台本概要

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タイトル 朗読屋シリーズ「鏡と花売り」
作者名 月儚(つくも)レイ  (@rose_moon44)
ジャンル ファンタジー
演者人数 1人用台本(不問1)
時間 20 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 「おや?いらっしゃいませ。ふふ、私はしがない朗読屋。ここへ訪れたお客様にぴったりのお話をご用意して、お導きさせていただいております…あなた様には、こちらなどいかかでしょうか」

本を朗読するような、不思議な世界観の1人読み、朗読台本になります。

性別は不問なので、性別を気にせずどなたでもお手にとっていただけると嬉しいです。

朗読の際のお時間のほうは10分前後ほどかと思います。

こちらのシリーズは朗読屋シリーズとして書かせていただいているので、ぜひ他の作品も読んでいただければと思います。

ご利用の報告は強制ではありませんが、ご連絡いただけますと非常に嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
朗読屋 不問 - 主人公、語り手。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
(語り口調): 0: 0: 0:おや…ようこそお越しくださいました。 0:ここに来られたということは…お話をご所望でございますね? 0:ふふ、そのように不思議そうなお顔をなさらずに…。 0:ここは求める者だけが来られる秘密の場所。 0:すでにあなた様にぴったりのお話をご用意してあります。 0:さぁ、どうかお気を楽にして… 0:煩わしいことは忘れ、しばしお話の世界へと酔いしれてくださいませ。 0:それでは…わたくしめがお導きさせていただきますね。 0:  (朗読口調): 0:  0: 0:「鏡と花売り」 0:  0: 0:とある街に、リリシアとヘレナという花売りの女性がおりました。 0:この二人は幼い頃からずっと仲のよい友人同士で、決して裕福ではない暮らしの中、励まし合って花売りをしておりました。 0:リリシアの方は少々勝気でおてんばなところがあり、大人しいヘレナがその後をついてゆき、時にたしなめるという… 0:性格は正反対ながらも相性のよい二人はいつも一緒でした。 0:そんな年頃の二人の乙女が思いを馳せるのは、やはり素敵な王子様が自分たちを迎えにくること… 0:素敵な恋をすることを夢見ているのです。 0:そうして、乙女二人でお話をしていると気付けば今日も日暮れが近付いています。 0:あまり減ってないカゴを持ち、二人は手を振りそれぞれの家へと帰ってゆきます。 0: 0:はぁ…とため息をつくのはリリシア。 0:ヘレナと居る時は元気いっぱいですが、こうして一人になると… 0:売れ残ったカゴの重さが腕に響き、貧しく刺激のない暮らしにため息がでてしまうのです。 0:近くの民家の前に立ち止まり、窓を見ると自分が映っています。 0: リリシア:「もっと美しければ…この世界も違うものになっていたのかしら…」 0: 0: 0:リリシアがそう、誰にでもなく呟いた時… 0: ???:「もし、そこのお嬢さん…」 0: 0: 0:リリシアは誰かに声をかけられました。 0:突然のことにリリシアはびくっと身体を震わせます。 0:おそるおそる視線をむけると、いつの間にか扉の前に青年が立っていて、リリシアの方を見てニコニコしています。 0: 青年:「なにか、気になったものでもございましたか?」 0: 0: 0:青年の言葉に不思議そうにするリリシア。 0:よく見ると、ここは民家ではなく何かのお店のようでした。 0:こんなところにお店なんかあったかしら…と思うも… 0:窓に映る自分を眺めていただけだなんて言えるわけもなく、少し頬を赤くしてうろたえます。 0: 青年:「ふふふ、そんなに緊張なさらないで。どうぞ、中でゆっくり御覧になってください。ちょうどいい物が入ったんですよ。」 0: 0: 0:青年はうろたえるリリシアに優しい微笑みをむけ、中へ入るようにと誘います。 0:リリシアはあたふたと戸惑いつつも、どこか不思議な魅力の溢れる青年の笑みに逆らうことができず、促されるままに店の中へと入ります。 0:店の中に入ったリリシアはその光景に目を輝かせます。 0:店内にはたくさんの鏡が並んでいました。 0:見たことのない、まるで宝石のように美しく輝く神秘的な鏡だらけの世界にリリシアはうっとりしてしまいます。 0:どうして外から眺めた時に気付かなかったのか、不思議になるくらいに素敵な光景でした。 0: 青年:「ウチは各国の鏡を取り扱うお店でしてね…」 0: 0: 0:目を輝かせて店内を見渡すリリシアに、青年は相変わらずニコニコした顔で声をかけます。 0: 青年:「さて…こちらがお嬢さんにお勧めしたい、入ったばかりのおもしろい鏡です。」 0: 0: 0:青年は奥のほうから大きな姿見を持ってきました。 0:不思議な装飾の施された鏡には…何も映っていませんでした。 0: リリシア:「とても綺麗だけれど…でも、この鏡には何も映らないわ。」 0: 0: 0:不思議そうに言うリリシアに、青年は楽しげにこう答えます。 0: 青年:「この姿見は特別な鏡でしてね…普段は何も映さない。けれど、持ち主の望む姿だけを映すという不思議な鏡なのですよ。」 0: 0: 0:青年の言葉にリリシアは怪訝(けげん)そうな顔を浮かべます。 0:おとぎ話じゃあるまいし、そんな魔法のような話があるものか、とリリシアは少し頬を膨らませます。 0: 青年:「では…そのカゴの花を一輪、僕に下さいませんか?」 0: 0: 0:青年は相変わらずニコニコしてリリシアのカゴを指さします。 0:未だ怪訝そうなリリシアですが、どうせ売れ残った花だと思い、花を一輪青年に手渡しました。 0: 青年:「ありがとうございます。では…もう一度鏡をご覧になってみてください。ご自分の願望をイメージしてくださいね。」 0: 0: 0:青年に言われるがまま、鏡を除き込んでみると… 0: 0:その光景にリリシアはあっと声を漏らしました。 0:そこにはとても綺麗な女性が、今の自分と同じ表情や姿をして立っていたのです。 0: 青年:「それは貴女が望む貴女…そしてこの鏡は、実現できる願望しか映しません…貴女はそのお姿になれるということです。」 0: 0: 0:リリシアは鏡に映る姿にうっとりとしてしまいます。 0: 青年:「お気に召していただけましたか?僕もこの鏡は、貴女に相応しいと思うのですよ。」 0: 0: 0:そう声をかける青年の言葉に答えようとしましたが…今の自分にそんなお金はなく、リリシアはまたため息をつきます。 0:そして、自分はこんな鏡を買える身分ではない、と青年に言います。 0: 青年:「ふふ、何をおっしゃるのです。お代ならもういただきましたよ。」 0: 0: 0:青年はさきほどリリシアから受け取った花を持ち、ニコニコしています。 0: 青年:「鏡は、貴女の望む姿を映した…。その鏡はもう、貴女のものです。」 0: 0: 0:あんな花一輪で…? 0:リリシアは目を丸くしましたが、やがてこのような魔法の鏡を手に入れられた事に感激します。 0: 青年:「ふふ。さて、お嬢さんにこの鏡を持ち帰るのは難しいでしょう。馬車でお家まで送って差し上げますね。」 0: 0: 0:はしゃぐリリシアに優しくそう言うと、青年は馬車に鏡とリリシアを乗せて出発するのでした。 0: 0:辺りもすっかり暗くなった頃、馬車はリリシアの家へ到着しました。 0:青年は鏡を部屋へと運び込むと… 0: 青年:「そうそう…繊細な鏡ですので、くれぐれもお取り扱いにはご注意を…」 0: 0: 0:そう言い残して去っていきました。 0:部屋に残されたリリシアと鏡… 0:リリシアが覗き込むと、そこには店で見たのと同じ、美しいリリシアが映っているのでした。 0: 0:それから数日後… 0:一人の花売りの噂で街は持ち切りでした。 0:とても美しい花売りの女性…リリシアはすっかり町の人気者になっていたのです。 0:リリシアは鏡に映った自分になろうと、化粧品や、洋服、アクセサリーに蓄えをつぎ込み… 0:ついに鏡の自分となったのでした。 0:リリシアのまわりには常に人がいて、花も飛ぶように売れてゆきます。 0:しかし… 0:仲良しのヘレナが一体どうしたのかと尋ねても、リリシアはいつもはぐらかすばかり。 0:それどころか、リリシアはあまりヘレナの相手をすることはなくなり… 0:ヘレナは友人の躍進を嬉しく思いつつ、寂しい思いをしていました。 0: 0:そんなある日のこと… 0: ??:「すみません、花を売っていただけませんか?」 0: 0:またお客が来た、とリリシアが振り返ると… 0:貴族と思われる、高貴な出で立ちの青年が立っていました。 0:その美しい姿に、リリシアは目を奪われたのですが… 0:青年が声をかけたのは、ヘレナだったです。 0:ニコニコと笑いあう二人。 0:リリシアのほうになど目もくれず、青年とヘレナは楽しそうに語り合っています。 0:リリシアは二人のほうを見つめ、ぎりっと唇を噛み締めました。 0:  0:それからというもの、貴族の青年は毎日ヘレナの元へと通いました。 0:どんどん親しくなっていく二人…。 0:リリシアはなんとか青年を振りむかせようと鏡にどんどん新しい姿を映し、美しさに磨きをかけて声をかけるものの… 0:青年はリリシアなど相手にせず、ヘレナの元へ通い続けます。 0:悔しくて仕方のないリリシアはとにかく散財をして、狂ったように自分に磨きをかけてゆきます。 0: 0:しかし… 0:その鬼気迫る様子に、だんだんと人々はリリシアから離れていってしまいました。 0: 0:そしてリリシアの財産も底をつきかけたある日、ヘレナはリリシアに声をかけます。 0:一体、どうしてしまったのかと…。 0:しかし、憐みを向けられたと腹を立てたリリシアはヘレナを突き飛ばしてしまいます。 0:ヘレナは転倒し、花も辺りに散らばってしまいました。 0:すると涙を流して花を集めるヘレナの元へ、ちょうど貴族の青年がやってきて、慌ててヘレナを支えます。 0:そして青年はリリシアのほうへ冷たい視線を向けると… 0: 貴族:「貴女と言う人は、本当に醜い人だ…!!」 0: 0: 0:と、言い放ちました。 0:その言葉を受け…リリシアはショックのあまり、逃げるように自宅へと駆け出しました。 0: 0:部屋に飛び込んだリリシアは鏡へすがりつき… 0:もっと、もっと美しくなりたいと叫びました。 0:しかし… 0:鏡はもう、なにも映しません。 0:リリシアがどんなに泣き叫んでも、鏡がなにかを映すことはありませんでした。 0:半狂乱となったリリシアは怒りに任せて机に置いてあった花瓶を鏡へ投げつけました。 0:すると鏡は粉々に割れて、その破片がリリシアを襲います。 0:鏡の破片は無慈悲にもリリシアの顔までも切り裂いてしまいました。 0:粉々になった破片の1枚1枚にはリリシアの血にまみれた顔が映し出され… 0:リリシアは喉が潰れるほどに悲鳴を上げたのでした。 0: 0:あれから… 0:この町でリリシアを見た者も、噂を聞いた者もいませんでした。 0:リリシアが行方不明になり、ヘレナは大層心配し、心を痛めました。 0: 0:心配で心配で居てもたってもいられなくなったヘレナは、ある日リリシアの家を訪ねました。 0:するとリリシアの家の近くに馬車が止まっていて、一人の青年が鏡を運んでいました。 0:青年とヘレナがすれ違うとき、ヘレナは思わず声を漏らしてしまいました。 0:青年が運んでいる鏡は、真っ赤だったのです。 0:しかし、もう一度鏡を見た時、その鏡は真っ赤どころか何も映してはいませんでした。 0:声を漏らしてしまい固まっているヘレナと、青年の目が合います。 0:氷のように冷たい目をした青年は、しばらくヘレナと見つめ合うとこう呟きました。 0: 青年:「貴女は駄目だ。美しすぎる。」 0: 0: 0:そしてヘレナが聞き返す暇もなく、青年は鏡を馬車に乗せて立ち去ってしまいました。 0:はっと我に返ったヘレナはそっとリリシアの家の扉をあけ、中に入ります。 0: 0:財産も底をつき、主も失ったリリシアの家はガランとしていました。 0:部屋にあるのは粗末な机と、床で割れてしまっている花瓶と…枯れ果てた花だけ。 0: ヘレナ:「リリシア…どこへ行ってしまったの…」 0: 0: 0:ヘレナはその、あまりにも寂しい光景に膝をつき、泣き崩れてしまうのでした…。 0: 0: (語り口調): 0: 0: 0:ご清聴、ありがとうございます。 0:リリシア嬢はどこへ行ったのか… 0:鏡売りの青年やあの鏡は、なんだったのか… 0:そして、美とは一体、なんなのか…。 0:リリシアという女性は…果たして美しかったのでしょうか?醜かったのでしょうか? 0:それは鏡が映し出すモノのように、見る人によって違うのかもしれません。 0:あぁ…ふふ、あなた様はもちろん、お美しいですとも。 0:さて…それでは、あなた様もどうか鏡に囚われることなく… 0:またこうしてお目にかかれることを願っておりますよ。 0:ご機嫌、麗しゅう…ふふふ。 0: 0: 0:(終)

(語り口調): 0: 0: 0:おや…ようこそお越しくださいました。 0:ここに来られたということは…お話をご所望でございますね? 0:ふふ、そのように不思議そうなお顔をなさらずに…。 0:ここは求める者だけが来られる秘密の場所。 0:すでにあなた様にぴったりのお話をご用意してあります。 0:さぁ、どうかお気を楽にして… 0:煩わしいことは忘れ、しばしお話の世界へと酔いしれてくださいませ。 0:それでは…わたくしめがお導きさせていただきますね。 0:  (朗読口調): 0:  0: 0:「鏡と花売り」 0:  0: 0:とある街に、リリシアとヘレナという花売りの女性がおりました。 0:この二人は幼い頃からずっと仲のよい友人同士で、決して裕福ではない暮らしの中、励まし合って花売りをしておりました。 0:リリシアの方は少々勝気でおてんばなところがあり、大人しいヘレナがその後をついてゆき、時にたしなめるという… 0:性格は正反対ながらも相性のよい二人はいつも一緒でした。 0:そんな年頃の二人の乙女が思いを馳せるのは、やはり素敵な王子様が自分たちを迎えにくること… 0:素敵な恋をすることを夢見ているのです。 0:そうして、乙女二人でお話をしていると気付けば今日も日暮れが近付いています。 0:あまり減ってないカゴを持ち、二人は手を振りそれぞれの家へと帰ってゆきます。 0: 0:はぁ…とため息をつくのはリリシア。 0:ヘレナと居る時は元気いっぱいですが、こうして一人になると… 0:売れ残ったカゴの重さが腕に響き、貧しく刺激のない暮らしにため息がでてしまうのです。 0:近くの民家の前に立ち止まり、窓を見ると自分が映っています。 0: リリシア:「もっと美しければ…この世界も違うものになっていたのかしら…」 0: 0: 0:リリシアがそう、誰にでもなく呟いた時… 0: ???:「もし、そこのお嬢さん…」 0: 0: 0:リリシアは誰かに声をかけられました。 0:突然のことにリリシアはびくっと身体を震わせます。 0:おそるおそる視線をむけると、いつの間にか扉の前に青年が立っていて、リリシアの方を見てニコニコしています。 0: 青年:「なにか、気になったものでもございましたか?」 0: 0: 0:青年の言葉に不思議そうにするリリシア。 0:よく見ると、ここは民家ではなく何かのお店のようでした。 0:こんなところにお店なんかあったかしら…と思うも… 0:窓に映る自分を眺めていただけだなんて言えるわけもなく、少し頬を赤くしてうろたえます。 0: 青年:「ふふふ、そんなに緊張なさらないで。どうぞ、中でゆっくり御覧になってください。ちょうどいい物が入ったんですよ。」 0: 0: 0:青年はうろたえるリリシアに優しい微笑みをむけ、中へ入るようにと誘います。 0:リリシアはあたふたと戸惑いつつも、どこか不思議な魅力の溢れる青年の笑みに逆らうことができず、促されるままに店の中へと入ります。 0:店の中に入ったリリシアはその光景に目を輝かせます。 0:店内にはたくさんの鏡が並んでいました。 0:見たことのない、まるで宝石のように美しく輝く神秘的な鏡だらけの世界にリリシアはうっとりしてしまいます。 0:どうして外から眺めた時に気付かなかったのか、不思議になるくらいに素敵な光景でした。 0: 青年:「ウチは各国の鏡を取り扱うお店でしてね…」 0: 0: 0:目を輝かせて店内を見渡すリリシアに、青年は相変わらずニコニコした顔で声をかけます。 0: 青年:「さて…こちらがお嬢さんにお勧めしたい、入ったばかりのおもしろい鏡です。」 0: 0: 0:青年は奥のほうから大きな姿見を持ってきました。 0:不思議な装飾の施された鏡には…何も映っていませんでした。 0: リリシア:「とても綺麗だけれど…でも、この鏡には何も映らないわ。」 0: 0: 0:不思議そうに言うリリシアに、青年は楽しげにこう答えます。 0: 青年:「この姿見は特別な鏡でしてね…普段は何も映さない。けれど、持ち主の望む姿だけを映すという不思議な鏡なのですよ。」 0: 0: 0:青年の言葉にリリシアは怪訝(けげん)そうな顔を浮かべます。 0:おとぎ話じゃあるまいし、そんな魔法のような話があるものか、とリリシアは少し頬を膨らませます。 0: 青年:「では…そのカゴの花を一輪、僕に下さいませんか?」 0: 0: 0:青年は相変わらずニコニコしてリリシアのカゴを指さします。 0:未だ怪訝そうなリリシアですが、どうせ売れ残った花だと思い、花を一輪青年に手渡しました。 0: 青年:「ありがとうございます。では…もう一度鏡をご覧になってみてください。ご自分の願望をイメージしてくださいね。」 0: 0: 0:青年に言われるがまま、鏡を除き込んでみると… 0: 0:その光景にリリシアはあっと声を漏らしました。 0:そこにはとても綺麗な女性が、今の自分と同じ表情や姿をして立っていたのです。 0: 青年:「それは貴女が望む貴女…そしてこの鏡は、実現できる願望しか映しません…貴女はそのお姿になれるということです。」 0: 0: 0:リリシアは鏡に映る姿にうっとりとしてしまいます。 0: 青年:「お気に召していただけましたか?僕もこの鏡は、貴女に相応しいと思うのですよ。」 0: 0: 0:そう声をかける青年の言葉に答えようとしましたが…今の自分にそんなお金はなく、リリシアはまたため息をつきます。 0:そして、自分はこんな鏡を買える身分ではない、と青年に言います。 0: 青年:「ふふ、何をおっしゃるのです。お代ならもういただきましたよ。」 0: 0: 0:青年はさきほどリリシアから受け取った花を持ち、ニコニコしています。 0: 青年:「鏡は、貴女の望む姿を映した…。その鏡はもう、貴女のものです。」 0: 0: 0:あんな花一輪で…? 0:リリシアは目を丸くしましたが、やがてこのような魔法の鏡を手に入れられた事に感激します。 0: 青年:「ふふ。さて、お嬢さんにこの鏡を持ち帰るのは難しいでしょう。馬車でお家まで送って差し上げますね。」 0: 0: 0:はしゃぐリリシアに優しくそう言うと、青年は馬車に鏡とリリシアを乗せて出発するのでした。 0: 0:辺りもすっかり暗くなった頃、馬車はリリシアの家へ到着しました。 0:青年は鏡を部屋へと運び込むと… 0: 青年:「そうそう…繊細な鏡ですので、くれぐれもお取り扱いにはご注意を…」 0: 0: 0:そう言い残して去っていきました。 0:部屋に残されたリリシアと鏡… 0:リリシアが覗き込むと、そこには店で見たのと同じ、美しいリリシアが映っているのでした。 0: 0:それから数日後… 0:一人の花売りの噂で街は持ち切りでした。 0:とても美しい花売りの女性…リリシアはすっかり町の人気者になっていたのです。 0:リリシアは鏡に映った自分になろうと、化粧品や、洋服、アクセサリーに蓄えをつぎ込み… 0:ついに鏡の自分となったのでした。 0:リリシアのまわりには常に人がいて、花も飛ぶように売れてゆきます。 0:しかし… 0:仲良しのヘレナが一体どうしたのかと尋ねても、リリシアはいつもはぐらかすばかり。 0:それどころか、リリシアはあまりヘレナの相手をすることはなくなり… 0:ヘレナは友人の躍進を嬉しく思いつつ、寂しい思いをしていました。 0: 0:そんなある日のこと… 0: ??:「すみません、花を売っていただけませんか?」 0: 0:またお客が来た、とリリシアが振り返ると… 0:貴族と思われる、高貴な出で立ちの青年が立っていました。 0:その美しい姿に、リリシアは目を奪われたのですが… 0:青年が声をかけたのは、ヘレナだったです。 0:ニコニコと笑いあう二人。 0:リリシアのほうになど目もくれず、青年とヘレナは楽しそうに語り合っています。 0:リリシアは二人のほうを見つめ、ぎりっと唇を噛み締めました。 0:  0:それからというもの、貴族の青年は毎日ヘレナの元へと通いました。 0:どんどん親しくなっていく二人…。 0:リリシアはなんとか青年を振りむかせようと鏡にどんどん新しい姿を映し、美しさに磨きをかけて声をかけるものの… 0:青年はリリシアなど相手にせず、ヘレナの元へ通い続けます。 0:悔しくて仕方のないリリシアはとにかく散財をして、狂ったように自分に磨きをかけてゆきます。 0: 0:しかし… 0:その鬼気迫る様子に、だんだんと人々はリリシアから離れていってしまいました。 0: 0:そしてリリシアの財産も底をつきかけたある日、ヘレナはリリシアに声をかけます。 0:一体、どうしてしまったのかと…。 0:しかし、憐みを向けられたと腹を立てたリリシアはヘレナを突き飛ばしてしまいます。 0:ヘレナは転倒し、花も辺りに散らばってしまいました。 0:すると涙を流して花を集めるヘレナの元へ、ちょうど貴族の青年がやってきて、慌ててヘレナを支えます。 0:そして青年はリリシアのほうへ冷たい視線を向けると… 0: 貴族:「貴女と言う人は、本当に醜い人だ…!!」 0: 0: 0:と、言い放ちました。 0:その言葉を受け…リリシアはショックのあまり、逃げるように自宅へと駆け出しました。 0: 0:部屋に飛び込んだリリシアは鏡へすがりつき… 0:もっと、もっと美しくなりたいと叫びました。 0:しかし… 0:鏡はもう、なにも映しません。 0:リリシアがどんなに泣き叫んでも、鏡がなにかを映すことはありませんでした。 0:半狂乱となったリリシアは怒りに任せて机に置いてあった花瓶を鏡へ投げつけました。 0:すると鏡は粉々に割れて、その破片がリリシアを襲います。 0:鏡の破片は無慈悲にもリリシアの顔までも切り裂いてしまいました。 0:粉々になった破片の1枚1枚にはリリシアの血にまみれた顔が映し出され… 0:リリシアは喉が潰れるほどに悲鳴を上げたのでした。 0: 0:あれから… 0:この町でリリシアを見た者も、噂を聞いた者もいませんでした。 0:リリシアが行方不明になり、ヘレナは大層心配し、心を痛めました。 0: 0:心配で心配で居てもたってもいられなくなったヘレナは、ある日リリシアの家を訪ねました。 0:するとリリシアの家の近くに馬車が止まっていて、一人の青年が鏡を運んでいました。 0:青年とヘレナがすれ違うとき、ヘレナは思わず声を漏らしてしまいました。 0:青年が運んでいる鏡は、真っ赤だったのです。 0:しかし、もう一度鏡を見た時、その鏡は真っ赤どころか何も映してはいませんでした。 0:声を漏らしてしまい固まっているヘレナと、青年の目が合います。 0:氷のように冷たい目をした青年は、しばらくヘレナと見つめ合うとこう呟きました。 0: 青年:「貴女は駄目だ。美しすぎる。」 0: 0: 0:そしてヘレナが聞き返す暇もなく、青年は鏡を馬車に乗せて立ち去ってしまいました。 0:はっと我に返ったヘレナはそっとリリシアの家の扉をあけ、中に入ります。 0: 0:財産も底をつき、主も失ったリリシアの家はガランとしていました。 0:部屋にあるのは粗末な机と、床で割れてしまっている花瓶と…枯れ果てた花だけ。 0: ヘレナ:「リリシア…どこへ行ってしまったの…」 0: 0: 0:ヘレナはその、あまりにも寂しい光景に膝をつき、泣き崩れてしまうのでした…。 0: 0: (語り口調): 0: 0: 0:ご清聴、ありがとうございます。 0:リリシア嬢はどこへ行ったのか… 0:鏡売りの青年やあの鏡は、なんだったのか… 0:そして、美とは一体、なんなのか…。 0:リリシアという女性は…果たして美しかったのでしょうか?醜かったのでしょうか? 0:それは鏡が映し出すモノのように、見る人によって違うのかもしれません。 0:あぁ…ふふ、あなた様はもちろん、お美しいですとも。 0:さて…それでは、あなた様もどうか鏡に囚われることなく… 0:またこうしてお目にかかれることを願っておりますよ。 0:ご機嫌、麗しゅう…ふふふ。 0: 0: 0:(終)