台本概要

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タイトル ダークレッドの婚姻〜許嫁ひき逃げ事件〜
作者名 大輝宇宙@ひろきうちゅう  (@hiro55308671)
ジャンル ミステリー
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 30 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 出頭したひき逃げ事件の犯人の保釈を求めているのは、
曰く付きの大会社の社長である義理の父親と、ヤクザの若組長だった。
犯罪対策課の黒岩と高守は、犯人と被害者の関係を調べているうちに、
美術館建設に隠された「贋作」という新たな犯罪に出くわす。

非商用使用時は連絡不要です。
予告などで作者名を書かれる際は、下記表記をお願いします。

大輝宇宙・しろめぇ

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
黒岩 80 黒岩仁(くろいわじん)刑事。犯罪対策課課長。50代の設定ですが、高守より年上であればOKです。いぶし銀、温厚、よく食べる。愛妻家。
高守 80 高守美紀(たかもりみき)刑事。犯罪対策課に配属されてもうすぐ2年目。正義、単純、元気
和久井 41 和久井信一(わくいしんいち)瀧本組の若組長。今回ひき逃げされた蓮見花織(はすみかおり)の許嫁。観察、馬鹿なフリ、用意周到。
石川 20 石川紀夫(いしかわのりお)。ひき逃げ犯。富樫重工営業部の係長。忠犬、中堅、言葉使いは丁寧だが、気が小さい
アユーラ 16 アユーラ斎藤。占い師であり、黒岩の情報屋。黒岩より年上。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:取調室をマジックミラー越しに見つめる黒岩。そこに廊下をドタドタと走る音が聞こえる。足音は黒岩のいる別室前で止まり、勢いよく扉が開かれる。 高守:黒岩さん!犯人が出頭したって本当ですか!? 黒岩:馬鹿野郎!(自分も大きな声を出したと気付き声を抑えて)…そんなでけぇ声出したら、隣の部屋に聞こえるだろうが。 黒岩:つっても、最近じゃ刑事ドラマで隣にこんな部屋があることは知れてるだろうがな。 高守:失礼しました…。昨日の朝のひき逃げ事件の犯人ですよね?飲酒でもしてたんですか? 0:取調室では石川紀夫が、頭を抱えるように刑事に供述している。 石川:私は…とても急いでいて…スピードを出しすぎていたと思います。 石川:結婚式に…遅れてしまいそうだったから。いえ、自分の…私の結婚式です。 石川:それは、分かっていました…。とにかく急いでいて…横断歩道にさしかかったとき、突然女性が渡ろうとしてるのが目に飛び込んできました 石川:やってしまったと思いました…。大きく彼女が空へ跳ね上がるのが見えた。でも…私は車を止めないことを決めて、処置することなく結婚式場へ急いだんです。 高守:(取り調べ室を見つめながら呟く)…急いでいたって…? 石川:一昨日は、0時を回っても仕事が終わらなくて、帰宅したのは夜2時でした。そこから5時まで仮眠をとって、6時に家を出ました。 石川:7時には式場で、準備が始まることになっていましたから…。 石川:私の身勝手な行動で…一人の女性を見殺しにしてしまいました…!(泣き崩れる) 高守:?あれ…この犯人… 石川:え? 石川:そうですか…彼女…生きてるんですか…。(呆然と)そうですか…。 石川:…良かった…。 高守:犯人もホッとしたでしょうね。 黒岩:まぁ、「今のところ」生きてるっつーのが正しいがな。被害者は意識が戻ったり戻らなかったりを繰り返してるし、肝臓と腎臓の被害が甚大だそうだ。 高守:容疑者の年齢は…32歳なんですね、被害者の蓮見花織さんは33歳…ほぼ同い年なのか… 高守:ま。とにかく、犯人の供述も得られましたし、事件も無事に解決ですね!良かった。 黒岩:なぁんか引っかかんだよな…。 高守:おっ!黒岩さんの刑事の勘が働きますか!? 黒岩:冷かすんじゃねぇ。 高守:失礼しました。 黒岩:…あの男、横断歩道に入ってくる被害者が見えたって言ったよな…。 高守:はい。 黒岩:普通、自分の運転中に目の前に人が現れたら、お前どうする? 高守:え?ブ、ブレーキを踏んで止まる? 黒岩:だよなぁ… 0:慌てて捜査資料をめくる高守 高守:あっ! 黒岩:そうなんだよ…現場からは、ブレーキ跡が見つかってねぇ。 高守:わざと…突っ込んでいった? 黒岩:分からねぇ。高守!お前は容疑者とガイシャの交友関係を調べろ。どっかでこの2人、繋がってるかもしれん。 高守:分かりました! 黒岩:できるだけ速くな。 高守:それはもちろん!…ん?何か特別な理由があるんですか? 黒岩:容疑者の、石川の義理の父親ってのが、莫大な金をはたいて保釈を求めてやがるそうだ。 高守:さっき出頭してきて、もうですか?…でも、ひき逃げですし、余程のことがないと保釈は認められないんじゃ? 黒岩:(考え込む唸り声)普通はな。石川が人を跳ね飛ばしてでも結婚した相手つーのが、冨樫重工(とがしじゅうこう)の社長令嬢だそうでな。 高守:冨樫重工…あぁ!国が絡んだビルやホールの建設を手がけるあの! 黒岩:あぁ。冨樫重工は、財政界にも顔が利くつーことで、安藤警視正は保釈を受け入れるつもりのようだ。 高守:犯罪と冨樫重工にいい顔するのは全く関係ないじゃないですか! 黒岩:ははっ。その通りだよなぁ。俺は、冨樫重工について少し調べてみる。お前は出来るかぎり急げ。 黒岩:この国の警察が、そこまで落ちぶれちゃいないことに俺は賭けてぇ。 0: 0: 0:翌日、犯罪対策課。応接セットに若組長の和久井が訪ねて来て、ソファに座っている。向かいのソファに黒岩、高守が座って話をしている。 黒岩:おめぇ、今なんつった? 和久井:やだなぁ仁さん、今年で50でしたっけ?まだまだ耳が遠くなるには早いんじゃない? 黒岩:どうしてお前が、容疑者石川の保釈金を払うなんつーことを言うんだ。 和久井:聞こえてるじゃないですか。 高守:和久井さん、石川と知り合いなんですか? 黒岩:それも、金に糸目はつけないって…お前… 和久井:ふふっ、高守さんも仁さんと一緒に仕事し過ぎだよぉ。似てきたんじゃない?同じ顔で…ぷっ!あはは。2人して目をまん丸くして…あはははっ! 高守:からかってないで答えてください! 和久井:はぁっ…はは…。そうだね、僕は容疑者、石川紀夫と面識はないよ?彼がふたご座のA型で、婿養子に入った冨樫重工の営業部の係長ってことくらいしか知らないな。 黒岩:石川に何の用だ?どうしてヤツを保釈したがる。 和久井:個人的な…恨みがあるから?(黒岩を試すように笑う) 黒岩:なんだ…組絡みか?冨樫重工はヤクザとも繋がってんのか。 和久井:僕たちヤクザは裏社会を生きてる、裏社会のルールを決めている。政治家達は表のルールを決めている。裏と表は紙一重だよ。 高守:冨樫重工が… 和久井:国の仕事を請け負ってあーんな大きな会社になったんだもん。叩けばいくらでもホコリは出るでしょ。でも、僕の恨みには組は関係ないかな。 黒岩:勿体ぶらないで早く言え。 和久井:被害に遭って、内蔵を激しく損傷し、未だ生死の境を行ったり来たりしてる女性… 高守:被害者の蓮見花織さんですね 黒岩:高守!ガイシャの名前は報道出してねぇだろ! 高守:あっ!しっ…失礼しました! 和久井:騙されやすそうだなぁ高守さんって。情報聞き出すの簡単そう。 黒岩:ったく。で、どうして報道も出てねぇ被害者の容態までおめぇは知ってんだボン。 和久井:彼女、僕の婚約者なんですよね 黒岩:なっ… 和久井:ふふ。その驚きはなぁに?仁さん。僕と彼女じゃ結構歳の差があること?それとも僕に婚約者がいたこと? 黒岩:どっちもだ。 和久井:ははっ!素直なオジサンだ。そーゆーとこ好きだよ?仁さんも高守さんも、僕をヤクザの頭じゃなく人として対等に接してくれる。 高守:何もしてないうちは、ですよ?和久井さん。 和久井:そうだねぇ、覚えておくよ。 黒岩:石川が保釈されたら、何もしないわけにはいかないんだろう?ボン。 和久井:ふふっ。まぁね…。僕の許嫁をこーんな目に遭わせた罪は、どこぞの海峡より深いからね。 高守:なっ…石川は、たしかに処置を怠り、1度逃げましたが反省して出頭しています。きちんと法の下で裁きを受けるべきです。 和久井:さすが新米刑事の高守さんはド正論ぶちかますなぁ。でもね、僕が聞きたいのはそんな正論じゃないんだよ。 和久井:このまま裁判で裁かれたとして、彼は恐らく執行猶予付きの有罪判決を受けるくらいでしょう?免許を剥奪されたって、この都会には電車が走っているからね、困りはしない。 和久井:彼はのうのうと、自分の義理の父親が経営する会社に居続けて、下手したら次の社長になるかもしれない。 和久井:一方ではねられた彼女はどうだい?肝臓と腎臓が使い物にならなくなって、普通の生活を送ることは困難だろうね。 和久井:何故、被害者側がいつまでも苦しまなくてはいけないの? 高守:…っ(和久井に共感できる点があり、言葉に詰まる) 和久井:答えられないでしょう? 黒岩:だから、個人的にヤツをボンが裁くってか。 和久井:うん!どんな目に遭わせようかな?トラックではね飛ばしてやろうかな。 黒岩:そうしたら、俺はお前を捕まえて、法の下で裁きを受けさせる。 和久井:わぁ!仁さんと僕は敵対関係ってことかぁ。 高守:花織さんは…和久井さんがそんなことをするのを喜んでくれるでしょうか… 和久井:高守さん!会ったこともない彼女の心情を高守さんが分かるわけないよ。 高守:それは、そうですけど…。 和久井:僕、すっごく怒ってるんだよね。…ねぇ、どうしてこの事件を犯罪対策課が担当してるの?凶悪犯罪だって警察も睨んでるんじゃないの? 黒岩:どういう意味だ? 和久井:……これ以上は僕も話せないなぁ。先回りされたら困るからね。それで、保釈金払ったら僕に石川をくれる? 高守:お身内からも保釈金の話が出ています。それを差し置いて和久井さんが払う流れにはならないと思いますよ。 和久井:なるほどぉ。…(思い立ったように)じゃあもういいや!こっちは作戦変更ってことで。ありがとうね、仁さん、高守さん。 黒岩:おめぇ、何考えてやがる。 和久井:なーいしょ♡ 0:さっさと部屋を出てゆく和久井、後ろ姿を見つめる黒岩、高守。 0: 0:3日後昼、黒岩と高守は占い小屋の前に立っている。 高守:アユーラ斎藤の…占いの館…。黒岩さん、こんな時に占いですか? 黒岩:表向きは占いの館だが、ここのばばぁには昔っから世話になっててな。 高守:お世話? 黒岩:おめぇも刑事なら、情報屋はいくつか持っておいた方がいい。とくにこういう真っ当に生きてたら耳にできねぇ様な情報を持ってるヤツはな。 高守:うーん…和久井さんとかですかね? 黒岩:あいつを情報屋にしようとしたら、こっちが丸裸にされるぞ。 高守:た、たしかに。 黒岩:占いっつーのは、まぁなんだ、人の裏の裏側までよく耳にするだろ。 高守:悩み相談みたいな側面がありますもんね。 黒岩:そういうこった。ここのばばぁは人気でな、それこそ芸能人や政治家が大金払って占ってもらってるんだぞ。 高守:政治家…なるほど。 0:最後の客が終わり、カーテンの奥に進む黒岩と高守 アユーラ:待たせちまって悪かったねぇ。あんたたちが来ることは、ぜーんぶお見通しだったよ? 高守:ええっ!? アユーラ:お嬢さん…あんたは人のことを信用しすぎるところがあるね?傷ついてもいいから、とにかく相手を信じたい…そんなポリシーめいたもんをお持ちだ。 アユーラ:恋愛は…パッとしないねぇ。浮気をされてることにも気づかないなんてことがあったんだね。あぁ、でもそんなに交際人数は多くないねぇ。 高守:どどど…どうして分かるんですか!? 黒岩:ばぁか、からかわれてんだよ、おめぇは。 高守:えっ! 黒岩:さっきのお前の素っ頓狂な声と、その様子からこんくれぇのことは想像できるだろ。馬鹿なことやってねぇで、本題だババァ。 アユーラ:せっかく久しぶりに会いに来てくれたのに、随分と冷たいねぇ仁。手土産に面白いお嬢さんまで連れてるってのに… 黒岩:まぁこの資料見てくれや。(捜査資料を占いテーブルの上に広げる) アユーラ:ふぅん、知った顔と知らない顔があるね。 高守:どなたをご存知なんですか? アユーラ:これは、和久井信一…瀧本組の若様だろ?あとこの娘は、その許嫁だ。 高守:蓮見花織さんもご存知なんですね。 アユーラ:ま、わたしがこの子を知ってるのは裏社会ではちょっとした有名人だからだけどね。 黒岩:どういうことだ。蓮見香織は、なんで瀧本のとこに嫁ぐのか分からねぇくらい平凡なOLじゃねぇのか。 アユーラ:あっははは!表ではあの子、そんなに平凡なのかい?…そういや、ひき逃げされた怪我はどんな感じなんだ?右腕は無事かい? 黒岩:左側を下に落ちたみたい でな、左足と左手首を骨折してるが、右側は一応無事だ。 アユーラ:それは良かった。商売道具は無事ってわけだ。 高守:右腕が商売道具なんですか? アユーラ:あの子はただのOLなんかじゃない。裏では有名なんだよ、「贋作師」としてね。 黒岩:……(意外でハッと息を飲む) アユーラ:鑑定士でもなかなか本物と見分けがつかないような作品を数多く作ってるんだよ。 高守:じゃあ、和久井さんは花織さんと結婚して贋作を売りさばこうと? アユーラ:それはどうだろうね、ああゆうところには、それこそそういう類のものも沢山持ち込まれるだろう?私はあの婚約は、むしろ蓮見香織の贋作を見破る目を買っての事だと思うよ。 高守:贋作を掴まされないため… 黒岩:ばばぁ、こっちの石川紀夫についてはなんか知らねぇか? アユーラ:この男は知らないね。 高守:冨樫重工の社長のお嬢さんと結婚されたんですよ。 アユーラ:この冴えない男が?ふぅん。…今の社長も先代も映画俳優のようにイケメンだってのに。お嬢さんもかわいそうだこと。 高守:花織さんと石川には特に接点はなさそうってことですね。 アユーラ:刑事のお嬢さんには想像もつかないかもしれないが、世の中には自分の出世のために会社の言いなりになる人間が大勢いるもんさ。 黒岩:接点があるのは、冨樫重工と被害者の方ってことか。 アユーラ:どうだかね、確かな話を聞いたわけじゃないから。でも、冨樫重工はこの春、国からの援助も受けて大きな美術館を建設するんだろ? 黒岩:ニュースでやってたな。なんでも冨樫社長のコレクションも寄贈されるとか… 高守:その中に偽物があって、花織さんにバラされたらマズいとか? アユーラ:その偽物、もしかしたら彼女が作ったもんかもしれないよ?ひょーっひょっひょ(笑い声です) 黒岩:冨樫重工と美術品の線ももう少し洗ってみねぇとな…。 0: 0:アユーラ斎藤の占い小屋を後にし、車に乗り込む黒岩、高守。運転席に高守、助手席に黒岩が乗り込み、車を発進させる。 黒岩:本当に、富樫のコレクションの中に蓮見花織が作ったもんが紛れてるかもしれねぇな。 高守:富樫の依頼で作成したものがあるかもしれないですね。 黒岩:富樫は、今度作られる美術館に有名絵画を寄贈することを、世間にアピールをしていたくらいだからな。 高守:それが偽物だと知っている人…贋作師の花織さんを消したかった。 黒岩:しかし、依頼を受けてるとしたら贋作師の方もバレたらただでは済まないだろう。自分から口を割るとは思えない相手をどうして… 高守:あっ!もしかして、和久井さんの婚約者であることを知ったんじゃないでしょうか?瀧本組に脅されたりすることを考えたら…。でももう話している可能性はあるだろうし…うーん…。 黒岩:まだまだ「かもしれない」「こうなんじゃねぇか」の域は出ねぇ話だな。 高守:そうですね。課に戻ったら、富樫のコレクションを調べられないか上に掛け合ってくださいよ。 黒岩:俺もそうするつもりだが…あの安藤警視正がなんつーかな…。 高守:ああ…。あの人、毎回捜査の邪魔をしている気がするんですよね! 黒岩:ちげぇねえ。あの狐野郎は、自分の出世のことしか頭にないからな。問題ごとは起こしたくない「たち」なんさ。 高守:そういえば、アユーラさん、石川が会社のために花織さんをひいたんじゃないかって言ってるようなもんでしたね。営業部の係長ってなんかパッとしないイメージで、娘婿として選ばれそうにないですよね。 黒岩:そこは、俺も引っかかってた。富樫重工を調べたらな、石川は係長に上がったくらいから社長のお気に入りで、今回の美術館のプレゼンを担当した一人だったそうだ。 高守:何が気に入られてたんでしょう。 黒岩:上司からの評価は概ね悪くないようだ。頼んだ仕事は、何でもやってくれるってな。だが、部下からは何を考えてるか分からない、「非公開」の仕事が多いと思われているようだな。 高守:非公開? 黒岩:ああ、富樫重工は社員全員に一日のスケジュールを社内のネットワークで共有させている。しかし、石川は「非公開」のスケジュールが多かったらしい。 高守:社長の特命の仕事? 黒岩:可能性は高い。高守、お前は戻ったら石川からもう少し詳しく話を聞け。 高守:わかりました。 0: 0: 0:安藤警視正の部屋の扉を静かに閉める黒岩 黒岩:クソッ!(怒りと悔しさを滲ませて) 0:犯罪対策課に黒岩が入ると、高守が駆け寄ってくる。 高守:黒岩さん! 黒岩:あぁ…。 高守:まさか、こんなに早く保釈がおりるなんて…。 黒岩:事情聴取には応じることになるが、冨樫と今後のために作戦会議される可能性は大いにあるな。 高守:冨樫のコレクションの方はどうなりました? 黒岩:今回のひき逃げとの関連性が想像の域を出ない為、却下だとよ。 高守:そんなぁ! 黒岩:あと少し…あと少しで、なんか掴めそうなのによ…。 高守:とにかく石川からはもう少し事情を聞きましょう!贋作のことや、非公開のスケジュールとかでもっと揺さぶりをかければ自供するかも! 黒岩:あぁ。できるだけのことはしねぇとな。 高守:今回も安藤警視正ですか…。あの人はほんっとに…! 黒岩:高守、蓮見花織の意識は完全に戻ったか? 高守:意識は戻ったと聞いてますが、まだ事情を聞く許可は主治医から出ません。肝臓の損傷が激しくて、移植しないと完治は難しいみたいです。その為、予断を許さないと。 黒岩:肝臓か…身内から貰うっつーのも出来ねぇな。 高守:ひとつしかありませんからねぇ…。あ!それと、蓮見花織さんはお身内がいないそうです。 黒岩:あぁ? 高守:皆さん、花織さんが成人するまでに亡くなってるそうで。なので花織さんの入院の保証人は和久井さんになっています。 黒岩:ほぉん。 高守:一体どこで知り合ったんでしょうね。 黒岩:あいつに人を愛するという感情があるとはなぁ…。 高守:ですね…。 黒岩:石川は、逃亡するってことはないだろうが、まめに連絡入れて所在は確認しとけ。 高守:分かりました。出来るだけ早くもう少し話を聞きたいと言ってみますね。 黒岩:ああ。義父ともどもしょっぴけるといいがな。 0: 0:深夜、蓮見花織の病室。石川が引き戸を開けて侵入。ベッドの脇に立つ。管が沢山繋がれている花織を見て、機械から管を外そうと手を伸ばす。 和久井:それを取ると、彼女、死んじゃいますよ? 石川:……!?あ… 和久井:彼女に何の用? 石川:あ…あ…えと、お見舞いに… 和久井:ふぅん…午前0時28分。面会時間はとっくに終わってるんですけど? 石川:わ、私は彼女を撥ねてしまった者です。…いてもたっても居られず、心配で…こんな時間に…。 和久井:そうだよね、不安だよね。殺したと思っていた彼女が生きてたら。 石川:そんな…人聞きの悪い…。私は裁判で被告になるんですよ?彼女が生きていた方がいいに決まってる。 和久井:でも、彼女を殺していたとしても死刑にはならない。無期懲役…もどうかな?一度逃げたとは言え、出頭しちゃったんだもんね。出所後のポストも用意されてるんでしょ? 石川:……なんの事だか… 和久井:冨樫重工。国の公共事業を請け負うおーっきな会社だね。でもその仕事を取るために政治家たちと密接な関係を築いてるよね? 石川:なんで私の会社を……そ、そういう風に勘違いされることもありますけど…そんなドラマみたいな話は… 和久井:コレ見て。君が総務省のお偉いがたとお食事会してるお写真。君の上っ面の笑顔が可愛く撮れてるね。 石川:っ…! 和久井:こっちは、文科省のお大臣に何か渡してるお写真だね。 石川:何でこんなもの… 和久井:もともとはね、冨樫重工の社長さんに披露しようとしてた写真なんだけど、君には特別に見せてあげるね。 石川:あんた…誰だ… 和久井:ごめん、自己紹介してなかったね。和久井信一って言います。ここにいる蓮見花織の許嫁だよ? 石川:この女の?あんた…瀧本の… 和久井:あぁ、そうそう。瀧本組の現組長は僕だよ?若くてビックリした?ふふ… 0:立ち去ろうとする石川 和久井:待って。帰らないでよ?僕の用はまだ済んでないんだからさ。 石川:私は何も知らない。脅されても…何も話すことはない! 和久井:うんうん、大丈夫だよ。君に美術館のことを聞かなくても、いずれ分かる事だから。 石川:じゃあ…もういいだろう?あとは裁判でも何でもして…ひき逃げ犯として裁いたらいいじゃないか! 和久井:そうだね。 石川:じゃあ私はこれで… 和久井:ねぇ君、血液型はA型だよね? 石川:は?…そうだが… 和久井:良かった。僕はO型だから万が一にも可能性がなかったんだ。 石川:何言ってる? 和久井:冨樫重工はあとでゆっくり炙り出すとして、僕は急いでやらなくちゃならないことがある。裁判でお前を裁くなんてぬるい事じゃなく… 和久井:俺がお前を捌くんだよ…パッカーンってね! 石川:っ…!(身の危険を感じ叫びたいが口を塞がれる) 和久井:ごめんね、ちょっと眠っていてね?まぁ…もう起きることはないと思うけどさ。 石川:くっ…(意識を失う) 0: 0: 0:鉄のお好み焼き店。向かいあって黒岩と高守が食事をしている。 高守:まさか石川が逃亡するとは思いませんでした…。だって出頭までしてるんですよ!?それなのに逃亡って…。 黒岩:保証人の冨樫から事情は聞けたが、アイツも石川の行方が分からず焦ってるみたいだったな。 高守:逃亡は冨樫社長の指示ってわけじゃないんですよね…。 黒岩:あぁ、恐らくな。石川が逃げたのは失態だが、冨樫を洗ういい機会にはなったわな。安藤警視正も、石川逃亡の汚名を冨樫重工の贋作コレクションの闇を暴くことで返上しようとやっきだ。 高守:本当に己の保身しか考えてない人ですね…。 黒岩:おおかた政治のお偉いさんが、贋作コレクションに目を向けさせて、自分たちは何も知らなかったを決め込むことにしたんだろうさ。 高守:なるほど。そうすれば安藤警視正が冨樫重工を追い詰めてもお咎め無しってことですもんね。 黒岩:あぁ(茶をすする) 高守:あ!そー言えば! 黒岩:なんだ?飯は静かに食え。 高守:失礼しました!あの、蓮見花織さんですが、肝臓移植のドナーが見つかったそうなんです! 黒岩:……ふん(相槌) 高守:良かったです!贋作の件についても、事情聴取に応じてくれるって。…やっぱり罪には問われるんでしょうか… 黒岩:詐欺…いや、どうなんだろうな。冨樫に本物として売りつけたわけじゃねぇだろうし…。 高守:冨樫が美術館に飾るって知らなければ、10年以下の懲役か、1000万円以下の罰金ってとこでしょうかね。 黒岩:恐らくな。 高守:懲役刑の場合、和久井さんは待ってくれますかね? 黒岩:待つだろ。あのボンは執念深ぇ。アイツにはすでに出所するのを待ってるやつがいるしな。 高守:犯罪者に愛されるオトコですねー。 黒岩:やつが犯罪を愛してるからだろ。 高守:ええ?黒岩さん、和久井さんはまだ犯罪は犯してませんよ? 黒岩:どーだかな…。 高守:さぁ!これ食べ終わったら石川の逃亡先の目星つけましょう!絶対見つけてやりましょうね!刑事の名にかけて! 0:静かに目を伏せ、茶をすする黒岩 黒岩:俺はとんでもねぇ犯罪に気づいてないのかもな…。 高守:え?気づいてないのかもってことは、気づいてるんじゃないですか? 黒岩:…全ては推論の域を出ねぇ話だよ。今はな。 0:おわり

0:取調室をマジックミラー越しに見つめる黒岩。そこに廊下をドタドタと走る音が聞こえる。足音は黒岩のいる別室前で止まり、勢いよく扉が開かれる。 高守:黒岩さん!犯人が出頭したって本当ですか!? 黒岩:馬鹿野郎!(自分も大きな声を出したと気付き声を抑えて)…そんなでけぇ声出したら、隣の部屋に聞こえるだろうが。 黒岩:つっても、最近じゃ刑事ドラマで隣にこんな部屋があることは知れてるだろうがな。 高守:失礼しました…。昨日の朝のひき逃げ事件の犯人ですよね?飲酒でもしてたんですか? 0:取調室では石川紀夫が、頭を抱えるように刑事に供述している。 石川:私は…とても急いでいて…スピードを出しすぎていたと思います。 石川:結婚式に…遅れてしまいそうだったから。いえ、自分の…私の結婚式です。 石川:それは、分かっていました…。とにかく急いでいて…横断歩道にさしかかったとき、突然女性が渡ろうとしてるのが目に飛び込んできました 石川:やってしまったと思いました…。大きく彼女が空へ跳ね上がるのが見えた。でも…私は車を止めないことを決めて、処置することなく結婚式場へ急いだんです。 高守:(取り調べ室を見つめながら呟く)…急いでいたって…? 石川:一昨日は、0時を回っても仕事が終わらなくて、帰宅したのは夜2時でした。そこから5時まで仮眠をとって、6時に家を出ました。 石川:7時には式場で、準備が始まることになっていましたから…。 石川:私の身勝手な行動で…一人の女性を見殺しにしてしまいました…!(泣き崩れる) 高守:?あれ…この犯人… 石川:え? 石川:そうですか…彼女…生きてるんですか…。(呆然と)そうですか…。 石川:…良かった…。 高守:犯人もホッとしたでしょうね。 黒岩:まぁ、「今のところ」生きてるっつーのが正しいがな。被害者は意識が戻ったり戻らなかったりを繰り返してるし、肝臓と腎臓の被害が甚大だそうだ。 高守:容疑者の年齢は…32歳なんですね、被害者の蓮見花織さんは33歳…ほぼ同い年なのか… 高守:ま。とにかく、犯人の供述も得られましたし、事件も無事に解決ですね!良かった。 黒岩:なぁんか引っかかんだよな…。 高守:おっ!黒岩さんの刑事の勘が働きますか!? 黒岩:冷かすんじゃねぇ。 高守:失礼しました。 黒岩:…あの男、横断歩道に入ってくる被害者が見えたって言ったよな…。 高守:はい。 黒岩:普通、自分の運転中に目の前に人が現れたら、お前どうする? 高守:え?ブ、ブレーキを踏んで止まる? 黒岩:だよなぁ… 0:慌てて捜査資料をめくる高守 高守:あっ! 黒岩:そうなんだよ…現場からは、ブレーキ跡が見つかってねぇ。 高守:わざと…突っ込んでいった? 黒岩:分からねぇ。高守!お前は容疑者とガイシャの交友関係を調べろ。どっかでこの2人、繋がってるかもしれん。 高守:分かりました! 黒岩:できるだけ速くな。 高守:それはもちろん!…ん?何か特別な理由があるんですか? 黒岩:容疑者の、石川の義理の父親ってのが、莫大な金をはたいて保釈を求めてやがるそうだ。 高守:さっき出頭してきて、もうですか?…でも、ひき逃げですし、余程のことがないと保釈は認められないんじゃ? 黒岩:(考え込む唸り声)普通はな。石川が人を跳ね飛ばしてでも結婚した相手つーのが、冨樫重工(とがしじゅうこう)の社長令嬢だそうでな。 高守:冨樫重工…あぁ!国が絡んだビルやホールの建設を手がけるあの! 黒岩:あぁ。冨樫重工は、財政界にも顔が利くつーことで、安藤警視正は保釈を受け入れるつもりのようだ。 高守:犯罪と冨樫重工にいい顔するのは全く関係ないじゃないですか! 黒岩:ははっ。その通りだよなぁ。俺は、冨樫重工について少し調べてみる。お前は出来るかぎり急げ。 黒岩:この国の警察が、そこまで落ちぶれちゃいないことに俺は賭けてぇ。 0: 0: 0:翌日、犯罪対策課。応接セットに若組長の和久井が訪ねて来て、ソファに座っている。向かいのソファに黒岩、高守が座って話をしている。 黒岩:おめぇ、今なんつった? 和久井:やだなぁ仁さん、今年で50でしたっけ?まだまだ耳が遠くなるには早いんじゃない? 黒岩:どうしてお前が、容疑者石川の保釈金を払うなんつーことを言うんだ。 和久井:聞こえてるじゃないですか。 高守:和久井さん、石川と知り合いなんですか? 黒岩:それも、金に糸目はつけないって…お前… 和久井:ふふっ、高守さんも仁さんと一緒に仕事し過ぎだよぉ。似てきたんじゃない?同じ顔で…ぷっ!あはは。2人して目をまん丸くして…あはははっ! 高守:からかってないで答えてください! 和久井:はぁっ…はは…。そうだね、僕は容疑者、石川紀夫と面識はないよ?彼がふたご座のA型で、婿養子に入った冨樫重工の営業部の係長ってことくらいしか知らないな。 黒岩:石川に何の用だ?どうしてヤツを保釈したがる。 和久井:個人的な…恨みがあるから?(黒岩を試すように笑う) 黒岩:なんだ…組絡みか?冨樫重工はヤクザとも繋がってんのか。 和久井:僕たちヤクザは裏社会を生きてる、裏社会のルールを決めている。政治家達は表のルールを決めている。裏と表は紙一重だよ。 高守:冨樫重工が… 和久井:国の仕事を請け負ってあーんな大きな会社になったんだもん。叩けばいくらでもホコリは出るでしょ。でも、僕の恨みには組は関係ないかな。 黒岩:勿体ぶらないで早く言え。 和久井:被害に遭って、内蔵を激しく損傷し、未だ生死の境を行ったり来たりしてる女性… 高守:被害者の蓮見花織さんですね 黒岩:高守!ガイシャの名前は報道出してねぇだろ! 高守:あっ!しっ…失礼しました! 和久井:騙されやすそうだなぁ高守さんって。情報聞き出すの簡単そう。 黒岩:ったく。で、どうして報道も出てねぇ被害者の容態までおめぇは知ってんだボン。 和久井:彼女、僕の婚約者なんですよね 黒岩:なっ… 和久井:ふふ。その驚きはなぁに?仁さん。僕と彼女じゃ結構歳の差があること?それとも僕に婚約者がいたこと? 黒岩:どっちもだ。 和久井:ははっ!素直なオジサンだ。そーゆーとこ好きだよ?仁さんも高守さんも、僕をヤクザの頭じゃなく人として対等に接してくれる。 高守:何もしてないうちは、ですよ?和久井さん。 和久井:そうだねぇ、覚えておくよ。 黒岩:石川が保釈されたら、何もしないわけにはいかないんだろう?ボン。 和久井:ふふっ。まぁね…。僕の許嫁をこーんな目に遭わせた罪は、どこぞの海峡より深いからね。 高守:なっ…石川は、たしかに処置を怠り、1度逃げましたが反省して出頭しています。きちんと法の下で裁きを受けるべきです。 和久井:さすが新米刑事の高守さんはド正論ぶちかますなぁ。でもね、僕が聞きたいのはそんな正論じゃないんだよ。 和久井:このまま裁判で裁かれたとして、彼は恐らく執行猶予付きの有罪判決を受けるくらいでしょう?免許を剥奪されたって、この都会には電車が走っているからね、困りはしない。 和久井:彼はのうのうと、自分の義理の父親が経営する会社に居続けて、下手したら次の社長になるかもしれない。 和久井:一方ではねられた彼女はどうだい?肝臓と腎臓が使い物にならなくなって、普通の生活を送ることは困難だろうね。 和久井:何故、被害者側がいつまでも苦しまなくてはいけないの? 高守:…っ(和久井に共感できる点があり、言葉に詰まる) 和久井:答えられないでしょう? 黒岩:だから、個人的にヤツをボンが裁くってか。 和久井:うん!どんな目に遭わせようかな?トラックではね飛ばしてやろうかな。 黒岩:そうしたら、俺はお前を捕まえて、法の下で裁きを受けさせる。 和久井:わぁ!仁さんと僕は敵対関係ってことかぁ。 高守:花織さんは…和久井さんがそんなことをするのを喜んでくれるでしょうか… 和久井:高守さん!会ったこともない彼女の心情を高守さんが分かるわけないよ。 高守:それは、そうですけど…。 和久井:僕、すっごく怒ってるんだよね。…ねぇ、どうしてこの事件を犯罪対策課が担当してるの?凶悪犯罪だって警察も睨んでるんじゃないの? 黒岩:どういう意味だ? 和久井:……これ以上は僕も話せないなぁ。先回りされたら困るからね。それで、保釈金払ったら僕に石川をくれる? 高守:お身内からも保釈金の話が出ています。それを差し置いて和久井さんが払う流れにはならないと思いますよ。 和久井:なるほどぉ。…(思い立ったように)じゃあもういいや!こっちは作戦変更ってことで。ありがとうね、仁さん、高守さん。 黒岩:おめぇ、何考えてやがる。 和久井:なーいしょ♡ 0:さっさと部屋を出てゆく和久井、後ろ姿を見つめる黒岩、高守。 0: 0:3日後昼、黒岩と高守は占い小屋の前に立っている。 高守:アユーラ斎藤の…占いの館…。黒岩さん、こんな時に占いですか? 黒岩:表向きは占いの館だが、ここのばばぁには昔っから世話になっててな。 高守:お世話? 黒岩:おめぇも刑事なら、情報屋はいくつか持っておいた方がいい。とくにこういう真っ当に生きてたら耳にできねぇ様な情報を持ってるヤツはな。 高守:うーん…和久井さんとかですかね? 黒岩:あいつを情報屋にしようとしたら、こっちが丸裸にされるぞ。 高守:た、たしかに。 黒岩:占いっつーのは、まぁなんだ、人の裏の裏側までよく耳にするだろ。 高守:悩み相談みたいな側面がありますもんね。 黒岩:そういうこった。ここのばばぁは人気でな、それこそ芸能人や政治家が大金払って占ってもらってるんだぞ。 高守:政治家…なるほど。 0:最後の客が終わり、カーテンの奥に進む黒岩と高守 アユーラ:待たせちまって悪かったねぇ。あんたたちが来ることは、ぜーんぶお見通しだったよ? 高守:ええっ!? アユーラ:お嬢さん…あんたは人のことを信用しすぎるところがあるね?傷ついてもいいから、とにかく相手を信じたい…そんなポリシーめいたもんをお持ちだ。 アユーラ:恋愛は…パッとしないねぇ。浮気をされてることにも気づかないなんてことがあったんだね。あぁ、でもそんなに交際人数は多くないねぇ。 高守:どどど…どうして分かるんですか!? 黒岩:ばぁか、からかわれてんだよ、おめぇは。 高守:えっ! 黒岩:さっきのお前の素っ頓狂な声と、その様子からこんくれぇのことは想像できるだろ。馬鹿なことやってねぇで、本題だババァ。 アユーラ:せっかく久しぶりに会いに来てくれたのに、随分と冷たいねぇ仁。手土産に面白いお嬢さんまで連れてるってのに… 黒岩:まぁこの資料見てくれや。(捜査資料を占いテーブルの上に広げる) アユーラ:ふぅん、知った顔と知らない顔があるね。 高守:どなたをご存知なんですか? アユーラ:これは、和久井信一…瀧本組の若様だろ?あとこの娘は、その許嫁だ。 高守:蓮見花織さんもご存知なんですね。 アユーラ:ま、わたしがこの子を知ってるのは裏社会ではちょっとした有名人だからだけどね。 黒岩:どういうことだ。蓮見香織は、なんで瀧本のとこに嫁ぐのか分からねぇくらい平凡なOLじゃねぇのか。 アユーラ:あっははは!表ではあの子、そんなに平凡なのかい?…そういや、ひき逃げされた怪我はどんな感じなんだ?右腕は無事かい? 黒岩:左側を下に落ちたみたい でな、左足と左手首を骨折してるが、右側は一応無事だ。 アユーラ:それは良かった。商売道具は無事ってわけだ。 高守:右腕が商売道具なんですか? アユーラ:あの子はただのOLなんかじゃない。裏では有名なんだよ、「贋作師」としてね。 黒岩:……(意外でハッと息を飲む) アユーラ:鑑定士でもなかなか本物と見分けがつかないような作品を数多く作ってるんだよ。 高守:じゃあ、和久井さんは花織さんと結婚して贋作を売りさばこうと? アユーラ:それはどうだろうね、ああゆうところには、それこそそういう類のものも沢山持ち込まれるだろう?私はあの婚約は、むしろ蓮見香織の贋作を見破る目を買っての事だと思うよ。 高守:贋作を掴まされないため… 黒岩:ばばぁ、こっちの石川紀夫についてはなんか知らねぇか? アユーラ:この男は知らないね。 高守:冨樫重工の社長のお嬢さんと結婚されたんですよ。 アユーラ:この冴えない男が?ふぅん。…今の社長も先代も映画俳優のようにイケメンだってのに。お嬢さんもかわいそうだこと。 高守:花織さんと石川には特に接点はなさそうってことですね。 アユーラ:刑事のお嬢さんには想像もつかないかもしれないが、世の中には自分の出世のために会社の言いなりになる人間が大勢いるもんさ。 黒岩:接点があるのは、冨樫重工と被害者の方ってことか。 アユーラ:どうだかね、確かな話を聞いたわけじゃないから。でも、冨樫重工はこの春、国からの援助も受けて大きな美術館を建設するんだろ? 黒岩:ニュースでやってたな。なんでも冨樫社長のコレクションも寄贈されるとか… 高守:その中に偽物があって、花織さんにバラされたらマズいとか? アユーラ:その偽物、もしかしたら彼女が作ったもんかもしれないよ?ひょーっひょっひょ(笑い声です) 黒岩:冨樫重工と美術品の線ももう少し洗ってみねぇとな…。 0: 0:アユーラ斎藤の占い小屋を後にし、車に乗り込む黒岩、高守。運転席に高守、助手席に黒岩が乗り込み、車を発進させる。 黒岩:本当に、富樫のコレクションの中に蓮見花織が作ったもんが紛れてるかもしれねぇな。 高守:富樫の依頼で作成したものがあるかもしれないですね。 黒岩:富樫は、今度作られる美術館に有名絵画を寄贈することを、世間にアピールをしていたくらいだからな。 高守:それが偽物だと知っている人…贋作師の花織さんを消したかった。 黒岩:しかし、依頼を受けてるとしたら贋作師の方もバレたらただでは済まないだろう。自分から口を割るとは思えない相手をどうして… 高守:あっ!もしかして、和久井さんの婚約者であることを知ったんじゃないでしょうか?瀧本組に脅されたりすることを考えたら…。でももう話している可能性はあるだろうし…うーん…。 黒岩:まだまだ「かもしれない」「こうなんじゃねぇか」の域は出ねぇ話だな。 高守:そうですね。課に戻ったら、富樫のコレクションを調べられないか上に掛け合ってくださいよ。 黒岩:俺もそうするつもりだが…あの安藤警視正がなんつーかな…。 高守:ああ…。あの人、毎回捜査の邪魔をしている気がするんですよね! 黒岩:ちげぇねえ。あの狐野郎は、自分の出世のことしか頭にないからな。問題ごとは起こしたくない「たち」なんさ。 高守:そういえば、アユーラさん、石川が会社のために花織さんをひいたんじゃないかって言ってるようなもんでしたね。営業部の係長ってなんかパッとしないイメージで、娘婿として選ばれそうにないですよね。 黒岩:そこは、俺も引っかかってた。富樫重工を調べたらな、石川は係長に上がったくらいから社長のお気に入りで、今回の美術館のプレゼンを担当した一人だったそうだ。 高守:何が気に入られてたんでしょう。 黒岩:上司からの評価は概ね悪くないようだ。頼んだ仕事は、何でもやってくれるってな。だが、部下からは何を考えてるか分からない、「非公開」の仕事が多いと思われているようだな。 高守:非公開? 黒岩:ああ、富樫重工は社員全員に一日のスケジュールを社内のネットワークで共有させている。しかし、石川は「非公開」のスケジュールが多かったらしい。 高守:社長の特命の仕事? 黒岩:可能性は高い。高守、お前は戻ったら石川からもう少し詳しく話を聞け。 高守:わかりました。 0: 0: 0:安藤警視正の部屋の扉を静かに閉める黒岩 黒岩:クソッ!(怒りと悔しさを滲ませて) 0:犯罪対策課に黒岩が入ると、高守が駆け寄ってくる。 高守:黒岩さん! 黒岩:あぁ…。 高守:まさか、こんなに早く保釈がおりるなんて…。 黒岩:事情聴取には応じることになるが、冨樫と今後のために作戦会議される可能性は大いにあるな。 高守:冨樫のコレクションの方はどうなりました? 黒岩:今回のひき逃げとの関連性が想像の域を出ない為、却下だとよ。 高守:そんなぁ! 黒岩:あと少し…あと少しで、なんか掴めそうなのによ…。 高守:とにかく石川からはもう少し事情を聞きましょう!贋作のことや、非公開のスケジュールとかでもっと揺さぶりをかければ自供するかも! 黒岩:あぁ。できるだけのことはしねぇとな。 高守:今回も安藤警視正ですか…。あの人はほんっとに…! 黒岩:高守、蓮見花織の意識は完全に戻ったか? 高守:意識は戻ったと聞いてますが、まだ事情を聞く許可は主治医から出ません。肝臓の損傷が激しくて、移植しないと完治は難しいみたいです。その為、予断を許さないと。 黒岩:肝臓か…身内から貰うっつーのも出来ねぇな。 高守:ひとつしかありませんからねぇ…。あ!それと、蓮見花織さんはお身内がいないそうです。 黒岩:あぁ? 高守:皆さん、花織さんが成人するまでに亡くなってるそうで。なので花織さんの入院の保証人は和久井さんになっています。 黒岩:ほぉん。 高守:一体どこで知り合ったんでしょうね。 黒岩:あいつに人を愛するという感情があるとはなぁ…。 高守:ですね…。 黒岩:石川は、逃亡するってことはないだろうが、まめに連絡入れて所在は確認しとけ。 高守:分かりました。出来るだけ早くもう少し話を聞きたいと言ってみますね。 黒岩:ああ。義父ともどもしょっぴけるといいがな。 0: 0:深夜、蓮見花織の病室。石川が引き戸を開けて侵入。ベッドの脇に立つ。管が沢山繋がれている花織を見て、機械から管を外そうと手を伸ばす。 和久井:それを取ると、彼女、死んじゃいますよ? 石川:……!?あ… 和久井:彼女に何の用? 石川:あ…あ…えと、お見舞いに… 和久井:ふぅん…午前0時28分。面会時間はとっくに終わってるんですけど? 石川:わ、私は彼女を撥ねてしまった者です。…いてもたっても居られず、心配で…こんな時間に…。 和久井:そうだよね、不安だよね。殺したと思っていた彼女が生きてたら。 石川:そんな…人聞きの悪い…。私は裁判で被告になるんですよ?彼女が生きていた方がいいに決まってる。 和久井:でも、彼女を殺していたとしても死刑にはならない。無期懲役…もどうかな?一度逃げたとは言え、出頭しちゃったんだもんね。出所後のポストも用意されてるんでしょ? 石川:……なんの事だか… 和久井:冨樫重工。国の公共事業を請け負うおーっきな会社だね。でもその仕事を取るために政治家たちと密接な関係を築いてるよね? 石川:なんで私の会社を……そ、そういう風に勘違いされることもありますけど…そんなドラマみたいな話は… 和久井:コレ見て。君が総務省のお偉いがたとお食事会してるお写真。君の上っ面の笑顔が可愛く撮れてるね。 石川:っ…! 和久井:こっちは、文科省のお大臣に何か渡してるお写真だね。 石川:何でこんなもの… 和久井:もともとはね、冨樫重工の社長さんに披露しようとしてた写真なんだけど、君には特別に見せてあげるね。 石川:あんた…誰だ… 和久井:ごめん、自己紹介してなかったね。和久井信一って言います。ここにいる蓮見花織の許嫁だよ? 石川:この女の?あんた…瀧本の… 和久井:あぁ、そうそう。瀧本組の現組長は僕だよ?若くてビックリした?ふふ… 0:立ち去ろうとする石川 和久井:待って。帰らないでよ?僕の用はまだ済んでないんだからさ。 石川:私は何も知らない。脅されても…何も話すことはない! 和久井:うんうん、大丈夫だよ。君に美術館のことを聞かなくても、いずれ分かる事だから。 石川:じゃあ…もういいだろう?あとは裁判でも何でもして…ひき逃げ犯として裁いたらいいじゃないか! 和久井:そうだね。 石川:じゃあ私はこれで… 和久井:ねぇ君、血液型はA型だよね? 石川:は?…そうだが… 和久井:良かった。僕はO型だから万が一にも可能性がなかったんだ。 石川:何言ってる? 和久井:冨樫重工はあとでゆっくり炙り出すとして、僕は急いでやらなくちゃならないことがある。裁判でお前を裁くなんてぬるい事じゃなく… 和久井:俺がお前を捌くんだよ…パッカーンってね! 石川:っ…!(身の危険を感じ叫びたいが口を塞がれる) 和久井:ごめんね、ちょっと眠っていてね?まぁ…もう起きることはないと思うけどさ。 石川:くっ…(意識を失う) 0: 0: 0:鉄のお好み焼き店。向かいあって黒岩と高守が食事をしている。 高守:まさか石川が逃亡するとは思いませんでした…。だって出頭までしてるんですよ!?それなのに逃亡って…。 黒岩:保証人の冨樫から事情は聞けたが、アイツも石川の行方が分からず焦ってるみたいだったな。 高守:逃亡は冨樫社長の指示ってわけじゃないんですよね…。 黒岩:あぁ、恐らくな。石川が逃げたのは失態だが、冨樫を洗ういい機会にはなったわな。安藤警視正も、石川逃亡の汚名を冨樫重工の贋作コレクションの闇を暴くことで返上しようとやっきだ。 高守:本当に己の保身しか考えてない人ですね…。 黒岩:おおかた政治のお偉いさんが、贋作コレクションに目を向けさせて、自分たちは何も知らなかったを決め込むことにしたんだろうさ。 高守:なるほど。そうすれば安藤警視正が冨樫重工を追い詰めてもお咎め無しってことですもんね。 黒岩:あぁ(茶をすする) 高守:あ!そー言えば! 黒岩:なんだ?飯は静かに食え。 高守:失礼しました!あの、蓮見花織さんですが、肝臓移植のドナーが見つかったそうなんです! 黒岩:……ふん(相槌) 高守:良かったです!贋作の件についても、事情聴取に応じてくれるって。…やっぱり罪には問われるんでしょうか… 黒岩:詐欺…いや、どうなんだろうな。冨樫に本物として売りつけたわけじゃねぇだろうし…。 高守:冨樫が美術館に飾るって知らなければ、10年以下の懲役か、1000万円以下の罰金ってとこでしょうかね。 黒岩:恐らくな。 高守:懲役刑の場合、和久井さんは待ってくれますかね? 黒岩:待つだろ。あのボンは執念深ぇ。アイツにはすでに出所するのを待ってるやつがいるしな。 高守:犯罪者に愛されるオトコですねー。 黒岩:やつが犯罪を愛してるからだろ。 高守:ええ?黒岩さん、和久井さんはまだ犯罪は犯してませんよ? 黒岩:どーだかな…。 高守:さぁ!これ食べ終わったら石川の逃亡先の目星つけましょう!絶対見つけてやりましょうね!刑事の名にかけて! 0:静かに目を伏せ、茶をすする黒岩 黒岩:俺はとんでもねぇ犯罪に気づいてないのかもな…。 高守:え?気づいてないのかもってことは、気づいてるんじゃないですか? 黒岩:…全ては推論の域を出ねぇ話だよ。今はな。 0:おわり