も記されているわ……「星瞳(せいどう)の女神」、貴方の事よね
星凪:ぐ……
冥咲:星凪さんの正体は、これを見た時に確信したわ
冥咲:その力は、確かに私達の世界とは異なるものだけれど、あの怪異には通用するはず……私にはわかるのよ
星凪:む、むぐぐぐ……
冥咲:さぁ! 星凪さん!
星凪:……分かったわ! やればいいんでしょ!やれば!
天宮:星凪!?
星凪:どうせあのぬいぐるみ被った高橋さんも、そういうノリなんでしょ!?
星凪:私が普通に鉄拳制裁加えても、異界の技じゃないと通じないーとか何とかいって、無理やり私にやらせる気だったんでしょ!
星凪:もういいわ!それならやってあげるわよ!
三柴:ほ、星凪の実力が、垣間見えるのか! 一体どんな技が!
星凪:はぁ……
炭田:ほ、星凪……たのむ
0:星凪はぬいぐるみになった高橋を見据える
星凪:なんでこんな茶番に付き合わないと……ええい仕方ない
星凪:一度っきりよ……
星凪:ホーリーテンペストッ!!
0:星凪が腕をかざした瞬間、ぬいぐるみが吹き飛んだ
三柴:うおおお! ぬいぐるみが呆気なく吹き飛んだ!
冥咲:これが……異界の技……!
冥咲:一瞬、彼女の手から瞬く間に光が生じた。その光こそ、星瞳(せいどう)の女神がもたらす古より伝わる力……私の冥府より授かった怪異を御(ぎょ)するものとは違う種類ということね……やはり、私の見込み通り、星凪さんにはその力があった。私の目に、最初から狂いはなかったわ……彼女から感じていたオーラはまさしくその、女神そのもの。これが、これが星凪霧香(ほしなぎきりか)と1人の人間であり、この世界にもたらした新たな怪異ということね……!
星凪:さっきからあれこれうるさーーーーーーーーーーい!
天宮:あ! おい! ぬいぐるみが……消えてく?
冥咲:……怪異の力が消える……これで、高橋さんは元に戻った……?
天宮:じゃあこれで、高橋さんは!
冥咲:……いえ! まだ、ぬいぐるみが完全に消えていないわ…
炭田:た、高橋?
高橋:やっぱり、炭田君は悪い人なの? クラスでは優しくしてくれるのに、あれは嘘だったの……?
炭田:いや、だから。その
三柴:おっとぉ、こりゃ……炭田氏、ピンチか? フラれる予感がしてきたぞ!
天宮:え? あのー炭田って……高橋さんと知り合い?
三柴:馬鹿お前! この発言で察しろ!
天宮:あ、あーなるほど……
冥咲:ただ、高橋さんは今、怪異のせいで混乱している
冥咲:このままだと、またあのぬいぐるみ状態に戻ってしまうかもしれない
三柴:よし、いけー! 天宮!
天宮:え? いや、ここはほら、生徒会の星凪が……
星凪:……うぅ、もう、いや、こんなの、言いたくなかった、うう、ううぅぅ
天宮:あー、駄目だこりゃ
天宮:……俺が行くしか、ないと?
冥咲:天宮君、あとはお願いするわ
天宮:何を託すんだよ……はぁ
天宮:じゃ。部活動、するか…
0:天宮はため息をついて、高橋のもとへ歩く
天宮:……えっと、高橋さん、だっけ?
高橋:は、はい?
天宮:俺は、「厄介相談部」の天宮茂(あまみやしげる)
天宮:炭田から、お前に関しての依頼を受けてた
冥咲:あ、天宮君?
天宮:炭田は、お前との関係について、悩んでいたんだ
炭田:……天宮、お前
天宮:その、確かに…炭田は不良グループで、生徒会の高橋からしたら、なんでそんなグループに入っているんだと思うよな
天宮:俺は、炭田から、高橋さんの事について悩んでいるのを、よく、聞いた……突然、部室をぶっきらぼうにこじあけて、話す事と思えば、人間関係の悩み……いくら不良でも、中身は俺達と同じように悩む人間に、変わりないってことだ
高橋:炭田くんが、そこまで…
天宮:炭田はなぜそこまで悩むのか
天宮:それはきっと、炭田が高橋さんのことを大切に思っているからだと、俺は思うんだ
高橋:えっ?
天宮:じゃないと、こんなに必死になってる炭田に納得できない
天宮:だからさ。もう少し、彼に寄り添ってもいいと思うんだ
天宮:きっとそれは、不良グループっていう「フィルター」が、高橋さんにかかっているだけで、決して炭田が、本気で悪くなったわけじゃないと思う
天宮:だから高橋さん、落ち着いて……
0:
高橋:う、うぅっ……
冥咲:……元に戻った!
炭田:良かった……高橋
高橋:……炭田くん? 私は?
天宮:高橋さんは気を失ってて、炭田がずっと心配して、お前が目を覚めるまで、居てくれた
炭田:っ!
三柴:おおー! 主人公してるじゃないか天宮!
三柴:先生は、先生は……うぅ、たまらねえっ! 涙と汗がたまらねえぜ!
冥咲:私は、怪異ハンターとして、役目を果たせたから、それで十分よ
天宮:あくまで怪異ハンターと…
星凪:……高橋さんも、悩んでいたのね
星凪:それに気づけなかったのは生徒会としては、汚点……
星凪:ただ……その前の展開には……
星凪:納得が…
三柴:待て星凪! 今はいい雰囲気だから、そこは抑えめに……!
星凪:納得がいくかぁああああああああああああああああ!
0:
0:翌日
天宮:(翌日 厄介相談部 部室内)
天宮:はぁ、なんだか、すごい夢を見ていたような、そんな昨日だった気がするが
星凪:…
天宮:星凪が隣でこんな顔していたら現実かぁ
星凪:なるほど。炭田くんに頼まれて、私の秘密を探っていたわけね……
星凪:おかげでとんでもない秘密をさらされてしまったわ……やってくれたわね
天宮:いや、そもそもあんなノート持ち出してなかったら、こうはならなかっただろ
星凪:う……あれは
星凪:…家においてたら、どこかに行っちゃいそうで
天宮:へ?
星凪:中学校を卒業したあたりに、その……
星凪:あたしちょっと行方不明になってたのよ
天宮:そうなのか?
星凪:でも、何処に行ったかは覚えてなくて……でも気づいたら、このノートを持ってて
星凪:……こんなこと言いたくないけど、何となくこのノートに……ノートの世界に入っていたような気がするのよ
天宮:……いやそれ、れっきとした中二病じゃ
冥咲:いいえ、それは怪異の仕業よ
天宮:えっ?
冥咲:空間を作り、別の場所に転移させる怪異も存在するわ…おそらくそれの仕業かもしれないわね
天宮:そんな怪異いるんだ……
冥咲:世の中、分からないことだらけよ、だから面白い
天宮:急に名言っぽく言わないでもらっていいですか?
星凪:…あの時は確かに……最後、トラックに引かれていたような覚えがあって
天宮:ええっ!?
星凪:でもそれが元に戻っている……わけで
星凪:気づいたら、ひかれる前の、横断歩道に居たのよ
星凪:このノートを捨てる前に時間が戻っていた。時計も確認したわ
冥咲:おそらく、引かれる際に、怪異があなたの「星瞳の女神」を形成した世界を瞬時に作り出して、そこへ星凪さんを移動させたのでしょう
天宮:そんなことが…
冥咲:そして、いつの間にか世界線が変わっていた……星凪さんは死なない世界線を選ぶことが出来たのよ
冥咲:怪異は時に意思を持つけど、人間の選択に任せて、事象を作り変えようともするわ
天宮:まぁ要は
天宮:星凪は、その世界に行ってたかもしれないし、行ってないかもしれない
天宮:引かれたかもしれないし、引かれてないかもしれないし
天宮:でもなぜか、自分はその記憶がおぼろげだけどあって、現実に戻ってたってことだよな?
星凪:……その件だけは、認めたくないけど、事実だから…ね
星凪:でも!!! 昨日のぬいぐるみの一件は、貴方たちが演出したパフォーマンスって思ってるから
天宮:そこは変わらないのな
星凪:いい加減、現実を見ないとね
星凪:本当に超常現象があったとしても、現実を生きていくことに変わりはないのよ
冥咲:だから、本当にいるというのに……
三柴:その姿勢はいいぞ! 星凪ぃ!
天宮:また突然出てくるし……!
三柴:前を向いて現実を生きる事はとっても立派だ! さすが生徒会だ!
炭田:そのことだが……
冥咲:っ! 炭田くん!
炭田:昨日は、助かった
炭田:まさか、ああいうとは、思ってなかったからな
天宮:高橋とは、あれから?
炭田:……ああ。あの後、二人で帰った
炭田:んで、しばらく歩いて、歩いて……んで
炭田:ちょっといい雰囲気になったんだ
天宮:……お、お、おう
炭田:帰り道に綺麗に夕日が見える橋があってな……
星凪:意外とロマンチックね
炭田:自販機と座る場所があったから、そこに腰を下ろして、あいつの好きな缶ジュースおごって…。告った
冥咲:それで?
炭田:もう少し、考えさせてって……まだ早かっただろうな
三柴:んー惜しい! でも、考えさせてということは、希望は残ってる
炭田:まぁ、そう、だよな
天宮:もう、星凪の弱みを握る件があさっての方向に行っちゃってるけど、結果的に、良かったのかもな
冥咲:ひとまず、一件落着かしらね
炭田:でもな、星凪
星凪:なによ、急に
炭田:お前が……なんだその、えっと
炭田:……ほーれい? だったか
天宮:いや、ほーりー…?だったような
炭田:ホーリィー、お……?
天宮:お? 「お」だったっけ?
三柴:お……お……お はっ! おっぱぁぁぁぁぁぁぁい!!!
星凪:うるさい!
冥咲:皆甘いわ。「ホーリーテンペスト」よね?
星凪:自信満々に言うな!
炭田:その、ほぅりぃてんぺすとぉは……脅威だと俺は思った
炭田:やっぱ話し合いをしても、その技がある以上、戦うハメになる
炭田:ってことで! 放課後。校庭で、てめえら生徒会をまってるぜ
炭田:じゃあな!
0:
星凪:あいつ……まだわからないのねぇ
星凪:いいわ…テンペストだろうがなんだろうが、力をもって叩き潰さないとねぇ……!
天宮:でも、高橋のことは、もう無関係だろ?
星凪:もちろん、あいつの恋路と、生徒会に挑んでくることは、無関係よ
星凪:そこに口出しはしないわ。高橋さんにもそこは突っ込まない
天宮:鬼のようなオーラが見え隠れしてるぜ
冥咲:ふふ、星凪さんの力の深み、気になるわね
星凪:さて、生徒会に戻って、戦いの準備よ……
星凪:では、ここで失礼するわ
0:
天宮:なんだかんだ、振り出しに戻ったなー
三柴:まぁとりあえず、一つ厄介事は解決したんだ! お疲れ!
冥咲:解決、したのかしらね?
三柴:炭田と高橋の関係がよくなった
三柴:それに、星凪も自分の秘密を打ち明けた
三柴:そしてついでのごとく怪異も倒した!
三柴:活動日誌に書けるボリュームは、ある!
冥咲:ついで扱いされるのは……シャクだけれど
三柴:常に学生は日進月歩だ、はっはっは!
三柴:……お前らを見てると、昔の俺を思い出すようだぜ
三柴:特に、天宮は近いかもなぁ!
天宮:え?
三柴:俺も「相談部」に入っていたことがあってだなぁ
三柴:その時は、絶賛ニート希望の、酒池肉林な生活を夢見ていたんだが……当時の顧問に、赤点を理由で、相談部に入らされた
冥咲:先生、成績が悪かったのね
三柴:そこはだまらっしゃい!
三柴:んで、相談部に入った後もまぁ、筋肉バカだったり、名前を知らない相手と付き合ってる彼女さんだったり、バナナになりたい奴だったりと……変な奴が多かったものだぜ
天宮:なかなか遭遇しない人種のオンパレードなことで…
三柴:振り返ると、我ながらそんな野郎たち相手によく対応できたなぁと思っちまうものだ
三柴:だからお前ら、厄介事を厄介だと思わずに、前向きに解決してけ!
三柴:じゃあなー!
0:
天宮:…あの三柴先生にそんな歴史があるとは
冥咲:意外とわからないものね
天宮:にしても……こんなのがまだまだ続くのかー
冥咲:学園の問題と、怪異の問題
冥咲:現実と不可思議は混ざりあい、それこそ本物の厄介事になる
天宮:お前ちょっといい具合にまとめようとしてない?
冥咲:そうすれば……学園に怪異の痕跡がないか探しましょう
天宮:そっちかーい
冥咲:厄介相談部……その裏は、学園の怪異問題を解決する特務機関(とくむきかん)……その名も
三柴:こるぁぁぁぁぁ冥咲ぃぃ!
冥咲:ひぃぃぃっ!
三柴:勝手に自分の都合のいいようにもってくなぁ!
三柴:「厄介相談部」の活動をちゃんとしろぉぉ!
冥咲:だ、だから怪異を……
三柴:それはO・MA・KEだ!
冥咲:オマケじゃないわ
三柴:オカルトじゃなくて現実を生きろ! 冥咲ぃ!
0:三柴はバタンとドアを閉めた
冥咲:くぅ……もう少し言いまかしてやりたかった
天宮:ま、ぼちぼちやっていこうぜ
天宮:夢の引きこもり生活までは、まだ遠いけど
冥咲:諦めが悪いのね
天宮:地味こそ、生きる活力だ
冥咲:分からないことはないけど
冥咲:さ、天宮君。……冥府の闇に誓って、今日も朝日が巡らないことを
冥咲:乾杯
天宮:何の乾杯だよ
0:
天宮:かくして、俺の人生プランはぐるっと180度変わってしまった。明日の暇を取り戻すために、俺は……。あぁ、めんどくさい
天宮:厄介事とは、触れたくないことである
天宮:人生において、この厄介なことがなければないほど、幸福度があがる。過去の経験上、俺はそう心得ている
天宮:そう思いながら、今日の平穏さに感謝を示していたところであった
三柴:ピーンポーンパーンポーン
三柴:えー、こほんこほん
天宮:? 放送?
三柴:1年B組 天宮茂
三柴:今から職員室に来い
天宮:…はて、何かしただろうか
三柴:来ないと、どうなるかな……? ふふ、ふふふふふ
三柴:以上!
天宮:……ええー
0:
0:職員室
三柴:おお、よく来たな!
天宮:当たり前ですよ
天宮:あんな放送されたら身の危険を感じますって。こっちは将来安泰の引きこもり生活を夢見ているのに
三柴:さりげなく引きこもりを宣誓(せんせい)するのは辞めろ、天宮
三柴:ところでだ
三柴:最近、あれじゃないか?
天宮:あれ?
三柴:……そうだ
天宮:……
三柴:自分で答えを探せ
天宮:なんでだよ! そこまで言ったら答えろって!
三柴:お前、欠席が多いんじゃないか?
天宮:……あ
天宮:いや、それはあれですよ。俺、別に赤点はとってないでしょ?
天宮:授業も、ちまたで危ない不良生徒のごとく寝てるわけでもないし、そこは評価されていると思いますよ? 地味な生徒に害はなし
三柴:確かに、素行があらいわけではないな
天宮:欠席日数だって、教師の後始末仕事にならない程度にはでてますよ?
三柴:それが、大きな問題だ
天宮:問題?
三柴:いいか? お前が欠席するのは、そう……逃げだ!
天宮:熱血教師は令和から取り残されますよ
三柴:関係ない! …もしお前がこのままズルズルと引きずれば、どうなる?
天宮:さぁ?
三柴:仕事のしの字もできなくなる
天宮:心配せずとも、引きこもっても運動はしますから
三柴:そういうことじゃない! 社会に出たら、常に厄介事がつきまとうんだぞ、天宮
天宮:掃除洗濯、あと害虫駆除だって立派な厄介事ですよ~
三柴:それとこれとは別だ!
天宮:なかなか押しが強いですね……一体、俺に何をさせるっていうんですか?
三柴:お前には、「厄介相談部」に入ってもらう!
天宮:……えっ?
三柴:ちなみに、入部届は代わりに書いた
天宮:生徒の人権かえせよ!
三柴:これからお前には、厄介事を解決していく日常を送ってもらう
三柴:ただその代わり、欠席に関してはおおめに見てやる
天宮:……厄介相談部…名前からして面倒極まりこのうえなさそうだ……
三柴:いやぁー人がちょうど欲しくてなぁ。そこで思い出した。そういえば、天宮がいたじゃないかと
天宮:絶対人選まちがえてるって
三柴:つべこべいうんじゃない! 場所は1階の、奥の奥だ! さぁ行け!
天宮:……ぐっ
0:
天宮:…相談部……よりによって……この学校でか
天宮:うっ、校庭から、声が…
0:校庭
炭田:ふぁぁぁぁぁぁぁ!!
炭田:きょおおぅこそ決着をつけてやるよぉ! このスットコドッコイの生徒会野郎ども!
星凪:放課後から元気すぎて、迷惑なのよあんたは!
炭田:ご光栄さずかるぜぇ! 生徒会の上級役員さん!
星凪:……炭田 永久(すみだ とわ)。前から目をつけていたけど、今日はやる気満々ね
炭田:最近は生徒会に押され気味だったが……どこかで誰かが、腹を据えなきゃならねえ
炭田:それが、不良道(ふりょうどう)の覚悟ってやつよ!
星凪:知らないわよそんなの
炭田:今度こそ俺達の好きなようにさせてもらうぜ! 星凪霧香(ほしなぎきりか)ぁ!!
星凪:かぁーっ……はらわたが煮えくり返るくらい、めんどくさいやつ……!
星凪:真倭(しんわ)学園生徒会の名の元に! 成敗してあげるわ!
炭田:田中ァ、斎藤ォ! お前ら先発いってこい!
星凪:下っ端をあごで使える実力……
炭田:そういうお前こそ、竹刀片手に持ちながら他の奴に任せっきり
炭田:しかも、ただのお真面目な優秀君ばっかりかと思えばそうでもねえ
星凪:褒めてくれるのかしら?
炭田:あっ! んだよ田中ァ! やられてんじゃねえか!
炭田:斎藤ぉ! お前もかよ
星凪:褒めていただいた通り、ボコボコにしてやるわ
炭田:ちっ、喧嘩慣れもしてやがる。どう考えても普通の生徒会じゃねえな
星凪:それが真倭(しんわ)学園生徒会。ごく普通の学校と比較されちゃぁ困るわね
炭田:自信満々なその言い方……シャクにさわるぜ
星凪:ほら、さっさとかかってきなさいよ
炭田:言われなくても……おらぁ! どけどけどけーっ!
星凪:ブルトーザー並みの突進力……!
炭田:伊達に幹部クラスやってねえんだ俺はぁ!ここで引かれちゃ、先代の幹部に申し訳がたたねえ!
星凪:そんな迷惑グループは、撲滅あるのみよ!
0:星凪は迫ってきた炭田に竹刀を振る
炭田:あっぶねえ、あっぶねえ!
炭田:でも、がら空きだ星凪ぃ!
星凪:ひょいっと! 避ける!
炭田:なっ!
星凪:動きが甘い!
0:炭田の攻撃をよけ、星凪はすかさず竹刀で攻撃を当てて
炭田:いてぇなぁこのヤロー!
炭田:……っ!? んだこれ? 力が、湧いてきやがる?
星凪:はぁ?
炭田:左手が……おぉ……左手がなんか、白いぜ!
炭田:こいつはぁ、灯子(とうこ)がたまにわけのわからねえことを言ってた…怪異ってやつかぁ?
星凪:何をごちゃごちゃ話してるのよ?
炭田:わりぃわりぃ。今すぐ黙らせてやるぜ……この光った拳でな!
炭田:白光拳(はっこうけん)!
星凪:っっ! うるさい!
炭田:だぁーっ! また避けられた!
炭田:なんだよ光るだけか! 使えねえ!
星凪:ははーん……不良生徒が光る拳?
星凪:相当イタイわねぇ……そう…イタイ
星凪:…ぐぬぬぬぬぬ
炭田:なんだ? 怒り心頭な顔しちまってよ!?
星凪:その言い方も……なんだか……どこかの……誰かを思い出すような気がして…イライラするわね
星凪:勝てないことをみっちり教えてあげるわ!
炭田:突撃だこのヤロォォォォ!
星凪:とっとと骨をうずめなさぁぁぁぁい!
0:不良生徒と、生徒会同士がぶつかる
天宮:……どこの不良漫画だよ、ほんと
天宮:ただ残念ながら、俺が住んでるところにある進学校はここのみ。最初から宿命づけられていたわけで
天宮:不良抗争と生徒会、関わるだけで面倒なものは、これまで避けてきた
天宮:「天宮茂(あまみやしげる)は静かに暮らしたい」そんなラノベタイトルを夢見るほどに、俺は影を薄めていたというのに……くっ
0:
0:
天宮:それで…ここか。……誰もいないのか?
天宮:でも、部屋は空いてる? ……失礼します
天宮:……っ!?
0:「厄介相談部」の部屋に入ると、なにやら呪物のような置物やら魔方陣がかかれた垂れ幕がかかっていたりと、奇妙な部屋だった
天宮:おいおい、スーパーウルトラ怪しさ満点じゃないのよこれ~。何? 俺いまから呪術でも授かるの? 少年漫画はじまっちゃうのこれ?
天宮:いやいや、そんな馬鹿な話が……
冥咲:黒(くろ)に報(むく)いよ
天宮:……へ?
冥咲:闇夜(やみよ)の真(ま)を刻(きざ)み、その名(な)を、永久(えいきゅう)の冥王(めいおう)に返還(へんかん)せん
天宮:ど、どこから声が……? っ後ろ!
冥咲:こくま! えん・かっ・さーつ!!
0:後ろを振り向けば、勢いよく女子校生が飛び蹴りをしてきていた
天宮:目の前に、靴下がぁっ!
冥咲:てやぁぁーっ!
天宮:ごふぅーっ!
冥咲:……これで、取りついていた怪異は去ったかしらね
天宮:あ……あが……
冥咲:大丈夫よ、迷いし子羊。ここは私が作った聖域
冥咲:あなたに乗り移っていたモノは、冥府の底へかえったわ
天宮:…勝手にかえさないでくれ
冥咲:そのうち、理解できるようになる……なぜなら、あなたは迷いし子羊であり、選ばれた冥(めい)の眷属(けんぞく)
天宮:一生理解できないの間違いですよそれ
天宮:俺、中二じゃないので!
冥咲:そ、そんな陳腐(ちんぷ)な言葉で片付けないでくれないかしら!
天宮:というかお前、だれだよ。入ってきた人間にいきなりキックくらわすとか、ちょっといま身の危険を感じている
冥咲:なかなか良い冥花術(めいかじゅつ)だったでしょう? 本来、あれは異界の剣術らしいのだけど、私がアレンジして使っているのよ
天宮:唐突の設定押し付けムーブ辞めてもらっていいですか?
三柴:説明しよう!
天宮:うわびっくりしたぁ
三柴:ここにいるのは、冥咲灯子(めいさきとうこ)
三柴:彼女は見ての通り、怪異ハンターだ!
冥咲:じゃじゃーん
天宮:……怪異、はんたー?
三柴:自称な!
三柴:本当の姿は、厄介相談部の部長だ!
冥咲:じゃ、じゃじゃーん……
天宮:いやそりゃそうでしょ。怪異(かいい)なんておとぎ話で…
冥咲:ええ、本当に居るわよ? ほら、あなたの後ろ
天宮:……? うぇぇなんだこいつ!?
怪異:ふわわわわ、ふわわわわ~
三柴:ほえー、なんかうんこみたいな形してるな
天宮:そういうのやめなさいよ
冥咲:まだ退治できてなかったようね……はっ!
怪異:ふわぁぁぁぁ!
天宮:……えっ、死んだの?
冥咲:返ったわ
天宮:完全に虫をたたく時とおんなじだったよ!?
三柴:これが、冥咲の実力だ!
天宮:うっそぉ、本当にいるパティーンかよー
三柴:そうだ天宮! 意識をしたら誰でも見ることが出来る!
三柴:と、冥咲から聞いた!
冥咲:その通りよ、先生
天宮:それで、冥咲はその、怪異を退治してると
冥咲:そういうこと。……さぁ、怪異ハンターの道はこれからよ
天宮:実在してなかったら、タダの痛い人にしかみえないけど
冥咲:して、私の眷属(けんぞく)である、三柴から聞けば……
三柴:三柴先生と呼べバカモノォ!
冥咲:うっ……
冥咲:こほん。三柴先生から聞けば、あなた、厄介相談部に連れてこられたようね
天宮:まったくだ。俺は地味に生きたいっていうのに……
冥咲:でも残念ながら、私は怪異しか興味がないから……
天宮:俺はそもそも関わりたくない
三柴:バカヤロー!
三柴:怪異ばっかりみて現実を解決せずに、なぁぁにが厄介相談部だ!
冥咲:うっ! ……で、でもぉ
三柴:なんだ!?
冥咲:ひ、人と関わるのがめんどくさくて……
三柴:知るかボケぇ!
三柴:怪異を追い払えても金は入らんのじゃあ!
冥咲:うぅぅぅ
三柴:怪異を解決するのも別に構わないが、天宮が入った以上、「現実」の問題をメインに解決しろ! いいな!
天宮:三柴の押しが……強い!
冥咲:ぐ……ぐぐぐぐぐぐぐ
冥咲:わ、私の冥(めい)に従ってそれを拒絶する
三柴:言い訳ふよぉぉぉう!
0:三柴はどこからか持ち出したハリセンを構える
冥咲:ひぃぃぃぃ! ハ、ハリセンは辞めて
天宮:うわぁ……
三柴:厄介相談部の成果、必ず果たせよ! 顧問として、応援するぞ!
天宮:なんてブラックな教師だ…
三柴:心配するな、これでも柔らかくしてある
天宮:そういう問題か!
三柴:じゃ、帰る!!
0:三柴はそう言って退散した
冥咲:いつか必ず、そのまま冥(めい)へと葬ってやるぅ……できないけど
天宮:それで、どうするんだ?
冥咲:何が?
天宮:解決しないといけないんだろ?
冥咲:まぁ、引き下がれないわね
冥咲:怪異ハンターの日常を守る為に、仕事をするわ
天宮:いやどっちでもいいけどさ……というか、お前も強制的に入部された身か?
冥咲:いえ……その。この部屋は、誰も使われていないから……私の居城に出来ると……思ったのよ……
天宮:まさかの黙って占拠
冥咲:でも、あの教師にそれがバレて……うぅ
天宮:自業自得な気もするが……それで、あの奇妙な怪異ばっかりを退治してると
冥咲:ふふ……怪異退治も悪くないわよ?
天宮:さりげなく進めるの辞めてもらっていいですか
冥咲:は、話を戻して……ここは三柴先生の言う事に従うしかないわね
天宮:そうしないと、俺達の身の上だってどうなるかわからない。下手したら退学コースも夢じゃないかもな…
0:そこで、扉の向こうから、こちらに近づいてくる足音が聞こえてきた
天宮:……ん? ドアの向こうから音が?
冥咲:これは、さっそく厄災(やくさい)の音が聞こえるわね
冥咲:姿を見せるのは、果たして約束された怪異か、それ以上の理(ことわり)を持つ魂か……鬼と出るか蛇と出るか……ふふふ、面白いわ
0:扉が勢いよくケリ破られた
炭田:ここかぁ!! 厄介相談部はぁ!
冥咲:ひぃぃぃぃぃぃっ!
天宮:お、お前は……!
炭田:おう、灯子もいるじゃねえか
冥咲:す、炭田くん……
炭田:なんだ、おい? ここ、まるで灯子の部屋そのものじゃねえか
炭田:勝手に自分好みの部屋に変えるなんざ、お前もなかなかやるな
冥咲:怪異ハンターとして、必要なことをしているまでよ
炭田:中学校の時から変わらねえぜ。怪しい笑みを浮かべつつも、大事なところだけはブレない
炭田:不良グループにはいらねえか? お前も
冥咲:それは、お断りよ
天宮:えっ!? 冥咲、この不良と知り合いなの?
炭田:「この不良」だぁ!? チンケな扱い方しやがって! い
天宮:いやいや暴言いったつもりないって!
炭田:灯子とは、近所なんだよ!
天宮:えっ!?
冥咲:そう…あれは、中学校時代よ……
0:
炭田:おーい、灯子(とうこ)。新しいゲーム貸してくれ
冥咲:今、実験中よ
炭田:何の?
冥咲:私の技の実験……いえ、儀式と呼んでいいかしら
冥咲:冥界(めいかい)から授かった天啓(てんけい)を元に、技を編み出したわ
冥咲:本来、冥界に聞けば、この技は剣を用いるらしいのだけど……ふふ、そこは私のやりたいように改良させてもらうのよ
炭田:なんだ、喧嘩に興味あんのか?
冥咲:怪異を倒すための大事な儀式といってくれないかしら?
炭田:面白えじゃん。ほれ、俺が受けてやるよ
炭田:パンチだろうが蹴りだろうが、容赦なくかかってこいや
冥咲:あなた……いつも喧嘩しているからって…まぁいいわ
冥咲:後悔しないかしら?
炭田:あ? 後悔?
炭田:別に大した事ねえだろ、お前
冥咲:むむむむ…なら、一発喰らうがいいわ!
冥咲:黒(くろ)に報(むく)いよ
冥咲:闇夜(やみよ)の魔(ま)を刻(きざ)み、その名(な)を、永久(えいきゅう0の冥王(めいおう)に返還せん!
冥咲:こくま!えん・かっ・さーつ!
0:
冥咲:……ということよ
天宮:軽く実験台にされてるなー
炭田:おい、ここならどんな頼み事も聞いてくれるんだよなぁ?
天宮:頼み事じゃなくて厄介事なんだけど?
炭田:じゃあ、俺にとっての厄介事だ
炭田:それを解決してもらうってんなら、文句ねえだろ
天宮:あ、あぁ
炭田:要件は1つだ
炭田:生徒会の星凪霧香(ほしなぎきりか)は知ってるな?
天宮:星凪? さっきまで争ってた奴じゃん、校庭で
冥咲:その相手と……どうするつもり?
炭田:あいつの……秘密を探りたい
天宮:……秘密を
冥咲:……探る
天宮:……えっ、そんな内容?
炭田:あぁ!? 文句あんのか!?
天宮:ちょちょちょっと掴まないでって!
炭田:何でもいい! 奴の秘密か、バラされてくない何かをこっちが掴めば、俺達が優位にたてる! つまり、あいつの弱点がほしいんだ!
天宮:それ不良グループに肩入れしろってことかよ!
冥咲:生徒会にバレたら、ある意味厄介事になりそうね
天宮:俺達が生徒会に狙われるっていう厄介事がな!
炭田:てめぇ!? 俺の頼みをことわるってかぁ!? ああん!?
天宮:ぼぼぼ暴力反対ぃー!!
三柴:そこは受けるんだ天宮ぁ!!
天宮:って三柴先生ぃ!?
冥咲:あなた、突然あらわれるわね……やはり何かしらの能力を
三柴:そんなものはないわ! ハリセンスラァァッシュ!
0:三柴がどこからか持ち出したハリセンで冥咲を叩く
冥咲:うぅっ!……痛い
三柴:困った時にさっそうと現る教師、それが三柴(みしば)って人間だ!
天宮:それははじめてきいたな…
三柴:天宮。もしここで彼の依頼を断ったらどうなるか
天宮:どうなるって言われてもな…
三柴:星凪の弱みを握れないまま、またあいつらは争いを行うことになる
天宮:それは、合ってるけど
三柴:そう、平行線だ。何処までも続く地平線のかなたまでの
三柴:でも、何か進展があったほうがいいだろ? 解決は進展がなければ達成されない
天宮:…どちらかというと、不良側が有利になったらそれはそれで大変な気がするけど
炭田:安心しな……恩をくれた奴には待遇よくしてやるからよ
天宮:何の待遇だよ…
冥咲:……ふ、ふふ
冥咲:いいわ、受けましょう
炭田:その言葉を待ってたぜ…灯子
冥咲:それに、星凪さんの事は…少し調べてみたいと思っていたところよ
天宮:へ? そうなの?
冥咲:彼女には……あれは、怪異かしら。何か違うものを感じているわ……
天宮:違うもの?
冥咲:私と同類の匂いがするのよ
冥咲:そして我が眷属(けんぞく)に……ふ、ふふふ!
天宮:あ、そうなの。よくわからんけど
冥咲:そうときまれば、厄介相談部……さっそく活動を開始しましょう
冥咲:星凪さんは今どこに?
炭田:生徒会室に戻っていきやがったよ
天宮:あ、ていうか。さっきまで……あの、争ってたんだろ? 勝敗はどうなったんだ?
炭田:奴らは強い
炭田:俺も並みの一般ピーポーよりは勝てる自信があるが、どうにも鍛えてんのか、そういう奴らで構成されてるのか……未知数だぜ、畜生
冥咲:ふっ、大きな組織ほど謎が多いとね
三柴:お! なんだか話がまとまったみたいだなお前ら!
三柴:じゃぁこの辺で先生は退散するぞよ!
冥咲:突然、また来そうな予感はするけれど
三柴:そん時はそん時。じゃあな! 頑張れよ! びゅーん!
0:三柴はさっそうと去っていった
炭田:したら、俺もこの辺りで帰るぜ
炭田:星凪のことが分かったら教えろ。また来る
0:炭田は乱暴に扉を開け、帰った
天宮:まさに逃げ道なし。やるしかないかぁ、これ
冥咲:人間がこうも絡んでくると……がんじがらめになるわね
天宮:面倒事の最初のハードル高すぎやしません? 普通こういうのって、落とし物探しとか、簡単な人間関係のいざこざとか、狭い範囲のコミュニティというか、作業だと思ってたのに
冥咲:普通の学園ならね
冥咲:ここに入った以上、厄介事……それこそ影響力の強い厄介事は避けられないわ
冥咲:だから私は怪異の事だけを……もくもくと1人でやりたいのに
天宮:いやそれもそれで結構でかい事だと思うけど…
冥咲:弱音を吐くと、あのうるさい教師がやってきそうだわ。生徒会へと行きましょう
冥咲:星凪さんが帰る前に捉えておく必要がある
冥咲:彼女の何か……証拠になるものが見つかればいいんだけれど
天宮:証拠かぁ
冥咲:秘密にしているということは、隠したいもの
冥咲:その隠し事なるものが見つかれば、星凪さんを揺さぶる材料にはなるし
天宮:星凪霧香(ほしなぎ きりか)…あいつにバレたらタダじゃすまなそうだ
冥咲:ただ、いきなり会って弱点を聞き出すにもいかない……それなら
0:
0:
星凪:生徒会に体験入会したい?
冥咲:ええ
星凪:なんで?
冥咲:不良グループと抗争を繰り返して、日々の平和を守っている生徒会……
冥咲:それを見て、私は、非常に感銘を、この胸に灯してしまったわ
星凪:それで、興味を持って?
冥咲:雑用でも、トイレ掃除でも構わないから
星凪:ふうん……
星凪:まぁ、そういう理由なら別にいいかしらね
天宮:(小声)……お前、案外はなせるじゃないかよ
冥咲:(小声)いいえ、これは策略というなの嘘つきゲームだから、できるのよ
冥咲:(小声)そして……ふふ、彼女の……裏を
天宮:(小声)笑顔が怖いぜ
星凪:それなら
天宮:へ?
星凪:どれだけこき使われても耐えられるか、試してみようかしらねぇ?
星凪:悪いけど、生徒会は生半可な人間が入れるような場所じゃない
星凪:あたしの拷問に耐えらえるかどうか
天宮:ご、ご、ご?
冥咲:……冥府(めいふ)の極刑(きょっけい)?
天宮:なんじゃそりゃ
星凪:……っ
星凪:冥咲さん……ああ、そう
星凪:あなたの発言……引っかかるところがあるけど
星凪:それを言ってられるかどうか…!
0:
星凪:ほらぁ! とっとと吹く!
天宮:わ、分かってるって!
星凪:はやく!
天宮:尻をけるなって!
星凪:ん? あれれー?
星凪:あーまーみーやーくぅん?
天宮:な、なんだよ?
星凪:窓の「ここ」……みなさいな
天宮:は、はい?
星凪:こ・こ!
天宮:え……えっと
星凪:これなに?
天宮:……な、なんでしょう?
星凪:ヨ・ゴ・レ!
天宮:き、厳しすぎる……。これ、結構ピカピカにしたほうだぞ!?
星凪:はぁ? だからなに?
星凪:あんたの基準なんか知らないのよ!
天宮:そんな無茶苦茶な
星凪:あたしは言ったはずよ…生徒会室を隅から隅まで、かっちりばっちり、ピッカピカの一年生並みに、キレイにしなさいと!
星凪:だから、とっととやれぇ!
天宮:はいー!
冥咲:……て、徹底されているわね
冥咲:この部屋を見渡しても……怪異がいない
冥咲:汚い場所を、奴らは好むはずなのだけど……
天宮:お前なにしに来たんだよ……
星凪:ふぅーん、やっぱりそういう人よね、冥咲さん
冥咲:何かしら?
星凪:その発言、態度……
星凪:あなたを見てたら、こう……はがゆい気持ちが生まれてくるわ!
冥咲:私を見たら……へぇ
星凪:この単語も口にするのも面倒になるくらいだけど……
星凪:「中二病」
星凪:それも極度の!
天宮:あぁ……まぁ、そうよな
冥咲:冥(めい)の名において、断じて違うわ
星凪:その言い方……慣れすぎなのよ
冥咲:慣れている、とは?
星凪:あなた、あれでしょ? 壱から百までぜぇぇぇんぶ設定して、さもそれがあるかのようにふるまって
冥咲:あるかのようではなく、実際にあるのよ!
星凪:あぁぁぁぁぁぁぁァァァァア!!
天宮:うおっ!? な、なんだよ星凪、突然大声上げて
星凪:っ……それ……それよ
天宮:それ?
星凪:病にかかってるやつは、みぃぃぃぃぃぃんな! おんなじことを!まるっきり言うのよ!
冥咲:私は、真実の人間としてここに存在しているわ
星凪:くぅぅぅ!もうその言いようが腹立つ!
星凪:天宮君も掃除が甘かったりで脳無しだけど、あなたはもっと酷いわ!
天宮:の、脳無し……
星凪:せっかく体験入会として、将来の生徒を見極めようとしてみたけど……それどころじゃないわね
冥咲:ふふ……ふふふふふ
星凪:……なによ?
冥咲:やはり、貴方からは感じるわね。その後ろにあるオーラ
冥咲:それは……怪異とは違う…異なるもの
星凪:あーはいはいそうですねー
冥咲:おそらくだけど……
冥咲:何か別の「力」を持っているのではないかしら?
星凪:はぁ?
星凪:あなたほんとに馬鹿じゃないの?
冥咲:ふふ……認めるのよ……
冥咲:そこに本物のあなたがいるわ……
星凪:ぐ……ぐぐぐぐ
星凪:あぁぁぁぁ腹立つ!!
天宮:星凪のやつ、冥咲にペースを掴まれはじめてるな……
星凪:冥咲灯子(めいさきとうこ)……そこに直れ!
星凪:そのゆがんだ考えを持っていたらどれだけ危ういか、説教してやる!
天宮:……あのー
星凪:あなたは黙って掃除をしなさい!
天宮:俺は、もう疲れた
星凪:は?
天宮:掃除なんて、汚くなったあとにやればいい。毎日掃除していたら、読書は?ゲームは? 遊びに使う時間はどこにいってしまうんだ?
冥咲:確かに……怪異退治も、掃除でとられてしまったら、本末転倒だものね……
星凪:いや、意味わからないから
天宮:そういう過ごし方は、最小限に抑えて、掃除したいときに掃除するのが一番だと思うんだ。それが、働かない、歯車にならない、最適で最高の、暇の潰し方だということで……
星凪:すっごくどうでもいい論理展開しても無駄だから。あたしの説教が終わるまで、やりなさい
天宮:ええー
星凪:あっ、掃除が終わったらゴミ出しもしてもらうから
星凪:そこんところよろしく
冥咲:哀れなり、天宮(あまみや)くん。
星凪:いいわんこちゃんになりそうよね、天宮君
星凪:ここでみっちり生徒会の教育を学んで、部屋の掃除も隅々までする、綺麗な人間性を身に着けられることを期待したいところねぇ
星凪:ふふ、楽しみだわ~! あーっはっはっはっは!
天宮:ぐぐぐぐぐぐぐぐっ……完全にもてあそばれている……!
天宮:ゆるすまじ星凪……! 人の時間を軽々しくとるとは、不届き千万……これは不良グループにすっぽり肩入れしてしまいそうな展開になっちまうぜ……!
星凪:ん? 何かいった?
天宮:あ、いやぁなんでも!……ってそうだったぁ。炭田のことは言ったらヤバいんだったな
0:
0:学校を出て、校庭
炭田:ハクション!!(くしゃみ)……あぁ、風邪か?
炭田:というか……帰るとはいったが……あいつら、本気でやってるのか気になっちまうぜ
炭田:適当なことしてんじゃねえだろなぁ?
三柴:心配するな炭田
炭田:うぉ!?
三柴:呼ばれてないのにじゃじゃじゃーん
炭田:突然でてくるんじゃねえよ!
三柴:天宮と冥咲は、しっかりと仕事をしているよ
炭田:あ?
三柴:なにぶん、やると決めたらやってくれる、いい子たちだ
炭田:……それなら良いんだけどな。こっちとしては、星凪の弱みを握ってしまえば、あとはどうでもいい
三柴:そこなんだが、炭田くん
炭田:なんだよ?
三柴:星凪君の弱みを握りたい……それは、優位に立った後、話し合いで解決をしたいということかい?
炭田:……へぇ、頭がまわるじゃねえか
炭田:殴り合うのは嫌いじゃねえが、いかんせん疲れちまう
炭田:無駄に奴らとはりあうなら、相手の弱みを握ったほうがラクだ。大きな戦局が到来した時に、口ひとつで立ち回りやすくなる。カードとして握っておくんだよ
三柴:考えるねぇ、炭田君
炭田:生徒会ばっかりが優秀連中だと思うなよ?
三柴:手を使った争いを行おうとしないその姿勢、ご立派だ……ただ、本当はきみ、争いをしたくないのではないかね?
炭田:なんの話だよ?
三柴:生徒会には、あの子。同じクラスメイトの高橋(たかはし)ちゃんがいたな?
炭田:……なっ!? てめえなんでそれを!
三柴:教師の情報網をなめるんじゃないぞぉ、炭田
炭田:ぐ…
三柴:お前は、その子に対して「印象が悪くなる」から、それをごまかそうとして考えた結果、生徒会とあまり暴力で争う事を避け、高橋の印象を良くしたいんじゃないか?
炭田:……っ
三柴:そんな気持ちがあるなら、今すぐ告白してこればいいじゃないか
炭田:まだ印象が悪ぃ、それはできねえ
三柴:そんな打算的に考えてたら、高校生活なんてすぐに終わってしまう
三柴:……おーい! 高橋ー! こっちにこい! 出てきていいぞ!
高橋:……こんにちは、炭田くん
炭田:は!? 高橋! なんでここに!?
高橋:……み、三柴先生につれられて
炭田:てめぇ……三柴ぁ!どういうことだ!
三柴:私はセッティングをしただけさ!
炭田:ふ、ふざけたことしやがって……!
三柴:男ならどーんと行け!
炭田:ぐ……この野郎
高橋:炭田くんが、話したいことがあるって聞いて
炭田:…あぁ、そうだ、そうだよ
炭田:俺がその、不良グループに入ってるのは、知ってるだろ?
高橋:炭田君は……なんで入ったの?
炭田:学校が気に入らねえだけだよ
炭田:ただ何も無しに、普通に生きたくねえだろ? 机に座って、ただご立派な教育を聞かされてるだけなんてよ
高橋:炭田くん…
三柴:ふふ、それ、教師の前で言うのはなかなか度胸があるが……
三柴:今は、見逃しておいてやろう
三柴:それが、お前の青春の形だからな! 炭田!
炭田:……でも、お前には手を出さねえ
炭田:そりゃ、クラスの中で生徒会の人間がいるなら、牙をむくけどさ……高橋は……その
炭田:…無害だし……それに
炭田:俺は……その……
高橋:でも、炭田くんは……不良グループに入ってて、悪いことをしているんだよね……? そんなの、納得できないよ……!
炭田:…高橋? …っ!?
三柴:な、なななんだぁ!? 突然、高橋ちゃんの様子が……?
0:
0:
冥咲:つまり、怪異(かいい)は世界の均衡のために必要な存在よ!
星凪:だからないっていってるでしょそんなものぉぉぉ!
天宮:……説教してたのになんで討論してんだ
星凪:いい!? あなたのいうそのふやふや~な妄想は、自分が逃げたいだけの妄想!
星凪:そこから卒業しない限り、社会に出てもただのイタイ人で終わる人生を過ごすっていってんのよ!
冥咲:社会から出たら怪異ハンターになる予定よ。すでに私の未来は決まっている
星凪:堂々と言う事じゃなぁぁぁぁぁぁい!!
冥咲:星凪さん……何回も言うけど、あなたが隠している「何か」を……さらけだしなさい
冥咲:そこにあなたの、真の姿が隠れているはずよ……!
冥咲:自分に素直になりなさい……!
星凪:あんたが素直どころじゃないのよぉぉぉぉ!
天宮:これ、決着つくんだろうか?
0:ここで、突然の地震
天宮:うぉっ!? 地震……?
冥咲:気配がするわ!
星凪:え、ええっ!?
天宮:あ! あれ! 校庭!
冥咲:あれは……炭田くんと……三柴先生と……
天宮:……でっかいぬいぐるみみたいな奴がいるな
天宮:……なんてつぶらな目をしているんだ、あれ
冥咲:怪異よ!
天宮:えええええ!?
冥咲:あれはおそらく、暴走して取りつかれた生徒だわ!
星凪:生徒!?
冥咲:このまま野放しにはできない、行きましょう!
星凪:ちょ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!
星凪:っ、たくもう……何よあの馬鹿げたぬいぐるみ……! 誰が入ってんのよ!
星凪:……一応、聞いてこうかしら
星凪:(3階の窓から、校庭に向かって叫ぶ)おーい!炭田ぁー!
0:
炭田:? 3階から声? ……あれは、天宮と、灯子(とうこ)と
炭田:…あっ! 星凪の野郎もいるじゃねえか……!
三柴:むむ!? なにか、星凪が叫んでいるな?
0:
星凪:ぬいぐるみの中、だーれーがーいーるーの!
炭田:ぬいぐるみが誰かって?
炭田:……たーかーはーしー!
星凪:え!? てーらーさーき!?
炭田:なんでだよ!!
炭田:寺崎って誰だ!!!
炭田:だから、たーかーはーしーだ!
星凪:たーかーのーはーな!?
炭田:駄目だ、あいつ全然聞こえてない
三柴:最初の2文字はあってるのが、微妙に惜しい
炭田:とっとと降りてこーい!
星凪:わかった!
三柴:「降りてこい」は聞こえているようだ! よかった!
炭田:お前、ちょっと楽しんでるだろ
0:
星凪:はぁ、駄目ね……何を言ってるのか全然わからないわ
冥咲:まるで……炭田くんの言葉が、この世のものとは思えない聞こえ方をしていたわね……
天宮:確かにな……でも、たかのはなとか、てらさきは流石に違う気がするぞ。うん
星凪:うるさいわね、もう一発蹴るよ?
天宮:辞めろって!
冥咲:もしや、時空のゆがみで怪異が?
星凪:はぁー、出た出た
天宮:聞き間違いが怪異のせいって……地味だよなぁ
冥咲:その可能性もありえなくはないわ
冥咲:とにかく、ここにいても仕方がない、早くおりましょう
天宮:ごもっとも
0:校庭に来る一同
炭田:くそっ! おい!高橋! 聞こえねえのか!
三柴:あの、ファンシーなぬいぐるみになってから一つも声が聞こえない!
炭田:なら、この……よくわからねえ、怪異だっけ? なんでもいいぜ! こいつを使って……!
炭田:はぁぁぁっ! 光りとどろけやぁ!
三柴:お! 高橋の奴がっ、少しまぶしそうだ!
炭田:わりぃ高橋。少し痛いが我慢しろ……! 白光拳(はっこうけん)!
三柴:しかし、炭田の拳はむなしく、空を切ったぁ!
炭田:くっそぉ……ほんとに光るだけかよこれ!
冥咲:炭田くん!
三柴:おー来たかぁ! 厄介相談部!
炭田:高橋…なんでそんな姿になっちまったんだよ
星凪:ぬいぐるみを着て、何かの宣伝活動かしら? それなら生徒会に報告を……
冥咲:あぶない! 星凪さん!
星凪:えっ?
炭田:星凪っ! 避けろ!
0:でっかいぬいぐるみの姿になった怪異が、右ストレートを星凪にかまそうとする
0:冥咲は星凪をどけて、腕で防御した
星凪:ふえっ!
三柴:おお! 冥咲がぬいぐるみのパンチを防いだ!
冥咲:ぐっ…このっ! その手をどけなさい!
天宮:風圧やっば!
炭田:高橋…あんな、喧嘩慣れしたパンチ、かませるのか
天宮:そこかよ
冥咲:胴体に一発当てる! 闇の力を受けなさいっ!
三柴:よっしゃぁ! 怪異におしおきの回し蹴り炸裂だぁ!
星凪:め、冥咲さん!? …何よもう……変なパフォーマンスはじめちゃって……
天宮:なんだか、リアルなのか怪異なのか分からなくなってきた
星凪:いや、リアルよ
天宮:ブレないなぁ……
炭田:あいつは……まごうことなく、高橋だ
炭田:俺は、この目で見た……あいつがふわふわと変身する姿を……!
星凪:ふーん、煙を使ったマジックかしら?
天宮:部室で見た怪異といい、このぬいぐるみといい、姿かたちがコミカルすぎやしませんかね……?
冥咲:くっ……駄目か……
炭田:高橋、辞めろ!
三柴:す、炭田氏が高橋の後ろに回った!
炭田:しばらくまぶしいと思うが、耐えてくれよ高橋。
炭田:はぁぁぁぁっ! 白光拳(はっこうけん)!
三柴:おお! 炭田が拳を光らせながら、ぬいぐるみの高橋を、抑えつけている!
炭田:灯子(とうこ)! 俺がこいつを抑える! 今のうちに倒せ!
冥咲:しかし、あなたが犠牲になってしまうわ!
炭田:へっ、こんなことでやられるタマじゃねえんだよ!
冥咲:あなた……そこまでの覚悟で
炭田:灯子(とうこ)お前があの時見せた……。えっと。こ、こくま? こくまなんちゃらってやつ
炭田:そう、お前が見せたあの必殺技なら、一撃で倒せるはずだ!
冥咲:そ、そうなのかしら?
炭田:わからねえ!
天宮:どっちだよ!
三柴:いいぞ炭田ぁ! 助け合いの精神はポイント高いぞぉ!
冥咲:なら、炭田君の言う通り……
三柴:冥咲が距離を取った!
天宮:!? おい、冥咲の周りに、なぞの黒い魔方陣が!
星凪:演出まで無駄に凝ってるわね……
炭田:へっ。灯子のやつ。いい表情してるじゃねえか
冥咲:黒(くろ)に報(むく)いよ
冥咲:闇夜(やみよ)の魔(ま)を刻(きざ)み
冥咲:その名(な)を、永久(えいきゅう)の冥王(めいおう)に返還(へんかん)せん!
星凪:っっっ! ぅぅぅぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁもうううううう!
天宮:おお落ち着けって星凪!
星凪:そういうえいしょうやめてえええ!!ああーーーーーもういやぁぁぁ!
炭田:思いっきり蹴ってこい! 灯子ぉぉぉぉぉぉぉ!!
冥咲:こくま! えん・かっ・さーーーつ!
天宮:これは! 行けるか!!
冥咲:とりゃーーーーーーっ!
三柴:おおお! 冥咲の攻撃が!
炭田:っ! しまっ!
三柴:あーぬいぐるみの高橋がぁ! 突然! 首をひっこめたぁ!
三柴:そしてその先にはぁ! 炭田のがんめんんんん!
炭田:ごふぅぅぅぅぅぅぅぅっ!
0:冥咲のこくまえんかっさつが、炭田の頭にヒットした
炭田:や……やるな、冥咲……
炭田:お前の蹴り……悪く……なか……ったぜ
冥咲:しまった!
冥咲:くっ……こくまえんかっさつは……もう一度使えるまで時間がかかるのよ
天宮:そんな設定あるんだなぁ
冥咲:星凪さん!
星凪:え?
冥咲:貴方の力を使うときよ
星凪:な、ななななんの話?
冥咲:生徒会室にいるとき、ちゃっかり貴方のカバンがあるものだから、物色させてもらったわ!
三柴:な、なんだってー!?
天宮:お前……! 人が掃除している間に……!
冥咲:あなたが星凪さんに、しっぽり指導されている間にね
冥咲:これを見つけたわ
三柴:!? あれは!?
星凪:っ!!!
冥咲:……星の神が舞い降りた世界……「グランテル」
冥咲:異界の情報がかかれたノートよ
星凪:しまっ……
天宮:えっ、お前、そんなもの持ち歩いて
星凪:ち、違う! これにはわけが!
冥咲:ここに……あなたの名前も記されているわ……「星瞳(せいどう)の女神」、貴方の事よね
星凪:ぐ……
冥咲:星凪さんの正体は、これを見た時に確信したわ
冥咲:その力は、確かに私達の世界とは異なるものだけれど、あの怪異には通用するはず……私にはわかるのよ
星凪:む、むぐぐぐ……
冥咲:さぁ! 星凪さん!
星凪:……分かったわ! やればいいんでしょ!やれば!
天宮:星凪!?
星凪:どうせあのぬいぐるみ被った高橋さんも、そういうノリなんでしょ!?
星凪:私が普通に鉄拳制裁加えても、異界の技じゃないと通じないーとか何とかいって、無理やり私にやらせる気だったんでしょ!
星凪:もういいわ!それならやってあげるわよ!
三柴:ほ、星凪の実力が、垣間見えるのか! 一体どんな技が!
星凪:はぁ……
炭田:ほ、星凪……たのむ
0:星凪はぬいぐるみになった高橋を見据える
星凪:なんでこんな茶番に付き合わないと……ええい仕方ない
星凪:一度っきりよ……
星凪:ホーリーテンペストッ!!
0:星凪が腕をかざした瞬間、ぬいぐるみが吹き飛んだ
三柴:うおおお! ぬいぐるみが呆気なく吹き飛んだ!
冥咲:これが……異界の技……!
冥咲:一瞬、彼女の手から瞬く間に光が生じた。その光こそ、星瞳(せいどう)の女神がもたらす古より伝わる力……私の冥府より授かった怪異を御(ぎょ)するものとは違う種類ということね……やはり、私の見込み通り、星凪さんにはその力があった。私の目に、最初から狂いはなかったわ……彼女から感じていたオーラはまさしくその、女神そのもの。これが、これが星凪霧香(ほしなぎきりか)と1人の人間であり、この世界にもたらした新たな怪異ということね……!
星凪:さっきからあれこれうるさーーーーーーーーーーい!
天宮:あ! おい! ぬいぐるみが……消えてく?
冥咲:……怪異の力が消える……これで、高橋さんは元に戻った……?
天宮:じゃあこれで、高橋さんは!
冥咲:……いえ! まだ、ぬいぐるみが完全に消えていないわ…
炭田:た、高橋?
高橋:やっぱり、炭田君は悪い人なの? クラスでは優しくしてくれるのに、あれは嘘だったの……?
炭田:いや、だから。その
三柴:おっとぉ、こりゃ……炭田氏、ピンチか? フラれる予感がしてきたぞ!
天宮:え? あのー炭田って……高橋さんと知り合い?
三柴:馬鹿お前! この発言で察しろ!
天宮:あ、あーなるほど……
冥咲:ただ、高橋さんは今、怪異のせいで混乱している
冥咲:このままだと、またあのぬいぐるみ状態に戻ってしまうかもしれない
三柴:よし、いけー! 天宮!
天宮:え? いや、ここはほら、生徒会の星凪が……
星凪:……うぅ、もう、いや、こんなの、言いたくなかった、うう、ううぅぅ
天宮:あー、駄目だこりゃ
天宮:……俺が行くしか、ないと?
冥咲:天宮君、あとはお願いするわ
天宮:何を託すんだよ……はぁ
天宮:じゃ。部活動、するか…
0:天宮はため息をついて、高橋のもとへ歩く
天宮:……えっと、高橋さん、だっけ?
高橋:は、はい?
天宮:俺は、「厄介相談部」の天宮茂(あまみやしげる)
天宮:炭田から、お前に関しての依頼を受けてた
冥咲:あ、天宮君?
天宮:炭田は、お前との関係について、悩んでいたんだ
炭田:……天宮、お前
天宮:その、確かに…炭田は不良グループで、生徒会の高橋からしたら、なんでそんなグループに入っているんだと思うよな
天宮:俺は、炭田から、高橋さんの事について悩んでいるのを、よく、聞いた……突然、部室をぶっきらぼうにこじあけて、話す事と思えば、人間関係の悩み……いくら不良でも、中身は俺達と同じように悩む人間に、変わりないってことだ
高橋:炭田くんが、そこまで…
天宮:炭田はなぜそこまで悩むのか
天宮:それはきっと、炭田が高橋さんのことを大切に思っているからだと、俺は思うんだ
高橋:えっ?
天宮:じゃないと、こんなに必死になってる炭田に納得できない
天宮:だからさ。もう少し、彼に寄り添ってもいいと思うんだ
天宮:きっとそれは、不良グループっていう「フィルター」が、高橋さんにかかっているだけで、決して炭田が、本気で悪くなったわけじゃないと思う
天宮:だから高橋さん、落ち着いて……
0:
高橋:う、うぅっ……
冥咲:……元に戻った!
炭田:良かった……高橋
高橋:……炭田くん? 私は?
天宮:高橋さんは気を失ってて、炭田がずっと心配して、お前が目を覚めるまで、居てくれた
炭田:っ!
三柴:おおー! 主人公してるじゃないか天宮!
三柴:先生は、先生は……うぅ、たまらねえっ! 涙と汗がたまらねえぜ!
冥咲:私は、怪異ハンターとして、役目を果たせたから、それで十分よ
天宮:あくまで怪異ハンターと…
星凪:……高橋さんも、悩んでいたのね
星凪:それに気づけなかったのは生徒会としては、汚点……
星凪:ただ……その前の展開には……
星凪:納得が…
三柴:待て星凪! 今はいい雰囲気だから、そこは抑えめに……!
星凪:納得がいくかぁああああああああああああああああ!
0:
0:翌日
天宮:(翌日 厄介相談部 部室内)
天宮:はぁ、なんだか、すごい夢を見ていたような、そんな昨日だった気がするが
星凪:…
天宮:星凪が隣でこんな顔していたら現実かぁ
星凪:なるほど。炭田くんに頼まれて、私の秘密を探っていたわけね……
星凪:おかげでとんでもない秘密をさらされてしまったわ……やってくれたわね
天宮:いや、そもそもあんなノート持ち出してなかったら、こうはならなかっただろ
星凪:う……あれは
星凪:…家においてたら、どこかに行っちゃいそうで
天宮:へ?
星凪:中学校を卒業したあたりに、その……
星凪:あたしちょっと行方不明になってたのよ
天宮:そうなのか?
星凪:でも、何処に行ったかは覚えてなくて……でも気づいたら、このノートを持ってて
星凪:……こんなこと言いたくないけど、何となくこのノートに……ノートの世界に入っていたような気がするのよ
天宮:……いやそれ、れっきとした中二病じゃ
冥咲:いいえ、それは怪異の仕業よ
天宮:えっ?
冥咲:空間を作り、別の場所に転移させる怪異も存在するわ…おそらくそれの仕業かもしれないわね
天宮:そんな怪異いるんだ……
冥咲:世の中、分からないことだらけよ、だから面白い
天宮:急に名言っぽく言わないでもらっていいですか?
星凪:…あの時は確かに……最後、トラックに引かれていたような覚えがあって
天宮:ええっ!?
星凪:でもそれが元に戻っている……わけで
星凪:気づいたら、ひかれる前の、横断歩道に居たのよ
星凪:このノートを捨てる前に時間が戻っていた。時計も確認したわ
冥咲:おそらく、引かれる際に、怪異があなたの「星瞳の女神」を形成した世界を瞬時に作り出して、そこへ星凪さんを移動させたのでしょう
天宮:そんなことが…
冥咲:そして、いつの間にか世界線が変わっていた……星凪さんは死なない世界線を選ぶことが出来たのよ
冥咲:怪異は時に意思を持つけど、人間の選択に任せて、事象を作り変えようともするわ
天宮:まぁ要は
天宮:星凪は、その世界に行ってたかもしれないし、行ってないかもしれない
天宮:引かれたかもしれないし、引かれてないかもしれないし
天宮:でもなぜか、自分はその記憶がおぼろげだけどあって、現実に戻ってたってことだよな?
星凪:……その件だけは、認めたくないけど、事実だから…ね
星凪:でも!!! 昨日のぬいぐるみの一件は、貴方たちが演出したパフォーマンスって思ってるから
天宮:そこは変わらないのな
星凪:いい加減、現実を見ないとね
星凪:本当に超常現象があったとしても、現実を生きていくことに変わりはないのよ
冥咲:だから、本当にいるというのに……
三柴:その姿勢はいいぞ! 星凪ぃ!
天宮:また突然出てくるし……!
三柴:前を向いて現実を生きる事はとっても立派だ! さすが生徒会だ!
炭田:そのことだが……
冥咲:っ! 炭田くん!
炭田:昨日は、助かった
炭田:まさか、ああいうとは、思ってなかったからな
天宮:高橋とは、あれから?
炭田:……ああ。あの後、二人で帰った
炭田:んで、しばらく歩いて、歩いて……んで
炭田:ちょっといい雰囲気になったんだ
天宮:……お、お、おう
炭田:帰り道に綺麗に夕日が見える橋があってな……
星凪:意外とロマンチックね
炭田:自販機と座る場所があったから、そこに腰を下ろして、あいつの好きな缶ジュースおごって…。告った
冥咲:それで?
炭田:もう少し、考えさせてって……まだ早かっただろうな
三柴:んー惜しい! でも、考えさせてということは、希望は残ってる
炭田:まぁ、そう、だよな
天宮:もう、星凪の弱みを握る件があさっての方向に行っちゃってるけど、結果的に、良かったのかもな
冥咲:ひとまず、一件落着かしらね
炭田:でもな、星凪
星凪:なによ、急に
炭田:お前が……なんだその、えっと
炭田:……ほーれい? だったか
天宮:いや、ほーりー…?だったような
炭田:ホーリィー、お……?
天宮:お? 「お」だったっけ?
三柴:お……お……お はっ! おっぱぁぁぁぁぁぁぁい!!!
星凪:うるさい!
冥咲:皆甘いわ。「ホーリーテンペスト」よね?
星凪:自信満々に言うな!
炭田:その、ほぅりぃてんぺすとぉは……脅威だと俺は思った
炭田:やっぱ話し合いをしても、その技がある以上、戦うハメになる
炭田:ってことで! 放課後。校庭で、てめえら生徒会をまってるぜ
炭田:じゃあな!
0:
星凪:あいつ……まだわからないのねぇ
星凪:いいわ…テンペストだろうがなんだろうが、力をもって叩き潰さないとねぇ……!
天宮:でも、高橋のことは、もう無関係だろ?
星凪:もちろん、あいつの恋路と、生徒会に挑んでくることは、無関係よ
星凪:そこに口出しはしないわ。高橋さんにもそこは突っ込まない
天宮:鬼のようなオーラが見え隠れしてるぜ
冥咲:ふふ、星凪さんの力の深み、気になるわね
星凪:さて、生徒会に戻って、戦いの準備よ……
星凪:では、ここで失礼するわ
0:
天宮:なんだかんだ、振り出しに戻ったなー
三柴:まぁとりあえず、一つ厄介事は解決したんだ! お疲れ!
冥咲:解決、したのかしらね?
三柴:炭田と高橋の関係がよくなった
三柴:それに、星凪も自分の秘密を打ち明けた
三柴:そしてついでのごとく怪異も倒した!
三柴:活動日誌に書けるボリュームは、ある!
冥咲:ついで扱いされるのは……シャクだけれど
三柴:常に学生は日進月歩だ、はっはっは!
三柴:……お前らを見てると、昔の俺を思い出すようだぜ
三柴:特に、天宮は近いかもなぁ!
天宮:え?
三柴:俺も「相談部」に入っていたことがあってだなぁ
三柴:その時は、絶賛ニート希望の、酒池肉林な生活を夢見ていたんだが……当時の顧問に、赤点を理由で、相談部に入らされた
冥咲:先生、成績が悪かったのね
三柴:そこはだまらっしゃい!
三柴:んで、相談部に入った後もまぁ、筋肉バカだったり、名前を知らない相手と付き合ってる彼女さんだったり、バナナになりたい奴だったりと……変な奴が多かったものだぜ
天宮:なかなか遭遇しない人種のオンパレードなことで…
三柴:振り返ると、我ながらそんな野郎たち相手によく対応できたなぁと思っちまうものだ
三柴:だからお前ら、厄介事を厄介だと思わずに、前向きに解決してけ!
三柴:じゃあなー!
0:
天宮:…あの三柴先生にそんな歴史があるとは
冥咲:意外とわからないものね
天宮:にしても……こんなのがまだまだ続くのかー
冥咲:学園の問題と、怪異の問題
冥咲:現実と不可思議は混ざりあい、それこそ本物の厄介事になる
天宮:お前ちょっといい具合にまとめようとしてない?
冥咲:そうすれば……学園に怪異の痕跡がないか探しましょう
天宮:そっちかーい
冥咲:厄介相談部……その裏は、学園の怪異問題を解決する特務機関(とくむきかん)……その名も
三柴:こるぁぁぁぁぁ冥咲ぃぃ!
冥咲:ひぃぃぃっ!
三柴:勝手に自分の都合のいいようにもってくなぁ!
三柴:「厄介相談部」の活動をちゃんとしろぉぉ!
冥咲:だ、だから怪異を……
三柴:それはO・MA・KEだ!
冥咲:オマケじゃないわ
三柴:オカルトじゃなくて現実を生きろ! 冥咲ぃ!
0:三柴はバタンとドアを閉めた
冥咲:くぅ……もう少し言いまかしてやりたかった
天宮:ま、ぼちぼちやっていこうぜ
天宮:夢の引きこもり生活までは、まだ遠いけど
冥咲:諦めが悪いのね
天宮:地味こそ、生きる活力だ
冥咲:分からないことはないけど
冥咲:さ、天宮君。……冥府の闇に誓って、今日も朝日が巡らないことを
冥咲:乾杯
天宮:何の乾杯だよ
0:
天宮:かくして、俺の人生プランはぐるっと180度変わってしまった。明日の暇を取り戻すために、俺は……。あぁ、めんどくさい