台本概要

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タイトル 花鳥封結~第三話
作者名 砂糖シロ  (@siro0satou)
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(男2、女1)
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 異能系現代ファンタジー
【あらすじ】
結界師の山吹灯と人工花人の双子、鈴蘭と明嵐を巡って紛争する人々と、それらを取り巻く様々な想い。
異能系シリーズ第三弾、双子、謎の青年に結界術を習います!

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
鈴蘭 137 月海 鈴蘭(ツキミ スズラン) 年齢10代前半。 明嵐の双子の姉。お団子頭で右目が赤く、両腕が結晶化で赤黒く硬質化しており不自由。 インベフラスコーポレーションの研究により望まず人工花人にされた(雷系統)。 弟と共に研究所から脱走した。 勝気な性格。
明嵐 120 月海 明嵐(ツキミ アラン) 年齢10代前半。 鈴蘭の双子の弟。左目が赤く、胸に結晶化がある人工花人(水系統)。 姉と共に逃亡していた所、灯と出会う。 性格は内気で素直で一途。記憶力が良い。 灯に対し複雑な感情が芽生え始める。
十六夜 166 御波 十六夜(ミナミ イザヨイ) 年齢不詳(見た目は10代後半)。 灯とは結界師の弟子仲間で幼馴染。 紗帆の兄だが幻想級の結界師であるために見た目が若く、初対面の人物には紗帆の弟と自己紹介する。 ふわふわとした性格でIFC(インベフラスコーポレーション)の研究者でもある。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:花鳥封結(かちょうふうけつ)三話~花開くとき、月は遅れ出でて : : : 十六夜:(タイトルコール)花鳥封結(かちょうふうけつ)第三話、『花開くとき、月は遅れ出でて』 : : : :<第三隠れ家(倉庫)> 0:入り口をうろつく十六夜(いざよい)に怯える鈴蘭(すずらん)と明嵐(あらん) 鈴蘭:…ね、ねぇ…さッきから入り口でうろついてるの、何だろ。 明嵐:わ、わからないよぉ…。 鈴蘭:明嵐、ちょッと見てきてよぉ。 明嵐:や、やだよぉっ。行くなら一緒に行こうよ…。 鈴蘭:もぉお、意気地なしなんだからぁ…。 明嵐:それを言うならスズだって…っ! 0:監視カメラのモニターの前で縮こまる双子 鈴蘭:…黒い服じゃないし、研究所の追手じゃ、ないわよね?…だとしたら、もしかして…泥棒…? 明嵐:やっ、やめてよっ、そーゆー事言うの!師匠出かけてて今僕らしかいないんだよ? 0:ノックの音に飛び上がる双子 鈴蘭:(同時に)ひッ!!!! 明嵐:(同時に)ひゃっ!!!! 十六夜:…あれ、えっと…こーゆー場合何て言えばいいんだろ。 鈴蘭:(同時に)………? 明嵐:(同時に)………? 十六夜:ごめんくださぁーい。僕、御波(みなみ)十六夜と言います。 鈴蘭:…ミナミ? 明嵐:…イザヨイ? 十六夜:灯(ともえ)ちゃんに言われて来たんですけどぉ…。 鈴蘭:(同時に)ッ!! 明嵐:(同時に)っ!! 十六夜:鈴蘭ちゃんと明嵐君、居ませんかぁー…? 明嵐:い、今…「灯ちゃん」って…。 鈴蘭:言ッたよね! 鈴蘭:………。 明嵐:………。 鈴蘭:い、行く? 明嵐:…う、うんっ。 0:抱き合って恐る恐る入り口ににじり寄る双子 鈴蘭:……ちょ、ちょッとアンタ!ほ、ホントに、灯の知り合いなのッ? 十六夜:っ!!その声は、鈴蘭ちゃんかな!? 鈴蘭:そ、それを答えるのは、アンタがホントーに灯の知り合いかしょーめーされてからよッ! 十六夜:え…あぁ、うん!えっと…何すればいいのかな? 鈴蘭:うぇッ!?あ、え、えーと……あッ、そうだ! 鈴蘭:アンタには今からいくつかの質問に答えてもらうわッ! 十六夜:わかった。いいよっ、何でも聞いて。 0:二人は目を合わせて頷く 鈴蘭:…第一問ッ! 十六夜:ふふっ、なんだかクイズみたい(笑)。 鈴蘭:灯が嫌いな生き物はッ? 十六夜:えーっと、確か…カタツムリだったかな。 鈴蘭:…正解。 明嵐:………。 十六夜:ふぅ、良かった。 鈴蘭:次ッ、第二問よッ! 十六夜:……。 鈴蘭:灯の好物はッ? 十六夜:これは簡単っ!灯ちゃんが好きなのは、甘い物♪ 鈴蘭:(小声)…え、これ正解? 明嵐:(小声)んー…ちょっと答えが広すぎる気も…。 鈴蘭:(小声)そうよね、それじゃ…。 : 鈴蘭:甘い物の中でも、週5で飲むくらい好きなのは? 十六夜:えっ!?…あー、アレかぁ!えぇっと…アレ何て言うんだっけ……。 十六夜:んんー…知ってるんだけど、名前が長すぎて覚えてないんだよね…。 十六夜:あの…何だっけ…キャラメルなんとかかんとかメルトって言う…。 鈴蘭:(小声)あ、これ多分正解よね。 明嵐:(小声)うん!「キャラメルショコラロイヤルハニーメルト」! 鈴蘭:(小声)それ! : 鈴蘭:いいわ、正解ッ! 十六夜:えっ、ほんと?やった! 鈴蘭:喜んでいられるのも今の内よ!ここまではただのお遊び!覚悟しなさいよね!次のは、とびッきり難しいんだからッ! 十六夜:ええぇっ、…答えられるかなぁ…。 鈴蘭:(小声)次、明嵐出してよ。 明嵐:(小声)えーーっ、先に「難しい」って言っちゃったのにーっ!? 鈴蘭:(小声)うるさいッ、さッきからアタシばッかり出してるじゃないッ!不公平よ! 明嵐:(小声)えーーー…。 十六夜:…あれ?もう言ったー?ちょっと聞えなかったんだけど…。 鈴蘭:ま、まだよッ!今出すわッ! 鈴蘭:(小声)ほらぁ、早くッ。 明嵐:(小声)もぉーー…。 明嵐:じ、じゃあ、次の問題ですっ。 十六夜:どうぞ。 明嵐:さ、紗帆先生が、小さい頃に飼っていた、い、犬の種類は何ですかっ。 鈴蘭:(小声)ばぁッかぁ!紗帆の問題出してどぉーすんのよッ!そんなのわかるわけ… 十六夜:(被せて)あははっ、そんなの一番簡単だよ。正解は、ボーダー・コリー! 鈴蘭:ッ!? 明嵐:えぇ!?…せ、正解…。 十六夜:ふっ、当然さ。だって、姉弟(きょうだい)だからね! 鈴蘭:(同時に)…え? 明嵐:(同時に)…え? 十六夜:ふふふ、「御波十六夜」って言ったでしょ♪ 鈴蘭:(同時に)えーーーーッ!? 明嵐:(同時に)えーーーーっ!? : : : 0:ソファに腰掛け、ニコニコしている十六夜と訝しそうな様子で観察する鈴蘭に慣れない手つきで紅茶を配る明嵐 十六夜:改めて自己紹介するね。僕は御波十六夜、御波紗帆の…弟で、「研究者」兼「結界師」だよ。 明嵐:えっ!? 十六夜:あっ、ありがとー!美味しそうな紅茶だね、頂きます。 明嵐:ど、どうぞ…。 鈴蘭:………。 十六夜:(紅茶を一口飲む)……美味しい、明嵐君お茶淹れるの上手だね。 明嵐:あ、ありがとうございます。 鈴蘭:それでッ? 十六夜:ん? 鈴蘭:アンタが紗帆の弟ッて言うのはホントなの? 十六夜:うん。本当だよ。 鈴蘭:…研究者ッてことは…アンタもあの研究所で働いてるッてこと…? 十六夜:うん。あ、と言っても、紗帆ちゃんとは部署が違うんだけどね。僕は「一般医薬品」の研究所に所属しているから。 鈴蘭:?良くわからないけど、まぁいいわ。 明嵐:あっ、あのっ! 0:立ち上がった勢いでテーブルの上のカップが揺れる 鈴蘭:ちょッと明嵐ッ、こぼれちゃうでしょ!? 明嵐:…あ、ごめんなさい…。 十六夜:大丈夫だよ。どうしたの? 明嵐:あの…、さっき師匠に頼まれたって…。 十六夜:うん。 明嵐:っ、それに、「結界師」ってことは、もしかして僕達の指導の為に…? 十六夜:そうだよ。「結界師になりたいってヤツがいるから基礎を教えてやって」って灯ちゃんに頼まれて。 鈴蘭:ちょッと!さッきから随分と馴れ馴れしいけど、灯とはどんな関係なのッ? 十六夜:灯ちゃんとは、同じ師範の元で結界術を習った弟子仲間なんだ。 明嵐:弟子、仲間? 十六夜:そう。(紅茶を飲む) 十六夜:数十年…あっ、…じゃなくて、十数年来の付き合い。んー、幼馴染みたいなものかな。 鈴蘭:ふーん…。 0:思いつめた様子の明嵐 明嵐:……十六夜、さん。 十六夜:ん?なぁに? 明嵐:……僕達、結界師に…なれますか? 十六夜:うーん…それは、見てみないと何とも言えないけど…。 明嵐:………。 0:表情を強張らせる明嵐を心配そうに気遣う鈴蘭 鈴蘭:明嵐…? 十六夜:…そうだね、それじゃあ早速始めようか。 : : : 0:倉庫の外に出る三人 鈴蘭:ち、ちょッと…外に出て大丈夫なの…?アタシ達…悪いヤツらに狙われてるのよ…? 明嵐:(頷く)…っ! 十六夜:だいじょーぶ。ちょっと動かないでそこに居てね。 :(【】内は、あればリバーブ等かけて) 十六夜:【師走月、半夜の刻、厳粛の森に潜む守り鳥、結界、アオバズク】 明嵐:アオバズク?…もしかしてこれ、防音と隠蔽(いんぺい)の? 十六夜:へぇ!知ってるんだ。 明嵐:あ、はい。師匠が前に一度、同じ結界を張っていたので。 十六夜:(含みを込めて)………そっか。なるほど。 明嵐:…? 鈴蘭:ねぇ、ちょッと?これ本当に大丈夫なんでしょうねぇ?見た感じは何も変わッてないように見えるけど…。 十六夜:こっちからはね。でも外からは見えないし、聞こえない。だから安心して。 鈴蘭:…ふぅーん、不思議ねぇ。 十六夜:ふふっ。…それじゃまずは、君たちの「花戯(かぎ)能力」を見せてもらってもいいかい? 鈴蘭:えッ?で、でも…。 明嵐:力を使ったら僕達…。 十六夜:「結晶香(けっしょうこう)」の事? 0:不安気に顔を見合わせる双子 明嵐:……はい。 十六夜:だいじょーぶ、アオバズクで感知されないようにしたから気にせず使って平気だよ。 明嵐:(同時に)………。 鈴蘭:(同時に)………。 明嵐:…わかりました。 十六夜:ん。まずは明嵐君から。君は確か、スイレンの花戯に、胸部の硬質化、だったね? 明嵐:はい。 十六夜:悪いけど、硬質化の方も見たいから、シャツだけ脱いでもらっても良いかな? 明嵐:…わかりました。 0:明嵐は戸惑いがちに服を脱ぐ 十六夜:服預かっとくね。…大丈夫?寒くない? 明嵐:大丈夫です。 十六夜:ОK、じゃあ早速見せてくれる? 明嵐:はいっ、………っ! 0:明嵐が目を閉じて両手を前に差し出すと、心臓部から撹拌するように赤黒い結晶が生成され、手のひらから水が滴り落ちる 十六夜:…なるほど、報告通り水の発現かぁ。 十六夜:明嵐君、力を使った時に痛みとか嫌な感じはない? 明嵐:…特には、何も。 十六夜:そっか、それなら良かった。…ちなみに量を変えたり自在に操作したりはできる? 明嵐:……無理、みたいです。このまま出し続けることはできるけど、自在には…ごめんなさい…。 十六夜:ううん、大丈夫だよ。…それじゃあ、胸の硬質化は?広げたりとか硬度を変えたりとかは出来るかな?こっちも操作は無理そう? 明嵐:んー……そうですね、ちょっと、厳しいです。 十六夜:そっか、わかった。…あ、この水、サンプルに少しだけもらっても良い? 明嵐:あ、はいっ、大丈夫です。 十六夜:ありがと。あ、それと、硬質化も何枚か写真撮っておきたいんだけど良いかな? 明嵐:はい、どうぞ。 0:明嵐の胸元を興味深そうに観察しはじめる十六夜を、遠巻きに見ている鈴蘭 十六夜:…ふぅん…このままでも結構強度はありそうだね…。 明嵐:…っ。 鈴蘭:………こうして見てると中々に妖しい絵面ね(笑)。 十六夜:んっ?何か言ったー? 鈴蘭:べッつにー! 十六夜:……よしっ、もういいよ明嵐君。ありがとね。 明嵐:あ、……はい。 0:離れた位置に居る鈴蘭に大声で呼びかける十六夜 十六夜:次は鈴蘭ちゃん、いいかな? 鈴蘭:はぁーい。 十六夜:あぁっ、待って! 鈴蘭:え、何よ! 十六夜:君の花戯は確か雷系統だったよねー? 鈴蘭:…、そうだけど? 十六夜:こっち水溜まりになってて、君の花戯が混じると感電するかもしれないから鈴蘭ちゃんはそっちでやろう! 鈴蘭:?…良くわからないけど、こッちに居れば良いのね? 十六夜:うん、そこに居て! 十六夜:明嵐君は水から離れて建物の方に居てくれる? 明嵐:はい、……ここでいいですか? 十六夜:うんっ、いいよ!それじゃあ鈴蘭ちゃん、お願い! 鈴蘭:おッけぇー、行くわよぉー! 0:鈴蘭が右手を差し出し、手のひらを空に向けると指先から肘に向かって赤黒く結晶化していく 十六夜:うわぁ、すごい! 鈴蘭:ふふッ、まだまだぁ…ッ! 0:鈴蘭の結晶化した指先からパチパチと紫色の小さなプラズマが出始める 十六夜:紫色のプラズマ反応か…。鈴蘭ちゃーんっ! 鈴蘭:ッ!なぁにー? 十六夜:君もそれ、操作するのは難しいー? 鈴蘭:…やッてみるわ!………ッ。 0:力を込めようとする鈴蘭に慌てる十六夜 十六夜:あ、待って!! 明嵐:っ!危ないっ! 0:鈴蘭が指先に力を込めると、バチバチっとプラズマが荒ぶり、大きくスパークする 鈴蘭:……ッ!?きゃぁあッ!!! 明嵐:スズっ!! 十六夜:鈴蘭ちゃんっ!! 0:倒れる鈴蘭に駆け寄る二人 十六夜:……鈴蘭ちゃんっ!大丈夫っ!? 明嵐:スズっ!スズっ!! 鈴蘭:…ん…うぅ…。 明嵐:スズっ! 鈴蘭:……あいたたた…。 明嵐:大丈夫、スズ?…ケガしてない? 鈴蘭:へーき。転んだ時にお尻打ッたけど、他は何ともないみたい。 十六夜:無理に起きなくていいよ。…めまいや吐き気はない? 鈴蘭:…無いわ、びッくりして転んだだけ。…でも、操作するのはちょッと無理みたい。(おどけて舌を出す) 十六夜:ごめんね、僕が無理を言ったばっかりに…。 鈴蘭:別にアンタのせいじゃないわッ。 鈴蘭:それに……研究所ではもッとひどい事、させられてたもの。 十六夜:………。 明嵐:スズ…。 明嵐:……ほら、手。立てそう? 鈴蘭:平気だッてば。…んしょッ。 十六夜:二人とも、ありがとう。…一度中に戻ろっか。 鈴蘭:ええ。 明嵐:…ホントにケガしてない? 鈴蘭:もーッ、大丈夫だッて言ッてるでしょ?全く…ホントーに心配性なんだから…。そーゆーの何て言うか知ッてる?「過保護」ッて言うのよ、か・ほ・ご! 明嵐:何だよその言い方ー、大体いっつもスズが無茶ばっかりするからだろー? 鈴蘭:(被せて)あーもーうるさいなぁー! 十六夜:あははっ、仲いいんだね。 鈴蘭:……なによ、文句ある? 明嵐:こらっ、スズ! 十六夜:んーん、そうじゃなくて…。何か微笑ましいなと思っただけ。小さい頃の僕達を見てるみたいで。 鈴蘭:え?…それッて…。 明嵐:紗帆先生と…ってことですか? 十六夜:うん、そう。僕達も小さい頃、良く喧嘩したんだ(笑)。 鈴蘭:…喧嘩?……紗帆が? 十六夜:そうだよ。 明嵐:…想像できない。 十六夜:そう?…まぁ、確かに今の紗帆ちゃんからはちょっとイメージ出来ないかもね(笑)。 十六夜:だけど紗帆ちゃんって、意外とお転婆だし、怒ると結構怖いんだよ? 明嵐:え、そうなんですか…? 鈴蘭:ねぇねぇッ、小さい頃の紗帆ッてどんなだッたのッ? 十六夜:子供の頃の紗帆ちゃんかぁー。うーん、そうだなぁ…、とにかくすっごく悪戯好きで、近所の子供達と悪さをしては事ある毎に大人を困らせてた(笑)。 明嵐:えぇっ!? 鈴蘭:あの紗帆が!?…意外ねぇ…。 十六夜:人んちの庭に生ってるリンゴを盗って皆で食べたり、牧場の馬に無断で乗って海岸まで走ったりね。ふふっ、あの頃はすっごく楽しかったなぁ…。 0:目を輝かせて身を乗り出す鈴蘭と明嵐 鈴蘭:ねぇッ!馬ッて、どんな感じッ?大きいの!? 明嵐:(頷く)……っ! 十六夜:馬、見たことない? 鈴蘭:………えぇ。 明嵐:……僕達は、産まれてから一度も研究所を出たことがなかったので…。 十六夜:っ!……ごめん。そうだったんだね。あ、確か僕のスマホに写真が入ってたはず。 0:十六夜はポケットからスマホを取り出す 十六夜:……えっとね、馬って言うのは……これだよ。 鈴蘭:……わぁッ!人よりも大きいのねッ! 明嵐:うわぁ…。…あっ、もしかしてこの馬に乗ってる女の子…。 十六夜:うん、紗帆ちゃんだよ。 鈴蘭:へぇー、子供の頃は髪の毛短かッたんだぁー。 十六夜:ふふっ、男の子みたいでしょ?いくら父さんと母さんが「女の子は長い方が可愛いよ」って言っても、絶対に伸ばさなかったんだ。 鈴蘭:えー?どうして? 十六夜:…「遊ぶときに邪魔だから」って。 十六夜:あの頃は、肩につく位まで伸びるとすぐにハサミを持って僕の所に来て、「ねぇ、髪切って!」って良く言ってたなぁ(笑)。 明嵐:ふふふ。 鈴蘭:なにそれぇ。男の子みたぁーい。 十六夜:ね。当時は僕よりも本当に男の子みたいだったよ。 鈴蘭:ふぅーん。あッ、ねぇねぇ、アナタの写真は? 十六夜:え…僕? 鈴蘭:そう!アナタが子供の頃も見てみたいわッ。 明嵐:っ、見たいですっ。 0:期待に満ちた眼差しを向ける双子に、十六夜は申し訳なさそうにどこか歯切れ悪く謝る 十六夜:あー…、ごめん、僕のはないんだ。あんまり写真撮られるのが好きじゃなくて…。 鈴蘭:そーなの…残念ね…。 明嵐:(頷く)……。 十六夜:あはは。あ、でも紗帆ちゃんの写真は沢山あるよ。 鈴蘭:ほんと!?見せて見せてッ。 十六夜:うん、いいよ。 明嵐:僕もっ、僕も見たいですっ! 十六夜:ふふ、どうぞ。 鈴蘭:ちょッと、明嵐!今アタシが見てるのよッ!邪魔しないでッ。 明嵐:スズばっかりズルいよ!僕だって見たい! 鈴蘭:あーッ!!もぉー、勝手にタップしないでよーッ!! 十六夜:あーほらほら、喧嘩しないで、二人とも(笑)。 : : : 0:外で電話をしている十六夜 十六夜:…もしもし、紗帆ちゃん?……うん、今ご飯食べてるよ。灯ちゃんは大丈夫そう? 十六夜:………そっか、なら良かった。…あ、ちょっとお願いがあるんだけど、二人のデータを僕のPC(ぴーしー)に送ってくれない?………いや、出生時から全部。 十六夜:……うん、構わないよ。……え?………いや、別にそう言うわけじゃないんだけど、やっぱりちゃんと関わるんなら二人の事も知っておきたいと思って。 十六夜:……ううん、「弟」だって言った…。こんな高校生みたいな見た目で紗帆ちゃんの兄だなんて言っても信じてもらえないでしょ(笑)。………あ、そうなんだ?じゃあ明嵐くんは幻想級が年を取らないの知ってるんだね。でもまぁ、…その内。鈴蘭ちゃんにも結界師の事をしっかり教えてから言うよ。 十六夜:………うん、わかった。それじゃ、灯ちゃんによろしく言っといて。 明嵐:十六夜さん、食べ終わりました。……あっ、ごめんなさい。電話中、でした? 十六夜:ううん、丁度切ったとこ。わざわざ呼びに来てくれてありがとね。 0:明嵐と一緒に室内へ戻る十六夜 明嵐:十六夜さんは夜ご飯食べないんですか? 十六夜:うん。食べるとしたら…一時過ぎくらいかな。 明嵐:そんなに遅く!? 十六夜:研究してると生活が不規則になっちゃうんだよねー。 明嵐:……身体、壊しませんか? 十六夜:あははっ、大丈夫だよ。一応医薬品の研究者だからね、そこはお薬でちょっちょっと… 明嵐:(被せて)ええぇっ!?ダメですよーっ! 十六夜:ぷっ、あははははっ! 鈴蘭:ちょッとぉ、二人で何喋ッてるのよー。 十六夜:ははははっ、ごめんごめん、今行くね。さっ、鈴蘭ちゃんが待ってるから早く戻ろっ。 明嵐:あっ、十六夜さんっ。 十六夜:お待たせ。 鈴蘭:…何の話してたの? 十六夜:んー?大した話じゃないよ? 鈴蘭:(不貞腐れて)…その割には随分と楽しそうだッたけど? 十六夜:ちょっと冗談言ってただけ、ね? 明嵐:えっ?えぇっと………はい。 鈴蘭:ほんとにぃーー? 十六夜:ほんとほんと。さっ、それじゃあ続きやってこ。 鈴蘭:むぅーーー。 明嵐:スーズ、ほら、ノート出して。 鈴蘭:わかッたわよぅ。 0:ホワイトボードの前に立つ十六夜と、ソファに並んで座る鈴蘭と明嵐 十六夜:(微笑む)…そしたら、次は結界師の歴史から始めるね。 鈴蘭:(同時に)はぁーい。 明嵐:(同時に)はいっ。 十六夜:結界術についてはさっき説明したけど、古い記述によると、結界術が使われていたのはおよそ今から千年前、平安時代の頃と言われている。 鈴蘭:千年…?それッて、要するに一年が千回、ッてことよね? 十六夜:え?あ…うん、そうだね。 明嵐:…ヘイ、アン…? 十六夜:あー……あはは…。えっと…、つまり、すごくすごーーーーく昔っていう事。 十六夜:(咳払い)その頃は人間同士が争ったり、色んな自然災害が起きたりでとても危険だった。そこで守りの為に生まれたのが、結界術だったんだ。 鈴蘭:ふぅーん。 十六夜:陰陽師って言う特別な力を持った人が人々を守って様々な脅威を退ける為、自然の力を操る言葉遊びを作り出した。それが、灯ちゃんや僕が使っていたあの呪文だよ。 明嵐:アオバズクとかマナズルですか…? 十六夜:そう。呪文全体の事を、正しくは「結文(ゆいもん)」って呼ぶんだ。 明嵐:ゆいもん…。 十六夜:結文は通常、「季文(きもん)」「刻文(こくもん)」「綴句(つづりく)」、「結句(むすびく)」の四つで成り立っている。 0:十六夜の言葉を真面目にノートに書き写す二人 鈴蘭:…「む、す、び、く」、と。 十六夜:「季文(きもん)」は、季節を表す言葉で、春夏秋冬や和風月名(わふうげつめい)で始まるんだけど、そこは術師によって様々なんだ。僕は和風月名を使うけど、灯ちゃんは四季を使ってることが多い、そんな風にね。 明嵐:あ、あのっ、わふうげつめい、って何ですか? 十六夜:うん、和風月名って言うのは、日本特有の一月から十二月までの言い方なんだけど…。 十六夜:あー…、そうだね。結文(ゆいもん)の基本だし良い機会だからそれも教えとこう。 明嵐:お願いしますっ。 十六夜:ホワイトボードに書きながら説明するからね。 十六夜:まず、一月は睦月(むつき)、二月が如月(きさらぎ)。続けて弥生(やよい)、卯月(うづき)、皐月(さつき)、水無月(みなづき)、…ここまではいい? 鈴蘭:…「み、な、づ、き」…えぇ、いいわ。 明嵐:僕も大丈夫ですっ。 十六夜:オッケー、じゃあ残りの六つも行くよ。 十六夜:七月から文月(ふみづき)、葉月(はづき)、長月(ながつき)、神無月(かんなづき)、霜月(しもつき)。そして最後、十二月が師走(しわす)。どう?書けた? 明嵐:はい。…スズ、書けた? 鈴蘭:……ッと。うん、書けたわ。 十六夜:それじゃあ次に進むよ? 鈴蘭:えぇ。 十六夜:次は刻文(こくもん)。刻文って言うのは時間を表す言葉で… 鈴蘭:時間ッて事は、一時とか二時とか? 十六夜:うーん、そうだね。「時間」って言ったら日常ではそう言う言い方をするよね。だけど、結文(ゆいもん)で使う場合はまた違った言い方をするんだ。 鈴蘭:違う、言い方…? 十六夜:うん。例えば、「暁(あかつき)」。これは夜明けとか日が昇らないまだ暗い時間帯を指す言葉。 十六夜:そしてアオバズクの結界で、僕が使った結文の中にあった… 明嵐:「はんやのこく」…。 十六夜:そう!…さっきも思ったけど明嵐くん。キミ、記憶力良いね? 明嵐:…はい。 鈴蘭:ふふんッ、明嵐はね、一度聞いた事らなぁーんでもすぅーぐ覚えちゃうんだからッ。 明嵐:…なんでスズが偉そうなのさ。 鈴蘭:べッつにー、そーんなんじゃなーいわッ♪ 十六夜:あははっ、そうなんだね。でも、それってすごい特技だよ。お姉さんの鈴蘭ちゃんが自慢するのも良くわかるなー。 鈴蘭:えへへッ。 明嵐:変なの(笑)。 十六夜:ふふ。 : 十六夜:明嵐君がさっき言ってくれた「半夜(はんや)」。これは真夜中、つまり時間帯で言うと夜の中でも午前0時頃を指し示す言葉なんだ。他にも「夜分(やぶん)」や「真夜(まよ)」、「夜夜中(よるよなか)」「夜半(やはん)」「中宵(ちゅうしょう)」「未明(みめい)」と、同じ真夜中を意味する言葉だけでもこれだけいっぱいある。 明嵐:へぇえ…。 十六夜:一概に夜と言っても真夜中だけじゃないでしょ?夕方や明け方、それに加えて朝や日中。それらを全て合わせると…恐らく全部で百以上になるんじゃないかなぁ。 鈴蘭:ッ、ひゃくぅう!? 十六夜:結界師ですら全部把握している人は少ないかもね。 鈴蘭:そうなの? 十六夜:うん。実は僕も全部は覚えてない(笑)。 鈴蘭:そうなのね…。 明嵐:………。 十六夜:…?どうしたの?何か言いたそうだね。 明嵐:あ…えっと……。 十六夜:ん? 明嵐:師匠は…? 十六夜:灯ちゃん?あー…灯ちゃんは、多分…全部知ってると思う。 明嵐:っ! 鈴蘭:えーッ!?そうなのッ!?灯ッてばあんな成りしてるくせに…案外すッごいのねぇ。 鈴蘭:ふふふふ、従属としてとッても誇らしいわ♪ 十六夜:…そう言えば、君達は灯ちゃんと「従属の誓約」を交わしたんだったね…。その祝詞(のりと)は誰に教わったの? 鈴蘭:…のりと?のりとッてなぁに? 十六夜:えっと、祝詞って言うのは…「貴方に付き従う事を誓います」って感じの言葉を灯ちゃんの前で言わなかった? 鈴蘭:あーッ!それの事ね!でも、それなら誰にも教わッてないわ。 十六夜:え…? 鈴蘭:知ッてたのよ。産まれたときから。 十六夜:…う、産まれたときからって一体…。 明嵐:僕達にもよくわからないけど、元から知ってたんです。 十六夜:そんな事が……? 鈴蘭:(不安気に)?……ねぇ。 十六夜:あ……。ん? 鈴蘭:…それッて何かおかしい事だッた?…もしかして、「普通」じゃない事? 十六夜:あー、えっと……そうだね、あまりそんなケースは聞かないかな…。 鈴蘭:(同時に)………。 明嵐:(同時に)………。 十六夜:だけど、別におかしい事じゃ無いよ。 鈴蘭:……そう? 明嵐:………。 十六夜:うん。そう言う事もあると思う。 : 十六夜:(咳払い)…気を取り直して続き行こうか。次は…綴句(つづりく)について。 十六夜:綴句はざっくり言うと、僕らの周りにある「気」を集める為の言葉なんだ。 明嵐:「き」? 十六夜:そう。「気」と言うのは、この自然界に溶け込んでいる…分子みたいなものかな。 鈴蘭:「ぶんし」? 十六夜:うーん…これは説明が難しいな(笑)。何て言えばいいんだろう…。 鈴蘭:(同時に)………? 明嵐:(同時に)………? 十六夜:そうだなぁ…例えるなら、目に見えない…妖精さん…みたいな…。 0:鈴蘭の目が輝き、明嵐の顔が胡散臭そうに歪む 鈴蘭:(嬉しそうに)妖精ッ!? 明嵐:(訝し気に)……妖精? 鈴蘭:妖精がいるのッ!? 十六夜:あ、いや、これは例えであって、実際に居るわけでは…。 鈴蘭:…嘘、なの…? 十六夜:えっ!?やっ、う、嘘って言うか…そのっ。 明嵐:…スズ、十六夜さんはその見えない「気」のことを僕達にわかりやすく妖精に例えて言ってくれたんだよ。 明嵐:…そうですよね?十六夜さん。 十六夜:あっ、うん、そうなんだ、紛らわしい事を言ってごめんね? 鈴蘭:なぁんだ…そうなのね…。 十六夜:(小声)ありがとう、明嵐君。 明嵐:(小声)いえ…(笑)。 十六夜:えっと…、それで自然に溶け込むその「気」を集めて結界の素を作る言葉が綴句。 十六夜:季文(きもん)や刻文(こくもん)と違って、綴句には決まった言葉が無いんだ。 明嵐:え、じゃあどうやって…? 十六夜:僕には僕の、灯ちゃんには灯ちゃんの。そして君達には君達の綴句が必要なんだよ。 鈴蘭:…それは自分で考えないといけないの? 十六夜:考えると言うよりは、初めのうちは誰かに教わって練習を積む。 鈴蘭:初めのうち…? 十六夜:そう、見習いの間は君たちの師匠となる人に結文を借りるって事。 鈴蘭:灯から…? 十六夜:君達の場合だとそうなるね。それが実技。そして座学と経験によって結文(ゆいもん)の意味、季文、刻文、綴句の繋がりをしっかり理解する事により必要な綴句が想い浮かぶようになるんだ。 十六夜:だから、ただ決められた呪文をいつまでも唱え続けているだけじゃ結界師としては成長できない。「自然」と「言葉」を学び、繋がりを知る事がとっても大事なんだ。覚えておいてね。 明嵐:はい。 鈴蘭:わかッたわ。 十六夜:うん、……それじゃあ、次に…。 : : : 0:翌朝 鈴蘭:ふわぁあああ…。 十六夜:おはよー、鈴蘭ちゃん。 鈴蘭:おはよー…。 明嵐:十六夜さん、目玉焼き焼けました。 十六夜:ありがとう、そしたらお皿に盛り付けちゃおっか。 明嵐:はい。 十六夜:鈴蘭ちゃん、飲み物何がいい? 鈴蘭:リンゴジュース。 明嵐:こーら、スズ。飲み物くらい自分で持って来なよ。十六夜さんもあんまり甘やかさないで下さい。 十六夜:あははは…。 鈴蘭:うー、朝からうるさいわねぇ…。 明嵐:ほら、テーブルに肘つかないの。前紗帆先生に言われただろー? 鈴蘭:だぁッて眠いんだも…ふあぁぁぁ…。 明嵐:スズが遅くまで十六夜さんのスマホ見てるからでしょ?もー、お皿置くから腕どけて。 鈴蘭:わかッたわよぅ…。 十六夜:さ、みんな揃ったし朝ごはんにしよっ。 十六夜:いただきます。 明嵐:(同時に)いただきます。 鈴蘭:(同時に)いただきまぁーす…。 十六夜:ご飯食べたら今日は結文の練習に入るからね。 鈴蘭:ッ!そうだッたわね!それじゃとッとと食べて外に行くわよッ!(急いで食べだす) 明嵐:スズっ、行儀悪いよ! 鈴蘭:(食べながら)さッさと食べないと明嵐の分も食べちゃうわよッ! 明嵐:あーっ、僕のウィンナー!もーっ、スズーーっ! 十六夜:あははははっ。 : :<屋外> 十六夜:と、まぁ昨日の復習はこんな感じ。…どう?大丈夫そう? 鈴蘭:…んー、何となく…? 十六夜:それでいいよ。僕なんか、同じ説明をされた時チンプンカンプン過ぎて何も理解できてなかったから、あはははっ。 明嵐:(乾いた様に)あははは…。 鈴蘭:……アナタそれで良く結界師になれたわね…。 十六夜:でも、安心したでしょ?そんな僕でもちゃんと結界師になれたんだから、君達なら絶対大丈夫! 鈴蘭:ぷッ、あははは!確かに安心したわ。ね、明嵐。 明嵐:ふふふ、そうだね。 十六夜:それじゃあ、基本を踏まえて実際に結界を作ってみよう。 鈴蘭:きゃーッ、いよいよ実技ねッ!待ッてましたぁッ♪ 明嵐:そんなにはしゃいだら怪我するよ、スズ。 鈴蘭:だいじょーぶよッ、心配ご・む・よ・うッ! 十六夜:ふふ。君達が初めに覚えるのは隠蔽(いんぺい)の結界、「アオバズク」だよ。 十六夜:これを覚えれば、花戯の力を使っても探知されるリスクがぐんと減るからね♪ : : : 0:双子が寝静まった頃、部屋の隅で電話をかける十六夜 十六夜:もしもし?………うん、こっちは順調だよ。ただ…少し気になることがあって…。 十六夜:……一般的な常識はそれなりに身についてるのに、年相応の知識が二人ともほとんど無い…。………わかってる、一度もちゃんとした教育を受けさせて貰えなかったんでしょ?…ひどいね。あの子達は実験動物じゃないのに…。 十六夜:それで、お願いがあるんだ。二人に家庭教師を…って…え?もう手配済み?…ふふふっ、さすが紗帆ちゃん。 十六夜:大丈夫、僕の方から伝えておく。………ううん。流石に初対面の時はすごく警戒してたけど、紗帆ちゃんと灯ちゃんの話をしたら少しずつ心を開いてくれたよ。……二人の事、大好きなんだね。 十六夜:あははは、照れてるー。……ごめんごめん。………うん、わかった。 十六夜:あ、そうだ、もう一つお願いがあるんだけど、今度二人の結晶成分を調べたいんだ。龍ちゃんに連絡とっててくれない?………うん、お願いね。…それじゃ。 0:電話を切り、届いたデータに目を通す十六夜 十六夜:ひどい…あんな小さい子達にここまで酷い人体実験をしてただなんて…。紗帆ちゃんが逃がしてなければ、今頃… 鈴蘭:(寝ぼけて)うぅーん…きもんとこくもんと……むにゃむにゃ…。 明嵐:……うっ、重いよ…スズぅ…。 十六夜:ふっ(笑)。 十六夜:(溜息)……。インベフラスコーポレーション…思った以上に腐ってる。 : 十六夜:出来るだけ早急に動いたほうが良いかもしれないよ、灯ちゃん…。 : : : 0:花鳥封結(かちょうふうけつ)三話~花開くとき、月は遅れ出でて【END】

0:花鳥封結(かちょうふうけつ)三話~花開くとき、月は遅れ出でて : : : 十六夜:(タイトルコール)花鳥封結(かちょうふうけつ)第三話、『花開くとき、月は遅れ出でて』 : : : :<第三隠れ家(倉庫)> 0:入り口をうろつく十六夜(いざよい)に怯える鈴蘭(すずらん)と明嵐(あらん) 鈴蘭:…ね、ねぇ…さッきから入り口でうろついてるの、何だろ。 明嵐:わ、わからないよぉ…。 鈴蘭:明嵐、ちょッと見てきてよぉ。 明嵐:や、やだよぉっ。行くなら一緒に行こうよ…。 鈴蘭:もぉお、意気地なしなんだからぁ…。 明嵐:それを言うならスズだって…っ! 0:監視カメラのモニターの前で縮こまる双子 鈴蘭:…黒い服じゃないし、研究所の追手じゃ、ないわよね?…だとしたら、もしかして…泥棒…? 明嵐:やっ、やめてよっ、そーゆー事言うの!師匠出かけてて今僕らしかいないんだよ? 0:ノックの音に飛び上がる双子 鈴蘭:(同時に)ひッ!!!! 明嵐:(同時に)ひゃっ!!!! 十六夜:…あれ、えっと…こーゆー場合何て言えばいいんだろ。 鈴蘭:(同時に)………? 明嵐:(同時に)………? 十六夜:ごめんくださぁーい。僕、御波(みなみ)十六夜と言います。 鈴蘭:…ミナミ? 明嵐:…イザヨイ? 十六夜:灯(ともえ)ちゃんに言われて来たんですけどぉ…。 鈴蘭:(同時に)ッ!! 明嵐:(同時に)っ!! 十六夜:鈴蘭ちゃんと明嵐君、居ませんかぁー…? 明嵐:い、今…「灯ちゃん」って…。 鈴蘭:言ッたよね! 鈴蘭:………。 明嵐:………。 鈴蘭:い、行く? 明嵐:…う、うんっ。 0:抱き合って恐る恐る入り口ににじり寄る双子 鈴蘭:……ちょ、ちょッとアンタ!ほ、ホントに、灯の知り合いなのッ? 十六夜:っ!!その声は、鈴蘭ちゃんかな!? 鈴蘭:そ、それを答えるのは、アンタがホントーに灯の知り合いかしょーめーされてからよッ! 十六夜:え…あぁ、うん!えっと…何すればいいのかな? 鈴蘭:うぇッ!?あ、え、えーと……あッ、そうだ! 鈴蘭:アンタには今からいくつかの質問に答えてもらうわッ! 十六夜:わかった。いいよっ、何でも聞いて。 0:二人は目を合わせて頷く 鈴蘭:…第一問ッ! 十六夜:ふふっ、なんだかクイズみたい(笑)。 鈴蘭:灯が嫌いな生き物はッ? 十六夜:えーっと、確か…カタツムリだったかな。 鈴蘭:…正解。 明嵐:………。 十六夜:ふぅ、良かった。 鈴蘭:次ッ、第二問よッ! 十六夜:……。 鈴蘭:灯の好物はッ? 十六夜:これは簡単っ!灯ちゃんが好きなのは、甘い物♪ 鈴蘭:(小声)…え、これ正解? 明嵐:(小声)んー…ちょっと答えが広すぎる気も…。 鈴蘭:(小声)そうよね、それじゃ…。 : 鈴蘭:甘い物の中でも、週5で飲むくらい好きなのは? 十六夜:えっ!?…あー、アレかぁ!えぇっと…アレ何て言うんだっけ……。 十六夜:んんー…知ってるんだけど、名前が長すぎて覚えてないんだよね…。 十六夜:あの…何だっけ…キャラメルなんとかかんとかメルトって言う…。 鈴蘭:(小声)あ、これ多分正解よね。 明嵐:(小声)うん!「キャラメルショコラロイヤルハニーメルト」! 鈴蘭:(小声)それ! : 鈴蘭:いいわ、正解ッ! 十六夜:えっ、ほんと?やった! 鈴蘭:喜んでいられるのも今の内よ!ここまではただのお遊び!覚悟しなさいよね!次のは、とびッきり難しいんだからッ! 十六夜:ええぇっ、…答えられるかなぁ…。 鈴蘭:(小声)次、明嵐出してよ。 明嵐:(小声)えーーっ、先に「難しい」って言っちゃったのにーっ!? 鈴蘭:(小声)うるさいッ、さッきからアタシばッかり出してるじゃないッ!不公平よ! 明嵐:(小声)えーーー…。 十六夜:…あれ?もう言ったー?ちょっと聞えなかったんだけど…。 鈴蘭:ま、まだよッ!今出すわッ! 鈴蘭:(小声)ほらぁ、早くッ。 明嵐:(小声)もぉーー…。 明嵐:じ、じゃあ、次の問題ですっ。 十六夜:どうぞ。 明嵐:さ、紗帆先生が、小さい頃に飼っていた、い、犬の種類は何ですかっ。 鈴蘭:(小声)ばぁッかぁ!紗帆の問題出してどぉーすんのよッ!そんなのわかるわけ… 十六夜:(被せて)あははっ、そんなの一番簡単だよ。正解は、ボーダー・コリー! 鈴蘭:ッ!? 明嵐:えぇ!?…せ、正解…。 十六夜:ふっ、当然さ。だって、姉弟(きょうだい)だからね! 鈴蘭:(同時に)…え? 明嵐:(同時に)…え? 十六夜:ふふふ、「御波十六夜」って言ったでしょ♪ 鈴蘭:(同時に)えーーーーッ!? 明嵐:(同時に)えーーーーっ!? : : : 0:ソファに腰掛け、ニコニコしている十六夜と訝しそうな様子で観察する鈴蘭に慣れない手つきで紅茶を配る明嵐 十六夜:改めて自己紹介するね。僕は御波十六夜、御波紗帆の…弟で、「研究者」兼「結界師」だよ。 明嵐:えっ!? 十六夜:あっ、ありがとー!美味しそうな紅茶だね、頂きます。 明嵐:ど、どうぞ…。 鈴蘭:………。 十六夜:(紅茶を一口飲む)……美味しい、明嵐君お茶淹れるの上手だね。 明嵐:あ、ありがとうございます。 鈴蘭:それでッ? 十六夜:ん? 鈴蘭:アンタが紗帆の弟ッて言うのはホントなの? 十六夜:うん。本当だよ。 鈴蘭:…研究者ッてことは…アンタもあの研究所で働いてるッてこと…? 十六夜:うん。あ、と言っても、紗帆ちゃんとは部署が違うんだけどね。僕は「一般医薬品」の研究所に所属しているから。 鈴蘭:?良くわからないけど、まぁいいわ。 明嵐:あっ、あのっ! 0:立ち上がった勢いでテーブルの上のカップが揺れる 鈴蘭:ちょッと明嵐ッ、こぼれちゃうでしょ!? 明嵐:…あ、ごめんなさい…。 十六夜:大丈夫だよ。どうしたの? 明嵐:あの…、さっき師匠に頼まれたって…。 十六夜:うん。 明嵐:っ、それに、「結界師」ってことは、もしかして僕達の指導の為に…? 十六夜:そうだよ。「結界師になりたいってヤツがいるから基礎を教えてやって」って灯ちゃんに頼まれて。 鈴蘭:ちょッと!さッきから随分と馴れ馴れしいけど、灯とはどんな関係なのッ? 十六夜:灯ちゃんとは、同じ師範の元で結界術を習った弟子仲間なんだ。 明嵐:弟子、仲間? 十六夜:そう。(紅茶を飲む) 十六夜:数十年…あっ、…じゃなくて、十数年来の付き合い。んー、幼馴染みたいなものかな。 鈴蘭:ふーん…。 0:思いつめた様子の明嵐 明嵐:……十六夜、さん。 十六夜:ん?なぁに? 明嵐:……僕達、結界師に…なれますか? 十六夜:うーん…それは、見てみないと何とも言えないけど…。 明嵐:………。 0:表情を強張らせる明嵐を心配そうに気遣う鈴蘭 鈴蘭:明嵐…? 十六夜:…そうだね、それじゃあ早速始めようか。 : : : 0:倉庫の外に出る三人 鈴蘭:ち、ちょッと…外に出て大丈夫なの…?アタシ達…悪いヤツらに狙われてるのよ…? 明嵐:(頷く)…っ! 十六夜:だいじょーぶ。ちょっと動かないでそこに居てね。 :(【】内は、あればリバーブ等かけて) 十六夜:【師走月、半夜の刻、厳粛の森に潜む守り鳥、結界、アオバズク】 明嵐:アオバズク?…もしかしてこれ、防音と隠蔽(いんぺい)の? 十六夜:へぇ!知ってるんだ。 明嵐:あ、はい。師匠が前に一度、同じ結界を張っていたので。 十六夜:(含みを込めて)………そっか。なるほど。 明嵐:…? 鈴蘭:ねぇ、ちょッと?これ本当に大丈夫なんでしょうねぇ?見た感じは何も変わッてないように見えるけど…。 十六夜:こっちからはね。でも外からは見えないし、聞こえない。だから安心して。 鈴蘭:…ふぅーん、不思議ねぇ。 十六夜:ふふっ。…それじゃまずは、君たちの「花戯(かぎ)能力」を見せてもらってもいいかい? 鈴蘭:えッ?で、でも…。 明嵐:力を使ったら僕達…。 十六夜:「結晶香(けっしょうこう)」の事? 0:不安気に顔を見合わせる双子 明嵐:……はい。 十六夜:だいじょーぶ、アオバズクで感知されないようにしたから気にせず使って平気だよ。 明嵐:(同時に)………。 鈴蘭:(同時に)………。 明嵐:…わかりました。 十六夜:ん。まずは明嵐君から。君は確か、スイレンの花戯に、胸部の硬質化、だったね? 明嵐:はい。 十六夜:悪いけど、硬質化の方も見たいから、シャツだけ脱いでもらっても良いかな? 明嵐:…わかりました。 0:明嵐は戸惑いがちに服を脱ぐ 十六夜:服預かっとくね。…大丈夫?寒くない? 明嵐:大丈夫です。 十六夜:ОK、じゃあ早速見せてくれる? 明嵐:はいっ、………っ! 0:明嵐が目を閉じて両手を前に差し出すと、心臓部から撹拌するように赤黒い結晶が生成され、手のひらから水が滴り落ちる 十六夜:…なるほど、報告通り水の発現かぁ。 十六夜:明嵐君、力を使った時に痛みとか嫌な感じはない? 明嵐:…特には、何も。 十六夜:そっか、それなら良かった。…ちなみに量を変えたり自在に操作したりはできる? 明嵐:……無理、みたいです。このまま出し続けることはできるけど、自在には…ごめんなさい…。 十六夜:ううん、大丈夫だよ。…それじゃあ、胸の硬質化は?広げたりとか硬度を変えたりとかは出来るかな?こっちも操作は無理そう? 明嵐:んー……そうですね、ちょっと、厳しいです。 十六夜:そっか、わかった。…あ、この水、サンプルに少しだけもらっても良い? 明嵐:あ、はいっ、大丈夫です。 十六夜:ありがと。あ、それと、硬質化も何枚か写真撮っておきたいんだけど良いかな? 明嵐:はい、どうぞ。 0:明嵐の胸元を興味深そうに観察しはじめる十六夜を、遠巻きに見ている鈴蘭 十六夜:…ふぅん…このままでも結構強度はありそうだね…。 明嵐:…っ。 鈴蘭:………こうして見てると中々に妖しい絵面ね(笑)。 十六夜:んっ?何か言ったー? 鈴蘭:べッつにー! 十六夜:……よしっ、もういいよ明嵐君。ありがとね。 明嵐:あ、……はい。 0:離れた位置に居る鈴蘭に大声で呼びかける十六夜 十六夜:次は鈴蘭ちゃん、いいかな? 鈴蘭:はぁーい。 十六夜:あぁっ、待って! 鈴蘭:え、何よ! 十六夜:君の花戯は確か雷系統だったよねー? 鈴蘭:…、そうだけど? 十六夜:こっち水溜まりになってて、君の花戯が混じると感電するかもしれないから鈴蘭ちゃんはそっちでやろう! 鈴蘭:?…良くわからないけど、こッちに居れば良いのね? 十六夜:うん、そこに居て! 十六夜:明嵐君は水から離れて建物の方に居てくれる? 明嵐:はい、……ここでいいですか? 十六夜:うんっ、いいよ!それじゃあ鈴蘭ちゃん、お願い! 鈴蘭:おッけぇー、行くわよぉー! 0:鈴蘭が右手を差し出し、手のひらを空に向けると指先から肘に向かって赤黒く結晶化していく 十六夜:うわぁ、すごい! 鈴蘭:ふふッ、まだまだぁ…ッ! 0:鈴蘭の結晶化した指先からパチパチと紫色の小さなプラズマが出始める 十六夜:紫色のプラズマ反応か…。鈴蘭ちゃーんっ! 鈴蘭:ッ!なぁにー? 十六夜:君もそれ、操作するのは難しいー? 鈴蘭:…やッてみるわ!………ッ。 0:力を込めようとする鈴蘭に慌てる十六夜 十六夜:あ、待って!! 明嵐:っ!危ないっ! 0:鈴蘭が指先に力を込めると、バチバチっとプラズマが荒ぶり、大きくスパークする 鈴蘭:……ッ!?きゃぁあッ!!! 明嵐:スズっ!! 十六夜:鈴蘭ちゃんっ!! 0:倒れる鈴蘭に駆け寄る二人 十六夜:……鈴蘭ちゃんっ!大丈夫っ!? 明嵐:スズっ!スズっ!! 鈴蘭:…ん…うぅ…。 明嵐:スズっ! 鈴蘭:……あいたたた…。 明嵐:大丈夫、スズ?…ケガしてない? 鈴蘭:へーき。転んだ時にお尻打ッたけど、他は何ともないみたい。 十六夜:無理に起きなくていいよ。…めまいや吐き気はない? 鈴蘭:…無いわ、びッくりして転んだだけ。…でも、操作するのはちょッと無理みたい。(おどけて舌を出す) 十六夜:ごめんね、僕が無理を言ったばっかりに…。 鈴蘭:別にアンタのせいじゃないわッ。 鈴蘭:それに……研究所ではもッとひどい事、させられてたもの。 十六夜:………。 明嵐:スズ…。 明嵐:……ほら、手。立てそう? 鈴蘭:平気だッてば。…んしょッ。 十六夜:二人とも、ありがとう。…一度中に戻ろっか。 鈴蘭:ええ。 明嵐:…ホントにケガしてない? 鈴蘭:もーッ、大丈夫だッて言ッてるでしょ?全く…ホントーに心配性なんだから…。そーゆーの何て言うか知ッてる?「過保護」ッて言うのよ、か・ほ・ご! 明嵐:何だよその言い方ー、大体いっつもスズが無茶ばっかりするからだろー? 鈴蘭:(被せて)あーもーうるさいなぁー! 十六夜:あははっ、仲いいんだね。 鈴蘭:……なによ、文句ある? 明嵐:こらっ、スズ! 十六夜:んーん、そうじゃなくて…。何か微笑ましいなと思っただけ。小さい頃の僕達を見てるみたいで。 鈴蘭:え?…それッて…。 明嵐:紗帆先生と…ってことですか? 十六夜:うん、そう。僕達も小さい頃、良く喧嘩したんだ(笑)。 鈴蘭:…喧嘩?……紗帆が? 十六夜:そうだよ。 明嵐:…想像できない。 十六夜:そう?…まぁ、確かに今の紗帆ちゃんからはちょっとイメージ出来ないかもね(笑)。 十六夜:だけど紗帆ちゃんって、意外とお転婆だし、怒ると結構怖いんだよ? 明嵐:え、そうなんですか…? 鈴蘭:ねぇねぇッ、小さい頃の紗帆ッてどんなだッたのッ? 十六夜:子供の頃の紗帆ちゃんかぁー。うーん、そうだなぁ…、とにかくすっごく悪戯好きで、近所の子供達と悪さをしては事ある毎に大人を困らせてた(笑)。 明嵐:えぇっ!? 鈴蘭:あの紗帆が!?…意外ねぇ…。 十六夜:人んちの庭に生ってるリンゴを盗って皆で食べたり、牧場の馬に無断で乗って海岸まで走ったりね。ふふっ、あの頃はすっごく楽しかったなぁ…。 0:目を輝かせて身を乗り出す鈴蘭と明嵐 鈴蘭:ねぇッ!馬ッて、どんな感じッ?大きいの!? 明嵐:(頷く)……っ! 十六夜:馬、見たことない? 鈴蘭:………えぇ。 明嵐:……僕達は、産まれてから一度も研究所を出たことがなかったので…。 十六夜:っ!……ごめん。そうだったんだね。あ、確か僕のスマホに写真が入ってたはず。 0:十六夜はポケットからスマホを取り出す 十六夜:……えっとね、馬って言うのは……これだよ。 鈴蘭:……わぁッ!人よりも大きいのねッ! 明嵐:うわぁ…。…あっ、もしかしてこの馬に乗ってる女の子…。 十六夜:うん、紗帆ちゃんだよ。 鈴蘭:へぇー、子供の頃は髪の毛短かッたんだぁー。 十六夜:ふふっ、男の子みたいでしょ?いくら父さんと母さんが「女の子は長い方が可愛いよ」って言っても、絶対に伸ばさなかったんだ。 鈴蘭:えー?どうして? 十六夜:…「遊ぶときに邪魔だから」って。 十六夜:あの頃は、肩につく位まで伸びるとすぐにハサミを持って僕の所に来て、「ねぇ、髪切って!」って良く言ってたなぁ(笑)。 明嵐:ふふふ。 鈴蘭:なにそれぇ。男の子みたぁーい。 十六夜:ね。当時は僕よりも本当に男の子みたいだったよ。 鈴蘭:ふぅーん。あッ、ねぇねぇ、アナタの写真は? 十六夜:え…僕? 鈴蘭:そう!アナタが子供の頃も見てみたいわッ。 明嵐:っ、見たいですっ。 0:期待に満ちた眼差しを向ける双子に、十六夜は申し訳なさそうにどこか歯切れ悪く謝る 十六夜:あー…、ごめん、僕のはないんだ。あんまり写真撮られるのが好きじゃなくて…。 鈴蘭:そーなの…残念ね…。 明嵐:(頷く)……。 十六夜:あはは。あ、でも紗帆ちゃんの写真は沢山あるよ。 鈴蘭:ほんと!?見せて見せてッ。 十六夜:うん、いいよ。 明嵐:僕もっ、僕も見たいですっ! 十六夜:ふふ、どうぞ。 鈴蘭:ちょッと、明嵐!今アタシが見てるのよッ!邪魔しないでッ。 明嵐:スズばっかりズルいよ!僕だって見たい! 鈴蘭:あーッ!!もぉー、勝手にタップしないでよーッ!! 十六夜:あーほらほら、喧嘩しないで、二人とも(笑)。 : : : 0:外で電話をしている十六夜 十六夜:…もしもし、紗帆ちゃん?……うん、今ご飯食べてるよ。灯ちゃんは大丈夫そう? 十六夜:………そっか、なら良かった。…あ、ちょっとお願いがあるんだけど、二人のデータを僕のPC(ぴーしー)に送ってくれない?………いや、出生時から全部。 十六夜:……うん、構わないよ。……え?………いや、別にそう言うわけじゃないんだけど、やっぱりちゃんと関わるんなら二人の事も知っておきたいと思って。 十六夜:……ううん、「弟」だって言った…。こんな高校生みたいな見た目で紗帆ちゃんの兄だなんて言っても信じてもらえないでしょ(笑)。………あ、そうなんだ?じゃあ明嵐くんは幻想級が年を取らないの知ってるんだね。でもまぁ、…その内。鈴蘭ちゃんにも結界師の事をしっかり教えてから言うよ。 十六夜:………うん、わかった。それじゃ、灯ちゃんによろしく言っといて。 明嵐:十六夜さん、食べ終わりました。……あっ、ごめんなさい。電話中、でした? 十六夜:ううん、丁度切ったとこ。わざわざ呼びに来てくれてありがとね。 0:明嵐と一緒に室内へ戻る十六夜 明嵐:十六夜さんは夜ご飯食べないんですか? 十六夜:うん。食べるとしたら…一時過ぎくらいかな。 明嵐:そんなに遅く!? 十六夜:研究してると生活が不規則になっちゃうんだよねー。 明嵐:……身体、壊しませんか? 十六夜:あははっ、大丈夫だよ。一応医薬品の研究者だからね、そこはお薬でちょっちょっと… 明嵐:(被せて)ええぇっ!?ダメですよーっ! 十六夜:ぷっ、あははははっ! 鈴蘭:ちょッとぉ、二人で何喋ッてるのよー。 十六夜:ははははっ、ごめんごめん、今行くね。さっ、鈴蘭ちゃんが待ってるから早く戻ろっ。 明嵐:あっ、十六夜さんっ。 十六夜:お待たせ。 鈴蘭:…何の話してたの? 十六夜:んー?大した話じゃないよ? 鈴蘭:(不貞腐れて)…その割には随分と楽しそうだッたけど? 十六夜:ちょっと冗談言ってただけ、ね? 明嵐:えっ?えぇっと………はい。 鈴蘭:ほんとにぃーー? 十六夜:ほんとほんと。さっ、それじゃあ続きやってこ。 鈴蘭:むぅーーー。 明嵐:スーズ、ほら、ノート出して。 鈴蘭:わかッたわよぅ。 0:ホワイトボードの前に立つ十六夜と、ソファに並んで座る鈴蘭と明嵐 十六夜:(微笑む)…そしたら、次は結界師の歴史から始めるね。 鈴蘭:(同時に)はぁーい。 明嵐:(同時に)はいっ。 十六夜:結界術についてはさっき説明したけど、古い記述によると、結界術が使われていたのはおよそ今から千年前、平安時代の頃と言われている。 鈴蘭:千年…?それッて、要するに一年が千回、ッてことよね? 十六夜:え?あ…うん、そうだね。 明嵐:…ヘイ、アン…? 十六夜:あー……あはは…。えっと…、つまり、すごくすごーーーーく昔っていう事。 十六夜:(咳払い)その頃は人間同士が争ったり、色んな自然災害が起きたりでとても危険だった。そこで守りの為に生まれたのが、結界術だったんだ。 鈴蘭:ふぅーん。 十六夜:陰陽師って言う特別な力を持った人が人々を守って様々な脅威を退ける為、自然の力を操る言葉遊びを作り出した。それが、灯ちゃんや僕が使っていたあの呪文だよ。 明嵐:アオバズクとかマナズルですか…? 十六夜:そう。呪文全体の事を、正しくは「結文(ゆいもん)」って呼ぶんだ。 明嵐:ゆいもん…。 十六夜:結文は通常、「季文(きもん)」「刻文(こくもん)」「綴句(つづりく)」、「結句(むすびく)」の四つで成り立っている。 0:十六夜の言葉を真面目にノートに書き写す二人 鈴蘭:…「む、す、び、く」、と。 十六夜:「季文(きもん)」は、季節を表す言葉で、春夏秋冬や和風月名(わふうげつめい)で始まるんだけど、そこは術師によって様々なんだ。僕は和風月名を使うけど、灯ちゃんは四季を使ってることが多い、そんな風にね。 明嵐:あ、あのっ、わふうげつめい、って何ですか? 十六夜:うん、和風月名って言うのは、日本特有の一月から十二月までの言い方なんだけど…。 十六夜:あー…、そうだね。結文(ゆいもん)の基本だし良い機会だからそれも教えとこう。 明嵐:お願いしますっ。 十六夜:ホワイトボードに書きながら説明するからね。 十六夜:まず、一月は睦月(むつき)、二月が如月(きさらぎ)。続けて弥生(やよい)、卯月(うづき)、皐月(さつき)、水無月(みなづき)、…ここまではいい? 鈴蘭:…「み、な、づ、き」…えぇ、いいわ。 明嵐:僕も大丈夫ですっ。 十六夜:オッケー、じゃあ残りの六つも行くよ。 十六夜:七月から文月(ふみづき)、葉月(はづき)、長月(ながつき)、神無月(かんなづき)、霜月(しもつき)。そして最後、十二月が師走(しわす)。どう?書けた? 明嵐:はい。…スズ、書けた? 鈴蘭:……ッと。うん、書けたわ。 十六夜:それじゃあ次に進むよ? 鈴蘭:えぇ。 十六夜:次は刻文(こくもん)。刻文って言うのは時間を表す言葉で… 鈴蘭:時間ッて事は、一時とか二時とか? 十六夜:うーん、そうだね。「時間」って言ったら日常ではそう言う言い方をするよね。だけど、結文(ゆいもん)で使う場合はまた違った言い方をするんだ。 鈴蘭:違う、言い方…? 十六夜:うん。例えば、「暁(あかつき)」。これは夜明けとか日が昇らないまだ暗い時間帯を指す言葉。 十六夜:そしてアオバズクの結界で、僕が使った結文の中にあった… 明嵐:「はんやのこく」…。 十六夜:そう!…さっきも思ったけど明嵐くん。キミ、記憶力良いね? 明嵐:…はい。 鈴蘭:ふふんッ、明嵐はね、一度聞いた事らなぁーんでもすぅーぐ覚えちゃうんだからッ。 明嵐:…なんでスズが偉そうなのさ。 鈴蘭:べッつにー、そーんなんじゃなーいわッ♪ 十六夜:あははっ、そうなんだね。でも、それってすごい特技だよ。お姉さんの鈴蘭ちゃんが自慢するのも良くわかるなー。 鈴蘭:えへへッ。 明嵐:変なの(笑)。 十六夜:ふふ。 : 十六夜:明嵐君がさっき言ってくれた「半夜(はんや)」。これは真夜中、つまり時間帯で言うと夜の中でも午前0時頃を指し示す言葉なんだ。他にも「夜分(やぶん)」や「真夜(まよ)」、「夜夜中(よるよなか)」「夜半(やはん)」「中宵(ちゅうしょう)」「未明(みめい)」と、同じ真夜中を意味する言葉だけでもこれだけいっぱいある。 明嵐:へぇえ…。 十六夜:一概に夜と言っても真夜中だけじゃないでしょ?夕方や明け方、それに加えて朝や日中。それらを全て合わせると…恐らく全部で百以上になるんじゃないかなぁ。 鈴蘭:ッ、ひゃくぅう!? 十六夜:結界師ですら全部把握している人は少ないかもね。 鈴蘭:そうなの? 十六夜:うん。実は僕も全部は覚えてない(笑)。 鈴蘭:そうなのね…。 明嵐:………。 十六夜:…?どうしたの?何か言いたそうだね。 明嵐:あ…えっと……。 十六夜:ん? 明嵐:師匠は…? 十六夜:灯ちゃん?あー…灯ちゃんは、多分…全部知ってると思う。 明嵐:っ! 鈴蘭:えーッ!?そうなのッ!?灯ッてばあんな成りしてるくせに…案外すッごいのねぇ。 鈴蘭:ふふふふ、従属としてとッても誇らしいわ♪ 十六夜:…そう言えば、君達は灯ちゃんと「従属の誓約」を交わしたんだったね…。その祝詞(のりと)は誰に教わったの? 鈴蘭:…のりと?のりとッてなぁに? 十六夜:えっと、祝詞って言うのは…「貴方に付き従う事を誓います」って感じの言葉を灯ちゃんの前で言わなかった? 鈴蘭:あーッ!それの事ね!でも、それなら誰にも教わッてないわ。 十六夜:え…? 鈴蘭:知ッてたのよ。産まれたときから。 十六夜:…う、産まれたときからって一体…。 明嵐:僕達にもよくわからないけど、元から知ってたんです。 十六夜:そんな事が……? 鈴蘭:(不安気に)?……ねぇ。 十六夜:あ……。ん? 鈴蘭:…それッて何かおかしい事だッた?…もしかして、「普通」じゃない事? 十六夜:あー、えっと……そうだね、あまりそんなケースは聞かないかな…。 鈴蘭:(同時に)………。 明嵐:(同時に)………。 十六夜:だけど、別におかしい事じゃ無いよ。 鈴蘭:……そう? 明嵐:………。 十六夜:うん。そう言う事もあると思う。 : 十六夜:(咳払い)…気を取り直して続き行こうか。次は…綴句(つづりく)について。 十六夜:綴句はざっくり言うと、僕らの周りにある「気」を集める為の言葉なんだ。 明嵐:「き」? 十六夜:そう。「気」と言うのは、この自然界に溶け込んでいる…分子みたいなものかな。 鈴蘭:「ぶんし」? 十六夜:うーん…これは説明が難しいな(笑)。何て言えばいいんだろう…。 鈴蘭:(同時に)………? 明嵐:(同時に)………? 十六夜:そうだなぁ…例えるなら、目に見えない…妖精さん…みたいな…。 0:鈴蘭の目が輝き、明嵐の顔が胡散臭そうに歪む 鈴蘭:(嬉しそうに)妖精ッ!? 明嵐:(訝し気に)……妖精? 鈴蘭:妖精がいるのッ!? 十六夜:あ、いや、これは例えであって、実際に居るわけでは…。 鈴蘭:…嘘、なの…? 十六夜:えっ!?やっ、う、嘘って言うか…そのっ。 明嵐:…スズ、十六夜さんはその見えない「気」のことを僕達にわかりやすく妖精に例えて言ってくれたんだよ。 明嵐:…そうですよね?十六夜さん。 十六夜:あっ、うん、そうなんだ、紛らわしい事を言ってごめんね? 鈴蘭:なぁんだ…そうなのね…。 十六夜:(小声)ありがとう、明嵐君。 明嵐:(小声)いえ…(笑)。 十六夜:えっと…、それで自然に溶け込むその「気」を集めて結界の素を作る言葉が綴句。 十六夜:季文(きもん)や刻文(こくもん)と違って、綴句には決まった言葉が無いんだ。 明嵐:え、じゃあどうやって…? 十六夜:僕には僕の、灯ちゃんには灯ちゃんの。そして君達には君達の綴句が必要なんだよ。 鈴蘭:…それは自分で考えないといけないの? 十六夜:考えると言うよりは、初めのうちは誰かに教わって練習を積む。 鈴蘭:初めのうち…? 十六夜:そう、見習いの間は君たちの師匠となる人に結文を借りるって事。 鈴蘭:灯から…? 十六夜:君達の場合だとそうなるね。それが実技。そして座学と経験によって結文(ゆいもん)の意味、季文、刻文、綴句の繋がりをしっかり理解する事により必要な綴句が想い浮かぶようになるんだ。 十六夜:だから、ただ決められた呪文をいつまでも唱え続けているだけじゃ結界師としては成長できない。「自然」と「言葉」を学び、繋がりを知る事がとっても大事なんだ。覚えておいてね。 明嵐:はい。 鈴蘭:わかッたわ。 十六夜:うん、……それじゃあ、次に…。 : : : 0:翌朝 鈴蘭:ふわぁあああ…。 十六夜:おはよー、鈴蘭ちゃん。 鈴蘭:おはよー…。 明嵐:十六夜さん、目玉焼き焼けました。 十六夜:ありがとう、そしたらお皿に盛り付けちゃおっか。 明嵐:はい。 十六夜:鈴蘭ちゃん、飲み物何がいい? 鈴蘭:リンゴジュース。 明嵐:こーら、スズ。飲み物くらい自分で持って来なよ。十六夜さんもあんまり甘やかさないで下さい。 十六夜:あははは…。 鈴蘭:うー、朝からうるさいわねぇ…。 明嵐:ほら、テーブルに肘つかないの。前紗帆先生に言われただろー? 鈴蘭:だぁッて眠いんだも…ふあぁぁぁ…。 明嵐:スズが遅くまで十六夜さんのスマホ見てるからでしょ?もー、お皿置くから腕どけて。 鈴蘭:わかッたわよぅ…。 十六夜:さ、みんな揃ったし朝ごはんにしよっ。 十六夜:いただきます。 明嵐:(同時に)いただきます。 鈴蘭:(同時に)いただきまぁーす…。 十六夜:ご飯食べたら今日は結文の練習に入るからね。 鈴蘭:ッ!そうだッたわね!それじゃとッとと食べて外に行くわよッ!(急いで食べだす) 明嵐:スズっ、行儀悪いよ! 鈴蘭:(食べながら)さッさと食べないと明嵐の分も食べちゃうわよッ! 明嵐:あーっ、僕のウィンナー!もーっ、スズーーっ! 十六夜:あははははっ。 : :<屋外> 十六夜:と、まぁ昨日の復習はこんな感じ。…どう?大丈夫そう? 鈴蘭:…んー、何となく…? 十六夜:それでいいよ。僕なんか、同じ説明をされた時チンプンカンプン過ぎて何も理解できてなかったから、あはははっ。 明嵐:(乾いた様に)あははは…。 鈴蘭:……アナタそれで良く結界師になれたわね…。 十六夜:でも、安心したでしょ?そんな僕でもちゃんと結界師になれたんだから、君達なら絶対大丈夫! 鈴蘭:ぷッ、あははは!確かに安心したわ。ね、明嵐。 明嵐:ふふふ、そうだね。 十六夜:それじゃあ、基本を踏まえて実際に結界を作ってみよう。 鈴蘭:きゃーッ、いよいよ実技ねッ!待ッてましたぁッ♪ 明嵐:そんなにはしゃいだら怪我するよ、スズ。 鈴蘭:だいじょーぶよッ、心配ご・む・よ・うッ! 十六夜:ふふ。君達が初めに覚えるのは隠蔽(いんぺい)の結界、「アオバズク」だよ。 十六夜:これを覚えれば、花戯の力を使っても探知されるリスクがぐんと減るからね♪ : : : 0:双子が寝静まった頃、部屋の隅で電話をかける十六夜 十六夜:もしもし?………うん、こっちは順調だよ。ただ…少し気になることがあって…。 十六夜:……一般的な常識はそれなりに身についてるのに、年相応の知識が二人ともほとんど無い…。………わかってる、一度もちゃんとした教育を受けさせて貰えなかったんでしょ?…ひどいね。あの子達は実験動物じゃないのに…。 十六夜:それで、お願いがあるんだ。二人に家庭教師を…って…え?もう手配済み?…ふふふっ、さすが紗帆ちゃん。 十六夜:大丈夫、僕の方から伝えておく。………ううん。流石に初対面の時はすごく警戒してたけど、紗帆ちゃんと灯ちゃんの話をしたら少しずつ心を開いてくれたよ。……二人の事、大好きなんだね。 十六夜:あははは、照れてるー。……ごめんごめん。………うん、わかった。 十六夜:あ、そうだ、もう一つお願いがあるんだけど、今度二人の結晶成分を調べたいんだ。龍ちゃんに連絡とっててくれない?………うん、お願いね。…それじゃ。 0:電話を切り、届いたデータに目を通す十六夜 十六夜:ひどい…あんな小さい子達にここまで酷い人体実験をしてただなんて…。紗帆ちゃんが逃がしてなければ、今頃… 鈴蘭:(寝ぼけて)うぅーん…きもんとこくもんと……むにゃむにゃ…。 明嵐:……うっ、重いよ…スズぅ…。 十六夜:ふっ(笑)。 十六夜:(溜息)……。インベフラスコーポレーション…思った以上に腐ってる。 : 十六夜:出来るだけ早急に動いたほうが良いかもしれないよ、灯ちゃん…。 : : : 0:花鳥封結(かちょうふうけつ)三話~花開くとき、月は遅れ出でて【END】