台本概要

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タイトル 花鳥封結~第一話
作者名 砂糖シロ  (@siro0satou)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男2、女3) ※兼役あり
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 男女2:3・異能系現代ファンタジー・兼ね役アリ・叫びアリ
【あらすじ】
結界師の山吹灯(やまぶきともえ)は知人からの依頼で人工花人(じんこうはなびと)の双子を保護する事になる。双子を巡って紛争する人々と、それらを取り巻く様々な想い。
異能系シリーズ第一弾、灯と双子の出会い編。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
113 山吹 灯(ヤマブキ トモエ)年齢不詳(紗帆より年上)。 身長145㎝、白髪のストレートロング。 幻想級の結界師で性格は淡白で滅多に大声を出さない。 一人称は「僕」。甘党。
紗帆 70 御波 紗帆(ミナミ サホ)年齢20代。 大手製薬会社インベフラスコーポレーションの研究者で東京支部研究チームの主任。 灯の友人で、今回双子の保護を依頼した本人。 双子の担当者で、保護者。 (『マリア』役を兼ねる)
鈴蘭 82 月海 鈴蘭(ツキミ スズラン)年齢10代前半。 明嵐の双子の姉。お団子頭で右目が赤く、両腕が結晶化で赤黒く硬質化しており不自由。 インベフラスコーポレーションの研究により半強制的に人工花人にされた(雷系統)。 弟と共に研究所から脱走した。 勝気な性格。
明嵐 68 月海 明嵐(ツキミ アラン)年齢10代前半。 鈴蘭の双子の弟。左目が赤く、胸に結晶化がある人工花人(水系統)。 姉と共に逃亡していた所、灯と出会う。 性格は内気で素直で一途。 灯に対し複雑な感情が芽生え始める。 (『店員』役を兼ねる)
五島 43 五島 晃(イツシマ アキラ)年齢30~40代。 インベフラスコーポレーション東京支部の次長。 常に慇懃無礼な態度で、被験者をモルモット扱いしている。 同僚のマリアに出世を越されたせいか、近頃焦りが見え始める。 (『男』役を兼ねる)
マリア 19 (紗帆役が兼ねる) マリア・デュセット 年齢30~40代。 双子の遺伝子上の母親だが、双子に嫌悪感を抱いている。 インベフラスコーポレーションの研究者でイタリア支部の次長(今回東京支部の部長へ昇進した)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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タイトル:花鳥封結(かちょうふうけつ)~春の花と、双子月(ふたごづき) : : : :<深夜の雑木林> 0:追手から必死に逃げる鈴蘭(すずらん)と明嵐(あらん) 鈴蘭:早く、明嵐ッ!!…こッち!! 明嵐:はぁっ、はぁっ、……っ待ってよ…、スズ! 鈴蘭:早くッ! 鈴蘭:………んもぉーッ!世話が焼けるんだからッ。休んでる暇なんてないのよ!? 0:手袋に包まれた不自由な手で明嵐を押す鈴蘭が土に足を滑らせる 明嵐:っ!?うわぁあっ!ちょっと、スズ押さないで……あ、危ないっ!! 鈴蘭:ッ!!き、きゃぁあああ!! 明嵐:スズーーーーっ! 0:二人は雑木が茂る崖下に転落していく : : : 灯:(タイトルコール)花鳥封結(かちょうふうけつ)第一話、『春の花と、双子月(ふたごづき)』 : : : :<大手製薬会社インベフラスコーポレーション施設内> 0:研究所の一室でパソコンに向かって項垂れている紗帆(さほ) 紗帆:(深いため息)…今回も駄目そうね。 五島:なんだ、また「失敗」か? 0:研究室に入ってきた五島(いつしま)を一瞥し、冷たい態度で返す紗帆 紗帆:五島次長…。 : 紗帆:…失敗じゃないわ、「成功への近道」よ。 五島:ははは、近道ねぇ…。 紗帆:………。 五島:ふん、だといいが。 : 五島:ならば、その「成功の近道」とやらからは何か良い成果が得られたのかね? 五島:それとも…(鼻で笑う)やはりただの「失敗」に終わったかな? 0:不機嫌な様子でパソコンのキーボードをたたく紗帆 紗帆:……ん。 五島:?…これは? 紗帆:被検体ナンバー205、「ヨウスケ・アイダ」のデータよ。 紗帆:……見て、ここ。 五島:………。 紗帆:シトロドトキシンの投与により、腎機能に一時的な亢進と心拍数の増加、それ加えて自傷行為などの二十一分間に及ぶ奇行が見られた。 紗帆:恐らく、シトロドトキシンの血中濃度が急激に上がったことによる副作用だと思われる。 五島:……それで? 紗帆:…その後、合わせてエンポリオ酸の追加投与を行った結果、四分間ではあったけれど、被検者の身体に著しい「結晶化」の兆候が見られた。 五島:ほう…その兆候と言うのは? 紗帆:右上肢から胴体腹部にかけての強い硬質化と、両目に虹彩の色調変化、それと……。 五島:なんだ、勿体ぶらずにさっさと言え。 0:薄い紙の資料を差し出す紗帆 紗帆:……興奮時に微量ではあるけれど、密閉された室内で「不自然な風」が現れたとの報告が上がってきているわ。 五島:なんだと?……データを見せてくれ。 0:紗帆から資料を受け取り、五島は食い入るようにそれに目を通す 紗帆:…詳しい調査により、花人(はなびと)特有の能力、「花戯(かぎ)」の一種であると判明した。 五島:……驚いた。これは確かに、「近道」となりうる素晴らしい「一歩」だ。よくやった、御波(みなみ)主任。 紗帆:…どうも。 : 紗帆:(口ごもりながら)ただ… 五島:…なんだ。 紗帆:花戯が出現したのはその一度きりで…。 五島:ふむ。それは残念だが、しかし次がある。そう気を落とすな。 紗帆:だけど、ヨウスケ・アイダはその直後に激しい拒絶反応を起こし、今は重度の昏睡状態に… 五島:(被せて)はっ、そんなつまらん些事などわざわざ報告する必要はない。 五島:数百居る内のたかが一匹だろう? 紗帆:…そんな言い方…。 0:資料をデスクに置き紗帆の肩に手を乗せる五島 五島:モルモットが死ぬ度に落ち込んでいたら、気が持たんぞ? 紗帆:どうかしら?私は本物のモルモットだって死ねば悲しいわ。 五島:ふっ、そうか。研究者とはまるで思えんような慈悲深さだが、まぁそれも結構。 : 五島:では、栄えある「一歩」に敬意を表して、優秀な君に朗報をやろう。 紗帆:……? 五島:数日前逃亡した被検体ナンバー56、及び57だが。つい先程、二匹の位置を特定した。 紗帆:……。 五島:(訝しむ様に)……驚かないんだな。 紗帆:…驚いてるわ。 五島:ほう?しかしその割には随分と落ち着いているようだが? 紗帆:身寄りのない子供の捜索なんて、貴方の手に掛かれば造作もない事でしょ?私が驚いているのはもっと別の事よ。 五島:…? 紗帆:貴方のご自慢の優秀な部下達が、揃いも揃ってたかが子供二人見つけるまでにこれほど多くの時間を要した。 紗帆:(嘲笑)あぁもしかして、逃げた子達はとっても足の速い子ネズミちゃんだったのかしら? 五島:ははははは、君の怒りももっともだが、まぁそう言ってくれるな。これでも探索班には随分と無茶をさせたんだ。 五島:時間がかかったのはつまり、それだけあの双子の能力が高性能だという事の証明だろう?ん? 五島:彼らの「担当」だった君からすれば大変喜ばしい事じゃあないか。 紗帆:…そうね。でも本当に私を喜ばせたいと思うのなら「一刻も早く双子を捕まえてきて」とその優秀な無能たちに伝えて頂戴。 五島:はーっはっはっはっはっは!!これは手厳しいな。 紗帆:(溜息) 五島:わかったわかった、彼らにはそう伝えるとしよう。では、次の被検体もよろしく頼むよ、御波主任。 0:五島が退室した後、私物のスマホで電話をかける紗帆 紗帆:(小声)………もしもし、灯(ともえ)? 紗帆:まずいことになったわ…五島が双子の位置を……えぇ、なるべく急いで頂戴。 紗帆:必ず五島の部下より先に……お願いね。(通話を切る) 0:間をあけて 紗帆:(溜息)……やるじゃない、無能のクセに。 : : : 0:紗帆の個人研究室を退室した後、人気の無い廊下を轟足で歩きながら電話をかける五島 五島:……私だ。デュセットとは連絡がついたか?………そうか、わかった。ではすぐにイタリア行きの便を手配してくれ。 五島:あぁ、それと…。月海姉弟(つきみきょうだい)のデータをデュセットに送っておいてくれ。 五島:……いや、御波には知らせなくていい。………あぁ。今回の責任者は君だ。…彼女に無能と呼ばれたままでは悔しいだろ?(通話を切る) 0:間をあけて 五島:…さぁて、次こそは大きな「近道」になる事を期待しているよ……ふっ、ふふふふふ。 : : : :<街角に立ち並ぶカフェの店内> 0:カウンターのメニュー表を真剣な様子で見つめる灯 灯:……キャラメルショコラロイヤルハニーメルトのダブルと、シナモンアップルのエルダーバニラアイスラテ。 店員:キャラメルショコラロイヤルハニーメルトのダブルがお一つと、シナモンアップルのエルダーバニラアイスラテがお一つですねっ!お会計が2832円になりまぁす! 灯:領収書下さい。 店員:かしこまりましたぁー!このレシートをお持ちになって、あちらの黄色いランプの下でお待ちくださぁい!次でお待ちのお客様ぁー! 0:ランプの下に移動し、スマホを弄る 灯:…ん…新しいニュース? 灯:『イタリアで新ウィルス「CОP=107(いちまるなな)」に対する不活化ワクチンの研究に成功…。接種回数は2週間を空けて…』げっ、四回ぃい? 灯:……はんっ、面倒くさ。親玉「封じ」れば簡単に済むのに。 店員:キャラメルショコラロイヤルハニーメルトのダブルと、シナモンアップルのエルダーバニラアイスラテでお待ちのお客様ぁー! 灯:…あ、はい。 店員:お待たせしましたぁー、こちらメルトは大変お熱くなっておりますのでお気を付けてお持ち下さいませぇー! 灯:…ども。 : 0:ホットとアイスのカップで両手が塞がった状態で店を出る灯に向かって爆走してくる鈴蘭と、それを追いかける明嵐 灯:あちちっ……やっぱ紙袋に入れてもらえば良かった…。 鈴蘭:どいてーーーー!! 灯:……? 鈴蘭:どいてどいてどいてぇぇええーーーッ!!! 0:数メートル先の下り坂から爆走してくる鈴蘭の姿を捉え、灯は小声で術文も唱え出す 灯:何アレ。坂道爆走する…子供?……っと、このままだとぶつかりそうだな…。 :(【】内は、あればリバーブ等かけて) 灯:【冬の月、残夜の刻(ざんやのこく)、氷結の泉に漂い凝(こご)る白鳥(しらとり)】 鈴蘭:そこのちびッ子!!どきなさいッてばぁああああッ!! 灯:【結界、シラサギ】 0:灯が術文を唱えた瞬間歩道が凍るが、気づかず爆走する鈴蘭 鈴蘭:ちょッとおおおおッ!?!? 灯:……一応カップに重ね掛けしとくか。 : 灯:【重(かさね)、ハチドリ】 0:その術文に、灯の持っていたカップが宙に浮く 鈴蘭:いやぁあああッ、止まれないぃぃぃぃいいいッ!! 明嵐:あっ!危ないっ!!!! 0:凍った路面に鈴蘭は足を滑らせる 鈴蘭:っ!?氷!?きゃぁああッ!! 明嵐:スズ!大丈夫!?スズ!! 鈴蘭:……あいッたたたたた……。 灯:………。 鈴蘭:やだぁー…膝すりむいちゃッたぁ…。 鈴蘭:もーッ、なぁんでこんな暑い日に道が氷ッてんのよぅ…。 明嵐:って言うか下り坂で急に走り出したら危ないって…わっ、スズ!膝から血が出てるよ!? 鈴蘭:えぇッ、嘘ッ!あぁ…ほんとだぁ。やだもー、痕になッたらお嫁に行けなくなッちゃうじゃない…(泣)。 明嵐:だ、大丈夫だよ。すぐ治るって…。 鈴蘭:うぅー、…大体どいてッて言ッたのにあのちびッ子が… 灯:(被せて)おい、クソガキども。 鈴蘭:(同時に)なッ!?く、くそがきぃい!? 明嵐:(同時に)ひぃっ。 灯:ギャーギャー喚く前にナンか言う事あるだろ。 鈴蘭:はぁッ!?それはこッちのセリフ… 明嵐:(被せて)すみませんでしたぁああ! 0:灯の形相に血相を変え、慌てて鈴蘭とお団子頭を掴んで無理やり下げさせる明嵐 鈴蘭:わッ、ちょッ、何するのよ明嵐!! 明嵐:(小声で)いいからっ!スズも謝って! 鈴蘭:なんでアタシがッ…。 灯:は?なんでもクソもねーだろ。街中爆走した挙句他人に突っ込んでおいて謝罪もできねーのか、このマイクロどチビが。 鈴蘭:ま、まいくろどちびですッてぇぇええ!? 灯:相手が僕じゃなかったら、今頃この熱々のキャラメルショコラロイヤルハニーメルトと冷え冷えのシナモンアップルのエルダーバニラアイスラテをダブルで頭から被ることになってたんだぞ?あぁっ? 鈴蘭:そ、それが何だッて言うのよ! 灯:…じゃあお前が体験してみるか? 明嵐:っ!?か、カップが…浮いてる…!? 鈴蘭:ッ!?…そ、それ、まさか…結界!? 灯:…? 0:地面で寄り添う双子を仔細に眺める灯 灯:……白い服に、赤い目の双子…しかも結界を知ってるって事は、もしかしてこのクソガキが…? 明嵐:す、スズぅ…この人…。 鈴蘭:………。 灯:名前は? 明嵐:え? 灯:アンタ達の名前。 鈴蘭:ばッかじゃないの?赤の他人に名乗るわけないでしょ? 灯:……ソッチの、さっき「アラン」て呼ばれてたよね。 明嵐:っ!? 灯:じゃあそっちのメスガキが「スズラン」か。 鈴蘭:ッ!!なんでアタシ達の名前……それよりアンタ…結界師ね!? 灯:研究室から逃げ出した双子ってアンタらの事で間違いなさそうだね。 鈴蘭:(同時に)………。 明嵐:(同時に)………。 灯:………。 0:徐に電話をかけ始める灯を見て慌てる双子 鈴蘭:…ちょッと!ドコに電話してるのよッ!? 灯:アンタらの家。 鈴蘭:(同時に)や、やめてッ! 明嵐:(同時に)やめてくださいっ! 灯:………もしもし、…居たよ。……うん、二人とも無事。 鈴蘭:(小声)……明嵐、逃げるよ。 明嵐:(小声)う、うん。 灯:【結界、マナヅル】 0:二人の身体を透明の綱が縛り上げる 鈴蘭:(同時に)ッ!?きゃぁあああああッ!! 明嵐:(同時に)ぅわぁあああああああっ!! 鈴蘭:何よこれぇええ! 明嵐:う、動けない…っ。 灯:……ううん、何でもない。……別にケガさせてないって……(鈴蘭の膝を見て)故意には。 灯:……はぁ?仕事内容にそんなの入ってなかった。 鈴蘭:ちょッと!これアンタの仕業でしょ!解(ほど)きなさいよッ!! 灯:…はぁー、うるさ。 灯:【重、マナヅル】 0:見えない何かに口を塞がれる鈴蘭 鈴蘭:んッ!?んんんーッ!!んんーーーッ! 灯:(嫌そうに)……わかった。でも一日だけだからね。……ん、じゃ。(通話を切る) 明嵐:あ…あの…。 灯:一度しか言わないからよく聞いて。 鈴蘭:(灯を睨む)ッ! 明嵐:(頷く)……っ! 灯:アンタらを研究室に連れてくのは一旦保留。明日の夜までウチで預かることになった。痛い目に遭いたくなかったら大人しくしとくことね。 灯:(鈴蘭に向かって)でないと、その生意気な口、一生きけないようにしてやるから。 鈴蘭:ーーーッ! 明嵐:(何度も首を縦に振る)……っ! 灯:…じゃ、行くよ。 : : : :<日の暮れた港> 0:複数名の黒服に追いかけられ逃げる灯達三人 男:あっちだ!!あっちに行ったぞ!! 灯:っ、しつこい… : 灯:【結界、オオモズ】 0:激しい打撃が先頭の黒服達を襲う 男:っぐわぁああああああ!!……っくそ!何なんだ急に!妙な力使いやがって…。あんな力使うなんて報告にはなかったぞ!? : 男:(舌打ち)……動けるヤツだけでいいっ!追えっ!!追えーーっ!! 鈴蘭:んんーーーッ!? 明嵐:うわわわわっ! 灯:こっち、もっと早く走って。 明嵐:で、でもっ、縛られてるから走り辛くて…。 灯:つべこべ言ってないで、早く。 鈴蘭:んんんッ!んんーーーッ! 灯:(小声)……しっ、黙って。 0:灯に押し込まれるようにコンテナの物陰に身をひそめる 明嵐:(同時に)………。 鈴蘭:(同時に)………。 男:……どこ行った、あのガキ供…。 灯:(小声)【結界、ライチョウ】。 0:三人の周りを風の膜が覆い、一瞬の内に周囲の風景に擬態する 男:こっちに逃げたはずだが…。っくそ!やはり機動性が落ちるからと探知機を置いて来たのはまずかったな…。 鈴蘭:(怯える)………。 明嵐:(怯える)……っ。 男:見失ったか…。おいっ!こっちには居ない!向こうだ!向こうを探せっ! 男:そっちのお前は拠点からセントファインダーを持ってこい!今すぐにだ!! 0:バタバタと走り去って行く黒服達 明嵐:…すごい、目の前に居たのに気づかれなかった…。これが、結界の力? 灯:……よし、行くよ。 明嵐:…あ、あの。行くって、どこに…? 灯:第三隠れ家。 明嵐:…だい…さん? 灯:三番目の隠れ家ってこと。 明嵐:…え、えっと…。 0:三人の目の前にそびえたつ大きな倉庫 灯:着いた。 明嵐:えっ!?もうっ!?……って…ココ、ですか? 灯:そう、早く入って。 明嵐:……この倉庫が、隠れ家…? 灯:入ったら閉めて。 明嵐:あっ、はいっ…。うっ……おも、い…。 0:無骨な外観からは想像もつかない程、中は生活感にあふれている 灯:【結界、アオバズク】 明嵐:…い、今のは…? 灯:………隠れ家の周りに防音と隠蔽(いんぺい)の結界を張った。 明嵐:防音?ど、どうして…? 灯:それはアンタの片割れが… : 灯:【結(むすび)マナヅル、解】 0:その言葉を皮切りに鈴蘭の口を塞いでいた結界が解かれる 鈴蘭:んんッ、…んあッ!あーーーーーッ!!やッと話せるようになッたぁあああ!ちょッとアンタねぇッ!! 灯:(うんざりと)…うるさいから。 明嵐:……ご、ごめんなさい。 鈴蘭:こんな所に連れてきてどーゆーつもりよッ!これは立派な誘拐よ!?この犯罪者ッ!! 0:喚く鈴蘭を気にもせず、灯は薄型のノートパソコンを起動させた 灯:………。 鈴蘭:大体ちびッ子のクセして結界術使えるッてアンタ一体何者ッ!? 灯:………。 鈴蘭:ちょッとーーーッ!黙ッてないで何とか言いなさいよーーーッ!! 0:パソコンのモニターに映し出される紗帆 灯:もしもし、聴こえる? 紗帆:『……えぇ、ちゃんと聴こえてる。久しぶりね、二人とも。』 鈴蘭:(同時に)紗帆!! 明嵐:(同時に)紗帆先生!! 紗帆:『うふふ、モニター越しだけど、元気そうで良かったわ。』 鈴蘭:…なんで紗帆が…。 紗帆:『私が貴方達の保護を彼女の頼んだの。』 鈴蘭:……え? 明嵐:…保護? 紗帆:『えぇ。』 鈴蘭:………。 明嵐:…それは…僕達を捕まえる…ため? 紗帆:『(微笑む)いいえ、…少なくても、私と彼女にあなた達を捕まえる意思は無いわ。』 明嵐:じゃあ…どうして? 紗帆:『………。』 灯:アンタらを捕まえようとしてる奴らから守る為。 明嵐:………。 鈴蘭:…はッ、それを信じろッて? 明嵐:スズっ! 鈴蘭:だって紗帆もそいつらの仲間じゃないッ!! 明嵐:違うっ!紗帆先生はあいつらの仲間じゃないっ! 鈴蘭:何でそう言いきれるのよッ!同じ研究所で働いてるじゃないッ!仲間じゃないなんて何でッ 明嵐:(被せて)絶対に違うったら!! 鈴蘭:ッ! 明嵐:…紗帆先生は……悪い人の、仲間じゃない…。 鈴蘭:………。 紗帆:『ありがとう、アラン。』 明嵐:……(鼻を啜る)ぐすっ。 紗帆:『スズ、疑うことは良い事よ。簡単に他人を信じてはダメだと教えたのは私だったものね。ちゃんと覚えていて偉いわ。』 鈴蘭:……子供扱いしないでよぉ…。 紗帆:『(微笑む)……二人とも、良く聞いて。今あなた達を狙っているのは、…五島なの。』 鈴蘭:ッ!?いつ…し、ま…。 明嵐:っ!!(震える)………。 紗帆:『…五島だけじゃない、恐らく今後…カメリアグループもあなた達の捜索に本腰を入れてくるつもりだわ。』 灯:カメリアって言ったら、裏でやばいことばっかしてるって有名なとこじゃ… 紗帆:『灯っ!』 灯:(溜息) 0:灯の言葉に青ざめる双子 鈴蘭:………。 明嵐:…っ。 灯:……悪かった。黙るよ。 紗帆:『(溜息)…スズ、アラン。彼女は山吹(やまぶき)灯。とても優秀な結界師よ。暫くの間あなた達のボディーガードをしてくれるわ。』 灯:「一時的」にね。 紗帆:『(非難するように)…灯?』 灯:(両手を上げる)………。 紗帆:『腕は確かだから安心して。』 鈴蘭:(馬鹿にしながら)このちびッ子が優秀な結界師ですッて? 明嵐:スズっ。 鈴蘭:だッて、どう見たッてお子様じゃない。下手すればアタシ達よりも年下かも… 紗帆:『(被せて)ふふっ。』 灯:(睨む)…紗帆? 紗帆:『あら、ごめんなさい。』 鈴蘭:…? 紗帆:『大丈夫よ、スズ。彼女、こう見えて私よりも年上だから。』 明嵐:(同時に)…え? 鈴蘭:(同時に)…え? 灯:(不貞腐れる)………。 明嵐:(同時に)ええーーーーーっ!? 鈴蘭:(同時に)ええーーーーーッ!? 紗帆:『うふふふ。』 灯:ふんっ。 : : : 0:ベッドスペースで眠りにつく双子から離れ、灯は紗帆と通話している 紗帆:『二人は?』 灯:向こうで寝てるよ。僕のベッドを占拠してね。 紗帆:『うふふ……随分疲れてたのね、可哀想に…。』 灯:……それで?アイツら一体ナニモンなの。 紗帆:『…ウチの被験者よ。』 灯:へぇ。 紗帆:『三度(みたび)に渡る薬液とホルモン剤の投与によって、二人に後天的な花戯(かぎ)能力の発現を認めたわ。それも顕著にね。』 灯:ふーん。 紗帆:『それと同時に遅効性の結晶化も…。』 灯:………。 紗帆:『ただ…花戯能力が高い事による副作用なのか、他の被検者よりも結晶化の肉体的変化がとても著しいの。 紗帆:その影響で、結晶香(けっしょうこう)の発効に抑制がかかっていて、最新の探知機にも引っかかりにくいのは「運が良かった」と言うべきなのかもしれないんだけれど…。』 灯:この際なりふり構ってられないでしょ。 灯:なんだかんだでここまで逃げ延びれたんだし、結果オーライなんじゃない? 紗帆:『そうね…。そう考えた方がいいわね。』 : 紗帆:『それで、その結晶化の方なんだけど。姉の鈴蘭にはヒガンバナ、別称「雷花(かみなりばな)」の花戯が現れたわ。』 灯:よりにもよって、「雷」か…。 紗帆:『(頷く)両前腕の硬質化と、右眼の赤色(せきしょく)変化も同時に見られている。』 灯:はぁーん、なるほど。それであの暑っ苦しい手袋ね。 : 灯:…それにしても、そっちの管理体制どうなってんの?みすみす雷系統の人工花人を逃がすだなんて。 灯:万が一街中で暴走なんかしてたら、冗談じゃすまないレベルの被害が出てたと思うけど。 紗帆:『えぇ、全くその通りよ。いくら緊急で仕方が無かったとは言え、流石にちょっと無謀だったわ…だけど、そうなる前にあなたが保護してくれて本当に良かった。』 灯:…完全に「たまたま」だったけど? 紗帆:『それについては申し訳ないと思っているわ。…謝って済む問題じゃないのもわかってる。だからそんなに睨まないで。』 灯:………。 紗帆:『(バツが悪そうに咳払い)…話、戻すわね。 紗帆:一方で、弟の明嵐に現れたのは、スイレンの花戯と胸部の硬質化よ。左目にスズと同様の色素変化が見られている。』 灯:雷と…水?ふっ、皮肉なものね、双子で相乗効果のある能力に目覚めるなんて。 紗帆:『そこなのよ……。どちらかが岩系統か、もしくは双子でなければそれ程脅威でも無かったのに…。』 灯:だね。 紗帆:『しかも一番腹が立つのは…散々モルモット扱いしてたくせにあの子達が高い能力を出現させたと聞くや否や、組織の特殊捜査班を集結させて追いかけ回し始めた上層部のクズ共の事よ。 紗帆:大の大人が何十人がかりで幼い子供をよ?馬鹿みたいに躍起になって…まるで猟犬みたいだわ。』 灯:はっ、利用価値が出た途端手の平返しってわけ?アホらし。 紗帆:『…最悪、イタリア支部にも連絡が行っている可能性がある。』 灯:イタリア?なんでまた…。 紗帆:『イタリア支部の次長、マリア・デュセットは二人の母親なの。』 灯:へぇ?それはそれは…。マリア・デュセットと言えば、新ウィルス「CОP=107」研究の第一人者でしょ? 紗帆:『えぇ、そのワクチンを発見したのも彼女よ。』 灯:…ふぅん。 紗帆:『まぁ母親とは言っても、彼女が育てたわけでもなければ、お腹を痛めて産んだわけでもないんだけど。』 灯:…?…どういう事? 紗帆:『…二人は、デュセットの卵子と、月海教授の遺伝子を媒体に「創られた」、いわゆる試験管ベイビーなの。』 0:表情を強張らせた灯の周囲にゆらりとつむじ風が舞う 灯:(怒りに打ち震える)…月海…。 紗帆:『抑えて、灯。…気持ちはわかるけど、あなたが今興奮したら二人とも起きてしまうわ。……それに、冷静になって周りを見てみて。あなたの起こした小さな台風のせいで、テーブルの上、滅茶苦茶よ?』 灯:……(舌打ち)。 紗帆:『…ねぇ、どうかお願い、二人を守って。五島にもカメリアグループにも、…もちろんデュセットにだって、あの子達を渡すわけにはいかないの。 紗帆:…あなたにならわかるでしょ?』 灯:……(溜息)、紗帆のそーゆーとこ、ほんと嫌い。 紗帆:『ありがと(笑)。けど、恐らくだけど…きっと今回の事、あなたにも損ではないと思うわ。』 灯:ふんっ、期待しないでおく。 紗帆:『うふふ。……それじゃあ、そろそろ切るわね。』 灯:ん。………紗帆っ。 紗帆:『…なぁに?』 灯:…気をつけて。 紗帆:『ありがとう。でも私は平気。いざとなれば十六夜(いざよい)が居るから。』 灯:…そうだね。でも、気を付けるに越したことはない、そうでしょ? 紗帆:『わかったわ、気を付ける。じゃあ、あの子達の事、よろしくね。』 灯:うん。 : : : 0:目を覚ました双子に不遜な態度で対峙する灯、三人はローテーブルを挟み向かい合わせにソファーに腰掛けている 鈴蘭:それで?優秀な結界師様がどうやッてアタシ達を守るッて言うの? 明嵐:スズっ、そんな言い方…。 鈴蘭:うーるーさーいーッ、明嵐は黙ッてて! 明嵐:もぉー…。 灯:おい、クソチビ。 鈴蘭:なッ!!またチビッて言ッたわね!? 灯:手袋、外して。 鈴蘭:はぁッ!? 灯:そっちは服を脱いで。 明嵐:えっ!? 鈴蘭:ちょッと!!何言ッてんのよ、この変態ッ!! 灯:結晶化がどの程度か見たい。 鈴蘭:ッ!!い、いやよッ!なんでアンタなんかに…ッて、明嵐!? 0:明嵐は大人しくシャツを脱ぐ 明嵐:……これで、いいですか? 0:ローテーブルの上に手をついて身を乗り出し、灯は興味深そうに明嵐の胸元にびっしりと張り付いた赤黒い結晶をまじまじと観察する 灯:…ふーん…ステージ2か…思ったよりは進んでないね。 鈴蘭:うぅーーッ! 灯:(鈴蘭に向かって)…何してんの?早くして。 鈴蘭:~~ッ!!わかッたわよッ!外せばいいんでしょッ、外せばぁッ! 0:潔く手袋を外し灯に両腕を差し出す鈴蘭の腕は、肘近くまで艶々と赤黒く結晶化していた 鈴蘭:…ほらッ、好きなだけ見なさいよッ!! 灯:……こっちもステージ2。良かった、これなら余裕。 鈴蘭:はぁ?何言ッて…。 灯:【冬の月、夕闇の刻、音無しの夜に眠る夜告げ鳥、結界、サヨナキドリ】 0:ゆっくりと双子の全身に纏わりつく温かい風 鈴蘭:…えッ?な、何これッ……体の周りに…。 明嵐:…あったかい、風? : 明嵐:……あっ!スズの手! 鈴蘭:…ッ、腕のカタマリが、消えてく…? 鈴蘭:…あッ!明嵐のも消えてッてる!! 明嵐:っ!?ほんとだっ!! 0:風と共に二人の硬質化していた部分が次第に身体の中に吸収されていく 鈴蘭:……嘘みたい。アタシの手、元に戻ッてる…。 明嵐:僕のも!赤い石、みんな消えた! 灯:勘違いしないで、消えたわけじゃない。 鈴蘭:え? 明嵐:でも…。 灯:それは一時的に体内の毒性を眠らせて結晶化を封じ込めただけ。つまり、アンタ達が力を使えばまた同じように結晶化する。 鈴蘭:(不安げに)それッて…次、力を使ッたらこの結界が消えるッて事!?またあの変な手に戻ッちゃうのッ!? 灯:いや?そうは言ってない。 0:考える素振りを見せる明嵐 明嵐:……もしかして、力を使った時だけ一時的に赤い石が出る、ってこと…ですか? 灯:まぁ、簡単に言えばそーゆー事。 0:喜びに手を取り合う双子と、冷めた様子でソファに腰掛け激甘のキャラメルラテを啜る灯 明嵐:っ!!スズっ。 鈴蘭:明嵐ッ!! 灯:感動してるとこ悪いんだけど、一時的でも結晶化するって事は力を使った途端奴らに感知されるって事なんだけど、ちゃんと理解してる? 鈴蘭:もちろんわかッてるわ!力を使わなければいいんでしょ? 明嵐:(何度も頷く)………っ! 灯:まぁ、わかってるならいいけど。取りあえずその結界、僕が解くか死ぬかしなければずっと持続するから、ってうわぁあっ!な、何するんだよ!! 0:解説している灯に抱き着く双子 鈴蘭:ありがとうッ! 明嵐:ありがとうございます! 灯:は、はぁっ!?ちょ、何が…。 鈴蘭:アナタはアタシ達の恩人よ!! 明嵐:恩人ですっ。 灯:わーーーーっ、わかったわかった!わかったからっ、離れろーーっ! 0:満面の笑みで離れる双子から、苦虫を嚙みつぶしたような表情で距離を取る灯 鈴蘭:(同時に)ふふッ。 明嵐:(同時に)へへッ。 灯:(ぶつぶつと)…全く、何なんだよ、一体…。 鈴蘭:今までの非礼をお詫びするわッ。 灯:はぁ? 鈴蘭:アタシ達を助けてくれてありがとうなのよッ、ご主人様ッ。 灯:ご、ごしゅじんさまーーーっ!? 0:灯の前に恭しく跪く双子 明嵐:僕達は、貴女(あなた)に付き従う事を誓います。 灯:…ち、ちょっと、待て。 鈴蘭:生涯この血を以て、貴女に生を捧げると誓うわッ。 灯:それは、まさか…。 鈴蘭:(同時に)「結(むすび)、幾久しく。」 明嵐:(同時に)「結、幾久しく。」 灯:従属の誓約じゃないかぁーーーーーっ!!!! : : : :<某日イタリア、ミラノホテルの豪華な一室> 0:リラックスした様子でカウチソファーに腰掛け通話する五島 五島:……何?双子の追跡に失敗しただと?………結晶香が消えた?まさか…殺したのか!? 五島:………とにかく、死体でも五体満足じゃなくても良いから見つけ出せ!必ずだ!いいなっ!!! 0:五島は乱暴に通話を切り、ベッドにスマホを投げる マリア:どうしたノ?何かトラブル? 五島:…いや、大したことじゃない。 マリア:あらぁ、逞しい血管をこんなに浮かび上がらせておいて「大したことない」だなんテ、少し会わない間に嘘が下手になッたのネ。 五島:………。 マリア:ふふっ。大方、アナタの所の大事なモルモットちゃんが逃げ出しタ…なぁんてところじゃ… 五島:(被せて)君の子供達の消息が消えたそうだ。 マリア:ッ、………そう。 五島:実の親に似て随分と手を焼かせる子供達だな。 0:その言葉に、マリアの額に青筋が走る マリア:日本のジェントルマンは随分とおぞましいジョークを言うのネ。 マリア:……アレを「我が子」だなんて思ッた事、一度もないワ。 五島:ひどいな、それでも人の子か?温かい血液が流れているとは到底思えん言葉だが。 マリア:良く言うワ。「人の子か」だなんテ、アナタに言われたらお終いネ。 五島:ははは、誉め言葉として受け取っておこう。 マリア:(呆れ)…そのポジティブさだけは称賛に値するワ。 五島:それで?例の物は? 0:マリアはクローゼットにしまっていたジェラルミンケースをテーブルの上に置く マリア:…どうぞ、確認してみテ。 五島:(中を確認して)……確かに百本揃っているな。 五島:残りは東京支部に送ってくれ。 マリア:手配済みヨ。 五島:ほう?妙に手際がいいな。 マリア:うふふふふふ。 五島:…何だ、随分と機嫌がいい様子だが。 マリア:こーれ、何だと思う? 五島:?それは…日本行きの、チケット? マリア:ア・タ・リ。 マリア:んふふ、公式な発表はまだ先なんだけど、アナタにだけ特別に教えてあげル。 0:五島の耳元に口を近づけるマリア マリア:(囁く)ワタシ、来月から東京支部に転勤になッたノ♪ 五島:………。 マリア:あらぁ、喜んでくれないのネ、悲しいワ…。 五島:…今度は何を企んでいる? マリア:ひどぉーい、企んでるだなんテッ。実績を評価されて昇進する同僚を称えてくれないノ? 五島:昇進…だと? マリア:そうヨ。来月からアタシ、アナタの直属の上司になるノ、ミスター・イツシマ。 五島:…何? マリア:うふふ、相変わらずコワーイ顔♪ マリア:あぁ、そうだ。アナタに会ッたらこれだけは忘れずに言おうと思ッてた事があるノ。 : マリア:ミラノに居る間はまだ、今まで通りカジュアルな関係で居てもらって構わないけれど、日本ではちゃんと「デュセット支部長」ッて呼んでネ?イツシマじ・ちょ・う♪ マリア:んふふふふふ。 五島:………。 マリア:(うっとりとした様子で)…はぁーん…日本に行けるのとッても楽しみ。 マリア:……早くアナタに会いたいワ、トモエ・ヤマブキ…んふふふふふ。 : : : :花鳥封結(かちょうふうけつ)~春の花と、双子月(ふたごづき)【END】

タイトル:花鳥封結(かちょうふうけつ)~春の花と、双子月(ふたごづき) : : : :<深夜の雑木林> 0:追手から必死に逃げる鈴蘭(すずらん)と明嵐(あらん) 鈴蘭:早く、明嵐ッ!!…こッち!! 明嵐:はぁっ、はぁっ、……っ待ってよ…、スズ! 鈴蘭:早くッ! 鈴蘭:………んもぉーッ!世話が焼けるんだからッ。休んでる暇なんてないのよ!? 0:手袋に包まれた不自由な手で明嵐を押す鈴蘭が土に足を滑らせる 明嵐:っ!?うわぁあっ!ちょっと、スズ押さないで……あ、危ないっ!! 鈴蘭:ッ!!き、きゃぁあああ!! 明嵐:スズーーーーっ! 0:二人は雑木が茂る崖下に転落していく : : : 灯:(タイトルコール)花鳥封結(かちょうふうけつ)第一話、『春の花と、双子月(ふたごづき)』 : : : :<大手製薬会社インベフラスコーポレーション施設内> 0:研究所の一室でパソコンに向かって項垂れている紗帆(さほ) 紗帆:(深いため息)…今回も駄目そうね。 五島:なんだ、また「失敗」か? 0:研究室に入ってきた五島(いつしま)を一瞥し、冷たい態度で返す紗帆 紗帆:五島次長…。 : 紗帆:…失敗じゃないわ、「成功への近道」よ。 五島:ははは、近道ねぇ…。 紗帆:………。 五島:ふん、だといいが。 : 五島:ならば、その「成功の近道」とやらからは何か良い成果が得られたのかね? 五島:それとも…(鼻で笑う)やはりただの「失敗」に終わったかな? 0:不機嫌な様子でパソコンのキーボードをたたく紗帆 紗帆:……ん。 五島:?…これは? 紗帆:被検体ナンバー205、「ヨウスケ・アイダ」のデータよ。 紗帆:……見て、ここ。 五島:………。 紗帆:シトロドトキシンの投与により、腎機能に一時的な亢進と心拍数の増加、それ加えて自傷行為などの二十一分間に及ぶ奇行が見られた。 紗帆:恐らく、シトロドトキシンの血中濃度が急激に上がったことによる副作用だと思われる。 五島:……それで? 紗帆:…その後、合わせてエンポリオ酸の追加投与を行った結果、四分間ではあったけれど、被検者の身体に著しい「結晶化」の兆候が見られた。 五島:ほう…その兆候と言うのは? 紗帆:右上肢から胴体腹部にかけての強い硬質化と、両目に虹彩の色調変化、それと……。 五島:なんだ、勿体ぶらずにさっさと言え。 0:薄い紙の資料を差し出す紗帆 紗帆:……興奮時に微量ではあるけれど、密閉された室内で「不自然な風」が現れたとの報告が上がってきているわ。 五島:なんだと?……データを見せてくれ。 0:紗帆から資料を受け取り、五島は食い入るようにそれに目を通す 紗帆:…詳しい調査により、花人(はなびと)特有の能力、「花戯(かぎ)」の一種であると判明した。 五島:……驚いた。これは確かに、「近道」となりうる素晴らしい「一歩」だ。よくやった、御波(みなみ)主任。 紗帆:…どうも。 : 紗帆:(口ごもりながら)ただ… 五島:…なんだ。 紗帆:花戯が出現したのはその一度きりで…。 五島:ふむ。それは残念だが、しかし次がある。そう気を落とすな。 紗帆:だけど、ヨウスケ・アイダはその直後に激しい拒絶反応を起こし、今は重度の昏睡状態に… 五島:(被せて)はっ、そんなつまらん些事などわざわざ報告する必要はない。 五島:数百居る内のたかが一匹だろう? 紗帆:…そんな言い方…。 0:資料をデスクに置き紗帆の肩に手を乗せる五島 五島:モルモットが死ぬ度に落ち込んでいたら、気が持たんぞ? 紗帆:どうかしら?私は本物のモルモットだって死ねば悲しいわ。 五島:ふっ、そうか。研究者とはまるで思えんような慈悲深さだが、まぁそれも結構。 : 五島:では、栄えある「一歩」に敬意を表して、優秀な君に朗報をやろう。 紗帆:……? 五島:数日前逃亡した被検体ナンバー56、及び57だが。つい先程、二匹の位置を特定した。 紗帆:……。 五島:(訝しむ様に)……驚かないんだな。 紗帆:…驚いてるわ。 五島:ほう?しかしその割には随分と落ち着いているようだが? 紗帆:身寄りのない子供の捜索なんて、貴方の手に掛かれば造作もない事でしょ?私が驚いているのはもっと別の事よ。 五島:…? 紗帆:貴方のご自慢の優秀な部下達が、揃いも揃ってたかが子供二人見つけるまでにこれほど多くの時間を要した。 紗帆:(嘲笑)あぁもしかして、逃げた子達はとっても足の速い子ネズミちゃんだったのかしら? 五島:ははははは、君の怒りももっともだが、まぁそう言ってくれるな。これでも探索班には随分と無茶をさせたんだ。 五島:時間がかかったのはつまり、それだけあの双子の能力が高性能だという事の証明だろう?ん? 五島:彼らの「担当」だった君からすれば大変喜ばしい事じゃあないか。 紗帆:…そうね。でも本当に私を喜ばせたいと思うのなら「一刻も早く双子を捕まえてきて」とその優秀な無能たちに伝えて頂戴。 五島:はーっはっはっはっはっは!!これは手厳しいな。 紗帆:(溜息) 五島:わかったわかった、彼らにはそう伝えるとしよう。では、次の被検体もよろしく頼むよ、御波主任。 0:五島が退室した後、私物のスマホで電話をかける紗帆 紗帆:(小声)………もしもし、灯(ともえ)? 紗帆:まずいことになったわ…五島が双子の位置を……えぇ、なるべく急いで頂戴。 紗帆:必ず五島の部下より先に……お願いね。(通話を切る) 0:間をあけて 紗帆:(溜息)……やるじゃない、無能のクセに。 : : : 0:紗帆の個人研究室を退室した後、人気の無い廊下を轟足で歩きながら電話をかける五島 五島:……私だ。デュセットとは連絡がついたか?………そうか、わかった。ではすぐにイタリア行きの便を手配してくれ。 五島:あぁ、それと…。月海姉弟(つきみきょうだい)のデータをデュセットに送っておいてくれ。 五島:……いや、御波には知らせなくていい。………あぁ。今回の責任者は君だ。…彼女に無能と呼ばれたままでは悔しいだろ?(通話を切る) 0:間をあけて 五島:…さぁて、次こそは大きな「近道」になる事を期待しているよ……ふっ、ふふふふふ。 : : : :<街角に立ち並ぶカフェの店内> 0:カウンターのメニュー表を真剣な様子で見つめる灯 灯:……キャラメルショコラロイヤルハニーメルトのダブルと、シナモンアップルのエルダーバニラアイスラテ。 店員:キャラメルショコラロイヤルハニーメルトのダブルがお一つと、シナモンアップルのエルダーバニラアイスラテがお一つですねっ!お会計が2832円になりまぁす! 灯:領収書下さい。 店員:かしこまりましたぁー!このレシートをお持ちになって、あちらの黄色いランプの下でお待ちくださぁい!次でお待ちのお客様ぁー! 0:ランプの下に移動し、スマホを弄る 灯:…ん…新しいニュース? 灯:『イタリアで新ウィルス「CОP=107(いちまるなな)」に対する不活化ワクチンの研究に成功…。接種回数は2週間を空けて…』げっ、四回ぃい? 灯:……はんっ、面倒くさ。親玉「封じ」れば簡単に済むのに。 店員:キャラメルショコラロイヤルハニーメルトのダブルと、シナモンアップルのエルダーバニラアイスラテでお待ちのお客様ぁー! 灯:…あ、はい。 店員:お待たせしましたぁー、こちらメルトは大変お熱くなっておりますのでお気を付けてお持ち下さいませぇー! 灯:…ども。 : 0:ホットとアイスのカップで両手が塞がった状態で店を出る灯に向かって爆走してくる鈴蘭と、それを追いかける明嵐 灯:あちちっ……やっぱ紙袋に入れてもらえば良かった…。 鈴蘭:どいてーーーー!! 灯:……? 鈴蘭:どいてどいてどいてぇぇええーーーッ!!! 0:数メートル先の下り坂から爆走してくる鈴蘭の姿を捉え、灯は小声で術文も唱え出す 灯:何アレ。坂道爆走する…子供?……っと、このままだとぶつかりそうだな…。 :(【】内は、あればリバーブ等かけて) 灯:【冬の月、残夜の刻(ざんやのこく)、氷結の泉に漂い凝(こご)る白鳥(しらとり)】 鈴蘭:そこのちびッ子!!どきなさいッてばぁああああッ!! 灯:【結界、シラサギ】 0:灯が術文を唱えた瞬間歩道が凍るが、気づかず爆走する鈴蘭 鈴蘭:ちょッとおおおおッ!?!? 灯:……一応カップに重ね掛けしとくか。 : 灯:【重(かさね)、ハチドリ】 0:その術文に、灯の持っていたカップが宙に浮く 鈴蘭:いやぁあああッ、止まれないぃぃぃぃいいいッ!! 明嵐:あっ!危ないっ!!!! 0:凍った路面に鈴蘭は足を滑らせる 鈴蘭:っ!?氷!?きゃぁああッ!! 明嵐:スズ!大丈夫!?スズ!! 鈴蘭:……あいッたたたたた……。 灯:………。 鈴蘭:やだぁー…膝すりむいちゃッたぁ…。 鈴蘭:もーッ、なぁんでこんな暑い日に道が氷ッてんのよぅ…。 明嵐:って言うか下り坂で急に走り出したら危ないって…わっ、スズ!膝から血が出てるよ!? 鈴蘭:えぇッ、嘘ッ!あぁ…ほんとだぁ。やだもー、痕になッたらお嫁に行けなくなッちゃうじゃない…(泣)。 明嵐:だ、大丈夫だよ。すぐ治るって…。 鈴蘭:うぅー、…大体どいてッて言ッたのにあのちびッ子が… 灯:(被せて)おい、クソガキども。 鈴蘭:(同時に)なッ!?く、くそがきぃい!? 明嵐:(同時に)ひぃっ。 灯:ギャーギャー喚く前にナンか言う事あるだろ。 鈴蘭:はぁッ!?それはこッちのセリフ… 明嵐:(被せて)すみませんでしたぁああ! 0:灯の形相に血相を変え、慌てて鈴蘭とお団子頭を掴んで無理やり下げさせる明嵐 鈴蘭:わッ、ちょッ、何するのよ明嵐!! 明嵐:(小声で)いいからっ!スズも謝って! 鈴蘭:なんでアタシがッ…。 灯:は?なんでもクソもねーだろ。街中爆走した挙句他人に突っ込んでおいて謝罪もできねーのか、このマイクロどチビが。 鈴蘭:ま、まいくろどちびですッてぇぇええ!? 灯:相手が僕じゃなかったら、今頃この熱々のキャラメルショコラロイヤルハニーメルトと冷え冷えのシナモンアップルのエルダーバニラアイスラテをダブルで頭から被ることになってたんだぞ?あぁっ? 鈴蘭:そ、それが何だッて言うのよ! 灯:…じゃあお前が体験してみるか? 明嵐:っ!?か、カップが…浮いてる…!? 鈴蘭:ッ!?…そ、それ、まさか…結界!? 灯:…? 0:地面で寄り添う双子を仔細に眺める灯 灯:……白い服に、赤い目の双子…しかも結界を知ってるって事は、もしかしてこのクソガキが…? 明嵐:す、スズぅ…この人…。 鈴蘭:………。 灯:名前は? 明嵐:え? 灯:アンタ達の名前。 鈴蘭:ばッかじゃないの?赤の他人に名乗るわけないでしょ? 灯:……ソッチの、さっき「アラン」て呼ばれてたよね。 明嵐:っ!? 灯:じゃあそっちのメスガキが「スズラン」か。 鈴蘭:ッ!!なんでアタシ達の名前……それよりアンタ…結界師ね!? 灯:研究室から逃げ出した双子ってアンタらの事で間違いなさそうだね。 鈴蘭:(同時に)………。 明嵐:(同時に)………。 灯:………。 0:徐に電話をかけ始める灯を見て慌てる双子 鈴蘭:…ちょッと!ドコに電話してるのよッ!? 灯:アンタらの家。 鈴蘭:(同時に)や、やめてッ! 明嵐:(同時に)やめてくださいっ! 灯:………もしもし、…居たよ。……うん、二人とも無事。 鈴蘭:(小声)……明嵐、逃げるよ。 明嵐:(小声)う、うん。 灯:【結界、マナヅル】 0:二人の身体を透明の綱が縛り上げる 鈴蘭:(同時に)ッ!?きゃぁあああああッ!! 明嵐:(同時に)ぅわぁあああああああっ!! 鈴蘭:何よこれぇええ! 明嵐:う、動けない…っ。 灯:……ううん、何でもない。……別にケガさせてないって……(鈴蘭の膝を見て)故意には。 灯:……はぁ?仕事内容にそんなの入ってなかった。 鈴蘭:ちょッと!これアンタの仕業でしょ!解(ほど)きなさいよッ!! 灯:…はぁー、うるさ。 灯:【重、マナヅル】 0:見えない何かに口を塞がれる鈴蘭 鈴蘭:んッ!?んんんーッ!!んんーーーッ! 灯:(嫌そうに)……わかった。でも一日だけだからね。……ん、じゃ。(通話を切る) 明嵐:あ…あの…。 灯:一度しか言わないからよく聞いて。 鈴蘭:(灯を睨む)ッ! 明嵐:(頷く)……っ! 灯:アンタらを研究室に連れてくのは一旦保留。明日の夜までウチで預かることになった。痛い目に遭いたくなかったら大人しくしとくことね。 灯:(鈴蘭に向かって)でないと、その生意気な口、一生きけないようにしてやるから。 鈴蘭:ーーーッ! 明嵐:(何度も首を縦に振る)……っ! 灯:…じゃ、行くよ。 : : : :<日の暮れた港> 0:複数名の黒服に追いかけられ逃げる灯達三人 男:あっちだ!!あっちに行ったぞ!! 灯:っ、しつこい… : 灯:【結界、オオモズ】 0:激しい打撃が先頭の黒服達を襲う 男:っぐわぁああああああ!!……っくそ!何なんだ急に!妙な力使いやがって…。あんな力使うなんて報告にはなかったぞ!? : 男:(舌打ち)……動けるヤツだけでいいっ!追えっ!!追えーーっ!! 鈴蘭:んんーーーッ!? 明嵐:うわわわわっ! 灯:こっち、もっと早く走って。 明嵐:で、でもっ、縛られてるから走り辛くて…。 灯:つべこべ言ってないで、早く。 鈴蘭:んんんッ!んんーーーッ! 灯:(小声)……しっ、黙って。 0:灯に押し込まれるようにコンテナの物陰に身をひそめる 明嵐:(同時に)………。 鈴蘭:(同時に)………。 男:……どこ行った、あのガキ供…。 灯:(小声)【結界、ライチョウ】。 0:三人の周りを風の膜が覆い、一瞬の内に周囲の風景に擬態する 男:こっちに逃げたはずだが…。っくそ!やはり機動性が落ちるからと探知機を置いて来たのはまずかったな…。 鈴蘭:(怯える)………。 明嵐:(怯える)……っ。 男:見失ったか…。おいっ!こっちには居ない!向こうだ!向こうを探せっ! 男:そっちのお前は拠点からセントファインダーを持ってこい!今すぐにだ!! 0:バタバタと走り去って行く黒服達 明嵐:…すごい、目の前に居たのに気づかれなかった…。これが、結界の力? 灯:……よし、行くよ。 明嵐:…あ、あの。行くって、どこに…? 灯:第三隠れ家。 明嵐:…だい…さん? 灯:三番目の隠れ家ってこと。 明嵐:…え、えっと…。 0:三人の目の前にそびえたつ大きな倉庫 灯:着いた。 明嵐:えっ!?もうっ!?……って…ココ、ですか? 灯:そう、早く入って。 明嵐:……この倉庫が、隠れ家…? 灯:入ったら閉めて。 明嵐:あっ、はいっ…。うっ……おも、い…。 0:無骨な外観からは想像もつかない程、中は生活感にあふれている 灯:【結界、アオバズク】 明嵐:…い、今のは…? 灯:………隠れ家の周りに防音と隠蔽(いんぺい)の結界を張った。 明嵐:防音?ど、どうして…? 灯:それはアンタの片割れが… : 灯:【結(むすび)マナヅル、解】 0:その言葉を皮切りに鈴蘭の口を塞いでいた結界が解かれる 鈴蘭:んんッ、…んあッ!あーーーーーッ!!やッと話せるようになッたぁあああ!ちょッとアンタねぇッ!! 灯:(うんざりと)…うるさいから。 明嵐:……ご、ごめんなさい。 鈴蘭:こんな所に連れてきてどーゆーつもりよッ!これは立派な誘拐よ!?この犯罪者ッ!! 0:喚く鈴蘭を気にもせず、灯は薄型のノートパソコンを起動させた 灯:………。 鈴蘭:大体ちびッ子のクセして結界術使えるッてアンタ一体何者ッ!? 灯:………。 鈴蘭:ちょッとーーーッ!黙ッてないで何とか言いなさいよーーーッ!! 0:パソコンのモニターに映し出される紗帆 灯:もしもし、聴こえる? 紗帆:『……えぇ、ちゃんと聴こえてる。久しぶりね、二人とも。』 鈴蘭:(同時に)紗帆!! 明嵐:(同時に)紗帆先生!! 紗帆:『うふふ、モニター越しだけど、元気そうで良かったわ。』 鈴蘭:…なんで紗帆が…。 紗帆:『私が貴方達の保護を彼女の頼んだの。』 鈴蘭:……え? 明嵐:…保護? 紗帆:『えぇ。』 鈴蘭:………。 明嵐:…それは…僕達を捕まえる…ため? 紗帆:『(微笑む)いいえ、…少なくても、私と彼女にあなた達を捕まえる意思は無いわ。』 明嵐:じゃあ…どうして? 紗帆:『………。』 灯:アンタらを捕まえようとしてる奴らから守る為。 明嵐:………。 鈴蘭:…はッ、それを信じろッて? 明嵐:スズっ! 鈴蘭:だって紗帆もそいつらの仲間じゃないッ!! 明嵐:違うっ!紗帆先生はあいつらの仲間じゃないっ! 鈴蘭:何でそう言いきれるのよッ!同じ研究所で働いてるじゃないッ!仲間じゃないなんて何でッ 明嵐:(被せて)絶対に違うったら!! 鈴蘭:ッ! 明嵐:…紗帆先生は……悪い人の、仲間じゃない…。 鈴蘭:………。 紗帆:『ありがとう、アラン。』 明嵐:……(鼻を啜る)ぐすっ。 紗帆:『スズ、疑うことは良い事よ。簡単に他人を信じてはダメだと教えたのは私だったものね。ちゃんと覚えていて偉いわ。』 鈴蘭:……子供扱いしないでよぉ…。 紗帆:『(微笑む)……二人とも、良く聞いて。今あなた達を狙っているのは、…五島なの。』 鈴蘭:ッ!?いつ…し、ま…。 明嵐:っ!!(震える)………。 紗帆:『…五島だけじゃない、恐らく今後…カメリアグループもあなた達の捜索に本腰を入れてくるつもりだわ。』 灯:カメリアって言ったら、裏でやばいことばっかしてるって有名なとこじゃ… 紗帆:『灯っ!』 灯:(溜息) 0:灯の言葉に青ざめる双子 鈴蘭:………。 明嵐:…っ。 灯:……悪かった。黙るよ。 紗帆:『(溜息)…スズ、アラン。彼女は山吹(やまぶき)灯。とても優秀な結界師よ。暫くの間あなた達のボディーガードをしてくれるわ。』 灯:「一時的」にね。 紗帆:『(非難するように)…灯?』 灯:(両手を上げる)………。 紗帆:『腕は確かだから安心して。』 鈴蘭:(馬鹿にしながら)このちびッ子が優秀な結界師ですッて? 明嵐:スズっ。 鈴蘭:だッて、どう見たッてお子様じゃない。下手すればアタシ達よりも年下かも… 紗帆:『(被せて)ふふっ。』 灯:(睨む)…紗帆? 紗帆:『あら、ごめんなさい。』 鈴蘭:…? 紗帆:『大丈夫よ、スズ。彼女、こう見えて私よりも年上だから。』 明嵐:(同時に)…え? 鈴蘭:(同時に)…え? 灯:(不貞腐れる)………。 明嵐:(同時に)ええーーーーーっ!? 鈴蘭:(同時に)ええーーーーーッ!? 紗帆:『うふふふ。』 灯:ふんっ。 : : : 0:ベッドスペースで眠りにつく双子から離れ、灯は紗帆と通話している 紗帆:『二人は?』 灯:向こうで寝てるよ。僕のベッドを占拠してね。 紗帆:『うふふ……随分疲れてたのね、可哀想に…。』 灯:……それで?アイツら一体ナニモンなの。 紗帆:『…ウチの被験者よ。』 灯:へぇ。 紗帆:『三度(みたび)に渡る薬液とホルモン剤の投与によって、二人に後天的な花戯(かぎ)能力の発現を認めたわ。それも顕著にね。』 灯:ふーん。 紗帆:『それと同時に遅効性の結晶化も…。』 灯:………。 紗帆:『ただ…花戯能力が高い事による副作用なのか、他の被検者よりも結晶化の肉体的変化がとても著しいの。 紗帆:その影響で、結晶香(けっしょうこう)の発効に抑制がかかっていて、最新の探知機にも引っかかりにくいのは「運が良かった」と言うべきなのかもしれないんだけれど…。』 灯:この際なりふり構ってられないでしょ。 灯:なんだかんだでここまで逃げ延びれたんだし、結果オーライなんじゃない? 紗帆:『そうね…。そう考えた方がいいわね。』 : 紗帆:『それで、その結晶化の方なんだけど。姉の鈴蘭にはヒガンバナ、別称「雷花(かみなりばな)」の花戯が現れたわ。』 灯:よりにもよって、「雷」か…。 紗帆:『(頷く)両前腕の硬質化と、右眼の赤色(せきしょく)変化も同時に見られている。』 灯:はぁーん、なるほど。それであの暑っ苦しい手袋ね。 : 灯:…それにしても、そっちの管理体制どうなってんの?みすみす雷系統の人工花人を逃がすだなんて。 灯:万が一街中で暴走なんかしてたら、冗談じゃすまないレベルの被害が出てたと思うけど。 紗帆:『えぇ、全くその通りよ。いくら緊急で仕方が無かったとは言え、流石にちょっと無謀だったわ…だけど、そうなる前にあなたが保護してくれて本当に良かった。』 灯:…完全に「たまたま」だったけど? 紗帆:『それについては申し訳ないと思っているわ。…謝って済む問題じゃないのもわかってる。だからそんなに睨まないで。』 灯:………。 紗帆:『(バツが悪そうに咳払い)…話、戻すわね。 紗帆:一方で、弟の明嵐に現れたのは、スイレンの花戯と胸部の硬質化よ。左目にスズと同様の色素変化が見られている。』 灯:雷と…水?ふっ、皮肉なものね、双子で相乗効果のある能力に目覚めるなんて。 紗帆:『そこなのよ……。どちらかが岩系統か、もしくは双子でなければそれ程脅威でも無かったのに…。』 灯:だね。 紗帆:『しかも一番腹が立つのは…散々モルモット扱いしてたくせにあの子達が高い能力を出現させたと聞くや否や、組織の特殊捜査班を集結させて追いかけ回し始めた上層部のクズ共の事よ。 紗帆:大の大人が何十人がかりで幼い子供をよ?馬鹿みたいに躍起になって…まるで猟犬みたいだわ。』 灯:はっ、利用価値が出た途端手の平返しってわけ?アホらし。 紗帆:『…最悪、イタリア支部にも連絡が行っている可能性がある。』 灯:イタリア?なんでまた…。 紗帆:『イタリア支部の次長、マリア・デュセットは二人の母親なの。』 灯:へぇ?それはそれは…。マリア・デュセットと言えば、新ウィルス「CОP=107」研究の第一人者でしょ? 紗帆:『えぇ、そのワクチンを発見したのも彼女よ。』 灯:…ふぅん。 紗帆:『まぁ母親とは言っても、彼女が育てたわけでもなければ、お腹を痛めて産んだわけでもないんだけど。』 灯:…?…どういう事? 紗帆:『…二人は、デュセットの卵子と、月海教授の遺伝子を媒体に「創られた」、いわゆる試験管ベイビーなの。』 0:表情を強張らせた灯の周囲にゆらりとつむじ風が舞う 灯:(怒りに打ち震える)…月海…。 紗帆:『抑えて、灯。…気持ちはわかるけど、あなたが今興奮したら二人とも起きてしまうわ。……それに、冷静になって周りを見てみて。あなたの起こした小さな台風のせいで、テーブルの上、滅茶苦茶よ?』 灯:……(舌打ち)。 紗帆:『…ねぇ、どうかお願い、二人を守って。五島にもカメリアグループにも、…もちろんデュセットにだって、あの子達を渡すわけにはいかないの。 紗帆:…あなたにならわかるでしょ?』 灯:……(溜息)、紗帆のそーゆーとこ、ほんと嫌い。 紗帆:『ありがと(笑)。けど、恐らくだけど…きっと今回の事、あなたにも損ではないと思うわ。』 灯:ふんっ、期待しないでおく。 紗帆:『うふふ。……それじゃあ、そろそろ切るわね。』 灯:ん。………紗帆っ。 紗帆:『…なぁに?』 灯:…気をつけて。 紗帆:『ありがとう。でも私は平気。いざとなれば十六夜(いざよい)が居るから。』 灯:…そうだね。でも、気を付けるに越したことはない、そうでしょ? 紗帆:『わかったわ、気を付ける。じゃあ、あの子達の事、よろしくね。』 灯:うん。 : : : 0:目を覚ました双子に不遜な態度で対峙する灯、三人はローテーブルを挟み向かい合わせにソファーに腰掛けている 鈴蘭:それで?優秀な結界師様がどうやッてアタシ達を守るッて言うの? 明嵐:スズっ、そんな言い方…。 鈴蘭:うーるーさーいーッ、明嵐は黙ッてて! 明嵐:もぉー…。 灯:おい、クソチビ。 鈴蘭:なッ!!またチビッて言ッたわね!? 灯:手袋、外して。 鈴蘭:はぁッ!? 灯:そっちは服を脱いで。 明嵐:えっ!? 鈴蘭:ちょッと!!何言ッてんのよ、この変態ッ!! 灯:結晶化がどの程度か見たい。 鈴蘭:ッ!!い、いやよッ!なんでアンタなんかに…ッて、明嵐!? 0:明嵐は大人しくシャツを脱ぐ 明嵐:……これで、いいですか? 0:ローテーブルの上に手をついて身を乗り出し、灯は興味深そうに明嵐の胸元にびっしりと張り付いた赤黒い結晶をまじまじと観察する 灯:…ふーん…ステージ2か…思ったよりは進んでないね。 鈴蘭:うぅーーッ! 灯:(鈴蘭に向かって)…何してんの?早くして。 鈴蘭:~~ッ!!わかッたわよッ!外せばいいんでしょッ、外せばぁッ! 0:潔く手袋を外し灯に両腕を差し出す鈴蘭の腕は、肘近くまで艶々と赤黒く結晶化していた 鈴蘭:…ほらッ、好きなだけ見なさいよッ!! 灯:……こっちもステージ2。良かった、これなら余裕。 鈴蘭:はぁ?何言ッて…。 灯:【冬の月、夕闇の刻、音無しの夜に眠る夜告げ鳥、結界、サヨナキドリ】 0:ゆっくりと双子の全身に纏わりつく温かい風 鈴蘭:…えッ?な、何これッ……体の周りに…。 明嵐:…あったかい、風? : 明嵐:……あっ!スズの手! 鈴蘭:…ッ、腕のカタマリが、消えてく…? 鈴蘭:…あッ!明嵐のも消えてッてる!! 明嵐:っ!?ほんとだっ!! 0:風と共に二人の硬質化していた部分が次第に身体の中に吸収されていく 鈴蘭:……嘘みたい。アタシの手、元に戻ッてる…。 明嵐:僕のも!赤い石、みんな消えた! 灯:勘違いしないで、消えたわけじゃない。 鈴蘭:え? 明嵐:でも…。 灯:それは一時的に体内の毒性を眠らせて結晶化を封じ込めただけ。つまり、アンタ達が力を使えばまた同じように結晶化する。 鈴蘭:(不安げに)それッて…次、力を使ッたらこの結界が消えるッて事!?またあの変な手に戻ッちゃうのッ!? 灯:いや?そうは言ってない。 0:考える素振りを見せる明嵐 明嵐:……もしかして、力を使った時だけ一時的に赤い石が出る、ってこと…ですか? 灯:まぁ、簡単に言えばそーゆー事。 0:喜びに手を取り合う双子と、冷めた様子でソファに腰掛け激甘のキャラメルラテを啜る灯 明嵐:っ!!スズっ。 鈴蘭:明嵐ッ!! 灯:感動してるとこ悪いんだけど、一時的でも結晶化するって事は力を使った途端奴らに感知されるって事なんだけど、ちゃんと理解してる? 鈴蘭:もちろんわかッてるわ!力を使わなければいいんでしょ? 明嵐:(何度も頷く)………っ! 灯:まぁ、わかってるならいいけど。取りあえずその結界、僕が解くか死ぬかしなければずっと持続するから、ってうわぁあっ!な、何するんだよ!! 0:解説している灯に抱き着く双子 鈴蘭:ありがとうッ! 明嵐:ありがとうございます! 灯:は、はぁっ!?ちょ、何が…。 鈴蘭:アナタはアタシ達の恩人よ!! 明嵐:恩人ですっ。 灯:わーーーーっ、わかったわかった!わかったからっ、離れろーーっ! 0:満面の笑みで離れる双子から、苦虫を嚙みつぶしたような表情で距離を取る灯 鈴蘭:(同時に)ふふッ。 明嵐:(同時に)へへッ。 灯:(ぶつぶつと)…全く、何なんだよ、一体…。 鈴蘭:今までの非礼をお詫びするわッ。 灯:はぁ? 鈴蘭:アタシ達を助けてくれてありがとうなのよッ、ご主人様ッ。 灯:ご、ごしゅじんさまーーーっ!? 0:灯の前に恭しく跪く双子 明嵐:僕達は、貴女(あなた)に付き従う事を誓います。 灯:…ち、ちょっと、待て。 鈴蘭:生涯この血を以て、貴女に生を捧げると誓うわッ。 灯:それは、まさか…。 鈴蘭:(同時に)「結(むすび)、幾久しく。」 明嵐:(同時に)「結、幾久しく。」 灯:従属の誓約じゃないかぁーーーーーっ!!!! : : : :<某日イタリア、ミラノホテルの豪華な一室> 0:リラックスした様子でカウチソファーに腰掛け通話する五島 五島:……何?双子の追跡に失敗しただと?………結晶香が消えた?まさか…殺したのか!? 五島:………とにかく、死体でも五体満足じゃなくても良いから見つけ出せ!必ずだ!いいなっ!!! 0:五島は乱暴に通話を切り、ベッドにスマホを投げる マリア:どうしたノ?何かトラブル? 五島:…いや、大したことじゃない。 マリア:あらぁ、逞しい血管をこんなに浮かび上がらせておいて「大したことない」だなんテ、少し会わない間に嘘が下手になッたのネ。 五島:………。 マリア:ふふっ。大方、アナタの所の大事なモルモットちゃんが逃げ出しタ…なぁんてところじゃ… 五島:(被せて)君の子供達の消息が消えたそうだ。 マリア:ッ、………そう。 五島:実の親に似て随分と手を焼かせる子供達だな。 0:その言葉に、マリアの額に青筋が走る マリア:日本のジェントルマンは随分とおぞましいジョークを言うのネ。 マリア:……アレを「我が子」だなんて思ッた事、一度もないワ。 五島:ひどいな、それでも人の子か?温かい血液が流れているとは到底思えん言葉だが。 マリア:良く言うワ。「人の子か」だなんテ、アナタに言われたらお終いネ。 五島:ははは、誉め言葉として受け取っておこう。 マリア:(呆れ)…そのポジティブさだけは称賛に値するワ。 五島:それで?例の物は? 0:マリアはクローゼットにしまっていたジェラルミンケースをテーブルの上に置く マリア:…どうぞ、確認してみテ。 五島:(中を確認して)……確かに百本揃っているな。 五島:残りは東京支部に送ってくれ。 マリア:手配済みヨ。 五島:ほう?妙に手際がいいな。 マリア:うふふふふふ。 五島:…何だ、随分と機嫌がいい様子だが。 マリア:こーれ、何だと思う? 五島:?それは…日本行きの、チケット? マリア:ア・タ・リ。 マリア:んふふ、公式な発表はまだ先なんだけど、アナタにだけ特別に教えてあげル。 0:五島の耳元に口を近づけるマリア マリア:(囁く)ワタシ、来月から東京支部に転勤になッたノ♪ 五島:………。 マリア:あらぁ、喜んでくれないのネ、悲しいワ…。 五島:…今度は何を企んでいる? マリア:ひどぉーい、企んでるだなんテッ。実績を評価されて昇進する同僚を称えてくれないノ? 五島:昇進…だと? マリア:そうヨ。来月からアタシ、アナタの直属の上司になるノ、ミスター・イツシマ。 五島:…何? マリア:うふふ、相変わらずコワーイ顔♪ マリア:あぁ、そうだ。アナタに会ッたらこれだけは忘れずに言おうと思ッてた事があるノ。 : マリア:ミラノに居る間はまだ、今まで通りカジュアルな関係で居てもらって構わないけれど、日本ではちゃんと「デュセット支部長」ッて呼んでネ?イツシマじ・ちょ・う♪ マリア:んふふふふふ。 五島:………。 マリア:(うっとりとした様子で)…はぁーん…日本に行けるのとッても楽しみ。 マリア:……早くアナタに会いたいワ、トモエ・ヤマブキ…んふふふふふ。 : : : :花鳥封結(かちょうふうけつ)~春の花と、双子月(ふたごづき)【END】