台本概要
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タイトル | Mr.Smile |
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作者名 | のぼライズ (@tomisan5012_2) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 5人用台本(男3、女1、不問1) ※兼役あり |
時間 | 40 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
遡ること1730年代初頭、その日彼らは生まれてしまった。いや、「生まれてしまった」というより「蘇生されてしまった」の方が相応しいだろう。その彼らこそ「吸血鬼(ヴァンパイア)」。 そんな彼らは貴族に扮し、庶民を「食料源」として隷属させられていた。が、そんな生活も年々と衰退していき、庶民も対抗するべく「吸血鬼(ヴァンパイア)ハンター」が旗揚げされた。そのハンターの中でも吸血鬼(ヴァンパイア)が恐れたハンターこそ… ※このシナリオに出てくる吸血鬼の設定は、だいぶ古い初期設定を参照しています。現在の吸血鬼のイメージとは異なります。ご了承ください。 ※シナリオ使う際は、Twitterにて台本名、作者名(Twitter ID)を合わせてツイートお願いします。単なる聞きに行きたいというだけです。 ※前読み推奨します。 335 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
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マスター | 男 | 141 | 「BAR violet」のマスターとヴァンパイアハンターの2つの顔を持つ 兼役:連れの彼 |
ガバラス | 不問 | 63 | 「BAR violet」のマスターの下で働く少年 男女可 |
シュービア | 女 | 111 | ルックスは誰しもの目を惹く妖艶さ 上流階級吸血鬼(ヴァンパイア)貴族「ブラム一族」の1人 長セリフ有り |
ヴァン | 男 | 120 | 「BAR violet」の常連客、シュービアの夫。長セリフ有り 兼役:新聞記者 |
ナレーション | 男 | 35 | この物語のナレーション、ところどころあります 兼役:酔っ払いの客人 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
ナレーション:遡ること1730年代初頭、その日彼らは生まれてしまった。いや、「生まれてしまった」というより「蘇生されてしまった」の方が相応しいだろう。その彼らこそ「吸血鬼(ヴァンパイア)」。
ナレーション:
ナレーション:そんな彼らは貴族に扮し、庶民を「食料源」として隷属させられていた。が、そんな生活も年々と衰退していき、庶民も対抗するべく「吸血鬼(ヴァンパイア)ハンター」が旗揚げされた。そのハンターの中でも吸血鬼(ヴァンパイア)が恐れたハンターこそ…
0:
シュービア:「はぁ…午前中の雨のせいで、夜はかなり蒸し暑くなりましたね。店員さん」
ヴァン:「えぇ、でもお陰様で喉を渇かせたお客様が増えましたのでね。今日もこの居酒屋(ブラッスリー)は忙しくさせてもらってます」
シュービア:「あら、新人の割にはなかなか口達者だね?」
ヴァン:「恐れ入ります」
シュービア:「とりあえずワインとチップスをもらえるかしら?あっ、後で愛しの彼が来るからね?」
ヴァン:「かしこまりました」
ヴァン:(N)その彼女はとても妖艶で、歩く傍に居た客人は釘付けになっていた。もちろん、私もだった。
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「おいおい!ここのガーリックチップスはまだか?」
ヴァン:「あっ、申し訳ございません!確認します!」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「ったく、新人だからってな?俺には関係ないんだぞぉ?」
ヴァン:(N)男は再び、霜がまだ溶け切っていないジョッキに入ったビールをがぶ飲みした。
ヴァン:(N)何でこんな日にシフトが少ないんだよ。
ヴァン:「遅れて申し訳ございません、ガーリックチップスです」
シュービア:「ありがと、でもそのチップスは…あちらじゃないかな?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「ばっかやろぉ!どこに届けてやがるっ!」
ヴァン:「あっ!も…申し訳ございません!!」
シュービア:「良いのよ?行ってらっしゃい」
ヴァン:(N)美しい上に良い人だ…それに、お連れの彼もハンサムだ。あんな顔に生まれたかったな。
シュービア:「面白い子ね?さっきの店員さん」
マスター:(兼役・連れの彼)「そうか?私の目には、慌ただしい店員と見えたが?」
シュービア:「そう…」
ナレーション:シュービアはワインを少々口に含み、ワイングラスを傾け、透き通ったグラス越しに傾いたワインを眺めた。
シュービア:「ねぇ、最近ね…私思うのよ」
マスター:(兼役・連れの彼)「何だ?そろそろプロポーズしてくれという催促の話なら耳を塞ぐが?」
シュービア:「違うわよ、少し1人で思ってたのよ。昔はどこのお店に行っても、お肉は美味しく感じた。けどある日を境に不味く感じるなって…」
マスター:(兼役・連れの彼)「…?(3秒沈黙し、ニヤッとする)歳のせいじゃないか?」
シュービア:「(深くため息を吐く)バカね…」
ヴァン:「お…お待たせしました!ガーリックチップスです!」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「だからテメェ!そこじゃねぇだろっ!」
シュービア:「まぁた、あそこの席らしいわね?」
ヴァン:「も…申し訳ありません!!」
マスター:(兼役・連れの彼)「(深いため息)ほんっと、慌ただしい…」
ナレーション:店員は頭を下げ、ガーリックチップスを席に届けた。その光景を女はワインを口に含み、微笑みながら連れの彼にこう切り出した。
シュービア:「急だけど、別れましょ?」
マスター:(兼役・連れの彼)「な…何で…」
シュービア:「やっぱり、あなたじゃ私は満たせない…ね?」
マスター:(兼役・連れの彼)「何を言っているんだ!お金だってある、何不自由ない暮らしだって出来る。今も、これからも!何が…何が足りないんだ…」
シュービア:「そういう問題じゃないのよ」
ナレーション:女は先程の店員の方向にワイングラスを傾けた。
シュービア:「あの子にきーめた」
0:
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「先程のお嬢ちゃんやぁ…」
シュービア:「あら、先程の店ではどーも。ガーリックチップスは美味しかったかしら?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「あぁ、あそこのチップスは格別でな?でもな、塩気が足りねぇんだぁ…」
シュービア:「じゃあ、その塩気を私で補いたいと?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「ははぁ!話の分かる女だ!そうこな(くっちゃなぁ)」
シュービア:「(遮るように)でも、ごめんなさい?私…デブで女性の口説き方が下手くそな不器用な童貞さんは嫌いなの?失礼?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「っの…下手(したて)から入れゃ生意気言いやがって!」
シュービア:「あら、殴る気?そう…残念ね?リリーさん?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「!?…お前…名乗ってねぇのに何で…」
シュービア:「あら、気づかないのね…?私がその第2の人生を与えた張本人なのに…不孝なものね」
シュービア:「それに、同じ者同士の匂いすら区別がつかないなんてね?」
0:数時間後、3秒間をあける
マスター:「これで2人目、またか…」
マスター:「どうなってんだ…吸血鬼(ヴァンパイア)執行対象者が既に殺されてるなんて…」
マスター:「とりあえず報告しよう…吸血鬼(ヴァンパイア)執行対象者リリー 事故死…と」
0:
ナレーション:とある裏路地に佇む「BAR violet」
ナレーション:店内はカウンター6席しかない狭いお店。従業員は40代のマスターと10代半ばに見える年齢不詳の少年の2人で切り盛りしている。
ヴァン:「マスター…あれ、マスター?」
マスター:「ここにいますよ?…お会計ですね?」
ヴァン:「何でそそくさと帰らす!?」
マスター:「いえ、お会計かと思いましたので…」
ヴァン:「違うよ!?お会計の「お」も言ってないよ?」
マスター:「では、何でしょう?」
ヴァン:「マスター!」
マスター:「はい?」
ヴァン:「このグラスを見て分かんないか!」
マスター:「そうですね…さすが、私が磨いただけあります。透明感ある綺麗に保たれたグラス(ですねぇ)」
ヴァン:「(遮るように)マスター、そんな安いボケはいらないよ」
マスター:「あはは、冗談ですよ?でもヴァンさん?…少し、飲み過ぎな気がしますよ?」
ヴァン:「あぁ、分かってる…でも今日は何だか、飲み足りなく感じてね」
マスター:「その浮かない表情、何か物言いたそうですね?」
マスター:「まずはお冷をどうぞ」
ヴァン:「ありがとう、マスター」
ヴァン:「(お冷を飲む)」
マスター:「何かあったのかい、ヴァンさん?」
ヴァン:「まぁな…経営してるお店で少しトラブルが…ね」
マスター:「そうか…独立してお店持つって、大変だよね…」
ガバラス:「お客さん…おしぼり…どうぞ…」
ヴァン:「ありがとう、あれ?マスター、この子は?」
マスター:「あぁ、この子は「ガバラス」だ」
マスター:「って言っても、ヴァンさんは飲みに来る度に泥酔してるから、この流れも何回目かになるかな…」
ヴァン:「あ…あれぇ…?よぉく覚えてないやぁ…」
マスター:「(ニヤつきながら)でしょうね」
ヴァン:「…おい、そこの少年!」
ガバラス:「ガバラス…」
ヴァン:「ガバラスくん!これは僕が悪い!子ども1人すら覚えられていないおじさんが悪い!もうこの…今身に付けているブレスレット、あげちゃう!」
ガバラス:「え…あの…えっと…マスター…」
マスター:「ちょ、ちょっとヴァンさん!さすがにその高そうなブレスレットは頂けないよ」
ヴァン:「そ…そうか…なら…」
マスター:「いや、ヴァンさん?財布を取り出して何を渡す気!?」
ヴァン:「え、この子へのチップ」
マスター:「もっと頂けないよ!?」
ヴァン:「いいのいいの!ほら少年、こうしてポッケに入れとけ!」
ガバラス:「え、いや…あの…ちょっと…」
マスター:「(深いため息)…いつもこの子にくれるのは有難いんだけど…そろそろ破綻するんじゃないの?」
ヴァン:「女房には、内緒だぞ?」
シュービア:「誰に内緒、だって?」
0:マスター、ガバラス、同時に言う
マスター:「あっ」
ガバラス:「あっ」
ヴァン:「あっ…は…は…今日もまた一段とお美しゅうござ(いますぅ)」
シュービア:「(遮るように)あなた?」
ヴァン:「あ…えっと…マ…マスター?」
マスター:「もうこんな時間か…ガバラス、表の看板を中に下げておいで」
ヴァン:「あ、あれ…マスター?」
シュービア:「ほら、迷惑になるから…さっさと歩きな」
ヴァン:「マスター…マスター?、見捨てないでよぉ!」
0:扉が閉まる
マスター:「まったく、ここにいたらダメな大人の手本しかいないな…」
ガバラス:「でも…楽しい…」
マスター:「そうか…ガバラス、机を拭いてくれないか?」
ガバラス:「はい…あっ…」
マスター:「ん、どうした?」
ガバラス:「さっきの人の…ブレスレット…」
0:
ナレーション:数日後、この日の仏国(フランス)の繁華街は容赦ない無数の雨粒を地面に強く叩き落とされた。
ナレーション:湿気と蒸し暑さで水分を持っていかれた者は今日もまた、その足で喉の潤いを求め、店に入る。
マスター:「…とまぁ、気持ちは分かるんだけど」
ヴァン:「んぐ…んぐ…ぷはぁ!やっっぱ仕事後の1杯の為に今日も頑張ったようなもんだよなぁ!」
マスター:「って、ヴァンさん最近来る頻度多くないですか?」
ヴァン:「えっ、そのあんま来て欲しくない言い方はなに!?」
マスター:「いや、仕事後に思いっきり浴びるくらいに飲みたいなら、ウチじゃなくて居酒屋(ブラッスリー)の方がコスパが良いんじゃないかなと…」
ヴァン:「まぁな…でも俺は、シュービアにはココしか行きつけとして言ってないんだよ」
マスター:「傍(はた)迷惑な事を…他の居酒屋(ブラッスリー)を行きつけとすれば良いのに…」
ヴァン:「あのねぇ、マスター?」
マスター:「はい?」
0:3秒、間をあける
ヴァン:「いや、何でもない」
マスター:「はぁ…」
ヴァン:「それよりもマスター?」
マスター:「何でしょう?」
ヴァン:「風の便りで聞いたんだが、マスターってなかなかな情報網らしいね?」
マスター:「いやはや、新聞しか見ていない人間を情報網呼ばわりするのは、大袈裟だと思いますが…それで、何でしょう?」
ヴァン:「Mr.Smile(ミスタースマイル)っていう吸血鬼(ヴァンパイアハンター)を知っているか?」
0:3秒、間をあける
マスター:「まぁ…名前だけと言っときましょう」
ヴァン:「そのMr.Smile(ミスタースマイル)が昨晩に出たんだ。」
ヴァン:「しかも、隣町の大きい屋敷で一家総出でやられたらしい」
マスター:「……」
ヴァン:「まぁその噂によると、そこの屋敷の家主は仏国(フランス)議員の1人だそうだ」
ヴァン:「その議員も亡くなってたって今日の一面に出てたもんな」
マスター:「あそこの屋敷の議員含む人間は、姓を偽っている」
マスター:「本当の姓は、「ブラム」」
ヴァン:「…マスター、何でそれを?」
マスター:「気にしなくていい、ただの余談だ」
0:3秒、間をあける
ヴァン:「そっか、さすがは情報網のマスターだな」
マスター:「ヴァンさん、まだ飲まれますか?」
ヴァン:「まだまだ飲むぞぉ!」
マスター:「(微笑みながら)そうですか、奥からボトルをお持ちしますので少し離れますね、すぐ戻ってきます」
ヴァン:「おう、いいともよぉ!」
ナレーション:マスターが奥へ入ると、すぐ傍で立ち聞きしていたガバラスが不安そうな顔で立っていた。
ガバラス:「マ…マスター」
マスター:「何でしょう?」
ガバラス:「…あそこまで話す必要があったんでしょうか?」
マスター:「信じてませんよ、ヴァンさんは」
ガバラス:「え…?」
マスター:「それに、私達は少し「ブラム家」を侮っていましたね…まさか、新聞記者にバレる時が来るとは…」
ガバラス:「はい…」
マスター:「(微笑みながら)都市伝説程度の存在感で居たかったですね」
ガバラス:「……」
マスター:「心配か?…まぁ、その時はその時…ですよ?」
0:3秒、間をあける
マスター:「少し奥に用事がありますので、ガバラスは表に出てください」
ガバラス:「…はい」
ヴァン:「?…あれ、君は誰だい?」
ガバラス:「ガバラス…」
ヴァン:「ガバラス…はて、この子は前からいたのか?」
ガバラス:「あ…あの…これ…」
ヴァン:「ん?あぁ!このブレスレット!そうかそうか、無いと思ったらここで落としてたのか!」
ガバラス:「前に…飲みにきた時に…」
ヴァン:「そっか、じゃあ君はその時から居たのか!いやぁ、おじさんが忘れてたなぁ!」
ガバラス:「はい…」
ヴァン:「そっか、じゃあそのブレスレットは君にあげよう!君の事を忘れてたおじさんが悪い!」
ガバラス:「え…あの…」
マスター:「お待たせしましたぁ…って、またこの件(くだり)やってるんですか!?」
ヴァン:「え、何回もやってるの?」
ガバラス:「マスター…また…もらいました…」
マスター:「いやでも、そのブレスレットは…高いんじゃないの?ヴァンさん」
ヴァン:「良いの良いの!この子の事を忘れていたお詫び祝いさ!」
マスター:「めでたいのやら、そうでないのやら…」
ヴァン:「そういやマスター、そのボトルは?」
マスター:「え、あぁ実はですね!新しいお酒が手に入ったんですよ!ヴァンさん、試飲してみませんか?」
ヴァン:「え、良いの?ヤッタァ!あっ…でも、どうせケチなマスターの事だから試飲料としてお金とるんでしょ?」
マスター:「ケチは余計ですね、では試飲料の代わりに今まで貯まっているツケでも払ってもらい(ましょうかね!)」
ヴァン:「(遮るように)分かった分かった!ケチじゃない!マスターはケチじゃない!」
マスター:「なんか取って付けた様な言い草が気になりますけど、飲んでみてください」
ヴァン:「ありがとうマスター…んぐ…んぐ…ん?」
ヴァン:「マスター、このお酒はハズレ物だ…舌に障る渋さだ…というより、苦いな」
マスター:「やっぱりか…」
ガバラス:「マスター…何か匂う…」
マスター:「奥に下がってなさい」
ヴァン:「(匂い嗅ぎながら)え…匂う?何も、感じないぞ?」
マスター:「いえ、お気になさらず」
マスター:「でも一応、大半に飲んでもらいたいのでシュービアさんとかに飲んでもらいたいんですよね…」
マスター:「でも、そろそろお迎えが来るはずの時間ですよね?」
ヴァン:「シュービアは…今日は来ないよ…」
マスター:「え?」
ヴァン:「実は…今朝に喧嘩しちゃってね…」
マスター:「そうか、何なら聞いてあげよう」
ヴァン:「ありがとう」
ヴァン:「急に朝、シュービアからこう言われたんだよ」
シュービア:「もう今後、これからは…煙草とお酒を止めて欲しい…」
マスター:「また急だな…」
ヴァン:「何だろな、子どもがおもちゃやゲーム取られるみたいに…急に俺の好きな物とか奪われた気がしてな、ついカッとなって互いに口論して、そのまま仕事に行ったんだ…」
ヴァン:「今日はそのせいもあって無性に飲みたくなっててな、シュービアの言い分を無視して飲みきちゃった訳よ」
マスター:「そうだな…」
マスター:「ヴァンさん、あんたの気持ちはすごく分かるよ」
ヴァン:「そうだろ?さっすがマスター!分かってくれ(ると思ったわ)」
マスター:「(遮るように)だが、シュービアさんからしてみればどうだろうか?」
ヴァン:「え?」
マスター:「分からないか?」
ヴァン:「……」
マスター:「まぁいいさ、シュービアさん自身にも言い方に多少の棘があったのかもしれない。でも、その棘こそ…シュービアさんが心の底から思っている本気を形にした棘だとしたら?」
マスター:「人は皆、本当に伝えたいものには棘があってしまう。だからこそ、ただ単なる痛みとしてでなく…分かり合える痛みとして捉えて欲しかったんじゃないのかな?」
ヴァン:「分かち合える…痛み…」
マスター:「きっと、シュービアさんはヴァンさんの身体を心配して言っているんじゃないのかな?」
マスター:「毎度毎度、帰りを心配しながら迎えにきてくれるシュービアさんの身になってみたら…どうだい?」
ヴァン:「…そう、だな」
マスター:「それに…」
ヴァン:「…?」
マスター:「最愛の人と喧嘩できるって、羨ましいじゃないか…」
ヴァン:「えっ?」
マスター:「気にするな、ただの愚痴だ」
マスター:「それより、もう閉店の時間だ。お代は結構だ」
ヴァン:「え…いや、なんで…」
マスター:「その代わり、浮いたお代で何かシュービアさんに買って仲直りしな、まったく」
ヴァン:「マスター…」
マスター:「さぁ、帰った帰った」
ヴァン:「分かった、帰りに何か買って帰るよ。そんで、あの少年に伝えてくれ」
ヴァン:「やっぱあのブレスレットは返してくれって。あれシュービアと出会ってすぐに貰った初めてのプレゼントだから」
マスター:「あぁ」
ヴァン:「じゃあ、ご馳走様(メルシー)」
0:3秒、間をあける
ガバラス:「ヴァンさん、仲直りできると良いですね」
マスター:「あぁ、時にガバラス」
ガバラス:「はい?」
マスター:「ヴァンさんから匂いを感じ取ったのはいつからだ?」
ガバラス:「今日から…かな?あのお酒を飲んだ時…」
マスター:「…気のせい…なのかな?」
0:
ナレーション:時は数年前に遡ります。そう、妖艶な女とごく普通の店員が初めて出会ったあの日に。
シュービア:「あの子にきーめた」
マスター:(兼役・連れの彼)「あの子って…おいおい、あの子はチップスの提供先も知らない「馬鹿者(イディオ)」ではないか」
シュービア:「あの子が良いのよ」
0:3秒、間をあける
マスター:(兼役・連れの彼)「君ときたら…好きにしたまえ、私は帰る」
ヴァン:(N)その後、お連れの彼はテーブルに食事代を置き、そそくさと店を出ていってしまった。
ヴァン:(N)そしてその場面を傍観していた私と彼女と目が合ってしまった。
シュービア:「ねぇ、そこの彼?」
ヴァン:「は…はい、私…ですか?」
シュービア:「他に誰がいるのよ?」
ヴァン:「す…すいません…」
シュービア:「ねぇ、あなたの終わりの時間は?」
ヴァン:「あと…1時間後です…」
シュービア:「そう、その後一緒にお食事でもいかが?」
ヴァン:「え、でもそ…そんな…」
シュービア:「こういう時は、女性(レディ)に恥かかせないのが男(ダンディ)の嗜みよ?ね?」
ヴァン:「え…あの…えっと…」
シュービア:「じゃあ1時間後に、近くの広場でね?」
ヴァン:「は…はぁ…」
シュービア:「あっ、そうだった。君の名前は?」
ヴァン:「ヴァ…ヴァンです…」
シュービア:「私はシュービア、じゃあ後でね?」
ヴァン:(N)口を挟む間もなく、その後の約束までスケジューリングされた。
ヴァン:(N)正直、恋愛経験の無い私にとっては恐怖体験であった。
0:3秒、間をあける
ヴァン:(N)今日のシフトが終わり、約束通り女性の元へ向かった。
ヴァン:(N)行かない手もあったが、さすがに可哀想だと中の感情が訴えかけてきた。
シュービア:「あっ、おーい!ヴァンくん!」
ヴァン:「あっ、えっと…」
シュービア:「シュービアよ、女性(レディ)の名前を忘れるなんて!」
ヴァン:「すいません、どうも忘れっぽくて…」
シュービア:「ふーん、でもまだ印象が浅いからだもんね?」
ヴァン:「そう…なんですかね?」
シュービア:「はい、プレゼント」
ヴァン:「え、急にですか」
シュービア:「何よぉ、プレゼントくらいでね!男性(ダンディ)がビクビクしない!」
ヴァン:「は…はぁ…」
シュービア:「ねぇ?」
ヴァン:「はい…」
シュービア:「これを受け取るにあたって1つ、約束して欲しい」
ヴァン:「な…何ですか?」
シュービア:「これを身につけている時は、胸を張っていて欲しい」
ヴァン:「え…?」
シュービア:「そりゃそうでしょうよぉ!あなたはとても良い器なんだから!さぁ!」
ヴァン:「あ…ありがとうご…ございます」
シュービア:「さぁ、ヴァンくん!まずはどこかで食事しましょ!」
ヴァン:「は…はい!」
ヴァン:(N)プレゼントの中身は、とても高そうなブレスレットだった。正直、誰からもプレゼントを貰った事が無かったせいでもあるが、鼻がジーンとするほどに嬉しかった。
ヴァン:(N)それに、このシュービアさんはとても圧倒されるくらいに押しが強いが、一緒に居てとても居心地が良かった。
ヴァン:(N)とても、幸せでした。
0:
ナレーション:ヴァンがシュービアと仲直りする為にプレゼントを買うと約束して退店してから3時間後の深夜。
ナレーション:マスターとガバラスが片付けを終え眠りについていた時、とても強く何度も扉を叩く音がした。
マスター:「?…こんな時間に誰だ…?」
0:扉を開ける
シュービア:「マスター!」
マスター:「シュ…シュービアさん!?なんでそんなずぶ濡れに!?とりあえず入って入って!」
シュービア:「夫は?夫を見かけませんでしたでしょうか?」
マスター:「?…ヴァンさんならとっくに帰られましたよ?」
シュービア:「やっぱり…ここで飲んでいたのね…」
マスター:「えぇ、あと喧嘩の事も」
シュービア:「そう…前々から変な咳をしていて…持病の発作じゃないかと思って…そしたら…そしたら…」
マスター:「落ち着いてください、それで…帰ってきて無いんですか?」
シュービア:「帰れるはずが無いんですよ…あの人1人で…」
マスター:「そんなバカな…」
シュービア:「何でだと思う?」
マスター:「さぁな…」
シュービア:「あの人ね、方向音痴なのよ」
マスター:「人は見かけによらないモンだな」
シュービア:「前にね、1回喧嘩して私が迎えに行かなかった時、あの人…家とは逆方向のとあるお家の玄関前で寝てたのよ」
シュービア:「その報せを警察の方から聞いて急いで向かって、ようやくあの人の前に立ったら急に抱きついてきてね…」
ヴァン:「シュービアぁ…帰れなかったよぉ」
シュービア:「って警察の前で何度も泣きじゃくりながら言うもんだから、その時の喧嘩の事なんて忘れちゃってね」
シュービア:「それからいつもあの人が飲みに行く際は送迎に行ってるの…あと、送迎に行きやすいように飲みに行く場所を固定させたりね」
マスター:「それがここか」
シュービア:「えぇ、でも今日は少し急用で迎えに行けなくて…」
マスター:「まぁ、お冷でも飲んで落ち着きな」
マスター:「それに急用なら仕方ないさ。安心しな、ヴァンさんは必ず見つかるよ。そう信じな」
シュービア:「はい…夫をよろしくお願いします」
ナレーション:その時、奥からガバラスが匂いを嗅ぎながら現れた。
マスター:「ガバラス、お前は寝てなさい」
ガバラス:「マスター?」
マスター:「なんだ?」
ガバラス:「濃厚な吸血鬼(ヴァンパイア)の匂いがする」
シュービア:「え…」
0:5秒、間をあける
シュービア:「き…君、何で…」
ナレーション:その時、シュービアの首元にマスターの手刀が入り、シュービアは気絶し倒れ込んだ。
マスター:「シュービアさん、あなたはそこまで知らなくていい領域に入った…」
ガバラス:「マスター、でもこの人は…」
マスター:「良いかガバラス、私はヴァンさんの捜索にあたる。だから、この女を頼む。くれぐれも…人を喰らうなよ」
0:マスターが出ていき、扉が閉まる
ガバラス:「人を喰らうな…か、まだマスターは僕のことを信用してないんだね。僕は…マスターの駒…」
ガバラス:「マスターの駒(ガバラス)なのにね…」
0:3秒、間をあける
ナレーション:いつもの深夜帯は静かな夜になるはずが、仏国(フランス)の繁華街には漆黒の空から光が一線と地面に怒涛の音を鳴らし、舞い落ちた。
ナレーション:大袈裟に降る豪雨のせいで視界が遮られ、周りに視線を向けていても、先が見えなかったのだった。
マスター:「まずいな…この天気で隣町へ行かれたら、大幅に戻る時間を取られてしまう…」
マスター:「それに、この天気にこの低い気温…もしこの天気の中で寝られたら…ヴァンさんの体力が心配だ…ん?何だ…この出血痕は?」
ナレーション:目の前に現れた、まるで引きずられたかのような出血痕を辿ると、そこには出血でだいぶ意識が朦朧としている男の姿があった。
マスター:「!?…ヴァンさん…なんて事だ、酷い出血じゃないか…」
ヴァン:「?…その声は…?」
マスター:「俺の声を忘れたか?」
ヴァン:「マ…マスター?なんで、ここに?」
マスター:「喋らなくていい、シュービアさんがあんたの帰りが遅いって、店に直接泣きついてきたんだよ。まぁシュー(ビアさんが)」
ヴァン:「(遮るように)へへ…おかしいな」
マスター:「喧嘩してでもな、それほどあんたの事を思ってる証拠だろ…おかしい訳が無いだろ」
ヴァン:「違うんだ、マスター…」
マスター:「…?」
ヴァン:「マスターと約束した通り、シュービアにプレゼント渡す為に…会ってるんだよ…」
マスター:「会ってるって…馬鹿な、シュービアさんはあんたとは会ってない口振りだったぞ…?」
ヴァン:「そう…なの…か…?」
マスター:「どうなってる…」
ヴァン:「愛想…尽かされた…かな…」
マスター:「余計な事は喋らなくていい、くそ…血が止まんねぇ…」
ヴァン:「マスター…もう、いい…」
マスター:「ンな事ぁ良くねぇよ!」
ヴァン:「もういい…マスター、あんたの手…もの凄く…震えてるぜ…」
マスター:「ヴァンさん…あんた、私と視点が合わねぇな」
ヴァン:「はぁ、やっぱ…お見通しか…」
マスター:「……」
ヴァン:「マスター…あんたまだ、そこに居るかい…?」
マスター:「…いるさ」
ヴァン:「俺はぁ…昔、金遣いもどうしようも無いズボラで…そのクセ良い歳して尚、フリーターで安定しなかった…」
ヴァン:「そのせいか、彼女に…愛想尽かされてよぉ…振られちまったのさ…」
ヴァン:「日本(にっぽん)のことわざで言う…金の切れ目が、縁の切れ目…ってやつかな…」
ヴァン:「自分自身が…招いたズボラで…愛想尽かされたんだ…笑ってくれ、マスター…」
マスター:「その別れがあってシュービアさんと出会えたんだろ…」
ヴァン:「へへ…でもまた、人の忠告を聞かず…愛想尽かされたんだ…」
マスター:「それはどうかな」
ヴァン:「…?」
マスター:「ヴァンさん、あんた…赤いダイヤの入ったブレスレットをあげたろ?」
ヴァン:「あぁ…」
マスター:「愛想尽いてるんなら、身につけてないはずだろ?」
マスター:「あんたが思うほど、シュービアさんは送迎に来た時はずっと笑顔だったぜ…?」
マスター:「今日の送迎の事だって…」
ヴァン:「マ…マスター…?」
マスター:「あぁ…何でもない」
ヴァン:「1つ…良いか?」
マスター:「なんだ…」
ヴァン:「俺に…タバコを、貰えないか?」
マスター:「…俺のタバコで良ければ」
ナレーション:マスターはヴァンの口に煙草を咥えさせ、火をつけた。
ヴァン:「(咳き込む)…うめぇ、最期にマスターと…同じのを吸えて、嬉しい…あり…がと…」
ナレーション:ヴァンのタバコが湿気って火は消え、雨音の主張が激しくなる。
マスター:「…ヴァンさん、あんた…俺にやり残した事があんだろ…まだ貯まっているツケ、それに…まだあんたにブレスレットを返せてねぇ…」
マスター:「(深いため息を吐き、微笑む)…やってくれたな、ヴァンさん」
マスター:「ヴァンさん、一緒に行こう…独りは寂しすぎる」
ナレーション:マスターは自分が持っていた未開封のタバコをジャケットのポケットに入れ込み、ヴァンを抱えた。
マスター:「冥土の土産として持っていけ…あんたの仇、取ってやるさ」
マスター:「Mr.Smile(ヴァンパイアハンター)の名にかけて…」
0:3秒、間をあける
シュービア:「う…うん…?」
ガバラス:「気が…付きましたか…?」
シュービア:「え…えぇ…」
ガバラス:「首元…まだ痛みますか?」
シュービア:「そりゃ、そうでしょ…」
ガバラス:「すいません…」
0:3秒、間をあける
シュービア:「私ね、すごい惚れやすくてさ。付き合っててもすぐ良い人が居れば、すぐその人に乗り換えるのよ…」
シュービア:「もちろん、乗り換える前の彼は始末するわよ?」
シュービア:「私の血に適応されない器は要らないからね」
ナレーション:ガバラスは終始、首を傾げていた。
シュービア:「分からないかしら、坊や?…まぁ、まだ早いわよね?」
シュービア:「それに、例え適応されようとも…その器が実って食用になったとしても、不味ければ一緒に居る意味がないじゃない?」
ガバラス:「シュービアさん…さっきから何を…?」
シュービア:「あら、あなたもそう思ってくれるわよね?」
シュービア:「不味い彼女とは一緒になりたくないわよね?」
シュービア:「?…あぁ、それとも?」
シュービア:「優秀な後継者を残したいから、身内同士、吸血鬼(ヴァンパイア)同士で付き合うのかしら?」
シュービア:「ねぇ?」
ガバラス:「吸血鬼(ヴァンパイア)同士…?」
シュービア:「えぇ、そうよ?あら、違うかしら…?」
シュービア:「私はあなたに問いかけてるのよ?そう、あなたの血に!」
シュービア:「良い加減に人間の演技を辞めたらどうかしら?」
シュービア:「ブラム一族本家の後継者 カーミラ・ブラムくん?」
ガバラス:「カ…カーミラ…ブラム…」
シュービア:「そうよ、あなたは暗示を掛けられている…1人の吸血鬼(ヴァンパイア)ではなく、ましては人としてでもなく…」
シュービア:「警察犬みたいな扱いを強いられている、吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターの駒…駒(ガバラス)としてね?」
ガバラス:「そ…そんな…」
シュービア:「そして私の名前は、シュービア・ブラム…あなた同じ血筋の1人…」
シュービア:「そしてあなたを種から育てた母体でもあるのよ?ふふっ」
ガバラス:「う…うそだ…」
シュービア:「さぁ、坊や?…1つ、昔話をしてあげましょう」
ガバラス:「聞きたくないっ!」
シュービア:「ある屋敷に2人の男女が訪れました。1人は日系人の修道女(シスター)、もう1人は黒いコートを羽織り、片手にはロングバレルのマグナムを持っていた男…」
ガバラス:「も…もしかして…」
シュービア:「そう、その時はとある少年のお誕生会の後でした。でも2人が来訪された際には、お屋敷に少年含め本家の吸血鬼(ヴァンパイア)はおらず、私達分家の吸血鬼(ヴァンパイア)しか居ませんでした」
シュービア:「もちろん、分家の力は本家より強くありませんでした」
0:ここから少しずつ、シュービアの感情を爆発させる
シュービア:「当時16歳だった私は家族、使用人、そしてお屋敷を失った。あの2人によって…」
シュービア:「私ね、見ちゃったのよ…外でその2人が仲良く仕事後の長い接吻(キス)をするところを。そして察した。あの2人は相棒としてじゃなく、男女の仲だ。互いに大事に思い合っている仲だと」
シュービア:「それからは簡単な話…互いに大事に思い合っている仲なら、どちらか一方を奪えばいい」
シュービア:「私にとって大事だった家族や、親しかった使用人、思い出深いお屋敷を奪われたようにね。自分を愛してくれた人を亡くした逃れられない痛み、苦しみを味わえば良いのよ…」
シュービア:「そこで私は、仏国(フランス)議員でもあり、当時の本家の当主に頼んだのよ…」
シュービア:「そしたらどうよ、数日後には修道女(シスター)が狩れた」
シュービア:「そして本家でパーティが開かれ、一族総員が食べた…もちろん、坊やも…ね?」
ガバラス:「シュービアさん…あんた、何が言いたいんですか…」
シュービア:「こう言いたいのよ…」
シュービア:「料理に使用された肉は…修道女(シスター)改め、坊やのご主人様の相棒でもあり、婚約者の肉だって事を言いたいのさ!」
ガバラス:「(嗚咽)うっ…ぐっ…」
シュービア:「吐きだすなんてもったいない…」
シュービア:「あんな身が引き締まっている脂身の無い肉を…」
ガバラス:「黙れっ!」
シュービア:「役目を終えたら食べられる者のとこで食べられる、食物連鎖の基本よね?」
シュービア:「でも、私は違う。役目を終えた…不味そうな男は食べたくない。けど…あの彼は違った」
シュービア:「いずれ美味しくなる素敵な器の予感がしたのよ。だから育てる為に結婚し、なに不自由なく、過剰なストレスを与えない為にコネを使い、彼を管理職にまで昇格させた」
シュービア:「でも、あの人は私と出会う前は遊び呆けていたらしいの。私と出会って、キッパリと遊ぶのを止めた…」
シュービア:「真面目すぎるのもまた、ストレスを与えてしまう…だからまた、遊びを教えてあげた」
0:3秒、間をあける
シュービア:「だけど、それが間違いだった。あの人は私に何も言わずに毎日毎日飲みに行った」
シュービア:「その度に育てている最中の夫を失わないように迎えに行った。あの人の身体は次第にお酒やタバコでボロボロになっていき、私が植え付けた吸血鬼(ヴァンパイア)の種も枯れ始めていた…ただ、枯れるには少しスパンが短くなっていた気がしたけど…」
シュービア:「だから、鮮度をこれ以上落ちないように「お酒とタバコを辞めて欲しい」っと言った」
シュービア:「でも、あの人は聞いてくれなかった。これ以上はもう実らない、腐る前に始末しようと思った」
ガバラス:「…え、じゃあ…ヴァンさんは…」
シュービア:「さぁね、もう息絶えてる頃でしょ?まぁ案の定、食べたけど不味かったわ…」
ガバラス:「そんな…」
シュービア:「分かるわよね、この気持ち…同じ人種(ヴァンパイア)なら…」
ガバラス:「違う…」
シュービア:「私から発せられる吸血鬼(ヴァンパイア)独特の匂いで目が覚めた、人にはバレないけれども、吸血鬼(ヴァンパイア)同士だとバレちゃうものね」
ガバラス:「違うっ!」
シュービア:「違うかしら?あなた、人を喰らわない自信があるっていうの?」
ガバラス:「っ…」
シュービア:「例え暗示は掛けられていても、本能には抗えないものよ?」
ガバラス:「違…う…」
シュービア:「毎日質素で足りない栄養を摂取するよりは、坊やの本能のままに動いたら?」
ガバラス:「嫌だっ!」
シュービア:「…あなた、坊やの割には骨のある子ね?」
ガバラス:「嫌だ嫌だ嫌だっ!」
ガバラス:「僕は…僕は、あの人に拾われて…人としての在り方を教えてもらった…」
シュービア:「人間風情の駒の立ち位置が…ねぇ?」
シュービア:「ふざけるのも大概なさい!」
ガバラス:「人間は…地に堕ちたもんじゃない…そんな脆い生き物じゃない…」
シュービア:「マスターの婚約者を喰らった一族なのに?」
ガバラス:「そんな一族なんて知らない」
シュービア:「あぁらあら…上流階級の貴族にして、一流の吸血鬼(ヴァンパイア)であるブラム一族の皆々様が聞いて、さぞ失望致す事でしょうね?」
ガバラス:「それでも…それでも、僕は…」
0:3秒、間をあける
シュービア:「あの人の養子(子ども)、だって言いたいんだ?」
シュービア:「いずれあなたも用済みになれば執行される」
シュービア:「誰よりも吸血鬼(ヴァンパイア)の一族への憎悪がズバ抜けて高い…」
シュービア:「あなたのマスターはね、昔はそんなパッとしない強さだった…けど、修道女(シスター)が来てからか強くなり、さらには婚約者を失ってからも一段とキレが変わった」
シュービア:「憎しみと恨みが籠った、美しいハンターになった」
シュービア:「そして彼は自身のハンターコードを自ら「Mr.Smile(ミスタースマイル)」と名乗ったわ…」
0:扉が思い切り開く
0:3秒、間をあける
シュービア:「あら、急に入ってきて女性(レディ)に銃口を突きつけるなんて…」
マスター:「1つだけ訂正しておこう、私は「Mr.Smile(ミスタースマイル)」ではなく…」
マスター:「Mr.Smile(ミスターすみれ)だ」
シュービア:「!?…早いわね」
マスター:「悪いな、あまりにもベラベラ喋るものだから入る間を考えていた」
シュービア:「やだあなた…この人もお持ち帰りしてきちゃったの?」
シュービア:「でもあなた…良い器してるわね?…私とどう?」
0:3秒、間をあける
シュービア:「はぁ…冗談も通じない男はモテないわよ?」
マスター:「生憎だが、血の気の多い女には興味が無い」
シュービア:「あらじゃあ、あなたの婚約者には色気がお有りだったのかしら…?」
マスター:「悪いがお喋りは得意じゃないんだ」
シュービア:「残念なオ・ト・コ。そりゃ残念よね?自分のハンターコードを婚約者の名前にするくらいだもんね?」
シュービア:「ねぇ、す・み・れ…?」
0:銃声
マスター:「お前の口からその名前を発するな」
シュービア:「危ないわね…頬に傷付いちゃったじゃん…でも、あの子に当たらなくて良かったわね?」
ガバラス:「マ…マスター…」
マスター:「…その怯え方、聞いたんだなガバラス…あまり真実を知って欲しくは無かった」
ガバラス:「ご…ごめんな…さい…」
マスター:「謝ることではない。謝ったところで、あの子は戻ってこないんだから…」
マスター:「それに俺は、ガバラスを恨んじゃいない。俺が恨んでいるのは、ブラム一族と、今目の前に居るシュービアさ」
ガバラス:「でも…僕…」
マスター:「お前は吸血鬼(ヴァンパイア)ではない、俺の…歴とした養子(子ども)だ」
ガバラス:「うんっ!」
ナレーション:その時、油断して銃がシュービアに蹴り上げられて空中を舞った。
シュービア:「あら、ごめんなさい。私の綺麗な美脚が遊んでしまってぇ!」
シュービア:「…でもね、あなた達の仲良しこよしは、もう飽きちゃったのよ。終わらせて…あ・げ・る」
マスター:「おい、待て!」
シュービア:「さぁ坊や…捕まえたわ、あなたが人間として失いたくないのはなーに?」
ガバラス:「お…お父…さん…」
シュービア:「お父さん?あなたが失いたくない目の前のお父さんは、偽物だよ?」
シュービア:「本物のお父さんはね、あなたがここに連れてこられる際に…あの吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターによって殺されたのよ?」
ガバラス:「……」
シュービア:「あなたは本物のお父さんより、偽物のお父さんを大事にするのかしら?」
ガバラス:「僕は…僕は…」
シュービア:「さぁ…どうする…?」
ガバラス:「僕は…僕は、人間だ!」
シュービア:「いいえ、あなたは私ら一族の子よ?」
ガバラス:「違うっ!」
シュービア:「血は抗えないの」
ガバラス:「違う、僕は…人間だ!」
シュービア:「くどいっ!」
ナレーション:シュービアの振りかぶった右手が、ガバラスの頬を引っ叩かれた。ガバラスはその場に倒れ込み、気を失った。
シュービア:「本当にこの子は…人の言うことが聞けないわね…」
マスター:「俺の養子(子ども)だからな」
シュービア:「…頭が狂ってるとしか思えないわ」
マスター:「さぁ、お喋りはここまでだ。大してタイプじゃねぇ女とお喋りを楽しむ時間なんて無いんでね」
シュービア:「…失礼な人ね。でも私も、あなたはタイプじゃないのよね」
マスター:「そいつは奇遇だな」
シュービア:「何でそんな余裕が持てるのかしら?あなたのご自慢の銃はここにあるのよ?」
シュービア:「あなたに勝ち目なんて無いのよ!」
マスター:「いつから私の武器が銃一丁だけだと?」
シュービア:「!?」
マスター:「まず、相手は俺じゃない」
ナレーション:マスターはジャケットの内ポケットから、十字架のネックレスを取り出した。
シュービア:「あれは…修道女(シスター)だけが持っているもの…」
シュービア:「そう、婚約者の形見ね?最期の命乞いなら…お断りよ!」
マスター:「今から行う大罪にお許しを。そして、これから執行されるシュービア・ブラムに神の御加護を」
シュービア:「この言霊は…あの頃にあの修道女(おんな)が唱えていた…言霊…」
マスター:「ガバラス、執行せよ!」
ナレーション:その言霊に、ガバラスの体が2回り大きくなり、差し伸べた手でシュービアを鷲掴みにした。
シュービア:「Mr.Smile(ミスターすみれ)…これが…このやり方が許せられると思ってるのかしら?」
シュービア:「人としての禁忌を犯してないかしら!」
マスター:「私はこれで良いと思っている。何せ、憎きブラム一族を、このブラム一族の1人が片付けてくれる」
マスター:「必要不可欠なんだ…」
シュービア:「はぁ…酷く落ちぶれたものね、あなたは誰よりも憎悪が籠っているハンターだと思っていた」
シュービア:「所詮はあなたも、弱く脆い人間様の子…」
ナレーション:シュービアはマスターに何かを投げつけた。
マスター:「?…この骨は?」
シュービア:「あなたもお分かりかもしれなかったけど、あんたの婚約者にはもうじき産まれる子どもを、お腹に抱えていた証よ」
マスター:「な…何でこれを、何でお前が持っているんだ」
シュービア:「ブラム一族もまた、人としての血族…だからさ」
シュービア:「それに…」
シュービア:「私もこの子を産んでいる母体の1人だからさ」
0:3秒、間をあける
ナレーション:鈍い音を立たせながらシュービア・ブラムは執行された。我が子の手によって…
マスター:「人としての…血族…か」
0:3秒、間をあける
ナレーション:それから間もなくヴァンの葬儀も行われた。最期にはヴァンの手首に2人のブレスレットを身につけられ、安らかに埋葬された。
ナレーション:ガバラスとマスターは手を合わせ、いかなる形であれども、彼らの今後の幸せを願った。
0:少し間をあける
ナレーション:貴族に扮した吸血鬼(ヴァンパイア)の家系は、ブラム一族を筆頭に枝分かれしている。が、彼らの大半は年々減っていく一方であった。
ナレーション:そう、あのハンターがいる限り…
0:3秒、間をあける
ヴァン:(兼役・新聞記者)「なぁ、知ってるか?マスター?」
マスター:「何でしょう?」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「また出たんだよ!Mr.Smile(ミスタースマイル)が!」
マスター:「Mr.Smile(ミスタースマイル)…ですか?」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「そうだよ!あの吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターを記事にすると即時に新聞が完売しちゃうんだよ!」
マスター:「吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターに新聞の宣伝効果は無いと思うんだけどな…」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「何か言った?」
マスター:「いやぁ、何でもないよ」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「そうか…?それよりマスターはMr.Smile(ミスタースマイル)の存在を知ってたっけ?」
マスター:「(少し微笑みながら)Mr.Smile(ミスタースマイル)…知らないですね?」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「知らない!?あの情報網のマスターが!?」
マスター:「その噂はどこで流れるのやら…」
マスター:「ガバラス…」
ガバラス:「マスター…匂う…」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「?…どういうことだ?」
マスター:「吸血鬼(ヴァンパイア)風情が、仏国(フランス)新聞のライターになりすまして情報を引き出すなんて良い度胸ですね」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「ハナっから店を貸切にして銃口を突きつけるなんざ、さてはやる気だなぁぁあ?」
マスター:「1つだけ言っておこう」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「あぁ?」
マスター:「俺はMr.Smile(ミスタースマイル)じゃねぇ…Mr.Smile(ミスターすみれ)だ!」
ナレーション:この日の夜、1発の花火が店内に響いた。マスターとガバラスはそっと、手を合わせた。
マスター:(N)ブラム一族が「人としての血族」として信じ切れる日まで…
マスター:(N)この世を見ぬまま終えた「我が子」と婚約者(すみれ)が救える日が来るまで…
マスター:(N)俺の時間はまだ、止まったままさ…すみれ。
ナレーション:遡ること1730年代初頭、その日彼らは生まれてしまった。いや、「生まれてしまった」というより「蘇生されてしまった」の方が相応しいだろう。その彼らこそ「吸血鬼(ヴァンパイア)」。
ナレーション:
ナレーション:そんな彼らは貴族に扮し、庶民を「食料源」として隷属させられていた。が、そんな生活も年々と衰退していき、庶民も対抗するべく「吸血鬼(ヴァンパイア)ハンター」が旗揚げされた。そのハンターの中でも吸血鬼(ヴァンパイア)が恐れたハンターこそ…
0:
シュービア:「はぁ…午前中の雨のせいで、夜はかなり蒸し暑くなりましたね。店員さん」
ヴァン:「えぇ、でもお陰様で喉を渇かせたお客様が増えましたのでね。今日もこの居酒屋(ブラッスリー)は忙しくさせてもらってます」
シュービア:「あら、新人の割にはなかなか口達者だね?」
ヴァン:「恐れ入ります」
シュービア:「とりあえずワインとチップスをもらえるかしら?あっ、後で愛しの彼が来るからね?」
ヴァン:「かしこまりました」
ヴァン:(N)その彼女はとても妖艶で、歩く傍に居た客人は釘付けになっていた。もちろん、私もだった。
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「おいおい!ここのガーリックチップスはまだか?」
ヴァン:「あっ、申し訳ございません!確認します!」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「ったく、新人だからってな?俺には関係ないんだぞぉ?」
ヴァン:(N)男は再び、霜がまだ溶け切っていないジョッキに入ったビールをがぶ飲みした。
ヴァン:(N)何でこんな日にシフトが少ないんだよ。
ヴァン:「遅れて申し訳ございません、ガーリックチップスです」
シュービア:「ありがと、でもそのチップスは…あちらじゃないかな?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「ばっかやろぉ!どこに届けてやがるっ!」
ヴァン:「あっ!も…申し訳ございません!!」
シュービア:「良いのよ?行ってらっしゃい」
ヴァン:(N)美しい上に良い人だ…それに、お連れの彼もハンサムだ。あんな顔に生まれたかったな。
シュービア:「面白い子ね?さっきの店員さん」
マスター:(兼役・連れの彼)「そうか?私の目には、慌ただしい店員と見えたが?」
シュービア:「そう…」
ナレーション:シュービアはワインを少々口に含み、ワイングラスを傾け、透き通ったグラス越しに傾いたワインを眺めた。
シュービア:「ねぇ、最近ね…私思うのよ」
マスター:(兼役・連れの彼)「何だ?そろそろプロポーズしてくれという催促の話なら耳を塞ぐが?」
シュービア:「違うわよ、少し1人で思ってたのよ。昔はどこのお店に行っても、お肉は美味しく感じた。けどある日を境に不味く感じるなって…」
マスター:(兼役・連れの彼)「…?(3秒沈黙し、ニヤッとする)歳のせいじゃないか?」
シュービア:「(深くため息を吐く)バカね…」
ヴァン:「お…お待たせしました!ガーリックチップスです!」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「だからテメェ!そこじゃねぇだろっ!」
シュービア:「まぁた、あそこの席らしいわね?」
ヴァン:「も…申し訳ありません!!」
マスター:(兼役・連れの彼)「(深いため息)ほんっと、慌ただしい…」
ナレーション:店員は頭を下げ、ガーリックチップスを席に届けた。その光景を女はワインを口に含み、微笑みながら連れの彼にこう切り出した。
シュービア:「急だけど、別れましょ?」
マスター:(兼役・連れの彼)「な…何で…」
シュービア:「やっぱり、あなたじゃ私は満たせない…ね?」
マスター:(兼役・連れの彼)「何を言っているんだ!お金だってある、何不自由ない暮らしだって出来る。今も、これからも!何が…何が足りないんだ…」
シュービア:「そういう問題じゃないのよ」
ナレーション:女は先程の店員の方向にワイングラスを傾けた。
シュービア:「あの子にきーめた」
0:
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「先程のお嬢ちゃんやぁ…」
シュービア:「あら、先程の店ではどーも。ガーリックチップスは美味しかったかしら?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「あぁ、あそこのチップスは格別でな?でもな、塩気が足りねぇんだぁ…」
シュービア:「じゃあ、その塩気を私で補いたいと?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「ははぁ!話の分かる女だ!そうこな(くっちゃなぁ)」
シュービア:「(遮るように)でも、ごめんなさい?私…デブで女性の口説き方が下手くそな不器用な童貞さんは嫌いなの?失礼?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「っの…下手(したて)から入れゃ生意気言いやがって!」
シュービア:「あら、殴る気?そう…残念ね?リリーさん?」
ナレーション:(兼役・酔っ払いの客人)「!?…お前…名乗ってねぇのに何で…」
シュービア:「あら、気づかないのね…?私がその第2の人生を与えた張本人なのに…不孝なものね」
シュービア:「それに、同じ者同士の匂いすら区別がつかないなんてね?」
0:数時間後、3秒間をあける
マスター:「これで2人目、またか…」
マスター:「どうなってんだ…吸血鬼(ヴァンパイア)執行対象者が既に殺されてるなんて…」
マスター:「とりあえず報告しよう…吸血鬼(ヴァンパイア)執行対象者リリー 事故死…と」
0:
ナレーション:とある裏路地に佇む「BAR violet」
ナレーション:店内はカウンター6席しかない狭いお店。従業員は40代のマスターと10代半ばに見える年齢不詳の少年の2人で切り盛りしている。
ヴァン:「マスター…あれ、マスター?」
マスター:「ここにいますよ?…お会計ですね?」
ヴァン:「何でそそくさと帰らす!?」
マスター:「いえ、お会計かと思いましたので…」
ヴァン:「違うよ!?お会計の「お」も言ってないよ?」
マスター:「では、何でしょう?」
ヴァン:「マスター!」
マスター:「はい?」
ヴァン:「このグラスを見て分かんないか!」
マスター:「そうですね…さすが、私が磨いただけあります。透明感ある綺麗に保たれたグラス(ですねぇ)」
ヴァン:「(遮るように)マスター、そんな安いボケはいらないよ」
マスター:「あはは、冗談ですよ?でもヴァンさん?…少し、飲み過ぎな気がしますよ?」
ヴァン:「あぁ、分かってる…でも今日は何だか、飲み足りなく感じてね」
マスター:「その浮かない表情、何か物言いたそうですね?」
マスター:「まずはお冷をどうぞ」
ヴァン:「ありがとう、マスター」
ヴァン:「(お冷を飲む)」
マスター:「何かあったのかい、ヴァンさん?」
ヴァン:「まぁな…経営してるお店で少しトラブルが…ね」
マスター:「そうか…独立してお店持つって、大変だよね…」
ガバラス:「お客さん…おしぼり…どうぞ…」
ヴァン:「ありがとう、あれ?マスター、この子は?」
マスター:「あぁ、この子は「ガバラス」だ」
マスター:「って言っても、ヴァンさんは飲みに来る度に泥酔してるから、この流れも何回目かになるかな…」
ヴァン:「あ…あれぇ…?よぉく覚えてないやぁ…」
マスター:「(ニヤつきながら)でしょうね」
ヴァン:「…おい、そこの少年!」
ガバラス:「ガバラス…」
ヴァン:「ガバラスくん!これは僕が悪い!子ども1人すら覚えられていないおじさんが悪い!もうこの…今身に付けているブレスレット、あげちゃう!」
ガバラス:「え…あの…えっと…マスター…」
マスター:「ちょ、ちょっとヴァンさん!さすがにその高そうなブレスレットは頂けないよ」
ヴァン:「そ…そうか…なら…」
マスター:「いや、ヴァンさん?財布を取り出して何を渡す気!?」
ヴァン:「え、この子へのチップ」
マスター:「もっと頂けないよ!?」
ヴァン:「いいのいいの!ほら少年、こうしてポッケに入れとけ!」
ガバラス:「え、いや…あの…ちょっと…」
マスター:「(深いため息)…いつもこの子にくれるのは有難いんだけど…そろそろ破綻するんじゃないの?」
ヴァン:「女房には、内緒だぞ?」
シュービア:「誰に内緒、だって?」
0:マスター、ガバラス、同時に言う
マスター:「あっ」
ガバラス:「あっ」
ヴァン:「あっ…は…は…今日もまた一段とお美しゅうござ(いますぅ)」
シュービア:「(遮るように)あなた?」
ヴァン:「あ…えっと…マ…マスター?」
マスター:「もうこんな時間か…ガバラス、表の看板を中に下げておいで」
ヴァン:「あ、あれ…マスター?」
シュービア:「ほら、迷惑になるから…さっさと歩きな」
ヴァン:「マスター…マスター?、見捨てないでよぉ!」
0:扉が閉まる
マスター:「まったく、ここにいたらダメな大人の手本しかいないな…」
ガバラス:「でも…楽しい…」
マスター:「そうか…ガバラス、机を拭いてくれないか?」
ガバラス:「はい…あっ…」
マスター:「ん、どうした?」
ガバラス:「さっきの人の…ブレスレット…」
0:
ナレーション:数日後、この日の仏国(フランス)の繁華街は容赦ない無数の雨粒を地面に強く叩き落とされた。
ナレーション:湿気と蒸し暑さで水分を持っていかれた者は今日もまた、その足で喉の潤いを求め、店に入る。
マスター:「…とまぁ、気持ちは分かるんだけど」
ヴァン:「んぐ…んぐ…ぷはぁ!やっっぱ仕事後の1杯の為に今日も頑張ったようなもんだよなぁ!」
マスター:「って、ヴァンさん最近来る頻度多くないですか?」
ヴァン:「えっ、そのあんま来て欲しくない言い方はなに!?」
マスター:「いや、仕事後に思いっきり浴びるくらいに飲みたいなら、ウチじゃなくて居酒屋(ブラッスリー)の方がコスパが良いんじゃないかなと…」
ヴァン:「まぁな…でも俺は、シュービアにはココしか行きつけとして言ってないんだよ」
マスター:「傍(はた)迷惑な事を…他の居酒屋(ブラッスリー)を行きつけとすれば良いのに…」
ヴァン:「あのねぇ、マスター?」
マスター:「はい?」
0:3秒、間をあける
ヴァン:「いや、何でもない」
マスター:「はぁ…」
ヴァン:「それよりもマスター?」
マスター:「何でしょう?」
ヴァン:「風の便りで聞いたんだが、マスターってなかなかな情報網らしいね?」
マスター:「いやはや、新聞しか見ていない人間を情報網呼ばわりするのは、大袈裟だと思いますが…それで、何でしょう?」
ヴァン:「Mr.Smile(ミスタースマイル)っていう吸血鬼(ヴァンパイアハンター)を知っているか?」
0:3秒、間をあける
マスター:「まぁ…名前だけと言っときましょう」
ヴァン:「そのMr.Smile(ミスタースマイル)が昨晩に出たんだ。」
ヴァン:「しかも、隣町の大きい屋敷で一家総出でやられたらしい」
マスター:「……」
ヴァン:「まぁその噂によると、そこの屋敷の家主は仏国(フランス)議員の1人だそうだ」
ヴァン:「その議員も亡くなってたって今日の一面に出てたもんな」
マスター:「あそこの屋敷の議員含む人間は、姓を偽っている」
マスター:「本当の姓は、「ブラム」」
ヴァン:「…マスター、何でそれを?」
マスター:「気にしなくていい、ただの余談だ」
0:3秒、間をあける
ヴァン:「そっか、さすがは情報網のマスターだな」
マスター:「ヴァンさん、まだ飲まれますか?」
ヴァン:「まだまだ飲むぞぉ!」
マスター:「(微笑みながら)そうですか、奥からボトルをお持ちしますので少し離れますね、すぐ戻ってきます」
ヴァン:「おう、いいともよぉ!」
ナレーション:マスターが奥へ入ると、すぐ傍で立ち聞きしていたガバラスが不安そうな顔で立っていた。
ガバラス:「マ…マスター」
マスター:「何でしょう?」
ガバラス:「…あそこまで話す必要があったんでしょうか?」
マスター:「信じてませんよ、ヴァンさんは」
ガバラス:「え…?」
マスター:「それに、私達は少し「ブラム家」を侮っていましたね…まさか、新聞記者にバレる時が来るとは…」
ガバラス:「はい…」
マスター:「(微笑みながら)都市伝説程度の存在感で居たかったですね」
ガバラス:「……」
マスター:「心配か?…まぁ、その時はその時…ですよ?」
0:3秒、間をあける
マスター:「少し奥に用事がありますので、ガバラスは表に出てください」
ガバラス:「…はい」
ヴァン:「?…あれ、君は誰だい?」
ガバラス:「ガバラス…」
ヴァン:「ガバラス…はて、この子は前からいたのか?」
ガバラス:「あ…あの…これ…」
ヴァン:「ん?あぁ!このブレスレット!そうかそうか、無いと思ったらここで落としてたのか!」
ガバラス:「前に…飲みにきた時に…」
ヴァン:「そっか、じゃあ君はその時から居たのか!いやぁ、おじさんが忘れてたなぁ!」
ガバラス:「はい…」
ヴァン:「そっか、じゃあそのブレスレットは君にあげよう!君の事を忘れてたおじさんが悪い!」
ガバラス:「え…あの…」
マスター:「お待たせしましたぁ…って、またこの件(くだり)やってるんですか!?」
ヴァン:「え、何回もやってるの?」
ガバラス:「マスター…また…もらいました…」
マスター:「いやでも、そのブレスレットは…高いんじゃないの?ヴァンさん」
ヴァン:「良いの良いの!この子の事を忘れていたお詫び祝いさ!」
マスター:「めでたいのやら、そうでないのやら…」
ヴァン:「そういやマスター、そのボトルは?」
マスター:「え、あぁ実はですね!新しいお酒が手に入ったんですよ!ヴァンさん、試飲してみませんか?」
ヴァン:「え、良いの?ヤッタァ!あっ…でも、どうせケチなマスターの事だから試飲料としてお金とるんでしょ?」
マスター:「ケチは余計ですね、では試飲料の代わりに今まで貯まっているツケでも払ってもらい(ましょうかね!)」
ヴァン:「(遮るように)分かった分かった!ケチじゃない!マスターはケチじゃない!」
マスター:「なんか取って付けた様な言い草が気になりますけど、飲んでみてください」
ヴァン:「ありがとうマスター…んぐ…んぐ…ん?」
ヴァン:「マスター、このお酒はハズレ物だ…舌に障る渋さだ…というより、苦いな」
マスター:「やっぱりか…」
ガバラス:「マスター…何か匂う…」
マスター:「奥に下がってなさい」
ヴァン:「(匂い嗅ぎながら)え…匂う?何も、感じないぞ?」
マスター:「いえ、お気になさらず」
マスター:「でも一応、大半に飲んでもらいたいのでシュービアさんとかに飲んでもらいたいんですよね…」
マスター:「でも、そろそろお迎えが来るはずの時間ですよね?」
ヴァン:「シュービアは…今日は来ないよ…」
マスター:「え?」
ヴァン:「実は…今朝に喧嘩しちゃってね…」
マスター:「そうか、何なら聞いてあげよう」
ヴァン:「ありがとう」
ヴァン:「急に朝、シュービアからこう言われたんだよ」
シュービア:「もう今後、これからは…煙草とお酒を止めて欲しい…」
マスター:「また急だな…」
ヴァン:「何だろな、子どもがおもちゃやゲーム取られるみたいに…急に俺の好きな物とか奪われた気がしてな、ついカッとなって互いに口論して、そのまま仕事に行ったんだ…」
ヴァン:「今日はそのせいもあって無性に飲みたくなっててな、シュービアの言い分を無視して飲みきちゃった訳よ」
マスター:「そうだな…」
マスター:「ヴァンさん、あんたの気持ちはすごく分かるよ」
ヴァン:「そうだろ?さっすがマスター!分かってくれ(ると思ったわ)」
マスター:「(遮るように)だが、シュービアさんからしてみればどうだろうか?」
ヴァン:「え?」
マスター:「分からないか?」
ヴァン:「……」
マスター:「まぁいいさ、シュービアさん自身にも言い方に多少の棘があったのかもしれない。でも、その棘こそ…シュービアさんが心の底から思っている本気を形にした棘だとしたら?」
マスター:「人は皆、本当に伝えたいものには棘があってしまう。だからこそ、ただ単なる痛みとしてでなく…分かり合える痛みとして捉えて欲しかったんじゃないのかな?」
ヴァン:「分かち合える…痛み…」
マスター:「きっと、シュービアさんはヴァンさんの身体を心配して言っているんじゃないのかな?」
マスター:「毎度毎度、帰りを心配しながら迎えにきてくれるシュービアさんの身になってみたら…どうだい?」
ヴァン:「…そう、だな」
マスター:「それに…」
ヴァン:「…?」
マスター:「最愛の人と喧嘩できるって、羨ましいじゃないか…」
ヴァン:「えっ?」
マスター:「気にするな、ただの愚痴だ」
マスター:「それより、もう閉店の時間だ。お代は結構だ」
ヴァン:「え…いや、なんで…」
マスター:「その代わり、浮いたお代で何かシュービアさんに買って仲直りしな、まったく」
ヴァン:「マスター…」
マスター:「さぁ、帰った帰った」
ヴァン:「分かった、帰りに何か買って帰るよ。そんで、あの少年に伝えてくれ」
ヴァン:「やっぱあのブレスレットは返してくれって。あれシュービアと出会ってすぐに貰った初めてのプレゼントだから」
マスター:「あぁ」
ヴァン:「じゃあ、ご馳走様(メルシー)」
0:3秒、間をあける
ガバラス:「ヴァンさん、仲直りできると良いですね」
マスター:「あぁ、時にガバラス」
ガバラス:「はい?」
マスター:「ヴァンさんから匂いを感じ取ったのはいつからだ?」
ガバラス:「今日から…かな?あのお酒を飲んだ時…」
マスター:「…気のせい…なのかな?」
0:
ナレーション:時は数年前に遡ります。そう、妖艶な女とごく普通の店員が初めて出会ったあの日に。
シュービア:「あの子にきーめた」
マスター:(兼役・連れの彼)「あの子って…おいおい、あの子はチップスの提供先も知らない「馬鹿者(イディオ)」ではないか」
シュービア:「あの子が良いのよ」
0:3秒、間をあける
マスター:(兼役・連れの彼)「君ときたら…好きにしたまえ、私は帰る」
ヴァン:(N)その後、お連れの彼はテーブルに食事代を置き、そそくさと店を出ていってしまった。
ヴァン:(N)そしてその場面を傍観していた私と彼女と目が合ってしまった。
シュービア:「ねぇ、そこの彼?」
ヴァン:「は…はい、私…ですか?」
シュービア:「他に誰がいるのよ?」
ヴァン:「す…すいません…」
シュービア:「ねぇ、あなたの終わりの時間は?」
ヴァン:「あと…1時間後です…」
シュービア:「そう、その後一緒にお食事でもいかが?」
ヴァン:「え、でもそ…そんな…」
シュービア:「こういう時は、女性(レディ)に恥かかせないのが男(ダンディ)の嗜みよ?ね?」
ヴァン:「え…あの…えっと…」
シュービア:「じゃあ1時間後に、近くの広場でね?」
ヴァン:「は…はぁ…」
シュービア:「あっ、そうだった。君の名前は?」
ヴァン:「ヴァ…ヴァンです…」
シュービア:「私はシュービア、じゃあ後でね?」
ヴァン:(N)口を挟む間もなく、その後の約束までスケジューリングされた。
ヴァン:(N)正直、恋愛経験の無い私にとっては恐怖体験であった。
0:3秒、間をあける
ヴァン:(N)今日のシフトが終わり、約束通り女性の元へ向かった。
ヴァン:(N)行かない手もあったが、さすがに可哀想だと中の感情が訴えかけてきた。
シュービア:「あっ、おーい!ヴァンくん!」
ヴァン:「あっ、えっと…」
シュービア:「シュービアよ、女性(レディ)の名前を忘れるなんて!」
ヴァン:「すいません、どうも忘れっぽくて…」
シュービア:「ふーん、でもまだ印象が浅いからだもんね?」
ヴァン:「そう…なんですかね?」
シュービア:「はい、プレゼント」
ヴァン:「え、急にですか」
シュービア:「何よぉ、プレゼントくらいでね!男性(ダンディ)がビクビクしない!」
ヴァン:「は…はぁ…」
シュービア:「ねぇ?」
ヴァン:「はい…」
シュービア:「これを受け取るにあたって1つ、約束して欲しい」
ヴァン:「な…何ですか?」
シュービア:「これを身につけている時は、胸を張っていて欲しい」
ヴァン:「え…?」
シュービア:「そりゃそうでしょうよぉ!あなたはとても良い器なんだから!さぁ!」
ヴァン:「あ…ありがとうご…ございます」
シュービア:「さぁ、ヴァンくん!まずはどこかで食事しましょ!」
ヴァン:「は…はい!」
ヴァン:(N)プレゼントの中身は、とても高そうなブレスレットだった。正直、誰からもプレゼントを貰った事が無かったせいでもあるが、鼻がジーンとするほどに嬉しかった。
ヴァン:(N)それに、このシュービアさんはとても圧倒されるくらいに押しが強いが、一緒に居てとても居心地が良かった。
ヴァン:(N)とても、幸せでした。
0:
ナレーション:ヴァンがシュービアと仲直りする為にプレゼントを買うと約束して退店してから3時間後の深夜。
ナレーション:マスターとガバラスが片付けを終え眠りについていた時、とても強く何度も扉を叩く音がした。
マスター:「?…こんな時間に誰だ…?」
0:扉を開ける
シュービア:「マスター!」
マスター:「シュ…シュービアさん!?なんでそんなずぶ濡れに!?とりあえず入って入って!」
シュービア:「夫は?夫を見かけませんでしたでしょうか?」
マスター:「?…ヴァンさんならとっくに帰られましたよ?」
シュービア:「やっぱり…ここで飲んでいたのね…」
マスター:「えぇ、あと喧嘩の事も」
シュービア:「そう…前々から変な咳をしていて…持病の発作じゃないかと思って…そしたら…そしたら…」
マスター:「落ち着いてください、それで…帰ってきて無いんですか?」
シュービア:「帰れるはずが無いんですよ…あの人1人で…」
マスター:「そんなバカな…」
シュービア:「何でだと思う?」
マスター:「さぁな…」
シュービア:「あの人ね、方向音痴なのよ」
マスター:「人は見かけによらないモンだな」
シュービア:「前にね、1回喧嘩して私が迎えに行かなかった時、あの人…家とは逆方向のとあるお家の玄関前で寝てたのよ」
シュービア:「その報せを警察の方から聞いて急いで向かって、ようやくあの人の前に立ったら急に抱きついてきてね…」
ヴァン:「シュービアぁ…帰れなかったよぉ」
シュービア:「って警察の前で何度も泣きじゃくりながら言うもんだから、その時の喧嘩の事なんて忘れちゃってね」
シュービア:「それからいつもあの人が飲みに行く際は送迎に行ってるの…あと、送迎に行きやすいように飲みに行く場所を固定させたりね」
マスター:「それがここか」
シュービア:「えぇ、でも今日は少し急用で迎えに行けなくて…」
マスター:「まぁ、お冷でも飲んで落ち着きな」
マスター:「それに急用なら仕方ないさ。安心しな、ヴァンさんは必ず見つかるよ。そう信じな」
シュービア:「はい…夫をよろしくお願いします」
ナレーション:その時、奥からガバラスが匂いを嗅ぎながら現れた。
マスター:「ガバラス、お前は寝てなさい」
ガバラス:「マスター?」
マスター:「なんだ?」
ガバラス:「濃厚な吸血鬼(ヴァンパイア)の匂いがする」
シュービア:「え…」
0:5秒、間をあける
シュービア:「き…君、何で…」
ナレーション:その時、シュービアの首元にマスターの手刀が入り、シュービアは気絶し倒れ込んだ。
マスター:「シュービアさん、あなたはそこまで知らなくていい領域に入った…」
ガバラス:「マスター、でもこの人は…」
マスター:「良いかガバラス、私はヴァンさんの捜索にあたる。だから、この女を頼む。くれぐれも…人を喰らうなよ」
0:マスターが出ていき、扉が閉まる
ガバラス:「人を喰らうな…か、まだマスターは僕のことを信用してないんだね。僕は…マスターの駒…」
ガバラス:「マスターの駒(ガバラス)なのにね…」
0:3秒、間をあける
ナレーション:いつもの深夜帯は静かな夜になるはずが、仏国(フランス)の繁華街には漆黒の空から光が一線と地面に怒涛の音を鳴らし、舞い落ちた。
ナレーション:大袈裟に降る豪雨のせいで視界が遮られ、周りに視線を向けていても、先が見えなかったのだった。
マスター:「まずいな…この天気で隣町へ行かれたら、大幅に戻る時間を取られてしまう…」
マスター:「それに、この天気にこの低い気温…もしこの天気の中で寝られたら…ヴァンさんの体力が心配だ…ん?何だ…この出血痕は?」
ナレーション:目の前に現れた、まるで引きずられたかのような出血痕を辿ると、そこには出血でだいぶ意識が朦朧としている男の姿があった。
マスター:「!?…ヴァンさん…なんて事だ、酷い出血じゃないか…」
ヴァン:「?…その声は…?」
マスター:「俺の声を忘れたか?」
ヴァン:「マ…マスター?なんで、ここに?」
マスター:「喋らなくていい、シュービアさんがあんたの帰りが遅いって、店に直接泣きついてきたんだよ。まぁシュー(ビアさんが)」
ヴァン:「(遮るように)へへ…おかしいな」
マスター:「喧嘩してでもな、それほどあんたの事を思ってる証拠だろ…おかしい訳が無いだろ」
ヴァン:「違うんだ、マスター…」
マスター:「…?」
ヴァン:「マスターと約束した通り、シュービアにプレゼント渡す為に…会ってるんだよ…」
マスター:「会ってるって…馬鹿な、シュービアさんはあんたとは会ってない口振りだったぞ…?」
ヴァン:「そう…なの…か…?」
マスター:「どうなってる…」
ヴァン:「愛想…尽かされた…かな…」
マスター:「余計な事は喋らなくていい、くそ…血が止まんねぇ…」
ヴァン:「マスター…もう、いい…」
マスター:「ンな事ぁ良くねぇよ!」
ヴァン:「もういい…マスター、あんたの手…もの凄く…震えてるぜ…」
マスター:「ヴァンさん…あんた、私と視点が合わねぇな」
ヴァン:「はぁ、やっぱ…お見通しか…」
マスター:「……」
ヴァン:「マスター…あんたまだ、そこに居るかい…?」
マスター:「…いるさ」
ヴァン:「俺はぁ…昔、金遣いもどうしようも無いズボラで…そのクセ良い歳して尚、フリーターで安定しなかった…」
ヴァン:「そのせいか、彼女に…愛想尽かされてよぉ…振られちまったのさ…」
ヴァン:「日本(にっぽん)のことわざで言う…金の切れ目が、縁の切れ目…ってやつかな…」
ヴァン:「自分自身が…招いたズボラで…愛想尽かされたんだ…笑ってくれ、マスター…」
マスター:「その別れがあってシュービアさんと出会えたんだろ…」
ヴァン:「へへ…でもまた、人の忠告を聞かず…愛想尽かされたんだ…」
マスター:「それはどうかな」
ヴァン:「…?」
マスター:「ヴァンさん、あんた…赤いダイヤの入ったブレスレットをあげたろ?」
ヴァン:「あぁ…」
マスター:「愛想尽いてるんなら、身につけてないはずだろ?」
マスター:「あんたが思うほど、シュービアさんは送迎に来た時はずっと笑顔だったぜ…?」
マスター:「今日の送迎の事だって…」
ヴァン:「マ…マスター…?」
マスター:「あぁ…何でもない」
ヴァン:「1つ…良いか?」
マスター:「なんだ…」
ヴァン:「俺に…タバコを、貰えないか?」
マスター:「…俺のタバコで良ければ」
ナレーション:マスターはヴァンの口に煙草を咥えさせ、火をつけた。
ヴァン:「(咳き込む)…うめぇ、最期にマスターと…同じのを吸えて、嬉しい…あり…がと…」
ナレーション:ヴァンのタバコが湿気って火は消え、雨音の主張が激しくなる。
マスター:「…ヴァンさん、あんた…俺にやり残した事があんだろ…まだ貯まっているツケ、それに…まだあんたにブレスレットを返せてねぇ…」
マスター:「(深いため息を吐き、微笑む)…やってくれたな、ヴァンさん」
マスター:「ヴァンさん、一緒に行こう…独りは寂しすぎる」
ナレーション:マスターは自分が持っていた未開封のタバコをジャケットのポケットに入れ込み、ヴァンを抱えた。
マスター:「冥土の土産として持っていけ…あんたの仇、取ってやるさ」
マスター:「Mr.Smile(ヴァンパイアハンター)の名にかけて…」
0:3秒、間をあける
シュービア:「う…うん…?」
ガバラス:「気が…付きましたか…?」
シュービア:「え…えぇ…」
ガバラス:「首元…まだ痛みますか?」
シュービア:「そりゃ、そうでしょ…」
ガバラス:「すいません…」
0:3秒、間をあける
シュービア:「私ね、すごい惚れやすくてさ。付き合っててもすぐ良い人が居れば、すぐその人に乗り換えるのよ…」
シュービア:「もちろん、乗り換える前の彼は始末するわよ?」
シュービア:「私の血に適応されない器は要らないからね」
ナレーション:ガバラスは終始、首を傾げていた。
シュービア:「分からないかしら、坊や?…まぁ、まだ早いわよね?」
シュービア:「それに、例え適応されようとも…その器が実って食用になったとしても、不味ければ一緒に居る意味がないじゃない?」
ガバラス:「シュービアさん…さっきから何を…?」
シュービア:「あら、あなたもそう思ってくれるわよね?」
シュービア:「不味い彼女とは一緒になりたくないわよね?」
シュービア:「?…あぁ、それとも?」
シュービア:「優秀な後継者を残したいから、身内同士、吸血鬼(ヴァンパイア)同士で付き合うのかしら?」
シュービア:「ねぇ?」
ガバラス:「吸血鬼(ヴァンパイア)同士…?」
シュービア:「えぇ、そうよ?あら、違うかしら…?」
シュービア:「私はあなたに問いかけてるのよ?そう、あなたの血に!」
シュービア:「良い加減に人間の演技を辞めたらどうかしら?」
シュービア:「ブラム一族本家の後継者 カーミラ・ブラムくん?」
ガバラス:「カ…カーミラ…ブラム…」
シュービア:「そうよ、あなたは暗示を掛けられている…1人の吸血鬼(ヴァンパイア)ではなく、ましては人としてでもなく…」
シュービア:「警察犬みたいな扱いを強いられている、吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターの駒…駒(ガバラス)としてね?」
ガバラス:「そ…そんな…」
シュービア:「そして私の名前は、シュービア・ブラム…あなた同じ血筋の1人…」
シュービア:「そしてあなたを種から育てた母体でもあるのよ?ふふっ」
ガバラス:「う…うそだ…」
シュービア:「さぁ、坊や?…1つ、昔話をしてあげましょう」
ガバラス:「聞きたくないっ!」
シュービア:「ある屋敷に2人の男女が訪れました。1人は日系人の修道女(シスター)、もう1人は黒いコートを羽織り、片手にはロングバレルのマグナムを持っていた男…」
ガバラス:「も…もしかして…」
シュービア:「そう、その時はとある少年のお誕生会の後でした。でも2人が来訪された際には、お屋敷に少年含め本家の吸血鬼(ヴァンパイア)はおらず、私達分家の吸血鬼(ヴァンパイア)しか居ませんでした」
シュービア:「もちろん、分家の力は本家より強くありませんでした」
0:ここから少しずつ、シュービアの感情を爆発させる
シュービア:「当時16歳だった私は家族、使用人、そしてお屋敷を失った。あの2人によって…」
シュービア:「私ね、見ちゃったのよ…外でその2人が仲良く仕事後の長い接吻(キス)をするところを。そして察した。あの2人は相棒としてじゃなく、男女の仲だ。互いに大事に思い合っている仲だと」
シュービア:「それからは簡単な話…互いに大事に思い合っている仲なら、どちらか一方を奪えばいい」
シュービア:「私にとって大事だった家族や、親しかった使用人、思い出深いお屋敷を奪われたようにね。自分を愛してくれた人を亡くした逃れられない痛み、苦しみを味わえば良いのよ…」
シュービア:「そこで私は、仏国(フランス)議員でもあり、当時の本家の当主に頼んだのよ…」
シュービア:「そしたらどうよ、数日後には修道女(シスター)が狩れた」
シュービア:「そして本家でパーティが開かれ、一族総員が食べた…もちろん、坊やも…ね?」
ガバラス:「シュービアさん…あんた、何が言いたいんですか…」
シュービア:「こう言いたいのよ…」
シュービア:「料理に使用された肉は…修道女(シスター)改め、坊やのご主人様の相棒でもあり、婚約者の肉だって事を言いたいのさ!」
ガバラス:「(嗚咽)うっ…ぐっ…」
シュービア:「吐きだすなんてもったいない…」
シュービア:「あんな身が引き締まっている脂身の無い肉を…」
ガバラス:「黙れっ!」
シュービア:「役目を終えたら食べられる者のとこで食べられる、食物連鎖の基本よね?」
シュービア:「でも、私は違う。役目を終えた…不味そうな男は食べたくない。けど…あの彼は違った」
シュービア:「いずれ美味しくなる素敵な器の予感がしたのよ。だから育てる為に結婚し、なに不自由なく、過剰なストレスを与えない為にコネを使い、彼を管理職にまで昇格させた」
シュービア:「でも、あの人は私と出会う前は遊び呆けていたらしいの。私と出会って、キッパリと遊ぶのを止めた…」
シュービア:「真面目すぎるのもまた、ストレスを与えてしまう…だからまた、遊びを教えてあげた」
0:3秒、間をあける
シュービア:「だけど、それが間違いだった。あの人は私に何も言わずに毎日毎日飲みに行った」
シュービア:「その度に育てている最中の夫を失わないように迎えに行った。あの人の身体は次第にお酒やタバコでボロボロになっていき、私が植え付けた吸血鬼(ヴァンパイア)の種も枯れ始めていた…ただ、枯れるには少しスパンが短くなっていた気がしたけど…」
シュービア:「だから、鮮度をこれ以上落ちないように「お酒とタバコを辞めて欲しい」っと言った」
シュービア:「でも、あの人は聞いてくれなかった。これ以上はもう実らない、腐る前に始末しようと思った」
ガバラス:「…え、じゃあ…ヴァンさんは…」
シュービア:「さぁね、もう息絶えてる頃でしょ?まぁ案の定、食べたけど不味かったわ…」
ガバラス:「そんな…」
シュービア:「分かるわよね、この気持ち…同じ人種(ヴァンパイア)なら…」
ガバラス:「違う…」
シュービア:「私から発せられる吸血鬼(ヴァンパイア)独特の匂いで目が覚めた、人にはバレないけれども、吸血鬼(ヴァンパイア)同士だとバレちゃうものね」
ガバラス:「違うっ!」
シュービア:「違うかしら?あなた、人を喰らわない自信があるっていうの?」
ガバラス:「っ…」
シュービア:「例え暗示は掛けられていても、本能には抗えないものよ?」
ガバラス:「違…う…」
シュービア:「毎日質素で足りない栄養を摂取するよりは、坊やの本能のままに動いたら?」
ガバラス:「嫌だっ!」
シュービア:「…あなた、坊やの割には骨のある子ね?」
ガバラス:「嫌だ嫌だ嫌だっ!」
ガバラス:「僕は…僕は、あの人に拾われて…人としての在り方を教えてもらった…」
シュービア:「人間風情の駒の立ち位置が…ねぇ?」
シュービア:「ふざけるのも大概なさい!」
ガバラス:「人間は…地に堕ちたもんじゃない…そんな脆い生き物じゃない…」
シュービア:「マスターの婚約者を喰らった一族なのに?」
ガバラス:「そんな一族なんて知らない」
シュービア:「あぁらあら…上流階級の貴族にして、一流の吸血鬼(ヴァンパイア)であるブラム一族の皆々様が聞いて、さぞ失望致す事でしょうね?」
ガバラス:「それでも…それでも、僕は…」
0:3秒、間をあける
シュービア:「あの人の養子(子ども)、だって言いたいんだ?」
シュービア:「いずれあなたも用済みになれば執行される」
シュービア:「誰よりも吸血鬼(ヴァンパイア)の一族への憎悪がズバ抜けて高い…」
シュービア:「あなたのマスターはね、昔はそんなパッとしない強さだった…けど、修道女(シスター)が来てからか強くなり、さらには婚約者を失ってからも一段とキレが変わった」
シュービア:「憎しみと恨みが籠った、美しいハンターになった」
シュービア:「そして彼は自身のハンターコードを自ら「Mr.Smile(ミスタースマイル)」と名乗ったわ…」
0:扉が思い切り開く
0:3秒、間をあける
シュービア:「あら、急に入ってきて女性(レディ)に銃口を突きつけるなんて…」
マスター:「1つだけ訂正しておこう、私は「Mr.Smile(ミスタースマイル)」ではなく…」
マスター:「Mr.Smile(ミスターすみれ)だ」
シュービア:「!?…早いわね」
マスター:「悪いな、あまりにもベラベラ喋るものだから入る間を考えていた」
シュービア:「やだあなた…この人もお持ち帰りしてきちゃったの?」
シュービア:「でもあなた…良い器してるわね?…私とどう?」
0:3秒、間をあける
シュービア:「はぁ…冗談も通じない男はモテないわよ?」
マスター:「生憎だが、血の気の多い女には興味が無い」
シュービア:「あらじゃあ、あなたの婚約者には色気がお有りだったのかしら…?」
マスター:「悪いがお喋りは得意じゃないんだ」
シュービア:「残念なオ・ト・コ。そりゃ残念よね?自分のハンターコードを婚約者の名前にするくらいだもんね?」
シュービア:「ねぇ、す・み・れ…?」
0:銃声
マスター:「お前の口からその名前を発するな」
シュービア:「危ないわね…頬に傷付いちゃったじゃん…でも、あの子に当たらなくて良かったわね?」
ガバラス:「マ…マスター…」
マスター:「…その怯え方、聞いたんだなガバラス…あまり真実を知って欲しくは無かった」
ガバラス:「ご…ごめんな…さい…」
マスター:「謝ることではない。謝ったところで、あの子は戻ってこないんだから…」
マスター:「それに俺は、ガバラスを恨んじゃいない。俺が恨んでいるのは、ブラム一族と、今目の前に居るシュービアさ」
ガバラス:「でも…僕…」
マスター:「お前は吸血鬼(ヴァンパイア)ではない、俺の…歴とした養子(子ども)だ」
ガバラス:「うんっ!」
ナレーション:その時、油断して銃がシュービアに蹴り上げられて空中を舞った。
シュービア:「あら、ごめんなさい。私の綺麗な美脚が遊んでしまってぇ!」
シュービア:「…でもね、あなた達の仲良しこよしは、もう飽きちゃったのよ。終わらせて…あ・げ・る」
マスター:「おい、待て!」
シュービア:「さぁ坊や…捕まえたわ、あなたが人間として失いたくないのはなーに?」
ガバラス:「お…お父…さん…」
シュービア:「お父さん?あなたが失いたくない目の前のお父さんは、偽物だよ?」
シュービア:「本物のお父さんはね、あなたがここに連れてこられる際に…あの吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターによって殺されたのよ?」
ガバラス:「……」
シュービア:「あなたは本物のお父さんより、偽物のお父さんを大事にするのかしら?」
ガバラス:「僕は…僕は…」
シュービア:「さぁ…どうする…?」
ガバラス:「僕は…僕は、人間だ!」
シュービア:「いいえ、あなたは私ら一族の子よ?」
ガバラス:「違うっ!」
シュービア:「血は抗えないの」
ガバラス:「違う、僕は…人間だ!」
シュービア:「くどいっ!」
ナレーション:シュービアの振りかぶった右手が、ガバラスの頬を引っ叩かれた。ガバラスはその場に倒れ込み、気を失った。
シュービア:「本当にこの子は…人の言うことが聞けないわね…」
マスター:「俺の養子(子ども)だからな」
シュービア:「…頭が狂ってるとしか思えないわ」
マスター:「さぁ、お喋りはここまでだ。大してタイプじゃねぇ女とお喋りを楽しむ時間なんて無いんでね」
シュービア:「…失礼な人ね。でも私も、あなたはタイプじゃないのよね」
マスター:「そいつは奇遇だな」
シュービア:「何でそんな余裕が持てるのかしら?あなたのご自慢の銃はここにあるのよ?」
シュービア:「あなたに勝ち目なんて無いのよ!」
マスター:「いつから私の武器が銃一丁だけだと?」
シュービア:「!?」
マスター:「まず、相手は俺じゃない」
ナレーション:マスターはジャケットの内ポケットから、十字架のネックレスを取り出した。
シュービア:「あれは…修道女(シスター)だけが持っているもの…」
シュービア:「そう、婚約者の形見ね?最期の命乞いなら…お断りよ!」
マスター:「今から行う大罪にお許しを。そして、これから執行されるシュービア・ブラムに神の御加護を」
シュービア:「この言霊は…あの頃にあの修道女(おんな)が唱えていた…言霊…」
マスター:「ガバラス、執行せよ!」
ナレーション:その言霊に、ガバラスの体が2回り大きくなり、差し伸べた手でシュービアを鷲掴みにした。
シュービア:「Mr.Smile(ミスターすみれ)…これが…このやり方が許せられると思ってるのかしら?」
シュービア:「人としての禁忌を犯してないかしら!」
マスター:「私はこれで良いと思っている。何せ、憎きブラム一族を、このブラム一族の1人が片付けてくれる」
マスター:「必要不可欠なんだ…」
シュービア:「はぁ…酷く落ちぶれたものね、あなたは誰よりも憎悪が籠っているハンターだと思っていた」
シュービア:「所詮はあなたも、弱く脆い人間様の子…」
ナレーション:シュービアはマスターに何かを投げつけた。
マスター:「?…この骨は?」
シュービア:「あなたもお分かりかもしれなかったけど、あんたの婚約者にはもうじき産まれる子どもを、お腹に抱えていた証よ」
マスター:「な…何でこれを、何でお前が持っているんだ」
シュービア:「ブラム一族もまた、人としての血族…だからさ」
シュービア:「それに…」
シュービア:「私もこの子を産んでいる母体の1人だからさ」
0:3秒、間をあける
ナレーション:鈍い音を立たせながらシュービア・ブラムは執行された。我が子の手によって…
マスター:「人としての…血族…か」
0:3秒、間をあける
ナレーション:それから間もなくヴァンの葬儀も行われた。最期にはヴァンの手首に2人のブレスレットを身につけられ、安らかに埋葬された。
ナレーション:ガバラスとマスターは手を合わせ、いかなる形であれども、彼らの今後の幸せを願った。
0:少し間をあける
ナレーション:貴族に扮した吸血鬼(ヴァンパイア)の家系は、ブラム一族を筆頭に枝分かれしている。が、彼らの大半は年々減っていく一方であった。
ナレーション:そう、あのハンターがいる限り…
0:3秒、間をあける
ヴァン:(兼役・新聞記者)「なぁ、知ってるか?マスター?」
マスター:「何でしょう?」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「また出たんだよ!Mr.Smile(ミスタースマイル)が!」
マスター:「Mr.Smile(ミスタースマイル)…ですか?」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「そうだよ!あの吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターを記事にすると即時に新聞が完売しちゃうんだよ!」
マスター:「吸血鬼(ヴァンパイア)ハンターに新聞の宣伝効果は無いと思うんだけどな…」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「何か言った?」
マスター:「いやぁ、何でもないよ」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「そうか…?それよりマスターはMr.Smile(ミスタースマイル)の存在を知ってたっけ?」
マスター:「(少し微笑みながら)Mr.Smile(ミスタースマイル)…知らないですね?」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「知らない!?あの情報網のマスターが!?」
マスター:「その噂はどこで流れるのやら…」
マスター:「ガバラス…」
ガバラス:「マスター…匂う…」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「?…どういうことだ?」
マスター:「吸血鬼(ヴァンパイア)風情が、仏国(フランス)新聞のライターになりすまして情報を引き出すなんて良い度胸ですね」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「ハナっから店を貸切にして銃口を突きつけるなんざ、さてはやる気だなぁぁあ?」
マスター:「1つだけ言っておこう」
ヴァン:(兼役・新聞記者)「あぁ?」
マスター:「俺はMr.Smile(ミスタースマイル)じゃねぇ…Mr.Smile(ミスターすみれ)だ!」
ナレーション:この日の夜、1発の花火が店内に響いた。マスターとガバラスはそっと、手を合わせた。
マスター:(N)ブラム一族が「人としての血族」として信じ切れる日まで…
マスター:(N)この世を見ぬまま終えた「我が子」と婚約者(すみれ)が救える日が来るまで…
マスター:(N)俺の時間はまだ、止まったままさ…すみれ。