台本概要

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タイトル 友達届にまつわる祝福と呪いの物語
作者名 遠野太陽  (@10nonbsun)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(女1、不問1)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 中学生の2人の少し不思議なラブストーリー。回想シーンで小学3年生を演じます。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
テツヤ 不問 178 中学生男子。
マナミ 173 中学生女子。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
マナミ:(M)これは、友達届の祝福と呪いの物語。 0:  テツヤ:マナミ、大事な話があるんだ。 マナミ:なによ、いきなり? テツヤ:えっと…。 マナミ:どうしたの、真面目な顔して。テツヤ、キモいよ? テツヤ:キモいってなんだよ。 マナミ:だって、らしくないし。 テツヤ:真面目な話なんだ。ちゃんと聞いてくれよ。 マナミ:な、なによ? テツヤ:だから、俺…。 マナミ:……えっ? 嘘? そういうこと? テツヤ:なにが? マナミ:なんでもない。続けて。 テツヤ:お、おう。 マナミ:……。 テツヤ:……やっぱ、緊張するな。 マナミ:早く言いなさいよ。男でしょ。 テツヤ:わかった。 マナミ:あ、ちょ、ちょっと待って。 マナミ:(深呼吸) マナミ:はい。言っていいわよ。 テツヤ:今のなに? マナミ:深呼吸。 テツヤ:なんで? マナミ:こっちも心の準備がいるの。 テツヤ:そうなの? マナミ:そうよ。ほら、早く言って。 テツヤ:わかった。 マナミ:……。 テツヤ:俺、彼女が出来た。 マナミ:………………………え? テツヤ:彼女が出来た。 マナミ:はああああああ⁉ 0:  マナミ:(M)中学三年の夏休み。 マナミ:テツヤに彼女が出来た。 マナミ:テツヤと出会ったのは小学三年生の時。テツヤの隣の家に引っ越してきた私は、初めての転校に戸惑い、友達を作れずにいた。転校して一週間後、「学校に行きたくない」と両親に訴えると、困った母はテツヤに助けを求めた。 0:  テツヤ:おはよう、マナミちゃん。一緒に学校行こう。 0:  マナミ:(M)朝、玄関に立つテツヤは太陽のような笑顔で私を待っていた。 0:  テツヤ:僕、隣に住んでるナガノテツヤ。マナミちゃん、僕と友達になってよ。 0:  マナミ:(M)テツヤは私の母から「マナミのことをよろしく」と言われたらしい。テツヤは玄関から動かない私の手を取って、力強く引っ張った。 0:  テツヤ:それじゃ、行ってきまーす! マナミ:……行ってきます。 0:間 テツヤ:マナミちゃんは学校楽しくないの? マナミ:前の学校のほうがよかった。友達もたくさんいたし。 テツヤ:そっか。まだ友達いないの? マナミ:うん。 テツヤ:じゃあ僕がこっちの友達第1号だね。 マナミ:……テツヤくんは学校楽しい? テツヤ:うん。僕が楽しいこといっぱい教えてあげるね。 マナミ:……うん。 0:  マナミ:(M)テツヤは隣のクラスの男の子。太陽みたいに明るくて、みんなの人気者だった。放課後、テツヤは友達のグループに私を入れようとしてくれた。 マナミ:でも、完成された仲良しグループの中に飛び込んで、すぐに仲良くなれるほど私は器用ではなかったから、私はすぐに一人ぼっちに戻ってしまった。 0:  テツヤ:マナミちゃん、一緒に遊ぼう。 マナミ:遊びたくない。 テツヤ:どうして? マナミ:私と一緒にいても楽しくないでしょ? テツヤ:そんなことないよ。 マナミ:テツヤくんは友達いっぱいいるでしょ。私よりもっと仲良しな人と遊んだほうが楽しいでしょ。 テツヤ:僕はマナミちゃんと遊びたい。 マナミ:お母さんに頼まれたからでしょ! テツヤ:そうだけど、それだけじゃないよ! マナミ:なんで⁉ テツヤ:なんでって……。 テツヤ:あ、そうだ! テツヤ:マナミちゃん、僕と一緒に友達届を出そうよ! 0:  テツヤ:(M)マナミのお母さんはテレビでよく見る女優さんみたいに綺麗な人だった。 0:  テツヤ:「マナミと仲良くしてあげてね」 テツヤ:その言葉に、俺は顔を真っ赤にして頷いたのを覚えている。 テツヤ:マナミはチビで痩せていて、ホントに同じ3年生かと思った。でも長い髪がとてもキレイで、母親によく似た整った顔立ちに、天使みたいだと思った。 テツヤ:一目惚れで、初恋だった。 テツヤ:友達届の伝説は、ひいじいちゃんから聞いていた。 テツヤ:天狗山のてっぺんに大きな木があって、その木には手のひらほどの穴が空いている。それぞれの名前を書いた2つの人形を用意して紐で結んでその穴に入れると、2人は強い絆で結ばれて、永遠に友達になれる。 テツヤ:それが友達届の伝説。ひいじいちゃんは仲の良かった友達と一緒に友達届を作って穴に入れた。そのおかげで2人とも戦争を生き抜いて帰ってくることができたそうだ。 テツヤ:ひいじいちゃんが亡くなった後も、なぜかこの話だけは心に残っていて……。 0:  マナミ:友達届? テツヤ:うん。天狗山のてっぺんに大きな木があってね。 0:  テツヤ:(M)俺はひいじいちゃんから聞いた友達届の伝説をマナミに話した。 0:  テツヤ:そうすれば僕たちはずっと友達になれるんだ。 マナミ:本当に? テツヤ:うん。 マナミ:これから先、ずっとテツヤくんは私と友達でいてくれるの? テツヤ:もちろん。 0:  テツヤ:(M)本気で友達届の伝説を信じていたわけじゃない。その時の俺は、俺の気持ちを形にするにはこれしかないと思ったんだ。 テツヤ:次の日曜日。俺とマナミは名前を書いたおもちゃの人形を持ち寄って紐で結び、それを持って天狗山を登った。天狗山は小学校の裏側にある標高約四百メートルの小さな山。麓から車が一台ギリギリ通れるほどの細い道が山頂まで伸びている。 テツヤ:大きな杉の木に覆われた山道は薄暗くて、雨も降ってないのにしっとりとしていた。 0:  マナミ:ちょっと怖い。 テツヤ:大丈夫? マナミ:……うん。 マナミ:テツヤくん、手繋いでもいい? テツヤ:えっ、うん。いいよ。 マナミ:(テツヤと手を繋いで)ありがと。 0:  テツヤ:(M)マナミの小さな手は少しひんやりとしていた。俺はマナミの手を握って、俺がマナミを守らなきゃと強く思った。俺はマナミに何度も声をかけながら山を登った。 テツヤ:ひらけた山頂には、ひいじいちゃんが言ったとおり大きな木が一本立っていた。その木がまるで天狗山の主のように見えた。 テツヤ:背伸びして手を伸ばした辺りに口を開けたような大きな虚(うろ)があった。ひいじいちゃんは2人で一緒に人形を入れろと言っていたけど、小さなマナミには届かなかった。だから、俺一人で背伸びして人形を穴に入れた。 テツヤ:音もなく人形が穴に吸い込まれた。その瞬間、心臓にチクリと痛みが走った。 0:  テツヤ:ううっ! マナミ:テツヤくん、どうしたの? テツヤ:あ、大丈夫。なんともない。 テツヤ:今のなんだったんだろ? テツヤ:まいっか。さ、帰ろう。 マナミ:これで、私とテツヤくんは友達になれたの? テツヤ:うん。友達届を出したから、僕とマナミちゃんはずっと友達だよ。 0:  テツヤ:(M)それからまた手を繋いで家に帰った。小さな冒険を終えて、俺とマナミは少しだけ仲良くなった。 0:  マナミ:(M)こうして、私とテツヤは友達になった。友達届のおまじないのおかげで、テツヤとは見えない絆で結ばれているような気持ちになった。 マナミ:だから、テツヤが別の友達と遊んでいても気にならなくなった。 マナミ:テツヤは私と一緒にいる時間を大切にしてくれた。二人だけで遊ぶ時間は、その頃の私の宝物だった。 マナミ:テツヤは私のヒーローだった。私が困っている時はいつも助けてくれた。 マナミ:誰もいない裏庭で転んで泣いていた時、テツヤが走ってきて私をおぶって保健室に運んでくれた。 マナミ:買ってもらったばかりの自転車のカギをなくして泣いていた時も、走ってやってきたテツヤが簡単にカギを見つけてくれた。 マナミ:そんなことは他にも沢山あった。私が泣いていると、いつもテツヤは来てくれる。 マナミ:気づいた時にはテツヤを好きになっていた。好きにならない理由はなかった。 0:  テツヤ:(M)俺はマナミの一番の友達。 テツヤ:それが誇らしくて、嬉しかった。 テツヤ:そんなある日のこと。 テツヤ:放課後、学校から帰ろうとすると、急に胸が苦しくなった。 0:  テツヤ:いでででで! テツヤ:な、なんだこれ……。 0:  テツヤ:(M)よくわからない痛みに悶(もだ)えていると、マナミの泣き声が聞こえた気がした。 テツヤ:助けに行かなきゃ。 テツヤ:俺はランドセルを投げ捨てて裏庭に走った。なぜかそこにマナミがいる気がした。 0:  マナミ:(泣いて)……。 テツヤ:マナミちゃん、大丈夫⁉ マナミ:テツヤくん? テツヤ:どうしたの? あ、膝から血が出でる。 マナミ:石につまづいて転んだの。痛いよぉ。 テツヤ:すぐ保健室に行こう。 マナミ:痛くて、歩けない。 テツヤ:ほら、僕がおんぶするから。 マナミ:ええ……。 テツヤ:早く乗って。 マナミ:うん。 0:  テツヤ:(M)最初は気のせいだと思った。でも、急に胸が痛くなる時は必ずどこかでマナミが泣いていた。 0:  テツヤ:ほら、あったよ。自転車のカギ。これだろ? マナミ:うん! あんなに探しても見つからなかったのに。どうしてテツヤくんはここにあるってわかったの? テツヤ:えっと……ここにある気がしたから。 マナミ:まるで魔法みたい。 テツヤ:魔法か。そうか。魔法かもしれない。 マナミ:テツヤくん、ありがとう。 テツヤ:うん。 0:  テツヤ:(M)これが友達届の効力なんだ。マナミを守るための不思議な力。 テツヤ:この力があれば、いつでもマナミを助けてあげられる。 テツヤ:俺は友達届に感謝した。 テツヤ:でも、この時の俺は気づいていなかった。 テツヤ:友達届の呪われた力に。 0:  マナミ:(M)中学生になって図太くなった私はたいがいのことでは泣かなくなって、テツヤが走ってやってくることもなくなった。いつしか私にも友達が増えて、テツヤとの関係を「夫婦みたいだ」とからかわれていた。 マナミ:二年生の夏、テニス部で一番上手だったテツヤはキャプテンに任命された。それなりにカッコよくて、バカでスケベに成長したテツヤは、なぜか女子に人気があった。 0:  マナミ:テツヤ、ちょっとそこに座りなさい。 テツヤ:なんだよ。マナミ、顔が怖いよ。 マナミ:正座しなさい。早く。 テツヤ:わかったよ。(正座して)なに、どしたの? マナミ:これから尋問(じんもん)を始めます。 テツヤ:尋問? マナミ:えー、クラスの女子からテツヤにある疑いがかけられています。 テツヤ:疑い? マナミ:テツヤの友達として私には真実を確かめる責任があるので、このような形を取りました。 テツヤ:なんなんだよ? マナミ:えー、この前の修学旅行の時、あなたは女風呂を覗いたそうですね? テツヤ:ぐはあっ!! マナミ:……今のリアクションは自白と受け取ってよろしいですか? テツヤ:違う違う違う違う。え、え、ちょっと待って。誰がバラした。いやいや、そうじゃなくて。な、なんでそんな話が広まってんの⁉ マナミ:今日の昼休み。校内放送でテツヤは職員室に呼び出されましたね。 テツヤ:はい。 マナミ:その時、松山君から言われた言葉を覚えていますか? テツヤ:あ、そうだ。教室を出ようとした時、「テツヤ、女風呂覗いたことバレたのかな?」って松山が言ったんだよ。 テツヤ:え、それで? テツヤ:(笑)なんだよ、あれは軽い冗談だよ。クラスの女子はみんなそれを本気にしてるの? テツヤ:いやいや、俺が女風呂を覗くわけないだろ。そんな冗談を本気にするなんてどうかしてるよ。 マナミ:そうではありません。その松山君の言葉にあなたはなんと答えたか、覚えていますか? テツヤ:えええ? ……なんて言ったっけ? マナミ:本当に覚えてない? テツヤ:……うん。 マナミ:だったら教えてあげます。あなたはこう答えました。 マナミ:「その件じゃないと思うけど」 マナミ:この言葉の意味がおわかりですか? テツヤ:……え? マナミ:「その件じゃないと思うけど」! マナミ:この台詞は女風呂を覗いたことを否定してはいませんよね⁉ テツヤ:……あ……。 マナミ:テツヤが教室を出た後、女子全員が騒然としました。テツヤがエロいことは知っていても、まさか女風呂を覗くような最低な男だとは思わなかったと。 テツヤ:ぐあ。 マナミ:そしてみんなが納得しました。あのテツヤならやりかねないと。 テツヤ:なにそれひどい。 マナミ:「ちょっと待って」と私は言ったわ。確かにテツヤはバカでスケベだけど、そんな奴じゃない。私が確かめるから時間をちょうだいと。 テツヤ:マナミ……。 マナミ:さ、本当のことを話して。正直に話せば場合によっては半殺しで済ませてあげる。 テツヤ:俺は覗いてない。本当だ! マナミ:じゃあ、どういうこと? テツヤ:夜、松山と野球部の奴らが俺の部屋に押しかけてきたんだよ。この部屋が女風呂に一番近い部屋だからって。 マナミ:それで? テツヤ:窓から外に出て、「一緒に行こうぜ」って言うから、仕方なく。 テツヤ:(頭を叩かれて)いてっ! マナミ:仕方なくじゃないわよ。松山君を止めなさいよ! テツヤ:その場のノリってのがあるんだよ。 マナミ:じゃあ断りなさいよ。あんたが一緒に行く必要はないでしょ! テツヤ:(唸る)うぅぅぅぅ。 テツヤ:俺も見たかったからです。 テツヤ:(叩かれて)いてっ! マナミ:正直すぎるわ! テツヤ:ごめん。でも本当に見てないんだ。女風呂を覆うように竹の柵が隙間なく並んでいて、細い隙間から目を凝らしても湯気で何も見えなくて。 マナミ:それで? テツヤ:柵を登ろうとしたけど無理だった。だから俺たちは苦渋の決断をした。 マナミ:諦めたってこと? テツヤ:そんなことで諦めるわけないだろ! マナミ:なに激しく否定してんのよ。 テツヤ:組体操で人間タワーを作れば一人だけでも覗けるんじゃね、ってことになったんだ。 マナミ:あのさ、男子ってみんなバカなの? テツヤ:それから魂のジャンケン大会で誰が上になるかを決めて。 マナミ:どんだけ全力なのよ。で、誰が勝ったの? テツヤ:俺。 マナミ:一番全力なのはあんたか! テツヤ:でも人間タワーを組んで持ち上げてもらった時に塀の上から俺の顔に大きなカエルが降ってきたんだ。「おわっ!」ってビックリしたらバランスが崩れて人間タワーが倒れて。「うおぉぉ!」ってみんなが声出したら女風呂が騒がしくなって。「やべぇ、逃げろ!」ってみんなで部屋に戻ったんだ。 マナミ:それ、本当でしょうね。 テツヤ:本当です。悪いのは全部秋山なんです。 テツヤ:(叩かれて)いって! なんで叩くんだよ⁉ マナミ:テツヤも同罪だからに決まってるでしょ! マナミ:見てないわけじゃなくて、失敗して見れなかっただけじゃない。 テツヤ:見てないのに叩かれるよ。 マナミ:うるさい! テツヤ:それに、俺は止めるつもりだった。 マナミ:あんたがそれを言う⁉ テツヤ:本当だよ! もしジャンケンで負けてたら、何か理由をつけて覗きを阻止してた。 マナミ:どうして? テツヤ:俺が見るのはいいんだよ。見たかったよ。でも他の奴らには見せたくなかったから。 マナミ:なにその自分勝手な言い分。 テツヤ:マナミの裸を見せたくなかったんだ。 マナミ:はあ⁉ テツヤ:マナミの裸を見ていいのは俺だけだ。 マナミ:テツヤにも見せるわけないでしょ! テツヤ:昔は一緒にお風呂に入ったことあるのに。 マナミ:小学生の頃でしょ。忘れなさいよ。 テツヤ:忘れられるか! あの頃のマナミの未成熟な体は今でも目に焼きついてる。 マナミ:いっぺん死ね、変態! テツヤ:あれからどれくらい成長したのか確かめたかったんだ。 マナミ:そのいやらしい手つきをやめろ! テツヤ:あの頃のマナミは可愛かったな。 マナミ:今はガサツで悪かったわね。 テツヤ:そんなこと言ってないだろ。 マナミ:言ってるわよ。 テツヤ:あの頃は可愛かったけど、今はすげぇ可愛い。 マナミ:え? テツヤ:これからもっともっと可愛くなるに違いない。だから他の男にマナミの裸を見られたくないし、マナミを誰にも渡したくない。 マナミ:テツヤ……。 テツヤ:だって俺、マナミのこと……。 マナミ:え? テツヤ:(心臓に激痛)いででででで! テツヤ:うががががが! マナミ:テツヤ、どうしたの⁉ テツヤ:ぐあ、ああああああ! テツヤ:うううう、かはっ! ぐうう! マナミ:大丈夫⁉ テツヤ:(荒い息を繰り返す) マナミ:テツヤ、苦しいの? 救急車呼ぶ? テツヤ:(大きく深呼吸を繰り返す) マナミ:テツヤ、しっかりしてよ! テツヤ:(苦しそうにしばらく笑って)……な~んちゃって。 マナミ:えぇ? テツヤ:驚いた? マナミ:平気なの? テツヤ:ドッキリ大成功。 マナミ:バカ! 本気で心配したのに。変な冗談やめなさいよ! テツヤ:(笑)悪かったって。 マナミ:なんなのよ、もう。 テツヤ:なあ、マナミ……。 マナミ:何よ? テツヤ:俺はお前のこと……。 マナミ:うん。 テツヤ:大切な友達だと思ってる。 マナミ:……え? テツヤ:この気持ちはこれからもずっと変わらないから。 マナミ:……うん。 テツヤ:いつまでも友達のままでいようぜ。 マナミ:……うん。 テツヤ:だから友情の証に裸を見せてくれ。 マナミ:見せるわけないでしょ! テツヤ:せめておっぱいだけでも。 マナミ:死ね。死んでしまえ。 0:  マナミ:(M)「いつまでも友達のままで」……。 マナミ:恋人にはなれないとハッキリ宣言された気がした。 マナミ:この時から、テツヤに抱いていた淡い恋心を、私は心の奥底に隠した。 0:  テツヤ:(M)マナミに思いを伝えようとした瞬間、マナミが泣いた時の何倍もの痛みが襲ってきた。 テツヤ:苦しくて、このまま死んでしまうかと思った。 テツヤ:そして気づいた。この痛みは友達を辞めようとした罰なのだと。 テツヤ:二人は永遠に友達。 テツヤ:これは友達届の呪いだ。 テツヤ:この苦痛をマナミに与えるわけにはいかない。 テツヤ:俺のやるべきことは一つだった。 テツヤ:マナミへの想いを心の奥底にしまいこむと潮が引くように胸の痛みが消えた。 0:  マナミ:テツヤ……。 テツヤ:俺はお前のこと……。 マナミ:うん。 テツヤ:大切な友達だと思ってる。 0:  テツヤ:(M)俺とマナミは恋人同士にはなれない。 テツヤ:このままずっと……。 0:  マナミ:(M)テツヤとの関係は相変わらずだった。仲のいい友達。それ以上でも、それ以下でもなかった。 マナミ:私は何度か別の男子から告白された。テツヤの彼女になれないなら、別の誰かでもよかったのに。私は告白を断り続けた。 マナミ:中学三年生になっても、私たちはお互いの部屋を訪れることを辞めなかった。 マナミ:むしろ友達のほうが気楽でいい。この関係も悪くない。そう思っていた夏休み。 マナミ:テツヤに爆弾を落とされた。 0:  テツヤ:俺、彼女が出来た。 マナミ:………………………え? テツヤ:彼女が出来た。 マナミ:はああああああ⁉ テツヤ:テニス部の後輩なんだけどさ、入部した頃から好きでしたって言われて。 マナミ:OKしたの? テツヤ:うん。人生初彼女。 マナミ:なんでそれを私に報告するのよ? テツヤ:自慢したくて。写真見る? マナミ:あるの? テツヤ:(スマホを見せて)付き合った記念に二人で撮った。 マナミ:あんたスマホの待ち受けにしてるの? マナミ:(写真を見て)え、うわ、バカっぽそう。 テツヤ:うるせぇ。 マナミ:テツヤはこういうのがいいんだ。なんて名前? テツヤ:めぐみ。 マナミ:めぐみぃ? テツヤ:坂本めぐみだよ。 テツヤ:そんなこと聞いてどうすんだよ。 マナミ:この人のどこがよかったの? テツヤ:顔。 マナミ:見た目だけ? テツヤ:上目づかいで俺を見上げる時の顔とか。あと声が可愛い。 マナミ:ああ、もういいわ。聞きたくない。ごちそうさま。初彼女、おめでとう。 テツヤ:ありがと。今度の日曜、デートするんだ。 マナミ:あっそ。 テツヤ:マナミにも早く彼氏出来るといいな。 マナミ:余計なお世話よ。 マナミ:あ、そうだ。用事思い出したから、もう帰るね。 テツヤ:おう。 0:  マナミ:(M)彼女のどこがいいかなんて聞かなきゃよかった。嬉しそうに話すテツヤを見るのがこんなに辛いなんて。 マナミ:私、やっぱりテツヤが好き。 マナミ:どうして私たちは恋人になれなかったんだろう。 マナミ:そうだ。確か、友達届……。 マナミ:テツヤと出会った頃に二人で山に登って人形を木の中に入れたおまじない。 0:  テツヤ:(回想・小学三年生)友達届を出したから、僕とマナミちゃんはずっと友達だよ。 0:  マナミ:(M)その約束に助けられた私は、今、その約束に苦しんでいる。 0:  テツヤ:(M)万が一にでもマナミが俺を好きになることがあってはならない。 テツヤ:友達届の呪いがマナミを襲うことは絶対に避けなければならない。 テツヤ:だから、これでよかったんだ。 テツヤ:そして次の日曜日。俺はめぐみとのデートに向かった。 0:  マナミ:(M)朝、テツヤが家を出るのを部屋の窓からこっそりと盗み見て、ズキズキと痛む心臓を押さえる。 マナミ:どうしてテツヤは私じゃなくて坂本めぐみだったんだろう? マナミ:あのおまじないのせい? マナミ:友達届を出さなければ、私とテツヤは恋人になれたの? マナミ:その時、ある考えが思い浮かび、体が勝手に動いた。 マナミ:押入れの玩具箱から古い人形を二つ取り出し、黒のペンで背中に名前を書いた。 マナミ:一つはナガノテツヤ、もう一つは坂本めぐみ。 マナミ:なにやってんだろ。バカみたい。これはただのおまじない。こんなことしたって、二人が別れるわけもないのに。 マナミ:それでも私は、テツヤの帰りをただ待っていることなんて出来なかった。 0:  マナミ:(M)天狗山に登るのは、あの日以来だった。私は紐で縛った人形をバッグに入れて山頂に向けて一歩踏み出した。 マナミ:二人で手を繋いで歩いた思い出の道。 マナミ:ふと、出会った頃のテツヤの笑顔が浮かんできた。 マナミ:歩くたびにテツヤとの今までの思い出が次々に蘇ってきた。 マナミ:ポロポロと涙がこぼれた。私は泣きながら山を登った。 マナミ:山頂まであと少しのところで、いつの間にか真っ暗になっていた空から激しい雨が降り出した。 マナミ:ゲリラ豪雨だった。近くに大きな雷が落ちて、私は体を震わせた。  マナミ:もう最悪……。 マナミ:ずぶ濡れになった私は木陰に身を寄せた。 マナミ:残念だったねテツヤ。せっかくのデートだったのに。 マナミ:ざまーみろ。 マナミ:テツヤのバーカ。 マナミ:なにやってんだろ私……。 マナミ:こんな山の中でびしょ濡れになって。おまじないなんか信じて。 マナミ:友達届なんか出しても意味なんかないのに。テツヤが私より坂本めぐみが好きなだけなのに。 マナミ:……バカなのは私のほうだ。 マナミ:たとえフラレてしまっても、テツヤに気持ちを伝えればよかった。 マナミ:テツヤ……。 マナミ:会いたいよ、テツヤ……。 0:  テツヤ:(遠くから)マナミーーー! マナミ:……え? テツヤ:(走ってきて)マナミ、マナミー! マナミ:テツヤ⁉ テツヤ:マナミ! 怪我してないか? 大丈夫か? マナミ:……うん。 テツヤ:よかった。こんな山道で何かあったのかと思った。 マナミ:なんで……。 マナミ:なんで私がここにいるのがわかったの? テツヤ:そんな気がしたんだ。 マナミ:今日、デートだったんじゃないの? テツヤ:あー、急に帰ったから怒ってるだろうな。フラれるかも。ま、仕方ないか。 マナミ:なんで来たのよ。 テツヤ:マナミが泣いてたから。 マナミ:バカ。私はただの友達なのに。 テツヤ:だからって、ほっとけないよ。 マナミ:……。 テツヤ:……なんで泣いてたんだよ? マナミ:……。 テツヤ:なんでこんなとこにいるんだよ? マナミ:テツヤ。 テツヤ:なに? マナミ:私ね。 テツヤ:うん。 マナミ:私、テツヤのこと、ずっと前から……。 テツヤ:え⁉ ちょ、ちょっと待て。マナミ、やめろ。言うな。 マナミ:テツヤのことが好きだった。 テツヤ:(息を呑んで)マナミ! マナミ、大丈夫か⁉ マナミ:…………はぁ? テツヤ:…………へ? マナミ:おいこらテツヤ、あんた私の頭がおかしくなったと思ってるわけ? テツヤ:胸は苦しくないのか? 平気なのか? マナミ:平気なわけあるかバカ! マナミ:ドキドキして苦しいに決まってるでしょ! おまけに足も震えてるわ! テツヤ:いやそうじゃなくて。 マナミ:それに、告白してるのにそんなリアクションされたらショックで立ち直れないわよ! テツヤ:友達届の呪いは? マナミ:呪い? 何言ってるの? テツヤ:マナミは心臓を掴まれたみたいに「ぐわあああ」ってならなかったのか? マナミ:だからドキドキしたって言ったでしょ。 テツヤ:そんなもんじゃねぇよ。俺がマナミに告白しようとした時は死ぬかと思うくらいの激痛が……。 マナミ:え、告白? テツヤ:去年の修学旅行の後で、女風呂を覗いただろって言われた時。 マナミ:あっ、あの時の……。 マナミ:(笑)呪いなんてあるわけないじゃない。ドキドキしてただけでしょ。テツヤは少女マンガのヒロインか。 テツヤ:そんなはずない。あの痛みはただのドキドキじゃなかった。 テツヤ:呪いを受けていたのは俺だけだったってこと? テツヤ:そういや、俺が泣いてる時にマナミが来てくれたことはなかった。なんだよそれ、不公平だろ。 マナミ:なにわけのわかんないこと言ってるのよ。 テツヤ:それに、友達届の力があったから、いつもマナミの場所がわかったんだ。 マナミ:たまたまじゃないの? テツヤ:ホントなんだって。なんで信じてくれないんだよ。 マナミ:そんなのどうでもいい。 テツヤ:どうでもいいって……。 マナミ:ねぇ、テツヤ。 テツヤ:なに? マナミ:テツヤも私の事が好きなの? テツヤ:(言葉に詰まる)うっ……。 マナミ:私はテツヤが好きだよ。 テツヤ:俺も……マナミが……好きだ。 テツヤ:ああっ。言える。呪いが消えてる! マナミ:ドキドキしてる? テツヤ:ドキドキしてる。 テツヤ:俺、すげぇドキドキしてる。 テツヤ:マナミが好きだ。 テツヤ:好きだ好きだ好きだ。 テツヤ:俺はマナミが大好きだー! マナミ:私もテツヤが大好きー! テツヤ:でも、どうして呪いが解けたんだろう……。 テツヤ:まさか……! テツヤ:(走り出す)マナミ、山頂まで走るぞ。 マナミ:えぇ⁉ テツヤ:早く! マナミ:ちょ、ちょっと待ってよ! 0:  テツヤ:やっぱり……。 マナミ:木が二つに割れてる……。 テツヤ:雷が落ちたんだ……。 マナミ:……。 テツヤ:雷のおかげで呪いが解けたんだ……。 マナミ:テツヤ……。 テツヤ:なに? マナミ:雨、止んだね。 テツヤ:そうだな。 マナミ:あ、見て。虹が出てる。 テツヤ:ホントだ。 マナミ:キレイだね。 テツヤ:ああ……。 マナミ:手繋いでいい? テツヤ:お、おう。 マナミ:どうしたの? テツヤ:いや、あのさ。 マナミ:なに? テツヤ:濡れたTシャツからブラが透けて見えてて、正直、虹なんかどうでもいい。 テツヤ:(頭を叩かれて)いてっ! マナミ:ムード台無し。 テツヤ:(笑) マナミ:ホントバカなんだから。 テツヤ:(笑) マナミ:(笑) 0:  マナミ:(M)これは友達届の呪いと祝福の物語。 マナミ:それからいろいろあって、この日からちょうど十年後に二人で婚姻届を出すことになるのだけれど。 マナミ:それはまた、別のお話。

マナミ:(M)これは、友達届の祝福と呪いの物語。 0:  テツヤ:マナミ、大事な話があるんだ。 マナミ:なによ、いきなり? テツヤ:えっと…。 マナミ:どうしたの、真面目な顔して。テツヤ、キモいよ? テツヤ:キモいってなんだよ。 マナミ:だって、らしくないし。 テツヤ:真面目な話なんだ。ちゃんと聞いてくれよ。 マナミ:な、なによ? テツヤ:だから、俺…。 マナミ:……えっ? 嘘? そういうこと? テツヤ:なにが? マナミ:なんでもない。続けて。 テツヤ:お、おう。 マナミ:……。 テツヤ:……やっぱ、緊張するな。 マナミ:早く言いなさいよ。男でしょ。 テツヤ:わかった。 マナミ:あ、ちょ、ちょっと待って。 マナミ:(深呼吸) マナミ:はい。言っていいわよ。 テツヤ:今のなに? マナミ:深呼吸。 テツヤ:なんで? マナミ:こっちも心の準備がいるの。 テツヤ:そうなの? マナミ:そうよ。ほら、早く言って。 テツヤ:わかった。 マナミ:……。 テツヤ:俺、彼女が出来た。 マナミ:………………………え? テツヤ:彼女が出来た。 マナミ:はああああああ⁉ 0:  マナミ:(M)中学三年の夏休み。 マナミ:テツヤに彼女が出来た。 マナミ:テツヤと出会ったのは小学三年生の時。テツヤの隣の家に引っ越してきた私は、初めての転校に戸惑い、友達を作れずにいた。転校して一週間後、「学校に行きたくない」と両親に訴えると、困った母はテツヤに助けを求めた。 0:  テツヤ:おはよう、マナミちゃん。一緒に学校行こう。 0:  マナミ:(M)朝、玄関に立つテツヤは太陽のような笑顔で私を待っていた。 0:  テツヤ:僕、隣に住んでるナガノテツヤ。マナミちゃん、僕と友達になってよ。 0:  マナミ:(M)テツヤは私の母から「マナミのことをよろしく」と言われたらしい。テツヤは玄関から動かない私の手を取って、力強く引っ張った。 0:  テツヤ:それじゃ、行ってきまーす! マナミ:……行ってきます。 0:間 テツヤ:マナミちゃんは学校楽しくないの? マナミ:前の学校のほうがよかった。友達もたくさんいたし。 テツヤ:そっか。まだ友達いないの? マナミ:うん。 テツヤ:じゃあ僕がこっちの友達第1号だね。 マナミ:……テツヤくんは学校楽しい? テツヤ:うん。僕が楽しいこといっぱい教えてあげるね。 マナミ:……うん。 0:  マナミ:(M)テツヤは隣のクラスの男の子。太陽みたいに明るくて、みんなの人気者だった。放課後、テツヤは友達のグループに私を入れようとしてくれた。 マナミ:でも、完成された仲良しグループの中に飛び込んで、すぐに仲良くなれるほど私は器用ではなかったから、私はすぐに一人ぼっちに戻ってしまった。 0:  テツヤ:マナミちゃん、一緒に遊ぼう。 マナミ:遊びたくない。 テツヤ:どうして? マナミ:私と一緒にいても楽しくないでしょ? テツヤ:そんなことないよ。 マナミ:テツヤくんは友達いっぱいいるでしょ。私よりもっと仲良しな人と遊んだほうが楽しいでしょ。 テツヤ:僕はマナミちゃんと遊びたい。 マナミ:お母さんに頼まれたからでしょ! テツヤ:そうだけど、それだけじゃないよ! マナミ:なんで⁉ テツヤ:なんでって……。 テツヤ:あ、そうだ! テツヤ:マナミちゃん、僕と一緒に友達届を出そうよ! 0:  テツヤ:(M)マナミのお母さんはテレビでよく見る女優さんみたいに綺麗な人だった。 0:  テツヤ:「マナミと仲良くしてあげてね」 テツヤ:その言葉に、俺は顔を真っ赤にして頷いたのを覚えている。 テツヤ:マナミはチビで痩せていて、ホントに同じ3年生かと思った。でも長い髪がとてもキレイで、母親によく似た整った顔立ちに、天使みたいだと思った。 テツヤ:一目惚れで、初恋だった。 テツヤ:友達届の伝説は、ひいじいちゃんから聞いていた。 テツヤ:天狗山のてっぺんに大きな木があって、その木には手のひらほどの穴が空いている。それぞれの名前を書いた2つの人形を用意して紐で結んでその穴に入れると、2人は強い絆で結ばれて、永遠に友達になれる。 テツヤ:それが友達届の伝説。ひいじいちゃんは仲の良かった友達と一緒に友達届を作って穴に入れた。そのおかげで2人とも戦争を生き抜いて帰ってくることができたそうだ。 テツヤ:ひいじいちゃんが亡くなった後も、なぜかこの話だけは心に残っていて……。 0:  マナミ:友達届? テツヤ:うん。天狗山のてっぺんに大きな木があってね。 0:  テツヤ:(M)俺はひいじいちゃんから聞いた友達届の伝説をマナミに話した。 0:  テツヤ:そうすれば僕たちはずっと友達になれるんだ。 マナミ:本当に? テツヤ:うん。 マナミ:これから先、ずっとテツヤくんは私と友達でいてくれるの? テツヤ:もちろん。 0:  テツヤ:(M)本気で友達届の伝説を信じていたわけじゃない。その時の俺は、俺の気持ちを形にするにはこれしかないと思ったんだ。 テツヤ:次の日曜日。俺とマナミは名前を書いたおもちゃの人形を持ち寄って紐で結び、それを持って天狗山を登った。天狗山は小学校の裏側にある標高約四百メートルの小さな山。麓から車が一台ギリギリ通れるほどの細い道が山頂まで伸びている。 テツヤ:大きな杉の木に覆われた山道は薄暗くて、雨も降ってないのにしっとりとしていた。 0:  マナミ:ちょっと怖い。 テツヤ:大丈夫? マナミ:……うん。 マナミ:テツヤくん、手繋いでもいい? テツヤ:えっ、うん。いいよ。 マナミ:(テツヤと手を繋いで)ありがと。 0:  テツヤ:(M)マナミの小さな手は少しひんやりとしていた。俺はマナミの手を握って、俺がマナミを守らなきゃと強く思った。俺はマナミに何度も声をかけながら山を登った。 テツヤ:ひらけた山頂には、ひいじいちゃんが言ったとおり大きな木が一本立っていた。その木がまるで天狗山の主のように見えた。 テツヤ:背伸びして手を伸ばした辺りに口を開けたような大きな虚(うろ)があった。ひいじいちゃんは2人で一緒に人形を入れろと言っていたけど、小さなマナミには届かなかった。だから、俺一人で背伸びして人形を穴に入れた。 テツヤ:音もなく人形が穴に吸い込まれた。その瞬間、心臓にチクリと痛みが走った。 0:  テツヤ:ううっ! マナミ:テツヤくん、どうしたの? テツヤ:あ、大丈夫。なんともない。 テツヤ:今のなんだったんだろ? テツヤ:まいっか。さ、帰ろう。 マナミ:これで、私とテツヤくんは友達になれたの? テツヤ:うん。友達届を出したから、僕とマナミちゃんはずっと友達だよ。 0:  テツヤ:(M)それからまた手を繋いで家に帰った。小さな冒険を終えて、俺とマナミは少しだけ仲良くなった。 0:  マナミ:(M)こうして、私とテツヤは友達になった。友達届のおまじないのおかげで、テツヤとは見えない絆で結ばれているような気持ちになった。 マナミ:だから、テツヤが別の友達と遊んでいても気にならなくなった。 マナミ:テツヤは私と一緒にいる時間を大切にしてくれた。二人だけで遊ぶ時間は、その頃の私の宝物だった。 マナミ:テツヤは私のヒーローだった。私が困っている時はいつも助けてくれた。 マナミ:誰もいない裏庭で転んで泣いていた時、テツヤが走ってきて私をおぶって保健室に運んでくれた。 マナミ:買ってもらったばかりの自転車のカギをなくして泣いていた時も、走ってやってきたテツヤが簡単にカギを見つけてくれた。 マナミ:そんなことは他にも沢山あった。私が泣いていると、いつもテツヤは来てくれる。 マナミ:気づいた時にはテツヤを好きになっていた。好きにならない理由はなかった。 0:  テツヤ:(M)俺はマナミの一番の友達。 テツヤ:それが誇らしくて、嬉しかった。 テツヤ:そんなある日のこと。 テツヤ:放課後、学校から帰ろうとすると、急に胸が苦しくなった。 0:  テツヤ:いでででで! テツヤ:な、なんだこれ……。 0:  テツヤ:(M)よくわからない痛みに悶(もだ)えていると、マナミの泣き声が聞こえた気がした。 テツヤ:助けに行かなきゃ。 テツヤ:俺はランドセルを投げ捨てて裏庭に走った。なぜかそこにマナミがいる気がした。 0:  マナミ:(泣いて)……。 テツヤ:マナミちゃん、大丈夫⁉ マナミ:テツヤくん? テツヤ:どうしたの? あ、膝から血が出でる。 マナミ:石につまづいて転んだの。痛いよぉ。 テツヤ:すぐ保健室に行こう。 マナミ:痛くて、歩けない。 テツヤ:ほら、僕がおんぶするから。 マナミ:ええ……。 テツヤ:早く乗って。 マナミ:うん。 0:  テツヤ:(M)最初は気のせいだと思った。でも、急に胸が痛くなる時は必ずどこかでマナミが泣いていた。 0:  テツヤ:ほら、あったよ。自転車のカギ。これだろ? マナミ:うん! あんなに探しても見つからなかったのに。どうしてテツヤくんはここにあるってわかったの? テツヤ:えっと……ここにある気がしたから。 マナミ:まるで魔法みたい。 テツヤ:魔法か。そうか。魔法かもしれない。 マナミ:テツヤくん、ありがとう。 テツヤ:うん。 0:  テツヤ:(M)これが友達届の効力なんだ。マナミを守るための不思議な力。 テツヤ:この力があれば、いつでもマナミを助けてあげられる。 テツヤ:俺は友達届に感謝した。 テツヤ:でも、この時の俺は気づいていなかった。 テツヤ:友達届の呪われた力に。 0:  マナミ:(M)中学生になって図太くなった私はたいがいのことでは泣かなくなって、テツヤが走ってやってくることもなくなった。いつしか私にも友達が増えて、テツヤとの関係を「夫婦みたいだ」とからかわれていた。 マナミ:二年生の夏、テニス部で一番上手だったテツヤはキャプテンに任命された。それなりにカッコよくて、バカでスケベに成長したテツヤは、なぜか女子に人気があった。 0:  マナミ:テツヤ、ちょっとそこに座りなさい。 テツヤ:なんだよ。マナミ、顔が怖いよ。 マナミ:正座しなさい。早く。 テツヤ:わかったよ。(正座して)なに、どしたの? マナミ:これから尋問(じんもん)を始めます。 テツヤ:尋問? マナミ:えー、クラスの女子からテツヤにある疑いがかけられています。 テツヤ:疑い? マナミ:テツヤの友達として私には真実を確かめる責任があるので、このような形を取りました。 テツヤ:なんなんだよ? マナミ:えー、この前の修学旅行の時、あなたは女風呂を覗いたそうですね? テツヤ:ぐはあっ!! マナミ:……今のリアクションは自白と受け取ってよろしいですか? テツヤ:違う違う違う違う。え、え、ちょっと待って。誰がバラした。いやいや、そうじゃなくて。な、なんでそんな話が広まってんの⁉ マナミ:今日の昼休み。校内放送でテツヤは職員室に呼び出されましたね。 テツヤ:はい。 マナミ:その時、松山君から言われた言葉を覚えていますか? テツヤ:あ、そうだ。教室を出ようとした時、「テツヤ、女風呂覗いたことバレたのかな?」って松山が言ったんだよ。 テツヤ:え、それで? テツヤ:(笑)なんだよ、あれは軽い冗談だよ。クラスの女子はみんなそれを本気にしてるの? テツヤ:いやいや、俺が女風呂を覗くわけないだろ。そんな冗談を本気にするなんてどうかしてるよ。 マナミ:そうではありません。その松山君の言葉にあなたはなんと答えたか、覚えていますか? テツヤ:えええ? ……なんて言ったっけ? マナミ:本当に覚えてない? テツヤ:……うん。 マナミ:だったら教えてあげます。あなたはこう答えました。 マナミ:「その件じゃないと思うけど」 マナミ:この言葉の意味がおわかりですか? テツヤ:……え? マナミ:「その件じゃないと思うけど」! マナミ:この台詞は女風呂を覗いたことを否定してはいませんよね⁉ テツヤ:……あ……。 マナミ:テツヤが教室を出た後、女子全員が騒然としました。テツヤがエロいことは知っていても、まさか女風呂を覗くような最低な男だとは思わなかったと。 テツヤ:ぐあ。 マナミ:そしてみんなが納得しました。あのテツヤならやりかねないと。 テツヤ:なにそれひどい。 マナミ:「ちょっと待って」と私は言ったわ。確かにテツヤはバカでスケベだけど、そんな奴じゃない。私が確かめるから時間をちょうだいと。 テツヤ:マナミ……。 マナミ:さ、本当のことを話して。正直に話せば場合によっては半殺しで済ませてあげる。 テツヤ:俺は覗いてない。本当だ! マナミ:じゃあ、どういうこと? テツヤ:夜、松山と野球部の奴らが俺の部屋に押しかけてきたんだよ。この部屋が女風呂に一番近い部屋だからって。 マナミ:それで? テツヤ:窓から外に出て、「一緒に行こうぜ」って言うから、仕方なく。 テツヤ:(頭を叩かれて)いてっ! マナミ:仕方なくじゃないわよ。松山君を止めなさいよ! テツヤ:その場のノリってのがあるんだよ。 マナミ:じゃあ断りなさいよ。あんたが一緒に行く必要はないでしょ! テツヤ:(唸る)うぅぅぅぅ。 テツヤ:俺も見たかったからです。 テツヤ:(叩かれて)いてっ! マナミ:正直すぎるわ! テツヤ:ごめん。でも本当に見てないんだ。女風呂を覆うように竹の柵が隙間なく並んでいて、細い隙間から目を凝らしても湯気で何も見えなくて。 マナミ:それで? テツヤ:柵を登ろうとしたけど無理だった。だから俺たちは苦渋の決断をした。 マナミ:諦めたってこと? テツヤ:そんなことで諦めるわけないだろ! マナミ:なに激しく否定してんのよ。 テツヤ:組体操で人間タワーを作れば一人だけでも覗けるんじゃね、ってことになったんだ。 マナミ:あのさ、男子ってみんなバカなの? テツヤ:それから魂のジャンケン大会で誰が上になるかを決めて。 マナミ:どんだけ全力なのよ。で、誰が勝ったの? テツヤ:俺。 マナミ:一番全力なのはあんたか! テツヤ:でも人間タワーを組んで持ち上げてもらった時に塀の上から俺の顔に大きなカエルが降ってきたんだ。「おわっ!」ってビックリしたらバランスが崩れて人間タワーが倒れて。「うおぉぉ!」ってみんなが声出したら女風呂が騒がしくなって。「やべぇ、逃げろ!」ってみんなで部屋に戻ったんだ。 マナミ:それ、本当でしょうね。 テツヤ:本当です。悪いのは全部秋山なんです。 テツヤ:(叩かれて)いって! なんで叩くんだよ⁉ マナミ:テツヤも同罪だからに決まってるでしょ! マナミ:見てないわけじゃなくて、失敗して見れなかっただけじゃない。 テツヤ:見てないのに叩かれるよ。 マナミ:うるさい! テツヤ:それに、俺は止めるつもりだった。 マナミ:あんたがそれを言う⁉ テツヤ:本当だよ! もしジャンケンで負けてたら、何か理由をつけて覗きを阻止してた。 マナミ:どうして? テツヤ:俺が見るのはいいんだよ。見たかったよ。でも他の奴らには見せたくなかったから。 マナミ:なにその自分勝手な言い分。 テツヤ:マナミの裸を見せたくなかったんだ。 マナミ:はあ⁉ テツヤ:マナミの裸を見ていいのは俺だけだ。 マナミ:テツヤにも見せるわけないでしょ! テツヤ:昔は一緒にお風呂に入ったことあるのに。 マナミ:小学生の頃でしょ。忘れなさいよ。 テツヤ:忘れられるか! あの頃のマナミの未成熟な体は今でも目に焼きついてる。 マナミ:いっぺん死ね、変態! テツヤ:あれからどれくらい成長したのか確かめたかったんだ。 マナミ:そのいやらしい手つきをやめろ! テツヤ:あの頃のマナミは可愛かったな。 マナミ:今はガサツで悪かったわね。 テツヤ:そんなこと言ってないだろ。 マナミ:言ってるわよ。 テツヤ:あの頃は可愛かったけど、今はすげぇ可愛い。 マナミ:え? テツヤ:これからもっともっと可愛くなるに違いない。だから他の男にマナミの裸を見られたくないし、マナミを誰にも渡したくない。 マナミ:テツヤ……。 テツヤ:だって俺、マナミのこと……。 マナミ:え? テツヤ:(心臓に激痛)いででででで! テツヤ:うががががが! マナミ:テツヤ、どうしたの⁉ テツヤ:ぐあ、ああああああ! テツヤ:うううう、かはっ! ぐうう! マナミ:大丈夫⁉ テツヤ:(荒い息を繰り返す) マナミ:テツヤ、苦しいの? 救急車呼ぶ? テツヤ:(大きく深呼吸を繰り返す) マナミ:テツヤ、しっかりしてよ! テツヤ:(苦しそうにしばらく笑って)……な~んちゃって。 マナミ:えぇ? テツヤ:驚いた? マナミ:平気なの? テツヤ:ドッキリ大成功。 マナミ:バカ! 本気で心配したのに。変な冗談やめなさいよ! テツヤ:(笑)悪かったって。 マナミ:なんなのよ、もう。 テツヤ:なあ、マナミ……。 マナミ:何よ? テツヤ:俺はお前のこと……。 マナミ:うん。 テツヤ:大切な友達だと思ってる。 マナミ:……え? テツヤ:この気持ちはこれからもずっと変わらないから。 マナミ:……うん。 テツヤ:いつまでも友達のままでいようぜ。 マナミ:……うん。 テツヤ:だから友情の証に裸を見せてくれ。 マナミ:見せるわけないでしょ! テツヤ:せめておっぱいだけでも。 マナミ:死ね。死んでしまえ。 0:  マナミ:(M)「いつまでも友達のままで」……。 マナミ:恋人にはなれないとハッキリ宣言された気がした。 マナミ:この時から、テツヤに抱いていた淡い恋心を、私は心の奥底に隠した。 0:  テツヤ:(M)マナミに思いを伝えようとした瞬間、マナミが泣いた時の何倍もの痛みが襲ってきた。 テツヤ:苦しくて、このまま死んでしまうかと思った。 テツヤ:そして気づいた。この痛みは友達を辞めようとした罰なのだと。 テツヤ:二人は永遠に友達。 テツヤ:これは友達届の呪いだ。 テツヤ:この苦痛をマナミに与えるわけにはいかない。 テツヤ:俺のやるべきことは一つだった。 テツヤ:マナミへの想いを心の奥底にしまいこむと潮が引くように胸の痛みが消えた。 0:  マナミ:テツヤ……。 テツヤ:俺はお前のこと……。 マナミ:うん。 テツヤ:大切な友達だと思ってる。 0:  テツヤ:(M)俺とマナミは恋人同士にはなれない。 テツヤ:このままずっと……。 0:  マナミ:(M)テツヤとの関係は相変わらずだった。仲のいい友達。それ以上でも、それ以下でもなかった。 マナミ:私は何度か別の男子から告白された。テツヤの彼女になれないなら、別の誰かでもよかったのに。私は告白を断り続けた。 マナミ:中学三年生になっても、私たちはお互いの部屋を訪れることを辞めなかった。 マナミ:むしろ友達のほうが気楽でいい。この関係も悪くない。そう思っていた夏休み。 マナミ:テツヤに爆弾を落とされた。 0:  テツヤ:俺、彼女が出来た。 マナミ:………………………え? テツヤ:彼女が出来た。 マナミ:はああああああ⁉ テツヤ:テニス部の後輩なんだけどさ、入部した頃から好きでしたって言われて。 マナミ:OKしたの? テツヤ:うん。人生初彼女。 マナミ:なんでそれを私に報告するのよ? テツヤ:自慢したくて。写真見る? マナミ:あるの? テツヤ:(スマホを見せて)付き合った記念に二人で撮った。 マナミ:あんたスマホの待ち受けにしてるの? マナミ:(写真を見て)え、うわ、バカっぽそう。 テツヤ:うるせぇ。 マナミ:テツヤはこういうのがいいんだ。なんて名前? テツヤ:めぐみ。 マナミ:めぐみぃ? テツヤ:坂本めぐみだよ。 テツヤ:そんなこと聞いてどうすんだよ。 マナミ:この人のどこがよかったの? テツヤ:顔。 マナミ:見た目だけ? テツヤ:上目づかいで俺を見上げる時の顔とか。あと声が可愛い。 マナミ:ああ、もういいわ。聞きたくない。ごちそうさま。初彼女、おめでとう。 テツヤ:ありがと。今度の日曜、デートするんだ。 マナミ:あっそ。 テツヤ:マナミにも早く彼氏出来るといいな。 マナミ:余計なお世話よ。 マナミ:あ、そうだ。用事思い出したから、もう帰るね。 テツヤ:おう。 0:  マナミ:(M)彼女のどこがいいかなんて聞かなきゃよかった。嬉しそうに話すテツヤを見るのがこんなに辛いなんて。 マナミ:私、やっぱりテツヤが好き。 マナミ:どうして私たちは恋人になれなかったんだろう。 マナミ:そうだ。確か、友達届……。 マナミ:テツヤと出会った頃に二人で山に登って人形を木の中に入れたおまじない。 0:  テツヤ:(回想・小学三年生)友達届を出したから、僕とマナミちゃんはずっと友達だよ。 0:  マナミ:(M)その約束に助けられた私は、今、その約束に苦しんでいる。 0:  テツヤ:(M)万が一にでもマナミが俺を好きになることがあってはならない。 テツヤ:友達届の呪いがマナミを襲うことは絶対に避けなければならない。 テツヤ:だから、これでよかったんだ。 テツヤ:そして次の日曜日。俺はめぐみとのデートに向かった。 0:  マナミ:(M)朝、テツヤが家を出るのを部屋の窓からこっそりと盗み見て、ズキズキと痛む心臓を押さえる。 マナミ:どうしてテツヤは私じゃなくて坂本めぐみだったんだろう? マナミ:あのおまじないのせい? マナミ:友達届を出さなければ、私とテツヤは恋人になれたの? マナミ:その時、ある考えが思い浮かび、体が勝手に動いた。 マナミ:押入れの玩具箱から古い人形を二つ取り出し、黒のペンで背中に名前を書いた。 マナミ:一つはナガノテツヤ、もう一つは坂本めぐみ。 マナミ:なにやってんだろ。バカみたい。これはただのおまじない。こんなことしたって、二人が別れるわけもないのに。 マナミ:それでも私は、テツヤの帰りをただ待っていることなんて出来なかった。 0:  マナミ:(M)天狗山に登るのは、あの日以来だった。私は紐で縛った人形をバッグに入れて山頂に向けて一歩踏み出した。 マナミ:二人で手を繋いで歩いた思い出の道。 マナミ:ふと、出会った頃のテツヤの笑顔が浮かんできた。 マナミ:歩くたびにテツヤとの今までの思い出が次々に蘇ってきた。 マナミ:ポロポロと涙がこぼれた。私は泣きながら山を登った。 マナミ:山頂まであと少しのところで、いつの間にか真っ暗になっていた空から激しい雨が降り出した。 マナミ:ゲリラ豪雨だった。近くに大きな雷が落ちて、私は体を震わせた。  マナミ:もう最悪……。 マナミ:ずぶ濡れになった私は木陰に身を寄せた。 マナミ:残念だったねテツヤ。せっかくのデートだったのに。 マナミ:ざまーみろ。 マナミ:テツヤのバーカ。 マナミ:なにやってんだろ私……。 マナミ:こんな山の中でびしょ濡れになって。おまじないなんか信じて。 マナミ:友達届なんか出しても意味なんかないのに。テツヤが私より坂本めぐみが好きなだけなのに。 マナミ:……バカなのは私のほうだ。 マナミ:たとえフラレてしまっても、テツヤに気持ちを伝えればよかった。 マナミ:テツヤ……。 マナミ:会いたいよ、テツヤ……。 0:  テツヤ:(遠くから)マナミーーー! マナミ:……え? テツヤ:(走ってきて)マナミ、マナミー! マナミ:テツヤ⁉ テツヤ:マナミ! 怪我してないか? 大丈夫か? マナミ:……うん。 テツヤ:よかった。こんな山道で何かあったのかと思った。 マナミ:なんで……。 マナミ:なんで私がここにいるのがわかったの? テツヤ:そんな気がしたんだ。 マナミ:今日、デートだったんじゃないの? テツヤ:あー、急に帰ったから怒ってるだろうな。フラれるかも。ま、仕方ないか。 マナミ:なんで来たのよ。 テツヤ:マナミが泣いてたから。 マナミ:バカ。私はただの友達なのに。 テツヤ:だからって、ほっとけないよ。 マナミ:……。 テツヤ:……なんで泣いてたんだよ? マナミ:……。 テツヤ:なんでこんなとこにいるんだよ? マナミ:テツヤ。 テツヤ:なに? マナミ:私ね。 テツヤ:うん。 マナミ:私、テツヤのこと、ずっと前から……。 テツヤ:え⁉ ちょ、ちょっと待て。マナミ、やめろ。言うな。 マナミ:テツヤのことが好きだった。 テツヤ:(息を呑んで)マナミ! マナミ、大丈夫か⁉ マナミ:…………はぁ? テツヤ:…………へ? マナミ:おいこらテツヤ、あんた私の頭がおかしくなったと思ってるわけ? テツヤ:胸は苦しくないのか? 平気なのか? マナミ:平気なわけあるかバカ! マナミ:ドキドキして苦しいに決まってるでしょ! おまけに足も震えてるわ! テツヤ:いやそうじゃなくて。 マナミ:それに、告白してるのにそんなリアクションされたらショックで立ち直れないわよ! テツヤ:友達届の呪いは? マナミ:呪い? 何言ってるの? テツヤ:マナミは心臓を掴まれたみたいに「ぐわあああ」ってならなかったのか? マナミ:だからドキドキしたって言ったでしょ。 テツヤ:そんなもんじゃねぇよ。俺がマナミに告白しようとした時は死ぬかと思うくらいの激痛が……。 マナミ:え、告白? テツヤ:去年の修学旅行の後で、女風呂を覗いただろって言われた時。 マナミ:あっ、あの時の……。 マナミ:(笑)呪いなんてあるわけないじゃない。ドキドキしてただけでしょ。テツヤは少女マンガのヒロインか。 テツヤ:そんなはずない。あの痛みはただのドキドキじゃなかった。 テツヤ:呪いを受けていたのは俺だけだったってこと? テツヤ:そういや、俺が泣いてる時にマナミが来てくれたことはなかった。なんだよそれ、不公平だろ。 マナミ:なにわけのわかんないこと言ってるのよ。 テツヤ:それに、友達届の力があったから、いつもマナミの場所がわかったんだ。 マナミ:たまたまじゃないの? テツヤ:ホントなんだって。なんで信じてくれないんだよ。 マナミ:そんなのどうでもいい。 テツヤ:どうでもいいって……。 マナミ:ねぇ、テツヤ。 テツヤ:なに? マナミ:テツヤも私の事が好きなの? テツヤ:(言葉に詰まる)うっ……。 マナミ:私はテツヤが好きだよ。 テツヤ:俺も……マナミが……好きだ。 テツヤ:ああっ。言える。呪いが消えてる! マナミ:ドキドキしてる? テツヤ:ドキドキしてる。 テツヤ:俺、すげぇドキドキしてる。 テツヤ:マナミが好きだ。 テツヤ:好きだ好きだ好きだ。 テツヤ:俺はマナミが大好きだー! マナミ:私もテツヤが大好きー! テツヤ:でも、どうして呪いが解けたんだろう……。 テツヤ:まさか……! テツヤ:(走り出す)マナミ、山頂まで走るぞ。 マナミ:えぇ⁉ テツヤ:早く! マナミ:ちょ、ちょっと待ってよ! 0:  テツヤ:やっぱり……。 マナミ:木が二つに割れてる……。 テツヤ:雷が落ちたんだ……。 マナミ:……。 テツヤ:雷のおかげで呪いが解けたんだ……。 マナミ:テツヤ……。 テツヤ:なに? マナミ:雨、止んだね。 テツヤ:そうだな。 マナミ:あ、見て。虹が出てる。 テツヤ:ホントだ。 マナミ:キレイだね。 テツヤ:ああ……。 マナミ:手繋いでいい? テツヤ:お、おう。 マナミ:どうしたの? テツヤ:いや、あのさ。 マナミ:なに? テツヤ:濡れたTシャツからブラが透けて見えてて、正直、虹なんかどうでもいい。 テツヤ:(頭を叩かれて)いてっ! マナミ:ムード台無し。 テツヤ:(笑) マナミ:ホントバカなんだから。 テツヤ:(笑) マナミ:(笑) 0:  マナミ:(M)これは友達届の呪いと祝福の物語。 マナミ:それからいろいろあって、この日からちょうど十年後に二人で婚姻届を出すことになるのだけれど。 マナミ:それはまた、別のお話。