台本概要

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タイトル 世界の終わりまで
作者名 maturit  (@inui_maturi)
ジャンル ファンタジー
演者人数 2人用台本(男1、女1)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 ご自由にどうぞ

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
魔女 138
傭兵 137
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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魔女:終わりの世界を旅している 魔女:様々な街で様々な思いを見て、この先に何があるか…それを探している 魔女: 傭兵:魔女を守ることだけが今の仕事 傭兵:大規模な戦争で人は大勢死んで、残された僅(わず)かな人だけが住む世界 傭兵: 傭兵: 傭兵: 魔女:「ねえ傭兵…あれはなんでしょうか?」 傭兵:「ん?」 魔女:「ほら、あそこで寝ている人です」 傭兵:「止まれ…あれは人じゃない」 魔女:「そうなの?」 傭兵:「ああ、機械人形の類だろう」 魔女:「よく遠目でわかりますね?」 傭兵:「俺の身体は殆(ほとん)どがナノマシンで構成されているからな」 魔女:「そうでした」 傭兵:「あまり近づくなよ」 魔女:「でも凄く可愛らしい少女ですっ!!」 傭兵:「ちょっ!? 迂闊(うかつ)に近づくなっ!!」 魔女:「大丈夫ですよぉ」 傭兵:「何を根拠にっ」 魔女:「私の勘ですっ!!」 傭兵:「当てにならないって!!」 魔女:「近くで見ると本当に可愛らしいですねぇ」 傭兵:「…機能の殆どが止まってるな」 魔女:「直せますか?」 傭兵:「直せなくもないが…直したくない」 魔女:「ケチ」 傭兵:「俺はお前を召使いじゃないんだよっ」 魔女:「こんなに可愛い子を放っておけないですっ!!」 傭兵:「じゃあお前が担(かつ)いで持っていけばいい」 魔女:「そうしますっ!」 魔女:「…持ち上がらないです?」 傭兵:「当たり前だ」 傭兵:「こんな見かけでも機械人形だからな…見た目の3倍は重いだろうな」 魔女:「傭兵さん」 傭兵:「なんだよ魔女?」 魔女:「一生のお願いですっ」 魔女:「運んでくれませんか?」 魔女:「お前の一生はこれで何十回目なんだろうな?」 魔女:「うぐっ」 傭兵:「…まあ、いいさ」 魔女:「傭兵さんだーい好きです」 傭兵:「くっつくな暑苦しい」 魔女:「照れちゃってー可愛いですね」 傭兵:「あぁん?」 魔女:「やっぱ可愛くないです」 傭兵:「いいから離れろ」 魔女:「じゃあ、お願いします」 傭兵:「ほいっ」 魔女:「おお、傭兵さんは力持ちですね」 傭兵:「このぐらいなら問題ない」 魔女:「じゃあ、何処か落ち着ける場所を探しましょう」 傭兵:「そうだな」 魔女:「えーと、遠くに大きな建物が見えます」 傭兵:「あそこなら何かあるだろう」 魔女:「じゃあ行きましょうっ!」 傭兵:「はいよ」 傭兵: 傭兵: 魔女:私たちは少しの距離を移動し、大きなドーム型の施設にたどり着いた 魔女:入れそうな入口は見つからず、閉ざされた扉の前で途方(とほう)に暮れる 魔女:「どうしましょうか傭兵さん」 傭兵:「これなら中に使えそうなものが眠って居そうだな」 魔女:「でも入れないです」 傭兵:「扉があるんだ…壊せばいいだろう?」 魔女:「壊すなんて…どうすれば…」 傭兵:「邪魔だなぁ」 魔女:「あああああ、その子を投げ捨てないででぇえええ可哀想ですよおおお」 傭兵:「いちいち煩(うる)いな」 魔女:「傭兵さんがガサツなんですよっ!」 傭兵:「ちっ」 魔女:「怪我(けが)はなさそうでよかったです」 傭兵:「機械人形がその程度で傷つくわけないだろう」 魔女:「そういう問題じゃないんですっ!」 傭兵:「ああもう、わかったよ悪かった」 魔女:「次から気をつけてください」 傭兵:「はいはい」 魔女:「…で、どうするんですか?」 傭兵:「なに、普通に壊すだけだ」 魔女:「え?」 傭兵:「伏せとけ」 魔女:「何を…うぎゃああああああ」 傭兵:扉に触れて、ナノマシンを起動し、扉を原子レベルまで分解した 傭兵:「まあ、こんなもんだな」 魔女:「まあ、こんなもんだな…じゃ、ないんですよぉぉおおお」 傭兵:「なんだよ」 魔女:「すごい熱風がこっちを襲ったんですよっ!?」 傭兵:「だから伏せろって言っただろう」 魔女:「急すぎるんですよっ」 傭兵:「判断が遅い、その一瞬が戦場では命取りになるんだ」 魔女:「ここは戦場じゃないんですよおおおおおおおお」 傭兵:「まあ、そうだな」 魔女:「ガサツっ!! 本当にガサツですっ!!」 傭兵:「次から気をつける」 魔女:「その言葉も聞き飽きましたよっ!!」 傭兵:「そうか?」 魔女:「そうですよっ!!」 魔女:「戦場云々(うんぬん)よりも先に、人として失敗を活かして成長してくださいっ」 傭兵:「欠点があるから、長所があるんだ」 魔女:「いい感じに言ってもダメですっ反省してくださいっ」 傭兵:「善処(せんしょ)する」 魔女:「言い方が全然素直じゃないんですよっ」 魔女:「罰として、この子をお姫様抱っこしてください」 魔女:「丁重(ていちょう)に扱ってくださいね?」 傭兵:「両手が塞(ふさ)がると何かあった時に…」 魔女:「わ、か、り、ま、し、た、か?」 傭兵:「はい」 魔女:「もう、傭兵さんはダメダメですねぇ」 傭兵:「言わせておけばっ」 魔女:「でも、ちゃんと私の言葉を聞いてくれる傭兵さんは大好きです」 傭兵:「…魔女め」 魔女:「はいっ! 魔女です」 傭兵:「さっさと中に入るぞ」 魔女:「待ってくださいよー」 傭兵:「おいコラっ俺より先に行くなっ」 魔女:「えへへー、じゃあちゃんと先導(せんどう)してくださいね?」 傭兵:「ああ、俺の後ろを歩いとけ」 魔女:「はーい」 魔女: 魔女: 傭兵:ドームの中は研究所のようだった 傭兵:幸(さいわ)いとして、自己防衛機能は沈黙している 魔女:「これはなんですかねーあれはなんですかねーあっちはなんなんですかねー」 傭兵:「おい」 魔女:「おおっ凄いですっ! 傭兵さんより強そうなロボットがありますよー」 傭兵:「おい」 魔女:「カッコイイ銃がありますよー」 傭兵:「騒ぐな」 魔女:「でもでもー」 傭兵:「いいから、俺に蹴られたくなかったら…大人しくしろ…な?」 魔女:「はい」 傭兵:「いくら防衛機能が止まっていても、研究所なんだスタンドアローンの機体が居てもおかしくない」 魔女:「スタンドアローン?」 傭兵:「まあ、俺みたいなやつだ」 魔女:「それは…凄くガサツという事でしょうか?」 傭兵:「本気で蹴られたいらしいな?」 魔女:「冗談ですよー」 傭兵:「だから、大人しくしてろ」 魔女:「そうします」 魔女: 魔女: 魔女:奥へ進むと階段があり、そこを降りると小さな街があった 傭兵:「こりゃ凄いな」 魔女:「街…ですね」 傭兵:「このドームは地下シェルターへの入口だったのか」 魔女:「人が居るでしょうか?」 傭兵:「どうだろうな…期待はしない方がいい」 魔女:「そう…ですね」 傭兵:「とりあえず、何処か休める場所を探そう」 魔女:「そうですね、私も少し疲れました」 傭兵:「無駄に騒ぐからだ」 魔女:「いいじゃないですかー」 傭兵:「ほら、行くぞ」 魔女:「優しくないですねー」 傭兵:「俺は保護者じゃないからな」 魔女:「知ってますよーだ」 魔女: 魔女: 傭兵:少し歩くと集会場のような場所に着いた 傭兵:見晴らしもいい、何かあってもここなら守れるだろう 魔女:「おかしいですね?」 傭兵:「何がだ?」 魔女:「ここ、人がいないんですよ」 傭兵:「あたりまえだろ」 魔女:「いえ、そうではなく…人の死体がないんですよ」 傭兵:「そういえば…そうだな」 魔女:「それに…生活していた気配もないんです」 傭兵:「人が入る前に廃棄されたんじゃないか?」 魔女:「それならいいんですけど」 傭兵:「何があっても守ってやる…その点は安心しろ」 魔女:「はい、ありがとうございます」 傭兵:「とりあえず、食料を探すか」 魔女:「そうですね」 傭兵:「こいつはここに置いていくぞ?」 魔女:「しょうが、ないですね…後で戻って来るので待っていてくださいね」 傭兵:「聞こえてないぞ?」 魔女:「もう、本当に無粋(ぶすい)な人ですねっ」 傭兵:「とりあえず水を確保する…おそらくここの何処かに浄水場があるだろう」 魔女:「動いているでしょうか?」 傭兵:「最悪は俺のナノマシンで浄化すればいいさ」 魔女:「食料はどうするんですか?」 傭兵:「それも缶詰や長期保存されているものがあれば、食べられる程度に作り替える事が出来る」 魔女:「傭兵さんは青い猫型ロボットですか?」 傭兵:「は?」 魔女:「いえ、なんでもないです」 傭兵:「訳の分からないことを言うなぁ…とりあえず水道管をたどる」 魔女:「わかりました」 魔女: 魔女: 傭兵:水道管をたどると、浄水場らしき施設にたどり着いた 傭兵:動いている気配はないが、水は溜まっているようだ 傭兵:「まあ、動かないな」 魔女:「そうですよね」 傭兵:「しょうがない…俺が水を浄化するから、周りを見ていてくれ」 魔女:「了解です」 魔女: 傭兵: 魔女:「暇です」 魔女:傭兵さんが水を浄化している間、いくつかある部屋を覗(のぞ)きますが殺風景な部屋のみ 魔女:「本当に人なんていたのでしょうか?」 魔女:「あれ?」 魔女:通路の先に人影が見えました 魔女:「誰かいるんですか?」 魔女:その言葉に人影は動かない 魔女:「食料が欲しんです」 魔女:言葉に人影は近くにある部屋を指さした 魔女:「そこにあるんですか?」 魔女:ほんの一瞬、視線を逸らし戻した時には人影はなかった 魔女:「亡霊さんだったのでしょうか?」 魔女:私は魔女…魔法が使える訳では無いが、物や人に残る情報を見ることが出来る 魔女:そのせいか、人より異なる物を見てしまうことがある 魔女:「この部屋だよね?」 魔女:「あったっ!! 缶詰です」 傭兵:「おい、なんか話し声が聞こえたが…食料を見つけたのか」 魔女:「見つけましたっ」 魔女:「どうですか? 食べられそうですか?」 傭兵:「まあ、大丈夫だろ」 魔女:「良かったです、あの人に感謝しないと」 傭兵:「誰かいたのか?」 魔女:「いたかもしれませんし、いなかったかもです」 傭兵:「?」 魔女:「まあ、戻りましょう…あの子が待っています」 傭兵:「まあ、水も確保出来たし、もうここに用はないからな」 傭兵: 傭兵: 魔女:広場に戻ると、機械人形の少女が眠るように横たわっていた 魔女:「おまたせー」 傭兵:「無駄な言葉だ」 魔女:「もう、本当に冷たい人ですねっ」 傭兵:「自分を善人だと思ったことなどない」 魔女:「そうやって」 傭兵:「ちょっと待て…そいつ…何かがおかしい」 傭兵:「さっきは感じられなかったが、ナノマシンが反応している」 魔女:「もしかして起動して動いたんですかっ!?」 傭兵:「いや、それは考えづらい」 魔女:「まあいいじゃないですかー」 傭兵:「良くないな…魔女…そいつから離れろ」 魔女:「待ってくださいよっ」 傭兵:「別に壊したりしない」 魔女:「信じられませんっ!!」 傭兵:「大丈夫だ…そいつの中身を見るだけだ」 魔女:「それを壊すって言うんじゃないですか?」 傭兵:「ああ、もう面倒だなぁ」 魔女:「ダメですよぉ」 傭兵:「そいつを直してやる…だから離れてくれ」 魔女:「…傭兵さんを信用します」 傭兵:「ああ」 傭兵:少女の人形に近づき、ナノマシンで内部情報へアクセスする 傭兵:「なんだこれは?」 魔女:「どうかしましたか?」 傭兵:「…こいつ…俺たちを見続けているぞ?」 魔女:「え?」 傭兵:「機能は停止している…だが内部情報は常に更新されている」 魔女:「どういう事ですか?」 傭兵:「こいつもナノマシンを持っているんだろうな」 魔女:「だったら傭兵さんもわかるんじゃ」 傭兵:「あくまでこの身体は保存用で、ナノマシンが単独で動いて情報収集を行っているんだろうな」 魔女:「じゃあ、私が見たのは…」 傭兵:「こいつのナノマシンから、お前の目が情報を盗みとったんじゃないか?」 魔女:「そう…なんでしょうか」 傭兵:「なんにしろ、こいつは直せない」 魔女:「約束が違いますよっ」 傭兵:「こいつを直したら…俺たちは死ぬかもしれないぞ?」 魔女:「傭兵さんがいれば大丈夫です」 傭兵:「俺でも手を焼くな…ナノマシンが今は情報収集に専念しているが…破壊に移行した時、俺でもどうなるか」 魔女:「でも…その子は大丈夫です」 傭兵:「何を根拠に」 魔女:「私の勘ですっ!!」 傭兵:「…わかったよ」 傭兵:確かにナノマシンは万能だ…分解、構築、操作、どれに置いても不可能はほぼ無い…これを魔法と呼ぶならそうなのだろう 魔女:「私を信じてください」 傭兵:「………」 傭兵:この触れた手で分解を命じれば、先程の扉同様に消えるだろう 傭兵:「信じてやるよ」 魔女:「ありがとうございます」 傭兵:ナノマシンに修復を命じた 傭兵:内部の劣化を全てを取り除き、外れた内部の接続を繋いでいく 傭兵:「終わったぞ」 魔女:「動きませんよ?」 傭兵:「起動するはずだ」 魔女:「はずじゃ困りますよっ」 傭兵:「俺は研究者じゃないんだよっ」 魔女:「直せるって大見得(おおみえ)切ったじゃないですかっ! 嘘だったんですかっ!!」 傭兵:「内部を見た限り欠損はないんだから、修復すれば動くんだよっ!」 魔女:「動かないじゃないですかっ」 傭兵:「そんなことはっ」 傭兵:横たわる人形の開いた青い目と合う 傭兵:「起きてるよな?」 傭兵:人形は気だるそうに瞳を閉じた 魔女:「だから、起きないじゃないですか」 傭兵:「いや、こいつ目を開けてたぞっ」 魔女:「え?」 魔女:「閉じてますよっ嘘に嘘を重ねないでくださいっ!!」 傭兵:「絶対に起きてるって」 傭兵:人形の顔はイラつかせるような笑みを浮かべ、何事も無かったかのように眠った 傭兵:「おい、こいつは俺を馬鹿にしてるのか?」 魔女:「傭兵さんは私を馬鹿にしてるんですかっ」 傭兵:「馬鹿になんてしてねーよ」 魔女:「馬鹿にしてますよっ」 傭兵:「もういい、そいつバラす」 魔女:「なんて酷い人なんですかっ」 魔女:「血も涙もナノマシンもありませんねっ!」 傭兵:「ナノマシンはあるわっ!!」 魔女:「じゃあ血と涙はない、ただの悪人ですっ人でなしですっ」 傭兵:「いい度胸してんなぁ」 魔女:「むー」 傭兵:「お前ら二人まとめて…シバいてやるっ」 魔女:「冷酷人間がおこったぁああああ」 傭兵:「こんのっ」 傭兵:伸ばした手がバチリと弾かれる 魔女:「ふぇ?」 傭兵:「ほら…起きてるだろ」 魔女:「え? 本当に?」 傭兵:「だから動くって言っただろ」 魔女:「ねえ、あなた…私がわかる?」 傭兵:「言っとくがそいつは喋れないぞ」 魔女:「欠損はないって言ってませんでしたか?」 傭兵:「ああ、欠損はない…喋らないように作られている」 魔女:「どうしてですか?」 傭兵:「さぁな、そいつに聞け」 魔女:「可哀想に…貴方に名前はありますか?」 魔女:少女の機械人形は首を横に振る 傭兵:「お前がつけてやれ」 魔女:「私が…ですか?」 傭兵:「俺は傭兵だ、お前は魔女だ…そいつはなんだ?」 魔女:「この子は…ナビ…とかどうですか?」 傭兵:「ナビ?」 魔女:「さっきこの子が指を指して、食料を見つけてくれたんです」 傭兵:「だからナビ…案内人ってか?」 魔女:「はい…おかしいですか?」 傭兵:「いいんじゃないか」 魔女:「じゃあ、貴方はナビです」 魔女:少女の機械人形…ナビは大きく頷(うなず)いた 傭兵:「よろしくな、ナビ」 傭兵:バチリと軽い電撃が頭部を揺らした…ナノマシンでの攻撃だ… 傭兵:「ほぉお、いい度胸してんなぁぁ」 魔女:「傭兵さん抑えてくださいっ!!」 魔女:「きっとナビなりの愛情表現なんですっ」 傭兵:「そうかもな…そうかもしれないが…そいつの…嘲笑(あざわら)うような顔が気に食わねぇえんだよおおおお」 魔女:「に、逃げますよナビっ」 傭兵:「まちやがれぇえええええ」 魔女:手を引くナビの手が、少しだけ強く、それでいて優しく握り返された 傭兵:「俺から逃げられると思ってるのか? 魔女…そしてナビぃいいいい」 魔女:傭兵さんの声に振り返ると、とても楽しそうに笑うナビの笑顔があった 魔女:「何処まででも逃げますよー」 傭兵:「だああああっ!!」 傭兵:「ちょいちょいナノマシンで攻撃してくるんじゃねえぇぇぇぇ」 魔女:「さあ、ナビ」 魔女:「私たちと旅をしましょう」 魔女:「きっと楽しいですよ」 魔女:ナビは一段と大きく頷いた 魔女: 魔女: 魔女: 魔女:世界は滅びた 魔女:それでも、まだ私達は生きている

魔女:終わりの世界を旅している 魔女:様々な街で様々な思いを見て、この先に何があるか…それを探している 魔女: 傭兵:魔女を守ることだけが今の仕事 傭兵:大規模な戦争で人は大勢死んで、残された僅(わず)かな人だけが住む世界 傭兵: 傭兵: 傭兵: 魔女:「ねえ傭兵…あれはなんでしょうか?」 傭兵:「ん?」 魔女:「ほら、あそこで寝ている人です」 傭兵:「止まれ…あれは人じゃない」 魔女:「そうなの?」 傭兵:「ああ、機械人形の類だろう」 魔女:「よく遠目でわかりますね?」 傭兵:「俺の身体は殆(ほとん)どがナノマシンで構成されているからな」 魔女:「そうでした」 傭兵:「あまり近づくなよ」 魔女:「でも凄く可愛らしい少女ですっ!!」 傭兵:「ちょっ!? 迂闊(うかつ)に近づくなっ!!」 魔女:「大丈夫ですよぉ」 傭兵:「何を根拠にっ」 魔女:「私の勘ですっ!!」 傭兵:「当てにならないって!!」 魔女:「近くで見ると本当に可愛らしいですねぇ」 傭兵:「…機能の殆どが止まってるな」 魔女:「直せますか?」 傭兵:「直せなくもないが…直したくない」 魔女:「ケチ」 傭兵:「俺はお前を召使いじゃないんだよっ」 魔女:「こんなに可愛い子を放っておけないですっ!!」 傭兵:「じゃあお前が担(かつ)いで持っていけばいい」 魔女:「そうしますっ!」 魔女:「…持ち上がらないです?」 傭兵:「当たり前だ」 傭兵:「こんな見かけでも機械人形だからな…見た目の3倍は重いだろうな」 魔女:「傭兵さん」 傭兵:「なんだよ魔女?」 魔女:「一生のお願いですっ」 魔女:「運んでくれませんか?」 魔女:「お前の一生はこれで何十回目なんだろうな?」 魔女:「うぐっ」 傭兵:「…まあ、いいさ」 魔女:「傭兵さんだーい好きです」 傭兵:「くっつくな暑苦しい」 魔女:「照れちゃってー可愛いですね」 傭兵:「あぁん?」 魔女:「やっぱ可愛くないです」 傭兵:「いいから離れろ」 魔女:「じゃあ、お願いします」 傭兵:「ほいっ」 魔女:「おお、傭兵さんは力持ちですね」 傭兵:「このぐらいなら問題ない」 魔女:「じゃあ、何処か落ち着ける場所を探しましょう」 傭兵:「そうだな」 魔女:「えーと、遠くに大きな建物が見えます」 傭兵:「あそこなら何かあるだろう」 魔女:「じゃあ行きましょうっ!」 傭兵:「はいよ」 傭兵: 傭兵: 魔女:私たちは少しの距離を移動し、大きなドーム型の施設にたどり着いた 魔女:入れそうな入口は見つからず、閉ざされた扉の前で途方(とほう)に暮れる 魔女:「どうしましょうか傭兵さん」 傭兵:「これなら中に使えそうなものが眠って居そうだな」 魔女:「でも入れないです」 傭兵:「扉があるんだ…壊せばいいだろう?」 魔女:「壊すなんて…どうすれば…」 傭兵:「邪魔だなぁ」 魔女:「あああああ、その子を投げ捨てないででぇえええ可哀想ですよおおお」 傭兵:「いちいち煩(うる)いな」 魔女:「傭兵さんがガサツなんですよっ!」 傭兵:「ちっ」 魔女:「怪我(けが)はなさそうでよかったです」 傭兵:「機械人形がその程度で傷つくわけないだろう」 魔女:「そういう問題じゃないんですっ!」 傭兵:「ああもう、わかったよ悪かった」 魔女:「次から気をつけてください」 傭兵:「はいはい」 魔女:「…で、どうするんですか?」 傭兵:「なに、普通に壊すだけだ」 魔女:「え?」 傭兵:「伏せとけ」 魔女:「何を…うぎゃああああああ」 傭兵:扉に触れて、ナノマシンを起動し、扉を原子レベルまで分解した 傭兵:「まあ、こんなもんだな」 魔女:「まあ、こんなもんだな…じゃ、ないんですよぉぉおおお」 傭兵:「なんだよ」 魔女:「すごい熱風がこっちを襲ったんですよっ!?」 傭兵:「だから伏せろって言っただろう」 魔女:「急すぎるんですよっ」 傭兵:「判断が遅い、その一瞬が戦場では命取りになるんだ」 魔女:「ここは戦場じゃないんですよおおおおおおおお」 傭兵:「まあ、そうだな」 魔女:「ガサツっ!! 本当にガサツですっ!!」 傭兵:「次から気をつける」 魔女:「その言葉も聞き飽きましたよっ!!」 傭兵:「そうか?」 魔女:「そうですよっ!!」 魔女:「戦場云々(うんぬん)よりも先に、人として失敗を活かして成長してくださいっ」 傭兵:「欠点があるから、長所があるんだ」 魔女:「いい感じに言ってもダメですっ反省してくださいっ」 傭兵:「善処(せんしょ)する」 魔女:「言い方が全然素直じゃないんですよっ」 魔女:「罰として、この子をお姫様抱っこしてください」 魔女:「丁重(ていちょう)に扱ってくださいね?」 傭兵:「両手が塞(ふさ)がると何かあった時に…」 魔女:「わ、か、り、ま、し、た、か?」 傭兵:「はい」 魔女:「もう、傭兵さんはダメダメですねぇ」 傭兵:「言わせておけばっ」 魔女:「でも、ちゃんと私の言葉を聞いてくれる傭兵さんは大好きです」 傭兵:「…魔女め」 魔女:「はいっ! 魔女です」 傭兵:「さっさと中に入るぞ」 魔女:「待ってくださいよー」 傭兵:「おいコラっ俺より先に行くなっ」 魔女:「えへへー、じゃあちゃんと先導(せんどう)してくださいね?」 傭兵:「ああ、俺の後ろを歩いとけ」 魔女:「はーい」 魔女: 魔女: 傭兵:ドームの中は研究所のようだった 傭兵:幸(さいわ)いとして、自己防衛機能は沈黙している 魔女:「これはなんですかねーあれはなんですかねーあっちはなんなんですかねー」 傭兵:「おい」 魔女:「おおっ凄いですっ! 傭兵さんより強そうなロボットがありますよー」 傭兵:「おい」 魔女:「カッコイイ銃がありますよー」 傭兵:「騒ぐな」 魔女:「でもでもー」 傭兵:「いいから、俺に蹴られたくなかったら…大人しくしろ…な?」 魔女:「はい」 傭兵:「いくら防衛機能が止まっていても、研究所なんだスタンドアローンの機体が居てもおかしくない」 魔女:「スタンドアローン?」 傭兵:「まあ、俺みたいなやつだ」 魔女:「それは…凄くガサツという事でしょうか?」 傭兵:「本気で蹴られたいらしいな?」 魔女:「冗談ですよー」 傭兵:「だから、大人しくしてろ」 魔女:「そうします」 魔女: 魔女: 魔女:奥へ進むと階段があり、そこを降りると小さな街があった 傭兵:「こりゃ凄いな」 魔女:「街…ですね」 傭兵:「このドームは地下シェルターへの入口だったのか」 魔女:「人が居るでしょうか?」 傭兵:「どうだろうな…期待はしない方がいい」 魔女:「そう…ですね」 傭兵:「とりあえず、何処か休める場所を探そう」 魔女:「そうですね、私も少し疲れました」 傭兵:「無駄に騒ぐからだ」 魔女:「いいじゃないですかー」 傭兵:「ほら、行くぞ」 魔女:「優しくないですねー」 傭兵:「俺は保護者じゃないからな」 魔女:「知ってますよーだ」 魔女: 魔女: 傭兵:少し歩くと集会場のような場所に着いた 傭兵:見晴らしもいい、何かあってもここなら守れるだろう 魔女:「おかしいですね?」 傭兵:「何がだ?」 魔女:「ここ、人がいないんですよ」 傭兵:「あたりまえだろ」 魔女:「いえ、そうではなく…人の死体がないんですよ」 傭兵:「そういえば…そうだな」 魔女:「それに…生活していた気配もないんです」 傭兵:「人が入る前に廃棄されたんじゃないか?」 魔女:「それならいいんですけど」 傭兵:「何があっても守ってやる…その点は安心しろ」 魔女:「はい、ありがとうございます」 傭兵:「とりあえず、食料を探すか」 魔女:「そうですね」 傭兵:「こいつはここに置いていくぞ?」 魔女:「しょうが、ないですね…後で戻って来るので待っていてくださいね」 傭兵:「聞こえてないぞ?」 魔女:「もう、本当に無粋(ぶすい)な人ですねっ」 傭兵:「とりあえず水を確保する…おそらくここの何処かに浄水場があるだろう」 魔女:「動いているでしょうか?」 傭兵:「最悪は俺のナノマシンで浄化すればいいさ」 魔女:「食料はどうするんですか?」 傭兵:「それも缶詰や長期保存されているものがあれば、食べられる程度に作り替える事が出来る」 魔女:「傭兵さんは青い猫型ロボットですか?」 傭兵:「は?」 魔女:「いえ、なんでもないです」 傭兵:「訳の分からないことを言うなぁ…とりあえず水道管をたどる」 魔女:「わかりました」 魔女: 魔女: 傭兵:水道管をたどると、浄水場らしき施設にたどり着いた 傭兵:動いている気配はないが、水は溜まっているようだ 傭兵:「まあ、動かないな」 魔女:「そうですよね」 傭兵:「しょうがない…俺が水を浄化するから、周りを見ていてくれ」 魔女:「了解です」 魔女: 傭兵: 魔女:「暇です」 魔女:傭兵さんが水を浄化している間、いくつかある部屋を覗(のぞ)きますが殺風景な部屋のみ 魔女:「本当に人なんていたのでしょうか?」 魔女:「あれ?」 魔女:通路の先に人影が見えました 魔女:「誰かいるんですか?」 魔女:その言葉に人影は動かない 魔女:「食料が欲しんです」 魔女:言葉に人影は近くにある部屋を指さした 魔女:「そこにあるんですか?」 魔女:ほんの一瞬、視線を逸らし戻した時には人影はなかった 魔女:「亡霊さんだったのでしょうか?」 魔女:私は魔女…魔法が使える訳では無いが、物や人に残る情報を見ることが出来る 魔女:そのせいか、人より異なる物を見てしまうことがある 魔女:「この部屋だよね?」 魔女:「あったっ!! 缶詰です」 傭兵:「おい、なんか話し声が聞こえたが…食料を見つけたのか」 魔女:「見つけましたっ」 魔女:「どうですか? 食べられそうですか?」 傭兵:「まあ、大丈夫だろ」 魔女:「良かったです、あの人に感謝しないと」 傭兵:「誰かいたのか?」 魔女:「いたかもしれませんし、いなかったかもです」 傭兵:「?」 魔女:「まあ、戻りましょう…あの子が待っています」 傭兵:「まあ、水も確保出来たし、もうここに用はないからな」 傭兵: 傭兵: 魔女:広場に戻ると、機械人形の少女が眠るように横たわっていた 魔女:「おまたせー」 傭兵:「無駄な言葉だ」 魔女:「もう、本当に冷たい人ですねっ」 傭兵:「自分を善人だと思ったことなどない」 魔女:「そうやって」 傭兵:「ちょっと待て…そいつ…何かがおかしい」 傭兵:「さっきは感じられなかったが、ナノマシンが反応している」 魔女:「もしかして起動して動いたんですかっ!?」 傭兵:「いや、それは考えづらい」 魔女:「まあいいじゃないですかー」 傭兵:「良くないな…魔女…そいつから離れろ」 魔女:「待ってくださいよっ」 傭兵:「別に壊したりしない」 魔女:「信じられませんっ!!」 傭兵:「大丈夫だ…そいつの中身を見るだけだ」 魔女:「それを壊すって言うんじゃないですか?」 傭兵:「ああ、もう面倒だなぁ」 魔女:「ダメですよぉ」 傭兵:「そいつを直してやる…だから離れてくれ」 魔女:「…傭兵さんを信用します」 傭兵:「ああ」 傭兵:少女の人形に近づき、ナノマシンで内部情報へアクセスする 傭兵:「なんだこれは?」 魔女:「どうかしましたか?」 傭兵:「…こいつ…俺たちを見続けているぞ?」 魔女:「え?」 傭兵:「機能は停止している…だが内部情報は常に更新されている」 魔女:「どういう事ですか?」 傭兵:「こいつもナノマシンを持っているんだろうな」 魔女:「だったら傭兵さんもわかるんじゃ」 傭兵:「あくまでこの身体は保存用で、ナノマシンが単独で動いて情報収集を行っているんだろうな」 魔女:「じゃあ、私が見たのは…」 傭兵:「こいつのナノマシンから、お前の目が情報を盗みとったんじゃないか?」 魔女:「そう…なんでしょうか」 傭兵:「なんにしろ、こいつは直せない」 魔女:「約束が違いますよっ」 傭兵:「こいつを直したら…俺たちは死ぬかもしれないぞ?」 魔女:「傭兵さんがいれば大丈夫です」 傭兵:「俺でも手を焼くな…ナノマシンが今は情報収集に専念しているが…破壊に移行した時、俺でもどうなるか」 魔女:「でも…その子は大丈夫です」 傭兵:「何を根拠に」 魔女:「私の勘ですっ!!」 傭兵:「…わかったよ」 傭兵:確かにナノマシンは万能だ…分解、構築、操作、どれに置いても不可能はほぼ無い…これを魔法と呼ぶならそうなのだろう 魔女:「私を信じてください」 傭兵:「………」 傭兵:この触れた手で分解を命じれば、先程の扉同様に消えるだろう 傭兵:「信じてやるよ」 魔女:「ありがとうございます」 傭兵:ナノマシンに修復を命じた 傭兵:内部の劣化を全てを取り除き、外れた内部の接続を繋いでいく 傭兵:「終わったぞ」 魔女:「動きませんよ?」 傭兵:「起動するはずだ」 魔女:「はずじゃ困りますよっ」 傭兵:「俺は研究者じゃないんだよっ」 魔女:「直せるって大見得(おおみえ)切ったじゃないですかっ! 嘘だったんですかっ!!」 傭兵:「内部を見た限り欠損はないんだから、修復すれば動くんだよっ!」 魔女:「動かないじゃないですかっ」 傭兵:「そんなことはっ」 傭兵:横たわる人形の開いた青い目と合う 傭兵:「起きてるよな?」 傭兵:人形は気だるそうに瞳を閉じた 魔女:「だから、起きないじゃないですか」 傭兵:「いや、こいつ目を開けてたぞっ」 魔女:「え?」 魔女:「閉じてますよっ嘘に嘘を重ねないでくださいっ!!」 傭兵:「絶対に起きてるって」 傭兵:人形の顔はイラつかせるような笑みを浮かべ、何事も無かったかのように眠った 傭兵:「おい、こいつは俺を馬鹿にしてるのか?」 魔女:「傭兵さんは私を馬鹿にしてるんですかっ」 傭兵:「馬鹿になんてしてねーよ」 魔女:「馬鹿にしてますよっ」 傭兵:「もういい、そいつバラす」 魔女:「なんて酷い人なんですかっ」 魔女:「血も涙もナノマシンもありませんねっ!」 傭兵:「ナノマシンはあるわっ!!」 魔女:「じゃあ血と涙はない、ただの悪人ですっ人でなしですっ」 傭兵:「いい度胸してんなぁ」 魔女:「むー」 傭兵:「お前ら二人まとめて…シバいてやるっ」 魔女:「冷酷人間がおこったぁああああ」 傭兵:「こんのっ」 傭兵:伸ばした手がバチリと弾かれる 魔女:「ふぇ?」 傭兵:「ほら…起きてるだろ」 魔女:「え? 本当に?」 傭兵:「だから動くって言っただろ」 魔女:「ねえ、あなた…私がわかる?」 傭兵:「言っとくがそいつは喋れないぞ」 魔女:「欠損はないって言ってませんでしたか?」 傭兵:「ああ、欠損はない…喋らないように作られている」 魔女:「どうしてですか?」 傭兵:「さぁな、そいつに聞け」 魔女:「可哀想に…貴方に名前はありますか?」 魔女:少女の機械人形は首を横に振る 傭兵:「お前がつけてやれ」 魔女:「私が…ですか?」 傭兵:「俺は傭兵だ、お前は魔女だ…そいつはなんだ?」 魔女:「この子は…ナビ…とかどうですか?」 傭兵:「ナビ?」 魔女:「さっきこの子が指を指して、食料を見つけてくれたんです」 傭兵:「だからナビ…案内人ってか?」 魔女:「はい…おかしいですか?」 傭兵:「いいんじゃないか」 魔女:「じゃあ、貴方はナビです」 魔女:少女の機械人形…ナビは大きく頷(うなず)いた 傭兵:「よろしくな、ナビ」 傭兵:バチリと軽い電撃が頭部を揺らした…ナノマシンでの攻撃だ… 傭兵:「ほぉお、いい度胸してんなぁぁ」 魔女:「傭兵さん抑えてくださいっ!!」 魔女:「きっとナビなりの愛情表現なんですっ」 傭兵:「そうかもな…そうかもしれないが…そいつの…嘲笑(あざわら)うような顔が気に食わねぇえんだよおおおお」 魔女:「に、逃げますよナビっ」 傭兵:「まちやがれぇえええええ」 魔女:手を引くナビの手が、少しだけ強く、それでいて優しく握り返された 傭兵:「俺から逃げられると思ってるのか? 魔女…そしてナビぃいいいい」 魔女:傭兵さんの声に振り返ると、とても楽しそうに笑うナビの笑顔があった 魔女:「何処まででも逃げますよー」 傭兵:「だああああっ!!」 傭兵:「ちょいちょいナノマシンで攻撃してくるんじゃねえぇぇぇぇ」 魔女:「さあ、ナビ」 魔女:「私たちと旅をしましょう」 魔女:「きっと楽しいですよ」 魔女:ナビは一段と大きく頷いた 魔女: 魔女: 魔女: 魔女:世界は滅びた 魔女:それでも、まだ私達は生きている