台本概要

 487 views 

タイトル 号哭のレクイエム
作者名 紫音  (@Sion_kyo2)
ジャンル その他
演者人数 7人用台本(男3、女4) ※兼役あり
時間 90 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『これが私なりの、命の愛し方なの』
歪んだ純情が紡ぎ出したのは、絶望に彩られた悲劇。
遠い日の言葉は、笑顔は、眼差しは、誰かの悲鳴にかき消されていく。
最期に響く銃声は、天罰か、それとも救済か――
⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯⋯
原罪のスケープゴートの続編になります。
イブと少女は兼ね役です。
90分超過するかもしれません……長くてすみません……

 487 views 

キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
スネイク 154 シアンと組んでフリーの殺し屋をしていたが、現在はレオーネに雇われて護衛役をしている。ぶっきらぼうで無愛想。
シアン 90 以前はスネイクと組んでフリーの殺し屋をしていた。その正体は、世間を騒がせているシリアルキラー“林檎の悪魔”、なのだが……
レオーネ 68 裏社会を仕切る大富豪。年齢は若いが威厳がある。スネイクのことを気に入って護衛役として雇った。
ウォルフ 65 レオーネに仕える執事兼、護衛役。銃を武器とする。少々無愛想で素直じゃないことを言う少年。
ペコラ 69 レオーネに仕えるメイド兼、護衛役。ナイフを武器とする。誰に対しても同じ距離感(タメ口)で接する少女。
イブ 93 “林檎の悪魔”事件の黒幕。幼さの残る少女だが、その口調はどこか大人っぽい。 ※少女と兼ね役。
少女 41 スネイクが昔出会った孤児の少女。 ※イブと兼ね役。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:  0:(モノローグ) シアン:はるか昔に、人は罪を犯したという。 シアン:禁断の果実に手を伸ばし、神に背いた人間は、楽園から追放された。 シアン:しかし彼らは、罪を犯したと同時……“善悪”なるものを知った。 シアン:正しきとは何か、悪しきとは何か。……その答えは目の前にある。 シアン:この世界に嫌というほど溢れている醜い悪が、いつか綺麗に消え去るとき……それはきっと、正しい世界が目を覚ますとき。 シアン:創らなくちゃいけない。正さなくちゃいけない。僕と、彼女で。 シアン:だって僕たちは――『善悪を知る者』なのだから。 0:  0:  0:  0:(タイトルコール) シアン:『号哭のレクイエム』 0:  0:  0:  0:レオーネの屋敷にて。 ペコラ:はー……だるい……。 ペコラ:ねーねーウォルフ、やっぱりさ、新しいお掃除係さん雇ってもらおうよ。こんなに広いお屋敷一人で掃除するとか無理。 ウォルフ:仕方ないだろ、レオーネ様は余所者をこの屋敷に入れるのが嫌いなんだから。 ペコラ:それもそっかぁ……。 ペコラ:でもさ、そんなレオーネ様がわざわざ護衛役として雇ったんだから、蛇のおじさん、相当気に入られたってことだよねー。 ウォルフ:……なんでレオーネ様はあんな男を雇ったりしたんだ……僕は未だに理解できない……。 ペコラ:あはは、ウォルフってば、蛇のおじさんのこと嫌いすぎじゃん。 ウォルフ:ああ嫌いだ。大ッッッ嫌いだ。あんな無愛想で失礼でだらしのない男なんか。 ペコラ:……無愛想ってとこに関しては人のこと言えないけどね、ウォルフ。 ウォルフ:なんか言ったか? ペコラ:言ってないでーす。 0:話している二人のもとに、レオーネがやってくる。 レオーネ:あら、ここにいたのね、二人とも。 ペコラ:あ、レオーネさまだ、やっほー。 ウォルフ:やっほーってなんだよペコラ、失礼だぞ。 ペコラ:えー、いいじゃんか別に。レオーネさま怒らないもん。 ウォルフ:あのなぁ…… レオーネ:構わないわよウォルフ。またケンカになりそうだからその辺りにしておいてちょうだい。 ウォルフ:……すみません。 レオーネ:それより、二人に聞きたいのだけれど……スネイクはどこに行ったのかしら? ペコラ:え?蛇のおじさん? ウォルフ:レオーネ様と一緒にいたのでは? レオーネ:いいえ、朝食を食べて部屋を出て行ったきり見ていないのよ。自室にも戻っていないようだったから、てっきりあなた達と一緒にいるのかと思ったのだけれど…… ウォルフ:どこ行ったんだあいつ……さては逃げ出したのか……? ペコラ:えー、そんなの契約違反じゃん。 ウォルフ:でもあいつ、レオーネ様に雇われるのも渋々だっただし……考えられなくはないだろ。 レオーネ:……とにかく、もう少し屋敷の中を探してみるわ。あなた達も、スネイクを見かけたら教えてくれる? ペコラ:おっけーだよん。 ウォルフ:しかしレオーネ様、あの男に何か用事でも? レオーネ:ちょっと、聞きたいことがあってね。 ペコラ:聞きたいこと?恋人がいるか、とか? ウォルフ:そんなわけないだろ、そもそもあいつに恋人なんかいないよ絶対。 ペコラ:うわ、軽く失礼……。 レオーネ:あなた達、あの夜のこと、覚えてる? レオーネ:『林檎の悪魔』……シアンに、襲撃された夜のこと。 ペコラ:ああ、あの頭沸いちゃってる犬のおじさんね。 ウォルフ:……忘れるはずがありません。 レオーネ:彼が去り際に叫んでいたのよ。……『イブ』って。 ウォルフ:……イブ? ペコラ:なにそれ、誰かの名前? レオーネ:私にも詳しく分からなかったけれど……どうにもその『イブ』というのが、この『林檎の悪魔』の事件に深く関わっているような気がしてね。もしかしたらスネイクが、何か知っているかもと思って。 ウォルフ:まあ、自分の相方が『林檎の悪魔』だったことすら気付けていなかった男ですから、何か知っている可能性は低そうですが……念のために聞いてみてもいいかもしれませんね。 ペコラ:じゃあ、蛇のおじさん見つけたらレオーネさまに知らせるね。 レオーネ:ええ、お願いね。 0:  0:  0:  0:その頃、某所にて。 0:カーテンが閉められ、わずかな明かりしかない薄暗い部屋の中、包帯の巻かれた腕をさすりながら椅子に座っているシアン。 0:独り言のように何かを呟いている。 シアン:……この世界は醜い……醜いものだらけだ…… シアン:神は……創るものを間違えたんだ……そしてその過ちを、覆い隠そうとした…… シアン:はは、愚かだな……原初の過ちのせいで……この世界はこんなにも…… 0:そのとき、誰かがドアをノックする。 シアン:ああ……帰って来たかな。 シアン:……『合言葉は?』 イブ:……『知恵の木の実』。 シアン:オーケー、どうぞ。 0:ドアが開き、一人の少女が入ってくる。 シアン:……ふ、お帰り。『イブ』。 イブ:ただいま、シアン。 0:少女は微笑み、シアンに抱きつく。 イブ:とっても疲れたわ……外の空気は相変わらず淀んでるんだもの。吸っているだけで具合が悪くなっちゃう。 シアン:大丈夫かい、イブ。ほら、ここに座って。ゆっくり休むといい。 シアン:今紅茶を淹れるから、少し待っててくれるかい。……ダージリンで良かったかな? イブ:ええ、ありがとうシアン。 シアン:キミのためならお安い御用さ。 シアン:でも……イブ。 イブ:なぁに? シアン:やっぱりまだ僕のことを……『アダム』とは呼んでくれないんだね。 イブ:……。 シアン:分かってるよ、僕はまだ、キミのようには上手くできないから……キミの隣に並ぶのは、まだ難しいんだろうけど…… イブ:いいえ、あなたは……本当によく頑張ってるわ。 イブ:私、あなたを選んで良かったと思っているもの。 シアン:なら…… イブ:でもね、シアン。まだなの。まだ、あとほんの少しだけ、足りないの。 イブ:あなたが完全な『アダム』になれるのは……まだもう少し先。 シアン:……そうか……キミがそういうのなら仕方ないね。 シアン:でも僕は……まだ『アダム』になれないとしても……『正しい世界』を創るために、諦めはしないよ。 イブ:ええ……そうね。 0:(少しの間) イブ:……そういえば、シアン。 シアン:なんだい。イブ。 イブ:もうすぐ……“彼”は来るのかしら。 シアン:ああ、それなら大丈夫だよ。きちんと手紙を出しておいた。こっちに向かっている頃じゃないかな。 イブ:……そう。 0:嬉しそうに微笑むイブ。 イブ:また、会えるのね……“彼”に。 シアン:でもイブ……なぜなんだい? シアン:なぜキミが……スネイクに会いたいだなんて。 イブ:それは………… イブ:…………。 0:何かを考え込むように、あるいは思い出しているように、黙り込むイブ。 シアン:……イブ? イブ:……ふふ、懐かしいわ。 イブ:あの日の私には、まだ……名前なんてなかったから。 シアン:……? イブ:ふふ、ごめんなさい。少し、思い出に浸っていたの。 イブ:何も知らなかった、愚かな子どもだった頃をね。 シアン:……今のキミは、とても聡明だよ、イブ。 シアン:誰よりも賢くて……誰よりも正しい人だ。 イブ:ありがとう、シアン。 イブ:私たちなら、きっと創れるわ……悪のいない、『正しい世界』を。 0:  0:  0:  0:その頃、路地裏を歩いているスネイク。 スネイク:……(ため息)。 スネイク:シアンのやつ……今更手紙なんざ寄こしてきやがって…… 0:懐から手紙を取り出すスネイク。そこには短い一文と、どこかの住所、文末には林檎のマーク。 スネイク:なーにが「再び話そう」だ、この野郎……散々俺のこと騙してたくせによ…… スネイク:……あーくそ……気に入らねぇ…… 0:手紙を懐にしまい、スネイクは空を見上げる。 スネイク:……(再び重いため息)。 スネイク:こうやって一人で歩いてると、柄にもなく、思い出しちまうな……昔のこと……。 0:  0:  0:  0:回想。 0:数年前。 0:路地裏で突っ立っているスネイク。周囲には数人が倒れている。 0:返り血塗れのスネイクは、光の宿らない目でそれを見下ろしている。 スネイク:……(舌打ち)。 スネイク:……今回も雑魚ばっかかよ……つまんねぇな。 スネイク:まあ、こんなんで金が貰えるならいいか…… 少女:……ねえ、お兄さん。 スネイク:……あ? 0:振り返ると、いつの間にかボロボロの姿の少女がそこに立っている。 少女:……それ、何してるの? スネイク:……なんだテメェ。 少女:なんで人がいっぱい倒れてるの?なんでお兄さんは血だらけなの? スネイク:……ガキが見るもんじゃねぇ、あっち行ってろ。 少女:教えてよ、なんで? スネイク:いい加減にしろ、俺はガキが嫌いなんだよ。さっさと親のところにでも戻れ。 少女:私、親なんていない。 スネイク:……は? 少女:ママもパパも、どっか行っちゃった。 スネイク:……、……。 スネイク:(……こいつ、孤児か……?) 少女:ねえ、お兄さん。 スネイク:……ンだよ。 少女:どうしてその人たちのこと殺しちゃうの? スネイク:……ッ。 少女:ねえ、どうして? スネイク:……どうしてって……そりゃあ…… スネイク:……これが、俺の仕事だからだよ。 少女:仕事? スネイク:……お前みたいなガキが詳しく知らなくていい。 スネイク:とにかくどっか行け。俺と一緒にいたらろくでもないことになるぞ。 少女:……でも、可哀想。 スネイク:……はァ? 少女:この人たち、可哀想だよ。 スネイク:可哀想……って…… 少女:ねえ、手当てしてあげたら生き返る? スネイク:……ンなの……無理に決まってんだろうがよ。 スネイク:死んだら二度と生き返らねぇ。……死ってのは永遠の別れなんだから。 少女:……じゃあどうして死なせちゃうの? スネイク:……、……。 少女:……どうして? スネイク:こいつらは……殺されて当然のことをしてる悪人なんだよ。何の罪もない弱い人間を苦しめて、自分たちの私腹を肥やしてる……そんな奴らだ。 スネイク:俺がここにいるってことは、こいつらが死ぬことで救われる人間が少なからずいるってことだろうよ。 少女:……悪い人なの? スネイク:ああ、そうだ。 少女:……そっか……悪い人、なんだ。 0:(少し沈黙) スネイク:ほら、もういいだろ、帰れ。 少女:ねえ、お兄さん。 スネイク:……しつけぇな、どっか行けって―― 少女:お兄さんは、正義の味方なんだね。 スネイク:……あ? 少女:だって、悪い人をやっつけてるんでしょ? スネイク:……、……。 少女:すごいね、かっこいい。 少女:私もお兄さんみたいに、悪い人をやっつけられるようになりたい。 スネイク:……馬鹿言ってんじゃねェよ。 スネイク:俺が……俺なんかが……正義の味方なわけ、ねぇだろうが。 少女:……どうして? スネイク:ハッ、お前さっきからそればっかりだな。 少女:だって、分かんないんだもの。 少女:なんでお兄さん、正しいことしてるのに……そんな、泣きそうな顔してるの? スネイク:……。 スネイク:……泣きそうに、見えるかよ。 少女:うん、見える。……悲しいの? スネイク:……どうだろうなァ。 スネイク:悲しいとか、そんな感情……とっくの昔に捨てちまったよ。 少女:……。 スネイク:おいクソガキ。……一つだけ、お前に教えといてやる。 少女:なぁに? スネイク:この世にはなァ、正義の味方なんていねぇんだよ。 スネイク:俺も昔は、お前みたいに憧れたよ。ヒーローってやつに。……けどな、大人になってから気付いちまった。 スネイク:人間ってのはどいつもこいつも自分勝手で……汚れきってんだ、反吐が出るほどにな。 スネイク:自分のためなら平気で相手を殺せる。そういう奴らで溢れかえってるから、俺たちの吸ってる空気はこんなにも淀んでる。 スネイク:そんな空気を吸いながら生きてるうちに……誰かを、自分を、愛しながら生きてくってことが分かんなくなっちまう。 少女:愛……? スネイク:クソガキ。……お前は、真っ直ぐ生きろ。 スネイク:お前はまだ大丈夫だ。そんな……綺麗な目をしてんだから。 スネイク:頼むから……俺みたいになるな。周りを、自分を、憎んでばかりの俺と……同じになっちゃいけねぇよ。 少女:……。 少女:じゃあ……誰かを、愛せるようになればいい? スネイク:ああ、そうだな……それができりゃあ一番いい。 少女:……。 スネイク:ハハ、ガキにはまだ難しい話だろうがな。 スネイク:……ほら、これ持ってけ。 0:スネイクは懐から数枚紙幣を取り出し、少女の手に握らせる。 少女:え、お金……? スネイク:それで何か、美味いもんでも食え。腹いっぱい食わなきゃデカくなれねぇぞ。 少女:でも…… スネイク:いいからもらっとけ。……じゃあな。 0:少女の頭をポンポンと撫で、立ち去ろうとするスネイク。 少女:待って。 スネイク:ンだよ。 少女:お兄さんについて行っちゃ、だめ? スネイク:……何言ってんだ、だめに決まってんだろうが。 スネイク:さっきも言ったろ、俺と一緒にいたらろくでもないことになるぞ。 少女:……。 スネイク:優しくて子供好きな金持ちにでも拾ってもらえ。……その方がいい。 少女:じゃあ、せめて……お名前教えて。 スネイク:……あ? 少女:いつか私が大きくなって、誰かのこと愛せるようになったら、お兄さんに会いに行くから。 スネイク:……、……。 スネイク:……なに、言ってんだ。 スネイク:俺の名前なんざ、覚えなくていいんだよ。もう会わなくていい。会う必要もねぇ。 少女:いーやーだ。絶対会いに行くの。絶対絶対、ぜーったい! スネイク:……勘弁しろよクソガキ……。 少女:ほーら、名前! スネイク:……(ため息)。 スネイク:(ぼそりと小声で)……スネイク。 少女:……すねいく、すねいく、すねいく……うん、覚えた! スネイク:ああそうかよ……。 少女:私は、自分の名前が分からないから教えてあげられないけど……私のこと絶対忘れないでね、スネイク。 スネイク:……どうだろうなァ、俺は記憶力がいい方じゃねぇからよ。 少女:もう!忘れてたら怒るからね! スネイク:……フ……まあ、忘れねぇように頑張るよ。 0:  0:  0:  0:回想から、ふと我に返るスネイク。 スネイク:……(ため息)。 スネイク:何年前の話を思い出してんだ……全く……。 スネイク:あのガキ……今頃どうしてんのかねぇ……生きててくれてりゃあいいが。 スネイク:……あーくそ、らしくもねぇ心配しやがって、バカか俺は! 0:考えを振り払うように首を振るスネイク。 スネイク:とにかく今は……シアンの野郎に会って、一発脳天にお見舞いしてやらねぇとなァ。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:レオーネの屋敷にて。 ペコラ:おーい、蛇のおじさーん、どーこだーい。 ペコラ:……んもう、蛇のおじさん、隠れるの上手すぎ。 ウォルフ:かくれんぼしてるんじゃないんだぞ、ペコラ。 ペコラ:分かってるよぉ。 レオーネ:……ここまで探して見つからないなんて、いよいよ心配になってきたわね。 ウォルフ:やっぱり逃げ出したんですよ、あいつ。……全く、だから雇わないほうがいいって言ったのに……。 レオーネ:本当にそうなのかしら。何かあったのかもしれないわよ。 ウォルフ:仮にそうだとしても、あいつは殺し屋ですよ?自分の問題くらい自分でどうにかするでしょう。 ペコラ:冷たいねぇ、ウォルフ。 ウォルフ:別に、普通だ。 レオーネ:私のこととなると、あんなに血相変えて心配するのにね。 ウォルフ:当たり前です。……僕はあなたに誓いましたから。 ウォルフ:『生涯をかけて、あなたを守る』って。 レオーネ:ふふ、随分大げさな言い方ね。 レオーネ:私はただ……『私の護衛役になるという条件付きで、私のもとに引き取られる気はないか』と言っただけなのだけれど。 ペコラ:ウォルフってば、なんでも大げさにいうもんねぇ。 ウォルフ:大げさなんかじゃありません。僕は絶対に何があっても……この命に代えても、レオーネ様を―― 0:ウォルフの言葉の途中、背後から音もなく飛んできたナイフが、ウォルフの背中に突き刺さる。 ウォルフ:ぐぁッ……!? レオーネ:……ッ!!? ペコラ:ウォルフ!? 0:倒れ込んだウォルフの後方にゆらりと立っていたのは、笑みを浮かべるシアン。 シアン:……ああ、良かった。今回はうまくいったみたいで。 ウォルフ:……あ……ぐ、…… ペコラ:ウォルフ!!しっかりしてウォルフ……!! シアン:ハハ、先日の件で、僕もきちんと学ばせてもらいましたから。……ミス・レオーネを殺すためには、まずはキミたち二人を始末しなくちゃいけないって。 レオーネ:……シアン……!! シアン:ミス・レオーネ、再びお会いできて光栄です。先日はお見苦しい所をお見せしてしまいまして、失礼しました。 レオーネ:あなた、どうしてここに……! シアン:言ったでしょう?『いつか再び、あなた方に贖いを』、と。僕は僕の為すべきことのために、ここに来たんですよ。 シアン:お屋敷の構造は事前に分かってましたし、運よくあなた方はお話に夢中で僕の気配には気付かずにいてくれた。だから容易に侵入でき―― シアン:……ッ!! 0:話している途中、顔面めがけて飛んできたナイフを、間一髪で躱すシアン。 シアン:……っと……危ないじゃないか、ペコラちゃん…… ペコラ:……ふざっけんな……よくもウォルフを……!! シアン:ハハ、普段はとっても可愛らしいのに、本気で怒るとそんなにも怖い顔をするんだね。 ペコラ:ぶっ殺す……!! 0:シアンめがけて数本ナイフを投げつけるペコラ。 0:それらを全て器用に躱し、気付けばシアンはペコラの目の前に迫っていた。 シアン:残念だけど、僕も馬鹿じゃないんだよ。 ペコラ:……ッ!? シアン:二度も……同じやられ方はしないさ。 ペコラ:うぐッ……!? 0:シアンの振り下ろしたナイフが、ペコラの腕に突き刺さる。 0:その場に崩れ落ちるペコラ。 レオーネ:ペコラ……ッ!! シアン:さあ、ミス・レオーネ。今度こそ本当に、邪魔者はいません。 シアン:あなたの、贖いの時間ですよ。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:とある古びたアパートの一室の前に立つスネイク。 スネイク:……ここか、シアンの手紙に書いてあった住所。 スネイク:ったく……わざわざめんどくせぇことしやがって。 0:ドアをノックする。しかし、中から応答はない。 スネイク:おいシアン!!いるなら返事しやがれ!! スネイク:……チッ……呼び出しておいて出てこねぇのかよ。 0:ドアノブに手をかけると、ゆっくりと扉が開く。 スネイク:……鍵は開いてる……勝手に入れってか? スネイク:クソが、とことんふざけやがって…… 0:  0:部屋の中に静かに入っていくスネイク。 スネイク:……おいシアン、こっちは言われた通り来てやったんだからよ、隠れてねぇでさっさと―― スネイク:――……あ? 0:ふとスネイクは、椅子に座っている人物に気付く。 0:どこか幼さの残るその少女は、入ってきたスネイクをじっと見つめている。 イブ:……。 スネイク:……誰だ、お前。 スネイク:(……女?シアンの仲間か……?) スネイク:(いや、巻き込まれた被害者って可能性も……) イブ:……来て、くれた…… スネイク:あ? イブ:……やっと、やっと会えた……! スネイク:うおっ……!? 0:少女は突然スネイクに抱きつく。 イブ:……ふふ、嬉しい……ずっとずっと、この日を待ってたんだもの……! スネイク:なっ……おい、なんなんだよいきなり!? イブ:あ、ごめんなさい、急に抱きついたらびっくりするわよね…… 0:少女はそっとスネイクから離れると、うっすらと涙の滲む瞳でスネイクを見上げる。 イブ:ふふっ、久しぶりね。……会いたかったわ。 スネイク:久しぶり……? イブ:変わらないのね、スネイク……あの日のままだわ…… スネイク:……いやちょっと待て、人違いだろ。俺はお前と会ったことなんざねぇぞ。 イブ:……私のこと、忘れちゃったの? スネイク:……何の、話だ。 イブ:ちゃんと覚えててねって……『絶対忘れないでね』って、お願いしたのに。 スネイク:……、……。 イブ:私、ちゃんと全部覚えてるわ。 イブ:だってあなたは……私の、正義の味方だもの。 スネイク:……正義の……? イブ:そうよ、スネイク。 イブ:言ったでしょ?「いつか私が大きくなって、誰かのこと愛せるようになったら、あなたに会いに行くから」……って。 スネイク:……、……。 スネイク:……おい、待てよ……じゃあまさか……お前…… スネイク:あの、ときの…… イブ:ふふ、良かった。やっぱり覚えててくれたのね、スネイク。 イブ:ごめんなさい、私が会いに行くって言ったのに、あなたを呼びつける形になってしまって。 スネイク:……おい、どういうことだ、わけわかんねぇぞ。 スネイク:俺はシアンに呼び出されてここに来たってのによ……そこになんで、あの時のガキがいるんだよ…… イブ:もうガキじゃないわ。私、大人になったもの。 イブ:それにね、私がシアンに頼んだのよ。「スネイクに会わせて」って。 スネイク:お前が……シアンに……? イブ:彼、とっても優しいのよ。私の望むこと、全部叶えてくれてしまうの。優しすぎて心配になっちゃうわ。 イブ:彼だから、ここまで一緒に来てくれた。一緒に……原罪の贖いを、知ることができた。 イブ:私、彼にとっても感謝してるわ。 スネイク:……おい、その原罪だの贖いだのって……シアンが言ってた…… イブ:世間では……『林檎の悪魔』、なんて呼ばれてるけど。 イブ:悪魔なんかじゃないわ。私たちは……そうね、言うなれば『神の代行者』。 スネイク:……ちょっと待てよ……冗談だろ…… スネイク:まさか……お前も…… イブ:ねえ、スネイク。私のこと褒めてくれる? イブ:だって私、とっても頑張ったのよ?……あなたみたいな正義の味方になるために。 スネイク:……、……。 イブ:最初はちょっと怖かったけど……でも、恐怖はすぐになくなったわ。 イブ:だって、恐れる必要なんてないんだもの。私は、正しいことをしているのだから。 スネイク:……なんだよ、それ……笑えねぇぞ、これっぽっちも…… スネイク:じゃあ……今までの『林檎の悪魔』の事件は……お前とシアンが…… スネイク:お前らが……お前が……何人も、殺したってのかよ…… イブ:……どうして? イブ:どうしてまた、そんな悲しそうな顔をするの?スネイク。 スネイク:……どうしてって…… イブ:私、あなたに笑ってほしくて頑張ったのよ? イブ:あなたに追いつきたくて……あなたの隣に並びたくて。 イブ:約束したから……ちゃんと、人を愛せるようになったのよ? スネイク:……愛する?人を、殺しておいてかよ? スネイク:そんなもんが愛だなんて……ンなこと間違って―― 0:(イブ、スネイクの言葉に被せるように) イブ:いいえ、愛よ。 イブ:これは私の、私なりの、愛し方よ。 スネイク:……なんで…… イブ:私ね、スネイク。あなたと別れた後……聖書を読んだの。 イブ:そうしたらね、理解してしまったの。……どうしてこの世界が、こんなにも醜いのかを。 スネイク:……どういう、ことだよ。 イブ:神様はまず、天と地を創った。 イブ:それから、暗闇の中に光を創って、昼と夜ができた。 イブ:天と、大地と、海を創って、大地には植物を芽吹かせた。 イブ:太陽と月と星、魚や鳥、獣と家畜も創った。 イブ:そして最後に……神のかたちに、人間を創った。 イブ:……でも神様はね、間違えてしまったのよ。 イブ:世界を創ったところまでは良かったの。……だけど最後に、神を模して人間を創ってしまった。 イブ:神のように完全な存在にはなれない、人間という不完全で傲慢な生き物を。 スネイク:……シアンの野郎も、言ってたな……命は罪の塊だのなんだのって。 イブ:そう。神様が人間なんてものを創らなければ……原初に過ちを犯したりなんてしなければ、この世界はこんなに醜くなんてならなかったはずなの。 イブ:スネイク……あなたが、そんなふうに悲しい顔をすることも、きっとなかったわ。 スネイク:……お前は……何がしてぇんだよ。 スネイク:何のために、こんなこと…… イブ:私はね……イブっていう名前を、自分につけてあげたの。 スネイク:……イブ……? イブ:そう。それは……『善悪を知る者』の名前。 スネイク:……善、悪…… イブ:神が最初に創った人間であるアダムとイブは、神に食べてはいけないと禁じられていた「知恵の木の実」を口にした。 イブ:それは、善悪を知ることのできる木の実。アダムとイブは、神のように善悪を知る者になった。……だけど神は、アダムとイブに罰を与えた。 イブ:どうしてだと思う? スネイク:……そりゃあ、食うなって言われたもん食っちまったからだろうよ。 イブ:じゃあそもそも、どうして神様は「知恵の木の実を食べてはいけない」なんて言ったのか。 イブ:私ね、思うの。……きっと、神様は自分の過ちを隠そうとしたのよ。人間なんていう不完全で愚かな存在を創り上げてしまったという過ちを。 イブ:だから、アダムとイブに善悪を知られてほしくなかった。人間という存在が、ひいてはそれを創り出した自分が過ちだということを……悪だということを、悟られたくなかったから。 イブ:私は知ったわ、正義と悪を。だから私は、神の代わりに正しいことを遂行するの。 スネイク:……命が悪で、それを粛正すんのが正義だってのかよ。 スネイク:お前とシアンが、神の代行者だって……自分たちのやってることが正しいことだって、そう思ってんのかよ、お前は。 イブ:ええ、そうよ。 イブ:悪い人は裁かなきゃ。そして……創り変えるの、正しい世界へと。 イブ:だけどこれは、裁きであると同時に……救いでもある。 スネイク:救い、だと……? イブ:悲しくも、人間として生まれてきてしまった命。そして、罪を重ねて穢れきってしまった命。 イブ:それを、死をもって救済するの。この汚れきった世界から解放してあげるの。そうすれば、新しい無垢な命に生まれ変われる。……悪にだって、赦しと救済は必要でしょう? イブ:だからこれは、私なりの……命の愛し方なの。 スネイク:……ふざけんなっつーの……言ってる意味が、分かんねぇよ…… イブ:嘘よ、スネイク。……あなたなら分かってくれるでしょう? スネイク:……あ? イブ:だって、私に道を示してくれたのは、正しいことを教えてくれたのは……他でもない、あなただったじゃない。 スネイク:……俺、が……? イブ:あなたも「善悪を知る者」だった。……だからあなたも人を殺すんでしょう? スネイク:……ッ……! イブ:やっと分かったの。だから私、あなたみたいにって―― スネイク:……違ェよ、違う……俺は…… イブ:あなたのスタートは憎しみだったかもしれない。……でも私は愛すわ。愚かで憎らしくて醜い命を。 イブ:今度は私が、あなたの正義の味方になる。 スネイク:違う、俺は……俺は、お前を……ッ…… イブ:……どうして目を伏せるの?スネイク。私はもう、あなたの隣に並べるわ。 イブ:あなたはもう一人じゃない。あなたが私にとってのアダムなの。 イブ:だから、ねえ、お願い。……笑ってよ、スネイク。 0:  0:  0:  0:その頃、レオーネの屋敷にて。 0:負傷し、うずくまるウォルフとペコラ。シアンはレオーネにナイフを突きつけ、じりじりとその距離を詰める。 シアン:さあ、ミス・レオーネ。これがあなたの最期です。心の準備はいいですか? レオーネ:……。 ウォルフ:……れ、レオーネ様……早く、逃げて…… ペコラ:こい、つ……絶対、ぶっ殺す……!! シアン:大丈夫さ、ウォルフくんもペコラちゃんも、順番が来ればすぐに……ミス・レオーネのように“贖う”ときが来る。 レオーネ:……順番、ですって? シアン:今回はあなたの番なんですよ、ミス・レオーネ。……あなたは『イブ』に、選ばれたんです。 ウォルフ:……イブ……って…… ペコラ:この前も、言ってたけど……誰なんだよそいつ……ッ! シアン:イブは僕よりもずっと聡明で、優れた人さ。彼女こそ神の代行者であり、この腐りきった世界を正しい方向へと導く救世主なんだ。 レオーネ:……何を言っているのか、相変わらず理解不能だわ。 シアン:僕と彼女とで、創り変えるんですよ、この世界を。『善悪を知る者』として、ね。 レオーネ:『善悪を知る者』……? シアン:僕らは原初に還るんです。そして、愚かな神の過ちを正すんです。 レオーネ:……ああ、なるほどね。やっと少し、理解できたような気がするわ。 レオーネ:聖書の創世記において、神が最初に創った人間である『アダムとイブ』。……あなた達、それになぞらえているというわけね。 シアン:……ふ、さすがはミス・レオーネ、よくお分かりで。 レオーネ:ふふッ、こんなにも血生臭いごっこ遊び、さぞ楽しかったでしょうね? シアン:ごっこ遊び……なんかじゃありませんよ。 シアン:僕らはどこまでも本気です。だからこそ……ここで止まるわけにいかないんです。 シアン:彼女は……僕にとっての光だ。何も持っていない無能で無力で愚かな僕を、彼女は受け入れてくれた。手を差し伸べてくれた。 シアン:僕を認めてくれて、僕を望んでくれた。……そんな人は初めてだった。 シアン:だから僕は、彼女が望むならどこまでも一緒についていく。……そこにあるのがたとえ地獄だとしても、何もない虚無だとしても、堕ちる覚悟ですよ。 レオーネ:……その『イブ』とやらを、相当神格化しているのね。 レオーネ:ふふ、孤独を埋めてくれて、承認欲求を満たしてくれる相手に依存した挙句、狂気に走る。……可哀そうな子。 シアン:……あなたに、何が分かる。 0:レオーネにナイフを向けるシアン。 シアン:お喋りはここまでにしましょう。……さようなら、ミス・レオーネ。 ペコラ:レオーネさま……ッ!! ウォルフ:……やめろ……ッ!! レオーネ:……ふふッ。 シアン:……? シアン:何を、笑っているんですか……ミス・レオーネ…… レオーネ:だって……うふふッ、笑っちゃうでしょう?シアン。……ねぇ? シアン:がッ……!? 0:銃声の後、肩を撃ち抜かれたシアンが膝から崩れ落ちる。 レオーネの手にいつの間にか握られていた拳銃が、白い煙を上げている。 レオーネ:ごめんなさいね?あなたがどうしようもなく愚かだから、笑いを堪えきれなくなってしまって。 シアン:ぐ、あ……ッ…… レオーネ:お馬鹿なシアン。ここがどこであるのか、そして私が誰であるのか、忘れてしまったのかしら?……お前のような虫一匹如き、私の掌で簡単に握りつぶせるというのに。 ウォルフ:れ、レオーネ様…… レオーネ:私をここまで怒らせた人は久しぶりよ。……ふふふッ、さぁて、どうしてあげるのがいいかしらねぇ? ペコラ:……うわ……レオーネさまが……ガチギレしてる…… シアン:……くッ……は、ハハハ……ええ、そうでしょうね、そうですよねミス・レオーネ……!! シアン:あなたはそう簡単に死を捧げてくれるような御方じゃない……分かってるんですよそんなことは……ッ!! レオーネ:あら、それじゃああなたは、無謀にも殺される覚悟で私の元にやって来たとでも? シアン:それがイブの望みだから。あなたの死を、亡骸を彼女に捧げることが僕の使命だからですよ……! レオーネ:ふふ、狂っているわね、シアン。 レオーネ:いえ……“アダム”、とでも呼んであげればいいのかしら? シアン:……ふ、お心遣い、痛み入ります。 シアン:けど僕は、まだアダムにはなれない。証明しなくては。僕がアダムになれるということを、彼女の隣に相応しいということを……あなたの死をもって。 シアン:僕はまだ不完全なんだ、まだ完璧じゃないんだ。……彼女に認められるには、僕が『アダム』になるには、まだ……ッ! レオーネ:ふふふッ、本当に可哀想な子犬ちゃん。私に牙を剝くだなんて、なんて愚かで命知らずなのかしら。 レオーネ:敵に回す相手を間違えたわね。……来なさい、ぐちゃぐちゃになるまで潰してあげるわ。 0:  0:  0:  0:その頃、アパートにて。 イブ:……スネイク、また悲しいの? スネイク:……。 イブ:どうして?……私、失敗しちゃった? スネイク:……俺の、せいか。 イブ:……え? スネイク:俺が、お前を……狂わせちまったのか。 イブ:……スネイク……? スネイク:俺はただ……お前に、俺みたいな汚れた人間になってほしくなかっただけで…… スネイク:……それなのに……俺が、余計なこと言っちまったから…… スネイク:俺があんなこと言わなきゃ……お前…… イブ:どうして、そんなこと言うの……? イブ:私は、あなたのおかげで―― スネイク:もういい、やめろ。それ以上言うな。 イブ:……ッ。 スネイク:……分かんねぇよ……もう……。 イブ:……スネイク、怒ってる……? イブ:ごめんなさい……私……悪いことした? スネイク:……どうすりゃいいんだよ……俺は……。 イブ:スネイク……。 0:少しの沈黙。 スネイク:……(諦めたような、短いため息)。 スネイク:……シアンは。 イブ:え? スネイク:シアンの野郎はどこ行った。 イブ:なんで、シアンを…… スネイク:とりあえず、あの野郎をぶん殴りに行く。……お前のことはその後で考える。 イブ:……、……。 スネイク:さっさと答えろ。シアンはどこだ。 イブ:……お屋敷。 スネイク:屋敷……って、まさか…… イブ:……ミス・レオーネの、屋敷。 スネイク:……チッ……あの野郎……ッ! 0:部屋を出て行こうとするスネイク、その腕を、慌ててイブが掴む。 イブ:ま、待って……行かないで…… イブ:私……まだ…… スネイク:……悪いがあとにしろ。俺はシアンを止めに行く。 イブ:だめよ……そんなの…… イブ:私は、あなたに…… スネイク:……ここで待ってろ。シアンをぶん殴ったあとで……また来る。 イブ:……。 0:そっとスネイクの腕を離すイブ。スネイクはそのままアパートを出て行く。 0:残されたイブは、スネイクが出て行ったドアを見つめながら、ぼんやりと呟く。 イブ:……どうして? イブ:私……あなたに笑ってほしかっただけなのに。 0:  0:  0:  0:レオーネの屋敷にて。 シアン:ぐ……ッ……! 0:膝をつくシアン。それを退屈そうに見下ろすレオーネ。 レオーネ:あら、もうおしまいなの?存外脆いのね、シアン。 シアン:……は、……何、言ってるんですか…… シアン:この程度で……僕の覚悟は、折れませんよ……ッ!! レオーネ:……ッ! 0:シアンのナイフの切っ先が、レオーネの頬を掠めていく。 シアン:僕をここまで導いてくれたのは……善悪を教えてくれたのは彼女なんだ……! シアン:彼女こそ、正義であり救済なんです……僕は、僕の全てを彼女に捧げ―― 0:(ペコラ、シアンの言葉に被せるように) ペコラ:――あーもう、いい加減ごちゃごちゃうるっさいんだよッ!! シアン:……ッ!? 0:背後から、ペコラがシアンに襲いかかる。 ペコラ:あんたの事情なんか知らんし!興味ないし!ていうかさっきから小難しい話ばっかりでめんどくさいし! シアン:チッ……まだ動けたのか、キミ……! ウォルフ:悪いが……こっちにもいるぞ……ッ! シアン:く……ッ!? 0:さらにウォルフがペコラに加勢する。 0:一度距離を取るシアン。 レオーネ:ウォルフ……ペコラ……。 ウォルフ:これ以上、レオーネ様を危険に晒すわけにはいきませんから。 ペコラ:ま、侵入を許しちゃった時点で、護衛役としてはマイナス点だけどねー。 シアン:は……はは……しつこいな、キミたちも……。 ウォルフ:レオーネ様、下がっていてください。……ここから先は、僕たちが。 ペコラ:さてさて犬のおじさーん、私のナイフで八つ裂きにされる覚悟はオッケーかなぁ? シアン:張り切っているところ悪いけれど……子どもの出る幕はないよ。 ウォルフ:それを決めるのはお前じゃない。……僕たちは僕たちのやるべきことをやる。 ウォルフ:お前はレオーネ様を傷付けた。僕たちがお前を敵とみなすには、それだけで十分だ。 シアン:ふふ、かっこいい執事さんだ。……だけどね、思い上がっちゃいけないよ。 シアン:たかが子どもに何ができる。キミたちの幼稚な正義感なんて、僕の覚悟には到底及ばないよ。 ウォルフ:……なんだと? シアン:ごっこ遊びというなら、キミたちこそまさにそうじゃないか。ただの子どもが武器なんて手に取って、大した覚悟もないままそれを振るう。 シアン:守りたいから、戦わなくてはいけないから。……口で言うのは簡単だろうね。だけどその言葉に、一体どれほどの重みがあるのか。 シアン:所詮は戦闘ごっこに憧れる子どものお遊びだ。そんなもので僕の邪魔をするのは―― ペコラ:(呟くように)……うるせーな。 シアン:…………何か言ったかい? ペコラ:うるっせぇなって言ったんだよ、この野郎ッ!! シアン:……ッ!? 0:ペコラのナイフがシアンめがけて猛スピードで飛んでいく。 0:それを間一髪で躱したシアンの耳に、ペコラの叫ぶような声が聞こえてくる。 ペコラ:幼稚な正義感?子どものお遊び?……お前がそれを言うなよ、この弱虫ッ!! ペコラ:思い上がってるのは、己惚れてんのはそっちだろ!自分がこの世で一番不幸みたいな顔しやがって、わけわかんない理屈をごちゃごちゃ並べ立てて! ペコラ:お前は責任転嫁してるだけじゃないか!悪いのは自分じゃない、世界が悪いんだって、そうやって自分を正当化してるだけだろ!幼稚なのはどっちだ!! シアン:……ッ! ペコラ:神様だの善悪だのって、そんなの全部後付けなんだよ!人生なんて自分でどうにかするものだろ!自分で決めた道を自分で歩くことしかできないんだから! ペコラ:周りのせいにして逃げて、現実から目を背けまくってるお前なんかに、私たちの覚悟を踏みにじる資格なんかないんだよッ!! レオーネ:……ペコラ…… シアン:……は……ハハ……。 シアン:本当に、口だけは達者だね……笑わせるなよ…… シアン:……キミに……キミなんかに……僕の何が分かるって言うんだ……? シアン:僕の周囲が望んだのは僕という存在じゃない、僕が持ってくる結果だけだった……結果が伴わなければ、所詮僕は役立たずのガラクタだった。 シアン:“僕”が、何をどんなに頑張っても、足掻いても、誰も“僕”を認めてくれない、受け入れてくれない、微笑みかけてくれない!僕はただ結果を生み出すだけの……命を持たない機械や人形と同じだった! シアン:そんな、冷めきって、醜くて、愛す価値のない人間を……恨んで、憎んで、蔑むことの、何が悪いんだ? シアン:キミなんかが……この世の苦痛なんて何も知らないような、キミみたいな子どもが、偉そうに説教なんて―― ウォルフ:……勝手に、決めつけるなよ。 シアン:……何? ウォルフ:お前こそ、この世の子どもがみんな平穏で温かくて愛された生活を送ってるなんて……ふざけんな、勘違いもいいところだ。 ウォルフ:武器を握る理由が、子どもらしい戦闘ごっこへの憧れだったなら、どんなに良かっただろうな。 ペコラ:ウォルフ…… ウォルフ:でもその憧れすら抱く暇もなく、子どもらしい夢を見ることもできないまま……「命を繋ぐために」、或いは「自分を守るために」、必要手段として武器を握り始める。 ウォルフ:僕みたいに、平穏という言葉に縁のない子どもも……ペコラみたいに、愛していたはずの人たちから裏切られる子どもも、間違いなくこの世にいるんだ。 ウォルフ:辛いのは、苦しいのは、お前だけじゃねぇよ。……履き違えるな。 シアン:……、……。 レオーネ:……命は醜い。罪の塊。それは確かに真理かもしれないわ。神が原初に過ちを犯したというのも、間違ってはいないのかもね。 レオーネ:ねぇ、シアン。あなたが、そしてあなたの崇拝する『イブ』とやらが、世界を創り変えるというのなら、正しい世界へ導くというのなら……あなたたちになら、救えるというのかしら? レオーネ:両親の顔も知らず、ごみ溜めを漁って毎日を食い繋ぎ、その途中で握りたくもなかった武器を手にして、殺すか殺されるかの日々を過ごす少年を。 レオーネ:あるいは、信仰深さのあまり正気を失った家族に、神への生贄としてその身を捧げることを強いられた、何の罪もない少女を。 レオーネ:あなたが「善悪を知る者」だというのなら、もちろん救えるのでしょう?……この子達を。 レオーネ:だって間違いなくこの子たちは、救われるべき「弱い存在」だわ。理不尽にその身を、心を、傷付けられたのだから。……あなたと同じように、ね。 シアン:……それ、は。 レオーネ:救ってみせなさいよ、導いてみせなさい。あなたたちが神の代行者であるというのなら。そして、その覚悟があるというのなら。それを示してみせなさい。 シアン:……、……。 レオーネ:……ふ、だんまりなのね。 レオーネ:所詮はその程度ということよ、シアン。 シアン:……違う、僕は……僕は、イブと…… レオーネ:あなたの掲げるものなんて、夢見るものなんて、結局は独りよがりの我儘でしかないということよ。 シアン:うるさい……僕は……僕はッ……! レオーネ:もう終わりよ、シアン。……最初から間違っていたのよ、あなたは。 シアン:違う……ッ!! シアン:僕は、僕は絶対に……―― スネイク:――……いや、もう終わりだよ、大馬鹿野郎……!! シアン:ぐぁッ……!? 0:銃声の後、シアンの身体が崩れ落ちる。 0:その背後に息を切らして立っていたのはスネイクだった。 レオーネ:……スネイク……! ペコラ:蛇のおじさん!帰ってきたの……!? シアン:……な……なん、で……キミ、が…… シアン:い、イブ……は…… スネイク:……ふざけんなよクソ野郎……あんな、あんなガキまで巻き込みやがって…… スネイク:いつまで寝ぼけてんだよ、このバカ犬が……! シアン:……ふざけるなって……それは、こっちのセリフさ、スネイク……! シアン:毎回毎回……僕の、邪魔ばかり……ッ! スネイク:邪魔だろうがなんだろうが、何回でもやってやるよ。テメエをぶん殴ってやれるなら何度だってよォ! シアン:こ、の……ッ!! スネイク:ぐッ……!? 0:飛んでいくシアンのナイフが、スネイクの腕へと命中する。 シアン:僕の、思いなんて……何も、知らないくせに……ッ! スネイク:ああ、知らねぇよッ!なんにも知らねぇッ! シアン:だったら……もう、僕に……構うなよッ!! 0:シアンの猛攻が続く。 スネイク:チィッ……ッ! ウォルフ:おいスネイクッ! ペコラ:私らも加勢す―― スネイク:うるせえ!お前らはすっこんでろ!! ウォルフ:……ッ。 ペコラ:な、なんでさ……! スネイク:こいつは俺の問題なんだよッ!こいつは俺がぶん殴ってやらなきゃ意味がねぇッ! スネイク:お前ら巻き込まれたくなかったらそこでじっとしてろやッ! ペコラ:お、おじさん……。 レオーネ:……言う通りにしていなさい、二人とも。 ウォルフ:……はい……。 ここから、スネイクとシアンの、ほとんど殴り合いのような戦闘が始まる。 シアン:キミには本当に……イライラさせられてばかりだよ、スネイク……ッ! スネイク:そりゃあ悪かったなァ!けどこんな俺を相方に選んだのはテメエだろうがよッ! シアン:ああ、そうだね……キミと出会ってしまった不運を、僕は何度呪ったか分からないさッ! シアン:僕は……僕は本当に、キミが大嫌いだよ、スネイク……! スネイク:ハッ、好かれてるなんて思ったこともねぇよッ! スネイク:俺はそもそも人間が嫌いだ、理解したいと思ったことも、受け入れたいと思ったこともねぇッ! スネイク:だけどよ、それでも俺は…… スネイク:俺は……お前と組んだことは後悔してねぇよ……! シアン:……! スネイク:好きじゃねぇよ、お前のことは!真面目でつまんねぇわ、いっつもヘラヘラ笑っててムカつくわで! スネイク:だけど俺は……お前だっだから、安心して背中預けていられた! スネイク:俺が、初めて「信じていい」って思えた相棒だったんだよ、お前は! シアン:……スネイ、ク…… スネイク:俺が信頼してたのは、お前の「結果」じゃねぇ!そんなもんなくたって俺は、お前が良かった!役立たずでもガラクタでも、機械でも人形でもねぇ!今ここに生きてるお前が良かったんだよッ! スネイク:なのに……なのにテメェはよォ……! シアン:……ッ…… シアン:全部……聞いてたのかい……さっきの話を…… スネイク:……悪かったな、耳はいい方なんだよ。 シアン:ハハ……そう、か…… シアン:……なあ、スネイク……僕は……―― イブ:――……待って、シアン。 シアン:……え? スネイク:……ッ! 0:いつの間にか廊下に立っているイブ。 0:その死にきった目は、真っ直ぐにシアンを見つめている。 ウォルフ:な……こいつ、いつからそこに……!? シアン:イブ……どうしてキミが、ここに…… ペコラ:『イブ』って……やっと黒幕のお出ましかよ! イブ:シアン……もうやめましょう。 イブ:私、気付いたの。……最初から、間違ってたわ。 0:真っ直ぐにシアンだけを見つめて、イブはシアンに歩み寄る。 ペコラ:なんだよお前、今さら善人面したって遅いんだからな! ウォルフ:ああ、そうだ。……どれだけの人間を巻き込んだと思ってるんだ、『林檎の悪魔』め。 イブ:……。 0:ウォルフとペコラには目もくれず、歩いていくイブ。 ペコラ:……っておい!無視すんなよ! イブ:……。 ペコラ:おい、聞けっての! イブ:……シアン。 シアン:……なんだい、イブ。 イブ:もう、やめましょう。 シアン:……なぜだ、イブ。もうすぐ僕は……僕たちは…… イブ:いいえ……だめなの。 イブ:やっぱり……「あなたじゃ、だめなのよ」。 シアン:え?…………ッ!? 0:苦痛に顔を歪めるシアン。 0:その腹部に、銀色に光るナイフが突き刺さっていた。 シアン:……あ、…… シアン:……イ、ブ……? イブ:……ごめんね、シアン。 シアン:……どう……して…… イブ:……あなたは、アダムになれないの。 シアン:……あ、…… シアン:そん……な………… 0:ゆっくりと、シアンの身体が膝から崩れ落ちていく。 レオーネ:……!! ウォルフ:な…… ペコラ:こいつ、自分の仲間を……! スネイク:シアン……ッ!!? シアン:……か、は…… スネイク:おい、しっかりしろシアン!!おい!! シアン:は、ハハ…… シアン:悔しいなぁ……スネイク……僕は、最後まで……キミには……敵わないね…… スネイク:馬鹿野郎、喋るんじゃねぇッ! スネイク:とにかくなにか応急処置―― シアン:分かってたんだ……最初から…… シアン:イブが必要としていたのは……僕じゃなくて、キミだったんだってこと……僕じゃ、彼女にとっての……アダムにはなれないってこと…… シアン:分かってたけど……それでも、どうしても……認められたくて……キミに、追いつきたくて…… スネイク:だから!喋るなって言ってんだろうがッ!! シアン:……キミはずるいよ……スネイク…… シアン:最後の最後で、あんなことを、言われたら……僕は、死んでもキミを、憎みきれないじゃないか…… スネイク:馬鹿なこと言ってんなよボケナスが……! シアン:……どうして……もっと早く、気付けなかったかな…… シアン:僕はね、スネイク……キミの前では、いつだって……僕らしくいられたよ…… シアン:最期まで……ケンカしてばかりだったけど、ね…… スネイク:……おいふざけんな、死ぬなよ……こんな死に方許さねぇぞシアン……ッ! シアン:……最後に……これだけ聞いてくれるかい、スネイク…… シアン:ずっと、騙してて……たくさん傷付けて、ごめん…… シアン:それから…………ありがとう………… 0:悲しそうに微笑みながら、シアンがそっと、瞼を閉じる。 スネイク:……おい、シアン…… スネイク:起きろよ……起きろっての、シアン……ッ! スネイク:ふざけんなよ……ふざッけんなこの馬鹿野郎……ッ! ペコラ:……なんだよ……こんなのって……こんなのってさ…… ウォルフ:……あんまり、だろ…… イブ:……。 レオーネ:……これで、満足なのかしら? レオーネ:あなたはその小さな手で、一体何人を殺めれば気が済むのかしらね……イブ。 0:そっと、イブに向けて銃を構えるレオーネ。 レオーネ:残念だけど……あなたをこれ以上、生かしておくわけにいかないわ。 レオーネ:このまま放っておいたら、私の仕事にも影響しそうだし……それに何より。 レオーネ:……なぜかしらね。私は今、あなたに対してとても……怒りを覚えている。 イブ:……怒り? イブ:あなたが私に、怒り?……どうしてかしら、ミス・レオーネ。 レオーネ:私の方が知りたいわ。こんな感情が湧くのは久しぶりよ。 レオーネ:……あなたを殺せば収まるのかしらねぇ?この怒りのような、やるせなさのような……形容しがたい感情は。 イブ:……ふふッ。 ウォルフ:……何笑ってんだよ。 イブ:……ふふふッ……あははははッ!! ペコラ:……は?……何コイツ、頭おかしくなったの? イブ:私を殺す?あなたが?あなた如きが?……何を言ってるのかしら、おかしくて笑いが止まらないわ! イブ:あなたなんかに、あなたたちなんかに!私が殺せるわけがない!そんなものは認められない! イブ:あなたたちは所詮「部外者」!「余所者」よ!私はあなたたちを愛せないわ、私の「愛」はあなたたちを救わないわ! レオーネ:……可哀そうな子。 レオーネ:何があなたをそこまで狂わせたのかしら。……世の中って残酷ね。 イブ:そうよ……こんな残酷な世界、間違ってるでしょう?……何もかもは間違いよ、欠陥品よ、悪なのよ……! イブ:でも、そんな世界で……私にとっての唯一の光は、正解は、希望は……スネイク、あなただったのに……! イブ:あなたに笑ってほしかった!喜んでほしかった!認めてほしかった!あなたに追いつきたくて、あなたみたいになりたくて!だから私いっぱい考えて、いっぱい頑張って、一生懸命ここまで来たのに……ッ! イブ:どうして……どうしてあなたは笑ってくれないの?……どうして、まだそんな、哀しそうな顔をするの……? イブ:私が救いたかったのは……愛したかったのは……あなた一人なのに……! ウォルフ:……「最初から間違ってた」っていうのは……シアンを選んだことが、そもそも間違いだったって……そういうことか。 イブ:……彼、とっても優しかったわ。私、彼のこと好きだった。 イブ:だけど私が欲しかったのは彼じゃなかったから。……最初から、スネイク以外の人をアダムに選ぶつもりなんてなかった。 イブ:彼は、スネイクと繋がりがあった。彼と一緒にいれば、スネイクに会える。……そう思ったから。 ウォルフ:……ただ利用してただけってことか。 ペコラ:そんなのあんまりだろ……あいつはお前のこと、本気で想ってたぞ!! ペコラ:お前のためなら自分はどうなったっていいって、お前に全てを捧げるって!! ペコラ:あいつが正しかったとは思わないけど!……それでも、利用してただけなんて……最初から選ぶつもりなんてなかったって、そんなのって……ッ! レオーネ:……よしなさい、ウォルフ、ペコラ。今の彼女に、何を言っても無意味だわ。 レオーネ:見なさい……彼女、もうスネイクのことしか見えていないわ。 スネイク:……、……。 イブ:ねえ、スネイク……どうしてなの?……私、何を間違えたの? イブ:私は愛したかっただけなのに……救いたかっただけなのに…… 0:(スネイク、一呼吸置いてから) スネイク:……俺はなぁ。 スネイク:昔から、周りの人間を不幸にするって言われてきたんだ。 イブ:……? スネイク:俺と一緒にいる奴は、だいたいがろくなことにならねぇ。母親ですら俺を産んだときに死んで、俺を食わせるために働いてた父親はヤクザの喧嘩に巻き込まれて死んだ。 スネイク:……世界ってやつを恨んだ。こんな俺を必要とする奴なんざいねぇって、諦めながら生きてた。 スネイク:お前が初めてだったんだよ……こんな俺を、正義の味方だなんて言って……あんなキラキラした、透き通った優しい目で見つめてくる奴なんてよ。 スネイク:だから……お前に、俺みたいになってほしくなかった。あのキラキラした目を、俺みたいに濁らせたくなかった。……それだけだった。 スネイク:だけど……どこかでそれが、歪んじまったんだろうな。 スネイク:俺はまた……誰かを不幸にしただけだ。 イブ:……そんなこと、ない…… イブ:私は……私、は…… イブ:……わた、し…… 0:少しの沈黙。 0:何かを考え込むように俯いていたイブは、やがて震える手で、懐から一本のナイフを取り出す。 イブ:……私、は。 イブ:あなたを……救ってみせるわ。 スネイク:……。 ウォルフ:おい、何する気だお前……! ペコラ:おじさん!危ないよ! レオーネ:……スネイク! イブ:あなたが、この世界じゃ笑って生きられないのなら……新しい世界で、私が正しく創り変えた世界で、またあなたを…… スネイク:……救い、か。 スネイク:死が救済だっていうならよ……一つ聞いていいか。 0:静かに、銃口をイブに向けるスネイク。 スネイク:……俺が、今ここでお前を撃つことも、お前にとっちゃ救いなのか? イブ:……スネイク…… 0:一瞬、驚いたように銃口を見つめるも、どこか悲しそうに微笑んでみせるイブ。 イブ:……ふふ。 イブ:あなたが、救ってくれるの?……間違えてしまった私を。 スネイク:……。 レオーネ:……スネイク。 レオーネ:あなたが手を汚す必要はないわ。私が―― スネイク:いや。 スネイク:……俺に、やらせてくれ。 レオーネ:……でも。 スネイク:俺の問題だ。 レオーネ:……、……。 レオーネ:……そう、ね。 スネイク:おい、ウォルフ、ペコラ。 ペコラ:……なに、おじさん。 スネイク:……目ェ瞑ってろ。 ウォルフ:…………分かった。 イブ:……ねえ、スネイク。 イブ:私が愛せるのは、あなただけよ。私が救いたいのは、あなただけ。 イブ:……そして、私を愛せるのも、救えるのも……あなただけよ、スネイク。 イブ:私の……正義の味方。 イブ:今までも、これからも。 スネイク:……分かってるよ。 スネイク:分かってる…………ごめんな。 0:  0:銃声。 0:  0:  0:  0:(ペコラ、ナレーション) ペコラ:(N)そっと目を開けたとき、イブの身体がちょうど、床に崩れ落ちるところだった。 ペコラ:(N)表情はよく見えなかったけど……あいつは、微笑んでるみたいに見えた。 ペコラ:(N)安心したような、やっと楽になれたというような……でもどこか哀しそうな、そんな顔だったように、見えた。 ペコラ:(N)ふざけんなよ、なんでお前がそんな顔すんだよ。どれだけの人を傷つけたと思ってるんだ。 ペコラ:(N)お前なんて……お前なんて。 ペコラ:(N)すぐそこまで出かかったその言葉を、結局口には出せなかった。 ペコラ:(N)自分でもよく分からないけど……なぜか、目を閉じる直前に見た、イブの表情が。 ペコラ:(N)泣きそうな、不安そうな……まるで、迷子の子どもみたいな、そんな顔が。 ペコラ:(N)昔の私に似ていたような、重なったような、そんな変な感じがしたから。 0:  0:(ウォルフ、ナレーション) ウォルフ:(N)銃声の後、目を開けてまず最初に見えたのは、立ち尽くすスネイクだった。 ウォルフ:(N)あいつは、泣いていた。 ウォルフ:(N)何も言わず、そこにじっと立っているスネイクの頬に、一筋の涙が伝ったのが見えた。 ウォルフ:(N)何も言えなかったし、言うべきじゃないのはすぐに分かった。 ウォルフ:(N)無愛想で、失礼で、だらしのない男。 ウォルフ:(N)だけど、ボロボロになりながらも相棒に向けて叫び続けたあの男は。 ウォルフ:(N)「自分が周りを不幸にするから」と、絞り出すようにそう語っていたあの男は。 ウォルフ:(N)本当は優しくて、他人想いで、ひとりぼっちが嫌いで。 ウォルフ:(N)でもそれが、不器用だからこそ上手く伝えられなくて。 ウォルフ:(N)そんな、彼の本当の姿が……そのとき初めて、僕の目に映ったような気がした。 0:  0:  0:  0:数日後。 レオーネ:……どういうことかしら?スネイク。 スネイク:どうもこうも、そのまんまの意味だよ。 レオーネ:「自分に護衛役は無理だからここを出て行く」だなんて……そんなの私が認めるとでも? スネイク:あんたが認めるか認めないかはどうでもいい。俺はもう決めた。 スネイク:これ以上、あんたとあのガキどもに迷惑かけるわけにはいかねぇよ。……俺はやっぱり、一人でいるのがちょうどいい。 スネイク:……ってなわけだ、今まで世話になったな。 レオーネ:ちょっと、最後まで私の話を―― スネイク:聞く気はねぇよ、あんたの長話にもそろそろうんざりしてきた。 スネイク:ガキどもにも、よろしく伝えておいてくれ。じゃあ―― ペコラ:――ちょぉーっと待ったぁ!! スネイク:おわッ!? 0:突然スネイクの前に立ちはだかるペコラとウォルフ。 ペコラ:どーこ行くつもりなのかなぁ、おじさん? ウォルフ:悪いが、ここから先は一歩も通さないぞ。 スネイク:な、お前ら……! ペコラ:出て行くとか認めないかんね!そんなのいいわけないでしょーがっ! スネイク:なんでだよ!ガキはすっこんでろや! ウォルフ:ガキガキってうるさいんだよ!いい加減ガキ扱いすんじゃねぇ! スネイク:俺から見りゃあ十分ガキなんだよ! レオーネ:……ちょっと、落ち着きなさい三人とも…… ペコラ:ていうか!おじさんってばいろいろ勘違いしすぎなの! スネイク:あァ!?何がだよ!! ペコラ:私ら、おじさんのこと迷惑だなんて一度も言ったことないし!なのに迷惑かけられないから出て行くとか意味わかんないしっ! スネイク:いや、それは……実際迷惑かけてんだろうが……! ウォルフ:ああ確かに、かなり迷惑だった!ものすごく迷惑だった! ペコラ:ちょっとウォルフ!?私の言葉が一瞬で矛盾したんだけど!? ウォルフ:事実を言ったまでだ。僕は正直かなりとてもお前のことが迷惑だった。 ペコラ:ええ…… スネイク:じゃあ俺が出て行こうが関係ねぇじゃねぇか。 ウォルフ:……迷惑だったけど。 ウォルフ:でも、お前に何度も助けられたのも事実だ。 レオーネ:ウォルフ…… ウォルフ:僕は……お前のこと、ちょっと勘違いしてた。 ウォルフ:お前は無愛想でだらしがなくて、失礼な奴だと思ってた。お前なんかにレオーネ様の護衛なんて務まるわけないって、任せられないって、そう思ってた。 ウォルフ:でも……そうじゃないって、少し、分かったような気もする。 ウォルフ:お前は嫌な奴だけど、悪い奴じゃない。……だから…… ウォルフ:えっと……だから、その…… ペコラ:……素直じゃないねぇ、ウォルフ。いなくなったら寂しいから出て行かないでって正直に言えばいいのに。 ウォルフ:ばっ……寂しいとかそんなんじゃない! ウォルフ:ただ、こいつがいなくなったらレオーネ様が困るから……レオーネ様のために引き留めてるだけだ! レオーネ:ふふふ、本当に素直じゃないのねぇ、ウォルフ。 ウォルフ:レオーネ様までやめてください! スネイク:……だけどよ、俺は…… スネイク:お前らのことまで……不幸にするぞ。 スネイク:シアンも、あのガキも……俺のせいで死んだようなもんで…… レオーネ:あのね、スネイク。私はこう思うわ。 レオーネ:あなたは最後の最後で、あの二人を救ったんだって。 スネイク:……俺が? レオーネ:そう。……それは、イブが言っていたような救いとは少し違う。魂を救ってあげたのではなくて、心を救ってあげたのではないかしら。 スネイク:……心を…… ウォルフ:僕も、そう思います。 ウォルフ:シアンとイブの、最期のあの表情を見てたら……なんとなく、ですけど。 レオーネ:ええ、そうね。 レオーネ:きっかけはあなただったのかもしれないけど……歪んだ原因はあなたじゃない。 レオーネ:少なくとも、私はそう思う。 スネイク:……。 ペコラ:あのね、おじさん。 ペコラ:私、大人なんて大っ嫌いだけど……おじさんとレオーネさまのことは好きだよ? スネイク:……はァ? ペコラ:おじさんって優しいし、面白いし!あと、私のフレンチトースト美味しいって言ってくれるし! ペコラ:お掃除は手伝ってくれないけど、重いものは私の代わりに運んでくれるし……私たちが本当に危ないときは、必死に守ってくれる。 ペコラ:だから私、おじさんが絶対出て行くって言ったって、そんなの認めないもんね! スネイク:……お前なぁ…… レオーネ:ふふ、もう諦めなさいスネイク。あなたもすっかり、この屋敷の一員ということよ。 ウォルフ:まあ、このままここに住むというなら、もう少し態度を改めてもらいたいところではありますが。 ペコラ:もー、ウォルフってば、まーたそういう可愛くないこと言ってー。 ウォルフ:うるさい。 スネイク:……いいのか。 スネイク:こんな俺が、ここにいても……いいってのかよ……。 レオーネ:スネイク、私が誰だか忘れたかしら? レオーネ:あなたという人間の内を、初めて会ったその日に見抜けなくて、裏社会のトップが務まると思う? レオーネ:私は最初から、あなたを信じていたからここに呼んだのよ、スネイク。 ウォルフ:レオーネ様が信じる人なら……僕も信じる。 ペコラ:私もー! スネイク:……。 スネイク:……ハハ、敵わねぇなァ、こりゃあ。 レオーネ:ふふふ、それじゃあさっきの護衛役辞退の話は、なかったことにして構わないわね? スネイク:……好きにしな。 ペコラ:やったぁー! ペコラ:ね、おじさん!もうこのままずっとここにいてね! スネイク:あー……そいつはどうだろうなァ。 ウォルフ:何言ってんだ、レオーネ様と契約したんだから、死ぬまでここにいろよ。 レオーネ:あなたはやっぱり素直じゃないわね。 ウォルフ:そんなんじゃありません。 スネイク:お前もちっとはペコラみてぇに子どもらしくしてみろよ、ウォルフ。 ペコラ:そーだそーだ! ウォルフ:うるさいな!僕は子どもじゃない!ペコラがバカっぽいだけだ! ペコラ:あ!バカって言ったな! ウォルフ:ああ言ったよ! ペコラ:バカって言う方がバカなんだぞ!ウォルフのばーか! ウォルフ:そういう子どもみたいなこと言ってるからバカって言われるんだ! スネイク:おいうるせぇぞお前ら、ギャーギャー騒ぐんじゃねぇ。 レオーネ:あらあら、これは……今まで以上に、賑やかになりそうね。 0:  0:  0: 

0:  0:(モノローグ) シアン:はるか昔に、人は罪を犯したという。 シアン:禁断の果実に手を伸ばし、神に背いた人間は、楽園から追放された。 シアン:しかし彼らは、罪を犯したと同時……“善悪”なるものを知った。 シアン:正しきとは何か、悪しきとは何か。……その答えは目の前にある。 シアン:この世界に嫌というほど溢れている醜い悪が、いつか綺麗に消え去るとき……それはきっと、正しい世界が目を覚ますとき。 シアン:創らなくちゃいけない。正さなくちゃいけない。僕と、彼女で。 シアン:だって僕たちは――『善悪を知る者』なのだから。 0:  0:  0:  0:(タイトルコール) シアン:『号哭のレクイエム』 0:  0:  0:  0:レオーネの屋敷にて。 ペコラ:はー……だるい……。 ペコラ:ねーねーウォルフ、やっぱりさ、新しいお掃除係さん雇ってもらおうよ。こんなに広いお屋敷一人で掃除するとか無理。 ウォルフ:仕方ないだろ、レオーネ様は余所者をこの屋敷に入れるのが嫌いなんだから。 ペコラ:それもそっかぁ……。 ペコラ:でもさ、そんなレオーネ様がわざわざ護衛役として雇ったんだから、蛇のおじさん、相当気に入られたってことだよねー。 ウォルフ:……なんでレオーネ様はあんな男を雇ったりしたんだ……僕は未だに理解できない……。 ペコラ:あはは、ウォルフってば、蛇のおじさんのこと嫌いすぎじゃん。 ウォルフ:ああ嫌いだ。大ッッッ嫌いだ。あんな無愛想で失礼でだらしのない男なんか。 ペコラ:……無愛想ってとこに関しては人のこと言えないけどね、ウォルフ。 ウォルフ:なんか言ったか? ペコラ:言ってないでーす。 0:話している二人のもとに、レオーネがやってくる。 レオーネ:あら、ここにいたのね、二人とも。 ペコラ:あ、レオーネさまだ、やっほー。 ウォルフ:やっほーってなんだよペコラ、失礼だぞ。 ペコラ:えー、いいじゃんか別に。レオーネさま怒らないもん。 ウォルフ:あのなぁ…… レオーネ:構わないわよウォルフ。またケンカになりそうだからその辺りにしておいてちょうだい。 ウォルフ:……すみません。 レオーネ:それより、二人に聞きたいのだけれど……スネイクはどこに行ったのかしら? ペコラ:え?蛇のおじさん? ウォルフ:レオーネ様と一緒にいたのでは? レオーネ:いいえ、朝食を食べて部屋を出て行ったきり見ていないのよ。自室にも戻っていないようだったから、てっきりあなた達と一緒にいるのかと思ったのだけれど…… ウォルフ:どこ行ったんだあいつ……さては逃げ出したのか……? ペコラ:えー、そんなの契約違反じゃん。 ウォルフ:でもあいつ、レオーネ様に雇われるのも渋々だっただし……考えられなくはないだろ。 レオーネ:……とにかく、もう少し屋敷の中を探してみるわ。あなた達も、スネイクを見かけたら教えてくれる? ペコラ:おっけーだよん。 ウォルフ:しかしレオーネ様、あの男に何か用事でも? レオーネ:ちょっと、聞きたいことがあってね。 ペコラ:聞きたいこと?恋人がいるか、とか? ウォルフ:そんなわけないだろ、そもそもあいつに恋人なんかいないよ絶対。 ペコラ:うわ、軽く失礼……。 レオーネ:あなた達、あの夜のこと、覚えてる? レオーネ:『林檎の悪魔』……シアンに、襲撃された夜のこと。 ペコラ:ああ、あの頭沸いちゃってる犬のおじさんね。 ウォルフ:……忘れるはずがありません。 レオーネ:彼が去り際に叫んでいたのよ。……『イブ』って。 ウォルフ:……イブ? ペコラ:なにそれ、誰かの名前? レオーネ:私にも詳しく分からなかったけれど……どうにもその『イブ』というのが、この『林檎の悪魔』の事件に深く関わっているような気がしてね。もしかしたらスネイクが、何か知っているかもと思って。 ウォルフ:まあ、自分の相方が『林檎の悪魔』だったことすら気付けていなかった男ですから、何か知っている可能性は低そうですが……念のために聞いてみてもいいかもしれませんね。 ペコラ:じゃあ、蛇のおじさん見つけたらレオーネさまに知らせるね。 レオーネ:ええ、お願いね。 0:  0:  0:  0:その頃、某所にて。 0:カーテンが閉められ、わずかな明かりしかない薄暗い部屋の中、包帯の巻かれた腕をさすりながら椅子に座っているシアン。 0:独り言のように何かを呟いている。 シアン:……この世界は醜い……醜いものだらけだ…… シアン:神は……創るものを間違えたんだ……そしてその過ちを、覆い隠そうとした…… シアン:はは、愚かだな……原初の過ちのせいで……この世界はこんなにも…… 0:そのとき、誰かがドアをノックする。 シアン:ああ……帰って来たかな。 シアン:……『合言葉は?』 イブ:……『知恵の木の実』。 シアン:オーケー、どうぞ。 0:ドアが開き、一人の少女が入ってくる。 シアン:……ふ、お帰り。『イブ』。 イブ:ただいま、シアン。 0:少女は微笑み、シアンに抱きつく。 イブ:とっても疲れたわ……外の空気は相変わらず淀んでるんだもの。吸っているだけで具合が悪くなっちゃう。 シアン:大丈夫かい、イブ。ほら、ここに座って。ゆっくり休むといい。 シアン:今紅茶を淹れるから、少し待っててくれるかい。……ダージリンで良かったかな? イブ:ええ、ありがとうシアン。 シアン:キミのためならお安い御用さ。 シアン:でも……イブ。 イブ:なぁに? シアン:やっぱりまだ僕のことを……『アダム』とは呼んでくれないんだね。 イブ:……。 シアン:分かってるよ、僕はまだ、キミのようには上手くできないから……キミの隣に並ぶのは、まだ難しいんだろうけど…… イブ:いいえ、あなたは……本当によく頑張ってるわ。 イブ:私、あなたを選んで良かったと思っているもの。 シアン:なら…… イブ:でもね、シアン。まだなの。まだ、あとほんの少しだけ、足りないの。 イブ:あなたが完全な『アダム』になれるのは……まだもう少し先。 シアン:……そうか……キミがそういうのなら仕方ないね。 シアン:でも僕は……まだ『アダム』になれないとしても……『正しい世界』を創るために、諦めはしないよ。 イブ:ええ……そうね。 0:(少しの間) イブ:……そういえば、シアン。 シアン:なんだい。イブ。 イブ:もうすぐ……“彼”は来るのかしら。 シアン:ああ、それなら大丈夫だよ。きちんと手紙を出しておいた。こっちに向かっている頃じゃないかな。 イブ:……そう。 0:嬉しそうに微笑むイブ。 イブ:また、会えるのね……“彼”に。 シアン:でもイブ……なぜなんだい? シアン:なぜキミが……スネイクに会いたいだなんて。 イブ:それは………… イブ:…………。 0:何かを考え込むように、あるいは思い出しているように、黙り込むイブ。 シアン:……イブ? イブ:……ふふ、懐かしいわ。 イブ:あの日の私には、まだ……名前なんてなかったから。 シアン:……? イブ:ふふ、ごめんなさい。少し、思い出に浸っていたの。 イブ:何も知らなかった、愚かな子どもだった頃をね。 シアン:……今のキミは、とても聡明だよ、イブ。 シアン:誰よりも賢くて……誰よりも正しい人だ。 イブ:ありがとう、シアン。 イブ:私たちなら、きっと創れるわ……悪のいない、『正しい世界』を。 0:  0:  0:  0:その頃、路地裏を歩いているスネイク。 スネイク:……(ため息)。 スネイク:シアンのやつ……今更手紙なんざ寄こしてきやがって…… 0:懐から手紙を取り出すスネイク。そこには短い一文と、どこかの住所、文末には林檎のマーク。 スネイク:なーにが「再び話そう」だ、この野郎……散々俺のこと騙してたくせによ…… スネイク:……あーくそ……気に入らねぇ…… 0:手紙を懐にしまい、スネイクは空を見上げる。 スネイク:……(再び重いため息)。 スネイク:こうやって一人で歩いてると、柄にもなく、思い出しちまうな……昔のこと……。 0:  0:  0:  0:回想。 0:数年前。 0:路地裏で突っ立っているスネイク。周囲には数人が倒れている。 0:返り血塗れのスネイクは、光の宿らない目でそれを見下ろしている。 スネイク:……(舌打ち)。 スネイク:……今回も雑魚ばっかかよ……つまんねぇな。 スネイク:まあ、こんなんで金が貰えるならいいか…… 少女:……ねえ、お兄さん。 スネイク:……あ? 0:振り返ると、いつの間にかボロボロの姿の少女がそこに立っている。 少女:……それ、何してるの? スネイク:……なんだテメェ。 少女:なんで人がいっぱい倒れてるの?なんでお兄さんは血だらけなの? スネイク:……ガキが見るもんじゃねぇ、あっち行ってろ。 少女:教えてよ、なんで? スネイク:いい加減にしろ、俺はガキが嫌いなんだよ。さっさと親のところにでも戻れ。 少女:私、親なんていない。 スネイク:……は? 少女:ママもパパも、どっか行っちゃった。 スネイク:……、……。 スネイク:(……こいつ、孤児か……?) 少女:ねえ、お兄さん。 スネイク:……ンだよ。 少女:どうしてその人たちのこと殺しちゃうの? スネイク:……ッ。 少女:ねえ、どうして? スネイク:……どうしてって……そりゃあ…… スネイク:……これが、俺の仕事だからだよ。 少女:仕事? スネイク:……お前みたいなガキが詳しく知らなくていい。 スネイク:とにかくどっか行け。俺と一緒にいたらろくでもないことになるぞ。 少女:……でも、可哀想。 スネイク:……はァ? 少女:この人たち、可哀想だよ。 スネイク:可哀想……って…… 少女:ねえ、手当てしてあげたら生き返る? スネイク:……ンなの……無理に決まってんだろうがよ。 スネイク:死んだら二度と生き返らねぇ。……死ってのは永遠の別れなんだから。 少女:……じゃあどうして死なせちゃうの? スネイク:……、……。 少女:……どうして? スネイク:こいつらは……殺されて当然のことをしてる悪人なんだよ。何の罪もない弱い人間を苦しめて、自分たちの私腹を肥やしてる……そんな奴らだ。 スネイク:俺がここにいるってことは、こいつらが死ぬことで救われる人間が少なからずいるってことだろうよ。 少女:……悪い人なの? スネイク:ああ、そうだ。 少女:……そっか……悪い人、なんだ。 0:(少し沈黙) スネイク:ほら、もういいだろ、帰れ。 少女:ねえ、お兄さん。 スネイク:……しつけぇな、どっか行けって―― 少女:お兄さんは、正義の味方なんだね。 スネイク:……あ? 少女:だって、悪い人をやっつけてるんでしょ? スネイク:……、……。 少女:すごいね、かっこいい。 少女:私もお兄さんみたいに、悪い人をやっつけられるようになりたい。 スネイク:……馬鹿言ってんじゃねェよ。 スネイク:俺が……俺なんかが……正義の味方なわけ、ねぇだろうが。 少女:……どうして? スネイク:ハッ、お前さっきからそればっかりだな。 少女:だって、分かんないんだもの。 少女:なんでお兄さん、正しいことしてるのに……そんな、泣きそうな顔してるの? スネイク:……。 スネイク:……泣きそうに、見えるかよ。 少女:うん、見える。……悲しいの? スネイク:……どうだろうなァ。 スネイク:悲しいとか、そんな感情……とっくの昔に捨てちまったよ。 少女:……。 スネイク:おいクソガキ。……一つだけ、お前に教えといてやる。 少女:なぁに? スネイク:この世にはなァ、正義の味方なんていねぇんだよ。 スネイク:俺も昔は、お前みたいに憧れたよ。ヒーローってやつに。……けどな、大人になってから気付いちまった。 スネイク:人間ってのはどいつもこいつも自分勝手で……汚れきってんだ、反吐が出るほどにな。 スネイク:自分のためなら平気で相手を殺せる。そういう奴らで溢れかえってるから、俺たちの吸ってる空気はこんなにも淀んでる。 スネイク:そんな空気を吸いながら生きてるうちに……誰かを、自分を、愛しながら生きてくってことが分かんなくなっちまう。 少女:愛……? スネイク:クソガキ。……お前は、真っ直ぐ生きろ。 スネイク:お前はまだ大丈夫だ。そんな……綺麗な目をしてんだから。 スネイク:頼むから……俺みたいになるな。周りを、自分を、憎んでばかりの俺と……同じになっちゃいけねぇよ。 少女:……。 少女:じゃあ……誰かを、愛せるようになればいい? スネイク:ああ、そうだな……それができりゃあ一番いい。 少女:……。 スネイク:ハハ、ガキにはまだ難しい話だろうがな。 スネイク:……ほら、これ持ってけ。 0:スネイクは懐から数枚紙幣を取り出し、少女の手に握らせる。 少女:え、お金……? スネイク:それで何か、美味いもんでも食え。腹いっぱい食わなきゃデカくなれねぇぞ。 少女:でも…… スネイク:いいからもらっとけ。……じゃあな。 0:少女の頭をポンポンと撫で、立ち去ろうとするスネイク。 少女:待って。 スネイク:ンだよ。 少女:お兄さんについて行っちゃ、だめ? スネイク:……何言ってんだ、だめに決まってんだろうが。 スネイク:さっきも言ったろ、俺と一緒にいたらろくでもないことになるぞ。 少女:……。 スネイク:優しくて子供好きな金持ちにでも拾ってもらえ。……その方がいい。 少女:じゃあ、せめて……お名前教えて。 スネイク:……あ? 少女:いつか私が大きくなって、誰かのこと愛せるようになったら、お兄さんに会いに行くから。 スネイク:……、……。 スネイク:……なに、言ってんだ。 スネイク:俺の名前なんざ、覚えなくていいんだよ。もう会わなくていい。会う必要もねぇ。 少女:いーやーだ。絶対会いに行くの。絶対絶対、ぜーったい! スネイク:……勘弁しろよクソガキ……。 少女:ほーら、名前! スネイク:……(ため息)。 スネイク:(ぼそりと小声で)……スネイク。 少女:……すねいく、すねいく、すねいく……うん、覚えた! スネイク:ああそうかよ……。 少女:私は、自分の名前が分からないから教えてあげられないけど……私のこと絶対忘れないでね、スネイク。 スネイク:……どうだろうなァ、俺は記憶力がいい方じゃねぇからよ。 少女:もう!忘れてたら怒るからね! スネイク:……フ……まあ、忘れねぇように頑張るよ。 0:  0:  0:  0:回想から、ふと我に返るスネイク。 スネイク:……(ため息)。 スネイク:何年前の話を思い出してんだ……全く……。 スネイク:あのガキ……今頃どうしてんのかねぇ……生きててくれてりゃあいいが。 スネイク:……あーくそ、らしくもねぇ心配しやがって、バカか俺は! 0:考えを振り払うように首を振るスネイク。 スネイク:とにかく今は……シアンの野郎に会って、一発脳天にお見舞いしてやらねぇとなァ。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:レオーネの屋敷にて。 ペコラ:おーい、蛇のおじさーん、どーこだーい。 ペコラ:……んもう、蛇のおじさん、隠れるの上手すぎ。 ウォルフ:かくれんぼしてるんじゃないんだぞ、ペコラ。 ペコラ:分かってるよぉ。 レオーネ:……ここまで探して見つからないなんて、いよいよ心配になってきたわね。 ウォルフ:やっぱり逃げ出したんですよ、あいつ。……全く、だから雇わないほうがいいって言ったのに……。 レオーネ:本当にそうなのかしら。何かあったのかもしれないわよ。 ウォルフ:仮にそうだとしても、あいつは殺し屋ですよ?自分の問題くらい自分でどうにかするでしょう。 ペコラ:冷たいねぇ、ウォルフ。 ウォルフ:別に、普通だ。 レオーネ:私のこととなると、あんなに血相変えて心配するのにね。 ウォルフ:当たり前です。……僕はあなたに誓いましたから。 ウォルフ:『生涯をかけて、あなたを守る』って。 レオーネ:ふふ、随分大げさな言い方ね。 レオーネ:私はただ……『私の護衛役になるという条件付きで、私のもとに引き取られる気はないか』と言っただけなのだけれど。 ペコラ:ウォルフってば、なんでも大げさにいうもんねぇ。 ウォルフ:大げさなんかじゃありません。僕は絶対に何があっても……この命に代えても、レオーネ様を―― 0:ウォルフの言葉の途中、背後から音もなく飛んできたナイフが、ウォルフの背中に突き刺さる。 ウォルフ:ぐぁッ……!? レオーネ:……ッ!!? ペコラ:ウォルフ!? 0:倒れ込んだウォルフの後方にゆらりと立っていたのは、笑みを浮かべるシアン。 シアン:……ああ、良かった。今回はうまくいったみたいで。 ウォルフ:……あ……ぐ、…… ペコラ:ウォルフ!!しっかりしてウォルフ……!! シアン:ハハ、先日の件で、僕もきちんと学ばせてもらいましたから。……ミス・レオーネを殺すためには、まずはキミたち二人を始末しなくちゃいけないって。 レオーネ:……シアン……!! シアン:ミス・レオーネ、再びお会いできて光栄です。先日はお見苦しい所をお見せしてしまいまして、失礼しました。 レオーネ:あなた、どうしてここに……! シアン:言ったでしょう?『いつか再び、あなた方に贖いを』、と。僕は僕の為すべきことのために、ここに来たんですよ。 シアン:お屋敷の構造は事前に分かってましたし、運よくあなた方はお話に夢中で僕の気配には気付かずにいてくれた。だから容易に侵入でき―― シアン:……ッ!! 0:話している途中、顔面めがけて飛んできたナイフを、間一髪で躱すシアン。 シアン:……っと……危ないじゃないか、ペコラちゃん…… ペコラ:……ふざっけんな……よくもウォルフを……!! シアン:ハハ、普段はとっても可愛らしいのに、本気で怒るとそんなにも怖い顔をするんだね。 ペコラ:ぶっ殺す……!! 0:シアンめがけて数本ナイフを投げつけるペコラ。 0:それらを全て器用に躱し、気付けばシアンはペコラの目の前に迫っていた。 シアン:残念だけど、僕も馬鹿じゃないんだよ。 ペコラ:……ッ!? シアン:二度も……同じやられ方はしないさ。 ペコラ:うぐッ……!? 0:シアンの振り下ろしたナイフが、ペコラの腕に突き刺さる。 0:その場に崩れ落ちるペコラ。 レオーネ:ペコラ……ッ!! シアン:さあ、ミス・レオーネ。今度こそ本当に、邪魔者はいません。 シアン:あなたの、贖いの時間ですよ。 0:  0:  0:  0:その頃。 0:とある古びたアパートの一室の前に立つスネイク。 スネイク:……ここか、シアンの手紙に書いてあった住所。 スネイク:ったく……わざわざめんどくせぇことしやがって。 0:ドアをノックする。しかし、中から応答はない。 スネイク:おいシアン!!いるなら返事しやがれ!! スネイク:……チッ……呼び出しておいて出てこねぇのかよ。 0:ドアノブに手をかけると、ゆっくりと扉が開く。 スネイク:……鍵は開いてる……勝手に入れってか? スネイク:クソが、とことんふざけやがって…… 0:  0:部屋の中に静かに入っていくスネイク。 スネイク:……おいシアン、こっちは言われた通り来てやったんだからよ、隠れてねぇでさっさと―― スネイク:――……あ? 0:ふとスネイクは、椅子に座っている人物に気付く。 0:どこか幼さの残るその少女は、入ってきたスネイクをじっと見つめている。 イブ:……。 スネイク:……誰だ、お前。 スネイク:(……女?シアンの仲間か……?) スネイク:(いや、巻き込まれた被害者って可能性も……) イブ:……来て、くれた…… スネイク:あ? イブ:……やっと、やっと会えた……! スネイク:うおっ……!? 0:少女は突然スネイクに抱きつく。 イブ:……ふふ、嬉しい……ずっとずっと、この日を待ってたんだもの……! スネイク:なっ……おい、なんなんだよいきなり!? イブ:あ、ごめんなさい、急に抱きついたらびっくりするわよね…… 0:少女はそっとスネイクから離れると、うっすらと涙の滲む瞳でスネイクを見上げる。 イブ:ふふっ、久しぶりね。……会いたかったわ。 スネイク:久しぶり……? イブ:変わらないのね、スネイク……あの日のままだわ…… スネイク:……いやちょっと待て、人違いだろ。俺はお前と会ったことなんざねぇぞ。 イブ:……私のこと、忘れちゃったの? スネイク:……何の、話だ。 イブ:ちゃんと覚えててねって……『絶対忘れないでね』って、お願いしたのに。 スネイク:……、……。 イブ:私、ちゃんと全部覚えてるわ。 イブ:だってあなたは……私の、正義の味方だもの。 スネイク:……正義の……? イブ:そうよ、スネイク。 イブ:言ったでしょ?「いつか私が大きくなって、誰かのこと愛せるようになったら、あなたに会いに行くから」……って。 スネイク:……、……。 スネイク:……おい、待てよ……じゃあまさか……お前…… スネイク:あの、ときの…… イブ:ふふ、良かった。やっぱり覚えててくれたのね、スネイク。 イブ:ごめんなさい、私が会いに行くって言ったのに、あなたを呼びつける形になってしまって。 スネイク:……おい、どういうことだ、わけわかんねぇぞ。 スネイク:俺はシアンに呼び出されてここに来たってのによ……そこになんで、あの時のガキがいるんだよ…… イブ:もうガキじゃないわ。私、大人になったもの。 イブ:それにね、私がシアンに頼んだのよ。「スネイクに会わせて」って。 スネイク:お前が……シアンに……? イブ:彼、とっても優しいのよ。私の望むこと、全部叶えてくれてしまうの。優しすぎて心配になっちゃうわ。 イブ:彼だから、ここまで一緒に来てくれた。一緒に……原罪の贖いを、知ることができた。 イブ:私、彼にとっても感謝してるわ。 スネイク:……おい、その原罪だの贖いだのって……シアンが言ってた…… イブ:世間では……『林檎の悪魔』、なんて呼ばれてるけど。 イブ:悪魔なんかじゃないわ。私たちは……そうね、言うなれば『神の代行者』。 スネイク:……ちょっと待てよ……冗談だろ…… スネイク:まさか……お前も…… イブ:ねえ、スネイク。私のこと褒めてくれる? イブ:だって私、とっても頑張ったのよ?……あなたみたいな正義の味方になるために。 スネイク:……、……。 イブ:最初はちょっと怖かったけど……でも、恐怖はすぐになくなったわ。 イブ:だって、恐れる必要なんてないんだもの。私は、正しいことをしているのだから。 スネイク:……なんだよ、それ……笑えねぇぞ、これっぽっちも…… スネイク:じゃあ……今までの『林檎の悪魔』の事件は……お前とシアンが…… スネイク:お前らが……お前が……何人も、殺したってのかよ…… イブ:……どうして? イブ:どうしてまた、そんな悲しそうな顔をするの?スネイク。 スネイク:……どうしてって…… イブ:私、あなたに笑ってほしくて頑張ったのよ? イブ:あなたに追いつきたくて……あなたの隣に並びたくて。 イブ:約束したから……ちゃんと、人を愛せるようになったのよ? スネイク:……愛する?人を、殺しておいてかよ? スネイク:そんなもんが愛だなんて……ンなこと間違って―― 0:(イブ、スネイクの言葉に被せるように) イブ:いいえ、愛よ。 イブ:これは私の、私なりの、愛し方よ。 スネイク:……なんで…… イブ:私ね、スネイク。あなたと別れた後……聖書を読んだの。 イブ:そうしたらね、理解してしまったの。……どうしてこの世界が、こんなにも醜いのかを。 スネイク:……どういう、ことだよ。 イブ:神様はまず、天と地を創った。 イブ:それから、暗闇の中に光を創って、昼と夜ができた。 イブ:天と、大地と、海を創って、大地には植物を芽吹かせた。 イブ:太陽と月と星、魚や鳥、獣と家畜も創った。 イブ:そして最後に……神のかたちに、人間を創った。 イブ:……でも神様はね、間違えてしまったのよ。 イブ:世界を創ったところまでは良かったの。……だけど最後に、神を模して人間を創ってしまった。 イブ:神のように完全な存在にはなれない、人間という不完全で傲慢な生き物を。 スネイク:……シアンの野郎も、言ってたな……命は罪の塊だのなんだのって。 イブ:そう。神様が人間なんてものを創らなければ……原初に過ちを犯したりなんてしなければ、この世界はこんなに醜くなんてならなかったはずなの。 イブ:スネイク……あなたが、そんなふうに悲しい顔をすることも、きっとなかったわ。 スネイク:……お前は……何がしてぇんだよ。 スネイク:何のために、こんなこと…… イブ:私はね……イブっていう名前を、自分につけてあげたの。 スネイク:……イブ……? イブ:そう。それは……『善悪を知る者』の名前。 スネイク:……善、悪…… イブ:神が最初に創った人間であるアダムとイブは、神に食べてはいけないと禁じられていた「知恵の木の実」を口にした。 イブ:それは、善悪を知ることのできる木の実。アダムとイブは、神のように善悪を知る者になった。……だけど神は、アダムとイブに罰を与えた。 イブ:どうしてだと思う? スネイク:……そりゃあ、食うなって言われたもん食っちまったからだろうよ。 イブ:じゃあそもそも、どうして神様は「知恵の木の実を食べてはいけない」なんて言ったのか。 イブ:私ね、思うの。……きっと、神様は自分の過ちを隠そうとしたのよ。人間なんていう不完全で愚かな存在を創り上げてしまったという過ちを。 イブ:だから、アダムとイブに善悪を知られてほしくなかった。人間という存在が、ひいてはそれを創り出した自分が過ちだということを……悪だということを、悟られたくなかったから。 イブ:私は知ったわ、正義と悪を。だから私は、神の代わりに正しいことを遂行するの。 スネイク:……命が悪で、それを粛正すんのが正義だってのかよ。 スネイク:お前とシアンが、神の代行者だって……自分たちのやってることが正しいことだって、そう思ってんのかよ、お前は。 イブ:ええ、そうよ。 イブ:悪い人は裁かなきゃ。そして……創り変えるの、正しい世界へと。 イブ:だけどこれは、裁きであると同時に……救いでもある。 スネイク:救い、だと……? イブ:悲しくも、人間として生まれてきてしまった命。そして、罪を重ねて穢れきってしまった命。 イブ:それを、死をもって救済するの。この汚れきった世界から解放してあげるの。そうすれば、新しい無垢な命に生まれ変われる。……悪にだって、赦しと救済は必要でしょう? イブ:だからこれは、私なりの……命の愛し方なの。 スネイク:……ふざけんなっつーの……言ってる意味が、分かんねぇよ…… イブ:嘘よ、スネイク。……あなたなら分かってくれるでしょう? スネイク:……あ? イブ:だって、私に道を示してくれたのは、正しいことを教えてくれたのは……他でもない、あなただったじゃない。 スネイク:……俺、が……? イブ:あなたも「善悪を知る者」だった。……だからあなたも人を殺すんでしょう? スネイク:……ッ……! イブ:やっと分かったの。だから私、あなたみたいにって―― スネイク:……違ェよ、違う……俺は…… イブ:あなたのスタートは憎しみだったかもしれない。……でも私は愛すわ。愚かで憎らしくて醜い命を。 イブ:今度は私が、あなたの正義の味方になる。 スネイク:違う、俺は……俺は、お前を……ッ…… イブ:……どうして目を伏せるの?スネイク。私はもう、あなたの隣に並べるわ。 イブ:あなたはもう一人じゃない。あなたが私にとってのアダムなの。 イブ:だから、ねえ、お願い。……笑ってよ、スネイク。 0:  0:  0:  0:その頃、レオーネの屋敷にて。 0:負傷し、うずくまるウォルフとペコラ。シアンはレオーネにナイフを突きつけ、じりじりとその距離を詰める。 シアン:さあ、ミス・レオーネ。これがあなたの最期です。心の準備はいいですか? レオーネ:……。 ウォルフ:……れ、レオーネ様……早く、逃げて…… ペコラ:こい、つ……絶対、ぶっ殺す……!! シアン:大丈夫さ、ウォルフくんもペコラちゃんも、順番が来ればすぐに……ミス・レオーネのように“贖う”ときが来る。 レオーネ:……順番、ですって? シアン:今回はあなたの番なんですよ、ミス・レオーネ。……あなたは『イブ』に、選ばれたんです。 ウォルフ:……イブ……って…… ペコラ:この前も、言ってたけど……誰なんだよそいつ……ッ! シアン:イブは僕よりもずっと聡明で、優れた人さ。彼女こそ神の代行者であり、この腐りきった世界を正しい方向へと導く救世主なんだ。 レオーネ:……何を言っているのか、相変わらず理解不能だわ。 シアン:僕と彼女とで、創り変えるんですよ、この世界を。『善悪を知る者』として、ね。 レオーネ:『善悪を知る者』……? シアン:僕らは原初に還るんです。そして、愚かな神の過ちを正すんです。 レオーネ:……ああ、なるほどね。やっと少し、理解できたような気がするわ。 レオーネ:聖書の創世記において、神が最初に創った人間である『アダムとイブ』。……あなた達、それになぞらえているというわけね。 シアン:……ふ、さすがはミス・レオーネ、よくお分かりで。 レオーネ:ふふッ、こんなにも血生臭いごっこ遊び、さぞ楽しかったでしょうね? シアン:ごっこ遊び……なんかじゃありませんよ。 シアン:僕らはどこまでも本気です。だからこそ……ここで止まるわけにいかないんです。 シアン:彼女は……僕にとっての光だ。何も持っていない無能で無力で愚かな僕を、彼女は受け入れてくれた。手を差し伸べてくれた。 シアン:僕を認めてくれて、僕を望んでくれた。……そんな人は初めてだった。 シアン:だから僕は、彼女が望むならどこまでも一緒についていく。……そこにあるのがたとえ地獄だとしても、何もない虚無だとしても、堕ちる覚悟ですよ。 レオーネ:……その『イブ』とやらを、相当神格化しているのね。 レオーネ:ふふ、孤独を埋めてくれて、承認欲求を満たしてくれる相手に依存した挙句、狂気に走る。……可哀そうな子。 シアン:……あなたに、何が分かる。 0:レオーネにナイフを向けるシアン。 シアン:お喋りはここまでにしましょう。……さようなら、ミス・レオーネ。 ペコラ:レオーネさま……ッ!! ウォルフ:……やめろ……ッ!! レオーネ:……ふふッ。 シアン:……? シアン:何を、笑っているんですか……ミス・レオーネ…… レオーネ:だって……うふふッ、笑っちゃうでしょう?シアン。……ねぇ? シアン:がッ……!? 0:銃声の後、肩を撃ち抜かれたシアンが膝から崩れ落ちる。 レオーネの手にいつの間にか握られていた拳銃が、白い煙を上げている。 レオーネ:ごめんなさいね?あなたがどうしようもなく愚かだから、笑いを堪えきれなくなってしまって。 シアン:ぐ、あ……ッ…… レオーネ:お馬鹿なシアン。ここがどこであるのか、そして私が誰であるのか、忘れてしまったのかしら?……お前のような虫一匹如き、私の掌で簡単に握りつぶせるというのに。 ウォルフ:れ、レオーネ様…… レオーネ:私をここまで怒らせた人は久しぶりよ。……ふふふッ、さぁて、どうしてあげるのがいいかしらねぇ? ペコラ:……うわ……レオーネさまが……ガチギレしてる…… シアン:……くッ……は、ハハハ……ええ、そうでしょうね、そうですよねミス・レオーネ……!! シアン:あなたはそう簡単に死を捧げてくれるような御方じゃない……分かってるんですよそんなことは……ッ!! レオーネ:あら、それじゃああなたは、無謀にも殺される覚悟で私の元にやって来たとでも? シアン:それがイブの望みだから。あなたの死を、亡骸を彼女に捧げることが僕の使命だからですよ……! レオーネ:ふふ、狂っているわね、シアン。 レオーネ:いえ……“アダム”、とでも呼んであげればいいのかしら? シアン:……ふ、お心遣い、痛み入ります。 シアン:けど僕は、まだアダムにはなれない。証明しなくては。僕がアダムになれるということを、彼女の隣に相応しいということを……あなたの死をもって。 シアン:僕はまだ不完全なんだ、まだ完璧じゃないんだ。……彼女に認められるには、僕が『アダム』になるには、まだ……ッ! レオーネ:ふふふッ、本当に可哀想な子犬ちゃん。私に牙を剝くだなんて、なんて愚かで命知らずなのかしら。 レオーネ:敵に回す相手を間違えたわね。……来なさい、ぐちゃぐちゃになるまで潰してあげるわ。 0:  0:  0:  0:その頃、アパートにて。 イブ:……スネイク、また悲しいの? スネイク:……。 イブ:どうして?……私、失敗しちゃった? スネイク:……俺の、せいか。 イブ:……え? スネイク:俺が、お前を……狂わせちまったのか。 イブ:……スネイク……? スネイク:俺はただ……お前に、俺みたいな汚れた人間になってほしくなかっただけで…… スネイク:……それなのに……俺が、余計なこと言っちまったから…… スネイク:俺があんなこと言わなきゃ……お前…… イブ:どうして、そんなこと言うの……? イブ:私は、あなたのおかげで―― スネイク:もういい、やめろ。それ以上言うな。 イブ:……ッ。 スネイク:……分かんねぇよ……もう……。 イブ:……スネイク、怒ってる……? イブ:ごめんなさい……私……悪いことした? スネイク:……どうすりゃいいんだよ……俺は……。 イブ:スネイク……。 0:少しの沈黙。 スネイク:……(諦めたような、短いため息)。 スネイク:……シアンは。 イブ:え? スネイク:シアンの野郎はどこ行った。 イブ:なんで、シアンを…… スネイク:とりあえず、あの野郎をぶん殴りに行く。……お前のことはその後で考える。 イブ:……、……。 スネイク:さっさと答えろ。シアンはどこだ。 イブ:……お屋敷。 スネイク:屋敷……って、まさか…… イブ:……ミス・レオーネの、屋敷。 スネイク:……チッ……あの野郎……ッ! 0:部屋を出て行こうとするスネイク、その腕を、慌ててイブが掴む。 イブ:ま、待って……行かないで…… イブ:私……まだ…… スネイク:……悪いがあとにしろ。俺はシアンを止めに行く。 イブ:だめよ……そんなの…… イブ:私は、あなたに…… スネイク:……ここで待ってろ。シアンをぶん殴ったあとで……また来る。 イブ:……。 0:そっとスネイクの腕を離すイブ。スネイクはそのままアパートを出て行く。 0:残されたイブは、スネイクが出て行ったドアを見つめながら、ぼんやりと呟く。 イブ:……どうして? イブ:私……あなたに笑ってほしかっただけなのに。 0:  0:  0:  0:レオーネの屋敷にて。 シアン:ぐ……ッ……! 0:膝をつくシアン。それを退屈そうに見下ろすレオーネ。 レオーネ:あら、もうおしまいなの?存外脆いのね、シアン。 シアン:……は、……何、言ってるんですか…… シアン:この程度で……僕の覚悟は、折れませんよ……ッ!! レオーネ:……ッ! 0:シアンのナイフの切っ先が、レオーネの頬を掠めていく。 シアン:僕をここまで導いてくれたのは……善悪を教えてくれたのは彼女なんだ……! シアン:彼女こそ、正義であり救済なんです……僕は、僕の全てを彼女に捧げ―― 0:(ペコラ、シアンの言葉に被せるように) ペコラ:――あーもう、いい加減ごちゃごちゃうるっさいんだよッ!! シアン:……ッ!? 0:背後から、ペコラがシアンに襲いかかる。 ペコラ:あんたの事情なんか知らんし!興味ないし!ていうかさっきから小難しい話ばっかりでめんどくさいし! シアン:チッ……まだ動けたのか、キミ……! ウォルフ:悪いが……こっちにもいるぞ……ッ! シアン:く……ッ!? 0:さらにウォルフがペコラに加勢する。 0:一度距離を取るシアン。 レオーネ:ウォルフ……ペコラ……。 ウォルフ:これ以上、レオーネ様を危険に晒すわけにはいきませんから。 ペコラ:ま、侵入を許しちゃった時点で、護衛役としてはマイナス点だけどねー。 シアン:は……はは……しつこいな、キミたちも……。 ウォルフ:レオーネ様、下がっていてください。……ここから先は、僕たちが。 ペコラ:さてさて犬のおじさーん、私のナイフで八つ裂きにされる覚悟はオッケーかなぁ? シアン:張り切っているところ悪いけれど……子どもの出る幕はないよ。 ウォルフ:それを決めるのはお前じゃない。……僕たちは僕たちのやるべきことをやる。 ウォルフ:お前はレオーネ様を傷付けた。僕たちがお前を敵とみなすには、それだけで十分だ。 シアン:ふふ、かっこいい執事さんだ。……だけどね、思い上がっちゃいけないよ。 シアン:たかが子どもに何ができる。キミたちの幼稚な正義感なんて、僕の覚悟には到底及ばないよ。 ウォルフ:……なんだと? シアン:ごっこ遊びというなら、キミたちこそまさにそうじゃないか。ただの子どもが武器なんて手に取って、大した覚悟もないままそれを振るう。 シアン:守りたいから、戦わなくてはいけないから。……口で言うのは簡単だろうね。だけどその言葉に、一体どれほどの重みがあるのか。 シアン:所詮は戦闘ごっこに憧れる子どものお遊びだ。そんなもので僕の邪魔をするのは―― ペコラ:(呟くように)……うるせーな。 シアン:…………何か言ったかい? ペコラ:うるっせぇなって言ったんだよ、この野郎ッ!! シアン:……ッ!? 0:ペコラのナイフがシアンめがけて猛スピードで飛んでいく。 0:それを間一髪で躱したシアンの耳に、ペコラの叫ぶような声が聞こえてくる。 ペコラ:幼稚な正義感?子どものお遊び?……お前がそれを言うなよ、この弱虫ッ!! ペコラ:思い上がってるのは、己惚れてんのはそっちだろ!自分がこの世で一番不幸みたいな顔しやがって、わけわかんない理屈をごちゃごちゃ並べ立てて! ペコラ:お前は責任転嫁してるだけじゃないか!悪いのは自分じゃない、世界が悪いんだって、そうやって自分を正当化してるだけだろ!幼稚なのはどっちだ!! シアン:……ッ! ペコラ:神様だの善悪だのって、そんなの全部後付けなんだよ!人生なんて自分でどうにかするものだろ!自分で決めた道を自分で歩くことしかできないんだから! ペコラ:周りのせいにして逃げて、現実から目を背けまくってるお前なんかに、私たちの覚悟を踏みにじる資格なんかないんだよッ!! レオーネ:……ペコラ…… シアン:……は……ハハ……。 シアン:本当に、口だけは達者だね……笑わせるなよ…… シアン:……キミに……キミなんかに……僕の何が分かるって言うんだ……? シアン:僕の周囲が望んだのは僕という存在じゃない、僕が持ってくる結果だけだった……結果が伴わなければ、所詮僕は役立たずのガラクタだった。 シアン:“僕”が、何をどんなに頑張っても、足掻いても、誰も“僕”を認めてくれない、受け入れてくれない、微笑みかけてくれない!僕はただ結果を生み出すだけの……命を持たない機械や人形と同じだった! シアン:そんな、冷めきって、醜くて、愛す価値のない人間を……恨んで、憎んで、蔑むことの、何が悪いんだ? シアン:キミなんかが……この世の苦痛なんて何も知らないような、キミみたいな子どもが、偉そうに説教なんて―― ウォルフ:……勝手に、決めつけるなよ。 シアン:……何? ウォルフ:お前こそ、この世の子どもがみんな平穏で温かくて愛された生活を送ってるなんて……ふざけんな、勘違いもいいところだ。 ウォルフ:武器を握る理由が、子どもらしい戦闘ごっこへの憧れだったなら、どんなに良かっただろうな。 ペコラ:ウォルフ…… ウォルフ:でもその憧れすら抱く暇もなく、子どもらしい夢を見ることもできないまま……「命を繋ぐために」、或いは「自分を守るために」、必要手段として武器を握り始める。 ウォルフ:僕みたいに、平穏という言葉に縁のない子どもも……ペコラみたいに、愛していたはずの人たちから裏切られる子どもも、間違いなくこの世にいるんだ。 ウォルフ:辛いのは、苦しいのは、お前だけじゃねぇよ。……履き違えるな。 シアン:……、……。 レオーネ:……命は醜い。罪の塊。それは確かに真理かもしれないわ。神が原初に過ちを犯したというのも、間違ってはいないのかもね。 レオーネ:ねぇ、シアン。あなたが、そしてあなたの崇拝する『イブ』とやらが、世界を創り変えるというのなら、正しい世界へ導くというのなら……あなたたちになら、救えるというのかしら? レオーネ:両親の顔も知らず、ごみ溜めを漁って毎日を食い繋ぎ、その途中で握りたくもなかった武器を手にして、殺すか殺されるかの日々を過ごす少年を。 レオーネ:あるいは、信仰深さのあまり正気を失った家族に、神への生贄としてその身を捧げることを強いられた、何の罪もない少女を。 レオーネ:あなたが「善悪を知る者」だというのなら、もちろん救えるのでしょう?……この子達を。 レオーネ:だって間違いなくこの子たちは、救われるべき「弱い存在」だわ。理不尽にその身を、心を、傷付けられたのだから。……あなたと同じように、ね。 シアン:……それ、は。 レオーネ:救ってみせなさいよ、導いてみせなさい。あなたたちが神の代行者であるというのなら。そして、その覚悟があるというのなら。それを示してみせなさい。 シアン:……、……。 レオーネ:……ふ、だんまりなのね。 レオーネ:所詮はその程度ということよ、シアン。 シアン:……違う、僕は……僕は、イブと…… レオーネ:あなたの掲げるものなんて、夢見るものなんて、結局は独りよがりの我儘でしかないということよ。 シアン:うるさい……僕は……僕はッ……! レオーネ:もう終わりよ、シアン。……最初から間違っていたのよ、あなたは。 シアン:違う……ッ!! シアン:僕は、僕は絶対に……―― スネイク:――……いや、もう終わりだよ、大馬鹿野郎……!! シアン:ぐぁッ……!? 0:銃声の後、シアンの身体が崩れ落ちる。 0:その背後に息を切らして立っていたのはスネイクだった。 レオーネ:……スネイク……! ペコラ:蛇のおじさん!帰ってきたの……!? シアン:……な……なん、で……キミ、が…… シアン:い、イブ……は…… スネイク:……ふざけんなよクソ野郎……あんな、あんなガキまで巻き込みやがって…… スネイク:いつまで寝ぼけてんだよ、このバカ犬が……! シアン:……ふざけるなって……それは、こっちのセリフさ、スネイク……! シアン:毎回毎回……僕の、邪魔ばかり……ッ! スネイク:邪魔だろうがなんだろうが、何回でもやってやるよ。テメエをぶん殴ってやれるなら何度だってよォ! シアン:こ、の……ッ!! スネイク:ぐッ……!? 0:飛んでいくシアンのナイフが、スネイクの腕へと命中する。 シアン:僕の、思いなんて……何も、知らないくせに……ッ! スネイク:ああ、知らねぇよッ!なんにも知らねぇッ! シアン:だったら……もう、僕に……構うなよッ!! 0:シアンの猛攻が続く。 スネイク:チィッ……ッ! ウォルフ:おいスネイクッ! ペコラ:私らも加勢す―― スネイク:うるせえ!お前らはすっこんでろ!! ウォルフ:……ッ。 ペコラ:な、なんでさ……! スネイク:こいつは俺の問題なんだよッ!こいつは俺がぶん殴ってやらなきゃ意味がねぇッ! スネイク:お前ら巻き込まれたくなかったらそこでじっとしてろやッ! ペコラ:お、おじさん……。 レオーネ:……言う通りにしていなさい、二人とも。 ウォルフ:……はい……。 ここから、スネイクとシアンの、ほとんど殴り合いのような戦闘が始まる。 シアン:キミには本当に……イライラさせられてばかりだよ、スネイク……ッ! スネイク:そりゃあ悪かったなァ!けどこんな俺を相方に選んだのはテメエだろうがよッ! シアン:ああ、そうだね……キミと出会ってしまった不運を、僕は何度呪ったか分からないさッ! シアン:僕は……僕は本当に、キミが大嫌いだよ、スネイク……! スネイク:ハッ、好かれてるなんて思ったこともねぇよッ! スネイク:俺はそもそも人間が嫌いだ、理解したいと思ったことも、受け入れたいと思ったこともねぇッ! スネイク:だけどよ、それでも俺は…… スネイク:俺は……お前と組んだことは後悔してねぇよ……! シアン:……! スネイク:好きじゃねぇよ、お前のことは!真面目でつまんねぇわ、いっつもヘラヘラ笑っててムカつくわで! スネイク:だけど俺は……お前だっだから、安心して背中預けていられた! スネイク:俺が、初めて「信じていい」って思えた相棒だったんだよ、お前は! シアン:……スネイ、ク…… スネイク:俺が信頼してたのは、お前の「結果」じゃねぇ!そんなもんなくたって俺は、お前が良かった!役立たずでもガラクタでも、機械でも人形でもねぇ!今ここに生きてるお前が良かったんだよッ! スネイク:なのに……なのにテメェはよォ……! シアン:……ッ…… シアン:全部……聞いてたのかい……さっきの話を…… スネイク:……悪かったな、耳はいい方なんだよ。 シアン:ハハ……そう、か…… シアン:……なあ、スネイク……僕は……―― イブ:――……待って、シアン。 シアン:……え? スネイク:……ッ! 0:いつの間にか廊下に立っているイブ。 0:その死にきった目は、真っ直ぐにシアンを見つめている。 ウォルフ:な……こいつ、いつからそこに……!? シアン:イブ……どうしてキミが、ここに…… ペコラ:『イブ』って……やっと黒幕のお出ましかよ! イブ:シアン……もうやめましょう。 イブ:私、気付いたの。……最初から、間違ってたわ。 0:真っ直ぐにシアンだけを見つめて、イブはシアンに歩み寄る。 ペコラ:なんだよお前、今さら善人面したって遅いんだからな! ウォルフ:ああ、そうだ。……どれだけの人間を巻き込んだと思ってるんだ、『林檎の悪魔』め。 イブ:……。 0:ウォルフとペコラには目もくれず、歩いていくイブ。 ペコラ:……っておい!無視すんなよ! イブ:……。 ペコラ:おい、聞けっての! イブ:……シアン。 シアン:……なんだい、イブ。 イブ:もう、やめましょう。 シアン:……なぜだ、イブ。もうすぐ僕は……僕たちは…… イブ:いいえ……だめなの。 イブ:やっぱり……「あなたじゃ、だめなのよ」。 シアン:え?…………ッ!? 0:苦痛に顔を歪めるシアン。 0:その腹部に、銀色に光るナイフが突き刺さっていた。 シアン:……あ、…… シアン:……イ、ブ……? イブ:……ごめんね、シアン。 シアン:……どう……して…… イブ:……あなたは、アダムになれないの。 シアン:……あ、…… シアン:そん……な………… 0:ゆっくりと、シアンの身体が膝から崩れ落ちていく。 レオーネ:……!! ウォルフ:な…… ペコラ:こいつ、自分の仲間を……! スネイク:シアン……ッ!!? シアン:……か、は…… スネイク:おい、しっかりしろシアン!!おい!! シアン:は、ハハ…… シアン:悔しいなぁ……スネイク……僕は、最後まで……キミには……敵わないね…… スネイク:馬鹿野郎、喋るんじゃねぇッ! スネイク:とにかくなにか応急処置―― シアン:分かってたんだ……最初から…… シアン:イブが必要としていたのは……僕じゃなくて、キミだったんだってこと……僕じゃ、彼女にとっての……アダムにはなれないってこと…… シアン:分かってたけど……それでも、どうしても……認められたくて……キミに、追いつきたくて…… スネイク:だから!喋るなって言ってんだろうがッ!! シアン:……キミはずるいよ……スネイク…… シアン:最後の最後で、あんなことを、言われたら……僕は、死んでもキミを、憎みきれないじゃないか…… スネイク:馬鹿なこと言ってんなよボケナスが……! シアン:……どうして……もっと早く、気付けなかったかな…… シアン:僕はね、スネイク……キミの前では、いつだって……僕らしくいられたよ…… シアン:最期まで……ケンカしてばかりだったけど、ね…… スネイク:……おいふざけんな、死ぬなよ……こんな死に方許さねぇぞシアン……ッ! シアン:……最後に……これだけ聞いてくれるかい、スネイク…… シアン:ずっと、騙してて……たくさん傷付けて、ごめん…… シアン:それから…………ありがとう………… 0:悲しそうに微笑みながら、シアンがそっと、瞼を閉じる。 スネイク:……おい、シアン…… スネイク:起きろよ……起きろっての、シアン……ッ! スネイク:ふざけんなよ……ふざッけんなこの馬鹿野郎……ッ! ペコラ:……なんだよ……こんなのって……こんなのってさ…… ウォルフ:……あんまり、だろ…… イブ:……。 レオーネ:……これで、満足なのかしら? レオーネ:あなたはその小さな手で、一体何人を殺めれば気が済むのかしらね……イブ。 0:そっと、イブに向けて銃を構えるレオーネ。 レオーネ:残念だけど……あなたをこれ以上、生かしておくわけにいかないわ。 レオーネ:このまま放っておいたら、私の仕事にも影響しそうだし……それに何より。 レオーネ:……なぜかしらね。私は今、あなたに対してとても……怒りを覚えている。 イブ:……怒り? イブ:あなたが私に、怒り?……どうしてかしら、ミス・レオーネ。 レオーネ:私の方が知りたいわ。こんな感情が湧くのは久しぶりよ。 レオーネ:……あなたを殺せば収まるのかしらねぇ?この怒りのような、やるせなさのような……形容しがたい感情は。 イブ:……ふふッ。 ウォルフ:……何笑ってんだよ。 イブ:……ふふふッ……あははははッ!! ペコラ:……は?……何コイツ、頭おかしくなったの? イブ:私を殺す?あなたが?あなた如きが?……何を言ってるのかしら、おかしくて笑いが止まらないわ! イブ:あなたなんかに、あなたたちなんかに!私が殺せるわけがない!そんなものは認められない! イブ:あなたたちは所詮「部外者」!「余所者」よ!私はあなたたちを愛せないわ、私の「愛」はあなたたちを救わないわ! レオーネ:……可哀そうな子。 レオーネ:何があなたをそこまで狂わせたのかしら。……世の中って残酷ね。 イブ:そうよ……こんな残酷な世界、間違ってるでしょう?……何もかもは間違いよ、欠陥品よ、悪なのよ……! イブ:でも、そんな世界で……私にとっての唯一の光は、正解は、希望は……スネイク、あなただったのに……! イブ:あなたに笑ってほしかった!喜んでほしかった!認めてほしかった!あなたに追いつきたくて、あなたみたいになりたくて!だから私いっぱい考えて、いっぱい頑張って、一生懸命ここまで来たのに……ッ! イブ:どうして……どうしてあなたは笑ってくれないの?……どうして、まだそんな、哀しそうな顔をするの……? イブ:私が救いたかったのは……愛したかったのは……あなた一人なのに……! ウォルフ:……「最初から間違ってた」っていうのは……シアンを選んだことが、そもそも間違いだったって……そういうことか。 イブ:……彼、とっても優しかったわ。私、彼のこと好きだった。 イブ:だけど私が欲しかったのは彼じゃなかったから。……最初から、スネイク以外の人をアダムに選ぶつもりなんてなかった。 イブ:彼は、スネイクと繋がりがあった。彼と一緒にいれば、スネイクに会える。……そう思ったから。 ウォルフ:……ただ利用してただけってことか。 ペコラ:そんなのあんまりだろ……あいつはお前のこと、本気で想ってたぞ!! ペコラ:お前のためなら自分はどうなったっていいって、お前に全てを捧げるって!! ペコラ:あいつが正しかったとは思わないけど!……それでも、利用してただけなんて……最初から選ぶつもりなんてなかったって、そんなのって……ッ! レオーネ:……よしなさい、ウォルフ、ペコラ。今の彼女に、何を言っても無意味だわ。 レオーネ:見なさい……彼女、もうスネイクのことしか見えていないわ。 スネイク:……、……。 イブ:ねえ、スネイク……どうしてなの?……私、何を間違えたの? イブ:私は愛したかっただけなのに……救いたかっただけなのに…… 0:(スネイク、一呼吸置いてから) スネイク:……俺はなぁ。 スネイク:昔から、周りの人間を不幸にするって言われてきたんだ。 イブ:……? スネイク:俺と一緒にいる奴は、だいたいがろくなことにならねぇ。母親ですら俺を産んだときに死んで、俺を食わせるために働いてた父親はヤクザの喧嘩に巻き込まれて死んだ。 スネイク:……世界ってやつを恨んだ。こんな俺を必要とする奴なんざいねぇって、諦めながら生きてた。 スネイク:お前が初めてだったんだよ……こんな俺を、正義の味方だなんて言って……あんなキラキラした、透き通った優しい目で見つめてくる奴なんてよ。 スネイク:だから……お前に、俺みたいになってほしくなかった。あのキラキラした目を、俺みたいに濁らせたくなかった。……それだけだった。 スネイク:だけど……どこかでそれが、歪んじまったんだろうな。 スネイク:俺はまた……誰かを不幸にしただけだ。 イブ:……そんなこと、ない…… イブ:私は……私、は…… イブ:……わた、し…… 0:少しの沈黙。 0:何かを考え込むように俯いていたイブは、やがて震える手で、懐から一本のナイフを取り出す。 イブ:……私、は。 イブ:あなたを……救ってみせるわ。 スネイク:……。 ウォルフ:おい、何する気だお前……! ペコラ:おじさん!危ないよ! レオーネ:……スネイク! イブ:あなたが、この世界じゃ笑って生きられないのなら……新しい世界で、私が正しく創り変えた世界で、またあなたを…… スネイク:……救い、か。 スネイク:死が救済だっていうならよ……一つ聞いていいか。 0:静かに、銃口をイブに向けるスネイク。 スネイク:……俺が、今ここでお前を撃つことも、お前にとっちゃ救いなのか? イブ:……スネイク…… 0:一瞬、驚いたように銃口を見つめるも、どこか悲しそうに微笑んでみせるイブ。 イブ:……ふふ。 イブ:あなたが、救ってくれるの?……間違えてしまった私を。 スネイク:……。 レオーネ:……スネイク。 レオーネ:あなたが手を汚す必要はないわ。私が―― スネイク:いや。 スネイク:……俺に、やらせてくれ。 レオーネ:……でも。 スネイク:俺の問題だ。 レオーネ:……、……。 レオーネ:……そう、ね。 スネイク:おい、ウォルフ、ペコラ。 ペコラ:……なに、おじさん。 スネイク:……目ェ瞑ってろ。 ウォルフ:…………分かった。 イブ:……ねえ、スネイク。 イブ:私が愛せるのは、あなただけよ。私が救いたいのは、あなただけ。 イブ:……そして、私を愛せるのも、救えるのも……あなただけよ、スネイク。 イブ:私の……正義の味方。 イブ:今までも、これからも。 スネイク:……分かってるよ。 スネイク:分かってる…………ごめんな。 0:  0:銃声。 0:  0:  0:  0:(ペコラ、ナレーション) ペコラ:(N)そっと目を開けたとき、イブの身体がちょうど、床に崩れ落ちるところだった。 ペコラ:(N)表情はよく見えなかったけど……あいつは、微笑んでるみたいに見えた。 ペコラ:(N)安心したような、やっと楽になれたというような……でもどこか哀しそうな、そんな顔だったように、見えた。 ペコラ:(N)ふざけんなよ、なんでお前がそんな顔すんだよ。どれだけの人を傷つけたと思ってるんだ。 ペコラ:(N)お前なんて……お前なんて。 ペコラ:(N)すぐそこまで出かかったその言葉を、結局口には出せなかった。 ペコラ:(N)自分でもよく分からないけど……なぜか、目を閉じる直前に見た、イブの表情が。 ペコラ:(N)泣きそうな、不安そうな……まるで、迷子の子どもみたいな、そんな顔が。 ペコラ:(N)昔の私に似ていたような、重なったような、そんな変な感じがしたから。 0:  0:(ウォルフ、ナレーション) ウォルフ:(N)銃声の後、目を開けてまず最初に見えたのは、立ち尽くすスネイクだった。 ウォルフ:(N)あいつは、泣いていた。 ウォルフ:(N)何も言わず、そこにじっと立っているスネイクの頬に、一筋の涙が伝ったのが見えた。 ウォルフ:(N)何も言えなかったし、言うべきじゃないのはすぐに分かった。 ウォルフ:(N)無愛想で、失礼で、だらしのない男。 ウォルフ:(N)だけど、ボロボロになりながらも相棒に向けて叫び続けたあの男は。 ウォルフ:(N)「自分が周りを不幸にするから」と、絞り出すようにそう語っていたあの男は。 ウォルフ:(N)本当は優しくて、他人想いで、ひとりぼっちが嫌いで。 ウォルフ:(N)でもそれが、不器用だからこそ上手く伝えられなくて。 ウォルフ:(N)そんな、彼の本当の姿が……そのとき初めて、僕の目に映ったような気がした。 0:  0:  0:  0:数日後。 レオーネ:……どういうことかしら?スネイク。 スネイク:どうもこうも、そのまんまの意味だよ。 レオーネ:「自分に護衛役は無理だからここを出て行く」だなんて……そんなの私が認めるとでも? スネイク:あんたが認めるか認めないかはどうでもいい。俺はもう決めた。 スネイク:これ以上、あんたとあのガキどもに迷惑かけるわけにはいかねぇよ。……俺はやっぱり、一人でいるのがちょうどいい。 スネイク:……ってなわけだ、今まで世話になったな。 レオーネ:ちょっと、最後まで私の話を―― スネイク:聞く気はねぇよ、あんたの長話にもそろそろうんざりしてきた。 スネイク:ガキどもにも、よろしく伝えておいてくれ。じゃあ―― ペコラ:――ちょぉーっと待ったぁ!! スネイク:おわッ!? 0:突然スネイクの前に立ちはだかるペコラとウォルフ。 ペコラ:どーこ行くつもりなのかなぁ、おじさん? ウォルフ:悪いが、ここから先は一歩も通さないぞ。 スネイク:な、お前ら……! ペコラ:出て行くとか認めないかんね!そんなのいいわけないでしょーがっ! スネイク:なんでだよ!ガキはすっこんでろや! ウォルフ:ガキガキってうるさいんだよ!いい加減ガキ扱いすんじゃねぇ! スネイク:俺から見りゃあ十分ガキなんだよ! レオーネ:……ちょっと、落ち着きなさい三人とも…… ペコラ:ていうか!おじさんってばいろいろ勘違いしすぎなの! スネイク:あァ!?何がだよ!! ペコラ:私ら、おじさんのこと迷惑だなんて一度も言ったことないし!なのに迷惑かけられないから出て行くとか意味わかんないしっ! スネイク:いや、それは……実際迷惑かけてんだろうが……! ウォルフ:ああ確かに、かなり迷惑だった!ものすごく迷惑だった! ペコラ:ちょっとウォルフ!?私の言葉が一瞬で矛盾したんだけど!? ウォルフ:事実を言ったまでだ。僕は正直かなりとてもお前のことが迷惑だった。 ペコラ:ええ…… スネイク:じゃあ俺が出て行こうが関係ねぇじゃねぇか。 ウォルフ:……迷惑だったけど。 ウォルフ:でも、お前に何度も助けられたのも事実だ。 レオーネ:ウォルフ…… ウォルフ:僕は……お前のこと、ちょっと勘違いしてた。 ウォルフ:お前は無愛想でだらしがなくて、失礼な奴だと思ってた。お前なんかにレオーネ様の護衛なんて務まるわけないって、任せられないって、そう思ってた。 ウォルフ:でも……そうじゃないって、少し、分かったような気もする。 ウォルフ:お前は嫌な奴だけど、悪い奴じゃない。……だから…… ウォルフ:えっと……だから、その…… ペコラ:……素直じゃないねぇ、ウォルフ。いなくなったら寂しいから出て行かないでって正直に言えばいいのに。 ウォルフ:ばっ……寂しいとかそんなんじゃない! ウォルフ:ただ、こいつがいなくなったらレオーネ様が困るから……レオーネ様のために引き留めてるだけだ! レオーネ:ふふふ、本当に素直じゃないのねぇ、ウォルフ。 ウォルフ:レオーネ様までやめてください! スネイク:……だけどよ、俺は…… スネイク:お前らのことまで……不幸にするぞ。 スネイク:シアンも、あのガキも……俺のせいで死んだようなもんで…… レオーネ:あのね、スネイク。私はこう思うわ。 レオーネ:あなたは最後の最後で、あの二人を救ったんだって。 スネイク:……俺が? レオーネ:そう。……それは、イブが言っていたような救いとは少し違う。魂を救ってあげたのではなくて、心を救ってあげたのではないかしら。 スネイク:……心を…… ウォルフ:僕も、そう思います。 ウォルフ:シアンとイブの、最期のあの表情を見てたら……なんとなく、ですけど。 レオーネ:ええ、そうね。 レオーネ:きっかけはあなただったのかもしれないけど……歪んだ原因はあなたじゃない。 レオーネ:少なくとも、私はそう思う。 スネイク:……。 ペコラ:あのね、おじさん。 ペコラ:私、大人なんて大っ嫌いだけど……おじさんとレオーネさまのことは好きだよ? スネイク:……はァ? ペコラ:おじさんって優しいし、面白いし!あと、私のフレンチトースト美味しいって言ってくれるし! ペコラ:お掃除は手伝ってくれないけど、重いものは私の代わりに運んでくれるし……私たちが本当に危ないときは、必死に守ってくれる。 ペコラ:だから私、おじさんが絶対出て行くって言ったって、そんなの認めないもんね! スネイク:……お前なぁ…… レオーネ:ふふ、もう諦めなさいスネイク。あなたもすっかり、この屋敷の一員ということよ。 ウォルフ:まあ、このままここに住むというなら、もう少し態度を改めてもらいたいところではありますが。 ペコラ:もー、ウォルフってば、まーたそういう可愛くないこと言ってー。 ウォルフ:うるさい。 スネイク:……いいのか。 スネイク:こんな俺が、ここにいても……いいってのかよ……。 レオーネ:スネイク、私が誰だか忘れたかしら? レオーネ:あなたという人間の内を、初めて会ったその日に見抜けなくて、裏社会のトップが務まると思う? レオーネ:私は最初から、あなたを信じていたからここに呼んだのよ、スネイク。 ウォルフ:レオーネ様が信じる人なら……僕も信じる。 ペコラ:私もー! スネイク:……。 スネイク:……ハハ、敵わねぇなァ、こりゃあ。 レオーネ:ふふふ、それじゃあさっきの護衛役辞退の話は、なかったことにして構わないわね? スネイク:……好きにしな。 ペコラ:やったぁー! ペコラ:ね、おじさん!もうこのままずっとここにいてね! スネイク:あー……そいつはどうだろうなァ。 ウォルフ:何言ってんだ、レオーネ様と契約したんだから、死ぬまでここにいろよ。 レオーネ:あなたはやっぱり素直じゃないわね。 ウォルフ:そんなんじゃありません。 スネイク:お前もちっとはペコラみてぇに子どもらしくしてみろよ、ウォルフ。 ペコラ:そーだそーだ! ウォルフ:うるさいな!僕は子どもじゃない!ペコラがバカっぽいだけだ! ペコラ:あ!バカって言ったな! ウォルフ:ああ言ったよ! ペコラ:バカって言う方がバカなんだぞ!ウォルフのばーか! ウォルフ:そういう子どもみたいなこと言ってるからバカって言われるんだ! スネイク:おいうるせぇぞお前ら、ギャーギャー騒ぐんじゃねぇ。 レオーネ:あらあら、これは……今まで以上に、賑やかになりそうね。 0:  0:  0: