台本概要
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タイトル | 零の恐怖書庫 第14夜「闇」 |
---|---|
作者名 | 月儚(つくも)レイ (@rose_moon44) |
ジャンル | ホラー |
演者人数 | 1人用台本(不問1) ※兼役あり |
時間 | 10 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
「幼い頃…好奇心で幼馴染と入ってしまった、大人たちから立ち入りを禁じられた蔵。その好奇心の代償はあまりにも大きかった」 1人読み朗読台本の怪談シリーズ「零の恐怖書庫」第1夜となります。 怪談語りのようなホラー作品となります。ホラーが苦手な方はご注意くださいませ。 朗読の際のお時間のほうは10分前後ほどかと思います。 ご利用の報告は強制ではありませんが、ご連絡いただけますと非常に嬉しいです。 169 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
私 | 不問 | - | 主人公、語り手。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:
0:これは、私が小さい頃に体験した話だ。
0:
0:幼い頃に父を亡くした私は、母と一緒に田舎にある母の実家で暮らしていた。
0:本当に何もない、ただただ広い田舎だが、祖父や祖母も一緒だったし、私は不自由もなくのびのびと過ごしていた。
0:しかし小さな村だったため、あまり子供もおらず、遊び相手といえばトシちゃんという、同じ村で同い年の男の子だけだった。
0:母は街まで仕事に出ていたためあまり家にはおらず、祖父母も畑仕事やら村の集まりやらで家を空けることが多く、私はトシちゃんと過ごすことが多かった。
0:
0:そんな平凡そのものな暮らしだったが、不思議なことが1つだけあった。
0:それは、我が家の裏にある小さな蔵だ。
0:我が家の敷地にあるものの、管理は村の神社がしているらしく、鉄の扉に大きな鍵が常にしてあった。
0:普段は優しい祖父や大人たちも、この蔵にだけは絶対に近付くな、と強く私やトシちゃんに言い聞かせていた。
0:
0:理由を聞いても、この中にはとんでもねぇ化け物がいて、お前を喰ってしまうからだ、とか、突拍子もないことを言うばかり。
0:まぁ、幼かった私にはこの説明でも十分怖かったのだが。
0:化け物も怖いし、いつもと雰囲気の変わる祖父もなんだか怖かったため、私は言われた通り、ここには近づかないことにしていた。
0:
0:しかし…
0:
0:ある、夏の日のことだった。
0:村の大人たちの集まりがあるとかで、その日も私はトシちゃんと二人で留守番をして遊んでいた。
0:始めは家の中で遊んでいたのだが、すぐに飽きて外で遊ぶ。
0:夢中で遊んでいると、気付けばあの蔵のすぐ近くまで来てしまっていた。
0:いけない、と思い引き返そうとした私をトシちゃんが呼び止めた。
0:
トシちゃん:「おい!ちょっと見てみろよ、鍵があいてるぞ!!」
0:
0:
0:興奮気味なトシちゃんの声に振り返ってみると、たしかにいつもは厳重につけてある大きな鍵が外れて、扉が少し開いていた。
0:
トシちゃん:「なぁ、中に入ってみないか?ずーっとこの蔵、気になってたんだよなーっ」
0:
0:
0:とんでもない事を言い出すトシちゃんを慌てて止める。
0:けれどトシちゃんは…
0:
トシちゃん:「化け物なんか、いるわけねーじゃん!お前だって、ずっと暮らしてて、ここがなんなのか気にならないのか?」
0:
0:
0:未だ興奮気味に詰め寄ってくる。
0:私だって気にならないわけじゃなかった。
0:化け物は怖かったが、少し中を覗いてみたいという好奇心は常にどこかにあったのだ。
0:
トシちゃん:「それともなんだ?お前、まさか化け物にびびってんのか??」
0:
0:
0:もちろん、怖い。
0:だが、そう言われるとなんだか意地になってしまう。
0:そこまで言うなら、と少しムッとした私は行くことにしてしまったのだ。
0:
0:満足そうな顔をしてるトシちゃんと蔵の前までやって来た。
0:けれど、鍵が開いているということは中に大人がいるのかもしれない。
0:私とトシちゃんは少し開いている扉からそっと中を覗き込んでみた。
0:
0:外からの光が射しているというのに、中はそれでも真っ暗だった。
0:そして蝉の声以外は、何も聞こえない。
0:とても誰かが入っているような気配はなかった。
0:正直、気味が悪い。
0:本当に化け物でもいそうな、異様な雰囲気があったのだ。
0:トシちゃんもさっきよりは勢いがなくなっているようだ。
0:けれど、お互いにここまで来てやめようとも言い出せない。
0:
トシちゃん:「やっぱり誰もいないみたいだな…ちょっとだけ入ってみようぜ」
0:
0:
0:満足そうな顔だったのが、少しひきつった顔になりながらトシちゃんが言う。
0:今更引けなくなった私も、こくりと頷く。
0:
0:そーっと、少し開いた扉を開けて中に入る。
0:ギィィィィっと、重い音がしたが、扉が古いせいかこれ以上開かない。
0:だが、子供の私たちが入るには充分な隙間だったため、私たちは中へと入った。
0:しかし中の様子は、未だにわからない。
0:外からの光はたしかに中に入っているのに、あたりの様子がまるでわからないのだ。
0:もう少しよく見てみようと、さらに一歩踏み出した時だった。
0:
0:ギィィィィィ…バターン!!
0:
0:開けたままにしてあった扉が、大きな音を立てて唐突に閉まった。
0:外からの光も途絶えてしまい、足元もわからないくらい真っ暗になった。
0:
0:突然のことに私とトシちゃんはパニックになり、泣きながらお互いの名前を呼んだ。
0:そして外に出ようとすぐ背後にあったはずの扉をあけようとしたのだが…
0:そんなに進んでいないはずなのに、扉の感触は手にあたらなかった。
0:トシちゃんも同じようで、扉がない、と大声で騒ぐ。
0:
0:とにかく外に出ないといけない。
0:ますますパニックになった私とトシちゃんは暗闇の中でがむしゃらに扉を探した。
0:そして、パニックになりながらも私はおかしなことにふと気づいた。
0:
0:扉どころか、何も身体にあたらないのだ。
0:手にも、足にも、身体にも。
0:がむしゃらに動いているはずなのに、なんの感触もない。
0:小さな蔵だというのに、壁にすら当たらない。
0:
0:わけのわからないことだらけで、混乱した私はただただ泣き叫んだ。
0:
0:そして気付けば、トシちゃんの声が聞こえない。
0:私は半狂乱でトシちゃんを呼んだ。
0:しかし、そんな私もびくっとして声を止める。
0:
0:視線だ…
0:周囲から無数の視線を感じる。
0:まるで私を囲むかのように…息遣いまでが聞こえるかのような、視線。
0:そして、暗闇の先からひと際恐ろしい視線を感じる。
0:身体が動かない、声も出ない。
0:
0:だめだ…目が合う…!!!
0:
0:本能的にそう思った瞬間、耳を裂くようなトシちゃんの悲鳴が聞こえた。
0:それと同時に大きな音がして、突如光が射した。
0:
0:扉が開き、懐中電灯が中を照らしたのだ。
0
0:村の大人たちだった。
0:大騒ぎをしている大人たちに抱きかかえられて外へ出される。
0:すぐ横にはトシちゃんもいた。
0:そして外へ出されて驚く。
0:
0:午前中に蔵へ入って、ほんの少ししか経っていないはずが、辺りは夜になっていたのだ。
0:茫然としていると、鬼のような顔をした祖父がやってきて私とトシちゃんは頬を思いっきりひっぱたかれた。
0:温和な祖父とは思えない怒りの形相に、私達は震えることしかできない。
0:どうして中に入ったと言われ、鍵と扉が開いていた事を震える唇で話す。
0:
0:それを聞いた途端、祖父は怒りの形相が恐怖へと変わり、魂が抜けたようにその場に座り込んだ。
0:ふと視界に入った祖母や母、トシちゃんの両親は泣き崩れている。
0:まわりの大人も真っ青な顔をしていた。
0:すると神主のおじさんが私達の前に座り、穏やかな口調ながらも強張った顔で説明をしてくれた。
0:
0:今はもう、真夜中だということ。
0:私達の姿が見えず、村総出で捜索をしていたこと。
0:そして、大人たちは神主がもってきた鍵を開けて、この扉を開けたこと…。
0:私とトシちゃんはこれからすぐに神社でお祓いを受けなければならないということ…。
0:
0:細かい話はよく覚えていない。
0:辻褄のあわない話と恐怖でただただ混乱していた。
0:
0:神主のおじさんは私達に話しを終えると、すぐに神社に連れて行った。
0:横を見るといつもあんなに元気なトシちゃんが、まるで抜け殻になっていた。
0:私とトシちゃんはあたりが明るくなるまで、神社でよくわからない儀式のようなお祓いを受けた。
0:
0:お祓いが終わり…外へ出るとずっと待っていたのだろうか、祖父母や母が私を抱きしめた。
0:祖母や母はもちろん、あんなに怒っていた祖父まで、まるで子供のように泣きながら私を強く抱きしめていた。
0:
0:その翌日、神主のおじさん達がきて、私と母はこの村から引っ越すことになった。
0:トシちゃん一家も、どこかへと引っ越すらしい。
0:そして、二度とこの村へ来てはいけない、関わってもいけない、と言われた。
0:トシちゃんと会わせてもらうこともできず、私と母は最低限の用意だけさせられて、村を出された。
0:
0:あれから20数年…
0;
0:母も若くして少し前に他界してしまい、私は独りで暮らしている。
0:あの時の話は一切してくれなかった母だが、私が成人した時に一度だけ、少し話をしてくれた。
0:
0:あの蔵には本当に化け物がいたということ。
0:私とトシちゃんは恐らくその化け物に誘われ、死ぬところだったということ。
0:祖父母は私達が越してからすぐに他界してしまったということ…。
0:しかし母も、その化け物の話の詳細や村のその後については知らないということだった。
0:
0:トシちゃんやその家族がどうなったのかも、もちろんわからない。
0:
0:私は、祖父母や母の早すぎる死にはこの件が何か関係しているのか…?と思うことがある。
0:母の死因もよくわかっていないのだ。
0:そして未だに暗闇を見ると無数の視線や刺すような視線を感じることがあるのは…
0:トラウマや精神状態からくるものなのだろうか…それとも……。
0:
0:(完)
0:
0:
0:これは、私が小さい頃に体験した話だ。
0:
0:幼い頃に父を亡くした私は、母と一緒に田舎にある母の実家で暮らしていた。
0:本当に何もない、ただただ広い田舎だが、祖父や祖母も一緒だったし、私は不自由もなくのびのびと過ごしていた。
0:しかし小さな村だったため、あまり子供もおらず、遊び相手といえばトシちゃんという、同じ村で同い年の男の子だけだった。
0:母は街まで仕事に出ていたためあまり家にはおらず、祖父母も畑仕事やら村の集まりやらで家を空けることが多く、私はトシちゃんと過ごすことが多かった。
0:
0:そんな平凡そのものな暮らしだったが、不思議なことが1つだけあった。
0:それは、我が家の裏にある小さな蔵だ。
0:我が家の敷地にあるものの、管理は村の神社がしているらしく、鉄の扉に大きな鍵が常にしてあった。
0:普段は優しい祖父や大人たちも、この蔵にだけは絶対に近付くな、と強く私やトシちゃんに言い聞かせていた。
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0:理由を聞いても、この中にはとんでもねぇ化け物がいて、お前を喰ってしまうからだ、とか、突拍子もないことを言うばかり。
0:まぁ、幼かった私にはこの説明でも十分怖かったのだが。
0:化け物も怖いし、いつもと雰囲気の変わる祖父もなんだか怖かったため、私は言われた通り、ここには近づかないことにしていた。
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0:しかし…
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0:ある、夏の日のことだった。
0:村の大人たちの集まりがあるとかで、その日も私はトシちゃんと二人で留守番をして遊んでいた。
0:始めは家の中で遊んでいたのだが、すぐに飽きて外で遊ぶ。
0:夢中で遊んでいると、気付けばあの蔵のすぐ近くまで来てしまっていた。
0:いけない、と思い引き返そうとした私をトシちゃんが呼び止めた。
0:
トシちゃん:「おい!ちょっと見てみろよ、鍵があいてるぞ!!」
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0:興奮気味なトシちゃんの声に振り返ってみると、たしかにいつもは厳重につけてある大きな鍵が外れて、扉が少し開いていた。
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トシちゃん:「なぁ、中に入ってみないか?ずーっとこの蔵、気になってたんだよなーっ」
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0:とんでもない事を言い出すトシちゃんを慌てて止める。
0:けれどトシちゃんは…
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トシちゃん:「化け物なんか、いるわけねーじゃん!お前だって、ずっと暮らしてて、ここがなんなのか気にならないのか?」
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0:未だ興奮気味に詰め寄ってくる。
0:私だって気にならないわけじゃなかった。
0:化け物は怖かったが、少し中を覗いてみたいという好奇心は常にどこかにあったのだ。
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トシちゃん:「それともなんだ?お前、まさか化け物にびびってんのか??」
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0:
0:もちろん、怖い。
0:だが、そう言われるとなんだか意地になってしまう。
0:そこまで言うなら、と少しムッとした私は行くことにしてしまったのだ。
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0:満足そうな顔をしてるトシちゃんと蔵の前までやって来た。
0:けれど、鍵が開いているということは中に大人がいるのかもしれない。
0:私とトシちゃんは少し開いている扉からそっと中を覗き込んでみた。
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0:外からの光が射しているというのに、中はそれでも真っ暗だった。
0:そして蝉の声以外は、何も聞こえない。
0:とても誰かが入っているような気配はなかった。
0:正直、気味が悪い。
0:本当に化け物でもいそうな、異様な雰囲気があったのだ。
0:トシちゃんもさっきよりは勢いがなくなっているようだ。
0:けれど、お互いにここまで来てやめようとも言い出せない。
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トシちゃん:「やっぱり誰もいないみたいだな…ちょっとだけ入ってみようぜ」
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0:満足そうな顔だったのが、少しひきつった顔になりながらトシちゃんが言う。
0:今更引けなくなった私も、こくりと頷く。
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0:そーっと、少し開いた扉を開けて中に入る。
0:ギィィィィっと、重い音がしたが、扉が古いせいかこれ以上開かない。
0:だが、子供の私たちが入るには充分な隙間だったため、私たちは中へと入った。
0:しかし中の様子は、未だにわからない。
0:外からの光はたしかに中に入っているのに、あたりの様子がまるでわからないのだ。
0:もう少しよく見てみようと、さらに一歩踏み出した時だった。
0:
0:ギィィィィィ…バターン!!
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0:開けたままにしてあった扉が、大きな音を立てて唐突に閉まった。
0:外からの光も途絶えてしまい、足元もわからないくらい真っ暗になった。
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0:突然のことに私とトシちゃんはパニックになり、泣きながらお互いの名前を呼んだ。
0:そして外に出ようとすぐ背後にあったはずの扉をあけようとしたのだが…
0:そんなに進んでいないはずなのに、扉の感触は手にあたらなかった。
0:トシちゃんも同じようで、扉がない、と大声で騒ぐ。
0:
0:とにかく外に出ないといけない。
0:ますますパニックになった私とトシちゃんは暗闇の中でがむしゃらに扉を探した。
0:そして、パニックになりながらも私はおかしなことにふと気づいた。
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0:扉どころか、何も身体にあたらないのだ。
0:手にも、足にも、身体にも。
0:がむしゃらに動いているはずなのに、なんの感触もない。
0:小さな蔵だというのに、壁にすら当たらない。
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0:わけのわからないことだらけで、混乱した私はただただ泣き叫んだ。
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0:そして気付けば、トシちゃんの声が聞こえない。
0:私は半狂乱でトシちゃんを呼んだ。
0:しかし、そんな私もびくっとして声を止める。
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0:視線だ…
0:周囲から無数の視線を感じる。
0:まるで私を囲むかのように…息遣いまでが聞こえるかのような、視線。
0:そして、暗闇の先からひと際恐ろしい視線を感じる。
0:身体が動かない、声も出ない。
0:
0:だめだ…目が合う…!!!
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0:本能的にそう思った瞬間、耳を裂くようなトシちゃんの悲鳴が聞こえた。
0:それと同時に大きな音がして、突如光が射した。
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0:扉が開き、懐中電灯が中を照らしたのだ。
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0:村の大人たちだった。
0:大騒ぎをしている大人たちに抱きかかえられて外へ出される。
0:すぐ横にはトシちゃんもいた。
0:そして外へ出されて驚く。
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0:午前中に蔵へ入って、ほんの少ししか経っていないはずが、辺りは夜になっていたのだ。
0:茫然としていると、鬼のような顔をした祖父がやってきて私とトシちゃんは頬を思いっきりひっぱたかれた。
0:温和な祖父とは思えない怒りの形相に、私達は震えることしかできない。
0:どうして中に入ったと言われ、鍵と扉が開いていた事を震える唇で話す。
0:
0:それを聞いた途端、祖父は怒りの形相が恐怖へと変わり、魂が抜けたようにその場に座り込んだ。
0:ふと視界に入った祖母や母、トシちゃんの両親は泣き崩れている。
0:まわりの大人も真っ青な顔をしていた。
0:すると神主のおじさんが私達の前に座り、穏やかな口調ながらも強張った顔で説明をしてくれた。
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0:今はもう、真夜中だということ。
0:私達の姿が見えず、村総出で捜索をしていたこと。
0:そして、大人たちは神主がもってきた鍵を開けて、この扉を開けたこと…。
0:私とトシちゃんはこれからすぐに神社でお祓いを受けなければならないということ…。
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0:細かい話はよく覚えていない。
0:辻褄のあわない話と恐怖でただただ混乱していた。
0:
0:神主のおじさんは私達に話しを終えると、すぐに神社に連れて行った。
0:横を見るといつもあんなに元気なトシちゃんが、まるで抜け殻になっていた。
0:私とトシちゃんはあたりが明るくなるまで、神社でよくわからない儀式のようなお祓いを受けた。
0:
0:お祓いが終わり…外へ出るとずっと待っていたのだろうか、祖父母や母が私を抱きしめた。
0:祖母や母はもちろん、あんなに怒っていた祖父まで、まるで子供のように泣きながら私を強く抱きしめていた。
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0:その翌日、神主のおじさん達がきて、私と母はこの村から引っ越すことになった。
0:トシちゃん一家も、どこかへと引っ越すらしい。
0:そして、二度とこの村へ来てはいけない、関わってもいけない、と言われた。
0:トシちゃんと会わせてもらうこともできず、私と母は最低限の用意だけさせられて、村を出された。
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0:あれから20数年…
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0:母も若くして少し前に他界してしまい、私は独りで暮らしている。
0:あの時の話は一切してくれなかった母だが、私が成人した時に一度だけ、少し話をしてくれた。
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0:あの蔵には本当に化け物がいたということ。
0:私とトシちゃんは恐らくその化け物に誘われ、死ぬところだったということ。
0:祖父母は私達が越してからすぐに他界してしまったということ…。
0:しかし母も、その化け物の話の詳細や村のその後については知らないということだった。
0:
0:トシちゃんやその家族がどうなったのかも、もちろんわからない。
0:
0:私は、祖父母や母の早すぎる死にはこの件が何か関係しているのか…?と思うことがある。
0:母の死因もよくわかっていないのだ。
0:そして未だに暗闇を見ると無数の視線や刺すような視線を感じることがあるのは…
0:トラウマや精神状態からくるものなのだろうか…それとも……。
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0:(完)