台本概要

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タイトル Eve of Ruin
作者名 舟、  (@@fune_ypa)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男2) ※兼役あり
時間 60 分
台本使用規定 台本説明欄参照
説明 タイトル「Eve of Ruin(イヴ・オブ・ルイン)」
こちらは、舟、もそう思います( https://twitter.com/fune_ypa )×パイナップルMAN( https://twitter.com/MAN24307569 )の合作台本です。

作中に過激な内容や発言が微量ながら含まれています。ご使用の際はご注意ください。
また、本作に政治的な意図は一切ありません。そのほどもご理解ください。

【利用規約】
自作発言以外ならご自由に。
性別変更や語尾の言い回し。アドリブから何まで何でもありです。
使用時の連絡は必要ありませんが、連絡があれば嬉しいです。
また、告知の際のメンションなど、問題ありません。いや、寧ろしてください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
チャールズ 88 設定は男。チャールズ・アルバート。自身の創った破壊兵器により、大量の人命が奪われたことに対し、苦悩し、後悔する。戦後は廃絶派一派に回る。
ハリソン 89 設定は男。ハリソン・スコット。自尊心が高く、「兵器」を賛美し、「兵器」に傾倒している。その実は劣等感の塊。戦後は推進派の第一人者となる。
不問 5 ナレーション。どちらかが兼ねるか、どちらもが兼ねるか。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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N:時は、大戦末期。某国国立研究所では、大戦を終結させるに足る兵器の開発が、極秘裏に進められていた。 チャールズ:「いやぁ…戦争が始まってはや六年か。時の経過というのは、いやに早いものだな、ハリソン。」 ハリソン:「ああ、まったくだよチャーリー。まぁでも、まさか先の大戦を超える新たな大戦が起こるだなんて、誰も想像していなかっただろうさ。侵略戦争ほど、非生産的なことは存在しないんじゃないかな。」 チャールズ:「うむ、その通りだよ。だから、我々が居るんだ。我々が科学を以てして、戦争のない明るい未来を創るのだよ。」 ハリソン:「ふ、違いない。にしても、東の神州とやらは、国力が疲弊しているというのにやけにしぶとく粘る。徹底抗戦にしたって、肉体もそうだが精神が持たない。いや、科学では到底推し量れない精神力をしているよ。」 チャールズ:「彼らの精神がどんなものか調べてみたい気はするがね。確か彼らには侍の心というのがあるのだろう?一度会ってみたいものだ。」 ハリソン:「やめとけやめとけ。国のために無駄死にすることをさも美学のように扱う野蛮な民族だぞ?会ったら何をされるか知れたもんじゃない。僕はごめんだね。所詮、あの冷たいコミーどもと変わらないさ。」 チャールズ:「そうやって一括りにしてしまうのは君の良くない癖だぞハリソン。彼らには彼らの文化がある。見もせずに知った気になるのはいただけないね。」 ハリソン:「ふん、些末なことだよ。あんなのの文化なんて、尊重するだけ無駄さ。」 チャールズ:「尊重するだけ無駄な文化などないよハリソン。君は一度世界を回ってみるといい。そうしたらその凝り固まった頭も少しは柔らかくなるかもしれない。」 ハリソン:「世界、ね。そんなこと言ったって、僕は嫌われ者のY人だよ?どこへ行こうと除け者だ。あの狂ったライヒは勿論。他の国からだってね。」 チャールズ:「そう悲観するなハリソン。そうやって人を何かで纏める奴らは放っておけ。」 ハリソン:「なんだ?皮肉かい?」 チャールズ:「まさか、とんでもない。純粋な私の気持ちさ。」 ハリソン:「ふ、そうかい。そうなら、そう受け取っておくことにするとしよう。今回はね。少なくとも今回は。」 チャールズ:「君の優しさに感謝するよ。さてと、我々はこの戦争がいち早く終わる事を願うと共にそのために尽力するだけさ。」 ハリソン:「あぁ、もちろんそうだとも。その為の僕ら科学者であり、その為の化学だ。」 チャールズ:「科学者は科学のためなら何事も厭わない。そう言いたいのか?」 ハリソン:「んふ。それは君の口癖だろ?最近は僕にもそれが移ってきてる。でも、いい傾向だと思ってるし、いい言葉だと思ってる。最高だ。」 チャールズ:「ふ、やけに素直な言葉を選ぶじゃないか。科学者が化学と何かを天秤にかける時はいつだって科学の方に傾いてしまうものさ。そうあるべきなんだ。」 ハリソン:「うん。全くもってその通りだ。なぁチャーリー、君のような人間こそ、僕は本当の意味での科学者だと考えている。だから僕は、君とこうしてこの壮大な実験に共に参加できたことを誇りに思っているんだ。」 チャールズ:「滅多な事は言うもんじゃないぞハリソン。そういった言葉はついぞ全てが終わった時のために取っておけ。」 ハリソン:「そうだね。時期尚早過ぎたかな。悪い。」 チャールズ:「焦ったって仕方が無いからな。どっしりと構えて受け止めるんだぞハリソン。それで?どうなんだ、そっちの調子は?」 ハリソン:「ああ、うん。こっちは、まあ、ボチボチかな。レンズの爆薬が作用するベクトルの統一が、構造上の課題として残ったくらいだよ。そっちは?」 チャールズ:「ふは。順調も順調だ。いよいよ、最終過程に向かう途上だ。レンズの開発は一先ず後に回して、君もこっちに来て手伝いたまえよ。」 ハリソン:「ん。なんだ、そっちはもうそんなに進んで…おぉ…おお!凄い!凄いじゃないか!分裂反応がここまで美しく!」 チャールズ:「はは、このまま数値の安定を維持すれば、じき臨界前へとステージは進む。ハリー、グラフの確認を頼んだ。」 ハリソン:「分かった。(間)…27…54…108…216…うん、グラフは正常に推移していっているよ。これなら、文句なしに臨界を迎えられるはずだ。…そうなれば、」 チャールズ:「(被せて)大量の放射線が放たれ、コイツは立派な兵器となる。忌々しい戦争を終わらせることのできる兵器にな。」 ハリソン:「戦争を終わらせる兵器…うん、いい響きだ。素晴らしい。素晴らしいよ。…ここまで、ここまで長かった。長い長い夜だった。」 チャールズ:「あぁ、長かった。…本当に、長かった…。だが、もうすぐその夜は明ける…明ける、はずだ……」 ハリソン:「…チャーリー…何か不安か?」 チャールズ:「いや…ちょっと…ううん、なんでもないさ。ひと段落ついたら、コーヒーブレイクでも挟もう。」 ハリソン:「ん、そうだな。朝からぶっ続けだったからな。チャーリー、完成はもう目前だ。無理はほどほどにしてくれ。世界を救ってお前が死んでは、いやはや救いようがない。些細なことでもいい、相談してくれ。」 チャールズ:「あぁ、それは、もちろんだ。」 N:S歴19XX年7月。A合衆国N州にて、世界初となるそれの起爆実験は行われた。その絶大な威力を目の当たりにした研究チームは、恐れ戦き、歓喜した。 N:そして、同年8月。 N:蛮人の住まう島国、N帝国の二つの都市へ、それは投じられた。 N:それの火花は、千差万別全ての人間を飲み込んだ。それは、軍人だろうと民衆だろうと、或いは自国の捕虜であろうとお構いなしに。 N:犠牲者は、推定20万人にも昇った。 N:N帝国はこれが決め手となり、白旗を高く突き上げた。 N:これによって世界には、再び泰平が取り戻された。 N:死の兵器による、安寧が。 チャールズ:「すまない、すまない。私が悪かった。あぁ、なんてこと…やめろ!やめるんだ…やめてくれ!!はっ…!!(荒い呼吸と深呼吸)」 0:(玄関のベル音) ハリソン:「チャーリー。僕だ。ハリソンだ。開けてくれ。」 チャールズ:「あぁ、ハリソン。少し待っててくれ。すぐ行く。」 0:(間) ハリソン:「久しぶりだな。随分顔色が悪い。何かあったか?」 チャールズ:「……悪夢を見たんだ」 ハリソン:「悪夢?なんだ、もしかして、あの兵器の?」 チャールズ:「それ以外に何があるというのだ!あんな兵器、世に出すのは間違いだったんだ!創るべきじゃなかった!」 ハリソン:「ぉ…おい。ふざけた事を言うのは止せ。あれは君の為した功績、成果そのものだ。負い目を感じる必要など微塵もない。胸を張って生きたらいいんだ。 何が君をそこまで跛行させる?」 チャールズ:「跛行……?跛行なんてしちゃあいないさ。ただ、ただ頭の中を過るんだ。我々は何のためにあのような恐ろしい物を創ったのか、と。なぁ、教えてくれ。君があんなものを推し進める意図を。」 ハリソン:「平和だよ。あれは平和を維持するための暴力だ。大儀ある暴力だ。あれの絶大な威力を見た世界は、その力を我が物にするため躍起になった。その結果、互いに牽制、抑制し合い、戦争を嫌悪した。これだけでも奨励に足る素晴らしい兵器だと証明が出来ている。」 チャールズ:「それは驕りだよ、ハリソン。我々はそうやって驕ってしまったのだ。まるで神話かのような力を見せつけ、恐怖をもって治めた。そうやって、愚かにも神を気取ったのだ。あれは人類の触れていい領域ではなかったのだ。」 ハリソン:「科学に聖域はない。神なんて論拠のない愚者に僕らを堕とすのはやめるんだ。僕らは新たな秩序を創り上げたんだ。秩序の弱った世界は、再びあの大戦を呼び覚ますに違いない。それともなんだ?君は今の秩序を捨てて、またあの地獄を見たいとでも言うのか?」 チャールズ:「そうじゃない。私もあの大戦に戻りたい訳ではないのだ。ただ、これからの未来、もし、あれが戦争に利用されでもしたら……。それによって失われる命は?きっと悲惨だ。科学者は未知を既知にすべく未知を恐れてはいけない。だが、今回に関して言えば、その限りではないのだよ。なぁハリソン。今の君は、一種の狂信者となんら変わらないのではないのか?」 ハリソン:「……僕は、そんな陳腐な信仰で動いていないよ。もういいチャーリー、僕はこんな話をしに態々ここまで来たんじゃない。」 チャールズ:「そうか。それで、要件はなんだ?」 ハリソン:「単刀直入に。昨日、新型の実験が成功した。威力はなんと、従来の20倍以上だ。」 チャールズ:「なっ…んだと…?まだあんなものに力を注いで...それに20倍だと…?っ…馬鹿馬鹿しい。…それでなんだ、君はまさか、そんなことを私に自慢するために、ここへ来たのか?」 ハリソン:「違う。これは、僕のエゴだ。政府は…君を、案山子の英雄として葬り去ることを考えているそうだ。だが、そんなのは、あんまりだ。君は何よりも科学者であり、あの兵器の父親でもある偉大な男だろう?」 チャールズ:「案山子の英雄か…ははっ、開発の第一人者である私も今では厄介者扱いか…」 ハリソン:「…君は、政府の言う案山子でも、民衆の英雄でもない。僕の一人の友であり、尊敬する科学者だ。だから、もう一度…もう一度、戻らないか。今一度一緒につみを…いや、僕の、隣で、実験を共にしてはくれないか?」 チャールズ:「……なんだ、私の席は、まだあるのか。」 ハリソン:「(頷く)チャーリー、また共にあの日々を過ごそうじゃないか。あの素晴らしい実験の日々を、あの活気ある栄光の日々を…! ハリソン:チャーリー、これを受け取ってくれ。これは、僕の施設の鍵だ。君が戻ることを僕は信じて…」 チャールズ:「(被せて)すまないが!私はあの日々に戻る気は毛頭ない。空いた席には、君らの愛でる死神でも座らせておきたまえ。はっきり言うが、私は金輪際、あれと関わる気はない。」 ハリソン:「な、何故?!何故なのだ!!チャーリー!!我々の研究はようやく、その殻を破り孵ったのだ!そしてその雛は、成長しようと歩一歩と道を歩んでいる!この歴史が刻まれる瞬間を見届けなくてどうするのだ?!」 チャールズ:「その雛は!!今、その歩みにより着実に人類を、延いてはこの世界に引導を渡さんとしている!そうなれば歴史も何もない!まっさらだ!どうしてわからない!あれは既に何十万と人を殺した。そこに感情は介在してない!ただ事実として、男も、女も、建物も歴史も文化も、消し去った。」 ハリソン:「そ…それは…その…あ…あれは…必要な死だ…!壊し尽くすべき文化と、殺し尽くすべき低俗な猿どもを我々は我々の科学で浄化した!そこに慈悲だとか後悔だとかは毛ほども必要ない!む、むしろ、寧ろ感謝されて当然なくらいだ!」 チャールズ:「必要な死だと…?!今お前は必要な死と言ったのか…?そんなものあるわけがないだろう!壊すべき文化も、勿論必要な死も、あるわけがない!感謝だと?感謝など甚だしい!以ての外だ!」 ハリソン:「っ…君はいつから、いつからそんなに臆病になったんだ!昔はもっと野心的で遮二無二に科学を踏破しようとする男だったではないか!科学者足るもの、科学の為の犠牲を嘆くなと言ったのは君じゃないか!!」 チャールズ:「あぁ、確かに。過去の私はそうだったのかもしれない。だが、お前はあれを見て何も感じなかったのか?ただ無慈悲に人を殺すだけのジェノサイドを見て。(声のトーンを少し下げて)あれは、、あれは科学のための犠牲などでは決してない。所詮、政治のパフォーマンスだよ。」 ハリソン:「あ…あれが、僕らの科学が、政治屋の玩具だと言いたいのか…?君はそう言いたいんだな……?」 チャールズ:「あぁ。そうだ。……いや、そもそも、あれは誰かの手に収まるほど生易しい物じゃないのかもしれないな、ハリソン。人類には、過ぎたる力だ。」 ハリソン:「……そうか。そうか。チャーリー、分かったよ。よく分かった。君は骨なしの倫理に絆された、目的を見失ったどうしようのない愚かな科学者崩れだと分かったよ。訣別、だ。君に情を沸かせた僕が間違っていた。」 チャールズ:「そう、か。君の研究が、徒労に終わることを祈るよ。それが、世界平和へのただ一つの道だから。」 ハリソン:「……そうは、ならないさ。必ず、世界は暴力によって正される。そう、必ず。僕は、その最後の審判が行われるその日まで、刻々と量産と改良を進める。何としてでも。どんな手を使ってでも。君はこの質素な邸で、指を咥えて見ていればいいさ。……もう二度と、僕がここへ来ることはないだろう。さらばだ、愚かなチャーリー。」 N:「二人の天才の決別に無関心なように、月日は無慈悲にも流れた。世界では、各地で起こる小規模な紛争を契機とした、新たな大戦の引き金に指がかかっていた。 N:それに伴い、絶滅兵器の各国間の開発競争も勢いを増し、世界滅亡を知らせるラッパの音は、誰もが気づかぬ間に、その吹鳴を大きく近づけていた。」 ハリソン:「……僕は、僕は、科学者だ。偉大な、科学者だ。僕は、この所長の席にまで上り、その栄誉と責任を求められている。僕の手には、人類の希望が握られているのだ…全ては世界の平和のため、人類の平和のため、平和のため、平和のため、、」 チャールズ:「、、やぁ、ハリソン。またここへ来ることになることになるとはな。ふ、思ったより変わっていない。なんなら昔そのままだ。」 ハリソン:「な!?チャーリーどうしてここへ…!?警備はどうした…だ、誰か…!!」 チャールズ:「待て。落ち着け、ハリソン。話を聞け。」 ハリソン:「っ…君と話すことなど何もない…!」 チャールズ:「まぁ、そう言わずに、な?すごく久しいんだ、話をしようじゃないか。」 ハリソン:「何が、、何が久しいだ!ふざけるのも大概にしてくれ!君とはもう会わない、僕はそう言ったはずだろう!?それに、どうやってここへ入ったんだ!ここは政府関係者以外の立ち入りは認められていない!」 チャールズ:「ふは、みなまで言う必要があるか?君が来いと言って、これを置いて行ったんだろう?」 ハリソン:「な…それは…!?施設の…」 チャールズ:「あれから随分と時は経ったはずだが…期待半分で使ってみて正解だった。まさか、まだ機能しているとはな。おかげで乱暴な行動を取らずに済んだよ。感謝する。」 ハリソン:「……何しにここへ来た?まさか、また開発をやめろだなんて口うるさく言いに来たんじゃあるまいな?」 チャールズ:「もちろん、そんな野暮な事をするつもりは毛頭ない。第一、君がそんな言葉で絆されるとは微塵も思っちゃいないさ。」 ハリソン:「ふ、よく分かっているじゃないか。僕は君の様に、愚かに絆されたりはしないからね。…さっさと用件を言え。グラシンほどの薄っぺらな事なら、すぐに警備隊をここに寄越してやる。」 チャールズ:「ふは、そこは君の判断に委ねようじゃないか。で、あれから研究はどれくらい進んだんだ?自慢するようで少しあれだが、主要な研究員が1人減ったんだ。どうかな?実験は滞りなく進んでいるかい?」 ハリソン:「お生憎様で。こっちはとても順調だよ。新型の開発を進めるために、新しい人員が補充されてね。入ってきた若いのは優秀だよ。前よりもっと高度な段階の研究が進められているさ。」 チャールズ:「おぉ、そうかい。ならそろそろ、君のその鈍重そうな所長の席も奪われてしまうのではないかね?老体に鞭を打つのは、さぞ辛かろうに。 」 ハリソン:「抜かせ、道も忘れた老いぼれが。僕はこの席を離れるわけにはいかない。もっとも、君のようにならないためにもね。聞いたぞ?奥さんが赤狩りの犠牲になったそうじゃないか。そちらこそ、さぞ肩身が狭い思いをしているんじゃないかな?」 チャールズ:「黙れ!それは今関係のない話だ!」 ハリソン:「いいやあるね!関係大ありだ。君は剰えコミーとの開発競争に反対の立場を取っているんだからね。もしかして、いや、もしかしなくても、君も赤のスパイじゃないのかい?赤の審問官が、胃袋を開いて、今にも君を飲み込もうとしているように見えるのは気のせいだろうか?、、今すぐ捜査局に突き出してやってもいいんだぞ?赤塗れのチャーリー。」 チャールズ:「(舌打ち)またこれか、変わらんな君も私も。いつまで経っても。今日はなハリソン、君と皮肉合戦をするためにここへ来たわけじゃない。やるべきことをするためにここへ来たんだ。」 ハリソン:「ふん、やるべきこと、ね。なら、そのやるべきこととやらを聞かせてもらおうじゃないか。」 チャールズ:「ふむ。なぁ、ハリソン。いや、ハリソン・スコット国立研究所所長様。もし、もしも所長が突然消えたら、この施設で行われている研究は、どうなるのかね…?」 ハリソン:「な、なんだ、急に…?その質問に何の意味があるんだ…」 チャールズ:「聡い君なら、賢いハリソン所長なら、この言葉の真意くらい、容易く分かるだろう?そして、この胸の膨らみの意味も………」 ハリソン:「なっ…だ…や…待て…落ち着くんだ…!落ち着けチャーリー!僕は、ハリソン・スコットは、君の、チャールズ・アルバートの親友のはずだ!か、考え直せ…!!」 チャールズ:「私の親友だったハリソン・スコットはとうの昔に死んだ。今ここにいるのはガワだけ同じの、別の何かに過ぎない。」 ハリソン:「わ…分かった!僕は、僕は何をすればいい!何をすれば君は満足する!」 チャールズ:「何をすれば満足するだと?ふは、君は先程言っただろう。私のちゃちな言葉には絆されないと。私のようにならないためにと。」 ハリソン:「…っ…ふふふ…ふふふふふ…ふは…そうだ、ったな…君の要求には…僕は、応じられない…そう言ったな…。もし君の要求に応じれば、僕の人生は、否定される。あの兵器を…あの化学を…あの技術を…人類の叡智と信じて突き進んだ僕の全てが、消え失せてしまう…そうなるくらいなら…そんな自己嫌悪に飲まれるくらいなら…この命など…瑣末なことに過ぎない…」 チャールズ:「君は良き友だった。数少ない理解者であり、戦友で同志だった。それだけにとても悲しいよ。誤った道へ進む友を他でもない私自身の手で止めるのは。なぁハリソン、あの頃は良かったな、私たちがこの研究に呼ばれたあの頃は。 」 ハリソン:「ぁ…あぁ…あの頃か…あの頃は…二人とも必死だった…お互いに戦争の終結を望んで…血を飲み、汗を拭い合うような仲だった…良かったなぁ…あの日々は…良かったなぁ…あの研究は…」 チャールズ:「、懐かしいな。恥ずかしい話だが私は最初、君を敵視していたんだ。負けてたまるかとね。」 ハリソン:「君がかい?君が、僕を?はは、これはたまげたなぁ。僕は、君と自分を比べて、僕自身を劣った人間だと蔑んでいたのに。君を尊敬し、同時に妬み、僻んでいたのに。君にはそんな風に思われていたのか。」 チャールズ:「そうだ。君にはその卑屈さがあったんだ。それが時にとても恐ろしく感じた。君のそれは限界を超えて君を追い詰める。そして大きな結果を数々と残していった。私は君に負けないよう、必死だったさ。」 ハリソン:「卑屈さ、ねぇ。そんなこと言ったって、君のほうが何もかも上手だったじゃないか。君は生来の天才なんだから…あ、もしかして、皮肉かい?」 チャールズ:「皮肉なもんか、本心だよ。」 ハリソン:「本当かい?」 チャールズ:「あぁ、本当だとも。、、あの時のことを覚えているか。私たちの出会った日のことを?」 0:回想 チャールズ:「やぁ、君が、ハリソンくんかな。私の名前はチャールズ。チャールズ・アルバートだ。これからよろしく。」 ハリソン:「…ふん」 チャールズ:「あっ、あはは。そういえば、君と私は同い年らしいね。ここで私たちは最年少みたいなんだ。肩身は狭いけれども一緒に頑張ろうね。」 ハリソン:「悪いが、気安く話しかけないでくれるかな?僕は馴れ合うためにここに来たんじゃない。科学者としてここに来たんだ。君も、友達ごっこに勤しんでないで、研究をしたらどうだい?天才くん。」 チャールズ:「む、そんなにムキになるのは良くないよ?ハリソンくん。科学者はコミュニケーションを取らなくていいなんてそんなこと教わったのかい?君にも科学者なんて言う自負が少しでもあるのであれば研究と交友関係を見直した方がいいんじゃないかな?ね?雛鳥くん。」 ハリソン:「はぁ?今なんて言った?」 チャールズ:「雛鳥くん、そう言ったんだ。まだ空を自由に飛ぶことも出来ない巣立ちすら来てない雛鳥くん、とね。」 ハリソン:「っ!天才はいいね!努力も何も知らないで、好き勝手物が言えて!親鳥にでもなったつもりか?自分の知恵って餌をみんなに分けてやろうって?はっ、気分が悪いね。」 チャールズ:「あぁそうさ。君は一生懸命虚空をつついて餌を探すといい!何か得られるとは到底思えないけれどもね!」 ハリソン:「…っ!この…バカめ!」 チャールズ:「…クズめ!!」 0:回想終了 ハリソン:「あぁ、もちろん、覚えているよ。あれは酷い生面だった。あの時は実験が思うように進まなくて、気が立ってたんだ…当たって悪かったと思っているよ。」 チャールズ:「いやいや、私もあの時は子供だったんだ。意地を張って悪かったと思っているさ。」 ハリソン:「じゃぁお互い、青二才だったって訳か…笑えるね。」 チャールズ:「出会ってすぐは、誰が間に入っても途端に空気を悪くした。他の研究員には可哀想なことをしたな…はて…いつから私達は心身ともに近づいたのだったか、、?」 ハリソン:「…それは…あれだ。僕らが初めて、分裂反応を発見したときじゃないか?」 0:回想 ハリソン:「ん、これは……物理核が、中性子を吸収して…分かれた…のか…?っ!なんだこれ、凄いエネルギーじゃないか!?おい、誰か!誰かいないのかい!?」 チャールズ:「なんだ!いきなり大きい声を出して!こっちも忙しいんだ!もう少し周りに配慮はできな、いの、か、。 チャールズ:こ、これは、、ハ、ハリソン。これはいったい!」 ハリソン:「なんだ…これだけ研究員が居て、来たのはお前か…。まぁいい、どうだ、お前はこれをどう考える?天才。」 チャールズ:「天才は余計だ。(咳払い)ハリソン。君もわかっているだろうがこれはとてつもない事だ。このエネルギー反応は、やりようによっては連鎖的に作用するだろう。私の経験上、そうなれば莫大な運動が生まれると予想する。」 ハリソン:「莫大な運動?この今でさえ凄いエネルギーよりもかい?」 チャールズ:「当たり前だ。この程度には収まらない。それは何百、いや、何千倍もの力になるだろうさ。…もしかしたら、この戦争を止める力にすらなりうるものかも。」 ハリソン:「この戦争を止める?僕らがか?有り得ない。夢物語は夢の中だけにしてくれ。」 チャールズ:「無いことは無い。フィクションでもない現実の話だ。ハリソン・スコット、私たちは科学者だぞ。」 ハリソン:「ぁ…科学者か、確かに、一理は認めようじゃないか。でもね、もし戦争を止められるほどの力が得られたとして、その力が向けられるのは、間違いなく人だ。それは、果たして善なることなのか?科学者として。」 チャールズ:「確かに善とは言いきれないかもしれない。だがハリソン、科学者は科学と何かを天秤にかける時はいつだって科学の方に傾くものなんだ。ひいてはそれが善へと向くんだ。だからその感情を恐れてはいけないんだ、、と私は思うけどもね。」 ハリソン:「………」 チャールズ:「、、偉そうな事を言うつもりは無かったんだが、、すまない忘れてくれ。」 ハリソン:「いや、違う。そうじゃない。君の科学者としての毅然さがこれほどの物だと分かって、僕の君への認識を改めていたんだ。正直、僕は君のことを、脳だけ賢者な引き腰野郎だと思っていたから。」 チャールズ:「君が思う私とはそこまでな奴だったのかい?」 ハリソン:「あ、いや、まぁ、うん。そうだね。思ってた。だけど今は、実に科学者らしい人間だと思っているよ。うん、僕よりずっと優等な種だ。」 チャールズ:「優秀な種なんて無いさ。ははっ。君はほんとに卑屈だね。そこだけは科学者らしくないな。だがそれ以外は誰よりも君は科学者らしいよ。」 ハリソン:「心にもないことを言うんじゃないよ。美辞麗句はいらない。僕のこと、嫌ってたくせに。」 チャールズ:「心にもないって、、あのねぇ、先に拒絶してきたのは君じゃないか。」 ハリソン:「そうだったっけ?」 チャールズ:「そうだとも。」 ハリソン:「…僕は、君が僕を嫌っているのだと、勝手に頭ですり替えていたのかもしれない…。悪い癖だ。今まで、嫌われてばっかりだったから。」 チャールズ:「ここで君を訳もなく嫌う人は居ないさ、ハリソン・スコット。いや、ハリソン。私たちは、研究を愛する同志じゃないか。」 ハリソン:「…っ…そうだね。そうだったね。僕らは、共に平和を目指し、研究に身を捧ぐ、同志、科学者だ。」 チャールズ:「そうさ。そうだとも。だから私達科学者が、先頭に立って、平和の象徴になる日もそう遠くはないだろうさ!」 ハリソン:「ぇ…えらく仰々しいじゃないか?君らしくない。僕らはあくまで、成果物を映えさせる為の、舞台装置に過ぎない、そうじゃないかい?」 チャールズ:「ふふっ、冗談だよ。成果物…か。ならその成果物は、大切に磨いていこうじゃないか。壊れてしまってはいけないからね。」 ハリソン:「ふはは、うん。…違いない。」 0:回想終了 チャールズ:「あぁ、あれか。全身の穴という穴が震えたのを、今でも覚えている。あの時の感動は、忘れちゃいない。」 ハリソン:「あぁ、忘れてくれるなよ。…あの発見が…僕ら最大の成果だったのかもな。舞台装置の最もの栄光だったのかも。あれがきっかけで、僕たちは親密になり、研究は驚くほど波に乗り始めた。僕らの関係は、尊敬であり、ライバルであり、永遠であると、信じて疑わなかった…」 チャールズ:「いつからだろう、いつから私達はずれ始めてしまったのだろうな。こんなにも分かり合えていたのに。」 ハリソン:「、、あの時からだよ。あの瞬間から、僕らは少しずつすれ違っていった。僕らはすれ違って、すれ違ったまま、あれを作り、作って、作ったんだ。それが、この結末の答えだ。僕らは端から、正義でもあり、悪でもあった。ふふ、裏と裏。表と表。どちらにもなってどちらにもならないから、交わることもない。一しかない賽目に六が出ると賭けた。そんなふざけた賽を気づくことなく振るったんだ…僕は今…その賭けの報いを受けるんだ。でも悔いはない。悔いは…悔いはないんだ…いや、捨てたんだ。あの兵器は…今でも僕の幼稚な拠り所だ。あの子は冷たいが、僕らに愛を与えてくれた…それは、僕にも、そして君にも、平等に、切って離せぬ地獄への片道切符を渡してくれたんだ…途中の道は違えどね…」 チャールズ:「正解や正義なんて体のいい言葉を探して、結局我々は、ただ自分たちの、失った無様な心を満たすような、そのための道を進んでいたのだよ。だから、どこまで進もうと、終点は変わらない。詰まる所、このざまを見れば、結果は明白だろう?ははっ、笑えるな……私も君も……もっと別の道へ進めたのかもしれないな。いや今からでも遅くない…そうだ…これからもう一度やり直せばいい。ハリソン、やり直そう。」 ハリソン:「ふふ、もう一度やり直す権利が僕にあるとでも?もう引き戻せないさ。戻ることなんてできない。それは離陸した旅客機が、もう戻ることのないように。」 チャールズ:「いいや、ハリソン。私達には責任がある。あれを創ってしまった私達にはあれの終焉を見届ける責任があるんだハリソン。旅客機はUターンする訳では無い。あれが消えるまで、その両翼を粉にして飛び続けるんだ。」 ハリソン:「(忘我となって)…そうか…そうかい。ふふ、僕も…同じか。君と同じように絆されてしまうのか。これもまた、運命なのか。」 チャールズ:「あぁ、そうだよ。それでいいんだよ。それが一番いいんだよハリソン。一緒にまた飛び立と…」 0:突如として放たれた警備兵の弾丸にチャールズ倒れる チャールズ:「っ…」 ハリソン:「なっ…!?チャーリー…!?チャーリー!!なんで!どうして!しっかりしろ!しっかりするんだ!チャーリー! ハリソン:(警備兵に向かって)っ…威嚇もなしに射撃することがあるか!!その猛々しいライフルを下して立ち去れ!!そしてさっさと救急を呼べ!緊急だ!早くしろ!!!」 チャールズ:「ハ、ハリソン……」 ハリソン:「やめろ!喋るんじゃない!出血が広がるだろう!」 チャールズ:「、最期なんだ、話を聞いてくれ、、」 ハリソン:「っ…最期なんてやめてくれ。お前は…死んではいけない…!生きているべき存在なんだ…!」 チャールズ:「(被せて)我は死神なり…世界の破壊者なり…」 ハリソン:「は…?何を言って…」 チャールズ:「知らないのか?…これは...とある古代にあった宗教の聖典の一節だ。 チャールズ:私は恐ろしかった。そう...恐ろしかったのだよ。瞬きする間に大量の生物を死に至らしめる...あの兵器が。際限ない破壊を貪る…あの兵器が。...呆然としたよ...あれを創り上げたのが本当に...私なのかと。あれほどまでに欲した平和が...とても遠くに離れていくように感じた。...科学者としての...誇りや矜恃も...何もかもが手からこぼれ落ちていった。 チャールズ:そうしていつからか...私が...私が、どうやったらあれによって死んだ人々から...許されるか...解放されるか…それだけを考えていた...結局は...我が身可愛さで保身に走った哀れな...男だ。 チャールズ:...兵器が...神が...そして君が悪いと...責任転嫁につぐ転嫁を重ね...あげくの......挙句の果てにこうなってしまった。実に、滑稽だな。...ハリソン...君には申し訳ないが、あれの処分は...任せた。これはあの日々を共にしてきた君にしか任せられない......任せられない課題なんだ。」 ハリソン:「っ…やめてくれ…やめてくれよ…僕一人じゃ、その課題はとても叶えられそうもない…だから、だから君は死なせないし、これからも生きていてもらう。僕の責任は君の責任だし、君の責任は僕の責任だ。責任のいたちごっこはもうたくさんだよ。君は生きて、生き切って、あれを廃し、モラルの勝利を勝ち取るんだ…!逃げ道を失って、夢だ平和だと宣い、自己肯定の果ての臆病に苛まれ、改良と躍進に傾倒した僕ではなく、君が!」 チャールズ:「ふふっ、君は変わらないな......その卑屈さは直した方がいいと言っただろう。だがね、私の責任は私が負うものである。これは逆も然りだ。それは変わらない。君がそこまで何かを負う必要は無いんだ。 チャールズ:大丈夫、君はちゃんと立派だ。背筋を伸ばして堂々としていればいいんだ。私は君の味方だ。そして君は私の味方で居てくれる。なぁ、そうだろう?」 ハリソン:「……僕は、僕は君の味方で、味方と名乗って、いいんだろうか…?僕は、君という光に、目を背けたのに…」 チャールズ:「いいんだ、いいんだよハリソン。人はそういう生物だ。だから私はその行為に対して憤りも何も無い。すまないハリソン。少し眠たくなってきた。あとは、あとは任せたよ。」 ハリソン:「チャーリー…チャーリー…!おい…!おい、チャールズ!チャールズ!!!」 N:「こうしてチャールズ・アルバートは倒れた。しかし、彼が欲した死は彼を拒んだ。死んでいるのか生きているのか、チャールズは植物状態のまま今も尚、病院のベットに横たわっている。一人の科学を捨てた者は皮肉にもその科学によって生かされているのである。 N:ハリソン・スコットはチャールズの約束を友から託された使命を果たすべく廃絶運動を始めてから3年が経とうとしていた。」 ハリソン:「本日、この場へお集まりいただいた有識者並びに放送各社の皆様。また、レンズ越しにこの会見を覘く世間の皆様。ご機嫌よう。 ハリソン:ぼく、いや、私は科学者、ハリソン・スコットです。 ハリソン:皆様に本日私がお伝えしたいのは、皆様も大いにご存知であろう、とある兵器の、処遇についてです。 ハリソン:私は、今から凡そ20年前、その兵器の開発に携わりました。 ハリソン:それは、とても巨大で、感情のない、世界を変える獣のような兵器でした。 ハリソン:我々は当初、この獣の誕生を、凄まじき救世主の誕生と捉え、美化し、崇め奉った。技術の革新だ。科学の勝利だ。人類の叡智だと。 ハリソン:しかし、現実は違った。 ハリソン:獣は獣でも、終末論の黙示録の獣、詰まる所、世界の終焉を望む狂気の魔獣に過ぎなかった。 ハリソン:死を浴び、破壊に酔う、地獄の使いに過ぎなかったのです。 ハリソン:私の親友は、その魔獣に抗い、食い止めようとし、最期は知性を食らわれた。 ハリソン:私は、愚かです。愚かな科学者崩れです。私は、獣を生んだ自分の非を認められず、世界に造反し、獣を歓迎した。 ハリソン:その結果、友を失った。 ハリソン:だから、皆様には、世界の諸国民の皆様には、どうか、この獣を殺す手助けをしてもらいたい。 ハリソン:勝手なお願いなのは分かっています。自分の後始末も出来ない無能なのは分かっています。 ハリソン:ですが、この獣をこの世から滅さなければ、後で終末の惨禍を見るのは、我々人類なのですから。」 0:(拍手と喝采の嵐の中、会見から立ち去ろうとしたハリソンへ向かって一発の銃声が鳴り響く) ハリソン:「……っ…!……あぁ…?…はぁああ…ぅぁ……………」 N:「どこからか放たれた一発の凶弾は、奇しくも三年前、チャールズ・アルバートが貫かれた箇所と同じ右胸であった。しかし、ハリソン・スコットは死に招かれてしまった。否。死に受け入れられてしまった。 N:あと少し、あと一歩という所でハリソンはついぞ、兵器を消されたくない何者かの手により獣を駆除することに失敗してしまったのであった。 N:彼の演説は、後に「”黙示録の獣”演説」として各国の研究者たちに影響を与え、大いに議論された。 N:しかし、それを疎ましく思った指導者たちは意見の弾圧を行い、ついにその影響は衰退していった。 N:ただ一つの望みであった、最後の堰は切られた。 N:もはや、世界を巻き込んだ戦争が起こるのは必然であり必定。この星が向かう先は破滅のみである。」 チャールズ:(独白)「やはり、こうなってしまったのか。残念だ チャールズ:人とは過ちを繰り返して成長して来たが、成程、越えてはならない線というものを、越えてしまったな。 チャールズ:(間) チャールズ:我は死神なり、世界の破壊者なり。」 ハリソン:(タイトルコール)『Eve of Ruin(イヴ・オブ・ルイン)』

N:時は、大戦末期。某国国立研究所では、大戦を終結させるに足る兵器の開発が、極秘裏に進められていた。 チャールズ:「いやぁ…戦争が始まってはや六年か。時の経過というのは、いやに早いものだな、ハリソン。」 ハリソン:「ああ、まったくだよチャーリー。まぁでも、まさか先の大戦を超える新たな大戦が起こるだなんて、誰も想像していなかっただろうさ。侵略戦争ほど、非生産的なことは存在しないんじゃないかな。」 チャールズ:「うむ、その通りだよ。だから、我々が居るんだ。我々が科学を以てして、戦争のない明るい未来を創るのだよ。」 ハリソン:「ふ、違いない。にしても、東の神州とやらは、国力が疲弊しているというのにやけにしぶとく粘る。徹底抗戦にしたって、肉体もそうだが精神が持たない。いや、科学では到底推し量れない精神力をしているよ。」 チャールズ:「彼らの精神がどんなものか調べてみたい気はするがね。確か彼らには侍の心というのがあるのだろう?一度会ってみたいものだ。」 ハリソン:「やめとけやめとけ。国のために無駄死にすることをさも美学のように扱う野蛮な民族だぞ?会ったら何をされるか知れたもんじゃない。僕はごめんだね。所詮、あの冷たいコミーどもと変わらないさ。」 チャールズ:「そうやって一括りにしてしまうのは君の良くない癖だぞハリソン。彼らには彼らの文化がある。見もせずに知った気になるのはいただけないね。」 ハリソン:「ふん、些末なことだよ。あんなのの文化なんて、尊重するだけ無駄さ。」 チャールズ:「尊重するだけ無駄な文化などないよハリソン。君は一度世界を回ってみるといい。そうしたらその凝り固まった頭も少しは柔らかくなるかもしれない。」 ハリソン:「世界、ね。そんなこと言ったって、僕は嫌われ者のY人だよ?どこへ行こうと除け者だ。あの狂ったライヒは勿論。他の国からだってね。」 チャールズ:「そう悲観するなハリソン。そうやって人を何かで纏める奴らは放っておけ。」 ハリソン:「なんだ?皮肉かい?」 チャールズ:「まさか、とんでもない。純粋な私の気持ちさ。」 ハリソン:「ふ、そうかい。そうなら、そう受け取っておくことにするとしよう。今回はね。少なくとも今回は。」 チャールズ:「君の優しさに感謝するよ。さてと、我々はこの戦争がいち早く終わる事を願うと共にそのために尽力するだけさ。」 ハリソン:「あぁ、もちろんそうだとも。その為の僕ら科学者であり、その為の化学だ。」 チャールズ:「科学者は科学のためなら何事も厭わない。そう言いたいのか?」 ハリソン:「んふ。それは君の口癖だろ?最近は僕にもそれが移ってきてる。でも、いい傾向だと思ってるし、いい言葉だと思ってる。最高だ。」 チャールズ:「ふ、やけに素直な言葉を選ぶじゃないか。科学者が化学と何かを天秤にかける時はいつだって科学の方に傾いてしまうものさ。そうあるべきなんだ。」 ハリソン:「うん。全くもってその通りだ。なぁチャーリー、君のような人間こそ、僕は本当の意味での科学者だと考えている。だから僕は、君とこうしてこの壮大な実験に共に参加できたことを誇りに思っているんだ。」 チャールズ:「滅多な事は言うもんじゃないぞハリソン。そういった言葉はついぞ全てが終わった時のために取っておけ。」 ハリソン:「そうだね。時期尚早過ぎたかな。悪い。」 チャールズ:「焦ったって仕方が無いからな。どっしりと構えて受け止めるんだぞハリソン。それで?どうなんだ、そっちの調子は?」 ハリソン:「ああ、うん。こっちは、まあ、ボチボチかな。レンズの爆薬が作用するベクトルの統一が、構造上の課題として残ったくらいだよ。そっちは?」 チャールズ:「ふは。順調も順調だ。いよいよ、最終過程に向かう途上だ。レンズの開発は一先ず後に回して、君もこっちに来て手伝いたまえよ。」 ハリソン:「ん。なんだ、そっちはもうそんなに進んで…おぉ…おお!凄い!凄いじゃないか!分裂反応がここまで美しく!」 チャールズ:「はは、このまま数値の安定を維持すれば、じき臨界前へとステージは進む。ハリー、グラフの確認を頼んだ。」 ハリソン:「分かった。(間)…27…54…108…216…うん、グラフは正常に推移していっているよ。これなら、文句なしに臨界を迎えられるはずだ。…そうなれば、」 チャールズ:「(被せて)大量の放射線が放たれ、コイツは立派な兵器となる。忌々しい戦争を終わらせることのできる兵器にな。」 ハリソン:「戦争を終わらせる兵器…うん、いい響きだ。素晴らしい。素晴らしいよ。…ここまで、ここまで長かった。長い長い夜だった。」 チャールズ:「あぁ、長かった。…本当に、長かった…。だが、もうすぐその夜は明ける…明ける、はずだ……」 ハリソン:「…チャーリー…何か不安か?」 チャールズ:「いや…ちょっと…ううん、なんでもないさ。ひと段落ついたら、コーヒーブレイクでも挟もう。」 ハリソン:「ん、そうだな。朝からぶっ続けだったからな。チャーリー、完成はもう目前だ。無理はほどほどにしてくれ。世界を救ってお前が死んでは、いやはや救いようがない。些細なことでもいい、相談してくれ。」 チャールズ:「あぁ、それは、もちろんだ。」 N:S歴19XX年7月。A合衆国N州にて、世界初となるそれの起爆実験は行われた。その絶大な威力を目の当たりにした研究チームは、恐れ戦き、歓喜した。 N:そして、同年8月。 N:蛮人の住まう島国、N帝国の二つの都市へ、それは投じられた。 N:それの火花は、千差万別全ての人間を飲み込んだ。それは、軍人だろうと民衆だろうと、或いは自国の捕虜であろうとお構いなしに。 N:犠牲者は、推定20万人にも昇った。 N:N帝国はこれが決め手となり、白旗を高く突き上げた。 N:これによって世界には、再び泰平が取り戻された。 N:死の兵器による、安寧が。 チャールズ:「すまない、すまない。私が悪かった。あぁ、なんてこと…やめろ!やめるんだ…やめてくれ!!はっ…!!(荒い呼吸と深呼吸)」 0:(玄関のベル音) ハリソン:「チャーリー。僕だ。ハリソンだ。開けてくれ。」 チャールズ:「あぁ、ハリソン。少し待っててくれ。すぐ行く。」 0:(間) ハリソン:「久しぶりだな。随分顔色が悪い。何かあったか?」 チャールズ:「……悪夢を見たんだ」 ハリソン:「悪夢?なんだ、もしかして、あの兵器の?」 チャールズ:「それ以外に何があるというのだ!あんな兵器、世に出すのは間違いだったんだ!創るべきじゃなかった!」 ハリソン:「ぉ…おい。ふざけた事を言うのは止せ。あれは君の為した功績、成果そのものだ。負い目を感じる必要など微塵もない。胸を張って生きたらいいんだ。 何が君をそこまで跛行させる?」 チャールズ:「跛行……?跛行なんてしちゃあいないさ。ただ、ただ頭の中を過るんだ。我々は何のためにあのような恐ろしい物を創ったのか、と。なぁ、教えてくれ。君があんなものを推し進める意図を。」 ハリソン:「平和だよ。あれは平和を維持するための暴力だ。大儀ある暴力だ。あれの絶大な威力を見た世界は、その力を我が物にするため躍起になった。その結果、互いに牽制、抑制し合い、戦争を嫌悪した。これだけでも奨励に足る素晴らしい兵器だと証明が出来ている。」 チャールズ:「それは驕りだよ、ハリソン。我々はそうやって驕ってしまったのだ。まるで神話かのような力を見せつけ、恐怖をもって治めた。そうやって、愚かにも神を気取ったのだ。あれは人類の触れていい領域ではなかったのだ。」 ハリソン:「科学に聖域はない。神なんて論拠のない愚者に僕らを堕とすのはやめるんだ。僕らは新たな秩序を創り上げたんだ。秩序の弱った世界は、再びあの大戦を呼び覚ますに違いない。それともなんだ?君は今の秩序を捨てて、またあの地獄を見たいとでも言うのか?」 チャールズ:「そうじゃない。私もあの大戦に戻りたい訳ではないのだ。ただ、これからの未来、もし、あれが戦争に利用されでもしたら……。それによって失われる命は?きっと悲惨だ。科学者は未知を既知にすべく未知を恐れてはいけない。だが、今回に関して言えば、その限りではないのだよ。なぁハリソン。今の君は、一種の狂信者となんら変わらないのではないのか?」 ハリソン:「……僕は、そんな陳腐な信仰で動いていないよ。もういいチャーリー、僕はこんな話をしに態々ここまで来たんじゃない。」 チャールズ:「そうか。それで、要件はなんだ?」 ハリソン:「単刀直入に。昨日、新型の実験が成功した。威力はなんと、従来の20倍以上だ。」 チャールズ:「なっ…んだと…?まだあんなものに力を注いで...それに20倍だと…?っ…馬鹿馬鹿しい。…それでなんだ、君はまさか、そんなことを私に自慢するために、ここへ来たのか?」 ハリソン:「違う。これは、僕のエゴだ。政府は…君を、案山子の英雄として葬り去ることを考えているそうだ。だが、そんなのは、あんまりだ。君は何よりも科学者であり、あの兵器の父親でもある偉大な男だろう?」 チャールズ:「案山子の英雄か…ははっ、開発の第一人者である私も今では厄介者扱いか…」 ハリソン:「…君は、政府の言う案山子でも、民衆の英雄でもない。僕の一人の友であり、尊敬する科学者だ。だから、もう一度…もう一度、戻らないか。今一度一緒につみを…いや、僕の、隣で、実験を共にしてはくれないか?」 チャールズ:「……なんだ、私の席は、まだあるのか。」 ハリソン:「(頷く)チャーリー、また共にあの日々を過ごそうじゃないか。あの素晴らしい実験の日々を、あの活気ある栄光の日々を…! ハリソン:チャーリー、これを受け取ってくれ。これは、僕の施設の鍵だ。君が戻ることを僕は信じて…」 チャールズ:「(被せて)すまないが!私はあの日々に戻る気は毛頭ない。空いた席には、君らの愛でる死神でも座らせておきたまえ。はっきり言うが、私は金輪際、あれと関わる気はない。」 ハリソン:「な、何故?!何故なのだ!!チャーリー!!我々の研究はようやく、その殻を破り孵ったのだ!そしてその雛は、成長しようと歩一歩と道を歩んでいる!この歴史が刻まれる瞬間を見届けなくてどうするのだ?!」 チャールズ:「その雛は!!今、その歩みにより着実に人類を、延いてはこの世界に引導を渡さんとしている!そうなれば歴史も何もない!まっさらだ!どうしてわからない!あれは既に何十万と人を殺した。そこに感情は介在してない!ただ事実として、男も、女も、建物も歴史も文化も、消し去った。」 ハリソン:「そ…それは…その…あ…あれは…必要な死だ…!壊し尽くすべき文化と、殺し尽くすべき低俗な猿どもを我々は我々の科学で浄化した!そこに慈悲だとか後悔だとかは毛ほども必要ない!む、むしろ、寧ろ感謝されて当然なくらいだ!」 チャールズ:「必要な死だと…?!今お前は必要な死と言ったのか…?そんなものあるわけがないだろう!壊すべき文化も、勿論必要な死も、あるわけがない!感謝だと?感謝など甚だしい!以ての外だ!」 ハリソン:「っ…君はいつから、いつからそんなに臆病になったんだ!昔はもっと野心的で遮二無二に科学を踏破しようとする男だったではないか!科学者足るもの、科学の為の犠牲を嘆くなと言ったのは君じゃないか!!」 チャールズ:「あぁ、確かに。過去の私はそうだったのかもしれない。だが、お前はあれを見て何も感じなかったのか?ただ無慈悲に人を殺すだけのジェノサイドを見て。(声のトーンを少し下げて)あれは、、あれは科学のための犠牲などでは決してない。所詮、政治のパフォーマンスだよ。」 ハリソン:「あ…あれが、僕らの科学が、政治屋の玩具だと言いたいのか…?君はそう言いたいんだな……?」 チャールズ:「あぁ。そうだ。……いや、そもそも、あれは誰かの手に収まるほど生易しい物じゃないのかもしれないな、ハリソン。人類には、過ぎたる力だ。」 ハリソン:「……そうか。そうか。チャーリー、分かったよ。よく分かった。君は骨なしの倫理に絆された、目的を見失ったどうしようのない愚かな科学者崩れだと分かったよ。訣別、だ。君に情を沸かせた僕が間違っていた。」 チャールズ:「そう、か。君の研究が、徒労に終わることを祈るよ。それが、世界平和へのただ一つの道だから。」 ハリソン:「……そうは、ならないさ。必ず、世界は暴力によって正される。そう、必ず。僕は、その最後の審判が行われるその日まで、刻々と量産と改良を進める。何としてでも。どんな手を使ってでも。君はこの質素な邸で、指を咥えて見ていればいいさ。……もう二度と、僕がここへ来ることはないだろう。さらばだ、愚かなチャーリー。」 N:「二人の天才の決別に無関心なように、月日は無慈悲にも流れた。世界では、各地で起こる小規模な紛争を契機とした、新たな大戦の引き金に指がかかっていた。 N:それに伴い、絶滅兵器の各国間の開発競争も勢いを増し、世界滅亡を知らせるラッパの音は、誰もが気づかぬ間に、その吹鳴を大きく近づけていた。」 ハリソン:「……僕は、僕は、科学者だ。偉大な、科学者だ。僕は、この所長の席にまで上り、その栄誉と責任を求められている。僕の手には、人類の希望が握られているのだ…全ては世界の平和のため、人類の平和のため、平和のため、平和のため、、」 チャールズ:「、、やぁ、ハリソン。またここへ来ることになることになるとはな。ふ、思ったより変わっていない。なんなら昔そのままだ。」 ハリソン:「な!?チャーリーどうしてここへ…!?警備はどうした…だ、誰か…!!」 チャールズ:「待て。落ち着け、ハリソン。話を聞け。」 ハリソン:「っ…君と話すことなど何もない…!」 チャールズ:「まぁ、そう言わずに、な?すごく久しいんだ、話をしようじゃないか。」 ハリソン:「何が、、何が久しいだ!ふざけるのも大概にしてくれ!君とはもう会わない、僕はそう言ったはずだろう!?それに、どうやってここへ入ったんだ!ここは政府関係者以外の立ち入りは認められていない!」 チャールズ:「ふは、みなまで言う必要があるか?君が来いと言って、これを置いて行ったんだろう?」 ハリソン:「な…それは…!?施設の…」 チャールズ:「あれから随分と時は経ったはずだが…期待半分で使ってみて正解だった。まさか、まだ機能しているとはな。おかげで乱暴な行動を取らずに済んだよ。感謝する。」 ハリソン:「……何しにここへ来た?まさか、また開発をやめろだなんて口うるさく言いに来たんじゃあるまいな?」 チャールズ:「もちろん、そんな野暮な事をするつもりは毛頭ない。第一、君がそんな言葉で絆されるとは微塵も思っちゃいないさ。」 ハリソン:「ふ、よく分かっているじゃないか。僕は君の様に、愚かに絆されたりはしないからね。…さっさと用件を言え。グラシンほどの薄っぺらな事なら、すぐに警備隊をここに寄越してやる。」 チャールズ:「ふは、そこは君の判断に委ねようじゃないか。で、あれから研究はどれくらい進んだんだ?自慢するようで少しあれだが、主要な研究員が1人減ったんだ。どうかな?実験は滞りなく進んでいるかい?」 ハリソン:「お生憎様で。こっちはとても順調だよ。新型の開発を進めるために、新しい人員が補充されてね。入ってきた若いのは優秀だよ。前よりもっと高度な段階の研究が進められているさ。」 チャールズ:「おぉ、そうかい。ならそろそろ、君のその鈍重そうな所長の席も奪われてしまうのではないかね?老体に鞭を打つのは、さぞ辛かろうに。 」 ハリソン:「抜かせ、道も忘れた老いぼれが。僕はこの席を離れるわけにはいかない。もっとも、君のようにならないためにもね。聞いたぞ?奥さんが赤狩りの犠牲になったそうじゃないか。そちらこそ、さぞ肩身が狭い思いをしているんじゃないかな?」 チャールズ:「黙れ!それは今関係のない話だ!」 ハリソン:「いいやあるね!関係大ありだ。君は剰えコミーとの開発競争に反対の立場を取っているんだからね。もしかして、いや、もしかしなくても、君も赤のスパイじゃないのかい?赤の審問官が、胃袋を開いて、今にも君を飲み込もうとしているように見えるのは気のせいだろうか?、、今すぐ捜査局に突き出してやってもいいんだぞ?赤塗れのチャーリー。」 チャールズ:「(舌打ち)またこれか、変わらんな君も私も。いつまで経っても。今日はなハリソン、君と皮肉合戦をするためにここへ来たわけじゃない。やるべきことをするためにここへ来たんだ。」 ハリソン:「ふん、やるべきこと、ね。なら、そのやるべきこととやらを聞かせてもらおうじゃないか。」 チャールズ:「ふむ。なぁ、ハリソン。いや、ハリソン・スコット国立研究所所長様。もし、もしも所長が突然消えたら、この施設で行われている研究は、どうなるのかね…?」 ハリソン:「な、なんだ、急に…?その質問に何の意味があるんだ…」 チャールズ:「聡い君なら、賢いハリソン所長なら、この言葉の真意くらい、容易く分かるだろう?そして、この胸の膨らみの意味も………」 ハリソン:「なっ…だ…や…待て…落ち着くんだ…!落ち着けチャーリー!僕は、ハリソン・スコットは、君の、チャールズ・アルバートの親友のはずだ!か、考え直せ…!!」 チャールズ:「私の親友だったハリソン・スコットはとうの昔に死んだ。今ここにいるのはガワだけ同じの、別の何かに過ぎない。」 ハリソン:「わ…分かった!僕は、僕は何をすればいい!何をすれば君は満足する!」 チャールズ:「何をすれば満足するだと?ふは、君は先程言っただろう。私のちゃちな言葉には絆されないと。私のようにならないためにと。」 ハリソン:「…っ…ふふふ…ふふふふふ…ふは…そうだ、ったな…君の要求には…僕は、応じられない…そう言ったな…。もし君の要求に応じれば、僕の人生は、否定される。あの兵器を…あの化学を…あの技術を…人類の叡智と信じて突き進んだ僕の全てが、消え失せてしまう…そうなるくらいなら…そんな自己嫌悪に飲まれるくらいなら…この命など…瑣末なことに過ぎない…」 チャールズ:「君は良き友だった。数少ない理解者であり、戦友で同志だった。それだけにとても悲しいよ。誤った道へ進む友を他でもない私自身の手で止めるのは。なぁハリソン、あの頃は良かったな、私たちがこの研究に呼ばれたあの頃は。 」 ハリソン:「ぁ…あぁ…あの頃か…あの頃は…二人とも必死だった…お互いに戦争の終結を望んで…血を飲み、汗を拭い合うような仲だった…良かったなぁ…あの日々は…良かったなぁ…あの研究は…」 チャールズ:「、懐かしいな。恥ずかしい話だが私は最初、君を敵視していたんだ。負けてたまるかとね。」 ハリソン:「君がかい?君が、僕を?はは、これはたまげたなぁ。僕は、君と自分を比べて、僕自身を劣った人間だと蔑んでいたのに。君を尊敬し、同時に妬み、僻んでいたのに。君にはそんな風に思われていたのか。」 チャールズ:「そうだ。君にはその卑屈さがあったんだ。それが時にとても恐ろしく感じた。君のそれは限界を超えて君を追い詰める。そして大きな結果を数々と残していった。私は君に負けないよう、必死だったさ。」 ハリソン:「卑屈さ、ねぇ。そんなこと言ったって、君のほうが何もかも上手だったじゃないか。君は生来の天才なんだから…あ、もしかして、皮肉かい?」 チャールズ:「皮肉なもんか、本心だよ。」 ハリソン:「本当かい?」 チャールズ:「あぁ、本当だとも。、、あの時のことを覚えているか。私たちの出会った日のことを?」 0:回想 チャールズ:「やぁ、君が、ハリソンくんかな。私の名前はチャールズ。チャールズ・アルバートだ。これからよろしく。」 ハリソン:「…ふん」 チャールズ:「あっ、あはは。そういえば、君と私は同い年らしいね。ここで私たちは最年少みたいなんだ。肩身は狭いけれども一緒に頑張ろうね。」 ハリソン:「悪いが、気安く話しかけないでくれるかな?僕は馴れ合うためにここに来たんじゃない。科学者としてここに来たんだ。君も、友達ごっこに勤しんでないで、研究をしたらどうだい?天才くん。」 チャールズ:「む、そんなにムキになるのは良くないよ?ハリソンくん。科学者はコミュニケーションを取らなくていいなんてそんなこと教わったのかい?君にも科学者なんて言う自負が少しでもあるのであれば研究と交友関係を見直した方がいいんじゃないかな?ね?雛鳥くん。」 ハリソン:「はぁ?今なんて言った?」 チャールズ:「雛鳥くん、そう言ったんだ。まだ空を自由に飛ぶことも出来ない巣立ちすら来てない雛鳥くん、とね。」 ハリソン:「っ!天才はいいね!努力も何も知らないで、好き勝手物が言えて!親鳥にでもなったつもりか?自分の知恵って餌をみんなに分けてやろうって?はっ、気分が悪いね。」 チャールズ:「あぁそうさ。君は一生懸命虚空をつついて餌を探すといい!何か得られるとは到底思えないけれどもね!」 ハリソン:「…っ!この…バカめ!」 チャールズ:「…クズめ!!」 0:回想終了 ハリソン:「あぁ、もちろん、覚えているよ。あれは酷い生面だった。あの時は実験が思うように進まなくて、気が立ってたんだ…当たって悪かったと思っているよ。」 チャールズ:「いやいや、私もあの時は子供だったんだ。意地を張って悪かったと思っているさ。」 ハリソン:「じゃぁお互い、青二才だったって訳か…笑えるね。」 チャールズ:「出会ってすぐは、誰が間に入っても途端に空気を悪くした。他の研究員には可哀想なことをしたな…はて…いつから私達は心身ともに近づいたのだったか、、?」 ハリソン:「…それは…あれだ。僕らが初めて、分裂反応を発見したときじゃないか?」 0:回想 ハリソン:「ん、これは……物理核が、中性子を吸収して…分かれた…のか…?っ!なんだこれ、凄いエネルギーじゃないか!?おい、誰か!誰かいないのかい!?」 チャールズ:「なんだ!いきなり大きい声を出して!こっちも忙しいんだ!もう少し周りに配慮はできな、いの、か、。 チャールズ:こ、これは、、ハ、ハリソン。これはいったい!」 ハリソン:「なんだ…これだけ研究員が居て、来たのはお前か…。まぁいい、どうだ、お前はこれをどう考える?天才。」 チャールズ:「天才は余計だ。(咳払い)ハリソン。君もわかっているだろうがこれはとてつもない事だ。このエネルギー反応は、やりようによっては連鎖的に作用するだろう。私の経験上、そうなれば莫大な運動が生まれると予想する。」 ハリソン:「莫大な運動?この今でさえ凄いエネルギーよりもかい?」 チャールズ:「当たり前だ。この程度には収まらない。それは何百、いや、何千倍もの力になるだろうさ。…もしかしたら、この戦争を止める力にすらなりうるものかも。」 ハリソン:「この戦争を止める?僕らがか?有り得ない。夢物語は夢の中だけにしてくれ。」 チャールズ:「無いことは無い。フィクションでもない現実の話だ。ハリソン・スコット、私たちは科学者だぞ。」 ハリソン:「ぁ…科学者か、確かに、一理は認めようじゃないか。でもね、もし戦争を止められるほどの力が得られたとして、その力が向けられるのは、間違いなく人だ。それは、果たして善なることなのか?科学者として。」 チャールズ:「確かに善とは言いきれないかもしれない。だがハリソン、科学者は科学と何かを天秤にかける時はいつだって科学の方に傾くものなんだ。ひいてはそれが善へと向くんだ。だからその感情を恐れてはいけないんだ、、と私は思うけどもね。」 ハリソン:「………」 チャールズ:「、、偉そうな事を言うつもりは無かったんだが、、すまない忘れてくれ。」 ハリソン:「いや、違う。そうじゃない。君の科学者としての毅然さがこれほどの物だと分かって、僕の君への認識を改めていたんだ。正直、僕は君のことを、脳だけ賢者な引き腰野郎だと思っていたから。」 チャールズ:「君が思う私とはそこまでな奴だったのかい?」 ハリソン:「あ、いや、まぁ、うん。そうだね。思ってた。だけど今は、実に科学者らしい人間だと思っているよ。うん、僕よりずっと優等な種だ。」 チャールズ:「優秀な種なんて無いさ。ははっ。君はほんとに卑屈だね。そこだけは科学者らしくないな。だがそれ以外は誰よりも君は科学者らしいよ。」 ハリソン:「心にもないことを言うんじゃないよ。美辞麗句はいらない。僕のこと、嫌ってたくせに。」 チャールズ:「心にもないって、、あのねぇ、先に拒絶してきたのは君じゃないか。」 ハリソン:「そうだったっけ?」 チャールズ:「そうだとも。」 ハリソン:「…僕は、君が僕を嫌っているのだと、勝手に頭ですり替えていたのかもしれない…。悪い癖だ。今まで、嫌われてばっかりだったから。」 チャールズ:「ここで君を訳もなく嫌う人は居ないさ、ハリソン・スコット。いや、ハリソン。私たちは、研究を愛する同志じゃないか。」 ハリソン:「…っ…そうだね。そうだったね。僕らは、共に平和を目指し、研究に身を捧ぐ、同志、科学者だ。」 チャールズ:「そうさ。そうだとも。だから私達科学者が、先頭に立って、平和の象徴になる日もそう遠くはないだろうさ!」 ハリソン:「ぇ…えらく仰々しいじゃないか?君らしくない。僕らはあくまで、成果物を映えさせる為の、舞台装置に過ぎない、そうじゃないかい?」 チャールズ:「ふふっ、冗談だよ。成果物…か。ならその成果物は、大切に磨いていこうじゃないか。壊れてしまってはいけないからね。」 ハリソン:「ふはは、うん。…違いない。」 0:回想終了 チャールズ:「あぁ、あれか。全身の穴という穴が震えたのを、今でも覚えている。あの時の感動は、忘れちゃいない。」 ハリソン:「あぁ、忘れてくれるなよ。…あの発見が…僕ら最大の成果だったのかもな。舞台装置の最もの栄光だったのかも。あれがきっかけで、僕たちは親密になり、研究は驚くほど波に乗り始めた。僕らの関係は、尊敬であり、ライバルであり、永遠であると、信じて疑わなかった…」 チャールズ:「いつからだろう、いつから私達はずれ始めてしまったのだろうな。こんなにも分かり合えていたのに。」 ハリソン:「、、あの時からだよ。あの瞬間から、僕らは少しずつすれ違っていった。僕らはすれ違って、すれ違ったまま、あれを作り、作って、作ったんだ。それが、この結末の答えだ。僕らは端から、正義でもあり、悪でもあった。ふふ、裏と裏。表と表。どちらにもなってどちらにもならないから、交わることもない。一しかない賽目に六が出ると賭けた。そんなふざけた賽を気づくことなく振るったんだ…僕は今…その賭けの報いを受けるんだ。でも悔いはない。悔いは…悔いはないんだ…いや、捨てたんだ。あの兵器は…今でも僕の幼稚な拠り所だ。あの子は冷たいが、僕らに愛を与えてくれた…それは、僕にも、そして君にも、平等に、切って離せぬ地獄への片道切符を渡してくれたんだ…途中の道は違えどね…」 チャールズ:「正解や正義なんて体のいい言葉を探して、結局我々は、ただ自分たちの、失った無様な心を満たすような、そのための道を進んでいたのだよ。だから、どこまで進もうと、終点は変わらない。詰まる所、このざまを見れば、結果は明白だろう?ははっ、笑えるな……私も君も……もっと別の道へ進めたのかもしれないな。いや今からでも遅くない…そうだ…これからもう一度やり直せばいい。ハリソン、やり直そう。」 ハリソン:「ふふ、もう一度やり直す権利が僕にあるとでも?もう引き戻せないさ。戻ることなんてできない。それは離陸した旅客機が、もう戻ることのないように。」 チャールズ:「いいや、ハリソン。私達には責任がある。あれを創ってしまった私達にはあれの終焉を見届ける責任があるんだハリソン。旅客機はUターンする訳では無い。あれが消えるまで、その両翼を粉にして飛び続けるんだ。」 ハリソン:「(忘我となって)…そうか…そうかい。ふふ、僕も…同じか。君と同じように絆されてしまうのか。これもまた、運命なのか。」 チャールズ:「あぁ、そうだよ。それでいいんだよ。それが一番いいんだよハリソン。一緒にまた飛び立と…」 0:突如として放たれた警備兵の弾丸にチャールズ倒れる チャールズ:「っ…」 ハリソン:「なっ…!?チャーリー…!?チャーリー!!なんで!どうして!しっかりしろ!しっかりするんだ!チャーリー! ハリソン:(警備兵に向かって)っ…威嚇もなしに射撃することがあるか!!その猛々しいライフルを下して立ち去れ!!そしてさっさと救急を呼べ!緊急だ!早くしろ!!!」 チャールズ:「ハ、ハリソン……」 ハリソン:「やめろ!喋るんじゃない!出血が広がるだろう!」 チャールズ:「、最期なんだ、話を聞いてくれ、、」 ハリソン:「っ…最期なんてやめてくれ。お前は…死んではいけない…!生きているべき存在なんだ…!」 チャールズ:「(被せて)我は死神なり…世界の破壊者なり…」 ハリソン:「は…?何を言って…」 チャールズ:「知らないのか?…これは...とある古代にあった宗教の聖典の一節だ。 チャールズ:私は恐ろしかった。そう...恐ろしかったのだよ。瞬きする間に大量の生物を死に至らしめる...あの兵器が。際限ない破壊を貪る…あの兵器が。...呆然としたよ...あれを創り上げたのが本当に...私なのかと。あれほどまでに欲した平和が...とても遠くに離れていくように感じた。...科学者としての...誇りや矜恃も...何もかもが手からこぼれ落ちていった。 チャールズ:そうしていつからか...私が...私が、どうやったらあれによって死んだ人々から...許されるか...解放されるか…それだけを考えていた...結局は...我が身可愛さで保身に走った哀れな...男だ。 チャールズ:...兵器が...神が...そして君が悪いと...責任転嫁につぐ転嫁を重ね...あげくの......挙句の果てにこうなってしまった。実に、滑稽だな。...ハリソン...君には申し訳ないが、あれの処分は...任せた。これはあの日々を共にしてきた君にしか任せられない......任せられない課題なんだ。」 ハリソン:「っ…やめてくれ…やめてくれよ…僕一人じゃ、その課題はとても叶えられそうもない…だから、だから君は死なせないし、これからも生きていてもらう。僕の責任は君の責任だし、君の責任は僕の責任だ。責任のいたちごっこはもうたくさんだよ。君は生きて、生き切って、あれを廃し、モラルの勝利を勝ち取るんだ…!逃げ道を失って、夢だ平和だと宣い、自己肯定の果ての臆病に苛まれ、改良と躍進に傾倒した僕ではなく、君が!」 チャールズ:「ふふっ、君は変わらないな......その卑屈さは直した方がいいと言っただろう。だがね、私の責任は私が負うものである。これは逆も然りだ。それは変わらない。君がそこまで何かを負う必要は無いんだ。 チャールズ:大丈夫、君はちゃんと立派だ。背筋を伸ばして堂々としていればいいんだ。私は君の味方だ。そして君は私の味方で居てくれる。なぁ、そうだろう?」 ハリソン:「……僕は、僕は君の味方で、味方と名乗って、いいんだろうか…?僕は、君という光に、目を背けたのに…」 チャールズ:「いいんだ、いいんだよハリソン。人はそういう生物だ。だから私はその行為に対して憤りも何も無い。すまないハリソン。少し眠たくなってきた。あとは、あとは任せたよ。」 ハリソン:「チャーリー…チャーリー…!おい…!おい、チャールズ!チャールズ!!!」 N:「こうしてチャールズ・アルバートは倒れた。しかし、彼が欲した死は彼を拒んだ。死んでいるのか生きているのか、チャールズは植物状態のまま今も尚、病院のベットに横たわっている。一人の科学を捨てた者は皮肉にもその科学によって生かされているのである。 N:ハリソン・スコットはチャールズの約束を友から託された使命を果たすべく廃絶運動を始めてから3年が経とうとしていた。」 ハリソン:「本日、この場へお集まりいただいた有識者並びに放送各社の皆様。また、レンズ越しにこの会見を覘く世間の皆様。ご機嫌よう。 ハリソン:ぼく、いや、私は科学者、ハリソン・スコットです。 ハリソン:皆様に本日私がお伝えしたいのは、皆様も大いにご存知であろう、とある兵器の、処遇についてです。 ハリソン:私は、今から凡そ20年前、その兵器の開発に携わりました。 ハリソン:それは、とても巨大で、感情のない、世界を変える獣のような兵器でした。 ハリソン:我々は当初、この獣の誕生を、凄まじき救世主の誕生と捉え、美化し、崇め奉った。技術の革新だ。科学の勝利だ。人類の叡智だと。 ハリソン:しかし、現実は違った。 ハリソン:獣は獣でも、終末論の黙示録の獣、詰まる所、世界の終焉を望む狂気の魔獣に過ぎなかった。 ハリソン:死を浴び、破壊に酔う、地獄の使いに過ぎなかったのです。 ハリソン:私の親友は、その魔獣に抗い、食い止めようとし、最期は知性を食らわれた。 ハリソン:私は、愚かです。愚かな科学者崩れです。私は、獣を生んだ自分の非を認められず、世界に造反し、獣を歓迎した。 ハリソン:その結果、友を失った。 ハリソン:だから、皆様には、世界の諸国民の皆様には、どうか、この獣を殺す手助けをしてもらいたい。 ハリソン:勝手なお願いなのは分かっています。自分の後始末も出来ない無能なのは分かっています。 ハリソン:ですが、この獣をこの世から滅さなければ、後で終末の惨禍を見るのは、我々人類なのですから。」 0:(拍手と喝采の嵐の中、会見から立ち去ろうとしたハリソンへ向かって一発の銃声が鳴り響く) ハリソン:「……っ…!……あぁ…?…はぁああ…ぅぁ……………」 N:「どこからか放たれた一発の凶弾は、奇しくも三年前、チャールズ・アルバートが貫かれた箇所と同じ右胸であった。しかし、ハリソン・スコットは死に招かれてしまった。否。死に受け入れられてしまった。 N:あと少し、あと一歩という所でハリソンはついぞ、兵器を消されたくない何者かの手により獣を駆除することに失敗してしまったのであった。 N:彼の演説は、後に「”黙示録の獣”演説」として各国の研究者たちに影響を与え、大いに議論された。 N:しかし、それを疎ましく思った指導者たちは意見の弾圧を行い、ついにその影響は衰退していった。 N:ただ一つの望みであった、最後の堰は切られた。 N:もはや、世界を巻き込んだ戦争が起こるのは必然であり必定。この星が向かう先は破滅のみである。」 チャールズ:(独白)「やはり、こうなってしまったのか。残念だ チャールズ:人とは過ちを繰り返して成長して来たが、成程、越えてはならない線というものを、越えてしまったな。 チャールズ:(間) チャールズ:我は死神なり、世界の破壊者なり。」 ハリソン:(タイトルコール)『Eve of Ruin(イヴ・オブ・ルイン)』