台本概要
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タイトル | 零の恐怖書庫 第9夜「親切な隣人」 |
---|---|
作者名 | 月儚(つくも)レイ (@rose_moon44) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 1人用台本(不問1) ※兼役あり |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
「新生活スタートのため、引っ越してきたアパート。古くて愛想のない住民…暗い心を吹き飛ばしてくれたのは親切な隣人だった。」 1人読み朗読台本の怪談シリーズ「零の恐怖書庫」第1夜となります。 怪談語りのようなホラー作品となります。ホラーが苦手な方はご注意くださいませ。 朗読の際のお時間のほうは10分前後ほどかと思います。 ご利用の報告は強制ではありませんが、ご連絡いただけますと非常に嬉しいです。 115 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
私 | 不問 | 7 | 主人公、語り手。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:
0:この春から新生活が始まり、私は会社の近くのアパートに越して来た。
0:家賃は安いし駅からもそこそこ近いが…かなり古いアパートだ。
0:とはいえ一人暮らしには十分ではあるし、ともかく便がいいことは魅力だったのですんなりと決めた。
0:
0:荷物も運び終え、そのままご近所へ挨拶へ向かう。
0:小さなアパートで住人自体は非常に少ない。
0:空き部屋もちらほらとある。
0:そして挨拶まわりをしていて思った。
0:大家を含め、ここの住人たちはとにかく愛想がない。
0:軽くでも返事をしてくれればまだいい方…
0:大半は面倒くさそうに無言で頭を下げるだけだったり、話も聞かず扉を閉める人もいた。
0:アパートの古さもあってとても陰気な、暗くて嫌な雰囲気にげんなりする。
0:
0:そんな中、お隣のおばさんだけはとても愛想のいい人だった。
0:挨拶へ向かった時も、温かい声と笑顔で迎えてくれた。
0:
おばさん:「あらあら、御挨拶なんてわざわざありがとう。こんな古いアパートによく来てくれたねぇ。困った事があったらなんでも言ってね!」
0:
0:
0:ここへ来て、ようやく会話らしい会話をした気がした私は、なんだかとても暖かな気持ちになる。
0:
私:「ありがとうございます、御迷惑のないように致しますので、どうかよろしくお願いします。」
0:
0:
0:親切なおばさんに深々と頭を下げる。
0:慣れぬ土地、冷たい住人達にどうしたものか不安だったけれど、隣人がいい人そうでよかった。
0:ほっと一息ついた私は、安心感と疲労もあってそのまましばしの眠りに落ちた。
0:
0:夕方を少し過ぎた頃だろうか、インターホンの音で私は目を覚ました。
0:少し寝ぼけた頭で、ドアを開ける。
0:そこには隣人のおばさんがいた。
0:
おばさん:「こんばんは!越して来たばかりでご飯、大変でしょう。ちょっとしたおすそ分けなんだけど、よかったら…」
0:
0:
0:おばさんは鍋を手にニコニコしている。
0:この匂いはカレーだろうか。
0:今日会ったばかりの人に料理をいただくというのは抵抗もあったのだが…
0:実際夕飯のアテもなく、おばさんの優しい笑みと美味しそうな香りの誘惑に負けてしまった。
0:
私:「いいんですか?すみません…お言葉に甘えさせていただきます、ありがとうございます」
0:
0:
おばさん:「いいのいいの、お鍋は明日にでも返してくれたらいいからね!居なかったら部屋の前に置いておいてちょうだい!」
0:
0:
私:「本当に、ありがとうございます、いただきます」
0:
0:
0:もう一度深々とお辞儀をして、おばさんを見送る。
0:部屋に美味しそうな匂いが広がる。
0:おばさんに手を合わせる気持ちで、私はカレーをいただいた。
0:
0:翌日、会社へ行く前におばさんを訪ねる。
0:何回かインターホンを押して声をかけたが、おばさんは出てこない。
0:会ってお礼を言いたかったが、手紙を添えて言われた通りに鍋をおばさんの家に置いて私は出かけることにした。
0:
0:その夜…
0:今夜はコンビニで買ってきたお弁当を食べているとまたインターホンが鳴った。
0:いそいそと扉を開けると、そこにはおばさんがいた。
0:
おばさん:「こんばんは!今夜はちょっと、リンゴを剥いてきたんだけど、どうかな?」
0:
0:おばさんはニコニコした顔でタッパーを持っている。
0:もらってばかりで悪い気がするが…おばさんの優しい顔を見ると断るのも心が痛い。
0:
私:「あぁ…こんばんは。昨夜はカレー、ありがとうございました、美味しかったです。では、今日もお言葉に甘えさせていただいて…」
0:
0:
0:こうして私は、今夜は親切なおばさんから食後のデザートをいただいたのだった。
0:
0:翌日…
0:
0:会社に行く前におばさんを訪ねたが今日も留守のようだった。
0:昨日のようにお礼の手紙を添えて、食器を部屋の前に置いておく。
0:
0:そしてその後もこんなやり取りが何日か続いた。
0:朝、食器を返すとおばさんが夜に差し入れを持って来てくれる。
0:どういうわけか、食器を返しに行くといつもおばさんは留守なのだが…それもだんだんと慣れてきた。
0:もちろん、もらってばかりで申し訳ない気持ちはあったのだが…
0:新生活の不安もあって…まるで母のような、優しくて親しみやすいおばさんに私はあっという間に気を許していた。
0:
0:おばさんのおかげもあって少しずつここでの生活にも慣れてきた頃…
0:そろそろなにかお礼をしようかな、なんて思いながら今日も食器をおばさんの部屋の前に置こうとした時だった。
0:
大家:「アンタだったのか、毎日毎日、こんなところに食器と手紙なんか置いてたのは…」
0:
0:
0:気だるそうな男性の声が後ろから聞こえた…
0:振り返ると、大家さんが不愉快そうに立っている。
0:
大家:「困るんだよなぁ、こういう意味のわからない事されると。他の住民からも気味が悪いってクレームがきてるんだぞ…ったく、仕事増やしやがって」
0:
0:
0:大家さんは舌打ちをして私を睨んでいる。
0:
大家:「いつも誰が回収して捨ててると思ってんだ?あまりこういう変な事をするなら出て行ってもらうことになるぞ。」
0:
0:
0:クレーム…?回収…?捨ててた…?
0:どういうことかわからなかった。
0:とにかく私は大家さんに謝りつつ、おばさんとのやり取りのことを話した。
0:すると大家さんはますます不機嫌そうな顔をして私を睨んだ。
0:
大家:「はぁ?おいおい、妙なことまで言うのはよしてくれよ。ここはずっと空き部屋だ、アンタ大丈夫か??」
0:
0:
0:大家さんの言っている事が理解できなかった。
0:だって、私はたしかに越して来た日にこの部屋でおばさんに挨拶をして、毎日のように顔をあわせて…。
0:私の様子に、大家さんは大きなため息をつきながら、鍵の束をだして、目の前の部屋の扉を乱暴にあけた。
0:そこはたしかに、何1つ物が置かれていないガランとした空き部屋だった。
0:
大家:「ほら見ろ、なにもないだろうが…見ての通りここは空き部屋なんだよ。わかったらその食器を持って帰って、もうこういう事はしないでくれ。」
0:
0:
0:大家さんは終始不機嫌そうにしながら、再び乱暴に扉を閉めて私をひと睨みするとブツブツ言いながら立ち去って行った。
0:
0:取り残された私は唖然として、ひとまず床に置いた食器を震える手で取ろうとして…
0:
私:「えっ…!!」
0:
0:
0:悲鳴を漏らして食器から身を引いた。
0:ちゃんと洗いもして、綺麗だった食器がボロボロに朽ちていたのだ…。
0:まるで何年も…いや、それ以上に放置し続けていたかのように…。
0:
私:(どういう事…?さっきまでこんな事、なかったのに…)
0:
0:
0:恐る恐る食器に触れると、汚れや埃でザラッとしていて、気持ち悪さにまた手を引っ込める。
0:これは一体どういう事なのか…
0:じゃあ…あのおばさんは?
0:私が食べていたものは…?
0:思考すればするほど、恐怖と吐き気が襲ってくる。
0:とにかく、私はなんとか食器を掴んでゴミ捨て場に捨てて、逃げるように会社に向かった。
0:
0:朝のことがあまりに衝撃的で、恐ろしくて…
0:1日、どうやって過ごしたかも覚えていない…。
0:どっと疲れて部屋へ入ろうとした私はまた、悲鳴をあげた。
0:
私:「えっ…あっ…うわ!!!?」
0:
0:
0:部屋の前に、今朝捨てたはずの朽ち果てた食器が置かれていたのだ…。
0:怖くて思考すらできなくなった私は食器をそのままに急いで部屋へ飛び込んだ。
0:一体、何が起こっているの…あのおばさんはなんなの…?
0:ガタガタと震えていると、しばらくして…
0:
0:ピンポーン
0:
0:呼び鈴が鳴った。
0:まさか、おばさんが来たんだろうか…
0:身体がふるえて、しばらく出られないでいると…
0:
0:ピンポーン、ピンポーン
0:呼び鈴が連続で鳴る。
0:私はおそるおそる、ドアに近付きのぞき穴から外を見る。
0:
0:そこには…
0:
0:いつもと同じ、優しい笑顔したおばさんが…ボロボロの朽ち果てた空っぽの食器を手に持って、立っていた。
0:
0:
0:(終)
0:
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0:この春から新生活が始まり、私は会社の近くのアパートに越して来た。
0:家賃は安いし駅からもそこそこ近いが…かなり古いアパートだ。
0:とはいえ一人暮らしには十分ではあるし、ともかく便がいいことは魅力だったのですんなりと決めた。
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0:荷物も運び終え、そのままご近所へ挨拶へ向かう。
0:小さなアパートで住人自体は非常に少ない。
0:空き部屋もちらほらとある。
0:そして挨拶まわりをしていて思った。
0:大家を含め、ここの住人たちはとにかく愛想がない。
0:軽くでも返事をしてくれればまだいい方…
0:大半は面倒くさそうに無言で頭を下げるだけだったり、話も聞かず扉を閉める人もいた。
0:アパートの古さもあってとても陰気な、暗くて嫌な雰囲気にげんなりする。
0:
0:そんな中、お隣のおばさんだけはとても愛想のいい人だった。
0:挨拶へ向かった時も、温かい声と笑顔で迎えてくれた。
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おばさん:「あらあら、御挨拶なんてわざわざありがとう。こんな古いアパートによく来てくれたねぇ。困った事があったらなんでも言ってね!」
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0:ここへ来て、ようやく会話らしい会話をした気がした私は、なんだかとても暖かな気持ちになる。
0:
私:「ありがとうございます、御迷惑のないように致しますので、どうかよろしくお願いします。」
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0:親切なおばさんに深々と頭を下げる。
0:慣れぬ土地、冷たい住人達にどうしたものか不安だったけれど、隣人がいい人そうでよかった。
0:ほっと一息ついた私は、安心感と疲労もあってそのまましばしの眠りに落ちた。
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0:夕方を少し過ぎた頃だろうか、インターホンの音で私は目を覚ました。
0:少し寝ぼけた頭で、ドアを開ける。
0:そこには隣人のおばさんがいた。
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おばさん:「こんばんは!越して来たばかりでご飯、大変でしょう。ちょっとしたおすそ分けなんだけど、よかったら…」
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0:おばさんは鍋を手にニコニコしている。
0:この匂いはカレーだろうか。
0:今日会ったばかりの人に料理をいただくというのは抵抗もあったのだが…
0:実際夕飯のアテもなく、おばさんの優しい笑みと美味しそうな香りの誘惑に負けてしまった。
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私:「いいんですか?すみません…お言葉に甘えさせていただきます、ありがとうございます」
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おばさん:「いいのいいの、お鍋は明日にでも返してくれたらいいからね!居なかったら部屋の前に置いておいてちょうだい!」
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私:「本当に、ありがとうございます、いただきます」
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0:もう一度深々とお辞儀をして、おばさんを見送る。
0:部屋に美味しそうな匂いが広がる。
0:おばさんに手を合わせる気持ちで、私はカレーをいただいた。
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0:翌日、会社へ行く前におばさんを訪ねる。
0:何回かインターホンを押して声をかけたが、おばさんは出てこない。
0:会ってお礼を言いたかったが、手紙を添えて言われた通りに鍋をおばさんの家に置いて私は出かけることにした。
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0:その夜…
0:今夜はコンビニで買ってきたお弁当を食べているとまたインターホンが鳴った。
0:いそいそと扉を開けると、そこにはおばさんがいた。
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おばさん:「こんばんは!今夜はちょっと、リンゴを剥いてきたんだけど、どうかな?」
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0:おばさんはニコニコした顔でタッパーを持っている。
0:もらってばかりで悪い気がするが…おばさんの優しい顔を見ると断るのも心が痛い。
0:
私:「あぁ…こんばんは。昨夜はカレー、ありがとうございました、美味しかったです。では、今日もお言葉に甘えさせていただいて…」
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0:
0:こうして私は、今夜は親切なおばさんから食後のデザートをいただいたのだった。
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0:翌日…
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0:会社に行く前におばさんを訪ねたが今日も留守のようだった。
0:昨日のようにお礼の手紙を添えて、食器を部屋の前に置いておく。
0:
0:そしてその後もこんなやり取りが何日か続いた。
0:朝、食器を返すとおばさんが夜に差し入れを持って来てくれる。
0:どういうわけか、食器を返しに行くといつもおばさんは留守なのだが…それもだんだんと慣れてきた。
0:もちろん、もらってばかりで申し訳ない気持ちはあったのだが…
0:新生活の不安もあって…まるで母のような、優しくて親しみやすいおばさんに私はあっという間に気を許していた。
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0:おばさんのおかげもあって少しずつここでの生活にも慣れてきた頃…
0:そろそろなにかお礼をしようかな、なんて思いながら今日も食器をおばさんの部屋の前に置こうとした時だった。
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大家:「アンタだったのか、毎日毎日、こんなところに食器と手紙なんか置いてたのは…」
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0:気だるそうな男性の声が後ろから聞こえた…
0:振り返ると、大家さんが不愉快そうに立っている。
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大家:「困るんだよなぁ、こういう意味のわからない事されると。他の住民からも気味が悪いってクレームがきてるんだぞ…ったく、仕事増やしやがって」
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0:大家さんは舌打ちをして私を睨んでいる。
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大家:「いつも誰が回収して捨ててると思ってんだ?あまりこういう変な事をするなら出て行ってもらうことになるぞ。」
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0:クレーム…?回収…?捨ててた…?
0:どういうことかわからなかった。
0:とにかく私は大家さんに謝りつつ、おばさんとのやり取りのことを話した。
0:すると大家さんはますます不機嫌そうな顔をして私を睨んだ。
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大家:「はぁ?おいおい、妙なことまで言うのはよしてくれよ。ここはずっと空き部屋だ、アンタ大丈夫か??」
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0:大家さんの言っている事が理解できなかった。
0:だって、私はたしかに越して来た日にこの部屋でおばさんに挨拶をして、毎日のように顔をあわせて…。
0:私の様子に、大家さんは大きなため息をつきながら、鍵の束をだして、目の前の部屋の扉を乱暴にあけた。
0:そこはたしかに、何1つ物が置かれていないガランとした空き部屋だった。
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大家:「ほら見ろ、なにもないだろうが…見ての通りここは空き部屋なんだよ。わかったらその食器を持って帰って、もうこういう事はしないでくれ。」
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0:大家さんは終始不機嫌そうにしながら、再び乱暴に扉を閉めて私をひと睨みするとブツブツ言いながら立ち去って行った。
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0:取り残された私は唖然として、ひとまず床に置いた食器を震える手で取ろうとして…
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私:「えっ…!!」
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0:悲鳴を漏らして食器から身を引いた。
0:ちゃんと洗いもして、綺麗だった食器がボロボロに朽ちていたのだ…。
0:まるで何年も…いや、それ以上に放置し続けていたかのように…。
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私:(どういう事…?さっきまでこんな事、なかったのに…)
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0:恐る恐る食器に触れると、汚れや埃でザラッとしていて、気持ち悪さにまた手を引っ込める。
0:これは一体どういう事なのか…
0:じゃあ…あのおばさんは?
0:私が食べていたものは…?
0:思考すればするほど、恐怖と吐き気が襲ってくる。
0:とにかく、私はなんとか食器を掴んでゴミ捨て場に捨てて、逃げるように会社に向かった。
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0:朝のことがあまりに衝撃的で、恐ろしくて…
0:1日、どうやって過ごしたかも覚えていない…。
0:どっと疲れて部屋へ入ろうとした私はまた、悲鳴をあげた。
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私:「えっ…あっ…うわ!!!?」
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0:部屋の前に、今朝捨てたはずの朽ち果てた食器が置かれていたのだ…。
0:怖くて思考すらできなくなった私は食器をそのままに急いで部屋へ飛び込んだ。
0:一体、何が起こっているの…あのおばさんはなんなの…?
0:ガタガタと震えていると、しばらくして…
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0:ピンポーン
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0:呼び鈴が鳴った。
0:まさか、おばさんが来たんだろうか…
0:身体がふるえて、しばらく出られないでいると…
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0:ピンポーン、ピンポーン
0:呼び鈴が連続で鳴る。
0:私はおそるおそる、ドアに近付きのぞき穴から外を見る。
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0:そこには…
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0:いつもと同じ、優しい笑顔したおばさんが…ボロボロの朽ち果てた空っぽの食器を手に持って、立っていた。
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0:(終)