台本概要

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タイトル 影響を受けやすい、同僚
作者名 砂糖シロ  (@siro0satou)
ジャンル コメディ
演者人数 2人用台本(男2)
時間 40 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 ※「影響を受けやすい、二人」のスピンオフです。
今回は影響を受けやすいでお馴染みの夫婦の夫、慎一と、その夫婦に影響を受け恋愛に夢を見る慎一の同僚(夏祭りVer.でも登場したあの)田中がわちゃわちゃとくんずほぐれつするお話となっています。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
慎一 228 (しんいち) 本編では彩夏の夫。 真面目な会社員。 今回はツッコミ多め。
田中 227 (たなか) 慎一の同僚。 ノリが軽くてやや不真面目な会社員。 テンション高め。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:影響を受けやすい、同僚(?) : : : 0:オフィスにて、課長と話す慎一 : 慎一:……はい、…はい、山陽物産の見積もりと市場データですね、……わかりました。 慎一:はい、失礼します。 : 慎一:………ふぅ。 田中:お疲れーい。 慎一:おう。 0:以降タイピングしながら適当に相槌を打つ慎一 田中:……なぁ。 慎一:ん? 田中:今日昼めし、来々軒いかね? 慎一:あぁ、別にいいよ。 田中:っしゃあ。 慎一:…? 田中:…あー、へへっ。実は俺さ、最近ちょっと気になる子が出来たんだよねぇ~。 慎一:へぇ? 田中:来々軒に新しく入った子で、前髪ぱっつんのチャイナ系の子なんだけど、橋本環奈似でむっっちゃくちゃ可愛いーのよ。 慎一:…へー。 田中:店入るとさ、カタコトの日本語で「イラシャイマセー」って言ってくれんだけど、もうそれが死ぬほどキュートなの。 慎一:ほぉーん。 田中:笑った時に覗く八重歯とか、お辞儀した時にサラって落ちる髪の毛とか、どこを取ってもパーフェクト! 慎一:ふーん。 田中:かまぼこ型のでっかい目もさ、絶妙にウルウルしてて、保護欲を掻き立てられるっちゅーか、俺の心をグッと掴んで離さないんだわコレがっ。 慎一:ヘー。 田中:注文の時にあんな瞳向けられたらそりゃあもう頼みすぎもしちゃうって。食いきれもしねぇのによ。(笑) 慎一:ほぉーん。 田中:……おい。 慎一:あ? 田中:さっきから何なんだよ! 慎一:何が。 田中:その返事だよ!その「興味ありませーん」って言う感じの素っ気ない返事ぃ。 慎一:………。 田中:ちゃんと話聞いてんのかぁ!? 慎一:いや仕事しろよ。ここどこだと思ってんだよ職場だぞ?なんなら目の前に課長のデスクあるんだぞ? 田中:………。 慎一:ったく…、どーゆー神経してんだよ。 慎一:…今更だけどな、さっきからずっと睨まれてるぞお前。 田中:は?誰に? 慎一:割と尋常じゃない表情の課長に。 田中:っ!? : 0:振り返って鬼の形相の課長を見る田中 : 田中:あっ……すみません。……はい、勿論大丈夫ですっ。午前中の分はあと少しで終わるんで! 田中:………え?…来週の会議の分?え…、いや、それさっきまで佐伯が……えっ!?…いやっ別に暇と言うわけ、では………はい、わかりました。十六時までにですね。………はい、すみませんでした。 慎一:………。 田中:(小声)……気づいてたんなら早く言えよ。 慎一:仕事中に無駄口叩くやつが悪い。 田中:…くっ。 慎一:………。 田中:………。 慎一:………。 田中:そういえばさ。 慎一:あ? 田中:夏にあった重森町の祭りで… 慎一:(被せて)お前今の今でよく世間話しようと思えるな。 田中:課長ならもう居ないぜ。 慎一:あ?……あぁ…休憩行ったのか。 田中:な?…で、その祭りにお前奥さんと来てただろ。 慎一:……あぁ、アレな。 田中:浴衣姿の奥さん、まーじ可愛かったなー。 田中:結婚式ん時もさぁ、純白のウエディングドレスが小柄で色白なのに凄くマッチしててめっちゃくちゃ可愛かったけど、やっぱ日本人は浴衣に限るよなー。細い首筋とうなじが妙に男心をくすぐるっつうか。 慎一:やめろ、人の嫁に何言ってんだお前、はっ倒すぞ。 田中:いやいや別にそーゆー意味じゃねぇって。俺は全浴衣女子に対して言ってんの。 慎一:…良かったな、女性社員がみんな昼休憩で席立ってて。 田中:はぁ?何でだよ。 慎一:なんでもねぇよ。 田中:……? 田中:あ…でさ、俺が聞きたかったのは…、あん時お前ら言い合いしてたろ? 慎一:は…? 田中:夏祭りの会場でだよ!奥さんすんげぇ必死な感じでお前に縋り付いてたじゃん。「嫌いにならないでー!」とか言って。 慎一:っ!………気のせいだろ。 田中:いやいやいや、気のせいで済むレベルの雰囲気じゃなかったぞ? 田中:「私が何かしたなら謝るから!」って結構ガチめのトーンだったじゃねぇか。 慎一:………。 田中:…もしかしてお前んち、結構…仲やばい感じ? 慎一:(被せて)忘れろ!!! 田中:え…。 慎一:あの日お前は何も見てないし、何も聞いてない。 田中:いや、でも…。 慎一:あの日俺達は会わなかった。いや、むしろお前は夏祭りになんて行っていないそうだろ?あぁっ?えぇっ?そーだろぉっ!? 田中:…え、えぇ…? 慎一:賢いそのオツムからあの日の記憶を全て抹消しろ!今すぐにだ!いいな、わかったか!? 田中:…おう、わかっ…た。 慎一:…よし。(息を吐く) 田中:(小声)なんかヤバい組織にでも入ってんのか、コイツ…。 慎一:行くか。 田中:えっ!?ど、どこに…? 慎一:飯、来々軒に食いに行くんだろ? 田中:……あぁ、うん。 慎一:行くぞ。 田中:…はい。 : : : 0:喫煙室にて : 田中:…つまりあの言い合いは、「ごっこ遊び」の延長線であり実際に喧嘩してたわけではない、と。 慎一:……あぁ。 田中:ふーん…?要するにあれか、日頃から奥さんとそう言う特殊な遊びを嗜(たしな)んでいたお前は… 慎一:(被せて)「たしなむ」って言うな。あと「特殊」もやめろ! 田中:ははっ、わりぃわりぃ。(笑) : 田中:で、アニメにどハマリした結果、キャラになりきって実際に自分たちで青春ラブコメをやってみようって事になり、ていよく見つけた遠方の夏祭りで仲良くデートをしてた所をたまたま一人で来ていた俺に運悪く目撃された…っつうわけか。 慎一:……あぁそーだよ。ありがとな、わざわざ要約してくれて。 田中:なるほどねー。いやぁー、あるよなーそーゆーの。俺も時々洋画の真似してダチにLINE送るときあるわー。(笑) 田中:「いい知らせと悪い知らせがある、どっちから聞きたい?」とか。(笑) 慎一:おい。 田中:「なぁ、頼むよ。これ以上俺を困らせないでくれ」とかさー。(笑) 慎一:おい。 田中:だけど、流石に外でやる勇気は俺にはないわー。(笑) 慎一:おいっっ!!! 田中:うわっ、な、なんだよ、いきなりでけぇ声出して。 慎一:俺忘れろって言ったよな?今すぐに記憶消せって言ったよな!? 田中:いや、記憶消せは無理だろ。MIBかって。それこそ映画に影響されすぎだろ… 慎一:(被せて)おい、マジでヤルぞ? 田中:わーっ、悪かった、冗談だって! 慎一:…ホントやめてくれよ。ただでさえあの後めちゃくちゃ後悔したんだから…。 田中:だろうな。(笑) 田中:嫁とイチャイチャしながらごっこ遊びしてるとこを知り合いになんて見られたら俺でも死にたくなるぜ。(笑) 慎一:ふっざけんなよ…マジで。 田中:いやでもいいじゃん。仲が良くてさ。しかも見られたの俺だけなんだろ? 慎一:…あーいや、それがさ…あの場に偶然ウチの親父と…お隣さんも居合わせてて…。 田中:なんだって…嘘だろ…?そりゃあタチの悪いジョークじゃすまねぇぞ、マイケル。 慎一:死にたいようだな、ジャック。 田中:わりぃわりぃ冗談だよ!そんな怒んなってー。 慎一:ふんっ! : 田中:え…、まさか二人にも見られた? 慎一:いや、親父はどうかわかんねぇけど……。 田中:あちゃー、マジかー…。え、それ、確定? 慎一:あぁ。後から隣の奥さんに直接「見かけたわよ」って言われたからな、間違いねぇよ。わざわざ丁寧に祭りの差し入れまで持って来たんだぜ。(泣) 田中:うっわ、最っ悪…。 慎一:(溜息)今後外でふざけんのだけは絶っ対にやめようなって、嫁と固く誓ったわ。 慎一:ま、完全に後の祭りだけどな。 田中:おっ?祭りで失敗しただけにーってか。(笑) 慎一:(拳を振り上げる)っ!! 田中:ごめんなさい!! : 田中:まぁでも、それ自体は楽しそうだよなー。 慎一:それ自体って? 田中:嫁とごっこ遊びだよ! 慎一:あー…まぁな。お互い映画とかアニメは元々好きだったし? 慎一:あんま大っぴらに言える趣味ではないけどさ、日常生活の中でなんかの役になりきって遊ぶのって割と楽しめるっつーか、やってみると案外面白いぞ。 田中:マジかー。例えば? 慎一:んー、俺らがやったのは、ゾンビ映画っぽく料理するとか? 田中:やっべ、何だよそれ。(笑) 田中:ゾンビみたく生肉に「ヴァー」とか言いながらかぶりつくのか? 慎一:いや、流石にそこまではしねぇ。(笑) 田中:ははっ、生肉はマズいか。(笑) 田中:え、あとはあとは? 慎一:あとは…んー、そうだな、旅行先で食レポとかナレーション挟んで旅番組っぽくしてみたり、SFもんのキャラになりきって家ん中探索したり、とか…? 田中:へぇー。面白そうな事やってんなー。 慎一:あ、この間、俺が財布忘れて昼飯食えなかった時あったろ? 田中:あぁ、そーいや、そんなこともあったな。 慎一:あの日もさ、家帰ったら突然玄関先で「このメールの女だれよ!?」って修羅場みたいなガチ目の芝居仕掛けてきてさ。 田中:おいお前っ、まさか浮気してんのか!? 慎一:いや、本当にしてるわけじゃなくてただのなりきりだよ、なりきり。 慎一:あん時、丁度嫁が昼ドラにハマってたらしくて。 田中:昼ドラぁ?あんな若いのに昼ドラなんて見んの? 慎一:若いっつっても俺らとタメだけどな。 田中:マジか、見えねぇわー。 慎一:ぶっちゃけ昼抜きで突然深夜に閉め出された時はマジ泣きしそうだったわ。 田中:えげつねぇな(笑) 慎一:だろ?(笑) 田中:でもいいなぁー、俺もやってみてぇー。 慎一:やればいいじゃん。 田中:相手がいねぇよ!嫁どころか彼女すらいねぇわ!紹介しろよ! 慎一:はぁ?やだよ、ちょ、縋るな!離せっ。 田中:なんでだよ!自分ばっかホイホイ結婚しやがってぇー! 慎一:ホイホイってなんだよ!人をゴキブリみたいに言うな! 田中:リア充なんか皆ゴキブリと一緒じゃ!アースジェットで駆逐してやるっ! 慎一:っ!?げっほごっほ!!ばっか、やめろ!こっちに煙吹きかけんな! : 0:喫煙室に人が入ってくる : 慎一:(同時に)…お疲れ様です。 田中:(同時に)…お疲れ様でーす。 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:(タバコを吸う)………。 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:(タバコを吸う)………。 慎一:あ、はい…わかりました、お疲れ様です。 田中:週末っすね、また社内メールで、……はい、あ、うぃっす、お疲れ様でーす。 : 慎一:……お前さー、良く他部署の上司とそんな気やすく話せるよな。 田中:あ?なんで?普通じゃね? 慎一:お前の普通が世の中の共有認識だと思うなよ。 田中:そうかぁー?皆こんなもんだと思うけどなー。 慎一:…まさかお前、営業先でもそんな感じじゃねぇよな? 田中:いや?こんな感じだぜ? 慎一:……なんでそれで契約とって来れるのか謎だわ。 田中:そりゃあ、俺の実力の賜物(たまもの)だろ。 慎一:…バカも実力の内か。 田中:おいっ、失礼か!! : 田中:……なぁ。 慎一:あ? 田中:さっきの話だけどさ。 慎一:なんだよ、またぶり返す気か…? 田中:いや、違うって!来々軒の女の子の話! 慎一:飛ぶなぁ…。 田中:マジでいい子じゃねぇ?あの子! 慎一:まぁ、可愛いし、礼儀正しくて元気だしいい子そうだったな。 田中:だろぉー?俺、ここだけの話、ワンチャン狙ってんのよ。 慎一:いや無理だろ。 田中:何でだよっ!! 慎一:だって彼女何歳よ。明らかにお前より五つは下だろ。 田中:恋愛に年齢は関係ない! 慎一:下手すりゃお前捕まるぞ? 田中:いや……え?流石に未成年は、なくね? 慎一:わかんねぇぞ? 田中:……うーん…でもさ、それって裏を返せば「猶予がある」って事だよなっ? 慎一:は? 田中:もし未成年だったらさ、すぐに結婚とかにはならないわけじゃん?年については彼女が成人するまで俺が待てばいいわけだし。そうすると、付き合うまでの間に俺の良い所を存分にアピれるって事になるだろ! 慎一:(呆れて)あー…、そもそも返す裏が無い上に?既に結婚を視野に入れてる事も含め、年齢さえどうにかなれば付き合えるって思えるその頭がスゴイワー。流石田中。(拍手) 田中:拍手やめろっ! 田中:いや、流石にそこまではうぬぼれてねぇよ。 田中:彼女いない歴イコール年齢の俺みたいな一般人があんな可愛い子と付き合う為には、多少無理してでも超えなきゃいけねぇハードルがいくつかあるって事くらいは俺にだって十分理解できてる。 慎一:あ、マジか。何か色々と衝撃だわ。 田中:そこでだ!恋愛レベル1のかけだし勇者、つまり俺な?その俺から、その年で結婚まで果たした「恋愛マスター」に恥を承知で頼みがあるんだ! 慎一:れんあいますたぁ??何だそれ。 田中:婚活サイト使ってもマッチングアプリ使っても彼女すら出来ねぇこのご時世に、大学の飲み会で知り合った彼女と数年間のお付き合いの末にゴールインしてて恋愛マスターじゃなくして何のマスターだよ!バーのマスターか?あ? 慎一:いやバーのマスターなわけあるか!行った事すらねぇのに。 慎一:そもそも簿記とアニメぐらいしかマスターしてねぇわ! 田中:はいはい、わかりましたわかりました。それで?俺の頼みを聞いてくれるんですか?飲み会マスター。 慎一:誰が飲み会マスターだ。地球ブルース337か! 田中:ははは。 慎一:愛想笑いしてんじゃねぇよ。付き合わされてんのコッチだぞ? 田中:ナイスツッコミー。 慎一:うるせぇ、鼻フックするぞ。 田中:やめろ、それは地味に痛ぇ。 田中:いや、まじで頼むよ。お前しかいないんだって、こんなお願いできんの。 慎一:……(溜息)、あぁそーかよ。 0:イラついた様子で煙草に火を点ける慎一 慎一:で何?頼みって。 田中:やってくれんのか!?いやぁー、神!マジ仏!!流石飲み会マスター! 慎一:鼻フックされてぇか? 田中:ははは。 慎一:おいっ! 田中:冗談冗談。(笑) 慎一:お前な、冗談って言ったら全て許されると思うなよ?愛想笑いに冗談もクソもねぇからな。 田中:んで、お願いって言うのは。 慎一:おい無視か。 田中:まぁ聞けよ。 慎一:(溜息) 田中:俺は、来々軒の女の子に告白する予行練習がしたいんだ! 慎一:……なぁ、それ頼む相手間違えてね? 田中:何でだよ。 慎一:普通そう言うのって女性に頼むもんじゃね? 田中:居たら苦労しねぇんだよ!そもそもそんな事頼める女が居たら寧ろそいつに告ってるわ!! 慎一:おいおい見境ねえな。誰でもいいのかよ。 田中:誰でもイイッ!! 慎一:いいのか。末期だな。 田中:あのなぁ、考えてもみろよ。ぼっち歴イコール年齢って事は、「産まれてこのかた一度も付き合った事がない」って事なんだぞ? 慎一:意味まんまじゃねぇか。考えるだけ無駄だったわ。 田中:周りの連中が、やれクリスマスだ、やれバレンタインだっつってキャッキャウフフしている間、俺がしてたことわかるか!? 慎一:ゲームだろ。 田中:あぁ、そうさ、ゲームだよ!! 田中:思春期の一番大事な時期をオンラインゲームに全て捧げた俺は!部活や勉強なんてやりもせず、放課後も夏休みも年の初めから終わりまでずーーーーーーっと家に引きこもってはゲーム三昧の日々だったんだよ!! 慎一:いやそれ逆に羨ましいぞ? 田中:お前らが大学のサークルでキャッキャウフフしてた時も、初めてのクリスマスデートでキャッキャウフフしてた時も、わざわざ親への挨拶に九州くんだりまで行ってキャッキャウフフしてた時もなぁっ!! 慎一:彼女の親の前でキャッキャウフフなんてするかぁっ!! 慎一:ってかなんでそこまで知ってんだよ…純粋にこえぇわ。 田中:結婚式の馴れ初めで言ってた。 慎一:…よく覚えてんな。 田中:(良い声で)記憶力は良い方です。 慎一:いやそれ仕事で発揮しろよ。 田中:それはそうっ!! 慎一:「それはそう!」じゃねぇんだよ。 慎一:つうか、どんだけぼっち拗らせてんだよ。いくら一度も付き合った経験ないからって「誰でもいい」はねぇだろ。 田中:だから来々軒の子と付き合いてぇっつってんだろぉ…。 慎一:……(溜息)わぁーったよ! 田中:っ! 慎一:…何すりゃいいの。 田中:おぉ、ブラザー!感謝するぜ! 慎一:何、もういちいちネタ挟まないと喋れない病気にでもなったわけ? 田中:こっちの方が楽しいだろ? 慎一:いや、楽しいっつうか疲れる。 田中:あはは、またまたぁ。 慎一:「またまたぁ」じゃねぇんだって、もういいから話進めろよ。 田中:オーケー、待たせたな、相棒。 慎一:待ちくたびれたわ。 田中:おめぇさんには、来々軒のチャイナ娘役をお願いした… 慎一:(被せて)断る。 田中:早ぁあああああいっ!!いや、断んのはーやーいー!!俺まだ喋ってる途中ぅぅぅうう!! 田中:うん、せめてもう少し悩んでぇ?そこはフリでも良いからさ。 慎一:悩む必要微塵もねぇだろ。じゃ、俺先戻るわ。 田中:待て待て待てぇーーーいっ! 慎一:離せ。 田中:離さないっ!意地でも離さない!! 慎一:お前はカニか。 田中:田中繋がりかよ。(笑) 慎一:うるせぇ、アンガールズじゃねぇよ。 田中:ちょっとだけ!ちょっとだけで良いから!! 慎一:いやだ、断る。 田中:お前に断るという選択肢はないっ!! 慎一:何でだよ、あるだろ。独裁者か。 田中:うるせー!どうせ俺は独身者だよ!! 慎一:言ってねぇよ。 田中:口では言ってなくてもなぁっ、お前の目がそう言っているんだよっ!! 慎一:あぁそうかよ、じゃあそうなんだろうよ。 田中:頼むよおおお、マジでこんな事頼めんのお前しかいないんだってぇぇえ。 慎一:嘘だろ、ゲーム友達いっぱいいるじゃねーか。 田中:ばっっかお前、ゲーム界じゃ俺「レジェンド」って呼ばれてんだぞ!! 慎一:微妙にダサイな。 田中:そんなトップランカーの俺が付き合った経験もない雑魚だって知られたらどうなると思う!? 慎一:別にどうもならないと思うけど? 田中:んなわけあるか! 田中:あんなネット亡者の巣窟でそんなのバレたら、すぐにSNSで叩かれて炎上して、ゲームでマッチしても「あいつ、付き合った歴イコール年齢のクソ雑魚だぜ(笑)」「えー、やっばぁ、どうせゲームしかやってこなかったヲタニートでしょー?キモォ(笑)」とか言ってアンチホイホイになるのが関の山だ!!! 慎一:実際違うんだから堂々としてりゃいいだろ。 田中:半分合ってんだよ! 田中:お前だって、会社の奴らに野外で嫁とごっこ遊びして楽しんでるなんてバレたら(口を塞がれる)モゴモゴモゴッ!! 慎一:やめろ馬鹿!!誰かに聞かれたらどーすんだよ!? 田中:~~~ぷはっ!とにかく頼むよ!ちょっとだけで良いから!俺もラブコメみたいな甘酸っぱいやつやりたいんだよー。 慎一:………。 田中:なぁー?お願い!ほんとちょっとで良いからさ! 慎一:………。 田中:な?なっ? 慎一:………。 田中:今度しゃぶしゃぶ奢るから。 慎一:……しかたねぇな、ちょっとだけだぞ? 田中:サンキュー! 慎一:で?何すればいいの俺。 田中:お前は今からチャイナ娘だ!可愛いチャイナ娘になりきってくれればいい! 慎一:はぁ?いや俺チャイナ娘なんてわかんねぇよ。 田中:ダイジョーブダイジョーブ。はい、チャイナ娘っぽい足! 慎一:あ、足!? 田中:チャイナ娘っぽい手! 慎一:手…? 田中:チャイナ娘っぽい顔! 慎一:………。 田中:チャイナ娘っぽい声! 慎一:「お餅はつぶあん派アル♪」って流れ星のネタじゃねぇかコレッ!!ふざけてんのかお前! 田中:俺はふざけてなんかいない、その証拠にほら、ガラスに映ったお前自身を見てみろ。 慎一:……? 田中:すっかりチャイナ娘だ。 慎一:どっからどう見てもキモい立ち姿のサラリーマンだよ! 田中:いーんだよ。こーゆーのは気持ちが大事なんだから、さっ☆ 慎一:うっせぇわ、気持ちの方がよりサラリーマンでありたいに決まってんだろ。 田中:よし、良い心意気だ。 慎一:お前もう黙れよ…。 田中:じゃあ、行くぞ。 慎一:あーもう好きにしろ。 : 0:ここからなりきり(?) : 田中:あっ、こんにちわ! 慎一:イラッシャイアルー、今日は何にするアルかー? 田中:あ…、そうだな、今日のオススメは? 慎一:ソウネー、ザーサイとメンマアルねー。 田中:…、随分コアなオススメだね。(笑)じゃあ、ザーサイとレバニラ炒めで。 慎一:カシコマリマシタアルー。 田中:あっ!あのさ! 慎一:…どうしたアルか? 田中:今日…仕事何時に終わる…? 慎一:(素で)個人情報を他人の、それも男に教える馬鹿がどこにいんだよ…アル。 田中:あ、だよな…。それじゃあ、終わるまで待ってても、いいかな…? 慎一:(素で)いいわけねぇだろ、ストーカーか!…アルヨ♪ 田中:そ、そうだよね、ごめん…。 慎一:(冷たく)そもそも友達でもないやつにいきなりタメ口きくってどんだけ馴れ馴れしいんだよお前、いっぺん帰ってマナー講座でも受けてこいよこのザーサイ野郎…アルネ♪ : 0:なりきり(?)終了 : 田中:おぉおおおいっ!そんな感じ!?そんな感じだったかなぁ、あの子!?俺にはもう少し可愛らしく見えたんだけど、お前の目にはどんな風に映ってたのか滅茶苦茶気になるなぁあ!?しかも雑に「アル」なんて付け加えてたけど、そもそも「アル」とか言ってんのも聞いた事ないしさぁ!! 慎一:いや…まぁ、実際はそんな事言わないだろうけど、それにしてもなんなのお前。 慎一:急にグイグイ距離詰めすぎだし、必死過ぎてなんか怖い。 田中:えー、そうかぁー?でもこのぐらい行かないとお近づきになれないだろ? 慎一:あのさ、常識的に考えて、あんな込み合ってる時間帯にそんなやり取りできると思ってんの? 田中:………無理だな。 慎一:だろ?しかも相当大声出さないと絶対聞えないぞ?お前、ごった返した店ん中で大声で言えんの、あれ。 田中:…無理ゲー。 慎一:だろうな。 田中:じゃあ、仲良くなる所までは自力でどうにか頑張る!だから取りあえず今は告白のシミュレーションをさせてくれ! 慎一:えー、もうめんどくせぇよー。 田中:あとちょっと!これだけ!なっ!? 慎一:あーーーー、わぁったよ。 : 0:ここからなりきり(?)パート2 : 田中:あ、チャイナ子ちゃん! 慎一:待った? 田中:全然! 慎一:それで、話って…? 田中:あ、あの…初めてお店で君の事を見たときからずっと気になってたんだ! 慎一:え…。 田中:良かったら付き合ってくれないかな!? 慎一:そ、そんな、急に言われても……。 : 0:なりきり(?)パート2終了 : 慎一:って、おい。 田中:チャイナ子ちゃん…。 慎一:顔近づけんなバカ。 慎一:って言うか待て、これは何だ。 田中:…壁ドン。 慎一:だよな。で?この左手は? 田中:(チャラく)壁ドンからのー、顎クイ。 慎一:「からのー」じゃねぇんだよ!(田中の頭を叩く) 田中:いって!!頭叩くなよー。 慎一:えぇー…もうコワいコワいコワい。 田中:…何が。 慎一:ねぇお前何しよーとしてんの?付き合ってもない女性に向かって。 田中:え、なんで?壁ドンも顎クイも女子がキュンと来る仕草だろ? 慎一:うん、それ完全に相手によるな。 慎一:しかもシレっと足の間にお前の膝ねじ込んでくんじゃねえよ! 田中:雑誌に書いてあったんだよ!「これぞ股ドン!されたらドキッとする男性の足技」って! 慎一:参考にするヤツ間違ってんだよ!って言うか関係性を考えろ!付き合ってもない男にそんなことされて喜ぶのなんざ余程男の顔面偏差値が高くねぇと絶対無理だからな!! 慎一:とりあえず、お前は、間違いなく通報される。 田中:なんでだよ!! 慎一:何でもだよ!!いっぺんトイレで鏡見て来てから出直せ馬鹿!! : 0:ここからたまたま喫煙しに来た部長がドアの隙間から覗きだす : 慎一:(溜息)…もういいから取りあえず離れろ。 田中:俺の何処がいけないって言うんだ! 慎一:そーゆーとこだよ!しつけぇんだって、お前。 田中:俺の何処がしつこいんだよ! 慎一:全部だよ!!……もー、疲れんだよ、お前といると。 田中:何だよ、それ…。 慎一:(溜息) 田中:っ、つーか、最後まで言わせろよ。 慎一:何をだよ。 田中:俺の(チャイナ子への)気持ちに決まってるだろ。 慎一:もういいよ、俺疲れた。 田中:ふざけんなよ、今更。 慎一:ちゃんと付き合っただろ?いい加減にしてくれ。 田中:男なら最後まで責任持てよ。 慎一:はぁ? 田中:男が一度やるって言ったことを反故(ほご)にすんのかよ。 慎一:……わかったよ。 田中:……「好きだ。初めて会った時から本気で好きなんだ…、結婚してほしい。」 : 0:ここで部長に気づく二人 : 慎一:(同時に)!! 田中:(同時に)!! 慎一:……ぶ、ちょう…。 田中:あ………お疲れ様です、部長…。 慎一:お疲れ様です………。 田中:あー、そうっすね、そろそろ時間ですね、ありがとうございます。 田中:………え?あっ、これ…ですか?あー………。 慎一:田中がっ!! 田中:…? 慎一:こ、今度知り合いと演劇するらしくて、その演技の練習相手になってました。 田中:え…? 慎一:そうなんですよー、ねー、人は見かけに寄らないって本当ですよねー、あははは。 田中:ちょっ…。 慎一:いやぁ、それが何処でやるとかは僕も教えてもらえなくてー、やっぱり知り合いに見られるのは恥ずかしいんでしょうねー、はははは。 田中:おい…。 慎一:じゃあ、僕達はそろそろ戻りますんで、部長はごゆっくりー。 : : : 0:翌日、喫煙室にて : 田中:よくもあんな嘘ついてくれたな。 慎一:あ?何が。 田中:俺が演劇やってるって! 慎一:あー、でもあぁ言うしかなかったろ、あの状況じゃ。 田中:つくにしてももっとマシな嘘あっただろ! 慎一:無茶言うなよ。 慎一:同僚に「壁ドン」「顎クイ」「股ドン」の3コンボされてるところを上司に見られたんだぞ、他にどう誤魔化せっつーんだよ。 田中:そぉーかもしれないけどさぁー。 田中:……お陰で、朝から部長に質問攻めされる羽目になったんだぞ。 慎一:何て? 田中:「いつから演劇をやっていたんだ?」「公演はするのか?」「知り合いに演者志望の子がいるんだけど良かったら使ってくれないか?」って。 慎一:へっ。(笑) 田中:お前、まさかだけど、部長が演劇好きって知ってて言ったんじゃないよな? 慎一:………いや? 田中:何だよ今の間は!? 慎一:いや、知らなかったって。 慎一:(小声)…まぁ、前に部長から劇団四季のチケットが余ったからって貰ったことはあったけど…。 田中:アウトじゃねぇかこの野郎っ! 慎一:おいヤメロッ!火ついてんだぞ!? 田中:…ん? 田中:なぁ、あれ。課長が呼んでね? 慎一:……お前の事だろ。さっさと行って来いよ。 田中:えー、何だろ。資料の直しかな…それとも裏に落書きしたのバレたか…? 0:出ていく田中 慎一:……何やってんだよアイツ。 : 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:………。 慎一:お帰り。 田中:………。 慎一:へっ。(笑)結構こってり絞られたみたいだな。 慎一:つうかお前さぁ、いくら何でも仕事で使う書類に落書きは無いだろー。小学生か。(笑) 田中:………。 慎一:ま、そんなに落ち込むなよ。仕事で挽回すればいいんだから、な? 田中:……昨日の話、課長に知られてた。 慎一:………は? 田中:………。 慎一:……何て、言われたの? 田中:……「このご時世、恋愛は自由だし性別や年の事でとやかく言うつもりはないけど、不倫はダメだ」って。 慎一:(絶句)………。 田中:「そもそも、ウチ社内恋愛禁止だから、いい機会だし未練は断ち切って彼とは良い同僚として頑張れ。もし、気になって仕事が出来ないようなら移動の希望も聞くからいつでも相談してこい」って、優しく諭された…。 慎一:あーーー…。(遠い目) 田中:くっ、昨日のを知られた上になんか変な誤解をされてる事よりも、課長が良い人過ぎて泣けるわ…。 慎一:ほんと、それなー。 慎一:ついでに海外転勤にしてもらえよお前。 田中:やだよ、アホか。 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:あー、死にてぇ。 慎一:わかりみが深すぎてマントル突き抜けそう。 田中:……俺、ちょっとダメージデカすぎて…足に力入んねぇ。寄りかかっていい? 慎一:ふっざけんな!灰皿越えてきたら火ぃ着いたタバコお前の鼻にねじ込むからな。 田中:鼻フックよりひでぇ…。 慎一:あたりめぇだろ。 田中:…あー、なんか美味いもんでも食べて憂さ晴らししてぇなぁー…。 田中:なぁっ、今夜しゃぶしゃぶ行かね?約束通り俺の奢りでいいからさ。 慎一:いや、課長の記憶が消失するまではお前とは飯行かね。 田中:どこの秘密組織だよ。MIBかって。 慎一:いやー、便利だよなー、あの記憶消す秘密道具。 田中:あぁ、あのピカーって光るやつ? 慎一:そう。アレあったらお隣さんと部長と課長とお前に使うわ。 田中:俺もかよ。(笑) 慎一:お前もだよ。(笑) : 0:火を消す慎一 : 田中:あれ?もう戻んの? 慎一:あぁ、この後ミーティングあるからな。 田中:そっか。 慎一:あ、そーだ、約束のしゃぶしゃぶ忘れんなよ。 田中:は?でもさっき行かないって…。 慎一:お前とはな。 田中:……? 慎一:嫁と行くからぁぁあ。 田中:あー、そーゆー事。 田中:くぅーっ、羨ましいぜ! 慎一:お前も早く相手見つけろよ。(笑) 田中:うるせぇ。俺はチャイナ子ちゃんと付き合うんだよ!(笑) 慎一:まーだ言ってら。はははっ。 田中:あ・た・り・ま・え・だ! : 田中:じゃ、奥さんによろしく言っといて。(笑) 慎一:おう。 : 慎一:……あ、店は先月接待で使った西麻布の極上プレミアムコースな。じゃ、おっ先~♪ 田中:………はっ!?ってそれ、一人4万もする高級しゃぶしゃぶ屋じゃねぇか!!!! 田中:……くっそぉー、ぼられた。 : : :

0:影響を受けやすい、同僚(?) : : : 0:オフィスにて、課長と話す慎一 : 慎一:……はい、…はい、山陽物産の見積もりと市場データですね、……わかりました。 慎一:はい、失礼します。 : 慎一:………ふぅ。 田中:お疲れーい。 慎一:おう。 0:以降タイピングしながら適当に相槌を打つ慎一 田中:……なぁ。 慎一:ん? 田中:今日昼めし、来々軒いかね? 慎一:あぁ、別にいいよ。 田中:っしゃあ。 慎一:…? 田中:…あー、へへっ。実は俺さ、最近ちょっと気になる子が出来たんだよねぇ~。 慎一:へぇ? 田中:来々軒に新しく入った子で、前髪ぱっつんのチャイナ系の子なんだけど、橋本環奈似でむっっちゃくちゃ可愛いーのよ。 慎一:…へー。 田中:店入るとさ、カタコトの日本語で「イラシャイマセー」って言ってくれんだけど、もうそれが死ぬほどキュートなの。 慎一:ほぉーん。 田中:笑った時に覗く八重歯とか、お辞儀した時にサラって落ちる髪の毛とか、どこを取ってもパーフェクト! 慎一:ふーん。 田中:かまぼこ型のでっかい目もさ、絶妙にウルウルしてて、保護欲を掻き立てられるっちゅーか、俺の心をグッと掴んで離さないんだわコレがっ。 慎一:ヘー。 田中:注文の時にあんな瞳向けられたらそりゃあもう頼みすぎもしちゃうって。食いきれもしねぇのによ。(笑) 慎一:ほぉーん。 田中:……おい。 慎一:あ? 田中:さっきから何なんだよ! 慎一:何が。 田中:その返事だよ!その「興味ありませーん」って言う感じの素っ気ない返事ぃ。 慎一:………。 田中:ちゃんと話聞いてんのかぁ!? 慎一:いや仕事しろよ。ここどこだと思ってんだよ職場だぞ?なんなら目の前に課長のデスクあるんだぞ? 田中:………。 慎一:ったく…、どーゆー神経してんだよ。 慎一:…今更だけどな、さっきからずっと睨まれてるぞお前。 田中:は?誰に? 慎一:割と尋常じゃない表情の課長に。 田中:っ!? : 0:振り返って鬼の形相の課長を見る田中 : 田中:あっ……すみません。……はい、勿論大丈夫ですっ。午前中の分はあと少しで終わるんで! 田中:………え?…来週の会議の分?え…、いや、それさっきまで佐伯が……えっ!?…いやっ別に暇と言うわけ、では………はい、わかりました。十六時までにですね。………はい、すみませんでした。 慎一:………。 田中:(小声)……気づいてたんなら早く言えよ。 慎一:仕事中に無駄口叩くやつが悪い。 田中:…くっ。 慎一:………。 田中:………。 慎一:………。 田中:そういえばさ。 慎一:あ? 田中:夏にあった重森町の祭りで… 慎一:(被せて)お前今の今でよく世間話しようと思えるな。 田中:課長ならもう居ないぜ。 慎一:あ?……あぁ…休憩行ったのか。 田中:な?…で、その祭りにお前奥さんと来てただろ。 慎一:……あぁ、アレな。 田中:浴衣姿の奥さん、まーじ可愛かったなー。 田中:結婚式ん時もさぁ、純白のウエディングドレスが小柄で色白なのに凄くマッチしててめっちゃくちゃ可愛かったけど、やっぱ日本人は浴衣に限るよなー。細い首筋とうなじが妙に男心をくすぐるっつうか。 慎一:やめろ、人の嫁に何言ってんだお前、はっ倒すぞ。 田中:いやいや別にそーゆー意味じゃねぇって。俺は全浴衣女子に対して言ってんの。 慎一:…良かったな、女性社員がみんな昼休憩で席立ってて。 田中:はぁ?何でだよ。 慎一:なんでもねぇよ。 田中:……? 田中:あ…でさ、俺が聞きたかったのは…、あん時お前ら言い合いしてたろ? 慎一:は…? 田中:夏祭りの会場でだよ!奥さんすんげぇ必死な感じでお前に縋り付いてたじゃん。「嫌いにならないでー!」とか言って。 慎一:っ!………気のせいだろ。 田中:いやいやいや、気のせいで済むレベルの雰囲気じゃなかったぞ? 田中:「私が何かしたなら謝るから!」って結構ガチめのトーンだったじゃねぇか。 慎一:………。 田中:…もしかしてお前んち、結構…仲やばい感じ? 慎一:(被せて)忘れろ!!! 田中:え…。 慎一:あの日お前は何も見てないし、何も聞いてない。 田中:いや、でも…。 慎一:あの日俺達は会わなかった。いや、むしろお前は夏祭りになんて行っていないそうだろ?あぁっ?えぇっ?そーだろぉっ!? 田中:…え、えぇ…? 慎一:賢いそのオツムからあの日の記憶を全て抹消しろ!今すぐにだ!いいな、わかったか!? 田中:…おう、わかっ…た。 慎一:…よし。(息を吐く) 田中:(小声)なんかヤバい組織にでも入ってんのか、コイツ…。 慎一:行くか。 田中:えっ!?ど、どこに…? 慎一:飯、来々軒に食いに行くんだろ? 田中:……あぁ、うん。 慎一:行くぞ。 田中:…はい。 : : : 0:喫煙室にて : 田中:…つまりあの言い合いは、「ごっこ遊び」の延長線であり実際に喧嘩してたわけではない、と。 慎一:……あぁ。 田中:ふーん…?要するにあれか、日頃から奥さんとそう言う特殊な遊びを嗜(たしな)んでいたお前は… 慎一:(被せて)「たしなむ」って言うな。あと「特殊」もやめろ! 田中:ははっ、わりぃわりぃ。(笑) : 田中:で、アニメにどハマリした結果、キャラになりきって実際に自分たちで青春ラブコメをやってみようって事になり、ていよく見つけた遠方の夏祭りで仲良くデートをしてた所をたまたま一人で来ていた俺に運悪く目撃された…っつうわけか。 慎一:……あぁそーだよ。ありがとな、わざわざ要約してくれて。 田中:なるほどねー。いやぁー、あるよなーそーゆーの。俺も時々洋画の真似してダチにLINE送るときあるわー。(笑) 田中:「いい知らせと悪い知らせがある、どっちから聞きたい?」とか。(笑) 慎一:おい。 田中:「なぁ、頼むよ。これ以上俺を困らせないでくれ」とかさー。(笑) 慎一:おい。 田中:だけど、流石に外でやる勇気は俺にはないわー。(笑) 慎一:おいっっ!!! 田中:うわっ、な、なんだよ、いきなりでけぇ声出して。 慎一:俺忘れろって言ったよな?今すぐに記憶消せって言ったよな!? 田中:いや、記憶消せは無理だろ。MIBかって。それこそ映画に影響されすぎだろ… 慎一:(被せて)おい、マジでヤルぞ? 田中:わーっ、悪かった、冗談だって! 慎一:…ホントやめてくれよ。ただでさえあの後めちゃくちゃ後悔したんだから…。 田中:だろうな。(笑) 田中:嫁とイチャイチャしながらごっこ遊びしてるとこを知り合いになんて見られたら俺でも死にたくなるぜ。(笑) 慎一:ふっざけんなよ…マジで。 田中:いやでもいいじゃん。仲が良くてさ。しかも見られたの俺だけなんだろ? 慎一:…あーいや、それがさ…あの場に偶然ウチの親父と…お隣さんも居合わせてて…。 田中:なんだって…嘘だろ…?そりゃあタチの悪いジョークじゃすまねぇぞ、マイケル。 慎一:死にたいようだな、ジャック。 田中:わりぃわりぃ冗談だよ!そんな怒んなってー。 慎一:ふんっ! : 田中:え…、まさか二人にも見られた? 慎一:いや、親父はどうかわかんねぇけど……。 田中:あちゃー、マジかー…。え、それ、確定? 慎一:あぁ。後から隣の奥さんに直接「見かけたわよ」って言われたからな、間違いねぇよ。わざわざ丁寧に祭りの差し入れまで持って来たんだぜ。(泣) 田中:うっわ、最っ悪…。 慎一:(溜息)今後外でふざけんのだけは絶っ対にやめようなって、嫁と固く誓ったわ。 慎一:ま、完全に後の祭りだけどな。 田中:おっ?祭りで失敗しただけにーってか。(笑) 慎一:(拳を振り上げる)っ!! 田中:ごめんなさい!! : 田中:まぁでも、それ自体は楽しそうだよなー。 慎一:それ自体って? 田中:嫁とごっこ遊びだよ! 慎一:あー…まぁな。お互い映画とかアニメは元々好きだったし? 慎一:あんま大っぴらに言える趣味ではないけどさ、日常生活の中でなんかの役になりきって遊ぶのって割と楽しめるっつーか、やってみると案外面白いぞ。 田中:マジかー。例えば? 慎一:んー、俺らがやったのは、ゾンビ映画っぽく料理するとか? 田中:やっべ、何だよそれ。(笑) 田中:ゾンビみたく生肉に「ヴァー」とか言いながらかぶりつくのか? 慎一:いや、流石にそこまではしねぇ。(笑) 田中:ははっ、生肉はマズいか。(笑) 田中:え、あとはあとは? 慎一:あとは…んー、そうだな、旅行先で食レポとかナレーション挟んで旅番組っぽくしてみたり、SFもんのキャラになりきって家ん中探索したり、とか…? 田中:へぇー。面白そうな事やってんなー。 慎一:あ、この間、俺が財布忘れて昼飯食えなかった時あったろ? 田中:あぁ、そーいや、そんなこともあったな。 慎一:あの日もさ、家帰ったら突然玄関先で「このメールの女だれよ!?」って修羅場みたいなガチ目の芝居仕掛けてきてさ。 田中:おいお前っ、まさか浮気してんのか!? 慎一:いや、本当にしてるわけじゃなくてただのなりきりだよ、なりきり。 慎一:あん時、丁度嫁が昼ドラにハマってたらしくて。 田中:昼ドラぁ?あんな若いのに昼ドラなんて見んの? 慎一:若いっつっても俺らとタメだけどな。 田中:マジか、見えねぇわー。 慎一:ぶっちゃけ昼抜きで突然深夜に閉め出された時はマジ泣きしそうだったわ。 田中:えげつねぇな(笑) 慎一:だろ?(笑) 田中:でもいいなぁー、俺もやってみてぇー。 慎一:やればいいじゃん。 田中:相手がいねぇよ!嫁どころか彼女すらいねぇわ!紹介しろよ! 慎一:はぁ?やだよ、ちょ、縋るな!離せっ。 田中:なんでだよ!自分ばっかホイホイ結婚しやがってぇー! 慎一:ホイホイってなんだよ!人をゴキブリみたいに言うな! 田中:リア充なんか皆ゴキブリと一緒じゃ!アースジェットで駆逐してやるっ! 慎一:っ!?げっほごっほ!!ばっか、やめろ!こっちに煙吹きかけんな! : 0:喫煙室に人が入ってくる : 慎一:(同時に)…お疲れ様です。 田中:(同時に)…お疲れ様でーす。 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:(タバコを吸う)………。 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:(タバコを吸う)………。 慎一:あ、はい…わかりました、お疲れ様です。 田中:週末っすね、また社内メールで、……はい、あ、うぃっす、お疲れ様でーす。 : 慎一:……お前さー、良く他部署の上司とそんな気やすく話せるよな。 田中:あ?なんで?普通じゃね? 慎一:お前の普通が世の中の共有認識だと思うなよ。 田中:そうかぁー?皆こんなもんだと思うけどなー。 慎一:…まさかお前、営業先でもそんな感じじゃねぇよな? 田中:いや?こんな感じだぜ? 慎一:……なんでそれで契約とって来れるのか謎だわ。 田中:そりゃあ、俺の実力の賜物(たまもの)だろ。 慎一:…バカも実力の内か。 田中:おいっ、失礼か!! : 田中:……なぁ。 慎一:あ? 田中:さっきの話だけどさ。 慎一:なんだよ、またぶり返す気か…? 田中:いや、違うって!来々軒の女の子の話! 慎一:飛ぶなぁ…。 田中:マジでいい子じゃねぇ?あの子! 慎一:まぁ、可愛いし、礼儀正しくて元気だしいい子そうだったな。 田中:だろぉー?俺、ここだけの話、ワンチャン狙ってんのよ。 慎一:いや無理だろ。 田中:何でだよっ!! 慎一:だって彼女何歳よ。明らかにお前より五つは下だろ。 田中:恋愛に年齢は関係ない! 慎一:下手すりゃお前捕まるぞ? 田中:いや……え?流石に未成年は、なくね? 慎一:わかんねぇぞ? 田中:……うーん…でもさ、それって裏を返せば「猶予がある」って事だよなっ? 慎一:は? 田中:もし未成年だったらさ、すぐに結婚とかにはならないわけじゃん?年については彼女が成人するまで俺が待てばいいわけだし。そうすると、付き合うまでの間に俺の良い所を存分にアピれるって事になるだろ! 慎一:(呆れて)あー…、そもそも返す裏が無い上に?既に結婚を視野に入れてる事も含め、年齢さえどうにかなれば付き合えるって思えるその頭がスゴイワー。流石田中。(拍手) 田中:拍手やめろっ! 田中:いや、流石にそこまではうぬぼれてねぇよ。 田中:彼女いない歴イコール年齢の俺みたいな一般人があんな可愛い子と付き合う為には、多少無理してでも超えなきゃいけねぇハードルがいくつかあるって事くらいは俺にだって十分理解できてる。 慎一:あ、マジか。何か色々と衝撃だわ。 田中:そこでだ!恋愛レベル1のかけだし勇者、つまり俺な?その俺から、その年で結婚まで果たした「恋愛マスター」に恥を承知で頼みがあるんだ! 慎一:れんあいますたぁ??何だそれ。 田中:婚活サイト使ってもマッチングアプリ使っても彼女すら出来ねぇこのご時世に、大学の飲み会で知り合った彼女と数年間のお付き合いの末にゴールインしてて恋愛マスターじゃなくして何のマスターだよ!バーのマスターか?あ? 慎一:いやバーのマスターなわけあるか!行った事すらねぇのに。 慎一:そもそも簿記とアニメぐらいしかマスターしてねぇわ! 田中:はいはい、わかりましたわかりました。それで?俺の頼みを聞いてくれるんですか?飲み会マスター。 慎一:誰が飲み会マスターだ。地球ブルース337か! 田中:ははは。 慎一:愛想笑いしてんじゃねぇよ。付き合わされてんのコッチだぞ? 田中:ナイスツッコミー。 慎一:うるせぇ、鼻フックするぞ。 田中:やめろ、それは地味に痛ぇ。 田中:いや、まじで頼むよ。お前しかいないんだって、こんなお願いできんの。 慎一:……(溜息)、あぁそーかよ。 0:イラついた様子で煙草に火を点ける慎一 慎一:で何?頼みって。 田中:やってくれんのか!?いやぁー、神!マジ仏!!流石飲み会マスター! 慎一:鼻フックされてぇか? 田中:ははは。 慎一:おいっ! 田中:冗談冗談。(笑) 慎一:お前な、冗談って言ったら全て許されると思うなよ?愛想笑いに冗談もクソもねぇからな。 田中:んで、お願いって言うのは。 慎一:おい無視か。 田中:まぁ聞けよ。 慎一:(溜息) 田中:俺は、来々軒の女の子に告白する予行練習がしたいんだ! 慎一:……なぁ、それ頼む相手間違えてね? 田中:何でだよ。 慎一:普通そう言うのって女性に頼むもんじゃね? 田中:居たら苦労しねぇんだよ!そもそもそんな事頼める女が居たら寧ろそいつに告ってるわ!! 慎一:おいおい見境ねえな。誰でもいいのかよ。 田中:誰でもイイッ!! 慎一:いいのか。末期だな。 田中:あのなぁ、考えてもみろよ。ぼっち歴イコール年齢って事は、「産まれてこのかた一度も付き合った事がない」って事なんだぞ? 慎一:意味まんまじゃねぇか。考えるだけ無駄だったわ。 田中:周りの連中が、やれクリスマスだ、やれバレンタインだっつってキャッキャウフフしている間、俺がしてたことわかるか!? 慎一:ゲームだろ。 田中:あぁ、そうさ、ゲームだよ!! 田中:思春期の一番大事な時期をオンラインゲームに全て捧げた俺は!部活や勉強なんてやりもせず、放課後も夏休みも年の初めから終わりまでずーーーーーーっと家に引きこもってはゲーム三昧の日々だったんだよ!! 慎一:いやそれ逆に羨ましいぞ? 田中:お前らが大学のサークルでキャッキャウフフしてた時も、初めてのクリスマスデートでキャッキャウフフしてた時も、わざわざ親への挨拶に九州くんだりまで行ってキャッキャウフフしてた時もなぁっ!! 慎一:彼女の親の前でキャッキャウフフなんてするかぁっ!! 慎一:ってかなんでそこまで知ってんだよ…純粋にこえぇわ。 田中:結婚式の馴れ初めで言ってた。 慎一:…よく覚えてんな。 田中:(良い声で)記憶力は良い方です。 慎一:いやそれ仕事で発揮しろよ。 田中:それはそうっ!! 慎一:「それはそう!」じゃねぇんだよ。 慎一:つうか、どんだけぼっち拗らせてんだよ。いくら一度も付き合った経験ないからって「誰でもいい」はねぇだろ。 田中:だから来々軒の子と付き合いてぇっつってんだろぉ…。 慎一:……(溜息)わぁーったよ! 田中:っ! 慎一:…何すりゃいいの。 田中:おぉ、ブラザー!感謝するぜ! 慎一:何、もういちいちネタ挟まないと喋れない病気にでもなったわけ? 田中:こっちの方が楽しいだろ? 慎一:いや、楽しいっつうか疲れる。 田中:あはは、またまたぁ。 慎一:「またまたぁ」じゃねぇんだって、もういいから話進めろよ。 田中:オーケー、待たせたな、相棒。 慎一:待ちくたびれたわ。 田中:おめぇさんには、来々軒のチャイナ娘役をお願いした… 慎一:(被せて)断る。 田中:早ぁあああああいっ!!いや、断んのはーやーいー!!俺まだ喋ってる途中ぅぅぅうう!! 田中:うん、せめてもう少し悩んでぇ?そこはフリでも良いからさ。 慎一:悩む必要微塵もねぇだろ。じゃ、俺先戻るわ。 田中:待て待て待てぇーーーいっ! 慎一:離せ。 田中:離さないっ!意地でも離さない!! 慎一:お前はカニか。 田中:田中繋がりかよ。(笑) 慎一:うるせぇ、アンガールズじゃねぇよ。 田中:ちょっとだけ!ちょっとだけで良いから!! 慎一:いやだ、断る。 田中:お前に断るという選択肢はないっ!! 慎一:何でだよ、あるだろ。独裁者か。 田中:うるせー!どうせ俺は独身者だよ!! 慎一:言ってねぇよ。 田中:口では言ってなくてもなぁっ、お前の目がそう言っているんだよっ!! 慎一:あぁそうかよ、じゃあそうなんだろうよ。 田中:頼むよおおお、マジでこんな事頼めんのお前しかいないんだってぇぇえ。 慎一:嘘だろ、ゲーム友達いっぱいいるじゃねーか。 田中:ばっっかお前、ゲーム界じゃ俺「レジェンド」って呼ばれてんだぞ!! 慎一:微妙にダサイな。 田中:そんなトップランカーの俺が付き合った経験もない雑魚だって知られたらどうなると思う!? 慎一:別にどうもならないと思うけど? 田中:んなわけあるか! 田中:あんなネット亡者の巣窟でそんなのバレたら、すぐにSNSで叩かれて炎上して、ゲームでマッチしても「あいつ、付き合った歴イコール年齢のクソ雑魚だぜ(笑)」「えー、やっばぁ、どうせゲームしかやってこなかったヲタニートでしょー?キモォ(笑)」とか言ってアンチホイホイになるのが関の山だ!!! 慎一:実際違うんだから堂々としてりゃいいだろ。 田中:半分合ってんだよ! 田中:お前だって、会社の奴らに野外で嫁とごっこ遊びして楽しんでるなんてバレたら(口を塞がれる)モゴモゴモゴッ!! 慎一:やめろ馬鹿!!誰かに聞かれたらどーすんだよ!? 田中:~~~ぷはっ!とにかく頼むよ!ちょっとだけで良いから!俺もラブコメみたいな甘酸っぱいやつやりたいんだよー。 慎一:………。 田中:なぁー?お願い!ほんとちょっとで良いからさ! 慎一:………。 田中:な?なっ? 慎一:………。 田中:今度しゃぶしゃぶ奢るから。 慎一:……しかたねぇな、ちょっとだけだぞ? 田中:サンキュー! 慎一:で?何すればいいの俺。 田中:お前は今からチャイナ娘だ!可愛いチャイナ娘になりきってくれればいい! 慎一:はぁ?いや俺チャイナ娘なんてわかんねぇよ。 田中:ダイジョーブダイジョーブ。はい、チャイナ娘っぽい足! 慎一:あ、足!? 田中:チャイナ娘っぽい手! 慎一:手…? 田中:チャイナ娘っぽい顔! 慎一:………。 田中:チャイナ娘っぽい声! 慎一:「お餅はつぶあん派アル♪」って流れ星のネタじゃねぇかコレッ!!ふざけてんのかお前! 田中:俺はふざけてなんかいない、その証拠にほら、ガラスに映ったお前自身を見てみろ。 慎一:……? 田中:すっかりチャイナ娘だ。 慎一:どっからどう見てもキモい立ち姿のサラリーマンだよ! 田中:いーんだよ。こーゆーのは気持ちが大事なんだから、さっ☆ 慎一:うっせぇわ、気持ちの方がよりサラリーマンでありたいに決まってんだろ。 田中:よし、良い心意気だ。 慎一:お前もう黙れよ…。 田中:じゃあ、行くぞ。 慎一:あーもう好きにしろ。 : 0:ここからなりきり(?) : 田中:あっ、こんにちわ! 慎一:イラッシャイアルー、今日は何にするアルかー? 田中:あ…、そうだな、今日のオススメは? 慎一:ソウネー、ザーサイとメンマアルねー。 田中:…、随分コアなオススメだね。(笑)じゃあ、ザーサイとレバニラ炒めで。 慎一:カシコマリマシタアルー。 田中:あっ!あのさ! 慎一:…どうしたアルか? 田中:今日…仕事何時に終わる…? 慎一:(素で)個人情報を他人の、それも男に教える馬鹿がどこにいんだよ…アル。 田中:あ、だよな…。それじゃあ、終わるまで待ってても、いいかな…? 慎一:(素で)いいわけねぇだろ、ストーカーか!…アルヨ♪ 田中:そ、そうだよね、ごめん…。 慎一:(冷たく)そもそも友達でもないやつにいきなりタメ口きくってどんだけ馴れ馴れしいんだよお前、いっぺん帰ってマナー講座でも受けてこいよこのザーサイ野郎…アルネ♪ : 0:なりきり(?)終了 : 田中:おぉおおおいっ!そんな感じ!?そんな感じだったかなぁ、あの子!?俺にはもう少し可愛らしく見えたんだけど、お前の目にはどんな風に映ってたのか滅茶苦茶気になるなぁあ!?しかも雑に「アル」なんて付け加えてたけど、そもそも「アル」とか言ってんのも聞いた事ないしさぁ!! 慎一:いや…まぁ、実際はそんな事言わないだろうけど、それにしてもなんなのお前。 慎一:急にグイグイ距離詰めすぎだし、必死過ぎてなんか怖い。 田中:えー、そうかぁー?でもこのぐらい行かないとお近づきになれないだろ? 慎一:あのさ、常識的に考えて、あんな込み合ってる時間帯にそんなやり取りできると思ってんの? 田中:………無理だな。 慎一:だろ?しかも相当大声出さないと絶対聞えないぞ?お前、ごった返した店ん中で大声で言えんの、あれ。 田中:…無理ゲー。 慎一:だろうな。 田中:じゃあ、仲良くなる所までは自力でどうにか頑張る!だから取りあえず今は告白のシミュレーションをさせてくれ! 慎一:えー、もうめんどくせぇよー。 田中:あとちょっと!これだけ!なっ!? 慎一:あーーーー、わぁったよ。 : 0:ここからなりきり(?)パート2 : 田中:あ、チャイナ子ちゃん! 慎一:待った? 田中:全然! 慎一:それで、話って…? 田中:あ、あの…初めてお店で君の事を見たときからずっと気になってたんだ! 慎一:え…。 田中:良かったら付き合ってくれないかな!? 慎一:そ、そんな、急に言われても……。 : 0:なりきり(?)パート2終了 : 慎一:って、おい。 田中:チャイナ子ちゃん…。 慎一:顔近づけんなバカ。 慎一:って言うか待て、これは何だ。 田中:…壁ドン。 慎一:だよな。で?この左手は? 田中:(チャラく)壁ドンからのー、顎クイ。 慎一:「からのー」じゃねぇんだよ!(田中の頭を叩く) 田中:いって!!頭叩くなよー。 慎一:えぇー…もうコワいコワいコワい。 田中:…何が。 慎一:ねぇお前何しよーとしてんの?付き合ってもない女性に向かって。 田中:え、なんで?壁ドンも顎クイも女子がキュンと来る仕草だろ? 慎一:うん、それ完全に相手によるな。 慎一:しかもシレっと足の間にお前の膝ねじ込んでくんじゃねえよ! 田中:雑誌に書いてあったんだよ!「これぞ股ドン!されたらドキッとする男性の足技」って! 慎一:参考にするヤツ間違ってんだよ!って言うか関係性を考えろ!付き合ってもない男にそんなことされて喜ぶのなんざ余程男の顔面偏差値が高くねぇと絶対無理だからな!! 慎一:とりあえず、お前は、間違いなく通報される。 田中:なんでだよ!! 慎一:何でもだよ!!いっぺんトイレで鏡見て来てから出直せ馬鹿!! : 0:ここからたまたま喫煙しに来た部長がドアの隙間から覗きだす : 慎一:(溜息)…もういいから取りあえず離れろ。 田中:俺の何処がいけないって言うんだ! 慎一:そーゆーとこだよ!しつけぇんだって、お前。 田中:俺の何処がしつこいんだよ! 慎一:全部だよ!!……もー、疲れんだよ、お前といると。 田中:何だよ、それ…。 慎一:(溜息) 田中:っ、つーか、最後まで言わせろよ。 慎一:何をだよ。 田中:俺の(チャイナ子への)気持ちに決まってるだろ。 慎一:もういいよ、俺疲れた。 田中:ふざけんなよ、今更。 慎一:ちゃんと付き合っただろ?いい加減にしてくれ。 田中:男なら最後まで責任持てよ。 慎一:はぁ? 田中:男が一度やるって言ったことを反故(ほご)にすんのかよ。 慎一:……わかったよ。 田中:……「好きだ。初めて会った時から本気で好きなんだ…、結婚してほしい。」 : 0:ここで部長に気づく二人 : 慎一:(同時に)!! 田中:(同時に)!! 慎一:……ぶ、ちょう…。 田中:あ………お疲れ様です、部長…。 慎一:お疲れ様です………。 田中:あー、そうっすね、そろそろ時間ですね、ありがとうございます。 田中:………え?あっ、これ…ですか?あー………。 慎一:田中がっ!! 田中:…? 慎一:こ、今度知り合いと演劇するらしくて、その演技の練習相手になってました。 田中:え…? 慎一:そうなんですよー、ねー、人は見かけに寄らないって本当ですよねー、あははは。 田中:ちょっ…。 慎一:いやぁ、それが何処でやるとかは僕も教えてもらえなくてー、やっぱり知り合いに見られるのは恥ずかしいんでしょうねー、はははは。 田中:おい…。 慎一:じゃあ、僕達はそろそろ戻りますんで、部長はごゆっくりー。 : : : 0:翌日、喫煙室にて : 田中:よくもあんな嘘ついてくれたな。 慎一:あ?何が。 田中:俺が演劇やってるって! 慎一:あー、でもあぁ言うしかなかったろ、あの状況じゃ。 田中:つくにしてももっとマシな嘘あっただろ! 慎一:無茶言うなよ。 慎一:同僚に「壁ドン」「顎クイ」「股ドン」の3コンボされてるところを上司に見られたんだぞ、他にどう誤魔化せっつーんだよ。 田中:そぉーかもしれないけどさぁー。 田中:……お陰で、朝から部長に質問攻めされる羽目になったんだぞ。 慎一:何て? 田中:「いつから演劇をやっていたんだ?」「公演はするのか?」「知り合いに演者志望の子がいるんだけど良かったら使ってくれないか?」って。 慎一:へっ。(笑) 田中:お前、まさかだけど、部長が演劇好きって知ってて言ったんじゃないよな? 慎一:………いや? 田中:何だよ今の間は!? 慎一:いや、知らなかったって。 慎一:(小声)…まぁ、前に部長から劇団四季のチケットが余ったからって貰ったことはあったけど…。 田中:アウトじゃねぇかこの野郎っ! 慎一:おいヤメロッ!火ついてんだぞ!? 田中:…ん? 田中:なぁ、あれ。課長が呼んでね? 慎一:……お前の事だろ。さっさと行って来いよ。 田中:えー、何だろ。資料の直しかな…それとも裏に落書きしたのバレたか…? 0:出ていく田中 慎一:……何やってんだよアイツ。 : 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:………。 慎一:お帰り。 田中:………。 慎一:へっ。(笑)結構こってり絞られたみたいだな。 慎一:つうかお前さぁ、いくら何でも仕事で使う書類に落書きは無いだろー。小学生か。(笑) 田中:………。 慎一:ま、そんなに落ち込むなよ。仕事で挽回すればいいんだから、な? 田中:……昨日の話、課長に知られてた。 慎一:………は? 田中:………。 慎一:……何て、言われたの? 田中:……「このご時世、恋愛は自由だし性別や年の事でとやかく言うつもりはないけど、不倫はダメだ」って。 慎一:(絶句)………。 田中:「そもそも、ウチ社内恋愛禁止だから、いい機会だし未練は断ち切って彼とは良い同僚として頑張れ。もし、気になって仕事が出来ないようなら移動の希望も聞くからいつでも相談してこい」って、優しく諭された…。 慎一:あーーー…。(遠い目) 田中:くっ、昨日のを知られた上になんか変な誤解をされてる事よりも、課長が良い人過ぎて泣けるわ…。 慎一:ほんと、それなー。 慎一:ついでに海外転勤にしてもらえよお前。 田中:やだよ、アホか。 慎一:(タバコを吸う)………。 田中:あー、死にてぇ。 慎一:わかりみが深すぎてマントル突き抜けそう。 田中:……俺、ちょっとダメージデカすぎて…足に力入んねぇ。寄りかかっていい? 慎一:ふっざけんな!灰皿越えてきたら火ぃ着いたタバコお前の鼻にねじ込むからな。 田中:鼻フックよりひでぇ…。 慎一:あたりめぇだろ。 田中:…あー、なんか美味いもんでも食べて憂さ晴らししてぇなぁー…。 田中:なぁっ、今夜しゃぶしゃぶ行かね?約束通り俺の奢りでいいからさ。 慎一:いや、課長の記憶が消失するまではお前とは飯行かね。 田中:どこの秘密組織だよ。MIBかって。 慎一:いやー、便利だよなー、あの記憶消す秘密道具。 田中:あぁ、あのピカーって光るやつ? 慎一:そう。アレあったらお隣さんと部長と課長とお前に使うわ。 田中:俺もかよ。(笑) 慎一:お前もだよ。(笑) : 0:火を消す慎一 : 田中:あれ?もう戻んの? 慎一:あぁ、この後ミーティングあるからな。 田中:そっか。 慎一:あ、そーだ、約束のしゃぶしゃぶ忘れんなよ。 田中:は?でもさっき行かないって…。 慎一:お前とはな。 田中:……? 慎一:嫁と行くからぁぁあ。 田中:あー、そーゆー事。 田中:くぅーっ、羨ましいぜ! 慎一:お前も早く相手見つけろよ。(笑) 田中:うるせぇ。俺はチャイナ子ちゃんと付き合うんだよ!(笑) 慎一:まーだ言ってら。はははっ。 田中:あ・た・り・ま・え・だ! : 田中:じゃ、奥さんによろしく言っといて。(笑) 慎一:おう。 : 慎一:……あ、店は先月接待で使った西麻布の極上プレミアムコースな。じゃ、おっ先~♪ 田中:………はっ!?ってそれ、一人4万もする高級しゃぶしゃぶ屋じゃねぇか!!!! 田中:……くっそぉー、ぼられた。 : : :