台本概要

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タイトル ほしのよ
作者名 空柄羽毛布団  (@lasolaton)
ジャンル ファンタジー
演者人数 4人用台本(女3、不問1) ※兼役あり
時間 90 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 「さよなら、私の一番星――」


現代。世界はプチ厄災期。
ゆるやかに しかし確実に。星は終わりの秒針を刻み始めていた
美船ノアは過去のある出来事からドブのような目から更生することなく、いつものように星空を眺めていた
視界の先 あの日見た光を目撃し 彼女は一目散にその光に駆け出す
そこにいたのは かつて無くした面影を持つ 一人の星の少女だった


「さって、星のお医者さんとして!、この星、救ってやりましょ」


親友を道連れに、瞳に星(かがやき)を取り戻した少女は、星を治す旅に出る
その先にある結末は、幸せな結末になどなりはしない
そんな運命を知らず ただまっすぐに
あの日無くした星影に ひたすらに 手を伸ばした 誰かの願いを叶える旅

注意事項
・・・
・上演時間目安 120分
・キャラクター性別変更 → 不可
・アドリブ → 世界観を壊さない程度のものならば
・演者の性別 → 「レイ」のみ演者性別不問

上演時間が長く とっつきにくい台本ですが、手にとっていただけるのならば幸いです


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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ノア 205 美船ノア。19歳。過去のとある出来事からドブのような眼から更生できずにいる。黙って立っていれば美少女。口から出るのは恨み言と世迷言。二輪免許所持。ジャンプ派。※ノアM兼ね役
ステラ 175 美幼女。舞える踊れるバリア張れる。愛くるしく神秘的なスターライトロリータ。※ステラMも兼ね役
ヒバリ 154 風間ヒバリ。19歳。ノアの幼馴染。なんやかんやでノアの世話を焼く。ドブのような性癖をもつ女。二輪免許所持。※ヒバリM兼ね役
レイ 不問 67 銀髪 切れ長の瞳。スラリと伸びた手足。人体の黄金比と比喩されるくらいの美少年。言動が厨二なので指からビームが出る。※レイM兼ね役
通信越しの声 13 きっと変わらず苦労人気質※ヒバリ役の方はこちらもタップしてください
ラジオの声 不問 2 アナログだけど必需品※レイ役の方はこちらもタップしてください
ほしのこえ 12 こんばんは、星の旅人さん※ノア役の方はこちらもタップしてください
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
ノア:美船ノア。19歳。過去のとある出来事からドブのような眼から更生できずにいる。黙って立っていれば美少女。口から出るのは恨み言と世迷言。二輪免許所持。ジャンプ派。※ノアM兼ね役 ステラ:美幼女。舞える踊れるバリア張れる。愛くるしく神秘的なスターライトロリータ。※ステラMも兼ね役 ヒバリ:風間ヒバリ。19歳。ノアの幼馴染。なんやかんやでノアの世話を焼く。将来の夢は災害調査隊。ドブのような性癖をもつ女。二輪免許所持。※ヒバリMも兼ね役 レイ:銀髪 切れ長の瞳。スラリと伸びた手足。人体の黄金比と比喩されるくらいの美少年。言動が厨二なので指からビームが出る。※レイM兼ね役 ラジオの声:アナログだけど必需品※レイ役の方はこちらもタップしてください 通信越しの声:苦労人気質※ヒバリ役の方はこちらもタップしてください ほしのこえ:こんばんは、星の旅人さん※ノア役の方はこちらもタップしてください  :   :  ☆  :   :  :   :  ☆  :   : 0:【本編】  :   : ノアM:『夢を、夢を見ていた。懐かしくも暖かな、でも朧気に消えゆくような、そんな夢だ。薄れゆく意識の底で、その夢の残骸をつかみ取る。かつて交わした約束。いつか還るべき場所へたどり着くための、私のピース。どれだけ時間が経ったとしても決して忘れることのできない。満天の、星空の―――』  :   :  ☆  :   : 0:【美船家】 ヒバリ:「おい、いつまでそんなふてくされた顔で外を見てるんだよ」 ノア:「外を見るのは私のいつもの日課でしょ。こうやって外を見ることで、改めて再認識してるのよ。世界がいかに残酷で、いかに淀んでいるかっていうことを」 ヒバリ:「この星がいろいろ災害続きなのは全世界の共通認識だろうが、淀んで見えるのはお前が勝手にフィルターかけてるだけだ」 ノア:「頼んでいた出前が来ない。宝くじはいつものように外れる。ジャンプはいつの間にか合併号。こうも不幸続きだと、お手軽にこの世界を呪いたくもなるわよ」 ヒバリ:「そんな手近な不幸で呪われたら世界もたまったもんじゃないわ。その淀んだドブのような目を少しでも改善したら多少はマシになるんじゃないか」 ノア:「馬鹿言わないでよ。直したくたって治らないのよ。この星空と同じよ。私の瞳と同じで淀んで―」 : 0:視界の先。森の一角で光を見つける : ノア:「…輝いた」 ヒバリ:「落ち着け。お前の目がそう簡単に輝かないのは私が保証してやる」 ノア:「ちっがう!そうじゃない!あれ!」 ヒバリ:「はぁ?…なんだ、あの光?流れ星…?いや、違う、地表から出てるような…」 ノア:「…あの光。…ッ(駆け出す)」 ヒバリ:「って、おい!ノア!」  :   :  :☆  :   : :【森の中 光に向かって走るノア】 : ノア:「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」 ノアM:『その光を見たとき駆け出してしまった。理由?わかんない。ただ、私はあの光を知っている。厳重にかけた記憶の箱が悲鳴をあげる。すべてを亡くしたあの日の記憶。ガタガタと脳内が騒がしい中、私は、再び、その光の前に立った』 ノア:「…はぁ…はぁ…って……おんな、のこ?」 0:光の粒子の前で立ち尽くすノアに、ヒバリが追いつく ヒバリ:「おい、わけがわかんないものにいきなり近づくなって…はぁ?なんだよ、これ?光の中に、女の子?」 0:光が徐々に収まり、その光を纏った少女が目の前のノアに倒れこむ ノア:「って、危ない!」 ノアM:『とっさにその少女を受け止めようと、私は両手を伸ばした。そして、目が合う。星のような、輝く瞳と。そして―』 ステラ:「…ただいま(消えうるようなか細い声)」 ノアM:『そんな、かつて無くした星影を、垣間見てしまった』 ヒバリ:「おい、大丈夫か?」 ノア:「ととっ…うん、ばっちりロリっ子はキープできた。…できたけど…」 ステラ:「すぅ…すぅ…」 ヒバリ:「おいおい…なんだよ、この女の子…」 ノア:「わかんないけど…でも、確信を持って言えることはあるよ。この子見てるとさ…人類がロリコンになるのも頷けるよね」 ヒバリ:「そんな戯言をこの状況でよく吐けるなお前!?」 : ノアM:『これが私たちと名前のないステラとの出会いだった。そしてこの時の私たちはまだ知らない。思っていたよりもこの星は、もう限界なのだということを。そして始まる、私たちの星を治す旅のお話。人生において瞬くくらい一瞬の、星を取り戻すおとぎばなし』  :   :   : 『ほしのよ』  :   :   :   : レイM:『名前のない星が宙(そら)から落ちた 世界はその星を受け止めた。終わりゆく世界の中で、どうか悲しまないようにと、暖かな手はそれを包んだ』 レイM:『名前のない星はふと、宙(そら)に還りたいと願い星空を見上げた。けれど、焼け焦げた翼で羽ばたくことはできず、さらに深く落ちていった』 レイM:『久遠(くおん)の海の中で、名前のない星は船を漕ぐ旅人に拾われた。飛び立つ理由は何故だったか。その理由を知らないまま、名前のない星は旅人と共に地表を目指す。星のまにまに。未来の見えない星の界(よ)へと』  :   :  ・  ☆ ・  :    :  :【3週間後 美船家】 ヒバリ:「ったくなんだよこの暑さは…。まぁ、まだ暑いくらいなら我慢はできるか。他所は水没した地域があったりだとかもまた聞くし…」 0:【チャイム そして、戸が開く音】 ステラ:「あ、ヒバリ。いらっしゃいませ(神々しい笑顔)」 ヒバリ:「うっ…くッ…!ド頭からこの笑顔はちょっと私の性癖に刺さるッ!」 ノア:「来て早々ドブみたいな性癖披露してんじゃないわよ。ほら、近づいちゃだめよ。よくないものが伝染(うつ)るから」 ステラ:「えっえっ?」 ヒバリ:「年中淀んだ目をしたお前に言われたくないっつーの。…例のモノ、調べてきてやったぞ」 ノア:「おーさっすがヒバリちゃーん!現代のジェバンニ!ステラ、ちょっと外しててくれない?」 ステラ:「うん、わかった。じゃあ書庫にいるね」 ヒバリ:「…ステラって、おまえ」 ノア:「(遮るように)名前がないと不便なだけよ。他意はないわ。…とりあえず上がって。」  :  ・  ☆ ・  :  ヒバリ:「いろいろ調べてきたよ。例の光の現象について。簡潔にまとめると、その光自体は日本だけでなく、全世界で目撃はされているみたいだ。女の子が出てきたっていう話はいまのところはないけどな」 ノア:「その割には、毎日のように聞かされる災害報道にはそんな光のこと言ってないけど」 ヒバリ:「原因不明の光なんだ。下手に報道して市民を煽るようなことを避けてるんじゃないかというのが私の推測。ま、SNS上を調べればそれなりの情報は出てきたよ。どれも私たちが見たのと同じで、いつの間にか消えていたっていうオチ付きでな」 ノア:「…その光ってさ、何年も前から目撃されてたの?」 ヒバリ:「目撃が多いのはここ近年だな。一番昔の情報がどこからかってのは調べられてない」 ノア:「…ふぅん、そ」 ヒバリ:「なんだよその反応」 ノア:「別に。で、ステラのことなんだけどさ」 ヒバリ:「そういえば、書庫にいくって言ってたけど。なにかわかったのか?あの子のこと」 ノア:「いーや、全然。自分のことは相変わらず何もわからないみたい。わかってるのは神々しいくらいに可愛いこと。あとは本に興味津々ってことね」 ヒバリ:「本?なんでまた?」 ノア:「さぁ?お父さんが遺した書物とかもよく読んでるわよ。本をほわ~て浮かせてすごい速度で?」 ヒバリ:「は?」 ノア:「いや、実際見てもらったほうが早いんだけどね…」 :   :  ☆「書庫」  :   :  ステラ:「えっと…星座の本は…一番上か。よっ…」 0:手をかざして上段にある書物を浮かせ書斎机に置く ステラ:「さっきまで見てた九州方面の観光ガイドはあそこに仕舞って…えい」 0:手をかざして書斎机にあったガイドブックをまとめて仕舞う ノア:「ね?」 ヒバリ:「いやいやいやいや、お前!?ね?で済ませるレベルじゃないだろこれ!?はぁ!?いや、なんでそんなお前冷静なんだよ!?どんな感性してんだよ!?」 ノア:「私もさ、最初見たときはさそりゃ驚いたけどさ。でもね、ある答えにたどり着いたのよ」 ヒバリ:「なんだよ答えって?」 ノア:「トリックよ」 ヒバリ:「それは現実逃避じゃねーか!ちゃんと現実を見ろ!その目で!」 ノア:「いきなり不可思議な現象見たらさ…トリックって言うしかなかったミスターサタンの気持ちがわかったわ私」 ヒバリ:「現代でそんな例えしやがったの多分お前が初めてだよ!?」 ステラ:「…あの、ヒバリ。その…ごめん、うるさい」 ヒバリ:「私か!?私が悪いのか!?」 ノア:「とりあえず一回冷静になりなさいよ。どう、ステラ。今日も読書は順調?」 ステラ:「うん。全部楽しいよ!知らないことがいっぱいだから!特にね、えっと、この「ボーテシップ旅行譚」ってシリーズがすっごくわかりやすくて面白いの!」 ノア:「あー…うん、そう言ってくれるときっと喜ぶよ、お父さんたち」 ステラ:「これ、ノアのお父さんが書いたの?」 ノア:「うん。あの人たち旅行が好きでね。いろんなとこ廻って自分で本出して。すごくキラキラした生き方してたのよ。ま、どっかの災害に巻き込まれて死んじゃったけど」 ステラ:「え…あ、ごめん」 ノア:「あー気にしなくていいわよ。あんたがそうやってその本を楽しんでるならきっと本望だろうから」 ステラ:「そうなんだ…。きっと素敵なお父さんだったんだね。だって、この本にさ、たくさん詰まってるもん!この世界のこと!でも…災害ってそんなに頻発してるの?」 ノア:「近年は特にね。この星の終わりだーとか言う連中も出る程度には。実際私も…いや、なんでもない」 ステラ:「…そうなんだ……。ん、ごめん。ちょっと眠たくなったから部屋、戻るね」 ノア:「え、あ。うん。おやすみ」 ステラ:「うん、おやすみ」 0:ステラ 2階の宛がわれた部屋に向かう ヒバリ:「…はぁ、わけわかんねー。そりゃまぁ、あの光の中から出てきたんだから何か得体は知れないと思ったけどよ…」 ノア:「うん…でも、楽しんでるなら、それでいいんじゃない?」 ヒバリ:「楽天家すぎだろ」 ノア:「だって…無くしたものが、また蘇ったみたいだし(小声で)」 ヒバリ:「…ノア、お前」 ノア:「あー…晩御飯、食べていくでしょ?昨日のカレーがまだ残ってるから、それでよければだけど」 ヒバリ:「…あぁ」   :  0:【2階 ステラの自室】  :  ステラ:「ん…うん…」 レイM:「この星はもうすぐ終わりを迎える。だから、俺たちがなんとかしなきゃいけないんだ」 ステラ:「いやだ…私は…」 レイM:「時間はかかるかもしれない。それでも、この星を延命させるにはそれしかない」 ステラ:「私は…」 レイM:「それが、俺たち、星の――」 ステラ:「この目で…見てみたいよ…この星のことを――だから…」 :    :  :    :  ヒバリ:「めちゃくちゃ甘いなこのカレー」 ノア:「そりゃあの子用に甘くしたのよ。でもいい味出てると思うわよ。ヨーグルトたっぷり入れたし」 ヒバリ:「で、なんでこんにゃく入ってるんだお前のカレー?」 ノア:「え?入れるでしょ普通」 0:ドカンと、外から大きな音が響く ノア:「はぁ!?カレーにこんにゃく入れたからっていきなりそんな音出さないでよ!」 ヒバリ:「あたしからじゃねぇよ!外からだ!…あの光!?」 ノア:「前の光よりも、大きい…。って、はぁ!?」 ヒバリ:「今度はなんだよ!?」 ノア:「ステラが…なんか、2階の窓から暗雲の空を切り裂くように箒星になって飛んでいったんだけど…」 ヒバリ:「なんでちょっと表現がポエムなんだよ!?まっすぐ、あの光の方に向かってるのか!?」 ノア:「ッ!いかなきゃ!」 ヒバリ:「おい!前とは状況が違うんだぞ!?なにかあったら」 ノア:「(遮って)何かあってからじゃ遅いでしょ!あの子に何かあったらどうすんのよ!?」 ヒバリ:「おい!ノア!…くっそ、どんだけ入れ込んでるんだよ…!」   :  【山中 光を纏ったステラが降り立つ】 ステラ:「…聞こえた。呼ぶ声…星の声…わたし…わたしは…」 レイ:「見つけたぞ」 ステラ:「!?」 レイ:「まさか星の傷痕(スタークレーネ)に巻き込まれて地表に出ているとは思わなかった。戻るぞ。事態は一刻を争う」 ステラ:「すたー…くれーね?星の…傷跡…。…私は…」 レイ:「わかっていないのか?思い出せ、自分のことを。お前はここにいるべき存在ではない」 ステラ:「私…思い出した…私は…私は星の…」 ノア:「ステラ!!!!!」 ステラ:「…の、あ?」 0:ステラの手を引き寄せる ノア:「はぁ…はぁ…追いついた…あんた、いきなり飛び出すんじゃないわよ…ていうか物理的に飛ぶんじゃないわよ…武空術なんて初めて見たわよ…」 ステラ:「ノア…私は…」 ヒバリ:「はぁ…はぁ…おい、なんなんだよ、この、状況…(レイと目が合う)」 レイ:「?」 ヒバリ:「…ノア、気づいたか?」 ノア:「は?なにがよ?」 ヒバリ:「あの男…黒フード、銀髪、切れ長の赤い猫目の中性系美形…どちゃくそ私の好みだわ」 ノア:「こんなシーンで性癖晒してるんじゃないわよ!」 レイ:「…地表の人間か。…人間?いや、構わない。些事(さじ)たることだ。その娘をこちらに渡せ。それはお前たちでは扱えない存在だ。」 ステラ:「…(ノアの裾を握る)」 ノア:「…お生憎様。こんなに怖がっているロリっ子を事情も知らずに渡せるかっての。なによあんた?同類?」 ヒバリ:「人に性癖晒すなって言っておきながらお前も晒してるじゃねーか」 レイ:「答える義務はない。それに、お前たち人間には知る必要もないことだ。いいからその娘を渡せ。この世界を終わらせたくなければな」 ノア:「はぁ?いきなり世界がどうとかオサレな話するんじゃないわよ。それに…」 ステラ:「…ごめんなさい。ノア。私、いかなきゃ…」 ノア:「ステラ?」 ステラ:「…いかなきゃいけないの。ごめんなさい。事情を話しても、きっとわからないと思う。だから…いかなきゃ…」 ノア:「…理由があるなら、それでもいいけどね。でもあんた、怯えたような目でそんなこと言ったって、はいそうですかなんて私が納得できると思う?」 ステラ:「ノア…」 レイ:「茶番はいい。事態は急を要する。素直に事が運べないのならば…(スっと指を構える)」 ステラ:「!?やめて!!!!」 0:レイの指から出たビームをステラが障壁のようなもので弾く ヒバリ:「っ!?おいおい、浮遊の次はビームかよ!?」 ノア:「いきなりレイガンぶっ放してくるとかどういう神経してるのよあの美形!」 ステラ:「…やめて。この人たちに手を出さないで。」 レイ:「お前が素直に来れば俺もこんな手段はとらない。なにがお前を躊躇させる。時間がないのはお前もわかっているだろう」 ステラ:「わかってる…私が戻らなきゃいけないということも…でも、なにかが、叫んでいるの。この胸の中にある何かが。私は…本来ここにいちゃいけないということはわかってる…でも…」 レイ:「そんな人間のような感情は切り捨てろ。お前は自分のエゴでこの星を死なすつもりか?…そこのドブのような女」 ノア:「なによ、それは私の目のこと?それともこいつの性癖のこと?」 ヒバリ:「さらりと人の癖(へき)をドブ扱いすんな!」 レイ:「前者だドあほう。この星を延命させるためにはそいつの力が必要だ。だが…お前は…お前の中には…」 ノア:「?」 0:その時、ノアたちが対峙している地表から光があふれ出し地表が割れる レイ:「くっ…!!星の傷痕(スタークレーネ)がこんな時に…!!」 ノア:「う、わ…」 ノアM:『光を見た』 :―――割れた地表にノアとレイが巻き込まれる ヒバリ:「ノア!?」 ノアM:『光を見た。私を包み込む光を見た。」 ステラ:「ノア!!」 ノアM:「必死に手を伸ばすあの子の手をとる。子供とは思えない力で引き上げられる。」 ステラ:「座標を固定!防壁テクスチャを地表に定着!星の血脈を縫合!星蓋(プロテクト)!!」 ノアM:「不思議な力でその光は地表に押し込められた。でも同時に間近で見たあの光を見て私は―――」 ステラ:「ノア!しっかりして!」 ヒバリ:「落ち着けステラ!またなにが起きるかわからない!とにかく、こいつを運ぶぞ!」 ノアM:「懐かしいなんて、そんな場違いな感情を持っていた―――」  :  【???】  :  レイ:「…まさかクレーネに巻き込まれるとはな。完全にプロテクトされてここからまた顕現することは不可能か。別のルートを探すしかない。…俺たちの胸の中にある、この暖かなモノ…お前は…」  :   : ステラM:「名前のない星は旅を続ける。くらいくらい星の海を漂う旅。なぜ、旅に出たいと思ったのだろう。なぜ、この星を見たいと思ったのだろう。還るべき場所はわかったというのに。それでも。この胸の内にある、この灯(ともしび)の名前を。私は、まだ知らない。この気持ちを、なんと言うんだろう―――」  :  : 0:【美船家 自室】  :   : ノア:「…んぁ?…知らない天井だ。…嘘だわ。いつもの天井だったわ」 ヒバリ:「寝起きの第一声がそれなら大丈夫そうだな」 ノア:「…ん。え、ヒバリ。まさかここまで運んでくれたの?」 ヒバリ:「そんな体力あたしにはねーよ。この子が力使ってここまで運んでくれた」 ステラ:「すぅ…すぅ…」 ノア:「私のステラによくないものが伝染(うつ)るから膝枕なんてしないでくれない?」 ヒバリ:「はっ倒すぞお前?」 ステラ:「あ…ノア。起きたんだ。よかった」 ノア:「うん、あんたが護ってくれたおかげでね。ありがとね」 ステラ:「ううん。ノアが無事でほんとによかった(神々しい笑顔)」 ノア:「ッスゥゥゥ―――」 ヒバリ:「神々しい笑顔を噛みしめるのは勝手だがな。お前が起きたのならちょうどいい。ステラ。話してくれないか。お前のこと。あの男のこと」 ステラ:「…うん。まず、ごめんなさい。私の事情に2人を巻き込んでしまって。ノア、私ね、全部思い出したの。私は、星の調停者。この星の崩壊を防ぐための延命装置」 ノア:「調停者?延命装置?」 ヒバリ:「そこを詳しく聞いたらまたわけわかんなくなりそうだな…。悪い、続きを頼む」 ステラ:「いま、世界規模で災害が起きてるのは2人は知ってると思う。それは、星脈(せいみゃく)の劣化によるもの。星脈はすべての地表を支えている大地の根。人の体で言うなら血管みたいなもの。でもここ数年でその星脈が劣化して星の血があふれ出している。それが、あの光」 ヒバリ:「あの男が「星の傷痕(スタークレーネ)」って呼んでたやつか。血管が切れて星の血が流出してるのか」 ステラ:「うん。この星はね、長い時を生きすぎた。星が生まれて46億年。この星に大地が生まれ人間が生まれ、その歴史を紡いできた。でもね、星は永遠ではない。万物にはすべて終わりがある。この星も例外じゃない。だから、終わりを迎えようとしている」 ステラ:「終わりを迎える過程で、星脈は溢れ、この星全体の環境が乱れ、徐々に星は衰えていく。世界はいま厄災期といってもいい。ここ数年各地で災害が続いているのはその影響なの」 ノア:「…なるほど、セカオワでドラゲナイっていうことまではわかった」 ヒバリ:「つまりわかってないってことだな」 ノア:「セカオワであることに変わりはないでしょ。でも、ステラがさっきやったみたいに、それを治すことはできるんじゃないの?」 ステラ:「…うん。これは、星の延命のための力。わたしはクレーネに対してその流出を防ぐことができる」 ノア:「人間で言うならカサブタみたいなもの?」 ヒバリ:「まぁ間違ってはないだろうな。ただ、あの男はお前を連れ帰ろうとしていた。あいつもお前と同じ調停者なのか?調停者であるなら、なんでお前を連れ帰ろうとする?」 ステラ:「…それは」 ノア:「…小難しいことはヒバリに任せるけどさ、あんたはあいつと帰ることを拒んでいた。なにか事情があるんじゃないの?」 ステラ:「…正直に言うとね。どうしてそんなことをしたのかはわからないの。でも…まだ、帰れない。そう思った。だから、ノアが寝てる間に、その理由を探していたの。でね…言いにくいんだけど…その…」 ノア:「なによ、ここまできたら一蓮托生でしょ。遠慮せずに言いなさいよ」 ステラ:「…現存するクレーネの数から考えると…近いうちに、日本は沈んじゃう」 ノア:「へ?」 ステラ:「本来クレーネが同時に流出しないように私たちが星の内側で活動してるんだけど…いま、日本でクレーネが同時に7つ流出してるの。地表で流出しているクレーネを修復するのは星の内側からだとどうしても時間がかかってしまう。日本は小さな島国だし、その影響を甚大に受ける。だからこのままだと…」 ノア:「mis〇no…」 ヒバリ:「デイ・アフター・トゥモローだろ。しかも映画の内容と微妙に違うわ今の話。…普段は信じられないようなオカルト話なんだが、否定するにはいろんなもの見すぎちまった」 ステラ:「…お願いがあるの。2人とも」 ヒバリ:「…おい、まさか」 ステラ:「私は…2人がいるこの国を守りたい。私が外から流出を止めればまだ日本は助かるかもしれない。だから…私を、そこに連れて行ってくれませんか」  :   :  ヒバリ:「…とんでもない話になっちまったな」 ノア:「あの子は?」 ヒバリ:「寝てるよ。力を使ったらどうにも眠ってしまうみたいだ。…で、どうするんだよ?はっきり言うけど、私たち2人が抱えられる事情じゃないぞ?」 ノア:「だからと言って協力拒んだら、あの子は一人で行っちゃうでしょ。そもそも、セカオワな話聞かされてるのに私たちじゃ抱えきれませんーて投げ捨てたらさ、あの子悲しんじゃうでしょ」 ヒバリ:「冷静に考えろよ。私たちは人間だ。あの子とは違う。クレーネの発生場所はざっと聞いた限りでも全国だ。日本だっていま不安定だし。道中なにが起きるかわかったもんじゃない。」 ノア:「ま、交通機関とかも一部マヒしたまんまとかも聞くしね」 ヒバリ:「もしかしたら、思ったほど事態は簡単で、あの子じゃなくても他の調停者ってのが勝手に治してくれるかもしれない」 ノア:「でもさー…そんな感じで星が終わるか日本が終わるかどうかって話を聞かされてさ。ここでぼーっといつもみたいに過ごしてさ。いま星が頑張ってるんだろうなーとか、あの子がきっと頑張ってるんだろうなーとか、ここで呑気にカレー食べながら考えるのよ。きっとさ、私耐えられないよ」 ノア:「世界なんて正直ずっと呪ってたけどさ、自分が行動することでなにかができるかもしれない。この淀んだ星で、何かを見つけられるかもしれない。そう思ったらさ、きっと私は歩みを止めない、って思うよ」 ヒバリ:「…あの男のようなのがまた現れて、ビーム出してくるかもしれないぞ?」 ノア:「そこはさ、肉壁(ともだち)がいるじゃん?」 ヒバリ:「肉壁にともだちってルビ振るのやめろし。まぁ、答えなんか聞かなくてもお前の顔見ればわかるよ。」 ノア:「は?」 ヒバリ:「鏡見てみろよ」 ノア:「今日も美少女ね」 ヒバリ:「そこじゃねぇよ。…久々に見たよ。お前の目にさ、星(かがやき)があるのをみるの」 ノア:「おー…ほんとだ。少女漫画に負けないくらい煌めいてるわ」 ヒバリ:「そのくらい、あの子が大事か?」 ノア:「超大事。たった3週間。そもそも人間じゃない。でもね、淀んだ私の世界に生まれた、家族だもの」 ヒバリ:「…そうかよ。はー!くっそ腹立つ。マジでむかつく。マジで殴りたい。道中なんかあったら恨むからなお前!」 ノア:「ふふん、ありがとヒバリ」 ヒバリ:「いいよ、腐れ縁だ。一回家戻るよ。あと野営道具とか、どうせお前もってないだろ」 ノア:「私の幼馴染が有能すぎて怖い件について」 ヒバリ:「一昔前のラノベか。交通機関が正常に機能してるかわからない。移動手段はバイクになるだろうし、お前も手入れしとけよ」 ノア:「うん…ほんと、ありがとね」  :  ☆【美船家 ガレージ】  :  0:ガラガラとシャッターを開ける音 サイドカー付きの赤い二輪車が置いてある ノア:「…お父さん、お母さん。ごめんね、お父さんたちの愛車、ちょっと借りるけどいいよね。私ね、旅に出るよ。きっと叶えることはないと思ったけど、人生なにが起きるかわかったもんじゃないなー。…うん、大丈夫。きっと、お父さんたちが大好きだったこの星を、守って見せるから。だから、力を貸してね。あの子の夢も、私が持っていくから」  :  「翌日」  :  ヒバリ:「クレーネのはっきりした場所はわかんないが、ステラ曰く、一番最南は熊本あたりからだな」 ノア:「お、いいじゃん!温泉入ろう温泉!」 ヒバリ:「やってるかどうかわかんねぇよ。で、九州地方に2か所。西側に2か所。中部中央付近に1か所。東側に2か所。いまのところはこれくらいか」 ステラ:「もしかしたら新しいクレーネが生まれるかもしれないけど、基本的には近場で発生すると思うからそのたびに私が探知はできると思う」 ノア:「ま、南にいるときに最北であふれ出たー!とか言われてもどうしようもできないんだけどね。とりあえずその七か所、ちゃちゃっと塞ぎにいきましょ」 ステラ:「でも、いいの2人とも?…安全とは言えない旅になるかもしれない。なにが起きるかわからない危険な旅になるかもしれな…わ!(がぽっとヘルメットを被せられる)」 ノア:「いいのよ、旅に危険は付き物。それにね、あんただってあんなに目を輝かせてお父さんの本読んでたでしょ?むしろさ、わくわくしない?」 ステラ:「それは…うん、不謹慎だけどね、すごく…すごく楽しみ!」 ノア:「そーゆーこと!だから、お姉ちゃんに任せなさい!」 ステラ:「え?ノアは私のお姉ちゃんじゃないよ?」 ノア:「細かいことはいいっこなし!さって!星のお医者さんとして、この星、救ってやりましょ!」  :  バイク2台がエンジンを上げ、勢いよく飛び出していく  :  レイ:「…行ったか。不測の事態だが…今は、この束の間の奇跡を楽しんでこい。だが、忘れるな。その先に待っているのは、結局は別れだということを」  :   :  レイM:「名前のない星は旅人とともに船を漕ぐ。理由を偽った虚飾の旅。星の明日を救う旅。どこまでも淀んだ星の海を進んでいく。無窮(むきゅう)の遠(おち)に 沈んでいく」  :  ステラM:「きっと、私にいつか罰は下る。でも、いまはこの胸の暖かなもののために進みたい。あなたと共に、叶えたい。だから どうかこの時だけは。イマという一瞬を その永遠を 私にください」  :   :   :   :  ☆1か月後 日本中央 星の傷痕発生地点 5か所目   :  ステラ:「座標を固定。防壁テクスチャを地表に定着。星の血脈を縫合。星蓋(プロテクト)。…ふぅ、おしまい」 ノア:「お疲れさま。これでこの地域の災害もちょっとは収まるかしら?」 ステラ:「うん、少し時間はかかるかもだけど…あ」 ノア:「おっとと、大丈夫?力を使ったあとはこんな感じで倒れかけるんだから。よっと(ステラをおぶる)」 ステラ:「ん、ありがとうノア」 ノア:「お安い御用。さて、ヒバリが野営の準備してくれてるだろうし、さっさと戻りましょ」 : ノアM:「旅に出て、ひと月と少し。世界は思ったより広くって 世界は思ったより酷かった」 ヒバリM:「地震の影響で崩れた塔を見た。真っ二つに割れた大橋を見た。今も氾濫(はんらん)したままの湖を見た。ずっと避難所生活の人たちを見た。今も、苦しんでいる人たちを見た」 ノアM:「ほんの僅かな、一部の地域だけかもしれない。いろいろな報道がされていたのに、その危機感を私たちは持っていなかった。自分たちの周りは、それなりに安全だったから」 ヒバリM:「星の終わりだなんて大袈裟だと思っていた。でも、そこにいる人たちにとって地獄は確かに存在した」 ノアM:「この旅は、日本を、星を救う旅なんだと。淀んだ現実を強く突きつけられた気がした」 : ノア:「はーい到着ー。ママ―ご飯まだー?」 ステラ:「ママ―。もうレトルトのカレー飽きたー」 ヒバリ:「はっ倒すぞお前ら。飯の準備してるからちょっと待ってろ」 ステラ:「よっと(背中から降りる)。いつもありがとうヒバリ。それで、いま何を作ってるの?」 ヒバリ:「この地域の人に野菜貰ったからな。いまそれでホイル焼き作ってるよ」 ノア:「なんでそんな手間のかかるものを…」 ヒバリ:「なんか言ったか?」 ノア:「何でもないわよ、よいしょっと…はぁー夜になる前に終えられたよかったわ」 ステラ:「どうして?」 ノア:「夜道が怖いっていうのもあるけどね、ここってね、日本で一番綺麗に星が見えるところがあるのよ」 ステラ:「星が奇麗に…?もしかして、「星見の丘」?「ボーテシップ旅行譚」にも書いてあった!」 ノア:「お父さんたちがそれを書いたってことはそうとう奇麗なんでしょうねー。ご飯までまだ時間はありそうだしさ、一緒に見に行かない?」 ステラ:「いきたい!」 ヒバリ:「さらりとのけ者にされてるのは釈然としないが…まぁいいや。いってこいよ。30分もあれば一通りできると思うし」 ノア:「ありがと、ヒバリママ(淀んだ笑顔)」 ヒバリ:「熱したホイル顔面にぶつけるぞ」 ステラ:「ありがと、ヒバリママ(神々しい笑顔)」 ヒバリ:「唐突に神々しい笑顔でこっち見るのやめろ。血圧上がりそうになる」 ノア:「じゃ、よろしくねヒバリ。いくよ、ステラ」 ステラ:「うん!」 : 0:☆2人 野営場を離れる : ヒバリ:「ったく、仲良しかよあいつら…ずっと淀んだ眼してたくせに、キラキラさせやがって…あたしじゃ、できなかったことを。…はぁーまずい…私、幼女に嫉妬しちゃってる……調べものするか…」 0:タブレットを開き災害速報を見る ヒバリ:「クレーネ発生地点近辺が特に被災状況がひどかった。私たちが蓋をする直前まで地震が続いていた場所もあった。クレーネの発生と災害の酷さがイコールなのは間違いない。現に、最初に蓋をした熊本付近はそれ以降大きな災害は起きていないようだし」 ヒバリ:「全部のクレーネを閉じれば日本が助かるってのは本当の話なんだろ…だけど…国外の状況が、私たちが旅を始めたあたりから少しずつだが酷くなっている。星の治療が間に合っていない?他の調停者ってのはなにをやっているんだ…?…もしかして……ッ!?」 0:咄嗟に後ろを振り向き背後にいたレイと対面し彼の構えた指を抑える レイ:「よく気づいたな。気配は完全に消していたつもりだったが」 ヒバリ:「あたしの自意識の高さを舐めるなよ?いついかなる時でも人の視線に敏感なんだよ。何か噂してるんじゃないと…あ、ちょっと待って顔面が凶器だからちょっと待ってやばい」 レイ:「ドブのような性癖を仕舞え。あと、俺の指をいつまでトングで抑えているんだ正直熱い」 ヒバリ:「あんたが音もなく近づいてくるからでしょうが…ふぅ…よし、耐性できた…これで直視できる」 レイ:「…なるほど、これが「おもしれぇ女」というやつか」 ヒバリ:「どこで覚えてくるんだよその偏った知識」 レイ:「今の俺にお前たちをどうこうしようという敵意はない。懐疑(かいぎ)するのは当然だが今はこのトングを仕舞え」 0:トングが離れ レイ ヒバリの隣の椅子に座る ヒバリ:「…どういう風の吹き回しだよ。あんた、あの子を連れ帰るんじゃなかったの」 レイ:「事情は変わっていない。だが、心境が変わった。あの子がそれを望むならそれでいい。僅かだがまだ猶予はあるだろうしな。…ステラ、と名付けたそうだな。」 ヒバリ:「あーまぁ、あいつが勝手につけた名前だけどな」 レイ:「名前はそいつにとっての「しるし」だ。名付けて損はない。交流をするのであれば尚更な」 ヒバリ:「…で、あんた何をしに来たんだよ」 レイ:「…ふむ。ずっと「あんた」呼ばわりされるのも不快だな。俺も地表にいる間は何か名前を付けておこう。ここに現れる前に立ち寄ったラーメン屋でアニメの再放送をしていた。そこからとるとしよう」 ヒバリ:「さらりと超常存在がラーメン屋に立ち寄ってるっていう情報をカミングアウトするなよ」 レイ:「とりあえず俺のことは「シャイニング・レイ・ポチョムキン2世」と呼んでくれ」 ヒバリ:「くっっっっそださい厨二ネームを真顔で言い放つな!ギャップがありすぎて寒気がするわ!」 レイ:「長いか?」 ヒバリ:「長さの問題じゃねーよ!私だったらその名前を名乗るくらいなら死を選ぶわ!」 レイ:「そこまで不評なら仕方がないな。わかった。単語をひとつとって「ポチョムキン」と名乗ることにしよう」 ヒバリ:「なんで一番とっちゃいけないところをとるんだよ!?それ名乗るくらいなら「レイ」って名乗っとけ!」 レイ:「ふむ。短いしシンプルだしそれでいい」 ヒバリ:「くっそ、余計なカロリーを使わせるなよ…ただでさえ顔面凶器がそばにいて情緒が不安定だってのに…!」 レイ:「…あの子は、この旅を楽しんでいるか?」 ヒバリ:「はぁ?…まぁ、楽しんでるよ、間違いなく。星がこんな状況じゃなければ、全国どころか世界旅行に行きたいって言いそうなくらいにはな」 レイ:「そうか。それならいい。起こることのなかった奇跡だ。本来俺たちのような存在は地表に顕現することはないのだからな」 ヒバリ:「…どういうことだよ、それ?」 レイ:「発生したクレーネの修復は星の内側から修復はできる。そもそも、わざわざ地表に顕現し蓋をするのは非効率だ。再発を防ぐ確実な方法ではある。だが、それでは間に合わない。俺たちのこの力は無限ではない。ひとつひとつ蓋をしている間に、この星は終わるだろう」 レイ:「だから俺たちは「発生」するクレーネに目を瞑り、星脈の蘇生と再製の力を増幅するサイクルを作った。時間はかかるだろうが、災害が完全に収まり再び星が息吹を取り戻す。その過程で、流出は沈静化するだろう。その間に発生するだろう犠牲に目を瞑ってな」 ヒバリ:「ちょっと待てよ!?それじゃ、私たちがやってることは無駄なのかよ!?」 レイ:「そんなことはない。少なくともこのまま全ての流出を防げば日本は消滅しないだろう。だが、問題はそこじゃない」 レイ:「力を持ったあの子が此処にいる。それが星の寿命を縮める行為なんだ」  :  0:☆星見の丘 手を繋いだ2人が丘を登る  :  ノア:「ー♪(鼻歌)」 ステラ:「それ、なんて歌?」 ノア:「曲名なんてないよ。昔から気まぐれで歌ってるだけ」 ステラ:「うん。でもね、なんだか。懐かしいなって、そう思って」 ノア:「なにそれ?変なの…っと、着いたよ」  :  ステラ:「…まだ、星、見えないね」 ノア:「…今の時期だったら、そろそろ見えるころよ。ほら、よく見てみなさい」 ステラ:「…?なんだろ、あそこだけ光ってる?」 ノア:「そ、一番星。宵の明星なんても呼ばれてる。一番最初に見える星。一番最初に輝く星。そして、星々が煌めきだしてね…」  :   :  夕刻から夜になり、満天の星空が2人の見つめる空を覆う  :   :  ステラ:「…すごい。すごい!すごい!すごーい!!まるで、一番星に連鎖するみたいに!どんどん星々が輝いていってる!」 ノア:「星脈の乱れが原因か何かはわからないけどね、こんな風に一気に姿を現すようになったの。何もない暗闇から、星の空に様変わり。満天の、星の界(よ)…、お父さんたちも、見たんだね。この世界を、この場所で」 ステラ:「きっと、ノアのお父さんたちもこんな感じで見惚れてたのかな?だって、一番綺麗に見えるところって書いてた。それくらい!特別だったんだよ!」 ノア:「特別…特別、か」 0:ステラを見つめるノア ノア:「私にとっての一番星はあんたかもね」 ステラ:「どういうこと?」 ノア:「私さ、ずーとこの世界を淀んだ眼で恨んでた。家族を奪ったこの世界が憎かった。でも、どうすることもできなかったから、ずっと不貞腐れてた。ヒバリにもいろいろ迷惑かけた。でもね、ステラに会えた。日本が、星が今危ない状況だってのね、私さ。ステラといる時間が楽しいんだ。不謹慎だけどね」 ノア:「この旅が終わっても、ずっと一緒にいたい。そうすれば、私はこの星(かがやき)をもう失わなくていいって思ってる。私にその星(かがやき)を取り戻させてくれたのはさ、間違いなくあんたの存在だよ」 ノア:「星をどうにかしなきゃってのはわかってる。でもさ、私はステラとこれからも一緒にいたいよ」 ステラ:「ノア…」 ノア:「なんだったらさ、日本を救ったあとはさ、お父さんみたいに世界中を回りながらクレーネの修復しようよ!うん、ヒバリも道連れにしてさ!」 ステラ:「ノア」 ノア:「そうすればさ、もう、何も失わなくてすむもん」 ステラ:「(遮って)ノア!!!」 0:静寂 ノア:「え…なに…?」 ステラ:「…ごめんね、大きい声だして。でもね、ノアのその願いは、私きっと聞けないよ」 ノア:「え?」 ステラ:「…今、私がここにいるのはね、本当はダメなことなの。本来なら1秒でも早く、この星のために還らなきゃいけない」 ノア:「ちょっと、まってよ…なんで?」 ステラ:「私ね、嘘をついた。私が星に還れば、日本は沈むことはない。いまよりも災害の状況はひどくなって犠牲はでるかもしれない。でも、時間をかければ最悪の事態だけは避けれる。だけど、私はそれを拒絶した。ノアとヒバリがいるこの国を、早く助けたかった。たとえ、星全体が被害にあったとしても」 ノア:「…は?」 ステラ:「この旅はね、嘘つきの私の旅。私の胸のうちにある暖かなこの気持ちに抗わなかった愚かな逃避行。いまのこの時間は、世界を犠牲にした、私のわがままな時間なの」 ノア:「なんで、そんなことを…」 ステラ:「…この気持ちを、なんて言うんだろう。人じゃない、「現象(システム)」である私が、こんなアバターを作り、あなたたちと旅をしたいと思った。この胸にある何かが、そうさせた。そう、させてしまった」 ステラ:「だから、この旅を終えれば、私は罰を受ける。きっと、未来永劫顕現することはない。奇跡は、もう起きない。この星の息吹を取り戻すまで、ずっと眠り続けなきゃいけない」 ステラ:「これはぜったいに破っちゃいけないこと。私が星の内側から抜けたことでいま星全体が不安定になってる。だから、最後のクレーネを閉じると同時に、私は星の海に還るよ」 ノア:「ちょっと…ちょっと待ってよ!?どうして、あんたがそんなことしなきゃいけないのよ…」  :   :   :  レイ:「単純な算数の問題だ。通常100の力で星を支えなければならないものを、あの子が抜けたことで50の力で支えているのが現状だ。100の俺たちが総動員しても星の流血が早すぎて対応が遅れているんだ。いま世界で災害の比率が高まるのは必然だ」」 ヒバリ:「あの子は…それをわかっているんだろう?だったらなんでそんなことを…」 レイ:「最初は俺もわからなかった。だが、今ならわかるよ。確かに俺たちの中にあるんだ。この目で、この星を見てみたいという強い意思が」 ヒバリ:「意思?なんでそんなもんがあるんだよ。あんた達のことなんざ何も知らないが、少なくとも星が生まれてからずっと存在するんだろ?なんで今更」 レイ:「違うな。俺たちは「現象(システム)」だ。本来こんな風に人間のアバターを形成し、外に顕現するなんていうことはない。だが、10年程前か。俺たちにそうした自我というものが目覚めたのは」 ヒバリ:「…どういう意味だよ?」 レイ:「丁度最初のクレーネが形成され、世界で災害が頻発するようになった時期だ。星のバグか、それとも別の原因か。俺たちはなぜか芽生えた自我を形成しこの星を見守っていた。役目自体に変わりはない。この星の流血を防ぎ世界を護る。俺たちにしかできない「使命(オーダー)」であり、俺たち星の力を持つ存在でしか対抗できない」 ヒバリ:「10年前…」 レイ:「だからこそ、あの子の「この星を見てみたい」という意思を尊重しつつ、ほかの力を持つ存在が今も奔走している。犠牲がこれ以上広がらないようにしているが時間の問題だ。だから、最後のクレーネの修復が終わり次第あの子は星に還ることになる。それだけを伝えに来た」 ヒバリ:「……」 レイ:「本来俺たちは此処に居てはならない存在だ。この別れを気にする必要はない。だが、もしも思い入れがあるならば、覚悟をしておけ。予言してやる。お前たちの旅に、幸せな終わりは訪れない」  :   :   :  ステラ:「この星に還ることは、どうあがいたって変えられない。だから、気にしないでノア。日本を見てまわるってだけでも、私には奇跡みたいなものだったから」 ノア:「………」 ステラ:「この胸にある暖かな何かは、きっとこの奇跡に喜んでいる。いろんな場所を回れた。この星空を見れた。そんな奇跡を、きっと」 ノア:「…あんたは、それでいいの?」 ステラ:「ノア?」 ノア:「あんたはそれで本当にいいの!?だって、奇跡なんでしょ!?いまここに在(あ)るってこと自体が奇跡なんでしょ!?星に還ったら…あんたはもうこんな風に世界を見て回れないんだよ!?」 ステラ:「ノア…」 ノア:「その奇跡を…いまここにある命を!そうやって投げ捨てるの!?あんたがいなくたって、世界は治るかもしれないんでしょ!?だったら…」 ステラ:「(遮って)できないよ。それだけは、できない。これは、私がやらなきゃならない「運命(オーダー)」だもん。だから、還るよ。この星に。…気にすることないよ、ノア。私みたいな存在は、本来ここにいちゃいけないの。だから、全部が元に戻るだけ」 ノアM:『あの子の言葉が頭に入ってこない。どうにかして、あの子を引き留めたいのに。どうして?…どうして、また失うの?どうして、また、傷つかなきゃいけないの?』 ステラ:「日本を救って、そのあとに世界を救ってみせるから。だから…待っててね」 ノアM:『そんなキラキラした星みたいな笑顔に、何も私は告げられない。その煌めいた生き方を、私は否定できない。…あぁ、世界は。やっぱりどこまでいっても優しくない。どこまでも、どこまでも、星の見えない、淀んだ世界に墜ちていく」  :   :   :   :  ヒバリ:「………遅かったな」 ノア:「……うん」 ヒバリ:「どうした、また目がドブみたいに濁ってるぞ」 ノア:「…別にいいでしょ」 ヒバリ:「…先に帰ってきたあの子はもう寝てるよ」 ノア:「…そう」 0:焚火の前で2人黙る ヒバリ:「…覚悟は、決まったのかよ?」 ノア:「…なんの話よ」 ヒバリ:「あの子と別れる覚悟だよ」 ノア:「…あの子が、話したの?」 ヒバリ:「いや、あの時の男。さっきまで話してた」 ノア:「…できてるわけないじゃん」 ヒバリ:「…だったら、最後のクレーネまでには覚悟は決めておけよ。ため込んでたって、後がつらくなるだけだからな」 ノア:「…あんたなんでそんな簡単に割り切れるのよ」 ヒバリ:「…あの子は本来此処に居るべきじゃないってわかってるからだよ」 ノア:「…は?」 0:ノア ヒバリの胸倉をつかむ ヒバリ:「ッ…なんだよ?」 ノア:「じゃあ何?あの子が、ずっともう外に出られなくなったっていいってわけ!?」 ヒバリ:「本来あるべきモノに戻るだけだろうが」 ノア:「あんた、なんでそんな薄情なのよ!?あの子とこの旅を楽しんでたでしょ?なんでそんな簡単に切り捨てられるのよ!?」 ヒバリ:「だったらお前は星がこのままでもいいって言うのかよ!?今も世界的に災害は多発してんだぞ?」 ノア:「あの子がいなくたって星は治るんでしょ!?そりゃ、星が治る速さは遅くなるかもだけど、だったら」 0:ヒバリ ノアの胸倉をつかみ返す ヒバリ:「…お前、それ本気で言ってるのか?」 ノア:「…ッ、なによ…」 ヒバリ:「お前だって見てきただろ!?今この瞬間にも、災害で苦しんでる人たちがいるんだぞ!?日本だけじゃない、この星全部でだ!お前はいまも苦しんでる人たちに、いつか星は治るからいまは我慢して死ねっていうのか!」 ノア:「だったら、その顔も知らない奴らなんかのためにあの子を犠牲にしろっていうの!?」 ヒバリ:「あるべきところに戻るだけだろうが!あの子は人間じゃない!私たちとは違う!」 ノア:「それでもあの子は私の家族よ!私の妹なんだから!」 ヒバリ:「(遮って)お前の妹は死んでるんだよッ!!!」 : 0:静寂 : ヒバリ:「あぁ、くそ…もういいよ。ここまで我慢してたけどもう限界だ!いつまであの子を妹と重ねてるんだよ!いつまで淀んだ眼であり続けるんだよ!」 ノア:「………ぁ」 ヒバリ:「妹と同じ名前つけてまでして、そんなにあの子を縛り付けたいのかよ?あの子はお前の妹じゃないだろ…いい加減夢から覚めろよ…現実を見ろよ…ちゃんと…あたしを見ろよ…」 ノア:「…ヒバリ」 ヒバリ:「…悪い、言い過ぎた。少し頭冷やしてくる」 : : ノア:「………わかってるわよ。でも、しょうがないじゃない…。私、またなくしちゃうんだ…大切なもの…なくしちゃうんだ…」 ノアM:『星空を見上げる。さっきまであんなに奇麗だと感じていたこの空が、どこまでも遠い。遠い、遠い記憶を思い出す。私の妹。一緒にお父さんたちと世界を見ようと夢を共有した、わたしのたったひとつの拠り所。お父さんたちが亡くなって、2人で強く生きようと決めたのに。私は、その手を離してしまった。』 ノアM:『あの日、すべてを亡くした日。妹と私を飲み込んだ星の光。あの時、私は光の先で何を見たんだろう。目が覚めた時、その手のぬくもりは消え失せ、私一人だけが残った。繋いだ手を、離さないと誓ったのに』 ノア:「わたし…どうしたらいいんだろうね…すてら…」 : 0:朝 : ステラ:「んー…いい天気…」 ヒバリ:「おはよ」 ステラ:「おはよう、ヒバリ」 ノア:「……」 ステラ:「ノアも、おはよう」 ノア:「……あ(ヒバリと目が合う)」 ヒバリ:「………」 ノア:「………」 ヒバリ:「ぺっ!(同時に)」 ノア:「ぺっ!(同時に)」 ステラ:「きちゃない」 ノア:「…顔洗ってくるわ」 ステラ:「あ…ヒバリ、ノアとなにかあったの?」 ヒバリ:「あー…ちょっとな、喧嘩してるんだよ」 ステラ:「喧嘩してるの?友達なのに?」 ヒバリ:「友達だから、喧嘩するんだ。そして…友達だからこそ、伝えなきゃならないことがあるんだ」  :   :  レイM:『名前のない星と旅人は船を漕ぎ陸地を目指す。どうして気づかなかったのだろう。その叫びはずっと聞こえていたはずなのに。奇跡の時間はもうすぐ終わる。宙(そら)の隙間から光は落ちる。別離の時間はすぐそこだというのに。船は、何も応えなかった』  :   :  【東日本 流出地点6つ目】 ステラ:「…うん、これでこの場所の流出は防げた…わ(倒れこむ)」 ヒバリ:「おっと、大丈夫か?」 ステラ:「うん、大丈夫。ありがとうヒバリ」 ヒバリ:「こんくらいお安い御用だよ」 ステラ:「ねぇ、ヒバリ。どうしてノアと喧嘩してるの?あんなに仲良かったのに。ひょっとして、私のせい?」 ヒバリ:「お前のせいじゃないよ。ただ、まぁ…あれだ。ステラ、お前はもし星のことがなかったらさ、このまま世界中を旅したいって思ってるか」 ステラ:「…うん。理由は、わからない。ただね、胸の中にあるの。そんな思いが、あったかいものが。「現象(システム)」である私たちにそんなものあるはずないのに」 ヒバリ:「それはな、「心」って言うんだよ。きっと、誰かの祈りが、思いが、その胸の中にあるんだよ」 ステラ:「心」…でも、おかしいよね。本来芽生えるはずのないものが、私の中で燻ってるもん」 ヒバリ:「なんにもおかしくないよ」 ステラ:「どうして」 ヒバリ:「どうしてって、そりゃ、人間、何かを願う時には星に願うものなんだよ。きっとさ、誰かの思いが、祈りが、お前の胸の中にあるんじゃないか。だっておまえは願いを届けるおほしさまなんだからさ」 ステラ:「誰かの祈り…誰かの思い…あぁ、そうか。そういうことだったんだ」 ヒバリ:「ステラ?」 ステラ:「ううん。なんでもない。行こう、最後の「星の傷痕(クレーネ)」へ」  :   :  ノア:「………(ぼけーと空を見つめている)」 レイ:「何を呆けた顔をしているんだ」 ノア:「…なによあんた。いたの?」 レイ:「あぁ。この区域の流出はプロテクトされた。あとは最後の流出を防ぐだけだ」 ノア:「…そか」 レイ:「…別れがつらいか?」 ノア:「つらい。超つらい。張り裂けそうなくらいつらい」 レイ:「では、世界を犠牲にしてあの子と旅を続けるか?」 ノア:「…それはできない。今も苦しんでいる人たちがいる。その人たちはさ、きっと私なんだ。星の災害に巻き込まれて、今も苦しんでる。私だってずっと苦しんでた。もがいてた。だから、私みたいな人を増やしちゃいけないって…わかってる…つもりなんだけどなぁ」 レイ:「…そうか。お前たちには感謝している。こうした旅ができたことは、きっとあの子の思い出となる。星の海に還ったとしても、きっと思い出すだろう。ずっと、そんな夢を見続けるんだ」 ノア:「…夢、か」 レイ:「どちらにせよ、この別れは必然だ。今更どうすることもできない。最初から、答えは決まっていた。…俺は先に最後のクレーネで待っている」 ノア:「…ちょっと待ちなさいよ」 レイ:「どうした」 ノア:「あんたさ、はじめて会ったとき、私のこと見てなんか言ってたじゃない。あれ、なんだったの?」 レイ:「…それこそ今更のことだ。答える必要はない。ではな」 :レイが野営地を去る ノア:「何て言ってたっけ……私の中にどうたらこうたら言ってたような……まぁ、今更なのか。だって」 ノア:「もう、この旅は終わるんだから」  :   :  ステラM:『人は、叶えばと願い、星を見上げる。祈りは届くと宙(そら)を見上げる。仰ぎて眺める遥かな星の界(よ) きっと、彼女は願っていた。その夢の続きを。叶えればと、星に願った。星を救う旅だと言った。嘘つきの旅だと言った。でもきっと、この旅は。彼女の願いを叶えるための旅だった』 ステラM:『そうして、私たちは星の墓標へ船を漕ぐ。懐かしくもほろ苦い星色の光の柱へ。ここで、私たちの旅が、終わる』  :   :  【東日本 流出地点】 ステラ:「…うん、この先にある。最後のクレーネが。…えっと」 ノア:「……」 ヒバリ:「…ステラ、悪い。ちょっと先に行っててくれないか?すぐに追いつく」 ステラ:「え…う、うん。わかった」 0:ステラ 森の奥へ進む ヒバリ:「…で、答えは出たのかよ」 ノア:「…そんな簡単に答えが出たら苦労はしないっての」 ヒバリ:「そうかよ。そりゃよかった」 ノア:「は?」 ヒバリ:「ちゃんとお前が考えて出した答えだったらさ、それは間違いなく「本物」だよ」 ノア:「…考えたって、あの子はきっと考えは曲げない。悩むだけ無駄。単純な天秤の問題。…理知だけで割り切れればどんだけ簡単かと思ってるわ」 ヒバリ:「割り切れないから人間なんだろ。割り切れないから心なんだよ」 ノア:「あんただってすぐに割り切れてたじゃない」 ヒバリ「そんな風に見せたんだよ、無理やりな。あたしまで悩んでたらお前は絶対歯止め効かなくなるってわかってるんだよ」 ノア:「ふーん、私のことよくわかってるじゃん」 ヒバリ:「当たり前だ。…何年お前を見てたと思ってるんだ」 ノア:「…そうか、ありがとう。でも、最後まで悩み抜いてみる。最後まで見届ける。…そして、夢から覚めるよ」 ヒバリ:「…行くか」 ノア:「うん。いこう」  :  0:星の墓標 最後の傷痕(ラストクレーネ)  :  ヒバリ:「なんか、いままでの流出してた場所とは違うな。どんどん洞窟の下を潜っていくなんて」 ステラ:「最後のクレーネはね、内側から閉じなきゃいけないから。だから、いま私たちが向かっているのはクレーネの発生地点じゃなくて、さらにその奥。星の最奥(さいおう)。私たちが生まれた場所」 ノア:「ステラたちが生まれた場所…でも…」 ノアM:『なんでだろう。私は、この場所を知っている。そんな気がする』 ステラ:「…着いた。2人とも、目を瞑っていて。 ノア・ヒバリ:「…ッ」 0:青色の光が空間を包み、景色を一変させる ヒバリ:「…ここが、星の最奥」 レイ:「そう、星が生まれた時から内包していたもうひとつの宇宙。星の心臓。命の始まる場所であり、終わることを許されない永劫機関。俺たちは、「星の墓標」と呼んでいる」 ノア:「レイ…」 レイ:「時間はもうない。今のままの状態が続けば、星の災害は加速度的に増え続けていく」 ステラ:「…うん、わかってる。でも、ごめんなさい。もう少しだけ…時間をちょうだい レイ:「…」 ヒバリ:「ステラ…」 ステラ:「………2人とも、ありがとう。ここまで、私を連れてきてくれて。そして、ごめんなさい。もう知っていると思うけど、これは、私の嘘つきの旅だったの」 ノア:「……」 ステラ:「星の事を第一に考えれば、私は一刻も早く此処に還らなければならなかった。でも、私はそれを拒んだ。日本を、星を救う旅だって言った。間違ってないけど、真実じゃなかった。世界で起きてる犠牲に目を瞑って、この場所を救いたかった。私の「罪(エゴ)」」 ステラ:「きっと、守りたかったんだよ。この胸にある、この「心」は。家族と過ごした思い出の場所を。家族が愛したこの場所を。ねぇ、ノア」 ノア:「…なに?」 ステラ:「私たちは「現象(システム)」。本来ならこんな自我が芽生えることも、心が生まれることもない。じゃあ、どうしてって考えてた。そして、わかったの」 ステラ「10年前、クレーネに巻き込まれたその子は願った。家族が愛したこの景色を、世界を、この目で見てみたいって」 ノア:「…え?」 ステラ:「厄災(やくさい)の時が訪れた直前、クレーネに巻き込まれた女の子。星の墓標に沈み、その命を星に還した女の子。…あなたがくれた、この名前の持ち主」 ノア:「すて…ら…?」 ステラ:「その子の思いが、心が、この星に溶け私たちが生まれた。貴方の妹は、この星とひとつになった」 ノア:「…すてらが、いるの?あなた達の中に…?」 ステラ:「…ううん。私たちには心がある。これはきっと彼女が抱いた「心」だった。「夢」だった。でも、彼女はもう此処にはいない。それでも、叶えたかった。彼女の夢を。運命に逆らっても」 ステラ:「「あなたと一緒に旅に出たい」。この旅は、彼女の夢を叶える旅だった」 0:ステラ ノアに抱き着く ステラ:「ありがとう、一緒に夢を叶えてくれて。ありがとう、一緒にいてくれて。彼女の心を、届けれてよかった」 ノア:「ステラ…すてら…ごめん、ごめんね…。手を離してごめん。独りにしてごめん。…私も、嬉しかったよ…あなたの夢を叶えられて、嬉しかった…うれし、かったよぉ…」 ステラ:「うん…うん…!楽しかったよ…2人と過ごしたこの時間が、永遠に続けばいいって思うくらい、楽しかった…!」 ヒバリ:「ステラ…」 ステラ:「…でも、もういかなくちゃ。奇跡の時間はもう終わり。夢の時間は、いつか終わりが来る。…でも、待っててね、きっと、きっと、素晴らしい世界を、届けるから!」 レイ:「いいのか?」 ステラ:「うん…いこう…」 レイ:「わかった。お前がかけがえのない時間を過ごせてよかった。この出会いには意味があった。俺たちがどれだけ時間を重ねても、きっと起こりえないことだったのだろう」 ステラ:「うん。だから、思い出も、祈りも、全部持っていこう。…ごめんね、心配かけさせて」 レイ:「…お前が無事なら、それでいい」 0:レイとステラが手を繋ぎ、2人星の最奥の光を目指す 0:少しづつ遠くなっていく距離の中、ステラがくるりと振り返る ステラ:「ノア…ヒバリ…ばいば」 ノア:「まっっっっっっっ!!!!」  :  (間)  :  ノア:「たッッッ!!!!」  :  (間)  :  ヒバリ:「おい…この場面でいきなりなんだよお前、空気が読めないにもほどがあるだろ…」 ノア:「空気なんか知らないわよ…。でもね、決めた。ずっと悩んでた。どうすればいいかわかんなかった。でも、ようやくピースが埋まった」 ヒバリ:「ノア…?」 ノア:「…ヒバリ、ごめん。多分、また迷惑かける。しかもすっっっごい迷惑を」 ヒバリ:「お前、この期に及んでまだ私に迷惑かけるつもりか?」 ノア:「うん、でも、決めたから。お願い。私の、一生のお願い」 ヒバリ:「……(ノアの目を見て、表情を和らげる)。はぁー…。いいよ。お前のそんな顔見たらさ、断れないよ私は…お前がどんな答えを見つけたのか、見届けてやるよ」 ノア:「ありがとう…。ねぇ、私いま、どんな目してる?」 ヒバリ:「…昔のまんまだよ。私が大好きだった、星(かがやき)が眩しいあの日の目だよ」  :  ☆ノア ステラとレイの前に駆け出す  :  ステラ:「…ノ、ノア、どうしたの?」 レイ:「………なんのつもりだ貴様」 ノア:「(大きく息を吸って)選手交代」 レイ:「あ?」 ノア:「代打、私」 レイ:「は?」 ノア:「だから、選手交代って言ってるでしょ。青学(せいがく)の柱か鬼殺しの柱か知らないけど、わたしが替わる。私が、星の柱になる」 レイ:「…寝言は寝て言え。ただの人間が関与できるものではない」 ノア:「(遮って)ただの人間だったら出来ないかもしれない。でもさ、あんたは散々ヒントをくれた。だから、私はこの答えを出せた」 ステラ:「ノア…?」 ノア:「あの日、すべてを失った日。あの子の手を離した日。私も、此処に墜ちてきたんだ。だから、ずっとこの光を覚えていた。この場所にきて、なつかしさを感じた。おかえりって、言ってくれてる気がした」 ノア:「…あるんでしょ?私にも、星の力ってやつが。此処に墜ちて、私だけが地表に押し戻された。でも、その時に私の中にも宿ったんじゃないの?星の力ってやつ。だから、レイは私を見て疑問を浮かべたんじゃないの?ただの人間に、宿るはずがないのにって」 レイ:「……」 ノア:「だから、一端でも力がある私なら、その子の代わりになれるんじゃないの?」 レイ:「…気づいたのなら真実を告げよう。お前の中には微弱だが俺たちと同じ力が溶け合っている。俺たちのように超常の力を持つわけではないがな」 ノア:「だったら」 レイ:「(遮って)だが、お前の力では今の星の厄災には対抗できない。お前が、人間であり続けるのなら」 ノア:「だったら、私が人間やめたらどうなの?」 レイ:「……命を投げ捨てる気か」 ノア:「命を懸けてるのよ。どうなのよ」 レイ:「…おそらく、可能だろう。人間に戻れる保証はないがな」 ステラ:「待って!!待ってよ!?ノア、なんでそんなことを言うの!?これは、私がやらなきゃいけないことなの!ノアをこれ以上私たちの事情に巻き込まないためにも!だから!!」 ノア:「…でもね、あんたの夢、まだ全部叶えてないもん。あの子はさ、ずっと言ってたよ。この星を、旅してみたい。お父さんやお母さんみたいにって」 ステラ:「それはノアの夢でもあるんでしょ!?だったらノアが叶えなよ!私は…私は、星を治して、ノアやヒバリが平和に暮らせる世界を作りたい!あなたがその夢を叶えれるように、この星を救わなきゃいけないの!」 ノア:「でも、この旅を通してあんたはどうだった?その心は私の妹のモノかもしれない。でも、あんたから見てこの旅はどうだった?奇麗だって、思わなかった?」 ステラ:「…思ったよ。ノアと一緒に見た星空。この世界には、そんな心を震わせるような景色がまだたくさん広がってるって思ったよ」 ノア:「それを、あんたは見てみたいって思わなかった?」 ステラ:「……思ったよ。こんな奇麗な世界に、また出会いたいって」 ノア:「うん、よし。その言葉を聞けたなら…よっと。せーーーの!!」  :  ノア ステラを抱き上げヒバリのほうに放り投げる  :  ステラ:「わ、わ、うわーーーー!?」 ヒバリ:「よっと!」 ステラ:「…ッ!待ってよノア!ヒバリ、離してよ!!ノアが、ノアが!!」 ヒバリ:「あー悪いな、ステラ。あいつは、一度決めたら覆さないよ。それにさ、私はその答えを見届けるって決めたから」 ステラ:「ヒバリ…!ノア、どうして!もう、日本は安全なんだよ!ノアたちが災害に怯える必要はないんだよ!!ノアが命を懸けることなんて何もないんだよ!!」 ノア:「うん…あんたのおかげで、日本は安全だろうね。でも、世界は?今でも苦しんでる人たちはたくさんいる。私みたいに今でも苦しみ続けている人達が。あんたが還ったとしても、星の修復には時間がかかるんでしょ?」 ステラ:「それは…」 ノア:「それに私はね、優しさだとか同情だとかで役目を変わるわけじゃないの。むしろ、あんたにもっと重たいもの背負わせるつもりなの。身勝手で我儘な、そんなものを」 ノア:「ねぇ、ステラ。この星を旅してさ、この星を救ってよ。私みたいに苦しみ続ける人たちをさ、一人でも多く救ってよ。私にはそんな力はないけど、あんたにはその力があるんだから」 ステラ:「え…?」 ノア:「世界を旅したいって夢を持ってた。でも、今は苦しんでいる人たちを救いたいって願いもある。勝手だけどさ…私の夢を、連れて行ってよ。この星を見て回りたいっていう、あんたの夢もひっくるめてさ」 ステラ:「どう…して…」 ノア:「…やっぱりあんたは私の家族だもん。私のもう一人の妹だもん。だから、半端な夢のまんまで眠ろうとしてるあんたの願いを、叶えたいもん。私はお姉ちゃんだからさ」 ステラ:「でも、ノアはいいの!?もう、この場所に戻れないかもしれないんだよ!仮に私がこの星を救えたとしても、どれだけ時間がかかるかわからないんだよ!?だったら…」 ノア:「…うん、私の居場所は存在しないかもしれない。それでもさ、生きてよ。あの子の心を持った貴方だからこそ、生きてよ。その心に従ってさ、あんたの人生を生きてよ」 ステラ:「心…?」 ノア:「そ。心のままに、いきなさい。あんたの夢を叶えるために。途中でつらくなったら、その荷物降ろしてもいいよ。でも、もしも願いが叶うならさ」 ノア:「お願い、聞いてよ。おほしさま?」 ステラ:「…いいの?わたし、自分の勝手な都合で、たくさんの人を傷つけたんだよ…?」 ノア:「あんたがそれを罪だっていうなら、そのぶん人を救いなさい。その重荷も全部ひっくるめて生きなさいよ。この世界を」 ステラ:「…いいの?私は、自分の夢を追う資格、あるの…?」 ノア:「ある。誰だって、夢を見る権利はある。それを叶える力を、あんたは持ってる。あんたは、自分の足で歩ける。だから…」 ノア:「歩きなよ、あんたの、最初の人生を」 ステラ:「……うん、うん。連れて行くよ…ノアの、夢、ステラの夢…私の夢、全部ひっくるめて…この星を、救って…そして…必ず、此処に還ってくるから!また、ノアと、あの星空を見たいから!!だから…!!」 ノア:「…うん、約束、ね。…ヒバリ、ごめんね?最後の最後まで迷惑かけて」 ヒバリ:「…全くだよ。何年お前を支えてたと思ってるんだよ…勝手にいなくなるなんて決めやがって」 ノア:「……」 ヒバリ:「…でも、許してやる。最後に、私が会いたかったノアにまた会えた。この子のことは任せとけ。ちゃんと、私が面倒みてやる」 ノア:「……うん、ありがとう。バイバイ、親友」 ヒバリ:「……あぁ、じゃあな。親友」  :  レイ:「…別れは済ましたか?」 ノア:「うん、いきましょうか」 ステラ:「…ノアッ!!!!」  :  2人、立ち止まる  :  ステラ:「ありがとう…私に、優しさをくれてありがとう!夢をくれてありがとう!命を、くれてありがとう!!必ず、ノアの夢も連れて、私の夢を、叶えてみせるから!!」  :  ノア:「………うん、安心した」  :   :  くるりと振り返り、にかっと笑顔を見せて  :   :   :  ノア:「――さよなら、私の一番星。あんたの旅路に、星の界(よ)の煌めきがあらんことを」  :   :   :  ヒバリM:『そうにかりと笑って、私の大好きだった親友は、星色の青い光の中へと、消えていった』  :   :  『星の墓標 中枢』 ノア:「…………ここが、この星の最奥。すべてが始まった場所。最初に生まれた、命の海…」 レイ:「…感謝する」 ノア:「…なにがよ」 レイ:「俺たちの中の心は、きっとお前の妹の心から派生したものだ。その心の夢を叶えたいという渇望は、あの子が夢を叶えたときにきっと果たされることだろう」 ノア:「…そっか、あの子だけじゃなくて、あんたたちの心の中にもいるんだ」 レイ:「あぁ。きっと、心は報われる。あの子も世界を見れる。その道のりは険しいものになるだろうがな」 ノア:「重たいもの背負わせちゃったものね。だから、これがきっと私の罰、か。で、私は人間やめるためになにすればいいの?」 レイ:「何もしなくていい。お前が星の源泉にたどり着くことで、あの子が待って行った分の力を補うために、この星と溶け合う。それだけでいい」 ノア:「…結局死んじゃうってわけか…あの子が持って行った力のために私が借金のカタに売られたような構図がしてちょっと気持ち悪いかも…」 レイ:「…いや、死ぬわけじゃない。あの子がお前を迎えにくるまで、眠り続けるんだ。どれだけの時間になるかは想像もできないがな」 レイ:「お前はずっと夢を見るんだ。この星とひとつになり、長い長い夢を」 ノア:「そう…凶夢(まがゆめ)じゃないことを祈るばかりね…」 レイ:「眠るがいい、美船ノア。お前は、どんな夢を見る?」 ノア:「……そんなの、決まっている」  : 徐々に、ノアの身体が粒子となり星と溶け合っていく  :  ノアM:「あの日見た景色をもう一度。約束を果たすために、ずっと思い描き続けよう。2人で見た、あの満天の星の夜の夢を―――」  :  :   :   :   :  ステラ:「……」 ヒバリ:「……」 ステラ:「…ねぇ、ヒバリ。世界って、広いかな」 ヒバリ:「…あぁ、広いよ。今回の旅がちっぽけになるくらい、ずっと広いよ」 ステラ:「…重たい夢、背負わされちゃったなぁ」 ヒバリ:「…だったらやめるか?」 ステラ:「ううん、やめない。だって、必ず還ってくるって約束したから」 ヒバリ:「…そっか、私もできる限り手伝ってやるよ」 ステラ:「…ありがとう、ヒバリ。でもいいの?」 ヒバリ:「いいよ。あたしだって託されたからな、お前のこと。でも、私が生きてる間に終わらせような?あいつのことぶん殴りたいから」 ステラ:「あはは…。うん、任せて」  :  ―2人、出口へと向かう  :  : ステラM:「旅人と名前を与えられた星は、地表を目指して船を漕ぎ、その地にたどり着いた。ずっとずっと支えてくれていたその船は、帆をたたみ、星の海へと沈んでいった。いつか、必ず迎えにいくと、夢と願いを託された旅人たちは星を歩く。長い、長い道のりを」 ヒバリM:「その船は、無窮の遠(おち)へと沈みながら夢を見る。かつて抱いた景色を描きながら、星の海へと沈んでいく。星の鼓動を感じながら、長い長い夢を見る」  : ノア:『――いってらっしゃい』  : ステラ:「ッ…(振り返る)……………うん」  :   :   : ステラ:「いってきます、お姉ちゃん!」  :  : ステラM:「ずっと、ずっと、夢を見る」 ステラM:「世界が目覚める 夢を見る」  :   :  ☆☆☆  :   :  :   :  ☆☆  :   :  :   :  after glow   :  :   ☆  :   : ラジオの声:「厄災期とまで呼ばれていたほどまでに世界で頻発していた災害でしたが、ここ数年その件数は減少傾向にあります。最初期に発生した災害件数に比べますと、近年の減少傾向はまさしく奇跡とまで言われ、環境系の回復が確認できた地域も多数報告されています。」 ラジオの声:「一時は滅亡寸前とまで言われていたこの時代ですが、このまま「奇跡の時間」を順調に過ぎれば、再びかつて存在したであろう平和な時代を呼び戻せるのではないかという―――」  :   : 【ニュージーランド マッケンジー盆地】  :   : ステラ:「…見つけた」 通信越しの声:「あぁ、こっちでも観測できたよ。ニュージーランドのマッケンジー盆地。ジョン山近辺で「星の傷痕(クレーネ)」の反応を感知。周辺状況もリアルタイムで観測したが微小クレーネの発生は確認できない」 ステラ:「うん、ここからでも見える。多分もともと天文台がある付近じゃないかな?」 通信越しの声:「正解。ジョン山周辺の地形はだいぶ変わっちまってるがよくわかったな」 ステラ:「うん…本で読んだことがある。世界で一番、星に近い場所だって」 通信越しの声:「そうか。周辺のクレーネの濃度が強すぎてここからじゃ流出地点までの誘導ができない。悪いが…」 ステラ:「大丈夫。このくらいの悪路(あくろ)なら問題ないよ」 通信超しの声:「頼もしいことで。こっからは通信はクレーネを閉じなければできないだろうよ。私はもう一度各地のクレーネが発生してないか観測してみる。観測できなければ正真正銘…」 ステラ:「うん。ここが、最後のクレーネになる。ありがとう。あとは一人で大丈夫だよ。クレーネを閉じたらまた連絡するね」 通信超しの声:「あぁ。検討を祈るよ」 0:デバイス超しの通信が切れる ステラ:「…ようやく、たどり着いた。ここが、最後の「星の傷痕(スタークレーネ)」」 0:ステラ 自分の手のひらを見つめる ステラ:「…大丈夫。きっと、まだ持つ。だから…待っててね…」 0:バイクのエンジンをかけ、小高い丘を駆け降りる  :  : ステラ:「ノア」  :   :  :   : Epilog「終わるほしのよに、最後のユメを」  :   :  :   :   :   : 【ジョン山 星の震源】 ステラ:「…見つけた。最後のクレーネ。これを閉じれば…ぜんぶ、終わる。お願い…最後までもってね…」 0:両手をクレーネに掲げる ステラ:「座標を固定。防壁テクスチャを地表に定着。星の血脈を縫合。最後の奇跡を、此処に。「星窯(プロテクト)」」 0:徐々に光が静まっていき、そのすべてが大地に収集された後、完全に傷口が閉じる ステラ:「終わった…これで…あ…」 0:どさりと仰向けに倒れる ステラ:「…疲れちゃった。ちょっと…休憩…」 ステラM:『時間を重ねる度に、傷口を塞ぐ度に、どんどん力が弱まっていくのを感じていた。だから、直感的にわかってしまう。きっと、これが最後なんだって』 ステラ:「でも…でも…わたし、がんばったよね…ノア………」  :   :  :   ☆  :   :  :  レイ:「星の正常な流転(るてん)を確認。溢れ続けていた星の力が蓄積されていくのを確認した。星の自滅プログラムを強制凍結。このまま正常な循環を繰り返せば、時間をかけずに星は息吹を取り戻すだろう」 レイ:「…同胞たちよ、今は安らかに眠ってくれ。長い時間、この星のために力を酷使し続けてくれて、感謝する。」 レイ:「ステラ…やり遂げたんだな。夢を、叶え続けたんだな、お前は。……さてと」 レイ:「おい、いつまで眠り続ける?約束の時だ。いい加減目覚めたらどうだ?」  :   : レイ:「長い長い、夢のおわりだ」  :  :   :  ☆  :   :  :  通信越しの声:「…ラ。…テラ!…ステラ!!」 ステラ:「ん…ふぇ…おはようございまむ…」 通信越しの声:「おはようございまむじゃねぇ!通信が回復してから何時間経ってると思ってるんだ!」 ステラ:「…あれ、もう夜?」 通信越しの声:「そうだよ。ったく、心配させやがって」 ステラ:「…ごめんなさい」 通信越しの声:「…あれから何度か、世界規模で観測を繰り返した。だからこそ、断言できるよ。この星で発生してるクレーネはゼロ。…文字通り、星の流血は完全に止まったよ」 ステラ:「…そっか。よかった」 通信越しの声:「なぁ、最初は誤作動かと思ったが、何度やっても反応がない。お前の身体にはもう…」 ステラ:「うん…多分、もう星の力は使えないと思う」 通信越しの声:「…お前は、これからどうするんだ?星の力を使えないってことは、お前はもう還れないってことだろ?」 ステラ:「…どうしようかな。とりあえず、今はね、星が見たいな」 通信越しの声:「はぁ?」 ステラ:「此処ってね、世界で一番星に近い場所なんだって。だから、星を見上げて、ゆっくり考えてみるよ。私のこれからを」 通信越しの声:「…そうか。こっちに帰る準備ができたらすぐに連絡しろよ」 ステラ:「うん。…今まで、ありがとうね」 通信越しの声:「…あぁ」  :  :   :  ☆  :   :  :  【マッケンジー盆地 星に届く湖】  : ステラ:「…此処が星に届く湖。何処までも変わらない、永遠の星空…。奇麗だな、すごく奇麗。水面に照らされた湖にも星空が写ってる。まるで、星の海だ…」 0:湖の近辺で座り込む ステラ:「…時間を、かけすぎちゃったのかなぁ。無茶、しすぎちゃったのかなぁ。私の中の星の力が、どんどん弱まっていっているのには気づいてた」 ステラ:「でも、きっと。最後まで持つって信じてた。自惚れてた。でも、確信に変わった。きっと、私はもう星の墓標にまでたどり着く力はないって…」 ステラ:「私は、約束よりも夢を届けることを選んだ…星を完全に治すことを選んだ…でも…よかったのかな…これで…よかったのかな…」 ステラ:「…会いたいなぁ…会いたいよ…また、一緒に…星を見たいよ…この星空を…2人で見たいよ…」  :   :  :  :   : ほしのこえ:「~♪(鼻歌)」  :   :  :  : : ステラ:「………ぇ?」  :  : ほしのこえ:「こんばんは、星の旅人さん。いい夜ね」  :  : ステラ:「……ぁ…」 ほしのこえ:「ねぇ旅人さん。どうしてそんなところで俯いて座り込んでるの。こんなにも奇麗な星空が広がっているのに」 ステラ:「…うん、本当に、奇麗な星空…」 ほしのこえ:「そうね…星の彼方にまで続いていく、宙(そら)の奇跡…。昔ね、こんな風に一緒に星を見た女の子がいたの」 ステラ:「…うん」 ほしのこえ:「私はね、その子に亡くしたものを写して、とてもとても重いモノを持たせて別れてしまったの。身勝手に、一緒に夢を連れて行ってほしいとまで言ってね」 ステラ:「……うん」 ほしのこえ:「…今でもね、たまに後悔するんだ。私はその子にとんでもなく重いモノを持たせて、縛り付けてしまったんじゃないかって。何も考えず、平和な国で日常を過ごさせるっていう選択肢もあったはずなのに」 ステラ:「…そんなこと、ないよ」 ほしのこえ:「……」 ステラ:「その子はね、ずっと夢を見続けていたの。胸の暖かな心に従って、起こるはずのなかった奇跡を噛みしめて。確かに、重かったかもしれない。苦しかったかもしれない。投げ出したくなる時が、あったのかもしれない」 ほしのこえ:「…投げ出しても、よかったんだよ」 ステラ:「ううん…約束したから。その人の夢を届けるって。その人にたくさんのモノをもらったから。夢を貰った、心を貰った、命を貰った、生きる喜びを、貰った。だから、此処までたどり着けたんだよ」 ほしのこえ:「…そう…。ねぇ、どうだった、この星は、奇麗だった?あなたの旅は、いい記憶だった?」 ステラ:「…うん!きっと、この星が終わっても色あせないくらい、眩くて、素敵だった!!永遠に忘れないくらい、この旅は素晴らしかったよ」 ほしのこえ:「…よかった。本当によかった。貴方の旅は、人生は。この星空に負けないくらい、輝いていたんだね」 ステラ:「…うん。でもね、やっぱり寂しかったよ。いろんな景色を、一緒に見たかったから。…それでも、頑張れたんだよ。…あなたに、また会いたかったから…」 ほしのこえ:「…そっか」  :   :  レイM:「星の旅人は月明りを頼りに その場所へたどり着いた。星空を仰ぎ眺める万里の彼方。いつか沈んだはずの星の墓標へ」 ヒバリM:「人生は星の縮図。無窮(むきゅう)の果て きらめく夜空の果てで どんな暗礁(あんしょう)であっても 星の旅人は歩みを止めなかった」 ステラM:「眠り続けるこの星で 芽吹く世界で生きるために 星の空の下 再び出会える奇跡を信じて」  :  :  :   :  ノア:「おかえり、私の一番星。貴方の旅路に、星(かがやき)があり続けて本当によかった」  :  ステラ:「ただいま、お姉ちゃん。誰よりも暖かで、誰よりも思ってくれた 私の宙船(そらふね)」  :   :   :   :  ノアM:「そうやって 貴方と夢を見続ける」  :   :  みんな:「ほしのよの夢を、見続ける」  :   :   :                        「終劇」

ノア:美船ノア。19歳。過去のとある出来事からドブのような眼から更生できずにいる。黙って立っていれば美少女。口から出るのは恨み言と世迷言。二輪免許所持。ジャンプ派。※ノアM兼ね役 ステラ:美幼女。舞える踊れるバリア張れる。愛くるしく神秘的なスターライトロリータ。※ステラMも兼ね役 ヒバリ:風間ヒバリ。19歳。ノアの幼馴染。なんやかんやでノアの世話を焼く。将来の夢は災害調査隊。ドブのような性癖をもつ女。二輪免許所持。※ヒバリMも兼ね役 レイ:銀髪 切れ長の瞳。スラリと伸びた手足。人体の黄金比と比喩されるくらいの美少年。言動が厨二なので指からビームが出る。※レイM兼ね役 ラジオの声:アナログだけど必需品※レイ役の方はこちらもタップしてください 通信越しの声:苦労人気質※ヒバリ役の方はこちらもタップしてください ほしのこえ:こんばんは、星の旅人さん※ノア役の方はこちらもタップしてください  :   :  ☆  :   :  :   :  ☆  :   : 0:【本編】  :   : ノアM:『夢を、夢を見ていた。懐かしくも暖かな、でも朧気に消えゆくような、そんな夢だ。薄れゆく意識の底で、その夢の残骸をつかみ取る。かつて交わした約束。いつか還るべき場所へたどり着くための、私のピース。どれだけ時間が経ったとしても決して忘れることのできない。満天の、星空の―――』  :   :  ☆  :   : 0:【美船家】 ヒバリ:「おい、いつまでそんなふてくされた顔で外を見てるんだよ」 ノア:「外を見るのは私のいつもの日課でしょ。こうやって外を見ることで、改めて再認識してるのよ。世界がいかに残酷で、いかに淀んでいるかっていうことを」 ヒバリ:「この星がいろいろ災害続きなのは全世界の共通認識だろうが、淀んで見えるのはお前が勝手にフィルターかけてるだけだ」 ノア:「頼んでいた出前が来ない。宝くじはいつものように外れる。ジャンプはいつの間にか合併号。こうも不幸続きだと、お手軽にこの世界を呪いたくもなるわよ」 ヒバリ:「そんな手近な不幸で呪われたら世界もたまったもんじゃないわ。その淀んだドブのような目を少しでも改善したら多少はマシになるんじゃないか」 ノア:「馬鹿言わないでよ。直したくたって治らないのよ。この星空と同じよ。私の瞳と同じで淀んで―」 : 0:視界の先。森の一角で光を見つける : ノア:「…輝いた」 ヒバリ:「落ち着け。お前の目がそう簡単に輝かないのは私が保証してやる」 ノア:「ちっがう!そうじゃない!あれ!」 ヒバリ:「はぁ?…なんだ、あの光?流れ星…?いや、違う、地表から出てるような…」 ノア:「…あの光。…ッ(駆け出す)」 ヒバリ:「って、おい!ノア!」  :   :  :☆  :   : :【森の中 光に向かって走るノア】 : ノア:「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」 ノアM:『その光を見たとき駆け出してしまった。理由?わかんない。ただ、私はあの光を知っている。厳重にかけた記憶の箱が悲鳴をあげる。すべてを亡くしたあの日の記憶。ガタガタと脳内が騒がしい中、私は、再び、その光の前に立った』 ノア:「…はぁ…はぁ…って……おんな、のこ?」 0:光の粒子の前で立ち尽くすノアに、ヒバリが追いつく ヒバリ:「おい、わけがわかんないものにいきなり近づくなって…はぁ?なんだよ、これ?光の中に、女の子?」 0:光が徐々に収まり、その光を纏った少女が目の前のノアに倒れこむ ノア:「って、危ない!」 ノアM:『とっさにその少女を受け止めようと、私は両手を伸ばした。そして、目が合う。星のような、輝く瞳と。そして―』 ステラ:「…ただいま(消えうるようなか細い声)」 ノアM:『そんな、かつて無くした星影を、垣間見てしまった』 ヒバリ:「おい、大丈夫か?」 ノア:「ととっ…うん、ばっちりロリっ子はキープできた。…できたけど…」 ステラ:「すぅ…すぅ…」 ヒバリ:「おいおい…なんだよ、この女の子…」 ノア:「わかんないけど…でも、確信を持って言えることはあるよ。この子見てるとさ…人類がロリコンになるのも頷けるよね」 ヒバリ:「そんな戯言をこの状況でよく吐けるなお前!?」 : ノアM:『これが私たちと名前のないステラとの出会いだった。そしてこの時の私たちはまだ知らない。思っていたよりもこの星は、もう限界なのだということを。そして始まる、私たちの星を治す旅のお話。人生において瞬くくらい一瞬の、星を取り戻すおとぎばなし』  :   :   : 『ほしのよ』  :   :   :   : レイM:『名前のない星が宙(そら)から落ちた 世界はその星を受け止めた。終わりゆく世界の中で、どうか悲しまないようにと、暖かな手はそれを包んだ』 レイM:『名前のない星はふと、宙(そら)に還りたいと願い星空を見上げた。けれど、焼け焦げた翼で羽ばたくことはできず、さらに深く落ちていった』 レイM:『久遠(くおん)の海の中で、名前のない星は船を漕ぐ旅人に拾われた。飛び立つ理由は何故だったか。その理由を知らないまま、名前のない星は旅人と共に地表を目指す。星のまにまに。未来の見えない星の界(よ)へと』  :   :  ・  ☆ ・  :    :  :【3週間後 美船家】 ヒバリ:「ったくなんだよこの暑さは…。まぁ、まだ暑いくらいなら我慢はできるか。他所は水没した地域があったりだとかもまた聞くし…」 0:【チャイム そして、戸が開く音】 ステラ:「あ、ヒバリ。いらっしゃいませ(神々しい笑顔)」 ヒバリ:「うっ…くッ…!ド頭からこの笑顔はちょっと私の性癖に刺さるッ!」 ノア:「来て早々ドブみたいな性癖披露してんじゃないわよ。ほら、近づいちゃだめよ。よくないものが伝染(うつ)るから」 ステラ:「えっえっ?」 ヒバリ:「年中淀んだ目をしたお前に言われたくないっつーの。…例のモノ、調べてきてやったぞ」 ノア:「おーさっすがヒバリちゃーん!現代のジェバンニ!ステラ、ちょっと外しててくれない?」 ステラ:「うん、わかった。じゃあ書庫にいるね」 ヒバリ:「…ステラって、おまえ」 ノア:「(遮るように)名前がないと不便なだけよ。他意はないわ。…とりあえず上がって。」  :  ・  ☆ ・  :  ヒバリ:「いろいろ調べてきたよ。例の光の現象について。簡潔にまとめると、その光自体は日本だけでなく、全世界で目撃はされているみたいだ。女の子が出てきたっていう話はいまのところはないけどな」 ノア:「その割には、毎日のように聞かされる災害報道にはそんな光のこと言ってないけど」 ヒバリ:「原因不明の光なんだ。下手に報道して市民を煽るようなことを避けてるんじゃないかというのが私の推測。ま、SNS上を調べればそれなりの情報は出てきたよ。どれも私たちが見たのと同じで、いつの間にか消えていたっていうオチ付きでな」 ノア:「…その光ってさ、何年も前から目撃されてたの?」 ヒバリ:「目撃が多いのはここ近年だな。一番昔の情報がどこからかってのは調べられてない」 ノア:「…ふぅん、そ」 ヒバリ:「なんだよその反応」 ノア:「別に。で、ステラのことなんだけどさ」 ヒバリ:「そういえば、書庫にいくって言ってたけど。なにかわかったのか?あの子のこと」 ノア:「いーや、全然。自分のことは相変わらず何もわからないみたい。わかってるのは神々しいくらいに可愛いこと。あとは本に興味津々ってことね」 ヒバリ:「本?なんでまた?」 ノア:「さぁ?お父さんが遺した書物とかもよく読んでるわよ。本をほわ~て浮かせてすごい速度で?」 ヒバリ:「は?」 ノア:「いや、実際見てもらったほうが早いんだけどね…」 :   :  ☆「書庫」  :   :  ステラ:「えっと…星座の本は…一番上か。よっ…」 0:手をかざして上段にある書物を浮かせ書斎机に置く ステラ:「さっきまで見てた九州方面の観光ガイドはあそこに仕舞って…えい」 0:手をかざして書斎机にあったガイドブックをまとめて仕舞う ノア:「ね?」 ヒバリ:「いやいやいやいや、お前!?ね?で済ませるレベルじゃないだろこれ!?はぁ!?いや、なんでそんなお前冷静なんだよ!?どんな感性してんだよ!?」 ノア:「私もさ、最初見たときはさそりゃ驚いたけどさ。でもね、ある答えにたどり着いたのよ」 ヒバリ:「なんだよ答えって?」 ノア:「トリックよ」 ヒバリ:「それは現実逃避じゃねーか!ちゃんと現実を見ろ!その目で!」 ノア:「いきなり不可思議な現象見たらさ…トリックって言うしかなかったミスターサタンの気持ちがわかったわ私」 ヒバリ:「現代でそんな例えしやがったの多分お前が初めてだよ!?」 ステラ:「…あの、ヒバリ。その…ごめん、うるさい」 ヒバリ:「私か!?私が悪いのか!?」 ノア:「とりあえず一回冷静になりなさいよ。どう、ステラ。今日も読書は順調?」 ステラ:「うん。全部楽しいよ!知らないことがいっぱいだから!特にね、えっと、この「ボーテシップ旅行譚」ってシリーズがすっごくわかりやすくて面白いの!」 ノア:「あー…うん、そう言ってくれるときっと喜ぶよ、お父さんたち」 ステラ:「これ、ノアのお父さんが書いたの?」 ノア:「うん。あの人たち旅行が好きでね。いろんなとこ廻って自分で本出して。すごくキラキラした生き方してたのよ。ま、どっかの災害に巻き込まれて死んじゃったけど」 ステラ:「え…あ、ごめん」 ノア:「あー気にしなくていいわよ。あんたがそうやってその本を楽しんでるならきっと本望だろうから」 ステラ:「そうなんだ…。きっと素敵なお父さんだったんだね。だって、この本にさ、たくさん詰まってるもん!この世界のこと!でも…災害ってそんなに頻発してるの?」 ノア:「近年は特にね。この星の終わりだーとか言う連中も出る程度には。実際私も…いや、なんでもない」 ステラ:「…そうなんだ……。ん、ごめん。ちょっと眠たくなったから部屋、戻るね」 ノア:「え、あ。うん。おやすみ」 ステラ:「うん、おやすみ」 0:ステラ 2階の宛がわれた部屋に向かう ヒバリ:「…はぁ、わけわかんねー。そりゃまぁ、あの光の中から出てきたんだから何か得体は知れないと思ったけどよ…」 ノア:「うん…でも、楽しんでるなら、それでいいんじゃない?」 ヒバリ:「楽天家すぎだろ」 ノア:「だって…無くしたものが、また蘇ったみたいだし(小声で)」 ヒバリ:「…ノア、お前」 ノア:「あー…晩御飯、食べていくでしょ?昨日のカレーがまだ残ってるから、それでよければだけど」 ヒバリ:「…あぁ」   :  0:【2階 ステラの自室】  :  ステラ:「ん…うん…」 レイM:「この星はもうすぐ終わりを迎える。だから、俺たちがなんとかしなきゃいけないんだ」 ステラ:「いやだ…私は…」 レイM:「時間はかかるかもしれない。それでも、この星を延命させるにはそれしかない」 ステラ:「私は…」 レイM:「それが、俺たち、星の――」 ステラ:「この目で…見てみたいよ…この星のことを――だから…」 :    :  :    :  ヒバリ:「めちゃくちゃ甘いなこのカレー」 ノア:「そりゃあの子用に甘くしたのよ。でもいい味出てると思うわよ。ヨーグルトたっぷり入れたし」 ヒバリ:「で、なんでこんにゃく入ってるんだお前のカレー?」 ノア:「え?入れるでしょ普通」 0:ドカンと、外から大きな音が響く ノア:「はぁ!?カレーにこんにゃく入れたからっていきなりそんな音出さないでよ!」 ヒバリ:「あたしからじゃねぇよ!外からだ!…あの光!?」 ノア:「前の光よりも、大きい…。って、はぁ!?」 ヒバリ:「今度はなんだよ!?」 ノア:「ステラが…なんか、2階の窓から暗雲の空を切り裂くように箒星になって飛んでいったんだけど…」 ヒバリ:「なんでちょっと表現がポエムなんだよ!?まっすぐ、あの光の方に向かってるのか!?」 ノア:「ッ!いかなきゃ!」 ヒバリ:「おい!前とは状況が違うんだぞ!?なにかあったら」 ノア:「(遮って)何かあってからじゃ遅いでしょ!あの子に何かあったらどうすんのよ!?」 ヒバリ:「おい!ノア!…くっそ、どんだけ入れ込んでるんだよ…!」   :  【山中 光を纏ったステラが降り立つ】 ステラ:「…聞こえた。呼ぶ声…星の声…わたし…わたしは…」 レイ:「見つけたぞ」 ステラ:「!?」 レイ:「まさか星の傷痕(スタークレーネ)に巻き込まれて地表に出ているとは思わなかった。戻るぞ。事態は一刻を争う」 ステラ:「すたー…くれーね?星の…傷跡…。…私は…」 レイ:「わかっていないのか?思い出せ、自分のことを。お前はここにいるべき存在ではない」 ステラ:「私…思い出した…私は…私は星の…」 ノア:「ステラ!!!!!」 ステラ:「…の、あ?」 0:ステラの手を引き寄せる ノア:「はぁ…はぁ…追いついた…あんた、いきなり飛び出すんじゃないわよ…ていうか物理的に飛ぶんじゃないわよ…武空術なんて初めて見たわよ…」 ステラ:「ノア…私は…」 ヒバリ:「はぁ…はぁ…おい、なんなんだよ、この、状況…(レイと目が合う)」 レイ:「?」 ヒバリ:「…ノア、気づいたか?」 ノア:「は?なにがよ?」 ヒバリ:「あの男…黒フード、銀髪、切れ長の赤い猫目の中性系美形…どちゃくそ私の好みだわ」 ノア:「こんなシーンで性癖晒してるんじゃないわよ!」 レイ:「…地表の人間か。…人間?いや、構わない。些事(さじ)たることだ。その娘をこちらに渡せ。それはお前たちでは扱えない存在だ。」 ステラ:「…(ノアの裾を握る)」 ノア:「…お生憎様。こんなに怖がっているロリっ子を事情も知らずに渡せるかっての。なによあんた?同類?」 ヒバリ:「人に性癖晒すなって言っておきながらお前も晒してるじゃねーか」 レイ:「答える義務はない。それに、お前たち人間には知る必要もないことだ。いいからその娘を渡せ。この世界を終わらせたくなければな」 ノア:「はぁ?いきなり世界がどうとかオサレな話するんじゃないわよ。それに…」 ステラ:「…ごめんなさい。ノア。私、いかなきゃ…」 ノア:「ステラ?」 ステラ:「…いかなきゃいけないの。ごめんなさい。事情を話しても、きっとわからないと思う。だから…いかなきゃ…」 ノア:「…理由があるなら、それでもいいけどね。でもあんた、怯えたような目でそんなこと言ったって、はいそうですかなんて私が納得できると思う?」 ステラ:「ノア…」 レイ:「茶番はいい。事態は急を要する。素直に事が運べないのならば…(スっと指を構える)」 ステラ:「!?やめて!!!!」 0:レイの指から出たビームをステラが障壁のようなもので弾く ヒバリ:「っ!?おいおい、浮遊の次はビームかよ!?」 ノア:「いきなりレイガンぶっ放してくるとかどういう神経してるのよあの美形!」 ステラ:「…やめて。この人たちに手を出さないで。」 レイ:「お前が素直に来れば俺もこんな手段はとらない。なにがお前を躊躇させる。時間がないのはお前もわかっているだろう」 ステラ:「わかってる…私が戻らなきゃいけないということも…でも、なにかが、叫んでいるの。この胸の中にある何かが。私は…本来ここにいちゃいけないということはわかってる…でも…」 レイ:「そんな人間のような感情は切り捨てろ。お前は自分のエゴでこの星を死なすつもりか?…そこのドブのような女」 ノア:「なによ、それは私の目のこと?それともこいつの性癖のこと?」 ヒバリ:「さらりと人の癖(へき)をドブ扱いすんな!」 レイ:「前者だドあほう。この星を延命させるためにはそいつの力が必要だ。だが…お前は…お前の中には…」 ノア:「?」 0:その時、ノアたちが対峙している地表から光があふれ出し地表が割れる レイ:「くっ…!!星の傷痕(スタークレーネ)がこんな時に…!!」 ノア:「う、わ…」 ノアM:『光を見た』 :―――割れた地表にノアとレイが巻き込まれる ヒバリ:「ノア!?」 ノアM:『光を見た。私を包み込む光を見た。」 ステラ:「ノア!!」 ノアM:「必死に手を伸ばすあの子の手をとる。子供とは思えない力で引き上げられる。」 ステラ:「座標を固定!防壁テクスチャを地表に定着!星の血脈を縫合!星蓋(プロテクト)!!」 ノアM:「不思議な力でその光は地表に押し込められた。でも同時に間近で見たあの光を見て私は―――」 ステラ:「ノア!しっかりして!」 ヒバリ:「落ち着けステラ!またなにが起きるかわからない!とにかく、こいつを運ぶぞ!」 ノアM:「懐かしいなんて、そんな場違いな感情を持っていた―――」  :  【???】  :  レイ:「…まさかクレーネに巻き込まれるとはな。完全にプロテクトされてここからまた顕現することは不可能か。別のルートを探すしかない。…俺たちの胸の中にある、この暖かなモノ…お前は…」  :   : ステラM:「名前のない星は旅を続ける。くらいくらい星の海を漂う旅。なぜ、旅に出たいと思ったのだろう。なぜ、この星を見たいと思ったのだろう。還るべき場所はわかったというのに。それでも。この胸の内にある、この灯(ともしび)の名前を。私は、まだ知らない。この気持ちを、なんと言うんだろう―――」  :  : 0:【美船家 自室】  :   : ノア:「…んぁ?…知らない天井だ。…嘘だわ。いつもの天井だったわ」 ヒバリ:「寝起きの第一声がそれなら大丈夫そうだな」 ノア:「…ん。え、ヒバリ。まさかここまで運んでくれたの?」 ヒバリ:「そんな体力あたしにはねーよ。この子が力使ってここまで運んでくれた」 ステラ:「すぅ…すぅ…」 ノア:「私のステラによくないものが伝染(うつ)るから膝枕なんてしないでくれない?」 ヒバリ:「はっ倒すぞお前?」 ステラ:「あ…ノア。起きたんだ。よかった」 ノア:「うん、あんたが護ってくれたおかげでね。ありがとね」 ステラ:「ううん。ノアが無事でほんとによかった(神々しい笑顔)」 ノア:「ッスゥゥゥ―――」 ヒバリ:「神々しい笑顔を噛みしめるのは勝手だがな。お前が起きたのならちょうどいい。ステラ。話してくれないか。お前のこと。あの男のこと」 ステラ:「…うん。まず、ごめんなさい。私の事情に2人を巻き込んでしまって。ノア、私ね、全部思い出したの。私は、星の調停者。この星の崩壊を防ぐための延命装置」 ノア:「調停者?延命装置?」 ヒバリ:「そこを詳しく聞いたらまたわけわかんなくなりそうだな…。悪い、続きを頼む」 ステラ:「いま、世界規模で災害が起きてるのは2人は知ってると思う。それは、星脈(せいみゃく)の劣化によるもの。星脈はすべての地表を支えている大地の根。人の体で言うなら血管みたいなもの。でもここ数年でその星脈が劣化して星の血があふれ出している。それが、あの光」 ヒバリ:「あの男が「星の傷痕(スタークレーネ)」って呼んでたやつか。血管が切れて星の血が流出してるのか」 ステラ:「うん。この星はね、長い時を生きすぎた。星が生まれて46億年。この星に大地が生まれ人間が生まれ、その歴史を紡いできた。でもね、星は永遠ではない。万物にはすべて終わりがある。この星も例外じゃない。だから、終わりを迎えようとしている」 ステラ:「終わりを迎える過程で、星脈は溢れ、この星全体の環境が乱れ、徐々に星は衰えていく。世界はいま厄災期といってもいい。ここ数年各地で災害が続いているのはその影響なの」 ノア:「…なるほど、セカオワでドラゲナイっていうことまではわかった」 ヒバリ:「つまりわかってないってことだな」 ノア:「セカオワであることに変わりはないでしょ。でも、ステラがさっきやったみたいに、それを治すことはできるんじゃないの?」 ステラ:「…うん。これは、星の延命のための力。わたしはクレーネに対してその流出を防ぐことができる」 ノア:「人間で言うならカサブタみたいなもの?」 ヒバリ:「まぁ間違ってはないだろうな。ただ、あの男はお前を連れ帰ろうとしていた。あいつもお前と同じ調停者なのか?調停者であるなら、なんでお前を連れ帰ろうとする?」 ステラ:「…それは」 ノア:「…小難しいことはヒバリに任せるけどさ、あんたはあいつと帰ることを拒んでいた。なにか事情があるんじゃないの?」 ステラ:「…正直に言うとね。どうしてそんなことをしたのかはわからないの。でも…まだ、帰れない。そう思った。だから、ノアが寝てる間に、その理由を探していたの。でね…言いにくいんだけど…その…」 ノア:「なによ、ここまできたら一蓮托生でしょ。遠慮せずに言いなさいよ」 ステラ:「…現存するクレーネの数から考えると…近いうちに、日本は沈んじゃう」 ノア:「へ?」 ステラ:「本来クレーネが同時に流出しないように私たちが星の内側で活動してるんだけど…いま、日本でクレーネが同時に7つ流出してるの。地表で流出しているクレーネを修復するのは星の内側からだとどうしても時間がかかってしまう。日本は小さな島国だし、その影響を甚大に受ける。だからこのままだと…」 ノア:「mis〇no…」 ヒバリ:「デイ・アフター・トゥモローだろ。しかも映画の内容と微妙に違うわ今の話。…普段は信じられないようなオカルト話なんだが、否定するにはいろんなもの見すぎちまった」 ステラ:「…お願いがあるの。2人とも」 ヒバリ:「…おい、まさか」 ステラ:「私は…2人がいるこの国を守りたい。私が外から流出を止めればまだ日本は助かるかもしれない。だから…私を、そこに連れて行ってくれませんか」  :   :  ヒバリ:「…とんでもない話になっちまったな」 ノア:「あの子は?」 ヒバリ:「寝てるよ。力を使ったらどうにも眠ってしまうみたいだ。…で、どうするんだよ?はっきり言うけど、私たち2人が抱えられる事情じゃないぞ?」 ノア:「だからと言って協力拒んだら、あの子は一人で行っちゃうでしょ。そもそも、セカオワな話聞かされてるのに私たちじゃ抱えきれませんーて投げ捨てたらさ、あの子悲しんじゃうでしょ」 ヒバリ:「冷静に考えろよ。私たちは人間だ。あの子とは違う。クレーネの発生場所はざっと聞いた限りでも全国だ。日本だっていま不安定だし。道中なにが起きるかわかったもんじゃない。」 ノア:「ま、交通機関とかも一部マヒしたまんまとかも聞くしね」 ヒバリ:「もしかしたら、思ったほど事態は簡単で、あの子じゃなくても他の調停者ってのが勝手に治してくれるかもしれない」 ノア:「でもさー…そんな感じで星が終わるか日本が終わるかどうかって話を聞かされてさ。ここでぼーっといつもみたいに過ごしてさ。いま星が頑張ってるんだろうなーとか、あの子がきっと頑張ってるんだろうなーとか、ここで呑気にカレー食べながら考えるのよ。きっとさ、私耐えられないよ」 ノア:「世界なんて正直ずっと呪ってたけどさ、自分が行動することでなにかができるかもしれない。この淀んだ星で、何かを見つけられるかもしれない。そう思ったらさ、きっと私は歩みを止めない、って思うよ」 ヒバリ:「…あの男のようなのがまた現れて、ビーム出してくるかもしれないぞ?」 ノア:「そこはさ、肉壁(ともだち)がいるじゃん?」 ヒバリ:「肉壁にともだちってルビ振るのやめろし。まぁ、答えなんか聞かなくてもお前の顔見ればわかるよ。」 ノア:「は?」 ヒバリ:「鏡見てみろよ」 ノア:「今日も美少女ね」 ヒバリ:「そこじゃねぇよ。…久々に見たよ。お前の目にさ、星(かがやき)があるのをみるの」 ノア:「おー…ほんとだ。少女漫画に負けないくらい煌めいてるわ」 ヒバリ:「そのくらい、あの子が大事か?」 ノア:「超大事。たった3週間。そもそも人間じゃない。でもね、淀んだ私の世界に生まれた、家族だもの」 ヒバリ:「…そうかよ。はー!くっそ腹立つ。マジでむかつく。マジで殴りたい。道中なんかあったら恨むからなお前!」 ノア:「ふふん、ありがとヒバリ」 ヒバリ:「いいよ、腐れ縁だ。一回家戻るよ。あと野営道具とか、どうせお前もってないだろ」 ノア:「私の幼馴染が有能すぎて怖い件について」 ヒバリ:「一昔前のラノベか。交通機関が正常に機能してるかわからない。移動手段はバイクになるだろうし、お前も手入れしとけよ」 ノア:「うん…ほんと、ありがとね」  :  ☆【美船家 ガレージ】  :  0:ガラガラとシャッターを開ける音 サイドカー付きの赤い二輪車が置いてある ノア:「…お父さん、お母さん。ごめんね、お父さんたちの愛車、ちょっと借りるけどいいよね。私ね、旅に出るよ。きっと叶えることはないと思ったけど、人生なにが起きるかわかったもんじゃないなー。…うん、大丈夫。きっと、お父さんたちが大好きだったこの星を、守って見せるから。だから、力を貸してね。あの子の夢も、私が持っていくから」  :  「翌日」  :  ヒバリ:「クレーネのはっきりした場所はわかんないが、ステラ曰く、一番最南は熊本あたりからだな」 ノア:「お、いいじゃん!温泉入ろう温泉!」 ヒバリ:「やってるかどうかわかんねぇよ。で、九州地方に2か所。西側に2か所。中部中央付近に1か所。東側に2か所。いまのところはこれくらいか」 ステラ:「もしかしたら新しいクレーネが生まれるかもしれないけど、基本的には近場で発生すると思うからそのたびに私が探知はできると思う」 ノア:「ま、南にいるときに最北であふれ出たー!とか言われてもどうしようもできないんだけどね。とりあえずその七か所、ちゃちゃっと塞ぎにいきましょ」 ステラ:「でも、いいの2人とも?…安全とは言えない旅になるかもしれない。なにが起きるかわからない危険な旅になるかもしれな…わ!(がぽっとヘルメットを被せられる)」 ノア:「いいのよ、旅に危険は付き物。それにね、あんただってあんなに目を輝かせてお父さんの本読んでたでしょ?むしろさ、わくわくしない?」 ステラ:「それは…うん、不謹慎だけどね、すごく…すごく楽しみ!」 ノア:「そーゆーこと!だから、お姉ちゃんに任せなさい!」 ステラ:「え?ノアは私のお姉ちゃんじゃないよ?」 ノア:「細かいことはいいっこなし!さって!星のお医者さんとして、この星、救ってやりましょ!」  :  バイク2台がエンジンを上げ、勢いよく飛び出していく  :  レイ:「…行ったか。不測の事態だが…今は、この束の間の奇跡を楽しんでこい。だが、忘れるな。その先に待っているのは、結局は別れだということを」  :   :  レイM:「名前のない星は旅人とともに船を漕ぐ。理由を偽った虚飾の旅。星の明日を救う旅。どこまでも淀んだ星の海を進んでいく。無窮(むきゅう)の遠(おち)に 沈んでいく」  :  ステラM:「きっと、私にいつか罰は下る。でも、いまはこの胸の暖かなもののために進みたい。あなたと共に、叶えたい。だから どうかこの時だけは。イマという一瞬を その永遠を 私にください」  :   :   :   :  ☆1か月後 日本中央 星の傷痕発生地点 5か所目   :  ステラ:「座標を固定。防壁テクスチャを地表に定着。星の血脈を縫合。星蓋(プロテクト)。…ふぅ、おしまい」 ノア:「お疲れさま。これでこの地域の災害もちょっとは収まるかしら?」 ステラ:「うん、少し時間はかかるかもだけど…あ」 ノア:「おっとと、大丈夫?力を使ったあとはこんな感じで倒れかけるんだから。よっと(ステラをおぶる)」 ステラ:「ん、ありがとうノア」 ノア:「お安い御用。さて、ヒバリが野営の準備してくれてるだろうし、さっさと戻りましょ」 : ノアM:「旅に出て、ひと月と少し。世界は思ったより広くって 世界は思ったより酷かった」 ヒバリM:「地震の影響で崩れた塔を見た。真っ二つに割れた大橋を見た。今も氾濫(はんらん)したままの湖を見た。ずっと避難所生活の人たちを見た。今も、苦しんでいる人たちを見た」 ノアM:「ほんの僅かな、一部の地域だけかもしれない。いろいろな報道がされていたのに、その危機感を私たちは持っていなかった。自分たちの周りは、それなりに安全だったから」 ヒバリM:「星の終わりだなんて大袈裟だと思っていた。でも、そこにいる人たちにとって地獄は確かに存在した」 ノアM:「この旅は、日本を、星を救う旅なんだと。淀んだ現実を強く突きつけられた気がした」 : ノア:「はーい到着ー。ママ―ご飯まだー?」 ステラ:「ママ―。もうレトルトのカレー飽きたー」 ヒバリ:「はっ倒すぞお前ら。飯の準備してるからちょっと待ってろ」 ステラ:「よっと(背中から降りる)。いつもありがとうヒバリ。それで、いま何を作ってるの?」 ヒバリ:「この地域の人に野菜貰ったからな。いまそれでホイル焼き作ってるよ」 ノア:「なんでそんな手間のかかるものを…」 ヒバリ:「なんか言ったか?」 ノア:「何でもないわよ、よいしょっと…はぁー夜になる前に終えられたよかったわ」 ステラ:「どうして?」 ノア:「夜道が怖いっていうのもあるけどね、ここってね、日本で一番綺麗に星が見えるところがあるのよ」 ステラ:「星が奇麗に…?もしかして、「星見の丘」?「ボーテシップ旅行譚」にも書いてあった!」 ノア:「お父さんたちがそれを書いたってことはそうとう奇麗なんでしょうねー。ご飯までまだ時間はありそうだしさ、一緒に見に行かない?」 ステラ:「いきたい!」 ヒバリ:「さらりとのけ者にされてるのは釈然としないが…まぁいいや。いってこいよ。30分もあれば一通りできると思うし」 ノア:「ありがと、ヒバリママ(淀んだ笑顔)」 ヒバリ:「熱したホイル顔面にぶつけるぞ」 ステラ:「ありがと、ヒバリママ(神々しい笑顔)」 ヒバリ:「唐突に神々しい笑顔でこっち見るのやめろ。血圧上がりそうになる」 ノア:「じゃ、よろしくねヒバリ。いくよ、ステラ」 ステラ:「うん!」 : 0:☆2人 野営場を離れる : ヒバリ:「ったく、仲良しかよあいつら…ずっと淀んだ眼してたくせに、キラキラさせやがって…あたしじゃ、できなかったことを。…はぁーまずい…私、幼女に嫉妬しちゃってる……調べものするか…」 0:タブレットを開き災害速報を見る ヒバリ:「クレーネ発生地点近辺が特に被災状況がひどかった。私たちが蓋をする直前まで地震が続いていた場所もあった。クレーネの発生と災害の酷さがイコールなのは間違いない。現に、最初に蓋をした熊本付近はそれ以降大きな災害は起きていないようだし」 ヒバリ:「全部のクレーネを閉じれば日本が助かるってのは本当の話なんだろ…だけど…国外の状況が、私たちが旅を始めたあたりから少しずつだが酷くなっている。星の治療が間に合っていない?他の調停者ってのはなにをやっているんだ…?…もしかして……ッ!?」 0:咄嗟に後ろを振り向き背後にいたレイと対面し彼の構えた指を抑える レイ:「よく気づいたな。気配は完全に消していたつもりだったが」 ヒバリ:「あたしの自意識の高さを舐めるなよ?いついかなる時でも人の視線に敏感なんだよ。何か噂してるんじゃないと…あ、ちょっと待って顔面が凶器だからちょっと待ってやばい」 レイ:「ドブのような性癖を仕舞え。あと、俺の指をいつまでトングで抑えているんだ正直熱い」 ヒバリ:「あんたが音もなく近づいてくるからでしょうが…ふぅ…よし、耐性できた…これで直視できる」 レイ:「…なるほど、これが「おもしれぇ女」というやつか」 ヒバリ:「どこで覚えてくるんだよその偏った知識」 レイ:「今の俺にお前たちをどうこうしようという敵意はない。懐疑(かいぎ)するのは当然だが今はこのトングを仕舞え」 0:トングが離れ レイ ヒバリの隣の椅子に座る ヒバリ:「…どういう風の吹き回しだよ。あんた、あの子を連れ帰るんじゃなかったの」 レイ:「事情は変わっていない。だが、心境が変わった。あの子がそれを望むならそれでいい。僅かだがまだ猶予はあるだろうしな。…ステラ、と名付けたそうだな。」 ヒバリ:「あーまぁ、あいつが勝手につけた名前だけどな」 レイ:「名前はそいつにとっての「しるし」だ。名付けて損はない。交流をするのであれば尚更な」 ヒバリ:「…で、あんた何をしに来たんだよ」 レイ:「…ふむ。ずっと「あんた」呼ばわりされるのも不快だな。俺も地表にいる間は何か名前を付けておこう。ここに現れる前に立ち寄ったラーメン屋でアニメの再放送をしていた。そこからとるとしよう」 ヒバリ:「さらりと超常存在がラーメン屋に立ち寄ってるっていう情報をカミングアウトするなよ」 レイ:「とりあえず俺のことは「シャイニング・レイ・ポチョムキン2世」と呼んでくれ」 ヒバリ:「くっっっっそださい厨二ネームを真顔で言い放つな!ギャップがありすぎて寒気がするわ!」 レイ:「長いか?」 ヒバリ:「長さの問題じゃねーよ!私だったらその名前を名乗るくらいなら死を選ぶわ!」 レイ:「そこまで不評なら仕方がないな。わかった。単語をひとつとって「ポチョムキン」と名乗ることにしよう」 ヒバリ:「なんで一番とっちゃいけないところをとるんだよ!?それ名乗るくらいなら「レイ」って名乗っとけ!」 レイ:「ふむ。短いしシンプルだしそれでいい」 ヒバリ:「くっそ、余計なカロリーを使わせるなよ…ただでさえ顔面凶器がそばにいて情緒が不安定だってのに…!」 レイ:「…あの子は、この旅を楽しんでいるか?」 ヒバリ:「はぁ?…まぁ、楽しんでるよ、間違いなく。星がこんな状況じゃなければ、全国どころか世界旅行に行きたいって言いそうなくらいにはな」 レイ:「そうか。それならいい。起こることのなかった奇跡だ。本来俺たちのような存在は地表に顕現することはないのだからな」 ヒバリ:「…どういうことだよ、それ?」 レイ:「発生したクレーネの修復は星の内側から修復はできる。そもそも、わざわざ地表に顕現し蓋をするのは非効率だ。再発を防ぐ確実な方法ではある。だが、それでは間に合わない。俺たちのこの力は無限ではない。ひとつひとつ蓋をしている間に、この星は終わるだろう」 レイ:「だから俺たちは「発生」するクレーネに目を瞑り、星脈の蘇生と再製の力を増幅するサイクルを作った。時間はかかるだろうが、災害が完全に収まり再び星が息吹を取り戻す。その過程で、流出は沈静化するだろう。その間に発生するだろう犠牲に目を瞑ってな」 ヒバリ:「ちょっと待てよ!?それじゃ、私たちがやってることは無駄なのかよ!?」 レイ:「そんなことはない。少なくともこのまま全ての流出を防げば日本は消滅しないだろう。だが、問題はそこじゃない」 レイ:「力を持ったあの子が此処にいる。それが星の寿命を縮める行為なんだ」  :  0:☆星見の丘 手を繋いだ2人が丘を登る  :  ノア:「ー♪(鼻歌)」 ステラ:「それ、なんて歌?」 ノア:「曲名なんてないよ。昔から気まぐれで歌ってるだけ」 ステラ:「うん。でもね、なんだか。懐かしいなって、そう思って」 ノア:「なにそれ?変なの…っと、着いたよ」  :  ステラ:「…まだ、星、見えないね」 ノア:「…今の時期だったら、そろそろ見えるころよ。ほら、よく見てみなさい」 ステラ:「…?なんだろ、あそこだけ光ってる?」 ノア:「そ、一番星。宵の明星なんても呼ばれてる。一番最初に見える星。一番最初に輝く星。そして、星々が煌めきだしてね…」  :   :  夕刻から夜になり、満天の星空が2人の見つめる空を覆う  :   :  ステラ:「…すごい。すごい!すごい!すごーい!!まるで、一番星に連鎖するみたいに!どんどん星々が輝いていってる!」 ノア:「星脈の乱れが原因か何かはわからないけどね、こんな風に一気に姿を現すようになったの。何もない暗闇から、星の空に様変わり。満天の、星の界(よ)…、お父さんたちも、見たんだね。この世界を、この場所で」 ステラ:「きっと、ノアのお父さんたちもこんな感じで見惚れてたのかな?だって、一番綺麗に見えるところって書いてた。それくらい!特別だったんだよ!」 ノア:「特別…特別、か」 0:ステラを見つめるノア ノア:「私にとっての一番星はあんたかもね」 ステラ:「どういうこと?」 ノア:「私さ、ずーとこの世界を淀んだ眼で恨んでた。家族を奪ったこの世界が憎かった。でも、どうすることもできなかったから、ずっと不貞腐れてた。ヒバリにもいろいろ迷惑かけた。でもね、ステラに会えた。日本が、星が今危ない状況だってのね、私さ。ステラといる時間が楽しいんだ。不謹慎だけどね」 ノア:「この旅が終わっても、ずっと一緒にいたい。そうすれば、私はこの星(かがやき)をもう失わなくていいって思ってる。私にその星(かがやき)を取り戻させてくれたのはさ、間違いなくあんたの存在だよ」 ノア:「星をどうにかしなきゃってのはわかってる。でもさ、私はステラとこれからも一緒にいたいよ」 ステラ:「ノア…」 ノア:「なんだったらさ、日本を救ったあとはさ、お父さんみたいに世界中を回りながらクレーネの修復しようよ!うん、ヒバリも道連れにしてさ!」 ステラ:「ノア」 ノア:「そうすればさ、もう、何も失わなくてすむもん」 ステラ:「(遮って)ノア!!!」 0:静寂 ノア:「え…なに…?」 ステラ:「…ごめんね、大きい声だして。でもね、ノアのその願いは、私きっと聞けないよ」 ノア:「え?」 ステラ:「…今、私がここにいるのはね、本当はダメなことなの。本来なら1秒でも早く、この星のために還らなきゃいけない」 ノア:「ちょっと、まってよ…なんで?」 ステラ:「私ね、嘘をついた。私が星に還れば、日本は沈むことはない。いまよりも災害の状況はひどくなって犠牲はでるかもしれない。でも、時間をかければ最悪の事態だけは避けれる。だけど、私はそれを拒絶した。ノアとヒバリがいるこの国を、早く助けたかった。たとえ、星全体が被害にあったとしても」 ノア:「…は?」 ステラ:「この旅はね、嘘つきの私の旅。私の胸のうちにある暖かなこの気持ちに抗わなかった愚かな逃避行。いまのこの時間は、世界を犠牲にした、私のわがままな時間なの」 ノア:「なんで、そんなことを…」 ステラ:「…この気持ちを、なんて言うんだろう。人じゃない、「現象(システム)」である私が、こんなアバターを作り、あなたたちと旅をしたいと思った。この胸にある何かが、そうさせた。そう、させてしまった」 ステラ:「だから、この旅を終えれば、私は罰を受ける。きっと、未来永劫顕現することはない。奇跡は、もう起きない。この星の息吹を取り戻すまで、ずっと眠り続けなきゃいけない」 ステラ:「これはぜったいに破っちゃいけないこと。私が星の内側から抜けたことでいま星全体が不安定になってる。だから、最後のクレーネを閉じると同時に、私は星の海に還るよ」 ノア:「ちょっと…ちょっと待ってよ!?どうして、あんたがそんなことしなきゃいけないのよ…」  :   :   :  レイ:「単純な算数の問題だ。通常100の力で星を支えなければならないものを、あの子が抜けたことで50の力で支えているのが現状だ。100の俺たちが総動員しても星の流血が早すぎて対応が遅れているんだ。いま世界で災害の比率が高まるのは必然だ」」 ヒバリ:「あの子は…それをわかっているんだろう?だったらなんでそんなことを…」 レイ:「最初は俺もわからなかった。だが、今ならわかるよ。確かに俺たちの中にあるんだ。この目で、この星を見てみたいという強い意思が」 ヒバリ:「意思?なんでそんなもんがあるんだよ。あんた達のことなんざ何も知らないが、少なくとも星が生まれてからずっと存在するんだろ?なんで今更」 レイ:「違うな。俺たちは「現象(システム)」だ。本来こんな風に人間のアバターを形成し、外に顕現するなんていうことはない。だが、10年程前か。俺たちにそうした自我というものが目覚めたのは」 ヒバリ:「…どういう意味だよ?」 レイ:「丁度最初のクレーネが形成され、世界で災害が頻発するようになった時期だ。星のバグか、それとも別の原因か。俺たちはなぜか芽生えた自我を形成しこの星を見守っていた。役目自体に変わりはない。この星の流血を防ぎ世界を護る。俺たちにしかできない「使命(オーダー)」であり、俺たち星の力を持つ存在でしか対抗できない」 ヒバリ:「10年前…」 レイ:「だからこそ、あの子の「この星を見てみたい」という意思を尊重しつつ、ほかの力を持つ存在が今も奔走している。犠牲がこれ以上広がらないようにしているが時間の問題だ。だから、最後のクレーネの修復が終わり次第あの子は星に還ることになる。それだけを伝えに来た」 ヒバリ:「……」 レイ:「本来俺たちは此処に居てはならない存在だ。この別れを気にする必要はない。だが、もしも思い入れがあるならば、覚悟をしておけ。予言してやる。お前たちの旅に、幸せな終わりは訪れない」  :   :   :  ステラ:「この星に還ることは、どうあがいたって変えられない。だから、気にしないでノア。日本を見てまわるってだけでも、私には奇跡みたいなものだったから」 ノア:「………」 ステラ:「この胸にある暖かな何かは、きっとこの奇跡に喜んでいる。いろんな場所を回れた。この星空を見れた。そんな奇跡を、きっと」 ノア:「…あんたは、それでいいの?」 ステラ:「ノア?」 ノア:「あんたはそれで本当にいいの!?だって、奇跡なんでしょ!?いまここに在(あ)るってこと自体が奇跡なんでしょ!?星に還ったら…あんたはもうこんな風に世界を見て回れないんだよ!?」 ステラ:「ノア…」 ノア:「その奇跡を…いまここにある命を!そうやって投げ捨てるの!?あんたがいなくたって、世界は治るかもしれないんでしょ!?だったら…」 ステラ:「(遮って)できないよ。それだけは、できない。これは、私がやらなきゃならない「運命(オーダー)」だもん。だから、還るよ。この星に。…気にすることないよ、ノア。私みたいな存在は、本来ここにいちゃいけないの。だから、全部が元に戻るだけ」 ノアM:『あの子の言葉が頭に入ってこない。どうにかして、あの子を引き留めたいのに。どうして?…どうして、また失うの?どうして、また、傷つかなきゃいけないの?』 ステラ:「日本を救って、そのあとに世界を救ってみせるから。だから…待っててね」 ノアM:『そんなキラキラした星みたいな笑顔に、何も私は告げられない。その煌めいた生き方を、私は否定できない。…あぁ、世界は。やっぱりどこまでいっても優しくない。どこまでも、どこまでも、星の見えない、淀んだ世界に墜ちていく」  :   :   :   :  ヒバリ:「………遅かったな」 ノア:「……うん」 ヒバリ:「どうした、また目がドブみたいに濁ってるぞ」 ノア:「…別にいいでしょ」 ヒバリ:「…先に帰ってきたあの子はもう寝てるよ」 ノア:「…そう」 0:焚火の前で2人黙る ヒバリ:「…覚悟は、決まったのかよ?」 ノア:「…なんの話よ」 ヒバリ:「あの子と別れる覚悟だよ」 ノア:「…あの子が、話したの?」 ヒバリ:「いや、あの時の男。さっきまで話してた」 ノア:「…できてるわけないじゃん」 ヒバリ:「…だったら、最後のクレーネまでには覚悟は決めておけよ。ため込んでたって、後がつらくなるだけだからな」 ノア:「…あんたなんでそんな簡単に割り切れるのよ」 ヒバリ:「…あの子は本来此処に居るべきじゃないってわかってるからだよ」 ノア:「…は?」 0:ノア ヒバリの胸倉をつかむ ヒバリ:「ッ…なんだよ?」 ノア:「じゃあ何?あの子が、ずっともう外に出られなくなったっていいってわけ!?」 ヒバリ:「本来あるべきモノに戻るだけだろうが」 ノア:「あんた、なんでそんな薄情なのよ!?あの子とこの旅を楽しんでたでしょ?なんでそんな簡単に切り捨てられるのよ!?」 ヒバリ:「だったらお前は星がこのままでもいいって言うのかよ!?今も世界的に災害は多発してんだぞ?」 ノア:「あの子がいなくたって星は治るんでしょ!?そりゃ、星が治る速さは遅くなるかもだけど、だったら」 0:ヒバリ ノアの胸倉をつかみ返す ヒバリ:「…お前、それ本気で言ってるのか?」 ノア:「…ッ、なによ…」 ヒバリ:「お前だって見てきただろ!?今この瞬間にも、災害で苦しんでる人たちがいるんだぞ!?日本だけじゃない、この星全部でだ!お前はいまも苦しんでる人たちに、いつか星は治るからいまは我慢して死ねっていうのか!」 ノア:「だったら、その顔も知らない奴らなんかのためにあの子を犠牲にしろっていうの!?」 ヒバリ:「あるべきところに戻るだけだろうが!あの子は人間じゃない!私たちとは違う!」 ノア:「それでもあの子は私の家族よ!私の妹なんだから!」 ヒバリ:「(遮って)お前の妹は死んでるんだよッ!!!」 : 0:静寂 : ヒバリ:「あぁ、くそ…もういいよ。ここまで我慢してたけどもう限界だ!いつまであの子を妹と重ねてるんだよ!いつまで淀んだ眼であり続けるんだよ!」 ノア:「………ぁ」 ヒバリ:「妹と同じ名前つけてまでして、そんなにあの子を縛り付けたいのかよ?あの子はお前の妹じゃないだろ…いい加減夢から覚めろよ…現実を見ろよ…ちゃんと…あたしを見ろよ…」 ノア:「…ヒバリ」 ヒバリ:「…悪い、言い過ぎた。少し頭冷やしてくる」 : : ノア:「………わかってるわよ。でも、しょうがないじゃない…。私、またなくしちゃうんだ…大切なもの…なくしちゃうんだ…」 ノアM:『星空を見上げる。さっきまであんなに奇麗だと感じていたこの空が、どこまでも遠い。遠い、遠い記憶を思い出す。私の妹。一緒にお父さんたちと世界を見ようと夢を共有した、わたしのたったひとつの拠り所。お父さんたちが亡くなって、2人で強く生きようと決めたのに。私は、その手を離してしまった。』 ノアM:『あの日、すべてを亡くした日。妹と私を飲み込んだ星の光。あの時、私は光の先で何を見たんだろう。目が覚めた時、その手のぬくもりは消え失せ、私一人だけが残った。繋いだ手を、離さないと誓ったのに』 ノア:「わたし…どうしたらいいんだろうね…すてら…」 : 0:朝 : ステラ:「んー…いい天気…」 ヒバリ:「おはよ」 ステラ:「おはよう、ヒバリ」 ノア:「……」 ステラ:「ノアも、おはよう」 ノア:「……あ(ヒバリと目が合う)」 ヒバリ:「………」 ノア:「………」 ヒバリ:「ぺっ!(同時に)」 ノア:「ぺっ!(同時に)」 ステラ:「きちゃない」 ノア:「…顔洗ってくるわ」 ステラ:「あ…ヒバリ、ノアとなにかあったの?」 ヒバリ:「あー…ちょっとな、喧嘩してるんだよ」 ステラ:「喧嘩してるの?友達なのに?」 ヒバリ:「友達だから、喧嘩するんだ。そして…友達だからこそ、伝えなきゃならないことがあるんだ」  :   :  レイM:『名前のない星と旅人は船を漕ぎ陸地を目指す。どうして気づかなかったのだろう。その叫びはずっと聞こえていたはずなのに。奇跡の時間はもうすぐ終わる。宙(そら)の隙間から光は落ちる。別離の時間はすぐそこだというのに。船は、何も応えなかった』  :   :  【東日本 流出地点6つ目】 ステラ:「…うん、これでこの場所の流出は防げた…わ(倒れこむ)」 ヒバリ:「おっと、大丈夫か?」 ステラ:「うん、大丈夫。ありがとうヒバリ」 ヒバリ:「こんくらいお安い御用だよ」 ステラ:「ねぇ、ヒバリ。どうしてノアと喧嘩してるの?あんなに仲良かったのに。ひょっとして、私のせい?」 ヒバリ:「お前のせいじゃないよ。ただ、まぁ…あれだ。ステラ、お前はもし星のことがなかったらさ、このまま世界中を旅したいって思ってるか」 ステラ:「…うん。理由は、わからない。ただね、胸の中にあるの。そんな思いが、あったかいものが。「現象(システム)」である私たちにそんなものあるはずないのに」 ヒバリ:「それはな、「心」って言うんだよ。きっと、誰かの祈りが、思いが、その胸の中にあるんだよ」 ステラ:「心」…でも、おかしいよね。本来芽生えるはずのないものが、私の中で燻ってるもん」 ヒバリ:「なんにもおかしくないよ」 ステラ:「どうして」 ヒバリ:「どうしてって、そりゃ、人間、何かを願う時には星に願うものなんだよ。きっとさ、誰かの思いが、祈りが、お前の胸の中にあるんじゃないか。だっておまえは願いを届けるおほしさまなんだからさ」 ステラ:「誰かの祈り…誰かの思い…あぁ、そうか。そういうことだったんだ」 ヒバリ:「ステラ?」 ステラ:「ううん。なんでもない。行こう、最後の「星の傷痕(クレーネ)」へ」  :   :  ノア:「………(ぼけーと空を見つめている)」 レイ:「何を呆けた顔をしているんだ」 ノア:「…なによあんた。いたの?」 レイ:「あぁ。この区域の流出はプロテクトされた。あとは最後の流出を防ぐだけだ」 ノア:「…そか」 レイ:「…別れがつらいか?」 ノア:「つらい。超つらい。張り裂けそうなくらいつらい」 レイ:「では、世界を犠牲にしてあの子と旅を続けるか?」 ノア:「…それはできない。今も苦しんでいる人たちがいる。その人たちはさ、きっと私なんだ。星の災害に巻き込まれて、今も苦しんでる。私だってずっと苦しんでた。もがいてた。だから、私みたいな人を増やしちゃいけないって…わかってる…つもりなんだけどなぁ」 レイ:「…そうか。お前たちには感謝している。こうした旅ができたことは、きっとあの子の思い出となる。星の海に還ったとしても、きっと思い出すだろう。ずっと、そんな夢を見続けるんだ」 ノア:「…夢、か」 レイ:「どちらにせよ、この別れは必然だ。今更どうすることもできない。最初から、答えは決まっていた。…俺は先に最後のクレーネで待っている」 ノア:「…ちょっと待ちなさいよ」 レイ:「どうした」 ノア:「あんたさ、はじめて会ったとき、私のこと見てなんか言ってたじゃない。あれ、なんだったの?」 レイ:「…それこそ今更のことだ。答える必要はない。ではな」 :レイが野営地を去る ノア:「何て言ってたっけ……私の中にどうたらこうたら言ってたような……まぁ、今更なのか。だって」 ノア:「もう、この旅は終わるんだから」  :   :  ステラM:『人は、叶えばと願い、星を見上げる。祈りは届くと宙(そら)を見上げる。仰ぎて眺める遥かな星の界(よ) きっと、彼女は願っていた。その夢の続きを。叶えればと、星に願った。星を救う旅だと言った。嘘つきの旅だと言った。でもきっと、この旅は。彼女の願いを叶えるための旅だった』 ステラM:『そうして、私たちは星の墓標へ船を漕ぐ。懐かしくもほろ苦い星色の光の柱へ。ここで、私たちの旅が、終わる』  :   :  【東日本 流出地点】 ステラ:「…うん、この先にある。最後のクレーネが。…えっと」 ノア:「……」 ヒバリ:「…ステラ、悪い。ちょっと先に行っててくれないか?すぐに追いつく」 ステラ:「え…う、うん。わかった」 0:ステラ 森の奥へ進む ヒバリ:「…で、答えは出たのかよ」 ノア:「…そんな簡単に答えが出たら苦労はしないっての」 ヒバリ:「そうかよ。そりゃよかった」 ノア:「は?」 ヒバリ:「ちゃんとお前が考えて出した答えだったらさ、それは間違いなく「本物」だよ」 ノア:「…考えたって、あの子はきっと考えは曲げない。悩むだけ無駄。単純な天秤の問題。…理知だけで割り切れればどんだけ簡単かと思ってるわ」 ヒバリ:「割り切れないから人間なんだろ。割り切れないから心なんだよ」 ノア:「あんただってすぐに割り切れてたじゃない」 ヒバリ「そんな風に見せたんだよ、無理やりな。あたしまで悩んでたらお前は絶対歯止め効かなくなるってわかってるんだよ」 ノア:「ふーん、私のことよくわかってるじゃん」 ヒバリ:「当たり前だ。…何年お前を見てたと思ってるんだ」 ノア:「…そうか、ありがとう。でも、最後まで悩み抜いてみる。最後まで見届ける。…そして、夢から覚めるよ」 ヒバリ:「…行くか」 ノア:「うん。いこう」  :  0:星の墓標 最後の傷痕(ラストクレーネ)  :  ヒバリ:「なんか、いままでの流出してた場所とは違うな。どんどん洞窟の下を潜っていくなんて」 ステラ:「最後のクレーネはね、内側から閉じなきゃいけないから。だから、いま私たちが向かっているのはクレーネの発生地点じゃなくて、さらにその奥。星の最奥(さいおう)。私たちが生まれた場所」 ノア:「ステラたちが生まれた場所…でも…」 ノアM:『なんでだろう。私は、この場所を知っている。そんな気がする』 ステラ:「…着いた。2人とも、目を瞑っていて。 ノア・ヒバリ:「…ッ」 0:青色の光が空間を包み、景色を一変させる ヒバリ:「…ここが、星の最奥」 レイ:「そう、星が生まれた時から内包していたもうひとつの宇宙。星の心臓。命の始まる場所であり、終わることを許されない永劫機関。俺たちは、「星の墓標」と呼んでいる」 ノア:「レイ…」 レイ:「時間はもうない。今のままの状態が続けば、星の災害は加速度的に増え続けていく」 ステラ:「…うん、わかってる。でも、ごめんなさい。もう少しだけ…時間をちょうだい レイ:「…」 ヒバリ:「ステラ…」 ステラ:「………2人とも、ありがとう。ここまで、私を連れてきてくれて。そして、ごめんなさい。もう知っていると思うけど、これは、私の嘘つきの旅だったの」 ノア:「……」 ステラ:「星の事を第一に考えれば、私は一刻も早く此処に還らなければならなかった。でも、私はそれを拒んだ。日本を、星を救う旅だって言った。間違ってないけど、真実じゃなかった。世界で起きてる犠牲に目を瞑って、この場所を救いたかった。私の「罪(エゴ)」」 ステラ:「きっと、守りたかったんだよ。この胸にある、この「心」は。家族と過ごした思い出の場所を。家族が愛したこの場所を。ねぇ、ノア」 ノア:「…なに?」 ステラ:「私たちは「現象(システム)」。本来ならこんな自我が芽生えることも、心が生まれることもない。じゃあ、どうしてって考えてた。そして、わかったの」 ステラ「10年前、クレーネに巻き込まれたその子は願った。家族が愛したこの景色を、世界を、この目で見てみたいって」 ノア:「…え?」 ステラ:「厄災(やくさい)の時が訪れた直前、クレーネに巻き込まれた女の子。星の墓標に沈み、その命を星に還した女の子。…あなたがくれた、この名前の持ち主」 ノア:「すて…ら…?」 ステラ:「その子の思いが、心が、この星に溶け私たちが生まれた。貴方の妹は、この星とひとつになった」 ノア:「…すてらが、いるの?あなた達の中に…?」 ステラ:「…ううん。私たちには心がある。これはきっと彼女が抱いた「心」だった。「夢」だった。でも、彼女はもう此処にはいない。それでも、叶えたかった。彼女の夢を。運命に逆らっても」 ステラ:「「あなたと一緒に旅に出たい」。この旅は、彼女の夢を叶える旅だった」 0:ステラ ノアに抱き着く ステラ:「ありがとう、一緒に夢を叶えてくれて。ありがとう、一緒にいてくれて。彼女の心を、届けれてよかった」 ノア:「ステラ…すてら…ごめん、ごめんね…。手を離してごめん。独りにしてごめん。…私も、嬉しかったよ…あなたの夢を叶えられて、嬉しかった…うれし、かったよぉ…」 ステラ:「うん…うん…!楽しかったよ…2人と過ごしたこの時間が、永遠に続けばいいって思うくらい、楽しかった…!」 ヒバリ:「ステラ…」 ステラ:「…でも、もういかなくちゃ。奇跡の時間はもう終わり。夢の時間は、いつか終わりが来る。…でも、待っててね、きっと、きっと、素晴らしい世界を、届けるから!」 レイ:「いいのか?」 ステラ:「うん…いこう…」 レイ:「わかった。お前がかけがえのない時間を過ごせてよかった。この出会いには意味があった。俺たちがどれだけ時間を重ねても、きっと起こりえないことだったのだろう」 ステラ:「うん。だから、思い出も、祈りも、全部持っていこう。…ごめんね、心配かけさせて」 レイ:「…お前が無事なら、それでいい」 0:レイとステラが手を繋ぎ、2人星の最奥の光を目指す 0:少しづつ遠くなっていく距離の中、ステラがくるりと振り返る ステラ:「ノア…ヒバリ…ばいば」 ノア:「まっっっっっっっ!!!!」  :  (間)  :  ノア:「たッッッ!!!!」  :  (間)  :  ヒバリ:「おい…この場面でいきなりなんだよお前、空気が読めないにもほどがあるだろ…」 ノア:「空気なんか知らないわよ…。でもね、決めた。ずっと悩んでた。どうすればいいかわかんなかった。でも、ようやくピースが埋まった」 ヒバリ:「ノア…?」 ノア:「…ヒバリ、ごめん。多分、また迷惑かける。しかもすっっっごい迷惑を」 ヒバリ:「お前、この期に及んでまだ私に迷惑かけるつもりか?」 ノア:「うん、でも、決めたから。お願い。私の、一生のお願い」 ヒバリ:「……(ノアの目を見て、表情を和らげる)。はぁー…。いいよ。お前のそんな顔見たらさ、断れないよ私は…お前がどんな答えを見つけたのか、見届けてやるよ」 ノア:「ありがとう…。ねぇ、私いま、どんな目してる?」 ヒバリ:「…昔のまんまだよ。私が大好きだった、星(かがやき)が眩しいあの日の目だよ」  :  ☆ノア ステラとレイの前に駆け出す  :  ステラ:「…ノ、ノア、どうしたの?」 レイ:「………なんのつもりだ貴様」 ノア:「(大きく息を吸って)選手交代」 レイ:「あ?」 ノア:「代打、私」 レイ:「は?」 ノア:「だから、選手交代って言ってるでしょ。青学(せいがく)の柱か鬼殺しの柱か知らないけど、わたしが替わる。私が、星の柱になる」 レイ:「…寝言は寝て言え。ただの人間が関与できるものではない」 ノア:「(遮って)ただの人間だったら出来ないかもしれない。でもさ、あんたは散々ヒントをくれた。だから、私はこの答えを出せた」 ステラ:「ノア…?」 ノア:「あの日、すべてを失った日。あの子の手を離した日。私も、此処に墜ちてきたんだ。だから、ずっとこの光を覚えていた。この場所にきて、なつかしさを感じた。おかえりって、言ってくれてる気がした」 ノア:「…あるんでしょ?私にも、星の力ってやつが。此処に墜ちて、私だけが地表に押し戻された。でも、その時に私の中にも宿ったんじゃないの?星の力ってやつ。だから、レイは私を見て疑問を浮かべたんじゃないの?ただの人間に、宿るはずがないのにって」 レイ:「……」 ノア:「だから、一端でも力がある私なら、その子の代わりになれるんじゃないの?」 レイ:「…気づいたのなら真実を告げよう。お前の中には微弱だが俺たちと同じ力が溶け合っている。俺たちのように超常の力を持つわけではないがな」 ノア:「だったら」 レイ:「(遮って)だが、お前の力では今の星の厄災には対抗できない。お前が、人間であり続けるのなら」 ノア:「だったら、私が人間やめたらどうなの?」 レイ:「……命を投げ捨てる気か」 ノア:「命を懸けてるのよ。どうなのよ」 レイ:「…おそらく、可能だろう。人間に戻れる保証はないがな」 ステラ:「待って!!待ってよ!?ノア、なんでそんなことを言うの!?これは、私がやらなきゃいけないことなの!ノアをこれ以上私たちの事情に巻き込まないためにも!だから!!」 ノア:「…でもね、あんたの夢、まだ全部叶えてないもん。あの子はさ、ずっと言ってたよ。この星を、旅してみたい。お父さんやお母さんみたいにって」 ステラ:「それはノアの夢でもあるんでしょ!?だったらノアが叶えなよ!私は…私は、星を治して、ノアやヒバリが平和に暮らせる世界を作りたい!あなたがその夢を叶えれるように、この星を救わなきゃいけないの!」 ノア:「でも、この旅を通してあんたはどうだった?その心は私の妹のモノかもしれない。でも、あんたから見てこの旅はどうだった?奇麗だって、思わなかった?」 ステラ:「…思ったよ。ノアと一緒に見た星空。この世界には、そんな心を震わせるような景色がまだたくさん広がってるって思ったよ」 ノア:「それを、あんたは見てみたいって思わなかった?」 ステラ:「……思ったよ。こんな奇麗な世界に、また出会いたいって」 ノア:「うん、よし。その言葉を聞けたなら…よっと。せーーーの!!」  :  ノア ステラを抱き上げヒバリのほうに放り投げる  :  ステラ:「わ、わ、うわーーーー!?」 ヒバリ:「よっと!」 ステラ:「…ッ!待ってよノア!ヒバリ、離してよ!!ノアが、ノアが!!」 ヒバリ:「あー悪いな、ステラ。あいつは、一度決めたら覆さないよ。それにさ、私はその答えを見届けるって決めたから」 ステラ:「ヒバリ…!ノア、どうして!もう、日本は安全なんだよ!ノアたちが災害に怯える必要はないんだよ!!ノアが命を懸けることなんて何もないんだよ!!」 ノア:「うん…あんたのおかげで、日本は安全だろうね。でも、世界は?今でも苦しんでる人たちはたくさんいる。私みたいに今でも苦しみ続けている人達が。あんたが還ったとしても、星の修復には時間がかかるんでしょ?」 ステラ:「それは…」 ノア:「それに私はね、優しさだとか同情だとかで役目を変わるわけじゃないの。むしろ、あんたにもっと重たいもの背負わせるつもりなの。身勝手で我儘な、そんなものを」 ノア:「ねぇ、ステラ。この星を旅してさ、この星を救ってよ。私みたいに苦しみ続ける人たちをさ、一人でも多く救ってよ。私にはそんな力はないけど、あんたにはその力があるんだから」 ステラ:「え…?」 ノア:「世界を旅したいって夢を持ってた。でも、今は苦しんでいる人たちを救いたいって願いもある。勝手だけどさ…私の夢を、連れて行ってよ。この星を見て回りたいっていう、あんたの夢もひっくるめてさ」 ステラ:「どう…して…」 ノア:「…やっぱりあんたは私の家族だもん。私のもう一人の妹だもん。だから、半端な夢のまんまで眠ろうとしてるあんたの願いを、叶えたいもん。私はお姉ちゃんだからさ」 ステラ:「でも、ノアはいいの!?もう、この場所に戻れないかもしれないんだよ!仮に私がこの星を救えたとしても、どれだけ時間がかかるかわからないんだよ!?だったら…」 ノア:「…うん、私の居場所は存在しないかもしれない。それでもさ、生きてよ。あの子の心を持った貴方だからこそ、生きてよ。その心に従ってさ、あんたの人生を生きてよ」 ステラ:「心…?」 ノア:「そ。心のままに、いきなさい。あんたの夢を叶えるために。途中でつらくなったら、その荷物降ろしてもいいよ。でも、もしも願いが叶うならさ」 ノア:「お願い、聞いてよ。おほしさま?」 ステラ:「…いいの?わたし、自分の勝手な都合で、たくさんの人を傷つけたんだよ…?」 ノア:「あんたがそれを罪だっていうなら、そのぶん人を救いなさい。その重荷も全部ひっくるめて生きなさいよ。この世界を」 ステラ:「…いいの?私は、自分の夢を追う資格、あるの…?」 ノア:「ある。誰だって、夢を見る権利はある。それを叶える力を、あんたは持ってる。あんたは、自分の足で歩ける。だから…」 ノア:「歩きなよ、あんたの、最初の人生を」 ステラ:「……うん、うん。連れて行くよ…ノアの、夢、ステラの夢…私の夢、全部ひっくるめて…この星を、救って…そして…必ず、此処に還ってくるから!また、ノアと、あの星空を見たいから!!だから…!!」 ノア:「…うん、約束、ね。…ヒバリ、ごめんね?最後の最後まで迷惑かけて」 ヒバリ:「…全くだよ。何年お前を支えてたと思ってるんだよ…勝手にいなくなるなんて決めやがって」 ノア:「……」 ヒバリ:「…でも、許してやる。最後に、私が会いたかったノアにまた会えた。この子のことは任せとけ。ちゃんと、私が面倒みてやる」 ノア:「……うん、ありがとう。バイバイ、親友」 ヒバリ:「……あぁ、じゃあな。親友」  :  レイ:「…別れは済ましたか?」 ノア:「うん、いきましょうか」 ステラ:「…ノアッ!!!!」  :  2人、立ち止まる  :  ステラ:「ありがとう…私に、優しさをくれてありがとう!夢をくれてありがとう!命を、くれてありがとう!!必ず、ノアの夢も連れて、私の夢を、叶えてみせるから!!」  :  ノア:「………うん、安心した」  :   :  くるりと振り返り、にかっと笑顔を見せて  :   :   :  ノア:「――さよなら、私の一番星。あんたの旅路に、星の界(よ)の煌めきがあらんことを」  :   :   :  ヒバリM:『そうにかりと笑って、私の大好きだった親友は、星色の青い光の中へと、消えていった』  :   :  『星の墓標 中枢』 ノア:「…………ここが、この星の最奥。すべてが始まった場所。最初に生まれた、命の海…」 レイ:「…感謝する」 ノア:「…なにがよ」 レイ:「俺たちの中の心は、きっとお前の妹の心から派生したものだ。その心の夢を叶えたいという渇望は、あの子が夢を叶えたときにきっと果たされることだろう」 ノア:「…そっか、あの子だけじゃなくて、あんたたちの心の中にもいるんだ」 レイ:「あぁ。きっと、心は報われる。あの子も世界を見れる。その道のりは険しいものになるだろうがな」 ノア:「重たいもの背負わせちゃったものね。だから、これがきっと私の罰、か。で、私は人間やめるためになにすればいいの?」 レイ:「何もしなくていい。お前が星の源泉にたどり着くことで、あの子が待って行った分の力を補うために、この星と溶け合う。それだけでいい」 ノア:「…結局死んじゃうってわけか…あの子が持って行った力のために私が借金のカタに売られたような構図がしてちょっと気持ち悪いかも…」 レイ:「…いや、死ぬわけじゃない。あの子がお前を迎えにくるまで、眠り続けるんだ。どれだけの時間になるかは想像もできないがな」 レイ:「お前はずっと夢を見るんだ。この星とひとつになり、長い長い夢を」 ノア:「そう…凶夢(まがゆめ)じゃないことを祈るばかりね…」 レイ:「眠るがいい、美船ノア。お前は、どんな夢を見る?」 ノア:「……そんなの、決まっている」  : 徐々に、ノアの身体が粒子となり星と溶け合っていく  :  ノアM:「あの日見た景色をもう一度。約束を果たすために、ずっと思い描き続けよう。2人で見た、あの満天の星の夜の夢を―――」  :  :   :   :   :  ステラ:「……」 ヒバリ:「……」 ステラ:「…ねぇ、ヒバリ。世界って、広いかな」 ヒバリ:「…あぁ、広いよ。今回の旅がちっぽけになるくらい、ずっと広いよ」 ステラ:「…重たい夢、背負わされちゃったなぁ」 ヒバリ:「…だったらやめるか?」 ステラ:「ううん、やめない。だって、必ず還ってくるって約束したから」 ヒバリ:「…そっか、私もできる限り手伝ってやるよ」 ステラ:「…ありがとう、ヒバリ。でもいいの?」 ヒバリ:「いいよ。あたしだって託されたからな、お前のこと。でも、私が生きてる間に終わらせような?あいつのことぶん殴りたいから」 ステラ:「あはは…。うん、任せて」  :  ―2人、出口へと向かう  :  : ステラM:「旅人と名前を与えられた星は、地表を目指して船を漕ぎ、その地にたどり着いた。ずっとずっと支えてくれていたその船は、帆をたたみ、星の海へと沈んでいった。いつか、必ず迎えにいくと、夢と願いを託された旅人たちは星を歩く。長い、長い道のりを」 ヒバリM:「その船は、無窮の遠(おち)へと沈みながら夢を見る。かつて抱いた景色を描きながら、星の海へと沈んでいく。星の鼓動を感じながら、長い長い夢を見る」  : ノア:『――いってらっしゃい』  : ステラ:「ッ…(振り返る)……………うん」  :   :   : ステラ:「いってきます、お姉ちゃん!」  :  : ステラM:「ずっと、ずっと、夢を見る」 ステラM:「世界が目覚める 夢を見る」  :   :  ☆☆☆  :   :  :   :  ☆☆  :   :  :   :  after glow   :  :   ☆  :   : ラジオの声:「厄災期とまで呼ばれていたほどまでに世界で頻発していた災害でしたが、ここ数年その件数は減少傾向にあります。最初期に発生した災害件数に比べますと、近年の減少傾向はまさしく奇跡とまで言われ、環境系の回復が確認できた地域も多数報告されています。」 ラジオの声:「一時は滅亡寸前とまで言われていたこの時代ですが、このまま「奇跡の時間」を順調に過ぎれば、再びかつて存在したであろう平和な時代を呼び戻せるのではないかという―――」  :   : 【ニュージーランド マッケンジー盆地】  :   : ステラ:「…見つけた」 通信越しの声:「あぁ、こっちでも観測できたよ。ニュージーランドのマッケンジー盆地。ジョン山近辺で「星の傷痕(クレーネ)」の反応を感知。周辺状況もリアルタイムで観測したが微小クレーネの発生は確認できない」 ステラ:「うん、ここからでも見える。多分もともと天文台がある付近じゃないかな?」 通信越しの声:「正解。ジョン山周辺の地形はだいぶ変わっちまってるがよくわかったな」 ステラ:「うん…本で読んだことがある。世界で一番、星に近い場所だって」 通信越しの声:「そうか。周辺のクレーネの濃度が強すぎてここからじゃ流出地点までの誘導ができない。悪いが…」 ステラ:「大丈夫。このくらいの悪路(あくろ)なら問題ないよ」 通信超しの声:「頼もしいことで。こっからは通信はクレーネを閉じなければできないだろうよ。私はもう一度各地のクレーネが発生してないか観測してみる。観測できなければ正真正銘…」 ステラ:「うん。ここが、最後のクレーネになる。ありがとう。あとは一人で大丈夫だよ。クレーネを閉じたらまた連絡するね」 通信超しの声:「あぁ。検討を祈るよ」 0:デバイス超しの通信が切れる ステラ:「…ようやく、たどり着いた。ここが、最後の「星の傷痕(スタークレーネ)」」 0:ステラ 自分の手のひらを見つめる ステラ:「…大丈夫。きっと、まだ持つ。だから…待っててね…」 0:バイクのエンジンをかけ、小高い丘を駆け降りる  :  : ステラ:「ノア」  :   :  :   : Epilog「終わるほしのよに、最後のユメを」  :   :  :   :   :   : 【ジョン山 星の震源】 ステラ:「…見つけた。最後のクレーネ。これを閉じれば…ぜんぶ、終わる。お願い…最後までもってね…」 0:両手をクレーネに掲げる ステラ:「座標を固定。防壁テクスチャを地表に定着。星の血脈を縫合。最後の奇跡を、此処に。「星窯(プロテクト)」」 0:徐々に光が静まっていき、そのすべてが大地に収集された後、完全に傷口が閉じる ステラ:「終わった…これで…あ…」 0:どさりと仰向けに倒れる ステラ:「…疲れちゃった。ちょっと…休憩…」 ステラM:『時間を重ねる度に、傷口を塞ぐ度に、どんどん力が弱まっていくのを感じていた。だから、直感的にわかってしまう。きっと、これが最後なんだって』 ステラ:「でも…でも…わたし、がんばったよね…ノア………」  :   :  :   ☆  :   :  :  レイ:「星の正常な流転(るてん)を確認。溢れ続けていた星の力が蓄積されていくのを確認した。星の自滅プログラムを強制凍結。このまま正常な循環を繰り返せば、時間をかけずに星は息吹を取り戻すだろう」 レイ:「…同胞たちよ、今は安らかに眠ってくれ。長い時間、この星のために力を酷使し続けてくれて、感謝する。」 レイ:「ステラ…やり遂げたんだな。夢を、叶え続けたんだな、お前は。……さてと」 レイ:「おい、いつまで眠り続ける?約束の時だ。いい加減目覚めたらどうだ?」  :   : レイ:「長い長い、夢のおわりだ」  :  :   :  ☆  :   :  :  通信越しの声:「…ラ。…テラ!…ステラ!!」 ステラ:「ん…ふぇ…おはようございまむ…」 通信越しの声:「おはようございまむじゃねぇ!通信が回復してから何時間経ってると思ってるんだ!」 ステラ:「…あれ、もう夜?」 通信越しの声:「そうだよ。ったく、心配させやがって」 ステラ:「…ごめんなさい」 通信越しの声:「…あれから何度か、世界規模で観測を繰り返した。だからこそ、断言できるよ。この星で発生してるクレーネはゼロ。…文字通り、星の流血は完全に止まったよ」 ステラ:「…そっか。よかった」 通信越しの声:「なぁ、最初は誤作動かと思ったが、何度やっても反応がない。お前の身体にはもう…」 ステラ:「うん…多分、もう星の力は使えないと思う」 通信越しの声:「…お前は、これからどうするんだ?星の力を使えないってことは、お前はもう還れないってことだろ?」 ステラ:「…どうしようかな。とりあえず、今はね、星が見たいな」 通信越しの声:「はぁ?」 ステラ:「此処ってね、世界で一番星に近い場所なんだって。だから、星を見上げて、ゆっくり考えてみるよ。私のこれからを」 通信越しの声:「…そうか。こっちに帰る準備ができたらすぐに連絡しろよ」 ステラ:「うん。…今まで、ありがとうね」 通信越しの声:「…あぁ」  :  :   :  ☆  :   :  :  【マッケンジー盆地 星に届く湖】  : ステラ:「…此処が星に届く湖。何処までも変わらない、永遠の星空…。奇麗だな、すごく奇麗。水面に照らされた湖にも星空が写ってる。まるで、星の海だ…」 0:湖の近辺で座り込む ステラ:「…時間を、かけすぎちゃったのかなぁ。無茶、しすぎちゃったのかなぁ。私の中の星の力が、どんどん弱まっていっているのには気づいてた」 ステラ:「でも、きっと。最後まで持つって信じてた。自惚れてた。でも、確信に変わった。きっと、私はもう星の墓標にまでたどり着く力はないって…」 ステラ:「私は、約束よりも夢を届けることを選んだ…星を完全に治すことを選んだ…でも…よかったのかな…これで…よかったのかな…」 ステラ:「…会いたいなぁ…会いたいよ…また、一緒に…星を見たいよ…この星空を…2人で見たいよ…」  :   :  :  :   : ほしのこえ:「~♪(鼻歌)」  :   :  :  : : ステラ:「………ぇ?」  :  : ほしのこえ:「こんばんは、星の旅人さん。いい夜ね」  :  : ステラ:「……ぁ…」 ほしのこえ:「ねぇ旅人さん。どうしてそんなところで俯いて座り込んでるの。こんなにも奇麗な星空が広がっているのに」 ステラ:「…うん、本当に、奇麗な星空…」 ほしのこえ:「そうね…星の彼方にまで続いていく、宙(そら)の奇跡…。昔ね、こんな風に一緒に星を見た女の子がいたの」 ステラ:「…うん」 ほしのこえ:「私はね、その子に亡くしたものを写して、とてもとても重いモノを持たせて別れてしまったの。身勝手に、一緒に夢を連れて行ってほしいとまで言ってね」 ステラ:「……うん」 ほしのこえ:「…今でもね、たまに後悔するんだ。私はその子にとんでもなく重いモノを持たせて、縛り付けてしまったんじゃないかって。何も考えず、平和な国で日常を過ごさせるっていう選択肢もあったはずなのに」 ステラ:「…そんなこと、ないよ」 ほしのこえ:「……」 ステラ:「その子はね、ずっと夢を見続けていたの。胸の暖かな心に従って、起こるはずのなかった奇跡を噛みしめて。確かに、重かったかもしれない。苦しかったかもしれない。投げ出したくなる時が、あったのかもしれない」 ほしのこえ:「…投げ出しても、よかったんだよ」 ステラ:「ううん…約束したから。その人の夢を届けるって。その人にたくさんのモノをもらったから。夢を貰った、心を貰った、命を貰った、生きる喜びを、貰った。だから、此処までたどり着けたんだよ」 ほしのこえ:「…そう…。ねぇ、どうだった、この星は、奇麗だった?あなたの旅は、いい記憶だった?」 ステラ:「…うん!きっと、この星が終わっても色あせないくらい、眩くて、素敵だった!!永遠に忘れないくらい、この旅は素晴らしかったよ」 ほしのこえ:「…よかった。本当によかった。貴方の旅は、人生は。この星空に負けないくらい、輝いていたんだね」 ステラ:「…うん。でもね、やっぱり寂しかったよ。いろんな景色を、一緒に見たかったから。…それでも、頑張れたんだよ。…あなたに、また会いたかったから…」 ほしのこえ:「…そっか」  :   :  レイM:「星の旅人は月明りを頼りに その場所へたどり着いた。星空を仰ぎ眺める万里の彼方。いつか沈んだはずの星の墓標へ」 ヒバリM:「人生は星の縮図。無窮(むきゅう)の果て きらめく夜空の果てで どんな暗礁(あんしょう)であっても 星の旅人は歩みを止めなかった」 ステラM:「眠り続けるこの星で 芽吹く世界で生きるために 星の空の下 再び出会える奇跡を信じて」  :  :  :   :  ノア:「おかえり、私の一番星。貴方の旅路に、星(かがやき)があり続けて本当によかった」  :  ステラ:「ただいま、お姉ちゃん。誰よりも暖かで、誰よりも思ってくれた 私の宙船(そらふね)」  :   :   :   :  ノアM:「そうやって 貴方と夢を見続ける」  :   :  みんな:「ほしのよの夢を、見続ける」  :   :   :                        「終劇」