台本概要

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タイトル 【ラブコメ】きゅうなこばしり
作者名 ゆる男  (@yuruyurumanno11)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 60 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 約束のために歌を歌い続ける凛太
約束のために人に笑顔を届ける玖
誰かのために自分が出来る何かを探す

「止まない雨はない」

急な小走りで幸せを見つけた

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キャラの性別を変えなければ性別は問いません。
コメディとちょいエモの台本なので掛け合いを楽しんでもらえれば光栄です!

野良劇の場合はクレジット表記などしなくて大丈夫です。
タイトルの右上にX(ツイッター)でつぶやけるので、つぶやいてくれたら今後のモチベーションに繋がりますm(_ _)m

約束劇の場合はなんでもいいのでクレジット表記してもらえると助かります!

ぶっちゃけ何でもいいです!読んでもらえたら嬉しいです!

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
凛太 396 凛太(りんた) 約束のために歌を歌っている。 昔からツッコミは鋭い ※回想シーンで12歳になるシーンがあります
357 玖(きゅう) 笑顔を届けるために配信をしている。 彼女の謎の行動はなんか面白い ※回想シーンで10歳になります
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
凛太:……ご期待に添いかねる結果となりました。小橋様の今後のご活躍をお祈り申し訳上げます… 凛太:…………俺の人生ってなんなんだ? 凛太:遠い昔の記憶から、あの日の約束が薄れていく 0:場面転換 玖:みーんなー!見に来てくれてありがと〜!……いたっ!お辞儀したら机におでこ打っちゃったぁー!あはは! 玖:私の人生はいつも楽しいことで溢れてる! 玖:あの日の約束まで、私は楽しく居続けるよ 0:場面転換 凛太:………… 0:スマホを見ている 玖:やっほー!ちょ〜S級美少女!明見玖(あかるみきゅう)だ!きゅ〜って呼んでね! 凛太:………… 玖:そうなのー!チャンネル登録者数800人まであともうちょっとなんだー!みんなのおかげだよー!もうサイコー! 玖:あぁー!喜んで手を広げたらモニター割れちゃった……まあ!こんなこともあるよねぇー! 凛太:……まーた自演してるよ。壊れたモニターだけでいくらかけてんだ?バカバカしい 凛太:(M)明見玖という配信者を知ったのは1週間前だ 凛太:(M)嫌なことがあったと言ったら…まあそうだけど、明見玖なんて聞いたこともなかった 凛太:(M)1週間前のこと 凛太:………はあ 凛太:(M)1週間後のオーディションに向けて俺は歌の練習をしていた 凛太:こんな歌詞…俺には合わねえよ。好きなもんなんてないし 凛太:………腹減ったなー。飯食いに行こ 0:ラーメン屋に向かう凛太 凛太:いただきます 玖:ん〜!美味しそー!いっただっきまーす! 玖:うわああー!!ラーメンこぼしちゃったー!! 凛太:………なんだ? 玖:すいませーん!……あれ?すいませーん! 凛太:ここのラーメン屋、呼んでもなかなか店員さん来ませんよ? 玖:………へ? 凛太:だから、紙の布巾かなんかで拭いた方がいいですよ 玖:そうなんだ。ありがとー! 凛太:………あ、ああ。いえ 玖:じゃあー改めてーいっただっきまーす!あーん。んー!んー!……ん〜〜〜 凛太:……多分年下だよな? 玖:ねえねえ 凛太:……はい? 玖:スープちょうだい 凛太:………は? 玖:さっきこぼしてスープ無くなっちゃったから、ちょうだい 凛太:………何言ってんだ? 玖:とんこつ? 凛太:塩だよ 玖:ま、なんでもいいや。スープちょうだい 凛太:………君ね、見ず知らずの人にラーメンのスープくれって言うのは非常識じゃない? 玖:え?そんなの聞いたことないよ? 凛太:うん。俺も見たことないから何とも言えないけど 玖:レンゲに10杯くらいでいいからちょうだいよ 凛太:あげれるわけないだろ。そんな盛大にスープをこぼす方が悪い 玖:ケチだなー 凛太:………なんだよこの子は 0:しばらくすると 玖:ご馳走様でしたー! 凛太:ふぅー。やっとどっか行ってくれるか 玖:………… 凛太:………… 玖:じーーーーっ 凛太:………なんで見られてるんだ? 玖:替え玉何玉目? 凛太:4玉だけど 玖:だからスープくれなかったの!? 凛太:じゃなくてもあげないだろ 玖:おかしな人 凛太:そっくりそのまま返すよ 玖:ふーん。………じーーーーっ 凛太:なんだよ!鬱陶しいな! 玖:右目の下にほくろあるんだね 凛太:どうでもいいだろ!いちいち見てくんなって言ってんの! 玖:見られた方が食欲わかない? 凛太:フードファイターじゃあるまいしそんなのないわ!食い終わったなら早く帰りなよ 玖:見て。じゃーん! 凛太:………な? 玖:スープで服がめちゃくちゃになったー!あっはっはっはー! 凛太:笑ってんじゃねーよ!いいから早く帰れ! 玖:私の事面白いと思う? 凛太:は?なんだいきなり 玖:興味が湧いてきたでしょ? 凛太:どちらかと言えば恐怖の方が勝るぞ。怖くねーけど 玖:あははっ。ちょ〜ド級の幸せ与えちゃうよー! 玖:ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ、チャンネル登録よろしくー♪ 凛太:………なんだよこれ 玖:じゃあねー! 凛太:ちょっ!おい! 0:玖はある紙を置いて店を出ていく 凛太:ショーチューブ?んな事やってんのか? 凛太:……てか、変わり者すぎて、こえーよ 凛太:……なんかこの感じ…見覚えがあるような 凛太:(M)変なやつ。と一言で片付けてしまうのは簡単だった。けど、彼女とほんの数分関わっただけで暗い気持ちが少し薄れた気がした 凛太:(M)俺はなんとなくだけどそいつのショーチューブを見る 玖:やっほー!ちょ〜S級美少女!明見玖(あかるみきゅう)だ!きゅ〜って呼んでね! 凛太:ちょー?S級? 玖:見てこれー!ブレスレット買ったの!……あー!!待って、水こぼした! 凛太:よくこぼすなぁー 玖:え?待って!待って待って待って!パソコンに水入ったんだけど!やっばー!配信切るねー! 凛太:な、なんだこれ 凛太:(M)この1週間だけでパソコンに水をこぼすしモニターも壊すし、おでこを怪我したらしい 凛太:(M)こういう配信者はエンターテインメント。つまり嘘と茶番をあたかもリアルに見せているってことは俺にもわかる 凛太:(M)だから、明見玖がやってるこれもただの茶番に過ぎないのだと思って呆れていた 0:場面転換 玖:ふぅー!パソコン壊れないでいてくれるかなー?これおじいちゃんのパソコンだから壊れたら怒られちゃうよ〜 玖:あれもこれも不幸だなー。……って思ってたらあの日の約束と違うよね 玖:んー。あの子の名前なんだったっけなー?コバシリンダー?って言ってたもんなー。こばしり君って呼んでたから本当の名前わかんないんだっけ? 玖:………あの頃よりも、もっとかっこよくなってるんだろうなー 0:場面転換 凛太:(M)たまたまっていうのは2回以上続いてはいけないと誰かが言っていた。だからまだたまたまだ。いや、たまたまか? 玖:いらっしゃいませー! 凛太:………な、なんでお前がここに? 玖:あら、スープのお兄さんじゃん 凛太:俺にスープのイメージ押し付けるなよ 玖:何しに来たの? 凛太:ラーメン食いに来たに決まってんだろ! 玖:そうなんだ!ネギ抜き? 凛太:勝手に決めんなよ!ネギはいる! 玖:ガッテン承知ー! 凛太:……なんでこいつが行きつけのラーメン屋で働いてんだよ 玖:ぎゃあああー!!お皿割れたー!わああああー!!チャーシューが跳ねたー!あわわわわわー!!麺が踊り出したー! 凛太:もう店閉めた方がいいんじゃないか? 玖:へいお待ちー! 凛太:ネギ抜きじゃねーか!作り直せ! 玖:こまけーことは気にすんなー! 凛太:いいから作り直せー! 玖:はあ。疲れたから休憩しよ。まかない一丁! 凛太:お前の分は完璧じゃねーかよ。ふざけやがって 玖:ねえねえ。ショーチューブ見てくれた? 凛太:……見てねーよ 玖:見てないの!? 凛太:あ、当たり前だろ。 玖:なーんだ。じゃあもう帰っていいよ 凛太:店員になった瞬間強気だな 玖:なんで見なかったの? 凛太:興味無いから 玖:じゃあ今からでも見てよ 凛太:い、嫌だね 玖:頑なだねー。もっと趣味を増やした方がいいんじゃない? 凛太:余計なお世話だね。趣味なんて何もないし 玖:何それーつまんなー!いつも何して生きてるの? 凛太:いつもは……別に何もしてねーよ 玖:ふーん。いかにも死んだ顔って感じだもんね 凛太:………は? 玖:生きてて楽しくないって顔してる 凛太:………お前に何がわかんだよ 玖:知らなーい。でも、君からは負のオーラが見えます。人生楽しくなきゃ損じゃん 凛太:うるせーな 玖:じゃあ私の古き友の言葉を君に授けよう 凛太:……なんだよ 玖:自分が不幸だって思ってるうちが1番不幸なんだよ 凛太:………誰の言葉だよそれ 玖:名前もよく知らない人 凛太:別に……不幸だなんて思ってねえよ。けど、上手くいかない時とか、どうしようもない時だってあるんだよ。生きていればな 玖:………ふーん 凛太:なんだよ、文句あんのか? 玖:いやー?でも君、上手くいかない理由とかどうしようもない時とかどうすればいいかって考えたことないの? 凛太:……あるよ。でも答えにはならないだろ 玖:ぶへぇー。きもー 凛太:……はあ!? 玖:答えにしたくないだけでしょ?自分の足りないところとか、自分には出来ないこととか。認めたくないだけでしょ? 凛太:……だから、お前に何がわかるんだよ! 玖:ダサイって言ってんの!あからさまに暗い顔して、俺は辛い人生を送ってますアピールして気持ち悪いったらありゃしない 凛太:…………っ! 0:凛太は荷物を持って店を出ていこうとする 玖:逃げんのー?口喧嘩はまだまだこれからだけどー 凛太:………黙れ! 0:凛太は店を出ていく 凛太:………くそ!なんなんだよあいつ!俺にだってわかってんだよ! 凛太:自分が不幸だって思わないと、上手くいかなかった時……傷付くのは…自分だろ 0:そして凛太はオーディションに向かう 凛太:………よろしくお願いします……(深呼吸) 凛太:………え?まだ歌ってないですけど… 凛太:………そうですか…わかりました 0:凛太のオーディションはここで終わる 凛太:なんだよ……なんなんだよ。みんな俺をバカにしやがって 凛太:俺だって……もうこんなことしたくねーよ… 凛太:なんであの日に……あんな約束をしちまったんだ…… 0:凛太は家の最寄りの駅に降りる 凛太:……土砂降りじゃねーか……天気予報は曇りだっただろ…… 凛太:俺は……不幸だ……そう思えば……楽になれる 凛太:どうしてみんな俺をそんな目で見る…… 玖:(生きてて楽しくないって顔してる) 凛太:ああ。楽しくねーよ。失敗が続けば楽しくなくなるに決まってる 玖:(上手くいかない理由とかどうしようもない時とかどうすればいいかって考えたことないの?) 凛太:わかんねーよ!今日は歌う前にもういいって言われたんだからよ! 玖:(自分の足りないところとか、自分には出来ないこととか。認めたくないだけでしょ?) 凛太:認めてるよ……だから自信が持てなくなったんだろ…… 玖:(逃げんのー?) 凛太:逃げて何が悪い……もう…俺は……あの時の俺じゃ…… 玖:お?何してんの? 凛太:……っ! 玖:傘は?持ってないの? 凛太:なんでお前がここに居るんだよ! 玖:なんでってダメなの?私、夏休みで帰省してるだけなんだけど? 凛太:……そんなこと聞いてるんじゃねーよ… 玖:そんなずぶ濡れになったら風邪引くよ?ほら、中入って 凛太:……いいよ 玖:人の優しさをなんだと思ってんの?お言葉に甘えなさい。一応顔見知りだし 凛太:もうほっといてくれよ!! 玖:……… 凛太:お前、年下だろ?偉そうにすんなよ!その見下した態度がムカつくんだよ! 玖:………… 凛太:なんか言ってみろよ 玖:ここに今日の晩御飯で使うじゃがいもがあります 凛太:………? 玖:えい! 0:玖はじゃがいもを遠くに投げる 0:しかしじゃがいもは巡り巡って 玖:いったー!!返ってきた!! 凛太:な、何してんだよお前。ふざけんなよ 玖:ふざけてないよ。ほら、私をよーく見てごらん?あっはは! 0:玖が笑いかけた瞬間に強い風が吹いて傘が壊れる 玖:私って災難続きなんだー。傘も壊れたし私も濡れちゃうね。でもこれでおあいこだよ 凛太:な、何が言いたいんだ? 玖:見てわからない?私、不幸体質なの 凛太:………なんだって? 玖:あははっ。ちょ〜ド級の災害女!明見玖だ! 凛太:………じ、じゃあモニターを何台も壊したのは? 玖:わざとじゃないよ?事故 凛太:この前なんかパソコン壊したじゃないか 玖:あれはまだセーフだったよー!………って!!私の配信見てんじゃん!! 凛太:……あ! 玖:やーいやーい。嘘つき嘘つきー。サイテー!見てるって言ってくれれば口喧嘩しなくても済んだかもなのにねー 凛太:うるさいな 玖:でもさ。これでわかったでしょ?私はこんなにも不幸なんだから君も前向きに生きなさい 凛太:……だから偉そうにすんなって 玖:偉そうに見えるかな?でもね。不幸体質の私でもみんなと対等になりたいだけなんだ。だから傘を忘れた君とも対等。君が濡れるなら私も濡れるよ 凛太:………意味がわかんねーよ 玖:君にはわかんないだろうね。この雨が不幸だとするならこの雨雲の奥から青空が見えてくるはず。止まない雨はないんだよ 凛太:………なんなんだよお前…… 玖:不幸の味方かな? 凛太:なんだよそれ 玖:そういう事だよ 凛太:……いちいち聞き覚えのあること言いやがって……お前、歳いくつだ? 玖:そういう君は? 凛太:俺は22だよ 玖:やっぱり歳上なんだ!私は20歳!お酒飲めるようになったよ! 凛太:……良かったな 玖:あ、ていうか君、名前は? 凛太:今更すぎだろ 玖:ね。なんか馴染みすぎて聞くの忘れてた 凛太:……小橋凛太 玖:……え? 凛太:……ん? 玖:コバシリンダー? 凛太:いや、小橋……え? 玖:こばしり君? 凛太:………その呼び方…… 玖:こばしり君なの!? 凛太:………玖? 玖:………えーーー!!!全然違う人じゃん!!気づかなかったし!!久しぶりー!やっほー! 凛太:やっほーじゃねーよ…今いるのは正真正銘、俺だ 玖:こばしり君といえば元気で明るくてちょっとヤンチャでかっこよかったのに!なんで今こんなんになっちゃったの? 凛太:悪かったな!こんなんで! 凛太:………逆に、なんでお前は今こうなってるんだよ 玖:そんなの決まってるでしょ?こばしり君が言ってくれたからだよ 玖:自分が不幸だって思ってるうちが1番不幸なんだって 玖:今のこばしり君に一番刺さる言葉なんじゃない? 凛太:………… 玖:ほら、雨も上がってきたよ 凛太:ほんとだ 玖:ねえ 凛太:……ん? 玖:………いや、なんでもない。じゃあね!風邪引かないでね? 凛太:おう 0:玖はその場から去る 凛太:………あの弱虫が…? 0:【間】 玖:………ふーん。覚えてたんだー。なんか重要なこと忘れてない? 0:場面転換 凛太:………明見玖。これは多分芸名みたいな感じで、本名は蝶野玖 凛太:あいつの名前を知ったのは10年前の事だというのに今でも鮮明に覚えている 0:場面転換 0:【間】 玖:いらっしゃいませー!……あれ?こばしり君?何しに来たの? 凛太:ラーメン食いに来たんだよ!毎回言わせんな 玖:今日はポップコーンが出来たてだよー 凛太:ラーメン屋になんでポップコーンがあんだよ 玖:別腹じゃないの? 凛太:同じ腹だろ! 玖:あっはは!こばしり君ってわかったらこういう絡みが余計面白く感じるね! 凛太:……… 玖:懐かしい? 凛太:………そうでもねーよ 玖:ふーん 凛太:………… 玖:じーーーーっ 凛太:…なんだよ 玖:なんか私に言いたいことない? 凛太:べ、別にねーよ 玖:ラーメンは熱々だって言うのに君はなんでそんなに冷たいの? 凛太:ねーもんはねーからだ 玖:鉄壁の壁を作って俺は1匹狼気取りですか?随分鳴き声がキャンキャンと可愛らしいこと 凛太:お前こそその皮肉はどこで覚えてきたんだよ 玖:別にー? 凛太:……… 玖:なーんて仲良さそうに絡んでますが、ちょうど私も話したいことあったし、この後時間空けといてよ 凛太:は?何勝手に決めてんだよ 玖:私が退勤するまでラーメン替え玉無料! 凛太:…………乗った 0:【間】 0:凛太と玖は道を歩く 玖:この道覚えてる? 凛太:覚えてねーよ 玖:ふーん 凛太:なんだよその返事 玖:なんでもないよー 凛太:いちいちムカつく反応するなよ 玖:………… 凛太:なあ。どこに連れてくつもりだよ 玖:んーとー。もう少し 凛太:………おい、この道は…… 玖:うん。神社だよー 凛太:………なんでこんなところに 玖:この神社も覚えてる? 凛太:…………覚えて…ねーよ 玖:……(ため息)ねえ。めんどくさい 凛太:……はあ? 玖:覚えてないわけないでしょ?何考えてるの? 凛太:……… 玖:こばしり君、歌手になる夢はどうなったの? 凛太:………それは 玖:諦めたの? 凛太:あ、諦めてねーよ! 玖:この間はさ。こばしり君だって知らなかったから色々話したけどさ。 玖:………あの頃のこばしり君はどこ行ったの? 凛太:………あの頃の俺は…子供だったから 玖:ほら、覚えてるじゃん 凛太:………… 玖:嘘つかないでよ。こばしり君 凛太:その名前で俺を呼ぶなよ 玖:どうして?こばしり君はこばしり君でしょ? 凛太:やめろって 玖:昔のこばしり君はもっと(かっこよくて頼もしくて) 凛太:(遮る)やめろって言ってんだろ! 玖:じゃあもっとこばしり君らしい顔してよ! 凛太:……… 玖:どうして嘘をついて逃げようとするの? 凛太:………俺は… 玖:顔を上げて 凛太:………… 玖:なんで下向いてるの? 凛太:………… 玖:上を向かないと涙が零れちゃうよ 凛太:…………くっ 玖:こばしり君が、私に言ってくれた言葉だよ 凛太:…………昔の話だろ 玖:違うよ。こばしり君は昔の思い出を消そうとしてるだけだよ 凛太:消して何が悪いんだよ!あんな恥ずかしいことばっか言ってた過去はもう消したいに決まってるだろ! 玖:バカにしないでよ!! 凛太:………っ 玖:恥ずかしいことなんかじゃない。こばしり君の言葉で救われた人が今ここに居るの!その言葉で私は変われたの! 玖:だから今度は私がこばしり君を救いたいんだよ。ずっと感謝してるんだから 凛太:…………俺はもういいんだよ 玖:自分にも嘘つくの? 凛太:………嘘なんか 玖:まだ歌、続けてるじゃん。諦めてないんでしょ?諦めてないならもういいなんてことない 凛太:なんで…俺なんかに 玖:君が昔からこうやって、しつこいくらいに私を励ましてくれたから 玖:だから今の私が居る。人に幸せを与えられる人になりたいから配信も始めたし 玖:こばしり君だって立派な歌手になるって決めた時もそう言ってた 凛太:……… 玖:向き合いなよ。昔の自分と 凛太:……くっ。俺は…… 凛太:(M)自分の気持ちに素直に。自分が感じたありのままを声に、体に落とし込む事が俺は好きだったはず 凛太:(M)小学校の頃の夢なんて、現実も知らないただの浮ついた言葉だって事はわかっている。それでも俺はどうして諦めきれないんだろう 凛太:(M)どうしてあの日の約束を今でも胸にしまってあるのだろう 0:【回想シーン】 0:10年前。凛太が12歳、玖が10歳の頃の話 凛太:よーし!今日も神社に行こうっと! 凛太:ここで練習しようかなー?……ん? 玖:………うっ…グスンッ…… 凛太:……誰だ? 玖:……はっ! 凛太:ん? 玖:話しかけてこないで! 凛太:まだ話しかけてねーだろ 玖:私は別にお母さんとお父さんが離れ離れになっても寂しくないから泣いてないもん! 凛太:地味に心の声漏れてねーか? 玖:君、誰? 凛太:そういう君は? 玖:きゅう 凛太:え? 玖:きゅう 凛太:は? 玖:玖だよ!!蝶野玖! 凛太:……え?名前なの? 玖:そうだよ! 凛太:変な名前だな 玖:余計なお世話だよ。君の名前は? 凛太:俺は小橋凛太 玖:コバシリンダー? 凛太:ちげぇよ!小橋凛太! 玖:メスシリンダーみたいな名前だね 凛太:理科室には置いてねーよ 玖:こばしり君、何しに来たの? 凛太:なんだこばしりって。俺はほぼ毎日ここに居るんだけど 玖:え?そうなの? 凛太:誰も居ないからちょうどいいんだよ 玖:いつも何してるの? 凛太:ん?俺はなー歌を歌ってるんだ! 玖:う、歌? 凛太:そうだよ。俺は歌うことが好きなんだ 玖:どうして歌なんか? 凛太:楽しいじゃん。ただそれだけ 玖:ふーん。変な人 凛太:変ではないだろ。お前は夢とかないのかよ 玖:ないよ。つまんない 凛太:つまんない?つまんないって言った方がつまんないんだぞ 玖:つまんないもんはつまんないの 凛太:なんだお前? 玖:私のお先は真っ暗だよ 凛太:子供のセリフじゃねーな 玖:だってそうでしょ?私が生きてるだけでみんなが不幸になるんだもん 凛太:は?何言ってんだ? 玖:君には関係ないの!えい! 0:玖は小石を投げる 0:しかし凛太には当たらずそれが跳ね返り 玖:いたーい! 凛太:何してんだよ 玖:んもう!うるさい!私帰る! 0:玖は立ち上がりその場を立ち去る 凛太:あ、ちょっ!……なんだったんだ? 凛太:(M)次の日 凛太:また居る 玖:話しかけてこないで! 凛太:話しかけてねーだろ 凛太:(M)また次の日 凛太:………… 玖:話しかけてこないでよ! 凛太:まじで何も喋ってないけど!? 玖:なんか言いたそうな顔してるじゃん! 凛太:ああそうだな。なんで毎日ここにいるんだよ 玖:……そ、それは 凛太:ん? 玖:無くしちゃったの 凛太:…何を? 玖:お父さんのペンダント 凛太:ペンダント? 玖:この辺に置いといたんだけど無くなっちゃったんだ 凛太:そうなのか 玖:……… 凛太:そんなに大事なのか? 玖:大事だよ。お父さんと離れ離れになるんだから 凛太:………はあ 玖:ちょっと何してんの? 凛太:一緒に探してやる 玖:別にいいよそんな事しなくても 凛太:1人より2人で探した方が見つかりやすいだろ?それに…ほら 0:凛太は歌を歌う 玖:なんで、歌ってんの? 凛太:無くし物を探してる時ってなんかやばいって感じするじゃん?でも歌を歌いながらだったら少しは楽しくなるだろ? 玖:……楽しくないよ。ペンダント無くしたのだって私が不幸だから 凛太:あのなー。自分が不幸って思ってるうちが1番不幸なんだぞ? 玖:………え? 凛太:顔を上げて、歌いながら楽しく物を探すんだよ。不幸なこともプラスに捉えられるように 玖:………うん。 凛太:なんか歌える曲あるか? 玖:ウルトラソウル 凛太:渋すぎじゃねーか? 0:凛太と玖は歌いながらペンダントを探す 凛太:………ねーな 玖:はあ。もう諦めよ 凛太:いや、諦めるなよ!絶対に見つけるぞ! 玖:もういいよ。毎日探しても無いんだから。諦めるよ 凛太:なんで下を向くの? 玖:………向いてちゃ悪い?元々私の運が悪いからこうなったんだよ 凛太:そういう問題じゃない 玖:………何? 凛太:ほら、上を向かないと涙が零れるだろ? 玖:……… 0:玖は上を向く 玖:………上向いても涙は零れるよ 凛太:それでもいいんだよ。上を向かないと自分の運は上がらないからな 玖:…………あ!あったー! 凛太:………え? 玖:ほら、あそこの木! 凛太:ほ、ほんとだ!てかなんでそんな所に? 玖:なんかの拍子で木に引っかかっちゃったんだ! 凛太:んなことあるか!? 玖:私ならあるの! 凛太:でもあんなとこ届かないだろ? 玖:届くよ!こばしり君が居れば! 凛太:……え? 玖:さあ!乗って! 凛太:俺が乗るわけにいかないだろ? 玖:じゃあ下になって 凛太:わ、わかったよ 0:肩車をする 玖:もうちょっと右ー! 凛太:お、おう! 玖:もうちょっと上ー! 凛太:上は無理だろー! 玖:届かないー! 凛太:届かせろ! 玖:そんなの出来ないよ! 凛太:俺の肩に乗ってそのまま立て 玖:怖すぎでしょ!やだよ!絶対落ちる! 凛太:そん時は俺が支えてやるから、早く立て 玖:………うん 0:玖は凛太の肩の上に立つ 玖:………そーっと…そーっと………届いたー! 凛太:おー!よかったな! 玖:やったー! 凛太:お、おい!肩の上でジャンプするバカあるか! 玖:うわっ! 凛太:あぶねっ! 0:凛太は間一髪、玖を抱き抱える 凛太:……… 玖:………ぷっ!あっはははは! 凛太:あははは!(釣られて笑う) 玖:ナイスキャッチー 凛太:俺地味に凄くねーか? 玖:うん。凄いよ。君がいなかったらこのペンダントだって見つからなかったし、肩車も出来なかったもんね 凛太:そうだな 玖:ありがと!一生感謝する! 凛太:……おう 0:それから2人は夏休み中、毎日遊んでいた 玖:ねえ、こばしり君、歌歌って 凛太:またか?しょうがないなー 0:凛太は玖に歌を聞かせる 玖:おぉー!凄い! 凛太:どうだ?俺の歌は 玖:す……。素敵!かっこいい!感動したー! 凛太:……ありがとう 0:そしてある日のこと 玖:あ、この病院私がよく行ってる病院だ! 凛太:よく行ってるのか? 玖:うん。ほら、不幸な人間だからさ、よく怪我するの 凛太:まーた不幸って言ってる 玖:違う違う、もうそういう体質だと思って欲しいの。 凛太:そんな体質あるかー?……でもまあお前なら有り得るか 玖:そうでしょ?だから私が急に居なくなったりしたら怪我したと思ってこの病院まで来て欲しい 凛太:居なくなるなんてことあるかー? 玖:あるよ。本当にいっぱい怪我するんだから 凛太:んー。わかったよ 玖:あ、そうだ!今度神社でお祭りあるでしょ? 凛太:ああー。そういえばやってたな 玖:………私が引っ越す前に、神社のお祭り行こ 凛太:………お前引っ越すのか? 玖:うん。多分お祭りの次の日くらいには引っ越すよ 凛太:なんでまた急に 玖:お父さんとお母さんがね、離婚するの。離婚って言葉知ってる? 凛太:知ってるよ 玖:私もテレビでしか聞いたこと無かったんだけど、本当に離婚ってするもんなんだね 凛太:………だな 玖:だからね、お母さんの方のおばあちゃんちに引っ越すことになったんだ。…だから…… 凛太:だから何だよ、俺たちは友達じゃん。離れ離れなんて事はない 玖:………そうだね 凛太:お祭り、一緒に行こうぜ。そんで俺から幸せパワーを吸い取ってから引っ越せ 玖:うん! 0:お祭りの日 玖:……こばしり君! 凛太:おう。……浴衣!? 玖:そうだよ、どう?似合うでしょ? 凛太:………う、うん。似合ってると思うぞ 玖:……あっはは! 凛太:じゃあ行くぞ 玖:うん! 0:2人は屋台を周る 玖:こばしり君!先に行かないでよー! 凛太:早くついてこないと置いて行くぞー? 玖:待ってってば! 凛太:………っ 玖:ほら、行こ? 凛太:…う、うん 0:2人は手を繋いで歩く 0:そして辺りも暗くなる 玖:そろそろお母さんも来るから行くね 凛太:………うん 玖:じゃあ…… 凛太:待って 玖:………え? 凛太:最後に、歌、歌ってもいいか? 玖:………いや、いいよ 凛太:どうして!? 玖:最後じゃないもん。またここに来るよ 凛太:………またっていつ? 玖:んー。わかんないけど、大人になったらまたここに来るね 凛太:大人っていつからだ? 玖:いつからだろうね? 凛太:………じゃあ。その時には俺は歌手になって玖に幸せを届けられるような、そんな立派な歌手になってみせるよ 玖:あはっ。そうだね!こばしり君には負けないよ!私だって人に幸せを与えられる人になるんだから! 凛太:お前になれるのかよ? 玖:私は最近こばしり君と一緒に居たから大丈夫だよ 凛太:……それもそうだな 玖:だから、私が大人になったらまたこばしり君の歌を聞かせて? 凛太:おう!任せとけ!約束だ 玖:うん!約束だよ 0:月日が経つ 凛太:(M)話しかけてないのに話しかけるなとか、そのくせ泣いてばかりいた。そんな弱虫な女の子だった 凛太:(M)でも、今の蝶野玖はそんな弱虫な所を感じさせないほど堂々としていて、輝いて見えていた 凛太:(M)10年前……この地域では神社のお祭りが有名だった 凛太:(M)浴衣を着て、小さな手を握りしめて、足元が悪い地面で屋台を駆け回っていた 凛太:(M)薄れていたあの日の約束は……君の幼い声と共に蘇ってくる 凛太:(M)玖と一緒に居ると何となく昔を思い出していた。あいつはいつもボケていたからそれにつられて俺も突っ込む 凛太:(M)懐かしい思い出は俺の口元を緩くさせるが、それと同時に胸を締め付けられるようだ 凛太:(M)今の俺は…なんて弱くて…なんて醜い人間なんだろう 凛太:(M)もうあの頃には戻れない。そう思っているけど……約束を。今叶えることは…悪いことではないのだろうか? 凛太:……昔の自分と…向き合う…… 玖:……… 凛太:………じゃあ…俺の歌、聞いてもらっていいか? 玖:………いや、いいよ 凛太:………え?……なんでだよ。俺はあの日の約束を… 玖:お祭り。行ってないじゃん 凛太:………お祭り? 玖:お祭り終わった後に、また聞かせてよ 凛太:……祭りはいつだ? 玖:7月30日 凛太:………無理だ。 玖:なんでぇ!?ちょっとエモい雰囲気にしようと思ったのに! 凛太:………その日、オーディションなんだ 玖:……あー。………あはは 凛太:なんだよ。笑いやがって 玖:ううん。やっぱ頑張ってるんじゃん 凛太:………まあな 玖:何時から? 凛太:一応12時から 玖:夕方からでもいいよ? 凛太:そんなに祭り行きたいのか? 玖:ちーがーうー!もう!なんて察しの悪い人なんだ! 凛太:………ん? 玖:とにかく!7月30日!夕方6時から!この神社で待ち合わせだよ!わかった? 凛太:……わかったよ 0:場面転換 玖:………ふぅー。今日も配信終わったー! 玖:明日だね。お祭り、楽しみだなー 玖:今は久しぶりにお父さんの家にいる。 玖:もちろん。こばしり君との約束だって覚えてるから久しぶりにこの場所に来たんだよ 玖:死んだような顔だったけど、それでもこばしり君は頑張り続けていた 玖:きっとあの頃と同じように。いや、あの頃よりももっと素敵で、かっこよくて、感動的な歌を歌ってくれるんだろうなーって思ってる。 玖:………あーした天気になーれ。 玖:次の日。私は朝から鏡の前に立つ。昔は髪が短かったからなんも出来なかったけど、もう20歳だし、それなりにお洒落はしてきたよ 玖:浴衣を着るから、前髪は流して、おくれ毛は緩く巻く。どうだろ?こんな超S級美少女になってたから君は気づかなかったんだよね? 玖:こんな風に、毎日幸せだよって思いながらメイクもしてる。君に憧れたあの日から毎日思ってる 玖:待っててね。私もあの日の約束は忘れてないから 玖:今は11時半。なんかめっちゃ気合い入れて早めに準備しちゃった。浴衣だから動きにくいし。んー。浴衣で歩くのに慣れてからお祭りに行こう! 玖:私は外に出る。気温30℃以上の炎天下の中で私はこばしり君と昔通った道を歩く 玖:何もかもが10年ぶりだもんねー。懐かしいなー。ここで水風船で遊んだし、川の向こうで花火もしたっけ? 玖:その後……毎回、歌ってくれたよね?懐かしい 玖:うわぁ! 0:浴衣で歩く玖はよろけて転ぶ 玖:いったた。………あれ?この大きな石、なんで赤くなってるんだろ?………え?雨?……違う。血だ。鼻血出ちゃったかな?浴衣につかないようにしないと 玖:………あれ?……視界が……よく見えなくなってきた……熱中症かな?……あーそれだったら…やばいなー。本当に……私は不幸だなー……何…やってんだろ……おでこも……痛い 玖:お祭り……前に…やめてよ…………約束……が……… 0:場面転換 凛太:………はぁ 凛太:今日はオーディションの日。そして控え室で音源を聞いている。……もうずっと何回も同じ会社を受けてる。これで落ちたら…なんて考えるのは…約束とは違うのかな 凛太:手に汗を握る。音源も何千回と聞いたはずなのに頭が空っぽになる。俺は思った以上に弱くて、どうしようもないくらいに不器用な人間だ 凛太:こうやってオーディション前はいつも緊張で倒れそうになる。………ああ。今日もまたダメなのかな 玖:顔を上げて 凛太:………? 0:凛太は上を見上げる 玖:あ!話しかけてこないで! 凛太:……はあ!?な、なんで玖がここに!?……てか、なんかちっちゃいし、髪も短い。まるで10年前の玖じゃないか 玖:そんな事は気にしないの。今日はオーディションでしょ?私と喋ってる声が聞こえたら即落選だよ! 凛太:………じゃあどうするんだよ 玖:そのまま静かに聞いてて 凛太:………? 玖:こーんな大きな会社に何回も受けてたんだね。こばしり君 凛太:………まあ。ずっと憧れてた会社だしな 玖:目標が大きすぎたんじゃない?もうちょっと小さな目標からコツコツやってかないと疲れちゃわない? 凛太:まあ。そんな時もあったな 玖:そんな時しかないでしょ。だから顔に出てるんだよ。その不幸ですオーラが 凛太:………オーラ? 玖:そう!病み系地雷バンド目指してるならまだしも、自分が不幸だって思ってる人の歌って聞きたくないでしょ? 凛太:………そうだよな 玖:でもさ、昔のこばしり君はこんなこと言ってたの覚えてる? 凛太:………なんだ? 玖:私に幸せを届けられるような。そんな歌手になるって言ってたじゃん 凛太:…………… 玖:私だけでいいのかしら〜?独り占めしちゃってもいいの〜?こばしり君の歌を 凛太:いちいちうるせーな 玖:あっはは!私は別にそれでもいいんだけどね。でもさ。こばしり君はそれじゃダメじゃん? 凛太:………どうして? 玖:君は君の歌を聴いてくれる人達みんなを幸せに出来るはずだから 凛太:………そんなの俺に出来るのか? 玖:出来るよ!少なくとも私はそう感じたんだから。けど、今のこばしり君には何かが足りないなー。んー。なんだと思うー? 凛太:それがわかったら苦労しないだろ 玖:そうだよね。意外と気付かないかもだけど、やっぱその表情かな 凛太:表情?俺そんなに暗いか? 玖:暗い!自動で電気が消えるコンビニのトイレより暗い! 凛太:そりゃ暗すぎるな 玖:そうでしょ!だからもっと明るく元気にー!ほら、真似してみて。超S級シンガー!コバシリンダー! 凛太:俺の名前はコバシリンダーじゃねぇよ! 玖:売れたら改名しなって 凛太:してたまるか! 玖:あっはは!その調子その調子! 凛太:何がだよ 玖:私もなかなか幸せを人にあげられるようになったでしょ? 凛太:ま、まあ。多少な 玖:こばしり君にも出来るはずだよ 凛太:なんでそう言えるんだよ 玖:人に幸せを与える時は自分が幸せじゃないといけないからだよ! 凛太:……… 玖:私は不幸体質だけどさ。人の不幸も私が吸い取って私が人を幸せに出来るなら!私は不幸のままでいい。だから、こばしり君の不幸も私が全部吸い取って幸せにしてあげるから 玖:こばしり君はその幸せで人を幸せに出来る歌を歌って 凛太:………玖 玖:じゃあね!私はこばしり君を応援してるから 凛太:お、おい!待てって! 凛太:…………一体なんだったんだ?なんで子供の頃のあいつがここに? 凛太:それでも俺は、少し気持ちが楽になった気がした。 凛太:………人に幸せを与えるには……自分が幸せになる事…… 0:場面転換 凛太:最後まで……歌えた。しかも少し雰囲気が和んだような気がするぞ 凛太:………初めて…よかったと思えた。何故か子供の頃の玖が出てきて、少し勇気を貰えたから 凛太:………玖に会いたい 凛太:17時50分。少しギリギリになるけど早く会って、あの日の約束を果たすんだ。俺は今、ほんの少しの幸せを人にあげることが出来たから 凛太:俺は賑わう人混みをかき分けて約束の神社に向かう。集合時間ほぼぴったりだけど玖はまだ来ていない。きっとあいつは浴衣を着てくるだろうから時間が掛かってるだろう 凛太:早く…玖に歌を聞かせてあげたい 0:【間】 凛太:………来ないな。もう15分は過ぎてるのに。何してるんだろ?連絡先…交換しとけばよかったな 凛太:俺は少し道を歩く。そういえば、玖とここで水風船で遊んだなー。川の向こうで花火もしたし 凛太:………なんだこの石?……血が付いてねーか? 凛太:……………っ!! 0:【間】 凛太:俺は嫌な予感を察知した。子供の頃に玖に言われたことを思い出す 玖:(私が急に居なくなったりしたら怪我したと思ってこの病院まで来て欲しい) 凛太:………そんなわけ…ない…… 0:場面転換 凛太:俺は病院に向かう。息を切らしながら受付に向かい蝶野玖の名前を尋(たず)ねる 凛太:………意識が……ない…? 凛太:俺は玖がいる病室に向かい、その扉を勢いよく開ける 凛太:そこには玖がいた。目を閉じて動かない。 0:【間】 凛太:おい、お前、何してんだよ 玖:(呼吸の音)……… 凛太:俺…なんか知らないけど、オーディション前に子供の頃のお前に会ったんだよ。お前の姿を見たら、少し勇気が出て、幸せを与える歌手になれた気がしたんだ 凛太:……だから…お前に聞かせてやりたかった…… 玖:(私は遠い意識の中でこばしり君の声を聞く。……けど、視界は真っ暗のままだった) 凛太:お前と……話したいことが沢山あったんだよ。お前、知らない人にラーメンのスープ貰おうとすんなよ? 玖:(あれは…君が優しそうだったから) 凛太:お前、あの後よくあのラーメン屋で働けたな? 玖:(結局あの後、ラーメン屋の店長と仲良くなれたからだよ) 凛太:お前に煽られた時は……本当に心にグサッときたよ 玖:(もしこの人がこばしり君だったらって考えたら、やっぱりこのままじゃダメだと思ったから) 凛太:なんで俺たち…お互い気づかなかったんだろうな? 玖:(こばしり君、右目の下にほくろなんてあったっけ?覚えてないけど何か雰囲気が変わってたからわからなかった) 凛太:俺は……お前との約束を…… 玖:(……約束…そっか、私たちお祭りに行く予定だったよね。その後…あの神社で……) 凛太:10年間……玖のことだけを考えて歌を歌ってきた 玖:(私も10年間。こばしり君の事だけを考えて幸せに生きてきた) 凛太:だから……今ここで…歌うよ 玖:(わあ!聞かせてくれるの?楽しみだなー) 0:凛太は歌を歌う 凛太:(M)俺は…玖に幸せを届けられるような歌手になれてるのかな? 凛太:(M)そんな事は今はどうでもいい。俺は、この歌声を玖に響かせたいから。 凛太:(M)目を覚ましてくれなくていい。この声を聞いてくれるだけでいいから…… 0:【間】 凛太:どうだった?俺の歌は 玖:(………) 凛太:やっぱダメだったかなー? 玖:(凄く……凄く感動したよ。君の歌を久しぶりに聞けて本当に嬉しい) 凛太:またいつか…お前に幸せを届けられるような立派な歌手になるよ 玖:(ううん。本当に…よかったよ) 玖:(今すぐに……伝えたいな。……声も出ないし、どうしよ……ごめんね、また私がドジしたから肝心なこと伝えられなくて…) 玖:(………手は…動く) 凛太:………玖?今…手が… 玖:(あの頃みたいに…手、繋いでいいかな?) 凛太:玖…!? 玖:(ああ、どうしよ。感動した、これじゃ長いか。かっこよかった、これも長い。素敵、なんか違う) 玖:(そうだ。私はこばしり君の歌をずっと…ずっとこう思ってたんだ) 凛太:………っ 玖:(遅くなってごめんね。やっと伝えられて嬉しいよ。) 凛太:(M)玖は、俺の手の甲に指で『すき』となぞった 凛太:……俺の歌は……玖に…届いたんだ 凛太:………玖との約束は……守れたんだ 玖:(うん。こばしり君の歌は、好き。私に幸せをくれてありがとう) 0:場面転換 凛太:おーい。玖。聞こえてるかー? 玖:話しかけてこないで! 凛太:いいじゃねーかよ。話しかけたって 玖:……あっはは!そうだね。もう長い付き合いだしそろそろ話しかけてきてもいいよ? 凛太:そんな長い時間かけないと話しかけられねーのかよ 玖:当たり前でしょ! 凛太:厳しい世の中だな 玖:でも私は今でも思ってるよ。あの時話しかけてくれた人がこばしり君でよかったって 凛太:………そうだな。俺でよかったな 玖:なんか生意気じゃない? 凛太:お互い様だろ。タメ口女 玖:私の運の悪さ見て気付かなったの? 凛太:うっすらそうかもって思ってたけど、髪も長かったし雰囲気も変わってたからなー 玖:ふーん。やっぱ私可愛くなってたんだ 凛太:そうは言ってねーぞ? 玖:でもたまたまあそこで会えた事は本当に運がいいよね。実は幸運の女神なのかも 凛太:また調子のいいこと言って 玖:でも本当のことだよ。ほら、難があった方がその後に幸せが待ってるって言うじゃん? 凛太:……まあ確かにそうかもな 玖:難が無いって書いて、無難って読むんだけど、難が有ると有難うって言葉になるんだから 凛太:……ありがとう。か 玖:うん。だから色んな人に支えられて感謝をすれば難も乗り越えられるんだよ 凛太:……まるで、俺と玖みたいだな 玖:………うん、そうだね 凛太:あのオーディションの日、玖が俺に勇気をくれたから、おかげで合格出来たんだよ。ありがとう 玖:その辺のことは本当にわかんないけどね。どういたしまして 玖:でも、私も意識が無くなってた時にこばしり君の歌を聞いたから意識が戻ったんだよ。ありがとー! 凛太:どういたしまして 凛太:どちらかが不幸だと思った時は、どちらかが幸せを与える。俺たちはそうやって前に進んでいくんだよ 凛太:子供の頃から、ずっとそうしてきたもんな 玖:じゃあ私はずっと不幸だからずっと幸せをもらっていいのー? 凛太:……ああ。ずっとあげるよ 玖:……あっはは!期待してるね 凛太:これも約束か? 玖:これも約束だよ 凛太:うん。じゃあまた新しい約束だな 玖:こうやってどんどん約束が増えたら私たちはどこまで幸せになれるんだろうね? 凛太:それは計り知れないな 玖:行ってみようよ!幸せの向こう側まで、小走りで! 凛太:なんか急だな 玖:あっははは(同時に) 凛太:あっははは(同時に) 0:〜END〜

凛太:……ご期待に添いかねる結果となりました。小橋様の今後のご活躍をお祈り申し訳上げます… 凛太:…………俺の人生ってなんなんだ? 凛太:遠い昔の記憶から、あの日の約束が薄れていく 0:場面転換 玖:みーんなー!見に来てくれてありがと〜!……いたっ!お辞儀したら机におでこ打っちゃったぁー!あはは! 玖:私の人生はいつも楽しいことで溢れてる! 玖:あの日の約束まで、私は楽しく居続けるよ 0:場面転換 凛太:………… 0:スマホを見ている 玖:やっほー!ちょ〜S級美少女!明見玖(あかるみきゅう)だ!きゅ〜って呼んでね! 凛太:………… 玖:そうなのー!チャンネル登録者数800人まであともうちょっとなんだー!みんなのおかげだよー!もうサイコー! 玖:あぁー!喜んで手を広げたらモニター割れちゃった……まあ!こんなこともあるよねぇー! 凛太:……まーた自演してるよ。壊れたモニターだけでいくらかけてんだ?バカバカしい 凛太:(M)明見玖という配信者を知ったのは1週間前だ 凛太:(M)嫌なことがあったと言ったら…まあそうだけど、明見玖なんて聞いたこともなかった 凛太:(M)1週間前のこと 凛太:………はあ 凛太:(M)1週間後のオーディションに向けて俺は歌の練習をしていた 凛太:こんな歌詞…俺には合わねえよ。好きなもんなんてないし 凛太:………腹減ったなー。飯食いに行こ 0:ラーメン屋に向かう凛太 凛太:いただきます 玖:ん〜!美味しそー!いっただっきまーす! 玖:うわああー!!ラーメンこぼしちゃったー!! 凛太:………なんだ? 玖:すいませーん!……あれ?すいませーん! 凛太:ここのラーメン屋、呼んでもなかなか店員さん来ませんよ? 玖:………へ? 凛太:だから、紙の布巾かなんかで拭いた方がいいですよ 玖:そうなんだ。ありがとー! 凛太:………あ、ああ。いえ 玖:じゃあー改めてーいっただっきまーす!あーん。んー!んー!……ん〜〜〜 凛太:……多分年下だよな? 玖:ねえねえ 凛太:……はい? 玖:スープちょうだい 凛太:………は? 玖:さっきこぼしてスープ無くなっちゃったから、ちょうだい 凛太:………何言ってんだ? 玖:とんこつ? 凛太:塩だよ 玖:ま、なんでもいいや。スープちょうだい 凛太:………君ね、見ず知らずの人にラーメンのスープくれって言うのは非常識じゃない? 玖:え?そんなの聞いたことないよ? 凛太:うん。俺も見たことないから何とも言えないけど 玖:レンゲに10杯くらいでいいからちょうだいよ 凛太:あげれるわけないだろ。そんな盛大にスープをこぼす方が悪い 玖:ケチだなー 凛太:………なんだよこの子は 0:しばらくすると 玖:ご馳走様でしたー! 凛太:ふぅー。やっとどっか行ってくれるか 玖:………… 凛太:………… 玖:じーーーーっ 凛太:………なんで見られてるんだ? 玖:替え玉何玉目? 凛太:4玉だけど 玖:だからスープくれなかったの!? 凛太:じゃなくてもあげないだろ 玖:おかしな人 凛太:そっくりそのまま返すよ 玖:ふーん。………じーーーーっ 凛太:なんだよ!鬱陶しいな! 玖:右目の下にほくろあるんだね 凛太:どうでもいいだろ!いちいち見てくんなって言ってんの! 玖:見られた方が食欲わかない? 凛太:フードファイターじゃあるまいしそんなのないわ!食い終わったなら早く帰りなよ 玖:見て。じゃーん! 凛太:………な? 玖:スープで服がめちゃくちゃになったー!あっはっはっはー! 凛太:笑ってんじゃねーよ!いいから早く帰れ! 玖:私の事面白いと思う? 凛太:は?なんだいきなり 玖:興味が湧いてきたでしょ? 凛太:どちらかと言えば恐怖の方が勝るぞ。怖くねーけど 玖:あははっ。ちょ〜ド級の幸せ与えちゃうよー! 玖:ちゃっ、ちゃっ、ちゃっ、チャンネル登録よろしくー♪ 凛太:………なんだよこれ 玖:じゃあねー! 凛太:ちょっ!おい! 0:玖はある紙を置いて店を出ていく 凛太:ショーチューブ?んな事やってんのか? 凛太:……てか、変わり者すぎて、こえーよ 凛太:……なんかこの感じ…見覚えがあるような 凛太:(M)変なやつ。と一言で片付けてしまうのは簡単だった。けど、彼女とほんの数分関わっただけで暗い気持ちが少し薄れた気がした 凛太:(M)俺はなんとなくだけどそいつのショーチューブを見る 玖:やっほー!ちょ〜S級美少女!明見玖(あかるみきゅう)だ!きゅ〜って呼んでね! 凛太:ちょー?S級? 玖:見てこれー!ブレスレット買ったの!……あー!!待って、水こぼした! 凛太:よくこぼすなぁー 玖:え?待って!待って待って待って!パソコンに水入ったんだけど!やっばー!配信切るねー! 凛太:な、なんだこれ 凛太:(M)この1週間だけでパソコンに水をこぼすしモニターも壊すし、おでこを怪我したらしい 凛太:(M)こういう配信者はエンターテインメント。つまり嘘と茶番をあたかもリアルに見せているってことは俺にもわかる 凛太:(M)だから、明見玖がやってるこれもただの茶番に過ぎないのだと思って呆れていた 0:場面転換 玖:ふぅー!パソコン壊れないでいてくれるかなー?これおじいちゃんのパソコンだから壊れたら怒られちゃうよ〜 玖:あれもこれも不幸だなー。……って思ってたらあの日の約束と違うよね 玖:んー。あの子の名前なんだったっけなー?コバシリンダー?って言ってたもんなー。こばしり君って呼んでたから本当の名前わかんないんだっけ? 玖:………あの頃よりも、もっとかっこよくなってるんだろうなー 0:場面転換 凛太:(M)たまたまっていうのは2回以上続いてはいけないと誰かが言っていた。だからまだたまたまだ。いや、たまたまか? 玖:いらっしゃいませー! 凛太:………な、なんでお前がここに? 玖:あら、スープのお兄さんじゃん 凛太:俺にスープのイメージ押し付けるなよ 玖:何しに来たの? 凛太:ラーメン食いに来たに決まってんだろ! 玖:そうなんだ!ネギ抜き? 凛太:勝手に決めんなよ!ネギはいる! 玖:ガッテン承知ー! 凛太:……なんでこいつが行きつけのラーメン屋で働いてんだよ 玖:ぎゃあああー!!お皿割れたー!わああああー!!チャーシューが跳ねたー!あわわわわわー!!麺が踊り出したー! 凛太:もう店閉めた方がいいんじゃないか? 玖:へいお待ちー! 凛太:ネギ抜きじゃねーか!作り直せ! 玖:こまけーことは気にすんなー! 凛太:いいから作り直せー! 玖:はあ。疲れたから休憩しよ。まかない一丁! 凛太:お前の分は完璧じゃねーかよ。ふざけやがって 玖:ねえねえ。ショーチューブ見てくれた? 凛太:……見てねーよ 玖:見てないの!? 凛太:あ、当たり前だろ。 玖:なーんだ。じゃあもう帰っていいよ 凛太:店員になった瞬間強気だな 玖:なんで見なかったの? 凛太:興味無いから 玖:じゃあ今からでも見てよ 凛太:い、嫌だね 玖:頑なだねー。もっと趣味を増やした方がいいんじゃない? 凛太:余計なお世話だね。趣味なんて何もないし 玖:何それーつまんなー!いつも何して生きてるの? 凛太:いつもは……別に何もしてねーよ 玖:ふーん。いかにも死んだ顔って感じだもんね 凛太:………は? 玖:生きてて楽しくないって顔してる 凛太:………お前に何がわかんだよ 玖:知らなーい。でも、君からは負のオーラが見えます。人生楽しくなきゃ損じゃん 凛太:うるせーな 玖:じゃあ私の古き友の言葉を君に授けよう 凛太:……なんだよ 玖:自分が不幸だって思ってるうちが1番不幸なんだよ 凛太:………誰の言葉だよそれ 玖:名前もよく知らない人 凛太:別に……不幸だなんて思ってねえよ。けど、上手くいかない時とか、どうしようもない時だってあるんだよ。生きていればな 玖:………ふーん 凛太:なんだよ、文句あんのか? 玖:いやー?でも君、上手くいかない理由とかどうしようもない時とかどうすればいいかって考えたことないの? 凛太:……あるよ。でも答えにはならないだろ 玖:ぶへぇー。きもー 凛太:……はあ!? 玖:答えにしたくないだけでしょ?自分の足りないところとか、自分には出来ないこととか。認めたくないだけでしょ? 凛太:……だから、お前に何がわかるんだよ! 玖:ダサイって言ってんの!あからさまに暗い顔して、俺は辛い人生を送ってますアピールして気持ち悪いったらありゃしない 凛太:…………っ! 0:凛太は荷物を持って店を出ていこうとする 玖:逃げんのー?口喧嘩はまだまだこれからだけどー 凛太:………黙れ! 0:凛太は店を出ていく 凛太:………くそ!なんなんだよあいつ!俺にだってわかってんだよ! 凛太:自分が不幸だって思わないと、上手くいかなかった時……傷付くのは…自分だろ 0:そして凛太はオーディションに向かう 凛太:………よろしくお願いします……(深呼吸) 凛太:………え?まだ歌ってないですけど… 凛太:………そうですか…わかりました 0:凛太のオーディションはここで終わる 凛太:なんだよ……なんなんだよ。みんな俺をバカにしやがって 凛太:俺だって……もうこんなことしたくねーよ… 凛太:なんであの日に……あんな約束をしちまったんだ…… 0:凛太は家の最寄りの駅に降りる 凛太:……土砂降りじゃねーか……天気予報は曇りだっただろ…… 凛太:俺は……不幸だ……そう思えば……楽になれる 凛太:どうしてみんな俺をそんな目で見る…… 玖:(生きてて楽しくないって顔してる) 凛太:ああ。楽しくねーよ。失敗が続けば楽しくなくなるに決まってる 玖:(上手くいかない理由とかどうしようもない時とかどうすればいいかって考えたことないの?) 凛太:わかんねーよ!今日は歌う前にもういいって言われたんだからよ! 玖:(自分の足りないところとか、自分には出来ないこととか。認めたくないだけでしょ?) 凛太:認めてるよ……だから自信が持てなくなったんだろ…… 玖:(逃げんのー?) 凛太:逃げて何が悪い……もう…俺は……あの時の俺じゃ…… 玖:お?何してんの? 凛太:……っ! 玖:傘は?持ってないの? 凛太:なんでお前がここに居るんだよ! 玖:なんでってダメなの?私、夏休みで帰省してるだけなんだけど? 凛太:……そんなこと聞いてるんじゃねーよ… 玖:そんなずぶ濡れになったら風邪引くよ?ほら、中入って 凛太:……いいよ 玖:人の優しさをなんだと思ってんの?お言葉に甘えなさい。一応顔見知りだし 凛太:もうほっといてくれよ!! 玖:……… 凛太:お前、年下だろ?偉そうにすんなよ!その見下した態度がムカつくんだよ! 玖:………… 凛太:なんか言ってみろよ 玖:ここに今日の晩御飯で使うじゃがいもがあります 凛太:………? 玖:えい! 0:玖はじゃがいもを遠くに投げる 0:しかしじゃがいもは巡り巡って 玖:いったー!!返ってきた!! 凛太:な、何してんだよお前。ふざけんなよ 玖:ふざけてないよ。ほら、私をよーく見てごらん?あっはは! 0:玖が笑いかけた瞬間に強い風が吹いて傘が壊れる 玖:私って災難続きなんだー。傘も壊れたし私も濡れちゃうね。でもこれでおあいこだよ 凛太:な、何が言いたいんだ? 玖:見てわからない?私、不幸体質なの 凛太:………なんだって? 玖:あははっ。ちょ〜ド級の災害女!明見玖だ! 凛太:………じ、じゃあモニターを何台も壊したのは? 玖:わざとじゃないよ?事故 凛太:この前なんかパソコン壊したじゃないか 玖:あれはまだセーフだったよー!………って!!私の配信見てんじゃん!! 凛太:……あ! 玖:やーいやーい。嘘つき嘘つきー。サイテー!見てるって言ってくれれば口喧嘩しなくても済んだかもなのにねー 凛太:うるさいな 玖:でもさ。これでわかったでしょ?私はこんなにも不幸なんだから君も前向きに生きなさい 凛太:……だから偉そうにすんなって 玖:偉そうに見えるかな?でもね。不幸体質の私でもみんなと対等になりたいだけなんだ。だから傘を忘れた君とも対等。君が濡れるなら私も濡れるよ 凛太:………意味がわかんねーよ 玖:君にはわかんないだろうね。この雨が不幸だとするならこの雨雲の奥から青空が見えてくるはず。止まない雨はないんだよ 凛太:………なんなんだよお前…… 玖:不幸の味方かな? 凛太:なんだよそれ 玖:そういう事だよ 凛太:……いちいち聞き覚えのあること言いやがって……お前、歳いくつだ? 玖:そういう君は? 凛太:俺は22だよ 玖:やっぱり歳上なんだ!私は20歳!お酒飲めるようになったよ! 凛太:……良かったな 玖:あ、ていうか君、名前は? 凛太:今更すぎだろ 玖:ね。なんか馴染みすぎて聞くの忘れてた 凛太:……小橋凛太 玖:……え? 凛太:……ん? 玖:コバシリンダー? 凛太:いや、小橋……え? 玖:こばしり君? 凛太:………その呼び方…… 玖:こばしり君なの!? 凛太:………玖? 玖:………えーーー!!!全然違う人じゃん!!気づかなかったし!!久しぶりー!やっほー! 凛太:やっほーじゃねーよ…今いるのは正真正銘、俺だ 玖:こばしり君といえば元気で明るくてちょっとヤンチャでかっこよかったのに!なんで今こんなんになっちゃったの? 凛太:悪かったな!こんなんで! 凛太:………逆に、なんでお前は今こうなってるんだよ 玖:そんなの決まってるでしょ?こばしり君が言ってくれたからだよ 玖:自分が不幸だって思ってるうちが1番不幸なんだって 玖:今のこばしり君に一番刺さる言葉なんじゃない? 凛太:………… 玖:ほら、雨も上がってきたよ 凛太:ほんとだ 玖:ねえ 凛太:……ん? 玖:………いや、なんでもない。じゃあね!風邪引かないでね? 凛太:おう 0:玖はその場から去る 凛太:………あの弱虫が…? 0:【間】 玖:………ふーん。覚えてたんだー。なんか重要なこと忘れてない? 0:場面転換 凛太:………明見玖。これは多分芸名みたいな感じで、本名は蝶野玖 凛太:あいつの名前を知ったのは10年前の事だというのに今でも鮮明に覚えている 0:場面転換 0:【間】 玖:いらっしゃいませー!……あれ?こばしり君?何しに来たの? 凛太:ラーメン食いに来たんだよ!毎回言わせんな 玖:今日はポップコーンが出来たてだよー 凛太:ラーメン屋になんでポップコーンがあんだよ 玖:別腹じゃないの? 凛太:同じ腹だろ! 玖:あっはは!こばしり君ってわかったらこういう絡みが余計面白く感じるね! 凛太:……… 玖:懐かしい? 凛太:………そうでもねーよ 玖:ふーん 凛太:………… 玖:じーーーーっ 凛太:…なんだよ 玖:なんか私に言いたいことない? 凛太:べ、別にねーよ 玖:ラーメンは熱々だって言うのに君はなんでそんなに冷たいの? 凛太:ねーもんはねーからだ 玖:鉄壁の壁を作って俺は1匹狼気取りですか?随分鳴き声がキャンキャンと可愛らしいこと 凛太:お前こそその皮肉はどこで覚えてきたんだよ 玖:別にー? 凛太:……… 玖:なーんて仲良さそうに絡んでますが、ちょうど私も話したいことあったし、この後時間空けといてよ 凛太:は?何勝手に決めてんだよ 玖:私が退勤するまでラーメン替え玉無料! 凛太:…………乗った 0:【間】 0:凛太と玖は道を歩く 玖:この道覚えてる? 凛太:覚えてねーよ 玖:ふーん 凛太:なんだよその返事 玖:なんでもないよー 凛太:いちいちムカつく反応するなよ 玖:………… 凛太:なあ。どこに連れてくつもりだよ 玖:んーとー。もう少し 凛太:………おい、この道は…… 玖:うん。神社だよー 凛太:………なんでこんなところに 玖:この神社も覚えてる? 凛太:…………覚えて…ねーよ 玖:……(ため息)ねえ。めんどくさい 凛太:……はあ? 玖:覚えてないわけないでしょ?何考えてるの? 凛太:……… 玖:こばしり君、歌手になる夢はどうなったの? 凛太:………それは 玖:諦めたの? 凛太:あ、諦めてねーよ! 玖:この間はさ。こばしり君だって知らなかったから色々話したけどさ。 玖:………あの頃のこばしり君はどこ行ったの? 凛太:………あの頃の俺は…子供だったから 玖:ほら、覚えてるじゃん 凛太:………… 玖:嘘つかないでよ。こばしり君 凛太:その名前で俺を呼ぶなよ 玖:どうして?こばしり君はこばしり君でしょ? 凛太:やめろって 玖:昔のこばしり君はもっと(かっこよくて頼もしくて) 凛太:(遮る)やめろって言ってんだろ! 玖:じゃあもっとこばしり君らしい顔してよ! 凛太:……… 玖:どうして嘘をついて逃げようとするの? 凛太:………俺は… 玖:顔を上げて 凛太:………… 玖:なんで下向いてるの? 凛太:………… 玖:上を向かないと涙が零れちゃうよ 凛太:…………くっ 玖:こばしり君が、私に言ってくれた言葉だよ 凛太:…………昔の話だろ 玖:違うよ。こばしり君は昔の思い出を消そうとしてるだけだよ 凛太:消して何が悪いんだよ!あんな恥ずかしいことばっか言ってた過去はもう消したいに決まってるだろ! 玖:バカにしないでよ!! 凛太:………っ 玖:恥ずかしいことなんかじゃない。こばしり君の言葉で救われた人が今ここに居るの!その言葉で私は変われたの! 玖:だから今度は私がこばしり君を救いたいんだよ。ずっと感謝してるんだから 凛太:…………俺はもういいんだよ 玖:自分にも嘘つくの? 凛太:………嘘なんか 玖:まだ歌、続けてるじゃん。諦めてないんでしょ?諦めてないならもういいなんてことない 凛太:なんで…俺なんかに 玖:君が昔からこうやって、しつこいくらいに私を励ましてくれたから 玖:だから今の私が居る。人に幸せを与えられる人になりたいから配信も始めたし 玖:こばしり君だって立派な歌手になるって決めた時もそう言ってた 凛太:……… 玖:向き合いなよ。昔の自分と 凛太:……くっ。俺は…… 凛太:(M)自分の気持ちに素直に。自分が感じたありのままを声に、体に落とし込む事が俺は好きだったはず 凛太:(M)小学校の頃の夢なんて、現実も知らないただの浮ついた言葉だって事はわかっている。それでも俺はどうして諦めきれないんだろう 凛太:(M)どうしてあの日の約束を今でも胸にしまってあるのだろう 0:【回想シーン】 0:10年前。凛太が12歳、玖が10歳の頃の話 凛太:よーし!今日も神社に行こうっと! 凛太:ここで練習しようかなー?……ん? 玖:………うっ…グスンッ…… 凛太:……誰だ? 玖:……はっ! 凛太:ん? 玖:話しかけてこないで! 凛太:まだ話しかけてねーだろ 玖:私は別にお母さんとお父さんが離れ離れになっても寂しくないから泣いてないもん! 凛太:地味に心の声漏れてねーか? 玖:君、誰? 凛太:そういう君は? 玖:きゅう 凛太:え? 玖:きゅう 凛太:は? 玖:玖だよ!!蝶野玖! 凛太:……え?名前なの? 玖:そうだよ! 凛太:変な名前だな 玖:余計なお世話だよ。君の名前は? 凛太:俺は小橋凛太 玖:コバシリンダー? 凛太:ちげぇよ!小橋凛太! 玖:メスシリンダーみたいな名前だね 凛太:理科室には置いてねーよ 玖:こばしり君、何しに来たの? 凛太:なんだこばしりって。俺はほぼ毎日ここに居るんだけど 玖:え?そうなの? 凛太:誰も居ないからちょうどいいんだよ 玖:いつも何してるの? 凛太:ん?俺はなー歌を歌ってるんだ! 玖:う、歌? 凛太:そうだよ。俺は歌うことが好きなんだ 玖:どうして歌なんか? 凛太:楽しいじゃん。ただそれだけ 玖:ふーん。変な人 凛太:変ではないだろ。お前は夢とかないのかよ 玖:ないよ。つまんない 凛太:つまんない?つまんないって言った方がつまんないんだぞ 玖:つまんないもんはつまんないの 凛太:なんだお前? 玖:私のお先は真っ暗だよ 凛太:子供のセリフじゃねーな 玖:だってそうでしょ?私が生きてるだけでみんなが不幸になるんだもん 凛太:は?何言ってんだ? 玖:君には関係ないの!えい! 0:玖は小石を投げる 0:しかし凛太には当たらずそれが跳ね返り 玖:いたーい! 凛太:何してんだよ 玖:んもう!うるさい!私帰る! 0:玖は立ち上がりその場を立ち去る 凛太:あ、ちょっ!……なんだったんだ? 凛太:(M)次の日 凛太:また居る 玖:話しかけてこないで! 凛太:話しかけてねーだろ 凛太:(M)また次の日 凛太:………… 玖:話しかけてこないでよ! 凛太:まじで何も喋ってないけど!? 玖:なんか言いたそうな顔してるじゃん! 凛太:ああそうだな。なんで毎日ここにいるんだよ 玖:……そ、それは 凛太:ん? 玖:無くしちゃったの 凛太:…何を? 玖:お父さんのペンダント 凛太:ペンダント? 玖:この辺に置いといたんだけど無くなっちゃったんだ 凛太:そうなのか 玖:……… 凛太:そんなに大事なのか? 玖:大事だよ。お父さんと離れ離れになるんだから 凛太:………はあ 玖:ちょっと何してんの? 凛太:一緒に探してやる 玖:別にいいよそんな事しなくても 凛太:1人より2人で探した方が見つかりやすいだろ?それに…ほら 0:凛太は歌を歌う 玖:なんで、歌ってんの? 凛太:無くし物を探してる時ってなんかやばいって感じするじゃん?でも歌を歌いながらだったら少しは楽しくなるだろ? 玖:……楽しくないよ。ペンダント無くしたのだって私が不幸だから 凛太:あのなー。自分が不幸って思ってるうちが1番不幸なんだぞ? 玖:………え? 凛太:顔を上げて、歌いながら楽しく物を探すんだよ。不幸なこともプラスに捉えられるように 玖:………うん。 凛太:なんか歌える曲あるか? 玖:ウルトラソウル 凛太:渋すぎじゃねーか? 0:凛太と玖は歌いながらペンダントを探す 凛太:………ねーな 玖:はあ。もう諦めよ 凛太:いや、諦めるなよ!絶対に見つけるぞ! 玖:もういいよ。毎日探しても無いんだから。諦めるよ 凛太:なんで下を向くの? 玖:………向いてちゃ悪い?元々私の運が悪いからこうなったんだよ 凛太:そういう問題じゃない 玖:………何? 凛太:ほら、上を向かないと涙が零れるだろ? 玖:……… 0:玖は上を向く 玖:………上向いても涙は零れるよ 凛太:それでもいいんだよ。上を向かないと自分の運は上がらないからな 玖:…………あ!あったー! 凛太:………え? 玖:ほら、あそこの木! 凛太:ほ、ほんとだ!てかなんでそんな所に? 玖:なんかの拍子で木に引っかかっちゃったんだ! 凛太:んなことあるか!? 玖:私ならあるの! 凛太:でもあんなとこ届かないだろ? 玖:届くよ!こばしり君が居れば! 凛太:……え? 玖:さあ!乗って! 凛太:俺が乗るわけにいかないだろ? 玖:じゃあ下になって 凛太:わ、わかったよ 0:肩車をする 玖:もうちょっと右ー! 凛太:お、おう! 玖:もうちょっと上ー! 凛太:上は無理だろー! 玖:届かないー! 凛太:届かせろ! 玖:そんなの出来ないよ! 凛太:俺の肩に乗ってそのまま立て 玖:怖すぎでしょ!やだよ!絶対落ちる! 凛太:そん時は俺が支えてやるから、早く立て 玖:………うん 0:玖は凛太の肩の上に立つ 玖:………そーっと…そーっと………届いたー! 凛太:おー!よかったな! 玖:やったー! 凛太:お、おい!肩の上でジャンプするバカあるか! 玖:うわっ! 凛太:あぶねっ! 0:凛太は間一髪、玖を抱き抱える 凛太:……… 玖:………ぷっ!あっはははは! 凛太:あははは!(釣られて笑う) 玖:ナイスキャッチー 凛太:俺地味に凄くねーか? 玖:うん。凄いよ。君がいなかったらこのペンダントだって見つからなかったし、肩車も出来なかったもんね 凛太:そうだな 玖:ありがと!一生感謝する! 凛太:……おう 0:それから2人は夏休み中、毎日遊んでいた 玖:ねえ、こばしり君、歌歌って 凛太:またか?しょうがないなー 0:凛太は玖に歌を聞かせる 玖:おぉー!凄い! 凛太:どうだ?俺の歌は 玖:す……。素敵!かっこいい!感動したー! 凛太:……ありがとう 0:そしてある日のこと 玖:あ、この病院私がよく行ってる病院だ! 凛太:よく行ってるのか? 玖:うん。ほら、不幸な人間だからさ、よく怪我するの 凛太:まーた不幸って言ってる 玖:違う違う、もうそういう体質だと思って欲しいの。 凛太:そんな体質あるかー?……でもまあお前なら有り得るか 玖:そうでしょ?だから私が急に居なくなったりしたら怪我したと思ってこの病院まで来て欲しい 凛太:居なくなるなんてことあるかー? 玖:あるよ。本当にいっぱい怪我するんだから 凛太:んー。わかったよ 玖:あ、そうだ!今度神社でお祭りあるでしょ? 凛太:ああー。そういえばやってたな 玖:………私が引っ越す前に、神社のお祭り行こ 凛太:………お前引っ越すのか? 玖:うん。多分お祭りの次の日くらいには引っ越すよ 凛太:なんでまた急に 玖:お父さんとお母さんがね、離婚するの。離婚って言葉知ってる? 凛太:知ってるよ 玖:私もテレビでしか聞いたこと無かったんだけど、本当に離婚ってするもんなんだね 凛太:………だな 玖:だからね、お母さんの方のおばあちゃんちに引っ越すことになったんだ。…だから…… 凛太:だから何だよ、俺たちは友達じゃん。離れ離れなんて事はない 玖:………そうだね 凛太:お祭り、一緒に行こうぜ。そんで俺から幸せパワーを吸い取ってから引っ越せ 玖:うん! 0:お祭りの日 玖:……こばしり君! 凛太:おう。……浴衣!? 玖:そうだよ、どう?似合うでしょ? 凛太:………う、うん。似合ってると思うぞ 玖:……あっはは! 凛太:じゃあ行くぞ 玖:うん! 0:2人は屋台を周る 玖:こばしり君!先に行かないでよー! 凛太:早くついてこないと置いて行くぞー? 玖:待ってってば! 凛太:………っ 玖:ほら、行こ? 凛太:…う、うん 0:2人は手を繋いで歩く 0:そして辺りも暗くなる 玖:そろそろお母さんも来るから行くね 凛太:………うん 玖:じゃあ…… 凛太:待って 玖:………え? 凛太:最後に、歌、歌ってもいいか? 玖:………いや、いいよ 凛太:どうして!? 玖:最後じゃないもん。またここに来るよ 凛太:………またっていつ? 玖:んー。わかんないけど、大人になったらまたここに来るね 凛太:大人っていつからだ? 玖:いつからだろうね? 凛太:………じゃあ。その時には俺は歌手になって玖に幸せを届けられるような、そんな立派な歌手になってみせるよ 玖:あはっ。そうだね!こばしり君には負けないよ!私だって人に幸せを与えられる人になるんだから! 凛太:お前になれるのかよ? 玖:私は最近こばしり君と一緒に居たから大丈夫だよ 凛太:……それもそうだな 玖:だから、私が大人になったらまたこばしり君の歌を聞かせて? 凛太:おう!任せとけ!約束だ 玖:うん!約束だよ 0:月日が経つ 凛太:(M)話しかけてないのに話しかけるなとか、そのくせ泣いてばかりいた。そんな弱虫な女の子だった 凛太:(M)でも、今の蝶野玖はそんな弱虫な所を感じさせないほど堂々としていて、輝いて見えていた 凛太:(M)10年前……この地域では神社のお祭りが有名だった 凛太:(M)浴衣を着て、小さな手を握りしめて、足元が悪い地面で屋台を駆け回っていた 凛太:(M)薄れていたあの日の約束は……君の幼い声と共に蘇ってくる 凛太:(M)玖と一緒に居ると何となく昔を思い出していた。あいつはいつもボケていたからそれにつられて俺も突っ込む 凛太:(M)懐かしい思い出は俺の口元を緩くさせるが、それと同時に胸を締め付けられるようだ 凛太:(M)今の俺は…なんて弱くて…なんて醜い人間なんだろう 凛太:(M)もうあの頃には戻れない。そう思っているけど……約束を。今叶えることは…悪いことではないのだろうか? 凛太:……昔の自分と…向き合う…… 玖:……… 凛太:………じゃあ…俺の歌、聞いてもらっていいか? 玖:………いや、いいよ 凛太:………え?……なんでだよ。俺はあの日の約束を… 玖:お祭り。行ってないじゃん 凛太:………お祭り? 玖:お祭り終わった後に、また聞かせてよ 凛太:……祭りはいつだ? 玖:7月30日 凛太:………無理だ。 玖:なんでぇ!?ちょっとエモい雰囲気にしようと思ったのに! 凛太:………その日、オーディションなんだ 玖:……あー。………あはは 凛太:なんだよ。笑いやがって 玖:ううん。やっぱ頑張ってるんじゃん 凛太:………まあな 玖:何時から? 凛太:一応12時から 玖:夕方からでもいいよ? 凛太:そんなに祭り行きたいのか? 玖:ちーがーうー!もう!なんて察しの悪い人なんだ! 凛太:………ん? 玖:とにかく!7月30日!夕方6時から!この神社で待ち合わせだよ!わかった? 凛太:……わかったよ 0:場面転換 玖:………ふぅー。今日も配信終わったー! 玖:明日だね。お祭り、楽しみだなー 玖:今は久しぶりにお父さんの家にいる。 玖:もちろん。こばしり君との約束だって覚えてるから久しぶりにこの場所に来たんだよ 玖:死んだような顔だったけど、それでもこばしり君は頑張り続けていた 玖:きっとあの頃と同じように。いや、あの頃よりももっと素敵で、かっこよくて、感動的な歌を歌ってくれるんだろうなーって思ってる。 玖:………あーした天気になーれ。 玖:次の日。私は朝から鏡の前に立つ。昔は髪が短かったからなんも出来なかったけど、もう20歳だし、それなりにお洒落はしてきたよ 玖:浴衣を着るから、前髪は流して、おくれ毛は緩く巻く。どうだろ?こんな超S級美少女になってたから君は気づかなかったんだよね? 玖:こんな風に、毎日幸せだよって思いながらメイクもしてる。君に憧れたあの日から毎日思ってる 玖:待っててね。私もあの日の約束は忘れてないから 玖:今は11時半。なんかめっちゃ気合い入れて早めに準備しちゃった。浴衣だから動きにくいし。んー。浴衣で歩くのに慣れてからお祭りに行こう! 玖:私は外に出る。気温30℃以上の炎天下の中で私はこばしり君と昔通った道を歩く 玖:何もかもが10年ぶりだもんねー。懐かしいなー。ここで水風船で遊んだし、川の向こうで花火もしたっけ? 玖:その後……毎回、歌ってくれたよね?懐かしい 玖:うわぁ! 0:浴衣で歩く玖はよろけて転ぶ 玖:いったた。………あれ?この大きな石、なんで赤くなってるんだろ?………え?雨?……違う。血だ。鼻血出ちゃったかな?浴衣につかないようにしないと 玖:………あれ?……視界が……よく見えなくなってきた……熱中症かな?……あーそれだったら…やばいなー。本当に……私は不幸だなー……何…やってんだろ……おでこも……痛い 玖:お祭り……前に…やめてよ…………約束……が……… 0:場面転換 凛太:………はぁ 凛太:今日はオーディションの日。そして控え室で音源を聞いている。……もうずっと何回も同じ会社を受けてる。これで落ちたら…なんて考えるのは…約束とは違うのかな 凛太:手に汗を握る。音源も何千回と聞いたはずなのに頭が空っぽになる。俺は思った以上に弱くて、どうしようもないくらいに不器用な人間だ 凛太:こうやってオーディション前はいつも緊張で倒れそうになる。………ああ。今日もまたダメなのかな 玖:顔を上げて 凛太:………? 0:凛太は上を見上げる 玖:あ!話しかけてこないで! 凛太:……はあ!?な、なんで玖がここに!?……てか、なんかちっちゃいし、髪も短い。まるで10年前の玖じゃないか 玖:そんな事は気にしないの。今日はオーディションでしょ?私と喋ってる声が聞こえたら即落選だよ! 凛太:………じゃあどうするんだよ 玖:そのまま静かに聞いてて 凛太:………? 玖:こーんな大きな会社に何回も受けてたんだね。こばしり君 凛太:………まあ。ずっと憧れてた会社だしな 玖:目標が大きすぎたんじゃない?もうちょっと小さな目標からコツコツやってかないと疲れちゃわない? 凛太:まあ。そんな時もあったな 玖:そんな時しかないでしょ。だから顔に出てるんだよ。その不幸ですオーラが 凛太:………オーラ? 玖:そう!病み系地雷バンド目指してるならまだしも、自分が不幸だって思ってる人の歌って聞きたくないでしょ? 凛太:………そうだよな 玖:でもさ、昔のこばしり君はこんなこと言ってたの覚えてる? 凛太:………なんだ? 玖:私に幸せを届けられるような。そんな歌手になるって言ってたじゃん 凛太:…………… 玖:私だけでいいのかしら〜?独り占めしちゃってもいいの〜?こばしり君の歌を 凛太:いちいちうるせーな 玖:あっはは!私は別にそれでもいいんだけどね。でもさ。こばしり君はそれじゃダメじゃん? 凛太:………どうして? 玖:君は君の歌を聴いてくれる人達みんなを幸せに出来るはずだから 凛太:………そんなの俺に出来るのか? 玖:出来るよ!少なくとも私はそう感じたんだから。けど、今のこばしり君には何かが足りないなー。んー。なんだと思うー? 凛太:それがわかったら苦労しないだろ 玖:そうだよね。意外と気付かないかもだけど、やっぱその表情かな 凛太:表情?俺そんなに暗いか? 玖:暗い!自動で電気が消えるコンビニのトイレより暗い! 凛太:そりゃ暗すぎるな 玖:そうでしょ!だからもっと明るく元気にー!ほら、真似してみて。超S級シンガー!コバシリンダー! 凛太:俺の名前はコバシリンダーじゃねぇよ! 玖:売れたら改名しなって 凛太:してたまるか! 玖:あっはは!その調子その調子! 凛太:何がだよ 玖:私もなかなか幸せを人にあげられるようになったでしょ? 凛太:ま、まあ。多少な 玖:こばしり君にも出来るはずだよ 凛太:なんでそう言えるんだよ 玖:人に幸せを与える時は自分が幸せじゃないといけないからだよ! 凛太:……… 玖:私は不幸体質だけどさ。人の不幸も私が吸い取って私が人を幸せに出来るなら!私は不幸のままでいい。だから、こばしり君の不幸も私が全部吸い取って幸せにしてあげるから 玖:こばしり君はその幸せで人を幸せに出来る歌を歌って 凛太:………玖 玖:じゃあね!私はこばしり君を応援してるから 凛太:お、おい!待てって! 凛太:…………一体なんだったんだ?なんで子供の頃のあいつがここに? 凛太:それでも俺は、少し気持ちが楽になった気がした。 凛太:………人に幸せを与えるには……自分が幸せになる事…… 0:場面転換 凛太:最後まで……歌えた。しかも少し雰囲気が和んだような気がするぞ 凛太:………初めて…よかったと思えた。何故か子供の頃の玖が出てきて、少し勇気を貰えたから 凛太:………玖に会いたい 凛太:17時50分。少しギリギリになるけど早く会って、あの日の約束を果たすんだ。俺は今、ほんの少しの幸せを人にあげることが出来たから 凛太:俺は賑わう人混みをかき分けて約束の神社に向かう。集合時間ほぼぴったりだけど玖はまだ来ていない。きっとあいつは浴衣を着てくるだろうから時間が掛かってるだろう 凛太:早く…玖に歌を聞かせてあげたい 0:【間】 凛太:………来ないな。もう15分は過ぎてるのに。何してるんだろ?連絡先…交換しとけばよかったな 凛太:俺は少し道を歩く。そういえば、玖とここで水風船で遊んだなー。川の向こうで花火もしたし 凛太:………なんだこの石?……血が付いてねーか? 凛太:……………っ!! 0:【間】 凛太:俺は嫌な予感を察知した。子供の頃に玖に言われたことを思い出す 玖:(私が急に居なくなったりしたら怪我したと思ってこの病院まで来て欲しい) 凛太:………そんなわけ…ない…… 0:場面転換 凛太:俺は病院に向かう。息を切らしながら受付に向かい蝶野玖の名前を尋(たず)ねる 凛太:………意識が……ない…? 凛太:俺は玖がいる病室に向かい、その扉を勢いよく開ける 凛太:そこには玖がいた。目を閉じて動かない。 0:【間】 凛太:おい、お前、何してんだよ 玖:(呼吸の音)……… 凛太:俺…なんか知らないけど、オーディション前に子供の頃のお前に会ったんだよ。お前の姿を見たら、少し勇気が出て、幸せを与える歌手になれた気がしたんだ 凛太:……だから…お前に聞かせてやりたかった…… 玖:(私は遠い意識の中でこばしり君の声を聞く。……けど、視界は真っ暗のままだった) 凛太:お前と……話したいことが沢山あったんだよ。お前、知らない人にラーメンのスープ貰おうとすんなよ? 玖:(あれは…君が優しそうだったから) 凛太:お前、あの後よくあのラーメン屋で働けたな? 玖:(結局あの後、ラーメン屋の店長と仲良くなれたからだよ) 凛太:お前に煽られた時は……本当に心にグサッときたよ 玖:(もしこの人がこばしり君だったらって考えたら、やっぱりこのままじゃダメだと思ったから) 凛太:なんで俺たち…お互い気づかなかったんだろうな? 玖:(こばしり君、右目の下にほくろなんてあったっけ?覚えてないけど何か雰囲気が変わってたからわからなかった) 凛太:俺は……お前との約束を…… 玖:(……約束…そっか、私たちお祭りに行く予定だったよね。その後…あの神社で……) 凛太:10年間……玖のことだけを考えて歌を歌ってきた 玖:(私も10年間。こばしり君の事だけを考えて幸せに生きてきた) 凛太:だから……今ここで…歌うよ 玖:(わあ!聞かせてくれるの?楽しみだなー) 0:凛太は歌を歌う 凛太:(M)俺は…玖に幸せを届けられるような歌手になれてるのかな? 凛太:(M)そんな事は今はどうでもいい。俺は、この歌声を玖に響かせたいから。 凛太:(M)目を覚ましてくれなくていい。この声を聞いてくれるだけでいいから…… 0:【間】 凛太:どうだった?俺の歌は 玖:(………) 凛太:やっぱダメだったかなー? 玖:(凄く……凄く感動したよ。君の歌を久しぶりに聞けて本当に嬉しい) 凛太:またいつか…お前に幸せを届けられるような立派な歌手になるよ 玖:(ううん。本当に…よかったよ) 玖:(今すぐに……伝えたいな。……声も出ないし、どうしよ……ごめんね、また私がドジしたから肝心なこと伝えられなくて…) 玖:(………手は…動く) 凛太:………玖?今…手が… 玖:(あの頃みたいに…手、繋いでいいかな?) 凛太:玖…!? 玖:(ああ、どうしよ。感動した、これじゃ長いか。かっこよかった、これも長い。素敵、なんか違う) 玖:(そうだ。私はこばしり君の歌をずっと…ずっとこう思ってたんだ) 凛太:………っ 玖:(遅くなってごめんね。やっと伝えられて嬉しいよ。) 凛太:(M)玖は、俺の手の甲に指で『すき』となぞった 凛太:……俺の歌は……玖に…届いたんだ 凛太:………玖との約束は……守れたんだ 玖:(うん。こばしり君の歌は、好き。私に幸せをくれてありがとう) 0:場面転換 凛太:おーい。玖。聞こえてるかー? 玖:話しかけてこないで! 凛太:いいじゃねーかよ。話しかけたって 玖:……あっはは!そうだね。もう長い付き合いだしそろそろ話しかけてきてもいいよ? 凛太:そんな長い時間かけないと話しかけられねーのかよ 玖:当たり前でしょ! 凛太:厳しい世の中だな 玖:でも私は今でも思ってるよ。あの時話しかけてくれた人がこばしり君でよかったって 凛太:………そうだな。俺でよかったな 玖:なんか生意気じゃない? 凛太:お互い様だろ。タメ口女 玖:私の運の悪さ見て気付かなったの? 凛太:うっすらそうかもって思ってたけど、髪も長かったし雰囲気も変わってたからなー 玖:ふーん。やっぱ私可愛くなってたんだ 凛太:そうは言ってねーぞ? 玖:でもたまたまあそこで会えた事は本当に運がいいよね。実は幸運の女神なのかも 凛太:また調子のいいこと言って 玖:でも本当のことだよ。ほら、難があった方がその後に幸せが待ってるって言うじゃん? 凛太:……まあ確かにそうかもな 玖:難が無いって書いて、無難って読むんだけど、難が有ると有難うって言葉になるんだから 凛太:……ありがとう。か 玖:うん。だから色んな人に支えられて感謝をすれば難も乗り越えられるんだよ 凛太:……まるで、俺と玖みたいだな 玖:………うん、そうだね 凛太:あのオーディションの日、玖が俺に勇気をくれたから、おかげで合格出来たんだよ。ありがとう 玖:その辺のことは本当にわかんないけどね。どういたしまして 玖:でも、私も意識が無くなってた時にこばしり君の歌を聞いたから意識が戻ったんだよ。ありがとー! 凛太:どういたしまして 凛太:どちらかが不幸だと思った時は、どちらかが幸せを与える。俺たちはそうやって前に進んでいくんだよ 凛太:子供の頃から、ずっとそうしてきたもんな 玖:じゃあ私はずっと不幸だからずっと幸せをもらっていいのー? 凛太:……ああ。ずっとあげるよ 玖:……あっはは!期待してるね 凛太:これも約束か? 玖:これも約束だよ 凛太:うん。じゃあまた新しい約束だな 玖:こうやってどんどん約束が増えたら私たちはどこまで幸せになれるんだろうね? 凛太:それは計り知れないな 玖:行ってみようよ!幸せの向こう側まで、小走りで! 凛太:なんか急だな 玖:あっははは(同時に) 凛太:あっははは(同時に) 0:〜END〜