台本概要
211 views
タイトル | 山田さんちの隣人は少し変な新婚さん |
---|---|
作者名 | 砂糖シロ (@siro0satou) |
ジャンル | コメディ |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
※「影響を受けやすい、二人」のスピンオフです。 今回は影響を受けやすい夫婦で定評のある慎一と彩夏のお話…ではなく、そのお隣に住む山田さん家のお話です。 …隣人同士の騒音問題って難しいですよね。 ご使用の際はTwitterでご一報くださると嬉しいです(強制ではありません)。 商用目的の場合は必ずTwitter(@siro0satou)のDMにて作者の了承を得てください。 Skype・discord環境であればぜひ拝聴させて頂けると、今後もさらに意欲が増します! 音声ファイルなども大歓迎です!! 211 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
妻 | 女 | 80 | 40代前後。 噂話が大好きな主婦。 |
旦那 | 男 | 79 | 40代前後。 寡黙なお父さん。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:山田さんちの隣人は少し変な新婚さん
:
:
:
0:とある平日の朝7時頃。熱々の味噌汁を旦那の前に置く妻。
:
妻:はい、お父さん。
妻:おつゆ、熱いから気を付けてね。
旦那:…ん。
:
0:娘の部屋に向かって叫ぶ妻
:
妻:美咲ー!
旦那:……母さん、お茶。
妻:ああ、はいはい。
妻:ちょっと美咲っ!いい加減起きなさい!
妻:……はい、どうぞ。お父さんの好きな【お好きな飲み物の名前を言ってください】。
旦那:…ん。
妻:もーっ、みさk、って居たの!?
妻:あー、びっくりした…。
妻:あんた前から言ってるけど、無言で背後に立つのやめて頂戴。
妻:大体ねぇ、高校二年にもなっていつまでお母さんに目覚まし時計させるつもり?
妻:………はぁ?「子供はいつまでたっても子供でしょ?」
妻:馬鹿言ってないでさっさと学校行きなさい!!
:
0:文句言いながら家を出る美咲。
:
旦那:(味噌汁をフーフーしている)
妻:……まったく。あの子ったら毎日遅くまでゲームばっかりして。
旦那:………。
妻:もー、お父さんからも何か言ってやってよ。
旦那:…んー。
:
0:ブツブツ言いながら椅子に座ってテレビを見る妻。
:
妻:この時間は朝ドラかニュースしかやってないわねー。
妻:…あらっ、やっだ、この人結婚したのね!ほら、見てお父さん!
旦那:ん…あぁ。
旦那:……誰だっけか、この俳優。
妻:やぁね、お父さん(笑)この人俳優じゃなくてお笑い芸人よ。
妻:あのー、何て言ったかしら…昔、二人組でCDも出した…。
旦那:……あぁ、あいつか。
妻:そうそう!へぇーっ、ついにこの人も新婚さんねぇ。
旦那:(味噌汁をフーフーしている)この味噌汁ちょっと熱いな…。
妻:あ、そうだ、新婚さんと言えば!
妻:お隣の高御堂(たかみどう)さんち、あそこも確か新婚だったわよねー。
旦那:…そうだったか?
妻:そうよー。お父さん忘れたの?
妻:五月の末に入籍しましたって二人で挨拶に来たじゃない。
旦那:…あー、あの美味いハムの。
妻:そうそう!お父さんがおつまみにするって取っといたら半分以上子供たちに食べられちゃったあのハムの人!
旦那:(思い出して悔しそうに)……そうだった。
旦那:(小声)そういやあいつらにまだあの時の借りを返してなかったな。
妻:あそこのご夫婦ね、とっても面白いのよー。
旦那:高見沢さんか?
妻:高御堂よ。
旦那:あぁ…。
妻:ついこないだもね、私が婦人会の帰りで遅くなった時があったじゃない?
旦那:……うん。
旦那:(小声)……いつだ?
妻:マンションの下を歩いてる時から、家の前が何だか賑やかねーなんて思ったら、あそこのご主人さんね、玄関先で熱烈な愛の告白してたのよー!!
旦那:……はぁ?ご主人って、あの真面目そうな高見鳥さんちの?
妻:お父さん、高御堂。
旦那:……うん。で、そのご主人か。
妻:そうなのよー!「僕はっ、君の全てを愛してる!君は僕のヴィーナスだよっ!」なぁんて、玄関先で膝までついて。
旦那:お…おぉ?それ、本当に高見原さんか?
妻:高御堂ね、た・か・み・ど・う!
旦那:………。
妻:気づかれないようにそーっと歩いたんだけど、なんたってウチ真横でしょー?
妻:結局ドアの前でバレちゃったの(笑)
妻:帰るためとはいえ、何だか可哀想な事したわー。
旦那:……それは、気まずいな。
旦那:(小声)俺ならそのまま飛び降りて死ぬな。
妻:でも、玄関先で愛を叫ぶのが結婚記念日のルールって言ってたけど、あれ意外といいわねー。
妻:ねぇっ、ウチでもやってみない?
旦那:(飲み物を吹き出す)ぶっ!!!!
妻:わっ!ちょっと、お父さんっ!!
旦那:ごほっごほっ!!
妻:あー、あー、もう、びっちゃびちゃじゃないー。
妻:ちょっと台拭き持ってくるからお父さんはティッシュで拭いてて。よいしょっと。
:
0:妻去る。
:
旦那:(小声)あいつ嘘だろ!?俺に飛び降り自殺させる気か!?
妻:はいはいはい、ちょっと拭くからお皿持ち上げて。
旦那:……な、なぁ。
妻:何ー。
旦那:さっきの、アレ。
妻:えー?さっきのあれって?
旦那:結婚記念日のってやつ…。
妻:はぁ?……あぁ、お隣さんの?あはははっ、冗談よ(笑)
旦那:(安堵の溜息)
妻:お父さんにあんな恥ずかしい事されたら、三か月お小遣いなしにするわ(笑)
旦那:………。
妻:万が一誰かに見られたら、半年はお小遣い抜きね。
旦那:………。
旦那:(小声)なんか腑に落ちない。
妻:え?何か言った?
旦那:……いや。
妻:あ、それで、話の続きなんだけど。
旦那:……まだあるのか。
妻:夏に皆で重森の近くのお祭りに行ったじゃない。
旦那:あぁ。
妻:あの時、お隣さんも二人で来てたのよ。
旦那:はぁ?あんな遠くの祭りにか?
妻:そう!私も初めは見間違いかと思って遠巻きに見てたんだけど、最後の打ち上げの時近くに寄ってみたら、やっぱり高御堂さんちだったの。
妻:奥さんったら、可愛い浴衣着て金魚がたぁーっくさん入った袋を持って、十代の子みたいにキャッキャッ、キャッキャッはしゃいでたのよー(笑)
妻:初々しかったわぁ。
妻:若いっていいわねぇー。
旦那:……それ、ほんとに高見山さんちの奥さんか?
妻:もー、高御堂だってば!
妻:お父さんの物覚えの悪さもここまで来たら病気よね。
旦那:いや、だってあの化粧っ気もない落ち着いた感じの彼女だろ?
妻:折角の遠出だものー、おめかしくらいするわよー。
妻:同じ女として気持ち、わかるわぁ。
旦那:(小声)いや、お前は毎回厚塗りしすぎだろ。
妻:なんか言った?
旦那:いや、何も。
妻:だけど彼女ねぇ、意外と金魚すくいが上手いの!
妻:すぱぱぱぱーんって次々と金魚をさらってくのよ(笑)
妻:構え方とか顔つきとか、まるでプロの人みたいで、見ててほんっと気持ちよかったわぁー(笑)
旦那:(小声)……?あの大人しそうな人が…?
妻:隣の旦那さんがちょっと不憫だったけど、見る見るうちに人だかりが出来ちゃって、あれは壮観だったわー。
旦那:…なぁ、それ母さんの見間違いじゃ…。
妻:違うわよぉー。だって名前呼び合ってるのも聞いたのよ?「慎一君」「彩夏」って。
妻:あ、そうそう、それに。帰ってから差し入れ持ってったから絶対に間違いじゃないわ。
旦那:……帰り間際にたこ焼きやら焼きソバやら買い込んでたのはそれか。
妻:普段は特にこれといった特徴もないように見えたけど、案外仲いいのねー。
旦那:まぁ、仲がいい事に越したことはないからな。
妻:あっ、やだ!お父さん!!もー、またそんなにお醤油かけてー。
旦那:お……おぉ…。
妻:健康診断で血圧が高いって言われたんでしょう?
妻:もー、折角減塩のお醤油にしたのにそんなにかけたら意味ないじゃなーい。
旦那:いや、だってこれ薄い…。
妻:減塩なんだから多少薄いに決まってr……あら。
妻:(醤油舐めて)ほんと。これ薄いわね。
旦那:だろ?これじゃお吸い物と変わんないよ。
妻:そうね、いいわ。これおじいちゃん用にしましょ。
妻:普通の持ってくるから待ってて。
旦那:(味噌汁をすする)…あちっ!!!!
妻:……はい、お醤油。
旦那:母さん、この味噌汁、焼石でも入ってる?
妻:えぇ?入ってないわよそんなもの。
旦那:……全然冷めないんだよなぁ(味噌汁をフーフーする)
妻:もー、バカ言ってないで早く食べて。
:
0:テレビに目を向ける妻。
:
妻:……へー、来月また新しい映画やるのねー。
旦那:(味噌汁をフーフーする)おっかしいなぁ…。
妻:あー、これあれよ。前にやってた映画の続編!
旦那:なぁんでこんなあちぃんだ?
妻:まぁすごい流行ったもんねー、あのゾンビ映画。
旦那:こんなにフーフーしてるのに…。
妻:ねぁ、お父さん!これ今度子供たちと見に行かない?
旦那:ちょっと水入れるか…。
妻:あっ、ちょっとお父さん何やってるの!?
旦那:え?いや、だって熱くてさ…。
妻:だからって味噌汁に【さっき渡した飲み物を言ってください】入れるのはおかしいでしょ!?
旦那:………。
妻:置いておけばその内冷めるわよっ。最後に飲めばいいじゃない。
旦那:………。
妻:まったく…お父さんの猫舌にも困ったものだわ。
妻:……ん?お父さんの携帯鳴ってない?
旦那:ん?……あぁ、ただの迷惑メールだ。
妻:またぁ?もー、何か変なサイト見たんじゃないでしょうねー。
旦那:何だろうな…なんか良くわからなくてポチポチ押しちゃうんだよなぁ…。
妻:やめてよ、もー。それで詐欺にあったら即離婚だからねー?
旦那:今時そんなのに引っかかるヤツ居ないだろ。
妻:どーだかー。この間だって「長澤まさみからメール来たー!一億くれるってよー!」って大騒ぎしてたじゃない。
旦那:………。
妻:蒼汰にかけてるフィルター、お父さんのにもかけるかしらね…。
旦那:…え。
妻:冗談よ(笑)でもほんとに気を付けてよー?
旦那:…わかってるよ。
旦那:しかし、ゾンビ映画と言えば…。
妻:え?
旦那:…隣からすごい声聞こえた時あったよな。
妻:あー、あったあった。春頃でしょ?何だったっけ…。
妻:急にダンッダンッて殴る様な音がした後、男の人の怒鳴り声が聞こえたのよね。
旦那:あぁ、確か…「アサリの餌にしてやるぞ!」とか何とか…。
妻:そうそう!それで突然叫び声が聞こえたもんだから慌てて通報しようとしたんだけど、もしただの痴話喧嘩だったらいけないってんで様子見たのよね。
旦那:まぁその後すっかり静かになったから、結局通報せずに終わったんだよなぁ。
:
0:テレビに目を向ける二人。新作ゾンビ映画の特集が流れている。
:
妻:………。
旦那:………。
妻:……まぁ、夫婦ったって色々あるわよね。
旦那:そうだな。喧嘩の一つや二つするだろ。
妻:そうね(笑)
妻:私達も若いころは随分と激しい喧嘩したわよねぇ。
旦那:(小さく笑う)
妻:あらっ!もうこんな時間!
妻:蒼汰ー!蒼汰ーーー!!
:
0:息子を呼びに席を立つ
:
旦那:激しい喧嘩と言うか…ありゃ、災害だな。
旦那:俺、生命保険入っててよかった…。
妻:いい加減にしなさいっ!アンタにしても美咲にしてもどうしてウチにはこうも寝坊助が多いの!
妻:…えー?「お父さんに似たんだ」ぁ?
妻:もー、変なとこばっかり似るんだからー。
旦那:(小声)…まさかここで予想外の飛び火。
妻:あ、そうだ!ねぇ蒼汰、アンタ先週の遠足で使ったお弁当箱どこやったのー。
妻:……「ちゃんと出した」ぁ?
妻:えー?だって、あのー、ほら、何だっけ、あのご飯があったかいままのやつ。
旦那:…保温容器か?
妻:あっ、そうそう!その容器だけ無いのよ!
妻:えー?「知らない」ー?んもー、どこ行っちゃったのかしら…。
妻:あっ、やだ、蒼汰!!早くしないと遅刻!今日、日直って言ってたでしょ!?
妻:…………ちょっと蒼汰?「ゆりあちゃん」って誰。
妻:あっ、こら蒼汰!!待ちなさい!!蒼汰ーーーー!!!!
:
0:息子を追いかけて飛び出す妻。
:
旦那:……ここで一句。疫病や、災害よりも、恐い妻。
妻:……はぁ、はぁ、はぁ…。
旦那:…大丈夫か?
妻:え、えぇ…、ちょっとめまいがするけど、おおむね大丈夫よ。
旦那:……そうか。
妻:あっ、いやだ、おじいちゃん!そこは美咲の部屋ですよ!
妻:……えぇ?トイレ?ちょ、ちょっとちょっと、おじいちゃん、ここトイレじゃないの!トイレはあっち!!
妻:きゃーーー!だめだめだめ!ズボン脱いじゃだめーーー!
妻:お父さんも座ってないで手伝って!
旦那:…はぁ。
旦那:山田隊員!!きをーつけぃっ!池内中尉に敬礼っ!!
旦那:前方確認っ!!約3メートル先に目的地発見!!
旦那:ぜんしーーーん!!いちっ!にっ!いちっ!にっ!いちっ!にっ!
:
0:旦那の号令通りにトイレに向かうおじいちゃん。
:
妻:助かったわぁ。
旦那:……ん。
妻:ねぇ、お父さん、今日9時にデイサービスの人が迎えに来るから、おじいちゃんお願いしてもいい?
旦那:…わかった。
妻:あ、私そろそろゴミ捨てに行ってくるわね。
妻:食べ終わったら食器、流しに置いててくれる?
旦那:…あぁ。
妻:……ふんふんふーーん♪今日は城山さんちの奥さん来るかしら。あの人ほんと情報通だから…。
旦那:(味噌汁をフーフーする)……。
妻:それじゃ、行ってくるわね。
旦那:…ん。
:
0:玄関先でばったり他所の奥様と出くわす妻。
:
妻:あらっ!おはようございますー。
妻:えー?あぁ、そうそうっ。やーっだ、恥ずかしい(笑)
妻:えぇ、ゆうべね。うんうん、……そー、カニ鍋だったのよー。
妻:北海道の実家からタラバ送ってもらっちゃってー。
妻:少ない量だったんだけどねー。えぇ、えぇ、おほほほほ(笑)
妻:えぇ?………まーっ、そうなの!?武田さんの娘さん?あらぁ…いやぁねぇ…。
妻:あ、そう言えばこないだ、お隣の高御堂さんちの旦那さんがねー…。
:
0:にぎやかな声が次第に消えていく。
:
旦那:……罪なき隣人に、幸あれ。
旦那:(味噌汁をすする)……あっち!!
旦那:………ん?
旦那:これ………蒼汰の保温容器じゃないか…。
:
:
:
0:山田さんちの隣人は少し変な新婚さん
:
:
:
0:とある平日の朝7時頃。熱々の味噌汁を旦那の前に置く妻。
:
妻:はい、お父さん。
妻:おつゆ、熱いから気を付けてね。
旦那:…ん。
:
0:娘の部屋に向かって叫ぶ妻
:
妻:美咲ー!
旦那:……母さん、お茶。
妻:ああ、はいはい。
妻:ちょっと美咲っ!いい加減起きなさい!
妻:……はい、どうぞ。お父さんの好きな【お好きな飲み物の名前を言ってください】。
旦那:…ん。
妻:もーっ、みさk、って居たの!?
妻:あー、びっくりした…。
妻:あんた前から言ってるけど、無言で背後に立つのやめて頂戴。
妻:大体ねぇ、高校二年にもなっていつまでお母さんに目覚まし時計させるつもり?
妻:………はぁ?「子供はいつまでたっても子供でしょ?」
妻:馬鹿言ってないでさっさと学校行きなさい!!
:
0:文句言いながら家を出る美咲。
:
旦那:(味噌汁をフーフーしている)
妻:……まったく。あの子ったら毎日遅くまでゲームばっかりして。
旦那:………。
妻:もー、お父さんからも何か言ってやってよ。
旦那:…んー。
:
0:ブツブツ言いながら椅子に座ってテレビを見る妻。
:
妻:この時間は朝ドラかニュースしかやってないわねー。
妻:…あらっ、やっだ、この人結婚したのね!ほら、見てお父さん!
旦那:ん…あぁ。
旦那:……誰だっけか、この俳優。
妻:やぁね、お父さん(笑)この人俳優じゃなくてお笑い芸人よ。
妻:あのー、何て言ったかしら…昔、二人組でCDも出した…。
旦那:……あぁ、あいつか。
妻:そうそう!へぇーっ、ついにこの人も新婚さんねぇ。
旦那:(味噌汁をフーフーしている)この味噌汁ちょっと熱いな…。
妻:あ、そうだ、新婚さんと言えば!
妻:お隣の高御堂(たかみどう)さんち、あそこも確か新婚だったわよねー。
旦那:…そうだったか?
妻:そうよー。お父さん忘れたの?
妻:五月の末に入籍しましたって二人で挨拶に来たじゃない。
旦那:…あー、あの美味いハムの。
妻:そうそう!お父さんがおつまみにするって取っといたら半分以上子供たちに食べられちゃったあのハムの人!
旦那:(思い出して悔しそうに)……そうだった。
旦那:(小声)そういやあいつらにまだあの時の借りを返してなかったな。
妻:あそこのご夫婦ね、とっても面白いのよー。
旦那:高見沢さんか?
妻:高御堂よ。
旦那:あぁ…。
妻:ついこないだもね、私が婦人会の帰りで遅くなった時があったじゃない?
旦那:……うん。
旦那:(小声)……いつだ?
妻:マンションの下を歩いてる時から、家の前が何だか賑やかねーなんて思ったら、あそこのご主人さんね、玄関先で熱烈な愛の告白してたのよー!!
旦那:……はぁ?ご主人って、あの真面目そうな高見鳥さんちの?
妻:お父さん、高御堂。
旦那:……うん。で、そのご主人か。
妻:そうなのよー!「僕はっ、君の全てを愛してる!君は僕のヴィーナスだよっ!」なぁんて、玄関先で膝までついて。
旦那:お…おぉ?それ、本当に高見原さんか?
妻:高御堂ね、た・か・み・ど・う!
旦那:………。
妻:気づかれないようにそーっと歩いたんだけど、なんたってウチ真横でしょー?
妻:結局ドアの前でバレちゃったの(笑)
妻:帰るためとはいえ、何だか可哀想な事したわー。
旦那:……それは、気まずいな。
旦那:(小声)俺ならそのまま飛び降りて死ぬな。
妻:でも、玄関先で愛を叫ぶのが結婚記念日のルールって言ってたけど、あれ意外といいわねー。
妻:ねぇっ、ウチでもやってみない?
旦那:(飲み物を吹き出す)ぶっ!!!!
妻:わっ!ちょっと、お父さんっ!!
旦那:ごほっごほっ!!
妻:あー、あー、もう、びっちゃびちゃじゃないー。
妻:ちょっと台拭き持ってくるからお父さんはティッシュで拭いてて。よいしょっと。
:
0:妻去る。
:
旦那:(小声)あいつ嘘だろ!?俺に飛び降り自殺させる気か!?
妻:はいはいはい、ちょっと拭くからお皿持ち上げて。
旦那:……な、なぁ。
妻:何ー。
旦那:さっきの、アレ。
妻:えー?さっきのあれって?
旦那:結婚記念日のってやつ…。
妻:はぁ?……あぁ、お隣さんの?あはははっ、冗談よ(笑)
旦那:(安堵の溜息)
妻:お父さんにあんな恥ずかしい事されたら、三か月お小遣いなしにするわ(笑)
旦那:………。
妻:万が一誰かに見られたら、半年はお小遣い抜きね。
旦那:………。
旦那:(小声)なんか腑に落ちない。
妻:え?何か言った?
旦那:……いや。
妻:あ、それで、話の続きなんだけど。
旦那:……まだあるのか。
妻:夏に皆で重森の近くのお祭りに行ったじゃない。
旦那:あぁ。
妻:あの時、お隣さんも二人で来てたのよ。
旦那:はぁ?あんな遠くの祭りにか?
妻:そう!私も初めは見間違いかと思って遠巻きに見てたんだけど、最後の打ち上げの時近くに寄ってみたら、やっぱり高御堂さんちだったの。
妻:奥さんったら、可愛い浴衣着て金魚がたぁーっくさん入った袋を持って、十代の子みたいにキャッキャッ、キャッキャッはしゃいでたのよー(笑)
妻:初々しかったわぁ。
妻:若いっていいわねぇー。
旦那:……それ、ほんとに高見山さんちの奥さんか?
妻:もー、高御堂だってば!
妻:お父さんの物覚えの悪さもここまで来たら病気よね。
旦那:いや、だってあの化粧っ気もない落ち着いた感じの彼女だろ?
妻:折角の遠出だものー、おめかしくらいするわよー。
妻:同じ女として気持ち、わかるわぁ。
旦那:(小声)いや、お前は毎回厚塗りしすぎだろ。
妻:なんか言った?
旦那:いや、何も。
妻:だけど彼女ねぇ、意外と金魚すくいが上手いの!
妻:すぱぱぱぱーんって次々と金魚をさらってくのよ(笑)
妻:構え方とか顔つきとか、まるでプロの人みたいで、見ててほんっと気持ちよかったわぁー(笑)
旦那:(小声)……?あの大人しそうな人が…?
妻:隣の旦那さんがちょっと不憫だったけど、見る見るうちに人だかりが出来ちゃって、あれは壮観だったわー。
旦那:…なぁ、それ母さんの見間違いじゃ…。
妻:違うわよぉー。だって名前呼び合ってるのも聞いたのよ?「慎一君」「彩夏」って。
妻:あ、そうそう、それに。帰ってから差し入れ持ってったから絶対に間違いじゃないわ。
旦那:……帰り間際にたこ焼きやら焼きソバやら買い込んでたのはそれか。
妻:普段は特にこれといった特徴もないように見えたけど、案外仲いいのねー。
旦那:まぁ、仲がいい事に越したことはないからな。
妻:あっ、やだ!お父さん!!もー、またそんなにお醤油かけてー。
旦那:お……おぉ…。
妻:健康診断で血圧が高いって言われたんでしょう?
妻:もー、折角減塩のお醤油にしたのにそんなにかけたら意味ないじゃなーい。
旦那:いや、だってこれ薄い…。
妻:減塩なんだから多少薄いに決まってr……あら。
妻:(醤油舐めて)ほんと。これ薄いわね。
旦那:だろ?これじゃお吸い物と変わんないよ。
妻:そうね、いいわ。これおじいちゃん用にしましょ。
妻:普通の持ってくるから待ってて。
旦那:(味噌汁をすする)…あちっ!!!!
妻:……はい、お醤油。
旦那:母さん、この味噌汁、焼石でも入ってる?
妻:えぇ?入ってないわよそんなもの。
旦那:……全然冷めないんだよなぁ(味噌汁をフーフーする)
妻:もー、バカ言ってないで早く食べて。
:
0:テレビに目を向ける妻。
:
妻:……へー、来月また新しい映画やるのねー。
旦那:(味噌汁をフーフーする)おっかしいなぁ…。
妻:あー、これあれよ。前にやってた映画の続編!
旦那:なぁんでこんなあちぃんだ?
妻:まぁすごい流行ったもんねー、あのゾンビ映画。
旦那:こんなにフーフーしてるのに…。
妻:ねぁ、お父さん!これ今度子供たちと見に行かない?
旦那:ちょっと水入れるか…。
妻:あっ、ちょっとお父さん何やってるの!?
旦那:え?いや、だって熱くてさ…。
妻:だからって味噌汁に【さっき渡した飲み物を言ってください】入れるのはおかしいでしょ!?
旦那:………。
妻:置いておけばその内冷めるわよっ。最後に飲めばいいじゃない。
旦那:………。
妻:まったく…お父さんの猫舌にも困ったものだわ。
妻:……ん?お父さんの携帯鳴ってない?
旦那:ん?……あぁ、ただの迷惑メールだ。
妻:またぁ?もー、何か変なサイト見たんじゃないでしょうねー。
旦那:何だろうな…なんか良くわからなくてポチポチ押しちゃうんだよなぁ…。
妻:やめてよ、もー。それで詐欺にあったら即離婚だからねー?
旦那:今時そんなのに引っかかるヤツ居ないだろ。
妻:どーだかー。この間だって「長澤まさみからメール来たー!一億くれるってよー!」って大騒ぎしてたじゃない。
旦那:………。
妻:蒼汰にかけてるフィルター、お父さんのにもかけるかしらね…。
旦那:…え。
妻:冗談よ(笑)でもほんとに気を付けてよー?
旦那:…わかってるよ。
旦那:しかし、ゾンビ映画と言えば…。
妻:え?
旦那:…隣からすごい声聞こえた時あったよな。
妻:あー、あったあった。春頃でしょ?何だったっけ…。
妻:急にダンッダンッて殴る様な音がした後、男の人の怒鳴り声が聞こえたのよね。
旦那:あぁ、確か…「アサリの餌にしてやるぞ!」とか何とか…。
妻:そうそう!それで突然叫び声が聞こえたもんだから慌てて通報しようとしたんだけど、もしただの痴話喧嘩だったらいけないってんで様子見たのよね。
旦那:まぁその後すっかり静かになったから、結局通報せずに終わったんだよなぁ。
:
0:テレビに目を向ける二人。新作ゾンビ映画の特集が流れている。
:
妻:………。
旦那:………。
妻:……まぁ、夫婦ったって色々あるわよね。
旦那:そうだな。喧嘩の一つや二つするだろ。
妻:そうね(笑)
妻:私達も若いころは随分と激しい喧嘩したわよねぇ。
旦那:(小さく笑う)
妻:あらっ!もうこんな時間!
妻:蒼汰ー!蒼汰ーーー!!
:
0:息子を呼びに席を立つ
:
旦那:激しい喧嘩と言うか…ありゃ、災害だな。
旦那:俺、生命保険入っててよかった…。
妻:いい加減にしなさいっ!アンタにしても美咲にしてもどうしてウチにはこうも寝坊助が多いの!
妻:…えー?「お父さんに似たんだ」ぁ?
妻:もー、変なとこばっかり似るんだからー。
旦那:(小声)…まさかここで予想外の飛び火。
妻:あ、そうだ!ねぇ蒼汰、アンタ先週の遠足で使ったお弁当箱どこやったのー。
妻:……「ちゃんと出した」ぁ?
妻:えー?だって、あのー、ほら、何だっけ、あのご飯があったかいままのやつ。
旦那:…保温容器か?
妻:あっ、そうそう!その容器だけ無いのよ!
妻:えー?「知らない」ー?んもー、どこ行っちゃったのかしら…。
妻:あっ、やだ、蒼汰!!早くしないと遅刻!今日、日直って言ってたでしょ!?
妻:…………ちょっと蒼汰?「ゆりあちゃん」って誰。
妻:あっ、こら蒼汰!!待ちなさい!!蒼汰ーーーー!!!!
:
0:息子を追いかけて飛び出す妻。
:
旦那:……ここで一句。疫病や、災害よりも、恐い妻。
妻:……はぁ、はぁ、はぁ…。
旦那:…大丈夫か?
妻:え、えぇ…、ちょっとめまいがするけど、おおむね大丈夫よ。
旦那:……そうか。
妻:あっ、いやだ、おじいちゃん!そこは美咲の部屋ですよ!
妻:……えぇ?トイレ?ちょ、ちょっとちょっと、おじいちゃん、ここトイレじゃないの!トイレはあっち!!
妻:きゃーーー!だめだめだめ!ズボン脱いじゃだめーーー!
妻:お父さんも座ってないで手伝って!
旦那:…はぁ。
旦那:山田隊員!!きをーつけぃっ!池内中尉に敬礼っ!!
旦那:前方確認っ!!約3メートル先に目的地発見!!
旦那:ぜんしーーーん!!いちっ!にっ!いちっ!にっ!いちっ!にっ!
:
0:旦那の号令通りにトイレに向かうおじいちゃん。
:
妻:助かったわぁ。
旦那:……ん。
妻:ねぇ、お父さん、今日9時にデイサービスの人が迎えに来るから、おじいちゃんお願いしてもいい?
旦那:…わかった。
妻:あ、私そろそろゴミ捨てに行ってくるわね。
妻:食べ終わったら食器、流しに置いててくれる?
旦那:…あぁ。
妻:……ふんふんふーーん♪今日は城山さんちの奥さん来るかしら。あの人ほんと情報通だから…。
旦那:(味噌汁をフーフーする)……。
妻:それじゃ、行ってくるわね。
旦那:…ん。
:
0:玄関先でばったり他所の奥様と出くわす妻。
:
妻:あらっ!おはようございますー。
妻:えー?あぁ、そうそうっ。やーっだ、恥ずかしい(笑)
妻:えぇ、ゆうべね。うんうん、……そー、カニ鍋だったのよー。
妻:北海道の実家からタラバ送ってもらっちゃってー。
妻:少ない量だったんだけどねー。えぇ、えぇ、おほほほほ(笑)
妻:えぇ?………まーっ、そうなの!?武田さんの娘さん?あらぁ…いやぁねぇ…。
妻:あ、そう言えばこないだ、お隣の高御堂さんちの旦那さんがねー…。
:
0:にぎやかな声が次第に消えていく。
:
旦那:……罪なき隣人に、幸あれ。
旦那:(味噌汁をすする)……あっち!!
旦那:………ん?
旦那:これ………蒼汰の保温容器じゃないか…。
:
:
: