台本概要

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タイトル HARUKA in the beast~1話
作者名 砂糖シロ  (@siro0satou)
ジャンル ファンタジー
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 60 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 不朽の名作『美女と野獣』の世界へ転生してしまった晴香と、彼女を取り巻く愉快で愛らしい人々が織りなす、ちょっと笑える物語。

時代は18世紀中ごろのヨーロッパ(多分)。
楽しい女子会の帰りに工事現場の近くを歩いていたら、不運にも頭上から落下してきた鉄骨にて死亡した晴香。そして次に目覚めると、そこは丁度傲慢で我儘な王子、アダムが魔女の魔法によって野獣と変えられてしまう断罪直前のシーン。あろうことかそのアダム(♂)に転生してしまう晴香(♀)。

今回はそんなアダム(晴香)がモーリス(主人公の兄)に頼んで、ヒロインを城に連れてきてもらう前までのシナリオです。

※晴香のセリフは全て脳内でのセリフとなりますがあくまで晴香として演じてください。同様にアダムのセリフは晴香として演じてください。(二人の演者さんで一人の脳内セリフと肉声を演じる事になります)


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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
晴香 67 (はるか) 年齢20代半ば。現代では会社員。ファンタジー、お酒、動物が大好き。 性格はサバサバしていて実直。 ※セリフは全てアダムの心の声ですが、晴香として演じてください。 ほぼ全部のシーンに出てくるので、セリフをテンポよく流してもらうと全体がコメディちっくになって面白いかもです。
アダム 68 年齢20代前半。野獣(人サイズの猫)に変えられた王子様。 元の性格は傲慢で我儘で幼稚ですが、この設定はシナリオには不要です。(中身は晴香なので) ※声は男性の声で大丈夫ですが、中身は晴香になっているので全て晴香として演じてください。 晴香としての素が出る部分と、アダム(傲慢王子)っぽくしゃべる部分を意識して演じ分けすると楽しいかも…w
ロウ 74 ロウ・スタンダー 年齢40代~60代。アダムに仕える給仕長。アダムと共に魔法にかけられ燭台(キャンドルスタンド)に変えられた。 性格は陽気で時々おっちょこちょい。嘘がつけず思ったことは何でもそのまま口から出てしまいがち。 晴香は初対面で『ハゲ紳士』と呼んでいる。(メイドのフィフィとは恋人同士)
ポット 54 ミセス・ポット 年齢50代半ば。(年齢変更OK)アダムの世話係。魔法でティーポットに変えられた。 性格はあたたかく世話好きでお茶とお菓子作りが得意。(執事のウォッチマンとは夫婦) 頼れるみんなのお母さん的な設定です。
モーリス 43 年齢26歳。美女と野獣のヒロイン『ルベール』の兄。 天然キャラ。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:ハルカ・インザ・ビースト(第一話) : : 晴香:目が覚めると、そこはまるで、中世のお城だった。 : 晴香:(タイトルコール)ハルカ・イン・ザ・ビースト、第一話。ああああたしが野獣って、まじかっっっ!? : : : 0:城のホール。黒いローブを着た魔女を前に、アダム、ロウ、ポットをはじめとした数十人の客や使用人が集まっている 0:アダム王子が今にも魔女に魔法かけられそうになっているシーン : ロウ:す、崇高なる慈悲深き(じひぶかき)偉大な魔女殿っ、どうか、どおぉぉか、お許しを! アダム:(晴香が憑依する)……はっ。 晴香:『…お?…おおぉ?……っえ?ここ…どこ?』 ロウ:この度の数々のご無礼、深く深くお詫び申し上げます!お望みの物があればすぐにご用意致しましょう!ですのでどうか…っ。 晴香:『は?……この人はどちらさま…?ってか、白髭に燕尾服って…執事かよ…。 晴香:えっ…えっ?なになにどういう事?(キョロキョロ)……うわぁっ、びっくりしたぁ…背後にめっちゃ人居るじゃん…。え、待って、なんでみんなドレスとかタキシードとか着てんの? 晴香:このビッカビカな宮殿みたいなホールも一体どこよ!? 晴香:(混乱)誰かの結婚式?…もしくは、仮装パーティーの会場とか?…あ、もしかしてサプライズ……はっ!まさか洋子(ようこ)か真希(まき)が!?………居ない……。』 ロウ:ご主人様はこの美丈夫なお見た目に反して、いささか頭が…ではなくて、お心が幼くあられるものですから…、物事の善し悪しが上手くつけられないお方なのです。 ロウ:決っして、悪いお方などではございません、えぇ! 晴香:『広いし豪華だしすんごいキラキラしてるしー……え?まさか本物のお城、じゃあ、ない、よね? 晴香:……いや、夢か。夢だなこりゃ。多分きっとまたお酒飲みすぎたんだわ、コレ。』 ロウ:……まぁ…、確かに、少々傲慢(ごうまん)に感じる所もございましたでしょうが、僭越(せんえつ)ながら言わせて頂けますならば、 ロウ:これはー…えー、少ぉーし、あ、いや、少し…じゃない…あっ、いえ、えっと…そのぉー、んー、何と言いますかー…。 晴香:『いやめちゃくちゃ口ごもるし。どんだけ言いづらいの。』 ロウ:あー………アダム様はー…あのー、い、一般的な常識がやや薄いー…、と言いましょうか…。 ポット:(小声でたしなめる様に)んんっ、スタンダー。 ロウ:おっ、これはこれはとんだ失礼を、…コホン。 晴香:『言いたい事あんならはっきり言えばいいのに……って…あれ?何この手首の布……うえぇっ!何じゃこの服、めっちゃビラビラしてんじゃん。 晴香:あ…えぇ?しかもよく見たらあたしだけ男性用着てない?え?なんで(笑)』 ロウ:本当にっ!ご主人様は根はとっても良い方なんです!根は!! 晴香:『いやーもー、なんか…自分の夢が謎設定すぎてどんどん謎が深まるんだけどぉ…。(キョロキョロ)しっかし、調度品も衣装もすっごいなー…まるでコレこの間観た美女と野獣の実写映画みたいじゃん…。』 ロウ:い、一見恐ろしく見える表情もですね、意外と良く見れば案外これはこれで味があるものでしてっ。…あっ、いえいえ!決して悪口などでは…。 晴香:『なんて言うんだっけこういうの。ゴシック調……じゃなくて、ロコモコ? 晴香:ってそれはハワイのご飯やー。(笑)』 ポット:(小声)しっかりして頂戴っ、スタンダー。今は貴方が頼りなのよ。 ロウ:(小声)いやはや…そう言われましても…。ご主人様を言葉で擁護(ようご)するのは中々に骨が折れるのですぞ…。 ポット:(小声)そんな事言わないで、ほらっ…。 ロウ:(小声)…いやはや……いやはや。 晴香:『うー、あんま着心地良くないなー、コレ。暑い重いし趣味悪いし、首の回りのヒラヒラがこすれてなんかむず痒いし……。』 ロウ:……正直、これは申し上げるべきか、いささか判断に困るのですが…。 晴香:『にしても…夢にしてはなんかデティールが細かい…気がするんだよねぇ……。服装とか装飾とか、人の顔とか…。それに、夢なのにこんなにはっきり感覚があるって、おかしくない? 晴香:…そう考えたら…色々と、リアルすぎる気がしてきた…。』 ロウ:(少し考えて)じ、実はご主人様は、その…笑顔を作ることを大っ変、不得手(ふえて)とされておりまして。 晴香:『いやでも流石にコレは夢オチじゃなきゃ説明付かないよね。マジで突飛(とっぴ)すぎるもん(笑)』 : 0:自分の頬をつねるアダム : 晴香:『いった!…めっちゃ痛い……え?あれ?もしかして……やっぱ夢じゃ、ない…?』 ロウ:ですので、何か思う所があるとか、後ろ暗い事をしているとか ロウ:そういった事は一切!何一つ、無い!と、わたくしは貴女(あなた)様に断言致します。 晴香:『あー、あー、あー、ダメだー。とりあえず現実逃避したーい。 晴香:…わあー、でっかいシャンデリアだぁー。こんなん落ちてきたら確実に一発であの世行きだなぁー…。 晴香:…ん?…………落ちてきた…ら?…死、ぬ…?』 : 0:魔女が何かをロウに言う : ロウ:あ、いえいえ!そんなことは… ロウ:(困り果てた様子で)……まぁ、そうですね、貴女様のおっしゃる通り、口調もまぁだいぶアレな感じではございます。 ポット:ちょっと、スタンダー…。 ロウ:いいえミセス・ポット。そこに関しては、わたくし達も認めざるを得ない所であります。が、しかし!恥を承知で申し上げさせて頂けますならば、それもまた、わたくし共の力が足りず、ご主人様の教養不足を招いた結果なのです! ロウ:つまり、何が言いたいかと言いますと、えー…言語能力と言いますか、語彙力(ごいりょく)の発達がー…ですね、あー…そのぉー…なんだ…んんー…(胃を押さえる)。 晴香:『って言うか、さっきから人の真横でごちゃごちゃとうるさいこのハゲ紳士は一体誰なのよ。ご主人様に対してやたらボロクソ言ってるけど…。』 ロウ:いやはやしかし、どれもこれも、全てはわたくし共の力不足が招いた結果でございますればっ。重ねて深くお詫び申し上げます。大っ変っ、申し訳ございませんでした!およよよ…。(泣) 晴香:『うわぁお、お辞儀が深過ぎてつるぴかな床につるぴかな頭皮がついちゃいそう…。』 ロウ:っ、モチロン!言葉だけの謝罪などで貴方様の気が晴れるとは毛頭考えてはおりませぬ。 晴香:『毛頭って(笑) 晴香:ハゲ紳士が言うとなんか一気に意味深になるな(笑) 晴香:…うーん、取りあえず現状としては話の流れ的に、その件(くだん)のご主人様があの黒いフード被った怪しげな人になんか無礼なことをしたって感じかぁ。 晴香:上司の責任は部下の責任って、あたしも良くクソ上司に言われてたなー。普通逆だろっ!…って言いたいけど、言えないんだよねー。 晴香:わかるわかる、よーくわかるよ、ハゲ紳士。辛いよねー、ダメな上司、じゃなくて、ダメなご主人様を持つと…。』 ロウ:ですが!ここは一つ、わたくしの取るに足らないこの命ではございますが、どうか、どうかこのわたくしめの命で、この場はご容赦頂けませんでしょうか。 晴香:『……はい?…いやなんでそこで命を差し出すの?え?え?そのご主人様ってヤツ、命のやり取りが発生するレベルの悪い事をしてたの!?さすがにそれはヤバくない? 晴香:いや、だとしたらさ、普通はその本人が謝るべきじゃないの!?なんでここまでそのご主人様とやらは一切出てこないのさ!』 ポット:スタンダー…。 晴香:『こんな優しそうなおばちゃんメイドさんにまで悲しい顔させて…。 晴香:ぐぬぬぬぬっ、許さぁーんっ!たとえお天道様が許したとしても、この晴香様が許さん!あたしがその諸悪の根源をこのビッカビカなホールのど真ん中に引きずり出して見事な土下座をさせてくれる! 晴香:(周りをキョロキョロして)どれだ…?どいつが犯人だ…?多分、この中で一番偉そうな…。』 ポット:この城の使用人は皆、彼と同じ気持ちですわ。どうぞ、わたくし共の命をお受け取りくださいませ。 ロウ:何卒(なにとぞ)、何卒、ご主人様のお命ばかりは…。 晴香:『えっ、いやもう少し待ってって!今あたしがその極悪野郎を見つけて…』 ロウ:さぁ、一思いにどうか… 晴香:『(被せて)わああああああ!』 アダム:(大きな声で)ちょっと待って!! ロウ:ひいぃっ!!! ポット:ご、ご主人様…? 晴香:『うっ…何…今の低い声…。』 ロウ:ななっ、な、何ですかご主人様!急に大声をあげて! アダム:…え?ご主人様って…。 晴香:『うわっ、なにこれ、あたしの声じゃない!!!!』 ロウ:はぁ? ロウ:おっと、…コホン、失礼致しました。 ロウ:…しかしながらです、ご主人様。この大事な局面において、何を寝とぼけた事仰っているのですか! アダム:えっ、何!?も、もしかして、ご主人様って、あたし!? ロウ:貴方様以外にどなたがいると仰るんですか!? ロウ:はぁー…もう驚いた。驚きすぎてわたくし、この大事な大事な心の臓がポーンと口から飛び出して逝ってしまうかと思いましたぞ!? アダム:(絶句)………。 晴香:『(動揺)なに?どういう事…?』 ポット:ロウ・スタンダー。今はそんな冗談を言ってる場合では… ロウ:っは!!えぇ、えぇ、ミセス・ポット。そうでしたそうでした。(一人何かに納得しているかのように頷きながら)うんうん、そうそう、そうですねぇ。えー、ですから、……あー……。 ロウ:おや?わたくしどこまで申し上げましたですかな? ポット:(軽く溜息)まったく。 ポット:(咳払い)、魔女様、発言をすることをお許しください。 : 0:魔女が頷く : ポット:(恭しくお辞儀する)…寛大なお心に感謝いたします。 ポット:ご主人様は、この領地にとって、そして何よりもわたくし達にとって掛け替えのないお方です。 ポット:どうかそのお怒りをお納めになり、今一度、寛大なご配慮を頂けますよう、我々一同、心より、お願い申し上げます。 ロウ:………。 : 0:ポットの動作に倣(なら)って、客も使用人も皆一様に頭を下げていく : 晴香:『はっ!やば、あまりの異常さに自我を失ってた……って、えっ、何!?なんでみんな頭下げてんの…? 晴香:っていうかコレあたしだけめっちゃ目立ってるからぁ!ひえぇぇ、ちょっと待ってよー、えー、これって…あたしも一緒に頭、下げる、べき…?いや、下げなきゃ……えぇーい!なるようになれっ!』 アダム:っすぅー………。(おずおずと頭を下げる) ポット:(強めに咳払い) アダム:ひっ! 晴香:『やっべ、間違えたっぽい……。 晴香:あたし…、って言うか、この身体の持ち主がここのご主人様なんだっけ?もしかして、一番偉い人って簡単に頭下げちゃだめとかっていう決まり事でもある感じ…?いやでも、あたしさっき諸悪の根源に土下座させるとか何とかって―――いや、今はそんな事どうでもいいな、うん。』 アダム:……コホン。…ん? 晴香:『―…あれ?まって、おかしいおかしい。このハゲ紳士さっきあたし…じゃなくて、んー、カッコご主人様カッコ閉じるに対してやたらボロカス言ってたじゃん。それは良いの?ねぇ、オッケーなの?』 アダム:あのー…。 ロウ:?何かわたくしの顔に…? アダム:……あ、いや。 晴香:『やめとこ。取りあえずまずは状況整理しなきゃ。 晴香:もしもコレが夢じゃないとしたなら、なんであたしこんな所に…?しかも男に身体も入れ替わってるし。それにさっきまで外に居たはず……あれ?そーいや、あたし今まで何してたんだっけ…。』 ロウ:(小声)ミセス・ポット、何だかご主人様の様子がおかしくありませんか? ポット:(小声)……今はそんな事気にしてる場合じゃないでしょ。 晴香:『…確か…、今日は朝早く起きて、ネズミーランドで洋子達と女子会したんだよね。一年ぶりに三人で集まって…。 晴香:んで、その帰りに工事現場の近くを通って……あ!そうだ、思い出した…。 晴香:……急に叫び声が聞こえたと思ったら、上から落ちてきた鉄骨に、あたし……。』 : 0:アダム(晴香)の身体が魔女の魔法により光の塵(ちり)に包まれる : ポット:あああぁ、そんなっ、ご主人様!…ご主人様―――…。(泣き崩れる) ロウ:お、お待ちください!魔女様!!何卒っ、何卒ぉぉお! 晴香:『へっ!?やだ!何この光っ!?なになになんで!? 晴香:はっ、まさかお祓い!?えっなに、なんで!?ちょっといきなりすぎない!?待ってよやだ!やだってば!死んだって気づいたばっかでこんなすぐ成仏すんのやだよ!』 アダム:いやっ、待って!待ってってば!やだやだやだ、あたしまだっ、まだ心の準備がっ…。 0:その場の全てが光に包まれる ポット:あらまぁっ…!わたくしの身体まで…あらららら…! ロウ:ご主人様ー!このロウ・スタンダー、死ぬときもお側に、ああああああぁぁぁぁ…。 アダム:やだぁ―――っ、まだ死にたくないいいいぃぃぃぃぃ…。 : : : 0:城内のアダムの寝室。ベッドに横たわるアダムにポットは寄り添っている : ポット:……さま。…しゅ…んさま。………ご主人様。 アダム:んっ、んん…。 ポット:っ!ご主人様!あぁ…良かった…。やっとお目覚めになられたわ。(涙ぐむ) アダム:ん…ここ、は…。 ポット:ここは、ご主人様の寝室ですよ。 : 0:慌ててロウが部屋へ入ってくる : ロウ:ご主人様!?ミセス・ポット!今ご主人様って言いましたか!? ロウ:もしかして、ご主人様がお目覚めに ポット:しっ!大きな声を出さないで。たった今、お目覚めになった所よ。 ロウ:はっ!も、申し訳ございません、ご主人様。 ロウ:ですがっ、ですがわたくしっ(涙ぐむ)もう二度とご主人様がお目覚めにならないのではないかと…グスッ。 アダム:…これは、…いったい? ロウ:おぉ、(鼻をかむ)それはわたくしがご説明いたしましょう。 ロウ:昨夜(さくや)のパーティに訪れた年配のご婦人が、実はこの先にある森の魔女だった様でして。 晴香:『ま、じょ?』 ロウ:意図せず機嫌を損ねてしまい、その報いとしてこの城全体に魔法をかけた、というのが事の次第でございます。 晴香:『んっ?(笑)何それ。なんか聞き覚えのある話なんだけど…?』 ロウ:幸い皆、ケガや命に別状などは無かったのですが、その魔法によって城の者達は皆、姿を変えられ、私共も御覧のありさまでございます。 晴香:『あぁー、なるほど。視界がはっきりしてきた。確かに目の前に喋るロウソクスタンドとティーポットが居るわー、はいはい。 晴香:えー、もうこれ、アレじゃん。完全に美女と野獣のストーリーじゃん。 晴香:何これ、やっぱ夢?明晰夢(めいせきむ)ってやつ?』 ロウ:…あぁ、その、大変申し上げにくいのですが。我々の説得も虚しく、 ロウ:それは無慈悲にも、結局一人として例外は頂けなかった様でして… ロウ:あのー…、いや、なんと申しましょうか……その、ご主人様の、お姿も…。 晴香:『!?いや、まって、さっきからご主人様ご主人様って、もしかして…これ、あたし…。』 アダム:…ぎゃぁーーーー!よりにもよって、野獣かよぉおおおっ! ロウ:たいっ、へんっ、申し訳、ございませんっっ! ロウ:わたくしの力が及ばなかったばかりに、このような醜い… ポット:(セリフに被せて、強く咳払い) ロウ:はっ!い、いや、…その、何と言いますか、あはは。 ロウ:え、えぇーと、こ、このような…たっ、猛々(たけだけ)しい、と言うか、野性味?溢れると言いましょうか…いやはや。 晴香:『あの時も思ったけど、このハゲ紳士もとい喋るロウソク台のご主人様に対する態度って、なんか従者のそれっぽく無くない…?』 ロウ:…?何か? アダム:…いえ?別に…。 晴香:『いやぁ…それにしても…。』 アダム:(落ち込んだ様子で)まじかぁ…。 ポット:ご主人様、どうかそのように気を落とさないで下さいな。 ポット:何もずっとこのままと言うわけでは無さそうですのよ。あのご婦人は、去り際にこう申しておりましたわ。 晴香:『あぁ、例のあれか。うん、あたしそれ知ってるなー。アニメ版も実写版も何度もリピートして観たもん。聞かなくてもわかるよー、ポット夫人。』 ポット:この魔法のバラの花びらが、全て落ちる前に、真実の… アダム:(被せて)真実の愛を見つけよ。さすれば魔法は解かれん。 ポット:まぁっ、ご主人様。気を失っていたかと思っていましたのに、聞いてらしたの?流石ですわ。 アダム:いや、…聞いたというか、 晴香:『元から知っているというか。はは…。』 : 0:アダムは起き上がろうとして後頭部に激痛が走る : アダム:うっ!…いったぁ。 ロウ:ご主人様!まだ動かれてはなりません。 ロウ:倒れた際に床で頭を激しく打たれたのですぞ。 ロウ:出血しなかったのが不思議な位だったのですから、痛くて当たり前です! : 0:ロウが起き上がろうとしたアダムの身体を強めに倒す : ロウ:しばらくは、大人しくしていて、くだ、さいっ!! アダム:うわっ!っつう、痛たたた。 アダム:やっぱり…痛みがあるってことは、夢じゃないんだ…。 ロウ:ええ、ええ、本当に。夢であったならばどんなに良かったことか。 ポット:そう悲観(ひかん)しないで、二人とも。確かにこれは紛れもない現実だけれど、今はまだ、そんなに悲観的になる程悪い状況ではありませんわ。 ポット:一生このままというわけではないのですから。ね、そうでしょう? ポット:わたくしは、ご主人様が以前のように心優しく、そして愛にあふれた、そんな立派な殿方にご成長なされれば、真実の愛などすぐに見つかると確信しておりますのよ。 ロウ:ふむ。そうだな、ミセス・ポット。それには私も大いに同感だ。 ロウ:しかし…このお姿では、どう頑張っても相手はせいぜい家畜か、良くて森の動物だn、あいたっ! ロウ:何をするんだミセス!!暴力は良くない! ポット:どんなお姿でも、必ずご主人様の内面を見て、そして愛してくれる方と巡り合えますわ。それが、真実の愛ですもの。 晴香:『いい人だなー、ポット婦人。 晴香:ちょっとメルヘン気質なとこあるけど、少なくても今の所、こっちのキャンドルおじさんよりは全然いい人よね。 晴香:まぁ、キャンドルおじさんもそんなに悪い人では無さそうだけど(笑) 晴香:なんにせよ、取りあえずはこの魔法を解く為にも、とっととその運命の相手に出会わなきゃ、だね。』 アダム:あー…じゃあ、そしたらちょっと急ピッチでベルたんを見つけてきてもらって… ポット:べるたん? ロウ:きゅう、ぴっち? 晴香:『んがっ、しまった。色々すっ飛ばしすぎた』 アダム:あ、いや、何でもない。あたs(咳払い)ワタシは疲れた。少し休みたいから一人にさせてくれないか。 ロウ:?…え、えぇ、かしこまりました。それではご主人様、何かございましたらいつでもお呼びくださいませ。 アダム:あぁ、わかった。 : 0:ロウとポットが部屋から出ていく : 晴香:『なるほどねー、うんうん。そっかぁ…。あたし死んじゃったのかぁ。』 アダム:(落ち込んだ様子で)はぁぁああああああ。 晴香:『ふっ。(笑)んで目が覚めたら?美女と野獣の世界で、あろうことか野獣に憑依(ひょうい)しちゃった、と。 晴香:まじかぁあああ。あぁ、これが俗にいう異世界転生ってやつかぁ。 晴香:…いやいやいや、まって!そもそもなんで野獣!? 晴香:ここは普通ヒロインのベルたんか、そうじゃなきゃせめて村娘とかに転生するもんじゃないの? 晴香:なんで男、っていうか…今は雄?あーもうっ!ややこしすぎ!』 : 0:両手で顔を覆う : 晴香:『んっ!このモッフモフな感触は…もしや!』 アダム:(声にならない悲鳴)~~~~~っっ!!!!! アダム:ちょっと、まってよ、あたしのお尻から尻尾生えてるうううう!何これぇ!めっちゃくっちゃ、モッッフモフやないか!!! アダム:…あぁ、これは正に人をダメにする触り心地。 アダム:んぁっ!と、言うことは…。 : 0:恐る恐る頭頂部に手をやる : アダム:あーーー!やっぱこうなったら当然耳は、ここですよねぇー。(喜) アダム:あああああやばい、やばすぎる…(呼吸荒く) アダム:鏡、鏡は何処じゃ…。 : 0:ベッドから起き上がる : アダム:うっ!いったぁ!あいたたた。げっ、たんこぶ出来てる…うわこれ…下手したら握り拳くらいあるんじゃない? アダム:あ、違う違う、今はそんなことより…あっ!鏡あった! : 0:大きな姿鏡に全身をうつす : アダム:ぎゃーーーーー!まっじか! アダム:やっべぇ、牛系の猛獣想像してたけどこれ普通にネコ科じゃねえか!くっそ萌えるううう! アダム:でもこれ、野獣っていうか、ライオン?いや、むしろ猫種の……あ、メインクーン。コレほぼほぼメインクーンだ…。 アダム:あー…美しいなー…、これを醜いとか…、あのキャンドルおじさん、もしかして猫嫌い? アダム:はっ(笑)、だとしたらもれなく戦争が起きるな…』 : 0:ひとしきり自分の姿を堪能する : アダム:(息切れ)はぁ…はぁ……うん、いいな、これ。 アダム:割と案外、このままでも良い気がしてきたな。 アダム:…いや?寧(むし)ろ、最高だろ。ははっ、ははははは(笑) : : 0:数日後 : 晴香:『そうこうしている内に時は過ぎ、アダムとしての生活にも慣れたあたしは、巨大な猫化生活を思う存分満喫していた。そんなある日。 晴香:それは突然やってきた。』 : 0:モーリスが恐る恐る城内へと入ってくる : モーリス:あのう、どなたかいらっしゃいませんかぁー…? 晴香:『うわっ!これってあれじゃん!ベルたんの父親が迷い込むシーン! 晴香:わー、いよいよかぁ。でもこれベルたんと出会っちゃったら、この素晴らしいニャンダフル☆ライフ、数日後には終わっちゃうんじゃ…? 晴香:えー、どうしよう…。』 モーリス:すみませーーーん、誰かいませんかぁーーー? モーリス:私、怪しい者とかじゃなくて、ちょっと道に迷ってしまったんですけどぉーーー。 晴香:『うぅーん、でもなぁ、せっかく美女と野獣の世界に転生したんだから、本物のベルたんには会ってみたいって気持ちはあるんだよねぇ。 晴香:いや、だけど…』 モーリス:あのーーー、一晩で良いので、泊めてもらえないでしょうかーーー? 晴香:『いくら転生して身体が雄になったとは言っても、あたし中身はガッチガチの女なんだよなぁ。 晴香:女の子とイチャラブは、いくら何でもちょっときちぃよぉ…。 晴香:いや、別に他人の性癖や趣味嗜好(しゅみしこう)に関しては何も思わないし、むしろ応援する気持ちだってあるけどさぁ。 晴香:それが自分となると話は百八十度変わってくるのよなぁ。』 モーリス:…っ、実は、森の中で馬も逃げてしまって、手持ちの荷物も乗せてどこかに行ってしまったので……、空腹で今にも倒れてしまいそうなんですーーー。 晴香:『もし…、ベルたんがむちゃくちゃ美少女だったとしたら…? 晴香:……いやー、やっぱ無理。あたしには女の子を性的な対象として見ることは絶対不可能! 晴香:うんっ、百合は見るモノ!愛でるモノ!ノット百合展開!』 モーリス:うーん、誰もいないのかなぁ…。あのー!ほんの少しでも構わないので、何か食べ物をわけてもらえませんかーーー? 晴香:『んー、困ったなぁ。誰かに対応してもらいたいのにこんな時に限ってキャンドルおじさんもポット婦人も居ないんだよなぁ。』 モーリス:こんなに呼んでも返事がないってことは、やっぱりこの城は無人なのかなぁ。 モーリス:弱ったな…暗くなる前に他をあたった方がいいかな。 : 0:モーリスが城を出ていこうと扉のほうへ歩いていく : 晴香:『あっ!やばいっ、帰っちゃう!よく良く考えたら、これ逃すとストーリー進まなくなるじゃんっ!』 アダム:(咳払い)…誰だ。 モーリス:あ!良かったぁ!どなたか居たんですね!はぁぁ、本当に良かったぁ。 モーリス:誰も居なかったらどうしようかと。 : 0:モーリスの前にアダム(二足歩行のビラビラした服を着た、人間サイズの猫)が姿を現す : モーリス:!?(息をのむ) アダム:…なんだ、猫は嫌いか? モーリス:あ、いえ、…いやっ、嫌いというか、むしろ好きですが…。 モーリス:その、ちょっと…歩く猫、というか、喋る猫、というか、いやそもそもそのサイズの猫を見るのは初めてで…。 アダム:…悪い猫じゃないよ。(小声) モーリス:は? アダム:いや、何でもない。 モーリス:は、はぁ…。 アダム:それで、私がここの主だが、我が城に何の用だ。 晴香:『まぁさっき散々大声で叫んでたの聞いてたから知ってるんだけど、一応ね、一応。』 モーリス:あっ、実はそのぉ、森で迷い、馬も逃げてしまって、一晩泊まれる所を探して、まして…。 : 0:アダムの尻尾をガン見しているモーリス : アダム:ふむ、それは災難だったな。幸い我が城には、客人を一晩泊める程度の部屋ならばいくらでもある。 モーリス:えっ。 アダム:一晩くらいなら泊って行っても構わない。 モーリス:あー…、えっとー…。 晴香:『あれ?なんだろ、この歯切れの悪い反応。もしかして、この姿が恐い…?』 アダム:あぁ、いや。部屋へ案内したら私は自室に戻るから、それ以降会うことはないのだが… モーリス:(セリフ被せて)それ、ホンモノですか? アダム:…はっ?それって? モーリス:その、尻尾…。 アダム:いや、はい、本物です…。 晴香:『…はっ!!しまった!意表突かれて思わず素が。 晴香:って、恐がってんのかと思ったら、まさかの尻尾かよっ!わー、めっちゃ尻尾ガン見してるぅ…。 晴香:なぁんだー。これはこれは…、そこはかとなく仲良くなれそうな匂いがしてきたぞ…。』 モーリス:うわぁああ!あのっ、ちょっと触ってもいいですか!? 晴香:『わかる、その気持ちはすごくよくわかる。でも今は悪いけど…』 アダム:それはダメだ。それより部屋へ案内しよう。 アダム:大したもてなしは出来ないがゆっくりするといい。ああ、それと食べ物は酒のつまみ程度で良ければすぐに出せるが…? モーリス:本当ですか!ありがたい!それで充分です。ただ…。 アダム:なんだ? モーリス:いやぁ、あはは。泊めていただけて、その上貴重な食料も分けてもらえるなんてとてもありがたいのですが…、 モーリス:もし良ければ、旦那様のおこぼれ程度でも構わないので、その、少しだけお酒も頂けたらなぁ…なんて。 晴香:『うーん、モフ好きに加えて酒好きにこのふてぶてしさ。なんだかとても他人とは思えなくなってきたぞー♪』 アダム:ああ、構わん。後で用意しよう。 モーリス:あぁっ、神よ、そして懐(ふところ)の深き猫の旦那様よ!感謝致します!! アダム:ぶっ!? モーリス:?どうかしましたか?猫の旦那様。 晴香:『いや、猫の旦那さまって…、君かわいいかよ!』 アダム:いや、部屋へ案内しよう。ついて来なさい。 : : : 0:その夜更けのこと、モーリスにあてがわれた客室にて、酒瓶を次々と空けていくアダムとモーリス : モーリス:(酔っぱらっている)いやー、そこでまさかの馬が、木のうろに足を取られて転んじゃいまして、 モーリス:あいつ、ご主人様の俺をほっぽり出してぴゅーって逃げて行っちゃったんですよー。(笑) アダム:(酔っぱらっている)あはは、まじか!それは災難だわ。 モーリス:ほんっと、それです。あははは。 モーリス:(酒を飲む)っぷはぁ。でもー、猫の旦那様がこんなに気さくな人でほんとに良かったれすぅー。 アダム:ちょ、さっきからめちゃめちゃ気になってんだけど、何なの、その猫の旦那様って。(笑) モーリス:えぇー?猫の姿した旦那様だから、猫の旦那様です! アダム:ぶっ、まんまかよ! アダム:まぁ、なんだって良いけどさ、いい加減その呼び方はやめてくんない? アダム:はるk…じゃなくて、アダム。アダムで良いからさ。 モーリス:あぁー、アダム様ですか。俺、モーリスです。 アダム:おっけ、モーリス君ね。(酒を飲む) アダム:でもさ、モーリス君って結構まだ若いよね?歳、二十代半ば位じゃない? モーリス:あ、はい、今年で二十六になりました。 アダム:やっぱりー。 晴香:『あれっ?でもそれっておかしくない…?それじゃあどんなにモーリス君が頑張っても…』 アダム:(小声)娘のベルたんは十歳前後になっちゃうよね…。 モーリス:え?べるたん? アダム:あ、いや、こっちの話。 アダム:あのさ、モーリス君、キミ子供さんっている? モーリス:いやぁ、恥ずかしい話、まだ嫁もいなくて、ヘヘっ。母と姉妹と六人で暮らしてますぅー。 モーリス:上の兄たちはもう一人立ちして街で家庭をもってるんれすけど、俺は母たちを養っていかなきゃなんなくて。 アダム:ん?お父さんは? モーリス:あー、それが、昔仕事で乗っていた船が航海中に嵐にあいまして…。 アダム:あ、そっかぁ…、なんかごめん。 モーリス:あーいやいや、もう十年以上前のことなんで、ぜぇーんぜん大丈夫でーす。 晴香:『あれぇ?これ話違くない?あたしの知ってる美女と野獣の設定じゃない……。 晴香:あ、いや、待って。そういえば原作のほうではベルたん、他に兄姉(きょうだい)がいたって、聞いた事あるような。』 アダム:モーリス君の妹さんって今十六歳くらい? モーリス:そうですね、末の妹がその位です。 晴香:『ビンゴ!』 モーリス:あ、その子ルベールって言うんですけど。もう、それがすこぶる美人なんですよー?控えめに言っても、うちの村じゃ断トツ一位の器量良し! アダム:る…ベル…。 モーリス:えぇ。俺ね、あんまり頭良くないんですけど、確かル・ベルって「美人」って意味なんですよね? モーリス:名は体(たい)を表すとはよく言うけど、うちの両親もまた、生まれたばかりの赤ん坊にすごい名前つけたよなぁ。(笑) 晴香:『ちょっとだけ名前違うけど、やっぱりベルたんは…』 アダム:その子だぁ!! モーリス:!?何がですか? アダム:モーリス君さ、ちょっと相談なんだけど。 モーリス:は、はい。 アダム:そのルベールさん?ここに連れてきてくんない? モーリス:ええっ!?いやぁ、それはいくらアダム様の頼みでも…。 アダム:お願いっ!一生のお願い!悪いようにはしないから! モーリス:えー…。いやっ、ええぇぇー?やですよぅ。だってそれ、大方(おおかた)悪い奴が言うセリフー。 アダム:いやいやいや、本当に!絶対何もしない!誓って、下心とか一切なしで! モーリス:ええー…?うーーん…。 晴香:『あー、流石に酔ってても即決は無理かぁ。仕方ない、ここは情に訴えかける作戦で!』 アダム:あぁ、いやさ、自分…小さい頃からずーっとここで育ってきて、情けない話、限られた人間関係しかなかったからさ、 アダム:生まれてこの方一度もそんなすこぶる美人って人、見たことないんだよね。 アダム:でもさ、せっかく近くの村にそんな評判の美人がいるっていうなら、ぜひ一度くらいは自分のこの眼で見てみたいなーって。 アダム:ほんとそれだけ。ねっ?ねっ!? モーリス:うーん…。 晴香:『ぐぬぬぬ、思ったより手ごわい。こうなったら、奥の手出すしかないな。』 アダム:お願いっ!尻尾モフらせてあげるかr モーリス:(セリフ被せて)オッケーです!じゃあ明日帰ったら妹に言ってみます。 アダム:はやっ! 晴香:『あははー、知ってた。そうだよね、このモフモフの魅力には君も勝てないよね。素直で単純な所が君の良い所だよ、モーリス君♪』 モーリス:あぁ、ただ最近、あの子ちょっと変というか、おかしくなったというか…。 晴香:『そういや、ベルたんって確かそーゆう設定だったね。』 アダム:いや、いいいい、全然大丈夫!先見の明(せんけんのめい)を得たいというか、今後の進行的に必要というか、…あ、いや。 アダム:とにかくただ純粋に、美女を見てみたいってだけだから! アダム:いやぁー、ありがとねー、モーリス君。ほらっ、どんどん飲んで!あ、尻尾も触っていいよ! モーリス:わぁぁぁ…もふもふだぁぁぁ…。 晴香:『かくして、猫と主人公の兄という奇妙な組み合わせの二人の夜は賑やかに更けていき、城の酒がほぼ無くなるまで飲み明かしたのだった。』 : : 0:翌日、昼間のこと : 晴香:『一方その頃、城内のとある一室では』 ロウ:はぁーーー。 ポット:…。 ロウ:はぁああーーー。 ポット:…。 ロウ:はぁぁぁああああああ ポット:(セリフ被せて)なぁに、さっきからもうっ! ポット:給仕長(きゅうじちょう)ともあろう方が、何度もため息なんてついて、みっともない。 ロウ:そうは言ってもだなぁ、ミセス・ポット、君も見ただろう?ご主人様のあのお姿! ポット:えぇ、見ましたよ、それが何か? ロウ:全身毛むくじゃらで鼻の奥がむず痒くなるようなおぞましいお姿! ロウ:元の端正なお顔立ちとは程遠いなんとも無残な犬畜生になり果ててしまって…。 ポット:犬ではなく、どちらかと言うと猫ね。 ロウ:傲慢で、非常識で、幼稚なご主人様の数少ない魅力の一つであった美貌(びぼう)が! ロウ:あの様な気品の欠片もない野獣の姿に変わってしまって…。 ロウ:こんな状況で真実の愛など見つかるはずがないじゃないか! ポット:あら、私は今のご主人様のお姿も愛くるしくて、あれはあれでとても魅力的だと思うわ。 ロウ:ふんっ…。それに、魔女の魔法にかかってからのご主人様は、何だかどこか変わってしまった気さえする! ポット:そうかしら?例えば? ロウ:言葉一つにしても以前のような傲慢さを感じないし、下手したら我々に対し気遣う様子さえ感じる時もある。 ポット:アダム様は昔からお優しい方だけど、最近はもっと磨きがかかったって事ね。 ロウ:雰囲気も何だかやけに丸くなったような気がするし…。 ポット:あら、それも良い事じゃない。最近は特にパーティ続きでお疲れだったから、久々に休めて棘が落ちたんでしょう。 ロウ:とにかく!中身は抜きにしても今のご主人様では、お相手を見つけるどころか、たとえ奇跡的に見つかったとしても、 ロウ:下手にまともな女性では、ご主人様のお姿を見た途端すぐに逃げ出してしまうに違いない! ロウ:困った…あぁ、困った!! ポット:ちょっと、落ち着きなさいな、ロウ・スタンダー。ほら、お茶でも飲んで。 ロウ:あ、ああ。そうだな、有難く頂こう。そう言えば喉が渇いていたんだ。(お茶を飲む) ロウ:はぁ…、やはり君の入れたお茶は絶品だなぁ。 ポット:うふふ、光栄ですわ、給仕長様。 ロウ:(満足そうに)うん。あー、それで?これはどこの茶葉を使っているのかな? ポット:えぇ?そうねぇ、確かこの近くの村で買ってきたものじゃなかったかしら? ロウ:近くの村というと…。 ポット:タウバー村よ。 ロウ:あぁ、タウバー村ですか。なるほど。(一口飲んで)うん、美味しい。実に良い風味ですな。 ロウ:それにしても、タウバー村と言えば、数日前にその村に関する話を小耳に挟んだ気がしたんだが、何だったかな…? ロウ:あぁ、そうだ!最近その村になんとも不思議な人物が居るという噂が。 ポット:不思議な? ロウ:えぇ、なんというか、とても美しいけれど、随分と風変わりな女性だとか。 ポット:風変わり…? ロウ:なんでも、無類の本好きで寝ても覚めても本ばかり読んでいて、しまいには村にある本をぜーんぶ読みつくしてしまったそうな。 ポット:あらあらまぁ。随分と聡明そうな方ね。 ロウ:それに、やたらと動物に好かれるお嬢さんみたいで、彼女の周りにはいつも多くの野生動物たちが集まってくるんだそうだ。 ポット:あら素敵。 ロウ:…ん?んんん??はっ!これは!いけるかもしれない! ポット:スタンダー?っきゃぁ! : 0:ポットの取っ手を掴み興奮した様子で激しく揺さぶるロウ : ロウ:ミセス・ポット!見つかりましたよ!ご主人様に適任のお相手が! ポット:ま、まぁ、ちょっと、いやだ。そんなに揺さぶらないで頂戴っ、中身がこぼれてしまうわ。 ロウ:あぁ、これは失礼。いや、しかし、一筋の光が見えたぞ! ロウ:これはすぐにでも彼女を迎え入れる準備をしなければ! ポット:待って、スタンダー、彼女って誰?迎え入れるって一体何のこと? ロウ:彼女ですよ、彼女!美人なのにちょっと風変わりで、本好きで動物に愛されるタウバー村の女性! ロウ:彼女ならば今のご主人様を前にしても、もしかしたら逃げ出さないかもしれない! ポット:っ!本当ね!その噂が真実なら、とっても良い考えよ、スタンダー。 ポット:それにここなら、大図書室もあるし、きっと彼女も気に入るわ。 ロウ:そうと決まれば、善は急げだ!すぐに支度をしよう。 ポット:ええ、そうね。私は美味しいお菓子と…それに音楽ね。 ポット:素敵なムードには素敵な音楽が不可欠だもの!早速、専属音楽師のコートラックと打ち合わせを。 ロウ:私はまずお部屋の片づけと、晩餐会の準備だ。 ロウ:そうとなれば…おや、私の愛しいフィフィは何処に行ったかな? ポット:ミス・フェザーダスターなら、さっきホールの掃除をしに行くって言ってたわ。 ロウ:ありがとう、ミセス・ポット。 ポット:いいえ。あぁ、そう言えば、あなた達近々結婚式を挙げるって言ってなかった? ロウ:そうなんだ。ははっ、でも、こんな状況じゃあ、ね。 ポット:そうね、残念だけれど、ご主人様の愛を成就する方が先になるわね。 ロウ:あぁ、そうだな(笑)しかし、いいんだ。どんな形であれ彼女と一緒にいられるなら、私は幸せだ。 ポット:あら、ご馳走様♪ ロウ:ははは。いや、それを言うなら君の方こそ。 ロウ:今週末に執事のウォッチマンと、結婚記念日だとかで南の方に旅行へ行くんじゃなかったかね? ポット:あらいやだ、私はこんな体だし、あの人に至っては振り子時計になってしまって、ふふ。 ポット:とてもじゃないけど、旅行どころじゃないわ。 ポット:でもいいの。無事にこの魔法が解ければ、旅行なんていつでも行けるんだから。 ロウ:そうか。うん、そうだな。この悪夢が覚めたら、長めに休暇をとってゆっくり羽を伸ばしてくるといい。 ポット:そうね。その時はお言葉に甘えて、そうさせて頂くわ。 ポット:でも、まずはその為にも、今出来る事を精一杯やりましょう。 ロウ:ああ。全ては、ご主人様の真実の愛の為に。 ポット:えぇ。アダム様の真実の愛の為に。 : : : 晴香:『こうして、ロウ・スタンダーとミセス・ポットが、あたしとベルたんの運命的な出会いの場を作る為に、あれやこれやと画策(かくさく)しているなんて事はつゆ知らず。 晴香:無事(?)待望のベルたんとの出会い目前までたどり着いたあたしだったけど。 晴香:まさかこの不朽(ふきゅう)の名作がとんだ迷作になろうとは…。 晴香:この時のあたしはまだ、知る由もなかったのだった。』 アダム:次回、タウバー村の噂の美女(?)現る。果たして真実の愛は見つかるのか? モーリス:いやぁー、ただ酒にモフモフ天国、この城さいっこーーー! モーリス:俺、ここに住んでもいいですか? アダム:それは、ダメ。 : : : 0:第一話、おしまい : :

0:ハルカ・インザ・ビースト(第一話) : : 晴香:目が覚めると、そこはまるで、中世のお城だった。 : 晴香:(タイトルコール)ハルカ・イン・ザ・ビースト、第一話。ああああたしが野獣って、まじかっっっ!? : : : 0:城のホール。黒いローブを着た魔女を前に、アダム、ロウ、ポットをはじめとした数十人の客や使用人が集まっている 0:アダム王子が今にも魔女に魔法かけられそうになっているシーン : ロウ:す、崇高なる慈悲深き(じひぶかき)偉大な魔女殿っ、どうか、どおぉぉか、お許しを! アダム:(晴香が憑依する)……はっ。 晴香:『…お?…おおぉ?……っえ?ここ…どこ?』 ロウ:この度の数々のご無礼、深く深くお詫び申し上げます!お望みの物があればすぐにご用意致しましょう!ですのでどうか…っ。 晴香:『は?……この人はどちらさま…?ってか、白髭に燕尾服って…執事かよ…。 晴香:えっ…えっ?なになにどういう事?(キョロキョロ)……うわぁっ、びっくりしたぁ…背後にめっちゃ人居るじゃん…。え、待って、なんでみんなドレスとかタキシードとか着てんの? 晴香:このビッカビカな宮殿みたいなホールも一体どこよ!? 晴香:(混乱)誰かの結婚式?…もしくは、仮装パーティーの会場とか?…あ、もしかしてサプライズ……はっ!まさか洋子(ようこ)か真希(まき)が!?………居ない……。』 ロウ:ご主人様はこの美丈夫なお見た目に反して、いささか頭が…ではなくて、お心が幼くあられるものですから…、物事の善し悪しが上手くつけられないお方なのです。 ロウ:決っして、悪いお方などではございません、えぇ! 晴香:『広いし豪華だしすんごいキラキラしてるしー……え?まさか本物のお城、じゃあ、ない、よね? 晴香:……いや、夢か。夢だなこりゃ。多分きっとまたお酒飲みすぎたんだわ、コレ。』 ロウ:……まぁ…、確かに、少々傲慢(ごうまん)に感じる所もございましたでしょうが、僭越(せんえつ)ながら言わせて頂けますならば、 ロウ:これはー…えー、少ぉーし、あ、いや、少し…じゃない…あっ、いえ、えっと…そのぉー、んー、何と言いますかー…。 晴香:『いやめちゃくちゃ口ごもるし。どんだけ言いづらいの。』 ロウ:あー………アダム様はー…あのー、い、一般的な常識がやや薄いー…、と言いましょうか…。 ポット:(小声でたしなめる様に)んんっ、スタンダー。 ロウ:おっ、これはこれはとんだ失礼を、…コホン。 晴香:『言いたい事あんならはっきり言えばいいのに……って…あれ?何この手首の布……うえぇっ!何じゃこの服、めっちゃビラビラしてんじゃん。 晴香:あ…えぇ?しかもよく見たらあたしだけ男性用着てない?え?なんで(笑)』 ロウ:本当にっ!ご主人様は根はとっても良い方なんです!根は!! 晴香:『いやーもー、なんか…自分の夢が謎設定すぎてどんどん謎が深まるんだけどぉ…。(キョロキョロ)しっかし、調度品も衣装もすっごいなー…まるでコレこの間観た美女と野獣の実写映画みたいじゃん…。』 ロウ:い、一見恐ろしく見える表情もですね、意外と良く見れば案外これはこれで味があるものでしてっ。…あっ、いえいえ!決して悪口などでは…。 晴香:『なんて言うんだっけこういうの。ゴシック調……じゃなくて、ロコモコ? 晴香:ってそれはハワイのご飯やー。(笑)』 ポット:(小声)しっかりして頂戴っ、スタンダー。今は貴方が頼りなのよ。 ロウ:(小声)いやはや…そう言われましても…。ご主人様を言葉で擁護(ようご)するのは中々に骨が折れるのですぞ…。 ポット:(小声)そんな事言わないで、ほらっ…。 ロウ:(小声)…いやはや……いやはや。 晴香:『うー、あんま着心地良くないなー、コレ。暑い重いし趣味悪いし、首の回りのヒラヒラがこすれてなんかむず痒いし……。』 ロウ:……正直、これは申し上げるべきか、いささか判断に困るのですが…。 晴香:『にしても…夢にしてはなんかデティールが細かい…気がするんだよねぇ……。服装とか装飾とか、人の顔とか…。それに、夢なのにこんなにはっきり感覚があるって、おかしくない? 晴香:…そう考えたら…色々と、リアルすぎる気がしてきた…。』 ロウ:(少し考えて)じ、実はご主人様は、その…笑顔を作ることを大っ変、不得手(ふえて)とされておりまして。 晴香:『いやでも流石にコレは夢オチじゃなきゃ説明付かないよね。マジで突飛(とっぴ)すぎるもん(笑)』 : 0:自分の頬をつねるアダム : 晴香:『いった!…めっちゃ痛い……え?あれ?もしかして……やっぱ夢じゃ、ない…?』 ロウ:ですので、何か思う所があるとか、後ろ暗い事をしているとか ロウ:そういった事は一切!何一つ、無い!と、わたくしは貴女(あなた)様に断言致します。 晴香:『あー、あー、あー、ダメだー。とりあえず現実逃避したーい。 晴香:…わあー、でっかいシャンデリアだぁー。こんなん落ちてきたら確実に一発であの世行きだなぁー…。 晴香:…ん?…………落ちてきた…ら?…死、ぬ…?』 : 0:魔女が何かをロウに言う : ロウ:あ、いえいえ!そんなことは… ロウ:(困り果てた様子で)……まぁ、そうですね、貴女様のおっしゃる通り、口調もまぁだいぶアレな感じではございます。 ポット:ちょっと、スタンダー…。 ロウ:いいえミセス・ポット。そこに関しては、わたくし達も認めざるを得ない所であります。が、しかし!恥を承知で申し上げさせて頂けますならば、それもまた、わたくし共の力が足りず、ご主人様の教養不足を招いた結果なのです! ロウ:つまり、何が言いたいかと言いますと、えー…言語能力と言いますか、語彙力(ごいりょく)の発達がー…ですね、あー…そのぉー…なんだ…んんー…(胃を押さえる)。 晴香:『って言うか、さっきから人の真横でごちゃごちゃとうるさいこのハゲ紳士は一体誰なのよ。ご主人様に対してやたらボロクソ言ってるけど…。』 ロウ:いやはやしかし、どれもこれも、全てはわたくし共の力不足が招いた結果でございますればっ。重ねて深くお詫び申し上げます。大っ変っ、申し訳ございませんでした!およよよ…。(泣) 晴香:『うわぁお、お辞儀が深過ぎてつるぴかな床につるぴかな頭皮がついちゃいそう…。』 ロウ:っ、モチロン!言葉だけの謝罪などで貴方様の気が晴れるとは毛頭考えてはおりませぬ。 晴香:『毛頭って(笑) 晴香:ハゲ紳士が言うとなんか一気に意味深になるな(笑) 晴香:…うーん、取りあえず現状としては話の流れ的に、その件(くだん)のご主人様があの黒いフード被った怪しげな人になんか無礼なことをしたって感じかぁ。 晴香:上司の責任は部下の責任って、あたしも良くクソ上司に言われてたなー。普通逆だろっ!…って言いたいけど、言えないんだよねー。 晴香:わかるわかる、よーくわかるよ、ハゲ紳士。辛いよねー、ダメな上司、じゃなくて、ダメなご主人様を持つと…。』 ロウ:ですが!ここは一つ、わたくしの取るに足らないこの命ではございますが、どうか、どうかこのわたくしめの命で、この場はご容赦頂けませんでしょうか。 晴香:『……はい?…いやなんでそこで命を差し出すの?え?え?そのご主人様ってヤツ、命のやり取りが発生するレベルの悪い事をしてたの!?さすがにそれはヤバくない? 晴香:いや、だとしたらさ、普通はその本人が謝るべきじゃないの!?なんでここまでそのご主人様とやらは一切出てこないのさ!』 ポット:スタンダー…。 晴香:『こんな優しそうなおばちゃんメイドさんにまで悲しい顔させて…。 晴香:ぐぬぬぬぬっ、許さぁーんっ!たとえお天道様が許したとしても、この晴香様が許さん!あたしがその諸悪の根源をこのビッカビカなホールのど真ん中に引きずり出して見事な土下座をさせてくれる! 晴香:(周りをキョロキョロして)どれだ…?どいつが犯人だ…?多分、この中で一番偉そうな…。』 ポット:この城の使用人は皆、彼と同じ気持ちですわ。どうぞ、わたくし共の命をお受け取りくださいませ。 ロウ:何卒(なにとぞ)、何卒、ご主人様のお命ばかりは…。 晴香:『えっ、いやもう少し待ってって!今あたしがその極悪野郎を見つけて…』 ロウ:さぁ、一思いにどうか… 晴香:『(被せて)わああああああ!』 アダム:(大きな声で)ちょっと待って!! ロウ:ひいぃっ!!! ポット:ご、ご主人様…? 晴香:『うっ…何…今の低い声…。』 ロウ:ななっ、な、何ですかご主人様!急に大声をあげて! アダム:…え?ご主人様って…。 晴香:『うわっ、なにこれ、あたしの声じゃない!!!!』 ロウ:はぁ? ロウ:おっと、…コホン、失礼致しました。 ロウ:…しかしながらです、ご主人様。この大事な局面において、何を寝とぼけた事仰っているのですか! アダム:えっ、何!?も、もしかして、ご主人様って、あたし!? ロウ:貴方様以外にどなたがいると仰るんですか!? ロウ:はぁー…もう驚いた。驚きすぎてわたくし、この大事な大事な心の臓がポーンと口から飛び出して逝ってしまうかと思いましたぞ!? アダム:(絶句)………。 晴香:『(動揺)なに?どういう事…?』 ポット:ロウ・スタンダー。今はそんな冗談を言ってる場合では… ロウ:っは!!えぇ、えぇ、ミセス・ポット。そうでしたそうでした。(一人何かに納得しているかのように頷きながら)うんうん、そうそう、そうですねぇ。えー、ですから、……あー……。 ロウ:おや?わたくしどこまで申し上げましたですかな? ポット:(軽く溜息)まったく。 ポット:(咳払い)、魔女様、発言をすることをお許しください。 : 0:魔女が頷く : ポット:(恭しくお辞儀する)…寛大なお心に感謝いたします。 ポット:ご主人様は、この領地にとって、そして何よりもわたくし達にとって掛け替えのないお方です。 ポット:どうかそのお怒りをお納めになり、今一度、寛大なご配慮を頂けますよう、我々一同、心より、お願い申し上げます。 ロウ:………。 : 0:ポットの動作に倣(なら)って、客も使用人も皆一様に頭を下げていく : 晴香:『はっ!やば、あまりの異常さに自我を失ってた……って、えっ、何!?なんでみんな頭下げてんの…? 晴香:っていうかコレあたしだけめっちゃ目立ってるからぁ!ひえぇぇ、ちょっと待ってよー、えー、これって…あたしも一緒に頭、下げる、べき…?いや、下げなきゃ……えぇーい!なるようになれっ!』 アダム:っすぅー………。(おずおずと頭を下げる) ポット:(強めに咳払い) アダム:ひっ! 晴香:『やっべ、間違えたっぽい……。 晴香:あたし…、って言うか、この身体の持ち主がここのご主人様なんだっけ?もしかして、一番偉い人って簡単に頭下げちゃだめとかっていう決まり事でもある感じ…?いやでも、あたしさっき諸悪の根源に土下座させるとか何とかって―――いや、今はそんな事どうでもいいな、うん。』 アダム:……コホン。…ん? 晴香:『―…あれ?まって、おかしいおかしい。このハゲ紳士さっきあたし…じゃなくて、んー、カッコご主人様カッコ閉じるに対してやたらボロカス言ってたじゃん。それは良いの?ねぇ、オッケーなの?』 アダム:あのー…。 ロウ:?何かわたくしの顔に…? アダム:……あ、いや。 晴香:『やめとこ。取りあえずまずは状況整理しなきゃ。 晴香:もしもコレが夢じゃないとしたなら、なんであたしこんな所に…?しかも男に身体も入れ替わってるし。それにさっきまで外に居たはず……あれ?そーいや、あたし今まで何してたんだっけ…。』 ロウ:(小声)ミセス・ポット、何だかご主人様の様子がおかしくありませんか? ポット:(小声)……今はそんな事気にしてる場合じゃないでしょ。 晴香:『…確か…、今日は朝早く起きて、ネズミーランドで洋子達と女子会したんだよね。一年ぶりに三人で集まって…。 晴香:んで、その帰りに工事現場の近くを通って……あ!そうだ、思い出した…。 晴香:……急に叫び声が聞こえたと思ったら、上から落ちてきた鉄骨に、あたし……。』 : 0:アダム(晴香)の身体が魔女の魔法により光の塵(ちり)に包まれる : ポット:あああぁ、そんなっ、ご主人様!…ご主人様―――…。(泣き崩れる) ロウ:お、お待ちください!魔女様!!何卒っ、何卒ぉぉお! 晴香:『へっ!?やだ!何この光っ!?なになになんで!? 晴香:はっ、まさかお祓い!?えっなに、なんで!?ちょっといきなりすぎない!?待ってよやだ!やだってば!死んだって気づいたばっかでこんなすぐ成仏すんのやだよ!』 アダム:いやっ、待って!待ってってば!やだやだやだ、あたしまだっ、まだ心の準備がっ…。 0:その場の全てが光に包まれる ポット:あらまぁっ…!わたくしの身体まで…あらららら…! ロウ:ご主人様ー!このロウ・スタンダー、死ぬときもお側に、ああああああぁぁぁぁ…。 アダム:やだぁ―――っ、まだ死にたくないいいいぃぃぃぃぃ…。 : : : 0:城内のアダムの寝室。ベッドに横たわるアダムにポットは寄り添っている : ポット:……さま。…しゅ…んさま。………ご主人様。 アダム:んっ、んん…。 ポット:っ!ご主人様!あぁ…良かった…。やっとお目覚めになられたわ。(涙ぐむ) アダム:ん…ここ、は…。 ポット:ここは、ご主人様の寝室ですよ。 : 0:慌ててロウが部屋へ入ってくる : ロウ:ご主人様!?ミセス・ポット!今ご主人様って言いましたか!? ロウ:もしかして、ご主人様がお目覚めに ポット:しっ!大きな声を出さないで。たった今、お目覚めになった所よ。 ロウ:はっ!も、申し訳ございません、ご主人様。 ロウ:ですがっ、ですがわたくしっ(涙ぐむ)もう二度とご主人様がお目覚めにならないのではないかと…グスッ。 アダム:…これは、…いったい? ロウ:おぉ、(鼻をかむ)それはわたくしがご説明いたしましょう。 ロウ:昨夜(さくや)のパーティに訪れた年配のご婦人が、実はこの先にある森の魔女だった様でして。 晴香:『ま、じょ?』 ロウ:意図せず機嫌を損ねてしまい、その報いとしてこの城全体に魔法をかけた、というのが事の次第でございます。 晴香:『んっ?(笑)何それ。なんか聞き覚えのある話なんだけど…?』 ロウ:幸い皆、ケガや命に別状などは無かったのですが、その魔法によって城の者達は皆、姿を変えられ、私共も御覧のありさまでございます。 晴香:『あぁー、なるほど。視界がはっきりしてきた。確かに目の前に喋るロウソクスタンドとティーポットが居るわー、はいはい。 晴香:えー、もうこれ、アレじゃん。完全に美女と野獣のストーリーじゃん。 晴香:何これ、やっぱ夢?明晰夢(めいせきむ)ってやつ?』 ロウ:…あぁ、その、大変申し上げにくいのですが。我々の説得も虚しく、 ロウ:それは無慈悲にも、結局一人として例外は頂けなかった様でして… ロウ:あのー…、いや、なんと申しましょうか……その、ご主人様の、お姿も…。 晴香:『!?いや、まって、さっきからご主人様ご主人様って、もしかして…これ、あたし…。』 アダム:…ぎゃぁーーーー!よりにもよって、野獣かよぉおおおっ! ロウ:たいっ、へんっ、申し訳、ございませんっっ! ロウ:わたくしの力が及ばなかったばかりに、このような醜い… ポット:(セリフに被せて、強く咳払い) ロウ:はっ!い、いや、…その、何と言いますか、あはは。 ロウ:え、えぇーと、こ、このような…たっ、猛々(たけだけ)しい、と言うか、野性味?溢れると言いましょうか…いやはや。 晴香:『あの時も思ったけど、このハゲ紳士もとい喋るロウソク台のご主人様に対する態度って、なんか従者のそれっぽく無くない…?』 ロウ:…?何か? アダム:…いえ?別に…。 晴香:『いやぁ…それにしても…。』 アダム:(落ち込んだ様子で)まじかぁ…。 ポット:ご主人様、どうかそのように気を落とさないで下さいな。 ポット:何もずっとこのままと言うわけでは無さそうですのよ。あのご婦人は、去り際にこう申しておりましたわ。 晴香:『あぁ、例のあれか。うん、あたしそれ知ってるなー。アニメ版も実写版も何度もリピートして観たもん。聞かなくてもわかるよー、ポット夫人。』 ポット:この魔法のバラの花びらが、全て落ちる前に、真実の… アダム:(被せて)真実の愛を見つけよ。さすれば魔法は解かれん。 ポット:まぁっ、ご主人様。気を失っていたかと思っていましたのに、聞いてらしたの?流石ですわ。 アダム:いや、…聞いたというか、 晴香:『元から知っているというか。はは…。』 : 0:アダムは起き上がろうとして後頭部に激痛が走る : アダム:うっ!…いったぁ。 ロウ:ご主人様!まだ動かれてはなりません。 ロウ:倒れた際に床で頭を激しく打たれたのですぞ。 ロウ:出血しなかったのが不思議な位だったのですから、痛くて当たり前です! : 0:ロウが起き上がろうとしたアダムの身体を強めに倒す : ロウ:しばらくは、大人しくしていて、くだ、さいっ!! アダム:うわっ!っつう、痛たたた。 アダム:やっぱり…痛みがあるってことは、夢じゃないんだ…。 ロウ:ええ、ええ、本当に。夢であったならばどんなに良かったことか。 ポット:そう悲観(ひかん)しないで、二人とも。確かにこれは紛れもない現実だけれど、今はまだ、そんなに悲観的になる程悪い状況ではありませんわ。 ポット:一生このままというわけではないのですから。ね、そうでしょう? ポット:わたくしは、ご主人様が以前のように心優しく、そして愛にあふれた、そんな立派な殿方にご成長なされれば、真実の愛などすぐに見つかると確信しておりますのよ。 ロウ:ふむ。そうだな、ミセス・ポット。それには私も大いに同感だ。 ロウ:しかし…このお姿では、どう頑張っても相手はせいぜい家畜か、良くて森の動物だn、あいたっ! ロウ:何をするんだミセス!!暴力は良くない! ポット:どんなお姿でも、必ずご主人様の内面を見て、そして愛してくれる方と巡り合えますわ。それが、真実の愛ですもの。 晴香:『いい人だなー、ポット婦人。 晴香:ちょっとメルヘン気質なとこあるけど、少なくても今の所、こっちのキャンドルおじさんよりは全然いい人よね。 晴香:まぁ、キャンドルおじさんもそんなに悪い人では無さそうだけど(笑) 晴香:なんにせよ、取りあえずはこの魔法を解く為にも、とっととその運命の相手に出会わなきゃ、だね。』 アダム:あー…じゃあ、そしたらちょっと急ピッチでベルたんを見つけてきてもらって… ポット:べるたん? ロウ:きゅう、ぴっち? 晴香:『んがっ、しまった。色々すっ飛ばしすぎた』 アダム:あ、いや、何でもない。あたs(咳払い)ワタシは疲れた。少し休みたいから一人にさせてくれないか。 ロウ:?…え、えぇ、かしこまりました。それではご主人様、何かございましたらいつでもお呼びくださいませ。 アダム:あぁ、わかった。 : 0:ロウとポットが部屋から出ていく : 晴香:『なるほどねー、うんうん。そっかぁ…。あたし死んじゃったのかぁ。』 アダム:(落ち込んだ様子で)はぁぁああああああ。 晴香:『ふっ。(笑)んで目が覚めたら?美女と野獣の世界で、あろうことか野獣に憑依(ひょうい)しちゃった、と。 晴香:まじかぁあああ。あぁ、これが俗にいう異世界転生ってやつかぁ。 晴香:…いやいやいや、まって!そもそもなんで野獣!? 晴香:ここは普通ヒロインのベルたんか、そうじゃなきゃせめて村娘とかに転生するもんじゃないの? 晴香:なんで男、っていうか…今は雄?あーもうっ!ややこしすぎ!』 : 0:両手で顔を覆う : 晴香:『んっ!このモッフモフな感触は…もしや!』 アダム:(声にならない悲鳴)~~~~~っっ!!!!! アダム:ちょっと、まってよ、あたしのお尻から尻尾生えてるうううう!何これぇ!めっちゃくっちゃ、モッッフモフやないか!!! アダム:…あぁ、これは正に人をダメにする触り心地。 アダム:んぁっ!と、言うことは…。 : 0:恐る恐る頭頂部に手をやる : アダム:あーーー!やっぱこうなったら当然耳は、ここですよねぇー。(喜) アダム:あああああやばい、やばすぎる…(呼吸荒く) アダム:鏡、鏡は何処じゃ…。 : 0:ベッドから起き上がる : アダム:うっ!いったぁ!あいたたた。げっ、たんこぶ出来てる…うわこれ…下手したら握り拳くらいあるんじゃない? アダム:あ、違う違う、今はそんなことより…あっ!鏡あった! : 0:大きな姿鏡に全身をうつす : アダム:ぎゃーーーーー!まっじか! アダム:やっべぇ、牛系の猛獣想像してたけどこれ普通にネコ科じゃねえか!くっそ萌えるううう! アダム:でもこれ、野獣っていうか、ライオン?いや、むしろ猫種の……あ、メインクーン。コレほぼほぼメインクーンだ…。 アダム:あー…美しいなー…、これを醜いとか…、あのキャンドルおじさん、もしかして猫嫌い? アダム:はっ(笑)、だとしたらもれなく戦争が起きるな…』 : 0:ひとしきり自分の姿を堪能する : アダム:(息切れ)はぁ…はぁ……うん、いいな、これ。 アダム:割と案外、このままでも良い気がしてきたな。 アダム:…いや?寧(むし)ろ、最高だろ。ははっ、ははははは(笑) : : 0:数日後 : 晴香:『そうこうしている内に時は過ぎ、アダムとしての生活にも慣れたあたしは、巨大な猫化生活を思う存分満喫していた。そんなある日。 晴香:それは突然やってきた。』 : 0:モーリスが恐る恐る城内へと入ってくる : モーリス:あのう、どなたかいらっしゃいませんかぁー…? 晴香:『うわっ!これってあれじゃん!ベルたんの父親が迷い込むシーン! 晴香:わー、いよいよかぁ。でもこれベルたんと出会っちゃったら、この素晴らしいニャンダフル☆ライフ、数日後には終わっちゃうんじゃ…? 晴香:えー、どうしよう…。』 モーリス:すみませーーーん、誰かいませんかぁーーー? モーリス:私、怪しい者とかじゃなくて、ちょっと道に迷ってしまったんですけどぉーーー。 晴香:『うぅーん、でもなぁ、せっかく美女と野獣の世界に転生したんだから、本物のベルたんには会ってみたいって気持ちはあるんだよねぇ。 晴香:いや、だけど…』 モーリス:あのーーー、一晩で良いので、泊めてもらえないでしょうかーーー? 晴香:『いくら転生して身体が雄になったとは言っても、あたし中身はガッチガチの女なんだよなぁ。 晴香:女の子とイチャラブは、いくら何でもちょっときちぃよぉ…。 晴香:いや、別に他人の性癖や趣味嗜好(しゅみしこう)に関しては何も思わないし、むしろ応援する気持ちだってあるけどさぁ。 晴香:それが自分となると話は百八十度変わってくるのよなぁ。』 モーリス:…っ、実は、森の中で馬も逃げてしまって、手持ちの荷物も乗せてどこかに行ってしまったので……、空腹で今にも倒れてしまいそうなんですーーー。 晴香:『もし…、ベルたんがむちゃくちゃ美少女だったとしたら…? 晴香:……いやー、やっぱ無理。あたしには女の子を性的な対象として見ることは絶対不可能! 晴香:うんっ、百合は見るモノ!愛でるモノ!ノット百合展開!』 モーリス:うーん、誰もいないのかなぁ…。あのー!ほんの少しでも構わないので、何か食べ物をわけてもらえませんかーーー? 晴香:『んー、困ったなぁ。誰かに対応してもらいたいのにこんな時に限ってキャンドルおじさんもポット婦人も居ないんだよなぁ。』 モーリス:こんなに呼んでも返事がないってことは、やっぱりこの城は無人なのかなぁ。 モーリス:弱ったな…暗くなる前に他をあたった方がいいかな。 : 0:モーリスが城を出ていこうと扉のほうへ歩いていく : 晴香:『あっ!やばいっ、帰っちゃう!よく良く考えたら、これ逃すとストーリー進まなくなるじゃんっ!』 アダム:(咳払い)…誰だ。 モーリス:あ!良かったぁ!どなたか居たんですね!はぁぁ、本当に良かったぁ。 モーリス:誰も居なかったらどうしようかと。 : 0:モーリスの前にアダム(二足歩行のビラビラした服を着た、人間サイズの猫)が姿を現す : モーリス:!?(息をのむ) アダム:…なんだ、猫は嫌いか? モーリス:あ、いえ、…いやっ、嫌いというか、むしろ好きですが…。 モーリス:その、ちょっと…歩く猫、というか、喋る猫、というか、いやそもそもそのサイズの猫を見るのは初めてで…。 アダム:…悪い猫じゃないよ。(小声) モーリス:は? アダム:いや、何でもない。 モーリス:は、はぁ…。 アダム:それで、私がここの主だが、我が城に何の用だ。 晴香:『まぁさっき散々大声で叫んでたの聞いてたから知ってるんだけど、一応ね、一応。』 モーリス:あっ、実はそのぉ、森で迷い、馬も逃げてしまって、一晩泊まれる所を探して、まして…。 : 0:アダムの尻尾をガン見しているモーリス : アダム:ふむ、それは災難だったな。幸い我が城には、客人を一晩泊める程度の部屋ならばいくらでもある。 モーリス:えっ。 アダム:一晩くらいなら泊って行っても構わない。 モーリス:あー…、えっとー…。 晴香:『あれ?なんだろ、この歯切れの悪い反応。もしかして、この姿が恐い…?』 アダム:あぁ、いや。部屋へ案内したら私は自室に戻るから、それ以降会うことはないのだが… モーリス:(セリフ被せて)それ、ホンモノですか? アダム:…はっ?それって? モーリス:その、尻尾…。 アダム:いや、はい、本物です…。 晴香:『…はっ!!しまった!意表突かれて思わず素が。 晴香:って、恐がってんのかと思ったら、まさかの尻尾かよっ!わー、めっちゃ尻尾ガン見してるぅ…。 晴香:なぁんだー。これはこれは…、そこはかとなく仲良くなれそうな匂いがしてきたぞ…。』 モーリス:うわぁああ!あのっ、ちょっと触ってもいいですか!? 晴香:『わかる、その気持ちはすごくよくわかる。でも今は悪いけど…』 アダム:それはダメだ。それより部屋へ案内しよう。 アダム:大したもてなしは出来ないがゆっくりするといい。ああ、それと食べ物は酒のつまみ程度で良ければすぐに出せるが…? モーリス:本当ですか!ありがたい!それで充分です。ただ…。 アダム:なんだ? モーリス:いやぁ、あはは。泊めていただけて、その上貴重な食料も分けてもらえるなんてとてもありがたいのですが…、 モーリス:もし良ければ、旦那様のおこぼれ程度でも構わないので、その、少しだけお酒も頂けたらなぁ…なんて。 晴香:『うーん、モフ好きに加えて酒好きにこのふてぶてしさ。なんだかとても他人とは思えなくなってきたぞー♪』 アダム:ああ、構わん。後で用意しよう。 モーリス:あぁっ、神よ、そして懐(ふところ)の深き猫の旦那様よ!感謝致します!! アダム:ぶっ!? モーリス:?どうかしましたか?猫の旦那様。 晴香:『いや、猫の旦那さまって…、君かわいいかよ!』 アダム:いや、部屋へ案内しよう。ついて来なさい。 : : : 0:その夜更けのこと、モーリスにあてがわれた客室にて、酒瓶を次々と空けていくアダムとモーリス : モーリス:(酔っぱらっている)いやー、そこでまさかの馬が、木のうろに足を取られて転んじゃいまして、 モーリス:あいつ、ご主人様の俺をほっぽり出してぴゅーって逃げて行っちゃったんですよー。(笑) アダム:(酔っぱらっている)あはは、まじか!それは災難だわ。 モーリス:ほんっと、それです。あははは。 モーリス:(酒を飲む)っぷはぁ。でもー、猫の旦那様がこんなに気さくな人でほんとに良かったれすぅー。 アダム:ちょ、さっきからめちゃめちゃ気になってんだけど、何なの、その猫の旦那様って。(笑) モーリス:えぇー?猫の姿した旦那様だから、猫の旦那様です! アダム:ぶっ、まんまかよ! アダム:まぁ、なんだって良いけどさ、いい加減その呼び方はやめてくんない? アダム:はるk…じゃなくて、アダム。アダムで良いからさ。 モーリス:あぁー、アダム様ですか。俺、モーリスです。 アダム:おっけ、モーリス君ね。(酒を飲む) アダム:でもさ、モーリス君って結構まだ若いよね?歳、二十代半ば位じゃない? モーリス:あ、はい、今年で二十六になりました。 アダム:やっぱりー。 晴香:『あれっ?でもそれっておかしくない…?それじゃあどんなにモーリス君が頑張っても…』 アダム:(小声)娘のベルたんは十歳前後になっちゃうよね…。 モーリス:え?べるたん? アダム:あ、いや、こっちの話。 アダム:あのさ、モーリス君、キミ子供さんっている? モーリス:いやぁ、恥ずかしい話、まだ嫁もいなくて、ヘヘっ。母と姉妹と六人で暮らしてますぅー。 モーリス:上の兄たちはもう一人立ちして街で家庭をもってるんれすけど、俺は母たちを養っていかなきゃなんなくて。 アダム:ん?お父さんは? モーリス:あー、それが、昔仕事で乗っていた船が航海中に嵐にあいまして…。 アダム:あ、そっかぁ…、なんかごめん。 モーリス:あーいやいや、もう十年以上前のことなんで、ぜぇーんぜん大丈夫でーす。 晴香:『あれぇ?これ話違くない?あたしの知ってる美女と野獣の設定じゃない……。 晴香:あ、いや、待って。そういえば原作のほうではベルたん、他に兄姉(きょうだい)がいたって、聞いた事あるような。』 アダム:モーリス君の妹さんって今十六歳くらい? モーリス:そうですね、末の妹がその位です。 晴香:『ビンゴ!』 モーリス:あ、その子ルベールって言うんですけど。もう、それがすこぶる美人なんですよー?控えめに言っても、うちの村じゃ断トツ一位の器量良し! アダム:る…ベル…。 モーリス:えぇ。俺ね、あんまり頭良くないんですけど、確かル・ベルって「美人」って意味なんですよね? モーリス:名は体(たい)を表すとはよく言うけど、うちの両親もまた、生まれたばかりの赤ん坊にすごい名前つけたよなぁ。(笑) 晴香:『ちょっとだけ名前違うけど、やっぱりベルたんは…』 アダム:その子だぁ!! モーリス:!?何がですか? アダム:モーリス君さ、ちょっと相談なんだけど。 モーリス:は、はい。 アダム:そのルベールさん?ここに連れてきてくんない? モーリス:ええっ!?いやぁ、それはいくらアダム様の頼みでも…。 アダム:お願いっ!一生のお願い!悪いようにはしないから! モーリス:えー…。いやっ、ええぇぇー?やですよぅ。だってそれ、大方(おおかた)悪い奴が言うセリフー。 アダム:いやいやいや、本当に!絶対何もしない!誓って、下心とか一切なしで! モーリス:ええー…?うーーん…。 晴香:『あー、流石に酔ってても即決は無理かぁ。仕方ない、ここは情に訴えかける作戦で!』 アダム:あぁ、いやさ、自分…小さい頃からずーっとここで育ってきて、情けない話、限られた人間関係しかなかったからさ、 アダム:生まれてこの方一度もそんなすこぶる美人って人、見たことないんだよね。 アダム:でもさ、せっかく近くの村にそんな評判の美人がいるっていうなら、ぜひ一度くらいは自分のこの眼で見てみたいなーって。 アダム:ほんとそれだけ。ねっ?ねっ!? モーリス:うーん…。 晴香:『ぐぬぬぬ、思ったより手ごわい。こうなったら、奥の手出すしかないな。』 アダム:お願いっ!尻尾モフらせてあげるかr モーリス:(セリフ被せて)オッケーです!じゃあ明日帰ったら妹に言ってみます。 アダム:はやっ! 晴香:『あははー、知ってた。そうだよね、このモフモフの魅力には君も勝てないよね。素直で単純な所が君の良い所だよ、モーリス君♪』 モーリス:あぁ、ただ最近、あの子ちょっと変というか、おかしくなったというか…。 晴香:『そういや、ベルたんって確かそーゆう設定だったね。』 アダム:いや、いいいい、全然大丈夫!先見の明(せんけんのめい)を得たいというか、今後の進行的に必要というか、…あ、いや。 アダム:とにかくただ純粋に、美女を見てみたいってだけだから! アダム:いやぁー、ありがとねー、モーリス君。ほらっ、どんどん飲んで!あ、尻尾も触っていいよ! モーリス:わぁぁぁ…もふもふだぁぁぁ…。 晴香:『かくして、猫と主人公の兄という奇妙な組み合わせの二人の夜は賑やかに更けていき、城の酒がほぼ無くなるまで飲み明かしたのだった。』 : : 0:翌日、昼間のこと : 晴香:『一方その頃、城内のとある一室では』 ロウ:はぁーーー。 ポット:…。 ロウ:はぁああーーー。 ポット:…。 ロウ:はぁぁぁああああああ ポット:(セリフ被せて)なぁに、さっきからもうっ! ポット:給仕長(きゅうじちょう)ともあろう方が、何度もため息なんてついて、みっともない。 ロウ:そうは言ってもだなぁ、ミセス・ポット、君も見ただろう?ご主人様のあのお姿! ポット:えぇ、見ましたよ、それが何か? ロウ:全身毛むくじゃらで鼻の奥がむず痒くなるようなおぞましいお姿! ロウ:元の端正なお顔立ちとは程遠いなんとも無残な犬畜生になり果ててしまって…。 ポット:犬ではなく、どちらかと言うと猫ね。 ロウ:傲慢で、非常識で、幼稚なご主人様の数少ない魅力の一つであった美貌(びぼう)が! ロウ:あの様な気品の欠片もない野獣の姿に変わってしまって…。 ロウ:こんな状況で真実の愛など見つかるはずがないじゃないか! ポット:あら、私は今のご主人様のお姿も愛くるしくて、あれはあれでとても魅力的だと思うわ。 ロウ:ふんっ…。それに、魔女の魔法にかかってからのご主人様は、何だかどこか変わってしまった気さえする! ポット:そうかしら?例えば? ロウ:言葉一つにしても以前のような傲慢さを感じないし、下手したら我々に対し気遣う様子さえ感じる時もある。 ポット:アダム様は昔からお優しい方だけど、最近はもっと磨きがかかったって事ね。 ロウ:雰囲気も何だかやけに丸くなったような気がするし…。 ポット:あら、それも良い事じゃない。最近は特にパーティ続きでお疲れだったから、久々に休めて棘が落ちたんでしょう。 ロウ:とにかく!中身は抜きにしても今のご主人様では、お相手を見つけるどころか、たとえ奇跡的に見つかったとしても、 ロウ:下手にまともな女性では、ご主人様のお姿を見た途端すぐに逃げ出してしまうに違いない! ロウ:困った…あぁ、困った!! ポット:ちょっと、落ち着きなさいな、ロウ・スタンダー。ほら、お茶でも飲んで。 ロウ:あ、ああ。そうだな、有難く頂こう。そう言えば喉が渇いていたんだ。(お茶を飲む) ロウ:はぁ…、やはり君の入れたお茶は絶品だなぁ。 ポット:うふふ、光栄ですわ、給仕長様。 ロウ:(満足そうに)うん。あー、それで?これはどこの茶葉を使っているのかな? ポット:えぇ?そうねぇ、確かこの近くの村で買ってきたものじゃなかったかしら? ロウ:近くの村というと…。 ポット:タウバー村よ。 ロウ:あぁ、タウバー村ですか。なるほど。(一口飲んで)うん、美味しい。実に良い風味ですな。 ロウ:それにしても、タウバー村と言えば、数日前にその村に関する話を小耳に挟んだ気がしたんだが、何だったかな…? ロウ:あぁ、そうだ!最近その村になんとも不思議な人物が居るという噂が。 ポット:不思議な? ロウ:えぇ、なんというか、とても美しいけれど、随分と風変わりな女性だとか。 ポット:風変わり…? ロウ:なんでも、無類の本好きで寝ても覚めても本ばかり読んでいて、しまいには村にある本をぜーんぶ読みつくしてしまったそうな。 ポット:あらあらまぁ。随分と聡明そうな方ね。 ロウ:それに、やたらと動物に好かれるお嬢さんみたいで、彼女の周りにはいつも多くの野生動物たちが集まってくるんだそうだ。 ポット:あら素敵。 ロウ:…ん?んんん??はっ!これは!いけるかもしれない! ポット:スタンダー?っきゃぁ! : 0:ポットの取っ手を掴み興奮した様子で激しく揺さぶるロウ : ロウ:ミセス・ポット!見つかりましたよ!ご主人様に適任のお相手が! ポット:ま、まぁ、ちょっと、いやだ。そんなに揺さぶらないで頂戴っ、中身がこぼれてしまうわ。 ロウ:あぁ、これは失礼。いや、しかし、一筋の光が見えたぞ! ロウ:これはすぐにでも彼女を迎え入れる準備をしなければ! ポット:待って、スタンダー、彼女って誰?迎え入れるって一体何のこと? ロウ:彼女ですよ、彼女!美人なのにちょっと風変わりで、本好きで動物に愛されるタウバー村の女性! ロウ:彼女ならば今のご主人様を前にしても、もしかしたら逃げ出さないかもしれない! ポット:っ!本当ね!その噂が真実なら、とっても良い考えよ、スタンダー。 ポット:それにここなら、大図書室もあるし、きっと彼女も気に入るわ。 ロウ:そうと決まれば、善は急げだ!すぐに支度をしよう。 ポット:ええ、そうね。私は美味しいお菓子と…それに音楽ね。 ポット:素敵なムードには素敵な音楽が不可欠だもの!早速、専属音楽師のコートラックと打ち合わせを。 ロウ:私はまずお部屋の片づけと、晩餐会の準備だ。 ロウ:そうとなれば…おや、私の愛しいフィフィは何処に行ったかな? ポット:ミス・フェザーダスターなら、さっきホールの掃除をしに行くって言ってたわ。 ロウ:ありがとう、ミセス・ポット。 ポット:いいえ。あぁ、そう言えば、あなた達近々結婚式を挙げるって言ってなかった? ロウ:そうなんだ。ははっ、でも、こんな状況じゃあ、ね。 ポット:そうね、残念だけれど、ご主人様の愛を成就する方が先になるわね。 ロウ:あぁ、そうだな(笑)しかし、いいんだ。どんな形であれ彼女と一緒にいられるなら、私は幸せだ。 ポット:あら、ご馳走様♪ ロウ:ははは。いや、それを言うなら君の方こそ。 ロウ:今週末に執事のウォッチマンと、結婚記念日だとかで南の方に旅行へ行くんじゃなかったかね? ポット:あらいやだ、私はこんな体だし、あの人に至っては振り子時計になってしまって、ふふ。 ポット:とてもじゃないけど、旅行どころじゃないわ。 ポット:でもいいの。無事にこの魔法が解ければ、旅行なんていつでも行けるんだから。 ロウ:そうか。うん、そうだな。この悪夢が覚めたら、長めに休暇をとってゆっくり羽を伸ばしてくるといい。 ポット:そうね。その時はお言葉に甘えて、そうさせて頂くわ。 ポット:でも、まずはその為にも、今出来る事を精一杯やりましょう。 ロウ:ああ。全ては、ご主人様の真実の愛の為に。 ポット:えぇ。アダム様の真実の愛の為に。 : : : 晴香:『こうして、ロウ・スタンダーとミセス・ポットが、あたしとベルたんの運命的な出会いの場を作る為に、あれやこれやと画策(かくさく)しているなんて事はつゆ知らず。 晴香:無事(?)待望のベルたんとの出会い目前までたどり着いたあたしだったけど。 晴香:まさかこの不朽(ふきゅう)の名作がとんだ迷作になろうとは…。 晴香:この時のあたしはまだ、知る由もなかったのだった。』 アダム:次回、タウバー村の噂の美女(?)現る。果たして真実の愛は見つかるのか? モーリス:いやぁー、ただ酒にモフモフ天国、この城さいっこーーー! モーリス:俺、ここに住んでもいいですか? アダム:それは、ダメ。 : : : 0:第一話、おしまい : :