台本概要

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タイトル 花葬が彩る想い出の華
作者名 蒼  (@i_souaoi)
ジャンル その他
演者人数 6人用台本(男4、女2)
時間 90 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 連絡不要ですが、上演前でも上演後でもご連絡いただけたら泣いて喜びます。

【禁止事項】

⑴無断転載
⑵台本本文の配布(Mojiban、Writening等の共有サイト貼り付け、コピーを含む)
⑶自作発言
⑷金銭が発生する有料配信、営利目的での無断使用
⑸台本ごとに定めた設定を壊すこと(性別、人数、世界感を含む)
⑹当サイトの台本を使用しての誹謗中傷
⑺著作権侵害

【投げ銭システムのある配信アプリに関して】

換金アイテム(投げ銭機能)がある配信においては、その配信内(※1)での現金還元額が30,000円を超えた場合は、著作権使用料の支払いが発生します。
※1 本編上演枠+劇後感想枠および、本編上演枠を定義とします。後日における、劇後感想枠等での投げ銭については、合計金額に加算は致しません。

⑴小学生、中学生、高校、その他学生の無料公演:無料
⑵アマチュア劇団の公演、学生の有料公演:5,000円
⑶プロの劇団の公演:全チケット収益の1割(収益の1割が5,000円に満たない場合は5,000円)
⑷事務所所属をしている方の配信及び動画投稿:現金還元額の1割(還元額の1割が5,000円に満たない場合は5,000円)

⑵の場合は、公演の2週間前までに
⑶の場合は、公演後2週間以内
⑷の場合は、収益確定日の1週間以内にご連絡、現金還元日1週間以内にお支払いをお願いします。

※「プロ」の定義は、表舞台で活躍している俳優・声優、及び事務所に所属をしている方を指します。

その他ご不明な点等があれば、X(旧Twitter)にてご連絡ください。

ーーー配役表ーーー
※ここだけコピーOKです。
一から配役を打つのは大変かと思いますので、ご使用の配信サービス等にお使いください。

如月:
栗原:
白浜智弥:
白浜渉:
白浜香澄:
宮下真弓:

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
如月 169 研修期間中の新人社員。 何故この仕事に就いたのか自問自答している。 淡々としているが、誰よりも人の感情に寄り添える。
栗原 115 如月の上司。 研修期間の指導員を担当している。 世話焼きで明るい性格。 仕事のオンオフを切り替えるのが上手い。
智弥 131 花葬の依頼人。 妻が亡くなったショックで精神的に抜け殻状態である。 そのせいで感情の起伏が激しく時折発狂してしまう。
90 智弥と香澄の一人息子で高校生。 父親を支える為に自分がしっかりしていないとと気を張っている。 礼儀正しいが所々に子供っぽさが残る。
香澄 85 智弥の妻。 癌治療の闘病の末、亡くなる。 遺言に"死後は花葬をしてほしい"と残す。 妻として母として、強く弱く愛らしい女性である。
真弓 67 香澄の母親。 娘婿と孫だけではと花葬の依頼に付きそう。 とても婿思いの姑。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
如月:M「これは、君達が過ごす現代より遥か数百年未来の話。 如月:遠い昔から我々の祖先は人の死を尊んでいた。 如月:それは僕達が生きる未来でも続いている。 如月:納棺、火葬、四十九日、納骨……昔から続く風習は私達が生きる未来でも続いている。 如月:数百年も過ぎれば、葬儀の方法も少し変わってきていた。 如月:数十年前に新たな葬儀の種類が実用化された。 如月:火葬の後、四十九日の間に行う"花葬"。 如月:花に葬ると書いて花葬と読む。 如月:それは、死者の記憶を残された家族に残す技術。 如月:自分の遺伝子情報を種として残す植物の過程に着目した技術である。 如月:特殊な管理下での育成が必要である為高額ではあるが、花葬を希望する家族は後を絶たない。 如月:それだけ、死者の記憶というものは残された家族にとって価値があるものなのだろう」  :  0:-建物の前でお辞儀をする如月-  :  如月:「本日は、お疲れ様でございました。 如月:残された記憶の想い出と共に、良き旅路をお祈り申し上げます」  :  0:-依頼人を見送り、頭をあげる-  :  栗原:「よっ、お疲れさん」 如月:「栗原さん」 栗原:「研修期間もそろそろ終わるが、どうだー?やりごたえある仕事だろ?」 如月:「……まだ、分かりません」 栗原:「そかそか。まだまだ始めたばっかだ。これからこの仕事のことを理解していけばいいさ」 如月:「はい」  :  0:-栗原の携帯が鳴る-  :  栗原:「もしもし。お疲れ様です。栗原です。 栗原:……はい。……はい。分かりました。すぐに如月を連れて向かいます。 栗原:はい、失礼いたします」  :  0:-電話を切る-  :  栗原:「如月、次の仕事だ」 如月:「分かりました」  :  0:-如月、栗原と共に依頼人が待機してる部屋に向かう-  :  栗原:「失礼いたします。お待たせしてしまって申し訳ありません」 真弓:「ぁ、いえ。お気になさらないでください」  :  0:-部屋の中には女性一人と男性が二名いる-  :  智弥:「……」 渉:「お父さん」 栗原:「あぁ、大丈夫ですよ。息子さんかな?本日はよろしくお願いします」 渉:「はい、よろしくお願いします」  :  0:-椅子に座る栗原と如月-  :  栗原:「白浜さんの花葬を担当いたします、栗原と申します」 如月:「如月と申します」 栗原:「私はサポートで入りますので、メインは如月が担当します。 栗原:新人研修中なのですが、とても優秀な人材です。ご安心ください」 真弓:「分かりました。如月さん、よろしくお願いします」 如月:「はい。お任せください。 如月:それではご依頼の内容とプランの説明をいたしますが、大丈夫でしょうか?」 真弓:「はい、大丈夫です」 如月:「ご依頼者様は、旦那様の白浜智弥様。息子さんの白浜渉様。お母様の宮下真弓様。 如月:花葬者は奥様の白浜香澄様でお間違いないでしょうか?」 真弓:「はい、間違いありません」 智弥:「……」 如月:「あの、失礼ですが旦那様は……」 渉:「お父さんは、お母さんが死んじゃったショックで、抜け殻みたいになっちゃってるんです」 如月:「そうでしたか。お答え辛いことを聞いてしまって申し訳ありません」 渉:「……大丈夫です」 栗原:「お名前的にお母様は奥様側の方でしょうか?旦那様のご両親は?」 渉:「おじいちゃんとおばあちゃんは、遠い所に住んでるからすぐには来れないんです。 渉:それに身体も悪いから、長距離の移動は難しくて……」 真弓:「二人だけでこちらに向かうって言ってたんですが、智弥さんがこの状態なので、私が付き添いという形で……」 栗原:「そうでしたか」 如月:「必要な書類は既に郵送していただいていますので、花葬方法の説明と料金の説明をした後、確認書類にサインをしていただく形になります」 真弓:「はい」 如月:「では花葬の説明に移ります。 如月:花葬はその名の通り、"追憶花(ついおくか)"と呼ばれる特殊な花に遺灰をかけ受粉させます。 如月:その後こちらの管理の元、適切な育成方法で成長を促し実を成らせます。 如月:実った果実が落下する頃にご連絡いたしますので、お越しください。 如月:果実の中の種を見届けていただき、花葬は終了となります」 栗原:「ここまででご質問はありますか?」 渉:「あの、連絡が来た時しか来ちゃいけないんでしょうか?」 栗原:「そんなことはございません。育成中にもお越しいただければご案内いたします」 渉:「よかった。お母さんにまだ会えるんだ」 栗原:「はい、ご心配なさらず」 如月:「何か花葬の際にご希望はありますか?」 渉:「種って、持って帰れたりしますか?」 如月:「出来ますよ。種はご家族の方々にお渡しいたします」 渉:「それだけ聞ければ、僕は大丈夫です」 如月:「はい。分かりました。 如月:では料金の説明ですが……花葬代が125万、育成代が50万で合計175万になります。 如月:以上の説明にご納得いただけましたら、こちらの確認書類にサインをお願いいたします」  :  0:-確認書類を取り出し、目の前に置く- 0:-代表して真弓がサインをする-  :  如月:「ありがとうございます。 如月:それでは、花葬の準備に入りますので遺骨の方こちらでお預かりさせていただきます」 智弥:「(独り言)……香澄は、ちゃんとここにいるんだ。死んでないんだ」 如月:「旦那様、奥様をお預かりしてもよろしいでしょうか?」  :  0:-手を差し出す素振りを見せた途端、智弥が発狂する-  :  智弥:「香澄は渡さない!!香澄は死んでない!ちゃんとここにいるじゃないか! 智弥:勝手に花葬やらなんやら進めないでくれ!!」 如月:「……」 渉:「お父さん!お母さんはもういないんだよ!お母さんも花葬をしてって言ってたじゃん!」 智弥:「違う、違う、香澄はいるんだ。ちゃんと僕の腕の中にいるじゃないか。香澄は生きてるんだぞ渉」 渉:「お父さん……」 真弓:「すいません。暫く、三人にしていただけませんか?」 栗原:「そうですね。落ち着いたらお声掛けください。私達は外で待機していますので」  :  0:-部屋を出る如月、栗原-  :  栗原:「……驚いたか?」 如月:「……はい、少し。言葉が出ませんでした」 栗原:「そうか」 如月:「ああいう方、他にもいるんですか?」 栗原:「あぁ。あれは全然軽い方だな」 如月:「あれで、ですか? 如月:でもあれは、明らか幻覚を見ていますよね? 如月:それってもう、現実逃避というか……精神がやられてしまってるのでは?」 栗原:「いや、あれはちゃんと死を理解している」 如月:「え?」 栗原:「本当に精神がやられていて幻覚を見ているのであれば、あんな言動はしないさ」 如月:「どういう意味ですか?」 栗原:「あれは、自分に言い聞かせてるだけだ。 栗原:死を頭では理解している。だが、心が拒絶している。 栗原:……最愛の人が亡くなると、ああなるもんだ。 栗原:理解はしてるが事実として理解が出来ない。したくない。 栗原:自分の中で事実が理解出来るまで、ああやって自分に嘘を言い聞かせている」 如月:「そこだけ聞くと、なんか悲しいですね」 栗原:「お前が言うように、精神はやられてるさ。 栗原:ここに来る人で、人の死を平然と思っている人はいない。 栗原:だがな、本当に精神が逝っちまってる人間は、見てらんねぇよ」 如月:「……どんな感じなんですか?」 栗原:「普通に話すんだよ。故人がそこに"存在"しているかのように」 如月:「それは……」 栗原:「聞いてるこっちはたまったもんじゃねぇな。 栗原:故人の花葬の話をしてるのに、隣の空いてる椅子の方を向きながら故人の名前を呼ぶんだぞ? 栗原:あれは、何度見ても心が痛い」 如月:「……」 栗原:「だから、そういうのを見ちまうとな。あれはまだ戻れる範囲だ」 如月:「そうですか」 栗原:「人の抱えてる痛みや苦しみ、悲しみをこちらが決めつけちゃいけねぇとは思うがな」 如月:「それでも、栗原さんは色々な人達を見てきたんですよね?」 栗原:「あぁ。だから余計にな。残された家族のしんどさを、俺が勝手に決めつけちゃいけねぇよ。 栗原:あの人達なりに、答えを出してここに来たんだろうからな。 栗原:旦那さんだってそうだ。答えを出せていないが、それでもここに来てくれた。 栗原:後は、花葬に任せよう。きっと救われるさ」 如月:「……ご遺骨、渡してくれるでしょうか」 栗原:「分からない。あんな風に拒絶されればこちらは何も出来ない。あちらさんに任せよう」 如月:「はい」  :  0:-微かに声が聞こえるドアを見つめる-  :  智弥:「香澄、香澄」 真弓:「智弥さん、香澄を離してあげて?」 智弥:「嫌です。香澄は、ここにいるじゃないですか。お義母さんまで何言ってるんですか? 智弥:香澄は、ただ寝てるだけなんです。もう少ししたら、きっと目を覚ましてくれます」 渉:「(被せて)お母さんは死んだんだよ」 智弥:「……渉?」 渉:「お母さんは、そんなこと望んでない。 渉:こんな惨めになった姿、お母さんは見たいと思ってないよ。 渉:ちゃんと花葬をしてくれると思ったから、遺言を残してくれたんじゃないの? 渉:お父さんを信じてくれたんじゃないの?」 智弥:「……どうしてそんなことを言うんだ?渉は、お母さんのことが嫌いなのか?」 渉:「そうじゃない!」 智弥:「ならなんでそんなこと言うんだ!香澄は、香澄は俺の腕の中にいるだろ?まだ生きてるじゃないか」 渉:「ッ……!」 真弓:「智弥さん、香澄を愛してくれてありがとう。 真弓:香澄、智弥さんの話をしている時とてもいい笑顔してるのよ? 真弓:とても幸せな顔をして話してくれるの。渉の話をしている時もそうよ? 真弓:だから、ね?いつまでも香澄を置いておけないわ」 智弥:「お義母さんまで何言ってるんですか。香澄は死んでなんかない。ちゃんと生きてる。 智弥:香澄はここにいるんだ。香澄は、香澄は……」 真弓:「ええ。香澄はちゃんと智弥さんの腕の中にいます。 真弓:その香澄が、花葬をしてほしいって言ってるのよ?」 智弥:「……香澄が?誰がそんなウソを?香澄がそんなこと言うはずがない。 智弥:誰ですかそんなことを言ったのは」 渉:「お母さんだよ!お母さんが言ったんだよ!」 智弥:「……香澄、帰ったらどっか行こうな。香澄の好きな場所、どこでも連れて行ってやるから」 渉:「ッ、もう、見たくないよ……」 真弓:「……智弥さん、ごめんなさいね」  :  0:-智弥から骨壺を奪う真弓-  :  智弥:「お義母さん?何するんですか!香澄を返してください!」 真弓:「渉、香澄を……」 渉:「う、うん」 智弥:「渉?いい子だからお母さんをお父さんに渡しなさい」 渉:「……嫌だ」 智弥:「どうしてだ渉」 渉:「お父さんの傍にいたら、お母さん安らかに逝けないから」 智弥:「香澄は死んでなんかないんだぞ。そんな言葉使ったらダメだろ?」 渉:「お母さんは死んだんだ!」 智弥:「香澄を返せ渉!」 真弓:「智弥さん!」  :  0:-智弥を抱きしめる-  :  智弥:「離してください!香澄を、香澄を取り返さないと!」 真弓:「渉!如月さん達に香澄を渡してきて!」 渉:「う、うん!」  :  0:-外に待機してる如月達を呼んでくる-  :  渉:「如月さん、栗原さん!」 如月:「はい。どうしました?」 渉:「お母さんの骨。預かってください」 如月:「いいんですか?」 渉:「こうしないと、お父さんダメになってく。だから……」 智弥:「香澄、香澄、行かないでくれ。俺を置いて行かないでくれ!」 栗原:「これは、また無茶苦茶な……」 真弓:「いい加減にしなさい!」  :  0:-頬を叩く-  :  智弥:「いっ!」 真弓:「香澄は、死んだんです!何度も孫にお母さんは死んだなんて言わせないでちょうだい」 智弥:「……」 真弓:「如月さん、栗原さん、娘をよろしくお願いします」 智弥:「違う。香澄は、香澄は……」 栗原:「本当はご納得いただけた上でお預かりしたかったのですが、お二人がいいのであれば」 渉:「大丈夫、です」 真弓:「智弥さんは、こちらでどうにかします」 如月:「分かりました。ご遺骨、お預かり致します。 如月:花葬に必要な分だけ頂きますので、少しだけお待ちください」 渉:「何日も預かるんじゃないんですか?」 栗原:「ほんの少しの遺灰だけでいいんです。 栗原:全部を頂く訳ではありません。 栗原:それに、故人様が一番傍にいたいのは旦那様や息子さん、お母様のお傍でしょうから。 栗原:(渉に言う)納骨は、お父さんの気持ちが落ち着くまでしなくていいんだよ」 渉:「ありがとうございます」 栗原:「それでは、こちらの部屋でもう少しだけお待ちください」 如月:「失礼いたします」  :  0:-部屋を出る- 0:-花葬準備室と書かれた部屋に入る二人-  :  如月:「それでは、花葬の準備に取り掛かります」 栗原:「合掌」  :  0:-骨壺に向かって手を合わせる-  :  如月:「お眠りの中、失礼いたします。少し眩しいと思われますが、蓋、お開けいたします」  :  0:-骨壺の蓋を慎重に開ける-  :  如月:「……」 栗原:「どうした?」 如月:「……いえ」 栗原:「気になることがあるなら言え」 如月:「白浜様は、闘病の末亡くなったと……」 栗原:「ああ。癌だったそうだ」 如月:「……骨、あまり残らないんですね」  :  0:-骨壺を覗き込む栗原-  :  栗原:「ずっと、病院のベットの上だったんだろう。薬の影響で骨も脆くなっている。 栗原:年齢の割に骨が残らなかったのは、そのせいだろうな」 如月:「……寂しいですね。お手元に残ったのがこれだけとなると、お渡ししたくなかった旦那様のお気持ちが分かります」 栗原:「だからこそ、俺達は故人様の記憶を取り出さなきゃいけないんだ」 如月:「はい」 栗原:「いつまでも感傷に浸ってるな。ここから俺達はあくまで栽培人だ」 如月:「分かりました」 栗原:「奥様、少しお身体触ります。お許しください」  :  0:-慎重に骨を動かし、底にある遺灰を掬う-  :  栗原:「如月、試験管」 如月:「はい」  :  0:-受け渡された試験管に遺灰を移し、骨壺の蓋を閉める-  :  栗原:「よし、遺族に戻しに行くぞ」 如月:「分かりました」  :  0:-骨壺を抱え、部屋の外で待っていた智弥に骨壺を渡す-  :  如月:「智弥様、奥様をお返しいたします」 智弥:「あぁ、香澄。どこに行ってたんだ。心配したんだぞ」 如月:「これより花葬に入りますが、ご一緒になりますか?」 智弥:「香澄、すぐ帰ろうな」 如月:「……」 渉:「お父さんが心配だから、僕は遠慮します」 真弓:「渉、行ってきなさい。お父さんは私が見ておくわ」 渉:「でも……」 真弓:「本当は、見届けたいんでしょう?」 渉:「……うん」 真弓:「なら、私の代わりに見届けてくれる?」 渉:「……分かった」 如月:「それでは、花葬部屋にご案内致します。こちらへ」  :  0:-栗原、渉と共に花葬部屋へ向かう-  :  渉:「うわ、すげぇ」 栗原:「部屋と名称付けてるけど、ここは中庭なんだよ。 栗原:それぞれの区画で、故人様の想い出が眠ってるんだ」 渉:「綺麗……」 栗原:「皆そう言うよ。イメージと違ったって」 渉:「なんか、天国みたいな場所……」 如月:「こちらが、白浜様の追憶花になります」  :  0:-案内された場所には、大輪の白花を咲かせた植物が一輪だけある-  :  渉:「これが、お母さんの……」 如月:「はい。こちらに白浜様の遺灰を受粉させ、想い出の種を育てていきます。 如月:追憶花には様々な色が存在しますが、香澄というお名前ですので白い花を選ばせていただきました。 如月:他の色がいいと仰るのであれば、空きをお探しいたしますが……」 渉:「ううん。この花がいい」 如月:「……分かりました。それでは、花葬に移させていただきます」  :  0:-栗原から受け取った試験管を、追憶花に振りかける- 0:-追憶花が淡い光を放つ-  :  渉:「うわっ、花が光った」 如月:「……以上で、花葬は終わりです。 如月:こちらの管理の元、大切に育てていきます。 如月:果実が実った頃に、ご連絡致します」 渉:「はい。お母さんを、よろしくお願いします」 栗原:「時折、お母さんに会いにきていいからね」 渉:「はい、会いにきます」 如月:「それでは、戻りましょうか」  :  0:-外まで遺族を送る- 0:-待機していた真弓が頭を下げる-  :  真弓:「どうだった?」 渉:「綺麗な場所だった。お母さんの花、真っ白で大きな花だったよ」 真弓:「白、そうなの。香澄は白い花が好きだったから、ピッタリね」 渉:「うん」 真弓:「如月さん。栗原さん。娘を、よろしくお願いします」 如月:「はい、大事に預からせていただきます」 渉:「お父さん、帰るよ」 智弥:「……」  :  0:-お辞儀をし、見送る-  :  栗原:「育て方はもう分かるな?」 如月:「はい」 栗原:「マニュアル通りにいかないのがここからだ。 栗原:故人様との時間を過ごすのが一番多くなる。 栗原:しっかり白浜様と向き合うんだぞ」 如月:「分かりました」 栗原:「不備が起きたらすぐに連絡すること。いいな」 如月:「はい」 栗原:「よし。頑張れよ」  :  0:-肩を叩いて建物に戻っていく栗原- 0:-深い溜息をつき、自分の担当の区画に戻っていく如月-  :  如月:「白浜香澄様。改めてご挨拶させていただきます。 如月:本日よりお世話させていただきます、如月と申します。 如月:白浜様の記憶の成長を手伝わせていただきます」  :  如月:M「仕事など、ただ淡々にこなせばいいと思っていた。 如月:この職に就いたのも、待遇が良かっただけのこと。 如月:遺骨を見るのはもう慣れた。人として見なければ、なんの感情も起きない。 如月:そう思っていた。遺族に寄り添いすぎず、私はただ仕事をすればいいと……。 如月:今までの依頼者は、故人の死を理解していた。受け入れていた。 如月:何事も起きず、スムーズに話を進めることが出来た。 如月:……今日の依頼者はなんだったんだ? 如月:故人の死を受け入れているのに、感情が拒絶している。 如月:全てが違った。言葉が詰まったのは今日が初めてだ。 如月:私は、仕事が出来なかった。何も言えなかった。 如月:あの時、私はあの方々になんて言葉を掛ければ良かったんだろう。 如月:今でも考えている。正解を。 如月:答えが出ないまま、私にとって初めての依頼者様との初日が終わった」  :  0:-翌日 栽培室- 0:-渉が追憶花の前に立っている-  :  渉:「(如月に気づく)あ……」 如月:「こんにちは」 渉:「こんにちは。昨日の今日で、迷惑でしたか?」 如月:「いいえ。そんなことはございませんよ」 渉:「よかった」 如月:「私は業務をしますが……」 渉:「迷惑じゃなかったら、見ててもいいですか?」 如月:「それは、構いませんが……」 渉:「ありがとうございます」  :  0:-業務をする如月- 0:-その様子を眺める渉-  :  如月:「そういえば、お父様の様子はどうですか?」 渉:「相変わらずです。 渉:母が死んでから、父はおかしくなりました。 渉:荼毘(だび)に付(ふ)す時も大変で、それが終わってからは毎日骨壺に向かって話しかけてます」 如月:「そう、ですか」 渉:「食事も摂らなくなって、最初はおばあちゃんが無理矢理食べさせてたんです。 渉:けどある時、自分で料理をしたんですよ。しかも二人分。 渉:そこから、母の分も一緒に作るようになって食べてくれるようになりました」 如月:「苦労されましたね」 渉:「ぁ、ごめんなさい。こんなこと話しても、如月さんには関係ないのに……」 如月:「いいえ。私は白浜様の担当者です。少なくとも、関係なくはありませんよ」 渉:「……(独り言のように)お父さんは、凄い人なんだ。 渉:明るくて、お喋り好きで、多趣味で、僕が悩んでたり困ってたら手を差し伸べてくれる。 渉:色々な場所に連れてってくれて、沢山の世界を見せてくれるんだ。 渉:お母さんが死んでからは、お父さんがお父さんじゃなくなって……まるで別人みたいで……。 渉:遺言通り花葬をすれば、前のお父さんに戻ってくれるんじゃないかって思うんだ」 如月:「……ご期待に応えられるかは分かりません。 如月:ですが、せめてお母様の大切な記憶はお父様にお渡します。 如月:それをどう受け取っていただけるかは、お父様次第です」 渉:「……如月さん、ありがとうございます」 如月:「大丈夫なんて不確かな言葉は言いません。 如月:私はあくまで花葬担当者という立場ですから」 渉:「如月さんは、それでいいと思います」 如月:「そうでしょうか?栗原さんにはもっと遺族に寄り添うべきだと注意されてますが」 渉:「ううん。如月さんは、ちゃんと寄り添ってくれてるよ」 如月:「私は……」  :  0:-その時、追憶花の花弁が震えだし散り始める-  :  渉:「花が……!」 如月:「始まりましたか。予定より早いですね」 渉:「だ、大丈夫なんですか?」 如月:「大丈夫ですよ。こちらへ」 渉:「は、入っていいんですか?」 如月:「はい」 渉:「し、失礼します」  :  0:-栽培区画に足を踏み入れる-  :  如月:「追憶花の中心をご覧ください」 渉:「……果実?」 如月:「これが、お母様の記憶の元になります」 渉:「これ、が?」 如月:「はい。追憶花の成長自体は比較的早いのですが、故人様の遺族に残したい想い出の量によってその期間は長くなっていきます。 如月:お母様がどれだけ想い出をお持ちになっているかは分かりませんが、お父様が元に戻るきっかけになる想い出があることを願っています」 渉:「あるといいな。あんなお父さん、お母さんも見たくないと思うから」 如月:「……そうですね」 渉:「今日はありがとうございました。お母さんのこと、よろしくお願いします」 如月:「はい。お任せください」 渉:「今日は帰ります。お父さんとおばあちゃんが心配だから」 如月:「またお母様に会いたくなったら、いつでも来てください」 渉:「はい。失礼します」  :  0:-渉が出ていくのを見届け、追憶花に向き直る-  :  如月:「良い息子さんですね。白浜様」  :  如月:M「"ちゃんと寄り添えてる" 如月:その言葉を、私は何度も心の中で繰り返した。 如月:本当に私は寄り添えているんだろうか。 如月:もっと遺族に対して親身に接するべきだと。 如月:元は命あった、私達と同じ人であったことは忘れてはいけないと。 如月:そう何度も、栗原さんには耳にタコが出来るほど入社した時から言われていた。 如月:栗原さんは何も言わなかったけど、きっと気づかれていたのかもしれない。 如月:遺骨を物として扱っていた私の心に……。 如月:私は、一体どうするべきなんだろうか」  :  0:-数日後-  :  如月:「本日もよろしくお願いします。白浜様」  :  0:-栗原が母親を連れてくる-  :  栗原:「よぉ、仕事に熱心で何よりだ」 如月:「栗原さん……と」 真弓:「香澄がお世話になっております」 如月:「真弓様」 栗原:「ちょうど入り口でお会いしてな。 栗原:娘さんに会いに来たって言うから連れて来たんだ。 栗原:ちょうど如月に用もあったしな」 如月:「え、何でしょうか?」 栗原:「まぁそれは後で話すさ」 如月:「はぁ」 真弓:「何度来ても、ここは夢のような場所ですね」 如月:「私もそう思います。 如月:……先日、お孫さんがいらっしゃいましたよ」 真弓:「渉から聞きました。 真弓:とても親身に孫の話を聞いてくださったと。 真弓:あの子、とても嬉しそうに話してくれましたよ」 栗原:「お?どんな話したんだ?」 如月:「……守秘義務がありますので栗原さんでもお教えできません」 栗原:「ははっ、正解の回答だ。成長したな」 如月:「いえ、そんなことは……」 栗原:「そうれはそうと真弓様。失礼かと思われますが、一つご質問してもよろしいですか?」 真弓:「なんでしょうか?」 栗原:「先程、何度来てもと仰ってましたがもしや花葬の経験が?」 真弓:「はい。両親と夫の葬儀の際に利用させていただきました」 栗原:「そうでしたか」 真弓:「どちらも交通事故で亡くしましてね。 真弓:突然だったので、なんの準備も出来ず死に目にも会えず……。 真弓:全てが終わって骨壺の前で無気力な日々を過ごしていたんです。 真弓:そんな時でしたねぇ。親戚が花葬のことを教えてくれたんですよ。 真弓:心の余裕も持てない中、その一言で両親が言っていた言葉を思い出しました。 真弓:"死んだら花になりたい"と……旦那は花葬のことは何一つ言ってませんでしたが、私が旦那の想いを知りたかったら花葬を依頼したんです。 真弓:両親の想いも旦那の想いも、ちゃんと受け取りました。 真弓:花葬のおかげで、無気力だった日々から救われました。 真弓:……気休めかもしれないけれど、智弥さんも救われてほしいわ」 如月:「……お孫さんも同じことを仰っていまいたよ。 如月:お母さんの想い出が、お父さんを元に戻してくれたらいいな、と」 真弓:「そうですか。あの子が……香澄も、あんな智弥さんを見たくないと思うわ」 如月:「香澄様……娘さんは、どんな方だったんですか?」 真弓:「とても、心優しい頑張り屋な子です。 真弓:小さい頃から私の身の回りの手伝いをよくしてくれる子でした。 真弓:中学、高校は少しすれ違う日々もありましたが、大きな病気一つすることなく素敵な旦那さんと子供に恵まれて、毎日幸せな日々を送っていたんです」 栗原:「旦那様とお子さんの様子を見たら、とても愛されているお母様だと分かります」 真弓:「ええ。智弥さんも渉も、私のことをお義母さんおばあちゃんって呼んでくれてねぇ。 真弓:智弥さんなんて色々なところに旅行に連れて行ってくれたんですよ? 真弓:……(声のトーンが下がる)何回目かの旅行の時でしたね。 真弓:香澄の体調が悪くなって、そこからはもうトントン拍子に検査と入退院の繰り返しでした」 如月:「……癌、だったとお聞きしました」 真弓:「神様って残酷だと思いませんか? 真弓:癌だと分かった時は、既に手遅れに近い状態でした。 真弓:それでもあの子は、私達に心配かけまいと笑顔だったんです。 真弓:病気なんかに負けないって、毎日言っていましたよ。 真弓:心の中では私も娘も気づいていたんです。 真弓:あぁ、治らないんだ。死ぬんだって。 真弓:それでも、抗いたかったんです。少しの希望でも持ちたかった」 如月:「……」 真弓:「昔と比べて、医療も随分進みました。 真弓:完治出来なかった病気も治療法が見つかって希望の光が差すようになりました。 真弓:それでも、どれだけ医療技術が進歩しても癌はどうしようもありませんねぇ。 真弓:日に日に娘の身体を蝕んでいきました。 真弓:身体は辛いはずなのに、それでも娘は最期まで諦めなかったんです。 真弓:最期は私達が耐えられなくなって、痛みだけでも取ってあげようと痛み止めをお医者様にお願いしました。 真弓:……それがいけなかったんでしょうかね。翌日のお昼、娘は眠るように亡くなってしまったんです」 栗原:「……お気持ち、お察し致します」 真弓:「娘が亡くなった時は悲しかったですけど、あんな風になってしまった智弥さんを孫の渉が支えるのは酷ですから。 真弓:私がしっかりしないといけませんよね。渉も、表では平然としていますけどきっと母親を亡くして気持ちの整理もついていないでしょうから」 栗原:「ご立派です」  :  0:-微笑み、追憶花に話しかける-  :  真弓:「香澄。こんな綺麗なお花になれて嬉しいわねぇ。 真弓:智弥さんのこと、渉のこと、きっと心配してるかしら。 真弓:香澄の想い、智弥さんに届くといいわね」  :  0:-花弁を撫でる-  :  真弓:「お時間取らせていただき、ありがとうございました」 栗原:「いえ、いいんですよ。ここは残された者が語らう場でもありますから」 如月:「失礼ですが、旦那様……智弥様は来ないのでしょうか?」 真弓:「……来るのは、難しいと思います。 真弓:こちらに伺う時に声はかけているんですが、届いていないようで……」 如月:「そう、ですか」 真弓:「来るべき時が来たら、智弥さんも連れてきます」 如月:「お待ちしております」 真弓:「それでは、失礼しますね」  :  0:-お辞儀をし、帰ろうとする真弓- 0:-引き留める如月-  :  如月:「ぁ、あの……!」 真弓:「はい?」 栗原:「如月?」 如月:「さっき、言ってましたよね。 如月:痛みだけでも取ってあげようと思った。それがいけなかったのかって」 真弓:「ええ。ふとそんなことを考えてしまうんです。 真弓:お医者様も、それは違いますよって言ってくださったんですが…… 真弓:いけませんね。私がこんな弱気になっちゃ」 如月:「私は、そんなことないと思います。 如月:闘病生活をされていて、心も弱っていたと思います。 如月:それでも娘さんが諦めなかったのは、お母様や旦那様、息子さんとまだまだ生きていたかったからではないでしょうか? 如月:癌のしんどさや痛みがどれほどのものかは分かりません。 如月:けれど、その耐えてる時間がとてつもないものだってことは分かります。 如月:その痛みを取ってくださっただけでも、娘さんにとっては嬉しかったんではないでしょうか」 真弓;「如月さん……」 如月:「赤の他人である私の言葉なんて聞き流してもらって構いません。 如月:ですが、闘病生活を頑張った娘さんと、それを支えたお母様やご家族、お医者様の時間を自分のせいだと否定しないであげてください」 真弓:「……(涙ぐむ)そう、ですね。私ったら、香澄に怒られちゃうわね」 如月:「い、いえ。差し出がましいことを言って申し訳ありません」 真弓:「いいえ。とても嬉しい言葉をありがとう」 如月:「……」 真弓:「如月さん。あなたが娘の担当で良かったわ」 如月:「……私は」 真弓:「改めて、娘をよろしくお願い致します」 如月:「……はい」  :  0:-すっきりした表情で帰っていく真弓-  :  栗原:「言うようになったなぁ。如月ぃ?」 如月:「す、すいません。業務外のことを……」 栗原:「いや、それでいい」 如月:「え?」 栗原:「俺は少し勘違いをしていたな」 如月:「な、なにがですか?」 栗原:「お前は、遺族に向き合ってないわけじゃなかったなぁってな」 如月:「え、でも、栗原さんから見たら私は……」 栗原:「……遺骨を扱う姿が、俺には見てられなかった。 栗原:遺骨は故人の生きた証だ。今までどんな人生を迎えたのかが詰まってる。 栗原:遺族に残される唯一のものだ。元は俺達みたいに生きていた。 栗原:それを忘れちゃいけねぇ。けれどお前は、遺骨をまるで物のように扱ってるように見えてな。 栗原:勘違いしちまった。すまない。この通りだ」  :  0:-頭を下げる栗原- 0:-慌てる如月-  :  如月:「や、やめてください栗原さん!頭をあげてください!」 栗原:「あの会話を聞いて、ちゃんとお前が遺族に向き合ってるって分かった。俺は上司失格だな」 如月:「ち、違います。栗原さんは間違ってません」 栗原:「……どういうことだ?」 如月:「栗原さんの言ってることは、合ってます。 如月:遺骨が遺族に残されたものだってことも、元々は私達と同じように生きていた人だってことも。 如月:それでも私は、栗原さんが言っていたように遺骨を物として扱っていました。 如月:なにも考えず無関心で触れていました。人だったと考えないようにしていたのは事実です。 如月:遺族の方に故人の想い出をお渡しする仕事をしている上で、やってはいけない、思ってはいけない感情です。 如月:それを、栗原さんは見抜いていました。 如月:だから上司失格ではないです。失格なのは、そんな気持ちで故人様と遺族の方に接していた私の方です。 如月:申し訳ありませんでした」  :  0:-今度は如月が頭を下げる-  :  栗原:「……如月の気持ちは分かった。俺の目は合ってたんだな」 如月:「はい。遺族に向き合ってるなんて言葉、受け取れません」 栗原:「……実はなぁ、俺も昔は如月と同じだったんだぞ?」 如月:「え?」 栗原:「俺も、如月みたいに何も考えないで淡々と作業してたさ。 栗原:人だったって考えちまえば、色んな感情で頭も心も支配されちまうからなぁ。 栗原:だから俺も"これは人じゃない。骨じゃない。レプリカだ"って思ってた。 栗原:遺族に対しての対応は如月より酷かったな。もうマニュアル通りの対応だ」 如月:「し、信じられません」 栗原:「ははは、そりゃそうだろうな! 栗原:……今はもう辞めちまったが、俺が入社したての頃の上司が口酸っぱく言ってたんだ。 栗原:"遺骨は物じゃない。人だ。命ある生きた塊だ。命無き声無き記憶の魂だ。 栗原:それを遺族に届けることが出来る唯一のものが追憶花だ。俺達の仕事だ。 栗原:俺達にしか出来ない仕事を、手を抜いてするな。遺族はそれを見てる。 栗原:自分の大切な存在を粗末に扱われてるって知った時、一番悲しむのは遺族だ。 栗原:だから寄り添え。残された遺族に届けるってことがどれだけ重要なことか、遺骨にも遺族にも寄り添って学んでいけ"ってな」 如月:「栗原さんの口癖はその方の……」 栗原:「あぁ。受け売りだ。 栗原:けどこの言葉で俺は自分を見直した。 栗原:遺骨と向き合い、遺族と向き合い、残された者の後悔を知った。 栗原:その後悔を取り除いて前を向いてもらうのが俺達の仕事なんだって理解したな」 如月:「……」 栗原:「故人の想いも、遺族の想いも受け取るのはきつい仕事だ。 栗原:だがやり甲斐はある。しんどいが、残された者の後悔が救われて前を向けるきっかけを作り出せるなら、この仕事をやる意味があるって思ったんだよ」 如月:「……そうですね」 栗原:「昔の自分を見てるようで危なっかしかったんだ。 栗原:お前は俺と違って、遺族に向き合ってたな」 如月:「遺族に向き合えてるとは思いません。 如月:そう言ってくださるのは嬉しいですが、自分の中で納得が出来ないんです。 如月:それに、遺骨に向き合えてないのは事実です」 栗原:「そうだな。いくら周りが言ったところで自分の中で理解が出来ないと意味がねぇな」 如月:「すいません」 栗原:「いいんだよ。お前の気持ちもやっと聞けたしな」 如月:「それに、遺族に向き合えてると皆さん言ってくれましたけど、私はまだちゃんとは向き合えてません」 栗原:「……旦那さんか?」 如月:「はい」 栗原:「気になるか?」 如月:「担当してる方の旦那様ですので、一応は……」 栗原:「ま、最初にあんな発狂具合見せられちゃ嫌でも気になるわな」 如月:「今あの人は、どんなことを考えているんでしょうか」 栗原:「さぁなぁ。そりゃあの人の中でしか分かんねぇよ。 栗原:おいそれと俺達が踏み込んでいい場所じゃねぇ。 栗原:追憶花の種を見せる当日まで来ない遺族も珍しくないしな。 栗原:そんな気にするな。大丈夫さ」 如月:「……」 栗原:「確証はないがな」 如月:「無責任です」 栗原:「ははは、そうだな。だが俺達にはこれくらいの気休めしか言えないさ。大丈夫なことを願おう」 如月:「……はい」  :  如月:M 如月:「追憶花は故人の記憶を糧に成長をする。 如月:心に残ってる記憶の量が多ければ多いほど、追憶花の成長期間は長くなる。 如月:私が今まで担当した追憶花の平均成長期間は一週間程だったが、白浜様の追憶花は違った。 如月:それほどまでに届けたい記憶があるのだろう。 如月:追憶花の成長が終わりを告げる合図。 如月:その亀裂が実に入るまで、およそ一ヵ月。 如月:遂に、遺族に記憶を見せる日がやってきた」  :  0:-追憶花を見ている栗原と如月-  :  栗原:「……そろそろだな」 如月:「はい」 栗原:「それにしても、一ヵ月か」 如月:「今まで一番長かったです」 栗原:「いやぁ、これは俺も初めてだ」 如月:「遺族の方に連絡してきます」 栗原:「おう」  :  0:-連絡しようとするが、何かを忘れたのか思い留まって戻ってくる-  :  如月:「ぁ……」 栗原:「ん?どうした?」 如月:「ちょっと……。 如月:白浜様。想い、届くといいですね」 栗原:「……」 如月:「では、連絡してきます」 栗原:「あ、ああ」  :  0:-連絡をしに出ていく如月- 0:-その後ろ姿を唖然とした表情で見ている栗原-  :  栗原:「あいつ、変わったなぁ。 栗原:……白浜様。あなたとあなたの大切にしていた方々のおかげです。 栗原:俺から、お礼を言わせてください。ありがとうございました。 栗原:きっと届きますよ。想いを伝えるお手伝い、最後まで務めさせていただきます」  :  0:-戻ってくる如月-  :  如月:「すぐに来られるそうです」 栗原:「そうか。なら俺達も準備はしておこう」 如月:「はい。機材、投射室に運んでおきます」 栗原:「頼んだぞ」  :  0:-数十分後、ご家族を連れて如月が戻ってくる-  :  栗原:「お待ちしておりました」 智弥:「……」 渉:「お父さん、お母さんの記憶だよ」 真弓:「これが、香澄の……」  :  0:-他の追憶花の果実と比べるとだいぶ大きく実っている-  :  如月:「通常の追憶花でここまで実った果実は初めてです。 如月:それほどまでにご家族に残したい記憶が多いのでしょう」  :  0:-暫くすると果実が落ち、役目を果たした追憶花は枯れていく- 0:-果実を拾い上げる如月-  :  栗原:「こちらへ。追憶花の投射室へご案内致します」  :  0:-投射室へ案内する- 0:-スクリーンと投射機だけがある部屋へ入る-  :  如月:「果実を割らせていただきます。どうぞお近くでご覧ください」 渉:「お父さん、行こう?」 智弥:「……香澄、香澄」 真弓:「さ、智弥さん」  :  0:-智弥の手を引き、設置されている台へ近寄る-  :  如月:「それでは、白浜香澄様の追憶花を開かせていただきます」  :  0:-果実を割ると、中から色とりどりの種が出てくる-  :  渉:「……綺麗」 真弓:「宝石みたいね」 如月:「こちらが香澄様の残された記憶でございます。 如月:一つ一つ投射機で映させていただきますので、どうぞ椅子に腰かけてお待ちください」  :  0:-栗原が椅子を持ってくる-  :  栗原:「どうぞ」 渉:「ありがとうございます」 栗原:「真弓様、智弥様もどうぞお掛けください」 真弓:「ありがとうございます。智弥さん、座りましょう」 智弥:「……(心ここに在らず)あぁ」  :  0:-座る-  :  如月:「白浜香澄様より、旦那様である白浜智弥様、息子様である白浜渉様、そしてお母様である宮下真弓様へ送る記憶です。 如月:どうぞ、ひと時の逢瀬をお過ごしくださいませ」  :  0:-部屋の電気を消す- 0:-投射機に種をセットすると、光を受けた種が光り輝きスクリーンに映像が映される-  :  渉:「……お母さん」 真弓:「(涙ぐむ)あぁ、香澄」 渉:「お父さん、お父さん、見て。お母さんだよ」 智弥:「(憔悴した顔で見上げるが徐々に目を見開く)ぁ、ああ、香澄ッ」  :  0:-スクリーンに香澄と智弥が写っている- 0:-回想-  :  香澄:「ねぇねぇ?」 智弥:「ん?」 香澄:「何か言いたいことなぁい?」 智弥:「え、いきなり何」 香澄:「いい加減、言ってほしいんだけどなぁ」 智弥:「え、えっと……」 香澄:「もう、ヘタレなんだから。じゃあ私から言う! 香澄:智弥、好きだよ。智弥の傍にいると落ち着くの。だから、智弥が良かったらでいい。 香澄:私と付き合ってください」 智弥:「ッ……お、俺も、香澄が好き。大好き」 香澄:「うん」 智弥:「えっと、だから、その……」 香澄:「もう、だから返事はー?」 智弥:「ッ、俺で良ければ……お、俺と付き合ってください!」 香澄:「ふふっ、嬉しい智弥!」 智弥:「うわっ!か、香澄いきなり抱き着くと危なっ!うわああ!」  :  0:-いきなり抱き着いてきた香澄を抱きとめ後ろに転ぶ智弥-  :  智弥:「あ、あぶねぇ」 香澄:「ふふっ、あはは!」 智弥:「ははっ、はははは!はぁ、俺なさけねぇ。好きな奴に告白させるとか……」 香澄:「智弥らしいからいいよ」 智弥:「プロポーズは絶対俺からする」 香澄:「それって結婚してくれるってこと?」 智弥:「わ、別れる前提で付き合う訳ないだろ。け、結婚前提だよ」 香澄:「智弥……私、とっても嬉しい」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「若い頃の、お父さんとお母さんだ」 智弥:「……あぁ、そうだ。香澄から、俺に告白してくれたんだ」 真弓:「覚えてるわ。お家に帰ってきた香澄ね?智弥さんと付き合えたって泣きながら報告してくれたのよ?」 智弥:「香澄が?」 真弓:「振られるかもしれないから怖かったって言ってたわ」 智弥:「なんで、振る訳ないだろ香澄。ずっと好きだったんだから」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「智弥ー!こっちー!」 智弥:「はいはい。なんかあったのか?」 香澄:「これこれ!見て!?可愛くない!?」 智弥:「ん?指輪?」 香澄:「そう!」 智弥:「欲しいのか?」 香澄:「え?そういう訳じゃないけど、お揃いの指輪っていいなぁって。けど指輪って高いね。とっても手が出せないや」 智弥:「……すいません店員さん。これください」 香澄:「え、え!?」 智弥:「はい。あ、これと同じデザインで男性用サイズありますか?……あ、はい。ペアリングでお願いします」 香澄:「どうして……」 智弥:「なんだよ。ペアリングじゃ嫌か?」 香澄:「う、ううん!ペアリングがいい!」 智弥:「じゃ、決まりだな。それに今日、記念日だろ。付き合った記念日。だから、送らせて?」 香澄:「お、覚えてたの?」 智弥:「当たり前だろ。好きな女性と付き合えた記念日忘れる程バカじゃねぇぞ?」 香澄:「嬉しい」  :  0:-回想 終了-  :  智弥:「あぁ、そうだった。一年記念日で初めてペアリングを送ったな。 智弥:欲しい素振り全然見せなかったから、珍しい。 智弥:でも、そうか、香澄はこの時こんな顔して笑ってたんだな。 智弥:……指輪、似合ってるよ。香澄」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「もう知らない!」 智弥:「あぁ、そうかよ!」 香澄:「実家に帰る!」 智弥:「好きにしろ!」 香澄:「(荷物を纏めながらぶつぶつ呟く)……意味わかんない」 智弥:「……」 香澄:「ほんとに帰るからね」 智弥:「……」 香澄:「じゃあね」  :  0:-手首を掴み引き留める-  :  智弥:「待って」 香澄:「な、なに?」 智弥:「……ごめん。大きな声出して、口悪くなった」 香澄:「……」 智弥:「それに、香澄の楽しみに取っておいたケーキを俺が間違って食べたのが原因で帰るって、多分香澄のお母さん笑うぞ」 香澄:「……ぷっ、あはははっ!そうだね!きっと呆れた顔して笑ってそう!」 智弥:「今度買ってくるから、ごめん。帰らないで」 香澄:「……うん。私も大人気なかった。ごめんね。実家に帰るなんて言っちゃって」 智弥:「大丈夫……本当に帰らないか?俺の傍にいてくれる?」 香澄:「もう、帰らないから大丈夫だよ」 智弥:「良かった」 香澄:「智弥が食べちゃったケーキと別に追加でケーキ買ってくれるなら」 智弥:「(食い気味に)買う。買わせていただきます」 香澄:「あはは!じゃあ許すー!」  :  0:-回想 終了-  :  真弓:「あなた達、なんてことで喧嘩してるのよ」 渉:「喧嘩の想い出なんて、お母さんらしいね。お父さん」 智弥:「(懐かしそうに微笑むだけ)」  :  0:-次の映像が流れる-  :  智弥:「ただいまー」 香澄:「おかえり。ご飯出来てるよ」 智弥:「……うん、ありがとう」 香澄:「どうしたの?体調でも悪い?」 智弥:「いや……ぁ、でも、ちょっと悪いかも?」 香澄:「ぇ、大丈夫?」 智弥:「んー、香澄が抱きめてくれたら治るかも」 香澄:「なにそれ」 智弥:「してくれない?」 香澄:「もう、仕方ないなぁ」  :  0:-抱きしめる-  :  香澄:「智弥、お仕事頑張ったね」 智弥:「……うん、頑張った」 香澄:「いつもありがとう」 智弥:「……毎日、香澄がおかえりって言ってくれるの、すげぇ嬉しい」 香澄:「私も仕事で遅くなった時、智弥がおかえりって言ってくれるの嬉しいよ」 智弥:「うん。これからも毎日、おじいちゃんおばあちゃんになってもおかえりって言ってあげる」 香澄:「え?」 智弥:「だから、おじいちゃんおばあちゃんになっても、俺におかえりって言ってください」  :  0:-鞄から小箱を出し、見せる-  :  香澄:「(泣き出す)ッ、ぅ、うぅ……」 智弥:「俺と、結婚してください」 香澄:「(泣きながら)私で、いいんですか?」 智弥:「香澄が、いいの。言ったでしょ?プロポーズは俺からするって」 香澄:「うっ、ひっく、うぅ」 智弥:「ねぇ、返事は?」 香澄:「はいっ、喜んで」 智弥:「うん、嬉しい」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「お母さんの泣いてるところ、初めて見た」 智弥:「そうか。渉はお母さんの泣き顔見たことなかったか」 渉:「うん。いつも笑ってたから」 智弥:「本当はお母さんな?泣き虫なんだよ」 渉:「お父さんの前だけかな。僕の前ではいつも笑顔で、強いお母さんだったよ」 智弥:「……そうか」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  真弓:「智弥さん、香澄のことお願いね」 智弥:「は、はい!お義母さん。香澄さんのこと、幸せにします!」 真弓:「まぁ。ふふっ、いい旦那さん捕まえたわね香澄」 香澄:「浮気したら許さないから」 智弥:「こんな綺麗なお嫁さん置いて他の女性に靡くなんてことないから」 香澄:「ほんとー?」 智弥:「本当だよ」 香澄:「んー、信じる!」 智弥:「ありがとう」 真弓:「ふふっ。香澄、結婚おめでとう」 香澄:「ありがとう、お母さん」  :  0:-回想 終了-  :  真弓:「結婚式ね。覚えてるわ。私ったら新婦からの手紙で大泣きしちゃったのよね」 智弥:「そんなこともありましたね。覚えています」 真弓:「本当に、智弥さんは香澄を幸せにしてくれたわ」 智弥:「そうだと、いいんですが……」 真弓:「本当よ。香澄の母である私が言うのよ?香澄は、世界一の幸せ者だわ」 渉:「僕も、お父さんと一緒にいるお母さんは、すごく幸せそうに見えたよ」 智弥:「……」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「ねぇ、智弥?」 智弥:「なに?」 香澄:「引っ越しとかしたいなぁって思うんだけど、どう思う?」 智弥:「引っ越し?仕事で転勤かなんか出たの?」 香澄:「ううん、そういう話は出てないよ」 智弥:「ならまだ引っ越しとか考えなくていいんじゃないかなぁ」 香澄:「そう?三人家族になるのに?」 智弥:「ん?お義母さんと同居でもするの?」 香澄:「お母さんも同居したら四人家族になっちゃうかなぁ」 智弥:「ん?……え?」 香澄:「ふふっ」 智弥:「ぇ、え?待って?え、いや、嘘だ……」 香澄:「もう、何がー?」 智弥:「さ、三人って……俺と、香澄と……」 香澄:「うん」 智弥:「ま、まさか……俺達の?」 香澄:「うん、そうだよ」 智弥:「……ほんと、本当に?夢じゃないよな?」 香澄:「夢じゃないよ。ここに、私達の赤ちゃんがいるの」 智弥:「香澄っ」  :  0:-抱きしめる-  :  香澄:「わっ、もう苦しいよ智弥」 智弥:「香澄、ありがとう。ありがとう」 香澄:「うん。頑張ってよ?パパ」 智弥:「頑張る。マジで頑張る。今から育休取れないか上司に相談する」 香澄:「早いよ」 智弥:「早い方がいい。けど、それよりも香澄の身体の方が心配だから、安定期入るまでは仕事量調節する。 智弥:家事も俺の方が多くする。お義母さんにも報告しないと、それからベビー用品も……」 香澄:「ストップ!急ぎすぎ」 智弥:「ごめん」 香澄:「気遣ってくれてありがとう」 智弥:「どういたしまして。けど、上司には相談する」 香澄:「ふふっ、もう。止めても無駄みたい」 智弥:「電話してくるからソファーに座って待ってて。 智弥:(電話しに行こうとするが戻ってくる)ぁ、重たい荷物持っちゃダメだからね! 智弥:(電話にし戻る)ぁ、もしもし白浜です。お忙しいところお電話失礼します。実は、相談がありまして……」 香澄:「(お腹の子に話しかける)パパはせっかちだねぇ。 香澄:男の子か女の子かまだ分からないけど、どっちの性別でも嬉しいよ。 香澄:私達を選んでくれてありがとう。」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「これ……」 智弥:「あぁ。渉がお腹の中にいるって分かった時だな」 渉:「こんなに、喜んでくれてたんだ」 智弥:「当たり前だろ」 真弓:「妊娠報告してもらった時は嬉しかったわぁ。 真弓:智弥さんったらね?香澄にも内緒で子供の名前いっぱい考えてたのよ?」 渉:「そうだったの?」 智弥:「恥ずかしいからその話はやめてくださいお義母さん」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想- 0:-赤ちゃんの泣き声が響く-  :  香澄:「(息を荒げ)」  :  0:-分娩室の扉が開いて智弥と真弓が入ってくる-  :  智弥:「う、生まれた?」 真弓:「まぁまぁ。元気な泣き声ねぇ」 智弥:「香澄」 香澄:「智弥、私達の赤ちゃん」 智弥:「(涙ぐむ)うん、うん、頑張ったな香澄。ありがとう。本当にありがとう」 香澄:「見て?私の指握ってくれるの」 智弥:「本当だ。可愛いな」 香澄:「うん。可愛い。とっても可愛い」 智弥:「俺達の元に来てくれてありがとうな」 香澄:「産まれてきてくれてありがとう。渉」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「ッ……」 智弥:「あんなに小さかったのにな。 智弥:今じゃ俺と同じくらいの身長になって……大きくなったなぁ。渉」 渉:「……まだまだ成長期だから、身長越しちゃうよ」 智弥:「そうだな。越されちゃうな」 渉:「お父さんは、まだまだ元気でいてよ」 智弥:「……そうだなぁ。渉がお嫁さん連れてきて、孫を見るまでは死ねないなぁ」 渉:「まだまだ先じゃん」 智弥:「きっとすぐだよ。時間なんてあっという間だ」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「……」 智弥:「……今、なんて」 香澄:「……癌、だって」 智弥:「……ぁ、今日、エイプリルフールか?な、なんだ脅かすなよ香澄」 香澄:「嘘じゃないよ!」 智弥:「……」 香澄:「……嘘じゃないんだよ」 智弥:「嘘だ……」 香澄:「(泣く)」 智弥:「香澄ッ」 香澄:「死にたくない。死にたくないよぉ」 智弥:「(抱きしめる)うん、うん」 香澄:「智弥、智弥ぁ」 智弥:「……嘘なら、よかったな」 香澄:「うぅ」 智弥:「ごめん、なんて声かければ、分かんない。 智弥:いっぱい泣こう。いっぱい泣いて、そこから……ッ……」 香澄:「うわぁあああ」 智弥:「……なんでだよ神様。なんで、香澄なんだよ」  :  0:-闘病シーンに切り替わる-  :  香澄:「……智弥、渉、そしてお母さん。 香澄:これを見てるってことは、多分花葬してもらえたのかな? 香澄:うまく追憶花の種にこの記憶が出来るか分からないけど、試してみる価値はあるよね。  :  香澄:お母さん。 香澄:今まで私を育ててくれてありがとう。 香澄:いっぱい迷惑と心配かけちゃったよね。ごめんね。 香澄:お父さんが亡くなって大変だった時に、反抗期で家出しちゃったの覚えてる? 香澄:……お母さん、ボロボロになってまで探してくれてたよね。 香澄:その時、泣きながら怒って抱きしめてくれたの、私嬉しかったんだ。 香澄:心配かけてごめんなさいって感情と、私のこと本当に大事にしてくれてるんだって感情でいっぱいだった。 香澄:友達にも"こんな素敵なお母さん泣かせちゃダメじゃん"って言われた。 香澄:あの時のことは今でも反省してる。 香澄:それから、お母さんより先に逝ってしまう娘でごめんね。 香澄:私、まだ親孝行出来てないよね。親不孝者だ。 香澄:お母さんを残して逝くことが心残りだよ。  :  香澄:渉。 香澄:今は、高校生かな?そろそろ卒業する歳? 香澄:私がいつまで生きてるか分からないけど、渉の晴れ姿は見たかったな。 香澄:中学の卒業式も、高校の入学式も出れなくてごめんね。 香澄:一緒に居れる時間が少なかったから、寂しい思いさせちゃったかな。 香澄:時々お見舞いに来てくれたことも、看護師さんから聞いて知ってるよ。 香澄:綺麗なお花、いっぱい買ってきてくれたよね?お母さん嬉しかった。 香澄:持ってきてくれる度に看護師さんにお願いして、窓際に飾ってもらってるの。 香澄:"いい息子さんですね"って、渉のこと褒めてくれてたんだよ? 香澄:お母さん嬉しくなっちゃって、自慢の息子ですって言ってるの。 香澄:……渉は強い子だから、自分がしっかりしなきゃって思ってるかもしれないけど、あなたはまだ子供なの。 香澄:だから我慢しなくていいのよ。お父さんやおばあちゃんに頼りなさい。 香澄:渉は私とお父さんの自慢の息子。大好きよ渉。愛してるわ。  :  香澄:……それから、智弥。 香澄:ごめんね。おかえりって、言ってあげられなくなっちゃった。 香澄:おじいちゃんおばあちゃんになっても、おかえりって言ってあげたかった。言ってほしかった。 香澄:ねぇ、智弥。私がいなくなって生活崩れたりしてない?渉やお母さんに心配かけてない? 香澄:智弥のことだから、私がいなくなって抜け殻のようになってそうだね。 香澄:私は、そんな智弥見たくないよ。って言っても、見れないんだけどさ。 香澄:(だんだん泣き始めるが耐えながら喋る)私の智弥はね?壁にぶつかって落ち込むけど、それでも自分の中で答えを見つけて這い上がってきてくれる人なの。 香澄:いつも私達家族を支えてくれて、色んなところに連れてってくれて、私や渉、お母さんを笑顔にしてくれる人なの。 香澄:私のことが大好きで、毎日行ってらっしゃい、おかえりって言ってくれる人なの。 香澄:……そういう智弥が、私は好きなのよ? 香澄:だから、すぐに私の死を受け入れてなんて言わない。 香澄:けど、ちゃんと智弥の中で答えが出たらまた私達を笑顔にして? 香澄:私に毎日、行ってらっしゃい、おかえりって言って? 香澄:おじいちゃんになっても、言ってほしい。 香澄:私も夢の中で、行ってらっしゃい、おかえりって言うから。 香澄:……智弥。大好き。ありがとう。私の彼氏になってくれて。夫になってくれて。パパになってくれて。 香澄:私を愛してくれて、ありがとう。  :  香澄:(泣いてることに気づく)やだ、私ったら、なんで泣いてるんだろう。 香澄:……ふふっ、泣いちゃうくらいみんなのことが大好きなの。 香澄:……愛してるよ。みんな」  :  0:-回想 終了-  :  如月:「以上、故白浜香澄様がご家族である智弥様、渉様、そしてお母様である真弓様へ伝えたい想いです」 真弓:「(泣きながら)充分、親孝行してくれたよ。あなたの晴れ姿を見れて、孫が見れただけでも立派な親孝行じゃないの。 真弓:親不孝者なんかじゃないのよ香澄。あなたは立派な子よ。ありがとう」 渉:「(我慢してたのが溢れ出し涙を流す)僕、別に寂しくなかったよ。お父さんもいたし、お母さんも時々電話してくれたじゃん。 渉:体調しんどいの我慢して話してくれてたの、僕知ってるよ? 渉:卒業式とか入学式、確かにお母さんいなかったの寂しかったけど、お父さんとおばあちゃんが来てくれたから大丈夫。 渉:僕もお母さんが大好きだから。だから……ッ、死んじゃ嫌だよ、お母さん。戻ってきてよぉ。うわあぁああああ!」 智弥:「(スクリーンを見つめたまま泣いている)っ……」 如月:「……香澄様は、とても強かな女性ですね。 如月:死ぬ間際にまで皆様のことを想っている。 如月:だからこうして追憶花の種として皆様にお届けすることが出来ました。 如月:自分の死がどれだけ皆様に影響するのか分かっていらっしゃったんですね。 如月:特に、旦那様である智弥様に……」 智弥:「香澄ッ」 如月:「智弥様、香澄様の仰る通り、今のあなたを香澄様は見たくないと思いますよ。 如月:渉様が仰ってました。昔のお父さんに戻ってほしいと。追憶花が、そのきっかけになればいいと。 如月:気づきましたか?全ての記憶に智弥様。あなたが映っているんです。 如月:それだけ香澄様にとって、智弥様は大切な存在だったんですよ? 如月:死して尚も魂に刻まれるほど、あなたのことを愛しているんです。 如月:それは、追憶花を見て痛いほど伝わったかと思います」 智弥:「ぅ、あ、香澄、香澄ッ……ぁ、あ、あぁあああああああ!」 如月:「……香澄様の最期、本当の願いを、叶えてあげてください。 如月:おじいちゃんになっても、言ってほしいって仰った願いを……」 智弥:「ぅ、うっ、はいッ……ありがとう、香澄」  :  0:-追憶花の種を桐箱に入れ梱包する-  :  如月:「こちら、香澄様の追憶花になります。 如月:どの種がどういった記憶なのかは記してあります」 智弥:「ありがとうございます」 真弓:「なんてお礼を言ったらいいか」 栗原:「お礼は娘さんに言ってあげてください。 栗原:こちら、プランでお付けしている家庭用の簡易投射機です。 栗原:こちらはサービスですので無料になっております。 栗原:説明書も同封してありますので、ご使用になる際はよく読んでお使いください」 真弓:「何から何まで、ありがとうございます」 渉:「あの、如月さん」 如月:「はい。何でしょうか?」 渉:「ありがとう!」 如月:「えっと……」 渉:「如月さんが言った通り、お父さんが元に戻るきっかけになったから。 渉:それに、お母さんの想いも知れたし……このお仕事、いいね! 渉:僕も将来、如月さんみたいに亡くなった人と残された人を繋ぐ架け橋になる仕事をしたい!」 如月:「そうですか。渉様ならきっとなれます」 渉:「如月さんがお母さんの担当で良かった。本当にありがとう」 如月:「いえ。こちらこそ、ありがとうございました」 真弓:「さ、智弥さん。渉。帰りましょうか」 渉:「うん、おばあちゃん!」 智弥:「本当に、お世話になりました。 智弥:……帰ろうか、香澄。帰ったら、おかえりって言わないとな」  :  0:-後ろ姿を眺める如月と栗原-  :  如月:「本日は、お疲れ様でございました。 如月:残された記憶の想い出と共に、良き旅路をお祈り申し上げます」  :  0:-姿が見えなくなるまでお辞儀をする- 0:-暫くして顔をあげる-  :  栗原:「心情の変化はあったようだな」 如月:「そうですね。やりがいのあることを、自分の中で見つけれたと思います」 栗原:「ほう?」 如月:「過去に置き去りにされてしまった想い出と、過去に取り残された遺族を救いたいって思いました」 栗原:「いいんじゃねぇの?」 如月:「これからももっと、色々なことを教えてください」 栗原:「そこに気づけたんならもう教えることはなんもねぇよ。お前元々仕事は真面目にする奴だったしな」 如月:「新人には変わりありません。それに研修期間が終わるまでは教えると言ったじゃないですか」 栗原:「そういえばそんなこと言ったなぁ? 栗原:ま、最後まで面倒は見てやるよ。研修期間が終われば一人前の一人立ちだ。 栗原:後輩もいつかは出来るだろうから、同じように教えてやれ」 如月:「はい。栗原さんと同じように教えます」 栗原:「ははは、自分のエピソードも交えつつ教えてやれよー? 栗原:(電話がかかってくる)おっと。はい、栗原です。……分かりました」 如月:「仕事ですか?」 栗原:「ああ。新しい依頼者だ。これからこっちに来るそうだ。準備するぞ」 如月:「分かりました」 栗原:「かー、休みがねぇ仕事だなぁ!」 如月:「やりがいがある仕事だって言ってたじゃないですか」 栗原:「やりがいがあるとは言ってねぇだろ。やりごたえがある仕事だって言ったんだ」 如月:「一緒じゃないですか?」 栗原:「はぁ、分かってねぇなぁ。そこが分からねぇんじゃ、お前はいつまで経っても新人のままだなぁ」 如月:「なんかそこは分からなくていいと思いました」 栗原:「はぁ、俺はいつまでお前の教育係なんだろうなぁ」 如月:「後一週間くらいです」 栗原:「真面目に答えんじゃねぇよ」 如月:「でも、栗原さんが私の上司で良かったです」 栗原:「……そうかよ」 如月:「はい」 栗原:「あー、調子狂うなぁ。煙草吸ってから行くから、先部屋に戻ってろ」 如月:「程々にしてくださいよ?」 栗原:「分かってるよ」  :  0:-部屋に戻る如月-  :  栗原:「ったく。 栗原:(ライターを付け煙草を吸う)あんたら本当にいい家族だったよ。 栗原:如月が担当に付いたのも、何かの縁かねぇ。感謝しなくちゃな」  :  如月:M 如月:「伝えたいことがあるのに伝えられない。 如月:受け取るべき思いがあるのに、受け取れない。 如月:死が近づくと人は自然と伝えたい人のことを思い浮かべる。 如月:けれど伝えられずに死んでしまう人達がいる。 如月:過去に置き去りにされた想い出を伝え、過去に取り残され時が止まってしまった遺族を繋ぐ追憶花。 如月:この花に救われてきた人達は、どれくらいいるのだろうか。 如月:今こうしている間も、追憶花が遺族と故人を繋ぎ救っている。 如月:その架け橋を手伝えたこと、とても嬉しく感じます。 如月:全ての人が救えるとは限らない。それでも私は、故人の想い出を、伝えたい言葉を渡していきたい。 如月:あの家族に出会って、そう思ったんです」  :  0:-幕-

如月:M「これは、君達が過ごす現代より遥か数百年未来の話。 如月:遠い昔から我々の祖先は人の死を尊んでいた。 如月:それは僕達が生きる未来でも続いている。 如月:納棺、火葬、四十九日、納骨……昔から続く風習は私達が生きる未来でも続いている。 如月:数百年も過ぎれば、葬儀の方法も少し変わってきていた。 如月:数十年前に新たな葬儀の種類が実用化された。 如月:火葬の後、四十九日の間に行う"花葬"。 如月:花に葬ると書いて花葬と読む。 如月:それは、死者の記憶を残された家族に残す技術。 如月:自分の遺伝子情報を種として残す植物の過程に着目した技術である。 如月:特殊な管理下での育成が必要である為高額ではあるが、花葬を希望する家族は後を絶たない。 如月:それだけ、死者の記憶というものは残された家族にとって価値があるものなのだろう」  :  0:-建物の前でお辞儀をする如月-  :  如月:「本日は、お疲れ様でございました。 如月:残された記憶の想い出と共に、良き旅路をお祈り申し上げます」  :  0:-依頼人を見送り、頭をあげる-  :  栗原:「よっ、お疲れさん」 如月:「栗原さん」 栗原:「研修期間もそろそろ終わるが、どうだー?やりごたえある仕事だろ?」 如月:「……まだ、分かりません」 栗原:「そかそか。まだまだ始めたばっかだ。これからこの仕事のことを理解していけばいいさ」 如月:「はい」  :  0:-栗原の携帯が鳴る-  :  栗原:「もしもし。お疲れ様です。栗原です。 栗原:……はい。……はい。分かりました。すぐに如月を連れて向かいます。 栗原:はい、失礼いたします」  :  0:-電話を切る-  :  栗原:「如月、次の仕事だ」 如月:「分かりました」  :  0:-如月、栗原と共に依頼人が待機してる部屋に向かう-  :  栗原:「失礼いたします。お待たせしてしまって申し訳ありません」 真弓:「ぁ、いえ。お気になさらないでください」  :  0:-部屋の中には女性一人と男性が二名いる-  :  智弥:「……」 渉:「お父さん」 栗原:「あぁ、大丈夫ですよ。息子さんかな?本日はよろしくお願いします」 渉:「はい、よろしくお願いします」  :  0:-椅子に座る栗原と如月-  :  栗原:「白浜さんの花葬を担当いたします、栗原と申します」 如月:「如月と申します」 栗原:「私はサポートで入りますので、メインは如月が担当します。 栗原:新人研修中なのですが、とても優秀な人材です。ご安心ください」 真弓:「分かりました。如月さん、よろしくお願いします」 如月:「はい。お任せください。 如月:それではご依頼の内容とプランの説明をいたしますが、大丈夫でしょうか?」 真弓:「はい、大丈夫です」 如月:「ご依頼者様は、旦那様の白浜智弥様。息子さんの白浜渉様。お母様の宮下真弓様。 如月:花葬者は奥様の白浜香澄様でお間違いないでしょうか?」 真弓:「はい、間違いありません」 智弥:「……」 如月:「あの、失礼ですが旦那様は……」 渉:「お父さんは、お母さんが死んじゃったショックで、抜け殻みたいになっちゃってるんです」 如月:「そうでしたか。お答え辛いことを聞いてしまって申し訳ありません」 渉:「……大丈夫です」 栗原:「お名前的にお母様は奥様側の方でしょうか?旦那様のご両親は?」 渉:「おじいちゃんとおばあちゃんは、遠い所に住んでるからすぐには来れないんです。 渉:それに身体も悪いから、長距離の移動は難しくて……」 真弓:「二人だけでこちらに向かうって言ってたんですが、智弥さんがこの状態なので、私が付き添いという形で……」 栗原:「そうでしたか」 如月:「必要な書類は既に郵送していただいていますので、花葬方法の説明と料金の説明をした後、確認書類にサインをしていただく形になります」 真弓:「はい」 如月:「では花葬の説明に移ります。 如月:花葬はその名の通り、"追憶花(ついおくか)"と呼ばれる特殊な花に遺灰をかけ受粉させます。 如月:その後こちらの管理の元、適切な育成方法で成長を促し実を成らせます。 如月:実った果実が落下する頃にご連絡いたしますので、お越しください。 如月:果実の中の種を見届けていただき、花葬は終了となります」 栗原:「ここまででご質問はありますか?」 渉:「あの、連絡が来た時しか来ちゃいけないんでしょうか?」 栗原:「そんなことはございません。育成中にもお越しいただければご案内いたします」 渉:「よかった。お母さんにまだ会えるんだ」 栗原:「はい、ご心配なさらず」 如月:「何か花葬の際にご希望はありますか?」 渉:「種って、持って帰れたりしますか?」 如月:「出来ますよ。種はご家族の方々にお渡しいたします」 渉:「それだけ聞ければ、僕は大丈夫です」 如月:「はい。分かりました。 如月:では料金の説明ですが……花葬代が125万、育成代が50万で合計175万になります。 如月:以上の説明にご納得いただけましたら、こちらの確認書類にサインをお願いいたします」  :  0:-確認書類を取り出し、目の前に置く- 0:-代表して真弓がサインをする-  :  如月:「ありがとうございます。 如月:それでは、花葬の準備に入りますので遺骨の方こちらでお預かりさせていただきます」 智弥:「(独り言)……香澄は、ちゃんとここにいるんだ。死んでないんだ」 如月:「旦那様、奥様をお預かりしてもよろしいでしょうか?」  :  0:-手を差し出す素振りを見せた途端、智弥が発狂する-  :  智弥:「香澄は渡さない!!香澄は死んでない!ちゃんとここにいるじゃないか! 智弥:勝手に花葬やらなんやら進めないでくれ!!」 如月:「……」 渉:「お父さん!お母さんはもういないんだよ!お母さんも花葬をしてって言ってたじゃん!」 智弥:「違う、違う、香澄はいるんだ。ちゃんと僕の腕の中にいるじゃないか。香澄は生きてるんだぞ渉」 渉:「お父さん……」 真弓:「すいません。暫く、三人にしていただけませんか?」 栗原:「そうですね。落ち着いたらお声掛けください。私達は外で待機していますので」  :  0:-部屋を出る如月、栗原-  :  栗原:「……驚いたか?」 如月:「……はい、少し。言葉が出ませんでした」 栗原:「そうか」 如月:「ああいう方、他にもいるんですか?」 栗原:「あぁ。あれは全然軽い方だな」 如月:「あれで、ですか? 如月:でもあれは、明らか幻覚を見ていますよね? 如月:それってもう、現実逃避というか……精神がやられてしまってるのでは?」 栗原:「いや、あれはちゃんと死を理解している」 如月:「え?」 栗原:「本当に精神がやられていて幻覚を見ているのであれば、あんな言動はしないさ」 如月:「どういう意味ですか?」 栗原:「あれは、自分に言い聞かせてるだけだ。 栗原:死を頭では理解している。だが、心が拒絶している。 栗原:……最愛の人が亡くなると、ああなるもんだ。 栗原:理解はしてるが事実として理解が出来ない。したくない。 栗原:自分の中で事実が理解出来るまで、ああやって自分に嘘を言い聞かせている」 如月:「そこだけ聞くと、なんか悲しいですね」 栗原:「お前が言うように、精神はやられてるさ。 栗原:ここに来る人で、人の死を平然と思っている人はいない。 栗原:だがな、本当に精神が逝っちまってる人間は、見てらんねぇよ」 如月:「……どんな感じなんですか?」 栗原:「普通に話すんだよ。故人がそこに"存在"しているかのように」 如月:「それは……」 栗原:「聞いてるこっちはたまったもんじゃねぇな。 栗原:故人の花葬の話をしてるのに、隣の空いてる椅子の方を向きながら故人の名前を呼ぶんだぞ? 栗原:あれは、何度見ても心が痛い」 如月:「……」 栗原:「だから、そういうのを見ちまうとな。あれはまだ戻れる範囲だ」 如月:「そうですか」 栗原:「人の抱えてる痛みや苦しみ、悲しみをこちらが決めつけちゃいけねぇとは思うがな」 如月:「それでも、栗原さんは色々な人達を見てきたんですよね?」 栗原:「あぁ。だから余計にな。残された家族のしんどさを、俺が勝手に決めつけちゃいけねぇよ。 栗原:あの人達なりに、答えを出してここに来たんだろうからな。 栗原:旦那さんだってそうだ。答えを出せていないが、それでもここに来てくれた。 栗原:後は、花葬に任せよう。きっと救われるさ」 如月:「……ご遺骨、渡してくれるでしょうか」 栗原:「分からない。あんな風に拒絶されればこちらは何も出来ない。あちらさんに任せよう」 如月:「はい」  :  0:-微かに声が聞こえるドアを見つめる-  :  智弥:「香澄、香澄」 真弓:「智弥さん、香澄を離してあげて?」 智弥:「嫌です。香澄は、ここにいるじゃないですか。お義母さんまで何言ってるんですか? 智弥:香澄は、ただ寝てるだけなんです。もう少ししたら、きっと目を覚ましてくれます」 渉:「(被せて)お母さんは死んだんだよ」 智弥:「……渉?」 渉:「お母さんは、そんなこと望んでない。 渉:こんな惨めになった姿、お母さんは見たいと思ってないよ。 渉:ちゃんと花葬をしてくれると思ったから、遺言を残してくれたんじゃないの? 渉:お父さんを信じてくれたんじゃないの?」 智弥:「……どうしてそんなことを言うんだ?渉は、お母さんのことが嫌いなのか?」 渉:「そうじゃない!」 智弥:「ならなんでそんなこと言うんだ!香澄は、香澄は俺の腕の中にいるだろ?まだ生きてるじゃないか」 渉:「ッ……!」 真弓:「智弥さん、香澄を愛してくれてありがとう。 真弓:香澄、智弥さんの話をしている時とてもいい笑顔してるのよ? 真弓:とても幸せな顔をして話してくれるの。渉の話をしている時もそうよ? 真弓:だから、ね?いつまでも香澄を置いておけないわ」 智弥:「お義母さんまで何言ってるんですか。香澄は死んでなんかない。ちゃんと生きてる。 智弥:香澄はここにいるんだ。香澄は、香澄は……」 真弓:「ええ。香澄はちゃんと智弥さんの腕の中にいます。 真弓:その香澄が、花葬をしてほしいって言ってるのよ?」 智弥:「……香澄が?誰がそんなウソを?香澄がそんなこと言うはずがない。 智弥:誰ですかそんなことを言ったのは」 渉:「お母さんだよ!お母さんが言ったんだよ!」 智弥:「……香澄、帰ったらどっか行こうな。香澄の好きな場所、どこでも連れて行ってやるから」 渉:「ッ、もう、見たくないよ……」 真弓:「……智弥さん、ごめんなさいね」  :  0:-智弥から骨壺を奪う真弓-  :  智弥:「お義母さん?何するんですか!香澄を返してください!」 真弓:「渉、香澄を……」 渉:「う、うん」 智弥:「渉?いい子だからお母さんをお父さんに渡しなさい」 渉:「……嫌だ」 智弥:「どうしてだ渉」 渉:「お父さんの傍にいたら、お母さん安らかに逝けないから」 智弥:「香澄は死んでなんかないんだぞ。そんな言葉使ったらダメだろ?」 渉:「お母さんは死んだんだ!」 智弥:「香澄を返せ渉!」 真弓:「智弥さん!」  :  0:-智弥を抱きしめる-  :  智弥:「離してください!香澄を、香澄を取り返さないと!」 真弓:「渉!如月さん達に香澄を渡してきて!」 渉:「う、うん!」  :  0:-外に待機してる如月達を呼んでくる-  :  渉:「如月さん、栗原さん!」 如月:「はい。どうしました?」 渉:「お母さんの骨。預かってください」 如月:「いいんですか?」 渉:「こうしないと、お父さんダメになってく。だから……」 智弥:「香澄、香澄、行かないでくれ。俺を置いて行かないでくれ!」 栗原:「これは、また無茶苦茶な……」 真弓:「いい加減にしなさい!」  :  0:-頬を叩く-  :  智弥:「いっ!」 真弓:「香澄は、死んだんです!何度も孫にお母さんは死んだなんて言わせないでちょうだい」 智弥:「……」 真弓:「如月さん、栗原さん、娘をよろしくお願いします」 智弥:「違う。香澄は、香澄は……」 栗原:「本当はご納得いただけた上でお預かりしたかったのですが、お二人がいいのであれば」 渉:「大丈夫、です」 真弓:「智弥さんは、こちらでどうにかします」 如月:「分かりました。ご遺骨、お預かり致します。 如月:花葬に必要な分だけ頂きますので、少しだけお待ちください」 渉:「何日も預かるんじゃないんですか?」 栗原:「ほんの少しの遺灰だけでいいんです。 栗原:全部を頂く訳ではありません。 栗原:それに、故人様が一番傍にいたいのは旦那様や息子さん、お母様のお傍でしょうから。 栗原:(渉に言う)納骨は、お父さんの気持ちが落ち着くまでしなくていいんだよ」 渉:「ありがとうございます」 栗原:「それでは、こちらの部屋でもう少しだけお待ちください」 如月:「失礼いたします」  :  0:-部屋を出る- 0:-花葬準備室と書かれた部屋に入る二人-  :  如月:「それでは、花葬の準備に取り掛かります」 栗原:「合掌」  :  0:-骨壺に向かって手を合わせる-  :  如月:「お眠りの中、失礼いたします。少し眩しいと思われますが、蓋、お開けいたします」  :  0:-骨壺の蓋を慎重に開ける-  :  如月:「……」 栗原:「どうした?」 如月:「……いえ」 栗原:「気になることがあるなら言え」 如月:「白浜様は、闘病の末亡くなったと……」 栗原:「ああ。癌だったそうだ」 如月:「……骨、あまり残らないんですね」  :  0:-骨壺を覗き込む栗原-  :  栗原:「ずっと、病院のベットの上だったんだろう。薬の影響で骨も脆くなっている。 栗原:年齢の割に骨が残らなかったのは、そのせいだろうな」 如月:「……寂しいですね。お手元に残ったのがこれだけとなると、お渡ししたくなかった旦那様のお気持ちが分かります」 栗原:「だからこそ、俺達は故人様の記憶を取り出さなきゃいけないんだ」 如月:「はい」 栗原:「いつまでも感傷に浸ってるな。ここから俺達はあくまで栽培人だ」 如月:「分かりました」 栗原:「奥様、少しお身体触ります。お許しください」  :  0:-慎重に骨を動かし、底にある遺灰を掬う-  :  栗原:「如月、試験管」 如月:「はい」  :  0:-受け渡された試験管に遺灰を移し、骨壺の蓋を閉める-  :  栗原:「よし、遺族に戻しに行くぞ」 如月:「分かりました」  :  0:-骨壺を抱え、部屋の外で待っていた智弥に骨壺を渡す-  :  如月:「智弥様、奥様をお返しいたします」 智弥:「あぁ、香澄。どこに行ってたんだ。心配したんだぞ」 如月:「これより花葬に入りますが、ご一緒になりますか?」 智弥:「香澄、すぐ帰ろうな」 如月:「……」 渉:「お父さんが心配だから、僕は遠慮します」 真弓:「渉、行ってきなさい。お父さんは私が見ておくわ」 渉:「でも……」 真弓:「本当は、見届けたいんでしょう?」 渉:「……うん」 真弓:「なら、私の代わりに見届けてくれる?」 渉:「……分かった」 如月:「それでは、花葬部屋にご案内致します。こちらへ」  :  0:-栗原、渉と共に花葬部屋へ向かう-  :  渉:「うわ、すげぇ」 栗原:「部屋と名称付けてるけど、ここは中庭なんだよ。 栗原:それぞれの区画で、故人様の想い出が眠ってるんだ」 渉:「綺麗……」 栗原:「皆そう言うよ。イメージと違ったって」 渉:「なんか、天国みたいな場所……」 如月:「こちらが、白浜様の追憶花になります」  :  0:-案内された場所には、大輪の白花を咲かせた植物が一輪だけある-  :  渉:「これが、お母さんの……」 如月:「はい。こちらに白浜様の遺灰を受粉させ、想い出の種を育てていきます。 如月:追憶花には様々な色が存在しますが、香澄というお名前ですので白い花を選ばせていただきました。 如月:他の色がいいと仰るのであれば、空きをお探しいたしますが……」 渉:「ううん。この花がいい」 如月:「……分かりました。それでは、花葬に移させていただきます」  :  0:-栗原から受け取った試験管を、追憶花に振りかける- 0:-追憶花が淡い光を放つ-  :  渉:「うわっ、花が光った」 如月:「……以上で、花葬は終わりです。 如月:こちらの管理の元、大切に育てていきます。 如月:果実が実った頃に、ご連絡致します」 渉:「はい。お母さんを、よろしくお願いします」 栗原:「時折、お母さんに会いにきていいからね」 渉:「はい、会いにきます」 如月:「それでは、戻りましょうか」  :  0:-外まで遺族を送る- 0:-待機していた真弓が頭を下げる-  :  真弓:「どうだった?」 渉:「綺麗な場所だった。お母さんの花、真っ白で大きな花だったよ」 真弓:「白、そうなの。香澄は白い花が好きだったから、ピッタリね」 渉:「うん」 真弓:「如月さん。栗原さん。娘を、よろしくお願いします」 如月:「はい、大事に預からせていただきます」 渉:「お父さん、帰るよ」 智弥:「……」  :  0:-お辞儀をし、見送る-  :  栗原:「育て方はもう分かるな?」 如月:「はい」 栗原:「マニュアル通りにいかないのがここからだ。 栗原:故人様との時間を過ごすのが一番多くなる。 栗原:しっかり白浜様と向き合うんだぞ」 如月:「分かりました」 栗原:「不備が起きたらすぐに連絡すること。いいな」 如月:「はい」 栗原:「よし。頑張れよ」  :  0:-肩を叩いて建物に戻っていく栗原- 0:-深い溜息をつき、自分の担当の区画に戻っていく如月-  :  如月:「白浜香澄様。改めてご挨拶させていただきます。 如月:本日よりお世話させていただきます、如月と申します。 如月:白浜様の記憶の成長を手伝わせていただきます」  :  如月:M「仕事など、ただ淡々にこなせばいいと思っていた。 如月:この職に就いたのも、待遇が良かっただけのこと。 如月:遺骨を見るのはもう慣れた。人として見なければ、なんの感情も起きない。 如月:そう思っていた。遺族に寄り添いすぎず、私はただ仕事をすればいいと……。 如月:今までの依頼者は、故人の死を理解していた。受け入れていた。 如月:何事も起きず、スムーズに話を進めることが出来た。 如月:……今日の依頼者はなんだったんだ? 如月:故人の死を受け入れているのに、感情が拒絶している。 如月:全てが違った。言葉が詰まったのは今日が初めてだ。 如月:私は、仕事が出来なかった。何も言えなかった。 如月:あの時、私はあの方々になんて言葉を掛ければ良かったんだろう。 如月:今でも考えている。正解を。 如月:答えが出ないまま、私にとって初めての依頼者様との初日が終わった」  :  0:-翌日 栽培室- 0:-渉が追憶花の前に立っている-  :  渉:「(如月に気づく)あ……」 如月:「こんにちは」 渉:「こんにちは。昨日の今日で、迷惑でしたか?」 如月:「いいえ。そんなことはございませんよ」 渉:「よかった」 如月:「私は業務をしますが……」 渉:「迷惑じゃなかったら、見ててもいいですか?」 如月:「それは、構いませんが……」 渉:「ありがとうございます」  :  0:-業務をする如月- 0:-その様子を眺める渉-  :  如月:「そういえば、お父様の様子はどうですか?」 渉:「相変わらずです。 渉:母が死んでから、父はおかしくなりました。 渉:荼毘(だび)に付(ふ)す時も大変で、それが終わってからは毎日骨壺に向かって話しかけてます」 如月:「そう、ですか」 渉:「食事も摂らなくなって、最初はおばあちゃんが無理矢理食べさせてたんです。 渉:けどある時、自分で料理をしたんですよ。しかも二人分。 渉:そこから、母の分も一緒に作るようになって食べてくれるようになりました」 如月:「苦労されましたね」 渉:「ぁ、ごめんなさい。こんなこと話しても、如月さんには関係ないのに……」 如月:「いいえ。私は白浜様の担当者です。少なくとも、関係なくはありませんよ」 渉:「……(独り言のように)お父さんは、凄い人なんだ。 渉:明るくて、お喋り好きで、多趣味で、僕が悩んでたり困ってたら手を差し伸べてくれる。 渉:色々な場所に連れてってくれて、沢山の世界を見せてくれるんだ。 渉:お母さんが死んでからは、お父さんがお父さんじゃなくなって……まるで別人みたいで……。 渉:遺言通り花葬をすれば、前のお父さんに戻ってくれるんじゃないかって思うんだ」 如月:「……ご期待に応えられるかは分かりません。 如月:ですが、せめてお母様の大切な記憶はお父様にお渡します。 如月:それをどう受け取っていただけるかは、お父様次第です」 渉:「……如月さん、ありがとうございます」 如月:「大丈夫なんて不確かな言葉は言いません。 如月:私はあくまで花葬担当者という立場ですから」 渉:「如月さんは、それでいいと思います」 如月:「そうでしょうか?栗原さんにはもっと遺族に寄り添うべきだと注意されてますが」 渉:「ううん。如月さんは、ちゃんと寄り添ってくれてるよ」 如月:「私は……」  :  0:-その時、追憶花の花弁が震えだし散り始める-  :  渉:「花が……!」 如月:「始まりましたか。予定より早いですね」 渉:「だ、大丈夫なんですか?」 如月:「大丈夫ですよ。こちらへ」 渉:「は、入っていいんですか?」 如月:「はい」 渉:「し、失礼します」  :  0:-栽培区画に足を踏み入れる-  :  如月:「追憶花の中心をご覧ください」 渉:「……果実?」 如月:「これが、お母様の記憶の元になります」 渉:「これ、が?」 如月:「はい。追憶花の成長自体は比較的早いのですが、故人様の遺族に残したい想い出の量によってその期間は長くなっていきます。 如月:お母様がどれだけ想い出をお持ちになっているかは分かりませんが、お父様が元に戻るきっかけになる想い出があることを願っています」 渉:「あるといいな。あんなお父さん、お母さんも見たくないと思うから」 如月:「……そうですね」 渉:「今日はありがとうございました。お母さんのこと、よろしくお願いします」 如月:「はい。お任せください」 渉:「今日は帰ります。お父さんとおばあちゃんが心配だから」 如月:「またお母様に会いたくなったら、いつでも来てください」 渉:「はい。失礼します」  :  0:-渉が出ていくのを見届け、追憶花に向き直る-  :  如月:「良い息子さんですね。白浜様」  :  如月:M「"ちゃんと寄り添えてる" 如月:その言葉を、私は何度も心の中で繰り返した。 如月:本当に私は寄り添えているんだろうか。 如月:もっと遺族に対して親身に接するべきだと。 如月:元は命あった、私達と同じ人であったことは忘れてはいけないと。 如月:そう何度も、栗原さんには耳にタコが出来るほど入社した時から言われていた。 如月:栗原さんは何も言わなかったけど、きっと気づかれていたのかもしれない。 如月:遺骨を物として扱っていた私の心に……。 如月:私は、一体どうするべきなんだろうか」  :  0:-数日後-  :  如月:「本日もよろしくお願いします。白浜様」  :  0:-栗原が母親を連れてくる-  :  栗原:「よぉ、仕事に熱心で何よりだ」 如月:「栗原さん……と」 真弓:「香澄がお世話になっております」 如月:「真弓様」 栗原:「ちょうど入り口でお会いしてな。 栗原:娘さんに会いに来たって言うから連れて来たんだ。 栗原:ちょうど如月に用もあったしな」 如月:「え、何でしょうか?」 栗原:「まぁそれは後で話すさ」 如月:「はぁ」 真弓:「何度来ても、ここは夢のような場所ですね」 如月:「私もそう思います。 如月:……先日、お孫さんがいらっしゃいましたよ」 真弓:「渉から聞きました。 真弓:とても親身に孫の話を聞いてくださったと。 真弓:あの子、とても嬉しそうに話してくれましたよ」 栗原:「お?どんな話したんだ?」 如月:「……守秘義務がありますので栗原さんでもお教えできません」 栗原:「ははっ、正解の回答だ。成長したな」 如月:「いえ、そんなことは……」 栗原:「そうれはそうと真弓様。失礼かと思われますが、一つご質問してもよろしいですか?」 真弓:「なんでしょうか?」 栗原:「先程、何度来てもと仰ってましたがもしや花葬の経験が?」 真弓:「はい。両親と夫の葬儀の際に利用させていただきました」 栗原:「そうでしたか」 真弓:「どちらも交通事故で亡くしましてね。 真弓:突然だったので、なんの準備も出来ず死に目にも会えず……。 真弓:全てが終わって骨壺の前で無気力な日々を過ごしていたんです。 真弓:そんな時でしたねぇ。親戚が花葬のことを教えてくれたんですよ。 真弓:心の余裕も持てない中、その一言で両親が言っていた言葉を思い出しました。 真弓:"死んだら花になりたい"と……旦那は花葬のことは何一つ言ってませんでしたが、私が旦那の想いを知りたかったら花葬を依頼したんです。 真弓:両親の想いも旦那の想いも、ちゃんと受け取りました。 真弓:花葬のおかげで、無気力だった日々から救われました。 真弓:……気休めかもしれないけれど、智弥さんも救われてほしいわ」 如月:「……お孫さんも同じことを仰っていまいたよ。 如月:お母さんの想い出が、お父さんを元に戻してくれたらいいな、と」 真弓:「そうですか。あの子が……香澄も、あんな智弥さんを見たくないと思うわ」 如月:「香澄様……娘さんは、どんな方だったんですか?」 真弓:「とても、心優しい頑張り屋な子です。 真弓:小さい頃から私の身の回りの手伝いをよくしてくれる子でした。 真弓:中学、高校は少しすれ違う日々もありましたが、大きな病気一つすることなく素敵な旦那さんと子供に恵まれて、毎日幸せな日々を送っていたんです」 栗原:「旦那様とお子さんの様子を見たら、とても愛されているお母様だと分かります」 真弓:「ええ。智弥さんも渉も、私のことをお義母さんおばあちゃんって呼んでくれてねぇ。 真弓:智弥さんなんて色々なところに旅行に連れて行ってくれたんですよ? 真弓:……(声のトーンが下がる)何回目かの旅行の時でしたね。 真弓:香澄の体調が悪くなって、そこからはもうトントン拍子に検査と入退院の繰り返しでした」 如月:「……癌、だったとお聞きしました」 真弓:「神様って残酷だと思いませんか? 真弓:癌だと分かった時は、既に手遅れに近い状態でした。 真弓:それでもあの子は、私達に心配かけまいと笑顔だったんです。 真弓:病気なんかに負けないって、毎日言っていましたよ。 真弓:心の中では私も娘も気づいていたんです。 真弓:あぁ、治らないんだ。死ぬんだって。 真弓:それでも、抗いたかったんです。少しの希望でも持ちたかった」 如月:「……」 真弓:「昔と比べて、医療も随分進みました。 真弓:完治出来なかった病気も治療法が見つかって希望の光が差すようになりました。 真弓:それでも、どれだけ医療技術が進歩しても癌はどうしようもありませんねぇ。 真弓:日に日に娘の身体を蝕んでいきました。 真弓:身体は辛いはずなのに、それでも娘は最期まで諦めなかったんです。 真弓:最期は私達が耐えられなくなって、痛みだけでも取ってあげようと痛み止めをお医者様にお願いしました。 真弓:……それがいけなかったんでしょうかね。翌日のお昼、娘は眠るように亡くなってしまったんです」 栗原:「……お気持ち、お察し致します」 真弓:「娘が亡くなった時は悲しかったですけど、あんな風になってしまった智弥さんを孫の渉が支えるのは酷ですから。 真弓:私がしっかりしないといけませんよね。渉も、表では平然としていますけどきっと母親を亡くして気持ちの整理もついていないでしょうから」 栗原:「ご立派です」  :  0:-微笑み、追憶花に話しかける-  :  真弓:「香澄。こんな綺麗なお花になれて嬉しいわねぇ。 真弓:智弥さんのこと、渉のこと、きっと心配してるかしら。 真弓:香澄の想い、智弥さんに届くといいわね」  :  0:-花弁を撫でる-  :  真弓:「お時間取らせていただき、ありがとうございました」 栗原:「いえ、いいんですよ。ここは残された者が語らう場でもありますから」 如月:「失礼ですが、旦那様……智弥様は来ないのでしょうか?」 真弓:「……来るのは、難しいと思います。 真弓:こちらに伺う時に声はかけているんですが、届いていないようで……」 如月:「そう、ですか」 真弓:「来るべき時が来たら、智弥さんも連れてきます」 如月:「お待ちしております」 真弓:「それでは、失礼しますね」  :  0:-お辞儀をし、帰ろうとする真弓- 0:-引き留める如月-  :  如月:「ぁ、あの……!」 真弓:「はい?」 栗原:「如月?」 如月:「さっき、言ってましたよね。 如月:痛みだけでも取ってあげようと思った。それがいけなかったのかって」 真弓:「ええ。ふとそんなことを考えてしまうんです。 真弓:お医者様も、それは違いますよって言ってくださったんですが…… 真弓:いけませんね。私がこんな弱気になっちゃ」 如月:「私は、そんなことないと思います。 如月:闘病生活をされていて、心も弱っていたと思います。 如月:それでも娘さんが諦めなかったのは、お母様や旦那様、息子さんとまだまだ生きていたかったからではないでしょうか? 如月:癌のしんどさや痛みがどれほどのものかは分かりません。 如月:けれど、その耐えてる時間がとてつもないものだってことは分かります。 如月:その痛みを取ってくださっただけでも、娘さんにとっては嬉しかったんではないでしょうか」 真弓;「如月さん……」 如月:「赤の他人である私の言葉なんて聞き流してもらって構いません。 如月:ですが、闘病生活を頑張った娘さんと、それを支えたお母様やご家族、お医者様の時間を自分のせいだと否定しないであげてください」 真弓:「……(涙ぐむ)そう、ですね。私ったら、香澄に怒られちゃうわね」 如月:「い、いえ。差し出がましいことを言って申し訳ありません」 真弓:「いいえ。とても嬉しい言葉をありがとう」 如月:「……」 真弓:「如月さん。あなたが娘の担当で良かったわ」 如月:「……私は」 真弓:「改めて、娘をよろしくお願い致します」 如月:「……はい」  :  0:-すっきりした表情で帰っていく真弓-  :  栗原:「言うようになったなぁ。如月ぃ?」 如月:「す、すいません。業務外のことを……」 栗原:「いや、それでいい」 如月:「え?」 栗原:「俺は少し勘違いをしていたな」 如月:「な、なにがですか?」 栗原:「お前は、遺族に向き合ってないわけじゃなかったなぁってな」 如月:「え、でも、栗原さんから見たら私は……」 栗原:「……遺骨を扱う姿が、俺には見てられなかった。 栗原:遺骨は故人の生きた証だ。今までどんな人生を迎えたのかが詰まってる。 栗原:遺族に残される唯一のものだ。元は俺達みたいに生きていた。 栗原:それを忘れちゃいけねぇ。けれどお前は、遺骨をまるで物のように扱ってるように見えてな。 栗原:勘違いしちまった。すまない。この通りだ」  :  0:-頭を下げる栗原- 0:-慌てる如月-  :  如月:「や、やめてください栗原さん!頭をあげてください!」 栗原:「あの会話を聞いて、ちゃんとお前が遺族に向き合ってるって分かった。俺は上司失格だな」 如月:「ち、違います。栗原さんは間違ってません」 栗原:「……どういうことだ?」 如月:「栗原さんの言ってることは、合ってます。 如月:遺骨が遺族に残されたものだってことも、元々は私達と同じように生きていた人だってことも。 如月:それでも私は、栗原さんが言っていたように遺骨を物として扱っていました。 如月:なにも考えず無関心で触れていました。人だったと考えないようにしていたのは事実です。 如月:遺族の方に故人の想い出をお渡しする仕事をしている上で、やってはいけない、思ってはいけない感情です。 如月:それを、栗原さんは見抜いていました。 如月:だから上司失格ではないです。失格なのは、そんな気持ちで故人様と遺族の方に接していた私の方です。 如月:申し訳ありませんでした」  :  0:-今度は如月が頭を下げる-  :  栗原:「……如月の気持ちは分かった。俺の目は合ってたんだな」 如月:「はい。遺族に向き合ってるなんて言葉、受け取れません」 栗原:「……実はなぁ、俺も昔は如月と同じだったんだぞ?」 如月:「え?」 栗原:「俺も、如月みたいに何も考えないで淡々と作業してたさ。 栗原:人だったって考えちまえば、色んな感情で頭も心も支配されちまうからなぁ。 栗原:だから俺も"これは人じゃない。骨じゃない。レプリカだ"って思ってた。 栗原:遺族に対しての対応は如月より酷かったな。もうマニュアル通りの対応だ」 如月:「し、信じられません」 栗原:「ははは、そりゃそうだろうな! 栗原:……今はもう辞めちまったが、俺が入社したての頃の上司が口酸っぱく言ってたんだ。 栗原:"遺骨は物じゃない。人だ。命ある生きた塊だ。命無き声無き記憶の魂だ。 栗原:それを遺族に届けることが出来る唯一のものが追憶花だ。俺達の仕事だ。 栗原:俺達にしか出来ない仕事を、手を抜いてするな。遺族はそれを見てる。 栗原:自分の大切な存在を粗末に扱われてるって知った時、一番悲しむのは遺族だ。 栗原:だから寄り添え。残された遺族に届けるってことがどれだけ重要なことか、遺骨にも遺族にも寄り添って学んでいけ"ってな」 如月:「栗原さんの口癖はその方の……」 栗原:「あぁ。受け売りだ。 栗原:けどこの言葉で俺は自分を見直した。 栗原:遺骨と向き合い、遺族と向き合い、残された者の後悔を知った。 栗原:その後悔を取り除いて前を向いてもらうのが俺達の仕事なんだって理解したな」 如月:「……」 栗原:「故人の想いも、遺族の想いも受け取るのはきつい仕事だ。 栗原:だがやり甲斐はある。しんどいが、残された者の後悔が救われて前を向けるきっかけを作り出せるなら、この仕事をやる意味があるって思ったんだよ」 如月:「……そうですね」 栗原:「昔の自分を見てるようで危なっかしかったんだ。 栗原:お前は俺と違って、遺族に向き合ってたな」 如月:「遺族に向き合えてるとは思いません。 如月:そう言ってくださるのは嬉しいですが、自分の中で納得が出来ないんです。 如月:それに、遺骨に向き合えてないのは事実です」 栗原:「そうだな。いくら周りが言ったところで自分の中で理解が出来ないと意味がねぇな」 如月:「すいません」 栗原:「いいんだよ。お前の気持ちもやっと聞けたしな」 如月:「それに、遺族に向き合えてると皆さん言ってくれましたけど、私はまだちゃんとは向き合えてません」 栗原:「……旦那さんか?」 如月:「はい」 栗原:「気になるか?」 如月:「担当してる方の旦那様ですので、一応は……」 栗原:「ま、最初にあんな発狂具合見せられちゃ嫌でも気になるわな」 如月:「今あの人は、どんなことを考えているんでしょうか」 栗原:「さぁなぁ。そりゃあの人の中でしか分かんねぇよ。 栗原:おいそれと俺達が踏み込んでいい場所じゃねぇ。 栗原:追憶花の種を見せる当日まで来ない遺族も珍しくないしな。 栗原:そんな気にするな。大丈夫さ」 如月:「……」 栗原:「確証はないがな」 如月:「無責任です」 栗原:「ははは、そうだな。だが俺達にはこれくらいの気休めしか言えないさ。大丈夫なことを願おう」 如月:「……はい」  :  如月:M 如月:「追憶花は故人の記憶を糧に成長をする。 如月:心に残ってる記憶の量が多ければ多いほど、追憶花の成長期間は長くなる。 如月:私が今まで担当した追憶花の平均成長期間は一週間程だったが、白浜様の追憶花は違った。 如月:それほどまでに届けたい記憶があるのだろう。 如月:追憶花の成長が終わりを告げる合図。 如月:その亀裂が実に入るまで、およそ一ヵ月。 如月:遂に、遺族に記憶を見せる日がやってきた」  :  0:-追憶花を見ている栗原と如月-  :  栗原:「……そろそろだな」 如月:「はい」 栗原:「それにしても、一ヵ月か」 如月:「今まで一番長かったです」 栗原:「いやぁ、これは俺も初めてだ」 如月:「遺族の方に連絡してきます」 栗原:「おう」  :  0:-連絡しようとするが、何かを忘れたのか思い留まって戻ってくる-  :  如月:「ぁ……」 栗原:「ん?どうした?」 如月:「ちょっと……。 如月:白浜様。想い、届くといいですね」 栗原:「……」 如月:「では、連絡してきます」 栗原:「あ、ああ」  :  0:-連絡をしに出ていく如月- 0:-その後ろ姿を唖然とした表情で見ている栗原-  :  栗原:「あいつ、変わったなぁ。 栗原:……白浜様。あなたとあなたの大切にしていた方々のおかげです。 栗原:俺から、お礼を言わせてください。ありがとうございました。 栗原:きっと届きますよ。想いを伝えるお手伝い、最後まで務めさせていただきます」  :  0:-戻ってくる如月-  :  如月:「すぐに来られるそうです」 栗原:「そうか。なら俺達も準備はしておこう」 如月:「はい。機材、投射室に運んでおきます」 栗原:「頼んだぞ」  :  0:-数十分後、ご家族を連れて如月が戻ってくる-  :  栗原:「お待ちしておりました」 智弥:「……」 渉:「お父さん、お母さんの記憶だよ」 真弓:「これが、香澄の……」  :  0:-他の追憶花の果実と比べるとだいぶ大きく実っている-  :  如月:「通常の追憶花でここまで実った果実は初めてです。 如月:それほどまでにご家族に残したい記憶が多いのでしょう」  :  0:-暫くすると果実が落ち、役目を果たした追憶花は枯れていく- 0:-果実を拾い上げる如月-  :  栗原:「こちらへ。追憶花の投射室へご案内致します」  :  0:-投射室へ案内する- 0:-スクリーンと投射機だけがある部屋へ入る-  :  如月:「果実を割らせていただきます。どうぞお近くでご覧ください」 渉:「お父さん、行こう?」 智弥:「……香澄、香澄」 真弓:「さ、智弥さん」  :  0:-智弥の手を引き、設置されている台へ近寄る-  :  如月:「それでは、白浜香澄様の追憶花を開かせていただきます」  :  0:-果実を割ると、中から色とりどりの種が出てくる-  :  渉:「……綺麗」 真弓:「宝石みたいね」 如月:「こちらが香澄様の残された記憶でございます。 如月:一つ一つ投射機で映させていただきますので、どうぞ椅子に腰かけてお待ちください」  :  0:-栗原が椅子を持ってくる-  :  栗原:「どうぞ」 渉:「ありがとうございます」 栗原:「真弓様、智弥様もどうぞお掛けください」 真弓:「ありがとうございます。智弥さん、座りましょう」 智弥:「……(心ここに在らず)あぁ」  :  0:-座る-  :  如月:「白浜香澄様より、旦那様である白浜智弥様、息子様である白浜渉様、そしてお母様である宮下真弓様へ送る記憶です。 如月:どうぞ、ひと時の逢瀬をお過ごしくださいませ」  :  0:-部屋の電気を消す- 0:-投射機に種をセットすると、光を受けた種が光り輝きスクリーンに映像が映される-  :  渉:「……お母さん」 真弓:「(涙ぐむ)あぁ、香澄」 渉:「お父さん、お父さん、見て。お母さんだよ」 智弥:「(憔悴した顔で見上げるが徐々に目を見開く)ぁ、ああ、香澄ッ」  :  0:-スクリーンに香澄と智弥が写っている- 0:-回想-  :  香澄:「ねぇねぇ?」 智弥:「ん?」 香澄:「何か言いたいことなぁい?」 智弥:「え、いきなり何」 香澄:「いい加減、言ってほしいんだけどなぁ」 智弥:「え、えっと……」 香澄:「もう、ヘタレなんだから。じゃあ私から言う! 香澄:智弥、好きだよ。智弥の傍にいると落ち着くの。だから、智弥が良かったらでいい。 香澄:私と付き合ってください」 智弥:「ッ……お、俺も、香澄が好き。大好き」 香澄:「うん」 智弥:「えっと、だから、その……」 香澄:「もう、だから返事はー?」 智弥:「ッ、俺で良ければ……お、俺と付き合ってください!」 香澄:「ふふっ、嬉しい智弥!」 智弥:「うわっ!か、香澄いきなり抱き着くと危なっ!うわああ!」  :  0:-いきなり抱き着いてきた香澄を抱きとめ後ろに転ぶ智弥-  :  智弥:「あ、あぶねぇ」 香澄:「ふふっ、あはは!」 智弥:「ははっ、はははは!はぁ、俺なさけねぇ。好きな奴に告白させるとか……」 香澄:「智弥らしいからいいよ」 智弥:「プロポーズは絶対俺からする」 香澄:「それって結婚してくれるってこと?」 智弥:「わ、別れる前提で付き合う訳ないだろ。け、結婚前提だよ」 香澄:「智弥……私、とっても嬉しい」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「若い頃の、お父さんとお母さんだ」 智弥:「……あぁ、そうだ。香澄から、俺に告白してくれたんだ」 真弓:「覚えてるわ。お家に帰ってきた香澄ね?智弥さんと付き合えたって泣きながら報告してくれたのよ?」 智弥:「香澄が?」 真弓:「振られるかもしれないから怖かったって言ってたわ」 智弥:「なんで、振る訳ないだろ香澄。ずっと好きだったんだから」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「智弥ー!こっちー!」 智弥:「はいはい。なんかあったのか?」 香澄:「これこれ!見て!?可愛くない!?」 智弥:「ん?指輪?」 香澄:「そう!」 智弥:「欲しいのか?」 香澄:「え?そういう訳じゃないけど、お揃いの指輪っていいなぁって。けど指輪って高いね。とっても手が出せないや」 智弥:「……すいません店員さん。これください」 香澄:「え、え!?」 智弥:「はい。あ、これと同じデザインで男性用サイズありますか?……あ、はい。ペアリングでお願いします」 香澄:「どうして……」 智弥:「なんだよ。ペアリングじゃ嫌か?」 香澄:「う、ううん!ペアリングがいい!」 智弥:「じゃ、決まりだな。それに今日、記念日だろ。付き合った記念日。だから、送らせて?」 香澄:「お、覚えてたの?」 智弥:「当たり前だろ。好きな女性と付き合えた記念日忘れる程バカじゃねぇぞ?」 香澄:「嬉しい」  :  0:-回想 終了-  :  智弥:「あぁ、そうだった。一年記念日で初めてペアリングを送ったな。 智弥:欲しい素振り全然見せなかったから、珍しい。 智弥:でも、そうか、香澄はこの時こんな顔して笑ってたんだな。 智弥:……指輪、似合ってるよ。香澄」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「もう知らない!」 智弥:「あぁ、そうかよ!」 香澄:「実家に帰る!」 智弥:「好きにしろ!」 香澄:「(荷物を纏めながらぶつぶつ呟く)……意味わかんない」 智弥:「……」 香澄:「ほんとに帰るからね」 智弥:「……」 香澄:「じゃあね」  :  0:-手首を掴み引き留める-  :  智弥:「待って」 香澄:「な、なに?」 智弥:「……ごめん。大きな声出して、口悪くなった」 香澄:「……」 智弥:「それに、香澄の楽しみに取っておいたケーキを俺が間違って食べたのが原因で帰るって、多分香澄のお母さん笑うぞ」 香澄:「……ぷっ、あはははっ!そうだね!きっと呆れた顔して笑ってそう!」 智弥:「今度買ってくるから、ごめん。帰らないで」 香澄:「……うん。私も大人気なかった。ごめんね。実家に帰るなんて言っちゃって」 智弥:「大丈夫……本当に帰らないか?俺の傍にいてくれる?」 香澄:「もう、帰らないから大丈夫だよ」 智弥:「良かった」 香澄:「智弥が食べちゃったケーキと別に追加でケーキ買ってくれるなら」 智弥:「(食い気味に)買う。買わせていただきます」 香澄:「あはは!じゃあ許すー!」  :  0:-回想 終了-  :  真弓:「あなた達、なんてことで喧嘩してるのよ」 渉:「喧嘩の想い出なんて、お母さんらしいね。お父さん」 智弥:「(懐かしそうに微笑むだけ)」  :  0:-次の映像が流れる-  :  智弥:「ただいまー」 香澄:「おかえり。ご飯出来てるよ」 智弥:「……うん、ありがとう」 香澄:「どうしたの?体調でも悪い?」 智弥:「いや……ぁ、でも、ちょっと悪いかも?」 香澄:「ぇ、大丈夫?」 智弥:「んー、香澄が抱きめてくれたら治るかも」 香澄:「なにそれ」 智弥:「してくれない?」 香澄:「もう、仕方ないなぁ」  :  0:-抱きしめる-  :  香澄:「智弥、お仕事頑張ったね」 智弥:「……うん、頑張った」 香澄:「いつもありがとう」 智弥:「……毎日、香澄がおかえりって言ってくれるの、すげぇ嬉しい」 香澄:「私も仕事で遅くなった時、智弥がおかえりって言ってくれるの嬉しいよ」 智弥:「うん。これからも毎日、おじいちゃんおばあちゃんになってもおかえりって言ってあげる」 香澄:「え?」 智弥:「だから、おじいちゃんおばあちゃんになっても、俺におかえりって言ってください」  :  0:-鞄から小箱を出し、見せる-  :  香澄:「(泣き出す)ッ、ぅ、うぅ……」 智弥:「俺と、結婚してください」 香澄:「(泣きながら)私で、いいんですか?」 智弥:「香澄が、いいの。言ったでしょ?プロポーズは俺からするって」 香澄:「うっ、ひっく、うぅ」 智弥:「ねぇ、返事は?」 香澄:「はいっ、喜んで」 智弥:「うん、嬉しい」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「お母さんの泣いてるところ、初めて見た」 智弥:「そうか。渉はお母さんの泣き顔見たことなかったか」 渉:「うん。いつも笑ってたから」 智弥:「本当はお母さんな?泣き虫なんだよ」 渉:「お父さんの前だけかな。僕の前ではいつも笑顔で、強いお母さんだったよ」 智弥:「……そうか」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  真弓:「智弥さん、香澄のことお願いね」 智弥:「は、はい!お義母さん。香澄さんのこと、幸せにします!」 真弓:「まぁ。ふふっ、いい旦那さん捕まえたわね香澄」 香澄:「浮気したら許さないから」 智弥:「こんな綺麗なお嫁さん置いて他の女性に靡くなんてことないから」 香澄:「ほんとー?」 智弥:「本当だよ」 香澄:「んー、信じる!」 智弥:「ありがとう」 真弓:「ふふっ。香澄、結婚おめでとう」 香澄:「ありがとう、お母さん」  :  0:-回想 終了-  :  真弓:「結婚式ね。覚えてるわ。私ったら新婦からの手紙で大泣きしちゃったのよね」 智弥:「そんなこともありましたね。覚えています」 真弓:「本当に、智弥さんは香澄を幸せにしてくれたわ」 智弥:「そうだと、いいんですが……」 真弓:「本当よ。香澄の母である私が言うのよ?香澄は、世界一の幸せ者だわ」 渉:「僕も、お父さんと一緒にいるお母さんは、すごく幸せそうに見えたよ」 智弥:「……」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「ねぇ、智弥?」 智弥:「なに?」 香澄:「引っ越しとかしたいなぁって思うんだけど、どう思う?」 智弥:「引っ越し?仕事で転勤かなんか出たの?」 香澄:「ううん、そういう話は出てないよ」 智弥:「ならまだ引っ越しとか考えなくていいんじゃないかなぁ」 香澄:「そう?三人家族になるのに?」 智弥:「ん?お義母さんと同居でもするの?」 香澄:「お母さんも同居したら四人家族になっちゃうかなぁ」 智弥:「ん?……え?」 香澄:「ふふっ」 智弥:「ぇ、え?待って?え、いや、嘘だ……」 香澄:「もう、何がー?」 智弥:「さ、三人って……俺と、香澄と……」 香澄:「うん」 智弥:「ま、まさか……俺達の?」 香澄:「うん、そうだよ」 智弥:「……ほんと、本当に?夢じゃないよな?」 香澄:「夢じゃないよ。ここに、私達の赤ちゃんがいるの」 智弥:「香澄っ」  :  0:-抱きしめる-  :  香澄:「わっ、もう苦しいよ智弥」 智弥:「香澄、ありがとう。ありがとう」 香澄:「うん。頑張ってよ?パパ」 智弥:「頑張る。マジで頑張る。今から育休取れないか上司に相談する」 香澄:「早いよ」 智弥:「早い方がいい。けど、それよりも香澄の身体の方が心配だから、安定期入るまでは仕事量調節する。 智弥:家事も俺の方が多くする。お義母さんにも報告しないと、それからベビー用品も……」 香澄:「ストップ!急ぎすぎ」 智弥:「ごめん」 香澄:「気遣ってくれてありがとう」 智弥:「どういたしまして。けど、上司には相談する」 香澄:「ふふっ、もう。止めても無駄みたい」 智弥:「電話してくるからソファーに座って待ってて。 智弥:(電話しに行こうとするが戻ってくる)ぁ、重たい荷物持っちゃダメだからね! 智弥:(電話にし戻る)ぁ、もしもし白浜です。お忙しいところお電話失礼します。実は、相談がありまして……」 香澄:「(お腹の子に話しかける)パパはせっかちだねぇ。 香澄:男の子か女の子かまだ分からないけど、どっちの性別でも嬉しいよ。 香澄:私達を選んでくれてありがとう。」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「これ……」 智弥:「あぁ。渉がお腹の中にいるって分かった時だな」 渉:「こんなに、喜んでくれてたんだ」 智弥:「当たり前だろ」 真弓:「妊娠報告してもらった時は嬉しかったわぁ。 真弓:智弥さんったらね?香澄にも内緒で子供の名前いっぱい考えてたのよ?」 渉:「そうだったの?」 智弥:「恥ずかしいからその話はやめてくださいお義母さん」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想- 0:-赤ちゃんの泣き声が響く-  :  香澄:「(息を荒げ)」  :  0:-分娩室の扉が開いて智弥と真弓が入ってくる-  :  智弥:「う、生まれた?」 真弓:「まぁまぁ。元気な泣き声ねぇ」 智弥:「香澄」 香澄:「智弥、私達の赤ちゃん」 智弥:「(涙ぐむ)うん、うん、頑張ったな香澄。ありがとう。本当にありがとう」 香澄:「見て?私の指握ってくれるの」 智弥:「本当だ。可愛いな」 香澄:「うん。可愛い。とっても可愛い」 智弥:「俺達の元に来てくれてありがとうな」 香澄:「産まれてきてくれてありがとう。渉」  :  0:-回想 終了-  :  渉:「ッ……」 智弥:「あんなに小さかったのにな。 智弥:今じゃ俺と同じくらいの身長になって……大きくなったなぁ。渉」 渉:「……まだまだ成長期だから、身長越しちゃうよ」 智弥:「そうだな。越されちゃうな」 渉:「お父さんは、まだまだ元気でいてよ」 智弥:「……そうだなぁ。渉がお嫁さん連れてきて、孫を見るまでは死ねないなぁ」 渉:「まだまだ先じゃん」 智弥:「きっとすぐだよ。時間なんてあっという間だ」  :  0:-次の映像が流れる- 0:-回想-  :  香澄:「……」 智弥:「……今、なんて」 香澄:「……癌、だって」 智弥:「……ぁ、今日、エイプリルフールか?な、なんだ脅かすなよ香澄」 香澄:「嘘じゃないよ!」 智弥:「……」 香澄:「……嘘じゃないんだよ」 智弥:「嘘だ……」 香澄:「(泣く)」 智弥:「香澄ッ」 香澄:「死にたくない。死にたくないよぉ」 智弥:「(抱きしめる)うん、うん」 香澄:「智弥、智弥ぁ」 智弥:「……嘘なら、よかったな」 香澄:「うぅ」 智弥:「ごめん、なんて声かければ、分かんない。 智弥:いっぱい泣こう。いっぱい泣いて、そこから……ッ……」 香澄:「うわぁあああ」 智弥:「……なんでだよ神様。なんで、香澄なんだよ」  :  0:-闘病シーンに切り替わる-  :  香澄:「……智弥、渉、そしてお母さん。 香澄:これを見てるってことは、多分花葬してもらえたのかな? 香澄:うまく追憶花の種にこの記憶が出来るか分からないけど、試してみる価値はあるよね。  :  香澄:お母さん。 香澄:今まで私を育ててくれてありがとう。 香澄:いっぱい迷惑と心配かけちゃったよね。ごめんね。 香澄:お父さんが亡くなって大変だった時に、反抗期で家出しちゃったの覚えてる? 香澄:……お母さん、ボロボロになってまで探してくれてたよね。 香澄:その時、泣きながら怒って抱きしめてくれたの、私嬉しかったんだ。 香澄:心配かけてごめんなさいって感情と、私のこと本当に大事にしてくれてるんだって感情でいっぱいだった。 香澄:友達にも"こんな素敵なお母さん泣かせちゃダメじゃん"って言われた。 香澄:あの時のことは今でも反省してる。 香澄:それから、お母さんより先に逝ってしまう娘でごめんね。 香澄:私、まだ親孝行出来てないよね。親不孝者だ。 香澄:お母さんを残して逝くことが心残りだよ。  :  香澄:渉。 香澄:今は、高校生かな?そろそろ卒業する歳? 香澄:私がいつまで生きてるか分からないけど、渉の晴れ姿は見たかったな。 香澄:中学の卒業式も、高校の入学式も出れなくてごめんね。 香澄:一緒に居れる時間が少なかったから、寂しい思いさせちゃったかな。 香澄:時々お見舞いに来てくれたことも、看護師さんから聞いて知ってるよ。 香澄:綺麗なお花、いっぱい買ってきてくれたよね?お母さん嬉しかった。 香澄:持ってきてくれる度に看護師さんにお願いして、窓際に飾ってもらってるの。 香澄:"いい息子さんですね"って、渉のこと褒めてくれてたんだよ? 香澄:お母さん嬉しくなっちゃって、自慢の息子ですって言ってるの。 香澄:……渉は強い子だから、自分がしっかりしなきゃって思ってるかもしれないけど、あなたはまだ子供なの。 香澄:だから我慢しなくていいのよ。お父さんやおばあちゃんに頼りなさい。 香澄:渉は私とお父さんの自慢の息子。大好きよ渉。愛してるわ。  :  香澄:……それから、智弥。 香澄:ごめんね。おかえりって、言ってあげられなくなっちゃった。 香澄:おじいちゃんおばあちゃんになっても、おかえりって言ってあげたかった。言ってほしかった。 香澄:ねぇ、智弥。私がいなくなって生活崩れたりしてない?渉やお母さんに心配かけてない? 香澄:智弥のことだから、私がいなくなって抜け殻のようになってそうだね。 香澄:私は、そんな智弥見たくないよ。って言っても、見れないんだけどさ。 香澄:(だんだん泣き始めるが耐えながら喋る)私の智弥はね?壁にぶつかって落ち込むけど、それでも自分の中で答えを見つけて這い上がってきてくれる人なの。 香澄:いつも私達家族を支えてくれて、色んなところに連れてってくれて、私や渉、お母さんを笑顔にしてくれる人なの。 香澄:私のことが大好きで、毎日行ってらっしゃい、おかえりって言ってくれる人なの。 香澄:……そういう智弥が、私は好きなのよ? 香澄:だから、すぐに私の死を受け入れてなんて言わない。 香澄:けど、ちゃんと智弥の中で答えが出たらまた私達を笑顔にして? 香澄:私に毎日、行ってらっしゃい、おかえりって言って? 香澄:おじいちゃんになっても、言ってほしい。 香澄:私も夢の中で、行ってらっしゃい、おかえりって言うから。 香澄:……智弥。大好き。ありがとう。私の彼氏になってくれて。夫になってくれて。パパになってくれて。 香澄:私を愛してくれて、ありがとう。  :  香澄:(泣いてることに気づく)やだ、私ったら、なんで泣いてるんだろう。 香澄:……ふふっ、泣いちゃうくらいみんなのことが大好きなの。 香澄:……愛してるよ。みんな」  :  0:-回想 終了-  :  如月:「以上、故白浜香澄様がご家族である智弥様、渉様、そしてお母様である真弓様へ伝えたい想いです」 真弓:「(泣きながら)充分、親孝行してくれたよ。あなたの晴れ姿を見れて、孫が見れただけでも立派な親孝行じゃないの。 真弓:親不孝者なんかじゃないのよ香澄。あなたは立派な子よ。ありがとう」 渉:「(我慢してたのが溢れ出し涙を流す)僕、別に寂しくなかったよ。お父さんもいたし、お母さんも時々電話してくれたじゃん。 渉:体調しんどいの我慢して話してくれてたの、僕知ってるよ? 渉:卒業式とか入学式、確かにお母さんいなかったの寂しかったけど、お父さんとおばあちゃんが来てくれたから大丈夫。 渉:僕もお母さんが大好きだから。だから……ッ、死んじゃ嫌だよ、お母さん。戻ってきてよぉ。うわあぁああああ!」 智弥:「(スクリーンを見つめたまま泣いている)っ……」 如月:「……香澄様は、とても強かな女性ですね。 如月:死ぬ間際にまで皆様のことを想っている。 如月:だからこうして追憶花の種として皆様にお届けすることが出来ました。 如月:自分の死がどれだけ皆様に影響するのか分かっていらっしゃったんですね。 如月:特に、旦那様である智弥様に……」 智弥:「香澄ッ」 如月:「智弥様、香澄様の仰る通り、今のあなたを香澄様は見たくないと思いますよ。 如月:渉様が仰ってました。昔のお父さんに戻ってほしいと。追憶花が、そのきっかけになればいいと。 如月:気づきましたか?全ての記憶に智弥様。あなたが映っているんです。 如月:それだけ香澄様にとって、智弥様は大切な存在だったんですよ? 如月:死して尚も魂に刻まれるほど、あなたのことを愛しているんです。 如月:それは、追憶花を見て痛いほど伝わったかと思います」 智弥:「ぅ、あ、香澄、香澄ッ……ぁ、あ、あぁあああああああ!」 如月:「……香澄様の最期、本当の願いを、叶えてあげてください。 如月:おじいちゃんになっても、言ってほしいって仰った願いを……」 智弥:「ぅ、うっ、はいッ……ありがとう、香澄」  :  0:-追憶花の種を桐箱に入れ梱包する-  :  如月:「こちら、香澄様の追憶花になります。 如月:どの種がどういった記憶なのかは記してあります」 智弥:「ありがとうございます」 真弓:「なんてお礼を言ったらいいか」 栗原:「お礼は娘さんに言ってあげてください。 栗原:こちら、プランでお付けしている家庭用の簡易投射機です。 栗原:こちらはサービスですので無料になっております。 栗原:説明書も同封してありますので、ご使用になる際はよく読んでお使いください」 真弓:「何から何まで、ありがとうございます」 渉:「あの、如月さん」 如月:「はい。何でしょうか?」 渉:「ありがとう!」 如月:「えっと……」 渉:「如月さんが言った通り、お父さんが元に戻るきっかけになったから。 渉:それに、お母さんの想いも知れたし……このお仕事、いいね! 渉:僕も将来、如月さんみたいに亡くなった人と残された人を繋ぐ架け橋になる仕事をしたい!」 如月:「そうですか。渉様ならきっとなれます」 渉:「如月さんがお母さんの担当で良かった。本当にありがとう」 如月:「いえ。こちらこそ、ありがとうございました」 真弓:「さ、智弥さん。渉。帰りましょうか」 渉:「うん、おばあちゃん!」 智弥:「本当に、お世話になりました。 智弥:……帰ろうか、香澄。帰ったら、おかえりって言わないとな」  :  0:-後ろ姿を眺める如月と栗原-  :  如月:「本日は、お疲れ様でございました。 如月:残された記憶の想い出と共に、良き旅路をお祈り申し上げます」  :  0:-姿が見えなくなるまでお辞儀をする- 0:-暫くして顔をあげる-  :  栗原:「心情の変化はあったようだな」 如月:「そうですね。やりがいのあることを、自分の中で見つけれたと思います」 栗原:「ほう?」 如月:「過去に置き去りにされてしまった想い出と、過去に取り残された遺族を救いたいって思いました」 栗原:「いいんじゃねぇの?」 如月:「これからももっと、色々なことを教えてください」 栗原:「そこに気づけたんならもう教えることはなんもねぇよ。お前元々仕事は真面目にする奴だったしな」 如月:「新人には変わりありません。それに研修期間が終わるまでは教えると言ったじゃないですか」 栗原:「そういえばそんなこと言ったなぁ? 栗原:ま、最後まで面倒は見てやるよ。研修期間が終われば一人前の一人立ちだ。 栗原:後輩もいつかは出来るだろうから、同じように教えてやれ」 如月:「はい。栗原さんと同じように教えます」 栗原:「ははは、自分のエピソードも交えつつ教えてやれよー? 栗原:(電話がかかってくる)おっと。はい、栗原です。……分かりました」 如月:「仕事ですか?」 栗原:「ああ。新しい依頼者だ。これからこっちに来るそうだ。準備するぞ」 如月:「分かりました」 栗原:「かー、休みがねぇ仕事だなぁ!」 如月:「やりがいがある仕事だって言ってたじゃないですか」 栗原:「やりがいがあるとは言ってねぇだろ。やりごたえがある仕事だって言ったんだ」 如月:「一緒じゃないですか?」 栗原:「はぁ、分かってねぇなぁ。そこが分からねぇんじゃ、お前はいつまで経っても新人のままだなぁ」 如月:「なんかそこは分からなくていいと思いました」 栗原:「はぁ、俺はいつまでお前の教育係なんだろうなぁ」 如月:「後一週間くらいです」 栗原:「真面目に答えんじゃねぇよ」 如月:「でも、栗原さんが私の上司で良かったです」 栗原:「……そうかよ」 如月:「はい」 栗原:「あー、調子狂うなぁ。煙草吸ってから行くから、先部屋に戻ってろ」 如月:「程々にしてくださいよ?」 栗原:「分かってるよ」  :  0:-部屋に戻る如月-  :  栗原:「ったく。 栗原:(ライターを付け煙草を吸う)あんたら本当にいい家族だったよ。 栗原:如月が担当に付いたのも、何かの縁かねぇ。感謝しなくちゃな」  :  如月:M 如月:「伝えたいことがあるのに伝えられない。 如月:受け取るべき思いがあるのに、受け取れない。 如月:死が近づくと人は自然と伝えたい人のことを思い浮かべる。 如月:けれど伝えられずに死んでしまう人達がいる。 如月:過去に置き去りにされた想い出を伝え、過去に取り残され時が止まってしまった遺族を繋ぐ追憶花。 如月:この花に救われてきた人達は、どれくらいいるのだろうか。 如月:今こうしている間も、追憶花が遺族と故人を繋ぎ救っている。 如月:その架け橋を手伝えたこと、とても嬉しく感じます。 如月:全ての人が救えるとは限らない。それでも私は、故人の想い出を、伝えたい言葉を渡していきたい。 如月:あの家族に出会って、そう思ったんです」  :  0:-幕-