台本概要

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タイトル スケアリー・スクエアー
作者名 砂糖シロ  (@siro0satou)
ジャンル ホラー
演者人数 4人用台本(男1、女2、不問1)
時間 60 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 全員叫びあり
【あらすじ】
謎のバイトにてとあるマンションの一室に集まった大学生四名が、時間つぶしに始めた百物語の真似事。
それが、見えざる者を招きいれる儀式であることなど露ほども知らず、彼らは恐怖の一夜を過ごすことになる。
果たして、『無事』に帰還する事が出来るのだろうか…。

※実話も含まれているため、閲覧を含め自己責任でご利用ください。劇中、劇の前後で起きた現象について作者は一切の責任を負いません。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
陽太 173 (ようた) 明るく元気な男子大学生。エナドリが好物。怖がりなくせに心霊特集を見ては、後から後悔するおバカ。
さつき 171 落ち着いていて姉気質の女子大学生。霊感は全くない。陽太に恋愛感情を抱いている。
菜緒 145 (なお) キャピキャピしている女子大学生。可愛いものと怖い話が好き。
不問 139 (けい) 冷静でクールな大学生(男子大学生でも女子大学生でも可)。祖父が有名なお寺の住職。霊感が強く、大抵の事では動じない。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
: 0:※セリフ頭の【★】はキャラのフリをしている悪霊として演じ分けが必要なセリフです。 : 0:トイレから出てきた陽太と、殺風景な部屋でスマホをいじっているさつき : 陽太:あれ…?菜緒と慧は? さつき:コンビニー。 陽太:マジか。…出て結構経つ? さつき:多分…二十分くらいかな。 陽太:お!じゃあ…。「ついでにオレの、モンスターも、た、の、む」…と。 さつき:…好きだねぇ(笑)。 陽太:あ?何が? さつき:エナドリ。 陽太:いや、だってあと四時間起きてなきゃいけねーんだろー?モンスター飲まねぇとぜってぇ無理だって。 さつき:ふぅん。 陽太:…っつーかさ、ここのトイレマジ恐くね? さつき:え?そう?なんで? 陽太:いや、後ろにちっせぇ窓あんじゃん? 陽太:なぁーんか見られてるような気がしてさー。落ち着かねーんだよ…。 さつき:その割には、三十分以上籠ってたけど? 陽太:え?オレそんな籠ってた?体感十分くらいだったんだけど。 さつき:だって菜緒達が出てったの気づいてなかったじゃん。 陽太:あ、そっか…。 0:ドアが開く 菜緒:(同時に)たっだいまー! 慧:(同時に)ただいま。 さつき:あ!おかえりー。 菜緒:あー、やぁーっと出てきたー!…すっきりしたー? 陽太:…うっせぇな。女子が下品な事言うな…って、んな事よりオレのモンスターは? 菜緒:えっ? 陽太:慧にLINEしたんだけど。 慧:は?来てないけど? 陽太:はぁ?いや、送ったって!5分くらい前に。スマホ見てみろよ。 慧:………いや、来てないよ。 陽太:嘘つけ!ほら…オレの画面では送れてるだろ!? 慧:こっちには来てないって。…ほら。 陽太:……マジかよ。 さつき:なんだろね、この部屋、回線悪いのかな? 菜緒:そうかもー。菜緒もさっき電話かけようとしけど繋がんなかったしぃ。 陽太:マジかよぉ…オレのモンスター…(泣)。 菜緒:あー、ほらほら泣かないのー。ちゃーんと買ってあるからっ! 陽太:えっ!?マジで!? 菜緒:うんっ♪ほらっ! 陽太:あぁあああぁ!神!! さつき:大袈裟(笑)。 菜緒:ケーくんに感謝しなよぉ?「多分それないと陽太騒ぐから」って、ケーくんがカゴに入れてくれたんだからー。 陽太:おっまえ…お前が神だったのか…! 慧:うざい、寄るな。別にお前の為じゃ…。 菜緒:おぉ!見事なツンデレ。 さつき:どっちかって言うと慧のはクーデレじゃない? 陽太:それを言うならツンツンマシマシのクー多めじゃね? 慧:そうか、モンスター要らなかったか。じゃあ返してくるからソレ寄越せ。 陽太:だぁーっ!ウソウソ!冗談だって! 0:後ろで騒ぐ陽太と慧 菜緒:男の子は元気ですなぁ(笑)。はいっ、さっちゃんのレモンティー。 さつき:ありがと。あ、お金…。 菜緒:だぁーいじょーぶっ。この間ランチ奢ってくれたじゃん♪ さつき:いや、あれは…ふっ(笑)、まぁいっか。ありがと。 陽太:なぁなぁ!お前ら「百物語」って知ってる? さつき:「百物語」…?何それ。 菜緒:菜緒知ってるー!順番に怖い話して、百個話し終えた後にロウソクを消したら、本物のお化けが出るっていう都市伝説だよねっ? 陽太:え…?そうなの? さつき:は?…そうなの?って…知ってて聞いたんじゃないの? 陽太:いや、オレじゃなくて慧が…。 慧:(溜息)……僕はただ、「そんなに眠いなら百物語でもしてみる?」って言っただけ。 さつき:怖い話で眠気覚まし? 慧:そう。 菜緒:えー、でも四人で百個もできるー? 慧:別に百話きっちり話さなくてもいいよ。時間潰しが目的だし。 陽太:そうだよ!万が一百個話して本物出てきたらどーすんだよっ!? 慧:(呆れ)………。 さつき:(呆れ)陽太……。 菜緒:ふふふっ、可愛いね、よーたん♪ 陽太:んなっ!?なんだよっ!!!ばっ、やめろっ!突っつくな!!! 慧:…本物が出るかどうかは置いといて。 陽太:置くな!! 慧:まだ予定の時間まで三時間ちょいあるし、やってみてもいいんじゃない? さつき:でも…あたしが話せる怖い話なんて、せいぜい一つくらいしか無いよ…? 菜緒:菜緒結構知ってるよっ。菜緒がさっちゃんの分も話してあげるっ。 陽太:でもさ、ロウソクは?この部屋にそんなもん置いて無くね? 菜緒:あるよっ! 陽太:えっ!?あんの!? 菜緒:うんっ!…ほらっ。 さつき:…スマホ? 菜緒:違う違う、画面見て! 陽太:…?これ、アプリか? 菜緒:そうっ!ライトの機能で「ロウソクの明かり」っていうのがあるのっ。 慧:なるほど…。コレいいね、菜緒やるじゃん。 菜緒:えへへ♪ さつき:あ、あたしのにも入ってた。 陽太:おわっ、オレのにも。マジか…こんな機能初めて使ったわ。 慧:これでロウソクは揃ったね。 菜緒:うんうんっ! 慧:…あのさ、折角だから「スクエア」も混ぜてみない? 陽太:「スクエア」? さつき:菜緒知ってる? 菜緒:ううん、知らない。ケーくん、「スクエア」ってなぁに? 慧:昔、雪山で登山してた四人が山小屋で一夜を過ごすことになった時、それぞれ部屋の四隅に分かれて、その内の三人が仮眠を取り定時になったら右隣の隅の人を起こし、そうやって順番で見張り番をする事で凍死で全滅するのを免れたって言う話があるんだ。 さつき:…つまり? 慧:僕達も部屋の四隅に分かれて一人ずつ怖い話をして、話し終わったら次の人の所へ行って肩を叩くって言うのはどうかなって。 菜緒:それいいねーっ! 菜緒:あっ!じゃあ、話す人以外はスマホのライト消して、話す時だけこのロウソクをつけよーよっ! 陽太:えっ!?それってもしかして…。 さつき:もしかして、…何? 陽太:…部屋の電気も…消すってこと…? 菜緒:もちろんっ♪ 陽太:げえええっ!?嘘だろー!? さつき:暗いの苦手なの? 陽太:ちがっ…くはないけど…。いや、オレ、昨日「ひとりかくれんぼ」の動画見たばっかなんだよぉぉぉ…(泣)。 慧:バカだなぁ、怖がりの癖に…。 陽太:さっきからなんか妙な視線感じるしさぁ…。 さつき:トイレの小窓が怖いんだって(笑)。 慧:陽太、ここ、八階だよ?八階の小窓に上ってこれるのなんて…。 陽太:うわぁああやめろよっ!!だから怖いんだろおおお!? 慧:(呆れ)…はぁ。 菜緒:もー、よーたんってば怖がりさんなんだからぁ。じゃあ、はいっ、コレ。 陽太:う…何だよ、コレ。 菜緒:クマのぬいぐるみだよっ。怖がりよーたんには特別に、このぬいぐるみを貸してあげる。 さつき:いや、「貸す」って…それ、ここの置物でしょ?そもそも菜緒の私物じゃないじゃん。 菜緒:よーたんにはこの可愛い可愛いクマちゃんがついてるからねー♪ 陽太:………うぅ。 慧:照明のリモコンは…っと、…あったあった。じゃあ、準備できたら電気消すよ? さつき:うん、おっけー。 菜緒:菜緒もいいよー。 陽太:………よりによって…クマ…。 慧:陽太は…最初から部屋の隅だし、そのままでいっか。…よし、消すよ? さつき:あ!待って。最初は誰からいく? 慧:あー、そうだね…。 菜緒:はいっ、はーい!菜緒から行くー! 慧:オッケー。じゃあ、消すよ。 0:電気が消える 陽太:(小声で)…昨日の動画で使ってたのも、「クマのぬいぐるみ」だったんだよぉぉ…(泣)。 さつき:ぷっ、どんまい。 0:菜緒がスマホのロウソクを点ける 菜緒:じゃあ、いくね♪ 菜緒:これは、菜緒が元カレと同棲してた時のお話。 陽太:しょっぱから実体験かよぉぉ…。 慧:陽太うるさい。 陽太:………。 菜緒:八月のある夜、彼氏と一緒に寝てたら…夜中にね、急に目が覚めたの。お部屋がすごく寒くて、クーラーつけっぱなしで寝てたから冷えすぎたのかなって思ったんだけど、何だか様子がおかしくて。 さつき:おかしい? 菜緒:うん。エアコンって大体窓際にあるでしょ?だから体の向き的に、枕元から風が来るはずなんだけど。 さつき:…うん。 菜緒:その時はなぜか、足元から冷たーい空気が流れてきてた。その足元って言うのが丁度、玄関に続くドアの方で…。 さつき:え…。 菜緒:しかも、そのドアの向こうに何かが居る気配がして…。 陽太:(小声)…マジかよ……。 菜緒:怖くなって彼氏を起こそうとしたんだけど、身体が動かなくて、声も出せなくなってた。 慧:…金縛り、だね。 菜緒:うん。ドアノブがガチャガチャ激しく動いて、まるで「ソレ」がどうにかしてこっちのお部屋に入ってこようとしてるみたいだった。 陽太:ひぃいいい…。 菜緒:しばらくガチャガチャが続いて、菜緒が必死にドアに向かって「来るな!来るな!」って念じてたら…。 陽太:ナムアミダブツ、ナムアミダブツ、ナムアミダブツ…。 菜緒:気がつくといつの間にか音が止んで、ドアの向こうの気配も無くなってた。 菜緒:足元の冷たい空気も気づいたら消えてて、一瞬ホッとしたんだけど…。 さつき:……だけど? 菜緒:透明の衣装ダンスってあるじゃない?安い三段タイプの。 さつき:…うん? 慧:あぁ、わかるかも。プラスチックのクリアケースを重ねたみたいなヤツ? 菜緒:そー!それっ。その一番下がね、一段全部白かったの。 さつき:…?どういう事…? 菜緒:色んな色の服が入ってるから、本当なら白一色なんて有り得ないでしょ? 慧:確かに…、元々そこに白い服だけを仕舞ってたなら有り得るけど。 菜緒:ううん、ピンクとか黒とかカーキとか、色々入れてた。だからおかしいなって感じて、良ぉーく見てみたの。そしたら…。 陽太:(小声)うぅぅ…聞きたくねぇっ。 菜緒:それが…横向きの、膝を抱えてる白い服を着た女の人だって気がついたの。 さつき:(同時に)!!! 陽太:(同時に)!!! 菜緒:衣装ケースの中にみっちりと収まって、じぃーっとこっちを見てる黒髪の女…。目が合った瞬間また金縛りがきて、強い耳鳴りがし始めた。 菜緒:と、その時。急に彼氏が(大声で)「うわぁっ!!!」 陽太:うわぁああああ!!!! さつき:(被せて)きゃっ!!!!……び、っくりしたぁぁ…。 菜緒:って言って飛び起きたの。その瞬間に菜緒の金縛りも消えたから急いで電気つけたら、衣装ダンスの下の段…いつも通りに戻ってた。 慧:……結局、夢オチ? 菜緒:うーん…。菜緒も、もしかしたら夢でも見てたのかなーって思ったんだけど。 菜緒:…でも、その時彼氏がね「マジで怖かったー、いきなり金縛り来たと思ったら、そこのタンスの一番下に白い服着た女が入ってて、こっちみてニタニタ笑ってた」って言ったの…。 陽太:ひぃいいいっ!! さつき:…うー…こっわ…。あたし今超絶鳥肌やばい。 慧:ははっ、意外と菜緒、こういう話し方うまいよね。 陽太:ああぁぁ…オレ、マジ無理マジ無理マジ無理…。 さつき:もーっ!どっちかって言うと陽太の叫び声にびっくりしたよ!! 菜緒:そんなに怖かったぁー?えへへ、やったぁー♪ さつき:くそぅ…なんか悔しい。 陽太:…あのさ…その、元カレとは…どうなった? 菜緒:んー、そのあと二年くらい続いたんだけど、色々あって別れちゃった。 陽太:…その彼氏、死んでたりしないよな? 菜緒:えー?どうだろ?多分、生きてるんじゃない?もう半年くらい連絡とってないからわかんないや♪ さつき:何……なんでそんな事聞くの? 陽太:いや…だって、呪いとかで死んでたらさぁ…話聞いたオレらも危ないかもしんないだろぉ? 慧:当の本人がこうして元気にしてるんだから大丈夫でしょ。 菜緒:んにゃ? 陽太:(菜緒を見て)まぁ…そっか。 さつき:ほんと、ビビりすぎ(笑)。 陽太:いや、今のはマジで怖いってぇ。怖すぎてオレ心臓いてぇもん(泣)。 慧:確かに、今の話は僕も少しゾッとした。 陽太:はぁぁああああ…。ちょっとモンスター飲んで落ち着くわ。 陽太:(モンスターを開けて飲む)っぷっはぁああ!!うめぇええ。 菜緒:よしっ!じゃあ、次、さっちゃんねー。 さつき:あぁ、あたしの番か。 菜緒:はい、ターッチ♪ さつき:おっけぇ…じゃあ、アプリ起動して…っと。 菜緒:(さつきに腕を絡めてニコニコしている)ふふふ♪ さつき:ん?あれ、戻らないの? 菜緒:戻んないよー♪ 陽太:あー、そーゆー仕組み?…じゃあ、次オレが話すとき、さつきがそばに居るって事? 慧:そうだね、そうなるかな。 陽太:よっしゃああああ!!さつき!さっさと話してこっちに来てくれ! さつき:は、はぁ?何よそれ…。 菜緒:えぇーっ!やぁだぁ!さっちゃん、ゆっくりながぁーく喋ってね? さつき:菜緒まで…何言ってんの(笑)。それじゃあ、話、始めるよ? 慧:うん、いつでもどうぞ。 菜緒:ワクワク♪ 陽太:(小声で)頼むーっ、頼むーっ!短くて怖くないやつでっ!! 慧:陽太うるさい。 陽太:………。 0:不意に床に置いていたぬいぐるみが陽太の手に当たる 陽太:ひっ!…びっくりした…人形かよ。 陽太:ちっ、気持ちわりぃな…こんなものっ!!(ぬいぐるみをさっきまで菜緒が居た方の隅へと投げる) さつき:…えっと、あれは去年の冬頃。学科の課題で病院の夜勤実習してた時の話。 陽太:……夜の病院…お決まりのヤツじゃねぇか…(絶望)。 慧:(ドスを効かせて)陽太。 陽太:………。 さつき:夜十一時を回った頃、寺島さんって看護師さんと、助手さんとあたしの三人で患者さんのオムツ交換に廻ってた。 さつき:あたしと寺島さんは西側から、助手さんは一人で東側から、二手に分かれてやってたんだけど。 さつき:半分くらい終わって廊下に出たとき、西側の奥に人影が見えて咄嗟に振り返ったら、小柄な人が壁際からこっちを覗いてたんだよね。 菜緒:えー、やだぁ…。 さつき:その病院は、寝たきりの患者さんばかりで歩ける人なんて居なかったし、服装も暗くてはっきりとは見えなかったんだけど、何となく助手さんの服装っぽくって。 さつき:早く終わった助手さんが、こっちの様子を見に来てくれたのかなーなんて思って会釈したんだけど、何も反応なくって、ずーっとこっちを見てるだけだったの。 さつき:なんか気味悪くなっちゃって、さっさと次の部屋に入ったんだけど。 さつき:しばらくしたらその助手さんも合流してきて、何も無かったかのように黙々とオムツ替えしてて。 さつき:そのままスルーするのも気持ち悪かったから、ナースステーションに戻った時にそれとなく聞いてみたの。「さっき、西階段の所で何してたんですかー?」って。 さつき:そしたら…彼女、知らないって。ずっとオムツ交換してたから西側になんて行かないわって不思議そうに言われて…。 菜緒:ゆ、ゆーれー? 陽太:おいっ!やめろ! さつき:怖くなって慌てて状況を説明したら、寺島さんが「もしかしたら上の階の助手さんが用事があって降りてきたのかも」って他の階に確認してくれたんだけど、結局誰もその時間には降りてきてなかった。 陽太:夜の病院はマジでやばいって…(泣)。 菜緒:病院は菜緒も無理ぃ…(泣)。 慧:(考え込む)………。 さつき:そしたら、助手さんが…「そう言えば、前にここで働いてた立花さんの命日、そろそろじゃなかった?」って言いだして。 陽太:うわぁ…やめろよぉ、そーゆう事言うのぉ…。 さつき:「もしかしたら、お手伝いに来てくれたのかもねー」なんて。二人にとっては顔見知りだとしてもあたしにとってはそうじゃないし、このままあと八時間もなんてとてもじゃないけど耐えられなかった。 さつき:だから、その後はずっと寺島さんについて回って、絶対に一人にならないようにして、やーっと五時になった時に…ね。助手さんが、「あれ?寺島さんさっき、誰かと手、繋いでなかった?」って。 陽太:ひぃぃぃ…。 さつき:言葉通り、寺島さんのそばにはずっとあたしがくっ付いてたし、手を握ったりもしてなくて。ただ、一度ナースコールが鳴って病室に行ったときに、寺島さんに「あれ?今、手触った?」って聞かれたのが気になって、寺島さんの手を見せてもらったら…。 菜緒:うぅ…。 さつき:寺島さんの左手に、すすっぽい汚れが薄っすら付いてたの。しかも、丁度手を繋いだ跡に見えるような形に。 陽太:おいおいおい、ガチのやつじゃねぇかよぉお…。 慧:……お祓いは?行った? さつき:その場にあった塩を掛け合ったんだけど…。二人がその後どうしたかはわかんない。 慧:そっか…さつきは? さつき:…行ってない。 慧:………。 陽太:おいっ!そこで黙るなよっ! 菜緒:そ、そうだよぉ…。 慧:あぁ、ごめん。…さつき、取りあえず早いうちにお祓い行った方がいいと思う。 さつき:……うん、わかった。 慧:知り合いに伝手(つて)あるから、紹介するよ。多分、お金もかからないと思うし。 さつき:ありがと…。 陽太:おい、さつき!心配すんな!いざとなったらオレが泊まりに行ってやっから! さつき:っ、はぁあっ!? 菜緒:やぁーだぁー、よーたんのエッチぃ♪ 陽太:ばっ!!ちげぇよ!そ、そんなんじゃ…。 さつき:………。 慧:はいはい、イチャイチャはその位にして、次に進もう。 さつき:(被せて)なっ!? 陽太:い、いちゃいちゃぁあ!? 菜緒:ふふふ♪ 慧:次は…陽太か。 菜緒:よーたんってば、ちゃんと怖いお話できるのぉー? 陽太:うっせ!出来るわっ! 陽太:さつきっ!早く来いよっ。 さつき:…うん。 陽太:……ほいっ、タッチ! さつき:…たっち。 陽太:よし、じゃあ…。 慧:陽太、ロウソク。 陽太:あ、そっか。忘れてた(笑)。 陽太:…うっし、これでおっけい。じゃあ、始めるぞ! 菜緒:怖いの頼むぞー! 陽太:任せろっ。これは、私が中学生の頃に実際にあった話です。 さつき:何、その話し方。 陽太:何だよ、こっちのが「ふいんき」でるだろー? さつき:ばーか、「ふんいき」よ「ふ・ん・い・き」。 菜緒:よーたんのおバカー♪ 陽太:おいっ、慧!こいつらには注意しねぇのかよ!? 慧:うるさい、バカ陽太。さっさと始めろ。 陽太:ちぇっ、なんだよ…。 陽太:(咳払い)中学の修学旅行で二十階建てのホテルに貸し切りで泊まることになり、十八階の見晴らしの良い部屋をあてがわれた私は、大興奮で友人と共にホテル中の額縁の裏を見て回ったり、銅像の上に乗って記念撮影をしたりして旅行を満喫していました。 さつき:居たいた、そーゆー男子(笑)。 菜緒:ふふふ。 陽太:消灯の二十一時を過ぎた頃、部屋を抜け出し一階にあるプールでこっそり遊んでいたのですが、季節は十月。服のまま水遊びをしていた私達は流石に寒くなり部屋へ戻ろうとしたその時、私はある異変に気が付いた。 菜緒:…ごくり。 陽太:ななな、なんと…エレベーターが…。 菜緒:…え、エレベーターが…? 陽太:(大きめの声で)えれべーーたーーがぁああ!? 慧:うるさい、バカ陽太。勿体ぶってないでさっさと進めろ。 陽太:ちょ、流石にひどくね? さつき:(脇を小突いて)いいから、続き。 陽太:あ、あぁ。なんと、エレベーターが、動かないのです! 菜緒:え…故障? 陽太:その時、陽太少年はふと思い出しました。修学旅行の説明会で先生が「夜の二十一時半を過ぎたら、脱走防止のため宿泊先の全てのエレベーターが止まります」と言っていたのを…。 菜緒:あらら…。 さつき:アホすぎる…。 慧:バカな上にアホって、いっそ死んだ方がマシだな。 陽太:ひでぇっ!! 陽太:し、仕方なく私達は不気味な「ふいんき」を感じながら、十八階まで階段で上がることにしました。 陽太:体中に、まるで重たい布がまとわりついているような感覚。 さつき:まぁ…、濡れた服着てるからね…。 陽太:どこからともなく聞こえてくる、ピチャン…ピチャン…と水の滴る様な不気味な音。 慧:全身濡れてるしね、水も滴るだろうよ。 陽太:背筋を走るただならぬ悪寒。 菜緒:濡れてるもんねー、寒いよねー。 陽太:皆で励ましあいながら、一歩、一歩と、重たい足を運ぶ少年たち。その足取りは階を重ねるごとにどんどん重くなっていきました。 陽太:何度もくじけそうになりながら、その度に己を、そして友を、シッタ・アンド・ゲキレースしながら気がつけば、目の前に十六階のフロアプレートが。 菜緒:今、叱咤激励をキャッチ・アンド・リリースみたいに言った?(笑)。 さつき:(呆れ)言ったね。 慧:はぁ…アホだ。 陽太:希望の光が見えた。雲間から天使がのぞいているような気分だった。「あと少し!負けないで!ゴールはすぐそこよ」そんな声が聞えた気がした、いや!聞えていた! さつき:あたし達は何の話を聞かされてるの? 慧:さあ。 菜緒:まぁ、少なくても「怪談」ではな……あっ。 さつき:あ。 慧:…ま、まさか、ね。 陽太:そうして、やっと、やっっっとオレたちは、目的の十八階にたどり着いた!ボロボロでまともに歩くこともできず、全員四つん這いになって延々と続く廊下を獣の様に進んでいった。 さつき:喋り方普通になってるし…。 陽太:長かったワインディング・ロード…。 慧:いや、ホテルの廊下が曲がりくねってるわけないだろ。 陽太:部屋の前にたどり着いたとき、0時を知らせる時計の音が鳴り響いた。皆で涙を流して称えあった。オレたちは、最高のシンデレラ・ボーイだと! 菜緒:これ多分、意味もなくそれっぽい英語使ってるだけだよね(笑)。 慧:だね、間違いなく。 陽太:…だけどその時、私は恐ろしい事に気づいてしまったのです…。 菜緒:あ、話し方戻ったぁ。 陽太:正に背筋が凍るとは、あの時の事を言うのでしょう。尋常じゃなく震える私の異常な様子に、友の間にも動揺が走りました。みるみる内に青ざめていく私の顔色。 さつき:あれ…?なんか怖い話っぽくなってきた…? 菜緒:うんうん…。 慧:………ははっ、どーだか。 陽太:わなわなと震える口で、私はその場に居る友に、こう告げました。 さつき:(同時に)………。 菜緒:(同時に)………。 陽太:「プールにルームキーを忘れてきた」と。 慧:…ふっ、やっぱりね。 さつき:……え? 菜緒:うっわぁ、それツラぁーい。 陽太:これが、本当の「怪談」ならぬ「階段」…なんちゃって☆ さつき:…こいつ首絞めていい? 慧:許可する。 陽太:おいいいいいっ!!やめろ! 慧:あーあ、折角の怖い雰囲気がバカでアホなシンデレラ・ボーイのせいで台無しだよ。 陽太:なんでっ!?滅茶苦茶怖いだろ!?頑張って十八階まで登ったのに、また一階に鍵取りに戻んなきゃなんねーんだぜ!? 菜緒:うーん、その「怖い」はちょぉーっと意味が違うかなぁ。 陽太:えー、なんでだよー、とっておきの話だったのにー。 さつき:はいはい、怖かった怖かった。じゃ、次。慧の番。 陽太:おいっ!!さつきまでオレの扱い雑になってる!! 菜緒:はいはい、次に行きますよぉー。 陽太:菜緒までーーー!!くっそーー! 慧:はい、ご苦労さん。 陽太:こうなったらモンスター自棄(やけ)飲みしてやるっ。(モンスターを飲み干す) 慧:…よし、と…。じゃあ、次は僕の番ね。 さつき:やば…慧の話、めちゃくちゃ怖そう…。 菜緒:わかるぅ…。今更だけど、一人で隅っこ居るの怖いよぉ…。 陽太:へへっ、二人とも、俺らだけわりぃな。 慧:…おい。くっ付くな、死んでるボーイ。 陽太:ちょ、何だよそれ! 慧:お前が自分で言ったんだろ。 陽太:「死んでる」とは言ってねーよっ! さつき:陽太うるさい。 陽太:…何でオレだけ(泣)。 慧:…さっき、さつきにお祓いの「伝手がある」って言ったでしょ? さつき:あ…うん。 慧:実は、僕の祖父、お寺の住職なんだ。 さつき:そうなんだ!あ、だから「伝手」。 慧:そ。 菜緒:すっごぉーい!じゃあ、おじいちゃん家がお寺なんだぁー! 陽太:今度は寺かよ…。(小声で)やべ…小便してぇ…。 0:こっそりトイレに行く陽太 慧:…うちの祖父、その手の界隈じゃ結構名の通った人で、寺にも良く曰くつきのものが持ち込まれるんだ。 さつき:それって…呪いの人形とか? 慧:うん。他にも色々。持ち主の血を啜る日本刀とか、捨てても捨てても戻ってくる鏡とか、中には冗談抜きでやばいものとかも。 菜緒:ケーくんも見たことある!? 慧:ごく一部の比較的無害なものだけね。本当にすごいモノはその場に居合わせただけで気に当てられて、僕達みたいな一般人はすぐに正気をなくしてしまうから。 さつき:こわ…。 慧:その中で、祖父も手こずったって言うのが、四国から持ち込まれた銀色の多面体。 さつき:多面体…って。つまり、八面体とか十二面体とかの、複数の平面に囲まれた立体の事…? 慧:そう。でも、その多面体は、いくつ面があるかわからないんだ。 菜緒:え…?わからないって、なんで?そんなの、数えてみれば…。 慧:「数えられない」んだ。 さつき:…ん?数えられないって…。 慧:言葉の通りさ。「数えられない」んだよ。…正確には、数えている内に、「おかしく」なってしまう。 さつき:(同時に)………。 菜緒:(同時に)………。 慧:数えるためには見ないといけないだろ。そして、触れないといけない。でも、その銀色の多面体を見つめ続けていると、数分もしない内に気がふれてしまうそうなんだ。 慧:ある人は、ソレを見つめたまま「動かなく」なってしまった。 さつき:…動かなく、って…。 慧:電池切れのロボットみたいに本当に「動かなく」なったんだ。体の機能が全部…勿論、心臓も。 さつき:っ! 慧:そしてまたある人は、見つめ続けた数秒後、涎を垂らして狂ったように笑い始めた。……その後、とある大きな精神科の専門病院に運ばれたらしい。 菜緒:…ひどい。 慧:………。 さつき:…お、おじいさんは!? 菜緒:さっちゃん…? さつき:慧のおじいさんは大丈夫だったの…? 慧:…うん。祖父は…ね。 さつき:え…「祖父は」ってことは…。 慧:…寺の修行僧が二人と…副住職が…。 菜緒:えぇっ!? 慧:……ん、陽太?すごく震えてるけど…大丈夫? 陽太:【★】……あ、あァ…。 さつき:もー、怖がりなんだから…。そんなに怖いなら耳ふさいどけば? 菜緒:うんうん、クマちゃんだっこしてケーくんにくっついてればいいよっ。 慧:いや、菜緒。それはやめて欲しい。 菜緒:ふふふ、今だけ今だけ。ね? 慧:………。 陽太:【★】…オレは…大丈夫、だ、カラ…。 慧:……わかった。 慧:それで、話の続きだけど。寺にそれが持ち込まれたとき、運んでいたのがその修行僧の二人だった。幾重にも頑丈に箱詰めされて金庫に入れてあったにも関わらず、本堂に着いた頃には修行僧の一人はブツブツと独り言を吐きながら寺の裏にある山に走り去っていった。…そのまま行方不明になって、今もまだ、見つかって…ない。 菜緒:そんな…。 慧:もう一人は、わけのわからない事を叫び散らしながら顔を搔きむしっていた。…あえて詳しい表現は避けるけど、大の男が数人がかりで止めようとしても止められない程の力だったらしくて。…最先端医療の技術を尽くしても、もう元に戻ることは…。 さつき:うわぁ…言葉が…出ないよ。 菜緒:…うん。 慧:その後、修行僧では手に負えないってことで、金庫の管理が副住職に任されたんだけど、中を確認するときに…モロに当てられたらしく。倒れている所を発見した時には、全身の毛穴と言う毛穴から見たこともないような植物が生えていたらしい。 さつき:えぇっ!? 菜緒:植物!? 慧:幸い一命は取り留めたけど、文字通り植物人間に…なってしまった。 さつき:もしかして慧…その人達と面識、あった…? 慧:(溜息)……副住職がね。…小さい頃、良く遊んでもらってたんだ…。 さつき:………。 菜緒:…ケーくん…。 慧:…この世には、本当に危険なものが沢山ある。銀色の多面体然り、呪いの人形然り。だけど、そんな風に目に見えるモノだけじゃなく、危ないものは色んな形で僕たちの周りに紛れ込んでいるんだ。 慧:気づかない内に、驚くほど近くに居る事もある。もしかしたら、知らずにソレに触れているかもしれない。 さつき:(同時に)………。 菜緒:(同時に)………。 慧:だから、不用意に興味本位で近づくことは、自殺することと同じなんだよ。 慧:絶対に「やってはいけない事」の一つなんだ。 慧:「聞く」だけで死ぬ歌に、「知る」だけで危ない話。それに…「見る」だけで呪われる、動画。 菜緒:ちょっと…ケーくん…。あんまりよーたんを怖がらせちゃだめだよ…。 慧:…そうだね。ちょっとやりすぎたかな?大丈夫?陽太。 さつき:……陽太? 菜緒:よーたん?…耳、ふさいでるのかな? 慧:…そろそろ二時か。丁度一周したし、この辺で終りにする? 菜緒:だね!終わろ終わろっ。 慧:一応ルールに則って、僕も移動しとこうかな。 菜緒:誰も居ないのに律儀だね(笑)。 慧:ははは、一応ね。 0:誰も居ないはずの隅に、スマホの明かりに薄っすらと浮かぶ人影 慧:っ!?(小声)……何か、居る…!? 慧:(警戒しながら)…菜緒、さつき、今…どこに居る? 菜緒:え…?えっと、元々さっちゃんが居た所だよ? 慧:さつきは!? さつき:…陽太が居た所…だけど…。何?どうしたの? 慧:(人影に向かって)……よ、陽太?お前なのか…? 0:静寂 慧:(緊迫した様子で)……電気、点けるよ? 菜緒:はーいっ! 0:電気をつける慧、目の前には誰も居ない 慧:……っ。 さつき:えっ!?あれ!?陽太は!? 菜緒:っ!?よーたん!? 0:トイレから陽太の叫び声がする 陽太:うわぁああああああっ!!! さつき:(同時に)陽太!? 菜緒:(同時に)よーたん!! 0:トイレから部屋に転がり込む陽太 陽太:あぁぁあああぁぁぁっ!!! さつき:どうしたの陽太! 陽太:に、ににに、にに…… 菜緒:に、に? さつき:なに!?何があったの!? 陽太:…に、人形が!!クマの人形がトイレに…っ!! 菜緒:…クマの…。 さつき:…人形…? 0:トイレに向かう慧 さつき:(同時に)慧!! 菜緒:(同時に)ケーくんっ!危ないよ! 0:クマのぬいぐるみを持って出てくる慧 慧:…人形って、これ? 陽太:ひぃぃぃぃぃっ!! 菜緒:…それ、さっき菜緒がよーたんに渡した、クマのぬいぐるみ…? さつき:…え?どーゆーこと? 陽太:お、オレ…さっきモンスター一気飲みしただろ?そしたら急に小便したくなって…我慢できずに慧の話が始まってすぐ、トイレに行ったんだ…。 菜緒:(驚愕)…え? さつき:…それで? 陽太:怖いから適当に面白い動画でも見てやり過ごそうとしてたら…急に…う、上からそいつが、降って来たんだよ…。 さつき:…なーんだ。どうせぬいぐるみ抱きしめたままトイレに入っちゃって、邪魔だからって上の棚にでも置いておいたのがたまたま落ちてきたんでしょー? 陽太:違う!!オレ、スマホしか持ってなかった!!間違いない!! さつき:えー…? 陽太:大体オレ、そのクマ、向こうにやったのに… さつき:…え? 陽太:(どもりながら)き、昨日見た動画の人形に似てて、気持ちわりぃから…菜緒がさつきの所に移動した後、あっちの誰も居ない隅に向かって放り投げたんだ! さつき:…は、…え?う、嘘、でしょ?……あはは、ま、まぁーた怖がらせようとしt 陽太:(被せて)嘘じゃねぇっ!!! さつき:っ…。 陽太:(涙声で)…嘘じゃ、ねぇん…だよ…。 菜緒:…ね、ねぇ…よーたん。 陽太:…何だよ…。 菜緒:…さっき、ケーくんの話が始まってすぐトイレに行った、って…言ったよね? 陽太:…あぁ…。 菜緒:………。 さつき:…菜緒? 菜緒:…始まってすぐって…いつ? 陽太:…は?…いつって… 菜緒:いつ!?!? 陽太:なっ…ほんと、すぐだよ。…慧のじーさんが住職だどうだって…辺り…。 菜緒:(震えだす)………。 慧:…まずいな。 さつき:え?…何?…何なの…。 慧:(溜息)「やってはいけない事」って話、したろ? さつき:……? 慧:不用意に興味本位で近づいちゃいけないって。 さつき:あ…うん。…でも、それが…? 慧:僕ら一般人が、絶対にやっちゃいけない事……それは、「繋がる」事なんだ…。 さつき:…まって、本当に意味が…。 慧:「繋がる」って言うのは…つまり、危ないものと何かしらのコンタクトを取る事。視線を合わす、意識して聞く、意図的に触れる、……そして、一番最悪なのが、会話する事。 さつき:………? 菜緒:…菜緒達…さっき……喋っちゃった…。 さつき:…??一体何の事? 慧:…陽太は、僕の話が始まってすぐにトイレに籠り、出てきたのは僕の話が終わった後だった。 慧:…つまり、その間、陽太はこの部屋には「居なかった」んだよ。 さつき:…?…あっ!? 慧:…そう。僕らが、話の途中で会話した「アレ」は、陽太じゃなかったんだ。 さつき:っ!? 陽太:…な、何の話だよ…。 菜緒:(泣き出す)………っ。 慧:…最悪だ。……ちょっと祖父に電話してくる。 0:スマホを持って外に出る慧 陽太:お、おい、さつきぃ……これどーゆー事だよぉ…。 さつき:…あたし達、陽太がトイレに入ってる間……この部屋で、別の陽太と喋ってた…。 陽太:…はぁ?なんだよ、それ…。 さつき:……多分、今も進行形で異常な事が起こってる……。 陽太:はぁああ?……もぉおおおっ!!勘弁しろよっ!! 陽太:何なんだよ、一体よぉっ!! 陽太:割の良いバイトあるからって来ただけなのに!……なんでっ…こんな、わけわかんねぇ事に…(泣)。 さつき:………。 菜緒:(泣いている)………。 慧:【★】…ごめん、お待たセ。 さつき:慧!…おじいさん、何て? 慧:【★】すぐに迎え寄越すからここニ居ろって。 菜緒:…どのくらいで、着くの(泣)? 慧:【★】多分…三十分くラい。 陽太:…なぁ、マジでこの部屋に居ていいのか…? さつき:え…だって、慧のおじいさんが…。 陽太:だってさっきから変な事起きてんのこの部屋だぞ!? さつき:…っ。…だけど…。 菜緒:っ!?ねぇっ!?ぬいぐるみは!? さつき:えっ!?……さっきまで、そこの棚の上に……。 陽太:ほらぁああっ!!マジでおかしいってこの部屋ぁっ!! 菜緒:菜緒もこんなとこ居たくないっ!近くにコンビニあるからそこで待とうよ!! 慧:【★】ダメ…だヨ。 菜緒:……え?ダメ…って、なん…。 慧:【★】こコで、…待っテてッテ…そ…フガ…ガ…が…。 さつき:……慧? 0:突然ドアを激しく叩く音 慧:さつきっ!?さつき!!! さつき:(同時に)慧!? 陽太:(同時に)!!! 菜緒:(同時に)っ!! さつき:…なんで、外から慧の声が…。 慧:陽太!!!菜緒っ!!どうしたの!?なんで鍵掛かってんの!? さつき:う…う、そ……。…だ、だって…。 陽太:こいつ……ニセモンだ…。 慧:【★】い、いぃぃいい、居テ…居テよ……コこに…居…てテててッテ………居ロ。 菜緒:(同時に)いやぁぁぁーっ! さつき:(同時に)慧ーーっ!!助けて!慧ーーー!! 慧:さつき!?さつきー!!くっそ…開かないっ! 陽太:うっ…うううっ…。 慧:……ちっ!陽太っ!!お前男だろ!!!二人を守れ!! 陽太:………くっ、っっっそがぁあああ!! 0:立ち上がって偽の慧に殴りかかる陽太 0:突然消える照明 さつき:っ!!! 菜緒:いやぁっ!!真っ暗!!! さつき:菜緒!!菜緒ーー! 菜緒:(泣きながら)さっちゃん!! 0:抱き合う二人 陽太:(苦しむ)ぐっ……うっ、うあ……っ! さつき:陽太!! 陽太:……に…げ、ろ……。 さつき:で、でも…。 慧:さつき!!菜緒ー!……っくそ…陽太、頑張れ!! 陽太:…いい…から…っ!……はや……く……。 さつき:…っ!菜緒、立って! 菜緒:うっ…うぅっ…。 さつき:いちにのさんで玄関に向かって走るよ! 菜緒:…っ。 さつき:いち…。 陽太:ぐぅっ……うっ…。 さつき:にの…。 慧:【★】居ロ居ロ居ロ居ロ居ロ…。 さつき:さんっ!! 菜緒:(同時に)うあぁああああっ!! さつき:(同時に)うああああっ!! 0:勢いよく開くドア、二人と入れ替わりで中に入る慧 慧:これでもっ、くらええええっ!!!! 0:部屋に向かって白い八面体を投げる慧 陽太:(同時に)うっ、うわぁああああっっ!!! 慧:【★】(同時に)あァぁぁ阿ぁぁァぁぁ亜あァぁぁぁ………。 さつき:…はぁっ…はぁっ…はぁっ……っ、大丈夫?…菜緒。 菜緒:(泣き出す)うっ…うぅっ…うわぁあああんっ!!怖かったよおおお。 さつき:(泣き出す)あ、あたっ…あたしも…怖かったぁあああ。 慧:陽太!!陽太!!! 陽太:…んっ…、んんっ……。 慧:大丈夫か…? 陽太:…あ、あぁ…だいじょうぶだ…。…二人は? 慧:安心しろ、無事だ。 陽太:(溜息)…良かった…。 慧:やるじゃん、シンデレラ・ボーイ(笑)。 陽太:…へへっ、まぁな…。 さつき:陽太っ!慧!二人とも大丈夫!? 慧:あぁ、大丈夫だよ。 さつき:…よかったぁぁ。 菜緒:うわぁあああんっ!!よーたん、無事でよがっだぁああ! 陽太:うわぁっ!ちょ、菜緒!抱き着くなよ!! 菜緒:死んじゃうかと思ったんだぞおおお!! 陽太:げぇぇ!!こいつ鼻水こすりつけやがったぁああ!! さつき:(同時に)……ぷっ。あははははははっ。 慧:(同時に)……ふっ。あはははははっ。 陽太:(被せて)お、おいっ!お前ら笑ってないでこいつどうにかしろって!! 菜緒:えへへへへへへっ。 陽太:ーーーっ!!っだぁああ、もぉおおマジで何なんだよーーー! : : : 0:数日後 : 陽太:つーかさ、マジであれ何だったわけ? さつき:……あれって、あのバイト? 陽太:あぁ。そもそも「とあるマンションの一室で三時まで起きて過ごす」なんてバイト、胡散臭すぎんだろ。 さつき:まぁねー。 陽太:…バイト代、入ってた? さつき:うん…振り込まれてた…。 陽太:…いくら? さつき:…十万。陽太は? 陽太:オレも十万…。 さつき:…ほんと何だったんだろうねー。 陽太:あれ?っつうかそもそもこの話、誰が持ってきたんだ? さつき:え…慧じゃないの? 慧:僕じゃないよ。 陽太:おっ、おつかれーい。 菜緒:おっつっつー♪お待たせしてごめんねぇ。 さつき:大丈夫大丈夫、そんな待ってないよ。 菜緒:さっちゃんの隣、とーっぴ♪えへへー。 さつき:ちょっとー、危ないでしょー?こぼれたらどーすんのよー。 菜緒:だぁーいじょぉーぶっ!そしたらよーたんが綺麗に舐めるからっ。 陽太:はぁっ!ばっ、バカ言ってんじゃっ!! 慧:陽太うるさい。 陽太:おっま……、はぁ。 菜緒:およ?よーたんが言い返さないなんて珍しっ。 陽太:うっせ。疲れてんだよ…。 さつき:…ふふっ。あ、んで、話し戻すけど…。 慧:「誰があのバイトの話を持ってきたか」? 陽太:そうそう!オレはてっきり菜緒だと…。 菜緒:えー!?違うよぉ!菜緒はさっちゃんから聞いたと思ってたもん! さつき:いやいやいや、あたしじゃないよ。 陽太:……っ!?いや、オレじゃねぇよ! 慧:…多分、考えても無駄じゃないかな。 菜緒:えーっ、どぉして? 慧:「不思議」だからさ。 陽太:出たよっ、お前はすーぐそうやってミステリアスアピールすんだから。 慧:アホでバカなシンデレラ・ボーイには言われたくないね。 陽太:はんっ! さつき:アホだなぁ…。 菜緒:アホだねぇ…。 陽太:おぉいっ!お前らまで!! さつき:(同時に)あはははっ。 菜緒:(同時に)んふふふふっ。 陽太:…ったくよー…。 さつき:あ、そう言えば…。 菜緒:んー? さつき:あの時、慧が投げたのって…。 慧:あー…白い八面体のやつ? さつき:え、白? 陽太:いや、床に落ちてたやつは黒だったよな。 さつき:うん。 慧:恐らく、投げた後に色が変わったんだよ。 慧:あれは、この間話した副住職に昔貰ったお守り。「身代わり石」って言うんだ。 菜緒:身代わり…石。 慧:うん。 さつき:じゃぁ…あれが身代わりになって…。 慧:…多分ね。 さつき:そっかぁ…副住職さんに感謝だね。 陽太:ん…だな。 菜緒:【★】助けテくれてありがとーございマす、副住職サん…。 慧:……っ!! 慧:(訝し気に)……菜緒? : : : 0:3秒位間をあけて : さつき:怖い動画や心霊スポット、様々な危ない現象に面白半分で接触していませんか? さつき:もしかしたら、あなたも知らない内に「自殺」しようとしているかもしれませんよ? 菜緒:安全圏で感じるスリルや恐怖感って、暖房の効いた部屋で冷たーいアイス食べるみたいで、たまりませんよねぇ? 菜緒:…だけどそれって、本当に「安全」ですかぁ? 慧:不用意に藪をつつけば、毒蛇に噛まれる。知識の無い人が無闇に手を出せば、火傷どころじゃすまなくなる。 慧:そんな覚悟があなたにはある? 陽太:充分注意するこった。今もお前のすぐ隣に、冗談抜きで危ない奴が潜んでるかもしんねーぞ。 陽太:……ほーら、そこだよ、そこ…。 0:皆で不敵に笑う さつき:(同時に)ふふふふふふふふ。 菜緒:(同時に)フフふふフフふフ。。 慧:(同時に)ふフふふふふフフ。 陽太:(同時に)ふふフフふふフふ。

: 0:※セリフ頭の【★】はキャラのフリをしている悪霊として演じ分けが必要なセリフです。 : 0:トイレから出てきた陽太と、殺風景な部屋でスマホをいじっているさつき : 陽太:あれ…?菜緒と慧は? さつき:コンビニー。 陽太:マジか。…出て結構経つ? さつき:多分…二十分くらいかな。 陽太:お!じゃあ…。「ついでにオレの、モンスターも、た、の、む」…と。 さつき:…好きだねぇ(笑)。 陽太:あ?何が? さつき:エナドリ。 陽太:いや、だってあと四時間起きてなきゃいけねーんだろー?モンスター飲まねぇとぜってぇ無理だって。 さつき:ふぅん。 陽太:…っつーかさ、ここのトイレマジ恐くね? さつき:え?そう?なんで? 陽太:いや、後ろにちっせぇ窓あんじゃん? 陽太:なぁーんか見られてるような気がしてさー。落ち着かねーんだよ…。 さつき:その割には、三十分以上籠ってたけど? 陽太:え?オレそんな籠ってた?体感十分くらいだったんだけど。 さつき:だって菜緒達が出てったの気づいてなかったじゃん。 陽太:あ、そっか…。 0:ドアが開く 菜緒:(同時に)たっだいまー! 慧:(同時に)ただいま。 さつき:あ!おかえりー。 菜緒:あー、やぁーっと出てきたー!…すっきりしたー? 陽太:…うっせぇな。女子が下品な事言うな…って、んな事よりオレのモンスターは? 菜緒:えっ? 陽太:慧にLINEしたんだけど。 慧:は?来てないけど? 陽太:はぁ?いや、送ったって!5分くらい前に。スマホ見てみろよ。 慧:………いや、来てないよ。 陽太:嘘つけ!ほら…オレの画面では送れてるだろ!? 慧:こっちには来てないって。…ほら。 陽太:……マジかよ。 さつき:なんだろね、この部屋、回線悪いのかな? 菜緒:そうかもー。菜緒もさっき電話かけようとしけど繋がんなかったしぃ。 陽太:マジかよぉ…オレのモンスター…(泣)。 菜緒:あー、ほらほら泣かないのー。ちゃーんと買ってあるからっ! 陽太:えっ!?マジで!? 菜緒:うんっ♪ほらっ! 陽太:あぁあああぁ!神!! さつき:大袈裟(笑)。 菜緒:ケーくんに感謝しなよぉ?「多分それないと陽太騒ぐから」って、ケーくんがカゴに入れてくれたんだからー。 陽太:おっまえ…お前が神だったのか…! 慧:うざい、寄るな。別にお前の為じゃ…。 菜緒:おぉ!見事なツンデレ。 さつき:どっちかって言うと慧のはクーデレじゃない? 陽太:それを言うならツンツンマシマシのクー多めじゃね? 慧:そうか、モンスター要らなかったか。じゃあ返してくるからソレ寄越せ。 陽太:だぁーっ!ウソウソ!冗談だって! 0:後ろで騒ぐ陽太と慧 菜緒:男の子は元気ですなぁ(笑)。はいっ、さっちゃんのレモンティー。 さつき:ありがと。あ、お金…。 菜緒:だぁーいじょーぶっ。この間ランチ奢ってくれたじゃん♪ さつき:いや、あれは…ふっ(笑)、まぁいっか。ありがと。 陽太:なぁなぁ!お前ら「百物語」って知ってる? さつき:「百物語」…?何それ。 菜緒:菜緒知ってるー!順番に怖い話して、百個話し終えた後にロウソクを消したら、本物のお化けが出るっていう都市伝説だよねっ? 陽太:え…?そうなの? さつき:は?…そうなの?って…知ってて聞いたんじゃないの? 陽太:いや、オレじゃなくて慧が…。 慧:(溜息)……僕はただ、「そんなに眠いなら百物語でもしてみる?」って言っただけ。 さつき:怖い話で眠気覚まし? 慧:そう。 菜緒:えー、でも四人で百個もできるー? 慧:別に百話きっちり話さなくてもいいよ。時間潰しが目的だし。 陽太:そうだよ!万が一百個話して本物出てきたらどーすんだよっ!? 慧:(呆れ)………。 さつき:(呆れ)陽太……。 菜緒:ふふふっ、可愛いね、よーたん♪ 陽太:んなっ!?なんだよっ!!!ばっ、やめろっ!突っつくな!!! 慧:…本物が出るかどうかは置いといて。 陽太:置くな!! 慧:まだ予定の時間まで三時間ちょいあるし、やってみてもいいんじゃない? さつき:でも…あたしが話せる怖い話なんて、せいぜい一つくらいしか無いよ…? 菜緒:菜緒結構知ってるよっ。菜緒がさっちゃんの分も話してあげるっ。 陽太:でもさ、ロウソクは?この部屋にそんなもん置いて無くね? 菜緒:あるよっ! 陽太:えっ!?あんの!? 菜緒:うんっ!…ほらっ。 さつき:…スマホ? 菜緒:違う違う、画面見て! 陽太:…?これ、アプリか? 菜緒:そうっ!ライトの機能で「ロウソクの明かり」っていうのがあるのっ。 慧:なるほど…。コレいいね、菜緒やるじゃん。 菜緒:えへへ♪ さつき:あ、あたしのにも入ってた。 陽太:おわっ、オレのにも。マジか…こんな機能初めて使ったわ。 慧:これでロウソクは揃ったね。 菜緒:うんうんっ! 慧:…あのさ、折角だから「スクエア」も混ぜてみない? 陽太:「スクエア」? さつき:菜緒知ってる? 菜緒:ううん、知らない。ケーくん、「スクエア」ってなぁに? 慧:昔、雪山で登山してた四人が山小屋で一夜を過ごすことになった時、それぞれ部屋の四隅に分かれて、その内の三人が仮眠を取り定時になったら右隣の隅の人を起こし、そうやって順番で見張り番をする事で凍死で全滅するのを免れたって言う話があるんだ。 さつき:…つまり? 慧:僕達も部屋の四隅に分かれて一人ずつ怖い話をして、話し終わったら次の人の所へ行って肩を叩くって言うのはどうかなって。 菜緒:それいいねーっ! 菜緒:あっ!じゃあ、話す人以外はスマホのライト消して、話す時だけこのロウソクをつけよーよっ! 陽太:えっ!?それってもしかして…。 さつき:もしかして、…何? 陽太:…部屋の電気も…消すってこと…? 菜緒:もちろんっ♪ 陽太:げえええっ!?嘘だろー!? さつき:暗いの苦手なの? 陽太:ちがっ…くはないけど…。いや、オレ、昨日「ひとりかくれんぼ」の動画見たばっかなんだよぉぉぉ…(泣)。 慧:バカだなぁ、怖がりの癖に…。 陽太:さっきからなんか妙な視線感じるしさぁ…。 さつき:トイレの小窓が怖いんだって(笑)。 慧:陽太、ここ、八階だよ?八階の小窓に上ってこれるのなんて…。 陽太:うわぁああやめろよっ!!だから怖いんだろおおお!? 慧:(呆れ)…はぁ。 菜緒:もー、よーたんってば怖がりさんなんだからぁ。じゃあ、はいっ、コレ。 陽太:う…何だよ、コレ。 菜緒:クマのぬいぐるみだよっ。怖がりよーたんには特別に、このぬいぐるみを貸してあげる。 さつき:いや、「貸す」って…それ、ここの置物でしょ?そもそも菜緒の私物じゃないじゃん。 菜緒:よーたんにはこの可愛い可愛いクマちゃんがついてるからねー♪ 陽太:………うぅ。 慧:照明のリモコンは…っと、…あったあった。じゃあ、準備できたら電気消すよ? さつき:うん、おっけー。 菜緒:菜緒もいいよー。 陽太:………よりによって…クマ…。 慧:陽太は…最初から部屋の隅だし、そのままでいっか。…よし、消すよ? さつき:あ!待って。最初は誰からいく? 慧:あー、そうだね…。 菜緒:はいっ、はーい!菜緒から行くー! 慧:オッケー。じゃあ、消すよ。 0:電気が消える 陽太:(小声で)…昨日の動画で使ってたのも、「クマのぬいぐるみ」だったんだよぉぉ…(泣)。 さつき:ぷっ、どんまい。 0:菜緒がスマホのロウソクを点ける 菜緒:じゃあ、いくね♪ 菜緒:これは、菜緒が元カレと同棲してた時のお話。 陽太:しょっぱから実体験かよぉぉ…。 慧:陽太うるさい。 陽太:………。 菜緒:八月のある夜、彼氏と一緒に寝てたら…夜中にね、急に目が覚めたの。お部屋がすごく寒くて、クーラーつけっぱなしで寝てたから冷えすぎたのかなって思ったんだけど、何だか様子がおかしくて。 さつき:おかしい? 菜緒:うん。エアコンって大体窓際にあるでしょ?だから体の向き的に、枕元から風が来るはずなんだけど。 さつき:…うん。 菜緒:その時はなぜか、足元から冷たーい空気が流れてきてた。その足元って言うのが丁度、玄関に続くドアの方で…。 さつき:え…。 菜緒:しかも、そのドアの向こうに何かが居る気配がして…。 陽太:(小声)…マジかよ……。 菜緒:怖くなって彼氏を起こそうとしたんだけど、身体が動かなくて、声も出せなくなってた。 慧:…金縛り、だね。 菜緒:うん。ドアノブがガチャガチャ激しく動いて、まるで「ソレ」がどうにかしてこっちのお部屋に入ってこようとしてるみたいだった。 陽太:ひぃいいい…。 菜緒:しばらくガチャガチャが続いて、菜緒が必死にドアに向かって「来るな!来るな!」って念じてたら…。 陽太:ナムアミダブツ、ナムアミダブツ、ナムアミダブツ…。 菜緒:気がつくといつの間にか音が止んで、ドアの向こうの気配も無くなってた。 菜緒:足元の冷たい空気も気づいたら消えてて、一瞬ホッとしたんだけど…。 さつき:……だけど? 菜緒:透明の衣装ダンスってあるじゃない?安い三段タイプの。 さつき:…うん? 慧:あぁ、わかるかも。プラスチックのクリアケースを重ねたみたいなヤツ? 菜緒:そー!それっ。その一番下がね、一段全部白かったの。 さつき:…?どういう事…? 菜緒:色んな色の服が入ってるから、本当なら白一色なんて有り得ないでしょ? 慧:確かに…、元々そこに白い服だけを仕舞ってたなら有り得るけど。 菜緒:ううん、ピンクとか黒とかカーキとか、色々入れてた。だからおかしいなって感じて、良ぉーく見てみたの。そしたら…。 陽太:(小声)うぅぅ…聞きたくねぇっ。 菜緒:それが…横向きの、膝を抱えてる白い服を着た女の人だって気がついたの。 さつき:(同時に)!!! 陽太:(同時に)!!! 菜緒:衣装ケースの中にみっちりと収まって、じぃーっとこっちを見てる黒髪の女…。目が合った瞬間また金縛りがきて、強い耳鳴りがし始めた。 菜緒:と、その時。急に彼氏が(大声で)「うわぁっ!!!」 陽太:うわぁああああ!!!! さつき:(被せて)きゃっ!!!!……び、っくりしたぁぁ…。 菜緒:って言って飛び起きたの。その瞬間に菜緒の金縛りも消えたから急いで電気つけたら、衣装ダンスの下の段…いつも通りに戻ってた。 慧:……結局、夢オチ? 菜緒:うーん…。菜緒も、もしかしたら夢でも見てたのかなーって思ったんだけど。 菜緒:…でも、その時彼氏がね「マジで怖かったー、いきなり金縛り来たと思ったら、そこのタンスの一番下に白い服着た女が入ってて、こっちみてニタニタ笑ってた」って言ったの…。 陽太:ひぃいいいっ!! さつき:…うー…こっわ…。あたし今超絶鳥肌やばい。 慧:ははっ、意外と菜緒、こういう話し方うまいよね。 陽太:ああぁぁ…オレ、マジ無理マジ無理マジ無理…。 さつき:もーっ!どっちかって言うと陽太の叫び声にびっくりしたよ!! 菜緒:そんなに怖かったぁー?えへへ、やったぁー♪ さつき:くそぅ…なんか悔しい。 陽太:…あのさ…その、元カレとは…どうなった? 菜緒:んー、そのあと二年くらい続いたんだけど、色々あって別れちゃった。 陽太:…その彼氏、死んでたりしないよな? 菜緒:えー?どうだろ?多分、生きてるんじゃない?もう半年くらい連絡とってないからわかんないや♪ さつき:何……なんでそんな事聞くの? 陽太:いや…だって、呪いとかで死んでたらさぁ…話聞いたオレらも危ないかもしんないだろぉ? 慧:当の本人がこうして元気にしてるんだから大丈夫でしょ。 菜緒:んにゃ? 陽太:(菜緒を見て)まぁ…そっか。 さつき:ほんと、ビビりすぎ(笑)。 陽太:いや、今のはマジで怖いってぇ。怖すぎてオレ心臓いてぇもん(泣)。 慧:確かに、今の話は僕も少しゾッとした。 陽太:はぁぁああああ…。ちょっとモンスター飲んで落ち着くわ。 陽太:(モンスターを開けて飲む)っぷっはぁああ!!うめぇええ。 菜緒:よしっ!じゃあ、次、さっちゃんねー。 さつき:あぁ、あたしの番か。 菜緒:はい、ターッチ♪ さつき:おっけぇ…じゃあ、アプリ起動して…っと。 菜緒:(さつきに腕を絡めてニコニコしている)ふふふ♪ さつき:ん?あれ、戻らないの? 菜緒:戻んないよー♪ 陽太:あー、そーゆー仕組み?…じゃあ、次オレが話すとき、さつきがそばに居るって事? 慧:そうだね、そうなるかな。 陽太:よっしゃああああ!!さつき!さっさと話してこっちに来てくれ! さつき:は、はぁ?何よそれ…。 菜緒:えぇーっ!やぁだぁ!さっちゃん、ゆっくりながぁーく喋ってね? さつき:菜緒まで…何言ってんの(笑)。それじゃあ、話、始めるよ? 慧:うん、いつでもどうぞ。 菜緒:ワクワク♪ 陽太:(小声で)頼むーっ、頼むーっ!短くて怖くないやつでっ!! 慧:陽太うるさい。 陽太:………。 0:不意に床に置いていたぬいぐるみが陽太の手に当たる 陽太:ひっ!…びっくりした…人形かよ。 陽太:ちっ、気持ちわりぃな…こんなものっ!!(ぬいぐるみをさっきまで菜緒が居た方の隅へと投げる) さつき:…えっと、あれは去年の冬頃。学科の課題で病院の夜勤実習してた時の話。 陽太:……夜の病院…お決まりのヤツじゃねぇか…(絶望)。 慧:(ドスを効かせて)陽太。 陽太:………。 さつき:夜十一時を回った頃、寺島さんって看護師さんと、助手さんとあたしの三人で患者さんのオムツ交換に廻ってた。 さつき:あたしと寺島さんは西側から、助手さんは一人で東側から、二手に分かれてやってたんだけど。 さつき:半分くらい終わって廊下に出たとき、西側の奥に人影が見えて咄嗟に振り返ったら、小柄な人が壁際からこっちを覗いてたんだよね。 菜緒:えー、やだぁ…。 さつき:その病院は、寝たきりの患者さんばかりで歩ける人なんて居なかったし、服装も暗くてはっきりとは見えなかったんだけど、何となく助手さんの服装っぽくって。 さつき:早く終わった助手さんが、こっちの様子を見に来てくれたのかなーなんて思って会釈したんだけど、何も反応なくって、ずーっとこっちを見てるだけだったの。 さつき:なんか気味悪くなっちゃって、さっさと次の部屋に入ったんだけど。 さつき:しばらくしたらその助手さんも合流してきて、何も無かったかのように黙々とオムツ替えしてて。 さつき:そのままスルーするのも気持ち悪かったから、ナースステーションに戻った時にそれとなく聞いてみたの。「さっき、西階段の所で何してたんですかー?」って。 さつき:そしたら…彼女、知らないって。ずっとオムツ交換してたから西側になんて行かないわって不思議そうに言われて…。 菜緒:ゆ、ゆーれー? 陽太:おいっ!やめろ! さつき:怖くなって慌てて状況を説明したら、寺島さんが「もしかしたら上の階の助手さんが用事があって降りてきたのかも」って他の階に確認してくれたんだけど、結局誰もその時間には降りてきてなかった。 陽太:夜の病院はマジでやばいって…(泣)。 菜緒:病院は菜緒も無理ぃ…(泣)。 慧:(考え込む)………。 さつき:そしたら、助手さんが…「そう言えば、前にここで働いてた立花さんの命日、そろそろじゃなかった?」って言いだして。 陽太:うわぁ…やめろよぉ、そーゆう事言うのぉ…。 さつき:「もしかしたら、お手伝いに来てくれたのかもねー」なんて。二人にとっては顔見知りだとしてもあたしにとってはそうじゃないし、このままあと八時間もなんてとてもじゃないけど耐えられなかった。 さつき:だから、その後はずっと寺島さんについて回って、絶対に一人にならないようにして、やーっと五時になった時に…ね。助手さんが、「あれ?寺島さんさっき、誰かと手、繋いでなかった?」って。 陽太:ひぃぃぃ…。 さつき:言葉通り、寺島さんのそばにはずっとあたしがくっ付いてたし、手を握ったりもしてなくて。ただ、一度ナースコールが鳴って病室に行ったときに、寺島さんに「あれ?今、手触った?」って聞かれたのが気になって、寺島さんの手を見せてもらったら…。 菜緒:うぅ…。 さつき:寺島さんの左手に、すすっぽい汚れが薄っすら付いてたの。しかも、丁度手を繋いだ跡に見えるような形に。 陽太:おいおいおい、ガチのやつじゃねぇかよぉお…。 慧:……お祓いは?行った? さつき:その場にあった塩を掛け合ったんだけど…。二人がその後どうしたかはわかんない。 慧:そっか…さつきは? さつき:…行ってない。 慧:………。 陽太:おいっ!そこで黙るなよっ! 菜緒:そ、そうだよぉ…。 慧:あぁ、ごめん。…さつき、取りあえず早いうちにお祓い行った方がいいと思う。 さつき:……うん、わかった。 慧:知り合いに伝手(つて)あるから、紹介するよ。多分、お金もかからないと思うし。 さつき:ありがと…。 陽太:おい、さつき!心配すんな!いざとなったらオレが泊まりに行ってやっから! さつき:っ、はぁあっ!? 菜緒:やぁーだぁー、よーたんのエッチぃ♪ 陽太:ばっ!!ちげぇよ!そ、そんなんじゃ…。 さつき:………。 慧:はいはい、イチャイチャはその位にして、次に進もう。 さつき:(被せて)なっ!? 陽太:い、いちゃいちゃぁあ!? 菜緒:ふふふ♪ 慧:次は…陽太か。 菜緒:よーたんってば、ちゃんと怖いお話できるのぉー? 陽太:うっせ!出来るわっ! 陽太:さつきっ!早く来いよっ。 さつき:…うん。 陽太:……ほいっ、タッチ! さつき:…たっち。 陽太:よし、じゃあ…。 慧:陽太、ロウソク。 陽太:あ、そっか。忘れてた(笑)。 陽太:…うっし、これでおっけい。じゃあ、始めるぞ! 菜緒:怖いの頼むぞー! 陽太:任せろっ。これは、私が中学生の頃に実際にあった話です。 さつき:何、その話し方。 陽太:何だよ、こっちのが「ふいんき」でるだろー? さつき:ばーか、「ふんいき」よ「ふ・ん・い・き」。 菜緒:よーたんのおバカー♪ 陽太:おいっ、慧!こいつらには注意しねぇのかよ!? 慧:うるさい、バカ陽太。さっさと始めろ。 陽太:ちぇっ、なんだよ…。 陽太:(咳払い)中学の修学旅行で二十階建てのホテルに貸し切りで泊まることになり、十八階の見晴らしの良い部屋をあてがわれた私は、大興奮で友人と共にホテル中の額縁の裏を見て回ったり、銅像の上に乗って記念撮影をしたりして旅行を満喫していました。 さつき:居たいた、そーゆー男子(笑)。 菜緒:ふふふ。 陽太:消灯の二十一時を過ぎた頃、部屋を抜け出し一階にあるプールでこっそり遊んでいたのですが、季節は十月。服のまま水遊びをしていた私達は流石に寒くなり部屋へ戻ろうとしたその時、私はある異変に気が付いた。 菜緒:…ごくり。 陽太:ななな、なんと…エレベーターが…。 菜緒:…え、エレベーターが…? 陽太:(大きめの声で)えれべーーたーーがぁああ!? 慧:うるさい、バカ陽太。勿体ぶってないでさっさと進めろ。 陽太:ちょ、流石にひどくね? さつき:(脇を小突いて)いいから、続き。 陽太:あ、あぁ。なんと、エレベーターが、動かないのです! 菜緒:え…故障? 陽太:その時、陽太少年はふと思い出しました。修学旅行の説明会で先生が「夜の二十一時半を過ぎたら、脱走防止のため宿泊先の全てのエレベーターが止まります」と言っていたのを…。 菜緒:あらら…。 さつき:アホすぎる…。 慧:バカな上にアホって、いっそ死んだ方がマシだな。 陽太:ひでぇっ!! 陽太:し、仕方なく私達は不気味な「ふいんき」を感じながら、十八階まで階段で上がることにしました。 陽太:体中に、まるで重たい布がまとわりついているような感覚。 さつき:まぁ…、濡れた服着てるからね…。 陽太:どこからともなく聞こえてくる、ピチャン…ピチャン…と水の滴る様な不気味な音。 慧:全身濡れてるしね、水も滴るだろうよ。 陽太:背筋を走るただならぬ悪寒。 菜緒:濡れてるもんねー、寒いよねー。 陽太:皆で励ましあいながら、一歩、一歩と、重たい足を運ぶ少年たち。その足取りは階を重ねるごとにどんどん重くなっていきました。 陽太:何度もくじけそうになりながら、その度に己を、そして友を、シッタ・アンド・ゲキレースしながら気がつけば、目の前に十六階のフロアプレートが。 菜緒:今、叱咤激励をキャッチ・アンド・リリースみたいに言った?(笑)。 さつき:(呆れ)言ったね。 慧:はぁ…アホだ。 陽太:希望の光が見えた。雲間から天使がのぞいているような気分だった。「あと少し!負けないで!ゴールはすぐそこよ」そんな声が聞えた気がした、いや!聞えていた! さつき:あたし達は何の話を聞かされてるの? 慧:さあ。 菜緒:まぁ、少なくても「怪談」ではな……あっ。 さつき:あ。 慧:…ま、まさか、ね。 陽太:そうして、やっと、やっっっとオレたちは、目的の十八階にたどり着いた!ボロボロでまともに歩くこともできず、全員四つん這いになって延々と続く廊下を獣の様に進んでいった。 さつき:喋り方普通になってるし…。 陽太:長かったワインディング・ロード…。 慧:いや、ホテルの廊下が曲がりくねってるわけないだろ。 陽太:部屋の前にたどり着いたとき、0時を知らせる時計の音が鳴り響いた。皆で涙を流して称えあった。オレたちは、最高のシンデレラ・ボーイだと! 菜緒:これ多分、意味もなくそれっぽい英語使ってるだけだよね(笑)。 慧:だね、間違いなく。 陽太:…だけどその時、私は恐ろしい事に気づいてしまったのです…。 菜緒:あ、話し方戻ったぁ。 陽太:正に背筋が凍るとは、あの時の事を言うのでしょう。尋常じゃなく震える私の異常な様子に、友の間にも動揺が走りました。みるみる内に青ざめていく私の顔色。 さつき:あれ…?なんか怖い話っぽくなってきた…? 菜緒:うんうん…。 慧:………ははっ、どーだか。 陽太:わなわなと震える口で、私はその場に居る友に、こう告げました。 さつき:(同時に)………。 菜緒:(同時に)………。 陽太:「プールにルームキーを忘れてきた」と。 慧:…ふっ、やっぱりね。 さつき:……え? 菜緒:うっわぁ、それツラぁーい。 陽太:これが、本当の「怪談」ならぬ「階段」…なんちゃって☆ さつき:…こいつ首絞めていい? 慧:許可する。 陽太:おいいいいいっ!!やめろ! 慧:あーあ、折角の怖い雰囲気がバカでアホなシンデレラ・ボーイのせいで台無しだよ。 陽太:なんでっ!?滅茶苦茶怖いだろ!?頑張って十八階まで登ったのに、また一階に鍵取りに戻んなきゃなんねーんだぜ!? 菜緒:うーん、その「怖い」はちょぉーっと意味が違うかなぁ。 陽太:えー、なんでだよー、とっておきの話だったのにー。 さつき:はいはい、怖かった怖かった。じゃ、次。慧の番。 陽太:おいっ!!さつきまでオレの扱い雑になってる!! 菜緒:はいはい、次に行きますよぉー。 陽太:菜緒までーーー!!くっそーー! 慧:はい、ご苦労さん。 陽太:こうなったらモンスター自棄(やけ)飲みしてやるっ。(モンスターを飲み干す) 慧:…よし、と…。じゃあ、次は僕の番ね。 さつき:やば…慧の話、めちゃくちゃ怖そう…。 菜緒:わかるぅ…。今更だけど、一人で隅っこ居るの怖いよぉ…。 陽太:へへっ、二人とも、俺らだけわりぃな。 慧:…おい。くっ付くな、死んでるボーイ。 陽太:ちょ、何だよそれ! 慧:お前が自分で言ったんだろ。 陽太:「死んでる」とは言ってねーよっ! さつき:陽太うるさい。 陽太:…何でオレだけ(泣)。 慧:…さっき、さつきにお祓いの「伝手がある」って言ったでしょ? さつき:あ…うん。 慧:実は、僕の祖父、お寺の住職なんだ。 さつき:そうなんだ!あ、だから「伝手」。 慧:そ。 菜緒:すっごぉーい!じゃあ、おじいちゃん家がお寺なんだぁー! 陽太:今度は寺かよ…。(小声で)やべ…小便してぇ…。 0:こっそりトイレに行く陽太 慧:…うちの祖父、その手の界隈じゃ結構名の通った人で、寺にも良く曰くつきのものが持ち込まれるんだ。 さつき:それって…呪いの人形とか? 慧:うん。他にも色々。持ち主の血を啜る日本刀とか、捨てても捨てても戻ってくる鏡とか、中には冗談抜きでやばいものとかも。 菜緒:ケーくんも見たことある!? 慧:ごく一部の比較的無害なものだけね。本当にすごいモノはその場に居合わせただけで気に当てられて、僕達みたいな一般人はすぐに正気をなくしてしまうから。 さつき:こわ…。 慧:その中で、祖父も手こずったって言うのが、四国から持ち込まれた銀色の多面体。 さつき:多面体…って。つまり、八面体とか十二面体とかの、複数の平面に囲まれた立体の事…? 慧:そう。でも、その多面体は、いくつ面があるかわからないんだ。 菜緒:え…?わからないって、なんで?そんなの、数えてみれば…。 慧:「数えられない」んだ。 さつき:…ん?数えられないって…。 慧:言葉の通りさ。「数えられない」んだよ。…正確には、数えている内に、「おかしく」なってしまう。 さつき:(同時に)………。 菜緒:(同時に)………。 慧:数えるためには見ないといけないだろ。そして、触れないといけない。でも、その銀色の多面体を見つめ続けていると、数分もしない内に気がふれてしまうそうなんだ。 慧:ある人は、ソレを見つめたまま「動かなく」なってしまった。 さつき:…動かなく、って…。 慧:電池切れのロボットみたいに本当に「動かなく」なったんだ。体の機能が全部…勿論、心臓も。 さつき:っ! 慧:そしてまたある人は、見つめ続けた数秒後、涎を垂らして狂ったように笑い始めた。……その後、とある大きな精神科の専門病院に運ばれたらしい。 菜緒:…ひどい。 慧:………。 さつき:…お、おじいさんは!? 菜緒:さっちゃん…? さつき:慧のおじいさんは大丈夫だったの…? 慧:…うん。祖父は…ね。 さつき:え…「祖父は」ってことは…。 慧:…寺の修行僧が二人と…副住職が…。 菜緒:えぇっ!? 慧:……ん、陽太?すごく震えてるけど…大丈夫? 陽太:【★】……あ、あァ…。 さつき:もー、怖がりなんだから…。そんなに怖いなら耳ふさいどけば? 菜緒:うんうん、クマちゃんだっこしてケーくんにくっついてればいいよっ。 慧:いや、菜緒。それはやめて欲しい。 菜緒:ふふふ、今だけ今だけ。ね? 慧:………。 陽太:【★】…オレは…大丈夫、だ、カラ…。 慧:……わかった。 慧:それで、話の続きだけど。寺にそれが持ち込まれたとき、運んでいたのがその修行僧の二人だった。幾重にも頑丈に箱詰めされて金庫に入れてあったにも関わらず、本堂に着いた頃には修行僧の一人はブツブツと独り言を吐きながら寺の裏にある山に走り去っていった。…そのまま行方不明になって、今もまだ、見つかって…ない。 菜緒:そんな…。 慧:もう一人は、わけのわからない事を叫び散らしながら顔を搔きむしっていた。…あえて詳しい表現は避けるけど、大の男が数人がかりで止めようとしても止められない程の力だったらしくて。…最先端医療の技術を尽くしても、もう元に戻ることは…。 さつき:うわぁ…言葉が…出ないよ。 菜緒:…うん。 慧:その後、修行僧では手に負えないってことで、金庫の管理が副住職に任されたんだけど、中を確認するときに…モロに当てられたらしく。倒れている所を発見した時には、全身の毛穴と言う毛穴から見たこともないような植物が生えていたらしい。 さつき:えぇっ!? 菜緒:植物!? 慧:幸い一命は取り留めたけど、文字通り植物人間に…なってしまった。 さつき:もしかして慧…その人達と面識、あった…? 慧:(溜息)……副住職がね。…小さい頃、良く遊んでもらってたんだ…。 さつき:………。 菜緒:…ケーくん…。 慧:…この世には、本当に危険なものが沢山ある。銀色の多面体然り、呪いの人形然り。だけど、そんな風に目に見えるモノだけじゃなく、危ないものは色んな形で僕たちの周りに紛れ込んでいるんだ。 慧:気づかない内に、驚くほど近くに居る事もある。もしかしたら、知らずにソレに触れているかもしれない。 さつき:(同時に)………。 菜緒:(同時に)………。 慧:だから、不用意に興味本位で近づくことは、自殺することと同じなんだよ。 慧:絶対に「やってはいけない事」の一つなんだ。 慧:「聞く」だけで死ぬ歌に、「知る」だけで危ない話。それに…「見る」だけで呪われる、動画。 菜緒:ちょっと…ケーくん…。あんまりよーたんを怖がらせちゃだめだよ…。 慧:…そうだね。ちょっとやりすぎたかな?大丈夫?陽太。 さつき:……陽太? 菜緒:よーたん?…耳、ふさいでるのかな? 慧:…そろそろ二時か。丁度一周したし、この辺で終りにする? 菜緒:だね!終わろ終わろっ。 慧:一応ルールに則って、僕も移動しとこうかな。 菜緒:誰も居ないのに律儀だね(笑)。 慧:ははは、一応ね。 0:誰も居ないはずの隅に、スマホの明かりに薄っすらと浮かぶ人影 慧:っ!?(小声)……何か、居る…!? 慧:(警戒しながら)…菜緒、さつき、今…どこに居る? 菜緒:え…?えっと、元々さっちゃんが居た所だよ? 慧:さつきは!? さつき:…陽太が居た所…だけど…。何?どうしたの? 慧:(人影に向かって)……よ、陽太?お前なのか…? 0:静寂 慧:(緊迫した様子で)……電気、点けるよ? 菜緒:はーいっ! 0:電気をつける慧、目の前には誰も居ない 慧:……っ。 さつき:えっ!?あれ!?陽太は!? 菜緒:っ!?よーたん!? 0:トイレから陽太の叫び声がする 陽太:うわぁああああああっ!!! さつき:(同時に)陽太!? 菜緒:(同時に)よーたん!! 0:トイレから部屋に転がり込む陽太 陽太:あぁぁあああぁぁぁっ!!! さつき:どうしたの陽太! 陽太:に、ににに、にに…… 菜緒:に、に? さつき:なに!?何があったの!? 陽太:…に、人形が!!クマの人形がトイレに…っ!! 菜緒:…クマの…。 さつき:…人形…? 0:トイレに向かう慧 さつき:(同時に)慧!! 菜緒:(同時に)ケーくんっ!危ないよ! 0:クマのぬいぐるみを持って出てくる慧 慧:…人形って、これ? 陽太:ひぃぃぃぃぃっ!! 菜緒:…それ、さっき菜緒がよーたんに渡した、クマのぬいぐるみ…? さつき:…え?どーゆーこと? 陽太:お、オレ…さっきモンスター一気飲みしただろ?そしたら急に小便したくなって…我慢できずに慧の話が始まってすぐ、トイレに行ったんだ…。 菜緒:(驚愕)…え? さつき:…それで? 陽太:怖いから適当に面白い動画でも見てやり過ごそうとしてたら…急に…う、上からそいつが、降って来たんだよ…。 さつき:…なーんだ。どうせぬいぐるみ抱きしめたままトイレに入っちゃって、邪魔だからって上の棚にでも置いておいたのがたまたま落ちてきたんでしょー? 陽太:違う!!オレ、スマホしか持ってなかった!!間違いない!! さつき:えー…? 陽太:大体オレ、そのクマ、向こうにやったのに… さつき:…え? 陽太:(どもりながら)き、昨日見た動画の人形に似てて、気持ちわりぃから…菜緒がさつきの所に移動した後、あっちの誰も居ない隅に向かって放り投げたんだ! さつき:…は、…え?う、嘘、でしょ?……あはは、ま、まぁーた怖がらせようとしt 陽太:(被せて)嘘じゃねぇっ!!! さつき:っ…。 陽太:(涙声で)…嘘じゃ、ねぇん…だよ…。 菜緒:…ね、ねぇ…よーたん。 陽太:…何だよ…。 菜緒:…さっき、ケーくんの話が始まってすぐトイレに行った、って…言ったよね? 陽太:…あぁ…。 菜緒:………。 さつき:…菜緒? 菜緒:…始まってすぐって…いつ? 陽太:…は?…いつって… 菜緒:いつ!?!? 陽太:なっ…ほんと、すぐだよ。…慧のじーさんが住職だどうだって…辺り…。 菜緒:(震えだす)………。 慧:…まずいな。 さつき:え?…何?…何なの…。 慧:(溜息)「やってはいけない事」って話、したろ? さつき:……? 慧:不用意に興味本位で近づいちゃいけないって。 さつき:あ…うん。…でも、それが…? 慧:僕ら一般人が、絶対にやっちゃいけない事……それは、「繋がる」事なんだ…。 さつき:…まって、本当に意味が…。 慧:「繋がる」って言うのは…つまり、危ないものと何かしらのコンタクトを取る事。視線を合わす、意識して聞く、意図的に触れる、……そして、一番最悪なのが、会話する事。 さつき:………? 菜緒:…菜緒達…さっき……喋っちゃった…。 さつき:…??一体何の事? 慧:…陽太は、僕の話が始まってすぐにトイレに籠り、出てきたのは僕の話が終わった後だった。 慧:…つまり、その間、陽太はこの部屋には「居なかった」んだよ。 さつき:…?…あっ!? 慧:…そう。僕らが、話の途中で会話した「アレ」は、陽太じゃなかったんだ。 さつき:っ!? 陽太:…な、何の話だよ…。 菜緒:(泣き出す)………っ。 慧:…最悪だ。……ちょっと祖父に電話してくる。 0:スマホを持って外に出る慧 陽太:お、おい、さつきぃ……これどーゆー事だよぉ…。 さつき:…あたし達、陽太がトイレに入ってる間……この部屋で、別の陽太と喋ってた…。 陽太:…はぁ?なんだよ、それ…。 さつき:……多分、今も進行形で異常な事が起こってる……。 陽太:はぁああ?……もぉおおおっ!!勘弁しろよっ!! 陽太:何なんだよ、一体よぉっ!! 陽太:割の良いバイトあるからって来ただけなのに!……なんでっ…こんな、わけわかんねぇ事に…(泣)。 さつき:………。 菜緒:(泣いている)………。 慧:【★】…ごめん、お待たセ。 さつき:慧!…おじいさん、何て? 慧:【★】すぐに迎え寄越すからここニ居ろって。 菜緒:…どのくらいで、着くの(泣)? 慧:【★】多分…三十分くラい。 陽太:…なぁ、マジでこの部屋に居ていいのか…? さつき:え…だって、慧のおじいさんが…。 陽太:だってさっきから変な事起きてんのこの部屋だぞ!? さつき:…っ。…だけど…。 菜緒:っ!?ねぇっ!?ぬいぐるみは!? さつき:えっ!?……さっきまで、そこの棚の上に……。 陽太:ほらぁああっ!!マジでおかしいってこの部屋ぁっ!! 菜緒:菜緒もこんなとこ居たくないっ!近くにコンビニあるからそこで待とうよ!! 慧:【★】ダメ…だヨ。 菜緒:……え?ダメ…って、なん…。 慧:【★】こコで、…待っテてッテ…そ…フガ…ガ…が…。 さつき:……慧? 0:突然ドアを激しく叩く音 慧:さつきっ!?さつき!!! さつき:(同時に)慧!? 陽太:(同時に)!!! 菜緒:(同時に)っ!! さつき:…なんで、外から慧の声が…。 慧:陽太!!!菜緒っ!!どうしたの!?なんで鍵掛かってんの!? さつき:う…う、そ……。…だ、だって…。 陽太:こいつ……ニセモンだ…。 慧:【★】い、いぃぃいい、居テ…居テよ……コこに…居…てテててッテ………居ロ。 菜緒:(同時に)いやぁぁぁーっ! さつき:(同時に)慧ーーっ!!助けて!慧ーーー!! 慧:さつき!?さつきー!!くっそ…開かないっ! 陽太:うっ…うううっ…。 慧:……ちっ!陽太っ!!お前男だろ!!!二人を守れ!! 陽太:………くっ、っっっそがぁあああ!! 0:立ち上がって偽の慧に殴りかかる陽太 0:突然消える照明 さつき:っ!!! 菜緒:いやぁっ!!真っ暗!!! さつき:菜緒!!菜緒ーー! 菜緒:(泣きながら)さっちゃん!! 0:抱き合う二人 陽太:(苦しむ)ぐっ……うっ、うあ……っ! さつき:陽太!! 陽太:……に…げ、ろ……。 さつき:で、でも…。 慧:さつき!!菜緒ー!……っくそ…陽太、頑張れ!! 陽太:…いい…から…っ!……はや……く……。 さつき:…っ!菜緒、立って! 菜緒:うっ…うぅっ…。 さつき:いちにのさんで玄関に向かって走るよ! 菜緒:…っ。 さつき:いち…。 陽太:ぐぅっ……うっ…。 さつき:にの…。 慧:【★】居ロ居ロ居ロ居ロ居ロ…。 さつき:さんっ!! 菜緒:(同時に)うあぁああああっ!! さつき:(同時に)うああああっ!! 0:勢いよく開くドア、二人と入れ替わりで中に入る慧 慧:これでもっ、くらええええっ!!!! 0:部屋に向かって白い八面体を投げる慧 陽太:(同時に)うっ、うわぁああああっっ!!! 慧:【★】(同時に)あァぁぁ阿ぁぁァぁぁ亜あァぁぁぁ………。 さつき:…はぁっ…はぁっ…はぁっ……っ、大丈夫?…菜緒。 菜緒:(泣き出す)うっ…うぅっ…うわぁあああんっ!!怖かったよおおお。 さつき:(泣き出す)あ、あたっ…あたしも…怖かったぁあああ。 慧:陽太!!陽太!!! 陽太:…んっ…、んんっ……。 慧:大丈夫か…? 陽太:…あ、あぁ…だいじょうぶだ…。…二人は? 慧:安心しろ、無事だ。 陽太:(溜息)…良かった…。 慧:やるじゃん、シンデレラ・ボーイ(笑)。 陽太:…へへっ、まぁな…。 さつき:陽太っ!慧!二人とも大丈夫!? 慧:あぁ、大丈夫だよ。 さつき:…よかったぁぁ。 菜緒:うわぁあああんっ!!よーたん、無事でよがっだぁああ! 陽太:うわぁっ!ちょ、菜緒!抱き着くなよ!! 菜緒:死んじゃうかと思ったんだぞおおお!! 陽太:げぇぇ!!こいつ鼻水こすりつけやがったぁああ!! さつき:(同時に)……ぷっ。あははははははっ。 慧:(同時に)……ふっ。あはははははっ。 陽太:(被せて)お、おいっ!お前ら笑ってないでこいつどうにかしろって!! 菜緒:えへへへへへへっ。 陽太:ーーーっ!!っだぁああ、もぉおおマジで何なんだよーーー! : : : 0:数日後 : 陽太:つーかさ、マジであれ何だったわけ? さつき:……あれって、あのバイト? 陽太:あぁ。そもそも「とあるマンションの一室で三時まで起きて過ごす」なんてバイト、胡散臭すぎんだろ。 さつき:まぁねー。 陽太:…バイト代、入ってた? さつき:うん…振り込まれてた…。 陽太:…いくら? さつき:…十万。陽太は? 陽太:オレも十万…。 さつき:…ほんと何だったんだろうねー。 陽太:あれ?っつうかそもそもこの話、誰が持ってきたんだ? さつき:え…慧じゃないの? 慧:僕じゃないよ。 陽太:おっ、おつかれーい。 菜緒:おっつっつー♪お待たせしてごめんねぇ。 さつき:大丈夫大丈夫、そんな待ってないよ。 菜緒:さっちゃんの隣、とーっぴ♪えへへー。 さつき:ちょっとー、危ないでしょー?こぼれたらどーすんのよー。 菜緒:だぁーいじょぉーぶっ!そしたらよーたんが綺麗に舐めるからっ。 陽太:はぁっ!ばっ、バカ言ってんじゃっ!! 慧:陽太うるさい。 陽太:おっま……、はぁ。 菜緒:およ?よーたんが言い返さないなんて珍しっ。 陽太:うっせ。疲れてんだよ…。 さつき:…ふふっ。あ、んで、話し戻すけど…。 慧:「誰があのバイトの話を持ってきたか」? 陽太:そうそう!オレはてっきり菜緒だと…。 菜緒:えー!?違うよぉ!菜緒はさっちゃんから聞いたと思ってたもん! さつき:いやいやいや、あたしじゃないよ。 陽太:……っ!?いや、オレじゃねぇよ! 慧:…多分、考えても無駄じゃないかな。 菜緒:えーっ、どぉして? 慧:「不思議」だからさ。 陽太:出たよっ、お前はすーぐそうやってミステリアスアピールすんだから。 慧:アホでバカなシンデレラ・ボーイには言われたくないね。 陽太:はんっ! さつき:アホだなぁ…。 菜緒:アホだねぇ…。 陽太:おぉいっ!お前らまで!! さつき:(同時に)あはははっ。 菜緒:(同時に)んふふふふっ。 陽太:…ったくよー…。 さつき:あ、そう言えば…。 菜緒:んー? さつき:あの時、慧が投げたのって…。 慧:あー…白い八面体のやつ? さつき:え、白? 陽太:いや、床に落ちてたやつは黒だったよな。 さつき:うん。 慧:恐らく、投げた後に色が変わったんだよ。 慧:あれは、この間話した副住職に昔貰ったお守り。「身代わり石」って言うんだ。 菜緒:身代わり…石。 慧:うん。 さつき:じゃぁ…あれが身代わりになって…。 慧:…多分ね。 さつき:そっかぁ…副住職さんに感謝だね。 陽太:ん…だな。 菜緒:【★】助けテくれてありがとーございマす、副住職サん…。 慧:……っ!! 慧:(訝し気に)……菜緒? : : : 0:3秒位間をあけて : さつき:怖い動画や心霊スポット、様々な危ない現象に面白半分で接触していませんか? さつき:もしかしたら、あなたも知らない内に「自殺」しようとしているかもしれませんよ? 菜緒:安全圏で感じるスリルや恐怖感って、暖房の効いた部屋で冷たーいアイス食べるみたいで、たまりませんよねぇ? 菜緒:…だけどそれって、本当に「安全」ですかぁ? 慧:不用意に藪をつつけば、毒蛇に噛まれる。知識の無い人が無闇に手を出せば、火傷どころじゃすまなくなる。 慧:そんな覚悟があなたにはある? 陽太:充分注意するこった。今もお前のすぐ隣に、冗談抜きで危ない奴が潜んでるかもしんねーぞ。 陽太:……ほーら、そこだよ、そこ…。 0:皆で不敵に笑う さつき:(同時に)ふふふふふふふふ。 菜緒:(同時に)フフふふフフふフ。。 慧:(同時に)ふフふふふふフフ。 陽太:(同時に)ふふフフふふフふ。