台本概要

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タイトル Misty Fate
作者名 アール/ドラゴス  (@Dragoss_R)
ジャンル その他
演者人数 4人用台本(男1、女1、不問2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ミスティ・フェイト。

霞がかった運命の歯車は今宵、カチリカチリと音を立てて廻り出す。

「人間とは、運命に縛られた、哀れな役者に過ぎませぬ。」


【怨念の悪魔】第一幕 霞の章

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ウィリアム 不問 42 なにが目的かもわからない謎の人物。 その言葉は的確で、その眼は未来を見通しているようである。 性別不問。
マジェスティ 45 本名「チキータ・マーキュリー」。 夫に強制的に結婚させられ、恨んでいた。 発狂・泣き演技アリ。 女性。
アビス 不問 44 快楽殺人鬼。二年三か月前に大きな惨殺事件を起こしている。 身体も口調も幼いが、とても頭が回り、内には底知れない狂気を内包している。 性別不問。
リバース 33 自身を殺し屋だと名乗る男。 アビスのことを警戒しているようなそぶりを見せている。 男性。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ウィリアム:(N)人の悪意や怨念とは…ときに素晴らしく、ときに醜いものでありましょう。「きれいはきたない、きたないはきれい」とはよく言ったもの。それでは皆様…鷹揚(おうよう)のご見物を。 0:――夜。とある館の裏庭。一人の女性がすすり泣いている。 マジェスティ:うぅ…ぐすっ、うぁ… ウィリアム:――どうなされましたか、お嬢さん。 マジェスティ:えっ…?…あの、貴方は…? ウィリアム:まあまあ、そんなに慌てないでください。私は…そうですなぁ。では、「ウィリアム」とでもお呼びくだされ。 マジェスティ:そうではなく…っ!なぜこの屋敷の庭にいるんですか…!?あなたは誰、人を呼びますよっ…! ウィリアム:静かに…。貴方の旦那様が起きてしまわれますぞ。…まぁ、私は困らないのですがね。“其処”にいる方が困るかと思いますので…。 マジェスティ:えっ…? 0:暗闇からアビスがナイフを手に持ち現れる。マジェスティは怯えきっている。 アビス:すごいねぇキミ。なんでボクがいるってわかったんだい? マジェスティ:いやっ…誰、なの…。(怯えて涙ぐんでいる。) ウィリアム:はは。実は私、少々訳ありでしてなぁ。貴方の目的も、既に把握しております。 アビス:へぇー…じゃあ、口封じしなきゃねっ♪(ナイフをウィリアムに向ける。) ウィリアム:おや…私には戦う気はありませんし、口封じなどしなくても大丈夫ですよ。それに…私に気を取られていて良いので? アビス:忠告ありがと♪でも気づいてるから安心して…ねっ! 0:アビスがナイフを後ろに投げる。すると誰かの声が聞こえる。 リバース:っ…!?(ナイフが右足を掠める。) アビス:本当にすごいね、キミ。あ、もしかして、キミが依頼のー…?♪てか後ろのアナタは誰ー? リバース:チッ… マジェスティ:なにが、どうなってるの…?誰か、だれかぁ…。 ウィリアム:まぁまぁ。役者は出そろいました。ですが状況を皆さま呑み込めてないようですし…一度武器を置き、状況整理といきませんか。私、あなた方の目的は全てわかっておりますゆえ…急がなくても夜が明ける前に事が済めばあなた方はそれでいいはずです。 アビス:へぇー…すごいね、キミ♪気に入った!ボクはいいよっ♪ リバース:…仕方ない。(小声)俺もその茶番に付き合ってやる…。 ウィリアム:ありがとうございます。それでは…マジェスティ。説明をいたしますのでどうかご拝聴くださいませ。 マジェスティ:ま、まじぇすてぃ…?わ、私のこと、ですか…?(完全に怯え切っている) ウィリアム:あなた以外にだれがおりましょう。さて…では早速、自己紹介から参りましょう!では、ナイフのあなたから! アビス:こーゆーのって言い出しっぺからするもんだよ? ウィリアム:おっと、これは失敬。では私から。私の名は「ウィリアム」。特に何者でもないですが、まあ、あなたたちがここに来た理由を知っているものでございます。 アビス:やっぱり!キミがウィリアムさんなんだねぇー♪でも…不思議だなぁ。…ねぇ、キミって何者なの? ウィリアム:ですから私は何者でもありませんよ。さて…それでは次。ナイフで傷を負ったあなた。自己紹介を。 リバース:…俺は、リバース。…偽名だが許してくれ。殺し屋で、ここへはとある依頼を受けてきた。 アビス:へぇ… マジェスティ:ころし、や… ウィリアム:その依頼とは何ぞや? リバース:…この館の主人、「ジャイブ・マーキュリー」を殺せという依頼を受けた。 マジェスティ:(少し食い気味に)えっ…?それは、本当ですか…? リバース:…本当だ。だから当然俺はあんたのことも知っている。チキータ・マーキュリー。 マジェスティ:っ、確かに名乗ってないのに…貴方は私の名前を知っている…。 リバース:…こんなとこでいいか、ウィリアムさんよ。 ウィリアム:えぇ、えぇ。ありがとうございますリバース殿。 アビス:……。 ウィリアム:さあて…では次は麗しきマジェスティ。あなたのことはここにいる三人すべてが知っていると思いますが…一応、自己紹介をお願いいたしましょう。 マジェスティ:は、はい…。私の名前は、「チキータ」…「チキータ・マーキュリー」です…。この館の主の、妻…です。 ウィリアム:ありがとうございますマイマジェスティ。 リバース:…さっきからそいつのことを「マジェスティ」って呼んでるが…そいつは名前も隠してないんだ、「チキータ」、「マーキュリー夫人」じゃ駄目なのか? ウィリアム:ええ。何故なら彼女は、自分の名前。正確に言えば名字(ファミリーネーム)を嫌っている。そうでありましょう? マジェスティ:っ…!?何故、知っているのですか…? ウィリアム:それは企業秘密ということで…ふふ。さて、ではマジェスティ。ここにいるのは凄腕のヒットマンばかり…心配することはありません。貴方が自身の名字を嫌う理由を我々にお聞かせ願えるかな? マジェスティ:…はい。私の夫、「ジャイブ・マーキュリー」はとても強引な方で…私の前に現れ、一目惚れしたと言い放つと…私は無理やり、ジャイブの妻にされていました。そして結婚した後の彼は更にひどく…結婚したきり、私を物のように扱ってきました…。逃げたくても…離婚すれば社会的に殺すといわれました。 アビス:へぇ…。それはひどい旦那さんだねぇ。でも、友人とかに相談すればよかったんじゃないのー? マジェスティ:はい、それも試したのです…。一番の親友に助けてほしいとせがみました。親友は優しく、助けてあげると言ってくれたのですが…。(ここから涙ぐんで)相談してから数日後、友人は事故に遭い亡くなりました…。事故の痕跡から分かります…。きっと、私の友人は殺されたのです。事故に見せかけて。 ウィリアム:ふむ…。なるほどなるほど。では、マジェスティ。ズバリ聞きましょう。あなたは…ジャイブ・マーキュリーが憎いのですね? マジェスティ:っ…、は、い…(泣く) ウィリアム:辛いお話をさせて申し訳ございません。ですが必要な情報でしたので…。話を進めますが…。ゆっくり心を落ち着かせていただいて構いませんからな。さて。それでは最後にナイフのあなた。自己紹介をお願いいたします。 アビス:おっけー。ボクもそこのリバース君と同じ殺し屋だよ。コードネームはアビスっていうんだぁ。よろしくね♪ リバース:っ… アビス:ここに来た目的はなんと、リバース君と完全に同じ!匿名の依頼でね、「ジャイブ・マーキュリーを殺せ」ってきたもんだからね。依頼通り殺しに来たんだ♪そしてボクのほうには、「ウィリアムという名前の人がいたら危害を加えてはいけない」っていう条件付きだったよ♪ ウィリアム:おや、何者かはわかりませんが私を守ってくださるとは…!いやはやそれにしても…なんと、お二方の目的が一致とは。これは偶然か、何かの策略かそれとも…? リバース:やかましいぞウィリアムっ!お前は胡散臭いんだ、黙っていろ…! アビス:まぁまぁ。胡散臭いのは同感だけど、依頼で殺すなってきてるしー…なによりっ!この人面白そうじゃんー! ウィリアム:ははは。胡散臭いと感じられるのならそれは誠に申し訳ない。ですが、私は今この場で事実を述べているだけでございます。 リバース:…それはそうだが。そもそも、なんでお前は俺たちの目的やここに来た理由を知っている風…いや、本当に知っているのか。何故知っている。 ウィリアム:ですから、それは企業秘密と申しましたでしょう?さて…。そんなことよりも。マジェスティ。単刀直入に聞いてもよろしいですかな? マジェスティ:(落ち着いてきた)ぁ、はい…。なんでしょうか…? ウィリアム:あなたはジャイブが憎いのでしょう? マジェスティ:はい…。この生活から解放されたい、です…。 ウィリアム:ふむ…ここにはジャイブを殺しに来た凄腕の殺し屋が二人もいますからなあ。ジャイブ・マーキュリーはこのままだと殺されてしまいますが、貴方はそれでよろしいのかな? アビス:っていうか、ボクはそいつ殺さないと怒られちゃうから殺さないといけないし、それを阻むんなら例えマジェスティでもぐちゃぐちゃにしちゃうよっ?♪ マジェスティ:…はい、私は…主人を、殺してほしいです。 アビス:よぉし、マジェスティさんの了承も得たし…マジェスティさんを苦しめたくそやろうをぐちゃぐちゃにしちゃおう!あはは、楽しみだなぁ!♪ リバース:…アビス。若き殺し屋。快楽殺人鬼であり、凄まじい戦闘能力と知能を誇る…。担当した殺しの中でも「01-25惨殺事件」(ぜろいちにーごーざんさつじけん)は短時間で三十七人の命を残酷に奪った最悪の事件として表の世界でも語り継がれている…。 アビス:ん?キミ、もしかしてボクのこと知ってるのー? リバース:あぁ…俺も殺し屋だからな。噂はかねがね。 アビス:それに関してなんだけどね…?ずっと疑問に思ってたんだけど。一番最初、ボクのこと背後から狙おうとしてたよね。あれ、なんで?キミの狙いはボクと同じジャイブのハズなんだけど…? リバース:それは…暗闇でお前をジャイブと見間違えたから―― アビス:(食い気味に)――それはありえないよねぇ?あのときボクはウィリアムとマジェスティと話してたし。体格的にはウィリアムのほうがジャイブに近いと思うケド、あの殺気はボク一人に向いていたものだった。 リバース:ぐっ、それは… アビス:つまり、キミの目的はジャイブを殺すことじゃない…違うかな? リバース:…チッ、流石にもう嘘は突き通せねぇなあ。当たりだ。…俺は、この家に盗み目的で入った。そしたら庭でお前らを見つけたから…一番小せぇアビス、お前から殺そうと思ったんだ…。 ウィリアム:なんと、そうだったのですか。いやはや、私騙されてしまいましたよ。リバース殿はこの館へ窃盗をしに入ったのでしたか…!おお、なるほどなるほど…。 アビス:…なるほどね。確かにそれだとボクだけを狙ったことに対しては辻褄はあうねー。ふぅん。じゃあそういうことにしとこっか♪じゃ、とりあえずさっさとジャイブを殺しに行こう!もたもたしちゃうと夜が明けちゃうよ。 マジェスティ:あ…お、お願いします…。 リバース:…アビス。あんたがジャイブを殺ってる間に俺はこの家のものをあらかた盗んでおく。俺はあんたに足をやられてるからな。そっちでいろいろ引き付けておいてくれ…。チキー…いや。「マジェスティ」もいいな?この家に用はなくなるだろ。 マジェスティ:はい…。あ、あの…アビスさん。主人を殺害する現場に…私も立ち会っていいですか…? アビス:いいよー♪だけど大丈夫?ボク、こう見えて結構愉快犯だし、死体で遊びまくっちゃうよ?♪ マジェスティ:…かまい、ません。少しでも私は、復讐がしたい。 ウィリアム:では、私もアビス殿についていくことに致しましょう。リバース殿の盗みについていったら足手まといになりそうですしなぁ。 リバース:そうだな。じゃあ、俺は先に漁ってるぞ…。(館に静かに入っていく) アビス:いっちゃったねえ。それじゃ、ボクたちもいこっか♪ マジェスティ:は、はい…。 ウィリアム:(N)さて。お待たせいたしました。闇夜の殺人劇はこれより始まり、物語はクライマックスへと差し掛かります。心の準備はよろしいかな? 0:館の中。アビス、マジェスティ、ウィリアムが音をたてないように歩いている。 アビス:しかし…巡回してる警備員とか誰もいないね。警備ザルすぎない? マジェスティ:警備員を館につけるのを嫌う方でしたし…主人の粗暴の悪さからメイドや使用人もほとんどいませんからね… ウィリアム:大層ひどい人物だったのでしょうなぁ。お気持ち、お察しいたしますぞ。 マジェスティ:ありがとうございます…でも、いいんです。もう今日で…さようなら、ですから。 アビス:うわ、覚悟決めてんじゃんっ♪そーゆーひと、嫌いじゃないなぁ、ボク♪ マジェスティ:…ありがとうございます。そして…ここが主人の部屋です。いつも主人はここで寝ています。 アビス:ありがとう、マジェスティさん♪…じゃあ、殺っちゃおうかぁ♪ 0:三人、ジャイブの部屋に入る アビス:あはは、本当に警備ザルすぎるよねぇ♪ ウィリアム:今頃リバース殿は豪快に豪華絢爛(ごうかけんらん)なアクセサリーなどを盗んでいる頃でしょうなぁ。 アビス:さて、今からアナタの旦那さんをぐちゃぐちゃにしちゃうわけなんだけど…だいじょーぶ?悔いはないのかなぁ? マジェスティ:はい。…今思えば、ずっと主人が嫌いで、いやで…それが今日終わるって思うと…むしろ、安心感すら覚えます。…ありがとう、アビスさん。 アビス:まじかぁ、感謝までされちゃった!…アナタ、もしかしたら殺し屋向いてるんじゃない? マジェスティ:えっ、私が…殺し…? アビス:あははッ!冗談だよ、じょーだん!じゃ…ボクはあなたに恨みとかないケド…じゃあね、ジャイブ・マーキュリーさん♪ 0:アビスがジャイブの寝ているベッドに近づき、ナイフを取り出す。 0:アビスがナイフをジャイブの喉元に立て、喉を切り裂く。ジャイブは声を出せず、苦痛から床に転がる。 0:――と、同時に何かが部屋の中で光り、大きな銃声が聞こえる。 アビス:ぅ、ぐあぁっ…!! マジェスティ:アビスさんっ!? 0:アビスを見るとわき腹がえぐれている。が、アビスは不敵に笑う。 アビス:…あははははっ!♪やっぱり…こうくるよねぇ、「リバース」! 0:アビスがそう叫ぶといつのまにか部屋には左肩にナイフが刺さり、大きなハンドガンを手に持ったリバースが立っていた。 リバース:っ、くっそ…やっぱ、見切られてる、か… アビス:当たり前、じゃん♪盗みに入ったってのも噓なんでしょー…?だってそうなんだとしたら、ボクのことをいっぱい知ってたこと説明つかないもんねー…♪キミのホントの目的、教えてよー…♪ リバース:良いだろう…教えてやるよくそ野郎…ッ! アビス:…マジェスティさん。キミの旦那さんへのとどめは、アナタに任せてもいいかなぁ…?ボク、リバースの相手しなきゃいけないから、さ! マジェスティ:えっ…でもっ… アビス:マジェスティさん、アナタには、才能あるよぉ…だから、ねぇ? マジェスティ:っ、はい… アビス:んじゃ、ナイフ一本置いとくねっ…!でも大丈夫、リバースを仕留めたらすぐ戻ってくるからさ♪(窓から庭に飛び出す) リバース:っ、くそったれ!(窓から庭に飛び出す) マジェスティ:……アビス、さん。 0:館の裏庭 アビス:いやぁ…待たせたね。リバース。 リバース:てめぇ、わき腹をえぐられてよくそこまで動けるな…。流石殺人鬼サマは違うなぁ…? アビス:あはは、褒めてくれてありがとう…!さぁて…じゃあそろそろキミの本当の目的を聞こうかっ…!♪ リバース:そうだな…これを言わねぇと気が済まねぇ。…お前、「01-25惨殺事件」(ぜろいちにーごーざんさつじけん)は覚えてるな? アビス:勿論だよぉ…♪忘れもしない、二年三か月前にボクが引き起こした事件だからね…♪ リバース:そうだ…高級ホテルの001号室から025室までの宿泊客全てが残虐に殺されたイカれてる事件だ…聞いてやる。あの事件は何で起こした? アビス:そりゃもちろん、依頼されたからさ…!今日と同じように匿名の依頼だったけどね。じゃあ、ボクからもキミに質問。リバース、キミ…あの事件の生き残りなんだろう?♪ リバース:…そうだ。その通りだ。俺はあの事件で…てめぇに恋人を殺されたんだ。あの日は…恋人にプロポーズした日だったんだ。プロポーズは成功した。なんて幸せなんだろう…。そう思いながら恋人ともに眠った。…目が覚めた時には全てが血にまみれていて、何もかもを失っていたがな…。 アビス:へぇ…じゃあキミはジャイブを殺しに来たのでも、盗みに入ったのでもなく…キミは、その復讐のために、ボクを殺すためにここに来て、ここに立っているんだね…? リバース:そのとおりだ…。だから嘘をついて機会をうかがわせてもらった。格上のお前には、奇襲して致命傷を与えないと勝てないからな…。…あの事件以来俺の人生はめちゃくちゃで…復讐を誓って裏の世界に足を踏み入れて、そしてようやくここまで来たんだっ…!生きて帰れると思うなよ、アビスッ…! アビス:怖いなあ…♪あ、ちなみに聞かせてほしいんだけどー…どうやってボクがここに来るっていうことを知ったのー? リバース:…五日前だ。この館にアビスがジャイブを殺しに来るっていう匿名の連絡が来たんだよ…。…だからてめぇを殺す道具を持って、半信半疑で来てみたら本当にてめぇがいた。 アビス:あれぇ?どこから情報漏れたんだろ…?…まぁボク、恨まれて当然のことをしてるっていう自覚はあるからねー。ついに見放されちゃったかなぁ。…でもね、復讐心に駆られてボクを殺すのはいいケド…。世界のどこかには、ボクに君が言うその「イカれた事件」を起こすよう依頼する人間がいるんだよ。リバース、キミはとても誠実なひとのようだからこれだけはボクの口から伝えてあげよう。この世界は…キミが思ってるほどきれいじゃないよ。それだけは覚えておいてね…?♪ リバース:黙れっ…!俺はっ、…俺は復讐ができればそれでいいんだっ…! アビス:あははっ!じゃあ復讐に駆られた哀れなリバースくん…!決着といこうかっ…!さぁかかってきなよ!ボクを殺すんだろっ…!?♪ リバース:クソッたれがあっ…!! 0:同時刻・ジャイブの部屋 0:マジェスティがアビスの置いて行ったナイフを手に取りジャイブを見つめている。 マジェスティ:ジャイブ、さん… 0:ジャイブは痛みと恐怖で苦悶の表情を浮かべている。 マジェスティ:私、は… ウィリアム:マジェスティ。あなたの抱くその男への憎しみはとてつもなく強いはずです。 マジェスティ:ウィリアム、さん… ウィリアム:無理やり結婚させられ、あなたはモノのように扱われ、虐げられた。私から言わせてみればその日々は夜より暗い闇であり、黒より濃い漆黒であり、海より深い絶望でありましょう。 マジェスティ:う、ぁ… ウィリアム:あなたは幾度となく死にたくなって、でも死への恐怖で死ねなかった。人間の想像から来る恐怖は目の前の恐怖より百倍恐ろしいといいます。ですが、あなたは死のほうがましかもしれない。ついにはそう考えるようになってしまった。 マジェスティ:…はい。 ウィリアム:では、あなたをその思考に陥れたのはどなたですか? マジェスティ:…ジャイブさんです。 ウィリアム:さあ思い出せチキータ。ジャイブをあなたはどうしたい。奴を裁くのは一番苦しい思いをした貴方がふさわしい。 マジェスティ:私、は… ウィリアム:あなたは奴が嫌いなはずだ。あなたは奴が憎いはずだ。あなたは奴を―― ウィリアム:殺したいはずだ。(同時に) アビス:(殺したいハズだ♪)(同時に) マジェスティ:そうだ。私はアナタが嫌いだ。私はアナタが憎い。私は…オマエを殺したい。 ウィリアム:さぁ、裁け。残酷に、そして歌のように。 マジェスティ:アハハ…アハハハハっ…♡ 0:ナイフがジャイブの胸に突き刺さる マジェスティ:アハハハ、アハハハハハハっ♡楽しいっ♡ 0:何度も何度もナイフを突き刺すマジェスティ。その顔は恍惚に歪み、 0:いつのまにか人間だったものはただの肉塊と化していた。 マジェスティ:アハハ…ありがとう、ウィリアムさん、アビスさん…私、今すごく楽しくて、ウキウキしているの…♪ ウィリアム:それは何よりでございます。さて…ではお気をつけてマジェスティ。彼が来ますぞ。 リバース:はぁ…はぁ…っ! 0:ナイフが何本も突き刺さり血まみれのリバースが歩いてくる。 リバース:アビス…は、ぶっ殺し、た…最後は、てめぇ、だ…さっきの会話、聞かせてもらったぞっ…!…殺人鬼一歩手前の、てめぇを…生かしておくわけにはっ、いかっ、ねぇ… マジェスティ:…そう、アビスさんはもう、いないのね。 リバース:あぁ…だが安心しろ…てめぇもあいつと同じ地獄、行きだっ、覚悟しやがれっ… マジェスティ:お言葉だけれど、もう私に怖いものはないの。あなたが私を殺そうとするなら、私はアナタを殺すだけよ…♪ リバース:やれるもんなら、やってみろっ…! マジェスティ:えぇ。さようならリバースさん。楽しくアナタを殺して見せるわっ!♪ ウィリアム:人はみな、運命に縛られて生きています。この物語のこの結末だって、“あなた”がこの演目を傍観することだって…ずっと前から決定されていたのです。そう…人間は、霞がかった運命を手探りで生き抜く生命体。バッドエンドでも、それは仕方のないことでありましょう。 ウィリアム:この世には悪意や怨念、復讐心など…負の感情が入り乱れているものです。さて…今回紹介した彼女の話。いかがだったでしょうか。人は悪意にたやすく支配されるもろい生き物です。…“あなた”も、決して悪意に支配されぬようくれぐれも、お気を付けくださいね…。 ウィリアム:…はて、私…ですか。そうですなぁ。まぁ、言ってしまえば、二年三か月前のアビス殿への依頼。そして今回のジャイブ殺害の依頼とアビス殿の居場所をリバース殿に教えたこと。それらすべて私がやったことでございます。…なぜそんなことをするか?そんなの、「面白そうだから」に決まっておりましょう?…あぁ、そうだ。思い出しました。私は人々よりこう呼ばれております。 ウィリアム:人の運命を見通す怪奇。人々の悪意から生み出された…「災厄の化身」。「怨念の悪魔」…とね。 ウィリアム:では皆様。また誰かが悪意に飲まれたとき、お会いしましょう…。 0:―ウィリアムの薄気味悪い笑い声が響いている…。 0:-End-

ウィリアム:(N)人の悪意や怨念とは…ときに素晴らしく、ときに醜いものでありましょう。「きれいはきたない、きたないはきれい」とはよく言ったもの。それでは皆様…鷹揚(おうよう)のご見物を。 0:――夜。とある館の裏庭。一人の女性がすすり泣いている。 マジェスティ:うぅ…ぐすっ、うぁ… ウィリアム:――どうなされましたか、お嬢さん。 マジェスティ:えっ…?…あの、貴方は…? ウィリアム:まあまあ、そんなに慌てないでください。私は…そうですなぁ。では、「ウィリアム」とでもお呼びくだされ。 マジェスティ:そうではなく…っ!なぜこの屋敷の庭にいるんですか…!?あなたは誰、人を呼びますよっ…! ウィリアム:静かに…。貴方の旦那様が起きてしまわれますぞ。…まぁ、私は困らないのですがね。“其処”にいる方が困るかと思いますので…。 マジェスティ:えっ…? 0:暗闇からアビスがナイフを手に持ち現れる。マジェスティは怯えきっている。 アビス:すごいねぇキミ。なんでボクがいるってわかったんだい? マジェスティ:いやっ…誰、なの…。(怯えて涙ぐんでいる。) ウィリアム:はは。実は私、少々訳ありでしてなぁ。貴方の目的も、既に把握しております。 アビス:へぇー…じゃあ、口封じしなきゃねっ♪(ナイフをウィリアムに向ける。) ウィリアム:おや…私には戦う気はありませんし、口封じなどしなくても大丈夫ですよ。それに…私に気を取られていて良いので? アビス:忠告ありがと♪でも気づいてるから安心して…ねっ! 0:アビスがナイフを後ろに投げる。すると誰かの声が聞こえる。 リバース:っ…!?(ナイフが右足を掠める。) アビス:本当にすごいね、キミ。あ、もしかして、キミが依頼のー…?♪てか後ろのアナタは誰ー? リバース:チッ… マジェスティ:なにが、どうなってるの…?誰か、だれかぁ…。 ウィリアム:まぁまぁ。役者は出そろいました。ですが状況を皆さま呑み込めてないようですし…一度武器を置き、状況整理といきませんか。私、あなた方の目的は全てわかっておりますゆえ…急がなくても夜が明ける前に事が済めばあなた方はそれでいいはずです。 アビス:へぇー…すごいね、キミ♪気に入った!ボクはいいよっ♪ リバース:…仕方ない。(小声)俺もその茶番に付き合ってやる…。 ウィリアム:ありがとうございます。それでは…マジェスティ。説明をいたしますのでどうかご拝聴くださいませ。 マジェスティ:ま、まじぇすてぃ…?わ、私のこと、ですか…?(完全に怯え切っている) ウィリアム:あなた以外にだれがおりましょう。さて…では早速、自己紹介から参りましょう!では、ナイフのあなたから! アビス:こーゆーのって言い出しっぺからするもんだよ? ウィリアム:おっと、これは失敬。では私から。私の名は「ウィリアム」。特に何者でもないですが、まあ、あなたたちがここに来た理由を知っているものでございます。 アビス:やっぱり!キミがウィリアムさんなんだねぇー♪でも…不思議だなぁ。…ねぇ、キミって何者なの? ウィリアム:ですから私は何者でもありませんよ。さて…それでは次。ナイフで傷を負ったあなた。自己紹介を。 リバース:…俺は、リバース。…偽名だが許してくれ。殺し屋で、ここへはとある依頼を受けてきた。 アビス:へぇ… マジェスティ:ころし、や… ウィリアム:その依頼とは何ぞや? リバース:…この館の主人、「ジャイブ・マーキュリー」を殺せという依頼を受けた。 マジェスティ:(少し食い気味に)えっ…?それは、本当ですか…? リバース:…本当だ。だから当然俺はあんたのことも知っている。チキータ・マーキュリー。 マジェスティ:っ、確かに名乗ってないのに…貴方は私の名前を知っている…。 リバース:…こんなとこでいいか、ウィリアムさんよ。 ウィリアム:えぇ、えぇ。ありがとうございますリバース殿。 アビス:……。 ウィリアム:さあて…では次は麗しきマジェスティ。あなたのことはここにいる三人すべてが知っていると思いますが…一応、自己紹介をお願いいたしましょう。 マジェスティ:は、はい…。私の名前は、「チキータ」…「チキータ・マーキュリー」です…。この館の主の、妻…です。 ウィリアム:ありがとうございますマイマジェスティ。 リバース:…さっきからそいつのことを「マジェスティ」って呼んでるが…そいつは名前も隠してないんだ、「チキータ」、「マーキュリー夫人」じゃ駄目なのか? ウィリアム:ええ。何故なら彼女は、自分の名前。正確に言えば名字(ファミリーネーム)を嫌っている。そうでありましょう? マジェスティ:っ…!?何故、知っているのですか…? ウィリアム:それは企業秘密ということで…ふふ。さて、ではマジェスティ。ここにいるのは凄腕のヒットマンばかり…心配することはありません。貴方が自身の名字を嫌う理由を我々にお聞かせ願えるかな? マジェスティ:…はい。私の夫、「ジャイブ・マーキュリー」はとても強引な方で…私の前に現れ、一目惚れしたと言い放つと…私は無理やり、ジャイブの妻にされていました。そして結婚した後の彼は更にひどく…結婚したきり、私を物のように扱ってきました…。逃げたくても…離婚すれば社会的に殺すといわれました。 アビス:へぇ…。それはひどい旦那さんだねぇ。でも、友人とかに相談すればよかったんじゃないのー? マジェスティ:はい、それも試したのです…。一番の親友に助けてほしいとせがみました。親友は優しく、助けてあげると言ってくれたのですが…。(ここから涙ぐんで)相談してから数日後、友人は事故に遭い亡くなりました…。事故の痕跡から分かります…。きっと、私の友人は殺されたのです。事故に見せかけて。 ウィリアム:ふむ…。なるほどなるほど。では、マジェスティ。ズバリ聞きましょう。あなたは…ジャイブ・マーキュリーが憎いのですね? マジェスティ:っ…、は、い…(泣く) ウィリアム:辛いお話をさせて申し訳ございません。ですが必要な情報でしたので…。話を進めますが…。ゆっくり心を落ち着かせていただいて構いませんからな。さて。それでは最後にナイフのあなた。自己紹介をお願いいたします。 アビス:おっけー。ボクもそこのリバース君と同じ殺し屋だよ。コードネームはアビスっていうんだぁ。よろしくね♪ リバース:っ… アビス:ここに来た目的はなんと、リバース君と完全に同じ!匿名の依頼でね、「ジャイブ・マーキュリーを殺せ」ってきたもんだからね。依頼通り殺しに来たんだ♪そしてボクのほうには、「ウィリアムという名前の人がいたら危害を加えてはいけない」っていう条件付きだったよ♪ ウィリアム:おや、何者かはわかりませんが私を守ってくださるとは…!いやはやそれにしても…なんと、お二方の目的が一致とは。これは偶然か、何かの策略かそれとも…? リバース:やかましいぞウィリアムっ!お前は胡散臭いんだ、黙っていろ…! アビス:まぁまぁ。胡散臭いのは同感だけど、依頼で殺すなってきてるしー…なによりっ!この人面白そうじゃんー! ウィリアム:ははは。胡散臭いと感じられるのならそれは誠に申し訳ない。ですが、私は今この場で事実を述べているだけでございます。 リバース:…それはそうだが。そもそも、なんでお前は俺たちの目的やここに来た理由を知っている風…いや、本当に知っているのか。何故知っている。 ウィリアム:ですから、それは企業秘密と申しましたでしょう?さて…。そんなことよりも。マジェスティ。単刀直入に聞いてもよろしいですかな? マジェスティ:(落ち着いてきた)ぁ、はい…。なんでしょうか…? ウィリアム:あなたはジャイブが憎いのでしょう? マジェスティ:はい…。この生活から解放されたい、です…。 ウィリアム:ふむ…ここにはジャイブを殺しに来た凄腕の殺し屋が二人もいますからなあ。ジャイブ・マーキュリーはこのままだと殺されてしまいますが、貴方はそれでよろしいのかな? アビス:っていうか、ボクはそいつ殺さないと怒られちゃうから殺さないといけないし、それを阻むんなら例えマジェスティでもぐちゃぐちゃにしちゃうよっ?♪ マジェスティ:…はい、私は…主人を、殺してほしいです。 アビス:よぉし、マジェスティさんの了承も得たし…マジェスティさんを苦しめたくそやろうをぐちゃぐちゃにしちゃおう!あはは、楽しみだなぁ!♪ リバース:…アビス。若き殺し屋。快楽殺人鬼であり、凄まじい戦闘能力と知能を誇る…。担当した殺しの中でも「01-25惨殺事件」(ぜろいちにーごーざんさつじけん)は短時間で三十七人の命を残酷に奪った最悪の事件として表の世界でも語り継がれている…。 アビス:ん?キミ、もしかしてボクのこと知ってるのー? リバース:あぁ…俺も殺し屋だからな。噂はかねがね。 アビス:それに関してなんだけどね…?ずっと疑問に思ってたんだけど。一番最初、ボクのこと背後から狙おうとしてたよね。あれ、なんで?キミの狙いはボクと同じジャイブのハズなんだけど…? リバース:それは…暗闇でお前をジャイブと見間違えたから―― アビス:(食い気味に)――それはありえないよねぇ?あのときボクはウィリアムとマジェスティと話してたし。体格的にはウィリアムのほうがジャイブに近いと思うケド、あの殺気はボク一人に向いていたものだった。 リバース:ぐっ、それは… アビス:つまり、キミの目的はジャイブを殺すことじゃない…違うかな? リバース:…チッ、流石にもう嘘は突き通せねぇなあ。当たりだ。…俺は、この家に盗み目的で入った。そしたら庭でお前らを見つけたから…一番小せぇアビス、お前から殺そうと思ったんだ…。 ウィリアム:なんと、そうだったのですか。いやはや、私騙されてしまいましたよ。リバース殿はこの館へ窃盗をしに入ったのでしたか…!おお、なるほどなるほど…。 アビス:…なるほどね。確かにそれだとボクだけを狙ったことに対しては辻褄はあうねー。ふぅん。じゃあそういうことにしとこっか♪じゃ、とりあえずさっさとジャイブを殺しに行こう!もたもたしちゃうと夜が明けちゃうよ。 マジェスティ:あ…お、お願いします…。 リバース:…アビス。あんたがジャイブを殺ってる間に俺はこの家のものをあらかた盗んでおく。俺はあんたに足をやられてるからな。そっちでいろいろ引き付けておいてくれ…。チキー…いや。「マジェスティ」もいいな?この家に用はなくなるだろ。 マジェスティ:はい…。あ、あの…アビスさん。主人を殺害する現場に…私も立ち会っていいですか…? アビス:いいよー♪だけど大丈夫?ボク、こう見えて結構愉快犯だし、死体で遊びまくっちゃうよ?♪ マジェスティ:…かまい、ません。少しでも私は、復讐がしたい。 ウィリアム:では、私もアビス殿についていくことに致しましょう。リバース殿の盗みについていったら足手まといになりそうですしなぁ。 リバース:そうだな。じゃあ、俺は先に漁ってるぞ…。(館に静かに入っていく) アビス:いっちゃったねえ。それじゃ、ボクたちもいこっか♪ マジェスティ:は、はい…。 ウィリアム:(N)さて。お待たせいたしました。闇夜の殺人劇はこれより始まり、物語はクライマックスへと差し掛かります。心の準備はよろしいかな? 0:館の中。アビス、マジェスティ、ウィリアムが音をたてないように歩いている。 アビス:しかし…巡回してる警備員とか誰もいないね。警備ザルすぎない? マジェスティ:警備員を館につけるのを嫌う方でしたし…主人の粗暴の悪さからメイドや使用人もほとんどいませんからね… ウィリアム:大層ひどい人物だったのでしょうなぁ。お気持ち、お察しいたしますぞ。 マジェスティ:ありがとうございます…でも、いいんです。もう今日で…さようなら、ですから。 アビス:うわ、覚悟決めてんじゃんっ♪そーゆーひと、嫌いじゃないなぁ、ボク♪ マジェスティ:…ありがとうございます。そして…ここが主人の部屋です。いつも主人はここで寝ています。 アビス:ありがとう、マジェスティさん♪…じゃあ、殺っちゃおうかぁ♪ 0:三人、ジャイブの部屋に入る アビス:あはは、本当に警備ザルすぎるよねぇ♪ ウィリアム:今頃リバース殿は豪快に豪華絢爛(ごうかけんらん)なアクセサリーなどを盗んでいる頃でしょうなぁ。 アビス:さて、今からアナタの旦那さんをぐちゃぐちゃにしちゃうわけなんだけど…だいじょーぶ?悔いはないのかなぁ? マジェスティ:はい。…今思えば、ずっと主人が嫌いで、いやで…それが今日終わるって思うと…むしろ、安心感すら覚えます。…ありがとう、アビスさん。 アビス:まじかぁ、感謝までされちゃった!…アナタ、もしかしたら殺し屋向いてるんじゃない? マジェスティ:えっ、私が…殺し…? アビス:あははッ!冗談だよ、じょーだん!じゃ…ボクはあなたに恨みとかないケド…じゃあね、ジャイブ・マーキュリーさん♪ 0:アビスがジャイブの寝ているベッドに近づき、ナイフを取り出す。 0:アビスがナイフをジャイブの喉元に立て、喉を切り裂く。ジャイブは声を出せず、苦痛から床に転がる。 0:――と、同時に何かが部屋の中で光り、大きな銃声が聞こえる。 アビス:ぅ、ぐあぁっ…!! マジェスティ:アビスさんっ!? 0:アビスを見るとわき腹がえぐれている。が、アビスは不敵に笑う。 アビス:…あははははっ!♪やっぱり…こうくるよねぇ、「リバース」! 0:アビスがそう叫ぶといつのまにか部屋には左肩にナイフが刺さり、大きなハンドガンを手に持ったリバースが立っていた。 リバース:っ、くっそ…やっぱ、見切られてる、か… アビス:当たり前、じゃん♪盗みに入ったってのも噓なんでしょー…?だってそうなんだとしたら、ボクのことをいっぱい知ってたこと説明つかないもんねー…♪キミのホントの目的、教えてよー…♪ リバース:良いだろう…教えてやるよくそ野郎…ッ! アビス:…マジェスティさん。キミの旦那さんへのとどめは、アナタに任せてもいいかなぁ…?ボク、リバースの相手しなきゃいけないから、さ! マジェスティ:えっ…でもっ… アビス:マジェスティさん、アナタには、才能あるよぉ…だから、ねぇ? マジェスティ:っ、はい… アビス:んじゃ、ナイフ一本置いとくねっ…!でも大丈夫、リバースを仕留めたらすぐ戻ってくるからさ♪(窓から庭に飛び出す) リバース:っ、くそったれ!(窓から庭に飛び出す) マジェスティ:……アビス、さん。 0:館の裏庭 アビス:いやぁ…待たせたね。リバース。 リバース:てめぇ、わき腹をえぐられてよくそこまで動けるな…。流石殺人鬼サマは違うなぁ…? アビス:あはは、褒めてくれてありがとう…!さぁて…じゃあそろそろキミの本当の目的を聞こうかっ…!♪ リバース:そうだな…これを言わねぇと気が済まねぇ。…お前、「01-25惨殺事件」(ぜろいちにーごーざんさつじけん)は覚えてるな? アビス:勿論だよぉ…♪忘れもしない、二年三か月前にボクが引き起こした事件だからね…♪ リバース:そうだ…高級ホテルの001号室から025室までの宿泊客全てが残虐に殺されたイカれてる事件だ…聞いてやる。あの事件は何で起こした? アビス:そりゃもちろん、依頼されたからさ…!今日と同じように匿名の依頼だったけどね。じゃあ、ボクからもキミに質問。リバース、キミ…あの事件の生き残りなんだろう?♪ リバース:…そうだ。その通りだ。俺はあの事件で…てめぇに恋人を殺されたんだ。あの日は…恋人にプロポーズした日だったんだ。プロポーズは成功した。なんて幸せなんだろう…。そう思いながら恋人ともに眠った。…目が覚めた時には全てが血にまみれていて、何もかもを失っていたがな…。 アビス:へぇ…じゃあキミはジャイブを殺しに来たのでも、盗みに入ったのでもなく…キミは、その復讐のために、ボクを殺すためにここに来て、ここに立っているんだね…? リバース:そのとおりだ…。だから嘘をついて機会をうかがわせてもらった。格上のお前には、奇襲して致命傷を与えないと勝てないからな…。…あの事件以来俺の人生はめちゃくちゃで…復讐を誓って裏の世界に足を踏み入れて、そしてようやくここまで来たんだっ…!生きて帰れると思うなよ、アビスッ…! アビス:怖いなあ…♪あ、ちなみに聞かせてほしいんだけどー…どうやってボクがここに来るっていうことを知ったのー? リバース:…五日前だ。この館にアビスがジャイブを殺しに来るっていう匿名の連絡が来たんだよ…。…だからてめぇを殺す道具を持って、半信半疑で来てみたら本当にてめぇがいた。 アビス:あれぇ?どこから情報漏れたんだろ…?…まぁボク、恨まれて当然のことをしてるっていう自覚はあるからねー。ついに見放されちゃったかなぁ。…でもね、復讐心に駆られてボクを殺すのはいいケド…。世界のどこかには、ボクに君が言うその「イカれた事件」を起こすよう依頼する人間がいるんだよ。リバース、キミはとても誠実なひとのようだからこれだけはボクの口から伝えてあげよう。この世界は…キミが思ってるほどきれいじゃないよ。それだけは覚えておいてね…?♪ リバース:黙れっ…!俺はっ、…俺は復讐ができればそれでいいんだっ…! アビス:あははっ!じゃあ復讐に駆られた哀れなリバースくん…!決着といこうかっ…!さぁかかってきなよ!ボクを殺すんだろっ…!?♪ リバース:クソッたれがあっ…!! 0:同時刻・ジャイブの部屋 0:マジェスティがアビスの置いて行ったナイフを手に取りジャイブを見つめている。 マジェスティ:ジャイブ、さん… 0:ジャイブは痛みと恐怖で苦悶の表情を浮かべている。 マジェスティ:私、は… ウィリアム:マジェスティ。あなたの抱くその男への憎しみはとてつもなく強いはずです。 マジェスティ:ウィリアム、さん… ウィリアム:無理やり結婚させられ、あなたはモノのように扱われ、虐げられた。私から言わせてみればその日々は夜より暗い闇であり、黒より濃い漆黒であり、海より深い絶望でありましょう。 マジェスティ:う、ぁ… ウィリアム:あなたは幾度となく死にたくなって、でも死への恐怖で死ねなかった。人間の想像から来る恐怖は目の前の恐怖より百倍恐ろしいといいます。ですが、あなたは死のほうがましかもしれない。ついにはそう考えるようになってしまった。 マジェスティ:…はい。 ウィリアム:では、あなたをその思考に陥れたのはどなたですか? マジェスティ:…ジャイブさんです。 ウィリアム:さあ思い出せチキータ。ジャイブをあなたはどうしたい。奴を裁くのは一番苦しい思いをした貴方がふさわしい。 マジェスティ:私、は… ウィリアム:あなたは奴が嫌いなはずだ。あなたは奴が憎いはずだ。あなたは奴を―― ウィリアム:殺したいはずだ。(同時に) アビス:(殺したいハズだ♪)(同時に) マジェスティ:そうだ。私はアナタが嫌いだ。私はアナタが憎い。私は…オマエを殺したい。 ウィリアム:さぁ、裁け。残酷に、そして歌のように。 マジェスティ:アハハ…アハハハハっ…♡ 0:ナイフがジャイブの胸に突き刺さる マジェスティ:アハハハ、アハハハハハハっ♡楽しいっ♡ 0:何度も何度もナイフを突き刺すマジェスティ。その顔は恍惚に歪み、 0:いつのまにか人間だったものはただの肉塊と化していた。 マジェスティ:アハハ…ありがとう、ウィリアムさん、アビスさん…私、今すごく楽しくて、ウキウキしているの…♪ ウィリアム:それは何よりでございます。さて…ではお気をつけてマジェスティ。彼が来ますぞ。 リバース:はぁ…はぁ…っ! 0:ナイフが何本も突き刺さり血まみれのリバースが歩いてくる。 リバース:アビス…は、ぶっ殺し、た…最後は、てめぇ、だ…さっきの会話、聞かせてもらったぞっ…!…殺人鬼一歩手前の、てめぇを…生かしておくわけにはっ、いかっ、ねぇ… マジェスティ:…そう、アビスさんはもう、いないのね。 リバース:あぁ…だが安心しろ…てめぇもあいつと同じ地獄、行きだっ、覚悟しやがれっ… マジェスティ:お言葉だけれど、もう私に怖いものはないの。あなたが私を殺そうとするなら、私はアナタを殺すだけよ…♪ リバース:やれるもんなら、やってみろっ…! マジェスティ:えぇ。さようならリバースさん。楽しくアナタを殺して見せるわっ!♪ ウィリアム:人はみな、運命に縛られて生きています。この物語のこの結末だって、“あなた”がこの演目を傍観することだって…ずっと前から決定されていたのです。そう…人間は、霞がかった運命を手探りで生き抜く生命体。バッドエンドでも、それは仕方のないことでありましょう。 ウィリアム:この世には悪意や怨念、復讐心など…負の感情が入り乱れているものです。さて…今回紹介した彼女の話。いかがだったでしょうか。人は悪意にたやすく支配されるもろい生き物です。…“あなた”も、決して悪意に支配されぬようくれぐれも、お気を付けくださいね…。 ウィリアム:…はて、私…ですか。そうですなぁ。まぁ、言ってしまえば、二年三か月前のアビス殿への依頼。そして今回のジャイブ殺害の依頼とアビス殿の居場所をリバース殿に教えたこと。それらすべて私がやったことでございます。…なぜそんなことをするか?そんなの、「面白そうだから」に決まっておりましょう?…あぁ、そうだ。思い出しました。私は人々よりこう呼ばれております。 ウィリアム:人の運命を見通す怪奇。人々の悪意から生み出された…「災厄の化身」。「怨念の悪魔」…とね。 ウィリアム:では皆様。また誰かが悪意に飲まれたとき、お会いしましょう…。 0:―ウィリアムの薄気味悪い笑い声が響いている…。 0:-End-