台本概要

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タイトル ビトウィーン・ザ・シーツ
作者名 コバルト犬
ジャンル ラブストーリー
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 これはとあるクリスマスのお話



瑞希、香夜が主軸のお話です

ナレが文字数は瑞希並ですがだいぶ気まずいかと思うので、二人で読んでいただいても大丈夫です

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
瑞希 127 割と口悪めの男の子 香夜とは幼馴染
香夜 125 元気いっぱい女の子……? 瑞希とは幼馴染
ナレ 不問 44 お話を聞かせてくれるバーテンダーさん
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0: 0:<バー・カウンター席> 0: ナレ:「やぁ、いらっしゃい!」 ナレ:「今日はどのカクテル飲むんだい?」 ナレ:「あーそのカクテルか…」 ナレ:「名前がオシャレだから頼んだ?…やっぱり」 ナレ:「今度意味、調べてみなぁ…僕からは教えてあげない」 ナレ:「他にご注文は…」 ナレ:「ん?新しい話、出来たかって?」 ナレ:「…君本当に、僕が考えたお話大好きだよねぇ」 ナレ:「前回来てくれてから、何個かできてるよ。どの話にする?」 ナレ:「おまかせで?…そうだなぁ。それじゃあ、今日はあの話にしようか」 ナレ:「丁度このカクテルの名前をつけた話だし、君も気にいると思うよ」 ナレ:「そんじゃ、早速始めちゃおう!」 ナレ:「ビトウィーン・ザ・シーツ、始まり始まりぃ!」 0: 0:<間> 0:<とあるホテルの一室> 0: ナレ:季節は冬になり、街は銀色に染まる ナレ:世界から見ればちっぽけな部屋にいる2人は、今まさに1つの線を越えようとしていた ナレ:…明かりを落としたその部屋で息を乱し、寝台(しんだい)に重なる2人は…はたして人か、それとも獣か 0: 香夜:「ねぇ…瑞希…私、どうしとけばいい?」 瑞希:「は、はぁ?…そんなん、俺にもわかんねぇって」 香夜:「なんか…恥ずかしくて…どうにか、なっちゃいそう」 香夜:「…お願い…助けて?」 瑞希:「…!?…っもっ、少し黙ってろっ」 香夜:「むぐっ…」 0: ナレ:瑞希はそばにあった枕を、香夜の顔に押し付ける 0: 瑞希:「あっわりぃ…息、できてるか…?」 香夜:「んん!(うん!)」 瑞希:「えぇ、さっきより元気そうだな。あぁと、なんだ、とりあえず肩の力でも抜いとけ」 瑞希:「…んじゃ、始めるぞ」 香夜:「…ん、んん(う、うん)」 0: ナレ:この2人は恋仲ではない ナレ:幼少期から高校まで一緒だっただけの、幼馴染だ ナレ:なぜ2人がそうせざるを得なくなったのか ナレ:事は、新たな法律。番制度(つがいせいど)が制定されると発表された日から始まる ナレ:…少し時を戻そう 0: 0:<2週間前> 0: 0:<咎三根学園教室内> 0:<放課後> 0: ナレ:吐く息が白くなり、人々の着るものが何枚も重なる頃 ナレ:突然始まった総理の会見は、どのニュースでも速報で取り上げられると ナレ:放映中も様々な局のネットニュースや人々の共有によって光の速さで広がり ナレ:教室に残って課題をやっていた瑞希の携帯にも、すぐに通知が届いた 0: 瑞希:「ん?新しい法律…番制度について?」 瑞希:「法律が増えるって、結構珍しくね…?えーと、どれどれ」 瑞希:「…は」 0: ナレ:瑞希が見た記事には、こう書かれていた ナレ:『18歳から40歳までの妊娠可能な女性は、政府が決める番(つがい)と性交渉を行わなければならない』 瑞希:「………」 ナレ:目を疑う情報に、瑞希は持っていたスマホを床に落としてしまった ナレ:それを偶然、部活が終わって教室に戻ってきた香夜が拾ってくれる 0: 香夜:「ちょっと!スマホは大事にしなよ。バキバキになっても知らないからねっ…て、あれ、どうかした?体調悪い?」 瑞希:「あっ、えーと…あーなんだ。…画面にいきなりセクシーな女性が出てきて、びっくりしてさ」 香夜:「セクシーな、女性?」 瑞希:「…香夜にはちと、刺激が強いかも」 香夜:「はぁ?何それ。…放課後の教室でなんてものを見てるんですかぁ、瑞希くぅん?」 瑞希:「いやぁ、はは…。つい、気になって、クリックしちゃってさ」 0: 瑞希:「(M)香夜は来月の誕生日で18歳だし、こんなん見たら卒倒するかもしれないしな…なるたけ知るのを遅くできねぇか」 0: ナレ:そんな瑞希の気遣いも知らず、香夜は机に置いた瑞希のスマホを持って、奪われまいと教壇(きょうだん)の方へと向かう ナレ:瑞希もすぐに追いかけたが、香夜がスマホの中身を見る方が早かった 0: 0:<間> 0: 瑞希:「…っ」 香夜:「……」 香夜:「…ねぇ、これってさ、この国の、これからのお話?…フィクションとかじゃ、なくて?」 瑞希:「…この国で、これから起こることらしい」 香夜:「…なにこれ、いくらなんでもやばすぎるでしょ…こんな大事なこと、事前に国民投票とかも無しで…いきなり決定って」 瑞希:「それは、俺もそう思う…」 香夜:「…私達の気持ちとか、今まで築き上げてきた関係とか、政府からしたらどうでもいいの?」 香夜:「そんなの…間違ってるよ!」 0: ナレ:香夜は勢いよく教卓を叩く ナレ:その行動に驚いた瑞希が香夜を見ると、その瞳には今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた 0: 瑞希:「…っ」 香夜:「…政府は私達女性をなんだと思ってるの…」 香夜:「昔は政略結婚とかで、好きでもない人と…とか当たり前だっただろうけど…今を生きてる私達には、当たり前じゃないんだよ…」 香夜:「私達は政府の道具なの…?」 瑞希:「香夜…」 香夜:「いやだ…いやだよ…こんなの」 瑞希:「…」 瑞希:「…ごめん、香夜。俺慰めるのってこれしか出来ねぇから…嫌だったら、後でしばけ」 0: ナレ:瑞希は香夜を優しく抱きしめると、しばらくよしよしと頭を撫でた 0: 香夜:「うっ…っ…」 瑞希:「…少しは落ち着いたか?」 香夜:「…ごめん、取り乱した」 瑞希:「いいや…。謝ることじゃあねぇよ。部活の後輩とか先生に、泣き顔見られたくねぇだろ?泣き止むまでそうしてな」 香夜:「…ありがと」 瑞希:「いいや。…俺は男だから、お前と同じ気持ちなんて言えねぇけどさ」 瑞希:「自分に置き換えなくってもこれは酷いって思うし、取り乱すのも分かる」 瑞希:「ただ、絶望するにはまだ早えぇと思うんだ」 香夜:「…そうかな」 瑞希:「これから皆の意見がネットとかにどんどん上がってさ、反対派の人が抗議のデモとか、署名活動とか、やり始めてさ」 瑞希:「…そしたら政府の気が変わって、この法律なくなっかもだろ?」 0: 瑞希:「(M)…今までデモ隊の活動で法律がなくなったことなんてねぇけど、もしかしたらが、あるかもだし…」 瑞希:「(M)香夜がずっと悲しい顔してるなんて、見てられねぇしな…」 0: ナレ:瑞希がなんとか励まそうと頭を悩ませていると、香夜の方が先に口を開く。 0: 香夜:「…ねぇ瑞希、この後って空いてる?」 瑞希:「え、えぇ?…空いてっけど」 香夜:「…甘い物食べたい」 瑞希:「帰り道に食べに行けばいいじゃねぇか」 香夜:「私が方向音痴なの、知ってるでしょ…だから、連れて行って欲しいなぁー…なんて」 香夜:「あとね…もう泣き止んだし、ちょっと苦しい…」 瑞希:「…あっ」 0: ナレ:瑞希は香夜を抱きしめていた力が徐々に強くなっていたことに驚くと、少し距離をとる 0: 瑞希:「わ、わりぃ…」 香夜:「んーん。私のためを思ってしてくれたことだって分かってるから、大丈夫だよ」 瑞希:「…あー、えと、なんだ。あ、甘い物だっけか。し、しょーがねぇな。今日は特別に奢ってやるよ」 香夜:「…えっいいの?」 瑞希:「特別だぞ…特別」 香夜:「ほんと!色んなもの食べちゃおうかな」 瑞希:「お、おい、1個にしとけって。沢山食べると、プクプクになるぞ」 香夜:「…酷いなぁもう。せっかく気分良くなってきてたのにさ」 香夜:「まぁ今日は1個にしてあげるよ」 瑞希:「なんだよ、してあげるって…次はおごらねぇぞ」 香夜:「けちんぼ…」 瑞希:「けちじゃねぇし」 香夜:「ふふ、まぁいいや。ほらほら、けちんぼさん!早く食べに行こ!」 瑞希:「…そのけちんぼって言うのやめろって!」 香夜:「あっはははっ!」 0: 0:<間> 0:<帰り道> 0: ナレ:クレープを買った帰り道、香夜が瑞希より少し早足になると、話し始めた 0: 香夜:「瑞希。さっき言ってた法律ってさ、いつ頃相手決まるーとかって、分かる?」 瑞希:「あぁ、ちょっと待ってな。俺も知りたいし、調べるわ」 瑞希:「えーっと、政府からの発表によると…相手が決まんのは2月の下旬…らしい」 香夜:「ふーん、そっか。2月ね…」 0: ナレ:短い髪をふわりと舞い踊らせる風、金色に染めるオレンジの光。香夜の髪が、この時間にしか見られない色になる 0: 瑞希:「(M)普段の香夜は前見ろって言ってもこっちを見て話すくせに、さっきからずっと正面の夕日を見て…どうしたんだ」 0: 香夜:「…ねぇ、瑞希…再来週の今日は、クリスマスだね」 瑞希:「え、もうそんな時期なのか」 香夜:「えぇ…カレンダー見て無さすぎ。大丈夫?私達高3だよ?」 瑞希:「んやぁ、9月に内定決まってからカレンダー見てねぇかも」 香夜:「就活終わったとしてもカレンダーは気にしようよ。曜日感覚とか、スケジュール管理の時とかに大事だよ」 瑞希:「…まぁたしかに、社会人になったら大事だな」 0: ナレ:香夜は自らの夢を叶えるため大学生に ナレ:瑞希は独り立ちのため、地方の会社に就職して社会人に ナレ:この冬を越したら、長年一緒だった2人はついに別々の道を歩むことになっている 0: 香夜:「…あのさ、その日って空いてる?」 瑞希:「え?クリスマスか?特に用事はねぇけど」 香夜:「だったらさ、私と遊んでよ」 瑞希:「…普段遊ばねぇのに、クリスマス遊ぶん?」 香夜:「いーじゃん。高校生最後のクリスマスだよ?楽しまなきゃ」 瑞希:「え…なに、他に遊ぶ友達いねぇとか?あれ、日和とか仲良かったよな?」 香夜:「むー。私、日和ちゃんじゃなくって瑞希のこと誘ってるんだけど」 香夜:「私とクリスマスに会うのは嫌なの?遊びたくないの?」 瑞希:「わぁった、わぁったから…遊ぶか、クリスマス」 香夜:「なぁにその言い方。感じ悪」 香夜:「用事もないのに渋るとか…気になってる子でもいんの?」 瑞希:「そんなんいたら、お前とこうして帰り道に寄り道するわけねぇだろ」 香夜:「それもそっか…ふふ、じゃあクリスマス当日楽しみにしてるから」 香夜:「…じゃあね」 0: 瑞希:「(M)最後振り返った香夜の表情は、逆光してよく見えなかった」 0: 0:<2週間後> 0:<クリスマス当日正午> 0:<駅前> 0: ナレ:人が沢山いて、そのほとんどが異性同士2人で仲良く手を繋いで歩いている ナレ:大きいツリーや電飾が光ってないのに街は煌びやか(きらびやか)で、なんともクリスマスらしい ナレ:瑞希が10分前に駅に着くと、集合場所に既に香夜は立って待っていて、急いでその場へと向かう 0: 瑞希:「はぁ…はぁ…わりぃ、待たせちゃってたか」 香夜:「んーん、今来たとこだよ」 香夜:「ありがと、私のために走ってくれて」 瑞希:「は、はぁ?遅刻したのかと思って焦っ…」 0: 瑞希:「(M)あれ香夜、こんな可愛かったっけ。普段遊ばないからか?そういえば出かける服とか初めて見たかも」 瑞希:「(M)なんか、急に恥ずかしくなってきた。これが、クリスマスマジック、ってやつなのか?」 0: 瑞希:「ど、どうした。い、いつもと、見た目違うな」 香夜:「クリスマスだからね、気合い入れてきました!ワンピース、似合ってるかな?」 瑞希:「お、おう。いいんじゃねぇか。可愛いと思うぞ」 香夜:「かわっ!?…あ、ありがと。瑞希もパーカー似合ってる」 瑞希:「お、おう…サンキューな」 香夜:「あ、瑞希。今日さ、私の行きたかった所行ってもいい?」 瑞希:「そーな、お前から誘ってくれたし。香夜の行きたいとこ行くか」 香夜:「じゃあ最初はお洋服見に行こ!」 瑞希:「えっおわっ、引っ張んなって」 0: ナレ:香夜は瑞希の手首を掴んで、人混みをするすると抜けていく ナレ:瑞希の目は今日はなんだかおかしくて、世界がぼやけ、香夜だけが縁取られて見えた 0: 0:<間> 0:<古着屋> 0: ナレ:駅から少し離れた古着屋でも、今日は大盛況だった。 ナレ:周りの話し声で聞こえないからか、2人の距離は近くなっている ナレ:どうやら、瑞希の新しい服を見ているようだ 0: 香夜:「これとかどー?」 瑞希:「かっこいいとは思うけど、俺それ着れっかなぁ…ピチピチにならね?」 香夜:「んぁー確かに。腕とか肩とかきついかも」 瑞希:「だよなぁ…あっ、これは?」 香夜:「だめだめ!今日は冒険しようよー。おっこれは?」 瑞希:「えぇ、俺そんな派手なの似合うかなぁ」 香夜:「大丈夫大丈夫、余裕よ。あんた派手顔なんだから、似合うって」 瑞希:「…むじぃなぁ…」 香夜:「むずかしいねぇ…」 香夜:「…はっ!これは!」 瑞希:「おっこれならサイズいけると思うし、着心地も良さそう」 瑞希:「うわ、試着室混んでんな…まぁこれならいいか。香夜、買ってくるから待っててくんね?」 香夜:「わかった!お洋服見ながら待ってるね」 瑞希:「おう、頼むわ」 0: 0:<少しして…> 0:<商店街入口付近> 0: 瑞希:「思ってたよりいい値段したなぁ…」 香夜:「いーじゃん。似合ってたし、いいお買い物だったと思うよ」 香夜:「お金なんて気にせず、惜しまず使っちゃお!」 瑞希:「…いや、ちょっと待て。その考えは危なくねぇか。別に金欠になりたいわけじゃあないのよ」 香夜:「へぇ、こんなんで君の3年間頑張って貯めたバイト代は、ぜーんぶ無くなっちゃうの?」 瑞希:「いや、一人暮らしの時困らないために貯めてっから、あんま使いたくねぇのよ」 香夜:「ふぅん、稼ぐねぇ…」 瑞希:「自立して、自由にやりたいことやりてぇからな」 香夜:「いい夢だね!頑張って欲しいものだよ、君には」 瑞希:「なんか言い方が偉そうになったなぁ」 0: ナレ:2人が歩きながら談笑していると、商店街の入り口に着く… 0: 香夜:「お!ついたー!本日のビッグイベント!商店街で食べ歩きのお時間がやってまいりました!」 瑞希:「おーおー元気だな」 香夜:「たーべるぞー!」 瑞希:「はは。そうだな、腹減ったし飯食うか!どっから行きたい?」 香夜:「端っこから!」 瑞希:「…お前、商店街に売ってる食べ物全部食う気だろ」 香夜:「ふふん、食べちゃうかもね」 瑞希:「たく…今日くらいいいか。一緒にぷくぷくになるぞぉ」 香夜:「おー!」 0: 0:<間> 0: ナレ:これから先、気軽には遊びに来られなくなってしまう都会。惜しまずに、食べて、見て、思いっきり遊ぶ ナレ:時間も気にせず遊んでいると、真上にあった日はどんどん下に落ちていって、2人が再び外に出た頃には月に変わっていた 0: 瑞希:「結構遊んだな…外暗っ今何時だろ。おわっ、何すんだよ香夜。スマホ返せって」 香夜:「スマホ見るの禁止ー!これは没収しておきます!」 瑞希:「えっ香夜さっき写真撮ったり地図アプリ出して使ってたじゃん。お前だけはいーのかよ、不公平だぞ」 香夜:「写真撮るのとか地図とかはいーの!瑞希はとにかく私と遊ぶことに集中して」 瑞希:「えぇ…なんだよそれ」 香夜:「最後のとこ行こ!」 瑞希:「…まっ走ると危ねぇって!」 香夜:「食べた分の消費ー!」 0: 0:<間> 0:<ホテル街> 0: ナレ:走っている香夜を追いかけていると、先程の街灯が多い商店街とは違い、ネオンの光が眩しい場所に着く。 0: 瑞希:「お、おいっ、香夜!ちょっと止まれって!」 香夜:「わぁ、なに」 瑞希:「ここ、なんかやばくねぇか」 香夜:「やばいって、なにがさ」 瑞希:「ほら、黒服の人とかいっぱいいるし、ここってその…」 香夜:「あぁ、大丈夫大丈夫!こっちであってるから!」 瑞希:「(小声で)いやいや、大丈夫って…。迷子になってるとか?」 香夜:「迷子じゃないよ。ちゃんとわかってるもん」 瑞希:「ほ、本当か?」 香夜:「うん!」 0: 瑞希:「(M)ここを抜けた先に何かあるのか?まぁ、行きたいところがあるみたいだし、ついて行ってみるか」 0: ナレ:瑞希が周りを見ながらしばらくその道を歩いていると、香夜が歩みを止める 0: 香夜:「最後はね、ここだよ」 瑞希:「え、ここって…ホテル、だよな」 香夜:「そーだね、ホテルだね」 瑞希:「な、なんで?今日日帰りの予定だよな?」 香夜:「んー…スマホさ、返すよ。時間見てみ?」 瑞希:「い、今?…て、えぇ!!?もうそろ12時じゃねぇか!?」 香夜:「そうだね」 瑞希:「ちょっ香夜、急がねぇと終電なくなるって!」 香夜:「ないよ、終電」 瑞希:「いや、あと一本あるって、走れば間に合う!」 香夜:「瑞希…」 瑞希:「な、なに」 香夜:「終電はね、もうなくなったの」 0: ナレ:駅方向へ走る寸前だった瑞希の腕を、香夜が掴んで止める。その手は冷たく、震えていた ナレ:瑞希はその震えで力が抜けて、香夜が腕を引っ張りながらホテルの入り口に入っていった 0: 0:<間> 0:<室内> 0: ナレ:瑞希が先にシャワーを浴び、香夜がお風呂から出るのを待っている間。瑞希は今一度己が置かれている状況について考えてみた 0: 瑞希:「(M)やっぱおかしいよな、俺、なんで香夜と一緒にお泊まりすることになってんだ」 瑞希:「(M)ホテル入ったら予約取ってあったし、入ったらベットは一個しかないし!」 瑞希:「(M)しかもここビジネスホテルなんかい!紛らわしいとこ立てんなや!入る時めちゃくちゃ恥ずかしかっただろうが!」 瑞希:「(M)部屋入ったら無言で風呂に押されて、出てきたら無言で風呂入って!香夜ほんとどうしちゃったんだよぉおお!」 瑞希:「(M)俺たちそういうことしちゃう感じなの!?俺、経験ないんだけど!?もしかして香夜は……慣れてる、とか?……それは嫌だな」 瑞希:「(M)な、なんであいつが慣れてると嫌な気持ちになるんだよぉおっ!わからんっ、まっじでわからんっ!」 0: ナレ:瑞希がしばらく悶えていると、香夜がお風呂場から出てくる ナレ:瑞希は香夜の顔をまともに見られない 0: 香夜:「……あがったよ」 瑞希:「お、おおぅ、お疲れ」 香夜:「どうかした?なんか、耳真っ赤だけど…暑い?」 瑞希:「あちぃかも、エアコンつけて……おっおまっ!」 香夜:「ん?」 瑞希:「ななななななんで服着てねぇんだよ!!!!!!!!!!」 香夜:「…なんでって、いらないから」 瑞希:「おま!いるわ!服ないなら俺の服貸すから着ろ!!目の毒なんだよ!!」 香夜:「…そんな強く言わなくてもいーじゃん。ここまでしたのに分かんないって、瑞希って物凄い鈍感だったりする?」 瑞希:「へ、へぇ!?近寄ってくんなって!大事なとこ隠せっ!」 香夜:「目の毒とかいいながら、バッチリ見てるじゃん」 香夜:「…はっきり言わないとわかんないかな」 瑞希:「な、なな何をだよ、おわっ」 0: 0:<間> 0: ナレ:香夜はベットに座っている瑞希を押し倒すと、その上に跨って(またがって)くる 0: 香夜:「瑞希にはさ…私の……その…初めて…もらって欲しいんだ」 瑞希:「…………は」 香夜:「お願いだよ、瑞希…お願いだから…うん、いいよって言って」 瑞希:「いやっ、香夜。ほんと、落ち着け」 瑞希:「そういうことは、好きでもねぇ人とすんのはやっぱ…良くないんじゃないか…冷静になれって!」 0: ナレ:香夜が、気まずそうな顔をする。 0: 香夜:「…私…2月になっちゃったら…好きでもない……全く知らない人と、そういうことするようになるんだよ」 瑞希:「っ……」 香夜:「私…初めてくらい…知ってる人がいいなって思って」 香夜:「本当に瑞希が私とするの嫌って思うんなら…押し退けてくれればいいから…」 瑞希:「…その姿勢しんどくね?」 香夜:「…え?……うん、腕プルプルする」 瑞希:「その、なんだ。とりあえず、ベットの真ん中に行くんじゃねぇのか……」 香夜:「い、いいの?ほんとにしてくれるの?嫌じゃない?」 瑞希:「…嫌じゃねぇし、初めてなんだからそういうとこ大事にしなきゃだろうが」 香夜:「あはっ……瑞希は面白いなぁほんと」 瑞希:「……笑うな」 0: 0:<間> 0:<バー・カウンター席> 0: ナレ:「こうして、冒頭のシーンに戻ってくるわけ」 ナレ:「…あぁ、戻ってくるまで長かった?」 ナレ:「でも、すぐに始まるより……焦らされた方がいい時もあるだろ?」 ナレ:「…はいはいはい、続きの話するってば」 0: 0:<間> 0: 香夜:「(M)私達は、幼馴染だ」 瑞希:「(M)これまで行く学校が一緒だっただけの、ただの幼馴染だ」 香夜:「(M)親が仲良いだけで、普段は教室とかで話したりしない」 瑞希:「(M)家が近いから、お互い帰る人がいなかった時に、一緒に帰るだけ」 香夜:「(M)昔はもっと沢山遊んでたのに」 瑞希:「(M)高校に入ってから、随分と距離が空いてしまった」 香夜:「(M)高校に入ってから、素直に言葉が出なくなってしまった」 瑞希:「(M)沢山遊びたいし、一緒に帰りたい」 香夜:「(M)教室でも気軽にお話したいし、お弁当とか一緒に食べたい」 瑞希:「(M)そんな言葉が、どんどん喉に詰まっていって」 香夜:「(M)ついには吐き出せなくなってしまった」 瑞希:「(M)そんな俺達が、色んな段階を全部すっ飛ばして」 香夜:「(M)今、ひとつになろうとしている」 0: 0:<間> 0: 香夜:「…んーん、んんん(ねーね、みずき)」 瑞希:「なんだ」 香夜:「んんん、んっんん(枕、取ってよ)」 瑞希:「苦しいか?わりぃ、すぐ取る」 香夜:「ぷはぁ……はぁ…ねぇ、瑞希」 瑞希:「…ん?」 香夜:「……はぁ……どうなの……感想は」 瑞希:「…それはしてる最中じゃなくって、終わった後に…するもんなんじゃねぇの」 香夜:「……それも……はぁ……そうだね」 瑞希:「…お前はどうなんだよ…痛くはねぇのか」 香夜:「これって……はぁ…良くなるものなの……」 瑞希:「わかんね…俺が下手くそなのかも。ごめん」 0: ナレ:香夜の瞳に溜まっていた涙が、左右に流れ落ちる 0: 香夜:「謝らなくって…いいよ……」 瑞希:「香夜…大丈夫か…もう、やめとくか?」 香夜:「やめないで…大丈夫だよ」 香夜:「痛いんじゃ…ないの」 香夜:「たださ…1つ聞きたくって」 瑞希:「ん……なんだ」 香夜:「こんなこと…しちゃってさ」 香夜:「戻れるのかな…私達」 瑞希:「……っ」 香夜:「…もう、戻れない気がするんだ…おともだ、んっ」 0: ナレ:瑞希は香夜の発言を、今度は枕ではなく唇で塞ぐ ナレ:瑞希にとって、香夜の口からどうしても言わせたくない、どうしても聞きたくない言葉を聞かないようにするために ナレ:……そこから2人は再び話すことなく、その夜は終わりを迎えた 0: 0:<間> 0:<朝> 0: ナレ:窓から朝を告げる光がカーテン越しに入ってくる ナレ:起きたら隣にいるはずの香夜は、そこにはいなかった 0: 瑞希:「え、香夜?どこにいんだ…香夜?」 0: ナレ:辺りを見渡していると、ベッドサイドのメモに、香夜からの書き置きを見つけた。 0: 香夜:私の事は忘れてください 瑞希:「私の事は、忘れてください?…なんだよ、これ」 0: ナレ:他になにかないかとベットの下や机の上などを探していると、ゴミ箱に、同じメモ用紙がたくさんクシャクシャになっていた ナレ:1つ1つ、丁寧に広げてみる 0: 香夜:卒業式行かないから、みんなによろしく! 0: 香夜:何も言わずに帰ってごめんね 0: 香夜:瑞希が幼馴染で良かった 0: 香夜:一人暮らし始めたの、いいでしょ 0: 香夜:もう、瑞希には会えない 0: 香夜:実はね、ずっと前から好きだったんだよ 0: 0: ナレ:香夜は、今後別の人の所へ嫁ぐ ナレ:しんどいのは香夜の方なのに、瑞希に自分を思う気持ちを絶って欲しいからと色々書いたのだろう ナレ:最後に選ばれた言葉が、私の事は忘れてください、だったのだ 0: ナレ:……瑞希は泣いた。誰もいないのに、声を押し殺して泣いた ナレ:沢山沢山泣いて、沢山沢山えずいて ナレ:そうしてやっとこの鈍感なバカは気づいた。香夜のことが好きだったのだと 0: 瑞希:「ごめん、香夜……俺……ごめ」 瑞希:「……なんで、言えなかったんだ」 瑞希:「俺……お前のこと、好きだったのに」 瑞希:「何が、悲しい顔見たくないだ……香夜のためみたいに言って…全部俺のためじゃねぇか」 瑞希:「…っ…」 瑞希:「……お前がいなくなるなら…この手に抱いた時に、離さなきゃ良かった……」 0: ナレ:瑞希が後悔してももう遅い ナレ:香夜はもう、腕の中には戻ってこないのだから 0: 0:<間> 0:<バー・カウンター席> 0: ナレ:「面白かった?ならよかった!」 ナレ:「ん?続きが気になる?」 ナレ:「えー、香夜が大学行って、瑞希が会社員になったんじゃないの?話の続きなんてないよ」 ナレ:「…なぁ、君はどう思った?これを聞いてさ」 ナレ:「自分の身に起こったらさ、どうすんの?」 0: ナレ:「お前に聞いてんだよ、そこにいるお前」 ナレ:「感染症が流行って、少子化が進んでるこの国で、これから先もっと人口が減ってくなんてことがあったらさ」 ナレ:「…このフィクションは、本当の話になるかもしれないんだぞ」 0: ナレ:「ぷっ……あははははっ」 ナレ:「そんな顔すんなって。こんな人権をガン無視したような法律、出来るわけないだろ」 ナレ:「人間は結局衰退してって死ぬんだからさ、減ったんなら諦めろっての」 ナレ:「…まぁでも考えちゃうよね…フィクションの物語が本当になったら……ってさ」 ナレ:「そういうのが1番楽しくない?」 ナレ:「怖い?まだまだお子ちゃまだねぇ」 ナレ:「あれ、もう帰んのー?」 ナレ:「じゃーなぁ、気をつけて帰れよぉ」 0: 0: 0:おしまい、おしまい 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: ナレ:呼び鈴の音がする 0: 香夜:「あれ、宅配かな…なんか頼んだっけ?はあい!今行きます!」 香夜:「…お待たせしま……あ」 瑞希:「…よぉ」 香夜:「な、なんでここが…」 瑞希:「あのなぁ……行方不明者になりたいなら、行先知ってる奴をしっかり口止めしとけ」 香夜:「あれれ、おかしいな、、ちゃんと黙っといてねって言ったのに」 瑞希:「…すんなり教えてくれたぞ」 香夜:「うぅ、お母さんの裏切り者…」 瑞希:「…」 瑞希:「…なぁ、香夜。好きだった、なのか」 香夜:「…!」 瑞希:「今はどうなんだよ」 香夜:「…手紙読んだんでしょ…私の事忘れてって書いて置いてきたじゃん。忘れてよ」 瑞希:「あんな紙切れ知るか。俺は直接聞きたいんだよ」 香夜:「ちょっっ、それ以上近づいてこないでっ」 瑞希:「今はもう嫌いなのか、俺の事」 香夜:「っ…嫌いでは、ない…」 瑞希:「すぐに忘れられる程の気持ちだったのか?」 香夜:「…それは」 瑞希:「なぁ…クリスマス、楽しかったのは俺だけか」 香夜:「!…そんな訳」 瑞希:「だったら…」 瑞希:「…だったら俺は、なんで惚れた女の事を忘れなきゃならねぇんだ。なんで、惚れた同士、離れなきゃなんねぇんだよ」 香夜:「惚れっ…!す、好きなんて、1度も言ってくれなかったじゃない」 瑞希:「…思春期舐めんな、恥ずかしいんだよ、そういうこと言うのは」 香夜:「そんなの…今更言うなんて、ずるいよ」 香夜:「私、もう、戻れないのに」 瑞希:「お前が戻れなくても、俺が連れ戻してやる」 香夜:「もう遅いんだよ…」 瑞希:「…あぁ、随分と遅くなっちまった。でも、これからは置いてかないし、ずっと隣にいて欲しい」 瑞希:「だから…」 香夜:「えっ…」 0: ナレ:瑞希が香夜の前で跪く(ひざまずく)。その手にはすずらんの花束が握られていた。 0: 瑞希:「これは、俺の一世一代、1度しか使えない告白だ!失敗してもお前は攫っていくし、お前だけには成功するまで無限に言ってやる!」 瑞希:「いろんなものすっぽかしてるけど、今の俺にはこれしかできねぇんだ。嫌だったら、引っ叩いてくれて構わない!」 瑞希:「…香夜。俺と、結婚して欲しい!ずっと一緒にいたいんだ。もっといろんなもの見にいって、いろんな話だってしたいんだよ!」 瑞希:「俺の手を、取ってくれ!」 0: ナレ:香夜は瞳に涙を浮かべながら、駆け寄って瑞希に抱きつく。返事は、言うまでもないだろう。 0: ナレ:寒空の下、若人は駆ける ナレ:来たる未来に、希望を抱きながら 0: 0: ナレ:「あ、見つけちゃったんだ」 ナレ:「そうだよ。この物語はハッピーエンド」 ナレ:「でもハッピーエンドなんて在り来りでつまらないじゃないかぁ、だからあれでおしまいだったのに」 ナレ:「あの酒棚(さかだな)から僕の執筆ノートを見つけちゃうなんて君、なかなかセンスがあるね」 ナレ:「そんな君にはご褒美をあげよう」 ナレ:「僕特製、極上の1杯を入れてあげるね」 ナレ:「次はそれに酔いしれて欲しいな」 ナレ:「お、丁度飲み終わったかな」 ナレ:「これにて、ビトウィーン・ザ・シーツおしまい、おしまい」

0: 0:<バー・カウンター席> 0: ナレ:「やぁ、いらっしゃい!」 ナレ:「今日はどのカクテル飲むんだい?」 ナレ:「あーそのカクテルか…」 ナレ:「名前がオシャレだから頼んだ?…やっぱり」 ナレ:「今度意味、調べてみなぁ…僕からは教えてあげない」 ナレ:「他にご注文は…」 ナレ:「ん?新しい話、出来たかって?」 ナレ:「…君本当に、僕が考えたお話大好きだよねぇ」 ナレ:「前回来てくれてから、何個かできてるよ。どの話にする?」 ナレ:「おまかせで?…そうだなぁ。それじゃあ、今日はあの話にしようか」 ナレ:「丁度このカクテルの名前をつけた話だし、君も気にいると思うよ」 ナレ:「そんじゃ、早速始めちゃおう!」 ナレ:「ビトウィーン・ザ・シーツ、始まり始まりぃ!」 0: 0:<間> 0:<とあるホテルの一室> 0: ナレ:季節は冬になり、街は銀色に染まる ナレ:世界から見ればちっぽけな部屋にいる2人は、今まさに1つの線を越えようとしていた ナレ:…明かりを落としたその部屋で息を乱し、寝台(しんだい)に重なる2人は…はたして人か、それとも獣か 0: 香夜:「ねぇ…瑞希…私、どうしとけばいい?」 瑞希:「は、はぁ?…そんなん、俺にもわかんねぇって」 香夜:「なんか…恥ずかしくて…どうにか、なっちゃいそう」 香夜:「…お願い…助けて?」 瑞希:「…!?…っもっ、少し黙ってろっ」 香夜:「むぐっ…」 0: ナレ:瑞希はそばにあった枕を、香夜の顔に押し付ける 0: 瑞希:「あっわりぃ…息、できてるか…?」 香夜:「んん!(うん!)」 瑞希:「えぇ、さっきより元気そうだな。あぁと、なんだ、とりあえず肩の力でも抜いとけ」 瑞希:「…んじゃ、始めるぞ」 香夜:「…ん、んん(う、うん)」 0: ナレ:この2人は恋仲ではない ナレ:幼少期から高校まで一緒だっただけの、幼馴染だ ナレ:なぜ2人がそうせざるを得なくなったのか ナレ:事は、新たな法律。番制度(つがいせいど)が制定されると発表された日から始まる ナレ:…少し時を戻そう 0: 0:<2週間前> 0: 0:<咎三根学園教室内> 0:<放課後> 0: ナレ:吐く息が白くなり、人々の着るものが何枚も重なる頃 ナレ:突然始まった総理の会見は、どのニュースでも速報で取り上げられると ナレ:放映中も様々な局のネットニュースや人々の共有によって光の速さで広がり ナレ:教室に残って課題をやっていた瑞希の携帯にも、すぐに通知が届いた 0: 瑞希:「ん?新しい法律…番制度について?」 瑞希:「法律が増えるって、結構珍しくね…?えーと、どれどれ」 瑞希:「…は」 0: ナレ:瑞希が見た記事には、こう書かれていた ナレ:『18歳から40歳までの妊娠可能な女性は、政府が決める番(つがい)と性交渉を行わなければならない』 瑞希:「………」 ナレ:目を疑う情報に、瑞希は持っていたスマホを床に落としてしまった ナレ:それを偶然、部活が終わって教室に戻ってきた香夜が拾ってくれる 0: 香夜:「ちょっと!スマホは大事にしなよ。バキバキになっても知らないからねっ…て、あれ、どうかした?体調悪い?」 瑞希:「あっ、えーと…あーなんだ。…画面にいきなりセクシーな女性が出てきて、びっくりしてさ」 香夜:「セクシーな、女性?」 瑞希:「…香夜にはちと、刺激が強いかも」 香夜:「はぁ?何それ。…放課後の教室でなんてものを見てるんですかぁ、瑞希くぅん?」 瑞希:「いやぁ、はは…。つい、気になって、クリックしちゃってさ」 0: 瑞希:「(M)香夜は来月の誕生日で18歳だし、こんなん見たら卒倒するかもしれないしな…なるたけ知るのを遅くできねぇか」 0: ナレ:そんな瑞希の気遣いも知らず、香夜は机に置いた瑞希のスマホを持って、奪われまいと教壇(きょうだん)の方へと向かう ナレ:瑞希もすぐに追いかけたが、香夜がスマホの中身を見る方が早かった 0: 0:<間> 0: 瑞希:「…っ」 香夜:「……」 香夜:「…ねぇ、これってさ、この国の、これからのお話?…フィクションとかじゃ、なくて?」 瑞希:「…この国で、これから起こることらしい」 香夜:「…なにこれ、いくらなんでもやばすぎるでしょ…こんな大事なこと、事前に国民投票とかも無しで…いきなり決定って」 瑞希:「それは、俺もそう思う…」 香夜:「…私達の気持ちとか、今まで築き上げてきた関係とか、政府からしたらどうでもいいの?」 香夜:「そんなの…間違ってるよ!」 0: ナレ:香夜は勢いよく教卓を叩く ナレ:その行動に驚いた瑞希が香夜を見ると、その瞳には今にも溢れんばかりの涙が溜まっていた 0: 瑞希:「…っ」 香夜:「…政府は私達女性をなんだと思ってるの…」 香夜:「昔は政略結婚とかで、好きでもない人と…とか当たり前だっただろうけど…今を生きてる私達には、当たり前じゃないんだよ…」 香夜:「私達は政府の道具なの…?」 瑞希:「香夜…」 香夜:「いやだ…いやだよ…こんなの」 瑞希:「…」 瑞希:「…ごめん、香夜。俺慰めるのってこれしか出来ねぇから…嫌だったら、後でしばけ」 0: ナレ:瑞希は香夜を優しく抱きしめると、しばらくよしよしと頭を撫でた 0: 香夜:「うっ…っ…」 瑞希:「…少しは落ち着いたか?」 香夜:「…ごめん、取り乱した」 瑞希:「いいや…。謝ることじゃあねぇよ。部活の後輩とか先生に、泣き顔見られたくねぇだろ?泣き止むまでそうしてな」 香夜:「…ありがと」 瑞希:「いいや。…俺は男だから、お前と同じ気持ちなんて言えねぇけどさ」 瑞希:「自分に置き換えなくってもこれは酷いって思うし、取り乱すのも分かる」 瑞希:「ただ、絶望するにはまだ早えぇと思うんだ」 香夜:「…そうかな」 瑞希:「これから皆の意見がネットとかにどんどん上がってさ、反対派の人が抗議のデモとか、署名活動とか、やり始めてさ」 瑞希:「…そしたら政府の気が変わって、この法律なくなっかもだろ?」 0: 瑞希:「(M)…今までデモ隊の活動で法律がなくなったことなんてねぇけど、もしかしたらが、あるかもだし…」 瑞希:「(M)香夜がずっと悲しい顔してるなんて、見てられねぇしな…」 0: ナレ:瑞希がなんとか励まそうと頭を悩ませていると、香夜の方が先に口を開く。 0: 香夜:「…ねぇ瑞希、この後って空いてる?」 瑞希:「え、えぇ?…空いてっけど」 香夜:「…甘い物食べたい」 瑞希:「帰り道に食べに行けばいいじゃねぇか」 香夜:「私が方向音痴なの、知ってるでしょ…だから、連れて行って欲しいなぁー…なんて」 香夜:「あとね…もう泣き止んだし、ちょっと苦しい…」 瑞希:「…あっ」 0: ナレ:瑞希は香夜を抱きしめていた力が徐々に強くなっていたことに驚くと、少し距離をとる 0: 瑞希:「わ、わりぃ…」 香夜:「んーん。私のためを思ってしてくれたことだって分かってるから、大丈夫だよ」 瑞希:「…あー、えと、なんだ。あ、甘い物だっけか。し、しょーがねぇな。今日は特別に奢ってやるよ」 香夜:「…えっいいの?」 瑞希:「特別だぞ…特別」 香夜:「ほんと!色んなもの食べちゃおうかな」 瑞希:「お、おい、1個にしとけって。沢山食べると、プクプクになるぞ」 香夜:「…酷いなぁもう。せっかく気分良くなってきてたのにさ」 香夜:「まぁ今日は1個にしてあげるよ」 瑞希:「なんだよ、してあげるって…次はおごらねぇぞ」 香夜:「けちんぼ…」 瑞希:「けちじゃねぇし」 香夜:「ふふ、まぁいいや。ほらほら、けちんぼさん!早く食べに行こ!」 瑞希:「…そのけちんぼって言うのやめろって!」 香夜:「あっはははっ!」 0: 0:<間> 0:<帰り道> 0: ナレ:クレープを買った帰り道、香夜が瑞希より少し早足になると、話し始めた 0: 香夜:「瑞希。さっき言ってた法律ってさ、いつ頃相手決まるーとかって、分かる?」 瑞希:「あぁ、ちょっと待ってな。俺も知りたいし、調べるわ」 瑞希:「えーっと、政府からの発表によると…相手が決まんのは2月の下旬…らしい」 香夜:「ふーん、そっか。2月ね…」 0: ナレ:短い髪をふわりと舞い踊らせる風、金色に染めるオレンジの光。香夜の髪が、この時間にしか見られない色になる 0: 瑞希:「(M)普段の香夜は前見ろって言ってもこっちを見て話すくせに、さっきからずっと正面の夕日を見て…どうしたんだ」 0: 香夜:「…ねぇ、瑞希…再来週の今日は、クリスマスだね」 瑞希:「え、もうそんな時期なのか」 香夜:「えぇ…カレンダー見て無さすぎ。大丈夫?私達高3だよ?」 瑞希:「んやぁ、9月に内定決まってからカレンダー見てねぇかも」 香夜:「就活終わったとしてもカレンダーは気にしようよ。曜日感覚とか、スケジュール管理の時とかに大事だよ」 瑞希:「…まぁたしかに、社会人になったら大事だな」 0: ナレ:香夜は自らの夢を叶えるため大学生に ナレ:瑞希は独り立ちのため、地方の会社に就職して社会人に ナレ:この冬を越したら、長年一緒だった2人はついに別々の道を歩むことになっている 0: 香夜:「…あのさ、その日って空いてる?」 瑞希:「え?クリスマスか?特に用事はねぇけど」 香夜:「だったらさ、私と遊んでよ」 瑞希:「…普段遊ばねぇのに、クリスマス遊ぶん?」 香夜:「いーじゃん。高校生最後のクリスマスだよ?楽しまなきゃ」 瑞希:「え…なに、他に遊ぶ友達いねぇとか?あれ、日和とか仲良かったよな?」 香夜:「むー。私、日和ちゃんじゃなくって瑞希のこと誘ってるんだけど」 香夜:「私とクリスマスに会うのは嫌なの?遊びたくないの?」 瑞希:「わぁった、わぁったから…遊ぶか、クリスマス」 香夜:「なぁにその言い方。感じ悪」 香夜:「用事もないのに渋るとか…気になってる子でもいんの?」 瑞希:「そんなんいたら、お前とこうして帰り道に寄り道するわけねぇだろ」 香夜:「それもそっか…ふふ、じゃあクリスマス当日楽しみにしてるから」 香夜:「…じゃあね」 0: 瑞希:「(M)最後振り返った香夜の表情は、逆光してよく見えなかった」 0: 0:<2週間後> 0:<クリスマス当日正午> 0:<駅前> 0: ナレ:人が沢山いて、そのほとんどが異性同士2人で仲良く手を繋いで歩いている ナレ:大きいツリーや電飾が光ってないのに街は煌びやか(きらびやか)で、なんともクリスマスらしい ナレ:瑞希が10分前に駅に着くと、集合場所に既に香夜は立って待っていて、急いでその場へと向かう 0: 瑞希:「はぁ…はぁ…わりぃ、待たせちゃってたか」 香夜:「んーん、今来たとこだよ」 香夜:「ありがと、私のために走ってくれて」 瑞希:「は、はぁ?遅刻したのかと思って焦っ…」 0: 瑞希:「(M)あれ香夜、こんな可愛かったっけ。普段遊ばないからか?そういえば出かける服とか初めて見たかも」 瑞希:「(M)なんか、急に恥ずかしくなってきた。これが、クリスマスマジック、ってやつなのか?」 0: 瑞希:「ど、どうした。い、いつもと、見た目違うな」 香夜:「クリスマスだからね、気合い入れてきました!ワンピース、似合ってるかな?」 瑞希:「お、おう。いいんじゃねぇか。可愛いと思うぞ」 香夜:「かわっ!?…あ、ありがと。瑞希もパーカー似合ってる」 瑞希:「お、おう…サンキューな」 香夜:「あ、瑞希。今日さ、私の行きたかった所行ってもいい?」 瑞希:「そーな、お前から誘ってくれたし。香夜の行きたいとこ行くか」 香夜:「じゃあ最初はお洋服見に行こ!」 瑞希:「えっおわっ、引っ張んなって」 0: ナレ:香夜は瑞希の手首を掴んで、人混みをするすると抜けていく ナレ:瑞希の目は今日はなんだかおかしくて、世界がぼやけ、香夜だけが縁取られて見えた 0: 0:<間> 0:<古着屋> 0: ナレ:駅から少し離れた古着屋でも、今日は大盛況だった。 ナレ:周りの話し声で聞こえないからか、2人の距離は近くなっている ナレ:どうやら、瑞希の新しい服を見ているようだ 0: 香夜:「これとかどー?」 瑞希:「かっこいいとは思うけど、俺それ着れっかなぁ…ピチピチにならね?」 香夜:「んぁー確かに。腕とか肩とかきついかも」 瑞希:「だよなぁ…あっ、これは?」 香夜:「だめだめ!今日は冒険しようよー。おっこれは?」 瑞希:「えぇ、俺そんな派手なの似合うかなぁ」 香夜:「大丈夫大丈夫、余裕よ。あんた派手顔なんだから、似合うって」 瑞希:「…むじぃなぁ…」 香夜:「むずかしいねぇ…」 香夜:「…はっ!これは!」 瑞希:「おっこれならサイズいけると思うし、着心地も良さそう」 瑞希:「うわ、試着室混んでんな…まぁこれならいいか。香夜、買ってくるから待っててくんね?」 香夜:「わかった!お洋服見ながら待ってるね」 瑞希:「おう、頼むわ」 0: 0:<少しして…> 0:<商店街入口付近> 0: 瑞希:「思ってたよりいい値段したなぁ…」 香夜:「いーじゃん。似合ってたし、いいお買い物だったと思うよ」 香夜:「お金なんて気にせず、惜しまず使っちゃお!」 瑞希:「…いや、ちょっと待て。その考えは危なくねぇか。別に金欠になりたいわけじゃあないのよ」 香夜:「へぇ、こんなんで君の3年間頑張って貯めたバイト代は、ぜーんぶ無くなっちゃうの?」 瑞希:「いや、一人暮らしの時困らないために貯めてっから、あんま使いたくねぇのよ」 香夜:「ふぅん、稼ぐねぇ…」 瑞希:「自立して、自由にやりたいことやりてぇからな」 香夜:「いい夢だね!頑張って欲しいものだよ、君には」 瑞希:「なんか言い方が偉そうになったなぁ」 0: ナレ:2人が歩きながら談笑していると、商店街の入り口に着く… 0: 香夜:「お!ついたー!本日のビッグイベント!商店街で食べ歩きのお時間がやってまいりました!」 瑞希:「おーおー元気だな」 香夜:「たーべるぞー!」 瑞希:「はは。そうだな、腹減ったし飯食うか!どっから行きたい?」 香夜:「端っこから!」 瑞希:「…お前、商店街に売ってる食べ物全部食う気だろ」 香夜:「ふふん、食べちゃうかもね」 瑞希:「たく…今日くらいいいか。一緒にぷくぷくになるぞぉ」 香夜:「おー!」 0: 0:<間> 0: ナレ:これから先、気軽には遊びに来られなくなってしまう都会。惜しまずに、食べて、見て、思いっきり遊ぶ ナレ:時間も気にせず遊んでいると、真上にあった日はどんどん下に落ちていって、2人が再び外に出た頃には月に変わっていた 0: 瑞希:「結構遊んだな…外暗っ今何時だろ。おわっ、何すんだよ香夜。スマホ返せって」 香夜:「スマホ見るの禁止ー!これは没収しておきます!」 瑞希:「えっ香夜さっき写真撮ったり地図アプリ出して使ってたじゃん。お前だけはいーのかよ、不公平だぞ」 香夜:「写真撮るのとか地図とかはいーの!瑞希はとにかく私と遊ぶことに集中して」 瑞希:「えぇ…なんだよそれ」 香夜:「最後のとこ行こ!」 瑞希:「…まっ走ると危ねぇって!」 香夜:「食べた分の消費ー!」 0: 0:<間> 0:<ホテル街> 0: ナレ:走っている香夜を追いかけていると、先程の街灯が多い商店街とは違い、ネオンの光が眩しい場所に着く。 0: 瑞希:「お、おいっ、香夜!ちょっと止まれって!」 香夜:「わぁ、なに」 瑞希:「ここ、なんかやばくねぇか」 香夜:「やばいって、なにがさ」 瑞希:「ほら、黒服の人とかいっぱいいるし、ここってその…」 香夜:「あぁ、大丈夫大丈夫!こっちであってるから!」 瑞希:「(小声で)いやいや、大丈夫って…。迷子になってるとか?」 香夜:「迷子じゃないよ。ちゃんとわかってるもん」 瑞希:「ほ、本当か?」 香夜:「うん!」 0: 瑞希:「(M)ここを抜けた先に何かあるのか?まぁ、行きたいところがあるみたいだし、ついて行ってみるか」 0: ナレ:瑞希が周りを見ながらしばらくその道を歩いていると、香夜が歩みを止める 0: 香夜:「最後はね、ここだよ」 瑞希:「え、ここって…ホテル、だよな」 香夜:「そーだね、ホテルだね」 瑞希:「な、なんで?今日日帰りの予定だよな?」 香夜:「んー…スマホさ、返すよ。時間見てみ?」 瑞希:「い、今?…て、えぇ!!?もうそろ12時じゃねぇか!?」 香夜:「そうだね」 瑞希:「ちょっ香夜、急がねぇと終電なくなるって!」 香夜:「ないよ、終電」 瑞希:「いや、あと一本あるって、走れば間に合う!」 香夜:「瑞希…」 瑞希:「な、なに」 香夜:「終電はね、もうなくなったの」 0: ナレ:駅方向へ走る寸前だった瑞希の腕を、香夜が掴んで止める。その手は冷たく、震えていた ナレ:瑞希はその震えで力が抜けて、香夜が腕を引っ張りながらホテルの入り口に入っていった 0: 0:<間> 0:<室内> 0: ナレ:瑞希が先にシャワーを浴び、香夜がお風呂から出るのを待っている間。瑞希は今一度己が置かれている状況について考えてみた 0: 瑞希:「(M)やっぱおかしいよな、俺、なんで香夜と一緒にお泊まりすることになってんだ」 瑞希:「(M)ホテル入ったら予約取ってあったし、入ったらベットは一個しかないし!」 瑞希:「(M)しかもここビジネスホテルなんかい!紛らわしいとこ立てんなや!入る時めちゃくちゃ恥ずかしかっただろうが!」 瑞希:「(M)部屋入ったら無言で風呂に押されて、出てきたら無言で風呂入って!香夜ほんとどうしちゃったんだよぉおお!」 瑞希:「(M)俺たちそういうことしちゃう感じなの!?俺、経験ないんだけど!?もしかして香夜は……慣れてる、とか?……それは嫌だな」 瑞希:「(M)な、なんであいつが慣れてると嫌な気持ちになるんだよぉおっ!わからんっ、まっじでわからんっ!」 0: ナレ:瑞希がしばらく悶えていると、香夜がお風呂場から出てくる ナレ:瑞希は香夜の顔をまともに見られない 0: 香夜:「……あがったよ」 瑞希:「お、おおぅ、お疲れ」 香夜:「どうかした?なんか、耳真っ赤だけど…暑い?」 瑞希:「あちぃかも、エアコンつけて……おっおまっ!」 香夜:「ん?」 瑞希:「ななななななんで服着てねぇんだよ!!!!!!!!!!」 香夜:「…なんでって、いらないから」 瑞希:「おま!いるわ!服ないなら俺の服貸すから着ろ!!目の毒なんだよ!!」 香夜:「…そんな強く言わなくてもいーじゃん。ここまでしたのに分かんないって、瑞希って物凄い鈍感だったりする?」 瑞希:「へ、へぇ!?近寄ってくんなって!大事なとこ隠せっ!」 香夜:「目の毒とかいいながら、バッチリ見てるじゃん」 香夜:「…はっきり言わないとわかんないかな」 瑞希:「な、なな何をだよ、おわっ」 0: 0:<間> 0: ナレ:香夜はベットに座っている瑞希を押し倒すと、その上に跨って(またがって)くる 0: 香夜:「瑞希にはさ…私の……その…初めて…もらって欲しいんだ」 瑞希:「…………は」 香夜:「お願いだよ、瑞希…お願いだから…うん、いいよって言って」 瑞希:「いやっ、香夜。ほんと、落ち着け」 瑞希:「そういうことは、好きでもねぇ人とすんのはやっぱ…良くないんじゃないか…冷静になれって!」 0: ナレ:香夜が、気まずそうな顔をする。 0: 香夜:「…私…2月になっちゃったら…好きでもない……全く知らない人と、そういうことするようになるんだよ」 瑞希:「っ……」 香夜:「私…初めてくらい…知ってる人がいいなって思って」 香夜:「本当に瑞希が私とするの嫌って思うんなら…押し退けてくれればいいから…」 瑞希:「…その姿勢しんどくね?」 香夜:「…え?……うん、腕プルプルする」 瑞希:「その、なんだ。とりあえず、ベットの真ん中に行くんじゃねぇのか……」 香夜:「い、いいの?ほんとにしてくれるの?嫌じゃない?」 瑞希:「…嫌じゃねぇし、初めてなんだからそういうとこ大事にしなきゃだろうが」 香夜:「あはっ……瑞希は面白いなぁほんと」 瑞希:「……笑うな」 0: 0:<間> 0:<バー・カウンター席> 0: ナレ:「こうして、冒頭のシーンに戻ってくるわけ」 ナレ:「…あぁ、戻ってくるまで長かった?」 ナレ:「でも、すぐに始まるより……焦らされた方がいい時もあるだろ?」 ナレ:「…はいはいはい、続きの話するってば」 0: 0:<間> 0: 香夜:「(M)私達は、幼馴染だ」 瑞希:「(M)これまで行く学校が一緒だっただけの、ただの幼馴染だ」 香夜:「(M)親が仲良いだけで、普段は教室とかで話したりしない」 瑞希:「(M)家が近いから、お互い帰る人がいなかった時に、一緒に帰るだけ」 香夜:「(M)昔はもっと沢山遊んでたのに」 瑞希:「(M)高校に入ってから、随分と距離が空いてしまった」 香夜:「(M)高校に入ってから、素直に言葉が出なくなってしまった」 瑞希:「(M)沢山遊びたいし、一緒に帰りたい」 香夜:「(M)教室でも気軽にお話したいし、お弁当とか一緒に食べたい」 瑞希:「(M)そんな言葉が、どんどん喉に詰まっていって」 香夜:「(M)ついには吐き出せなくなってしまった」 瑞希:「(M)そんな俺達が、色んな段階を全部すっ飛ばして」 香夜:「(M)今、ひとつになろうとしている」 0: 0:<間> 0: 香夜:「…んーん、んんん(ねーね、みずき)」 瑞希:「なんだ」 香夜:「んんん、んっんん(枕、取ってよ)」 瑞希:「苦しいか?わりぃ、すぐ取る」 香夜:「ぷはぁ……はぁ…ねぇ、瑞希」 瑞希:「…ん?」 香夜:「……はぁ……どうなの……感想は」 瑞希:「…それはしてる最中じゃなくって、終わった後に…するもんなんじゃねぇの」 香夜:「……それも……はぁ……そうだね」 瑞希:「…お前はどうなんだよ…痛くはねぇのか」 香夜:「これって……はぁ…良くなるものなの……」 瑞希:「わかんね…俺が下手くそなのかも。ごめん」 0: ナレ:香夜の瞳に溜まっていた涙が、左右に流れ落ちる 0: 香夜:「謝らなくって…いいよ……」 瑞希:「香夜…大丈夫か…もう、やめとくか?」 香夜:「やめないで…大丈夫だよ」 香夜:「痛いんじゃ…ないの」 香夜:「たださ…1つ聞きたくって」 瑞希:「ん……なんだ」 香夜:「こんなこと…しちゃってさ」 香夜:「戻れるのかな…私達」 瑞希:「……っ」 香夜:「…もう、戻れない気がするんだ…おともだ、んっ」 0: ナレ:瑞希は香夜の発言を、今度は枕ではなく唇で塞ぐ ナレ:瑞希にとって、香夜の口からどうしても言わせたくない、どうしても聞きたくない言葉を聞かないようにするために ナレ:……そこから2人は再び話すことなく、その夜は終わりを迎えた 0: 0:<間> 0:<朝> 0: ナレ:窓から朝を告げる光がカーテン越しに入ってくる ナレ:起きたら隣にいるはずの香夜は、そこにはいなかった 0: 瑞希:「え、香夜?どこにいんだ…香夜?」 0: ナレ:辺りを見渡していると、ベッドサイドのメモに、香夜からの書き置きを見つけた。 0: 香夜:私の事は忘れてください 瑞希:「私の事は、忘れてください?…なんだよ、これ」 0: ナレ:他になにかないかとベットの下や机の上などを探していると、ゴミ箱に、同じメモ用紙がたくさんクシャクシャになっていた ナレ:1つ1つ、丁寧に広げてみる 0: 香夜:卒業式行かないから、みんなによろしく! 0: 香夜:何も言わずに帰ってごめんね 0: 香夜:瑞希が幼馴染で良かった 0: 香夜:一人暮らし始めたの、いいでしょ 0: 香夜:もう、瑞希には会えない 0: 香夜:実はね、ずっと前から好きだったんだよ 0: 0: ナレ:香夜は、今後別の人の所へ嫁ぐ ナレ:しんどいのは香夜の方なのに、瑞希に自分を思う気持ちを絶って欲しいからと色々書いたのだろう ナレ:最後に選ばれた言葉が、私の事は忘れてください、だったのだ 0: ナレ:……瑞希は泣いた。誰もいないのに、声を押し殺して泣いた ナレ:沢山沢山泣いて、沢山沢山えずいて ナレ:そうしてやっとこの鈍感なバカは気づいた。香夜のことが好きだったのだと 0: 瑞希:「ごめん、香夜……俺……ごめ」 瑞希:「……なんで、言えなかったんだ」 瑞希:「俺……お前のこと、好きだったのに」 瑞希:「何が、悲しい顔見たくないだ……香夜のためみたいに言って…全部俺のためじゃねぇか」 瑞希:「…っ…」 瑞希:「……お前がいなくなるなら…この手に抱いた時に、離さなきゃ良かった……」 0: ナレ:瑞希が後悔してももう遅い ナレ:香夜はもう、腕の中には戻ってこないのだから 0: 0:<間> 0:<バー・カウンター席> 0: ナレ:「面白かった?ならよかった!」 ナレ:「ん?続きが気になる?」 ナレ:「えー、香夜が大学行って、瑞希が会社員になったんじゃないの?話の続きなんてないよ」 ナレ:「…なぁ、君はどう思った?これを聞いてさ」 ナレ:「自分の身に起こったらさ、どうすんの?」 0: ナレ:「お前に聞いてんだよ、そこにいるお前」 ナレ:「感染症が流行って、少子化が進んでるこの国で、これから先もっと人口が減ってくなんてことがあったらさ」 ナレ:「…このフィクションは、本当の話になるかもしれないんだぞ」 0: ナレ:「ぷっ……あははははっ」 ナレ:「そんな顔すんなって。こんな人権をガン無視したような法律、出来るわけないだろ」 ナレ:「人間は結局衰退してって死ぬんだからさ、減ったんなら諦めろっての」 ナレ:「…まぁでも考えちゃうよね…フィクションの物語が本当になったら……ってさ」 ナレ:「そういうのが1番楽しくない?」 ナレ:「怖い?まだまだお子ちゃまだねぇ」 ナレ:「あれ、もう帰んのー?」 ナレ:「じゃーなぁ、気をつけて帰れよぉ」 0: 0: 0:おしまい、おしまい 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: 0: ナレ:呼び鈴の音がする 0: 香夜:「あれ、宅配かな…なんか頼んだっけ?はあい!今行きます!」 香夜:「…お待たせしま……あ」 瑞希:「…よぉ」 香夜:「な、なんでここが…」 瑞希:「あのなぁ……行方不明者になりたいなら、行先知ってる奴をしっかり口止めしとけ」 香夜:「あれれ、おかしいな、、ちゃんと黙っといてねって言ったのに」 瑞希:「…すんなり教えてくれたぞ」 香夜:「うぅ、お母さんの裏切り者…」 瑞希:「…」 瑞希:「…なぁ、香夜。好きだった、なのか」 香夜:「…!」 瑞希:「今はどうなんだよ」 香夜:「…手紙読んだんでしょ…私の事忘れてって書いて置いてきたじゃん。忘れてよ」 瑞希:「あんな紙切れ知るか。俺は直接聞きたいんだよ」 香夜:「ちょっっ、それ以上近づいてこないでっ」 瑞希:「今はもう嫌いなのか、俺の事」 香夜:「っ…嫌いでは、ない…」 瑞希:「すぐに忘れられる程の気持ちだったのか?」 香夜:「…それは」 瑞希:「なぁ…クリスマス、楽しかったのは俺だけか」 香夜:「!…そんな訳」 瑞希:「だったら…」 瑞希:「…だったら俺は、なんで惚れた女の事を忘れなきゃならねぇんだ。なんで、惚れた同士、離れなきゃなんねぇんだよ」 香夜:「惚れっ…!す、好きなんて、1度も言ってくれなかったじゃない」 瑞希:「…思春期舐めんな、恥ずかしいんだよ、そういうこと言うのは」 香夜:「そんなの…今更言うなんて、ずるいよ」 香夜:「私、もう、戻れないのに」 瑞希:「お前が戻れなくても、俺が連れ戻してやる」 香夜:「もう遅いんだよ…」 瑞希:「…あぁ、随分と遅くなっちまった。でも、これからは置いてかないし、ずっと隣にいて欲しい」 瑞希:「だから…」 香夜:「えっ…」 0: ナレ:瑞希が香夜の前で跪く(ひざまずく)。その手にはすずらんの花束が握られていた。 0: 瑞希:「これは、俺の一世一代、1度しか使えない告白だ!失敗してもお前は攫っていくし、お前だけには成功するまで無限に言ってやる!」 瑞希:「いろんなものすっぽかしてるけど、今の俺にはこれしかできねぇんだ。嫌だったら、引っ叩いてくれて構わない!」 瑞希:「…香夜。俺と、結婚して欲しい!ずっと一緒にいたいんだ。もっといろんなもの見にいって、いろんな話だってしたいんだよ!」 瑞希:「俺の手を、取ってくれ!」 0: ナレ:香夜は瞳に涙を浮かべながら、駆け寄って瑞希に抱きつく。返事は、言うまでもないだろう。 0: ナレ:寒空の下、若人は駆ける ナレ:来たる未来に、希望を抱きながら 0: 0: ナレ:「あ、見つけちゃったんだ」 ナレ:「そうだよ。この物語はハッピーエンド」 ナレ:「でもハッピーエンドなんて在り来りでつまらないじゃないかぁ、だからあれでおしまいだったのに」 ナレ:「あの酒棚(さかだな)から僕の執筆ノートを見つけちゃうなんて君、なかなかセンスがあるね」 ナレ:「そんな君にはご褒美をあげよう」 ナレ:「僕特製、極上の1杯を入れてあげるね」 ナレ:「次はそれに酔いしれて欲しいな」 ナレ:「お、丁度飲み終わったかな」 ナレ:「これにて、ビトウィーン・ザ・シーツおしまい、おしまい」