台本概要

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タイトル 月とたぬき
作者名 もも香  (@momokahatimitun)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(不問2) ※兼役あり
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 森に暮らすタヌキのポポと旅人のわたしのお話。はぐれ系のホッとする系の話です。
いったいわたしの正体は何なのでしょう?

ポポSE→ポポが出す音を声でやってもらうところがあります。(ガサゴソといった簡単なもの。声でもSEでも可)

・男女変更、音響、SEなど、ご自由にどうぞ。
・お話を破綻させなければ、アドリブ可。
・語尾など演じられる性別に応じて、ご変更ください。
・2人用シナリオですが、全てを1人でやるのも自由といたします。

※配信アプリ、ディスコード、ツイキャスでのご使用に連絡は必要ありません。
 ですが、やるよーと言っていただけたら、喜びます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ポポ 不問 54 10年ほど一人で森に暮らすタヌキのポポ。男としてかいていますが、男女不問。一人称変更可。 ポポSEポポが出す音を声でやってもらうところがあります。(SEでも可)
わたし 不問 54 自分の名前すら知らない、旅人。ポポのそばにいたいと思う。男女不問。モノローグあり。 兼ね役 スズメ:一声あります。(チュンチュン)
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:月とたぬき 0:  0:  0:  0:満月の夜 0:山中の森にて。 0:ある木の上にたたずむ、タヌキのポポとわたし 0:  0:  ポポ:さびしくないのは、お月さまのせいさ わたしN:そういって、タヌキのポポは空を見上げました。もう、10年ほど、この山でひとりで住んでいるタヌキのポポ わたし:どうして、この山にずっといるのですか? ポポ:どうしてってそりゃ、ここで生まれたからさ。 ポポ:(目を閉じて思い出すように)兄弟も親も友だちもみんな旅立った。新しい国に引っ越すんだってね。 わたし:それからずっと? ポポ:おれはな、この木に登って、まんまるいお月さまを見るのが好きなのさ。 ポポ:どんなに離れていても、あの月で繋がっているって思えば楽勝さ。 わたし:今まで誰か遊びに来たことは? ポポ:さあ、どうだったかなあ。とにかくお前さんみたいにこの山に誰かが来たのは久しぶりだ。 わたし:そうですか…… ポポ:それでおまえさんは? わたし:(ひとりごと)困りました。どうしましょう。なんていいましょう。 わたし:わたしは何も決めずにここに来ました。ふらふらと誘われるがまま、風が呼ぶほうへやって来たのです。 わたし:(ポポに向かって)わたしは、あなたがあんまりさびしそうなので、風に呼ばれたのでしょう。 ポポ:そうか、おれはさみしそうか。 ポポ:(犬の遠吠えのように月に向かって)アオーン わたし:まるで、狼が仲間に何かを知らせているみたいな声ですね。(くすくす笑う)おかしいですね、ポポはタヌキですのに。 ポポ:……そろそろ帰ってくれ わたし:……何か気を悪くするようなことを言ってしまいましたか? ポポ:…… わたし:……わたしは、ここに住むことにします! ポポ:!? わたし:(ひとりごと)自分でも驚くようなことを言ってしまった。なぜでしょう、口が止まりません! わたし:(ポポに向かって)ここはお月さまがよく見えます。ここが今までで一番きれいに見えるところです。わたしは何も持っていません。 わたし:思い出も、家族も荷物も。だから引っ越しは身一つでできるのです。わたしはここに住みます! ポポ:なんてこった、ぬぬ、開いた目が閉じられねえぐらい、驚いた。 わたし:わたしはお邪魔でしょうか? ポポ:ふん!! (木から降りる) わたし:あ、ポポどこへいくのですか! 0:ポポが木から降りて、どこかへと走り去る わたし:あっポポ!……どこにいってしまったのでしょう。 わたしN:わたしは途方にくれました。お月さまがだんだん傾いて、遠くなっていきます。今日は満月。まんまるいお月さまは貴重なもののはずなのに、ポポのことが気になって、見ている場合ではなくなりました。 わたし:ポポはどこに行ってしまったのでしょう。わたしがここに引っ越すなんていったから、ポポは怒ってしまったのでしょうか? 0:間 わたしN:とうとう朝になりました。まんまるいお月さまはとっくに沈み、太陽が顔を覗(のぞ)かせました。太陽も月と同じでまんまるでした。いつもと変わらず、世界に色と温かさと元気をくれます。 わたしN:でも今日は違いました。わたしは太陽をみてもこれっぽっちも元気にならなかったからです。 わたしN:誰もいない朝は、ただ時間だけが過ぎてしまったようでした。 わたしN:わたしの体はちっとも温まらず、夜の空気のように冷えたままです。 わたしN:鳥が鳴き、朝の空気の香りがします。私は木から降りることにしました。ですが、ここを動いたらポポが帰って来た時、困るんじゃないかと考えました。 わたしN:そうはいっても、お腹が空きました。喉もカラカラです。 わたし:水辺のあるところを探して、またここに戻ってきましょう。 わたしN:わたしはかぶっていた帽子をとり、木の根元に置きました。ポポへの目印になるでしょう。 わたしN:  0:ポポ視点。ポポの部屋 ポポ:うう、いてて……どうなってんだ? ポポ:(あたりを見まわして)ん?部屋が荒れてやがる?そうだ!昨日変なやつが来て、それで客かと思ったらここに住むとか言い出して。いっててて わたしSE:チュンチュン チュンチュン ポポ:ってもう朝じゃねえか。俺は慌てちまって、部屋に帰って来てそれで、あれを探そうと思ってそれから……。 ポポ:あちこちひっかきまわして。あの戸棚の中にしまったかなって、ぐらぐらの椅子の上にのって落ちちまったんだ。 ポポ:それで気を失っていつの間にか眠っちまったようだ。 ポポ:あいつどうしてるかな?放って帰ってきちまったけど、まだあの木にいるかな?よし、行ってみるか。 0:間  昨夜の木を見上げるポポ ポポ:いねえ、どこいっちまったんだ?まさかあんなこと言って帰っちまったんじゃねえよな?ん? ポポ:木の根元に帽子がおいてある?これはあいつのかぶってた帽子か?あいつ、またここに帰って来る気なのか? ポポ:……あいつ腹を空かせてるんじゃないないかな。この森には初めてきただろうし、何が食べられるかわからねえんじゃねえのか? ポポ:ったくしょうがねえなあ。客はもてなせって、母ちゃんから言われてんだ。ええとまず何をすればいいんだ……? ポポ:っとその前に、あいつを探さねえと。 ポポ:  0:わたし視点 わたし:(ごくごく水を飲む)ふー、ああおいしい。体に染みこみますね。 ポポSE:ガサゴソガサゴソ わたし:おや? ポポSE:ガサッ ゴソソッ わたし:向こうの方で音がしますね、なんでしょう?(音のするように駆け寄って)これは、大きな穴ですね。根っこのあいだに大きな穴があります。ポポのおうちでしょうか? わたし:(穴に向かって)ポポー!……返事がありませんね。おや?奥のほうに光が見えます。この向こうはどこかにつながっているのでしょうか。入ってみましょう。 わたし:  0:ポポ視点 0: ポポ:ふぅ。森をあちこち探したけど全然みつからねえ。 ポポ:はあ、よいしょっと(丸太に腰かける) ポポ:……あいつ引っ越すなんて言ってたけど本気か?森の暮らしなんて、都会のやつにはきついだろう。どうせ口だけで、すぐにどっかいっちまうんだ。 ポポ:……俺はもう、あんな思いはしたくねえんだ。 ポポ:なんであの時、一緒に行こうって言わなかったんだろうな。俺だけ、木の上で寝るなんて言わなけりゃあ。 ポポ:せめて弟だけでも一緒につれていってやりゃよかった。あいつ、来たがってたのに。 ポポ:変なやつらがきて、みんなをそそのかして、連れていっちまった。 ポポ:何が自然保護区域だ。ここより安全ですなんて言われてよ。変なチップつけられて監視されて……。そんなとこより、ここがいいじゃねえか。 ポポ:俺たちは、この山で、この森で育ったんじゃねえか。……なんでいっちまったんだよ、父ちゃん母ちゃん、みんな…… ポポ:  0:わたし視点。穴をくぐろうとするわたし。 わたし:(四つん這いになって、穴の中をすすむ) わたし:この穴はどこまで続いてるんでしょう?よいしょ、よいしょ。おや、広いところに出ましたね わたし:ここは…… 0:ポポの部屋 ごちゃごちゃと荒れた状態 わたし:机の上にお鍋がある。やはりここにポポが住んでいるんでしょうか?椅子が倒れていますし、ずいぶんぐちゃぐちゃですね。ポポは片付けが苦手なんでしょうか。 わたし:(倒れた椅子をなおしながら)よっと。まるで荒らされたみたいですね。 わたし:……おや?あそこだけはきれいに片付いていますね。棚の上に写真たてがある。 わたし:これはポポの家族の写真でしょうか? わたし:ポポとそのまわりを囲むように、4匹のタヌキが写っています。ポポ、嬉しそうですね。 わたし:  0:ポポ視点。 ポポ:まさか、あいつ森の中で迷子になってるんじゃねえよな。あんまり奥に行くと、切り立った崖があるんだ。 ポポ:あそこに落ちちまうと、大変だ。よし、様子を見に行ってみるか。 0:ポポ、崖へいく ポポ:んー、ここに来た様子もねえな。……まさか!(崖の下をのぞく)落ちたりはして……ねえか。ふう。ったくあいつはどこにいっちまったんだよ。 ポポ:あぁ、俺も腹が減ったな。もう太陽もすっかり上っちまって昼じゃねえか。ああくそ。朝ご飯を食べそこねちまった。ああ、腹が減ったなあ。 ポポ:  0:わたし視点 ポポの部屋にて わたし:ずいぶん待ちましたが、ポポは帰ってきませんね。ポポの部屋にあった赤い実を勝手に食べてしまいましたがよかったのでしょうか? わたし:んー外に出てみましょう。(穴をくぐって)よいしょっと。ああ、もう夕暮れに空が染まっています。きれいなオレンジ色ですね。 わたし:……ああ、残念です。ポポにはなかなか会えません。 わたし:そうだ!夜になったら、ポポはお月さまを見に、あの木へ戻るかもしれません。だってポポはお月さまが大好きなのですから。 わたし:(木の根元を探しながら)あったあった、あの木ですね。わたしが帽子を置いた木。登ってみましょう。ポポがいるかもしれません。 わたし:(木を急いで登る)んしょんしょ。ポポいますか?誰もいない。木には戻っていませんか…… 0:ポポ視点 0:夕焼け空を見上げるポポ ポポ:もう夕暮れか。とうとうあいつは見つけられなかったなあ。食べものは集められたが、何やってんだろうな俺は。 ポポ:いきなり現れたよくわからないやつのために、居場所を探して、食べもの集めて。 ポポ:ん?なんだ?あれは木の上に何か見えたような。あ、あいつだ!まさかずっとあの木に?いや、それはないか。朝に見に行ったときは誰もいなかった。でも帰って来てるってことは、まさかあいつ俺をずっと待ってんのか? ポポ:……なんだよ。俺のこと待ってるやつなんてどこにもいないはずだろ?……なのに、どうしてあいつは初めてあったはずの俺のことずっと待ってんだよ。 ポポ:仕方ねえ、とっておきの特製スープでもつくってやるか!ちょっと待ってろよ。俺のこと、待っててくれよ。 ポポ:(空に向かって)母ちゃん、俺ちゃんと客をもてなしてるぜ?えらいだろ?よくわからねえやつだけどよ。 ポポ:初めて会った気がしないっていうか。なんかほっとけないんだ。すぐに帰ったとしても、それでもいいじゃねえか。 ポポ:せめてこの森のうまいもんでも食わせて……な? ポポ:  0:わたし視点 わたしN:太陽が沈み、月が顔をのぞかせました。なんと大きくてきれいなお月さまでしょう。 わたしN:顔をみせたばかりの月は、大きくて色が濃くて、すいこまれそうでした。夜が始まったのだと知らせるような、月でした。 わたし:クンクン。なんだかとってもいいにおいがします。これはなんの香りでしょう。おいしそうです。 わたし:もしかして、ポポがおうちに帰って料理をしているのでしょうか?あの穴へ戻ってみましょう!今度こそポポに会えるのかもしれません! 0:ポポの視点 ポポの部屋にて ポポ:よし、できた。スープはこれで完成っと。これをあの木にもっていって、それから果物と木の実をこのボールに入れてっと。 ポポ:それにしても、誰かに料理をつくるなんて、久しぶりだ。みんながいたころは、こうして作ったっけ?弟は、もっとクルミを入れろってうるさかったなあ。あいつはクルミが好きだったから。もっと入れてやればよかったなあ。あいつの好きなもん……。 ポポ:っといけねえ、さっさと運ばねえと、冷めちまう。それにお月さまもあっという間に登っちまうからな。 ポポ:  0:わたし視点 ポポの部屋にて 0: わたし:ああ、やっぱりポポのおうちからこのいいにおいがしていたのですね。部屋においしそうな香りが充満しています。 わたし:でも……誰もいません。どうなっているのでしょう。 わたしN:外に出ると、お月さまがどんどんと登っていました。きのうより少し欠けた月がさみしく目にうつります。 ポポ:(まるで月から聞こえるように遠くから)アオーン わたし:!?月から声がします!この声は……ポポの声だ! わたし:(月に向かって)おーい、ポポ!君は月に行ってしまったの? ポポ:クスクスクス わたし:月から笑い声が……。お月さまも笑うんですね、ご機嫌ですね。ハハハ……なぜだか涙が出てきました。 ポポ:ばかだなあ、君は ポポSE:ガサガサ(木から降りる音) わたし:ポポ!! ポポ:物好きだなあ、君も わたし:(ポポに駆け寄ってぎゅっと抱きしめる) ポポ:上へおいでよ ポポ:  0:二人とも木の上へ ポポ:久しぶりの客なもんで準備に手間取っちまった。 わたし:これは、いろとりどりの木の実がたくさん。それにスープまで。あの香りの正体はこれだったんですね…… ポポ:ん? わたし:これ、全部ポポが? ポポ:ああ、まあなんだ、そうだよ。客はもてなさねえとな。帰れなんて言って悪かったと思ってるよ、その…… わたし:ぐうー(お腹の音 ※声でいうかSE) ポポ:クス。ほらよ、温かいスープだ。特製の干しきのこ汁だ。うまいぞ。 わたし:ありがとうございます。ああ、温かい。 ポポ:いいかい?夜はこれからさ。 0:二人、スープが入っている木の器どうしをコチンと合わせて ポポ:かんぱい わたし:かんぱい。 0:……(二人スープをすする) わたし:ああ、温かい。 ポポ:……(もぞもぞと落ち着かない様子) わたし:どうしました? ポポ:おれは家族や仲間がここを去ってから、ずっと一人だった。それまではみんなでワイワイやってたんだ。 わたし:ええ。ポポのおうちに写真がありましたね。 ポポ:みんながいたころ、おれは、将棋の名タヌキとして有名だったのさ。誰もおれには勝てねえ。それが自慢だった。 ポポ:(一息入れて、スープをすする) ポポ:誰にも負けないように、日々研究した。おれの弟はなかなか手強いやつで、おれに勝とうと必死だった。俺も負けるもんかって頑張った。そうやってお互いを高めあっていたんだな。 ポポ:楽しかったんだ。そうやって強くなるのも、弟が挑んでくるのも。俺は負けなかった。誰にも負けなかった。 ポポ:みんながいなくなっても、一人になっても、おれは練習したし、作戦を練った。 ポポ:だけど、気がついちまったんだ。俺はこの先、ずっと負けない。勝ちもしない。 ポポ:いくら練習しても勉強しても、俺はずっと無敗なままじゃないかって。どこへ向かっているんだろうって。 ポポ:当たり前だよなあ。戦う相手がいないんだから。 わたしN:月がじょじょに真上へと登っていきます。ポポは木の実を手でもてあそんでいました。わたしは木の実をかじりました。甘酸っぱい味がしました。 ポポ:なあ、俺と将棋をさしてくれねえか? わたし:!! わたし:……はい、よろこんで!! わたしN:ポポの体の毛がみるみる膨らんで、まんまるになっていきます。 ポポ:いいのか? わたし:ええ。でも一つ困ったことがあります。 ポポ:なんだ? わたし:わたしは将棋を知らないのです。将棋ってなんですか? ポポ:なんてこった。(木から降りてどこかへいってしまう) わたし:ああ、ポポ!どこにいくんですか?……ああ、またはぐれてしましました。やっとポポに会えたのに。 0:間 0:風呂敷を背負いながら、木を登ってくるポポ ポポ:んしょっと。 わたし:ああ、ポポよかった。戻ってきてくれて。……その風呂敷はなにが入ってるんです? ポポ:ほら、これが将棋の台と駒だ。 わたし:これが…… ポポ:どこにやったかも忘れちまって、ずいぶん探したんだ。あわてて探したんで、部屋をめちゃめちゃにしちまった。 わたし:わたし、ポポのお部屋にお邪魔したんです。椅子も倒れていましたし、引き出しは開きっぱなしで。将棋を探していたんですね。 ポポ:俺が教えてやるよ。客をもてなすのが俺らの礼儀なんだ。 ポポ:(将棋の駒を並べてながら)こうやって、まず並べ方っていうのがあってだな わたし:ポポ、一つ間違いがあります。 ポポ:何言ってんだ。駒はこうして並べるんだ。 わたし:わたしはお客ではありません。 ポポ:何の話だ?……やっぱり、帰るっていうのか? わたし:わたしはここの住人です。帰る場所はここ。だから私はお客ではないのです。 ポポ:…… わたし:わたしには名前がありません。家もありません。故郷も親も親せきも。 わたし:わたしはずっと旅をしてきました。自分の名前も、誕生日も知りません。「君は誰?」と聞かれるのが、一番困る質問でした。 わたし:ここではない、ここではないという気が永遠と続いていた旅でした。 ポポ:……そうか。 わたし:そんなわたしに、とうとう居場所が見つかった気がするのです。 ポポ:…… わたし:ですから一度、いってみたい言葉があるのです。 ポポ:なんだ? わたし:(小さな声で)ごにょごにょ ポポ:ん?なんでそんなこと わたし:さあ、ポポ言ってください。 ポポ:そんな改まって言うことじゃあねえだろ。 わたしN:わたしはじっとポポを見つめました。月に雲がかかったのかあたりが暗くなった時、ポポがいいました。 ポポ:おかえり わたしN:わたしの胸のあたりから。ボワボワっとこそばゆい、何かが膨らんでいきます。嬉しくって嬉しくって答えました。 わたしN:  わたし:ただいま ポポ:…… わたし:…… わたしN:そのとき、わたしは全てを思いだしたのです。 わたし:わたしは自分が何者なのか思いだしました。わたしは月です。 ポポ:……!? わたし:ポポがあんまり一人でわたしを見上げているから、隣を埋めたくなったのです。長い旅でした。家族も思い出もないのでした。 わたし:空に浮かぶあの月はわたし。だからこんなにも、ポポが恋しくてたまらないのです。 ポポ:それはまた、ずいぶん遠いところから来たんだな。 わたし:歩いて歩いて、くたくたです。 わたし:  ポポ:…… ポポ:お前さんは何も持っていないっていってたただろ? ポポ:だけど、ここにいたいって気持ちをちゃんと持ってる。それでいいじゃねえか。 ポポ:  ポポ:それは、俺が一番ほしかったものだ。 ポポ:  0:  わたしN:こうして、わたしに家が、帰る場所ができました。 わたしN:わたしたちは握手をして、空にある月をそれに照らされた森を思いました。 0:  0:  0:  0:  0:  0: 

0:月とたぬき 0:  0:  0:  0:満月の夜 0:山中の森にて。 0:ある木の上にたたずむ、タヌキのポポとわたし 0:  0:  ポポ:さびしくないのは、お月さまのせいさ わたしN:そういって、タヌキのポポは空を見上げました。もう、10年ほど、この山でひとりで住んでいるタヌキのポポ わたし:どうして、この山にずっといるのですか? ポポ:どうしてってそりゃ、ここで生まれたからさ。 ポポ:(目を閉じて思い出すように)兄弟も親も友だちもみんな旅立った。新しい国に引っ越すんだってね。 わたし:それからずっと? ポポ:おれはな、この木に登って、まんまるいお月さまを見るのが好きなのさ。 ポポ:どんなに離れていても、あの月で繋がっているって思えば楽勝さ。 わたし:今まで誰か遊びに来たことは? ポポ:さあ、どうだったかなあ。とにかくお前さんみたいにこの山に誰かが来たのは久しぶりだ。 わたし:そうですか…… ポポ:それでおまえさんは? わたし:(ひとりごと)困りました。どうしましょう。なんていいましょう。 わたし:わたしは何も決めずにここに来ました。ふらふらと誘われるがまま、風が呼ぶほうへやって来たのです。 わたし:(ポポに向かって)わたしは、あなたがあんまりさびしそうなので、風に呼ばれたのでしょう。 ポポ:そうか、おれはさみしそうか。 ポポ:(犬の遠吠えのように月に向かって)アオーン わたし:まるで、狼が仲間に何かを知らせているみたいな声ですね。(くすくす笑う)おかしいですね、ポポはタヌキですのに。 ポポ:……そろそろ帰ってくれ わたし:……何か気を悪くするようなことを言ってしまいましたか? ポポ:…… わたし:……わたしは、ここに住むことにします! ポポ:!? わたし:(ひとりごと)自分でも驚くようなことを言ってしまった。なぜでしょう、口が止まりません! わたし:(ポポに向かって)ここはお月さまがよく見えます。ここが今までで一番きれいに見えるところです。わたしは何も持っていません。 わたし:思い出も、家族も荷物も。だから引っ越しは身一つでできるのです。わたしはここに住みます! ポポ:なんてこった、ぬぬ、開いた目が閉じられねえぐらい、驚いた。 わたし:わたしはお邪魔でしょうか? ポポ:ふん!! (木から降りる) わたし:あ、ポポどこへいくのですか! 0:ポポが木から降りて、どこかへと走り去る わたし:あっポポ!……どこにいってしまったのでしょう。 わたしN:わたしは途方にくれました。お月さまがだんだん傾いて、遠くなっていきます。今日は満月。まんまるいお月さまは貴重なもののはずなのに、ポポのことが気になって、見ている場合ではなくなりました。 わたし:ポポはどこに行ってしまったのでしょう。わたしがここに引っ越すなんていったから、ポポは怒ってしまったのでしょうか? 0:間 わたしN:とうとう朝になりました。まんまるいお月さまはとっくに沈み、太陽が顔を覗(のぞ)かせました。太陽も月と同じでまんまるでした。いつもと変わらず、世界に色と温かさと元気をくれます。 わたしN:でも今日は違いました。わたしは太陽をみてもこれっぽっちも元気にならなかったからです。 わたしN:誰もいない朝は、ただ時間だけが過ぎてしまったようでした。 わたしN:わたしの体はちっとも温まらず、夜の空気のように冷えたままです。 わたしN:鳥が鳴き、朝の空気の香りがします。私は木から降りることにしました。ですが、ここを動いたらポポが帰って来た時、困るんじゃないかと考えました。 わたしN:そうはいっても、お腹が空きました。喉もカラカラです。 わたし:水辺のあるところを探して、またここに戻ってきましょう。 わたしN:わたしはかぶっていた帽子をとり、木の根元に置きました。ポポへの目印になるでしょう。 わたしN:  0:ポポ視点。ポポの部屋 ポポ:うう、いてて……どうなってんだ? ポポ:(あたりを見まわして)ん?部屋が荒れてやがる?そうだ!昨日変なやつが来て、それで客かと思ったらここに住むとか言い出して。いっててて わたしSE:チュンチュン チュンチュン ポポ:ってもう朝じゃねえか。俺は慌てちまって、部屋に帰って来てそれで、あれを探そうと思ってそれから……。 ポポ:あちこちひっかきまわして。あの戸棚の中にしまったかなって、ぐらぐらの椅子の上にのって落ちちまったんだ。 ポポ:それで気を失っていつの間にか眠っちまったようだ。 ポポ:あいつどうしてるかな?放って帰ってきちまったけど、まだあの木にいるかな?よし、行ってみるか。 0:間  昨夜の木を見上げるポポ ポポ:いねえ、どこいっちまったんだ?まさかあんなこと言って帰っちまったんじゃねえよな?ん? ポポ:木の根元に帽子がおいてある?これはあいつのかぶってた帽子か?あいつ、またここに帰って来る気なのか? ポポ:……あいつ腹を空かせてるんじゃないないかな。この森には初めてきただろうし、何が食べられるかわからねえんじゃねえのか? ポポ:ったくしょうがねえなあ。客はもてなせって、母ちゃんから言われてんだ。ええとまず何をすればいいんだ……? ポポ:っとその前に、あいつを探さねえと。 ポポ:  0:わたし視点 わたし:(ごくごく水を飲む)ふー、ああおいしい。体に染みこみますね。 ポポSE:ガサゴソガサゴソ わたし:おや? ポポSE:ガサッ ゴソソッ わたし:向こうの方で音がしますね、なんでしょう?(音のするように駆け寄って)これは、大きな穴ですね。根っこのあいだに大きな穴があります。ポポのおうちでしょうか? わたし:(穴に向かって)ポポー!……返事がありませんね。おや?奥のほうに光が見えます。この向こうはどこかにつながっているのでしょうか。入ってみましょう。 わたし:  0:ポポ視点 0: ポポ:ふぅ。森をあちこち探したけど全然みつからねえ。 ポポ:はあ、よいしょっと(丸太に腰かける) ポポ:……あいつ引っ越すなんて言ってたけど本気か?森の暮らしなんて、都会のやつにはきついだろう。どうせ口だけで、すぐにどっかいっちまうんだ。 ポポ:……俺はもう、あんな思いはしたくねえんだ。 ポポ:なんであの時、一緒に行こうって言わなかったんだろうな。俺だけ、木の上で寝るなんて言わなけりゃあ。 ポポ:せめて弟だけでも一緒につれていってやりゃよかった。あいつ、来たがってたのに。 ポポ:変なやつらがきて、みんなをそそのかして、連れていっちまった。 ポポ:何が自然保護区域だ。ここより安全ですなんて言われてよ。変なチップつけられて監視されて……。そんなとこより、ここがいいじゃねえか。 ポポ:俺たちは、この山で、この森で育ったんじゃねえか。……なんでいっちまったんだよ、父ちゃん母ちゃん、みんな…… ポポ:  0:わたし視点。穴をくぐろうとするわたし。 わたし:(四つん這いになって、穴の中をすすむ) わたし:この穴はどこまで続いてるんでしょう?よいしょ、よいしょ。おや、広いところに出ましたね わたし:ここは…… 0:ポポの部屋 ごちゃごちゃと荒れた状態 わたし:机の上にお鍋がある。やはりここにポポが住んでいるんでしょうか?椅子が倒れていますし、ずいぶんぐちゃぐちゃですね。ポポは片付けが苦手なんでしょうか。 わたし:(倒れた椅子をなおしながら)よっと。まるで荒らされたみたいですね。 わたし:……おや?あそこだけはきれいに片付いていますね。棚の上に写真たてがある。 わたし:これはポポの家族の写真でしょうか? わたし:ポポとそのまわりを囲むように、4匹のタヌキが写っています。ポポ、嬉しそうですね。 わたし:  0:ポポ視点。 ポポ:まさか、あいつ森の中で迷子になってるんじゃねえよな。あんまり奥に行くと、切り立った崖があるんだ。 ポポ:あそこに落ちちまうと、大変だ。よし、様子を見に行ってみるか。 0:ポポ、崖へいく ポポ:んー、ここに来た様子もねえな。……まさか!(崖の下をのぞく)落ちたりはして……ねえか。ふう。ったくあいつはどこにいっちまったんだよ。 ポポ:あぁ、俺も腹が減ったな。もう太陽もすっかり上っちまって昼じゃねえか。ああくそ。朝ご飯を食べそこねちまった。ああ、腹が減ったなあ。 ポポ:  0:わたし視点 ポポの部屋にて わたし:ずいぶん待ちましたが、ポポは帰ってきませんね。ポポの部屋にあった赤い実を勝手に食べてしまいましたがよかったのでしょうか? わたし:んー外に出てみましょう。(穴をくぐって)よいしょっと。ああ、もう夕暮れに空が染まっています。きれいなオレンジ色ですね。 わたし:……ああ、残念です。ポポにはなかなか会えません。 わたし:そうだ!夜になったら、ポポはお月さまを見に、あの木へ戻るかもしれません。だってポポはお月さまが大好きなのですから。 わたし:(木の根元を探しながら)あったあった、あの木ですね。わたしが帽子を置いた木。登ってみましょう。ポポがいるかもしれません。 わたし:(木を急いで登る)んしょんしょ。ポポいますか?誰もいない。木には戻っていませんか…… 0:ポポ視点 0:夕焼け空を見上げるポポ ポポ:もう夕暮れか。とうとうあいつは見つけられなかったなあ。食べものは集められたが、何やってんだろうな俺は。 ポポ:いきなり現れたよくわからないやつのために、居場所を探して、食べもの集めて。 ポポ:ん?なんだ?あれは木の上に何か見えたような。あ、あいつだ!まさかずっとあの木に?いや、それはないか。朝に見に行ったときは誰もいなかった。でも帰って来てるってことは、まさかあいつ俺をずっと待ってんのか? ポポ:……なんだよ。俺のこと待ってるやつなんてどこにもいないはずだろ?……なのに、どうしてあいつは初めてあったはずの俺のことずっと待ってんだよ。 ポポ:仕方ねえ、とっておきの特製スープでもつくってやるか!ちょっと待ってろよ。俺のこと、待っててくれよ。 ポポ:(空に向かって)母ちゃん、俺ちゃんと客をもてなしてるぜ?えらいだろ?よくわからねえやつだけどよ。 ポポ:初めて会った気がしないっていうか。なんかほっとけないんだ。すぐに帰ったとしても、それでもいいじゃねえか。 ポポ:せめてこの森のうまいもんでも食わせて……な? ポポ:  0:わたし視点 わたしN:太陽が沈み、月が顔をのぞかせました。なんと大きくてきれいなお月さまでしょう。 わたしN:顔をみせたばかりの月は、大きくて色が濃くて、すいこまれそうでした。夜が始まったのだと知らせるような、月でした。 わたし:クンクン。なんだかとってもいいにおいがします。これはなんの香りでしょう。おいしそうです。 わたし:もしかして、ポポがおうちに帰って料理をしているのでしょうか?あの穴へ戻ってみましょう!今度こそポポに会えるのかもしれません! 0:ポポの視点 ポポの部屋にて ポポ:よし、できた。スープはこれで完成っと。これをあの木にもっていって、それから果物と木の実をこのボールに入れてっと。 ポポ:それにしても、誰かに料理をつくるなんて、久しぶりだ。みんながいたころは、こうして作ったっけ?弟は、もっとクルミを入れろってうるさかったなあ。あいつはクルミが好きだったから。もっと入れてやればよかったなあ。あいつの好きなもん……。 ポポ:っといけねえ、さっさと運ばねえと、冷めちまう。それにお月さまもあっという間に登っちまうからな。 ポポ:  0:わたし視点 ポポの部屋にて 0: わたし:ああ、やっぱりポポのおうちからこのいいにおいがしていたのですね。部屋においしそうな香りが充満しています。 わたし:でも……誰もいません。どうなっているのでしょう。 わたしN:外に出ると、お月さまがどんどんと登っていました。きのうより少し欠けた月がさみしく目にうつります。 ポポ:(まるで月から聞こえるように遠くから)アオーン わたし:!?月から声がします!この声は……ポポの声だ! わたし:(月に向かって)おーい、ポポ!君は月に行ってしまったの? ポポ:クスクスクス わたし:月から笑い声が……。お月さまも笑うんですね、ご機嫌ですね。ハハハ……なぜだか涙が出てきました。 ポポ:ばかだなあ、君は ポポSE:ガサガサ(木から降りる音) わたし:ポポ!! ポポ:物好きだなあ、君も わたし:(ポポに駆け寄ってぎゅっと抱きしめる) ポポ:上へおいでよ ポポ:  0:二人とも木の上へ ポポ:久しぶりの客なもんで準備に手間取っちまった。 わたし:これは、いろとりどりの木の実がたくさん。それにスープまで。あの香りの正体はこれだったんですね…… ポポ:ん? わたし:これ、全部ポポが? ポポ:ああ、まあなんだ、そうだよ。客はもてなさねえとな。帰れなんて言って悪かったと思ってるよ、その…… わたし:ぐうー(お腹の音 ※声でいうかSE) ポポ:クス。ほらよ、温かいスープだ。特製の干しきのこ汁だ。うまいぞ。 わたし:ありがとうございます。ああ、温かい。 ポポ:いいかい?夜はこれからさ。 0:二人、スープが入っている木の器どうしをコチンと合わせて ポポ:かんぱい わたし:かんぱい。 0:……(二人スープをすする) わたし:ああ、温かい。 ポポ:……(もぞもぞと落ち着かない様子) わたし:どうしました? ポポ:おれは家族や仲間がここを去ってから、ずっと一人だった。それまではみんなでワイワイやってたんだ。 わたし:ええ。ポポのおうちに写真がありましたね。 ポポ:みんながいたころ、おれは、将棋の名タヌキとして有名だったのさ。誰もおれには勝てねえ。それが自慢だった。 ポポ:(一息入れて、スープをすする) ポポ:誰にも負けないように、日々研究した。おれの弟はなかなか手強いやつで、おれに勝とうと必死だった。俺も負けるもんかって頑張った。そうやってお互いを高めあっていたんだな。 ポポ:楽しかったんだ。そうやって強くなるのも、弟が挑んでくるのも。俺は負けなかった。誰にも負けなかった。 ポポ:みんながいなくなっても、一人になっても、おれは練習したし、作戦を練った。 ポポ:だけど、気がついちまったんだ。俺はこの先、ずっと負けない。勝ちもしない。 ポポ:いくら練習しても勉強しても、俺はずっと無敗なままじゃないかって。どこへ向かっているんだろうって。 ポポ:当たり前だよなあ。戦う相手がいないんだから。 わたしN:月がじょじょに真上へと登っていきます。ポポは木の実を手でもてあそんでいました。わたしは木の実をかじりました。甘酸っぱい味がしました。 ポポ:なあ、俺と将棋をさしてくれねえか? わたし:!! わたし:……はい、よろこんで!! わたしN:ポポの体の毛がみるみる膨らんで、まんまるになっていきます。 ポポ:いいのか? わたし:ええ。でも一つ困ったことがあります。 ポポ:なんだ? わたし:わたしは将棋を知らないのです。将棋ってなんですか? ポポ:なんてこった。(木から降りてどこかへいってしまう) わたし:ああ、ポポ!どこにいくんですか?……ああ、またはぐれてしましました。やっとポポに会えたのに。 0:間 0:風呂敷を背負いながら、木を登ってくるポポ ポポ:んしょっと。 わたし:ああ、ポポよかった。戻ってきてくれて。……その風呂敷はなにが入ってるんです? ポポ:ほら、これが将棋の台と駒だ。 わたし:これが…… ポポ:どこにやったかも忘れちまって、ずいぶん探したんだ。あわてて探したんで、部屋をめちゃめちゃにしちまった。 わたし:わたし、ポポのお部屋にお邪魔したんです。椅子も倒れていましたし、引き出しは開きっぱなしで。将棋を探していたんですね。 ポポ:俺が教えてやるよ。客をもてなすのが俺らの礼儀なんだ。 ポポ:(将棋の駒を並べてながら)こうやって、まず並べ方っていうのがあってだな わたし:ポポ、一つ間違いがあります。 ポポ:何言ってんだ。駒はこうして並べるんだ。 わたし:わたしはお客ではありません。 ポポ:何の話だ?……やっぱり、帰るっていうのか? わたし:わたしはここの住人です。帰る場所はここ。だから私はお客ではないのです。 ポポ:…… わたし:わたしには名前がありません。家もありません。故郷も親も親せきも。 わたし:わたしはずっと旅をしてきました。自分の名前も、誕生日も知りません。「君は誰?」と聞かれるのが、一番困る質問でした。 わたし:ここではない、ここではないという気が永遠と続いていた旅でした。 ポポ:……そうか。 わたし:そんなわたしに、とうとう居場所が見つかった気がするのです。 ポポ:…… わたし:ですから一度、いってみたい言葉があるのです。 ポポ:なんだ? わたし:(小さな声で)ごにょごにょ ポポ:ん?なんでそんなこと わたし:さあ、ポポ言ってください。 ポポ:そんな改まって言うことじゃあねえだろ。 わたしN:わたしはじっとポポを見つめました。月に雲がかかったのかあたりが暗くなった時、ポポがいいました。 ポポ:おかえり わたしN:わたしの胸のあたりから。ボワボワっとこそばゆい、何かが膨らんでいきます。嬉しくって嬉しくって答えました。 わたしN:  わたし:ただいま ポポ:…… わたし:…… わたしN:そのとき、わたしは全てを思いだしたのです。 わたし:わたしは自分が何者なのか思いだしました。わたしは月です。 ポポ:……!? わたし:ポポがあんまり一人でわたしを見上げているから、隣を埋めたくなったのです。長い旅でした。家族も思い出もないのでした。 わたし:空に浮かぶあの月はわたし。だからこんなにも、ポポが恋しくてたまらないのです。 ポポ:それはまた、ずいぶん遠いところから来たんだな。 わたし:歩いて歩いて、くたくたです。 わたし:  ポポ:…… ポポ:お前さんは何も持っていないっていってたただろ? ポポ:だけど、ここにいたいって気持ちをちゃんと持ってる。それでいいじゃねえか。 ポポ:  ポポ:それは、俺が一番ほしかったものだ。 ポポ:  0:  わたしN:こうして、わたしに家が、帰る場所ができました。 わたしN:わたしたちは握手をして、空にある月をそれに照らされた森を思いました。 0:  0:  0:  0:  0:  0: