台本概要
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タイトル | 晩夏にひそむは泡沫の朱 |
---|---|
作者名 | レイフロ (@nana75927107) |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 2人用台本(男1、女1) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
ただただ鈍感な青年と、何処にも行けない少女の、ひと夏の想い出。 貴方はこの二人の正体にきっと驚く。 晩夏にひそむは泡沫の朱(ばんかにひそむは うたかたのしゅ) ↓レイフロ作の声劇台本はHPに全作品載っています。 https://reifuro12daihon.amebaownd.com ↓生声劇等でご使用の際の張り付け用 ―――――――― 晩夏にひそむは泡沫の朱 作:レイフロ クマ♂: リンゴ♀: ―――――――― 355 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
クマ | 男 | 59 | 黒づくめの青年。 |
リンゴ | 女 | 56 | 朱色の似合う少女。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
クマ:(N)この物語は、ただただ鈍感な僕と、何処にも行けない彼女が其処(そこ)にいるだけのお話。
クマ:何も起きやしない。たったひと夏の想い出。
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リンゴ:(驚く)ひゃっ!
クマ:おっとごめんよ。驚かせるつもりはなかったんだけど…。
リンゴ:急に現れるんだもの。心臓に悪いわ。
クマ:君の心臓はとても小さそうだね。
リンゴ:そうかもしれない。
クマ:僕が怖くないの?
リンゴ:黒づくめ、という点ではクマかと思ったわ!前にテレビで見たことがあるの。ツキノワグマって言ったかしら?真っ黒で大きくてガオーって!だから一瞬怖かった。
クマ:一瞬だけ?
リンゴ:だって、本物のクマに比べれば全然怖くないもの。
クマ:まぁ、そうかもしれないけど…。
リンゴ:それにあなた、この家の前をよく通ってるでしょ?
クマ:え…?
リンゴ:私、外を見るくらいしかやることがないから。ここは通り道なの?いつもどこへ行くの?
クマ:どこへって…。まぁ、色々だよ。
リンゴ:色々かぁ。いいなぁ。
クマ:何が?
リンゴ:色々行けていいなって。私は、此処(ここ)が世界の全てだから。
クマ:確かに君は不自由そうではあるね…。あ、ごめん、無神経なこと言ったね…。
リンゴ:いいの。気にしないで。
クマ:(ボソッと)…でも綺麗だ。
リンゴ:え?
クマ:なんでもないよ!
リンゴ:…?変なの!
クマ:そう、かもね。君こそ、こんなところでなにしてるの?
リンゴ:縁側(えんがわ)に出る理由なんて一つだわ。ひなたぼっこよ。
クマ:ふーん。
リンゴ:あっ、ママが来る!早く行って!貴方と話していることが見つかったら、私、もう縁側にすら出られなくなっちゃうの。
クマ:え?それは大変だ!じゃあ僕は行くよ。
リンゴ:お話出来てよかった。もしまたここを通ることがあったら…
クマ:知ってるだろ?僕はこの家の前をよく通るよ。
リンゴ:そうね。またお話したいわ。えっと…クマさん!
クマ:いや、僕クマじゃないんだけど…
リンゴ:あ!早く行って!ママが来る!
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クマ:(N)僕は追い出されるようにその場を離れた。とっさに、偶然通りがかったフリをしてしまったが、彼女が時折、縁側に出ていることは前から知っていた。物珍しさから、もう少し近くで彼女を見てみたいと思ってしまった。そうしたら、思わぬ会話が生まれてしまった。
クマ:彼女は、赤色よりも少し柔らかい朱色(しゅいろ)をまとっていた。とても弱々しくて、フワフワした少女だと思った。
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リンゴ:(N)数日後。
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クマ:またひなたぼっこかい?
リンゴ:クマさん!
クマ:まぁ今日も黒づくめだけどさ、「クマさん」で定着しちゃったかぁ。
リンゴ:ふふ。第一印象がニックネームになるなんてよくあることよ。
クマ:じゃあ僕も君のニックネームを決めていいかな?
リンゴ:もちろん!
クマ:…リンゴ、かな。
リンゴ:リンゴ?…ふふ、私の姿を見て決めたのね?結構安直なのね。
クマ:ぴったりかなと思ったけど…ダメだった?
リンゴ:ううん、とっても可愛い呼び名だわ!
クマ:(N)そういって彼女はその場でクルンと回って見せた。ヒラリと朱色(しゅいろ)の裾が揺れる。
クマ:今日は、ママさんはいないの?
リンゴ:きっとお昼寝してるから少しの間なら大丈夫よ!ねぇ、お外の話を聞かせて!
クマ:(N)リンゴは、日差しが穏やかな日に、時折ママさんに連れられて縁側に出てくることしか出来ない。僕は、最近あった何でもない出来事を話して聞かせた。
リンゴ:へぇ、そんなことがあったの!ふふふ、楽しそう。
クマ:こんなことしょっちゅうだよ。何も珍しくなんてない。
リンゴ:へぇ。…でも、楽しそうだな!
クマ:(N)リンゴが笑うたびに、朱色(しゅいろ)の裾がふわふわと揺れる。僕は代わり映えのしない日常を、面白おかしく話して聞かせるようになっていた。リンゴとの会話は楽しくて、いつしか親友とも呼べる存在となった。
クマ:リンゴが縁側に出ていないか毎日見に行った。数日出てこないと心配になり、出ていてもママさんが近くに居て近寄れなかったり…ヤキモキすることもあった。
リンゴ:(N)パパが言うには、ママはとても「世間知らず」だそうだ。パパは、私を縁側に出すことに反対していた。でもママは「たまにはお日様の光を浴びさせないと」と言い張って聞かなかった。ママにはとても感謝している。ママが私を縁側に出してくれたおかげでクマさんと友達になることが出来たのだから。
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クマ:リンゴ!
リンゴ:クマさん!今来てくれないかなって思ってたところよ!
クマ:たまたま通りかかったらリンゴが縁側に出てたから…
リンゴ:ふーん?
クマ:な、なんだよ。たまたまだよっ。
リンゴ:ふふふ。
クマ:(N)何でもない日常に、彼女が色を付けてくれた。ただ暑いだけの夏に、優しくて、柔らかい朱色(しゅいろ)を。
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0:(間)
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リンゴ:クマさん!この間クマさんが言っていた珍しい鳥を見たわ!
クマ:ほんとか?こんな鳴き声だった?ピーピピピィ♪(口笛吹ける人はを吹いて下さい)
リンゴ:んー?こんな感じじゃなかったかしら?ピーポポイッ♪
クマ:ん?なんて?もう一回言ってみて?
リンゴ:え?だから「ピーポポイッ♪ピーポポイッ♪」だよ!
クマ:(笑いを堪えながら)か、可愛い…!も、もう一回…
リンゴ:あーもう馬鹿にしてー!
クマ:ははは!
リンゴ:(N)夏はこんなにも短かっただろうか。あんなに五月蠅かった蝉の鳴き声が、まるで幻だったかのように薄らいでいった。
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0:(間)
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クマ:リンゴ、知ってる?もうすぐ近くの小学校で夏祭りがあるんだよ。
リンゴ:え…、あ、うん。
クマ:どうしたの?
リンゴ:ううん、何でもないよ。
クマ:ここからなら太鼓の音や、花火だって見えるかもしれないね!…あ、でもママさんはお祭りに行っちゃうのかな?そうしたらリンゴは縁側に出してはもらえないのかな?
リンゴ:うん、そうかもね…。
クマ:でもきっと音は聞こえるよ!
リンゴ:(元気なく)そうだね…。
クマ:どうかした?最近少し元気がないような気がするけど…
リンゴ:…。
クマ:リンゴ?
リンゴ:クマさんあのね、夏祭りが終わって寒くなってくると私…縁側に出られなくなっちゃうの。
クマ:そっか…そう、なんだ…。
リンゴ:うん。去年の冬はずーっとお家の中にいたから。
クマ:じゃあ…しばらくお別れなのかな。
リンゴ:……。クマさん、私が縁側に出てこなくなっても寂しがらないでね?
クマ:え…?
リンゴ:クマさんはどこへでも行けるんだよ!忘れないで。
クマ:何の話?大げさだよ、春になってまた暖かくなれば…
リンゴ:ん…、そうだね!その時はまた沢山お話聞かせてね!
クマ:もちろん!
リンゴ:クマさんに会えない日はね、教えてもらった楽しいお話をよく思い出すの。そうすると本当に自分が体験したかのように感じることがあってね?…こういうのって変かな?
クマ:何も変じゃないよ。
リンゴ:ほんと?
クマ:ホントだよ!
リンゴ:いつか…
クマ:いつか一緒に、色んなところに行けたらいいね。
リンゴ:そう、だね…。うん、ありがとう!
クマ:ん?なんで「ありがとう」?
リンゴ:えへへ、なんでもない!
クマ:なんだよ、何でも言えよな?僕たちは「親友」なんだから。
リンゴ:ん、そうだね。ありがとう、クマさん。
0:二人で一緒に笑いあって下さい。
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0:(間)
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リンゴ:(N)夏が終わる。暑い夏が。
クマ:(N)夏が終わる。僕らが出会った夏が。
リンゴ:(N)少し前から、息が苦しくなることがあった。
クマ:(N)リンゴはいつも僕の話を真剣に聞いてくれた。
リンゴ:(N)私は、「とても弱い」のだと、ママが言っていた。
クマ:(N)リンゴはいつも笑っていた。
リンゴ:(N)もっとクマさんのお話を聞きたかった。
クマ:(N)リンゴはいつも優しかった。
リンゴ:クマさん、私がいなくなっても寂しがらないでね…?
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クマ:(N)リンゴは、とても弱々しくて、フワフワした存在だった。赤よりも柔らかい朱色(しゅいろ)が、よく似合っていた。
クマ:可愛らしかった。美しかった。
クマ:そしてその弱々しい見た目通り、あっけなく、死んでしまった。
クマ:夏祭りの数日前だった。
クマ:ママさんは、リンゴを手のひらに乗せて、縁側でシクシク泣いていた。そのすぐ近く、庭の片隅に、パパさんが小さな穴を掘り、リンゴをソッと埋めて手を合わせた。
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クマ:(N)太鼓の音がドンドンと体に響き渡る。小さな町の夏祭りで、パパさんとママさんが寄り添って歩いているのを見かけた。
クマ:二人は、とある屋台の前で足を止めて、こう言った。「また金魚を飼おうか」「もうイヤよ、金魚すくいの金魚は、弱いからすぐ死んじゃうんだもの」と。
クマ:ビニールプールの中には、真っ赤な金魚がたくさん泳いでいた。僕は、その中にリンゴの朱色(しゅいろ)があるような気がしてプールに近づいた。
クマ:すると、ねじり鉢巻きをした男が、僕を見つけるなり慌てて立ち上がってこう言った。
クマ:「しっしっ!どっか行きやがれ商売の邪魔だ!不吉な黒猫!」
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クマ:(N)僕は走った。明るい屋台も、楽しそうな人々の間もすり抜けて、真っ黒な身体を夜の闇に溶け込ませながら、リンゴを想った。リンゴ、リンゴ、リンゴ…。
クマ:視界が揺らいだ。リンゴが一生涯(いっしょうがい)浸かっていた水が、僕の瞳から溢れているようだった。こんなにも心臓が苦しいのは、走ったからじゃない。僕は今頃になってようやく気がついた。
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クマ:(N)そうか。僕は、リンゴに恋をしていたんだ。
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0:了
クマ:(N)この物語は、ただただ鈍感な僕と、何処にも行けない彼女が其処(そこ)にいるだけのお話。
クマ:何も起きやしない。たったひと夏の想い出。
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リンゴ:(驚く)ひゃっ!
クマ:おっとごめんよ。驚かせるつもりはなかったんだけど…。
リンゴ:急に現れるんだもの。心臓に悪いわ。
クマ:君の心臓はとても小さそうだね。
リンゴ:そうかもしれない。
クマ:僕が怖くないの?
リンゴ:黒づくめ、という点ではクマかと思ったわ!前にテレビで見たことがあるの。ツキノワグマって言ったかしら?真っ黒で大きくてガオーって!だから一瞬怖かった。
クマ:一瞬だけ?
リンゴ:だって、本物のクマに比べれば全然怖くないもの。
クマ:まぁ、そうかもしれないけど…。
リンゴ:それにあなた、この家の前をよく通ってるでしょ?
クマ:え…?
リンゴ:私、外を見るくらいしかやることがないから。ここは通り道なの?いつもどこへ行くの?
クマ:どこへって…。まぁ、色々だよ。
リンゴ:色々かぁ。いいなぁ。
クマ:何が?
リンゴ:色々行けていいなって。私は、此処(ここ)が世界の全てだから。
クマ:確かに君は不自由そうではあるね…。あ、ごめん、無神経なこと言ったね…。
リンゴ:いいの。気にしないで。
クマ:(ボソッと)…でも綺麗だ。
リンゴ:え?
クマ:なんでもないよ!
リンゴ:…?変なの!
クマ:そう、かもね。君こそ、こんなところでなにしてるの?
リンゴ:縁側(えんがわ)に出る理由なんて一つだわ。ひなたぼっこよ。
クマ:ふーん。
リンゴ:あっ、ママが来る!早く行って!貴方と話していることが見つかったら、私、もう縁側にすら出られなくなっちゃうの。
クマ:え?それは大変だ!じゃあ僕は行くよ。
リンゴ:お話出来てよかった。もしまたここを通ることがあったら…
クマ:知ってるだろ?僕はこの家の前をよく通るよ。
リンゴ:そうね。またお話したいわ。えっと…クマさん!
クマ:いや、僕クマじゃないんだけど…
リンゴ:あ!早く行って!ママが来る!
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クマ:(N)僕は追い出されるようにその場を離れた。とっさに、偶然通りがかったフリをしてしまったが、彼女が時折、縁側に出ていることは前から知っていた。物珍しさから、もう少し近くで彼女を見てみたいと思ってしまった。そうしたら、思わぬ会話が生まれてしまった。
クマ:彼女は、赤色よりも少し柔らかい朱色(しゅいろ)をまとっていた。とても弱々しくて、フワフワした少女だと思った。
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リンゴ:(N)数日後。
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クマ:またひなたぼっこかい?
リンゴ:クマさん!
クマ:まぁ今日も黒づくめだけどさ、「クマさん」で定着しちゃったかぁ。
リンゴ:ふふ。第一印象がニックネームになるなんてよくあることよ。
クマ:じゃあ僕も君のニックネームを決めていいかな?
リンゴ:もちろん!
クマ:…リンゴ、かな。
リンゴ:リンゴ?…ふふ、私の姿を見て決めたのね?結構安直なのね。
クマ:ぴったりかなと思ったけど…ダメだった?
リンゴ:ううん、とっても可愛い呼び名だわ!
クマ:(N)そういって彼女はその場でクルンと回って見せた。ヒラリと朱色(しゅいろ)の裾が揺れる。
クマ:今日は、ママさんはいないの?
リンゴ:きっとお昼寝してるから少しの間なら大丈夫よ!ねぇ、お外の話を聞かせて!
クマ:(N)リンゴは、日差しが穏やかな日に、時折ママさんに連れられて縁側に出てくることしか出来ない。僕は、最近あった何でもない出来事を話して聞かせた。
リンゴ:へぇ、そんなことがあったの!ふふふ、楽しそう。
クマ:こんなことしょっちゅうだよ。何も珍しくなんてない。
リンゴ:へぇ。…でも、楽しそうだな!
クマ:(N)リンゴが笑うたびに、朱色(しゅいろ)の裾がふわふわと揺れる。僕は代わり映えのしない日常を、面白おかしく話して聞かせるようになっていた。リンゴとの会話は楽しくて、いつしか親友とも呼べる存在となった。
クマ:リンゴが縁側に出ていないか毎日見に行った。数日出てこないと心配になり、出ていてもママさんが近くに居て近寄れなかったり…ヤキモキすることもあった。
リンゴ:(N)パパが言うには、ママはとても「世間知らず」だそうだ。パパは、私を縁側に出すことに反対していた。でもママは「たまにはお日様の光を浴びさせないと」と言い張って聞かなかった。ママにはとても感謝している。ママが私を縁側に出してくれたおかげでクマさんと友達になることが出来たのだから。
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クマ:リンゴ!
リンゴ:クマさん!今来てくれないかなって思ってたところよ!
クマ:たまたま通りかかったらリンゴが縁側に出てたから…
リンゴ:ふーん?
クマ:な、なんだよ。たまたまだよっ。
リンゴ:ふふふ。
クマ:(N)何でもない日常に、彼女が色を付けてくれた。ただ暑いだけの夏に、優しくて、柔らかい朱色(しゅいろ)を。
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リンゴ:クマさん!この間クマさんが言っていた珍しい鳥を見たわ!
クマ:ほんとか?こんな鳴き声だった?ピーピピピィ♪(口笛吹ける人はを吹いて下さい)
リンゴ:んー?こんな感じじゃなかったかしら?ピーポポイッ♪
クマ:ん?なんて?もう一回言ってみて?
リンゴ:え?だから「ピーポポイッ♪ピーポポイッ♪」だよ!
クマ:(笑いを堪えながら)か、可愛い…!も、もう一回…
リンゴ:あーもう馬鹿にしてー!
クマ:ははは!
リンゴ:(N)夏はこんなにも短かっただろうか。あんなに五月蠅かった蝉の鳴き声が、まるで幻だったかのように薄らいでいった。
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クマ:リンゴ、知ってる?もうすぐ近くの小学校で夏祭りがあるんだよ。
リンゴ:え…、あ、うん。
クマ:どうしたの?
リンゴ:ううん、何でもないよ。
クマ:ここからなら太鼓の音や、花火だって見えるかもしれないね!…あ、でもママさんはお祭りに行っちゃうのかな?そうしたらリンゴは縁側に出してはもらえないのかな?
リンゴ:うん、そうかもね…。
クマ:でもきっと音は聞こえるよ!
リンゴ:(元気なく)そうだね…。
クマ:どうかした?最近少し元気がないような気がするけど…
リンゴ:…。
クマ:リンゴ?
リンゴ:クマさんあのね、夏祭りが終わって寒くなってくると私…縁側に出られなくなっちゃうの。
クマ:そっか…そう、なんだ…。
リンゴ:うん。去年の冬はずーっとお家の中にいたから。
クマ:じゃあ…しばらくお別れなのかな。
リンゴ:……。クマさん、私が縁側に出てこなくなっても寂しがらないでね?
クマ:え…?
リンゴ:クマさんはどこへでも行けるんだよ!忘れないで。
クマ:何の話?大げさだよ、春になってまた暖かくなれば…
リンゴ:ん…、そうだね!その時はまた沢山お話聞かせてね!
クマ:もちろん!
リンゴ:クマさんに会えない日はね、教えてもらった楽しいお話をよく思い出すの。そうすると本当に自分が体験したかのように感じることがあってね?…こういうのって変かな?
クマ:何も変じゃないよ。
リンゴ:ほんと?
クマ:ホントだよ!
リンゴ:いつか…
クマ:いつか一緒に、色んなところに行けたらいいね。
リンゴ:そう、だね…。うん、ありがとう!
クマ:ん?なんで「ありがとう」?
リンゴ:えへへ、なんでもない!
クマ:なんだよ、何でも言えよな?僕たちは「親友」なんだから。
リンゴ:ん、そうだね。ありがとう、クマさん。
0:二人で一緒に笑いあって下さい。
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リンゴ:(N)夏が終わる。暑い夏が。
クマ:(N)夏が終わる。僕らが出会った夏が。
リンゴ:(N)少し前から、息が苦しくなることがあった。
クマ:(N)リンゴはいつも僕の話を真剣に聞いてくれた。
リンゴ:(N)私は、「とても弱い」のだと、ママが言っていた。
クマ:(N)リンゴはいつも笑っていた。
リンゴ:(N)もっとクマさんのお話を聞きたかった。
クマ:(N)リンゴはいつも優しかった。
リンゴ:クマさん、私がいなくなっても寂しがらないでね…?
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クマ:(N)リンゴは、とても弱々しくて、フワフワした存在だった。赤よりも柔らかい朱色(しゅいろ)が、よく似合っていた。
クマ:可愛らしかった。美しかった。
クマ:そしてその弱々しい見た目通り、あっけなく、死んでしまった。
クマ:夏祭りの数日前だった。
クマ:ママさんは、リンゴを手のひらに乗せて、縁側でシクシク泣いていた。そのすぐ近く、庭の片隅に、パパさんが小さな穴を掘り、リンゴをソッと埋めて手を合わせた。
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クマ:(N)太鼓の音がドンドンと体に響き渡る。小さな町の夏祭りで、パパさんとママさんが寄り添って歩いているのを見かけた。
クマ:二人は、とある屋台の前で足を止めて、こう言った。「また金魚を飼おうか」「もうイヤよ、金魚すくいの金魚は、弱いからすぐ死んじゃうんだもの」と。
クマ:ビニールプールの中には、真っ赤な金魚がたくさん泳いでいた。僕は、その中にリンゴの朱色(しゅいろ)があるような気がしてプールに近づいた。
クマ:すると、ねじり鉢巻きをした男が、僕を見つけるなり慌てて立ち上がってこう言った。
クマ:「しっしっ!どっか行きやがれ商売の邪魔だ!不吉な黒猫!」
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クマ:(N)僕は走った。明るい屋台も、楽しそうな人々の間もすり抜けて、真っ黒な身体を夜の闇に溶け込ませながら、リンゴを想った。リンゴ、リンゴ、リンゴ…。
クマ:視界が揺らいだ。リンゴが一生涯(いっしょうがい)浸かっていた水が、僕の瞳から溢れているようだった。こんなにも心臓が苦しいのは、走ったからじゃない。僕は今頃になってようやく気がついた。
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クマ:(N)そうか。僕は、リンゴに恋をしていたんだ。
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