台本概要

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タイトル 零の恐怖書庫 第1夜「浴室にて…」
作者名 月儚(つくも)レイ  (@rose_moon44)
ジャンル ホラー
演者人数 1人用台本(女1)
時間 10 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 「いつも通りの、幼い妹の可愛いいたずら…のはずだった…。」

1人読み朗読台本の怪談シリーズ「零の恐怖書庫」第1夜となります。

怪談語りのようなホラー作品となります。ホラーが苦手な方はご注意くださいませ。

朗読の際のお時間のほうは10分前後ほどかと思います。

ご利用の報告は強制ではありませんが、ご連絡いただけますと非常に嬉しいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
11 主人公、語り手。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
                 「浴室にて…」      0: 0:  0:私には歳の離れた小さな妹がいる。 0:誰に似たのかわんぱくな性格で、いたずらばかりする子。 0:けれど歳がかなり離れているいるせいか、私はいたずらも可愛く思っていた。 0:そんな妹は、どうにも私がシャワーを浴びている時、お風呂のドアを叩くことが最近のお気に入りらしい。 0:あの日の恐怖は、そんな可愛いいたずらから始まった。 0:   0:学校から帰り、夕食を済ませた私は1日の疲れを流すため、お風呂場へと向かった。 0:湯舟に深く浸かり、身体を伸ばしてゆっくりと疲れをとっていく。 0:さて、と湯舟から上がり、シャワーの蛇口をひねる。 0:   0:ザーーーー……っと流れるシャワーで髪の毛を洗う。 0:髪を濡らし始めてすぐに… 0:  0:ドン、ドン、ドン、ドン 0:   0:扉を叩く音が背後からした。やれやれ、妹のお遊びがはじまったようだ。 0:  私:「こーーーら!」 0: 0: 0:髪を洗ったまま、扉のほうへふざけた様子で声をかけてやる。 0:キャッキャ、とはしゃぐ声がドタドタと足音を立てて遠ざかる。 0:こんなところも、まだまだ可愛い年ごろだなぁと思いつつ私は再び髪を洗う。 0:   0:ドン、ドン、ドン、ドン 0:   0:ほとんど間を置かずに背後から扉を叩く音がする。また来たようだ。 0:  私:「こらっ!悪い子にはシャワーのお湯をかけちゃうよ!」 0: 0: 0:再び、はしゃぐ声とドタドタと騒がしい足音。 0:こんなやり取りが何度か続くのが最近の日常だった。 0:   0:ドン、ドン、ドン、ドン 0:  0:にしても、今日はやけにしつこい。 0:可愛いとはいえ、さすがに少し疲れてきた。 0:  私:「こらこら、そろそろやめないと怒るよ!」 0: 0: 0:少し制するように言うとシン…と音がやんだ。 0:足音と声がしない。 0:落ち込ませてしまったんだろうか。 0:様子を見ようとして振り返ろうとすると… 0:    0:パチン… 0:   0:スイッチを押すような音と一緒に、ふっと電気が消えた。 0:脱衣所の電気まで消されたようで真っ暗になる。 0:さすがに私もびくっとした。 0:こんないたずらは初めてだった。 0:  私:「え!?ちょっと!電気消すのはやめてよ!」 0: 0: 0:シャワーを止め、電気をつけようと振り返った。 0:人影が見える。妹はまだいるようだ。 0:やれやれ、と思った瞬間だった。 0:すぐに違和感に気付いて動きを止める…。 0:そもそも小さな妹は背伸びをしたって電気のスイッチには届かないはず。 0:それにこのお風呂場は真っ暗なはずなのにどうして人影が見えるのか…。 0:   0:途端にゾクッと全身を悪寒が走り抜けた。 0:  私:(何これ、どういうこと?) 0: 0: 0:恐る恐る見つめると、人影は暗闇の中なのになぜかはっきり見える。 0:  0:そして気付いてしまった。 0:  私:(これ、もしかして…中にいる…?) 0: 0:   0:身体がガクガクと震える。 0:この人影のようなモノは、扉の向こうじゃなく私のすぐ傍にいる。 0:人影ではなく、真っ黒な何かがいる…。 0:人じゃない、ヤバイモノだってこともなんとなくわかる…。 0:  私:(なんなのコイツ!?こわい…!どうしよう、どうしよう、どうしよう!!) 0: 0: 0:悲鳴をあげようにも、怖くて声すら出てこない。 0:逃げ出そうにも、扉の前にはアレがいるので出られない。 0:けれどこの黒い何かから少しでも離れたい。 0: 0:行き場のない私は、とにかく黒い何かから逃げるように湯舟へと飛び込んでぎゅっと目を閉じた。 0:目を閉じてほどなく、湯舟のお湯が異様に冷たくなった気がした。 0:あの黒い何かが入ってきたんじゃないだろうかと嫌な予感がする。 0:慌てて上がろうとしたが、引きずられるように湯舟に沈んでしまう。 0:どんどん、湯舟の中が真っ黒になっていく。 0:暗いせいではなく、本当にお湯が真っ黒に染まっていっている。 0:必死にもがこうとしたが、まるで全身を抱きしめられているかのように身体が動かない。 0:  私:(いやだ…!このままじゃ…助けて!!) 0: 0: 0:湯舟にいるはずなのにとても寒い。凍えそうだ…息も苦しくなってきた。 0:どうしようもないまま動けないでいると、真っ黒になった湯舟に何かがふっと浮かんだ。 0:それはゆっくりと何かを形どっていく。 0:  私:(ダメ…見るな…見るな…!) 0: 0: 0:本能的にこれはだめだ、と思い再びきつく目を閉じる。 0:けれど何か…とても強い視線のようなものを感じる。 0:呼吸ももう、限界が近い。 0:私は、たまらず目を開いた。 0:    0:目の前には真っ白の無表情な顔がぼんやりと浮かんでいた…。 0:男なのか女なのかはわからなかった。たぶん女…だった気もする。 0:異様に大きくて真っ黒な目がじっ、と私を見つめていた…。 0:じわり、じわりと、近づいても来ている…。 0:   0:気を失ってしまいそうな未経験の恐怖が私を襲う。 0:このままでは本当に死んでしまう、本能的にそう感じた。  0:気絶しそうになるのをなんとか耐え、私はありったけの力を振り絞った。 0:今まで使ったことのない筋肉も使った気がする。 0:とにかく必死だった。 0:必死の抵抗のおかげか、身体がようやく動いてくれた。 0:私はもう何も考えることもできず、湯舟から飛び出してリビングへと脱兎(だっと)のごとく駆け出した。 0:    0:リビングに飛び込むとテレビを見てくつろいでいる母と、ソファでうたた寝をしている妹がいた。 0:  母:「えぇ…ちょ、ちょっと、なんなのよ?あっ!もう、そんなにびしょびしょのままで!なにやってんの!」 0: 0: 0:身体を拭きもせず、床をびしょびしょにしながら飛び込んできた私を怪訝(けげん)そうに母が見ている。 0:私は急に涙が溢れて来て、母に抱き着いて泣いた。 0:わけがわからないという様子の母になだめられながら、今起きたことを話した。 0:  母:「うーん。ずっとこの家で暮らしてるけどそんなこと初めてだし…うたた寝でもして寝ぼけたんじゃないの?」 0: 0: 0:私のただならない様子に一応真面目に話は聞くものの、やはり信用できないらしい。 0:無理もない。こうして落ち着いてくると、あまりに非現実的すぎてじつは夢だったんじゃないか、と我ながら思う。 0:けれどこの身体の痛みと、あの生々しい視線の感触が現実のことだと私に言っている気がした。 0:    0:結局、どうにも納得しない様子の母が、私が止めるのも聞かずにお風呂場の様子を見に行った。 0:びしょびしょの廊下を見てブツブツ言う母の後ろを少し離れてついていく。 0:電気がついたままになっている。 0:私は電気もつけず逃げ出したはずなのに…。 0:   母:「やっぱり何もないじゃない…湯舟だって普通の色だし…。夢でも見たのよ。まったく…」 0: 0: 0:ため息交じりに言う母の後ろから、浴室の様子を見る。 0:湯舟は真っ黒どころか綺麗な入浴剤の色をしていた。 0:浴槽も綺麗なまま。あの恐怖の痕跡(こんせき)はどこにもない。 0:どう見ても、平凡ないつもの浴室だった。 0:  私:(そんな…。やっぱり夢、だったのかな…。) 0: 0: 未だ生々しい感触を身体が覚えているものの、この平凡な風景を見ているとやはり夢のような気もしてくる。 0:  私:(きっと、疲れてたんだ…。うん、きっとそう…。) 0: 0: 0:もう忘れよう…。夢であったならそれにこしたことはない。 0:ぶつぶつ言いながら湯舟の栓を抜き、片付けをしだした母に背を向けた時だった…。 0: 母:「えっ!?うわ…どういうこと…!?なによこれ…気持ち悪い!」 0: 0: 0:母の悲鳴のような声が聞こえ、慌てて振りかえってみると…。 0:  0:    0:そこには… 0:排水溝の栓の下から溢れ出てきているような、真っ黒な長い髪の束のようなものを手に取り、顔を青くしている母の姿があった…。 0: 0: 0:(終)

                 「浴室にて…」      0: 0:  0:私には歳の離れた小さな妹がいる。 0:誰に似たのかわんぱくな性格で、いたずらばかりする子。 0:けれど歳がかなり離れているいるせいか、私はいたずらも可愛く思っていた。 0:そんな妹は、どうにも私がシャワーを浴びている時、お風呂のドアを叩くことが最近のお気に入りらしい。 0:あの日の恐怖は、そんな可愛いいたずらから始まった。 0:   0:学校から帰り、夕食を済ませた私は1日の疲れを流すため、お風呂場へと向かった。 0:湯舟に深く浸かり、身体を伸ばしてゆっくりと疲れをとっていく。 0:さて、と湯舟から上がり、シャワーの蛇口をひねる。 0:   0:ザーーーー……っと流れるシャワーで髪の毛を洗う。 0:髪を濡らし始めてすぐに… 0:  0:ドン、ドン、ドン、ドン 0:   0:扉を叩く音が背後からした。やれやれ、妹のお遊びがはじまったようだ。 0:  私:「こーーーら!」 0: 0: 0:髪を洗ったまま、扉のほうへふざけた様子で声をかけてやる。 0:キャッキャ、とはしゃぐ声がドタドタと足音を立てて遠ざかる。 0:こんなところも、まだまだ可愛い年ごろだなぁと思いつつ私は再び髪を洗う。 0:   0:ドン、ドン、ドン、ドン 0:   0:ほとんど間を置かずに背後から扉を叩く音がする。また来たようだ。 0:  私:「こらっ!悪い子にはシャワーのお湯をかけちゃうよ!」 0: 0: 0:再び、はしゃぐ声とドタドタと騒がしい足音。 0:こんなやり取りが何度か続くのが最近の日常だった。 0:   0:ドン、ドン、ドン、ドン 0:  0:にしても、今日はやけにしつこい。 0:可愛いとはいえ、さすがに少し疲れてきた。 0:  私:「こらこら、そろそろやめないと怒るよ!」 0: 0: 0:少し制するように言うとシン…と音がやんだ。 0:足音と声がしない。 0:落ち込ませてしまったんだろうか。 0:様子を見ようとして振り返ろうとすると… 0:    0:パチン… 0:   0:スイッチを押すような音と一緒に、ふっと電気が消えた。 0:脱衣所の電気まで消されたようで真っ暗になる。 0:さすがに私もびくっとした。 0:こんないたずらは初めてだった。 0:  私:「え!?ちょっと!電気消すのはやめてよ!」 0: 0: 0:シャワーを止め、電気をつけようと振り返った。 0:人影が見える。妹はまだいるようだ。 0:やれやれ、と思った瞬間だった。 0:すぐに違和感に気付いて動きを止める…。 0:そもそも小さな妹は背伸びをしたって電気のスイッチには届かないはず。 0:それにこのお風呂場は真っ暗なはずなのにどうして人影が見えるのか…。 0:   0:途端にゾクッと全身を悪寒が走り抜けた。 0:  私:(何これ、どういうこと?) 0: 0: 0:恐る恐る見つめると、人影は暗闇の中なのになぜかはっきり見える。 0:  0:そして気付いてしまった。 0:  私:(これ、もしかして…中にいる…?) 0: 0:   0:身体がガクガクと震える。 0:この人影のようなモノは、扉の向こうじゃなく私のすぐ傍にいる。 0:人影ではなく、真っ黒な何かがいる…。 0:人じゃない、ヤバイモノだってこともなんとなくわかる…。 0:  私:(なんなのコイツ!?こわい…!どうしよう、どうしよう、どうしよう!!) 0: 0: 0:悲鳴をあげようにも、怖くて声すら出てこない。 0:逃げ出そうにも、扉の前にはアレがいるので出られない。 0:けれどこの黒い何かから少しでも離れたい。 0: 0:行き場のない私は、とにかく黒い何かから逃げるように湯舟へと飛び込んでぎゅっと目を閉じた。 0:目を閉じてほどなく、湯舟のお湯が異様に冷たくなった気がした。 0:あの黒い何かが入ってきたんじゃないだろうかと嫌な予感がする。 0:慌てて上がろうとしたが、引きずられるように湯舟に沈んでしまう。 0:どんどん、湯舟の中が真っ黒になっていく。 0:暗いせいではなく、本当にお湯が真っ黒に染まっていっている。 0:必死にもがこうとしたが、まるで全身を抱きしめられているかのように身体が動かない。 0:  私:(いやだ…!このままじゃ…助けて!!) 0: 0: 0:湯舟にいるはずなのにとても寒い。凍えそうだ…息も苦しくなってきた。 0:どうしようもないまま動けないでいると、真っ黒になった湯舟に何かがふっと浮かんだ。 0:それはゆっくりと何かを形どっていく。 0:  私:(ダメ…見るな…見るな…!) 0: 0: 0:本能的にこれはだめだ、と思い再びきつく目を閉じる。 0:けれど何か…とても強い視線のようなものを感じる。 0:呼吸ももう、限界が近い。 0:私は、たまらず目を開いた。 0:    0:目の前には真っ白の無表情な顔がぼんやりと浮かんでいた…。 0:男なのか女なのかはわからなかった。たぶん女…だった気もする。 0:異様に大きくて真っ黒な目がじっ、と私を見つめていた…。 0:じわり、じわりと、近づいても来ている…。 0:   0:気を失ってしまいそうな未経験の恐怖が私を襲う。 0:このままでは本当に死んでしまう、本能的にそう感じた。  0:気絶しそうになるのをなんとか耐え、私はありったけの力を振り絞った。 0:今まで使ったことのない筋肉も使った気がする。 0:とにかく必死だった。 0:必死の抵抗のおかげか、身体がようやく動いてくれた。 0:私はもう何も考えることもできず、湯舟から飛び出してリビングへと脱兎(だっと)のごとく駆け出した。 0:    0:リビングに飛び込むとテレビを見てくつろいでいる母と、ソファでうたた寝をしている妹がいた。 0:  母:「えぇ…ちょ、ちょっと、なんなのよ?あっ!もう、そんなにびしょびしょのままで!なにやってんの!」 0: 0: 0:身体を拭きもせず、床をびしょびしょにしながら飛び込んできた私を怪訝(けげん)そうに母が見ている。 0:私は急に涙が溢れて来て、母に抱き着いて泣いた。 0:わけがわからないという様子の母になだめられながら、今起きたことを話した。 0:  母:「うーん。ずっとこの家で暮らしてるけどそんなこと初めてだし…うたた寝でもして寝ぼけたんじゃないの?」 0: 0: 0:私のただならない様子に一応真面目に話は聞くものの、やはり信用できないらしい。 0:無理もない。こうして落ち着いてくると、あまりに非現実的すぎてじつは夢だったんじゃないか、と我ながら思う。 0:けれどこの身体の痛みと、あの生々しい視線の感触が現実のことだと私に言っている気がした。 0:    0:結局、どうにも納得しない様子の母が、私が止めるのも聞かずにお風呂場の様子を見に行った。 0:びしょびしょの廊下を見てブツブツ言う母の後ろを少し離れてついていく。 0:電気がついたままになっている。 0:私は電気もつけず逃げ出したはずなのに…。 0:   母:「やっぱり何もないじゃない…湯舟だって普通の色だし…。夢でも見たのよ。まったく…」 0: 0: 0:ため息交じりに言う母の後ろから、浴室の様子を見る。 0:湯舟は真っ黒どころか綺麗な入浴剤の色をしていた。 0:浴槽も綺麗なまま。あの恐怖の痕跡(こんせき)はどこにもない。 0:どう見ても、平凡ないつもの浴室だった。 0:  私:(そんな…。やっぱり夢、だったのかな…。) 0: 0: 未だ生々しい感触を身体が覚えているものの、この平凡な風景を見ているとやはり夢のような気もしてくる。 0:  私:(きっと、疲れてたんだ…。うん、きっとそう…。) 0: 0: 0:もう忘れよう…。夢であったならそれにこしたことはない。 0:ぶつぶつ言いながら湯舟の栓を抜き、片付けをしだした母に背を向けた時だった…。 0: 母:「えっ!?うわ…どういうこと…!?なによこれ…気持ち悪い!」 0: 0: 0:母の悲鳴のような声が聞こえ、慌てて振りかえってみると…。 0:  0:    0:そこには… 0:排水溝の栓の下から溢れ出てきているような、真っ黒な長い髪の束のようなものを手に取り、顔を青くしている母の姿があった…。 0: 0: 0:(終)