台本概要

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タイトル 君色にヒカル未来に、さよなら
作者名 空柄羽毛布団  (@lasolaton)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(男1、女1) ※兼役あり
時間 80 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明
『ごめん。俺はお前に生きるを理由を与えられなかった』
『ごめんなさい。私は生きる理由を見つけたくなかった』


町田ヒカリ 16歳 高校二年生
誰にでも明るく 無邪気で 小悪魔的で 自分のかわいさをよく理解してて あざとくて
生きる明確な理由が見つけられない 終わりを約束された少女

自分の最期の場所を見つけるために 二人でその場所を目指す
海は青く 君色に輝く 彼女の最後の舞台が夏空に開く
青く淡く それでも確かに光り輝いていた
「生きる理由」を探すための 逃避行


注意事項
・・・
・上演時間目安 75分
・キャラクター性別変更 → 不可
・アドリブ → 世界観を壊さない程度のものならば
・演者の性別 → 「アキラ」のみ女性演者が男性キャラとして演じるのは構いません

上演時間が長く とっつきにくい台本ですが、手にとっていただけるのならば幸いです

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ヒカリ 108 町田ヒカリ 17歳 高校二年生 明るくあざとく無邪気で小悪魔的な 余命三か月の少女 ※ヒカリM 少女も兼ね役
アキラ 116 比屋定アキラ 18歳 高校三年生 短髪 バイク好き 左耳にピアス 粗暴で目つきが悪く 優しい先輩 それなりの苦労や悪いこともしてきたので年齢の割に落ち着いている アキラM兼役
少女 11 得意技はジト目と静電気攻撃
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ヒカリ:町田(マチダ)ヒカリ 16歳 高校二年生 明るくあざとく無邪気で小悪魔的な 余命三か月の少女 ※ヒカリM 少女も兼ね役 (ヒカリ役の方はここをタップしてください) アキラ:比屋定(ヒヤジョウ)アキラ 17歳 高校三年生 短髪 バイク好き 左耳にピアス 粗暴で目つきが悪く 優しい先輩 それなりの苦労や悪いこともしてきたので年齢の割に落ち着いている アキラM兼役(アキラ役の方はここをタップしてください) 少女:得意技はジト目と静電気攻撃(ヒカリ役の方はこちらもタップしてください  :   :  0:本編  :  ヒカリM:『最初から 願わなければよかったのに』  :   :  0:高校屋上 昼休み ヒカリ:「先輩、私。あと三か月で死んじゃうそうですよ」 アキラ:「・・・は?」 ヒカリ:「なんですかその顔。目つき死んでますよ」 アキラ:「悪いなそれは生まれつきだ。お前がいきなり突拍子もないこと言うからだろ」 ヒカリ:「突拍子もないのは申し訳ないですが、事実です。原因不明完治不能。そんな意味のわからない病気にかかってるそうですよ私」 アキラ:「・・・・・冗談、じゃないわな。冗談だったらマジでしばくけど。」 ヒカリ:「冗談で済めばよかったんですけどね。残念ながら、みーんなホントのことです。今朝退学届も出してきました。「女子高生」町田ヒカリは今日でおしまいです。これから病院で闘病生活して、なーんにもできずに、なにも残せないまま、死んでいきます」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「先輩にはなんだかんだでお世話になったんで。だから、わたしがいなくなる前に挨拶だけは済ませようと思いました。」  :  0:くるりとアキラのほうへ振り返り、ぺこりと頭を下げる  :  ヒカリ:「今までお世話になりました。先輩との高校生活、それなりに楽しかったです」 アキラ:「・・・」  :  0:少しの間  :  ヒカリ:「・・・残念ですねーこんなに可愛いヒカリちゃんともう高校生活を過ごせなくて。 ヒカリ:これから先輩はまた萎(しな)びたどどめ色みたいな青春を過ごすとなると笑えてきますがしょうがないですはい」 アキラ:「え、いま滅茶苦茶しんみりしてた雰囲気出してたのにその最後の一文なんだよ。呪詛?」 ヒカリ:「私の精一杯の強がりです。身に沁みましたか?」 アキラ:「いやまったく全然」 ヒカリ:「むーなんでですかー!先輩私ともうこんな風にいちゃつけないんですよ?人生の損失ですよ?」 アキラ:「わざとらしく頬を膨らませるなくっそあざとい」 ヒカリ:「わかりましたー。ふーんだ、私だってこれで先輩の顔を見なくて済むっていうなら清々しますー!・・・じゃあ、言いたいことは言い終わったので私はこれで。」 アキラ:「・・・なぁ」 ヒカリ:「・・・なんですか」 アキラ:「・・・頑張れよ」 ヒカリ:「・・・はい。それじゃあ、先輩。さようなら」  :  0:ヒカリ 屋上の扉を開け姿を消す  :  アキラ:「・・・はぁ。もっと気の利いたことも言えねぇのかよ俺は。・・・いや」 アキラM:『ふと、最後の挨拶をしたあいつの顔が浮かんだ。諦め 絶望 虚無。そして、そんな感情を覆い隠すように繕った仮面の笑顔。少なくともあの一瞬だけは、俺がよく知る後輩『町田ヒカリ』ではなかったような。そんな気がした』 アキラ:「・・・・・・・あっちいなぁ」 アキラM:『夏休み前日。そうして町田ヒカリはこの学校を去った。うだるような夏空。水平線の彼方まで続く群青。暑く 碧く 淡く消えゆく そんな夏の始まりを予感していた』  :   :  0:「君色にヒカル未来に、さよなら」  :   :  0:病棟  :  ヒカリ:「・・・うわ」 アキラ:「見舞いに来た第一声がそれかよお前。存外元気そうじゃねぇか」 ヒカリ:「まさか先輩がお見舞いにくるなんて殊勝なことしてくるとは思わなかっただけです。なんですか?ついに暑さで頭がやられましたか?」 アキラ:「それだけ口が回るならまだ生きられるだろ。ほれ見舞いの品。そこで山になってるものの上にでも置いておくわ」 ヒカリ:「あ、どもどもです。ちなみに何を私に献上してくださるんですか?」 アキラ:「なんだっけ。なんかいま流行ってる・・・でんぷん?」 ヒカリ:「タピオカでしょそれ。先輩ホントに今どきの文化に疎いですね。あと、少なくとも元女子高生へのお見舞いの品としては不親切かと」 アキラ:「バイトに明け暮れてるから世の中の流行りなんざ知らねぇわ。なんか缶で売ってたし、どうせお前のことだからフルーツだとか女子っぽいものは貰ってると思ったからな。それにかければいいだろ」 ヒカリ:「ふりかけ感覚で言わないでくださいよ」 アキラ:「俺に気の利いたことを期待するのはやめとけ。自慢じゃないがいろんな人間の期待を裏切ってきた自信はある」 ヒカリ:「ほんとに自慢することじゃないので心の奥底に閉まっていてください。そんなだから不良だとかヤンキーだとか学校中で噂されるんですよ。懐かしいですね。いつもこうやって先輩と馬鹿話して、けらけら笑って先輩が私の可愛さにときめいて」 アキラ:「後半完全に捏造だからなそれ。・・・まぁ、安心した。屋上でいきなりあんなこと言ってたからな。もっと自暴自棄にでもなってるのかと思ってたわ」 ヒカリ:「・・・自暴自棄になってすべてが解決できるなら、いくらでも喚きますよ。でも、何も変わらないなら。何も変えられないなら。だったら、静かに、その時を待てばいいかって。どうせ・・・」 アキラ:「なぁ、あの時から気になってたんだがな。なんで・・・もう諦めてるんだ?お前が今、苦しい立場にいるってのはわかってる・・・つもりだ。でも、だからこそ普通なら足掻くものじゃないのか?・・・少なくとも、俺の知ってる「町田ヒカリ」なら、そうしていると思ってな」  :  ヒカリ:「・・・ねぇ、先輩。先輩にとっての「生きる理由」って、なんですか」  :  アキラ:「唐突だな」 ヒカリ:「いいから。答えてください」 アキラ:「・・・(深い沈黙)すまん。やっぱり急に言われてもパッとは出てこなかった。生きる目的だとか理由だとか、そんなものを考えながら生きてきたわけじゃないからな。ただ、まぁ。生きてるから、生きてた。そんな感じだ」 ヒカリ:「私は、日々友達と遊んで、つまんない授業受けて、先輩をからかって。嬉しいことだとか楽しいことだとか、確かに感じて生きてきたつもりでした。 ヒカリ:でも、病気を宣告されて。なんで私がって最初は思いましたよ。まだやりたいことやり残したことがあるのに。って、そう思ってました」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「でも、その時に。わかっちゃったんです。確かに充実した日々を過ごしてきたつもりでした。でも、ふと振り返ったら。どれもこれもが、「これじゃない」って思ったんです。 ヒカリ:それに気づいたとき、友達と遊ぶこと 普通に恋すること 社会に出た時の自分。そんな誰でも描けるような未来予想図が途端に消えていった。 ヒカリ:消えていったっていうか・・・それのために生きてきたわけじゃないって、自分で気づいちゃったんです。 ヒカリ:そこからはもうあっというまですよ。未来を思うことができない私は、今を生きる資格ないんじゃないか。だったら、全部諦めれば楽になるんじゃないか。そう思ったんです。」 アキラ:「極端すぎだろ。誰だって生きる理由を明確に持ってるわけじゃない。それでも生きてるやつのが大半だろ。生きる理由っていうか、生き甲斐っていうか。それを糧に生きてるやつだっているかもしれないけど、それでも」 ヒカリ:「(遮って)それでも生きていける人間は、ちゃんと未来を生きれる人間ですよ。これからの人生できっとそんなものを探して生きていけるんですよ。 ヒカリ:でも、私にはもう未来がないって宣告されちゃいましたから。生き甲斐とか生きる理由とか、なにも思うことができなくなりました。 ヒカリ:だから、もうその時を待つだけでいいやって。 ヒカリ:友達や両親の「がんばれ」って言葉がつらいんです。「諦めるな」って言葉がつらいんです。 ヒカリ:そして、内面そんな言葉にどす黒い感情を宿す私が、醜くて気持ち悪いです。私の立場になってないのに、なんでそんなことを言えるのかって。これ以上なにも望みたくないから。望んだ分だけつらくなるだから。ここで。この白い監獄みたいなここで、全部終わろうって思ったんです」  :  アキラM:『そういって彼女は膝を抱えた。それが、もう出て行ってくれという合図に思えた。彼女の言葉に俺は何も返せなかった。きっと、中途半端な言葉は彼女をただ苦しめるだけだと。そう思ったから』 アキラ:「・・・わかった。じゃあな。元気でやれよとか、そんな言葉はかけない。でも・・・ひとつだけいいか?」 ヒカリ:「・・・なんですか」 アキラ:「何も望めなくなったって言ってたよな。自分がいなくなったあとの未来は望めないって。だったら、お前が最期を迎えるまでに、なにかやりたいことってのはあるか」 ヒカリ:「・・・それを聞きますか。私の恨み言をわかってて聞くところがホント性格悪いですよね先輩。・・・だったら、いまの私が。最期の私に対して願うことはひとつだけです。 ヒカリ:奇麗なところで死にたい。こんな何もない白い監獄の中じゃなくて。最期に見るのがそんな景色じゃなくて。私が今まで出会ったことのないような。奇麗なところで、死にたいです」  :   : ▪  :  0:自室 アキラ:「奇麗なところで死にたい・・・か。後ろ向きな願い口にしやがって」 アキラM:『彼女の現状を俺はどうすることもできない。奇跡を望むことしかできないんだろう。俺にできることなんてない。俺の言葉は届かない。できることがあるとしたら』 ヒカリ:『奇麗なところで、死にたいです』 アキラM:『そんな、あいつの後ろ向きな願いを叶えてやるくらいだろう。それが何を生むかだとか何のためだとか理由はない。それが正しいことだなんて思ってない。それでも、今のあいつに対して何かやれるのは。きっとあいつの弱音を見た、俺だけなんだろうと勝手に思った』  :   : ▪  :  0:深夜 病院 アキラ:「よう」 ヒカリ:「・・・え、なんですかいきなりって、うんべ!(ヘルメットを顔面で受ける)いったーーー!?なんですか!か弱い病弱な美少女になにぶつけてくるんですか!!」 アキラ:「あんまりでかい声出すなよ。抜け出すぞ。準備しろ」 ヒカリ:「は?」 アキラ:「お前の願いを叶えに来たんだよ。」 ヒカリ:「は?」 アキラ:「そのむかつく顔やめろ。奇麗なところで死にたいんだろ。だから、俺がそこに連れて行ってやる」 ヒカリ:「え・・・あーあの、すいません突然のことでいま全く理解が追いついてないんですが・・・」 アキラ:「ここで死にたくないんだろ。生きる理由がないんだろ。全部、投げ捨てたいんだろ。」 ヒカリ:「え、あ、まぁ確かにそれは言いましたけど。いや、まさかこんな早急に力技で来るとは思いませんでした。ていうか先輩、勢いだけで行動してるわけじゃないですよね。さすがに大問題になりますよ。」 アキラ:「全部踏まえたうえで行動してるから安心しろ。これが正しいことじゃないなんてわかってる。それでも、お前のあんな苦しそうな顔で最後だなんて、後味が悪すぎる。だから、これは俺のエゴだ。」 ヒカリ:「・・・」 アキラ:「俺にできることなんてこれくらいしかない。お前の馬鹿みたいな願いを叶えて、そして。」  :  アキラ:「お前の最期を看取ってやる」  :  ヒカリ:「・・・はぁー(溜息)いや、たぶんこの人頭悪いんだろうなーとは常々思ってましたけど。まさかここまでとは思いませんでした。 ヒカリ:・・・でも。ありがとうございます。今は、そんな先輩の馬鹿さに乗っからせていただきます。・・・私を、連れてってくれませんか。最期に、ここで死んでもいいって思えるようなそんな場所に」 アキラ:「・・・任せろ。あぁ、ちょい長旅になるからな。いろいろ準備しとけ」 ヒカリ:「まったく、どこに連れて行ってくれるんだか・・・じゃあ、ちょっと準備しますんで。出てってください。着替えとかいろいろありますから。あ、先輩私の着替えが見たいっていうならここにいてもいいですよ?」 アキラ:「(遮って)じゃ、準備できたら言えな(病室の外に出る)」 ヒカリ:「ってまったく興味なしですかそうですか!あほ!・・・ホント馬鹿なんですから。馬鹿みたいに、優しいんですから」  : ▪  : ▪ 0:病室 外 ヒカリ:「お待たせしました」 アキラ:「おう・・・て、なんで制服なんだよ」 ヒカリ:「ふふーん。先輩が喜ぶかと思いまして!どうですか?久々に見る美少女女子高生ヒカリちゃんは」 アキラ:「んな戯言はどうでもいい。はやく出るぞ」 ヒカリ:「戯言って言いましたか戯言っていいやがりましたか」 アキラ:「・・・ところで、着替えるにはちょい時間かかったな。なんかしてたのか」 ヒカリ:「あー・・・遺書、書いてました。たぶんもう、ここには戻らないと思うので」 アキラ:「ん・・・そうか」 ヒカリ:「きっと明日には大パニックですね。病院の先生もお母さんもお父さんも、友達も。それくらいとんでもないことしようとしてますから。先輩、ちゃんとその覚悟をして私を連れ出してくれるんですよね?」 アキラ:「・・・なにも思い付きで行動してるわけじゃない。いろんなもん背負う覚悟でここにいる」 ヒカリ:「なんですか?ひとえに私への愛ですか?」 アキラ:「そうじゃない。ただ・・・生きる理由がないなんて言うお前に、お前の人生に見せてやりたかったんだよ」 ヒカリ:「なにをですか?」 アキラ:「俺が、一番綺麗だと思う場所を。そんで・・・いや、なんでもない。」  : ▪  : ▪ 0:2人 病院を抜け出して病院の駐車場へ ヒカリ:「おーこれが噂の先輩の愛車ですか。バイクの知識はないですが先輩がたまにしたり顔で自慢してきてたので、うっざいなぁこの人って思いながら聞いてた時がありました」 アキラ:「満面な笑顔で俺の愛馬を貶すのマジでやめろ。バレる前に、さっさと逃げるぞ」 ヒカリ:「はーい先輩。よっと・・・ところで先輩、長旅になるって言ってましたがどこに行く予定なんですか?」 アキラ:「ん?沖縄」 ヒカリ:「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 アキラ:「ほれ、舌噛むぞ。しっかりつかまってろ」 ヒカリ:「え、ちょ、まってくださいさすがに予想外すぎてきゃああああああああああ!!」  : ▪  : ▪  :  ヒカリM:『ねぇ先輩覚えてますか?死にたがりの私のわがままから始まったあの夏の旅のお話を。 ヒカリM:実を言うと私、めっちゃ嘘ついてました。生きる理由がないっていうの、嘘なんです。 ヒカリM:生きる理由を持ちたくないっていうのが本音でした。終わりが約束された私が、そんな理由をもってしまったら、きっと全部全部怖くなってしまうってわかってしまってたから。だから、無理やり全部捨てようと思いました』  :   : ▪  : ▪ 0:数時間ほど走った先のコンビニ ヒカリ:「いや、まぁこの人、馬鹿だ馬鹿だとはもう常々思ってたんですよホントに。まぁそれに乗っかってしまった私もたいがいなんですがね。でもまさか沖縄だなんて思わないじゃないですか普通!てっきり日帰り感覚と思うじゃないですか普通!!」 アキラ:「ちゃんと俺は長旅になるって事前に言ってるじゃねぇか。走り出した後に文句を垂れるなよ。」 ヒカリ:「だいたい、ここから沖縄までどのくらいかかると思ってるんですか?その間の旅費だとか私そんなに手持ちないですからね?」 アキラ:「お前に金出させることはなるべくはしねぇよ。バイトに明け暮れてたからな。蓄えはそれなりにある。さすがに俺も夜通し走ろうなんて思ってないし、道中ぶらぶらしてまぁ1週間くらいで着けばいいかくらいで考えてる」 ヒカリ:「肝心の中身が何も考えてないんですよねぇこの人。・・・こうなったら自棄だ。道中気になってた観光名所だとかいろいろ回って、おいしいご当地料理食べてこのATMの残高食いつぶしてやろう」 アキラ:「人のことATM呼ばわりすんのマジでやめろし。まぁ名所廻りはいいかもしれないな。バイク走らせ続けるっていうのも退屈だし。とりあえず、どこ行きたいよ?」 ヒカリ:「あーまぁここから沖縄までの道中ですからねー。定番かもしれませんが、私行ったことないので京都行きたいですね。清水寺。」 アキラ:「またド定番だな。まぁいいや。とりあえず今日はそこらへんのホテルで一泊して。明日のうちに京都までは着くだろ。・・・お前、どっかで着替えろよ?さすがに制服姿の女と一緒には行動したくないんだけど」 ヒカリ:「え、すいません。さすがに病院だったので正直今ほとんど服持ってないです。制服は壁にかけて観賞用にしてたからあったんですが」 アキラ:「・・・まぁいいや。とりあえずなんとかなるだろ」  :  0:県内 ホテル ヒカリ:「あの、先輩。その・・・ホテルってことは一緒のベッドに」 アキラ:「(遮って)俺は床で寝るからはよ寝ろ」 ヒカリ:「あーはいはいわかりましたーおやすみなさーい・・・あ、携帯の電源は切っておこっと」  :   : ▪  :  ヒカリM:『でも先輩は、いろんなものを投げ捨てて空っぽになった私に手を差し伸べてくれた。きっとなにも正しくない、私を連れ出すという、エゴイズムで偽善的な選択を躊躇なくしてくれた。 ヒカリM:いろんな人が彼を非難するだろう。それでもかまわないと先輩は言ってくれた。空っぽになった私の心に、生きる理由という火を灯すために。 ヒカリM:ずっと前から知っていた。誰よりも優しいこの人は、きっと、何も裏切らない人なんだって。私の願いを裏切らないために、その選択をしてくれたのだって』  :   : ▪  :   : 京都 清水寺  :  ヒカリ:「そういえば聞いてなかったんですが、なんで沖縄なんですか?」 アキラ:「あぁ、俺もともとそっちの人間なんだよ。両親が離婚した関係でこっちにいるんだけど。で、毎年夏休みにじいさんの家に帰郷するから、それに合わせてお前を沖縄にご招待ってこと。」 ヒカリ:「あーそういうことですか。納得です。で、そこにあるんですね。先輩が見せたい場所ってやつが。なんなんですそれ?」 アキラ:「秘密。ほれ、前の人どいたぞ。参拝参拝」 ヒカリ:「おっとありがとうございます。よっと景気よく、さらば英世!」 アキラ:「おい俺が渡した金だろうがそれ」 0:参拝する2人(ぱん、ぱんと手拍子の音) ヒカリ:「あ、先輩おみくじありますよ恋愛おみくじ。清水といったら縁結び祈願!先輩のこれからの未来が薔薇色かどうか決める最後通告ですよ!」 アキラ:「おみくじに対して最後通告って言葉、同居するんだな」 0:2人おみくじを引いて開く ヒカリ:「・・・凶。え、いや、それなりに悲惨な現状だとは認識してますがこんなにピンポイントに当ててきますか神様。先輩は?」 アキラ:「あー・・・大凶」 ヒカリ:「(吹き出す)先輩、ここでそんなミラクル起こさなくてもいいですから・・・ぷぷぷ」 アキラ:「お前のマジ笑いすげぇ腹立つな。・・・思いは叶わず、残るものあり。残るものってなんだよ神様」 ヒカリ:「え、トラウマですよそれきっと。しょうがない。可愛い後輩がちゃんとその厄を払えるようにしっかり結んであげ・・・あ、破れた」 アキラ:「おまえ罰当たりすぎだろ」  :   : ▪  :  ヒカリM:『ありがとうございます先輩。きっと何回ありがとうを言っても足りないくらい、先輩には感謝してるんですよ。 ヒカリM:ぶっきらぼうで 目つき悪くて 面倒見がよくて 誰よりも優しい人。先輩の愛車で、先輩にずっとひっついて、実は私、すごいドキドキしてたんです。 ヒカリM:はい、わかってました。学校に居た時から。私、たぶんずーっと、先輩のこと好きでした。この旅の中で、もっと好きになりました。』  :  ヒカリ:「先輩。山賊焼きって揚げるものじゃないんですか?いま私の目の前にある物体は山賊焼きという名称ですが私の知ってる山賊焼きとは違うんですが」 アキラ:「なに言ってるんだ山賊焼きだぞ。焼くんだよ。俺たちが知ってる山賊焼きは山賊焼きであって山賊焼きではない」 ヒカリ:「多方面に喧嘩売る発言はやめてください。あと・・・このおむすび。ちょっと女子には天敵というか巨大というか」 アキラ:「具が3つ入ってるからな。ひとつで3つの味を楽しめるなんてお得だろ。山賊焼きをおかずに、むすび食べてみろ。世界が変わるから」 ヒカリ:「・・・(半信半疑な目)はむ・・・・・・・・・・・うっま」 アキラ:「それ見たことか」  :  ヒカリM:『あぁ、嫌だなぁ。私、いまこんなにドキドキしてるのに。きっと何も残せずに死んじゃうんだ。 ヒカリM:ただ生きるってだけがこんなにも重く、そして残酷で。いま私が感じてる感情も何もかも、全部なくなるんだ ヒカリM:しょうがない。だって、それを決めたのは私なんだ。未来を望まず 希望を持たない。そうすればきっと、これからを苦しまずに生きれるんだから』  :  ヒカリ:「はーいいお湯でした。さすが温泉の名所って、先輩?あー・・・寝てるんですか」 アキラ:「・・・(寝息をたてる)」 ヒカリ:「こうやって目を瞑ってたら目つきの悪さもカバーできるのに、もったいないなー。んーでも、先輩の良さをわかってるのは私だけでいいしなー・・・あれ、私もしかして、結構独占欲強い?」 0:寝顔を見つめる ヒカリ:「優しそうな寝顔だなぁ。沖縄までもうすぐかー・・・。先輩が生まれ育った場所。先輩が見せたい場所。どんなものかすごい気になるけど。・・・でもね、先輩、私わかってますよ。先輩は別に私にその場所を見せて看取ってくれるつもりじゃない。 ヒカリ:先輩は・・・ただ、私に「生きる理由」を見つけてほしいんだってこと。」 アキラ:「・・・(目が覚めたが寝たふりをする)」 ヒカリ:「でもね先輩。・・・やっぱりね、どんな理由があったとしても怖いですよ。理由を持って生き続けるの。人間はいつかは死ぬってわかってても、わたしの死(それ)は約束されてるものだから。死(それ)がわかっているのに生きさせようとするなんて、残酷です。 ヒカリ:・・・だから、きっと。この旅の終わりが、私の終わりです。希望を持って生きる過酷さを、私は知っているから。・・・・・・・あー眠くなってきた。私も寝よ・・・」 アキラ:「・・・そんな俺の願いを知ってるくせに、それでもそれを拒むんなら・・・どっちが残酷なんだよ・・・アホ(聞こえないような小声で)」  :   : ▪  :  ヒカリM:『そう、この旅の終わりが私の終わり。先輩のやさしさにすがって、先輩に残酷な選択をさせた、愚かな私の終着点。 ヒカリM:あー・・・嫌だなぁ。先輩にそんな選択をさせた私も。全部が嫌だ。投げ捨てたい。楽になりたい。苦しみたくない。しんどい。生きることって、こんなに難しい。 ヒカリM:生きたいなぁ。頑張って生きていたい。抗ってみたい。先輩と一緒にいたい。でも、ダメだ。きっとその選択はダメだ。それを選んでしまったら、そんな苦しい選択をしてしまったら。 ヒカリM:先輩の中に残りたいと思ってしまったら。それは、きっと、ただの呪いだ』  :   :  0:沖縄行き フェリー ヒカリ:「いやーずっと山間(さんかん)の街で過ごしてたから船に乗るなんて初体験ですよ先輩」 アキラ:「天候も問題なさそうだし快適な船旅になりそうだな。俺は毎年乗ってるが波が酷いときはマジで胃にくるからな。ていうか周りの人間が一斉に吐き出すから、こっちももらいゲロしそうになる」 ヒカリ:「いま私がフレッシュな感想言ってるのにそんな汚い思い出話を聞かせないでください船から突き落としますよ?・・・でも、もうすぐかぁ・・・もうすぐ、この旅も終わっちゃいますねぇ」 アキラ:「・・・」 アキラM:『旅の終わりが近づく。青い青い逃避行の旅の終わりが。 アキラM:俺は、こいつになにかを与えてやれただろうか。こんな華奢な体で、残酷な運命告げられて。病室で見たこいつの虚ろな目に、なんとか応えてやりたくてはじめた馬鹿な旅。 アキラM:明るく あざとく 小悪魔的で 生きる理由を投げ捨てた後輩に アキラM:俺はこの旅を通じて なにかを与えられたのだろうか。答えを得られないまま、船は旅の終わりの島を目指す。目指してしまう』  :  0:沖縄本島北部 比屋定家 アキラ:「ほい、到着。じーさん入院してるみたいだから誰もいないけど、まぁあがれ」 ヒカリ:「はーい、おじゃましまーす。それにしても町から外れたこんな山奥にぽつんとコテージって。先輩のおじーさんもなかなか変わり者ですね」 アキラ:「否定はできねぇわな。ん、ちょうどいい時間だな。こっち来てみろ」 ヒカリ:「え、なんですか?・・・あ」 ヒカリM:『先輩が手招きした、崖側に面しているバルコニーの先 ヒカリM:見渡す限り一面の真っ青な海が広がる。それは間違いなく、私が見た中で一番の「奇麗なもの」だと確信をもって言える。どこまでもどこまでも続く群青の世界から、徐々に黄昏に変わるその世界に、私は何も言えずに見惚れてしまった』 アキラ:「多分、じーさんもこの景色を見たかったから、こんな辺鄙(へんぴ)なとこに家を建てたんだろ。かくいう俺も、毎年ここから見る海を見たいから、わざわざ帰っているところもある。 アキラ:・・・この景色を見せたから何かが変わるとは思ってない。でも、お前がこれを知らずに死ぬのは、そう。勿体ないって思った。ここだけじゃない。お前が見たことないものなんて山ほどある。でもさ、それは。生きてる間にしか見れないものなんだよ」 ヒカリ:「・・・先輩」 アキラ:「この旅の間はさ、確かに俺は見てたよ。お前が楽しんでる姿を。お前が生きてる姿を。お前が欲しがってた生きる理由ってのは、俺だってはっきり答えられない。だけど」 ヒカリ:「(遮って)先輩。少し、少しだけ、静かにしてください。先輩が見せたがってた景色を、目に焼き付けたいんで」 アキラ:「・・・わかった」  :  0:テラスからじっと海を見据えるヒカリ  :  ヒカリM:『海を見る。先輩が見せたがっていた景色を。思い出を見る。この旅の思い出を。楽しかったです 美味しかったです 先輩の態度にいろいろむかつきもしました だけど あなたの優しさに私は確かに救われていました。だから・・・』 ヒカリ:「先輩。ありがとうございました。私をここに連れてきてくれて。」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「ありがとうございました。先輩のやさしさに、私は確かに救われました。この光景はきっと、生きている間にしか見れなかった。私の一番の宝物です。これだけじゃない。私が見たことないものなんていっぱいある。 ヒカリ:まだ生きてたいなって、思いました」 アキラ:「・・・そうか、よかった」  :  ヒカリ:「(遮って)だから、これだけ貰ったら、もう十分だから。私は、明日あの海で死にます」  :  アキラ:「・・・なんでその結論は変わらないんだよ。」 ヒカリ:「だって、もう充分ですから。楽しかった旅の思い出 最後に見た宝物の景色。きっと、私の心は満たされました。だから、もういいじゃないですか」 アキラ:「・・・生きたいって思ったんじゃないのかよ」 ヒカリ:「思いました。またこの景色を見たいなって思いました」 アキラ:「だったら!!」 ヒカリ:「でも、それだけでした。先輩は、私に生きる「理由」を与えてくれなかった。それだけです。最初から何も願おうとしなかった。どれだけ何かを望んでも、私は未来を生きれないから」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「ごめんなさい。こんな結論しか出せない女で。・・・寝室、お借りします。それでは」  :  0:夜 ヒカリM:『本当に、馬鹿な女だって思う。見惚れた世界を黒く塗りつぶし、先輩の優しさを裏切って。死ぬことを選んだ、馬鹿な女だって。 ヒカリM:生きる理由を見つければ何か変わるかなって思った。先輩の優しさに触れれば何か変われるかなって思いました。でも、変わりませんでした。未来を生きれない自分を、投げ捨てられませんでした。 ヒカリM:だって、怖いですよ。死ぬの、怖いですよ。誰も助けてくれないんです。先輩がどれだけ優しくしてくれたって、私は死んじゃうんです。いつか、ただの思い出になって。そして、忘れられるんです。それが、怖くて怖くて立ち止まってしまいます。だから、きっと、これまでなんだ』 アキラ:「・・・おい、いいか」 ヒカリ:「・・・なんですか。夜這いですか?」 アキラ:「違う。・・・明日、海辺まで降りる道がわかりづらいだろうから。それの打合せだ」 ヒカリ:「・・・先輩、こんな私の最期を看取ってくれるんですか」 アキラ:「俺にはその責任がある。・・・いや、違うわ。そんな覚悟なんか持ちたくもない。 アキラ:ただ、お前にかける言葉を探そうと思った。頭がないわりにめっちゃ悩んだ。だけどさ、なにも思い浮かばなかったよ。お前に生きる理由を与えるための言葉が。お前のむかつく顔を見たら何か思い浮かぶかと思ったけどさ。ただむかつくだけだった」 ヒカリ:「喧嘩売りに来たんですかこの男は」 アキラ:「俺の薄っぺらな人生観程度じゃさ、お前を止める言葉がわからないんだよ。どれだけ奇麗な言葉ならべても、どれだけ奇麗な景色を見せても。お前の決意を変えられなかった。・・・悪い」 ヒカリ:「・・・その優しさに私は救われてましたよ。この旅を通じて。なにも裏切らない貴方の優しさに、ずっとすがってました」 アキラ:「どれだけ優しくしようが、お前はそれを裏切るだろ」 ヒカリ:「はい、裏切ります。だって、これ以上優しくされたら、きっと私はあなたに残酷な選択をさせちゃいますから。まぁ、私の最期を看取ってくれるっていうのも残酷な選択なんですけど」 アキラ:「俺だっていつまでも優しい先輩ぶってやれるかわからないからな」 ヒカリ:「・・・だったら、そんな優しい先輩に、とっても残酷な、お願いをします」  :  ヒカリM:『もう、何もいらないって思ったのに。これ以上先輩に何も背負わせたくなかったのに。』 ヒカリM:『弱い私は、最後の最後に甘えてしまった。貴方の中に在りたいっていう、そんな呪いを先輩に残してしまいました。』 ヒカリM:『ありがとう、ごめんなさい。大好きです。忘れないでください。忘れてほしくないです。私が此処にいたっていう 証を あなたに刻ませてください』  :  0:翌朝 海辺までへの道  :  ヒカリ:「腰が痛いです。・・・もう一回言いましょうか?腰が痛いです。けだもの」 アキラ:「誘惑してきたのはお前だろうが。おとなしく俺の毒牙にかかっとけ。・・・ほれ、着いたぞ」 ヒカリ:「・・・近くで見るのとは、また違いますね。でも、奇麗なのは変わらない。宝石みたいな海。」 0:繋がれていた手がそっと離れる ゆっくりとヒカリは海へと近づいていく ヒカリ:「先輩。ありがとうございました。何度だって言います。ありがとうございました。この旅は、私にとっての最高の思い出です。断言できます。先輩と過ごしたこの夏で、私は確かに生きていました」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「最後に私のわがままを聞いてもらいました。先輩の優しさに何度も救われました。 ヒカリ:かけがえのない時間を過ごせました。残酷な選択を何度もさせてしまいました。でも、先輩は何も裏切らず応えてくれました。ありがとうございました。大好きです。一生好きです」 アキラ:「・・・それでも、変わらないのか?お前の決意は、変わらないのか?」 ヒカリ:「未来が行き止まりだから。私にとってのピリオドはもう打たれてしまっていたから。 ヒカリ:きっと、何が起きても、私はこの答えを出していたと思います。・・・生きる理由なんてものがあったとしても同じです。 ヒカリ:私は、生きる理由を見つけられなかったんじゃない。生きる理由を見つけるのが、怖かったんです。それを見つけてしまったら、それのために生きて、そして死んでいくことが、何よりも怖かったんです。だから、これはもう、決まっていたことなんですよ」 アキラ:「それでも!それでも、俺はこの旅でお前に何か与えられるんじゃないかって、思ってた。理由そのものじゃなくたっていい、なにかのきっかけになればいい。お前が、少しでも前を向けるなら、それでいいと思ってた」 ヒカリ:「思い出は胸に仕舞います。先輩の優しさに甘えてました。でも、優しさだけじゃきっと私は救われませんでした。救ってほしかったわけでもなかった。それでも・・・先輩、最後の思い出を、ありがとうございました。」  : 作ったような笑顔で  ゆっくり振り返る  :  ヒカリ:「それじゃ、また。来世であいましょう」  :  :   アキラM:『決意に濡れた背中が遠ざかる。生きることを諦めた少女の背中。 アキラM:残酷な運命を告げられて、それでも、確かに生きようとして、それでも、未来に殺された少女の背中』  :  アキラM:ごめん。俺はお前に生きる理由を与えられなかった。この旅を通して、この海を見せて。 アキラM:生きることの楽しさを 美しさを お前に与えてやれば。きっと踏みとどまってくれるんじゃないかって、自惚れていた。  :  アキラM:遠ざかる背中に 俺はもう何も答えてやれない。一緒に死んでやることもできない。だから、きっと、これで終わりだ。・・・そうして、消えゆく彼女の背中を見送り・・・』  :   : ▪  :  アキラ:「・・・・・・・・・・・・いや、ちがうだろ」  :   : ▪  :  アキラM:『この旅を通して?楽しさや美しさを見せて?違う、違う、そうじゃねぇだろ。繋ぎとめる言葉を俺はまだ』 : アキラM:『「俺の言葉」を、なにひとつ伝えてないじゃないか!!!!』  :  アキラ:「ヒカリ!!!!」 ヒカリ:「え・・・ふぁ!」 0:後ろから強く抱きしめる ヒカリ:「せん・・・ぱい?」 アキラ:「死ぬな・・・死なないでくれよ。生きていてくれよ!散々俺のことひっかきまわして、弄んで、それでさよならだなんてそんなふざけたこと言うんじゃねぇよ!生きる理由を見つけるのが怖いか!?苦しく生きるのがつらいか!?あぁ、そうだよみんな苦しんでるんだよ!!誰だって苦しくたって生きてるんだよ!理由なんかいらねぇ!命があるから、生きてるんだよ!!!!それだけでいいじゃねぇか!命があるなら、生きてるなら、それでいいじゃねぇか!! アキラ:一人で苦しんで生きる必要なんかねぇだろ、一人で怖がる必要ねぇだろ!散々俺にすがってきたんだろ!?だったら、最後まですがれよ!!此処に居てくれよ・・・それだけで、いいんだよ俺は。」 ヒカリ:「せん・・・ぱい・・・。はなしてください。ほどいてください。だって・・・だって・・・これ以上先輩にすがりたくないです。先輩の人生に、これ以上私がいたら、きっと枷になっちゃいます」 アキラ:「今更そんなこと気にすんなよ。枷になるなら最後までなってろ。そんくらい背負ってやる。 アキラ:お前のいないこれからの人生なんてな、はっきり言ってつまんねぇよ。お前のアホみたいな笑顔がない人生なんて、きっと耐えられないよ。 アキラ:それでも、それでもさ。ここでこんな別れ方したら、一生俺のトラウマになっちまう。あのおみくじの通りじゃねぇか。だったら、死ぬまでは、俺と一緒に生きてくれよ。頼むよ・・・お前のいない人生に、理由なんか探させるなよ・・・。頼むよ・・・死ぬまで、生きててくれよ・・・ヒカリ・・・」 ヒカリ:「・・・いいん、ですか?生きてて、いいんですか?きっと、先輩にいろんなもの背負わせちゃいます。私が死んだ後もきっと背負わせたまんまです。誰かの重荷になりたくないから・・・誰の迷惑にもなりたくなりから・・・だから・・・」 アキラ:「・・・お前の優しさってさ、ほんとずれてるよな。いいんだよ、迷惑かけたって。最期の最期まで一緒に生きていたい。お前にとっても、残される俺にとっても、きっとつらい選択かもしれない。でも、一緒に生きててほしい。 アキラ:・・・理由、欲しがってただろ。俺はさ、お前が死ぬまで一緒に生きたいよ。お前のために生きたいよ。だからさ、俺のために生きてくれよ。そんな、ありきたりな理由しか、俺はお前に与えられない。それでも…頼むよ…俺から、お前という存在を、奪わせないでくれよ」 ヒカリ:「・・・せんぱい、きっと、私。これからいっぱい迷惑かけます…先輩の人生の重荷になっちゃいます。」 アキラ:「かまわねぇよ。背負うって決めた」 ヒカリ:「・・・先輩が次の恋愛できないくらい大きい存在になって居座り続けますよ」 アキラ:「安心しろ。今でも十分でかいよ」 ヒカリ:「ぜったいに・・・先輩と未来を一緒に生きれませんよ?隣にいる時間は、きっとあとちょっとですよ・・・?」 アキラ:「それでも、たとえ短い時間だとしても。俺は、お前と一緒にいたいよ。お前が俺の、生きる理由なんだから」 ヒカリ:「・・・だったら、絶対忘れないでくださいね。先輩が私の生きる理由になってくれてる限り・・・私も・・・生きるのを諦めませんから・・・最後まで・・・頑張りますから・・・」 アキラ:「・・・あぁ」  :   : ▪  :  ヒカリ:「・・・・・・・・・・・・・・・・ってくるしい!抱きしめすぎです!窒息します!!!殺す気ですか!?」 アキラ:「お前、今さっきまで死ぬ気だったろうが」 ヒカリ:「先輩の熱い告白に応えてちゃんと生きようと思ったんです。だから、ちゃんと一緒にいてくださいね。最期まで、責任とってくださいね」 アキラ:「・・・任せろ」  :  0:2人手を繋いで浜辺へ戻る : ヒカリ:「・・・っておぉ。久しぶりに携帯の電源を入れたらものすごい着信の数が。あーまぁ、そりゃ病院に遺書置いて行方知れずですからねぇ。。警察の人とかもいるかもしれませんね。先輩、とりあえずいきなり前途多難ですね」 アキラ:「あー・・・まぁいろいろ言われるのは覚悟の上だったが・・・。一応、お前の方からも弁明してくれね?一緒に生きるって言ったそばから、いきなり逮捕とかはさすがに恰好つかん」 ヒカリ:「・・・しょうがないですねぇ。まぁ、これから一緒に生きてくれるんですからね。それくらいはお安い御用です。・・・ねぇ先輩」 アキラ:「あん?」 : ヒカリ:「・・・ありがとうございます。私に生きる理由をくれて」 : : ▪ : アキラM:『夏空の下、彼女に本物の笑顔が咲く。今まで見た中で一番の笑顔。 アキラM:生きる理由を見つけた、彼女のヒカリ輝く笑顔。 アキラM:この先に待ってる時間がたとえ短くても。それでも、確かに手に入れたこの笑顔を。 アキラM:守り抜こう。彼女が最期に、笑顔で終われるように アキラM: アキラM:それは 彼女の意地かそれとも神様がくれた奇跡か アキラM:ヒカリが息を引き取ったのは、それから1年後のことだった』 : : : ▪ : ▪ : : 「Epilogue「君色の未来」」 : : ▪ : ▪ : : : 7年後 夕刻 墓地  : : アキラ:「よう。久しぶり」 0:町田ヒカリ 墓前 アキラ:「・・・あぁ、まぁ俺はそれなりにやってるよ。今でもさ、あの夏のことを思い出すよ。あの後お前の親父さんにぶん殴られて、ついでに俺の親父にもぶん殴られて。まぁ、いろいろ背負うって決めた割にさ、最初から挫けそうだったわ。」 アキラ:「多分さ、今ならあんな遠回りしなくても、お前に答えを与えられたのかなって思う。まぁ、俺が素直になれなかったっていうのも要因だけどさ。・・・自分の言葉で何かを伝えようとしなかった。一緒に生きてほしい。そんな単純な言葉が。お前は全部投げ捨てたかったんだろうけどさ。悪いな、なんやかんやで、俺は諦め悪かったみたいだわ。お前もたいがいだったけどさ」 アキラ:「あぁ・・・あいつも元気でやってるよ。めっちゃ手かかるわかわいくないわで、お前そっくり・・・って、あれ、どこいったんだ?」 0:墓地を見回してひとりの少女を見つける 少女:「・・・・」 アキラ:「おいお前、どこほっつき歩いてんだ。はぐれるから目の届く場所に・・・」 少女:「・・・・(ジト目で睨む)」 アキラ:「なんだその腹立つ顔・・・て、おいこらどこ行くんだよ、おい」  :   :  アキラ:「未来(みらい)!」  :   :  少女:「・・・パパ。いつも言ってるでしょ。わたしのことを呼ぶときは未来ちゃんかかわいい未来ちゃんかで呼んでって」 アキラ:「お前、そのくそかわいくないとこ母親そっくりだな」 少女:「・・・ん(手を差し出す)」 アキラ:「なんだよ、静電気攻撃か?」 少女:「パパどんかん!アホ!わかってないの!?」 アキラ:「あーはいはい、たっく・・・」  :  0:2人手を繋いで再びヒカリの墓地でお参りをする 0:(少しの間)  :  アキラ:「・・・ちゃんと挨拶できたか?」 少女:「・・・わたし、ママのことわかんないもん。わたしを産んだ時にそのまま死んじゃったって聞いたから。だから、なんて声をかけたらいいかわかんない」 アキラ:「・・・ありがとうでいいんだよ」 少女:「・・・何にたいしての「ありがとう」?」 アキラ:「お前が生きてることに対して。それだけでいいんだよ。うっし帰るか。ほれ」 少女:「ん」 0:2人手を繋いで墓地を後にする 少女:「ねぇパパ。ママって、どんな人だったの?」 アキラ:「あん?何回も説明しただろうが」 少女:「おしえて」 アキラ:「あー・・・お前のママはな。 アキラ:見た目可愛くて そんでそんな自分の可愛さを自覚してて あざとくて 悪戯好きで 小悪魔みたいなやつで 人のことおちょくって すぐへそ曲げて そんで 生きることを諦めかけた奴だった アキラ:でも お腹にお前がいるってわかって、じいちゃんばぁちゃん医者の静止も聞かずに絶対に産むって言い張って 産めなきゃ今すぐここで死ぬっていって病院中を大騒ぎさせて アキラ:この子を産んだら先輩もう一生逃げられないでしょとか怖いこと平気で言ってくるアホな女だった アキラ:でも それでも。 アキラ:誰かの迷惑になりたくないからって全部投げ捨てて 生きたいくせに死にたがりで アキラ:優しいからこそ 臆病で アキラ:きっと、そんな優しさみたいなのに俺は惚れて そして 最後の最後までお前を諦めなかった。お前の・・・お前と、俺の人生を照らしてくれた。・・・ママは、お前のママはな・・・」  :   :   :  アキラ:「俺とお前の ヒカリだよ」  :   :   :             終劇 : :

ヒカリ:町田(マチダ)ヒカリ 16歳 高校二年生 明るくあざとく無邪気で小悪魔的な 余命三か月の少女 ※ヒカリM 少女も兼ね役 (ヒカリ役の方はここをタップしてください) アキラ:比屋定(ヒヤジョウ)アキラ 17歳 高校三年生 短髪 バイク好き 左耳にピアス 粗暴で目つきが悪く 優しい先輩 それなりの苦労や悪いこともしてきたので年齢の割に落ち着いている アキラM兼役(アキラ役の方はここをタップしてください) 少女:得意技はジト目と静電気攻撃(ヒカリ役の方はこちらもタップしてください  :   :  0:本編  :  ヒカリM:『最初から 願わなければよかったのに』  :   :  0:高校屋上 昼休み ヒカリ:「先輩、私。あと三か月で死んじゃうそうですよ」 アキラ:「・・・は?」 ヒカリ:「なんですかその顔。目つき死んでますよ」 アキラ:「悪いなそれは生まれつきだ。お前がいきなり突拍子もないこと言うからだろ」 ヒカリ:「突拍子もないのは申し訳ないですが、事実です。原因不明完治不能。そんな意味のわからない病気にかかってるそうですよ私」 アキラ:「・・・・・冗談、じゃないわな。冗談だったらマジでしばくけど。」 ヒカリ:「冗談で済めばよかったんですけどね。残念ながら、みーんなホントのことです。今朝退学届も出してきました。「女子高生」町田ヒカリは今日でおしまいです。これから病院で闘病生活して、なーんにもできずに、なにも残せないまま、死んでいきます」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「先輩にはなんだかんだでお世話になったんで。だから、わたしがいなくなる前に挨拶だけは済ませようと思いました。」  :  0:くるりとアキラのほうへ振り返り、ぺこりと頭を下げる  :  ヒカリ:「今までお世話になりました。先輩との高校生活、それなりに楽しかったです」 アキラ:「・・・」  :  0:少しの間  :  ヒカリ:「・・・残念ですねーこんなに可愛いヒカリちゃんともう高校生活を過ごせなくて。 ヒカリ:これから先輩はまた萎(しな)びたどどめ色みたいな青春を過ごすとなると笑えてきますがしょうがないですはい」 アキラ:「え、いま滅茶苦茶しんみりしてた雰囲気出してたのにその最後の一文なんだよ。呪詛?」 ヒカリ:「私の精一杯の強がりです。身に沁みましたか?」 アキラ:「いやまったく全然」 ヒカリ:「むーなんでですかー!先輩私ともうこんな風にいちゃつけないんですよ?人生の損失ですよ?」 アキラ:「わざとらしく頬を膨らませるなくっそあざとい」 ヒカリ:「わかりましたー。ふーんだ、私だってこれで先輩の顔を見なくて済むっていうなら清々しますー!・・・じゃあ、言いたいことは言い終わったので私はこれで。」 アキラ:「・・・なぁ」 ヒカリ:「・・・なんですか」 アキラ:「・・・頑張れよ」 ヒカリ:「・・・はい。それじゃあ、先輩。さようなら」  :  0:ヒカリ 屋上の扉を開け姿を消す  :  アキラ:「・・・はぁ。もっと気の利いたことも言えねぇのかよ俺は。・・・いや」 アキラM:『ふと、最後の挨拶をしたあいつの顔が浮かんだ。諦め 絶望 虚無。そして、そんな感情を覆い隠すように繕った仮面の笑顔。少なくともあの一瞬だけは、俺がよく知る後輩『町田ヒカリ』ではなかったような。そんな気がした』 アキラ:「・・・・・・・あっちいなぁ」 アキラM:『夏休み前日。そうして町田ヒカリはこの学校を去った。うだるような夏空。水平線の彼方まで続く群青。暑く 碧く 淡く消えゆく そんな夏の始まりを予感していた』  :   :  0:「君色にヒカル未来に、さよなら」  :   :  0:病棟  :  ヒカリ:「・・・うわ」 アキラ:「見舞いに来た第一声がそれかよお前。存外元気そうじゃねぇか」 ヒカリ:「まさか先輩がお見舞いにくるなんて殊勝なことしてくるとは思わなかっただけです。なんですか?ついに暑さで頭がやられましたか?」 アキラ:「それだけ口が回るならまだ生きられるだろ。ほれ見舞いの品。そこで山になってるものの上にでも置いておくわ」 ヒカリ:「あ、どもどもです。ちなみに何を私に献上してくださるんですか?」 アキラ:「なんだっけ。なんかいま流行ってる・・・でんぷん?」 ヒカリ:「タピオカでしょそれ。先輩ホントに今どきの文化に疎いですね。あと、少なくとも元女子高生へのお見舞いの品としては不親切かと」 アキラ:「バイトに明け暮れてるから世の中の流行りなんざ知らねぇわ。なんか缶で売ってたし、どうせお前のことだからフルーツだとか女子っぽいものは貰ってると思ったからな。それにかければいいだろ」 ヒカリ:「ふりかけ感覚で言わないでくださいよ」 アキラ:「俺に気の利いたことを期待するのはやめとけ。自慢じゃないがいろんな人間の期待を裏切ってきた自信はある」 ヒカリ:「ほんとに自慢することじゃないので心の奥底に閉まっていてください。そんなだから不良だとかヤンキーだとか学校中で噂されるんですよ。懐かしいですね。いつもこうやって先輩と馬鹿話して、けらけら笑って先輩が私の可愛さにときめいて」 アキラ:「後半完全に捏造だからなそれ。・・・まぁ、安心した。屋上でいきなりあんなこと言ってたからな。もっと自暴自棄にでもなってるのかと思ってたわ」 ヒカリ:「・・・自暴自棄になってすべてが解決できるなら、いくらでも喚きますよ。でも、何も変わらないなら。何も変えられないなら。だったら、静かに、その時を待てばいいかって。どうせ・・・」 アキラ:「なぁ、あの時から気になってたんだがな。なんで・・・もう諦めてるんだ?お前が今、苦しい立場にいるってのはわかってる・・・つもりだ。でも、だからこそ普通なら足掻くものじゃないのか?・・・少なくとも、俺の知ってる「町田ヒカリ」なら、そうしていると思ってな」  :  ヒカリ:「・・・ねぇ、先輩。先輩にとっての「生きる理由」って、なんですか」  :  アキラ:「唐突だな」 ヒカリ:「いいから。答えてください」 アキラ:「・・・(深い沈黙)すまん。やっぱり急に言われてもパッとは出てこなかった。生きる目的だとか理由だとか、そんなものを考えながら生きてきたわけじゃないからな。ただ、まぁ。生きてるから、生きてた。そんな感じだ」 ヒカリ:「私は、日々友達と遊んで、つまんない授業受けて、先輩をからかって。嬉しいことだとか楽しいことだとか、確かに感じて生きてきたつもりでした。 ヒカリ:でも、病気を宣告されて。なんで私がって最初は思いましたよ。まだやりたいことやり残したことがあるのに。って、そう思ってました」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「でも、その時に。わかっちゃったんです。確かに充実した日々を過ごしてきたつもりでした。でも、ふと振り返ったら。どれもこれもが、「これじゃない」って思ったんです。 ヒカリ:それに気づいたとき、友達と遊ぶこと 普通に恋すること 社会に出た時の自分。そんな誰でも描けるような未来予想図が途端に消えていった。 ヒカリ:消えていったっていうか・・・それのために生きてきたわけじゃないって、自分で気づいちゃったんです。 ヒカリ:そこからはもうあっというまですよ。未来を思うことができない私は、今を生きる資格ないんじゃないか。だったら、全部諦めれば楽になるんじゃないか。そう思ったんです。」 アキラ:「極端すぎだろ。誰だって生きる理由を明確に持ってるわけじゃない。それでも生きてるやつのが大半だろ。生きる理由っていうか、生き甲斐っていうか。それを糧に生きてるやつだっているかもしれないけど、それでも」 ヒカリ:「(遮って)それでも生きていける人間は、ちゃんと未来を生きれる人間ですよ。これからの人生できっとそんなものを探して生きていけるんですよ。 ヒカリ:でも、私にはもう未来がないって宣告されちゃいましたから。生き甲斐とか生きる理由とか、なにも思うことができなくなりました。 ヒカリ:だから、もうその時を待つだけでいいやって。 ヒカリ:友達や両親の「がんばれ」って言葉がつらいんです。「諦めるな」って言葉がつらいんです。 ヒカリ:そして、内面そんな言葉にどす黒い感情を宿す私が、醜くて気持ち悪いです。私の立場になってないのに、なんでそんなことを言えるのかって。これ以上なにも望みたくないから。望んだ分だけつらくなるだから。ここで。この白い監獄みたいなここで、全部終わろうって思ったんです」  :  アキラM:『そういって彼女は膝を抱えた。それが、もう出て行ってくれという合図に思えた。彼女の言葉に俺は何も返せなかった。きっと、中途半端な言葉は彼女をただ苦しめるだけだと。そう思ったから』 アキラ:「・・・わかった。じゃあな。元気でやれよとか、そんな言葉はかけない。でも・・・ひとつだけいいか?」 ヒカリ:「・・・なんですか」 アキラ:「何も望めなくなったって言ってたよな。自分がいなくなったあとの未来は望めないって。だったら、お前が最期を迎えるまでに、なにかやりたいことってのはあるか」 ヒカリ:「・・・それを聞きますか。私の恨み言をわかってて聞くところがホント性格悪いですよね先輩。・・・だったら、いまの私が。最期の私に対して願うことはひとつだけです。 ヒカリ:奇麗なところで死にたい。こんな何もない白い監獄の中じゃなくて。最期に見るのがそんな景色じゃなくて。私が今まで出会ったことのないような。奇麗なところで、死にたいです」  :   : ▪  :  0:自室 アキラ:「奇麗なところで死にたい・・・か。後ろ向きな願い口にしやがって」 アキラM:『彼女の現状を俺はどうすることもできない。奇跡を望むことしかできないんだろう。俺にできることなんてない。俺の言葉は届かない。できることがあるとしたら』 ヒカリ:『奇麗なところで、死にたいです』 アキラM:『そんな、あいつの後ろ向きな願いを叶えてやるくらいだろう。それが何を生むかだとか何のためだとか理由はない。それが正しいことだなんて思ってない。それでも、今のあいつに対して何かやれるのは。きっとあいつの弱音を見た、俺だけなんだろうと勝手に思った』  :   : ▪  :  0:深夜 病院 アキラ:「よう」 ヒカリ:「・・・え、なんですかいきなりって、うんべ!(ヘルメットを顔面で受ける)いったーーー!?なんですか!か弱い病弱な美少女になにぶつけてくるんですか!!」 アキラ:「あんまりでかい声出すなよ。抜け出すぞ。準備しろ」 ヒカリ:「は?」 アキラ:「お前の願いを叶えに来たんだよ。」 ヒカリ:「は?」 アキラ:「そのむかつく顔やめろ。奇麗なところで死にたいんだろ。だから、俺がそこに連れて行ってやる」 ヒカリ:「え・・・あーあの、すいません突然のことでいま全く理解が追いついてないんですが・・・」 アキラ:「ここで死にたくないんだろ。生きる理由がないんだろ。全部、投げ捨てたいんだろ。」 ヒカリ:「え、あ、まぁ確かにそれは言いましたけど。いや、まさかこんな早急に力技で来るとは思いませんでした。ていうか先輩、勢いだけで行動してるわけじゃないですよね。さすがに大問題になりますよ。」 アキラ:「全部踏まえたうえで行動してるから安心しろ。これが正しいことじゃないなんてわかってる。それでも、お前のあんな苦しそうな顔で最後だなんて、後味が悪すぎる。だから、これは俺のエゴだ。」 ヒカリ:「・・・」 アキラ:「俺にできることなんてこれくらいしかない。お前の馬鹿みたいな願いを叶えて、そして。」  :  アキラ:「お前の最期を看取ってやる」  :  ヒカリ:「・・・はぁー(溜息)いや、たぶんこの人頭悪いんだろうなーとは常々思ってましたけど。まさかここまでとは思いませんでした。 ヒカリ:・・・でも。ありがとうございます。今は、そんな先輩の馬鹿さに乗っからせていただきます。・・・私を、連れてってくれませんか。最期に、ここで死んでもいいって思えるようなそんな場所に」 アキラ:「・・・任せろ。あぁ、ちょい長旅になるからな。いろいろ準備しとけ」 ヒカリ:「まったく、どこに連れて行ってくれるんだか・・・じゃあ、ちょっと準備しますんで。出てってください。着替えとかいろいろありますから。あ、先輩私の着替えが見たいっていうならここにいてもいいですよ?」 アキラ:「(遮って)じゃ、準備できたら言えな(病室の外に出る)」 ヒカリ:「ってまったく興味なしですかそうですか!あほ!・・・ホント馬鹿なんですから。馬鹿みたいに、優しいんですから」  : ▪  : ▪ 0:病室 外 ヒカリ:「お待たせしました」 アキラ:「おう・・・て、なんで制服なんだよ」 ヒカリ:「ふふーん。先輩が喜ぶかと思いまして!どうですか?久々に見る美少女女子高生ヒカリちゃんは」 アキラ:「んな戯言はどうでもいい。はやく出るぞ」 ヒカリ:「戯言って言いましたか戯言っていいやがりましたか」 アキラ:「・・・ところで、着替えるにはちょい時間かかったな。なんかしてたのか」 ヒカリ:「あー・・・遺書、書いてました。たぶんもう、ここには戻らないと思うので」 アキラ:「ん・・・そうか」 ヒカリ:「きっと明日には大パニックですね。病院の先生もお母さんもお父さんも、友達も。それくらいとんでもないことしようとしてますから。先輩、ちゃんとその覚悟をして私を連れ出してくれるんですよね?」 アキラ:「・・・なにも思い付きで行動してるわけじゃない。いろんなもん背負う覚悟でここにいる」 ヒカリ:「なんですか?ひとえに私への愛ですか?」 アキラ:「そうじゃない。ただ・・・生きる理由がないなんて言うお前に、お前の人生に見せてやりたかったんだよ」 ヒカリ:「なにをですか?」 アキラ:「俺が、一番綺麗だと思う場所を。そんで・・・いや、なんでもない。」  : ▪  : ▪ 0:2人 病院を抜け出して病院の駐車場へ ヒカリ:「おーこれが噂の先輩の愛車ですか。バイクの知識はないですが先輩がたまにしたり顔で自慢してきてたので、うっざいなぁこの人って思いながら聞いてた時がありました」 アキラ:「満面な笑顔で俺の愛馬を貶すのマジでやめろ。バレる前に、さっさと逃げるぞ」 ヒカリ:「はーい先輩。よっと・・・ところで先輩、長旅になるって言ってましたがどこに行く予定なんですか?」 アキラ:「ん?沖縄」 ヒカリ:「・・・・・・・・・・・・・・・・は?」 アキラ:「ほれ、舌噛むぞ。しっかりつかまってろ」 ヒカリ:「え、ちょ、まってくださいさすがに予想外すぎてきゃああああああああああ!!」  : ▪  : ▪  :  ヒカリM:『ねぇ先輩覚えてますか?死にたがりの私のわがままから始まったあの夏の旅のお話を。 ヒカリM:実を言うと私、めっちゃ嘘ついてました。生きる理由がないっていうの、嘘なんです。 ヒカリM:生きる理由を持ちたくないっていうのが本音でした。終わりが約束された私が、そんな理由をもってしまったら、きっと全部全部怖くなってしまうってわかってしまってたから。だから、無理やり全部捨てようと思いました』  :   : ▪  : ▪ 0:数時間ほど走った先のコンビニ ヒカリ:「いや、まぁこの人、馬鹿だ馬鹿だとはもう常々思ってたんですよホントに。まぁそれに乗っかってしまった私もたいがいなんですがね。でもまさか沖縄だなんて思わないじゃないですか普通!てっきり日帰り感覚と思うじゃないですか普通!!」 アキラ:「ちゃんと俺は長旅になるって事前に言ってるじゃねぇか。走り出した後に文句を垂れるなよ。」 ヒカリ:「だいたい、ここから沖縄までどのくらいかかると思ってるんですか?その間の旅費だとか私そんなに手持ちないですからね?」 アキラ:「お前に金出させることはなるべくはしねぇよ。バイトに明け暮れてたからな。蓄えはそれなりにある。さすがに俺も夜通し走ろうなんて思ってないし、道中ぶらぶらしてまぁ1週間くらいで着けばいいかくらいで考えてる」 ヒカリ:「肝心の中身が何も考えてないんですよねぇこの人。・・・こうなったら自棄だ。道中気になってた観光名所だとかいろいろ回って、おいしいご当地料理食べてこのATMの残高食いつぶしてやろう」 アキラ:「人のことATM呼ばわりすんのマジでやめろし。まぁ名所廻りはいいかもしれないな。バイク走らせ続けるっていうのも退屈だし。とりあえず、どこ行きたいよ?」 ヒカリ:「あーまぁここから沖縄までの道中ですからねー。定番かもしれませんが、私行ったことないので京都行きたいですね。清水寺。」 アキラ:「またド定番だな。まぁいいや。とりあえず今日はそこらへんのホテルで一泊して。明日のうちに京都までは着くだろ。・・・お前、どっかで着替えろよ?さすがに制服姿の女と一緒には行動したくないんだけど」 ヒカリ:「え、すいません。さすがに病院だったので正直今ほとんど服持ってないです。制服は壁にかけて観賞用にしてたからあったんですが」 アキラ:「・・・まぁいいや。とりあえずなんとかなるだろ」  :  0:県内 ホテル ヒカリ:「あの、先輩。その・・・ホテルってことは一緒のベッドに」 アキラ:「(遮って)俺は床で寝るからはよ寝ろ」 ヒカリ:「あーはいはいわかりましたーおやすみなさーい・・・あ、携帯の電源は切っておこっと」  :   : ▪  :  ヒカリM:『でも先輩は、いろんなものを投げ捨てて空っぽになった私に手を差し伸べてくれた。きっとなにも正しくない、私を連れ出すという、エゴイズムで偽善的な選択を躊躇なくしてくれた。 ヒカリM:いろんな人が彼を非難するだろう。それでもかまわないと先輩は言ってくれた。空っぽになった私の心に、生きる理由という火を灯すために。 ヒカリM:ずっと前から知っていた。誰よりも優しいこの人は、きっと、何も裏切らない人なんだって。私の願いを裏切らないために、その選択をしてくれたのだって』  :   : ▪  :   : 京都 清水寺  :  ヒカリ:「そういえば聞いてなかったんですが、なんで沖縄なんですか?」 アキラ:「あぁ、俺もともとそっちの人間なんだよ。両親が離婚した関係でこっちにいるんだけど。で、毎年夏休みにじいさんの家に帰郷するから、それに合わせてお前を沖縄にご招待ってこと。」 ヒカリ:「あーそういうことですか。納得です。で、そこにあるんですね。先輩が見せたい場所ってやつが。なんなんですそれ?」 アキラ:「秘密。ほれ、前の人どいたぞ。参拝参拝」 ヒカリ:「おっとありがとうございます。よっと景気よく、さらば英世!」 アキラ:「おい俺が渡した金だろうがそれ」 0:参拝する2人(ぱん、ぱんと手拍子の音) ヒカリ:「あ、先輩おみくじありますよ恋愛おみくじ。清水といったら縁結び祈願!先輩のこれからの未来が薔薇色かどうか決める最後通告ですよ!」 アキラ:「おみくじに対して最後通告って言葉、同居するんだな」 0:2人おみくじを引いて開く ヒカリ:「・・・凶。え、いや、それなりに悲惨な現状だとは認識してますがこんなにピンポイントに当ててきますか神様。先輩は?」 アキラ:「あー・・・大凶」 ヒカリ:「(吹き出す)先輩、ここでそんなミラクル起こさなくてもいいですから・・・ぷぷぷ」 アキラ:「お前のマジ笑いすげぇ腹立つな。・・・思いは叶わず、残るものあり。残るものってなんだよ神様」 ヒカリ:「え、トラウマですよそれきっと。しょうがない。可愛い後輩がちゃんとその厄を払えるようにしっかり結んであげ・・・あ、破れた」 アキラ:「おまえ罰当たりすぎだろ」  :   : ▪  :  ヒカリM:『ありがとうございます先輩。きっと何回ありがとうを言っても足りないくらい、先輩には感謝してるんですよ。 ヒカリM:ぶっきらぼうで 目つき悪くて 面倒見がよくて 誰よりも優しい人。先輩の愛車で、先輩にずっとひっついて、実は私、すごいドキドキしてたんです。 ヒカリM:はい、わかってました。学校に居た時から。私、たぶんずーっと、先輩のこと好きでした。この旅の中で、もっと好きになりました。』  :  ヒカリ:「先輩。山賊焼きって揚げるものじゃないんですか?いま私の目の前にある物体は山賊焼きという名称ですが私の知ってる山賊焼きとは違うんですが」 アキラ:「なに言ってるんだ山賊焼きだぞ。焼くんだよ。俺たちが知ってる山賊焼きは山賊焼きであって山賊焼きではない」 ヒカリ:「多方面に喧嘩売る発言はやめてください。あと・・・このおむすび。ちょっと女子には天敵というか巨大というか」 アキラ:「具が3つ入ってるからな。ひとつで3つの味を楽しめるなんてお得だろ。山賊焼きをおかずに、むすび食べてみろ。世界が変わるから」 ヒカリ:「・・・(半信半疑な目)はむ・・・・・・・・・・・うっま」 アキラ:「それ見たことか」  :  ヒカリM:『あぁ、嫌だなぁ。私、いまこんなにドキドキしてるのに。きっと何も残せずに死んじゃうんだ。 ヒカリM:ただ生きるってだけがこんなにも重く、そして残酷で。いま私が感じてる感情も何もかも、全部なくなるんだ ヒカリM:しょうがない。だって、それを決めたのは私なんだ。未来を望まず 希望を持たない。そうすればきっと、これからを苦しまずに生きれるんだから』  :  ヒカリ:「はーいいお湯でした。さすが温泉の名所って、先輩?あー・・・寝てるんですか」 アキラ:「・・・(寝息をたてる)」 ヒカリ:「こうやって目を瞑ってたら目つきの悪さもカバーできるのに、もったいないなー。んーでも、先輩の良さをわかってるのは私だけでいいしなー・・・あれ、私もしかして、結構独占欲強い?」 0:寝顔を見つめる ヒカリ:「優しそうな寝顔だなぁ。沖縄までもうすぐかー・・・。先輩が生まれ育った場所。先輩が見せたい場所。どんなものかすごい気になるけど。・・・でもね、先輩、私わかってますよ。先輩は別に私にその場所を見せて看取ってくれるつもりじゃない。 ヒカリ:先輩は・・・ただ、私に「生きる理由」を見つけてほしいんだってこと。」 アキラ:「・・・(目が覚めたが寝たふりをする)」 ヒカリ:「でもね先輩。・・・やっぱりね、どんな理由があったとしても怖いですよ。理由を持って生き続けるの。人間はいつかは死ぬってわかってても、わたしの死(それ)は約束されてるものだから。死(それ)がわかっているのに生きさせようとするなんて、残酷です。 ヒカリ:・・・だから、きっと。この旅の終わりが、私の終わりです。希望を持って生きる過酷さを、私は知っているから。・・・・・・・あー眠くなってきた。私も寝よ・・・」 アキラ:「・・・そんな俺の願いを知ってるくせに、それでもそれを拒むんなら・・・どっちが残酷なんだよ・・・アホ(聞こえないような小声で)」  :   : ▪  :  ヒカリM:『そう、この旅の終わりが私の終わり。先輩のやさしさにすがって、先輩に残酷な選択をさせた、愚かな私の終着点。 ヒカリM:あー・・・嫌だなぁ。先輩にそんな選択をさせた私も。全部が嫌だ。投げ捨てたい。楽になりたい。苦しみたくない。しんどい。生きることって、こんなに難しい。 ヒカリM:生きたいなぁ。頑張って生きていたい。抗ってみたい。先輩と一緒にいたい。でも、ダメだ。きっとその選択はダメだ。それを選んでしまったら、そんな苦しい選択をしてしまったら。 ヒカリM:先輩の中に残りたいと思ってしまったら。それは、きっと、ただの呪いだ』  :   :  0:沖縄行き フェリー ヒカリ:「いやーずっと山間(さんかん)の街で過ごしてたから船に乗るなんて初体験ですよ先輩」 アキラ:「天候も問題なさそうだし快適な船旅になりそうだな。俺は毎年乗ってるが波が酷いときはマジで胃にくるからな。ていうか周りの人間が一斉に吐き出すから、こっちももらいゲロしそうになる」 ヒカリ:「いま私がフレッシュな感想言ってるのにそんな汚い思い出話を聞かせないでください船から突き落としますよ?・・・でも、もうすぐかぁ・・・もうすぐ、この旅も終わっちゃいますねぇ」 アキラ:「・・・」 アキラM:『旅の終わりが近づく。青い青い逃避行の旅の終わりが。 アキラM:俺は、こいつになにかを与えてやれただろうか。こんな華奢な体で、残酷な運命告げられて。病室で見たこいつの虚ろな目に、なんとか応えてやりたくてはじめた馬鹿な旅。 アキラM:明るく あざとく 小悪魔的で 生きる理由を投げ捨てた後輩に アキラM:俺はこの旅を通じて なにかを与えられたのだろうか。答えを得られないまま、船は旅の終わりの島を目指す。目指してしまう』  :  0:沖縄本島北部 比屋定家 アキラ:「ほい、到着。じーさん入院してるみたいだから誰もいないけど、まぁあがれ」 ヒカリ:「はーい、おじゃましまーす。それにしても町から外れたこんな山奥にぽつんとコテージって。先輩のおじーさんもなかなか変わり者ですね」 アキラ:「否定はできねぇわな。ん、ちょうどいい時間だな。こっち来てみろ」 ヒカリ:「え、なんですか?・・・あ」 ヒカリM:『先輩が手招きした、崖側に面しているバルコニーの先 ヒカリM:見渡す限り一面の真っ青な海が広がる。それは間違いなく、私が見た中で一番の「奇麗なもの」だと確信をもって言える。どこまでもどこまでも続く群青の世界から、徐々に黄昏に変わるその世界に、私は何も言えずに見惚れてしまった』 アキラ:「多分、じーさんもこの景色を見たかったから、こんな辺鄙(へんぴ)なとこに家を建てたんだろ。かくいう俺も、毎年ここから見る海を見たいから、わざわざ帰っているところもある。 アキラ:・・・この景色を見せたから何かが変わるとは思ってない。でも、お前がこれを知らずに死ぬのは、そう。勿体ないって思った。ここだけじゃない。お前が見たことないものなんて山ほどある。でもさ、それは。生きてる間にしか見れないものなんだよ」 ヒカリ:「・・・先輩」 アキラ:「この旅の間はさ、確かに俺は見てたよ。お前が楽しんでる姿を。お前が生きてる姿を。お前が欲しがってた生きる理由ってのは、俺だってはっきり答えられない。だけど」 ヒカリ:「(遮って)先輩。少し、少しだけ、静かにしてください。先輩が見せたがってた景色を、目に焼き付けたいんで」 アキラ:「・・・わかった」  :  0:テラスからじっと海を見据えるヒカリ  :  ヒカリM:『海を見る。先輩が見せたがっていた景色を。思い出を見る。この旅の思い出を。楽しかったです 美味しかったです 先輩の態度にいろいろむかつきもしました だけど あなたの優しさに私は確かに救われていました。だから・・・』 ヒカリ:「先輩。ありがとうございました。私をここに連れてきてくれて。」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「ありがとうございました。先輩のやさしさに、私は確かに救われました。この光景はきっと、生きている間にしか見れなかった。私の一番の宝物です。これだけじゃない。私が見たことないものなんていっぱいある。 ヒカリ:まだ生きてたいなって、思いました」 アキラ:「・・・そうか、よかった」  :  ヒカリ:「(遮って)だから、これだけ貰ったら、もう十分だから。私は、明日あの海で死にます」  :  アキラ:「・・・なんでその結論は変わらないんだよ。」 ヒカリ:「だって、もう充分ですから。楽しかった旅の思い出 最後に見た宝物の景色。きっと、私の心は満たされました。だから、もういいじゃないですか」 アキラ:「・・・生きたいって思ったんじゃないのかよ」 ヒカリ:「思いました。またこの景色を見たいなって思いました」 アキラ:「だったら!!」 ヒカリ:「でも、それだけでした。先輩は、私に生きる「理由」を与えてくれなかった。それだけです。最初から何も願おうとしなかった。どれだけ何かを望んでも、私は未来を生きれないから」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「ごめんなさい。こんな結論しか出せない女で。・・・寝室、お借りします。それでは」  :  0:夜 ヒカリM:『本当に、馬鹿な女だって思う。見惚れた世界を黒く塗りつぶし、先輩の優しさを裏切って。死ぬことを選んだ、馬鹿な女だって。 ヒカリM:生きる理由を見つければ何か変わるかなって思った。先輩の優しさに触れれば何か変われるかなって思いました。でも、変わりませんでした。未来を生きれない自分を、投げ捨てられませんでした。 ヒカリM:だって、怖いですよ。死ぬの、怖いですよ。誰も助けてくれないんです。先輩がどれだけ優しくしてくれたって、私は死んじゃうんです。いつか、ただの思い出になって。そして、忘れられるんです。それが、怖くて怖くて立ち止まってしまいます。だから、きっと、これまでなんだ』 アキラ:「・・・おい、いいか」 ヒカリ:「・・・なんですか。夜這いですか?」 アキラ:「違う。・・・明日、海辺まで降りる道がわかりづらいだろうから。それの打合せだ」 ヒカリ:「・・・先輩、こんな私の最期を看取ってくれるんですか」 アキラ:「俺にはその責任がある。・・・いや、違うわ。そんな覚悟なんか持ちたくもない。 アキラ:ただ、お前にかける言葉を探そうと思った。頭がないわりにめっちゃ悩んだ。だけどさ、なにも思い浮かばなかったよ。お前に生きる理由を与えるための言葉が。お前のむかつく顔を見たら何か思い浮かぶかと思ったけどさ。ただむかつくだけだった」 ヒカリ:「喧嘩売りに来たんですかこの男は」 アキラ:「俺の薄っぺらな人生観程度じゃさ、お前を止める言葉がわからないんだよ。どれだけ奇麗な言葉ならべても、どれだけ奇麗な景色を見せても。お前の決意を変えられなかった。・・・悪い」 ヒカリ:「・・・その優しさに私は救われてましたよ。この旅を通じて。なにも裏切らない貴方の優しさに、ずっとすがってました」 アキラ:「どれだけ優しくしようが、お前はそれを裏切るだろ」 ヒカリ:「はい、裏切ります。だって、これ以上優しくされたら、きっと私はあなたに残酷な選択をさせちゃいますから。まぁ、私の最期を看取ってくれるっていうのも残酷な選択なんですけど」 アキラ:「俺だっていつまでも優しい先輩ぶってやれるかわからないからな」 ヒカリ:「・・・だったら、そんな優しい先輩に、とっても残酷な、お願いをします」  :  ヒカリM:『もう、何もいらないって思ったのに。これ以上先輩に何も背負わせたくなかったのに。』 ヒカリM:『弱い私は、最後の最後に甘えてしまった。貴方の中に在りたいっていう、そんな呪いを先輩に残してしまいました。』 ヒカリM:『ありがとう、ごめんなさい。大好きです。忘れないでください。忘れてほしくないです。私が此処にいたっていう 証を あなたに刻ませてください』  :  0:翌朝 海辺までへの道  :  ヒカリ:「腰が痛いです。・・・もう一回言いましょうか?腰が痛いです。けだもの」 アキラ:「誘惑してきたのはお前だろうが。おとなしく俺の毒牙にかかっとけ。・・・ほれ、着いたぞ」 ヒカリ:「・・・近くで見るのとは、また違いますね。でも、奇麗なのは変わらない。宝石みたいな海。」 0:繋がれていた手がそっと離れる ゆっくりとヒカリは海へと近づいていく ヒカリ:「先輩。ありがとうございました。何度だって言います。ありがとうございました。この旅は、私にとっての最高の思い出です。断言できます。先輩と過ごしたこの夏で、私は確かに生きていました」 アキラ:「・・・」 ヒカリ:「最後に私のわがままを聞いてもらいました。先輩の優しさに何度も救われました。 ヒカリ:かけがえのない時間を過ごせました。残酷な選択を何度もさせてしまいました。でも、先輩は何も裏切らず応えてくれました。ありがとうございました。大好きです。一生好きです」 アキラ:「・・・それでも、変わらないのか?お前の決意は、変わらないのか?」 ヒカリ:「未来が行き止まりだから。私にとってのピリオドはもう打たれてしまっていたから。 ヒカリ:きっと、何が起きても、私はこの答えを出していたと思います。・・・生きる理由なんてものがあったとしても同じです。 ヒカリ:私は、生きる理由を見つけられなかったんじゃない。生きる理由を見つけるのが、怖かったんです。それを見つけてしまったら、それのために生きて、そして死んでいくことが、何よりも怖かったんです。だから、これはもう、決まっていたことなんですよ」 アキラ:「それでも!それでも、俺はこの旅でお前に何か与えられるんじゃないかって、思ってた。理由そのものじゃなくたっていい、なにかのきっかけになればいい。お前が、少しでも前を向けるなら、それでいいと思ってた」 ヒカリ:「思い出は胸に仕舞います。先輩の優しさに甘えてました。でも、優しさだけじゃきっと私は救われませんでした。救ってほしかったわけでもなかった。それでも・・・先輩、最後の思い出を、ありがとうございました。」  : 作ったような笑顔で  ゆっくり振り返る  :  ヒカリ:「それじゃ、また。来世であいましょう」  :  :   アキラM:『決意に濡れた背中が遠ざかる。生きることを諦めた少女の背中。 アキラM:残酷な運命を告げられて、それでも、確かに生きようとして、それでも、未来に殺された少女の背中』  :  アキラM:ごめん。俺はお前に生きる理由を与えられなかった。この旅を通して、この海を見せて。 アキラM:生きることの楽しさを 美しさを お前に与えてやれば。きっと踏みとどまってくれるんじゃないかって、自惚れていた。  :  アキラM:遠ざかる背中に 俺はもう何も答えてやれない。一緒に死んでやることもできない。だから、きっと、これで終わりだ。・・・そうして、消えゆく彼女の背中を見送り・・・』  :   : ▪  :  アキラ:「・・・・・・・・・・・・いや、ちがうだろ」  :   : ▪  :  アキラM:『この旅を通して?楽しさや美しさを見せて?違う、違う、そうじゃねぇだろ。繋ぎとめる言葉を俺はまだ』 : アキラM:『「俺の言葉」を、なにひとつ伝えてないじゃないか!!!!』  :  アキラ:「ヒカリ!!!!」 ヒカリ:「え・・・ふぁ!」 0:後ろから強く抱きしめる ヒカリ:「せん・・・ぱい?」 アキラ:「死ぬな・・・死なないでくれよ。生きていてくれよ!散々俺のことひっかきまわして、弄んで、それでさよならだなんてそんなふざけたこと言うんじゃねぇよ!生きる理由を見つけるのが怖いか!?苦しく生きるのがつらいか!?あぁ、そうだよみんな苦しんでるんだよ!!誰だって苦しくたって生きてるんだよ!理由なんかいらねぇ!命があるから、生きてるんだよ!!!!それだけでいいじゃねぇか!命があるなら、生きてるなら、それでいいじゃねぇか!! アキラ:一人で苦しんで生きる必要なんかねぇだろ、一人で怖がる必要ねぇだろ!散々俺にすがってきたんだろ!?だったら、最後まですがれよ!!此処に居てくれよ・・・それだけで、いいんだよ俺は。」 ヒカリ:「せん・・・ぱい・・・。はなしてください。ほどいてください。だって・・・だって・・・これ以上先輩にすがりたくないです。先輩の人生に、これ以上私がいたら、きっと枷になっちゃいます」 アキラ:「今更そんなこと気にすんなよ。枷になるなら最後までなってろ。そんくらい背負ってやる。 アキラ:お前のいないこれからの人生なんてな、はっきり言ってつまんねぇよ。お前のアホみたいな笑顔がない人生なんて、きっと耐えられないよ。 アキラ:それでも、それでもさ。ここでこんな別れ方したら、一生俺のトラウマになっちまう。あのおみくじの通りじゃねぇか。だったら、死ぬまでは、俺と一緒に生きてくれよ。頼むよ・・・お前のいない人生に、理由なんか探させるなよ・・・。頼むよ・・・死ぬまで、生きててくれよ・・・ヒカリ・・・」 ヒカリ:「・・・いいん、ですか?生きてて、いいんですか?きっと、先輩にいろんなもの背負わせちゃいます。私が死んだ後もきっと背負わせたまんまです。誰かの重荷になりたくないから・・・誰の迷惑にもなりたくなりから・・・だから・・・」 アキラ:「・・・お前の優しさってさ、ほんとずれてるよな。いいんだよ、迷惑かけたって。最期の最期まで一緒に生きていたい。お前にとっても、残される俺にとっても、きっとつらい選択かもしれない。でも、一緒に生きててほしい。 アキラ:・・・理由、欲しがってただろ。俺はさ、お前が死ぬまで一緒に生きたいよ。お前のために生きたいよ。だからさ、俺のために生きてくれよ。そんな、ありきたりな理由しか、俺はお前に与えられない。それでも…頼むよ…俺から、お前という存在を、奪わせないでくれよ」 ヒカリ:「・・・せんぱい、きっと、私。これからいっぱい迷惑かけます…先輩の人生の重荷になっちゃいます。」 アキラ:「かまわねぇよ。背負うって決めた」 ヒカリ:「・・・先輩が次の恋愛できないくらい大きい存在になって居座り続けますよ」 アキラ:「安心しろ。今でも十分でかいよ」 ヒカリ:「ぜったいに・・・先輩と未来を一緒に生きれませんよ?隣にいる時間は、きっとあとちょっとですよ・・・?」 アキラ:「それでも、たとえ短い時間だとしても。俺は、お前と一緒にいたいよ。お前が俺の、生きる理由なんだから」 ヒカリ:「・・・だったら、絶対忘れないでくださいね。先輩が私の生きる理由になってくれてる限り・・・私も・・・生きるのを諦めませんから・・・最後まで・・・頑張りますから・・・」 アキラ:「・・・あぁ」  :   : ▪  :  ヒカリ:「・・・・・・・・・・・・・・・・ってくるしい!抱きしめすぎです!窒息します!!!殺す気ですか!?」 アキラ:「お前、今さっきまで死ぬ気だったろうが」 ヒカリ:「先輩の熱い告白に応えてちゃんと生きようと思ったんです。だから、ちゃんと一緒にいてくださいね。最期まで、責任とってくださいね」 アキラ:「・・・任せろ」  :  0:2人手を繋いで浜辺へ戻る : ヒカリ:「・・・っておぉ。久しぶりに携帯の電源を入れたらものすごい着信の数が。あーまぁ、そりゃ病院に遺書置いて行方知れずですからねぇ。。警察の人とかもいるかもしれませんね。先輩、とりあえずいきなり前途多難ですね」 アキラ:「あー・・・まぁいろいろ言われるのは覚悟の上だったが・・・。一応、お前の方からも弁明してくれね?一緒に生きるって言ったそばから、いきなり逮捕とかはさすがに恰好つかん」 ヒカリ:「・・・しょうがないですねぇ。まぁ、これから一緒に生きてくれるんですからね。それくらいはお安い御用です。・・・ねぇ先輩」 アキラ:「あん?」 : ヒカリ:「・・・ありがとうございます。私に生きる理由をくれて」 : : ▪ : アキラM:『夏空の下、彼女に本物の笑顔が咲く。今まで見た中で一番の笑顔。 アキラM:生きる理由を見つけた、彼女のヒカリ輝く笑顔。 アキラM:この先に待ってる時間がたとえ短くても。それでも、確かに手に入れたこの笑顔を。 アキラM:守り抜こう。彼女が最期に、笑顔で終われるように アキラM: アキラM:それは 彼女の意地かそれとも神様がくれた奇跡か アキラM:ヒカリが息を引き取ったのは、それから1年後のことだった』 : : : ▪ : ▪ : : 「Epilogue「君色の未来」」 : : ▪ : ▪ : : : 7年後 夕刻 墓地  : : アキラ:「よう。久しぶり」 0:町田ヒカリ 墓前 アキラ:「・・・あぁ、まぁ俺はそれなりにやってるよ。今でもさ、あの夏のことを思い出すよ。あの後お前の親父さんにぶん殴られて、ついでに俺の親父にもぶん殴られて。まぁ、いろいろ背負うって決めた割にさ、最初から挫けそうだったわ。」 アキラ:「多分さ、今ならあんな遠回りしなくても、お前に答えを与えられたのかなって思う。まぁ、俺が素直になれなかったっていうのも要因だけどさ。・・・自分の言葉で何かを伝えようとしなかった。一緒に生きてほしい。そんな単純な言葉が。お前は全部投げ捨てたかったんだろうけどさ。悪いな、なんやかんやで、俺は諦め悪かったみたいだわ。お前もたいがいだったけどさ」 アキラ:「あぁ・・・あいつも元気でやってるよ。めっちゃ手かかるわかわいくないわで、お前そっくり・・・って、あれ、どこいったんだ?」 0:墓地を見回してひとりの少女を見つける 少女:「・・・・」 アキラ:「おいお前、どこほっつき歩いてんだ。はぐれるから目の届く場所に・・・」 少女:「・・・・(ジト目で睨む)」 アキラ:「なんだその腹立つ顔・・・て、おいこらどこ行くんだよ、おい」  :   :  アキラ:「未来(みらい)!」  :   :  少女:「・・・パパ。いつも言ってるでしょ。わたしのことを呼ぶときは未来ちゃんかかわいい未来ちゃんかで呼んでって」 アキラ:「お前、そのくそかわいくないとこ母親そっくりだな」 少女:「・・・ん(手を差し出す)」 アキラ:「なんだよ、静電気攻撃か?」 少女:「パパどんかん!アホ!わかってないの!?」 アキラ:「あーはいはい、たっく・・・」  :  0:2人手を繋いで再びヒカリの墓地でお参りをする 0:(少しの間)  :  アキラ:「・・・ちゃんと挨拶できたか?」 少女:「・・・わたし、ママのことわかんないもん。わたしを産んだ時にそのまま死んじゃったって聞いたから。だから、なんて声をかけたらいいかわかんない」 アキラ:「・・・ありがとうでいいんだよ」 少女:「・・・何にたいしての「ありがとう」?」 アキラ:「お前が生きてることに対して。それだけでいいんだよ。うっし帰るか。ほれ」 少女:「ん」 0:2人手を繋いで墓地を後にする 少女:「ねぇパパ。ママって、どんな人だったの?」 アキラ:「あん?何回も説明しただろうが」 少女:「おしえて」 アキラ:「あー・・・お前のママはな。 アキラ:見た目可愛くて そんでそんな自分の可愛さを自覚してて あざとくて 悪戯好きで 小悪魔みたいなやつで 人のことおちょくって すぐへそ曲げて そんで 生きることを諦めかけた奴だった アキラ:でも お腹にお前がいるってわかって、じいちゃんばぁちゃん医者の静止も聞かずに絶対に産むって言い張って 産めなきゃ今すぐここで死ぬっていって病院中を大騒ぎさせて アキラ:この子を産んだら先輩もう一生逃げられないでしょとか怖いこと平気で言ってくるアホな女だった アキラ:でも それでも。 アキラ:誰かの迷惑になりたくないからって全部投げ捨てて 生きたいくせに死にたがりで アキラ:優しいからこそ 臆病で アキラ:きっと、そんな優しさみたいなのに俺は惚れて そして 最後の最後までお前を諦めなかった。お前の・・・お前と、俺の人生を照らしてくれた。・・・ママは、お前のママはな・・・」  :   :   :  アキラ:「俺とお前の ヒカリだよ」  :   :   :             終劇 : :