台本概要
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タイトル | 花鳥封結~第二話 |
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作者名 | 砂糖シロ (@siro0satou) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 4人用台本(男3、女1) |
時間 | 60 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
異能系現代ファンタジー 【あらすじ】 結界師の山吹灯(やまぶきともえ)に保護され、勢いで従魔の誓約をした人工花人(じんこうはなびと)の双子、鈴蘭(すずらん)と明嵐(あらん)。灯をご主人様と慕う双子を巡って紛争する人々と、それらを取り巻く様々な想い。 異能系シリーズ第ニ弾、灯との関りで、内気だった明嵐の想いが少しずつ変化していく。 ご使用の際はTwitterでご一報くださると嬉しいです(強制ではありません)。 商用目的の場合は必ずTwitter(@siro0satou)のDMにて作者の了承を得てください。 Skype・discord環境であればぜひ拝聴させて頂けると、今後もさらに意欲が増します! 音声ファイルなども大歓迎です!! 66 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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灯 | 女 | 132 | 山吹 灯(ヤマブキ トモエ) 年齢不詳(紗帆より年上)。 身長145㎝、白髪のストレートロング。 幻想級の結界師で性格は淡白で滅多に大声を出さない。 一人称は「僕」。甘党。 |
明嵐 | 男 | 124 | 月海 明嵐(ツキミ アラン) 年齢10代前半。 左目が赤く、胸に結晶化がある人工花人(水系統)。 姉の鈴蘭と共に逃亡していた所、灯と出会う。 性格は内気で素直で一途。 灯に対し複雑な感情が芽生え始める。 |
五島 | 男 | 36 | 五島 晃(イツシマ アキラ) 年齢30~40代。 インベフラスコーポレーション東京支部の次長。 常に慇懃無礼な態度で、被験者をモルモット扱いしている。 同僚のマリアに出世を越されたせいか、近頃焦りが見え始める。 |
刻定 | 男 | 39 | 叶 刻定(カナエ トキサダ) 年齢20代後半~30代前半。 導師級の結界師。灯の弟弟子。 五島の部下(ボディーガード兼秘書)。 影では灯を気にかけている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
タイトル:花鳥封結(かちょうふうけつ)二話~花の憂いと、秘めたる想い
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:(明嵐モノローグ)
明嵐:【M】(僕は、「人工花人(じんこうはなびと)」。
明嵐:多くの競合する製薬会社の中でも群を抜く大手企業の一つ、「インベフラスコーポレーション」、通称IFC(あいえふしー)の水面下で秘密裏に行われている研究によって生み出された負の産物、それが人工花人だ。
明嵐:1984年、シトロドトキシンとエンポリオ酸と言う特殊な薬物を体内に投与することで、身体の変化と特殊能力を稀に得られることが明らかになった。
明嵐:当時の研究者は、風や水と言った様々な自然現象を産み出せるその特殊能力を、「花が戯れる」と書いて花戯(かぎ)と呼び、それらを生み出す個体を花人と名付けた。
明嵐:だけど…その特別な能力を得た代償に、薬物を投与された被験者たちは皆一人も漏れることなく、若くしてその命を落とすことになった。
明嵐:数日前、決死の思いで件の研究所から逃げ出した僕と、双子の姉、鈴蘭(すずらん)も、その被害者の内の一人だった。
明嵐:望みもしない異能に、無機質な部屋の中で毎日繰り返される痛みと不快な人体実験。目に見えて異質に変化していく体。そして、着々とすり減っていく寿命。
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明嵐:「儚く散っていく人生」は、まるで本物の花にでもなった様だと、いつかの僕はそうぼんやりと思っていた。)
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灯:(タイトルコール)花鳥封結(かちょうふうけつ)第二話、『花の憂いと、秘めたる想い』
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:<インベフラスコーポレーション(IFC)横浜支部>
0:コソコソと廊下を並んで歩く灯(ともえ)と、女装し左目に眼帯を付けた明嵐(あらん)
明嵐:(小声)……ご、ご主人様っ。
灯:………。
明嵐:(小声)…ご主人様っ。
灯:………。
明嵐:(小声)あの、ご主人さ…
灯:(小声)その呼び方やめろってば。
明嵐:(小声)だ、だってぇ…。
灯:(小声)声出すな、バレるだろ。
明嵐:うぅ……。
灯:………。
明嵐:………。
灯:………。
明嵐:(小声)………ご主人様ぁ…(泣)。
灯:あーっ、もうっ。
灯:こっち来い。
明嵐:うわぁっ!ここ女子トイレっ…。
0:痺れを切らした灯が、明嵐を女子トイレに押し入れる
灯:いい加減にしろよ、お前。
明嵐:ううぅ…っ、だってぇ…この服すごくスースーするんですぅぅ…。
灯:スカートなんだから当たり前だろ。
明嵐:…なんで僕がスカート履かなきゃなんないですかぁー(泣)。
灯:だーかーらー、お前の正体がバレないようにだって、そう言っただろ。
明嵐:……ここまでしてこんな危険な所に来る必要あったんですかぁ?
灯:必要なかったらそもそもこんなトコ来ない。
明嵐:うぅ…そうですけどぉ…。
灯:(深い溜息)昨日あんだけ説明したのに…。何、もう夕べの話忘れた?
明嵐:………ぐすっ、覚えてますけどぉ…。(泣)
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0:回想(少し間をおいて)
:<前日、第三隠れ家(倉庫)>
灯:おい、明嵐。
明嵐:っ、はいっ!何ですか、ご主人様?
灯:うっ、…その「ご主人様」ってのやめろって言ったよね?
明嵐:え、でも…。
灯:(溜息)あーもういい。
灯:それより、明日一緒に横浜のIFC(あいえふしー)に行くから、そのつもりでいろ。
明嵐:…えっ…い、一緒にって、誰がですか?
灯:僕と、お前。
明嵐:えぇぇえええっ!?
明嵐:ななな何でですか!?
灯:声がでかい。…(大きな溜息)お前さ。
0:ソファに座っていた明嵐に、大股で近づき詰め寄る灯
明嵐:うっ…ち、近いですぅ…。
灯:僕に何か隠してる事、あるよね?
明嵐:え…かくしてる、事…ですか?
灯:そう。
0:明嵐のこめかみを冷汗が伝う
明嵐:………。
灯:正直に吐いた方が身の為だと思うけど?
0:助けを求めて辺りを見回す明嵐
明嵐:……っ。
灯:鈴蘭(すずらん)を探しても無駄。
明嵐:っ!!
灯:向こうで紗帆(さほ)と通話してるから聴こえないよ。こっちは防音の結界張ってあるしね。っつーわけで、諦めな。
明嵐:………。
灯:…おい。
明嵐:……ぐすっ。(泣)
灯:……別に怒ってるわけじゃない。
明嵐:…ほんと、ですか…?
:
灯:僕は、紗帆にお前達の保護を頼まれた。宿を貸せって言われたんじゃない。
明嵐:(頷く)……。
灯:保護って言うのはつまり「死なせない」ってこと。わかる?
明嵐:……はい。
灯:一応仕事として任された以上、死ぬ要因を見過ごすことは出来ない。…わかる?
明嵐:………はい。
0:灯は向かいのソファにドカッと腰を下ろし腕を組む
灯:…出血、止まりにくいんじゃないの?
明嵐:(頷く)……。
灯:…いつから?
明嵐:……研究所を、抜け出した後から…。
灯:(溜息)実験の副作用か…。それ、鈴蘭には?
明嵐:(首を振る)…っ。
灯:(少し驚いて)…ずっと隠してたの?
明嵐:……はい。
灯:すごいな。
明嵐:……え?
灯:え?
明嵐:…すごいって…何が、ですか?
灯:あぁ、いや…四六時中一緒居て、あの鈴蘭に全く気付かせなかったんだろ?ここまで完璧に隠し通すなんて、案外見かけによらず根性あるんだな、お前。
明嵐:……スズは、僕より心配性だから…。
灯:けど、いつまでもそうやって隠し通せるとは限らないでしょ。今後も逃亡生活続けていくつもりなら尚更ね。
明嵐:……それは…。
灯:血が止まりにくいって事は、少しの怪我でも多量の血が流れるし感染症のリスクだって高まる。重篤な貧血を起こしやすくなるし普通の人なら助かる様な状況でも、今のままだと助からなくなってしまう可能性があるんだ。そこんとこ、ちゃんと理解してる?
明嵐:(怯える)えっ…。…でもっ、どうすれば…。
灯:(溜息)取りあえず、僕はその手の事には詳しくないから紗帆にでも診てもらおうかと思ったけど…
明嵐:(被せて)だめっ!…です。
灯:…だろうと思って、別の知り合いに相談した。明日横浜のIFCに来れば診てくれるってさ。
明嵐:え、でもそこって……僕、行って大丈夫なんですか?捕まったりとか…。
灯:そこなんだよ…。
灯:敵の拠点に二人で乗り込むなんて、アイツらからしたら鴨がネギしょって現れるようなもんだし、出来る事なら別な場所で見てもらった方が安パイなんだろうけど…。
灯:その知り合いが「被験者を診るなら専門の設備があった方が良い」って言って譲らないんだ。
明嵐:……。
灯:まぁ、不安な気持ちはわかるし、一応結界でお前の外見は擬態させるつもりだからその点は安心しな。
明嵐:…わかり、ました…。
灯:…あー…でも、いくら本社じゃないとは言え、そのままノコノコ行けばバレる可能性も(明嵐の全身を見て)………んーなくはないな。
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0:回想終了(少し間をおいて)
灯:(圧強めに)って言う話をしたよなぁ?それで念のため眼帯つけて女装するって事になったんだろ、違うか?
明嵐:そうですけどぉ…眼帯は良いとしても…何でスカートなんか…僕、男なのにぃ…。
灯:(溜息)別に服が違うくらいどうって事ないだろ。結果似合ってるんだから無問題(もうまんたい)。
明嵐:~~っ!!それが一番嫌なんですぅううっ(泣)!
灯:……取りあえずこんなとこに籠ってても埒明かないし、一先ずトイレから出るよ。
明嵐:ううぅ…行きたくないよぅ…(泣)。
0:二人はトイレを後にして廊下を歩きだす
灯:(小声)もーーーっ、シャキッとしろよー、男だろー?
明嵐:(小声)うううぅっ、ご主人様の今言葉、ものすごく矛盾してますっ。
灯:(小声)だからご主人様って呼ぶなって…
0:向かいの角から姿を現す五島(いつしま)と刻定(ときさだ)
五島:おや、君は…、灯くんか。
灯:…げっ!
明嵐:(震える)……。
五島:久しいなぁ。…最後にあったのは数年前だった気がするが…。
0:舐めまわすように灯を見る五島
五島:(小馬鹿にした様に)結界師というのは全く羨ましい職業だよ。年を取らず何年たっても姿形が変わらないんだからなぁ。はっはっはっ。
灯:………無視だ、行くぞ。
明嵐:(頷く)……。
0:怯える明嵐の手を引き、無視して通り過ぎようとする灯
五島:………ん?
刻定:…五島様?
0:明嵐の腕を掴む五島、立ち止まる明嵐をまじまじと見る
五島:君。
明嵐:ひっ!?
灯:!?……(睨みつけて)何のつもり?
五島:………ふむ。
灯:(ドスを効かせて)…おいっ、今すぐ手を放せ。でなきゃその腕切り落とすぞ。
刻定:態度が過ぎるぞ、山吹(やまぶき)!
灯:あぁ?それはこっちのセリフだ、バカ犬。
0:五島は明嵐の腕から手を放し、刻定を制止する
五島:(刻定に向かって)いい。
五島:(灯に向かって)…その子が知り合いによく似ていたものだから、ついね。悪かった。
灯:はっ、知り合いに似てたから他人の腕掴むってお前、赤ん坊か?
刻定:お前っ!!
五島:やめろ。下がれ、刻定。
刻定:…はっ。
五島:無礼を働いてしまってすまなかった。この詫びはいずれきちんと返すよ。
灯:返さなくて結構。悪いと思うなら二度と話しかけるな。
五島:ははは、誰かによく似て手厳しいな。
灯:ふんっ。
0:五島の眼光が鋭く光る
五島:……時に、その子は左目を患っているのか?
明嵐:…っ!!
灯:アンタには関係ない。
五島:いや、知り合いに良い医者がいるからお詫びに紹介しようかと思ってね。
灯:間に合ってる。
五島:ふむ…失礼だが、君は女の子か?
明嵐:(必死に頷く)…っ!
0:明嵐の眼帯に手を伸ばす五島
五島:………。
灯:ちょっ、何やって…!!
明嵐:ぅわっ!?
刻定:!?
0:灯の制止も間に合わず眼帯が取り払われ、明嵐の左目が露わになる
五島:左目は…焼けただれた跡か。…これもただの眼帯のようだな。
0:灯は怒りをあらわにして五島から眼帯を奪い取り、刻定は困惑した様子で五島に駆け寄る
灯:何してんだよっ、返せ!
刻定:い、五島様っ、一体何を…。
灯:大丈夫か?アリス。
五島:(訝しそうに)……アリス?
明嵐:…だ、大丈夫です…。すみませ…。
灯:(優しく)お前が謝る必要ない。ほら、眼帯着けるから顔上げて。
明嵐:っ…はい。
0:左目を覆う明嵐に眼帯をつけてやる灯を冷たく一瞥すると、興味を無くした様子できびすを返す五島
五島:(冷たく)すまないが、急いでいるのでこれで失礼する。
刻定:っ、五島様っ!
0:残された灯と明嵐を残し、去っていく
灯:あんの…クソ野郎…っ。
明嵐:ご、ご主人様、僕は大丈夫ですっ。
灯:………(溜息)悪かった…完全に僕の想定ミスだ。
明嵐:いえっ、そんなっ!
灯:まさかここでアイツに遭遇するなんて…。
明嵐:き、気にしないで下さいっ。
灯:………。
灯:にしてもなんでアイツが横浜に…?
明嵐:………。
灯:まぁ、結界で左目擬態させてて良かったよ。こんな所で結晶化がバレてたら袋のネズミなんてもんじゃ済まなくなる。
明嵐:そうですね…。だけどまさか、いきなり眼帯を剥ぎ取るなんて…。
明嵐:すみません、僕がもう少し注意していれば…。
灯:いいよ、気にするだけ無駄。
明嵐:…僕、あの人苦手です…。スズもあの五島って人の事は特に嫌ってて…。
灯:だろうね。(嘲笑)
:
灯:アイツは他人を利用価値があるかゴミかでしか見ていない生粋のクズだから。言わば、何十年も私利私欲を満たす事だけに明け暮れたクソ野郎の成れの果てさ。まともな人間からしたら悪臭の塊りみたいなもんだ、お前らが嫌悪感を抱くのも至極当然さ。
明嵐:あー…えっと…。
灯:天下のIFCもクソ重い蓋を開けて見れば、根っこまで腐りきった馬鹿どもの巣窟でしかない。
灯:ふふっ、つまり、ただのゴミ溜めって事。(笑)
明嵐:(小声)…ちょ、こんな所でそんな事言って良いんですか!?
灯:誰も聞いてやしないだろ。
灯:…でもまぁ、いつまでもボヤボヤしてたらまたヤバいのに見つかりかねないし。ほらっ、さっさと行くぞ。
明嵐:あっ!は、はいっ。
:
:
:
0:走行中のリムジンの中
刻定:……五島様。
五島:なんだ。
刻定:先程山吹が連れていた娘ですが…。
五島:……ん、恐らく月海姉弟(つきみきょうだい)の片割れだろう。
刻定:っ!?行かせて良かったのですかっ!?
五島:構わん。
刻定:……。…しかし、被験者リストによれば、姉の方は右目が赤いとの事でしたが。
五島:…もしかしたら弟の方だったのかもしれん。
刻定:なるほど…。だとしたら、偽装の為にわざと左目を潰したのでしょうか?
五島:さぁな。
刻定:…生きていたとなれば、突然結晶香(けっしょうこう)が感知出来なくなった事も謎ですが…。
五島:…いずれにせよ、山吹灯が双子を匿っている可能性が出てきた。早急に「山吹灯の身辺を重点的に探索しろ」と茨城(ばらき)に伝えろ。
刻定:はっ。
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0:間をおいて
:
五島:ふっふっふふふ…はーっはっはっはっはっは。…ふんっ。…退屈しないなぁ…全く…。
:
:
:
:<診察後、近くのカフェ>
明嵐:あのっ、ありがとうございましたっ。
灯:…?…何が?
明嵐:えっと…診察に、連れてきてくれて。
灯:別に…。依頼を受けた以上見過ごせなかっただけ。
明嵐:(少し気落ちした様子で)……お仕事、ですもんね。
灯:そ。
明嵐:…でもっ、治るみたいで良かったですっ。
灯:うん。
明嵐:………。
0:二人の背後から突然現れる刻定
刻定:……おい、山吹。
灯:げっ!!刻定…。
明嵐:っ!!
刻定:さっきも思ったけどお前、人の顔見るなり「げっ」はヤメロ。……そこのお前も、取って食ったりしないから逃げるな。
0:刻定は珈琲を片手に空いている椅子に腰かける
灯:(嫌そうに)……何の用?
刻定:何だよ、用が無いと話しかけちゃダメなのか?
灯:ダメ。
刻定:あーあ、随分と冷たくなったなぁ…同じ釜の飯食って一緒に寝たこともあるってのに。
明嵐:えっ!?
灯:…そんな何十年も前の話今更蒸し返すな。
刻定:(呆れて)あのな、成長が止まったお前と違ってこっちは順当に年くってんの。んなジジババの昔話みたいに言うんじゃねーよ。
灯:はぁ?駄犬とのしょーもない思い出なんて数百年前レベルで思い出せないって意味で言ってんの、察しろ馬鹿犬。
刻定:おいおい、相変わらず口わりぃなぁ…。そんなんじゃいくら結界師として実力があっても、いずれ仕事なんか来なくなるぞ?
灯:余計な世話。
刻定:…っかわいくねぇなぁ。
灯:クズの犬に成り下がった馬鹿に可愛いとか思われても嬉しくな…
明嵐:(被せて)ご主人様は可愛いですっ!!
灯:…え?
刻定:…ごしゅじん、さま?
明嵐:あっ…す、すみませんっっ!!!
刻定:………え、なに。「ご主人様」とか呼ばせてんの、お前。
明嵐:ちがっ、これはぼk…わ、ワタシが勝手にっ…
灯:(被せて)だったら何?ウジ野郎のお犬様になった程度で他人の趣味にケチつけられるほど偉くなったつもりか、あぁん?
0:睨みあう灯と刻定の間でオロオロする明嵐
刻定:………。
灯:………。
刻定:(溜息)………邪魔したな。
灯:気づくのおっそ。
明嵐:あ、あの……っ。
0:行きかけてふと振り返る刻定
刻定:…お前さ、そんなんじゃ本当に……(舌打ち)、何でもない。じゃあな。
灯:……ふんっ。
明嵐:ご、ごめんなさいっ、僕…っ!
灯:別に謝らなくていい。アイツにどう思われようと知ったこっちゃない。
明嵐:で、でもっ……。
灯:それより、ちょっとまずい事になった。
明嵐:…え?
灯:五島にバレたっぽい。
明嵐:えっ!?…やっぱりあの時、僕が眼帯を取られたから…。
灯:いや、あの様子じゃ多分、その前から気づいてたんだろ。どうせあのクズのことだから気づいた上で嫌がらせしてきたんだ。
灯:内心じゃあ僕らの反応見て面白がってたのさ。(舌打ち)ゲスめ。やっぱあの時腕切り落としとけばよかった。
明嵐:………。
明嵐:あの…ご主人様?
灯:ん?
明嵐:その…。
灯:なに。
明嵐:…なんで、バレたってわかったんですか?
灯:(歯切れ悪く)あー…、んー、……何となく?
明嵐:……なん…とな、く。
灯:………なに。
明嵐:えっ、あ………いえ。
灯:………。
灯:(溜息)……アイツさ。
明嵐:…ときさだ、さん…ですか?
灯:そ。アイツ、弟弟子なんだ。
明嵐:結界師の…?
灯:ん。昔っからやたらとかっこつけたがりで、言いたいこと言わないで何でもかんでも一人で抱え込むめんどくさいヤツでさ。
明嵐:………。
灯:…けど、一個分かりやすい癖があって。
明嵐:癖?
灯:多分アイツ自身気づいてないんだろうけど。
:
灯:さっきアイツ、やたら右耳触ってたでしょ。
明嵐:…?……すみません、あんまり見てませんでした。
灯:ふっ、別にいいよ。
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灯:思いつめてる時に右耳触るのがアイツの癖なんだ……それで、何となくね。
明嵐:っ、でもっ!あの人…、今は五島って人の部下なんですよね?って事は、もう悪い人なんじゃ…?
0:明嵐の言葉に苦笑する灯、それを見て明嵐は複雑な気持ちになる
灯:(嘲笑)まぁね。
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灯:…ほーんと、心底救いようのないアホだよ……。
明嵐:ご主人、様…?
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灯:こんな状況になって自分だって色々危ういくせに、結局…昔馴染みも捨てられない中途半端な馬鹿なんだ、アイツ。
明嵐:…ご主人様……。
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:(明嵐モノローグ)
明嵐:【M】(どこか寂しそうなその表情に胸がざわつく…。僕の中に芽吹いた小さな不安が少しずつ花開くように大きくなっていく。……この気持ちは、一体…何?
:
明嵐:幻想級の結界師になった代償に、ご主人様の身体は十三歳で成長を止めた。だから大人であるにもかかわらずいつまでも幼い外見をしているんだと、ついこの間紗帆先生に教わった。
明嵐:それでも、僕と大して変わらないその見た目に、多少大人びていると思いながらも明確な年齢の差なんて感じずにいた。
明嵐:…だけどあの日、刻定さんと話す彼女を見て、二人の間に僕の知らない親密な時間がいくつもある事を強く思い知らされた。そして、その時初めて、ご主人様は僕がどんなに背伸びをしたって全く届きそうもない位に大人なんだと、理解した。
明嵐:あの時の表情が脳裏に焼き付いて思い出すたびに僕の心をぎゅっと締め付けるのに、この苦い感情が何なのか、あの時の僕はまだ知りもしなかった。
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明嵐:ただ、結界師について知るごとに、そして彼女に惹かれていく度に、嫌というほど突き付けられる事実…。不老の彼女と、短命の僕…。
明嵐:ご主人様との間にある大きな距離と、傍に居られる時間に限りがあると言う現実が、いつの間にか僕の心に暗い影を落としていた。)
:
:
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:<インベフラスコーポレーション東京支部、次長室>
五島:刻定。
刻定:はっ。
五島:茨城(ばらき)に電話を繋げ。
刻定:かしこまりました。
0:スマホから茨城の直通ダイヤルに電話をかける
刻定:(受話器に向かい)……五島様へお繋ぎする。…五島様、茨城隊長です。
五島:…私だ。…どうだ、見つかったか?………そうか、やはり山吹の足取りは追えなかったか。
五島:……いや、いい。恐らく得意の結界術で何かしらの小細工でもしたんだろう。……こうなった以上、双子の探索に結晶香は使えん。何かそれに代わるものを早急に用意しろと開発部に伝えておけ。
五島:………あぁ、それで構わん。引き続き山吹灯を最優先で追え。
0:切れたスマホを刻定に渡し、五島は背もたれに深々と身体を沈める
五島:(深いため息)……刻定、研究の進捗を報告しろ。
刻定:はっ、御波(みなみ)主任の報告によると、現在被験体ナンバー205の覚醒を確認、実験の続行が可能だと判断し、継続して薬剤投与による症状の経過観察を行っているとの事。
刻定:それと並行し、被験体ナンバー206の適正評価オールグリーンが確認された為、明日より実験の開始を行うとの事です。
五島:うむ…。
刻定:続けて、月海博士の件についてご報告が。
0:その言葉に食いついた様子で五島は勢いよく顔を上げる
五島:なんだ、進展があったのか。
刻定:はっ、ユキノ細胞から抽出されたギネカシリンの研究に、新たな培養評価にて数値の上昇が見られたとの事で報告データが届いております。こちらに展開しても?
五島:あぁ、出せ。
0:モニターに映し出されるデータ
五島:……これは素晴らしいな…。毎度大した変化の無い御波の報告より数倍は面白い!
五島:…月海博士に直接話を聞きたい。
刻定:現在月海博士は、千葉の私設研究所にて……デュセット支部長と一緒に居るようですが…コンタクトをとりますか?
0:あからさまに不機嫌になる五島
五島:……いや、いい。デュセットが戻ったら知らせろ。
刻定:かしこまりました。
刻定:…二時間後に上層会議の予定が入っておりますが、それまでお休みになられますか?
五島:……そうだな。
刻定:では、結界をお張り致します。
五島:あぁ、頼む。
刻定:はっ。
:(【】内は、あればリバーブ等かけて)
刻定:【弥生月、宵の刻、静寂の帳(とばり)にて微睡む(まどろむ)籠り鳥(こもりどり)、結界、ミミズク】
五島:………。
0:静かに暗転し、外部の音を遮断する結界が五島を包む
:
0:インカムを外し、刻定は疲れたようにその場にしゃがみこむ
刻定:……何やってんだよ、まーた面倒くせぇ荷物抱え込みやがって…。
刻定:(溜息)…全く、見た目だけじゃなくて不器用で甘いとこも昔っから何一つ変わんねぇんだから、お前は。
:(間をおいて)
刻定:…選択ミスんなよ、灯。もうあん時みたいには傍に居てやれないんだぞ…。
:
:
:
:<第三隠れ家(倉庫)>
0:明嵐の左目にかけた擬態の結界を解く灯
灯:【結(むすび)ライチョウ、解】
明嵐:……左目、元に戻りました?
灯:ん、戻ってる。
明嵐:良かったぁ。…スズが帰ってくる前に戻してもらえて良かったです。あんなひどいのスズが見たら、また騒いじゃうと思うので。
灯:言えてる。アイツが騒ぎ出したら手に負えない。
明嵐:あははっ、そうですねっ。
:
明嵐:……あの、ごしゅ、………。
灯:…なに?
明嵐:あ…えっと。
灯:…?
明嵐:っ、僕、結界術を習いたいですっ!
灯:え?
明嵐:僕っ、気が弱いしっ、力も強くないしっ、…花戯(かぎ)だって、スズが居なきゃただ水が出せるだけで何の役にも立たないし…。
明嵐:っ、だからっ!僕も結界術を使えるようになって、せめて自分とスズだけでも守れるようになりたいんですっ!!
灯:いいんじゃない?
明嵐:やっぱり、そう簡単には教えてもらえないですよね。っでも僕、あきらめませ……え?
灯:いいんじゃない?
明嵐:……いいんですか…?
灯:やりたいならやれば。
明嵐:っ、本当にっ?
灯:うん。
明嵐:やっっったぁあああっ!!
0:灯は明嵐の声に煩そうに指で耳栓をする
灯:うるさ…。
明嵐:あ…すみません。
灯:(溜息)…取りあえず基礎から始めるとして、色々準備とかあるし……始めるのはもうちょい後ね。
明嵐:はいっ!ありがとうございますっ。
灯:別に。
明嵐:……あ、えっと、それでなんですけど…。
灯:…?
明嵐:ご主人様って呼ぶのやめて……「お師匠様」って呼んでいいですか…?
灯:え…やだ。
明嵐:えっ……「お師匠様」も、だめですか…?
灯:うん、普通にやだ。
明嵐:じゃあ、なんて呼んだらいいんですかぁーっ(泣)。
灯:……えー…?……「先生」、とか?
明嵐:…それだと紗帆(さほ)先生と被っちゃいます…。
灯:んー…灯、さん?
明嵐:なっ!えっ!?ちょ、ちょっと名前呼びはっ、ぼ、僕っ、まだ早いとっ…。
灯:(うんざりした様子)面倒くさいなぁ、…じゃあいいよ、師匠で。
明嵐:…し、師匠、ですか?
灯:うん。
明嵐:…師匠…。
灯:なに。
明嵐:っ、…師匠。
灯:なに。
明嵐:えへへっ、師匠っ。
灯:だから何って。鬱陶しいから何度も呼ばないで。
明嵐:すみませんっ。えへへっ。
灯:………。
明嵐:………ししょ
灯:(被せて)【結界、マナヅル】
明嵐:(口を塞がれる)んんっ!?んんーーっ、んーーーっ!
0:結界で口を塞がれ慌てる明嵐を尻目に、テイクアウトしたホットカフェを幸せそうに啜る灯
灯:あちッ……ふー、ふー、…ゴクッ。
灯:はぁっ、やっぱキャンディー・クロッカスのキャラメルショコラロイヤルハニーメルトは格・別♪
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:
:
:(明嵐モノローグ)
明嵐:【M】(僕の思惑通りに行けば、世界で初の『人工花人の結界師』は世界中のメディアから注目を集める事になるだろう。そうなれば、あのおぞましい研究を止める事も出来るるかもしれないし、僕らと同じような被害者をこれ以上増やさずに済むかもしれない。
明嵐:そうしたら、僕が「創られた」ことにも意味があったと思える日も、いつか来るだろう…。
明嵐:そして、いつ尽きるともわからない寿命が来る前に彼女と同じ幻想級になれれば、きっと、ずっと彼女の傍に居られる。隣で同じ道を一緒に歩いて行ける。
:
明嵐:「儚く散っていく人生」?…そんなのごめんだ。
明嵐:好き勝手に創られて大人しく利用されるだけの…綺麗な器で枯れるのをただ静かに待つだけの儚い花にはならない。結界師になると決めたあの日、僕はそう心に誓った。
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明嵐:……だって僕は、暗く冷たい水の中でどこまでも長く根を伸ばし咲き誇る、強くて美しい睡蓮の「花人」なのだから。)
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0:花鳥封結(かちょうふうけつ)二話~花の憂いと、秘めたる想い【END】
タイトル:花鳥封結(かちょうふうけつ)二話~花の憂いと、秘めたる想い
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:(明嵐モノローグ)
明嵐:【M】(僕は、「人工花人(じんこうはなびと)」。
明嵐:多くの競合する製薬会社の中でも群を抜く大手企業の一つ、「インベフラスコーポレーション」、通称IFC(あいえふしー)の水面下で秘密裏に行われている研究によって生み出された負の産物、それが人工花人だ。
明嵐:1984年、シトロドトキシンとエンポリオ酸と言う特殊な薬物を体内に投与することで、身体の変化と特殊能力を稀に得られることが明らかになった。
明嵐:当時の研究者は、風や水と言った様々な自然現象を産み出せるその特殊能力を、「花が戯れる」と書いて花戯(かぎ)と呼び、それらを生み出す個体を花人と名付けた。
明嵐:だけど…その特別な能力を得た代償に、薬物を投与された被験者たちは皆一人も漏れることなく、若くしてその命を落とすことになった。
明嵐:数日前、決死の思いで件の研究所から逃げ出した僕と、双子の姉、鈴蘭(すずらん)も、その被害者の内の一人だった。
明嵐:望みもしない異能に、無機質な部屋の中で毎日繰り返される痛みと不快な人体実験。目に見えて異質に変化していく体。そして、着々とすり減っていく寿命。
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明嵐:「儚く散っていく人生」は、まるで本物の花にでもなった様だと、いつかの僕はそうぼんやりと思っていた。)
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灯:(タイトルコール)花鳥封結(かちょうふうけつ)第二話、『花の憂いと、秘めたる想い』
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:<インベフラスコーポレーション(IFC)横浜支部>
0:コソコソと廊下を並んで歩く灯(ともえ)と、女装し左目に眼帯を付けた明嵐(あらん)
明嵐:(小声)……ご、ご主人様っ。
灯:………。
明嵐:(小声)…ご主人様っ。
灯:………。
明嵐:(小声)あの、ご主人さ…
灯:(小声)その呼び方やめろってば。
明嵐:(小声)だ、だってぇ…。
灯:(小声)声出すな、バレるだろ。
明嵐:うぅ……。
灯:………。
明嵐:………。
灯:………。
明嵐:(小声)………ご主人様ぁ…(泣)。
灯:あーっ、もうっ。
灯:こっち来い。
明嵐:うわぁっ!ここ女子トイレっ…。
0:痺れを切らした灯が、明嵐を女子トイレに押し入れる
灯:いい加減にしろよ、お前。
明嵐:ううぅ…っ、だってぇ…この服すごくスースーするんですぅぅ…。
灯:スカートなんだから当たり前だろ。
明嵐:…なんで僕がスカート履かなきゃなんないですかぁー(泣)。
灯:だーかーらー、お前の正体がバレないようにだって、そう言っただろ。
明嵐:……ここまでしてこんな危険な所に来る必要あったんですかぁ?
灯:必要なかったらそもそもこんなトコ来ない。
明嵐:うぅ…そうですけどぉ…。
灯:(深い溜息)昨日あんだけ説明したのに…。何、もう夕べの話忘れた?
明嵐:………ぐすっ、覚えてますけどぉ…。(泣)
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0:回想(少し間をおいて)
:<前日、第三隠れ家(倉庫)>
灯:おい、明嵐。
明嵐:っ、はいっ!何ですか、ご主人様?
灯:うっ、…その「ご主人様」ってのやめろって言ったよね?
明嵐:え、でも…。
灯:(溜息)あーもういい。
灯:それより、明日一緒に横浜のIFC(あいえふしー)に行くから、そのつもりでいろ。
明嵐:…えっ…い、一緒にって、誰がですか?
灯:僕と、お前。
明嵐:えぇぇえええっ!?
明嵐:ななな何でですか!?
灯:声がでかい。…(大きな溜息)お前さ。
0:ソファに座っていた明嵐に、大股で近づき詰め寄る灯
明嵐:うっ…ち、近いですぅ…。
灯:僕に何か隠してる事、あるよね?
明嵐:え…かくしてる、事…ですか?
灯:そう。
0:明嵐のこめかみを冷汗が伝う
明嵐:………。
灯:正直に吐いた方が身の為だと思うけど?
0:助けを求めて辺りを見回す明嵐
明嵐:……っ。
灯:鈴蘭(すずらん)を探しても無駄。
明嵐:っ!!
灯:向こうで紗帆(さほ)と通話してるから聴こえないよ。こっちは防音の結界張ってあるしね。っつーわけで、諦めな。
明嵐:………。
灯:…おい。
明嵐:……ぐすっ。(泣)
灯:……別に怒ってるわけじゃない。
明嵐:…ほんと、ですか…?
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灯:僕は、紗帆にお前達の保護を頼まれた。宿を貸せって言われたんじゃない。
明嵐:(頷く)……。
灯:保護って言うのはつまり「死なせない」ってこと。わかる?
明嵐:……はい。
灯:一応仕事として任された以上、死ぬ要因を見過ごすことは出来ない。…わかる?
明嵐:………はい。
0:灯は向かいのソファにドカッと腰を下ろし腕を組む
灯:…出血、止まりにくいんじゃないの?
明嵐:(頷く)……。
灯:…いつから?
明嵐:……研究所を、抜け出した後から…。
灯:(溜息)実験の副作用か…。それ、鈴蘭には?
明嵐:(首を振る)…っ。
灯:(少し驚いて)…ずっと隠してたの?
明嵐:……はい。
灯:すごいな。
明嵐:……え?
灯:え?
明嵐:…すごいって…何が、ですか?
灯:あぁ、いや…四六時中一緒居て、あの鈴蘭に全く気付かせなかったんだろ?ここまで完璧に隠し通すなんて、案外見かけによらず根性あるんだな、お前。
明嵐:……スズは、僕より心配性だから…。
灯:けど、いつまでもそうやって隠し通せるとは限らないでしょ。今後も逃亡生活続けていくつもりなら尚更ね。
明嵐:……それは…。
灯:血が止まりにくいって事は、少しの怪我でも多量の血が流れるし感染症のリスクだって高まる。重篤な貧血を起こしやすくなるし普通の人なら助かる様な状況でも、今のままだと助からなくなってしまう可能性があるんだ。そこんとこ、ちゃんと理解してる?
明嵐:(怯える)えっ…。…でもっ、どうすれば…。
灯:(溜息)取りあえず、僕はその手の事には詳しくないから紗帆にでも診てもらおうかと思ったけど…
明嵐:(被せて)だめっ!…です。
灯:…だろうと思って、別の知り合いに相談した。明日横浜のIFCに来れば診てくれるってさ。
明嵐:え、でもそこって……僕、行って大丈夫なんですか?捕まったりとか…。
灯:そこなんだよ…。
灯:敵の拠点に二人で乗り込むなんて、アイツらからしたら鴨がネギしょって現れるようなもんだし、出来る事なら別な場所で見てもらった方が安パイなんだろうけど…。
灯:その知り合いが「被験者を診るなら専門の設備があった方が良い」って言って譲らないんだ。
明嵐:……。
灯:まぁ、不安な気持ちはわかるし、一応結界でお前の外見は擬態させるつもりだからその点は安心しな。
明嵐:…わかり、ました…。
灯:…あー…でも、いくら本社じゃないとは言え、そのままノコノコ行けばバレる可能性も(明嵐の全身を見て)………んーなくはないな。
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0:回想終了(少し間をおいて)
灯:(圧強めに)って言う話をしたよなぁ?それで念のため眼帯つけて女装するって事になったんだろ、違うか?
明嵐:そうですけどぉ…眼帯は良いとしても…何でスカートなんか…僕、男なのにぃ…。
灯:(溜息)別に服が違うくらいどうって事ないだろ。結果似合ってるんだから無問題(もうまんたい)。
明嵐:~~っ!!それが一番嫌なんですぅううっ(泣)!
灯:……取りあえずこんなとこに籠ってても埒明かないし、一先ずトイレから出るよ。
明嵐:ううぅ…行きたくないよぅ…(泣)。
0:二人はトイレを後にして廊下を歩きだす
灯:(小声)もーーーっ、シャキッとしろよー、男だろー?
明嵐:(小声)うううぅっ、ご主人様の今言葉、ものすごく矛盾してますっ。
灯:(小声)だからご主人様って呼ぶなって…
0:向かいの角から姿を現す五島(いつしま)と刻定(ときさだ)
五島:おや、君は…、灯くんか。
灯:…げっ!
明嵐:(震える)……。
五島:久しいなぁ。…最後にあったのは数年前だった気がするが…。
0:舐めまわすように灯を見る五島
五島:(小馬鹿にした様に)結界師というのは全く羨ましい職業だよ。年を取らず何年たっても姿形が変わらないんだからなぁ。はっはっはっ。
灯:………無視だ、行くぞ。
明嵐:(頷く)……。
0:怯える明嵐の手を引き、無視して通り過ぎようとする灯
五島:………ん?
刻定:…五島様?
0:明嵐の腕を掴む五島、立ち止まる明嵐をまじまじと見る
五島:君。
明嵐:ひっ!?
灯:!?……(睨みつけて)何のつもり?
五島:………ふむ。
灯:(ドスを効かせて)…おいっ、今すぐ手を放せ。でなきゃその腕切り落とすぞ。
刻定:態度が過ぎるぞ、山吹(やまぶき)!
灯:あぁ?それはこっちのセリフだ、バカ犬。
0:五島は明嵐の腕から手を放し、刻定を制止する
五島:(刻定に向かって)いい。
五島:(灯に向かって)…その子が知り合いによく似ていたものだから、ついね。悪かった。
灯:はっ、知り合いに似てたから他人の腕掴むってお前、赤ん坊か?
刻定:お前っ!!
五島:やめろ。下がれ、刻定。
刻定:…はっ。
五島:無礼を働いてしまってすまなかった。この詫びはいずれきちんと返すよ。
灯:返さなくて結構。悪いと思うなら二度と話しかけるな。
五島:ははは、誰かによく似て手厳しいな。
灯:ふんっ。
0:五島の眼光が鋭く光る
五島:……時に、その子は左目を患っているのか?
明嵐:…っ!!
灯:アンタには関係ない。
五島:いや、知り合いに良い医者がいるからお詫びに紹介しようかと思ってね。
灯:間に合ってる。
五島:ふむ…失礼だが、君は女の子か?
明嵐:(必死に頷く)…っ!
0:明嵐の眼帯に手を伸ばす五島
五島:………。
灯:ちょっ、何やって…!!
明嵐:ぅわっ!?
刻定:!?
0:灯の制止も間に合わず眼帯が取り払われ、明嵐の左目が露わになる
五島:左目は…焼けただれた跡か。…これもただの眼帯のようだな。
0:灯は怒りをあらわにして五島から眼帯を奪い取り、刻定は困惑した様子で五島に駆け寄る
灯:何してんだよっ、返せ!
刻定:い、五島様っ、一体何を…。
灯:大丈夫か?アリス。
五島:(訝しそうに)……アリス?
明嵐:…だ、大丈夫です…。すみませ…。
灯:(優しく)お前が謝る必要ない。ほら、眼帯着けるから顔上げて。
明嵐:っ…はい。
0:左目を覆う明嵐に眼帯をつけてやる灯を冷たく一瞥すると、興味を無くした様子できびすを返す五島
五島:(冷たく)すまないが、急いでいるのでこれで失礼する。
刻定:っ、五島様っ!
0:残された灯と明嵐を残し、去っていく
灯:あんの…クソ野郎…っ。
明嵐:ご、ご主人様、僕は大丈夫ですっ。
灯:………(溜息)悪かった…完全に僕の想定ミスだ。
明嵐:いえっ、そんなっ!
灯:まさかここでアイツに遭遇するなんて…。
明嵐:き、気にしないで下さいっ。
灯:………。
灯:にしてもなんでアイツが横浜に…?
明嵐:………。
灯:まぁ、結界で左目擬態させてて良かったよ。こんな所で結晶化がバレてたら袋のネズミなんてもんじゃ済まなくなる。
明嵐:そうですね…。だけどまさか、いきなり眼帯を剥ぎ取るなんて…。
明嵐:すみません、僕がもう少し注意していれば…。
灯:いいよ、気にするだけ無駄。
明嵐:…僕、あの人苦手です…。スズもあの五島って人の事は特に嫌ってて…。
灯:だろうね。(嘲笑)
:
灯:アイツは他人を利用価値があるかゴミかでしか見ていない生粋のクズだから。言わば、何十年も私利私欲を満たす事だけに明け暮れたクソ野郎の成れの果てさ。まともな人間からしたら悪臭の塊りみたいなもんだ、お前らが嫌悪感を抱くのも至極当然さ。
明嵐:あー…えっと…。
灯:天下のIFCもクソ重い蓋を開けて見れば、根っこまで腐りきった馬鹿どもの巣窟でしかない。
灯:ふふっ、つまり、ただのゴミ溜めって事。(笑)
明嵐:(小声)…ちょ、こんな所でそんな事言って良いんですか!?
灯:誰も聞いてやしないだろ。
灯:…でもまぁ、いつまでもボヤボヤしてたらまたヤバいのに見つかりかねないし。ほらっ、さっさと行くぞ。
明嵐:あっ!は、はいっ。
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0:走行中のリムジンの中
刻定:……五島様。
五島:なんだ。
刻定:先程山吹が連れていた娘ですが…。
五島:……ん、恐らく月海姉弟(つきみきょうだい)の片割れだろう。
刻定:っ!?行かせて良かったのですかっ!?
五島:構わん。
刻定:……。…しかし、被験者リストによれば、姉の方は右目が赤いとの事でしたが。
五島:…もしかしたら弟の方だったのかもしれん。
刻定:なるほど…。だとしたら、偽装の為にわざと左目を潰したのでしょうか?
五島:さぁな。
刻定:…生きていたとなれば、突然結晶香(けっしょうこう)が感知出来なくなった事も謎ですが…。
五島:…いずれにせよ、山吹灯が双子を匿っている可能性が出てきた。早急に「山吹灯の身辺を重点的に探索しろ」と茨城(ばらき)に伝えろ。
刻定:はっ。
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0:間をおいて
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五島:ふっふっふふふ…はーっはっはっはっはっは。…ふんっ。…退屈しないなぁ…全く…。
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:<診察後、近くのカフェ>
明嵐:あのっ、ありがとうございましたっ。
灯:…?…何が?
明嵐:えっと…診察に、連れてきてくれて。
灯:別に…。依頼を受けた以上見過ごせなかっただけ。
明嵐:(少し気落ちした様子で)……お仕事、ですもんね。
灯:そ。
明嵐:…でもっ、治るみたいで良かったですっ。
灯:うん。
明嵐:………。
0:二人の背後から突然現れる刻定
刻定:……おい、山吹。
灯:げっ!!刻定…。
明嵐:っ!!
刻定:さっきも思ったけどお前、人の顔見るなり「げっ」はヤメロ。……そこのお前も、取って食ったりしないから逃げるな。
0:刻定は珈琲を片手に空いている椅子に腰かける
灯:(嫌そうに)……何の用?
刻定:何だよ、用が無いと話しかけちゃダメなのか?
灯:ダメ。
刻定:あーあ、随分と冷たくなったなぁ…同じ釜の飯食って一緒に寝たこともあるってのに。
明嵐:えっ!?
灯:…そんな何十年も前の話今更蒸し返すな。
刻定:(呆れて)あのな、成長が止まったお前と違ってこっちは順当に年くってんの。んなジジババの昔話みたいに言うんじゃねーよ。
灯:はぁ?駄犬とのしょーもない思い出なんて数百年前レベルで思い出せないって意味で言ってんの、察しろ馬鹿犬。
刻定:おいおい、相変わらず口わりぃなぁ…。そんなんじゃいくら結界師として実力があっても、いずれ仕事なんか来なくなるぞ?
灯:余計な世話。
刻定:…っかわいくねぇなぁ。
灯:クズの犬に成り下がった馬鹿に可愛いとか思われても嬉しくな…
明嵐:(被せて)ご主人様は可愛いですっ!!
灯:…え?
刻定:…ごしゅじん、さま?
明嵐:あっ…す、すみませんっっ!!!
刻定:………え、なに。「ご主人様」とか呼ばせてんの、お前。
明嵐:ちがっ、これはぼk…わ、ワタシが勝手にっ…
灯:(被せて)だったら何?ウジ野郎のお犬様になった程度で他人の趣味にケチつけられるほど偉くなったつもりか、あぁん?
0:睨みあう灯と刻定の間でオロオロする明嵐
刻定:………。
灯:………。
刻定:(溜息)………邪魔したな。
灯:気づくのおっそ。
明嵐:あ、あの……っ。
0:行きかけてふと振り返る刻定
刻定:…お前さ、そんなんじゃ本当に……(舌打ち)、何でもない。じゃあな。
灯:……ふんっ。
明嵐:ご、ごめんなさいっ、僕…っ!
灯:別に謝らなくていい。アイツにどう思われようと知ったこっちゃない。
明嵐:で、でもっ……。
灯:それより、ちょっとまずい事になった。
明嵐:…え?
灯:五島にバレたっぽい。
明嵐:えっ!?…やっぱりあの時、僕が眼帯を取られたから…。
灯:いや、あの様子じゃ多分、その前から気づいてたんだろ。どうせあのクズのことだから気づいた上で嫌がらせしてきたんだ。
灯:内心じゃあ僕らの反応見て面白がってたのさ。(舌打ち)ゲスめ。やっぱあの時腕切り落としとけばよかった。
明嵐:………。
明嵐:あの…ご主人様?
灯:ん?
明嵐:その…。
灯:なに。
明嵐:…なんで、バレたってわかったんですか?
灯:(歯切れ悪く)あー…、んー、……何となく?
明嵐:……なん…とな、く。
灯:………なに。
明嵐:えっ、あ………いえ。
灯:………。
灯:(溜息)……アイツさ。
明嵐:…ときさだ、さん…ですか?
灯:そ。アイツ、弟弟子なんだ。
明嵐:結界師の…?
灯:ん。昔っからやたらとかっこつけたがりで、言いたいこと言わないで何でもかんでも一人で抱え込むめんどくさいヤツでさ。
明嵐:………。
灯:…けど、一個分かりやすい癖があって。
明嵐:癖?
灯:多分アイツ自身気づいてないんだろうけど。
:
灯:さっきアイツ、やたら右耳触ってたでしょ。
明嵐:…?……すみません、あんまり見てませんでした。
灯:ふっ、別にいいよ。
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灯:思いつめてる時に右耳触るのがアイツの癖なんだ……それで、何となくね。
明嵐:っ、でもっ!あの人…、今は五島って人の部下なんですよね?って事は、もう悪い人なんじゃ…?
0:明嵐の言葉に苦笑する灯、それを見て明嵐は複雑な気持ちになる
灯:(嘲笑)まぁね。
:
灯:…ほーんと、心底救いようのないアホだよ……。
明嵐:ご主人、様…?
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灯:こんな状況になって自分だって色々危ういくせに、結局…昔馴染みも捨てられない中途半端な馬鹿なんだ、アイツ。
明嵐:…ご主人様……。
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:(明嵐モノローグ)
明嵐:【M】(どこか寂しそうなその表情に胸がざわつく…。僕の中に芽吹いた小さな不安が少しずつ花開くように大きくなっていく。……この気持ちは、一体…何?
:
明嵐:幻想級の結界師になった代償に、ご主人様の身体は十三歳で成長を止めた。だから大人であるにもかかわらずいつまでも幼い外見をしているんだと、ついこの間紗帆先生に教わった。
明嵐:それでも、僕と大して変わらないその見た目に、多少大人びていると思いながらも明確な年齢の差なんて感じずにいた。
明嵐:…だけどあの日、刻定さんと話す彼女を見て、二人の間に僕の知らない親密な時間がいくつもある事を強く思い知らされた。そして、その時初めて、ご主人様は僕がどんなに背伸びをしたって全く届きそうもない位に大人なんだと、理解した。
明嵐:あの時の表情が脳裏に焼き付いて思い出すたびに僕の心をぎゅっと締め付けるのに、この苦い感情が何なのか、あの時の僕はまだ知りもしなかった。
:
明嵐:ただ、結界師について知るごとに、そして彼女に惹かれていく度に、嫌というほど突き付けられる事実…。不老の彼女と、短命の僕…。
明嵐:ご主人様との間にある大きな距離と、傍に居られる時間に限りがあると言う現実が、いつの間にか僕の心に暗い影を落としていた。)
:
:
:
:<インベフラスコーポレーション東京支部、次長室>
五島:刻定。
刻定:はっ。
五島:茨城(ばらき)に電話を繋げ。
刻定:かしこまりました。
0:スマホから茨城の直通ダイヤルに電話をかける
刻定:(受話器に向かい)……五島様へお繋ぎする。…五島様、茨城隊長です。
五島:…私だ。…どうだ、見つかったか?………そうか、やはり山吹の足取りは追えなかったか。
五島:……いや、いい。恐らく得意の結界術で何かしらの小細工でもしたんだろう。……こうなった以上、双子の探索に結晶香は使えん。何かそれに代わるものを早急に用意しろと開発部に伝えておけ。
五島:………あぁ、それで構わん。引き続き山吹灯を最優先で追え。
0:切れたスマホを刻定に渡し、五島は背もたれに深々と身体を沈める
五島:(深いため息)……刻定、研究の進捗を報告しろ。
刻定:はっ、御波(みなみ)主任の報告によると、現在被験体ナンバー205の覚醒を確認、実験の続行が可能だと判断し、継続して薬剤投与による症状の経過観察を行っているとの事。
刻定:それと並行し、被験体ナンバー206の適正評価オールグリーンが確認された為、明日より実験の開始を行うとの事です。
五島:うむ…。
刻定:続けて、月海博士の件についてご報告が。
0:その言葉に食いついた様子で五島は勢いよく顔を上げる
五島:なんだ、進展があったのか。
刻定:はっ、ユキノ細胞から抽出されたギネカシリンの研究に、新たな培養評価にて数値の上昇が見られたとの事で報告データが届いております。こちらに展開しても?
五島:あぁ、出せ。
0:モニターに映し出されるデータ
五島:……これは素晴らしいな…。毎度大した変化の無い御波の報告より数倍は面白い!
五島:…月海博士に直接話を聞きたい。
刻定:現在月海博士は、千葉の私設研究所にて……デュセット支部長と一緒に居るようですが…コンタクトをとりますか?
0:あからさまに不機嫌になる五島
五島:……いや、いい。デュセットが戻ったら知らせろ。
刻定:かしこまりました。
刻定:…二時間後に上層会議の予定が入っておりますが、それまでお休みになられますか?
五島:……そうだな。
刻定:では、結界をお張り致します。
五島:あぁ、頼む。
刻定:はっ。
:(【】内は、あればリバーブ等かけて)
刻定:【弥生月、宵の刻、静寂の帳(とばり)にて微睡む(まどろむ)籠り鳥(こもりどり)、結界、ミミズク】
五島:………。
0:静かに暗転し、外部の音を遮断する結界が五島を包む
:
0:インカムを外し、刻定は疲れたようにその場にしゃがみこむ
刻定:……何やってんだよ、まーた面倒くせぇ荷物抱え込みやがって…。
刻定:(溜息)…全く、見た目だけじゃなくて不器用で甘いとこも昔っから何一つ変わんねぇんだから、お前は。
:(間をおいて)
刻定:…選択ミスんなよ、灯。もうあん時みたいには傍に居てやれないんだぞ…。
:
:
:
:<第三隠れ家(倉庫)>
0:明嵐の左目にかけた擬態の結界を解く灯
灯:【結(むすび)ライチョウ、解】
明嵐:……左目、元に戻りました?
灯:ん、戻ってる。
明嵐:良かったぁ。…スズが帰ってくる前に戻してもらえて良かったです。あんなひどいのスズが見たら、また騒いじゃうと思うので。
灯:言えてる。アイツが騒ぎ出したら手に負えない。
明嵐:あははっ、そうですねっ。
:
明嵐:……あの、ごしゅ、………。
灯:…なに?
明嵐:あ…えっと。
灯:…?
明嵐:っ、僕、結界術を習いたいですっ!
灯:え?
明嵐:僕っ、気が弱いしっ、力も強くないしっ、…花戯(かぎ)だって、スズが居なきゃただ水が出せるだけで何の役にも立たないし…。
明嵐:っ、だからっ!僕も結界術を使えるようになって、せめて自分とスズだけでも守れるようになりたいんですっ!!
灯:いいんじゃない?
明嵐:やっぱり、そう簡単には教えてもらえないですよね。っでも僕、あきらめませ……え?
灯:いいんじゃない?
明嵐:……いいんですか…?
灯:やりたいならやれば。
明嵐:っ、本当にっ?
灯:うん。
明嵐:やっっったぁあああっ!!
0:灯は明嵐の声に煩そうに指で耳栓をする
灯:うるさ…。
明嵐:あ…すみません。
灯:(溜息)…取りあえず基礎から始めるとして、色々準備とかあるし……始めるのはもうちょい後ね。
明嵐:はいっ!ありがとうございますっ。
灯:別に。
明嵐:……あ、えっと、それでなんですけど…。
灯:…?
明嵐:ご主人様って呼ぶのやめて……「お師匠様」って呼んでいいですか…?
灯:え…やだ。
明嵐:えっ……「お師匠様」も、だめですか…?
灯:うん、普通にやだ。
明嵐:じゃあ、なんて呼んだらいいんですかぁーっ(泣)。
灯:……えー…?……「先生」、とか?
明嵐:…それだと紗帆(さほ)先生と被っちゃいます…。
灯:んー…灯、さん?
明嵐:なっ!えっ!?ちょ、ちょっと名前呼びはっ、ぼ、僕っ、まだ早いとっ…。
灯:(うんざりした様子)面倒くさいなぁ、…じゃあいいよ、師匠で。
明嵐:…し、師匠、ですか?
灯:うん。
明嵐:…師匠…。
灯:なに。
明嵐:っ、…師匠。
灯:なに。
明嵐:えへへっ、師匠っ。
灯:だから何って。鬱陶しいから何度も呼ばないで。
明嵐:すみませんっ。えへへっ。
灯:………。
明嵐:………ししょ
灯:(被せて)【結界、マナヅル】
明嵐:(口を塞がれる)んんっ!?んんーーっ、んーーーっ!
0:結界で口を塞がれ慌てる明嵐を尻目に、テイクアウトしたホットカフェを幸せそうに啜る灯
灯:あちッ……ふー、ふー、…ゴクッ。
灯:はぁっ、やっぱキャンディー・クロッカスのキャラメルショコラロイヤルハニーメルトは格・別♪
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:
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:(明嵐モノローグ)
明嵐:【M】(僕の思惑通りに行けば、世界で初の『人工花人の結界師』は世界中のメディアから注目を集める事になるだろう。そうなれば、あのおぞましい研究を止める事も出来るるかもしれないし、僕らと同じような被害者をこれ以上増やさずに済むかもしれない。
明嵐:そうしたら、僕が「創られた」ことにも意味があったと思える日も、いつか来るだろう…。
明嵐:そして、いつ尽きるともわからない寿命が来る前に彼女と同じ幻想級になれれば、きっと、ずっと彼女の傍に居られる。隣で同じ道を一緒に歩いて行ける。
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明嵐:「儚く散っていく人生」?…そんなのごめんだ。
明嵐:好き勝手に創られて大人しく利用されるだけの…綺麗な器で枯れるのをただ静かに待つだけの儚い花にはならない。結界師になると決めたあの日、僕はそう心に誓った。
:
明嵐:……だって僕は、暗く冷たい水の中でどこまでも長く根を伸ばし咲き誇る、強くて美しい睡蓮の「花人」なのだから。)
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0:花鳥封結(かちょうふうけつ)二話~花の憂いと、秘めたる想い【END】