台本概要

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タイトル 影響を受けやすい、二人~殺人事件ver.
作者名 砂糖シロ  (@siro0satou)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 とある影響を受けやすい男女の日常の一コマです。今回は某サスペンスドラマに影響を受けた慎一と彩夏が突如現れたGを退治してしまい…というシーンとなっています。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
慎一 170 (しんいち) 彩夏の夫。 流されやすい。
彩夏 168 (あやか) 慎一の妻。 結構したたかで、慎一を上手に掌で転がしている。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:影響を受けやすい、二人~殺人事件ver. : : : 0:舞台は自宅のリビング、仁王立ちしている慎一とソファーに落ち着かない様子で座る彩夏 : : 0:ここから刑事ドラマ風に 0:【慎一は彩夏を殺人(虫)犯人だと疑っている演技】 0:【彩夏は犯行がバレることに怯えている演技】 : 彩夏:……あ、あの、主人は今どこに…? 慎一:別室で事情聴取を受けていますよ。 彩夏:………そうですか…。 慎一:…(溜息)。 彩夏:………。 慎一:それでは、高御堂(たかみどう)…彩夏(あやか)さん。 慎一:犯行推定時刻、午後5時から午後7時までのあなたの行動内容を詳しくお聞かせ願いますか。 彩夏:………。 慎一:…。 彩夏:ご、午後5時頃は…夕飯を、作っていました…。 慎一:そこのキッチンで? 彩夏:…はい。 慎一:夕飯には何を? 彩夏:…カレーです。 慎一:…ふむ。レトルトではなく、初めからご自分で? 彩夏:…えぇ。 慎一:(少し考え込む様子で)………なるほど。 彩夏:………。 慎一:では、その後は? 彩夏:……えっと…煮込んでいる間に、中途半端にしていたウォールラックを仕上げようと…。 慎一:あぁー、それでその工具箱ですか。 彩夏:あ…はい。 慎一:ははは、やっと納得がいきました。 慎一:(含む感じで)無造作にカナヅチやら電動ドライバーなんかが置かれているものだから、てっきり…。 彩夏:(バツが悪そうに)………っ。 慎一:………話を戻しましょう。それで?ウォールラックを仕上げた後は? 彩夏:………夫から「帰る」とLINEが来たので、迎えに駅まで…。 慎一:それは何時頃? 彩夏:え………え…っと…。 慎一:………。 彩夏:…確か、6時過ぎくらい、だったかと…。 慎一:そのご主人からのLINEを見せて頂いても? 彩夏:……………はい。 0:彩夏がポケットからスマホを取り出して画面を慎一に見せる 彩夏:どうぞ。 慎一:失礼します。 慎一:………。 慎一:「今終わった。帰り何か要る?」…ふーん、まぁ、至って普通のメッセージですね。 彩夏:………。 慎一:……メッセージの受信時刻は、と…18時21分ですか。特に供述とも食い違いは無いようですね。 慎一:あ、スマホお返しします、ありがとうございました。 彩夏:……あの…。 慎一:はい? 彩夏:…もしかして私、疑われてるんですか? 慎一:……あー、いえいえ、そう言うわけではなく(笑)。重要参考人の皆さんには同じように聞いている内容ですので、ご心配なさらず。 彩夏:……そうですか。 慎一:………それとも、何か後ろめたい事でも? 彩夏:えっ!? 慎一:(彩夏を見つめる)………。 0:視線を逸らす彩夏 彩夏:…っ! 慎一:……ははっ、冗談です。 彩夏:………。 慎一:それで?その後あなたはご主人を迎えに、駅まで出かけたのですか? 彩夏:……はい。 慎一:家を出たのは何時頃でしたか? 彩夏:…はっきりとは覚えてないですが、多分6時半くらいだと。 慎一:へぇえ、それは随分と早いですねぇ。 彩夏:…え? 慎一:LINEが届いたのが6時21分だったのに、その10分後にはもう家を出たんですかー。いやぁ、うらやましいなぁ、とても仲がよろしいんですねぇえ。 彩夏:……別に、そう言うわけでは…。 慎一:だけど…少しおかしいですね。 彩夏:…何がですか? 慎一:ご主人に聞いたところによると、あなたがご主人の仕事帰りに迎えに来ることはとても珍しいと。…何か特別な理由でも? 彩夏:……それはっ…。 彩夏:……つ、ついでに買い物にも行きたかったので…。 慎一:ご主人がわざわざLINEで「何か要る?」と聞いてきたのに、買い物を頼むのではなくご自身で…? 彩夏:……普段料理しない夫には、きっとわからない材料だと思ったので…。 慎一:LINEで説明すれば済むことでは? 彩夏:アクアパッツァの味付けにしょうがを入れてしまう様な人なんです。 慎一:(吹き出す)ぐっ!! 慎一:(小声)そのネタまだ引っ張るか…(笑)。 慎一:……ほ、ほほう。えー…因みに何を買ったのですか? 彩夏:…あ……結局買い物せずに…帰りました。 慎一:(わざとらしく)えぇ?わざわざ出かけたのにぃー? 彩夏:…財布を忘れてしまって。 慎一:いやいやいや、ご主人も大人なんですから財布くらい持ち歩いているでしょう(笑)。 彩夏:ウチは、食費は生活費用の財布からと決めているので…。 慎一:(含みを込めて)ふぅん…そうですか。 彩夏:………。 慎一:(咳払い)では、あなたは買い物のついでにご主人を駅まで迎えに行き、買い物はせずにご主人と二人で帰宅した、と。…間違いは無いですか? 彩夏:……間違いないです。 慎一:帰り着いたのは何時頃でしたか? 彩夏:……7時すぎです。 慎一:なるほど、なるほど。そして帰宅したら、自宅のリビングで被害者が無残な姿で殺されており、辺りはこのように荒らされていたと、そういう事ですか? 0:慎一が床のティッシュに覆われたゴキブリの死骸を指さして 彩夏:………そう、です。 慎一:外出する際、鍵はかけていましたか? 彩夏:……それが、慌てていたもので鍵を閉め忘れてしまって。 慎一:「慌てて」…? 彩夏:(慌てて)あ…いえ、夫を待たせたら悪いと思って急いでたんです。 慎一:……ふぅん。 慎一:状況だけで鑑(かんが)みれば、空き巣被害で話はつきそうですが…。 彩夏:(ホッとした様に)…空き巣…ですか? 慎一:えぇ。ただ…この被害者が、果たして空き巣本人であったのか、はたまた空き巣に殺害された全く無関係の誰かだったのかが…謎ですねぇ。 慎一:(わざとらしくカッコつけて)奥さん。 彩夏:(吹き出す)ぶっ!!……あ、は、はい? 慎一:……何かおかしい事でも? 彩夏:い、いえ。(笑) 慎一:…この被害者に見覚えは? 彩夏:ありません。 慎一:(怪しむ)…随分と即答ですね。 慎一:ちゃんと確認してもらってもいいんですよ? 彩夏:(被せ気味に)大丈夫です。 0:慎一がゴキブリのティッシュに手を伸ばし 慎一:ほら、布を取りますのd 彩夏:(被せて)だぁああああ!!大丈夫ですっ!!本当に!!全っ然、まっったく、微塵も知らない人ですっっ!! 慎一:………そうですか。 慎一:では、面識もないとなると…空き巣本人である可能性が高いですが。 慎一:だとすると、不可思議な点がいくつか出てくる。 彩夏:……不可思議? 慎一:えぇ。先程確認して頂きましたが、これだけ荒らされていたにも関わらず、金品類を盗まれた形跡が全くありませんでしたよね? 彩夏:……はい。 慎一:テーブルの上にあるあなたの財布も触られた痕跡すらなく、この被害者…(咳払い)。 慎一:ここでは空き巣被害に遭った奥さんも被害者となり、この場合、殺害に遭ったこの方を被害者と呼ぶのは非常に紛らわしいので、この方の仮名を「G」とし、以降はGさんと呼ぶことにします。 彩夏:(吹き出す)ぶっ!……ふっ…ふふふ…。 慎一:(笑いを堪える)……ふふ…(咳払い)、それで(笑)、このGさんが(笑)…金品類を所持していなかったことも含めて(笑)、果たして本当に空き巣目的だったのか?と言う疑問が出てくるのでしゅが。 彩夏:……「でしゅ」? 慎一:出てくるのです、が!…失礼。 彩夏:いえ…。 慎一:そうすると、色々とつじつまが合わない。 彩夏:………。 慎一:Gさんは何を目的にこの家に侵入したのか。そして、一体誰に殺されたのか。 慎一:遺体を見るに、恐らく死因は撲殺でしょう。それも物凄い怪力で垂直に振り下ろされた何かにより無残にも圧死していた。 彩夏:………。 慎一:中身が飛び出るほどのG、つまり「圧」が掛かっている……Gさんだけに。 彩夏:………(笑)。 慎一:(咳払い)…この荒らされた家屋も、窃盗目的で荒らされたのではなく、もしかしたらGさんと真の殺人犯による揉めた跡なのではないでしょうか…? 彩夏:揉めた…跡。 慎一:えぇ、殺されるとわかっていて大人しくしている生き物なんていないでしょう?害虫でさえ生き延びるために必死に逃げ惑う。 彩夏:…そうですね。 慎一:殺そうと躍起になって襲いかかる殺人犯と、それから逃れるために無我夢中で逃げる害ちゅ…じゃなくてGさん。 慎一:そう考えて改めてこの室内を見てみると、何だか納得がいく気がしませんか? 彩夏:…じ、じゃあ、たまたま鍵の開いていたウチに逃げ込んだ…Gさん(笑)を追いかけてきたその殺人犯が、そのままウチで犯行に及んだ…ってことですか…? 慎一:うーん…まぁ、その線で考えるのが一番無難と言えば無難かもしれないですが…。 彩夏:!!だったら、今もまだこの近くにその殺人犯が隠れているかもしれないってことですよね!? 慎一:………。 彩夏:じゃあ探偵ごっこなんてしてないで、さっさとその犯人を捕まえてください!! 慎一:………。 彩夏:刑事さん…?こんなバカげたことをしている間に、次の犠牲者が出たらどうするんですか!? 慎一:……でませんよ、次の犠牲者なんて。…少なくとも今は、ね。 彩夏:……え?…それはどういう…。 慎一:ははは、とぼけても無駄ですよ、奥さん。 彩夏:……な、何を言って…。 慎一:Gさんを殺した犯人、それは、あなたでしょう?高御堂彩夏さん。 彩夏:はぁっ!?な、何を証拠にっ…。 慎一:証拠…ですか。 彩夏:そう、証拠よ!あたしがそのGさんを殺したって言う証拠がどこにあるって言うの!? 慎一:………。 彩夏:はっ(笑)。…ないんでしょう?そうなのね? 彩夏:あーはっはっはっは!刑事が聞いて呆れるわ。無実の市民を証拠もなく殺人犯扱いなんて! 慎一:………。 彩夏:逮捕できるものならやってみなさいよ。でも、そんなことすれば、証拠不十分な上に嫌疑不十分で不起訴。結局は誤認逮捕で警察の看板に泥を塗ることになるだけでしょうけどね!あはははは。 慎一:…ありますよ? 彩夏:………え? 慎一:証拠。もちろんありますよ。 彩夏:……は?何言って…。 慎一:ほら、そこに。 0:ゴミ箱を指さす慎一 彩夏:(ビクッとする)っ!! 0:ゴミ箱に向かって歩き出す慎一 慎一:………。 彩夏:あっ、ちょっ! 慎一:何だか不自然だったんですよねぇ、このゴミ箱。荒らされているソファー付近ならまだしも、被害のない窓際で妙に半分だけカーテンに隠れているだなんて。…いや、「隠されている」と言った方が正しいですかね?奥さん。 彩夏:……っ。 慎一:荒らされていない所はきちんと整理整頓され、先ほど取り付けたと言うウォールラックも1ミリの傾きもないくらいしっかり固定されている。普段からのあなたの綺麗好きさが一目見て伺えるようなお宅です。 彩夏:………。 慎一:それなのに、他の部屋はちゃんと閉じられているカーテン類の中で、ここのカーテンだけ中途半端に開けられ、ゴミ箱に掛かっている。 彩夏:それはっ…出かける間際に閉めようとして…。 慎一:それはちょっと言い訳としては苦しいんじゃないですか?(笑) 彩夏:……っ。 慎一:だって、もし本当にそれだけの事なら、…そんなに怯える必要がありますか? 彩夏:………。 0:ゴミ箱に手を伸ばす慎一 慎一:おや?これは何ですか? 彩夏:!! 慎一:このビニール袋…随分と頑丈に結ばれてますねぇ。一体中に何が入っているんでしょうか? 0:結び目を笑顔で楽しそうに解く慎一 彩夏:(バツが悪そうに)………っ。 慎一:……ん?ビニール袋の中に…ビニール袋? 0:結び目を余裕そうに見せながらも頑張って解く慎一 慎一:ぐっ、これもまた、頑丈に…結ばれて…いるっ。 彩夏:………。 慎一:……んん?また…ビニール袋…ですか。 0:結び目を顔を真っ赤にして必死に解こうとする慎一 慎一:………っっ!かっっった!!!かてぇええっ!! 彩夏:(笑いを堪える)………。 慎一:……はぁ、はぁ、やっと…開いた………ってまたビニール!!!何だよこれ!!マトリョーシカかよっ!! 彩夏:(吹き出す)ぶっ!!……くっくっく…。 0:結び目を解くのを諦める慎一 慎一:(睨んで)……ちょっと、ハサミをお借りできますか? 彩夏:……どうぞ(笑)。 慎一:…どうも。 0:イラついた様子でビニールを切る慎一 彩夏:あっ、しまった、普通にハサミ渡しちゃった…。 慎一:助かりましたよ、奥さん。 彩夏:………チッ。 慎一:いや、舌打ち。 彩夏:(咳払い)オホホホ…。 慎一:おやぁ?おやおやおんやぁ?これは…雑誌ですか? 彩夏:(バツが悪そうに)………。 慎一:何なにー?『た、ま、ご、ク、ラ、ブ』?…え? 彩夏:(小声で)あーあ…。 慎一:…「はじめての…おかあさん」? 彩夏:(口笛・鼻歌)~♪ 慎一:……………え?えっ!? 彩夏:(強めの咳払い)っ!! 慎一:あ、(咳払い)え、えぇと、おや、おっかしいですねぇー、この雑誌。今月の最新号の割に丸めた跡がありますが…んん?これは、何の…液体でしょうか? 彩夏:……それは…。 慎一:まぁ、鑑識に出せばすぐにわかる事です。この液体がGさんのDNAと一致し、尚且つ奥さんの他に別の誰かの指紋が出てくれば、その人が真犯人という事になります。 慎一:…しかし、もしも出てこなければ……あなたが犯人であるという事の確実な証拠になりますね。 彩夏:……あたしは…やってません。 慎一:はい? 彩夏:………あたしじゃ、ない。 慎一:(溜息)そうですか。 慎一:では、あくまでたまたま偶然あなた方のお宅で起こった殺人事件だと、おっしゃるんですね。 彩夏:………。 慎一:ふむ……。では、ここからは私の勝手な推測ですが、何らかの理由により本日午後6時頃、あなたはこのリビングでGさんの殺害に至った。 慎一:あなたがGさんを呼び出したのか、Gさん自らここに訪れたのかはわかりませんが、口論になり争った結果、この凶器でGさんを撲殺した。 慎一:当初キッチンにある包丁やこの工具類が凶器かとも思いましたが、血痕が無い上に確証も有りませんでした。…しかし、しきりにあなたが窓際を気にする様子に、ヒントを得ることが出来ました。 彩夏:………。 慎一:気が動転していたあなたは一番手近にあった…この雑誌で犯行に及んだのでしょう。 慎一:そして、午後6時半、ご主人から来たLINEに慌てて家を出た。財布も持たずに…。 慎一:鍵をかけなかったのは、意図的だったのでしょう。恐らく、不特定の誰かの犯行に見せかける為に、ね。 彩夏:……ふっ、ふふふ…全部、お見通し……ってわけですか。 慎一:という事は、犯行を認めるという事で、合ってますか? 彩夏:……えぇ。 慎一:そうですか。 慎一:…では、続きは署で聴かせて頂きましょうか。 彩夏:………。 慎一:…高御堂さん? 彩夏:…………です。 慎一:…え? 彩夏:…悪いのは…あの女なんです。 慎一:…あの、女?…と、言いますと? 彩夏:そこで死んでる、あの女よ。 慎一:(小声で)……あー、Gさんは「女性」…だったのか。 慎一:ふむ…やはり、あなた方は面識があったんですね。 彩夏:………。 慎一:一体、何があったんですか? 彩夏:……そいつは、あろうことか…あたしの夫と寝たんです。 慎一:ん?んんっ? 彩夏:それも、一度ならず、二度三度と。 慎一:(素で)…………は? 彩夏:最初に気づいたのは数週間前でした。 慎一:(素で)え?…ん? 彩夏:そして、つい昨夜も。 慎一:(素で)うぇっ!?は?嘘だろ…? 彩夏:……何も気づかず寝ている夫の顔に……。 慎一:(素で)…………。 彩夏:そいつはピッタリとくっ付いて、寄り添って寝ていたんです!!! 慎一:(素で)ひぃぃいいいいいいいい!!!! 0:袖で激しく頬をこする慎一 慎一:(素で)嘘だあああああ!!! 彩夏:その場で殺してやろうと思った。 慎一:(素で)なんでっ、その場でっ、殺(や)らなかったのーー!? 彩夏:…この害虫は、あたしの視線に気づくなりとっとと逃げていった。そんな暇…なかった。 慎一:(素で)金魚ハンター、虫に敗れたりいいいい…っ!! 彩夏:(笑い堪える)……っ。 彩夏:…だけどそのチャンスは、突然訪れた。 彩夏:夕飯を作っていたあたしの目の前に、そいつはあざ笑うかのように現れた。無防備な姿でね! 慎一:(意気消沈しながら)……そこで、殺害に及んだ、という事ですか。 彩夏:えぇ。だけど、流石のあたしでもだいぶ苦戦したわ。こいつの逃げ足は、あのボルトをも凌ぐと言われた俊足だもの。 彩夏:何とか決死の思いでヤツを殺(や)ったものの、その代償に受けた被害は…甚大だった。 慎一:被害…ですか…。確かにこれだけ荒らされれば…。 彩夏:(被せて)アスカのフィギュアに、浦沢直樹のサイン色紙が入ったガラスボード。 0:彩夏の言葉に素早くコレクション棚や壁を見る慎一 慎一:…っ!……っ!? 彩夏:それに、FF9の限定版、劇場艇プリマビスタの模型。 慎一:(ギリギリ素で)っ!!!!ああああぁぁぁぁぁああ、全部夫の宝物ぉぉぉおおお…(泣)。 彩夏:……(小声で)マジごめん。 慎一:(泣き崩れる)……。 彩夏:………あー、えっと…。 慎一:………。 彩夏:…け、刑事さん…。 慎一:………高御堂さん。 彩夏:えっ!?あ、はい。 慎一:あなた…今回が初犯ではないですよね。 彩夏:……え?…えっと、どれに対して…ですか? 慎一:(素で)え?どれっていうと…?……はっ!!も、もしかして…。 彩夏:(被せて)あーーー!いやいやいや、殺人?殺人ですか?えー、やだぁ、そぉーんなわけないじゃないですかぁ!今回が初めてですよーーー! 彩夏:も・ち・ろ・ん、初☆殺人でーす! 慎一:……いや、軽っ。 慎一:(咳払い)他の犯行歴については後程「詳しく」お聞きするとして…。 彩夏:うっ……はぁ。 慎一:以前にも似たような殺人事件を起こした経歴がおありですよね? 彩夏:………。 慎一:……違いますか?金剛(こんごう)彩夏さん。 彩夏:なっ!?…なぜその名前を…。 慎一:…警察を舐めないで下さい。名前を変えたところで、過去の事件を隠蔽できるとでも? 彩夏:…っく。 慎一:あなたは邪魔な虫が現れれば、その度に消してきた。そう、今回の様に物理的にね! 彩夏:………。 慎一:高御堂彩夏さん。もう…やめませんか? 彩夏:え…。 慎一:これまでの件も含めて全てキレイに償って、残りの人生を真っ当に生きましょうよ。 彩夏:刑事さん…。 慎一:あなたはまだ若い。これからいくらでもやり直せるんだ。 彩夏:………。 慎一:どの程度になるかまだ分かりませんが、懲役期間が終わり無事に出所出来たら、あとは普通の生活に戻るも良いし、その料理の腕を磨いて銀座に店を出すのも良い。 彩夏:…お店…ですか。ふふっ。 慎一:えぇ、そうです。それに、金魚ハンターの道を極めたって良いんです! 彩夏:(笑いを堪え)…………っ(笑)。 慎一:あなたは自由だ。何にだって、なれる。 彩夏:(微笑んで)……そうですね。 慎一:ははっ、やっと笑顔、見せてくれましたね。 彩夏:…え? 慎一:(カッコつけて)あなたには、笑顔が最っ高に良く似合う。 彩夏:(吹き出す)ぶっ!!…いや、結構笑ってた気がするけどな……(笑)。 慎一:はははっ☆ 彩夏:…あ、ありがとうございます(笑)。 慎一:それでは、行きましょうか。 彩夏:……はい。 0:慎一に手を引かれて立ち上がる彩夏 慎一:…あ。 彩夏:え? 慎一:その前に……お風呂、借りても良いですか(泣)? 彩夏:………は? : : : 0:ここから通常会話で : 慎一:げぇええ、Gが俺の顔に居たってマジ!? 彩夏:…うん。 慎一:うえぇぇ…なんでその時に殺さなかったんだよー(泣)。 彩夏:いや、だって…。顔の上で潰して良かったの? 慎一:う…それは…色んな意味でダメージえぐいな…。 彩夏:ほらぁ、でしょー? 慎一:って言うか、すでに2~3匹はヤってるよな…アイツらまだ居んのか? 彩夏:わかんない…。でもお母さんが言うには、ゴキブリって一匹見つけたら他に百匹は居るって…。 慎一:…嘘だろぉ…。 彩夏:ねー、もうあたしマジで嫌なんだけどー! 慎一:いや、俺もさっきの話きいたらマジで無理だわ…。 彩夏:(溜息)………。 慎一:よし!業者呼ぼう! 彩夏:えっ!?ぎょ、業者!? 慎一:確かこの近くに駆除業者あったよな。 彩夏:えぇー、ちゃんと信頼できるとこ?ぼったくりとかヤだよ? 慎一:ちょっと調べてみる。 慎一:…えーと、あ、あったあった!『害虫ほいほいゴールデンG』、これだ! 彩夏:うっわ、なんかもうネーミングからしてやばくない? 慎一:いや、でも結構口コミ評価高いぞ?ほら! 彩夏:…えー…どれー?…あ、ほんとだ。5点中4・7じゃん。評価は良いね。 慎一:だろー?電話受付24時間対応だし電話してみようぜ! 彩夏:あっ、ちょ…。 慎一:………あ、もしもし?……あ、高御堂と申しますが…はい、あ、そうです。ゴキブリ駆除の依頼なんですけど…。あー…出来れば早めが良いですね……えっ?本当ですか?そんなに早く? 彩夏:(小声で)ねぇ、…何て? 慎一:あ、すみません、ちょっと妻に確認するので待ってもらっていいですか? 慎一:(小声で)今度の連休明けには来れるって。だから来週の木曜日。いける? 彩夏:(小声で)あ、うん。大丈夫。 慎一:もしもし?…はい、すみません。じゃあ来週の木曜日にお願いしても大丈夫ですか?………はい、…はい!あー、住所?えっと、ウチは…『害虫ほいほいゴールデンG』さんのお店の近くの『成桐(なりきり)マンション』って所なんですが……あー、そうですそうです!踏切を超えた先の!…そうそう、そこです!その503号室なんで!………はい、…はい、じゃあ来週木曜日の午前11時半ですね!…はい、よろしくお願いしまーす。あ、はい、…はーい、…はい、では、失礼しまーす。 彩夏:…予約取れた感じ? 慎一:おう!今日が金曜だから…。 彩夏:あと6日かぁ…意外と早いけど…6日間もゴキブリに怯えながら生活するのヤだなぁ…。 慎一:んー…だよなぁ…。 彩夏:………。 慎一:…折角明日から水曜まで連休だし、この際旅行でも行くか! 彩夏:えっ!?り、旅行!? 慎一:こないだ彩夏言ってたじゃん、「ゆっくり温泉でも浸かって美味しいご飯でも食べたいねー」って。 彩夏:いや…言ったけどさぁ…旅行ってこんな急に行くものー? 慎一:良いじゃん良いじゃん♪どうせ何も予定なかったんだしさ。それにこんな状況で一週間もマンションに居んのヤだろ? 彩夏:んーーーー、だねっ!行くか!温泉旅行! 慎一:おーっ!……あ、でもせっかく作ったカレー、どうする? 彩夏:あー、まぁジャガイモ入ってないし冷凍しとけばいけるけど…あ、何なら前にお祭りの時差し入れ貰ったし、隣の山田さんにお裾分け、する? 慎一:あー、それいいな。まだお礼してなかったしな。 彩夏:じゃあ、温かいうちにタッパーに詰めてくるね。 慎一:オッケー。俺は旅行先みつくろっとく。 彩夏:はーい。 慎一:どこがいいかなー、連泊も良いけど幾つか別の旅館に泊まるもの良いよなー。…だったら、熱海とかかなー。 彩夏:ふふふ、楽しそうだね。 慎一:まぁなー。 彩夏:あ、ねぇ…この間見た刑事ドラマみたいに『湯けむり温泉、殺人事件』なんて起こったらどうするー?(笑) 慎一:あのなぁ、そんなドラマみたいな事リアルでそうそう起こるわけないだろー? 彩夏:えー、わかんないよー? 慎一:やめろ!これ以上はフラグになるから! 彩夏:あはは、はいはい。 慎一:(不意に思い出して)…あ。 慎一:そう言えば、俺、彩夏に聞きたいこといくつかあるんだけど…。 彩夏:………え?な、なに? 慎一:さっき俺が「初犯じゃないですよね」って聞いたとき「どれに対して」って言ってたけd 彩夏:(被せて)えー?なんだっけ?そんなこと言ってたー?ゴキブリに動揺しててちょっと覚えてないなーあははははは。 慎一:………(溜息)。 彩夏:ははははは…。 慎一:…あとさ。 彩夏:(うんざりした感じで)えー、何ー、まだ何かあんのー? 慎一:さっきの雑誌…。 彩夏:あ…。 慎一:あれって……、もしかして…。 彩夏:あーー………えへっ、…出来ちゃった☆ 慎一:え、えぇぇぇぇぇえええええええーーーっ!?

0:影響を受けやすい、二人~殺人事件ver. : : : 0:舞台は自宅のリビング、仁王立ちしている慎一とソファーに落ち着かない様子で座る彩夏 : : 0:ここから刑事ドラマ風に 0:【慎一は彩夏を殺人(虫)犯人だと疑っている演技】 0:【彩夏は犯行がバレることに怯えている演技】 : 彩夏:……あ、あの、主人は今どこに…? 慎一:別室で事情聴取を受けていますよ。 彩夏:………そうですか…。 慎一:…(溜息)。 彩夏:………。 慎一:それでは、高御堂(たかみどう)…彩夏(あやか)さん。 慎一:犯行推定時刻、午後5時から午後7時までのあなたの行動内容を詳しくお聞かせ願いますか。 彩夏:………。 慎一:…。 彩夏:ご、午後5時頃は…夕飯を、作っていました…。 慎一:そこのキッチンで? 彩夏:…はい。 慎一:夕飯には何を? 彩夏:…カレーです。 慎一:…ふむ。レトルトではなく、初めからご自分で? 彩夏:…えぇ。 慎一:(少し考え込む様子で)………なるほど。 彩夏:………。 慎一:では、その後は? 彩夏:……えっと…煮込んでいる間に、中途半端にしていたウォールラックを仕上げようと…。 慎一:あぁー、それでその工具箱ですか。 彩夏:あ…はい。 慎一:ははは、やっと納得がいきました。 慎一:(含む感じで)無造作にカナヅチやら電動ドライバーなんかが置かれているものだから、てっきり…。 彩夏:(バツが悪そうに)………っ。 慎一:………話を戻しましょう。それで?ウォールラックを仕上げた後は? 彩夏:………夫から「帰る」とLINEが来たので、迎えに駅まで…。 慎一:それは何時頃? 彩夏:え………え…っと…。 慎一:………。 彩夏:…確か、6時過ぎくらい、だったかと…。 慎一:そのご主人からのLINEを見せて頂いても? 彩夏:……………はい。 0:彩夏がポケットからスマホを取り出して画面を慎一に見せる 彩夏:どうぞ。 慎一:失礼します。 慎一:………。 慎一:「今終わった。帰り何か要る?」…ふーん、まぁ、至って普通のメッセージですね。 彩夏:………。 慎一:……メッセージの受信時刻は、と…18時21分ですか。特に供述とも食い違いは無いようですね。 慎一:あ、スマホお返しします、ありがとうございました。 彩夏:……あの…。 慎一:はい? 彩夏:…もしかして私、疑われてるんですか? 慎一:……あー、いえいえ、そう言うわけではなく(笑)。重要参考人の皆さんには同じように聞いている内容ですので、ご心配なさらず。 彩夏:……そうですか。 慎一:………それとも、何か後ろめたい事でも? 彩夏:えっ!? 慎一:(彩夏を見つめる)………。 0:視線を逸らす彩夏 彩夏:…っ! 慎一:……ははっ、冗談です。 彩夏:………。 慎一:それで?その後あなたはご主人を迎えに、駅まで出かけたのですか? 彩夏:……はい。 慎一:家を出たのは何時頃でしたか? 彩夏:…はっきりとは覚えてないですが、多分6時半くらいだと。 慎一:へぇえ、それは随分と早いですねぇ。 彩夏:…え? 慎一:LINEが届いたのが6時21分だったのに、その10分後にはもう家を出たんですかー。いやぁ、うらやましいなぁ、とても仲がよろしいんですねぇえ。 彩夏:……別に、そう言うわけでは…。 慎一:だけど…少しおかしいですね。 彩夏:…何がですか? 慎一:ご主人に聞いたところによると、あなたがご主人の仕事帰りに迎えに来ることはとても珍しいと。…何か特別な理由でも? 彩夏:……それはっ…。 彩夏:……つ、ついでに買い物にも行きたかったので…。 慎一:ご主人がわざわざLINEで「何か要る?」と聞いてきたのに、買い物を頼むのではなくご自身で…? 彩夏:……普段料理しない夫には、きっとわからない材料だと思ったので…。 慎一:LINEで説明すれば済むことでは? 彩夏:アクアパッツァの味付けにしょうがを入れてしまう様な人なんです。 慎一:(吹き出す)ぐっ!! 慎一:(小声)そのネタまだ引っ張るか…(笑)。 慎一:……ほ、ほほう。えー…因みに何を買ったのですか? 彩夏:…あ……結局買い物せずに…帰りました。 慎一:(わざとらしく)えぇ?わざわざ出かけたのにぃー? 彩夏:…財布を忘れてしまって。 慎一:いやいやいや、ご主人も大人なんですから財布くらい持ち歩いているでしょう(笑)。 彩夏:ウチは、食費は生活費用の財布からと決めているので…。 慎一:(含みを込めて)ふぅん…そうですか。 彩夏:………。 慎一:(咳払い)では、あなたは買い物のついでにご主人を駅まで迎えに行き、買い物はせずにご主人と二人で帰宅した、と。…間違いは無いですか? 彩夏:……間違いないです。 慎一:帰り着いたのは何時頃でしたか? 彩夏:……7時すぎです。 慎一:なるほど、なるほど。そして帰宅したら、自宅のリビングで被害者が無残な姿で殺されており、辺りはこのように荒らされていたと、そういう事ですか? 0:慎一が床のティッシュに覆われたゴキブリの死骸を指さして 彩夏:………そう、です。 慎一:外出する際、鍵はかけていましたか? 彩夏:……それが、慌てていたもので鍵を閉め忘れてしまって。 慎一:「慌てて」…? 彩夏:(慌てて)あ…いえ、夫を待たせたら悪いと思って急いでたんです。 慎一:……ふぅん。 慎一:状況だけで鑑(かんが)みれば、空き巣被害で話はつきそうですが…。 彩夏:(ホッとした様に)…空き巣…ですか? 慎一:えぇ。ただ…この被害者が、果たして空き巣本人であったのか、はたまた空き巣に殺害された全く無関係の誰かだったのかが…謎ですねぇ。 慎一:(わざとらしくカッコつけて)奥さん。 彩夏:(吹き出す)ぶっ!!……あ、は、はい? 慎一:……何かおかしい事でも? 彩夏:い、いえ。(笑) 慎一:…この被害者に見覚えは? 彩夏:ありません。 慎一:(怪しむ)…随分と即答ですね。 慎一:ちゃんと確認してもらってもいいんですよ? 彩夏:(被せ気味に)大丈夫です。 0:慎一がゴキブリのティッシュに手を伸ばし 慎一:ほら、布を取りますのd 彩夏:(被せて)だぁああああ!!大丈夫ですっ!!本当に!!全っ然、まっったく、微塵も知らない人ですっっ!! 慎一:………そうですか。 慎一:では、面識もないとなると…空き巣本人である可能性が高いですが。 慎一:だとすると、不可思議な点がいくつか出てくる。 彩夏:……不可思議? 慎一:えぇ。先程確認して頂きましたが、これだけ荒らされていたにも関わらず、金品類を盗まれた形跡が全くありませんでしたよね? 彩夏:……はい。 慎一:テーブルの上にあるあなたの財布も触られた痕跡すらなく、この被害者…(咳払い)。 慎一:ここでは空き巣被害に遭った奥さんも被害者となり、この場合、殺害に遭ったこの方を被害者と呼ぶのは非常に紛らわしいので、この方の仮名を「G」とし、以降はGさんと呼ぶことにします。 彩夏:(吹き出す)ぶっ!……ふっ…ふふふ…。 慎一:(笑いを堪える)……ふふ…(咳払い)、それで(笑)、このGさんが(笑)…金品類を所持していなかったことも含めて(笑)、果たして本当に空き巣目的だったのか?と言う疑問が出てくるのでしゅが。 彩夏:……「でしゅ」? 慎一:出てくるのです、が!…失礼。 彩夏:いえ…。 慎一:そうすると、色々とつじつまが合わない。 彩夏:………。 慎一:Gさんは何を目的にこの家に侵入したのか。そして、一体誰に殺されたのか。 慎一:遺体を見るに、恐らく死因は撲殺でしょう。それも物凄い怪力で垂直に振り下ろされた何かにより無残にも圧死していた。 彩夏:………。 慎一:中身が飛び出るほどのG、つまり「圧」が掛かっている……Gさんだけに。 彩夏:………(笑)。 慎一:(咳払い)…この荒らされた家屋も、窃盗目的で荒らされたのではなく、もしかしたらGさんと真の殺人犯による揉めた跡なのではないでしょうか…? 彩夏:揉めた…跡。 慎一:えぇ、殺されるとわかっていて大人しくしている生き物なんていないでしょう?害虫でさえ生き延びるために必死に逃げ惑う。 彩夏:…そうですね。 慎一:殺そうと躍起になって襲いかかる殺人犯と、それから逃れるために無我夢中で逃げる害ちゅ…じゃなくてGさん。 慎一:そう考えて改めてこの室内を見てみると、何だか納得がいく気がしませんか? 彩夏:…じ、じゃあ、たまたま鍵の開いていたウチに逃げ込んだ…Gさん(笑)を追いかけてきたその殺人犯が、そのままウチで犯行に及んだ…ってことですか…? 慎一:うーん…まぁ、その線で考えるのが一番無難と言えば無難かもしれないですが…。 彩夏:!!だったら、今もまだこの近くにその殺人犯が隠れているかもしれないってことですよね!? 慎一:………。 彩夏:じゃあ探偵ごっこなんてしてないで、さっさとその犯人を捕まえてください!! 慎一:………。 彩夏:刑事さん…?こんなバカげたことをしている間に、次の犠牲者が出たらどうするんですか!? 慎一:……でませんよ、次の犠牲者なんて。…少なくとも今は、ね。 彩夏:……え?…それはどういう…。 慎一:ははは、とぼけても無駄ですよ、奥さん。 彩夏:……な、何を言って…。 慎一:Gさんを殺した犯人、それは、あなたでしょう?高御堂彩夏さん。 彩夏:はぁっ!?な、何を証拠にっ…。 慎一:証拠…ですか。 彩夏:そう、証拠よ!あたしがそのGさんを殺したって言う証拠がどこにあるって言うの!? 慎一:………。 彩夏:はっ(笑)。…ないんでしょう?そうなのね? 彩夏:あーはっはっはっは!刑事が聞いて呆れるわ。無実の市民を証拠もなく殺人犯扱いなんて! 慎一:………。 彩夏:逮捕できるものならやってみなさいよ。でも、そんなことすれば、証拠不十分な上に嫌疑不十分で不起訴。結局は誤認逮捕で警察の看板に泥を塗ることになるだけでしょうけどね!あはははは。 慎一:…ありますよ? 彩夏:………え? 慎一:証拠。もちろんありますよ。 彩夏:……は?何言って…。 慎一:ほら、そこに。 0:ゴミ箱を指さす慎一 彩夏:(ビクッとする)っ!! 0:ゴミ箱に向かって歩き出す慎一 慎一:………。 彩夏:あっ、ちょっ! 慎一:何だか不自然だったんですよねぇ、このゴミ箱。荒らされているソファー付近ならまだしも、被害のない窓際で妙に半分だけカーテンに隠れているだなんて。…いや、「隠されている」と言った方が正しいですかね?奥さん。 彩夏:……っ。 慎一:荒らされていない所はきちんと整理整頓され、先ほど取り付けたと言うウォールラックも1ミリの傾きもないくらいしっかり固定されている。普段からのあなたの綺麗好きさが一目見て伺えるようなお宅です。 彩夏:………。 慎一:それなのに、他の部屋はちゃんと閉じられているカーテン類の中で、ここのカーテンだけ中途半端に開けられ、ゴミ箱に掛かっている。 彩夏:それはっ…出かける間際に閉めようとして…。 慎一:それはちょっと言い訳としては苦しいんじゃないですか?(笑) 彩夏:……っ。 慎一:だって、もし本当にそれだけの事なら、…そんなに怯える必要がありますか? 彩夏:………。 0:ゴミ箱に手を伸ばす慎一 慎一:おや?これは何ですか? 彩夏:!! 慎一:このビニール袋…随分と頑丈に結ばれてますねぇ。一体中に何が入っているんでしょうか? 0:結び目を笑顔で楽しそうに解く慎一 彩夏:(バツが悪そうに)………っ。 慎一:……ん?ビニール袋の中に…ビニール袋? 0:結び目を余裕そうに見せながらも頑張って解く慎一 慎一:ぐっ、これもまた、頑丈に…結ばれて…いるっ。 彩夏:………。 慎一:……んん?また…ビニール袋…ですか。 0:結び目を顔を真っ赤にして必死に解こうとする慎一 慎一:………っっ!かっっった!!!かてぇええっ!! 彩夏:(笑いを堪える)………。 慎一:……はぁ、はぁ、やっと…開いた………ってまたビニール!!!何だよこれ!!マトリョーシカかよっ!! 彩夏:(吹き出す)ぶっ!!……くっくっく…。 0:結び目を解くのを諦める慎一 慎一:(睨んで)……ちょっと、ハサミをお借りできますか? 彩夏:……どうぞ(笑)。 慎一:…どうも。 0:イラついた様子でビニールを切る慎一 彩夏:あっ、しまった、普通にハサミ渡しちゃった…。 慎一:助かりましたよ、奥さん。 彩夏:………チッ。 慎一:いや、舌打ち。 彩夏:(咳払い)オホホホ…。 慎一:おやぁ?おやおやおんやぁ?これは…雑誌ですか? 彩夏:(バツが悪そうに)………。 慎一:何なにー?『た、ま、ご、ク、ラ、ブ』?…え? 彩夏:(小声で)あーあ…。 慎一:…「はじめての…おかあさん」? 彩夏:(口笛・鼻歌)~♪ 慎一:……………え?えっ!? 彩夏:(強めの咳払い)っ!! 慎一:あ、(咳払い)え、えぇと、おや、おっかしいですねぇー、この雑誌。今月の最新号の割に丸めた跡がありますが…んん?これは、何の…液体でしょうか? 彩夏:……それは…。 慎一:まぁ、鑑識に出せばすぐにわかる事です。この液体がGさんのDNAと一致し、尚且つ奥さんの他に別の誰かの指紋が出てくれば、その人が真犯人という事になります。 慎一:…しかし、もしも出てこなければ……あなたが犯人であるという事の確実な証拠になりますね。 彩夏:……あたしは…やってません。 慎一:はい? 彩夏:………あたしじゃ、ない。 慎一:(溜息)そうですか。 慎一:では、あくまでたまたま偶然あなた方のお宅で起こった殺人事件だと、おっしゃるんですね。 彩夏:………。 慎一:ふむ……。では、ここからは私の勝手な推測ですが、何らかの理由により本日午後6時頃、あなたはこのリビングでGさんの殺害に至った。 慎一:あなたがGさんを呼び出したのか、Gさん自らここに訪れたのかはわかりませんが、口論になり争った結果、この凶器でGさんを撲殺した。 慎一:当初キッチンにある包丁やこの工具類が凶器かとも思いましたが、血痕が無い上に確証も有りませんでした。…しかし、しきりにあなたが窓際を気にする様子に、ヒントを得ることが出来ました。 彩夏:………。 慎一:気が動転していたあなたは一番手近にあった…この雑誌で犯行に及んだのでしょう。 慎一:そして、午後6時半、ご主人から来たLINEに慌てて家を出た。財布も持たずに…。 慎一:鍵をかけなかったのは、意図的だったのでしょう。恐らく、不特定の誰かの犯行に見せかける為に、ね。 彩夏:……ふっ、ふふふ…全部、お見通し……ってわけですか。 慎一:という事は、犯行を認めるという事で、合ってますか? 彩夏:……えぇ。 慎一:そうですか。 慎一:…では、続きは署で聴かせて頂きましょうか。 彩夏:………。 慎一:…高御堂さん? 彩夏:…………です。 慎一:…え? 彩夏:…悪いのは…あの女なんです。 慎一:…あの、女?…と、言いますと? 彩夏:そこで死んでる、あの女よ。 慎一:(小声で)……あー、Gさんは「女性」…だったのか。 慎一:ふむ…やはり、あなた方は面識があったんですね。 彩夏:………。 慎一:一体、何があったんですか? 彩夏:……そいつは、あろうことか…あたしの夫と寝たんです。 慎一:ん?んんっ? 彩夏:それも、一度ならず、二度三度と。 慎一:(素で)…………は? 彩夏:最初に気づいたのは数週間前でした。 慎一:(素で)え?…ん? 彩夏:そして、つい昨夜も。 慎一:(素で)うぇっ!?は?嘘だろ…? 彩夏:……何も気づかず寝ている夫の顔に……。 慎一:(素で)…………。 彩夏:そいつはピッタリとくっ付いて、寄り添って寝ていたんです!!! 慎一:(素で)ひぃぃいいいいいいいい!!!! 0:袖で激しく頬をこする慎一 慎一:(素で)嘘だあああああ!!! 彩夏:その場で殺してやろうと思った。 慎一:(素で)なんでっ、その場でっ、殺(や)らなかったのーー!? 彩夏:…この害虫は、あたしの視線に気づくなりとっとと逃げていった。そんな暇…なかった。 慎一:(素で)金魚ハンター、虫に敗れたりいいいい…っ!! 彩夏:(笑い堪える)……っ。 彩夏:…だけどそのチャンスは、突然訪れた。 彩夏:夕飯を作っていたあたしの目の前に、そいつはあざ笑うかのように現れた。無防備な姿でね! 慎一:(意気消沈しながら)……そこで、殺害に及んだ、という事ですか。 彩夏:えぇ。だけど、流石のあたしでもだいぶ苦戦したわ。こいつの逃げ足は、あのボルトをも凌ぐと言われた俊足だもの。 彩夏:何とか決死の思いでヤツを殺(や)ったものの、その代償に受けた被害は…甚大だった。 慎一:被害…ですか…。確かにこれだけ荒らされれば…。 彩夏:(被せて)アスカのフィギュアに、浦沢直樹のサイン色紙が入ったガラスボード。 0:彩夏の言葉に素早くコレクション棚や壁を見る慎一 慎一:…っ!……っ!? 彩夏:それに、FF9の限定版、劇場艇プリマビスタの模型。 慎一:(ギリギリ素で)っ!!!!ああああぁぁぁぁぁああ、全部夫の宝物ぉぉぉおおお…(泣)。 彩夏:……(小声で)マジごめん。 慎一:(泣き崩れる)……。 彩夏:………あー、えっと…。 慎一:………。 彩夏:…け、刑事さん…。 慎一:………高御堂さん。 彩夏:えっ!?あ、はい。 慎一:あなた…今回が初犯ではないですよね。 彩夏:……え?…えっと、どれに対して…ですか? 慎一:(素で)え?どれっていうと…?……はっ!!も、もしかして…。 彩夏:(被せて)あーーー!いやいやいや、殺人?殺人ですか?えー、やだぁ、そぉーんなわけないじゃないですかぁ!今回が初めてですよーーー! 彩夏:も・ち・ろ・ん、初☆殺人でーす! 慎一:……いや、軽っ。 慎一:(咳払い)他の犯行歴については後程「詳しく」お聞きするとして…。 彩夏:うっ……はぁ。 慎一:以前にも似たような殺人事件を起こした経歴がおありですよね? 彩夏:………。 慎一:……違いますか?金剛(こんごう)彩夏さん。 彩夏:なっ!?…なぜその名前を…。 慎一:…警察を舐めないで下さい。名前を変えたところで、過去の事件を隠蔽できるとでも? 彩夏:…っく。 慎一:あなたは邪魔な虫が現れれば、その度に消してきた。そう、今回の様に物理的にね! 彩夏:………。 慎一:高御堂彩夏さん。もう…やめませんか? 彩夏:え…。 慎一:これまでの件も含めて全てキレイに償って、残りの人生を真っ当に生きましょうよ。 彩夏:刑事さん…。 慎一:あなたはまだ若い。これからいくらでもやり直せるんだ。 彩夏:………。 慎一:どの程度になるかまだ分かりませんが、懲役期間が終わり無事に出所出来たら、あとは普通の生活に戻るも良いし、その料理の腕を磨いて銀座に店を出すのも良い。 彩夏:…お店…ですか。ふふっ。 慎一:えぇ、そうです。それに、金魚ハンターの道を極めたって良いんです! 彩夏:(笑いを堪え)…………っ(笑)。 慎一:あなたは自由だ。何にだって、なれる。 彩夏:(微笑んで)……そうですね。 慎一:ははっ、やっと笑顔、見せてくれましたね。 彩夏:…え? 慎一:(カッコつけて)あなたには、笑顔が最っ高に良く似合う。 彩夏:(吹き出す)ぶっ!!…いや、結構笑ってた気がするけどな……(笑)。 慎一:はははっ☆ 彩夏:…あ、ありがとうございます(笑)。 慎一:それでは、行きましょうか。 彩夏:……はい。 0:慎一に手を引かれて立ち上がる彩夏 慎一:…あ。 彩夏:え? 慎一:その前に……お風呂、借りても良いですか(泣)? 彩夏:………は? : : : 0:ここから通常会話で : 慎一:げぇええ、Gが俺の顔に居たってマジ!? 彩夏:…うん。 慎一:うえぇぇ…なんでその時に殺さなかったんだよー(泣)。 彩夏:いや、だって…。顔の上で潰して良かったの? 慎一:う…それは…色んな意味でダメージえぐいな…。 彩夏:ほらぁ、でしょー? 慎一:って言うか、すでに2~3匹はヤってるよな…アイツらまだ居んのか? 彩夏:わかんない…。でもお母さんが言うには、ゴキブリって一匹見つけたら他に百匹は居るって…。 慎一:…嘘だろぉ…。 彩夏:ねー、もうあたしマジで嫌なんだけどー! 慎一:いや、俺もさっきの話きいたらマジで無理だわ…。 彩夏:(溜息)………。 慎一:よし!業者呼ぼう! 彩夏:えっ!?ぎょ、業者!? 慎一:確かこの近くに駆除業者あったよな。 彩夏:えぇー、ちゃんと信頼できるとこ?ぼったくりとかヤだよ? 慎一:ちょっと調べてみる。 慎一:…えーと、あ、あったあった!『害虫ほいほいゴールデンG』、これだ! 彩夏:うっわ、なんかもうネーミングからしてやばくない? 慎一:いや、でも結構口コミ評価高いぞ?ほら! 彩夏:…えー…どれー?…あ、ほんとだ。5点中4・7じゃん。評価は良いね。 慎一:だろー?電話受付24時間対応だし電話してみようぜ! 彩夏:あっ、ちょ…。 慎一:………あ、もしもし?……あ、高御堂と申しますが…はい、あ、そうです。ゴキブリ駆除の依頼なんですけど…。あー…出来れば早めが良いですね……えっ?本当ですか?そんなに早く? 彩夏:(小声で)ねぇ、…何て? 慎一:あ、すみません、ちょっと妻に確認するので待ってもらっていいですか? 慎一:(小声で)今度の連休明けには来れるって。だから来週の木曜日。いける? 彩夏:(小声で)あ、うん。大丈夫。 慎一:もしもし?…はい、すみません。じゃあ来週の木曜日にお願いしても大丈夫ですか?………はい、…はい!あー、住所?えっと、ウチは…『害虫ほいほいゴールデンG』さんのお店の近くの『成桐(なりきり)マンション』って所なんですが……あー、そうですそうです!踏切を超えた先の!…そうそう、そこです!その503号室なんで!………はい、…はい、じゃあ来週木曜日の午前11時半ですね!…はい、よろしくお願いしまーす。あ、はい、…はーい、…はい、では、失礼しまーす。 彩夏:…予約取れた感じ? 慎一:おう!今日が金曜だから…。 彩夏:あと6日かぁ…意外と早いけど…6日間もゴキブリに怯えながら生活するのヤだなぁ…。 慎一:んー…だよなぁ…。 彩夏:………。 慎一:…折角明日から水曜まで連休だし、この際旅行でも行くか! 彩夏:えっ!?り、旅行!? 慎一:こないだ彩夏言ってたじゃん、「ゆっくり温泉でも浸かって美味しいご飯でも食べたいねー」って。 彩夏:いや…言ったけどさぁ…旅行ってこんな急に行くものー? 慎一:良いじゃん良いじゃん♪どうせ何も予定なかったんだしさ。それにこんな状況で一週間もマンションに居んのヤだろ? 彩夏:んーーーー、だねっ!行くか!温泉旅行! 慎一:おーっ!……あ、でもせっかく作ったカレー、どうする? 彩夏:あー、まぁジャガイモ入ってないし冷凍しとけばいけるけど…あ、何なら前にお祭りの時差し入れ貰ったし、隣の山田さんにお裾分け、する? 慎一:あー、それいいな。まだお礼してなかったしな。 彩夏:じゃあ、温かいうちにタッパーに詰めてくるね。 慎一:オッケー。俺は旅行先みつくろっとく。 彩夏:はーい。 慎一:どこがいいかなー、連泊も良いけど幾つか別の旅館に泊まるもの良いよなー。…だったら、熱海とかかなー。 彩夏:ふふふ、楽しそうだね。 慎一:まぁなー。 彩夏:あ、ねぇ…この間見た刑事ドラマみたいに『湯けむり温泉、殺人事件』なんて起こったらどうするー?(笑) 慎一:あのなぁ、そんなドラマみたいな事リアルでそうそう起こるわけないだろー? 彩夏:えー、わかんないよー? 慎一:やめろ!これ以上はフラグになるから! 彩夏:あはは、はいはい。 慎一:(不意に思い出して)…あ。 慎一:そう言えば、俺、彩夏に聞きたいこといくつかあるんだけど…。 彩夏:………え?な、なに? 慎一:さっき俺が「初犯じゃないですよね」って聞いたとき「どれに対して」って言ってたけd 彩夏:(被せて)えー?なんだっけ?そんなこと言ってたー?ゴキブリに動揺しててちょっと覚えてないなーあははははは。 慎一:………(溜息)。 彩夏:ははははは…。 慎一:…あとさ。 彩夏:(うんざりした感じで)えー、何ー、まだ何かあんのー? 慎一:さっきの雑誌…。 彩夏:あ…。 慎一:あれって……、もしかして…。 彩夏:あーー………えへっ、…出来ちゃった☆ 慎一:え、えぇぇぇぇぇえええええええーーーっ!?