台本概要
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タイトル | ラブレター・エフェクト |
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作者名 | Oroるん (@Oro90644720) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 50 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
数年振りに帰省した青年、折原和人は、地元の駅のホームで、高校の同級生、金子結衣と再会する。 電車を待ちながら、ぎこちなく会話する二人。 そして、お互いに違和感を覚えながら、話題は二人が高校時代の、ある出来事に遡る。 300 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
折原 | 男 | 340 | 折原和人(おりはらかずと) |
金子 | 女 | 323 | 金子結衣(かねこゆい) |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
金子:『ずっと前から、あなたの事が好きでした』
金子:『私と付き合って下さい』
0:「ラブレター・エフェクト」
0:間
0:駅のホーム
0:ベンチに座っている折原(おりはら)とその前に立つ金子
金子:あの。
折原:はい?
金子:折原君、だよね?
折原:えっ?
金子:折原君でしょ?折原和人(おりはらかずと)君。
折原:はい。
金子:・・・
折原:えっと・・・すいません、もしかして知り合いですか?
金子:えっ?
折原:ちょっと分からなくて。
金子:私のこと、覚えてないの?
折原:ごめんなさい。
金子:・・・金子です。
金子:金子結衣(かねこゆい)
折原:・・・もしかして、高二の時同じクラスだった金子さん?
金子:そう、だけど。
折原:ゴメン、久しぶりだから分からなかった。
金子:そう。
折原:・・・
金子:本当に?
折原:えっ?
金子:本当に言ってる?
折原:何の話?
金子:・・・
金子:・・・ゴメン、何でも無い。
折原:そう。
0:間
金子:折原君も帰省?
折原:うん、まあ、そんなこと。
金子:ゴールデンウィークだもんね。
0:間(気まずい間)
金子:えっと・・・今どこに住んでるの?
折原:東京。
金子:そうなんだ。私も勤め先は東京だよ。住んでるのは埼玉だけど。
折原:そう。
0:間(気まずい間)
金子:えっと・・・電車まだかなあ。
折原:(スマホで時計を見て)ああ・・・次、一時間後だよ。
金子:えっ、マジ!?
折原:うん。最近、本数減ったみたい。
金子:そっか。
折原:バス乗り継いだ方が早いよ。
金子:そうなんだね。
金子:折原君は?電車待ってるの?
折原:うん、別に急いでないし。
金子:そう、なんだ。
0:間(気まずい間)
金子:・・・ねえ?
折原:何?
金子:ゴールデンウィーク中、時間ある?ご飯でも行かない?
折原:あのさ・・・
金子:そうだ!高校の近くのお好み焼き屋さん、まだあるかなあ?行ってみない?
折原:俺らさあ、学生時代そんな仲良くなかったでしょ?
金子:えっ?
折原:クラスは一緒でも、友達じゃなかったよね?
金子:それは、そうだけどさ。
折原:だから・・・ゴメン、正直気が乗らない。
金子:そっか。
折原:うん。
金子:・・・私こそゴメンね、急に誘っちゃって。
折原:ううん、大丈夫。
0:間(気まずい間)
金子:・・・じゃあ、バス乗ろうかな。
折原:うん。
金子:そうだ!LINE交換しよ!
折原:・・・ゴメン。
0:間(気まずい間)
金子:だ、だよねー。ゴメンね、気にしないで。
折原:いや、俺の愛想が悪過ぎなだけだから。
折原:・・・
金子:・・・じゃあ、行くね。
折原:うん。
金子:またね。
0:金子、キャリーバックを引いて改札の方に歩いて行く。
0:間
折原:(ため息)
0:ホームから見える田園風景を眺めている。
折原:ここの景色、昔と何にも変わらないな。
0:少し間
折原:帰ってきて、良かったのかな。
折原:俺、何やってたんだろ。
金子:どっちが良い!?
折原:・・・え?
金子:ブラックか微糖!どっち!?
折原:・・・
金子:缶コーヒー!買ってきたから!
折原:・・・コーヒー、あんまり飲まないんだけど。
金子:えっ、マジ?
折原:うん。
金子:・・・ごっめーん!何が良い?買ってくるから!
折原:いや、良いよ。
金子:でも!
折原:そんな事より・・・バス乗らなかったの?
金子:うん。
折原:なんで?
金子:私も電車待とうかなあって。
折原:・・・
金子:ダメ?
折原:別に、俺が決めることじゃないし。
金子:ありがと。
折原:何が?
金子:何となく。
折原:そう。
0:少し間
金子:あのさ。
折原:何?
金子:少し、話さない?
折原:俺と?
金子:うん。
折原:何で?
金子:せっかくこうして久しぶりに会えたんだしさ。
金子:そりゃ、私達別に友達ってわけじゃ無いけどさ
折原:・・・
金子:LINEは交換しない、ご飯も誘わない。
金子:いま、ちょっとお喋りするだけ。どう?
0:間
折原:(手を差し出し)ブラック。
金子:えっ?
折原:せっかく買ってきてくれたんだし、飲むよ。
金子:あ・・・うん!(コーヒーを渡す)
折原:ありがとう。(コーヒーを飲む)
金子:隣、座っても良い?
折原:どうぞ。
金子:ありがと(ベンチに座る)
折原:(缶コーヒーを飲む)
金子:(缶コーヒーを飲む)
0:間(気まずい間)
折原:(ため息)仕事は、何やってるの?
金子:普通にOLだよ。半導体メーカーで、事務職。
折原:・・・そう。
0:間(気まずい間)
金子:ゴールデンウィーク中はずっとこっちにいるの?
折原:うん。
金子:そうなんだ。実家でのんびりする感じ?
折原:・・・うん。
金子:そう、なんだ。
金子:私はね、結構友達と会うよ。
金子:今日は未知瑠(みちる)と会うんだ。私たちと同じクラスだった未知瑠(みちる)。覚えてない?
折原:・・・中野さん、だっけ?
金子:そうそう!未知瑠と、あと四人くらいでご飯行くの。会うの久しぶりなんだ。
折原:そう。
0:間(気まずい間)
折原:(ため息)やっぱ無理だよ。俺ら共通点無さ過ぎだし、会話続かないって。
金子:そ、そんな事言うなよー。寂しいなあ。
折原:俺なんかと話しても仕方ないよ。
金子:こら、そっち方面に戻るな!
折原:なんでさ。
金子:そう言えばさ!この前、野口君と遊んだよ!
折原:・・・ノグっちゃん?
金子:そう!折原君、友達だったでしょ?
折原:うん。しばらく話してないけど。
金子:やっぱり。
折原:え?
金子:ううん、何でもない。
折原:そう。
金子:・・・実はさ、大学の時にね野口君と未知瑠が付き合ってた時期があってね。
折原:へー。
金子:そこから遊ぶようになったの。
折原:そうなんだ。
金子:・・・野口君、いま弁護士なんだよ。すごいよね。
折原:そうなんだ。
金子:うん。高校の時から、頭良かったもんね。
折原:特進クラスだったからね、ノグっちゃん。
金子:それは折原君もでしょ?
折原:・・・確かに、僕も特進だったんだ。
金子:そうだよ。
折原:でも僕は、三年で成績落ちて、受験失敗したから。
金子:・・・
折原:一郎してもダメで、結局滑り止めで受けた私立に行ったしね。
金子:そう、なんだね。
0:間(気まずい間)
金子:え、えっと・・・
折原:もしかしてさ、
金子:ん?
折原:僕に気使ってる?
金子:えっ?何で?
折原:全然聞かないじゃん。僕の近況とか。
金子:それは、たまたま会話の流れがそうなっただけで。
折原:本当は、全部知ってるんじゃないの?
金子:何を?
折原:僕が、東京でやらかした事。
金子:・・・
折原:大学卒業してからね、営業やってたんだ。
金子:えっ?
折原:この陰キャの人見知りの僕が、営業だよ?無理に決まってるよね。
金子:ちょっと、折原君?
折原:まあ、他の職種で内定取れなかっただけなんだけど。
金子:・・・
折原:当然仕事なんかできなくてさ・・・
0:間
0:回想
折原:『(携帯電話を取る)はい、折原です』
折原:『お、お世話になっております』
折原:『え?納品した商品が?数が足りない?』
折原:『いや・・・ちゃんと発注したと思うんですけど?』
折原:『っ!すいません!すいません!』
折原:『あの・・・えっと・・・』
折原:『か、かか確認して、折り返します!』
折原:『すいません・・・すいません!!』
折原:(電話を切る)
折原:どうしよう・・・どうしよう・・・
折原:(電話をかける)
折原:『課長、お疲れ様です。折原です』
折原:『すいません、昨日納入したやつなんですが、先方から、その、か、数が足りないってクレームが入りまして・・・』
折原:『その・・・どうしたら、良いですかね?』
折原:『っ!すいません!すいません!』
折原:『え?仕入先への確認ですか?』
折原:『それは・・・えっと・・・』
折原:『っ!すいません!し、してません!』
折原:『は、はい!すぐに連絡して、在庫確認して!』
折原:『すいません!すいません!!』
折原:『すいませんでした!!』
0:回想終わり
0:間
折原:毎日しんどくて・・・でも会社辞める勇気も無くて・・・
折原:だから、現実を忘れる手段が必要だった。
折原:上司に風俗好きな人がいてさ、僕も付き合わされたんだ。
折原:最初は嫌々だったけど、段々ハマって、一人でも行くようになった。
金子:・・・
0:間
0:回想
折原:こんばんは!今日も来ちゃった!
折原:今週もう5回目だね。・・・だって、すぐ会いたくなっちゃうんだもん。
折原:あ、そうだ。これプレゼント。
折原:前から欲しいって言ってたでしょ?言っておくけど、それ高かったんだからね。
折原:あの、それでさ。
折原:今度、良かったら、店の外で会えないかな?
折原:・・・何でって、たまには良いじゃん。ご飯でも食べに行こうよ、どこでも好きな所に連れて行ってあげる。
折原:・・・ああ、そっか、そうだよね。それ、ダメだもんね。ゴメンゴメン。
折原:じゃあせめてさ、LINE交換しない?
折原:これも禁止?大丈夫、きっとバレないって。
折原:・・・えっ?ちょっと待って、もう来ないでって?
折原:わ、分かった!もう二度と言わないから!
折原:ねえ、怒らないで?
折原:僕はもう、君無しじゃ生きていけないんだ!
折原:愛してるんだ!
0:回想終わり
0:間
折原:あっという間に貯金が無くなった。それでも、辞められなかった。
折原:借金・・・最初は躊躇い(ためらい)もあったけど、一度借りたら、次は簡単だった。
折原:きっと、思考が停止してたんだ。
折原:どんどん借金が増えて、その内ヤバい所からも借りるようになった。
折原:初めて借金取りが家に来た時は、心臓が凍る様な心地だったよ。
折原:追い詰められた僕は・・・会社の金を横領しようとした。
折原:それは運悪く同僚にバレて、未遂で終わったんだけどね。
折原:まあ、警察沙汰にはならなかったから、バレて運が良かったのかな?当然、クビになったけど。
折原:残った借金は、結局・・・
0:間
0:回想
折原:『もしもし、お母さん?僕、和人だけど』
折原:『久しぶり。中々連絡できなくてゴメンね。ずっと忙しかったから』
折原:『それでさ・・・あのさ・・・』
折原:『ちょっと言いにくいんだけど・・・』
折原:『・・・仕事、クビになったんだ』
折原:『・・・それだけじゃ無いんだ』
折原:『いま、借金してて』
折原:『結構すごい額でさ、僕一人じゃどうやっても返せないんだ』
折原:『だから、その・・・』
折原:『助けてくれないかな?』
0:間
折原:『っ!泣かないで、お母さん!』
折原:『ゴメン!ごめんなさい!』
折原:『許してください』
0:回想終わり
0:間
折原:お父さんとは、今日まで話せてない。謝りたくて電話したけど、代わってもらえなかった。
折原:家の敷居跨げんのかな、俺。勘当されちゃったりして。
折原:さっき、「急いでない」って言ったけど、本当は帰りたくないんだ。
金子:・・・
折原:これ、全部知ってるんでしょ?
金子:折原君・・・
折原:高校の同級生が人間のクズみたいな生き方してる話、聞いてどう思った?
金子:・・・
折原:流石に引いたかな?
金子:・・・
折原:金子さんの方が、口数減っちゃったね。
金子:・・・
折原:やっぱり俺たち、会話弾まないって。
金子:・・・そうだね。
折原:・・・
金子:確かに、その話は知ってるよ。
折原:だよね。
金子:でも、私が話したいのは、別の事だよ。
折原:ん?
金子:あのさ、折原君。
金子:本当に、私のこと、覚えてないの?
折原:またそれ?
金子:だって・・・
折原:すぐに思い出せなくてゴメン。だって久しぶりだったし、俺ら別に仲良くなかったし。
金子:そんなのおかしいよ。
折原:えっ?何が?
金子:・・・
0:少し間
金子:(深呼吸して)「あなたの事が、ずっと前から好きでした」
折原:は?
金子:「私と付き合って下さい」
折原:え?何言ってんの?
金子:「来週の金曜日、放課後、学校の屋上で待ってます」
折原:放課後?屋上?
金子:「お返事、聞かせて下さい」
折原:一体なんなんだよ!
金子:・・・
折原:そんなラブレターみたいな・・・
金子:折原君。
折原:ラブレター・・・?
金子:覚えてないの?
折原:っ!
金子:あの日・・・
折原:やめろ・・・
0:間
0:回想 放課後 教室
折原:『それは一学期の期末テストを明日に控えた日』
折原:『放課後、帰る準備をしていた時だった』
折原:何だコレ?手紙?
折原:『机の中に入っていた、白い封筒に気付いた』
折原:『同級生の名前が書いてあった』
折原:『まさか、と思った』
折原:『でも、封筒を開く俺の手は、震えていた』
折原:っ!
0:間
金子:『折原和人君へ』
金子:『突然ゴメンね、どうしても折原君に伝えたいことがあって、このお手紙を書きました』
金子:『きっと驚くと思うけど、折原君に伝えたいことがあります』
0:間
金子:『ずっと前から、あなたの事が好きでした』
金子:『私と付き合って下さい』
折原:っ!
0:少し間
折原:『生まれて初めてもらった、ラブレターだった』
0:少し間
金子:『どうやって伝えようか迷ったんだけど、直接言うのはやっぱり恥ずかしいし、電話も知らないから、お手紙書くことにしました』
金子:『ラブレターとか書いたの、マジ初めてだし、文章おかしかったらゴメンね』
金子:『って言うか、直筆の手紙自体滅多に書かないんだからね!これ貴重だぞ!貴重!』
金子:『・・・なんちゃって』
金子:『とにかく、どうしても伝えたかったんだ、私の気持ち』
金子:『あなたが、好きだってこと』
折原:嘘だろ・・・
0:少し間
金子:『折原君に彼女いるのとかも知らないし、迷惑だったらゴメン』
金子:『でも、私本気で折原君の彼女になりたいの!』
金子:『だから、ちゃんと考えて欲しい』
金子:『大好きなの』
0:少し間
折原:『驚いた』
折原:『信じられなかった』
折原:『気が動転した』
折原:『でも、嬉しかった』
0:少し間
金子:『来週の金曜日、放課後、学校の屋上で待ってます』
金子:『お返事、聞かせてください』
0:間
折原:『翌週の金曜日、それは期末テストの最終日だった』
折原:『テストが終わった放課後、俺は屋上にいた』
折原:『彼女が、来てくれた』
金子:折原君。
折原:あ、あの!
折原:来てくれて、ありがとう!
金子:えっ?
折原:いや、違うか。呼んだのそっちだもんね。アハハ
金子:そうだね。
折原:えーっと
折原:俺さ、こういうの初めてで
折原:どうしたら良いか、分からなくて
金子:うん。
折原:その・・・ゴメン
折原:あっ!「ゴメン」って言うのは、断るって意味じゃないよ!
折原:テンパってて、取り乱しちゃって「ゴメン」って言う意味で
金子:折原君、落ち着いて。
折原:あーもう、俺何言ってんだろ。しっかりしろ、俺!
折原:本当、ゴメン。いや、「ゴメン」はもう良いから!
折原:俺、一人で何言ってんだろうね。アハハハハ
金子:(笑う)
折原:・・・期末テスト、どうだった?
折原:いやいやいや、そんな事どうでも良いじゃん!ねっ!?
折原:俺は・・・俺さあ!
折原:ぶっちゃけ!正直!この一週間!テストどころじゃなかったんだ!
金子:(笑い出す)
折原:(深呼吸して)もうさ、頭の中・・・君のことで、頭の中、あの、頭の中がさ!一杯になってたんだ!
金子:(段々と笑いが大きくなる)
折原:だから・・・
金子:(笑いながら)も、もうダメ!
折原:・・・さっきから、何で笑ってるの?
金子:(笑いながら)本当に分からないの?
折原:えっ?・・・えっ?
金子:(笑いながら)これ・・・ドッキリだよ?
0:間
0:回想終わり
金子:『私も高二までは、特進クラスにいたんだ』
金子:『折原君と同じクラスだったんだから、当たり前だよね』
金子:『あの時の私、毎日頑張ってたんだ。猛勉強してた。もしかしたら、クラスで一番勉強してたかも』
金子:『でも、正直しんどかった。それだけ頑張ってもさ、成績はクラスの真ん中か、ちょっと下ぐらい』
金子:『何とか食らいつこうと必死だった。頑張って、良い大学行かなきゃって。親も期待してくれてたしね』
金子:『でもさ、周りの同年代の子達見てたら、みんな楽しそうで』
金子:『みんな遊んだり、部活とか、バイトとか、オシャレとか、恋愛とか・・・羨ましいなあって』
金子:『ある日、友達に遊びに誘われたの。いつもは断ってたんだけど、「たまには勉強の息抜きに」って言われてね』
金子:『今でもはっきり覚えてる。もうね、めちゃくちゃ楽しかった!』
金子:『こんなに楽しいことが、この世にはあったんだ!・・・って、大げさだけど、本当にそう思ったの』
金子:『その日から、私もう、元の「ガリ勉女子」には戻れなくなっちゃった』
金子:『ちょっとずつ、勉強サボって遊ぶようになってね。もちろん、親には内緒で』
金子:『バイトまで始めちゃって、バイト先で彼氏もできて』
金子:『毎日遊び回って、・・』
金子:『まあ、当たり前だけど、成績はどんどん落ちて行ってさ』
金子:『三学期なって、ちょっと焦ったんだけどね、結局取り返せなくて』
金子:『特進・・・落とされちゃった。三年から普通科に移ったの』
金子:『しかも、勉強サボって遊び呆けてたの、親にバレちゃってさ』
金子:『あの時はキツかったなあ。親めちゃくちゃ怒られたんだ・・・そりゃそうだけど』
金子:『うちの親ってさ、それまであんまり怒ったりすることなかったんだ。だから、余計に辛くて』
金子:『毎日毎日怒鳴られて、あの頃はちょっと「生きてるのが嫌」とか思ってたな』
金子:『正直、言い過ぎだったと思うよ、うちの親。まあ、それだけ私に期待してたんだろうけどね』
金子:『そんなどん底だった時期にね、私、聞いちゃったの』
0:回想 高校の廊下
0:友人と話している折原
0:それを少し離れた所で立ち聞きしている金子
折原:ええっ!?ノグっちゃん、彼女できたの?
折原:大丈夫?僕ら受験生だよ?勉強に支障出ない?
折原:ち、違うよ!負け惜しみじゃないし!ただ、今は恋愛にかまけてる場合じゃ無いよって言ってるの!
折原:僕?そんな相手居ないよ、当たり前じゃないか。
折原:えっ?金子さん?何で金子さんの名前が出てくるの?
折原:僕が・・・金子さんの事好きだって?僕、そんな事言った?
折原:違うよ、全然違う!金子さん、特進落ちて接点も無いんだしさ!
折原:確かに、ちょっと可愛いなとは、思ってたけど・・・
折原:だから違うって!
折原:大体、勉強サボって遊び回ってた人なんか興味無いし。
折原:舐め過ぎだっての。特進落とされるのも当たり前だね。
折原:本当に寂しがって無いってば!僕は・・・
金子:『気がついたら、私走ってた』
金子:『まだ授業あったのに、カバンとか教室に置いたままだったのに』
金子:『学校飛び出して、家まで走って帰っちゃったの』
0:回想 金子の部屋
金子:ママ・・・
金子:学校?・・・ちょっと体調悪くて、早退したの。
金子:違う、サボったんじゃないよ!
金子:違う、違うってば!
金子:っ!何で、何でいつも、そんなに怒るの!
金子:何でいつも、私の話聞いてくれないの!
金子:(母親に枕を投げつける)私、ずっと頑張ってきたのに!
金子:(部屋中の物を投げつけながら)私、ずっと良い子だったのに!
金子:何でそんな酷いことばっかり言うの!
金子:私、生きてちゃいけないの!?
金子:私、ママの娘じゃいけないの!?
金子:何で・・・何でよ・・・
0:回想終わり
金子:『声を枯らして泣いたの』
金子:『悔しかったの』
金子:『傷付いたの』
金子:『だから・・・』
0:回想 校内で友人達と話す金子
金子:そうなの!折原のやつ、陰で私の事そんな風に言ってたんだよ!?
金子:もうまじムカつく!何で折原なんかにそんな事言われなきゃいけないの!?
金子:・・・え?マジ?折原って、昔、私の事好きだったの?
金子:気持ち悪っ!
金子:・・・ないない!折原なんかに好かれても嬉しくない!
金子:だって、あんな陰キャ無理でしょ!死んでも嫌!
金子:うわっ、想像したら背筋に寒気走った。
金子:・・・大体、好きだった相手、あんなボロクソに言う?余計に腹立ってきた!
金子:マジ、死んでくれたら良いのに。
金子:・・・マジマジ。私、折原が交通事故で死んだとか聞かされたら、全力でガッツポーズする自信あるもん。
金子:(ため息)アイツ、マジで・・・クソッ!
0:間
金子:あ、そうだ!
金子:ね
金子:ちょっと面白い事
金子:してみない?
0:回想終わり
金子:『だから私は』
金子:『あの日』
金子:『あの屋上で』
0:場面は屋上に戻る
折原:ドッキリ?ドッキリって、どう言う事?
金子:いやいやいや、分かるでしょ?あのラブレターは、偽物ってこと!
折原:っ!
金子:本当に信じちゃってたんだね。おかしいと思わなかったの?
金子:私たちロクに話したこともないのにさ、好きになるわけないじゃん。
折原:・・・
金子:みんな!出てきてー!
0:隠れていた金子の友人達が出てくる。
折原:っ!みんな・・・
金子:みんな仕掛け人だよ、このドッキリの。
折原:ノグっちゃんまで・・・
金子:野口君、例のやつ、見せてあげて。
0:野口、スマホを折原に渡す
折原:何でスマホを?・・・動画?
金子:それ、野口君が隠し撮りしてくれたの。
折原:何を?
金子:再生してみて。
0:再生ボタンを押す
0:1日目
0:放課後 野口たちと話す折原
折原:『最近変?べ、別にそんな事無いし!』
折原:『にやけてなんか無いよ!そんな事よりもさ、テストに集中しないと!』
0:2日目
0:金子に話しかける折原
折原:『か、金子さん!』
金子:『折原君、どうしたの?』
折原:『えっと、その・・・』
折原:『(小声で)例の件なんだけどさ』
金子:『例の件?』
折原:『・・・』
折原:『ゴメン、何でも無い!』
0:走り去る折原
金子:『(吹き出す)』
0:3日目
0:休み時間
折原:『(あくびする)』
折原:『うん、ここの所あんまり寝れてないんだ』
折原:『テスト勉強?違うんだ、そうじゃ無くて・・・』
折原:『・・・(にやけながら)秘密』
0:5日目
折原:『金子さん、テストも折り返しだね』
折原:『・・・だから何って事は無いんだけど。アハハ』
金子:『折原君さあ・・・』
折原:『えっ?』
金子:『最近、やたら私に話しかけてきてない?』
折原:『だってそれは・・・』
金子:『なあに?』
折原:『あ、あの』
折原:『良かったらさ・・・』
折原:『(かなり小声で)今日、一緒に帰らない?』
金子:『(わざとらしく大声で)ええっ?何て?ゴメン全然聞こえなかった』
折原:『・・・ううん、大したことじゃないんだ』
折原:『急に話しかけて、ゴメンね』
0:6日目
折原:『金子さんと何があるのかって?』
折原:『な、何も無いよ!』
折原:『仲良さそうだって?』
折原:『・・・そう見える?』
0:7日目
折原:『テストも明日で終わりだね』
折原:『調子?・・・正直、全然ダメなんだ』
折原:『・・・うん、大丈夫』
折原:『人生にはさ、勉強より大事な事って、あると思うんだ』
0:間
金子:以上、偽物のラブレターもらってから、ずっとソワソワしてた、この一週間の折原君でした!
折原:(震えている)
金子:ご感想は?
折原:あっ・・・ぐっ・・・えっと・・・うぅ・・
0:間
折原:や、やだなー。そっかあ、ドッキリか。
折原:そっかあ、そか。そかそかそか。アハハ
折原:お、おかしいと、思ったんだ。えっと・・・か、勘弁してよー
折原:まい、ったなー、アハハハハハハハハ
折原:アハハハハハハハ・・・
0:回想終わり
0:間
金子:覚えてるでしょ?
折原:・・・そうだった。
金子:・・・
折原:期末は当然ボロボロで、二学期になってもテスト全然出来なくて・・・
折原:それで・・・
折原:センター試験も・・・
金子:そう・・・センター試験の日、私に会いに来たよね。
折原:・・・
0:間
0:回想 金子の自宅付近
0:電話で話している金子
金子:うん、分かった!今度の日曜ね?
金子:・・・大丈夫大丈夫、もう受験も終わったしさ、よゆーですよ。
金子:他の皆には悪いけどね、アハハハ。
金子:おっと、そろそろ充電ヤバい。そろそろ切るね。
金子:またね、バイバーイ。
0:電話を切る
金子:ふぅ。
0:少し間
金子:そういえば今日って、センター試験か。
金子:本当なら私も、受けてるはずだったんだよね。
金子:・・・
金子:あー、お腹すいたなあ!今日の晩御飯何かなあ?
金子:・・・えっ?
0:金子の前に立ち塞がる折原
折原:・・・
金子:嘘、折原君?何でここに?
折原:金子さん。
金子:まさか、私の家、調べたの?
金子:こわ・・・気持ち悪。
折原:・・・
金子:今日、センター受けてたんじゃないの?
金子:明日もあるんでしょ?早く帰って勉強した方が良いんじゃない?
折原:お、俺は・・・
金子:ゴメン、マジ怖いから。私、行くね。
折原:待って!
金子:嫌。何でアンタの言うこと聞かなきゃいけないの?
折原:何だよ、その態度。
折原:自分が何したか、分かってるのかよ?
金子:へ?何が?知らないわよ。
折原:ふざけるな!
金子:ちょっと、大きな声出さないでよ。近所迷惑でしょ。
折原:何もかも、お前のせいだろ!
金子:はあ?
金子:私のせい?
折原:そうだろ?
金子:なるほど、そう言う事か。
金子:今日のセンター試験が上手くいかなくて、八つ当たりしに来たってわけ?
折原:八つ当たり?
金子:ラブレターの件、いつまで引きずってんの?あんなの、ただのイタズラじゃない。
折原:イタズラ・・・
金子:何?たかがイタズラ一つで、勉強が出来なくなって、それが全部私のせいだって?
金子:そっちこそふざけないでよ。
折原:っ!
金子:ただ単に、アンタの頑張りが足りなかっただけでしょ?
金子:人のせいにすんな。
折原:・・・
金子:じゃあね。
折原:待てよ!
0:折原、金子を羽交締めにする。
金子:ちょっと何すんのよ!離して!
折原:謝れ!謝れよ!
0:金子を押し倒す。
金子:痛い!ちょっと辞めて!
金子:誰か、誰か助けて!
折原:だ、黙れ!
0:折原、手で金子の口を塞ぐ。
金子:(口を塞がれもがく)
折原:チクショウ、チクショウ!
金子:?
折原:あっ。
金子:『私の叫び声を聞きつけたのか、近所の人がこちらに駆け寄ってくるのが目に入った』
折原:ち、違うんです、これは。
折原:全部コイツが悪いんだ!僕は、何で、こんなのおかしいよ!
折原:どうしてこうなるんだよ、僕は、何もしてないじゃないか。
折原:僕は!僕の人生は!コイツのせいで!何もかも!
金子:(折原の手を振り解き)助けて!
折原:っ!(走り去る)
金子:(荒い息遣い)
金子:すいません、ありがとうございました。
金子:・・・はい、怪我はありません。
金子:・・・え?警察に?
金子:いえ、良いんです!さっきの、実は高校の友達で、ちょっと喧嘩になっちゃって。
金子:お互いヒートアップしちゃっただけなんです。本当に大丈夫ですから。
金子:ご心配おかけしてすいません。
0:間
金子:『この時の私は、まだ知らなかった』
金子:『折原君がセンター試験中に突然大声を上げ』
折原:うがああ!
金子:『試験用紙を破り捨て』
折原:(破りながら)クソクソクソクソクソ!
金子:『監督官に取り押さえられ』
折原:違う!違うよ!こんなはずじゃ無いんだ!
金子:『センター試験を、失格になってしまった事を』
折原:なんでなんだよお!
0:長めの間
折原:・・・俺に襲われたこと、誰にも言わなかったの?
折原:警察とか親とか学校に。
金子:うん。
折原:どうして?
金子:本当は、後悔してたから。
折原:後悔?
金子:あの屋上でネタバラシして、折原君がショック受けてるのを見た時はさ、凄くスカッとした。
金子:本当に、良い気分だった。
折原:・・・
金子:期末テストが返ってきて、折原君の点数ボロボロだったって知った時は、
金子:ザマァみろって思った。それが狙いだったわけだし。
金子:でも
金子:それと同時に・・・怖くなったの。
折原:何が?
金子:私はもしかしたら、すごく悪い事をしたんじゃ無いかと思って。
金子:二学期に入っても、折原君の成績、全然良くならなくて・・・自分に必死に言い聞かせてた。
金子:「こうなったのは私のせいじゃない。私は悪くない」って。
折原:・・・
金子:ドッキリに参加した皆も、散々ネタにしてたのに、その内誰も話題にしなくなった。
金子:きっと皆、同じ気持ちだったんだと思う。
金子:あのセンター試験の夜、折原君に詰め寄られて、
金子:頭では分かってたの。折原君に謝らなくちゃいけないって。
金子:でも出来なかった。自分を守ることに必死で、折原君に酷い事言っちゃった。
金子:折原君、あれから一度も学校に来なかったよね?卒業式も。
折原:・・・センター試験の件がちょっとした騒ぎになって、テレビで報道までされて、
折原:もう、誰とも会いたくなかった。
折原:だから、ずっと家に引きこもってた。
金子:誰にも言わなかったんだね、私のラブレターの事。
金子:そのせいで、受験失敗したのに。
金子:どうして、「全部私のせいだ」って言わなかったの?
金子:私ずっとビクビクしてたの。折原君が何もかもを話して、それで学校や親に私のした事が知られちゃうんじゃ無いかって。
折原:話したかった。でも、誰かに話した所で、みんな同じなんじゃ無いかって。
金子:えっ?
折原:「たかがそんな事」そう言われるんじゃ無いかと思って・・・
折原:そんな事言われたら、もう僕、終わるなって思った。
折原:だから誰にも言わなかった。
金子:・・・
折原:金子さんの言ってた通り、学生時代に受けたちょっとしたイタズラ、その程度の話なのかもね。
折原:だから、何の言い訳にもならない。
折原:何もかも、ぜーんぶ、自業自得。
折原:そうなんでしょ?
金子:折原君、もう辞めて。
折原:高三の時の事は、思い出してもしんどくなるだけだから、考えないように・・・忘れようとした。
折原:いや、本当に忘れてた、みたいだね。
金子:・・・
折原:まさか、当事者を目の前にしても思い出せないなんてね。自分でもビックリだよ。
折原:きっと、僕にとっては、「たかがそんな事」じゃなかったんだ。
金子:折原君、私は・・・
折原:あのラブレターを貰った時
金子:えっ?
折原:・・・本気で思ってたんだ。勉強なんかどうでも良いって。
折原:だって、自分が好きだった子から告白されたたんだよ。「これ人生で一番大事なイベントだろ!」って、そう思ってた。
折原:たかが高校生のガキがさ、人生一番なんて、馬鹿だよな。
金子:・・・
折原:もし、あの「ラブレター事件」が無かったら
折原:僕の人生、どうなってたのかなあ。
0:長めの間
折原:あーあ、全部思い出しちゃった。
折原:どうしてくれるの?
金子:本当はね
金子:ここに着いたの、今じゃないの。
折原:は?
金子:多分二時間くらい前、このホームで・・・折原君を見かけたの。
金子:折原君、ずっとここのベンチに座ってたんでしょ?
折原:どういう事?
金子:折原君を見つけて、心臓が止まるかと思った。
金子:折原君に気付かれないように、すぐに回れ右して、駅を出たの。
金子:一旦バスにも乗ったんだよ。でも
金子:バスに揺られながら、思ったんだ。
金子:今日、ここで折原君に会ったこと、何か意味があるんじゃないかって。
金子:私はここで、向き合わなきゃいけないんじゃ無いかって。
金子:途中でバス降りて、反対方向のに乗り換えて。
金子:また駅に戻ってきて・・・正直まだ居るとは思わなかったけど。
折原:わざわざ戻ってきたの?
金子:うん。
折原:何で?
金子:・・・今度こそ、謝る為に。
折原:今さら、どうして?
折原:何の意味があるの?
金子:・・・私ね。
金子:・・・結婚するんだ。
折原:・・・は?
金子:実は(自分のお腹をさすり)もう、お腹に赤ちゃんもいるの。
折原:・・・
金子:・・・
折原:・・・さっきから回りくどいんだよ!
折原:それ、僕に関係あるのかよ!
金子:・・・私、母親になるんだ。
折原:だから、それが何なんだよ!
金子:生まれてくるこの子に、私は親として恥ずかしく無い人間じゃなきゃいけないの!
折原:そんなもん知るか!
金子:確かに今更だし、何の意味も無いかもしれない。
折原:全部お前の都合だろ!ふざけんな!
金子:でも・・・もう、私に出来る事は、こんな事しかないの。
折原:やめろ。
金子:折原君。
折原:やめろよ。
金子:本当にゴメンなさい(頭を下げる)
0:長めの間
折原:・・・(笑い始める)
金子:・・・
折原:(笑い続ける)
0:終わり
金子:『ずっと前から、あなたの事が好きでした』
金子:『私と付き合って下さい』
0:「ラブレター・エフェクト」
0:間
0:駅のホーム
0:ベンチに座っている折原(おりはら)とその前に立つ金子
金子:あの。
折原:はい?
金子:折原君、だよね?
折原:えっ?
金子:折原君でしょ?折原和人(おりはらかずと)君。
折原:はい。
金子:・・・
折原:えっと・・・すいません、もしかして知り合いですか?
金子:えっ?
折原:ちょっと分からなくて。
金子:私のこと、覚えてないの?
折原:ごめんなさい。
金子:・・・金子です。
金子:金子結衣(かねこゆい)
折原:・・・もしかして、高二の時同じクラスだった金子さん?
金子:そう、だけど。
折原:ゴメン、久しぶりだから分からなかった。
金子:そう。
折原:・・・
金子:本当に?
折原:えっ?
金子:本当に言ってる?
折原:何の話?
金子:・・・
金子:・・・ゴメン、何でも無い。
折原:そう。
0:間
金子:折原君も帰省?
折原:うん、まあ、そんなこと。
金子:ゴールデンウィークだもんね。
0:間(気まずい間)
金子:えっと・・・今どこに住んでるの?
折原:東京。
金子:そうなんだ。私も勤め先は東京だよ。住んでるのは埼玉だけど。
折原:そう。
0:間(気まずい間)
金子:えっと・・・電車まだかなあ。
折原:(スマホで時計を見て)ああ・・・次、一時間後だよ。
金子:えっ、マジ!?
折原:うん。最近、本数減ったみたい。
金子:そっか。
折原:バス乗り継いだ方が早いよ。
金子:そうなんだね。
金子:折原君は?電車待ってるの?
折原:うん、別に急いでないし。
金子:そう、なんだ。
0:間(気まずい間)
金子:・・・ねえ?
折原:何?
金子:ゴールデンウィーク中、時間ある?ご飯でも行かない?
折原:あのさ・・・
金子:そうだ!高校の近くのお好み焼き屋さん、まだあるかなあ?行ってみない?
折原:俺らさあ、学生時代そんな仲良くなかったでしょ?
金子:えっ?
折原:クラスは一緒でも、友達じゃなかったよね?
金子:それは、そうだけどさ。
折原:だから・・・ゴメン、正直気が乗らない。
金子:そっか。
折原:うん。
金子:・・・私こそゴメンね、急に誘っちゃって。
折原:ううん、大丈夫。
0:間(気まずい間)
金子:・・・じゃあ、バス乗ろうかな。
折原:うん。
金子:そうだ!LINE交換しよ!
折原:・・・ゴメン。
0:間(気まずい間)
金子:だ、だよねー。ゴメンね、気にしないで。
折原:いや、俺の愛想が悪過ぎなだけだから。
折原:・・・
金子:・・・じゃあ、行くね。
折原:うん。
金子:またね。
0:金子、キャリーバックを引いて改札の方に歩いて行く。
0:間
折原:(ため息)
0:ホームから見える田園風景を眺めている。
折原:ここの景色、昔と何にも変わらないな。
0:少し間
折原:帰ってきて、良かったのかな。
折原:俺、何やってたんだろ。
金子:どっちが良い!?
折原:・・・え?
金子:ブラックか微糖!どっち!?
折原:・・・
金子:缶コーヒー!買ってきたから!
折原:・・・コーヒー、あんまり飲まないんだけど。
金子:えっ、マジ?
折原:うん。
金子:・・・ごっめーん!何が良い?買ってくるから!
折原:いや、良いよ。
金子:でも!
折原:そんな事より・・・バス乗らなかったの?
金子:うん。
折原:なんで?
金子:私も電車待とうかなあって。
折原:・・・
金子:ダメ?
折原:別に、俺が決めることじゃないし。
金子:ありがと。
折原:何が?
金子:何となく。
折原:そう。
0:少し間
金子:あのさ。
折原:何?
金子:少し、話さない?
折原:俺と?
金子:うん。
折原:何で?
金子:せっかくこうして久しぶりに会えたんだしさ。
金子:そりゃ、私達別に友達ってわけじゃ無いけどさ
折原:・・・
金子:LINEは交換しない、ご飯も誘わない。
金子:いま、ちょっとお喋りするだけ。どう?
0:間
折原:(手を差し出し)ブラック。
金子:えっ?
折原:せっかく買ってきてくれたんだし、飲むよ。
金子:あ・・・うん!(コーヒーを渡す)
折原:ありがとう。(コーヒーを飲む)
金子:隣、座っても良い?
折原:どうぞ。
金子:ありがと(ベンチに座る)
折原:(缶コーヒーを飲む)
金子:(缶コーヒーを飲む)
0:間(気まずい間)
折原:(ため息)仕事は、何やってるの?
金子:普通にOLだよ。半導体メーカーで、事務職。
折原:・・・そう。
0:間(気まずい間)
金子:ゴールデンウィーク中はずっとこっちにいるの?
折原:うん。
金子:そうなんだ。実家でのんびりする感じ?
折原:・・・うん。
金子:そう、なんだ。
金子:私はね、結構友達と会うよ。
金子:今日は未知瑠(みちる)と会うんだ。私たちと同じクラスだった未知瑠(みちる)。覚えてない?
折原:・・・中野さん、だっけ?
金子:そうそう!未知瑠と、あと四人くらいでご飯行くの。会うの久しぶりなんだ。
折原:そう。
0:間(気まずい間)
折原:(ため息)やっぱ無理だよ。俺ら共通点無さ過ぎだし、会話続かないって。
金子:そ、そんな事言うなよー。寂しいなあ。
折原:俺なんかと話しても仕方ないよ。
金子:こら、そっち方面に戻るな!
折原:なんでさ。
金子:そう言えばさ!この前、野口君と遊んだよ!
折原:・・・ノグっちゃん?
金子:そう!折原君、友達だったでしょ?
折原:うん。しばらく話してないけど。
金子:やっぱり。
折原:え?
金子:ううん、何でもない。
折原:そう。
金子:・・・実はさ、大学の時にね野口君と未知瑠が付き合ってた時期があってね。
折原:へー。
金子:そこから遊ぶようになったの。
折原:そうなんだ。
金子:・・・野口君、いま弁護士なんだよ。すごいよね。
折原:そうなんだ。
金子:うん。高校の時から、頭良かったもんね。
折原:特進クラスだったからね、ノグっちゃん。
金子:それは折原君もでしょ?
折原:・・・確かに、僕も特進だったんだ。
金子:そうだよ。
折原:でも僕は、三年で成績落ちて、受験失敗したから。
金子:・・・
折原:一郎してもダメで、結局滑り止めで受けた私立に行ったしね。
金子:そう、なんだね。
0:間(気まずい間)
金子:え、えっと・・・
折原:もしかしてさ、
金子:ん?
折原:僕に気使ってる?
金子:えっ?何で?
折原:全然聞かないじゃん。僕の近況とか。
金子:それは、たまたま会話の流れがそうなっただけで。
折原:本当は、全部知ってるんじゃないの?
金子:何を?
折原:僕が、東京でやらかした事。
金子:・・・
折原:大学卒業してからね、営業やってたんだ。
金子:えっ?
折原:この陰キャの人見知りの僕が、営業だよ?無理に決まってるよね。
金子:ちょっと、折原君?
折原:まあ、他の職種で内定取れなかっただけなんだけど。
金子:・・・
折原:当然仕事なんかできなくてさ・・・
0:間
0:回想
折原:『(携帯電話を取る)はい、折原です』
折原:『お、お世話になっております』
折原:『え?納品した商品が?数が足りない?』
折原:『いや・・・ちゃんと発注したと思うんですけど?』
折原:『っ!すいません!すいません!』
折原:『あの・・・えっと・・・』
折原:『か、かか確認して、折り返します!』
折原:『すいません・・・すいません!!』
折原:(電話を切る)
折原:どうしよう・・・どうしよう・・・
折原:(電話をかける)
折原:『課長、お疲れ様です。折原です』
折原:『すいません、昨日納入したやつなんですが、先方から、その、か、数が足りないってクレームが入りまして・・・』
折原:『その・・・どうしたら、良いですかね?』
折原:『っ!すいません!すいません!』
折原:『え?仕入先への確認ですか?』
折原:『それは・・・えっと・・・』
折原:『っ!すいません!し、してません!』
折原:『は、はい!すぐに連絡して、在庫確認して!』
折原:『すいません!すいません!!』
折原:『すいませんでした!!』
0:回想終わり
0:間
折原:毎日しんどくて・・・でも会社辞める勇気も無くて・・・
折原:だから、現実を忘れる手段が必要だった。
折原:上司に風俗好きな人がいてさ、僕も付き合わされたんだ。
折原:最初は嫌々だったけど、段々ハマって、一人でも行くようになった。
金子:・・・
0:間
0:回想
折原:こんばんは!今日も来ちゃった!
折原:今週もう5回目だね。・・・だって、すぐ会いたくなっちゃうんだもん。
折原:あ、そうだ。これプレゼント。
折原:前から欲しいって言ってたでしょ?言っておくけど、それ高かったんだからね。
折原:あの、それでさ。
折原:今度、良かったら、店の外で会えないかな?
折原:・・・何でって、たまには良いじゃん。ご飯でも食べに行こうよ、どこでも好きな所に連れて行ってあげる。
折原:・・・ああ、そっか、そうだよね。それ、ダメだもんね。ゴメンゴメン。
折原:じゃあせめてさ、LINE交換しない?
折原:これも禁止?大丈夫、きっとバレないって。
折原:・・・えっ?ちょっと待って、もう来ないでって?
折原:わ、分かった!もう二度と言わないから!
折原:ねえ、怒らないで?
折原:僕はもう、君無しじゃ生きていけないんだ!
折原:愛してるんだ!
0:回想終わり
0:間
折原:あっという間に貯金が無くなった。それでも、辞められなかった。
折原:借金・・・最初は躊躇い(ためらい)もあったけど、一度借りたら、次は簡単だった。
折原:きっと、思考が停止してたんだ。
折原:どんどん借金が増えて、その内ヤバい所からも借りるようになった。
折原:初めて借金取りが家に来た時は、心臓が凍る様な心地だったよ。
折原:追い詰められた僕は・・・会社の金を横領しようとした。
折原:それは運悪く同僚にバレて、未遂で終わったんだけどね。
折原:まあ、警察沙汰にはならなかったから、バレて運が良かったのかな?当然、クビになったけど。
折原:残った借金は、結局・・・
0:間
0:回想
折原:『もしもし、お母さん?僕、和人だけど』
折原:『久しぶり。中々連絡できなくてゴメンね。ずっと忙しかったから』
折原:『それでさ・・・あのさ・・・』
折原:『ちょっと言いにくいんだけど・・・』
折原:『・・・仕事、クビになったんだ』
折原:『・・・それだけじゃ無いんだ』
折原:『いま、借金してて』
折原:『結構すごい額でさ、僕一人じゃどうやっても返せないんだ』
折原:『だから、その・・・』
折原:『助けてくれないかな?』
0:間
折原:『っ!泣かないで、お母さん!』
折原:『ゴメン!ごめんなさい!』
折原:『許してください』
0:回想終わり
0:間
折原:お父さんとは、今日まで話せてない。謝りたくて電話したけど、代わってもらえなかった。
折原:家の敷居跨げんのかな、俺。勘当されちゃったりして。
折原:さっき、「急いでない」って言ったけど、本当は帰りたくないんだ。
金子:・・・
折原:これ、全部知ってるんでしょ?
金子:折原君・・・
折原:高校の同級生が人間のクズみたいな生き方してる話、聞いてどう思った?
金子:・・・
折原:流石に引いたかな?
金子:・・・
折原:金子さんの方が、口数減っちゃったね。
金子:・・・
折原:やっぱり俺たち、会話弾まないって。
金子:・・・そうだね。
折原:・・・
金子:確かに、その話は知ってるよ。
折原:だよね。
金子:でも、私が話したいのは、別の事だよ。
折原:ん?
金子:あのさ、折原君。
金子:本当に、私のこと、覚えてないの?
折原:またそれ?
金子:だって・・・
折原:すぐに思い出せなくてゴメン。だって久しぶりだったし、俺ら別に仲良くなかったし。
金子:そんなのおかしいよ。
折原:えっ?何が?
金子:・・・
0:少し間
金子:(深呼吸して)「あなたの事が、ずっと前から好きでした」
折原:は?
金子:「私と付き合って下さい」
折原:え?何言ってんの?
金子:「来週の金曜日、放課後、学校の屋上で待ってます」
折原:放課後?屋上?
金子:「お返事、聞かせて下さい」
折原:一体なんなんだよ!
金子:・・・
折原:そんなラブレターみたいな・・・
金子:折原君。
折原:ラブレター・・・?
金子:覚えてないの?
折原:っ!
金子:あの日・・・
折原:やめろ・・・
0:間
0:回想 放課後 教室
折原:『それは一学期の期末テストを明日に控えた日』
折原:『放課後、帰る準備をしていた時だった』
折原:何だコレ?手紙?
折原:『机の中に入っていた、白い封筒に気付いた』
折原:『同級生の名前が書いてあった』
折原:『まさか、と思った』
折原:『でも、封筒を開く俺の手は、震えていた』
折原:っ!
0:間
金子:『折原和人君へ』
金子:『突然ゴメンね、どうしても折原君に伝えたいことがあって、このお手紙を書きました』
金子:『きっと驚くと思うけど、折原君に伝えたいことがあります』
0:間
金子:『ずっと前から、あなたの事が好きでした』
金子:『私と付き合って下さい』
折原:っ!
0:少し間
折原:『生まれて初めてもらった、ラブレターだった』
0:少し間
金子:『どうやって伝えようか迷ったんだけど、直接言うのはやっぱり恥ずかしいし、電話も知らないから、お手紙書くことにしました』
金子:『ラブレターとか書いたの、マジ初めてだし、文章おかしかったらゴメンね』
金子:『って言うか、直筆の手紙自体滅多に書かないんだからね!これ貴重だぞ!貴重!』
金子:『・・・なんちゃって』
金子:『とにかく、どうしても伝えたかったんだ、私の気持ち』
金子:『あなたが、好きだってこと』
折原:嘘だろ・・・
0:少し間
金子:『折原君に彼女いるのとかも知らないし、迷惑だったらゴメン』
金子:『でも、私本気で折原君の彼女になりたいの!』
金子:『だから、ちゃんと考えて欲しい』
金子:『大好きなの』
0:少し間
折原:『驚いた』
折原:『信じられなかった』
折原:『気が動転した』
折原:『でも、嬉しかった』
0:少し間
金子:『来週の金曜日、放課後、学校の屋上で待ってます』
金子:『お返事、聞かせてください』
0:間
折原:『翌週の金曜日、それは期末テストの最終日だった』
折原:『テストが終わった放課後、俺は屋上にいた』
折原:『彼女が、来てくれた』
金子:折原君。
折原:あ、あの!
折原:来てくれて、ありがとう!
金子:えっ?
折原:いや、違うか。呼んだのそっちだもんね。アハハ
金子:そうだね。
折原:えーっと
折原:俺さ、こういうの初めてで
折原:どうしたら良いか、分からなくて
金子:うん。
折原:その・・・ゴメン
折原:あっ!「ゴメン」って言うのは、断るって意味じゃないよ!
折原:テンパってて、取り乱しちゃって「ゴメン」って言う意味で
金子:折原君、落ち着いて。
折原:あーもう、俺何言ってんだろ。しっかりしろ、俺!
折原:本当、ゴメン。いや、「ゴメン」はもう良いから!
折原:俺、一人で何言ってんだろうね。アハハハハ
金子:(笑う)
折原:・・・期末テスト、どうだった?
折原:いやいやいや、そんな事どうでも良いじゃん!ねっ!?
折原:俺は・・・俺さあ!
折原:ぶっちゃけ!正直!この一週間!テストどころじゃなかったんだ!
金子:(笑い出す)
折原:(深呼吸して)もうさ、頭の中・・・君のことで、頭の中、あの、頭の中がさ!一杯になってたんだ!
金子:(段々と笑いが大きくなる)
折原:だから・・・
金子:(笑いながら)も、もうダメ!
折原:・・・さっきから、何で笑ってるの?
金子:(笑いながら)本当に分からないの?
折原:えっ?・・・えっ?
金子:(笑いながら)これ・・・ドッキリだよ?
0:間
0:回想終わり
金子:『私も高二までは、特進クラスにいたんだ』
金子:『折原君と同じクラスだったんだから、当たり前だよね』
金子:『あの時の私、毎日頑張ってたんだ。猛勉強してた。もしかしたら、クラスで一番勉強してたかも』
金子:『でも、正直しんどかった。それだけ頑張ってもさ、成績はクラスの真ん中か、ちょっと下ぐらい』
金子:『何とか食らいつこうと必死だった。頑張って、良い大学行かなきゃって。親も期待してくれてたしね』
金子:『でもさ、周りの同年代の子達見てたら、みんな楽しそうで』
金子:『みんな遊んだり、部活とか、バイトとか、オシャレとか、恋愛とか・・・羨ましいなあって』
金子:『ある日、友達に遊びに誘われたの。いつもは断ってたんだけど、「たまには勉強の息抜きに」って言われてね』
金子:『今でもはっきり覚えてる。もうね、めちゃくちゃ楽しかった!』
金子:『こんなに楽しいことが、この世にはあったんだ!・・・って、大げさだけど、本当にそう思ったの』
金子:『その日から、私もう、元の「ガリ勉女子」には戻れなくなっちゃった』
金子:『ちょっとずつ、勉強サボって遊ぶようになってね。もちろん、親には内緒で』
金子:『バイトまで始めちゃって、バイト先で彼氏もできて』
金子:『毎日遊び回って、・・』
金子:『まあ、当たり前だけど、成績はどんどん落ちて行ってさ』
金子:『三学期なって、ちょっと焦ったんだけどね、結局取り返せなくて』
金子:『特進・・・落とされちゃった。三年から普通科に移ったの』
金子:『しかも、勉強サボって遊び呆けてたの、親にバレちゃってさ』
金子:『あの時はキツかったなあ。親めちゃくちゃ怒られたんだ・・・そりゃそうだけど』
金子:『うちの親ってさ、それまであんまり怒ったりすることなかったんだ。だから、余計に辛くて』
金子:『毎日毎日怒鳴られて、あの頃はちょっと「生きてるのが嫌」とか思ってたな』
金子:『正直、言い過ぎだったと思うよ、うちの親。まあ、それだけ私に期待してたんだろうけどね』
金子:『そんなどん底だった時期にね、私、聞いちゃったの』
0:回想 高校の廊下
0:友人と話している折原
0:それを少し離れた所で立ち聞きしている金子
折原:ええっ!?ノグっちゃん、彼女できたの?
折原:大丈夫?僕ら受験生だよ?勉強に支障出ない?
折原:ち、違うよ!負け惜しみじゃないし!ただ、今は恋愛にかまけてる場合じゃ無いよって言ってるの!
折原:僕?そんな相手居ないよ、当たり前じゃないか。
折原:えっ?金子さん?何で金子さんの名前が出てくるの?
折原:僕が・・・金子さんの事好きだって?僕、そんな事言った?
折原:違うよ、全然違う!金子さん、特進落ちて接点も無いんだしさ!
折原:確かに、ちょっと可愛いなとは、思ってたけど・・・
折原:だから違うって!
折原:大体、勉強サボって遊び回ってた人なんか興味無いし。
折原:舐め過ぎだっての。特進落とされるのも当たり前だね。
折原:本当に寂しがって無いってば!僕は・・・
金子:『気がついたら、私走ってた』
金子:『まだ授業あったのに、カバンとか教室に置いたままだったのに』
金子:『学校飛び出して、家まで走って帰っちゃったの』
0:回想 金子の部屋
金子:ママ・・・
金子:学校?・・・ちょっと体調悪くて、早退したの。
金子:違う、サボったんじゃないよ!
金子:違う、違うってば!
金子:っ!何で、何でいつも、そんなに怒るの!
金子:何でいつも、私の話聞いてくれないの!
金子:(母親に枕を投げつける)私、ずっと頑張ってきたのに!
金子:(部屋中の物を投げつけながら)私、ずっと良い子だったのに!
金子:何でそんな酷いことばっかり言うの!
金子:私、生きてちゃいけないの!?
金子:私、ママの娘じゃいけないの!?
金子:何で・・・何でよ・・・
0:回想終わり
金子:『声を枯らして泣いたの』
金子:『悔しかったの』
金子:『傷付いたの』
金子:『だから・・・』
0:回想 校内で友人達と話す金子
金子:そうなの!折原のやつ、陰で私の事そんな風に言ってたんだよ!?
金子:もうまじムカつく!何で折原なんかにそんな事言われなきゃいけないの!?
金子:・・・え?マジ?折原って、昔、私の事好きだったの?
金子:気持ち悪っ!
金子:・・・ないない!折原なんかに好かれても嬉しくない!
金子:だって、あんな陰キャ無理でしょ!死んでも嫌!
金子:うわっ、想像したら背筋に寒気走った。
金子:・・・大体、好きだった相手、あんなボロクソに言う?余計に腹立ってきた!
金子:マジ、死んでくれたら良いのに。
金子:・・・マジマジ。私、折原が交通事故で死んだとか聞かされたら、全力でガッツポーズする自信あるもん。
金子:(ため息)アイツ、マジで・・・クソッ!
0:間
金子:あ、そうだ!
金子:ね
金子:ちょっと面白い事
金子:してみない?
0:回想終わり
金子:『だから私は』
金子:『あの日』
金子:『あの屋上で』
0:場面は屋上に戻る
折原:ドッキリ?ドッキリって、どう言う事?
金子:いやいやいや、分かるでしょ?あのラブレターは、偽物ってこと!
折原:っ!
金子:本当に信じちゃってたんだね。おかしいと思わなかったの?
金子:私たちロクに話したこともないのにさ、好きになるわけないじゃん。
折原:・・・
金子:みんな!出てきてー!
0:隠れていた金子の友人達が出てくる。
折原:っ!みんな・・・
金子:みんな仕掛け人だよ、このドッキリの。
折原:ノグっちゃんまで・・・
金子:野口君、例のやつ、見せてあげて。
0:野口、スマホを折原に渡す
折原:何でスマホを?・・・動画?
金子:それ、野口君が隠し撮りしてくれたの。
折原:何を?
金子:再生してみて。
0:再生ボタンを押す
0:1日目
0:放課後 野口たちと話す折原
折原:『最近変?べ、別にそんな事無いし!』
折原:『にやけてなんか無いよ!そんな事よりもさ、テストに集中しないと!』
0:2日目
0:金子に話しかける折原
折原:『か、金子さん!』
金子:『折原君、どうしたの?』
折原:『えっと、その・・・』
折原:『(小声で)例の件なんだけどさ』
金子:『例の件?』
折原:『・・・』
折原:『ゴメン、何でも無い!』
0:走り去る折原
金子:『(吹き出す)』
0:3日目
0:休み時間
折原:『(あくびする)』
折原:『うん、ここの所あんまり寝れてないんだ』
折原:『テスト勉強?違うんだ、そうじゃ無くて・・・』
折原:『・・・(にやけながら)秘密』
0:5日目
折原:『金子さん、テストも折り返しだね』
折原:『・・・だから何って事は無いんだけど。アハハ』
金子:『折原君さあ・・・』
折原:『えっ?』
金子:『最近、やたら私に話しかけてきてない?』
折原:『だってそれは・・・』
金子:『なあに?』
折原:『あ、あの』
折原:『良かったらさ・・・』
折原:『(かなり小声で)今日、一緒に帰らない?』
金子:『(わざとらしく大声で)ええっ?何て?ゴメン全然聞こえなかった』
折原:『・・・ううん、大したことじゃないんだ』
折原:『急に話しかけて、ゴメンね』
0:6日目
折原:『金子さんと何があるのかって?』
折原:『な、何も無いよ!』
折原:『仲良さそうだって?』
折原:『・・・そう見える?』
0:7日目
折原:『テストも明日で終わりだね』
折原:『調子?・・・正直、全然ダメなんだ』
折原:『・・・うん、大丈夫』
折原:『人生にはさ、勉強より大事な事って、あると思うんだ』
0:間
金子:以上、偽物のラブレターもらってから、ずっとソワソワしてた、この一週間の折原君でした!
折原:(震えている)
金子:ご感想は?
折原:あっ・・・ぐっ・・・えっと・・・うぅ・・
0:間
折原:や、やだなー。そっかあ、ドッキリか。
折原:そっかあ、そか。そかそかそか。アハハ
折原:お、おかしいと、思ったんだ。えっと・・・か、勘弁してよー
折原:まい、ったなー、アハハハハハハハハ
折原:アハハハハハハハ・・・
0:回想終わり
0:間
金子:覚えてるでしょ?
折原:・・・そうだった。
金子:・・・
折原:期末は当然ボロボロで、二学期になってもテスト全然出来なくて・・・
折原:それで・・・
折原:センター試験も・・・
金子:そう・・・センター試験の日、私に会いに来たよね。
折原:・・・
0:間
0:回想 金子の自宅付近
0:電話で話している金子
金子:うん、分かった!今度の日曜ね?
金子:・・・大丈夫大丈夫、もう受験も終わったしさ、よゆーですよ。
金子:他の皆には悪いけどね、アハハハ。
金子:おっと、そろそろ充電ヤバい。そろそろ切るね。
金子:またね、バイバーイ。
0:電話を切る
金子:ふぅ。
0:少し間
金子:そういえば今日って、センター試験か。
金子:本当なら私も、受けてるはずだったんだよね。
金子:・・・
金子:あー、お腹すいたなあ!今日の晩御飯何かなあ?
金子:・・・えっ?
0:金子の前に立ち塞がる折原
折原:・・・
金子:嘘、折原君?何でここに?
折原:金子さん。
金子:まさか、私の家、調べたの?
金子:こわ・・・気持ち悪。
折原:・・・
金子:今日、センター受けてたんじゃないの?
金子:明日もあるんでしょ?早く帰って勉強した方が良いんじゃない?
折原:お、俺は・・・
金子:ゴメン、マジ怖いから。私、行くね。
折原:待って!
金子:嫌。何でアンタの言うこと聞かなきゃいけないの?
折原:何だよ、その態度。
折原:自分が何したか、分かってるのかよ?
金子:へ?何が?知らないわよ。
折原:ふざけるな!
金子:ちょっと、大きな声出さないでよ。近所迷惑でしょ。
折原:何もかも、お前のせいだろ!
金子:はあ?
金子:私のせい?
折原:そうだろ?
金子:なるほど、そう言う事か。
金子:今日のセンター試験が上手くいかなくて、八つ当たりしに来たってわけ?
折原:八つ当たり?
金子:ラブレターの件、いつまで引きずってんの?あんなの、ただのイタズラじゃない。
折原:イタズラ・・・
金子:何?たかがイタズラ一つで、勉強が出来なくなって、それが全部私のせいだって?
金子:そっちこそふざけないでよ。
折原:っ!
金子:ただ単に、アンタの頑張りが足りなかっただけでしょ?
金子:人のせいにすんな。
折原:・・・
金子:じゃあね。
折原:待てよ!
0:折原、金子を羽交締めにする。
金子:ちょっと何すんのよ!離して!
折原:謝れ!謝れよ!
0:金子を押し倒す。
金子:痛い!ちょっと辞めて!
金子:誰か、誰か助けて!
折原:だ、黙れ!
0:折原、手で金子の口を塞ぐ。
金子:(口を塞がれもがく)
折原:チクショウ、チクショウ!
金子:?
折原:あっ。
金子:『私の叫び声を聞きつけたのか、近所の人がこちらに駆け寄ってくるのが目に入った』
折原:ち、違うんです、これは。
折原:全部コイツが悪いんだ!僕は、何で、こんなのおかしいよ!
折原:どうしてこうなるんだよ、僕は、何もしてないじゃないか。
折原:僕は!僕の人生は!コイツのせいで!何もかも!
金子:(折原の手を振り解き)助けて!
折原:っ!(走り去る)
金子:(荒い息遣い)
金子:すいません、ありがとうございました。
金子:・・・はい、怪我はありません。
金子:・・・え?警察に?
金子:いえ、良いんです!さっきの、実は高校の友達で、ちょっと喧嘩になっちゃって。
金子:お互いヒートアップしちゃっただけなんです。本当に大丈夫ですから。
金子:ご心配おかけしてすいません。
0:間
金子:『この時の私は、まだ知らなかった』
金子:『折原君がセンター試験中に突然大声を上げ』
折原:うがああ!
金子:『試験用紙を破り捨て』
折原:(破りながら)クソクソクソクソクソ!
金子:『監督官に取り押さえられ』
折原:違う!違うよ!こんなはずじゃ無いんだ!
金子:『センター試験を、失格になってしまった事を』
折原:なんでなんだよお!
0:長めの間
折原:・・・俺に襲われたこと、誰にも言わなかったの?
折原:警察とか親とか学校に。
金子:うん。
折原:どうして?
金子:本当は、後悔してたから。
折原:後悔?
金子:あの屋上でネタバラシして、折原君がショック受けてるのを見た時はさ、凄くスカッとした。
金子:本当に、良い気分だった。
折原:・・・
金子:期末テストが返ってきて、折原君の点数ボロボロだったって知った時は、
金子:ザマァみろって思った。それが狙いだったわけだし。
金子:でも
金子:それと同時に・・・怖くなったの。
折原:何が?
金子:私はもしかしたら、すごく悪い事をしたんじゃ無いかと思って。
金子:二学期に入っても、折原君の成績、全然良くならなくて・・・自分に必死に言い聞かせてた。
金子:「こうなったのは私のせいじゃない。私は悪くない」って。
折原:・・・
金子:ドッキリに参加した皆も、散々ネタにしてたのに、その内誰も話題にしなくなった。
金子:きっと皆、同じ気持ちだったんだと思う。
金子:あのセンター試験の夜、折原君に詰め寄られて、
金子:頭では分かってたの。折原君に謝らなくちゃいけないって。
金子:でも出来なかった。自分を守ることに必死で、折原君に酷い事言っちゃった。
金子:折原君、あれから一度も学校に来なかったよね?卒業式も。
折原:・・・センター試験の件がちょっとした騒ぎになって、テレビで報道までされて、
折原:もう、誰とも会いたくなかった。
折原:だから、ずっと家に引きこもってた。
金子:誰にも言わなかったんだね、私のラブレターの事。
金子:そのせいで、受験失敗したのに。
金子:どうして、「全部私のせいだ」って言わなかったの?
金子:私ずっとビクビクしてたの。折原君が何もかもを話して、それで学校や親に私のした事が知られちゃうんじゃ無いかって。
折原:話したかった。でも、誰かに話した所で、みんな同じなんじゃ無いかって。
金子:えっ?
折原:「たかがそんな事」そう言われるんじゃ無いかと思って・・・
折原:そんな事言われたら、もう僕、終わるなって思った。
折原:だから誰にも言わなかった。
金子:・・・
折原:金子さんの言ってた通り、学生時代に受けたちょっとしたイタズラ、その程度の話なのかもね。
折原:だから、何の言い訳にもならない。
折原:何もかも、ぜーんぶ、自業自得。
折原:そうなんでしょ?
金子:折原君、もう辞めて。
折原:高三の時の事は、思い出してもしんどくなるだけだから、考えないように・・・忘れようとした。
折原:いや、本当に忘れてた、みたいだね。
金子:・・・
折原:まさか、当事者を目の前にしても思い出せないなんてね。自分でもビックリだよ。
折原:きっと、僕にとっては、「たかがそんな事」じゃなかったんだ。
金子:折原君、私は・・・
折原:あのラブレターを貰った時
金子:えっ?
折原:・・・本気で思ってたんだ。勉強なんかどうでも良いって。
折原:だって、自分が好きだった子から告白されたたんだよ。「これ人生で一番大事なイベントだろ!」って、そう思ってた。
折原:たかが高校生のガキがさ、人生一番なんて、馬鹿だよな。
金子:・・・
折原:もし、あの「ラブレター事件」が無かったら
折原:僕の人生、どうなってたのかなあ。
0:長めの間
折原:あーあ、全部思い出しちゃった。
折原:どうしてくれるの?
金子:本当はね
金子:ここに着いたの、今じゃないの。
折原:は?
金子:多分二時間くらい前、このホームで・・・折原君を見かけたの。
金子:折原君、ずっとここのベンチに座ってたんでしょ?
折原:どういう事?
金子:折原君を見つけて、心臓が止まるかと思った。
金子:折原君に気付かれないように、すぐに回れ右して、駅を出たの。
金子:一旦バスにも乗ったんだよ。でも
金子:バスに揺られながら、思ったんだ。
金子:今日、ここで折原君に会ったこと、何か意味があるんじゃないかって。
金子:私はここで、向き合わなきゃいけないんじゃ無いかって。
金子:途中でバス降りて、反対方向のに乗り換えて。
金子:また駅に戻ってきて・・・正直まだ居るとは思わなかったけど。
折原:わざわざ戻ってきたの?
金子:うん。
折原:何で?
金子:・・・今度こそ、謝る為に。
折原:今さら、どうして?
折原:何の意味があるの?
金子:・・・私ね。
金子:・・・結婚するんだ。
折原:・・・は?
金子:実は(自分のお腹をさすり)もう、お腹に赤ちゃんもいるの。
折原:・・・
金子:・・・
折原:・・・さっきから回りくどいんだよ!
折原:それ、僕に関係あるのかよ!
金子:・・・私、母親になるんだ。
折原:だから、それが何なんだよ!
金子:生まれてくるこの子に、私は親として恥ずかしく無い人間じゃなきゃいけないの!
折原:そんなもん知るか!
金子:確かに今更だし、何の意味も無いかもしれない。
折原:全部お前の都合だろ!ふざけんな!
金子:でも・・・もう、私に出来る事は、こんな事しかないの。
折原:やめろ。
金子:折原君。
折原:やめろよ。
金子:本当にゴメンなさい(頭を下げる)
0:長めの間
折原:・・・(笑い始める)
金子:・・・
折原:(笑い続ける)
0:終わり