台本概要
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タイトル | 神様の子供たち |
---|---|
作者名 | 大輝宇宙@ひろきうちゅう (@hiro55308671) |
ジャンル | ミステリー |
演者人数 | 4人用台本(男1、女2、不問1) ※兼役あり |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 台本説明欄参照 |
説明 |
助けて!みんな神様の子供にされてしまう! エバンス探偵事務所に舞い込んだ一通の手紙。エリオット・エバンスは、手紙に書かれた住所、 養護施設「希望の丘」を調べることにする。そこでは、ご神託と呼ばれる儀式を行っていて・・・。 特定の宗教、思想、施設について書いていません。批判するつもりもありません。すべてフィクションです。 演じる方の性別は問いません。 非商業利用の場合、連絡不要です。 投げ銭システムのあるアプリでの利用可。アーカイブ可。録音媒体の投稿可。 今作は共作者がいます。予告、作品紹介時の作者名は下記でお願い致します。 大輝宇宙・濁花ネオン 1597 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
エリオット | 男 | 105 | エリオットエバンス 探偵。普通の感覚の持ち主。 |
ソラ | 不問 | 89 | 孤児院「希望の丘」の子供。 ご神託を受け、賢さに磨きがかかった。希望の丘の秘密を知っているらしい。 |
メアリ | 女 | 37 | 希望の丘のシスター。 虫も殺さない顔をして恐ろしいことをやってのける女。 |
ハンナ | 女 | 21 | 孤児院「希望の丘」の子供。 よく笑う天真爛漫な少女。ご神託を受けるのを楽しみにしている。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
子供:「助けて!みんな神様の子供にされてしまう」
エリオット:(モノローグ)たった一行。二日酔いのハッキリしない頭で、夕方に開封した手紙にはたった一行そう書いてあった。
エリオット:(モノローグ)イタズラだと受け取ることは簡単だ。実際、俺の探偵事務所には人騒がせなメールやら手紙、電話なんかがよくやってくる。
エリオット:(モノローグ)しかし、拙い文字で書かれたそれが、俺は妙にひっかかった。だから、名無しの手紙の唯一の手がかりとなる住所を、あたることにした。
0:
0:
0:児童養護施設「希望の丘」談話室。
メアリ:養子をお望みと伺いましたが・・・
エリオット:ええ。恥ずかしながら、この歳まで独り身でして。幸い財産はありますので、養子でも迎えて譲ろうかと思いましてね。
メアリ:わたくし共、「希望の丘」に見学に来ていただき、光栄ですわ。
エリオット:ここは、子供たちの教育が行き届いていると聞きました。
メアリ:ええ。みんなとてもいい子たちです。
エリオット:入口で会った少年も、とても感じが良かった。
メアリ:あの子は、ソラですわ。彼は子供達の中でも特別です。
エリオット:特別?
メアリ:ええ。彼には特別な才能があるのです。神に与えられた特別な才能が。
エリオット:神・・ほぅ。あー・・シスター・・(名前が出てこない)
メアリ:メアリですわ。シスターでも、メアリでもどちらでも構いません。
エリオット:あぁ、それではシスター
メアリ:はい
エリオット:施設の中を見学させて頂いてもよろしいでしょうか?
メアリ:ええ、勿論ですわ。子供たちをご覧になってください。ご案内しますわ。
0:中庭に出る2人。そこでは数名の子供たちがグループを作って各々遊んでいる。2人にソラが近づく。
ソラ:こんにちは、お客様。こんにちは、シスター。
エリオット:やぁ!君はさっき案内してくれた・・
メアリ:こんにちは、ソラ。
ソラ:ルミエルがテアンをぶったんだ。シスターカナンが来てくれて、今は2人とも落ち着いてる。
メアリ:まぁ・・!
ソラ:僕とキャシーが仲裁に入った。でも、ルミエルはなかなかやめなかったんだ。
メアリ:怪我は?
ソラ:僕とキャシーは大丈夫。テアンの肩が少し腫れたよ。叩かれたから。でも、すぐにひくんじゃないかな?
メアリ:教えてくれてありがとう。私は2人の様子を見てく・・あ(エリオットの案内中だと気づく)
エリオット:私のことなら構いませんよ?適当に見させてもらいますから。
メアリ:そういうわけには参りませんわ。ここにはお入り頂けない場所もございますし・・
ソラ:僕がお客様を案内するよ。
メアリ:ソラ?
ソラ:立ち入り禁止のところは案内しない。養子を探しているんですか?お客様。
エリオット:ああ、そうだ。
ソラ:何人か紹介しておくよ、シスター。
メアリ:そう・・ね。では、頼みましたよ。(去る)
0:シスターの背中が見えなくなると、ソラが馴れ馴れしい口調で話しかけてくる。
ソラ:どう見ても養子を迎えようとしてるとは思えない。オジサンはお芝居が下手だね。
エリオット:・・そういうお前は、シスターすら欺く(あざむく)演技力の持ち主というわけか。
ソラ:ここに何をしに来たの?売り飛ばす子供でも探しに来た?
エリオット:おい、俺を人買いだとでも?
ソラ:だって、縛って整えてはあるけれど、伸び放題の髪の毛に、剃り残した髭、質の良くないタバコの匂い・・まともな仕事の人には見えないよ?
エリオット:・・ふん。探偵みたいなやつだな。
ソラ:そう?
エリオット:お前が、あの手紙の主(ぬし)か?
ソラ:手紙?
エリオット:なんでもない。
ソラ:(ニヤニヤして)気になるなぁ。
エリオット:早くここを案内してくれ。
ソラ:それは構わないけど、養子が欲しいんじゃないなら、オジサンの目的は何?それによって案内する場所が変わってくるよ?
エリオット:ん・・。
ソラ:僕みたいな薄気味悪い子供は信用できない?
エリオット:・・・まあな。
ソラ:なるほど。オジサンは、普通の感覚の持ち主だ。
エリオット:馬鹿にしてるのか?
ソラ:こっちに来て。(エリオットの質問には答えず待たず歩き出す)
0:花壇の前にしゃがみこんで花の世話をしている少女がいる。
ソラ:ハンナ!
ハンナ:ソラ!さっきは大丈夫だった?喧嘩に巻き込まれたって・・・
ソラ:大丈夫だよ。
ハンナ:?このオジサンは?
エリオット:俺は、ただの見学者だ。こんにちは、ハンナ。
ハンナ:こんにちは、見学者さんっ!(にこにこと笑う)
エリオット:この花は、君が育てているのか?
ハンナ:ええ、そうよ。今日ひとつ咲いたの。あと5日もすれば、この花壇いっぱいにお花が咲くわ。
エリオット:そりゃあキレイだろうな。
ハンナ:うん!色んな色の種を撒いたの!
ソラ:それまでお世話を頑張らないとね。
ハンナ:うん!あとね!私、今日ご神託をいただくの。
エリオット:ご神託?
ハンナ:そうよ。頑張った子供には、神様がご神託をくださるの。そうするとその子は神様の子供になって、ずっと寂しくなくなるの。
エリオット:神様の子供?
ハンナ:おかあさん、ちっともお迎えに来てくれないんだもん。私は、神様の子供になって、ずっと幸せに暮らすの。
ソラ:ご神託で神様の子供になれば、もう寂しくなくなるよ。
エリオット:おい、それはどういう意味だ?まさか、死を選んで神のもとへ行くってことじゃ・・。
ソラ:違うよ。僕は、ご神託を受けても、こうして生きてる。
エリオット:じゃあ・・ご神託ってのは、あれか?祈りを捧げて神父から言葉を貰うような?
ハンナ:そんなんじゃないわ!眠っている間に終わるのよ。そして、心安らかな神様の子になるの。
エリオット:なんだそりゃ。
ソラ:やっぱりオジサンは普通の感覚の持ち主だ。
エリオット:お前、さっきから俺の事をそーやって凡人のように言ってるが、お前には一体どんな特別な力があるって言うんだ?
ソラ:そうだな。たとえば・・
ハンナ:ソラはすごいのよ!5桁同士の掛け算だって頭の中でできてしまうし、1度会った人の顔や名前は忘れないし、歴史の本だって暗唱できるの。
エリオット:えぇ・・?
ハンナ:それだけじゃないわ!絵を描かせたらまるで写真みたいな絵を描くのよ!すごいんだからっ!もともと賢かったけれど、ご神託を受けてからとってもとっても凄くなったんだから!
ソラ:ハンナ、もういいよ(苦笑い)
エリオット:なんだその天才少年は。
ソラ:ご神託を受けたからね。
ハンナ:はぁっ。わたしもソラみたいになれればなぁ!
エリオット:三万三千、四百二十二かける五万三千、二百十二は?
ソラ:十七億、七千八百四十五万、一千四百、六十四。
エリオット:そう・・なのか?
ソラ:うん。
エリオット:そうか・・。
ハンナ:ねっねっ!すごいでしょう?あっという間に頭が働くのよ!
エリオット:あぁ・・(持っていた電卓で計算する)はぁ・・合ってる。一体どうなってるんだ・・。
ソラ:神託を受けた子供が、みんなこうなるわけじゃない。何故か僕は選ばれたんだ。
エリオット:ただ寝て起きただけで、神の子供が出来上がるって・・そんなおかしなことはないだろう?
ソラ:そうだね、その秘密を知りたいなら・・
メアリ:ソラ!中庭をご案内していたの?
ソラ:シスター。うん、そうなんだ。今日はまだお外だけしか案内できてない。
メアリ:そうなの。エバンスさん、
エリオット:エリオットで構いません。
メアリ:エバンスさん、ご希望の子供は見つかりましたか?
エリオット:そうですねぇ、明るく元気なハンナも気になりますし、とっても賢いソラも捨て難いですね。
メアリ:申し訳ございません。ソラは、先程も申し上げましたが、とても特別な子供なんです。我々としても他所(よそ)へ出す気は・・。
エリオット:孤児院なのに、引取りの希望があってもですか?
メアリ:ええ。ソラは皆の希望ですから。
エリオット:希望・・?
ソラ:ねぇシスター?お客様に、また来週来ていただいてはどうかな?ハンナの神託も終わって落ち着いているでしょう?
メアリ:来週は、今日喧嘩した2人に神託を与えなくてはいけなくなったの。だから・・
ソラ:シスターの手があかないなら、また僕が案内するよ。ね?シスター、良いでしょう?
メアリ:そうね・・ソラがそう言うなら。
メアリ:エバンスさん、来週、また月曜にお越しになれますか?
エリオット:ええ!もちろん喜んで。
ハンナ:嬉しい!来週ならきっとこの花壇いっぱいに綺麗な花が咲いてるわ!また是非見に来てね!見学者さんっ!
エリオット:ああ、楽しみにしているよ。
0:エリオットの探偵事務所
0:書類に目を通すエリオット。
エリオット:(モノローグ)明日が、約束の月曜だ。俺はあの後、「希望の丘について」調べて回った。前評判の通り、子供たちはシスター達の見守りによってまっとうに教育されていると分かった。
エリオット:(モノローグ)しかし、妙な違和感が拭えない。
エリオット:(モノローグ)神の子供になる・・というのはどういう意味なのか。特別な子供、ソラ。何か白々しいシスター・・。もう少し調べる必要がある。
エリオット:そして、引取りを希望する家庭も多い「希望の丘」だが、養子縁組前のお試し期間終了と共に返される子供もまた多いことが分かった。俺の聞き込みでは、養父母は口を揃えて
ソラ:子供らしくない?
0:希望の丘中庭。ソラが約束通りエリオットの案内を始めている。
エリオット:ああ。ここから子供を引き取ろうとして、やめた家族に話を聞くと、ほとんどがそう答えるんだ。
ソラ:ふぅん。・・子供らしい・・ねぇ。
エリオット:ここにいる子供たちは、喧嘩もするし、よく笑うだろ?みんなお前みたいじゃあるまいし。
ソラ:・・そうだね、神様の子供になる前は、みんなそうかもしれないな。
エリオット:だから、その神様の子供ってのは・・!?(中庭で先日ハンナが世話をしていた花壇に気がつく)
エリオット:ハンナが世話してた花壇だよな、これ。
ソラ:そうだね。
エリオット:何でこんなに枯れてるんだ?
ソラ:雨が降らなかったし、
エリオット:あと少しで花壇いっぱいに花が咲くってハンナは言ってたじゃないか。
ソラ:水がなければ花は枯れるよ?世話する人がいなければ枯れちゃうんだよ。
エリオット:ハンナに何かあったのか?
ソラ:ご神託を受けたんだ。
エリオット:それで?
ソラ:彼女は神様の子供になった。
エリオット:いい加減、それがどういう意味か教えてくれよ、ソラ。
0:スっと行先を指さすソラ。その先にハンナが鉄棒にもたれ佇んでいる。
ソラ:自分の目で確かめてみるといい。
エリオット:ハンナ・・。おい!ハンナ!(ハンナに走り寄るエリオット)花壇の花・・何かあったのか?
ハンナ:(目が虚ろで光をなくしている)こんにちは。見学者さん。
エリオット:ああ・・。
ハンナ:お花は、私がお世話をしなくなったから、枯れてしまったのよ。
エリオット:どうして・・。
ハンナ:何故かしらね。何もかも楽しくないの。ウキウキもワクワクもしないの。何のために私はお花を育ててたのかしら・・。
エリオット:綺麗な花が見たかったんだろう?その小さな手で、育てて、咲かせたかったんだろう?
ハンナ:そうね・・。
エリオット:おい、一体どうしたんだ?今日ここへ来たら、花壇いっぱいの花を見せてくれるって、あんなに嬉しそうに言ってたじゃないか。
ハンナ:見学者さん、私・・笑うほど楽しいことも、泣くほど辛いことも、腹が立つことも、もうなくなったみたい。
ソラ:ハンナは、神様の子供になったんだ。
ハンナ:そうね、もう寂しくないわ。お母さんが迎えに来てくれなくても、私は神様の子供になったんだから。
エリオット:いい加減にしろ!
エリオット:ソラ!お前は何か知ってるんだろう?こんな・・こんなふうに人が変わっちまうことなんて・・薬物でも打たれたのか?
ソラ:ご神託をオジサンに見せてあげるよ。
0:着いて来いと促すように、建物に向かって歩き出すソラ、薄暗い屋内に入る。木の床が少し軋む。
ソラ:物音を立てないで。
エリオット:ここは、希望の丘の別棟か?
ソラ:うん。僕たちはみんな、ここでご神託を受けるんだ。
エリオット:・・。
ソラ:中を覗いて。
0:示された窓から室内を覗くと、中では白衣を着た医者風の男と、シスターメアリが、診察台のようなものに座り、寝かされている子供の周りにいる。
エリオット:(小声で)シスターと一緒にいるあの子供は?
ソラ:今日ご神託を受ける、ルミエルだよ。
エリオット:・・こないだ友達を殴った子か?
ソラ:記憶力がいいんだね、そうだよ。
エリオット:ご神託ってのは、一体何なんだ?
ソラ:静かに、今から始まる・・。
0:長めの間
0:別棟内。2階バルコニー
ソラ:このバルコニーなら、シスターも来ないはず。風が気持ちいいね。
ソラ:そろそろ吐き気も治まった?オジサン。
エリオット:どうなって・・うっ(吐くのを我慢する)
ソラ:信じられない光景でしょう?人間のやることじゃない。あれが、神様がくださるご神託だよ。
エリオット:シスター達は子供に何をしてたんだ・・?
ソラ:ロボトミー手術って聞いた事ある?
エリオット:かなり昔、精神病の患者などに当たり前に施されてた脳の手術・・。中には、怒りっぽいとかただそれだけの理由で受けさせられた患者もいるとか・・。
ソラ:僕たちが受けるご神託は、あれに非常に良く似てる。
エリオット:今ではご法度の手術だぞ?
ソラ:そうだね、鼻の穴から細長い棒状のハサミを入れて、脳まで到達させ、とある部分をパチンッ
エリオット:うっ・・。
ソラ:そしてそのあと、電気信号を流すんだ。僕のように、とてつもない才能が目覚めるものもいれば、全く動くことすらできなくなる子供もいる。
エリオット:まるで人体実験じゃないか。
ソラ:そうだよ、最初は実験だったんだと思う。ここにいる子供が何人減ろうが世の中には関係がないから。
ソラ:やってみたら暴力的な子供も、泣いてばかりの子供もうまいこと大人しくなったってわけ。
エリオット:だから、ハンナはあんな人格が変わっちまったってことか・・。
ソラ:そうだね。もう寂しさも感じないけど、喜びもまた感じられなくなったんだ。
エリオット:そんなこと・・許されない。
ソラ:オジサンは、普通の感覚の持ち主だ。
ソラ:躾られて、悪さをしない、泣かない子ども達。それは同時に無気力とも言えるんだ。
エリオット:子供らしくないと、養父達が言っていた意味が分かったぜ。
ソラ:人工的に、感情を失った子供・・。
エリオット:すぐに止めさせないと。
ソラ:無駄だよ?オジサン。
エリオット:警察に通報する。こんな事は許しちゃいけない。シスター達は管理しやすくしてるつもりだろうが・・。子供は大人の玩具じゃない。
ソラ:おもちゃ・・か。本当のおもちゃはここからなんだよ・・。
メアリ:ソラ、ここは立ち入り禁止ですよ?
エリオット:シスター・・あんた!子供たちになんてことを!!
メアリ:どういうことでしょうか?
エリオット:ロボトミー手術の真似事をして、子供から感情を奪い、管理していたんだな・・。
メアリ:・・全ては神の思し召しですわ。可哀想な子供たちは、もう悲しみも、寂しさも感じずに済むんですよ?
エリオット:俺は、このことを告発する。警察に通報もする。もうこんなことはお終いだ!
ソラ:無駄だよオジサン・・。
エリオット:なんでだ?
ソラ:感情を失くした子供が欲しい人も沢山いるんだ。
メアリ:引き取り手が増えるのは、子供たちにとって良いことですわ、エバンスさん。
エリオット:感情を失くした子供が欲しい・・?・・まさかシスター・・お前、子供たちを売って?
メアリ:子供を商売の道具になどしていませんわ。
ソラ:多額の寄付金で僕たちは売られるんだ。なぶられて、殺されても誰も探す人はいないからね。
メアリ:ソラ!
エリオット:おいおい・・もしそれが本当なら、それこそ黙ってはいられないぞ・・。
メアリ:ソラは想像力が逞しい子供なだけですわ。
エリオット:俺はソラが嘘を言ってるとは思えない。
ソラ:通報したって無駄なんだよ!よく考えてよ、オジサン。そんな多額の寄付金を詰める人間が、どんな立場なのか!
エリオット:・・まさか・・
ソラ:警察の偉い人、政治家の偉い人、色んなところの偉い人が、心をなくした僕たちを買うんだ。
メアリ:ソラ!止めなさいっ!またご神託が欲しいのですか!
ソラ:1度だって・・1度だって僕はご神託が欲しいと思ったことはないよ!
エリオット:・・・ソラ。
ソラ:神様の子供になんてなりたくなかった。嬉しいも悲しいも寂しいも、遠くへなんかやりたくなかった・・・。
エリオット:シスター・・あんた達はなんてことを・・。
メアリ:溢れかえってるんですよ、貧しい子供が。この施設だけじゃなく、この国中に。
メアリ:少しでも引き取り手があった方がいいじゃないですか?そうでしょう?!・・だから、私は彼らを誰からも好かれる子供にしてあげてるというのに・・。
エリオット:そんなのは、思いあがりだ!現にお前は汚い大人の手に子供たちを渡してるじゃないか!
メアリ:だって、もう感じないんですよ?そのまま渡している孤児院だってあるんです。ここ「希望の丘」は、苦しみや悲しみから子供たちを救っているんですわ!
エリオット:本気で言ってるな・・。狂ってやがる・・。
ソラ:オジサンは、普通の感覚の持ち主だ。
ソラ:ごめんね、オジサン・・!
0:突然ソラがエリオットに突進する。2階のバルコニーからエリオットは突き落とされる。
エリオット:ソラ!?うぁぁぁっ・・!!
0:バルコニーから、1階に落ちたエリオットを見下ろすソラ。
エリオット:いっ・・てぇ・・。
ソラ:オジサン、立てそう?
エリオット:いってぇよ!なんだよ!!いきなり!
0:ソラは左手に薬品を持っている。
ソラ:この薬は、可燃性のガスを発生させる。
エリオット:なに!?
メアリ:ソラ!?
ソラ:みんなここでおしまいにする。
メアリ:やめなさいっ!やめなさいっソラ!
ソラ:僕を少年愛好家の政治家に売ろうとしているでしょう?シスター。知ってるよ。
メアリ:あの方をそんな風に言うのはやめなさいっ!貴方を引き取って学校にも通わせてくれるというのに!
ソラ:シスターは、初めから狂ってる。僕たちと同じだね。
エリオット:お前たちは狂ってなんかいない!シスターとは違う!やめるんだソラ!
ソラ:もう遅いよ。もう・・遅いんだよ。
エリオット:遅くなんかない。お前は今怒ってるんだ。ちゃんとお前の心が、怒ってるって言ってるんだ。
ソラ:そう・・なのかな?でも、僕がみんなを救ってあげなきゃ・・。可愛いハンナも、いたずらっこのルミエルも、大人におもちゃにされて殺されていいわけないんだよ・・。
エリオット:その通りだ。でも、全て燃やすことが救いになるなんて、そんな馬鹿げたことはない。
ソラ:(持っていた松明(たいまつ)に火をつける)薬を撒いて、この火をつければ・・。
エリオット:やめてくれ!!あの手紙を、あの手紙をくれたのはお前なんだろう!?
ソラ:・・・。
エリオット:お前はそんなことしたくないはずなんだ!だから俺に「助けて」って、そう書いたんだろう!?
ソラ:もう遅いんだ・・やられたことは無かったことにできない。
エリオット:そうかもしれない。でも、お前は生きて、その天才になっちまった頭で考えて、仲間を救う方法を考えるんだ。一緒に生きてやるんだ!
ソラ:・・・。
エリオット:頼りにならないが、俺もいる。さぁ、火を消せ!
ソラ:オジサン・・。僕たちは、これ以上玩具にされなくていいのかな・・?
エリオット:大丈夫だ。世の中そんなに腐っちゃいない。
ソラ:そっか・・(ゆっくりと松明を下げ、火をつけるのをやめようとする)
メアリ:その薬を渡しなさい!
エリオット:シスター!?やめろっ!
0:ソラの持っていた薬瓶と松明がバルコニーに落ちる。
ソラ:あ・・・!
0:シスターメアリのスカートの裾に火がつき、火が上へと燃え広がってくる
メアリ:ひっ!いやっ!!あ!消して!・・助けて!ぎゃあああああああああああ!
0:倒れるシスター。火がバルコニーの植物をつたって燃え広がっていく。
ソラ:シスター・・
エリオット:ソラ!飛び降りろ!受け止める!!
ソラ:シスター・・・。
エリオット:何やってんだ!飛び降りろ!
0:ソラはエリオットを見下ろして言う
ソラ:まだルミエルの麻酔が覚めてない。
エリオット:もう間に合わない!お前だけでも飛べ!
ソラ:あいつ、意外と泣き虫なんだ。一緒にいてあげなきゃ。
エリオット:飛んでくれ!ソラ!
ソラ:ありがとう。オジサン。
エリオット:やめろ!行くな!ソラ・・・!
0:炎のなかへ去るソラ。呆然と見上げるエリオット。
0:
0:
エリオット:(モノローグ)あの火事で、希望の丘の子どもたちや職員の約半数が死亡した。警察の事情聴取に俺は洗いざらい話をしたが、ご神託と呼ばれた、あの手術のことが世に明るみになることはなかった。ソラと思われる子供は、1階でルミエルらしき子供と折り重なって発見された。
エリオット:(モノローグ)救ってやることができなかった。すべて打ち明けてもらったのに。最後に俺の言葉は届かなかった。でも、これから俺は、彼らを買っていた連中と俺なりに戦おうと思っている。二度と子供が未来を悲観することがないように。
0:花瓶を抱えた少女がエリオットの部屋へ入ってくる。
ハンナ:エリオット
エリオット:花瓶の水を変えてくれたのか?ハンナ。ありがとう。そろそろ晩飯の買い出しに出かけるか。
0:路地を歩くエリオットと少女
0:
0:
0:おわり
0:
子供:「助けて!みんな神様の子供にされてしまう」
エリオット:(モノローグ)たった一行。二日酔いのハッキリしない頭で、夕方に開封した手紙にはたった一行そう書いてあった。
エリオット:(モノローグ)イタズラだと受け取ることは簡単だ。実際、俺の探偵事務所には人騒がせなメールやら手紙、電話なんかがよくやってくる。
エリオット:(モノローグ)しかし、拙い文字で書かれたそれが、俺は妙にひっかかった。だから、名無しの手紙の唯一の手がかりとなる住所を、あたることにした。
0:
0:
0:児童養護施設「希望の丘」談話室。
メアリ:養子をお望みと伺いましたが・・・
エリオット:ええ。恥ずかしながら、この歳まで独り身でして。幸い財産はありますので、養子でも迎えて譲ろうかと思いましてね。
メアリ:わたくし共、「希望の丘」に見学に来ていただき、光栄ですわ。
エリオット:ここは、子供たちの教育が行き届いていると聞きました。
メアリ:ええ。みんなとてもいい子たちです。
エリオット:入口で会った少年も、とても感じが良かった。
メアリ:あの子は、ソラですわ。彼は子供達の中でも特別です。
エリオット:特別?
メアリ:ええ。彼には特別な才能があるのです。神に与えられた特別な才能が。
エリオット:神・・ほぅ。あー・・シスター・・(名前が出てこない)
メアリ:メアリですわ。シスターでも、メアリでもどちらでも構いません。
エリオット:あぁ、それではシスター
メアリ:はい
エリオット:施設の中を見学させて頂いてもよろしいでしょうか?
メアリ:ええ、勿論ですわ。子供たちをご覧になってください。ご案内しますわ。
0:中庭に出る2人。そこでは数名の子供たちがグループを作って各々遊んでいる。2人にソラが近づく。
ソラ:こんにちは、お客様。こんにちは、シスター。
エリオット:やぁ!君はさっき案内してくれた・・
メアリ:こんにちは、ソラ。
ソラ:ルミエルがテアンをぶったんだ。シスターカナンが来てくれて、今は2人とも落ち着いてる。
メアリ:まぁ・・!
ソラ:僕とキャシーが仲裁に入った。でも、ルミエルはなかなかやめなかったんだ。
メアリ:怪我は?
ソラ:僕とキャシーは大丈夫。テアンの肩が少し腫れたよ。叩かれたから。でも、すぐにひくんじゃないかな?
メアリ:教えてくれてありがとう。私は2人の様子を見てく・・あ(エリオットの案内中だと気づく)
エリオット:私のことなら構いませんよ?適当に見させてもらいますから。
メアリ:そういうわけには参りませんわ。ここにはお入り頂けない場所もございますし・・
ソラ:僕がお客様を案内するよ。
メアリ:ソラ?
ソラ:立ち入り禁止のところは案内しない。養子を探しているんですか?お客様。
エリオット:ああ、そうだ。
ソラ:何人か紹介しておくよ、シスター。
メアリ:そう・・ね。では、頼みましたよ。(去る)
0:シスターの背中が見えなくなると、ソラが馴れ馴れしい口調で話しかけてくる。
ソラ:どう見ても養子を迎えようとしてるとは思えない。オジサンはお芝居が下手だね。
エリオット:・・そういうお前は、シスターすら欺く(あざむく)演技力の持ち主というわけか。
ソラ:ここに何をしに来たの?売り飛ばす子供でも探しに来た?
エリオット:おい、俺を人買いだとでも?
ソラ:だって、縛って整えてはあるけれど、伸び放題の髪の毛に、剃り残した髭、質の良くないタバコの匂い・・まともな仕事の人には見えないよ?
エリオット:・・ふん。探偵みたいなやつだな。
ソラ:そう?
エリオット:お前が、あの手紙の主(ぬし)か?
ソラ:手紙?
エリオット:なんでもない。
ソラ:(ニヤニヤして)気になるなぁ。
エリオット:早くここを案内してくれ。
ソラ:それは構わないけど、養子が欲しいんじゃないなら、オジサンの目的は何?それによって案内する場所が変わってくるよ?
エリオット:ん・・。
ソラ:僕みたいな薄気味悪い子供は信用できない?
エリオット:・・・まあな。
ソラ:なるほど。オジサンは、普通の感覚の持ち主だ。
エリオット:馬鹿にしてるのか?
ソラ:こっちに来て。(エリオットの質問には答えず待たず歩き出す)
0:花壇の前にしゃがみこんで花の世話をしている少女がいる。
ソラ:ハンナ!
ハンナ:ソラ!さっきは大丈夫だった?喧嘩に巻き込まれたって・・・
ソラ:大丈夫だよ。
ハンナ:?このオジサンは?
エリオット:俺は、ただの見学者だ。こんにちは、ハンナ。
ハンナ:こんにちは、見学者さんっ!(にこにこと笑う)
エリオット:この花は、君が育てているのか?
ハンナ:ええ、そうよ。今日ひとつ咲いたの。あと5日もすれば、この花壇いっぱいにお花が咲くわ。
エリオット:そりゃあキレイだろうな。
ハンナ:うん!色んな色の種を撒いたの!
ソラ:それまでお世話を頑張らないとね。
ハンナ:うん!あとね!私、今日ご神託をいただくの。
エリオット:ご神託?
ハンナ:そうよ。頑張った子供には、神様がご神託をくださるの。そうするとその子は神様の子供になって、ずっと寂しくなくなるの。
エリオット:神様の子供?
ハンナ:おかあさん、ちっともお迎えに来てくれないんだもん。私は、神様の子供になって、ずっと幸せに暮らすの。
ソラ:ご神託で神様の子供になれば、もう寂しくなくなるよ。
エリオット:おい、それはどういう意味だ?まさか、死を選んで神のもとへ行くってことじゃ・・。
ソラ:違うよ。僕は、ご神託を受けても、こうして生きてる。
エリオット:じゃあ・・ご神託ってのは、あれか?祈りを捧げて神父から言葉を貰うような?
ハンナ:そんなんじゃないわ!眠っている間に終わるのよ。そして、心安らかな神様の子になるの。
エリオット:なんだそりゃ。
ソラ:やっぱりオジサンは普通の感覚の持ち主だ。
エリオット:お前、さっきから俺の事をそーやって凡人のように言ってるが、お前には一体どんな特別な力があるって言うんだ?
ソラ:そうだな。たとえば・・
ハンナ:ソラはすごいのよ!5桁同士の掛け算だって頭の中でできてしまうし、1度会った人の顔や名前は忘れないし、歴史の本だって暗唱できるの。
エリオット:えぇ・・?
ハンナ:それだけじゃないわ!絵を描かせたらまるで写真みたいな絵を描くのよ!すごいんだからっ!もともと賢かったけれど、ご神託を受けてからとってもとっても凄くなったんだから!
ソラ:ハンナ、もういいよ(苦笑い)
エリオット:なんだその天才少年は。
ソラ:ご神託を受けたからね。
ハンナ:はぁっ。わたしもソラみたいになれればなぁ!
エリオット:三万三千、四百二十二かける五万三千、二百十二は?
ソラ:十七億、七千八百四十五万、一千四百、六十四。
エリオット:そう・・なのか?
ソラ:うん。
エリオット:そうか・・。
ハンナ:ねっねっ!すごいでしょう?あっという間に頭が働くのよ!
エリオット:あぁ・・(持っていた電卓で計算する)はぁ・・合ってる。一体どうなってるんだ・・。
ソラ:神託を受けた子供が、みんなこうなるわけじゃない。何故か僕は選ばれたんだ。
エリオット:ただ寝て起きただけで、神の子供が出来上がるって・・そんなおかしなことはないだろう?
ソラ:そうだね、その秘密を知りたいなら・・
メアリ:ソラ!中庭をご案内していたの?
ソラ:シスター。うん、そうなんだ。今日はまだお外だけしか案内できてない。
メアリ:そうなの。エバンスさん、
エリオット:エリオットで構いません。
メアリ:エバンスさん、ご希望の子供は見つかりましたか?
エリオット:そうですねぇ、明るく元気なハンナも気になりますし、とっても賢いソラも捨て難いですね。
メアリ:申し訳ございません。ソラは、先程も申し上げましたが、とても特別な子供なんです。我々としても他所(よそ)へ出す気は・・。
エリオット:孤児院なのに、引取りの希望があってもですか?
メアリ:ええ。ソラは皆の希望ですから。
エリオット:希望・・?
ソラ:ねぇシスター?お客様に、また来週来ていただいてはどうかな?ハンナの神託も終わって落ち着いているでしょう?
メアリ:来週は、今日喧嘩した2人に神託を与えなくてはいけなくなったの。だから・・
ソラ:シスターの手があかないなら、また僕が案内するよ。ね?シスター、良いでしょう?
メアリ:そうね・・ソラがそう言うなら。
メアリ:エバンスさん、来週、また月曜にお越しになれますか?
エリオット:ええ!もちろん喜んで。
ハンナ:嬉しい!来週ならきっとこの花壇いっぱいに綺麗な花が咲いてるわ!また是非見に来てね!見学者さんっ!
エリオット:ああ、楽しみにしているよ。
0:エリオットの探偵事務所
0:書類に目を通すエリオット。
エリオット:(モノローグ)明日が、約束の月曜だ。俺はあの後、「希望の丘について」調べて回った。前評判の通り、子供たちはシスター達の見守りによってまっとうに教育されていると分かった。
エリオット:(モノローグ)しかし、妙な違和感が拭えない。
エリオット:(モノローグ)神の子供になる・・というのはどういう意味なのか。特別な子供、ソラ。何か白々しいシスター・・。もう少し調べる必要がある。
エリオット:そして、引取りを希望する家庭も多い「希望の丘」だが、養子縁組前のお試し期間終了と共に返される子供もまた多いことが分かった。俺の聞き込みでは、養父母は口を揃えて
ソラ:子供らしくない?
0:希望の丘中庭。ソラが約束通りエリオットの案内を始めている。
エリオット:ああ。ここから子供を引き取ろうとして、やめた家族に話を聞くと、ほとんどがそう答えるんだ。
ソラ:ふぅん。・・子供らしい・・ねぇ。
エリオット:ここにいる子供たちは、喧嘩もするし、よく笑うだろ?みんなお前みたいじゃあるまいし。
ソラ:・・そうだね、神様の子供になる前は、みんなそうかもしれないな。
エリオット:だから、その神様の子供ってのは・・!?(中庭で先日ハンナが世話をしていた花壇に気がつく)
エリオット:ハンナが世話してた花壇だよな、これ。
ソラ:そうだね。
エリオット:何でこんなに枯れてるんだ?
ソラ:雨が降らなかったし、
エリオット:あと少しで花壇いっぱいに花が咲くってハンナは言ってたじゃないか。
ソラ:水がなければ花は枯れるよ?世話する人がいなければ枯れちゃうんだよ。
エリオット:ハンナに何かあったのか?
ソラ:ご神託を受けたんだ。
エリオット:それで?
ソラ:彼女は神様の子供になった。
エリオット:いい加減、それがどういう意味か教えてくれよ、ソラ。
0:スっと行先を指さすソラ。その先にハンナが鉄棒にもたれ佇んでいる。
ソラ:自分の目で確かめてみるといい。
エリオット:ハンナ・・。おい!ハンナ!(ハンナに走り寄るエリオット)花壇の花・・何かあったのか?
ハンナ:(目が虚ろで光をなくしている)こんにちは。見学者さん。
エリオット:ああ・・。
ハンナ:お花は、私がお世話をしなくなったから、枯れてしまったのよ。
エリオット:どうして・・。
ハンナ:何故かしらね。何もかも楽しくないの。ウキウキもワクワクもしないの。何のために私はお花を育ててたのかしら・・。
エリオット:綺麗な花が見たかったんだろう?その小さな手で、育てて、咲かせたかったんだろう?
ハンナ:そうね・・。
エリオット:おい、一体どうしたんだ?今日ここへ来たら、花壇いっぱいの花を見せてくれるって、あんなに嬉しそうに言ってたじゃないか。
ハンナ:見学者さん、私・・笑うほど楽しいことも、泣くほど辛いことも、腹が立つことも、もうなくなったみたい。
ソラ:ハンナは、神様の子供になったんだ。
ハンナ:そうね、もう寂しくないわ。お母さんが迎えに来てくれなくても、私は神様の子供になったんだから。
エリオット:いい加減にしろ!
エリオット:ソラ!お前は何か知ってるんだろう?こんな・・こんなふうに人が変わっちまうことなんて・・薬物でも打たれたのか?
ソラ:ご神託をオジサンに見せてあげるよ。
0:着いて来いと促すように、建物に向かって歩き出すソラ、薄暗い屋内に入る。木の床が少し軋む。
ソラ:物音を立てないで。
エリオット:ここは、希望の丘の別棟か?
ソラ:うん。僕たちはみんな、ここでご神託を受けるんだ。
エリオット:・・。
ソラ:中を覗いて。
0:示された窓から室内を覗くと、中では白衣を着た医者風の男と、シスターメアリが、診察台のようなものに座り、寝かされている子供の周りにいる。
エリオット:(小声で)シスターと一緒にいるあの子供は?
ソラ:今日ご神託を受ける、ルミエルだよ。
エリオット:・・こないだ友達を殴った子か?
ソラ:記憶力がいいんだね、そうだよ。
エリオット:ご神託ってのは、一体何なんだ?
ソラ:静かに、今から始まる・・。
0:長めの間
0:別棟内。2階バルコニー
ソラ:このバルコニーなら、シスターも来ないはず。風が気持ちいいね。
ソラ:そろそろ吐き気も治まった?オジサン。
エリオット:どうなって・・うっ(吐くのを我慢する)
ソラ:信じられない光景でしょう?人間のやることじゃない。あれが、神様がくださるご神託だよ。
エリオット:シスター達は子供に何をしてたんだ・・?
ソラ:ロボトミー手術って聞いた事ある?
エリオット:かなり昔、精神病の患者などに当たり前に施されてた脳の手術・・。中には、怒りっぽいとかただそれだけの理由で受けさせられた患者もいるとか・・。
ソラ:僕たちが受けるご神託は、あれに非常に良く似てる。
エリオット:今ではご法度の手術だぞ?
ソラ:そうだね、鼻の穴から細長い棒状のハサミを入れて、脳まで到達させ、とある部分をパチンッ
エリオット:うっ・・。
ソラ:そしてそのあと、電気信号を流すんだ。僕のように、とてつもない才能が目覚めるものもいれば、全く動くことすらできなくなる子供もいる。
エリオット:まるで人体実験じゃないか。
ソラ:そうだよ、最初は実験だったんだと思う。ここにいる子供が何人減ろうが世の中には関係がないから。
ソラ:やってみたら暴力的な子供も、泣いてばかりの子供もうまいこと大人しくなったってわけ。
エリオット:だから、ハンナはあんな人格が変わっちまったってことか・・。
ソラ:そうだね。もう寂しさも感じないけど、喜びもまた感じられなくなったんだ。
エリオット:そんなこと・・許されない。
ソラ:オジサンは、普通の感覚の持ち主だ。
ソラ:躾られて、悪さをしない、泣かない子ども達。それは同時に無気力とも言えるんだ。
エリオット:子供らしくないと、養父達が言っていた意味が分かったぜ。
ソラ:人工的に、感情を失った子供・・。
エリオット:すぐに止めさせないと。
ソラ:無駄だよ?オジサン。
エリオット:警察に通報する。こんな事は許しちゃいけない。シスター達は管理しやすくしてるつもりだろうが・・。子供は大人の玩具じゃない。
ソラ:おもちゃ・・か。本当のおもちゃはここからなんだよ・・。
メアリ:ソラ、ここは立ち入り禁止ですよ?
エリオット:シスター・・あんた!子供たちになんてことを!!
メアリ:どういうことでしょうか?
エリオット:ロボトミー手術の真似事をして、子供から感情を奪い、管理していたんだな・・。
メアリ:・・全ては神の思し召しですわ。可哀想な子供たちは、もう悲しみも、寂しさも感じずに済むんですよ?
エリオット:俺は、このことを告発する。警察に通報もする。もうこんなことはお終いだ!
ソラ:無駄だよオジサン・・。
エリオット:なんでだ?
ソラ:感情を失くした子供が欲しい人も沢山いるんだ。
メアリ:引き取り手が増えるのは、子供たちにとって良いことですわ、エバンスさん。
エリオット:感情を失くした子供が欲しい・・?・・まさかシスター・・お前、子供たちを売って?
メアリ:子供を商売の道具になどしていませんわ。
ソラ:多額の寄付金で僕たちは売られるんだ。なぶられて、殺されても誰も探す人はいないからね。
メアリ:ソラ!
エリオット:おいおい・・もしそれが本当なら、それこそ黙ってはいられないぞ・・。
メアリ:ソラは想像力が逞しい子供なだけですわ。
エリオット:俺はソラが嘘を言ってるとは思えない。
ソラ:通報したって無駄なんだよ!よく考えてよ、オジサン。そんな多額の寄付金を詰める人間が、どんな立場なのか!
エリオット:・・まさか・・
ソラ:警察の偉い人、政治家の偉い人、色んなところの偉い人が、心をなくした僕たちを買うんだ。
メアリ:ソラ!止めなさいっ!またご神託が欲しいのですか!
ソラ:1度だって・・1度だって僕はご神託が欲しいと思ったことはないよ!
エリオット:・・・ソラ。
ソラ:神様の子供になんてなりたくなかった。嬉しいも悲しいも寂しいも、遠くへなんかやりたくなかった・・・。
エリオット:シスター・・あんた達はなんてことを・・。
メアリ:溢れかえってるんですよ、貧しい子供が。この施設だけじゃなく、この国中に。
メアリ:少しでも引き取り手があった方がいいじゃないですか?そうでしょう?!・・だから、私は彼らを誰からも好かれる子供にしてあげてるというのに・・。
エリオット:そんなのは、思いあがりだ!現にお前は汚い大人の手に子供たちを渡してるじゃないか!
メアリ:だって、もう感じないんですよ?そのまま渡している孤児院だってあるんです。ここ「希望の丘」は、苦しみや悲しみから子供たちを救っているんですわ!
エリオット:本気で言ってるな・・。狂ってやがる・・。
ソラ:オジサンは、普通の感覚の持ち主だ。
ソラ:ごめんね、オジサン・・!
0:突然ソラがエリオットに突進する。2階のバルコニーからエリオットは突き落とされる。
エリオット:ソラ!?うぁぁぁっ・・!!
0:バルコニーから、1階に落ちたエリオットを見下ろすソラ。
エリオット:いっ・・てぇ・・。
ソラ:オジサン、立てそう?
エリオット:いってぇよ!なんだよ!!いきなり!
0:ソラは左手に薬品を持っている。
ソラ:この薬は、可燃性のガスを発生させる。
エリオット:なに!?
メアリ:ソラ!?
ソラ:みんなここでおしまいにする。
メアリ:やめなさいっ!やめなさいっソラ!
ソラ:僕を少年愛好家の政治家に売ろうとしているでしょう?シスター。知ってるよ。
メアリ:あの方をそんな風に言うのはやめなさいっ!貴方を引き取って学校にも通わせてくれるというのに!
ソラ:シスターは、初めから狂ってる。僕たちと同じだね。
エリオット:お前たちは狂ってなんかいない!シスターとは違う!やめるんだソラ!
ソラ:もう遅いよ。もう・・遅いんだよ。
エリオット:遅くなんかない。お前は今怒ってるんだ。ちゃんとお前の心が、怒ってるって言ってるんだ。
ソラ:そう・・なのかな?でも、僕がみんなを救ってあげなきゃ・・。可愛いハンナも、いたずらっこのルミエルも、大人におもちゃにされて殺されていいわけないんだよ・・。
エリオット:その通りだ。でも、全て燃やすことが救いになるなんて、そんな馬鹿げたことはない。
ソラ:(持っていた松明(たいまつ)に火をつける)薬を撒いて、この火をつければ・・。
エリオット:やめてくれ!!あの手紙を、あの手紙をくれたのはお前なんだろう!?
ソラ:・・・。
エリオット:お前はそんなことしたくないはずなんだ!だから俺に「助けて」って、そう書いたんだろう!?
ソラ:もう遅いんだ・・やられたことは無かったことにできない。
エリオット:そうかもしれない。でも、お前は生きて、その天才になっちまった頭で考えて、仲間を救う方法を考えるんだ。一緒に生きてやるんだ!
ソラ:・・・。
エリオット:頼りにならないが、俺もいる。さぁ、火を消せ!
ソラ:オジサン・・。僕たちは、これ以上玩具にされなくていいのかな・・?
エリオット:大丈夫だ。世の中そんなに腐っちゃいない。
ソラ:そっか・・(ゆっくりと松明を下げ、火をつけるのをやめようとする)
メアリ:その薬を渡しなさい!
エリオット:シスター!?やめろっ!
0:ソラの持っていた薬瓶と松明がバルコニーに落ちる。
ソラ:あ・・・!
0:シスターメアリのスカートの裾に火がつき、火が上へと燃え広がってくる
メアリ:ひっ!いやっ!!あ!消して!・・助けて!ぎゃあああああああああああ!
0:倒れるシスター。火がバルコニーの植物をつたって燃え広がっていく。
ソラ:シスター・・
エリオット:ソラ!飛び降りろ!受け止める!!
ソラ:シスター・・・。
エリオット:何やってんだ!飛び降りろ!
0:ソラはエリオットを見下ろして言う
ソラ:まだルミエルの麻酔が覚めてない。
エリオット:もう間に合わない!お前だけでも飛べ!
ソラ:あいつ、意外と泣き虫なんだ。一緒にいてあげなきゃ。
エリオット:飛んでくれ!ソラ!
ソラ:ありがとう。オジサン。
エリオット:やめろ!行くな!ソラ・・・!
0:炎のなかへ去るソラ。呆然と見上げるエリオット。
0:
0:
エリオット:(モノローグ)あの火事で、希望の丘の子どもたちや職員の約半数が死亡した。警察の事情聴取に俺は洗いざらい話をしたが、ご神託と呼ばれた、あの手術のことが世に明るみになることはなかった。ソラと思われる子供は、1階でルミエルらしき子供と折り重なって発見された。
エリオット:(モノローグ)救ってやることができなかった。すべて打ち明けてもらったのに。最後に俺の言葉は届かなかった。でも、これから俺は、彼らを買っていた連中と俺なりに戦おうと思っている。二度と子供が未来を悲観することがないように。
0:花瓶を抱えた少女がエリオットの部屋へ入ってくる。
ハンナ:エリオット
エリオット:花瓶の水を変えてくれたのか?ハンナ。ありがとう。そろそろ晩飯の買い出しに出かけるか。
0:路地を歩くエリオットと少女
0:
0:
0:おわり