台本概要
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タイトル | まだ見ぬ世界に恋をして |
---|---|
作者名 | ふらん☆くりん (@Frank_lin01) |
ジャンル | ファンタジー |
演者人数 | 3人用台本(男1、女2) |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
【あらすじ】 私が憧れたあの人は、私を素敵な世界へ誘ってくれた...。 【著作権について】 本作品の著作権は全て作者である「ふらん☆くりん」に帰属します。 また、いかなる場合であっても当方は著作権の放棄はいたしません。 【禁止事項】 ●商業目的での利用 ●台本の無断使用、無断転載、自作発言等 ●過度なアドリブ、セリフの大幅な改変等 【ご利用に際してのお願い】 ●台本の利用に際しては作者X(旧ツイッター)DMに連絡をお願いいたします。 ●配信等で利用される場合は①作品名、②作者名、③台本掲載URLを掲示していただけると嬉しいです。 ●たくさんの方の演技を聴きに行きたいので、可能であれば告知文にメンションを付けていただけると嬉しいです。 ※18禁ではありませんが、若干センシティブな表現を含みます 664 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
あゆみ | 女 | 122 | 河北(かわきた)あゆみ・・・高校2年生。人見知りのためなかなか他人と上手く交われない。まりこの親友。 |
まりこ | 女 | 86 | 溝口(みぞぐち)まりこ・・・高校2年生。世話好きで、人のために頑張れるタイプ。あゆみの親友。 |
カケル | 男 | 93 | 松嶋(まつしま)カケル・・・高校3年生。雲のように掴みどころのない性格。一人が好き。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
タイトル:まだ見ぬ世界に恋をして
:
登場人物:
あゆみ:*河北《かわきた》あゆみ・・・高校2年生。人見知りのためなかなか他人と上手く交われない。まりこの親友。
まりこ:*溝口《みぞぐち》まりこ・・・高校2年生。世話好きで、人のために頑張れるタイプ。あゆみの親友。
カケル:*松嶋《まつしま》カケル・・・高校3年生。雲のように掴みどころのない性格。一人が好き。
:(М)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
:
本編:
まりこ:あゆみ、どうしたの?急に屋上なんか呼び出して。
あゆみ:私ね、まりこのおかげでいっぱい成長できたんだ。だから転校してもまりこのこと絶対に忘れないから。いつか必ず会いに行くね!
まりこ:え…転校?いきなり何の話?〈あゆみが屋上のフェンスを乗り越える〉
まりこ:…ってあゆみ!アンタ何やってんのよ!
あゆみ:ごめんね、私もう行かなくちゃ。じゃあね、まりこ!
まりこ:待って!!あゆみ!!いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!
:----------ドン!!
あゆみ:(М)高校2年の夏、私はこの世界から『転校』した。私自身、いじめられていたわけでも、生きていくのが耐えられないほどの辛い出来事があったわけでもない。強いて理由を挙げるとすれば…あの人に「誘われた」から。
:
:----------さかのぼること数ヶ月前
あゆみ:はぁ…。
まりこ:どうしたのよ、溜息なんかついちゃって。何かあったの?
あゆみ:ねぇ、まりこ。目の前にどうしても欲しい物があるとしてだよ、手を伸ばせばいつでも届きそうなのに遥か遠くにあるような気がして胸が苦しくなることってない?
まりこ:あー…その奥歯に物が挟まったような抽象的な言い方、さてはアンタまたあの先輩のことで無駄に思考をグルグルさせてるな?
あゆみ:うー…ご名答。
まりこ:あのさ、何度も言ってるけどそんなに好きなら告っちゃえばいいじゃん。
あゆみ:だからぁ…それが出来たら苦労してないってば。
まりこ:あゆみはやる前から何でも頭で考え過ぎなのよ。とにかく動いてみなよ?
あゆみ:でもそれで断られたらきっと動いたことを後悔してもっと苦しくなるから。
まりこ:だからこのままで良いと?
あゆみ:…うん。
まりこ:じゃあさ、その憧れの先輩が別の人に取られちゃったらどうすんのよ?
あゆみ:それは…。
まりこ:それこそ後悔するでしょ?なんであの時告白しなかったのかって。
あゆみ:そう…だけどさ。
まりこ:そもそも何であゆみはその先輩のことが好きなの?
あゆみ:え、えっと…カケル先輩は私が高校に入学して初めて声を掛けてくれた先輩だったの。
まりこ:そうなんだ。
あゆみ:うん。私ね、高校に入りたての頃は人見知りがひどかったから誰にも声を掛けることができなくて毎日独りぼっちだったんだ。そんな時、屋上で一人お弁当を食べていたらカケル先輩がやって来て「お!うまそうな弁当じゃん!君が作ったの?」って優しく声を掛けてくれたの。
まりこ:それだけ?
あゆみ:うん、それだけだよ。でもね、その時のカケル先輩が私の目にはめちゃめちゃカッコよく映ったの。それ以来、私はカケル先輩に憧れ続けてるってわけ。
まりこ:へぇー、一目惚れの威力って凄いな。ちなみにそれ以降はカケル先輩…だっけ?に直接会ったり話したりしたの?
あゆみ:え?…いや、その時が最初で最後だけど…。
まりこ:ウソでしょ!?じゃあカケル先輩って人がどんな人かも全然分かってないんじゃん!
あゆみ:でもでも!きっとカケル先輩は素敵な人だよ!
まりこ:はぁ…何でそこまで自信持って言えるのかね?
あゆみ:これは私の女としての勘よ!うん!きっと間違いないわ!
まりこ:私の女としての勘は100%ハズレだって言ってんだけどなぁ。
あゆみ:そんなことないもん!
まりこ:はいはい…言い出したら聞かないんだから。でもまあ、カケル先輩がどんな人にせよ、ちゃんと相手を見てからにしなよ。後で後悔しない為にもね。
あゆみ:分かった。肝に銘じとくよ。
まりこ:それと、私の方でもカケル先輩についていろいろと探ってみるよ。
あゆみ:ありがとう!!
まりこ:大切な親友のためだもんね。協力するよ。
あゆみ:まりこ大好き!!
まりこ:あ、こら抱きつくな!
あゆみ:いいじゃん!ぎゅ~!!
まりこ:わ、分かったから離れろって!
:
:----------それからひと月後。校内にて。
あゆみ:(あ!カケル先輩だ!校内で見かけるなんてすごい偶然!これは話しかけるチャンスかも)
あゆみ:あ、あの…。
カケル:ん?なに?
あゆみ:前に屋上で私のお弁当を美味しそうって褒めてくれた事覚えてますか?
カケル:あー、俺そんなこと言ったっけ?
あゆみ:あの時、カケル先輩に初めて声掛けてもらえて私とっても嬉しかったんです!
カケル:え?何で俺の名前知ってんの?…あー!もしかしてあの時の!そういや思い出したわ。昼休みに屋上で昼寝でもしよっかなーって来てみたら女の子が一人で弁当食べてたから俺から声掛けたんだったよな?
あゆみ:私の事、思い出してくれたんですね!嬉しいです!
カケル:君、名前は?
あゆみ:えっ!?えっと…*河北《かわきた》あゆみっていいます。
カケル:あゆみちゃんかぁ…可愛い名前だね。
あゆみ:か、か、可愛いだなんて!そ、そんなこと…ないです。
カケル:ははは、照れてる顔も可愛いよ。
あゆみ:か、からかわないでください!
カケル:からかってなんかないよ。俺、お世辞や冗談でそんな事言ったりしないし。
あゆみ:え?あ、あ、ありがとう…ございます。
カケル:あゆみちゃんはさぁ、お昼はいつも屋上で食べてるの?
あゆみ:前までは…はい。今は友達と教室で食べたりしてます。
カケル:そっかぁ。俺はだいたい昼休みはあそこにいるから気が向いたらおいでよ。一緒にお話しよ。
あゆみ:は、はい!ぜひ!
カケル:ははは、ガチガチだな。もっとリラックスしなよ。
あゆみ:そ、そんなの無理です。
カケル:まあいいや。じゃあ授業始まるから俺そろそろ行くわ。またね、あゆみちゃん!
あゆみ:あ、はい!また!…はぁ…やばい、私カケル先輩と喋っちゃった…。
:
:----------翌日
まりこ:へぇ!すごいじゃん!!あの人見知りのあゆみが自分からカケル先輩に声掛けるなんて!
あゆみ:もうね、校内で偶然見掛けた時は緊張で心臓が破裂するかと思ったよ。
まりこ:でも見直したぞ!さすが我が親友!あゆみならきっとできると信じてたよ。
あゆみ:えへへ、ありがとう。
まりこ:でね、私の方でもカケル先輩のことを調べてみたの。
あゆみ:え?そうなの?聞きたい!聞かせて!
まりこ:ほぅ…興味津々ですな。
あゆみ:もう!*焦《じ》らさないで!
まりこ:あはは、ごめんごめん。じゃあ言うね、本名「*松嶋《まつしま》カケル」。高校3年生。7月30日生まれ。獅子座のB型。雲のような掴みどころのない性格で周りからは何を考えているのか分からないミステリアスな存在として認識されているわ。あと、今のところ彼女はいないみたいよ。
あゆみ:彼女、いないんだぁ。
まりこ:とりあえず戦う前から終わってるってことはなさそうね。
あゆみ:良かったぁ…安心したよ。
まりこ:ただし、さっきも言ったように雲のようなふわふわした性格だからいつどうなるか分からないわよ。行動を起こすなら早めの方が良いわね。あ、でもくれぐれも焦っちゃダメよ。とりあえずきっかけはできたんだから、ここからはゆっくりじっくりね。
あゆみ:分かった。ありがとう!私のためにいろいろと調べてくれて。
まりこ:なぁに言ってんのよ。大切な親友の為だもん。これくらいは普通よ、ふ・つ・う!
あゆみ:私、頑張ってこの恋成就させるね!
まりこ:頑張ってね!応援してる!
あゆみ:ありがとう!まりこには感謝してもしきれないよ。
まりこ:えへへ。じゃあ私用事あるからそろそろ行くね!
あゆみ:またね!バイバイ!
まりこ:バイバイ!
:
:----------3日後。屋上にて。
あゆみ:(カケル先輩いつも屋上にいるって言ってたから、ここでお弁当食べてれば会えるかな…?)
カケル:お!あゆみちゃんじゃん!来てくれたんだね。
あゆみ:か、カケル先輩!こ、こんにちは!
カケル:あはは、今日もバリバリ緊張してるね。
あゆみ:そ、そりゃ緊張しますよ。だって…。
カケル:だって?
あゆみ:あ、いや…何でもないです!忘れてください!
カケル:あゆみちゃんってほんと面白いね。
あゆみ:そ、そんなことないですよ。
カケル:顔真っ赤じゃん。
あゆみ:そ、それはカケル先輩が…
カケル:ん?俺が何?
あゆみ:うー…カケル先輩の意地悪…。
カケル:ごめんごめん。まさかあゆみちゃんがまた来てくれるとは思ってなかったから、俺も嬉しくなっちゃってさ。
あゆみ:え…?
カケル:俺、あゆみちゃんと話したいなってずっと思ってたから。
あゆみ:ほ、ほんとですか?
カケル:うん。ほんとだよ。
あゆみ:すごく嬉しいです!私もずっとカケル先輩とお話したかったから。
カケル:それは嬉しいな!じゃあ俺たち同じ気持ちだったんだな。
あゆみ:うふふ。そうみたいですね。
カケル:あゆみちゃんとは仲良くなれそうだよ。
あゆみ:え?あ…はい!!私もカケル先輩ともっと仲良くなりたいです!
カケル:じゃあさ、これからはもっといっぱい話そうよ。
あゆみ:はい!ぜひよろしくお願いします!
カケル:だから固いってば。俺のことは呼び捨てでいいからさ。あと敬語禁止ね。
あゆみ:よ、よ、呼び捨て!敬語も禁止って…。それじゃまるで…。
カケル:恋人同士みたいだって?
あゆみ:あ、はい…。
カケル:じゃあ俺たち恋人同士でいいんじゃね?
あゆみ:え!?か、カケル先輩、い、いきなりすぎます!
カケル:ダメ?
あゆみ:い、いえ…そんなことは、ない…ですけど。心の準備が…まだ…。
カケル:あはは!そっかそっか!じゃあそっちはあゆみちゃんの心の準備ができてからでいいよ。その代わり俺はもう恋人同士のつもりだからあゆみちゃんのこと好きに呼ぶね。
あゆみ:へ!?あ、あの…えっと…。はい。分かりました。(え~!!こっちの事情はおかまいなしなの~!?)
カケル:俺さ、この場所が好きなんだ。
あゆみ:屋上が…ですか?
カケル:うん。俺、昔から誰かと群れんのが嫌いでさ、ずっと一人だったんだよ。
あゆみ:そう…なんですか。
カケル:おまけにこんな自由奔放な性格だろ?だから、今まで友達なんてできたこともないし、作りたいと思ったこともなかった。
あゆみ:意外…そんな風には見えませんけど。
カケル:そう?でもさ、不思議と一人でいることを苦痛だと思ったことは今まで一度もなかったんだ。
あゆみ:すごいですね。私、カケル先輩が羨ましいです。
カケル:ん?どうしてそう思うの?
あゆみ:私は入学してからずっと、人見知りで他人と交われない自分が嫌いでした。周りのクラスメイト達はどんどん仲良くなっていくのに、私だけ…取り残されたみたいで。
カケル:だからここに来たの?
あゆみ:はい。ここなら周りの子たちが集まって仲良さそうにご飯食べてる所も、楽しそうにおしゃべりしている会話も気にしなくて済むから。
カケル:そっか。
あゆみ:でも私、あの日カケル先輩に声掛けてもらえたこと、涙が出るほど嬉しかったんですよ。
カケル:そうなんだ。
あゆみ:はい…やっぱり私、誰かとお話したり仲良くしたりしたかったんだなって、羨ましかったんだなって。できないことから逃げて、自ら壁を作って近付かないようにしていたのは自分自身なんだって気付いたんです。そうしたら心がすーっと軽くなって、気持ちがラクになりました。それからは思い切って自分から周りに声を掛けていったら、親友と呼べる人にも巡り会うことができました。だから全部カケル先輩のおかげなんです!
カケル:良かった。
あゆみ:え…?
カケル:俺があゆみの心を少しでも癒すことができたから。
あゆみ:あ…。
カケル:どうしたの?もしかして、いきなり名前で呼んだのまずかった?
あゆみ:いえ…今回も同じだなぁって思って。やっぱりカケル先輩はすごいです。私が越えられない心の壁を*易々《やすやす》と乗り越えて、私を大きく成長させてくれる。だから今決めました!私、カケル先輩と恋人同士になりたいです!ずっと…大好きだったから!
カケル:ふふ、心の準備、できたんだね。
あゆみ:うん!これからよろしくね!カケル!
カケル:ああ、こちらこそよろしくな、あゆみ。
あゆみ:はぁー、やっと言えたぁ!
カケル:スッキリした?
あゆみ:うん!めちゃめちゃスッキリした!
あゆみ:私ね、カケルと一緒ならこれからの人生どんな壁でも越えていけそうな気がするの。
カケル:そっか。俺はあゆみとならどこへでも行ってみたいけどな。
あゆみ:ほんと?
カケル:ああ。だからあゆみのこともっともっと知りたいんだ。
あゆみ:嬉しい…私もカケルのこともっと教えて欲しい。
カケル:うん。これからが楽しみだな。
あゆみ:うん!私、今とっても幸せだよぉ…。
カケル:ああ、俺もだ。俺のこと好きって言ってくれてありがとな。嬉しかったよ。
あゆみ:私の方こそ。カケル、本当にありがとね。
:
あゆみ:(М)こうして、私のカケル先輩への想いは思いがけない形で実を結んだのだった。
:
:----------翌日
まりこ:えー!?カケル先輩と付き合うことになったの!?ちょ…展開早すぎない?
あゆみ:そうなの!私も突然のことで頭真っ白になって、何が何だか分かんないうちに話がどんどん進んじゃって、気付いたら恋人同士になってたの。
まりこ:はぁ…こんなことってあるんだ。なんて言うか…びっくりだよ。
あゆみ:そうだよね。私も夢じゃないかと思ってるよ。
まりこ:でも良かったじゃん!ずっと憧れ続けた先輩とこんな素敵な形で恋人同士になれたんだもん!
あゆみ:ありがとう!これも私の背中を押してくれたまりこのおかげだよ!ほんと感謝してる!
まりこ:うむ。大いに感謝したまえ。
あゆみ:もう!まりこったら!あははは!
まりこ:あははは!
あゆみ:私ね、いろんな人に支えられてどんどん成長してるんだ。
まりこ:分かる!最近のあゆみの成長速度はほんと凄まじいよね。
あゆみ:これからもよろしくね!
まりこ:まっかせなさーい!
あゆみ:頼りにしてます。
まりこ:うん!それでそれで?カケル先輩とは今度いつ会うの?
あゆみ:あー、まだデートとかは決めてないけど、しばらくは昼休みにご飯食べながらお話したいなって思ってるよ。
まりこ:そっかぁ。じゃあこれからはあゆみとご飯一緒に食べられないね。
あゆみ:あ、でもでも、そんな毎日とかじゃないから。
まりこ:いや、むしろ毎日会いなよ。私のことは気にしなくて良いからさ。
あゆみ:えっ…でもそれじゃまりこがお昼一人になっちゃうよ。
まりこ:私のことなら大丈夫。お昼くらい自分で何とかするし。それよりも今はカケル先輩とのことだけ考えなさい。
あゆみ:うう…ありがとう…。私、まりこと親友になれてとっても嬉しい。
まりこ:私もよ、あゆみ。ほら、もう泣かないの。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。
あゆみ:うん…。えへへ。
まりこ:そうそう、その笑顔だよ。
あゆみ:まりこ、これからもずっと親友でいてね。
まりこ:もちろん!私たちずっと一緒だからね。
あゆみ:うん!
まりこ:じゃあそろそろお昼休み終わるから行こっか。
あゆみ:うん。
:
:----------翌日。昼休み
カケル:よ!あゆみ!
あゆみ:やっほーカケル!ねぇねぇ、私お弁当作ってきたから一緒に食べよ。
カケル:嬉しいねー!おー、めっちゃうまそう!ありがとな!
あゆみ:カケル、はい、あーんして。
カケル:よせよ。照れくさいじゃんか。
あゆみ:いいの、どうせここには誰も来ないんだから。
カケル:そ、そりゃそうだけどさ…。
あゆみ:あら~?どうしたのぉ?こないだの時と立場が逆だね。
カケル:う…。
あゆみ:ほら、私がせっかく朝早く起きて作ったお弁当なんだから食べてくれなきゃ怒るんだからね。はい、口開けて~。
カケル:あ、あーん…。モグモグ…う、うまい!!
あゆみ:良かったぁ!カケルに美味しいって言ってもらえて。じゃあこれから毎日お弁当作るね!
カケル:ありがとう、あゆみ。
あゆみ:えへへ。私もたーべよっと。はむ…モグモグ、んー!美味しい!やっぱり大好きな人と食べるご飯は最高だね!
カケル:ああ、あゆみは本当に料理が上手なんだな。
あゆみ:うん!料理ってね、大切な人のために!って想いを込めれば込めるほど、どんどん美味しくなっていくんだよ。
カケル:へぇー、そうなんだ。だからあゆみの料理はこんなにうまいんだな。
あゆみ:そうよ、カケルが喜んでくれるように腕によりをかけて作ったんだから。
カケル:ありがとな!本当に嬉しいよ。
あゆみ:私もよカケル。
カケル:ところであゆみ。
あゆみ:ん?何?
カケル:俺と一緒に今よりもっと素敵な場所に行ってみないか?
あゆみ:素敵な…場所…?
カケル:そう、とっても素敵な場所。
あゆみ:うん!行きたい!カケルと一緒ならどこへだって行きたい!ねぇ、連れてって!
カケル:おっけー!じゃあ俺の目をじっと見つめて。
あゆみ:え?〈カケルの目を見つめる〉
あゆみ:あ…(何これ…カケルの目を見てたら頭がぼーっとしてきた…)
カケル:あゆみ、一緒に行こう。
あゆみ:…うん。
カケル:んっ…〈あゆみにそっと口付けをする〉
あゆみ:ん!?(え!?き、キス!?…ふぁ…はぁ…だんだん意識が…カケルに吸い込まれて…)
カケル:んんっ…。〈より強く、深く口付けをする〉
あゆみ:んっ…。(カケルと…ひとつに…)〈カケルの口付けに無意識に応える〉
カケル:〈そっと唇を離す〉んはぁ。ふふふ…本当に美味しかったよ。あゆみ。
あゆみ:……。
カケル:って言っても聞こえないか。あゆみの意識は俺とひとつになったからね。さてと…あゆみ?
あゆみ:…。
カケル:あとは…分かってるね?
あゆみ:…はい。
:
まりこ:最近あゆみどうしてるかなぁ。上手くいってるといいんだけど。私もあゆみに負けないように頑張らないとね。…お?噂をすればあゆみからメールだ。
あゆみ:〈メール〉まりこに伝えたいことがあるから放課後屋上に来て。
まりこ:伝えたいこと…なんだろ?カケル先輩と何かあったのかな?
:
:----------放課後。屋上にて。
まりこ:あゆみ、どうしたの?急に屋上なんか呼び出して。
あゆみ:まりこ、来てくれたんだね。
まりこ:そりゃ来るわよ。メールに「伝えたいことがある」って書いてあったから、てっきりカケル先輩と何かあったのかと思って心配したんだからね。
あゆみ:うふふ…心配してくれてありがとう。私ね、まりこのおかげでいっぱい成長できたんだ。だから転校してもまりこのこと絶対に忘れないから。いつか必ず会いに行くね!
まりこ:え…転校?いきなり何の話?
あゆみ:大好きだよ。まりこ。
まりこ:(M)そう言うとあゆみは屋上のフェンスを乗り越えた。
まりこ:ちょっとあゆみ!アンタ何やってんのよ!
あゆみ:ごめんね、私もう行かなくちゃ。じゃあね、まりこ!
まりこ:待って!!あゆみ!!いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!
:
まりこ:(М)最期に見せた笑顔と共に、私の親友は校舎の屋上から飛び降りた。数秒の空白の後、「ドン!」という鈍い衝撃音が地面から鳴り響く。
:
まりこ:あああああぁ!!あゆみ!あゆみぃ!どうして!どうして!!
:
まりこ:(М)地面に咲いた真っ赤な薔薇を私は直視することができなかった。一体いつから、何が原因だったのかなんて考える余裕すらなく、ただただ私は目の前の惨状に*咽び《むせび》泣くことしか出来なかった。
:
:----------それから数日経ったある日。屋上にて。
まりこ:(あの日、あゆみはここから飛び降りて命を絶った。私はあの時あゆみが言った『転校』という言葉がずっと心に引っかかっている。あのあゆみが理由もなく死ぬはずがないんだ。何か、何かきっとあるはず。あゆみ、私がアンタの死の真相を突き止めてあげるからね。そして必ず…アンタの無念を晴らしてあげる!)
カケル:あ、先客がいたのか…。
まりこ:あなたは…もしかしてカケル先輩?
カケル:ああ、そうだけど。君は?
まりこ:私は*溝口《みぞぐち》まりこ。ここで亡くなった*河北《かわきた》あゆみの親友です。
カケル:あー…あゆみの親友ね。じゃあ君は彼女に花を手向けるためにここへ?
まりこ:いいえ。私はあゆみの死の真相を突き止めに来ました。
カケル:死の真相?でもここに来ても何も分からないんじゃないかな?
まりこ:そんなことありません。私が待っていたのはあなたです。カケル先輩。
カケル:ん?俺?
まりこ:そうです。あゆみは生前よく話してくれました。屋上で偶然声を掛けられてからあなたのことが好きになったって。それ以来、彼女の口から出てくるのはあなたのことばかり。特にあなたと付き合うことになってからは毎日本当に幸せそうでした。
カケル:だからそんなあゆみが死ぬはずがない…と?
まりこ:そうです。しかもあゆみは飛び降りる瞬間まで笑顔だった。まるでこれから楽しい所にでも行くかのようにウキウキして。
カケル:楽しい所…ね。
まりこ:そして何より分からなかったのは、あゆみから出た『転校』という二文字。私はあゆみから転校するなんてこと一度も聞いた事がなかった。高校を卒業しても…ずっと一緒にいようねって約束したのに…うう…。
カケル:あゆみはね、この世界から『転校』したんだよ。
まりこ:え…?何を言って…。
カケル:俺があゆみを誘ったんだ。
まりこ:じゃ…じゃあ!アンタがあゆみを!あゆみを自殺に追い込んだのか!
カケル:まあまあ、落ち着きなよ。そうじゃない。
まりこ:違うって言うなら何だって言うのよ!
カケル:あゆみならいつでも会えるよ。
まりこ:気休めなんか言わないで!あゆみは…ここから飛び降りて…死んで…。
カケル:死んでない。あゆみはちゃんと生きてるよ。俺の世界でね。
まりこ:なに…それ…そんな精神論で私が納得するとでも思ってんの!やっぱりアンタがあゆみを殺したんだ!よくも!よくも私の親友を!絶対に許さないから!
カケル:はぁ…こりゃ何を言っても聞いてくれそうにないね。
まりこ:当たり前でしょ!私の大切な親友を、あゆみを返してよぉ!!!
カケル:いいよ。
まりこ:…え?
カケル:俺があゆみに会わせてあげる。
まりこ:いい加減なこと…言わないで!
カケル:だからいい加減なんかじゃない。
まりこ:そんなこと…できるわけないじゃない。だってあゆみは…もう…。
カケル:じゃあ俺があゆみの所に連れてってあげるよ。
まりこ:ま、まさか、私をここから突き落とすんじゃないでしょうね?
カケル:ははは…そんな事しないよ。俺は約束は必ず守る主義だからね。君が本当にあゆみに会いたいって気持ちがあるのなら俺はそれを全力で叶えてあげる。
まりこ:会いたい…。私、あゆみに会いたいよぉ!!
カケル:分かった。じゃあ俺の目をじっと見つめて。
まりこ:はい。〈カケルの目を見つめる〉
まりこ:え…?(なに…?頭が急にふわふわしてきたわ…)
カケル:さぁ、まりこ。君も行こうか。
まりこ:…うん。
カケル:んっ…〈まりこにそっと口付けをする〉
まりこ:んん!?(え!なに?私もしかしてキスされてんの?…あ…あぁ…意識がこの人にどんどん吸い込まれていく…)
カケル:んんっ…〈より強く、深く口付けをする〉
まりこ:んんっ…(私が…溶けて…ひとつに)〈カケルの口付けに無意識に応える〉
カケル:〈そっと唇を離す〉ふぁ。…ほぅ、あゆみとは違うが、君もなかなかに美味しかったよ、まりこ。
まりこ:……。
カケル:ふふふ…『転校』おめでとう!これで晴れて君も俺の世界の住人だ。まりこ、俺は君を歓迎するよ!
まりこ:…。
カケル:さて…どうすっかな。そうだ、そろそろ一人も飽きてきたから、これからは君があゆみの代わりに俺の側にいるんだ。恋人としてな。
まりこ:…はい。
カケル:こら!恋人同士なんだから敬語禁止な。あと俺のことは呼び捨てでいいから。
まりこ:うふふ…分かったわ。大好きよ!カケル!
:
:~完~
タイトル:まだ見ぬ世界に恋をして
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登場人物:
あゆみ:*河北《かわきた》あゆみ・・・高校2年生。人見知りのためなかなか他人と上手く交われない。まりこの親友。
まりこ:*溝口《みぞぐち》まりこ・・・高校2年生。世話好きで、人のために頑張れるタイプ。あゆみの親友。
カケル:*松嶋《まつしま》カケル・・・高校3年生。雲のように掴みどころのない性格。一人が好き。
:(М)はモノローグ(独白)、〈〉はト書き、()は心の声です。
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本編:
まりこ:あゆみ、どうしたの?急に屋上なんか呼び出して。
あゆみ:私ね、まりこのおかげでいっぱい成長できたんだ。だから転校してもまりこのこと絶対に忘れないから。いつか必ず会いに行くね!
まりこ:え…転校?いきなり何の話?〈あゆみが屋上のフェンスを乗り越える〉
まりこ:…ってあゆみ!アンタ何やってんのよ!
あゆみ:ごめんね、私もう行かなくちゃ。じゃあね、まりこ!
まりこ:待って!!あゆみ!!いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!
:----------ドン!!
あゆみ:(М)高校2年の夏、私はこの世界から『転校』した。私自身、いじめられていたわけでも、生きていくのが耐えられないほどの辛い出来事があったわけでもない。強いて理由を挙げるとすれば…あの人に「誘われた」から。
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:----------さかのぼること数ヶ月前
あゆみ:はぁ…。
まりこ:どうしたのよ、溜息なんかついちゃって。何かあったの?
あゆみ:ねぇ、まりこ。目の前にどうしても欲しい物があるとしてだよ、手を伸ばせばいつでも届きそうなのに遥か遠くにあるような気がして胸が苦しくなることってない?
まりこ:あー…その奥歯に物が挟まったような抽象的な言い方、さてはアンタまたあの先輩のことで無駄に思考をグルグルさせてるな?
あゆみ:うー…ご名答。
まりこ:あのさ、何度も言ってるけどそんなに好きなら告っちゃえばいいじゃん。
あゆみ:だからぁ…それが出来たら苦労してないってば。
まりこ:あゆみはやる前から何でも頭で考え過ぎなのよ。とにかく動いてみなよ?
あゆみ:でもそれで断られたらきっと動いたことを後悔してもっと苦しくなるから。
まりこ:だからこのままで良いと?
あゆみ:…うん。
まりこ:じゃあさ、その憧れの先輩が別の人に取られちゃったらどうすんのよ?
あゆみ:それは…。
まりこ:それこそ後悔するでしょ?なんであの時告白しなかったのかって。
あゆみ:そう…だけどさ。
まりこ:そもそも何であゆみはその先輩のことが好きなの?
あゆみ:え、えっと…カケル先輩は私が高校に入学して初めて声を掛けてくれた先輩だったの。
まりこ:そうなんだ。
あゆみ:うん。私ね、高校に入りたての頃は人見知りがひどかったから誰にも声を掛けることができなくて毎日独りぼっちだったんだ。そんな時、屋上で一人お弁当を食べていたらカケル先輩がやって来て「お!うまそうな弁当じゃん!君が作ったの?」って優しく声を掛けてくれたの。
まりこ:それだけ?
あゆみ:うん、それだけだよ。でもね、その時のカケル先輩が私の目にはめちゃめちゃカッコよく映ったの。それ以来、私はカケル先輩に憧れ続けてるってわけ。
まりこ:へぇー、一目惚れの威力って凄いな。ちなみにそれ以降はカケル先輩…だっけ?に直接会ったり話したりしたの?
あゆみ:え?…いや、その時が最初で最後だけど…。
まりこ:ウソでしょ!?じゃあカケル先輩って人がどんな人かも全然分かってないんじゃん!
あゆみ:でもでも!きっとカケル先輩は素敵な人だよ!
まりこ:はぁ…何でそこまで自信持って言えるのかね?
あゆみ:これは私の女としての勘よ!うん!きっと間違いないわ!
まりこ:私の女としての勘は100%ハズレだって言ってんだけどなぁ。
あゆみ:そんなことないもん!
まりこ:はいはい…言い出したら聞かないんだから。でもまあ、カケル先輩がどんな人にせよ、ちゃんと相手を見てからにしなよ。後で後悔しない為にもね。
あゆみ:分かった。肝に銘じとくよ。
まりこ:それと、私の方でもカケル先輩についていろいろと探ってみるよ。
あゆみ:ありがとう!!
まりこ:大切な親友のためだもんね。協力するよ。
あゆみ:まりこ大好き!!
まりこ:あ、こら抱きつくな!
あゆみ:いいじゃん!ぎゅ~!!
まりこ:わ、分かったから離れろって!
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:----------それからひと月後。校内にて。
あゆみ:(あ!カケル先輩だ!校内で見かけるなんてすごい偶然!これは話しかけるチャンスかも)
あゆみ:あ、あの…。
カケル:ん?なに?
あゆみ:前に屋上で私のお弁当を美味しそうって褒めてくれた事覚えてますか?
カケル:あー、俺そんなこと言ったっけ?
あゆみ:あの時、カケル先輩に初めて声掛けてもらえて私とっても嬉しかったんです!
カケル:え?何で俺の名前知ってんの?…あー!もしかしてあの時の!そういや思い出したわ。昼休みに屋上で昼寝でもしよっかなーって来てみたら女の子が一人で弁当食べてたから俺から声掛けたんだったよな?
あゆみ:私の事、思い出してくれたんですね!嬉しいです!
カケル:君、名前は?
あゆみ:えっ!?えっと…*河北《かわきた》あゆみっていいます。
カケル:あゆみちゃんかぁ…可愛い名前だね。
あゆみ:か、か、可愛いだなんて!そ、そんなこと…ないです。
カケル:ははは、照れてる顔も可愛いよ。
あゆみ:か、からかわないでください!
カケル:からかってなんかないよ。俺、お世辞や冗談でそんな事言ったりしないし。
あゆみ:え?あ、あ、ありがとう…ございます。
カケル:あゆみちゃんはさぁ、お昼はいつも屋上で食べてるの?
あゆみ:前までは…はい。今は友達と教室で食べたりしてます。
カケル:そっかぁ。俺はだいたい昼休みはあそこにいるから気が向いたらおいでよ。一緒にお話しよ。
あゆみ:は、はい!ぜひ!
カケル:ははは、ガチガチだな。もっとリラックスしなよ。
あゆみ:そ、そんなの無理です。
カケル:まあいいや。じゃあ授業始まるから俺そろそろ行くわ。またね、あゆみちゃん!
あゆみ:あ、はい!また!…はぁ…やばい、私カケル先輩と喋っちゃった…。
:
:----------翌日
まりこ:へぇ!すごいじゃん!!あの人見知りのあゆみが自分からカケル先輩に声掛けるなんて!
あゆみ:もうね、校内で偶然見掛けた時は緊張で心臓が破裂するかと思ったよ。
まりこ:でも見直したぞ!さすが我が親友!あゆみならきっとできると信じてたよ。
あゆみ:えへへ、ありがとう。
まりこ:でね、私の方でもカケル先輩のことを調べてみたの。
あゆみ:え?そうなの?聞きたい!聞かせて!
まりこ:ほぅ…興味津々ですな。
あゆみ:もう!*焦《じ》らさないで!
まりこ:あはは、ごめんごめん。じゃあ言うね、本名「*松嶋《まつしま》カケル」。高校3年生。7月30日生まれ。獅子座のB型。雲のような掴みどころのない性格で周りからは何を考えているのか分からないミステリアスな存在として認識されているわ。あと、今のところ彼女はいないみたいよ。
あゆみ:彼女、いないんだぁ。
まりこ:とりあえず戦う前から終わってるってことはなさそうね。
あゆみ:良かったぁ…安心したよ。
まりこ:ただし、さっきも言ったように雲のようなふわふわした性格だからいつどうなるか分からないわよ。行動を起こすなら早めの方が良いわね。あ、でもくれぐれも焦っちゃダメよ。とりあえずきっかけはできたんだから、ここからはゆっくりじっくりね。
あゆみ:分かった。ありがとう!私のためにいろいろと調べてくれて。
まりこ:なぁに言ってんのよ。大切な親友の為だもん。これくらいは普通よ、ふ・つ・う!
あゆみ:私、頑張ってこの恋成就させるね!
まりこ:頑張ってね!応援してる!
あゆみ:ありがとう!まりこには感謝してもしきれないよ。
まりこ:えへへ。じゃあ私用事あるからそろそろ行くね!
あゆみ:またね!バイバイ!
まりこ:バイバイ!
:
:----------3日後。屋上にて。
あゆみ:(カケル先輩いつも屋上にいるって言ってたから、ここでお弁当食べてれば会えるかな…?)
カケル:お!あゆみちゃんじゃん!来てくれたんだね。
あゆみ:か、カケル先輩!こ、こんにちは!
カケル:あはは、今日もバリバリ緊張してるね。
あゆみ:そ、そりゃ緊張しますよ。だって…。
カケル:だって?
あゆみ:あ、いや…何でもないです!忘れてください!
カケル:あゆみちゃんってほんと面白いね。
あゆみ:そ、そんなことないですよ。
カケル:顔真っ赤じゃん。
あゆみ:そ、それはカケル先輩が…
カケル:ん?俺が何?
あゆみ:うー…カケル先輩の意地悪…。
カケル:ごめんごめん。まさかあゆみちゃんがまた来てくれるとは思ってなかったから、俺も嬉しくなっちゃってさ。
あゆみ:え…?
カケル:俺、あゆみちゃんと話したいなってずっと思ってたから。
あゆみ:ほ、ほんとですか?
カケル:うん。ほんとだよ。
あゆみ:すごく嬉しいです!私もずっとカケル先輩とお話したかったから。
カケル:それは嬉しいな!じゃあ俺たち同じ気持ちだったんだな。
あゆみ:うふふ。そうみたいですね。
カケル:あゆみちゃんとは仲良くなれそうだよ。
あゆみ:え?あ…はい!!私もカケル先輩ともっと仲良くなりたいです!
カケル:じゃあさ、これからはもっといっぱい話そうよ。
あゆみ:はい!ぜひよろしくお願いします!
カケル:だから固いってば。俺のことは呼び捨てでいいからさ。あと敬語禁止ね。
あゆみ:よ、よ、呼び捨て!敬語も禁止って…。それじゃまるで…。
カケル:恋人同士みたいだって?
あゆみ:あ、はい…。
カケル:じゃあ俺たち恋人同士でいいんじゃね?
あゆみ:え!?か、カケル先輩、い、いきなりすぎます!
カケル:ダメ?
あゆみ:い、いえ…そんなことは、ない…ですけど。心の準備が…まだ…。
カケル:あはは!そっかそっか!じゃあそっちはあゆみちゃんの心の準備ができてからでいいよ。その代わり俺はもう恋人同士のつもりだからあゆみちゃんのこと好きに呼ぶね。
あゆみ:へ!?あ、あの…えっと…。はい。分かりました。(え~!!こっちの事情はおかまいなしなの~!?)
カケル:俺さ、この場所が好きなんだ。
あゆみ:屋上が…ですか?
カケル:うん。俺、昔から誰かと群れんのが嫌いでさ、ずっと一人だったんだよ。
あゆみ:そう…なんですか。
カケル:おまけにこんな自由奔放な性格だろ?だから、今まで友達なんてできたこともないし、作りたいと思ったこともなかった。
あゆみ:意外…そんな風には見えませんけど。
カケル:そう?でもさ、不思議と一人でいることを苦痛だと思ったことは今まで一度もなかったんだ。
あゆみ:すごいですね。私、カケル先輩が羨ましいです。
カケル:ん?どうしてそう思うの?
あゆみ:私は入学してからずっと、人見知りで他人と交われない自分が嫌いでした。周りのクラスメイト達はどんどん仲良くなっていくのに、私だけ…取り残されたみたいで。
カケル:だからここに来たの?
あゆみ:はい。ここなら周りの子たちが集まって仲良さそうにご飯食べてる所も、楽しそうにおしゃべりしている会話も気にしなくて済むから。
カケル:そっか。
あゆみ:でも私、あの日カケル先輩に声掛けてもらえたこと、涙が出るほど嬉しかったんですよ。
カケル:そうなんだ。
あゆみ:はい…やっぱり私、誰かとお話したり仲良くしたりしたかったんだなって、羨ましかったんだなって。できないことから逃げて、自ら壁を作って近付かないようにしていたのは自分自身なんだって気付いたんです。そうしたら心がすーっと軽くなって、気持ちがラクになりました。それからは思い切って自分から周りに声を掛けていったら、親友と呼べる人にも巡り会うことができました。だから全部カケル先輩のおかげなんです!
カケル:良かった。
あゆみ:え…?
カケル:俺があゆみの心を少しでも癒すことができたから。
あゆみ:あ…。
カケル:どうしたの?もしかして、いきなり名前で呼んだのまずかった?
あゆみ:いえ…今回も同じだなぁって思って。やっぱりカケル先輩はすごいです。私が越えられない心の壁を*易々《やすやす》と乗り越えて、私を大きく成長させてくれる。だから今決めました!私、カケル先輩と恋人同士になりたいです!ずっと…大好きだったから!
カケル:ふふ、心の準備、できたんだね。
あゆみ:うん!これからよろしくね!カケル!
カケル:ああ、こちらこそよろしくな、あゆみ。
あゆみ:はぁー、やっと言えたぁ!
カケル:スッキリした?
あゆみ:うん!めちゃめちゃスッキリした!
あゆみ:私ね、カケルと一緒ならこれからの人生どんな壁でも越えていけそうな気がするの。
カケル:そっか。俺はあゆみとならどこへでも行ってみたいけどな。
あゆみ:ほんと?
カケル:ああ。だからあゆみのこともっともっと知りたいんだ。
あゆみ:嬉しい…私もカケルのこともっと教えて欲しい。
カケル:うん。これからが楽しみだな。
あゆみ:うん!私、今とっても幸せだよぉ…。
カケル:ああ、俺もだ。俺のこと好きって言ってくれてありがとな。嬉しかったよ。
あゆみ:私の方こそ。カケル、本当にありがとね。
:
あゆみ:(М)こうして、私のカケル先輩への想いは思いがけない形で実を結んだのだった。
:
:----------翌日
まりこ:えー!?カケル先輩と付き合うことになったの!?ちょ…展開早すぎない?
あゆみ:そうなの!私も突然のことで頭真っ白になって、何が何だか分かんないうちに話がどんどん進んじゃって、気付いたら恋人同士になってたの。
まりこ:はぁ…こんなことってあるんだ。なんて言うか…びっくりだよ。
あゆみ:そうだよね。私も夢じゃないかと思ってるよ。
まりこ:でも良かったじゃん!ずっと憧れ続けた先輩とこんな素敵な形で恋人同士になれたんだもん!
あゆみ:ありがとう!これも私の背中を押してくれたまりこのおかげだよ!ほんと感謝してる!
まりこ:うむ。大いに感謝したまえ。
あゆみ:もう!まりこったら!あははは!
まりこ:あははは!
あゆみ:私ね、いろんな人に支えられてどんどん成長してるんだ。
まりこ:分かる!最近のあゆみの成長速度はほんと凄まじいよね。
あゆみ:これからもよろしくね!
まりこ:まっかせなさーい!
あゆみ:頼りにしてます。
まりこ:うん!それでそれで?カケル先輩とは今度いつ会うの?
あゆみ:あー、まだデートとかは決めてないけど、しばらくは昼休みにご飯食べながらお話したいなって思ってるよ。
まりこ:そっかぁ。じゃあこれからはあゆみとご飯一緒に食べられないね。
あゆみ:あ、でもでも、そんな毎日とかじゃないから。
まりこ:いや、むしろ毎日会いなよ。私のことは気にしなくて良いからさ。
あゆみ:えっ…でもそれじゃまりこがお昼一人になっちゃうよ。
まりこ:私のことなら大丈夫。お昼くらい自分で何とかするし。それよりも今はカケル先輩とのことだけ考えなさい。
あゆみ:うう…ありがとう…。私、まりこと親友になれてとっても嬉しい。
まりこ:私もよ、あゆみ。ほら、もう泣かないの。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ。
あゆみ:うん…。えへへ。
まりこ:そうそう、その笑顔だよ。
あゆみ:まりこ、これからもずっと親友でいてね。
まりこ:もちろん!私たちずっと一緒だからね。
あゆみ:うん!
まりこ:じゃあそろそろお昼休み終わるから行こっか。
あゆみ:うん。
:
:----------翌日。昼休み
カケル:よ!あゆみ!
あゆみ:やっほーカケル!ねぇねぇ、私お弁当作ってきたから一緒に食べよ。
カケル:嬉しいねー!おー、めっちゃうまそう!ありがとな!
あゆみ:カケル、はい、あーんして。
カケル:よせよ。照れくさいじゃんか。
あゆみ:いいの、どうせここには誰も来ないんだから。
カケル:そ、そりゃそうだけどさ…。
あゆみ:あら~?どうしたのぉ?こないだの時と立場が逆だね。
カケル:う…。
あゆみ:ほら、私がせっかく朝早く起きて作ったお弁当なんだから食べてくれなきゃ怒るんだからね。はい、口開けて~。
カケル:あ、あーん…。モグモグ…う、うまい!!
あゆみ:良かったぁ!カケルに美味しいって言ってもらえて。じゃあこれから毎日お弁当作るね!
カケル:ありがとう、あゆみ。
あゆみ:えへへ。私もたーべよっと。はむ…モグモグ、んー!美味しい!やっぱり大好きな人と食べるご飯は最高だね!
カケル:ああ、あゆみは本当に料理が上手なんだな。
あゆみ:うん!料理ってね、大切な人のために!って想いを込めれば込めるほど、どんどん美味しくなっていくんだよ。
カケル:へぇー、そうなんだ。だからあゆみの料理はこんなにうまいんだな。
あゆみ:そうよ、カケルが喜んでくれるように腕によりをかけて作ったんだから。
カケル:ありがとな!本当に嬉しいよ。
あゆみ:私もよカケル。
カケル:ところであゆみ。
あゆみ:ん?何?
カケル:俺と一緒に今よりもっと素敵な場所に行ってみないか?
あゆみ:素敵な…場所…?
カケル:そう、とっても素敵な場所。
あゆみ:うん!行きたい!カケルと一緒ならどこへだって行きたい!ねぇ、連れてって!
カケル:おっけー!じゃあ俺の目をじっと見つめて。
あゆみ:え?〈カケルの目を見つめる〉
あゆみ:あ…(何これ…カケルの目を見てたら頭がぼーっとしてきた…)
カケル:あゆみ、一緒に行こう。
あゆみ:…うん。
カケル:んっ…〈あゆみにそっと口付けをする〉
あゆみ:ん!?(え!?き、キス!?…ふぁ…はぁ…だんだん意識が…カケルに吸い込まれて…)
カケル:んんっ…。〈より強く、深く口付けをする〉
あゆみ:んっ…。(カケルと…ひとつに…)〈カケルの口付けに無意識に応える〉
カケル:〈そっと唇を離す〉んはぁ。ふふふ…本当に美味しかったよ。あゆみ。
あゆみ:……。
カケル:って言っても聞こえないか。あゆみの意識は俺とひとつになったからね。さてと…あゆみ?
あゆみ:…。
カケル:あとは…分かってるね?
あゆみ:…はい。
:
まりこ:最近あゆみどうしてるかなぁ。上手くいってるといいんだけど。私もあゆみに負けないように頑張らないとね。…お?噂をすればあゆみからメールだ。
あゆみ:〈メール〉まりこに伝えたいことがあるから放課後屋上に来て。
まりこ:伝えたいこと…なんだろ?カケル先輩と何かあったのかな?
:
:----------放課後。屋上にて。
まりこ:あゆみ、どうしたの?急に屋上なんか呼び出して。
あゆみ:まりこ、来てくれたんだね。
まりこ:そりゃ来るわよ。メールに「伝えたいことがある」って書いてあったから、てっきりカケル先輩と何かあったのかと思って心配したんだからね。
あゆみ:うふふ…心配してくれてありがとう。私ね、まりこのおかげでいっぱい成長できたんだ。だから転校してもまりこのこと絶対に忘れないから。いつか必ず会いに行くね!
まりこ:え…転校?いきなり何の話?
あゆみ:大好きだよ。まりこ。
まりこ:(M)そう言うとあゆみは屋上のフェンスを乗り越えた。
まりこ:ちょっとあゆみ!アンタ何やってんのよ!
あゆみ:ごめんね、私もう行かなくちゃ。じゃあね、まりこ!
まりこ:待って!!あゆみ!!いやあぁぁぁぁぁぁ!!!!
:
まりこ:(М)最期に見せた笑顔と共に、私の親友は校舎の屋上から飛び降りた。数秒の空白の後、「ドン!」という鈍い衝撃音が地面から鳴り響く。
:
まりこ:あああああぁ!!あゆみ!あゆみぃ!どうして!どうして!!
:
まりこ:(М)地面に咲いた真っ赤な薔薇を私は直視することができなかった。一体いつから、何が原因だったのかなんて考える余裕すらなく、ただただ私は目の前の惨状に*咽び《むせび》泣くことしか出来なかった。
:
:----------それから数日経ったある日。屋上にて。
まりこ:(あの日、あゆみはここから飛び降りて命を絶った。私はあの時あゆみが言った『転校』という言葉がずっと心に引っかかっている。あのあゆみが理由もなく死ぬはずがないんだ。何か、何かきっとあるはず。あゆみ、私がアンタの死の真相を突き止めてあげるからね。そして必ず…アンタの無念を晴らしてあげる!)
カケル:あ、先客がいたのか…。
まりこ:あなたは…もしかしてカケル先輩?
カケル:ああ、そうだけど。君は?
まりこ:私は*溝口《みぞぐち》まりこ。ここで亡くなった*河北《かわきた》あゆみの親友です。
カケル:あー…あゆみの親友ね。じゃあ君は彼女に花を手向けるためにここへ?
まりこ:いいえ。私はあゆみの死の真相を突き止めに来ました。
カケル:死の真相?でもここに来ても何も分からないんじゃないかな?
まりこ:そんなことありません。私が待っていたのはあなたです。カケル先輩。
カケル:ん?俺?
まりこ:そうです。あゆみは生前よく話してくれました。屋上で偶然声を掛けられてからあなたのことが好きになったって。それ以来、彼女の口から出てくるのはあなたのことばかり。特にあなたと付き合うことになってからは毎日本当に幸せそうでした。
カケル:だからそんなあゆみが死ぬはずがない…と?
まりこ:そうです。しかもあゆみは飛び降りる瞬間まで笑顔だった。まるでこれから楽しい所にでも行くかのようにウキウキして。
カケル:楽しい所…ね。
まりこ:そして何より分からなかったのは、あゆみから出た『転校』という二文字。私はあゆみから転校するなんてこと一度も聞いた事がなかった。高校を卒業しても…ずっと一緒にいようねって約束したのに…うう…。
カケル:あゆみはね、この世界から『転校』したんだよ。
まりこ:え…?何を言って…。
カケル:俺があゆみを誘ったんだ。
まりこ:じゃ…じゃあ!アンタがあゆみを!あゆみを自殺に追い込んだのか!
カケル:まあまあ、落ち着きなよ。そうじゃない。
まりこ:違うって言うなら何だって言うのよ!
カケル:あゆみならいつでも会えるよ。
まりこ:気休めなんか言わないで!あゆみは…ここから飛び降りて…死んで…。
カケル:死んでない。あゆみはちゃんと生きてるよ。俺の世界でね。
まりこ:なに…それ…そんな精神論で私が納得するとでも思ってんの!やっぱりアンタがあゆみを殺したんだ!よくも!よくも私の親友を!絶対に許さないから!
カケル:はぁ…こりゃ何を言っても聞いてくれそうにないね。
まりこ:当たり前でしょ!私の大切な親友を、あゆみを返してよぉ!!!
カケル:いいよ。
まりこ:…え?
カケル:俺があゆみに会わせてあげる。
まりこ:いい加減なこと…言わないで!
カケル:だからいい加減なんかじゃない。
まりこ:そんなこと…できるわけないじゃない。だってあゆみは…もう…。
カケル:じゃあ俺があゆみの所に連れてってあげるよ。
まりこ:ま、まさか、私をここから突き落とすんじゃないでしょうね?
カケル:ははは…そんな事しないよ。俺は約束は必ず守る主義だからね。君が本当にあゆみに会いたいって気持ちがあるのなら俺はそれを全力で叶えてあげる。
まりこ:会いたい…。私、あゆみに会いたいよぉ!!
カケル:分かった。じゃあ俺の目をじっと見つめて。
まりこ:はい。〈カケルの目を見つめる〉
まりこ:え…?(なに…?頭が急にふわふわしてきたわ…)
カケル:さぁ、まりこ。君も行こうか。
まりこ:…うん。
カケル:んっ…〈まりこにそっと口付けをする〉
まりこ:んん!?(え!なに?私もしかしてキスされてんの?…あ…あぁ…意識がこの人にどんどん吸い込まれていく…)
カケル:んんっ…〈より強く、深く口付けをする〉
まりこ:んんっ…(私が…溶けて…ひとつに)〈カケルの口付けに無意識に応える〉
カケル:〈そっと唇を離す〉ふぁ。…ほぅ、あゆみとは違うが、君もなかなかに美味しかったよ、まりこ。
まりこ:……。
カケル:ふふふ…『転校』おめでとう!これで晴れて君も俺の世界の住人だ。まりこ、俺は君を歓迎するよ!
まりこ:…。
カケル:さて…どうすっかな。そうだ、そろそろ一人も飽きてきたから、これからは君があゆみの代わりに俺の側にいるんだ。恋人としてな。
まりこ:…はい。
カケル:こら!恋人同士なんだから敬語禁止な。あと俺のことは呼び捨てでいいから。
まりこ:うふふ…分かったわ。大好きよ!カケル!
:
:~完~