台本概要

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タイトル [2:2:0]江戸の仇を長崎で討つ
作者名 夜霧ミスト@夜霧姫  (@YogiriMist)
ジャンル 時代劇
演者人数 4人用台本(男2、女2) ※兼役あり
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 江戸時代、とある理由さえあれば合法的に人が殺せました
それは・・・「仇討ち」です(役所に願届けの提出が必要だったみたいですが)
「江戸の仇を長崎で討つ」・・・
江戸で受けた恨みを遠く離れた長崎の地にて果たすこと
転じて昔受けた恨みを意外な場所ではらされること

詳しくは各自ググってください(説明めんどくさくなった)

※流石にこのシナリオみたいなことをするのは違法だったということをここに付け加えておきます


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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ゆかり 106 復讐者
あかり 59 復讐者
57 極貧武士
4 モブ
志士1 - 攘夷志士1 男兼役
志士2 23 志士1の同僚 士兼役
12 「男」の娘の姉の方 ゆかり兼役
13 「男」の娘の妹の方 あかり兼役
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ゆかり:昔々、あるところに仲のいい家族がいた ゆかり:子供思いの父と母・・・そして未だ姉離れのできない甘えん坊の妹・・・ ゆかり:その家族は裕福とは言えなかったが、とても幸せであった ゆかり:しかし・・・その幸せは突如として終りを迎える 男:ハァ・・・ッ!ハァ・・・ッ! ゆかり:・・・ あかり:・・・ 男:・・・ひゃは・・・!ひゃはははははは! あかり:(小声)おと・・・ ゆかり:(小声)ダメ!声を出しては・・・! あかり:・・・ッ! ゆかり:父は役人であった ゆかり:この激動の時代・・・父が取り締まった悪人は数しれず ゆかり:そんな父が他人から恨みを買うのは・・・当然のことであった 男:てめぇが悪いんだ・・・てめぇが・・・! 男:はは・・・はははははは! ゆかり:父は私の前で無惨にも斬り殺された ゆかり:そして、母も・・・ ゆかり:私達姉妹は・・・じっと物陰に隠れていることしかできなかった ゆかり:父と母から吹き出す鮮血の赤い液体 ゆかり:そして赤い液体に染まった暴漢の姿・・・ ゆかり:私は・・・その瞬間が目に焼き付いて離れない ゆかり:そして・・・その後のことはあまり覚えていない ──数年後 ゆかり:あのとき、父母を守れなかったのは私が弱かったからだ ゆかり:私に力さえあれば・・・誰にも負けない、圧倒的な力・・・ ゆかり:そこで出会ったのが「剣」の道・・・ ゆかり:そうだ・・・これさえあれば・・・! ゆかり:そこから私はがむしゃらに剣の道を極めた ゆかり:そして・・・ あかり:おねえちゃん、お疲れ様 ゆかり:あかりも、お疲れ様 あかり:私は何もしてないよ ゆかり:いいや、そんなことない ゆかり:あかりがいるからこそ、私は頑張れる ゆかり:なにもできなくてもいい、私の傍にいてくれるだけで あかり:おねえちゃん・・・ あかり:そうだ・・・おねえちゃん・・・今日の分 ゆかり:ん・・・ありがとう あかり:・・・父さんと母さんの仇・・・討てるといいね ゆかり:・・・うん ゆかり:私は暗殺者となった ゆかり:世にはびこる悪を裁く・・・ ゆかり:そうしていればきっと・・・ あかり:そのために私も頑張るよ ゆかり:そして、妹は情報収集を・・・ ゆかり:いつしか・・・二人で両親の仇を討つんだ ─江戸 士:うう~さむいさむい 士:こんな時は早く帰って暖まるに限る ゆかり:・・・ 士:・・・殺気!? ゆかり:・・・ 士:・・・って童女か 士:どうした?迷子か?今日は体が冷えるゆえ、はよう家に帰ったほうが ゆかり:・・・天誅! 士:ぐわ・・・!?な・・・んだ・・・ ゆかり:・・・この男も・・・違った あかり:おねえちゃん ゆかり:・・・今回もハズレだったよ あかり:・・・そう ゆかり:あの男・・・絶対に・・・探し出して・・・自らこの手で・・・! あかり:おねえちゃん・・・ ─京都 志士1:なぁ、お前知ってるか? 志士2:ン?なんのことだ? 志士1:この周辺に人斬りが潜んでいるらしい 志士2:人斬りだぁ? 志士1:そう、人斬り 志士2:そりゃ物騒だねぇ・・・しかしよ、その人斬りってぇのは誰を斬っているんだい 志士1:何やら悪人を斬っているってぇ話さ 志士2:悪人?なんだかよく分からねぇなぁ 志士1:あとは幕府の連中も斬って回っているらしい 志士2:幕府の・・・てぇことは俺らの味方ってことかい 志士1:だといいがな 志士2:さっきからいまいちはっきりしねぇ話だなぁ 志士1:まぁ、噂だからよ 志士2:噂と言えど、実際に斬られたやつがいるから、そう言う話が出るんだろ? 志士2:火のないところに煙は立たない、てな 志士1:まぁ、そうなんだけどよ 志士2:仲間じゃないってんなら俺らの仲間に引き入れちまえばいい 志士1:仲間に? 志士2:そう、仲間に 志士2:幕府の連中を斬って回っているってんなら、きっと幕府のやり方に不満を持っている・・・いわば同志よ 志士2:我らと同じ志を持つものであれば、我らの思想も受け入れてくれるはずさ 志士1:そんな簡単に事が運ぶのかねぇ・・・ 志士2:なぁに、我らが志を強く説けば・・・! 志士1:どうした? 志士2:・・・殺気が 志士1:・・・! ゆかり:・・・ 志士1:・・・なんだ、小娘ではないか 志士1:いかが致した?ここは危険ぞ、はよう家に帰れ 志士2:・・・そういえば、先程の噂の者・・・どのような風貌なのだ? 志士1:うーむ、聞いた話によると・・・確か・・・ 志士1:風貌は「鬼」と言うには華奢で、見た目はおなごに近い・・・と聞いたな 志士2:おなご・・・ 志士1:そうだ・・・屈強な男ではない分、身軽で風をきるように男たちを斬っていくと 志士2:ならば・・・あの小娘がそうではないのか? 志士1:まさか ゆかり:・・・ 志士1:まだ齢(よわい)18ほどのおなごではないか 志士2:しかし、腰元を見てみろ 志士1:・・・帯刀、している 志士2:・・・やはり ゆかり:・・・ 志士2:となれば、やることは一つ 志士1:説得・・・か 志士2:・・・そうだ 志士2:・・・さて、小娘よ 志士2:貴殿の噂は聞いておる ゆかり:・・・ 志士2:貴殿の怒り、最も 志士2:我らも同じ・・・つまりは志を同じくする同志 志士2:我らとともに幕府を ゆかり:・・・うるさい 志士2:・・・ぐはっ・・・! 志士1:なっ!?はや・・・ 志士2:な・・・ぜ・・・我らに・・・ ゆかり:うるさいうるさいうるさい・・・! 志士1:ぐ・・・ 志士2:ガァ・・・! ゆかり:私の気持ちも知らないで・・・! ゆかり:これは・・・仇討ちがための剣・・・! ゆかり:幕府とか・・・攘夷とか・・・そんな単純な理由じゃ・・・ない!!! 志士1:・・・ 志士2:・・・ ゆかり:・・・こいつらも、違った あかり:おねえちゃん ゆかり:・・・あかり あかり:また、違ったんだね ゆかり:・・・ええ あかり:私達の仇・・・本当に生きているのかな ゆかり:・・・生きてる ゆかり:・・・いや、生きていなくちゃいけない ゆかり:私のこの手で殺すまで・・・生きていてなきゃいけない あかり:おねえちゃん・・・ ゆかり:・・・あかり、情報は あかり:・・・えっとね、聞いた話によると・・・ あかり:それらしき人間を見かけたって ゆかり:どこ あかり:・・・肥前は長崎・・・出島 ゆかり:長崎・・・ あかり:これは確実だと思う ゆかり:・・・どうして? あかり:分からない・・・でも・・・そんな気がする ゆかり:・・・この旅も、終わりを迎えようとしているのね あかり:・・・そうだね ゆかり:・・・行きましょう・・・長崎へ あかり:うん ─長崎 あかり:・・・ねえ、おねえちゃん・・・あれ ゆかり:・・・やっと・・・やっと・・・見つけた あかり:あの人で、間違いない・・・? ゆかり:ええ、そうよ・・・あいつよ・・・! ゆかり:忘れることなんて、一度もなかった ゆかり:あの顔!あの傷! あかり:おねえちゃん・・・ ゆかり:殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやる殺してやる殺してやる あかり:まって、おねえちゃん! ゆかり:止めないで、あかり! あかり:待って、おねえちゃん あかり:様子がおかしいよ 男:ただいま 姉:おとうさん、おかえり! 妹:おかえり! 男:いい子にして待ってたか? 妹:うん! 姉:私はいい子にしてたよ!でもこの子は 妹:もう!おねえちゃん!言わないで! 姉:あははは 男:あははは 妹:あははは 男:・・・ 姉:・・・おとうさん? 男:今日はこれだけ・・・だ 妹:少ない・・・ 男:すまねえな・・・俺がもっと・・・しっかりしていれば 姉:私は大丈夫だよ 姉:おとうさんと、この子がいてくれるだけで私は幸せ 妹:私もー! 男:情けねえ話だ・・・だけどよ、ありがとう 姉:私がみんなのおかあさんだから! 男:おう、頼りにしてるぜ、「おかあさん」 姉:えへへ 妹:私も!私も「おかあさん」なる! 姉:まだ早いよ 妹:私もちゃんとできるもん!えへん! 男:・・・そうだな、俺にはしっかり者の二人がいてくれて本当に幸せだよ、グス・・・ 姉:おとうさん、泣かないで 妹:泣かないで! 男:これは「男泣き」ってやつでぃ 姉:「男泣き」・・・? 妹:なにそれ 男:気にするなぃ・・・ 男:かあちゃん・・・見てるか? 男:二人の娘は立派に育ってるぜ・・・ 男:だからよ・・・安心して、上から見守ってくんな あかり:・・・ ゆかり:・・・家族 あかり:・・・幸せそうだね ゆかり:・・・ええ あかり:・・・あの子達・・・ ゆかり:私達に・・・そっくり あかり:私達が仇討ちしたら・・・ ゆかり:・・・ あかり:・・・仇討ち ゆかり:・・・さない あかり:え? ゆかり:・・・さない・・・許さない あかり:おねえちゃん? ゆかり:許さない許さない許さない許さない! ゆかり:私達の幸せを壊したやつが!幸せにしているなんて! ゆかり:絶対に赦さない! あかり:あ、おねえちゃん! ゆかり:貴様ァ! 男:・・・!なんだ、お前は!? ゆかり:忘れたとは言わせない・・・ ゆかり:2年前・・・!江戸! ゆかり:あの日貴様が何をしたのか! 男:2年前・・・? ゆかり:まさか・・・忘れたというのか・・・! ゆかり:私達の幸せを奪った・・・あの出来事! 男:・・・ あかり:おねえちゃん! ゆかり:あかり・・・ あかり:この人が・・・いや、こいつが! ゆかり:うん、やっと・・・やっと復讐できる! あかり:おねえちゃん、頑張って! ゆかり:あかり、そこで見ていてね あかり:うん! 男:・・・ ゆかり:貴様! 男:・・・思い出したぞ 男:そういや、江戸で人を殺したなァ・・・ 男:確か・・・男と・・・女と・・・ ゆかり:そうだ!私は父と母の無念を晴らすためにここに来た! 男:・・・ ゆかり:なぜ、殺した!なぜ、壊した!言え! 男:おう、お前は幸せか? ゆかり:な、なにを・・・! 男:幸せかって聞いてるんだよ ゆかり:幸せだった!あの時までは!それを貴様が・・・! 男:そうだろうなァ!貴様たちはヌクヌクと貧しい者たちから金や物を奪い取ってそれで生活できるんだからなァ! ゆかり:な・・・ 男:てめぇらは下々の声を聞いたか?下々がどれだけ困窮していたか知っていたか? 男:それも知らず、ただ悪を裁くという理由で俺等を弾圧した! 男:本当に悪なのはどっちだ!? 男:貴様は知らぬであろう!あのとき、代官が「袖の下」をしていたこと!贅を尽くしていたこと! 男:そして・・・お前の父とやらもそれを知っていて黙認していたことも! ゆかり:ち・・・父を侮辱するな・・・!! 男:だから俺が殺した!下々の「復讐」のために! ゆかり:・・・く 男:貴様は知らぬであろう!お前の父は、俺の妻を手打ちにしたことを! ゆかり:・・・ 男:だからやつを殺した!俺には大義があった!だから ゆかり:知ったことか! 男:・・・! ゆかり:お前は私の父を殺した!母を殺した!私が貴様を殺すのには十分すぎる理由だ! 男:クッ・・・ あかり:おねえちゃん・・・ ゆかり:あかり・・・ あかり:おねえちゃんは、なにも間違ってない あかり:私は・・・いつまでもお姉ちゃんの味方だよ ゆかり:あかり・・・そこで見ていてね ゆかり:おとうさんとおかあさんの仇を、必ず討つから あかり:・・・うん ゆかり:うわあああああ! 男:チィッ・・・ ゆかり:フンッ!とりゃ!ハァッ! 男:・・・クッ、こいつ、なかなかの手練じゃねぇか・・・ ゆかり:トゥ! 男:だが、しかし! ゆかり:きゃあ! 男:俺も負けてられねぇんだよ!オラッ! ゆかり:ハァッ・・・!クッ・・・! 男:トゥ! ゆかり:ぐ・・・! あかり:おねえちゃん! ゆかり:あか・・・り・・・ あかり:おねえちゃん、負けないで! ゆかり:あかり・・・! 男:てめぇ、さっきからなにブツブツ独り言を言ってやがる ゆかり:何? 男:気色悪いったらありゃしねぇ ゆかり:うるさい! あかり:おねえちゃん!聞いちゃダメだよ!あれはただの挑発なんだから! ゆかり:そうだ!私たちを惑わそうとしても無駄だ! 男:・・・?まさか、覚えて、いないのか・・・? ゆかり:何をだ! 男:お前の妹は、俺が殺した 男:あの日、お前の両親と一緒に ゆかり:・・・! あかり:おねえちゃん!耳を貸しちゃダメ! ゆかり:・・・ あかり:おねえちゃん! ゆかり:・・・思い・・・出した・・・ あかり:おねえちゃん! ── 男:はは・・・は・・・ あかり:おとうさん・・・おかあさん・・・ ゆかり:あかり、出ちゃダメ あかり:おとう・・・あ、あああああッ! 男:クッ、なんだこのガキッ! あかり:うわああああッ! 男:クソがっ! あかり:ゴフッ・・・ ゆかり:あ・・・ああ・・・ 男:ケッ・・・さっさとずらかるぜ ゆかり:・・・あああああッ! ── ゆかり:・・・あかり? ゆかり:ねぇ、あかり・・・!返事をして・・・! ゆかり:さっきまで、話してたじゃない ゆかり:ねぇ・・・お願い・・・返事をして ゆかり:・・・生きてるって、言って 男:お前の妹は俺が殺した ゆかり:・・・うわああああ! 男:眼の前で父と母だけじゃなく妹まで殺されて記憶を閉ざし ゆかり:うわああああ! 男:そして幻の妹を創り上げた ゆかり:うわああああ! 男:・・・ ゆかり:・・・殺す 男:・・・ ゆかり:殺す殺す殺す殺すッ! 男:明らかに太刀筋が荒くなったな、それでは俺は殺せん! ゆかり:ぐふっ・・・ 男:終わりだ ゆかり:・・・ 男:家族の元へ送ってやる・・・トドメだ・・・ ゆかり:・・・ 男:・・・グッ・・・あ、暗器・・・だと・・・ ゆかり:・・・お前を殺す・・・それだけのために・・・生きてきた 男:ハァッ・・・ハァッ・・・ ゆかり:私は修羅・・・復讐を果たす鬼 男:く・・・ぐああああ!? ゆかり:簡単には死なせない 男:アアッ・・・がアアア! ゆかり:いたぶって・・・いたぶって・・・いたぶり続けて、殺してやる! 妹:おとうさん! 姉:おとうさん! 男:・・・来るな! 妹:わああ! ゆかり:・・・うるさい、死ね 妹:が・・・!? 姉:あ・・・ 男:・・・お、お前たち・・・ ゆかり:・・・興が削がれた、死ね 男:グフッ・・・ ゆかり:あはは・・・終わったよ、みんな ゆかり:みんなの仇・・・ちゃんととったよ ゆかり:みんな喜んでくれるかな・・・ ゆかり:ねぇ、あかり ゆかり:・・・あかり? ゆかり:いつもみたいに「おつかれさま」って言ってよ ゆかり:頑張った私を褒めてよ・・・ ゆかり:ねぇ・・・ねぇ!! ゆかり:あかり! ゆかり:うわああああ! あかり:見つけた!兄様の仇! ──あかりに似た少女に刺される ゆかり:ゴフッ・・・あ、あかり・・・? ゆかり:やっぱり・・・生きて あかり:生きていたわ!そう、あなたを殺すために! ゆかり:あかり・・・お姉ちゃんだよ・・・終わったんだよ・・・ あかり:私にお姉ちゃんなんていない! ゆかり:・・・どうして、私に刃を・・・向けるの あかり:兄様の仇だからだ! ゆかり:かた・・き? あかり:数ヶ月前、江戸!お前は一人の士(さむらい)・・・そう、私の兄を殺した! ゆかり:・・・ あかり:お前は覚えていなくても!兄様を殺した事実だけあればいい!だから・・・私がお前を殺す! ゆかり:ぐはっ・・・ あかり:・・・お前は、悪い意味で有名になりすぎた ゆかり:・・・ あかり:・・・兄様・・・終わったよ あかり:兄様・・・喜んでくれるかな あかり:今から・・・私も、そっちに向かうね あかり:だから・・・いっぱい・・・褒めて・・・ほしいな あかり:・・・愛してる・・・兄様・・・ ──

ゆかり:昔々、あるところに仲のいい家族がいた ゆかり:子供思いの父と母・・・そして未だ姉離れのできない甘えん坊の妹・・・ ゆかり:その家族は裕福とは言えなかったが、とても幸せであった ゆかり:しかし・・・その幸せは突如として終りを迎える 男:ハァ・・・ッ!ハァ・・・ッ! ゆかり:・・・ あかり:・・・ 男:・・・ひゃは・・・!ひゃはははははは! あかり:(小声)おと・・・ ゆかり:(小声)ダメ!声を出しては・・・! あかり:・・・ッ! ゆかり:父は役人であった ゆかり:この激動の時代・・・父が取り締まった悪人は数しれず ゆかり:そんな父が他人から恨みを買うのは・・・当然のことであった 男:てめぇが悪いんだ・・・てめぇが・・・! 男:はは・・・はははははは! ゆかり:父は私の前で無惨にも斬り殺された ゆかり:そして、母も・・・ ゆかり:私達姉妹は・・・じっと物陰に隠れていることしかできなかった ゆかり:父と母から吹き出す鮮血の赤い液体 ゆかり:そして赤い液体に染まった暴漢の姿・・・ ゆかり:私は・・・その瞬間が目に焼き付いて離れない ゆかり:そして・・・その後のことはあまり覚えていない ──数年後 ゆかり:あのとき、父母を守れなかったのは私が弱かったからだ ゆかり:私に力さえあれば・・・誰にも負けない、圧倒的な力・・・ ゆかり:そこで出会ったのが「剣」の道・・・ ゆかり:そうだ・・・これさえあれば・・・! ゆかり:そこから私はがむしゃらに剣の道を極めた ゆかり:そして・・・ あかり:おねえちゃん、お疲れ様 ゆかり:あかりも、お疲れ様 あかり:私は何もしてないよ ゆかり:いいや、そんなことない ゆかり:あかりがいるからこそ、私は頑張れる ゆかり:なにもできなくてもいい、私の傍にいてくれるだけで あかり:おねえちゃん・・・ あかり:そうだ・・・おねえちゃん・・・今日の分 ゆかり:ん・・・ありがとう あかり:・・・父さんと母さんの仇・・・討てるといいね ゆかり:・・・うん ゆかり:私は暗殺者となった ゆかり:世にはびこる悪を裁く・・・ ゆかり:そうしていればきっと・・・ あかり:そのために私も頑張るよ ゆかり:そして、妹は情報収集を・・・ ゆかり:いつしか・・・二人で両親の仇を討つんだ ─江戸 士:うう~さむいさむい 士:こんな時は早く帰って暖まるに限る ゆかり:・・・ 士:・・・殺気!? ゆかり:・・・ 士:・・・って童女か 士:どうした?迷子か?今日は体が冷えるゆえ、はよう家に帰ったほうが ゆかり:・・・天誅! 士:ぐわ・・・!?な・・・んだ・・・ ゆかり:・・・この男も・・・違った あかり:おねえちゃん ゆかり:・・・今回もハズレだったよ あかり:・・・そう ゆかり:あの男・・・絶対に・・・探し出して・・・自らこの手で・・・! あかり:おねえちゃん・・・ ─京都 志士1:なぁ、お前知ってるか? 志士2:ン?なんのことだ? 志士1:この周辺に人斬りが潜んでいるらしい 志士2:人斬りだぁ? 志士1:そう、人斬り 志士2:そりゃ物騒だねぇ・・・しかしよ、その人斬りってぇのは誰を斬っているんだい 志士1:何やら悪人を斬っているってぇ話さ 志士2:悪人?なんだかよく分からねぇなぁ 志士1:あとは幕府の連中も斬って回っているらしい 志士2:幕府の・・・てぇことは俺らの味方ってことかい 志士1:だといいがな 志士2:さっきからいまいちはっきりしねぇ話だなぁ 志士1:まぁ、噂だからよ 志士2:噂と言えど、実際に斬られたやつがいるから、そう言う話が出るんだろ? 志士2:火のないところに煙は立たない、てな 志士1:まぁ、そうなんだけどよ 志士2:仲間じゃないってんなら俺らの仲間に引き入れちまえばいい 志士1:仲間に? 志士2:そう、仲間に 志士2:幕府の連中を斬って回っているってんなら、きっと幕府のやり方に不満を持っている・・・いわば同志よ 志士2:我らと同じ志を持つものであれば、我らの思想も受け入れてくれるはずさ 志士1:そんな簡単に事が運ぶのかねぇ・・・ 志士2:なぁに、我らが志を強く説けば・・・! 志士1:どうした? 志士2:・・・殺気が 志士1:・・・! ゆかり:・・・ 志士1:・・・なんだ、小娘ではないか 志士1:いかが致した?ここは危険ぞ、はよう家に帰れ 志士2:・・・そういえば、先程の噂の者・・・どのような風貌なのだ? 志士1:うーむ、聞いた話によると・・・確か・・・ 志士1:風貌は「鬼」と言うには華奢で、見た目はおなごに近い・・・と聞いたな 志士2:おなご・・・ 志士1:そうだ・・・屈強な男ではない分、身軽で風をきるように男たちを斬っていくと 志士2:ならば・・・あの小娘がそうではないのか? 志士1:まさか ゆかり:・・・ 志士1:まだ齢(よわい)18ほどのおなごではないか 志士2:しかし、腰元を見てみろ 志士1:・・・帯刀、している 志士2:・・・やはり ゆかり:・・・ 志士2:となれば、やることは一つ 志士1:説得・・・か 志士2:・・・そうだ 志士2:・・・さて、小娘よ 志士2:貴殿の噂は聞いておる ゆかり:・・・ 志士2:貴殿の怒り、最も 志士2:我らも同じ・・・つまりは志を同じくする同志 志士2:我らとともに幕府を ゆかり:・・・うるさい 志士2:・・・ぐはっ・・・! 志士1:なっ!?はや・・・ 志士2:な・・・ぜ・・・我らに・・・ ゆかり:うるさいうるさいうるさい・・・! 志士1:ぐ・・・ 志士2:ガァ・・・! ゆかり:私の気持ちも知らないで・・・! ゆかり:これは・・・仇討ちがための剣・・・! ゆかり:幕府とか・・・攘夷とか・・・そんな単純な理由じゃ・・・ない!!! 志士1:・・・ 志士2:・・・ ゆかり:・・・こいつらも、違った あかり:おねえちゃん ゆかり:・・・あかり あかり:また、違ったんだね ゆかり:・・・ええ あかり:私達の仇・・・本当に生きているのかな ゆかり:・・・生きてる ゆかり:・・・いや、生きていなくちゃいけない ゆかり:私のこの手で殺すまで・・・生きていてなきゃいけない あかり:おねえちゃん・・・ ゆかり:・・・あかり、情報は あかり:・・・えっとね、聞いた話によると・・・ あかり:それらしき人間を見かけたって ゆかり:どこ あかり:・・・肥前は長崎・・・出島 ゆかり:長崎・・・ あかり:これは確実だと思う ゆかり:・・・どうして? あかり:分からない・・・でも・・・そんな気がする ゆかり:・・・この旅も、終わりを迎えようとしているのね あかり:・・・そうだね ゆかり:・・・行きましょう・・・長崎へ あかり:うん ─長崎 あかり:・・・ねえ、おねえちゃん・・・あれ ゆかり:・・・やっと・・・やっと・・・見つけた あかり:あの人で、間違いない・・・? ゆかり:ええ、そうよ・・・あいつよ・・・! ゆかり:忘れることなんて、一度もなかった ゆかり:あの顔!あの傷! あかり:おねえちゃん・・・ ゆかり:殺してやる・・・殺してやる・・・殺してやる殺してやる殺してやる あかり:まって、おねえちゃん! ゆかり:止めないで、あかり! あかり:待って、おねえちゃん あかり:様子がおかしいよ 男:ただいま 姉:おとうさん、おかえり! 妹:おかえり! 男:いい子にして待ってたか? 妹:うん! 姉:私はいい子にしてたよ!でもこの子は 妹:もう!おねえちゃん!言わないで! 姉:あははは 男:あははは 妹:あははは 男:・・・ 姉:・・・おとうさん? 男:今日はこれだけ・・・だ 妹:少ない・・・ 男:すまねえな・・・俺がもっと・・・しっかりしていれば 姉:私は大丈夫だよ 姉:おとうさんと、この子がいてくれるだけで私は幸せ 妹:私もー! 男:情けねえ話だ・・・だけどよ、ありがとう 姉:私がみんなのおかあさんだから! 男:おう、頼りにしてるぜ、「おかあさん」 姉:えへへ 妹:私も!私も「おかあさん」なる! 姉:まだ早いよ 妹:私もちゃんとできるもん!えへん! 男:・・・そうだな、俺にはしっかり者の二人がいてくれて本当に幸せだよ、グス・・・ 姉:おとうさん、泣かないで 妹:泣かないで! 男:これは「男泣き」ってやつでぃ 姉:「男泣き」・・・? 妹:なにそれ 男:気にするなぃ・・・ 男:かあちゃん・・・見てるか? 男:二人の娘は立派に育ってるぜ・・・ 男:だからよ・・・安心して、上から見守ってくんな あかり:・・・ ゆかり:・・・家族 あかり:・・・幸せそうだね ゆかり:・・・ええ あかり:・・・あの子達・・・ ゆかり:私達に・・・そっくり あかり:私達が仇討ちしたら・・・ ゆかり:・・・ あかり:・・・仇討ち ゆかり:・・・さない あかり:え? ゆかり:・・・さない・・・許さない あかり:おねえちゃん? ゆかり:許さない許さない許さない許さない! ゆかり:私達の幸せを壊したやつが!幸せにしているなんて! ゆかり:絶対に赦さない! あかり:あ、おねえちゃん! ゆかり:貴様ァ! 男:・・・!なんだ、お前は!? ゆかり:忘れたとは言わせない・・・ ゆかり:2年前・・・!江戸! ゆかり:あの日貴様が何をしたのか! 男:2年前・・・? ゆかり:まさか・・・忘れたというのか・・・! ゆかり:私達の幸せを奪った・・・あの出来事! 男:・・・ あかり:おねえちゃん! ゆかり:あかり・・・ あかり:この人が・・・いや、こいつが! ゆかり:うん、やっと・・・やっと復讐できる! あかり:おねえちゃん、頑張って! ゆかり:あかり、そこで見ていてね あかり:うん! 男:・・・ ゆかり:貴様! 男:・・・思い出したぞ 男:そういや、江戸で人を殺したなァ・・・ 男:確か・・・男と・・・女と・・・ ゆかり:そうだ!私は父と母の無念を晴らすためにここに来た! 男:・・・ ゆかり:なぜ、殺した!なぜ、壊した!言え! 男:おう、お前は幸せか? ゆかり:な、なにを・・・! 男:幸せかって聞いてるんだよ ゆかり:幸せだった!あの時までは!それを貴様が・・・! 男:そうだろうなァ!貴様たちはヌクヌクと貧しい者たちから金や物を奪い取ってそれで生活できるんだからなァ! ゆかり:な・・・ 男:てめぇらは下々の声を聞いたか?下々がどれだけ困窮していたか知っていたか? 男:それも知らず、ただ悪を裁くという理由で俺等を弾圧した! 男:本当に悪なのはどっちだ!? 男:貴様は知らぬであろう!あのとき、代官が「袖の下」をしていたこと!贅を尽くしていたこと! 男:そして・・・お前の父とやらもそれを知っていて黙認していたことも! ゆかり:ち・・・父を侮辱するな・・・!! 男:だから俺が殺した!下々の「復讐」のために! ゆかり:・・・く 男:貴様は知らぬであろう!お前の父は、俺の妻を手打ちにしたことを! ゆかり:・・・ 男:だからやつを殺した!俺には大義があった!だから ゆかり:知ったことか! 男:・・・! ゆかり:お前は私の父を殺した!母を殺した!私が貴様を殺すのには十分すぎる理由だ! 男:クッ・・・ あかり:おねえちゃん・・・ ゆかり:あかり・・・ あかり:おねえちゃんは、なにも間違ってない あかり:私は・・・いつまでもお姉ちゃんの味方だよ ゆかり:あかり・・・そこで見ていてね ゆかり:おとうさんとおかあさんの仇を、必ず討つから あかり:・・・うん ゆかり:うわあああああ! 男:チィッ・・・ ゆかり:フンッ!とりゃ!ハァッ! 男:・・・クッ、こいつ、なかなかの手練じゃねぇか・・・ ゆかり:トゥ! 男:だが、しかし! ゆかり:きゃあ! 男:俺も負けてられねぇんだよ!オラッ! ゆかり:ハァッ・・・!クッ・・・! 男:トゥ! ゆかり:ぐ・・・! あかり:おねえちゃん! ゆかり:あか・・・り・・・ あかり:おねえちゃん、負けないで! ゆかり:あかり・・・! 男:てめぇ、さっきからなにブツブツ独り言を言ってやがる ゆかり:何? 男:気色悪いったらありゃしねぇ ゆかり:うるさい! あかり:おねえちゃん!聞いちゃダメだよ!あれはただの挑発なんだから! ゆかり:そうだ!私たちを惑わそうとしても無駄だ! 男:・・・?まさか、覚えて、いないのか・・・? ゆかり:何をだ! 男:お前の妹は、俺が殺した 男:あの日、お前の両親と一緒に ゆかり:・・・! あかり:おねえちゃん!耳を貸しちゃダメ! ゆかり:・・・ あかり:おねえちゃん! ゆかり:・・・思い・・・出した・・・ あかり:おねえちゃん! ── 男:はは・・・は・・・ あかり:おとうさん・・・おかあさん・・・ ゆかり:あかり、出ちゃダメ あかり:おとう・・・あ、あああああッ! 男:クッ、なんだこのガキッ! あかり:うわああああッ! 男:クソがっ! あかり:ゴフッ・・・ ゆかり:あ・・・ああ・・・ 男:ケッ・・・さっさとずらかるぜ ゆかり:・・・あああああッ! ── ゆかり:・・・あかり? ゆかり:ねぇ、あかり・・・!返事をして・・・! ゆかり:さっきまで、話してたじゃない ゆかり:ねぇ・・・お願い・・・返事をして ゆかり:・・・生きてるって、言って 男:お前の妹は俺が殺した ゆかり:・・・うわああああ! 男:眼の前で父と母だけじゃなく妹まで殺されて記憶を閉ざし ゆかり:うわああああ! 男:そして幻の妹を創り上げた ゆかり:うわああああ! 男:・・・ ゆかり:・・・殺す 男:・・・ ゆかり:殺す殺す殺す殺すッ! 男:明らかに太刀筋が荒くなったな、それでは俺は殺せん! ゆかり:ぐふっ・・・ 男:終わりだ ゆかり:・・・ 男:家族の元へ送ってやる・・・トドメだ・・・ ゆかり:・・・ 男:・・・グッ・・・あ、暗器・・・だと・・・ ゆかり:・・・お前を殺す・・・それだけのために・・・生きてきた 男:ハァッ・・・ハァッ・・・ ゆかり:私は修羅・・・復讐を果たす鬼 男:く・・・ぐああああ!? ゆかり:簡単には死なせない 男:アアッ・・・がアアア! ゆかり:いたぶって・・・いたぶって・・・いたぶり続けて、殺してやる! 妹:おとうさん! 姉:おとうさん! 男:・・・来るな! 妹:わああ! ゆかり:・・・うるさい、死ね 妹:が・・・!? 姉:あ・・・ 男:・・・お、お前たち・・・ ゆかり:・・・興が削がれた、死ね 男:グフッ・・・ ゆかり:あはは・・・終わったよ、みんな ゆかり:みんなの仇・・・ちゃんととったよ ゆかり:みんな喜んでくれるかな・・・ ゆかり:ねぇ、あかり ゆかり:・・・あかり? ゆかり:いつもみたいに「おつかれさま」って言ってよ ゆかり:頑張った私を褒めてよ・・・ ゆかり:ねぇ・・・ねぇ!! ゆかり:あかり! ゆかり:うわああああ! あかり:見つけた!兄様の仇! ──あかりに似た少女に刺される ゆかり:ゴフッ・・・あ、あかり・・・? ゆかり:やっぱり・・・生きて あかり:生きていたわ!そう、あなたを殺すために! ゆかり:あかり・・・お姉ちゃんだよ・・・終わったんだよ・・・ あかり:私にお姉ちゃんなんていない! ゆかり:・・・どうして、私に刃を・・・向けるの あかり:兄様の仇だからだ! ゆかり:かた・・き? あかり:数ヶ月前、江戸!お前は一人の士(さむらい)・・・そう、私の兄を殺した! ゆかり:・・・ あかり:お前は覚えていなくても!兄様を殺した事実だけあればいい!だから・・・私がお前を殺す! ゆかり:ぐはっ・・・ あかり:・・・お前は、悪い意味で有名になりすぎた ゆかり:・・・ あかり:・・・兄様・・・終わったよ あかり:兄様・・・喜んでくれるかな あかり:今から・・・私も、そっちに向かうね あかり:だから・・・いっぱい・・・褒めて・・・ほしいな あかり:・・・愛してる・・・兄様・・・ ──