台本概要
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タイトル | 零の恐怖書庫 第6夜「幼馴染」 |
---|---|
作者名 | 月儚(つくも)レイ (@rose_moon44) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 1人用台本(女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
「いつぶりかの帰省、変わらない田舎の風景…。そんな私の耳に、懐かしい呼び声が聞こえてきた。」 1人読み朗読台本の怪談シリーズ「零の恐怖書庫」第6夜となります。 怪談語りのようなホラー作品となります。ホラーが苦手な方はご注意くださいませ。 朗読の際のお時間のほうは10分前後ほどかと思います。 ご利用の報告は強制ではありませんが、ご連絡いただけますと非常に嬉しいです。 75 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
私 | 女 | 10 | 主人公、語り手。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:
0:蒸せるように暑い夏のことだった。
0:母方の祖母が高齢のため、いよいよ一人暮らしをすることが難しくなり、田舎の実家を引き払うこととなった。
0:引っ越しの準備や何やらで人手がいるようで、上京して家族とも別で暮らしていた私にもお呼びがかかる。
0:休日を返上しなければならない為、少し憂鬱ではあったものの、祖母には随分と可愛がってもらっていたし、色々と忙しくなって田舎へいくのは子供の頃以来だったりもする。
0:家族と会うのも久々ではあったし、都会の喧騒の疲れからの良い気分転換になると思い、お盆休みを使って合流することにした。
0:
0:当日。
0:早朝から電車を乗り継ぎ、母の実家へと向かう。
0:一人、電車に揺られながら外を眺めていると、だんだんと景色に緑色が増えてくる。
0:幼い頃、家族に連れられて田舎へ向かう時の景色そのままで…
0:時間まで遡っていくような、懐かしくも不思議な感覚をおぼえながら、穏やかな時間を過ごす。
0:
0:そうこう思いを馳せているうちに、うとうとしてしまったようで…
0:目が覚めて、辺りが畑や山などで緑色にすっかりと包まれる頃には、もうお昼をまわっていた。
0:タイミングよく、車内放送が流れる。
0:ちょうど目的の駅に到着するようだ。
0:うーん、と伸びをし、私は電車が駅に滑り込むのを待って、ホームへと降りた。
0:
0:私を迎えたのは心地よい田舎の香りと、容赦なく照り付ける太陽の暑さ、辺り一帯から湧き上がっているような蝉の大合唱。
0:都会の夏とはまったく違う顔をした夏が、私を出迎えた。
0:所々改修はされているものの、やはり見覚えのある駅舎。
0:目の前に広がる田舎道と大自然。
0:記憶にある、大好きだった田舎とほとんど変わりのない姿だ。
0:昼間だというのに、ぜんぜん人のいない道を、懐かしさを噛み締めるように歩いて行く。
0:
0:それにしても暑い。蝉の大合唱が、暑さを更に倍増させている気がする。
0:けれど都会のまとわりつくような暑さとは違い、カラッとした暑さは心地よさもあった。
0:途中、自販機を見つけて立ち止まる。
0:そういえば、小さい頃もここでよく飲み物を買ってもらった気がする。
0:近くのベンチに腰かけ、一息つきながらジュースを飲んでいると……
??:「あれ?なっちゃん?お前…もしかしてなっちゃんか!?」
0:
0:
0:聞き慣れない男性の声に、小さな頃のあだ名を呼ばれた。
0:少しびっくりして、声のした方を見ると、すらっとした筋肉質な、同年代くらいの男性が目を丸くして立っていた。
0:その目元、表情…あの頃とは随分変わってしまったけれど、見覚えがあった。
0:それに、ここで私をそう呼ぶ男の子は一人しかいなかった。
私:「えっ…?あっ…あぁ!!もしかして…かっちゃん!?」
0:
0:
0:かっちゃんというのは、この田舎が地元の男の子だ。夏休みを利用して長期滞在していた子供の頃、田舎に友達がいなかった私とよく遊んでくれた同い年の男の子。
0:すっかり大人の男性にはなっていたものの、人懐っこそうな目とどこかわんぱくさの残った顔には少年の面影があった。
かっちゃん:「やっぱりなっちゃんか!はは!帰ってきてたんだな!すっかり美人になっちまって!何年ぶりだろうなぁ?元気にしてたか?」
0:
0:
私:「かっちゃんこそ、すっかりたくましくなって!元気だったよ!本当に久しぶりだね!覚えててくれて嬉しいなぁ」
0:
0:
0:にかっと歯を見せて笑う顔は、あの頃のかっちゃんのままだった。
0:思いがけない幼馴染との再会に、私はすっかり興奮気味にかっちゃんとしばらく話し込んだ。
0:
0:かっちゃんはずっと田舎で暮らしていて、今は近くの工場で働いているらしかった。
0:この田舎の空気が大好きで、どうしても外に出る気は起きなかったらしい。
0:お互いの近況を話し…小さなころ、一緒にあたりを駆け回った思い出について話して盛り上がり…
0:会話をすればするほど、あの頃の優しくて楽しいかっちゃんのままだった。
かっちゃん:「なっちゃん、全然変わってねぇのな。こんなに綺麗な大人のお姉さんになったのに…俺、なんだか安心しちゃったよ。」
0:
0:
0:かっちゃんも同じことを思ってくれていたようだ。
私:「かっちゃんだって、全然変わってない!あの頃の楽しいかっちゃんのままで嬉しいよ!」
0:
0:
かっちゃん:「へへ、そういわれるとなんだか照れちゃうなぁ…。そうだ、なっちゃん」
0:
0:
0:照れくさそうにヘラヘラと笑うかっちゃんが、ふと何かを思い出したように私見つめる。
私:「うん?なぁに?」
0:
0:
かっちゃん:「こうして話してると、なんだかどんどん懐かしくなってきちまって…昔、よく遊んだ川辺で話さないか?」
0:
0:
0:川辺というのは、私とかっちゃんが毎日のように遊んでいた二人の遊び場だった。
0:川の近くということで大人達はあまりいい顔をしなかったのだが…私たちは、そこで二人で遊ぶのが大好きだった。
私:「あぁ、懐かしい!いいね!!あっ…でも…」
0:
0:
0:気付けばかなり長時間かっちゃんと話していて、時刻は夕方も近くなっている時間だった。
0:祖母の家に到着する予定の時間からはかなり過ぎているし、川辺はここから結構遠かった。
0:今から川辺に向かって、そこから話をしていると日が暮れてしまう。
0:数日は日があるとはいえ、手伝いという名目で来ている以上、初日から約束にあまり遅れるのは心苦しいし、心配もかけてしまう。
私:「ごめん、かっちゃん。今日はそろそろおばあちゃんの家に行かないと…待たせてしまってるし、荷物も…」
0:
0:
0:そう言いかけると…
かっちゃん:「なんで!?いいじゃないか、そんなの!!」
0:
0:
0:急にかっちゃんが大きな声を出したのでびくっとする。
私:「えっ…かっちゃん…?」
0:
0:
かっちゃん:「なっちゃんだって、懐かしい、いいねって言ったじゃないか!なぁ!行こうよ!!」
0:
0:
かっちゃんが、今までに見せたことのない恐ろしい目をして私を見つめている。
そして…声が…きっと気のせいとは思うが、時折、少年の頃のかっちゃんの声のような気がした。
かっちゃんの目をみると、背筋にぞくっと寒いものが走った。
私:「ちょ…ちょっとかっちゃん?一体どうしちゃったの?」
0:
0:
0:小さい頃にも見せたことのないかっちゃんの様子にただただ戸惑う。
かっちゃん:「どうもしねえよ!!それより、なぁ?はやく!!行こうよ!」
0:
0:
0:かっちゃんは駄々っ子のように私の話を聞かず、つかみかかってくる勢いで迫って来る。
私:「わ、わかったよ!でも、とにかく一度おばあちゃんの家に寄って、荷物を置いて…それからでもいいかな?」
0:
0:
かっちゃんの勢いに押されて、私はとにかく一度祖母に事情を話して重たい荷物を置いてからにしたいとかっちゃんに妥協案を提案した。
かっちゃん:「絶対?絶対くるんだな?」
0:
0:
0:かっちゃんがぐいっとのぞき込んでくるように見つめてくる。
0:正直、こわい…。
私:「うん、ちゃんといくから…!」
0:
0:
0:私がそう言うと、ようやくかっちゃんは私を解放してくれた。
0:かっちゃんから逃げるようにして、小走りで祖母の家と向かう。
0:後で向かうとは言ったものの、怖くて仕方がない。
0:いつまでも背後にかっちゃんの視線を感じるような気がしつつ、私は祖母の家へと急いだ。
0:
0:祖母の家が見えてくると、玄関先に祖母が立っていた。
0:祖母は私を見ると、心配そうに駆け寄ってくる。
祖母:「おお、なつ。やっと来たか。心配してたんだよ…お前らしき女の子が駅の近くで、誰の声にも反応せずにずっと一人で何か喋ってるって、さっき近所の人に言われてのう…。」
0:
0:
0:私を出迎えた祖母の言葉は、あまりにもわけのわからない言葉だった。
0:ちなみに、私の家族は渋滞に巻き込まれてまだ到着していないらしい。
0:はっと携帯を見ると、親からの着信やメールがびっしりと溜まっていた。
0:こっちに着いてからは、携帯は鳴らなかったはずなのに…。
0:
0:いろいろなことに混乱しながらも、私は一人ではなくかっちゃんと話していたことを祖母に伝えた。
祖母:「かっちゃん…?…あぁ、あぁ…。田村のところのカツユキかい。何をいってるんだい、なつ…。あぁ、そうか、お前は知らなかったね…カツユキはもう何年も前に死んだんだよ。」
0:
0:
0:祖母がなにを言ってるのかわからなかった。
0:かっちゃんが…死んでる…?
0:とにかく家に上がれという祖母の言葉に従い、家にあがる。
0:
0:祖母が言うには、かっちゃんは小学5年生くらいのころ、一人であの川で遊んでいて足を滑らせ…そのまま流されて亡くなってしまったらしい。
0:かっちゃんの家族の田村家もそれを機にどこかへと引っ越した、とのことだ。
0:ちょうど、私たち家族が色々と忙しくなって帰省をしなくなってすぐの頃のようだった。
0:幼い私がショックを受けると思い、ちょうど帰省もしなくなっていたため連絡を控え、そのまま今日に至ったらしい。
0:更に…うろ覚えではあるが、今日はかっちゃんの死んだ日…命日だった気がする、と続ける祖母。
0:
0:何が何やら、理解が追い付かない…かっちゃんは大人の姿で私の前に現れた。
0:近況も、思い出も、あんなに楽しそうに話していた。
0:けれど…
0:あの鬼気迫るかっちゃんの表情…駄々っ子のようになり、声まで少年のように聞こえた、見たことのない恐ろしいかっちゃん…。
0:かっちゃんと居た時間にだけ繋がらなくなった携帯…私の姿しか見えなかった近所の人…。
0:祖母の言うことと併せると、考えれば考えるほど辻褄があっている。
0:今から約束の川辺へ向かえば真実を確かめられる…とも思ったが、あのかっちゃんの目を思い出すと、恐怖で私は結局川へは行けなかった。
0:あの川でかっちゃんに会えば、もう私は帰って来られない気がしたのだ…。
0:
0:その後合流した家族と、2日ばかり祖母の引っ越しや片付けの手伝いをし、外に出るとかっちゃんに会う気がして怖かった私は祖母の家から出ることができず…
0:最低限の祖母の用事を済ませ、予定を早やめて逃げるように帰ることにした。
0:
0:帰る当日…
0:駅舎へと向かう時に、あのベンチの前を通りかかった。
0:その瞬間、まるで射貫かれるような強烈な視線を感じると…遠い日に見覚えのある少年の姿が視界に入った。
0:
0:かっちゃんだ…。
0:
0:帰省した日とはちがう、少年の姿をしたかっちゃんが…陽炎に浮かぶ幻のように佇み、じっと私を見つめている。
0:無表情で…けれど、あの再会した日、私に見せた恐ろしい目をして佇んでいる。
0:
0:かっちゃんも私も動かず、何も言わない…しばしの静寂…。
0:
0:やがて恐怖に耐えられなくなった私はなにも言わず、駅舎へと走った。
0:少し離れて次に振り返った時、かっちゃんはもういなかった…。
0:
0:無事に帰りの電車に乗った私は、来た時と違い、すっかりと疲れ、憂鬱な気持ちで外を眺めていた。
0:大好きだった田舎の風景が、今は怖い…。
0:
0:ふと、窓から例の川辺が見えた…。
0:かっちゃんは今もあそこで一人、私を待っているんだろうか。
0:寂しくて…遊び相手を…私を誘おうとしているんだろうか…。
0:
0:意図せずすっと頬を流れた涙は、悲しさのせいか恐怖のせいか…今の私にはわからなかった。
0:
0:
0:(終)
0:
0:
0:蒸せるように暑い夏のことだった。
0:母方の祖母が高齢のため、いよいよ一人暮らしをすることが難しくなり、田舎の実家を引き払うこととなった。
0:引っ越しの準備や何やらで人手がいるようで、上京して家族とも別で暮らしていた私にもお呼びがかかる。
0:休日を返上しなければならない為、少し憂鬱ではあったものの、祖母には随分と可愛がってもらっていたし、色々と忙しくなって田舎へいくのは子供の頃以来だったりもする。
0:家族と会うのも久々ではあったし、都会の喧騒の疲れからの良い気分転換になると思い、お盆休みを使って合流することにした。
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0:当日。
0:早朝から電車を乗り継ぎ、母の実家へと向かう。
0:一人、電車に揺られながら外を眺めていると、だんだんと景色に緑色が増えてくる。
0:幼い頃、家族に連れられて田舎へ向かう時の景色そのままで…
0:時間まで遡っていくような、懐かしくも不思議な感覚をおぼえながら、穏やかな時間を過ごす。
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0:そうこう思いを馳せているうちに、うとうとしてしまったようで…
0:目が覚めて、辺りが畑や山などで緑色にすっかりと包まれる頃には、もうお昼をまわっていた。
0:タイミングよく、車内放送が流れる。
0:ちょうど目的の駅に到着するようだ。
0:うーん、と伸びをし、私は電車が駅に滑り込むのを待って、ホームへと降りた。
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0:私を迎えたのは心地よい田舎の香りと、容赦なく照り付ける太陽の暑さ、辺り一帯から湧き上がっているような蝉の大合唱。
0:都会の夏とはまったく違う顔をした夏が、私を出迎えた。
0:所々改修はされているものの、やはり見覚えのある駅舎。
0:目の前に広がる田舎道と大自然。
0:記憶にある、大好きだった田舎とほとんど変わりのない姿だ。
0:昼間だというのに、ぜんぜん人のいない道を、懐かしさを噛み締めるように歩いて行く。
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0:それにしても暑い。蝉の大合唱が、暑さを更に倍増させている気がする。
0:けれど都会のまとわりつくような暑さとは違い、カラッとした暑さは心地よさもあった。
0:途中、自販機を見つけて立ち止まる。
0:そういえば、小さい頃もここでよく飲み物を買ってもらった気がする。
0:近くのベンチに腰かけ、一息つきながらジュースを飲んでいると……
??:「あれ?なっちゃん?お前…もしかしてなっちゃんか!?」
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0:聞き慣れない男性の声に、小さな頃のあだ名を呼ばれた。
0:少しびっくりして、声のした方を見ると、すらっとした筋肉質な、同年代くらいの男性が目を丸くして立っていた。
0:その目元、表情…あの頃とは随分変わってしまったけれど、見覚えがあった。
0:それに、ここで私をそう呼ぶ男の子は一人しかいなかった。
私:「えっ…?あっ…あぁ!!もしかして…かっちゃん!?」
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0:かっちゃんというのは、この田舎が地元の男の子だ。夏休みを利用して長期滞在していた子供の頃、田舎に友達がいなかった私とよく遊んでくれた同い年の男の子。
0:すっかり大人の男性にはなっていたものの、人懐っこそうな目とどこかわんぱくさの残った顔には少年の面影があった。
かっちゃん:「やっぱりなっちゃんか!はは!帰ってきてたんだな!すっかり美人になっちまって!何年ぶりだろうなぁ?元気にしてたか?」
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私:「かっちゃんこそ、すっかりたくましくなって!元気だったよ!本当に久しぶりだね!覚えててくれて嬉しいなぁ」
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0:にかっと歯を見せて笑う顔は、あの頃のかっちゃんのままだった。
0:思いがけない幼馴染との再会に、私はすっかり興奮気味にかっちゃんとしばらく話し込んだ。
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0:かっちゃんはずっと田舎で暮らしていて、今は近くの工場で働いているらしかった。
0:この田舎の空気が大好きで、どうしても外に出る気は起きなかったらしい。
0:お互いの近況を話し…小さなころ、一緒にあたりを駆け回った思い出について話して盛り上がり…
0:会話をすればするほど、あの頃の優しくて楽しいかっちゃんのままだった。
かっちゃん:「なっちゃん、全然変わってねぇのな。こんなに綺麗な大人のお姉さんになったのに…俺、なんだか安心しちゃったよ。」
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0:かっちゃんも同じことを思ってくれていたようだ。
私:「かっちゃんだって、全然変わってない!あの頃の楽しいかっちゃんのままで嬉しいよ!」
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かっちゃん:「へへ、そういわれるとなんだか照れちゃうなぁ…。そうだ、なっちゃん」
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0:照れくさそうにヘラヘラと笑うかっちゃんが、ふと何かを思い出したように私見つめる。
私:「うん?なぁに?」
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かっちゃん:「こうして話してると、なんだかどんどん懐かしくなってきちまって…昔、よく遊んだ川辺で話さないか?」
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0:川辺というのは、私とかっちゃんが毎日のように遊んでいた二人の遊び場だった。
0:川の近くということで大人達はあまりいい顔をしなかったのだが…私たちは、そこで二人で遊ぶのが大好きだった。
私:「あぁ、懐かしい!いいね!!あっ…でも…」
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0:気付けばかなり長時間かっちゃんと話していて、時刻は夕方も近くなっている時間だった。
0:祖母の家に到着する予定の時間からはかなり過ぎているし、川辺はここから結構遠かった。
0:今から川辺に向かって、そこから話をしていると日が暮れてしまう。
0:数日は日があるとはいえ、手伝いという名目で来ている以上、初日から約束にあまり遅れるのは心苦しいし、心配もかけてしまう。
私:「ごめん、かっちゃん。今日はそろそろおばあちゃんの家に行かないと…待たせてしまってるし、荷物も…」
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0:そう言いかけると…
かっちゃん:「なんで!?いいじゃないか、そんなの!!」
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0:急にかっちゃんが大きな声を出したのでびくっとする。
私:「えっ…かっちゃん…?」
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かっちゃん:「なっちゃんだって、懐かしい、いいねって言ったじゃないか!なぁ!行こうよ!!」
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かっちゃんが、今までに見せたことのない恐ろしい目をして私を見つめている。
そして…声が…きっと気のせいとは思うが、時折、少年の頃のかっちゃんの声のような気がした。
かっちゃんの目をみると、背筋にぞくっと寒いものが走った。
私:「ちょ…ちょっとかっちゃん?一体どうしちゃったの?」
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0:小さい頃にも見せたことのないかっちゃんの様子にただただ戸惑う。
かっちゃん:「どうもしねえよ!!それより、なぁ?はやく!!行こうよ!」
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0:かっちゃんは駄々っ子のように私の話を聞かず、つかみかかってくる勢いで迫って来る。
私:「わ、わかったよ!でも、とにかく一度おばあちゃんの家に寄って、荷物を置いて…それからでもいいかな?」
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かっちゃんの勢いに押されて、私はとにかく一度祖母に事情を話して重たい荷物を置いてからにしたいとかっちゃんに妥協案を提案した。
かっちゃん:「絶対?絶対くるんだな?」
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0:かっちゃんがぐいっとのぞき込んでくるように見つめてくる。
0:正直、こわい…。
私:「うん、ちゃんといくから…!」
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0:私がそう言うと、ようやくかっちゃんは私を解放してくれた。
0:かっちゃんから逃げるようにして、小走りで祖母の家と向かう。
0:後で向かうとは言ったものの、怖くて仕方がない。
0:いつまでも背後にかっちゃんの視線を感じるような気がしつつ、私は祖母の家へと急いだ。
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0:祖母の家が見えてくると、玄関先に祖母が立っていた。
0:祖母は私を見ると、心配そうに駆け寄ってくる。
祖母:「おお、なつ。やっと来たか。心配してたんだよ…お前らしき女の子が駅の近くで、誰の声にも反応せずにずっと一人で何か喋ってるって、さっき近所の人に言われてのう…。」
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0:私を出迎えた祖母の言葉は、あまりにもわけのわからない言葉だった。
0:ちなみに、私の家族は渋滞に巻き込まれてまだ到着していないらしい。
0:はっと携帯を見ると、親からの着信やメールがびっしりと溜まっていた。
0:こっちに着いてからは、携帯は鳴らなかったはずなのに…。
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0:いろいろなことに混乱しながらも、私は一人ではなくかっちゃんと話していたことを祖母に伝えた。
祖母:「かっちゃん…?…あぁ、あぁ…。田村のところのカツユキかい。何をいってるんだい、なつ…。あぁ、そうか、お前は知らなかったね…カツユキはもう何年も前に死んだんだよ。」
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0:祖母がなにを言ってるのかわからなかった。
0:かっちゃんが…死んでる…?
0:とにかく家に上がれという祖母の言葉に従い、家にあがる。
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0:祖母が言うには、かっちゃんは小学5年生くらいのころ、一人であの川で遊んでいて足を滑らせ…そのまま流されて亡くなってしまったらしい。
0:かっちゃんの家族の田村家もそれを機にどこかへと引っ越した、とのことだ。
0:ちょうど、私たち家族が色々と忙しくなって帰省をしなくなってすぐの頃のようだった。
0:幼い私がショックを受けると思い、ちょうど帰省もしなくなっていたため連絡を控え、そのまま今日に至ったらしい。
0:更に…うろ覚えではあるが、今日はかっちゃんの死んだ日…命日だった気がする、と続ける祖母。
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0:何が何やら、理解が追い付かない…かっちゃんは大人の姿で私の前に現れた。
0:近況も、思い出も、あんなに楽しそうに話していた。
0:けれど…
0:あの鬼気迫るかっちゃんの表情…駄々っ子のようになり、声まで少年のように聞こえた、見たことのない恐ろしいかっちゃん…。
0:かっちゃんと居た時間にだけ繋がらなくなった携帯…私の姿しか見えなかった近所の人…。
0:祖母の言うことと併せると、考えれば考えるほど辻褄があっている。
0:今から約束の川辺へ向かえば真実を確かめられる…とも思ったが、あのかっちゃんの目を思い出すと、恐怖で私は結局川へは行けなかった。
0:あの川でかっちゃんに会えば、もう私は帰って来られない気がしたのだ…。
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0:その後合流した家族と、2日ばかり祖母の引っ越しや片付けの手伝いをし、外に出るとかっちゃんに会う気がして怖かった私は祖母の家から出ることができず…
0:最低限の祖母の用事を済ませ、予定を早やめて逃げるように帰ることにした。
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0:帰る当日…
0:駅舎へと向かう時に、あのベンチの前を通りかかった。
0:その瞬間、まるで射貫かれるような強烈な視線を感じると…遠い日に見覚えのある少年の姿が視界に入った。
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0:かっちゃんだ…。
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0:帰省した日とはちがう、少年の姿をしたかっちゃんが…陽炎に浮かぶ幻のように佇み、じっと私を見つめている。
0:無表情で…けれど、あの再会した日、私に見せた恐ろしい目をして佇んでいる。
0:
0:かっちゃんも私も動かず、何も言わない…しばしの静寂…。
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0:やがて恐怖に耐えられなくなった私はなにも言わず、駅舎へと走った。
0:少し離れて次に振り返った時、かっちゃんはもういなかった…。
0:
0:無事に帰りの電車に乗った私は、来た時と違い、すっかりと疲れ、憂鬱な気持ちで外を眺めていた。
0:大好きだった田舎の風景が、今は怖い…。
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0:ふと、窓から例の川辺が見えた…。
0:かっちゃんは今もあそこで一人、私を待っているんだろうか。
0:寂しくて…遊び相手を…私を誘おうとしているんだろうか…。
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0:意図せずすっと頬を流れた涙は、悲しさのせいか恐怖のせいか…今の私にはわからなかった。
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