台本概要

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タイトル 舞台(1)
作者名 ペペドルトン・ササミ  (@pe2dorton)
ジャンル その他
演者人数 2人用台本(男2)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 『舞台』
小さな芝居小屋。男(役者)が一人芝居をしている。
チケット代2000円。
オムニバス形式で、男の前に、女性二人の演目があった。

・アドリブ・セリフの過度な改変禁止。
・性別変更可(語尾変更可)。
・少しでも自由に演じていただけるよう、「!」「…」等の表記はなくしています。

続きがあります
『舞台【千秋楽】(2)』https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/1377
『舞台【幕】(3)』https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/1380

ご利用の際、ご一報くださるとうれしいです。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
役者 58 舞台をしている人
55 舞台をみている人
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:【役者舞台に板付きで明転】 役者:「あぁー。くそっ。もう少しだったのに。」 0:【鈴の音。役者、スマホゲームをしている。】 役者:「ん?なんだよ?」 役者:「あ、そう?聞こえなかった。で、なに?」(ゲームをしながら) 役者:「できたってなにが?」 役者:「えっ。」 役者:「ほんとうに?」 役者:「お前はどうしたいの?」 役者:「そ。そっか。ん。うん。そっか。わかった。じゃぁそうしよう」 0:【鈴の音。ほぼ同時に客乱入】 客:もういいよ。もうやめちまえよ。 役者:(一人芝居の続き)そりゃびっくりした。でも俺が最初に 客:どうせオチは離婚することになって、後悔して、ちょっと改心するんだろう?ちがうか? 0:【間】 客:ほらみろ。ありきたりなんだよ。そんなの何度も見た。他のお客も、みーんなわかってたよ?(客席に向かって)そうでしょ? 役者:(続き)でも俺が最初に 客:まだ続ける気?聞こえてる? 役者:(続き。集中力が切れ始める)思ったのはやはり、 客:「めんどくさいことになったな」だろう。 役者:(続き)めんどくさいことになったな。 客:ほらみろ。いい歳していつまでこんなことやるつもり?いつまでもいつまでも夢とか希望追ってこんなところにしがみつくのか? 役者:(続き)でもまぁ、断ったところでもめるほうが面倒だった。 客:みんなに楽しんでほしいってだけ?全然楽しくないし。TVに垂れ流されてるお笑い芸人の方がましだよ。 役者:(続き)普通だったらここで何を考えるのか。 客:もうやめちまえって。 役者:(しびれを切らして)うるさい。 客:やっと止めたか。 役者:あんた、何。 客:客。他の皆さんと一緒。お前に2千円と時間を浪費した客。 役者:他のお客さんの迷惑なんですけど 客:お前こそ、こんな芝居見せて客に迷惑だ。 役者:そんな屁理屈—— 客:——屁理屈でもなんでもないさ。こっちは金払ってんだから、文句の一つくらい言ったっていいだろ。 役者:それは終わってからアンケートに書いてもらえますか?それか、終わってからなら俺を殴ろうが何しようが構わないんで 客:あと何分続ける予定だった?10分?20分? 役者:それくらい待てませんか? 客:待てないね。しょうもない芝居のために1分たりとも待てないから、こうなったんだよ。 役者:だったら黙って出ていけばよかったでしょう。 客:俺だけじゃない。ここにいる全部のお客さんの時間を浪費させたくないから俺が声をあげたのさ。 役者:は?そんな勝手な 客:お前、気付いたか?お客の何人かが、お前の芝居中に時計気にしてたの 役者:そんなの気づきませんよ。 客:だろうな。そこで自分勝手に芝居してたからな。 役者:そんなことない。 客:じゃあ何してたんだよ。客の空気も感じずになにしてた 役者:おれは、つたえようと—— 客:——伝える?お前の演技で何が伝わる?自分が何か伝えられるほど上手いと思ってんの?上手いとか下手とかいうレベルじゃねぇよお前は。台本書いた奴だれ? 役者:おれです。 客:はっ。やっぱりな。ますますしょうもない野郎だな。で、脚本家として、役者として、何をつたえたかったの? 役者:それは 客:前も一人芝居やったのか?その時もアンケートしたんだろ?これみたいに(アンケートをペラペラ見せる) 役者:まぁ 客:褒めてもらったか? 役者:ええ。 客:どうせ「たのしかった」とか「おもしろかった」とか「また観たいです」とかそういうのばっかりだろ? 役者:それのなにが? 客:そんな言葉、どうにでもとれるし、誰にでも言えるじゃねぇか。 客:そんな幼稚園児でも言えるようなインスタントな感想で一喜一憂してんじゃねぇよ。客が何に感動して、何を面白がってるのかが全然わかってないからバカみたいな台本書いて、バカみたいな芝居が平気で出来るんだよ。 役者:それは、書いてくれた人たちに失礼じゃないですか? 客:でも事実だろ? そんな安っぽい感想しか引き出せないお前も問題なんだよ。 役者:そんなこと—— 客:——何年やってきたんだよ 【間】 客:あぁあぁいいや。何年やってようが関係ねぇや。こんなしょうもない芝居するんだったらこれから何年やろうと同じだよな。今までの時間も何の意味も価値もなかった。空っぽだったってことだ。 役者:あんたさぁ 客:ここにいる奴みんな、よくこんな馬鹿げたゴッコ遊びに付き合ってられるよな。 客:音響も照明も受付も、人かき集めて時間作ってやってるんだろ。お前たちみんなどうかしてるよ。 役者:それは関係ないでしょ 客:関係ない?それは冷たいんじゃねぇ?お前の馬鹿みたいな芝居を一緒に作った仲間だろ?お前みたいにしょうもない馬鹿の集まりだろ? 役者:関係ない!俺が下手で意味のないどうしょうもない芝居をやったのは認めます。 役者:だけど、他の人たちは俺が芝居をするために時間をかけてくれた人たちだ。俺の芝居の価値の無さとは関係ないだろ。 客:関係あるさ。今舞台にいなくてもお前の芝居で客から2千円とって人前でやろうとしたって時点で同類だろ。同類らしくさっきの芝居だってへたくそだったよ。素人丸出しだ。 役者:そりゃ、ダメ出ししたらキリがない。素人だって言われたら否定できない。でも彼女たちにしかできない表現であの台本を仕上げたんです。あれは彼女たちにしかできないものです。誰かの心を動かす事ができたはずです。 客:誰かの心?誰だよそいつ。あいつらにだけ出来るとか、そこに価値はないだろ。 客:結局は芝居も料理と同じで、個性じゃなく、良いか悪いかに価値があるんじゃないの。そうじゃなきゃ、棒読みでも噛みまくっても台詞飛ばしても、何やってもいいことになるよな。そんなものに金を出せるか。 客:お前らみんな自己中なんだよ。上手くやってるつもり、一生懸命伝えたつもり、伝わったつもり、感動させたつもり、心を動かしたつもり、全部つもりつもりつもり、はずだはずだはずだ。 役者:そんなことな——。 客:——そんなことあるだろ?さっき、お前いったじゃないか。「誰かの心を動かす事ができたはずです」って 役者:それは。 客:まぁお前だけにいってもしょうがねぇ。さっきの奴らも出せよ。 役者:出しません。 客:出せって言ってるだろ? (「出せ」「出しません」数回繰り返し) 役者:黙ってくれ。 【長い間】 役者:ない 客:は? 役者:俺は別にメッセージなんて大それたもの持ってない。 客:伝えるっていったのはお前だろ。伝えようって気持ちだけで、伝える中身がなかったってことか?やっぱり空っぽじゃねえか。こりゃ傑作だな。 役者:中身。それって本当に必要なのか。 客:そりゃ必要だろうよ。空箱だけもらって誰が喜ぶ?誰が金を出す? 役者:世界平和?戦争反対?恋愛ってすてきだね?とか?森羅万象にメッセージがあるとでも?それこそ馬鹿げてる。しょうもない 客:は? 役者:メッセージに何の意味がある?無理やりにでも意味を見つけて、見つけた自分をほめてやるのか?「俺はわかったぞ」ってひけらかして、満足するのか? 役者:だからお前らはおかしいんだ。メッセージをわからないものは面白くないだとか、意味がわからないと言って突っぱねる。 客:意味の分からないものは、空箱同然だ 役者:そうやってあんたたちは「わからない自分」から目を背ける。やってる側だってわからない。それでも「わからない自分」と向き合ってもがきながら、やるんだ。 客:そんなのただの自己満足だろ?そんな自分に酔ってるだけ。哀れなんだよ。 役者:哀れ? 客:結局、客は、お前をばかにしてんの。おれたちはみんな、お前ら役者の事、「スゴイスゴイ」と言って見物しながら、心の底では見下してんの。 客:「どうせ金にもならないこと、よくやれるよな」「有名になれる人なんてたった一握りしかいないのに」。そうやって馬鹿にして、そんなお前たちを見て、自分が安定した所にいることを確認して、「自分はここでいい、ここにいてよかった」って安心してるんだ。優越感を感じたいだけなんだ。 役者:だったらあなたは何でここに来たの? 客:は? 役者:じゃあ何のためにここにいるの?何のために金払って、時間消費して、芝居観に来てるわけ? 客:だから言ってるだろ 役者:本当に馬鹿にするためだけにここに来たの?正社員とか、安定した収入とか、社会的地位とか、世間からの信用とか、俗に言うまっとうな生活?そりゃいいよ。普通はそれを望みますよね。でも、あんたたちみんな、俺たちの事どこかでうらやましいんじゃないの? 客:なにいってんだ? 役者:あんたたちがバカバカしいと思ってることに対して、金も時間も惜しまずに必死になって、表現しようとしてる俺たちがうらやましいんじゃないの? 客:馬鹿げてる 役者:そう。馬鹿げた事をあんたはこんなにも堂々と主張できないだろ?あんたに俺の真似ができないだろ? 自分には出来ない何かを求めてここに来てるんじゃないの? うらやましくて仕方なくて、でもこんな底辺の人間をうらやんでる自分を認めたくなくて、必死になって見下そうとする、優越感に変えようとする。 役者:俺の舞台は俺にしかできない。誰にも真似できない。俺の自由だ。 役者:俺はどんな客でもいい。それでいい。優越感に浸るためでも、うらやましくても暇つぶしでも仕方なしにでもなんでもいい。俺の芝居にどんな価値を見出そうが、どんな意味を拾おうがなんでもいい。この空間全てが自由なんだ。俺だけじゃなく、あなたたちも。 役者:俺は何に縛られることなく、とがめられることなく、自由に表現する。差別的な事も、性的な事も、忌み嫌われることも、汚いことも。俺のやり方で、やりたいようにやる。 どんな観客も全て俺の肥料にしてやる。しょうもない感想も、重箱の隅をつつくような批評も、全部おれのものだ。 だから全部正直に書きやがれ。あんたたちも綺麗にまとまるんじゃねぇ。全部食って、呑み込んでやる。そしてまたどこかで芝居にして吐き出してやる。 0:【長い間】 客:自由ね。 役者:そうだよ。 客:甘いんだよ。 役者:あまい? 客:お前の言ってるのは自由じゃない。自分勝手だ。「自分のやり方で、自分のやりたいように、やりたい事をやる。」聞こえはいいが、本当にそれでいいのか。 役者:そういってるだろ 客:忘れるな。こっちは中身の分からないものに対して、金と時間を先払いしてるんだ。ただの好き勝手にやられてたまるかよ。役者のわがままに付き合わされてたまるか。多くの人から金と時間をとる以上は責任持て。 役者:責任? 客:そうじゃないとお前の芝居は本当にしょうもない現実逃避になるぞ。 0:【間】 0:【客出入り口からいつの間にか退場】 役者:芝居やってる人間が全部、有名になりたいからやってるとか、大きな勘違いだ。もちろんそんな人だっているさ。でもオレは違う。 役者:俺は、ここが自分の生きる場所だって思うから、ここにいる。ただそれだけだ。 役者:笑うなら笑えよ。俺の人生でもなんでも笑え。優越感だろうがなんだっていい、心を動かしてみろ。誰かが俺を見て何かを感じたのならば、何か心が動いたのなら。それで俺の勝ちなんだ。それが俺がここにいる価値なんだ。 0:【長い間】 0:【舞台袖から客入り】 客:もういいよ。もうわかっただろ?全部ばれてんの。今まで俺たちがやってたこと、全部芝居だって。当り前だよな。みんなそれを見に来てるんだから。 役者:そりゃそうだろ。 客:でも、俺たちがどうあがいたって、客と俺たちの距離は縮まらない。 客:どんなに俺たちが引き寄せようとしたって、どんなに俺たちが歩み寄ったって、客席との距離は遠いまま。手を伸ばせばすぐ触れられる距離なのにな。 役者:恋愛小説かよ。 客:たしかに。でも、俺が言ったこと、間違ってるか? 役者:さぁ。 客:どこまでやったって、俺たちはハコから出られない。文字列を上手に読む人形のようにしか思われない。 客:なんのためにやってるんだろうな。 役者:しゃべる人形か。だったら、おとぎ話みたいに、人間になるためじゃないか。 0:【間】 役者:血の流れる人間になりたい。だから、人間が見せたくないところをわざわざ表に出して、人間の弱い所にスポットライトをあてて、人間のいいところを感動的に描く。でも、そうやってる限り俺たちは人形なんだろうな。 客:堂々巡りか。 役者:それでも捨てきれない夢なんだよ。きっと。 0:【暗転 -幕ー】

0:【役者舞台に板付きで明転】 役者:「あぁー。くそっ。もう少しだったのに。」 0:【鈴の音。役者、スマホゲームをしている。】 役者:「ん?なんだよ?」 役者:「あ、そう?聞こえなかった。で、なに?」(ゲームをしながら) 役者:「できたってなにが?」 役者:「えっ。」 役者:「ほんとうに?」 役者:「お前はどうしたいの?」 役者:「そ。そっか。ん。うん。そっか。わかった。じゃぁそうしよう」 0:【鈴の音。ほぼ同時に客乱入】 客:もういいよ。もうやめちまえよ。 役者:(一人芝居の続き)そりゃびっくりした。でも俺が最初に 客:どうせオチは離婚することになって、後悔して、ちょっと改心するんだろう?ちがうか? 0:【間】 客:ほらみろ。ありきたりなんだよ。そんなの何度も見た。他のお客も、みーんなわかってたよ?(客席に向かって)そうでしょ? 役者:(続き)でも俺が最初に 客:まだ続ける気?聞こえてる? 役者:(続き。集中力が切れ始める)思ったのはやはり、 客:「めんどくさいことになったな」だろう。 役者:(続き)めんどくさいことになったな。 客:ほらみろ。いい歳していつまでこんなことやるつもり?いつまでもいつまでも夢とか希望追ってこんなところにしがみつくのか? 役者:(続き)でもまぁ、断ったところでもめるほうが面倒だった。 客:みんなに楽しんでほしいってだけ?全然楽しくないし。TVに垂れ流されてるお笑い芸人の方がましだよ。 役者:(続き)普通だったらここで何を考えるのか。 客:もうやめちまえって。 役者:(しびれを切らして)うるさい。 客:やっと止めたか。 役者:あんた、何。 客:客。他の皆さんと一緒。お前に2千円と時間を浪費した客。 役者:他のお客さんの迷惑なんですけど 客:お前こそ、こんな芝居見せて客に迷惑だ。 役者:そんな屁理屈—— 客:——屁理屈でもなんでもないさ。こっちは金払ってんだから、文句の一つくらい言ったっていいだろ。 役者:それは終わってからアンケートに書いてもらえますか?それか、終わってからなら俺を殴ろうが何しようが構わないんで 客:あと何分続ける予定だった?10分?20分? 役者:それくらい待てませんか? 客:待てないね。しょうもない芝居のために1分たりとも待てないから、こうなったんだよ。 役者:だったら黙って出ていけばよかったでしょう。 客:俺だけじゃない。ここにいる全部のお客さんの時間を浪費させたくないから俺が声をあげたのさ。 役者:は?そんな勝手な 客:お前、気付いたか?お客の何人かが、お前の芝居中に時計気にしてたの 役者:そんなの気づきませんよ。 客:だろうな。そこで自分勝手に芝居してたからな。 役者:そんなことない。 客:じゃあ何してたんだよ。客の空気も感じずになにしてた 役者:おれは、つたえようと—— 客:——伝える?お前の演技で何が伝わる?自分が何か伝えられるほど上手いと思ってんの?上手いとか下手とかいうレベルじゃねぇよお前は。台本書いた奴だれ? 役者:おれです。 客:はっ。やっぱりな。ますますしょうもない野郎だな。で、脚本家として、役者として、何をつたえたかったの? 役者:それは 客:前も一人芝居やったのか?その時もアンケートしたんだろ?これみたいに(アンケートをペラペラ見せる) 役者:まぁ 客:褒めてもらったか? 役者:ええ。 客:どうせ「たのしかった」とか「おもしろかった」とか「また観たいです」とかそういうのばっかりだろ? 役者:それのなにが? 客:そんな言葉、どうにでもとれるし、誰にでも言えるじゃねぇか。 客:そんな幼稚園児でも言えるようなインスタントな感想で一喜一憂してんじゃねぇよ。客が何に感動して、何を面白がってるのかが全然わかってないからバカみたいな台本書いて、バカみたいな芝居が平気で出来るんだよ。 役者:それは、書いてくれた人たちに失礼じゃないですか? 客:でも事実だろ? そんな安っぽい感想しか引き出せないお前も問題なんだよ。 役者:そんなこと—— 客:——何年やってきたんだよ 【間】 客:あぁあぁいいや。何年やってようが関係ねぇや。こんなしょうもない芝居するんだったらこれから何年やろうと同じだよな。今までの時間も何の意味も価値もなかった。空っぽだったってことだ。 役者:あんたさぁ 客:ここにいる奴みんな、よくこんな馬鹿げたゴッコ遊びに付き合ってられるよな。 客:音響も照明も受付も、人かき集めて時間作ってやってるんだろ。お前たちみんなどうかしてるよ。 役者:それは関係ないでしょ 客:関係ない?それは冷たいんじゃねぇ?お前の馬鹿みたいな芝居を一緒に作った仲間だろ?お前みたいにしょうもない馬鹿の集まりだろ? 役者:関係ない!俺が下手で意味のないどうしょうもない芝居をやったのは認めます。 役者:だけど、他の人たちは俺が芝居をするために時間をかけてくれた人たちだ。俺の芝居の価値の無さとは関係ないだろ。 客:関係あるさ。今舞台にいなくてもお前の芝居で客から2千円とって人前でやろうとしたって時点で同類だろ。同類らしくさっきの芝居だってへたくそだったよ。素人丸出しだ。 役者:そりゃ、ダメ出ししたらキリがない。素人だって言われたら否定できない。でも彼女たちにしかできない表現であの台本を仕上げたんです。あれは彼女たちにしかできないものです。誰かの心を動かす事ができたはずです。 客:誰かの心?誰だよそいつ。あいつらにだけ出来るとか、そこに価値はないだろ。 客:結局は芝居も料理と同じで、個性じゃなく、良いか悪いかに価値があるんじゃないの。そうじゃなきゃ、棒読みでも噛みまくっても台詞飛ばしても、何やってもいいことになるよな。そんなものに金を出せるか。 客:お前らみんな自己中なんだよ。上手くやってるつもり、一生懸命伝えたつもり、伝わったつもり、感動させたつもり、心を動かしたつもり、全部つもりつもりつもり、はずだはずだはずだ。 役者:そんなことな——。 客:——そんなことあるだろ?さっき、お前いったじゃないか。「誰かの心を動かす事ができたはずです」って 役者:それは。 客:まぁお前だけにいってもしょうがねぇ。さっきの奴らも出せよ。 役者:出しません。 客:出せって言ってるだろ? (「出せ」「出しません」数回繰り返し) 役者:黙ってくれ。 【長い間】 役者:ない 客:は? 役者:俺は別にメッセージなんて大それたもの持ってない。 客:伝えるっていったのはお前だろ。伝えようって気持ちだけで、伝える中身がなかったってことか?やっぱり空っぽじゃねえか。こりゃ傑作だな。 役者:中身。それって本当に必要なのか。 客:そりゃ必要だろうよ。空箱だけもらって誰が喜ぶ?誰が金を出す? 役者:世界平和?戦争反対?恋愛ってすてきだね?とか?森羅万象にメッセージがあるとでも?それこそ馬鹿げてる。しょうもない 客:は? 役者:メッセージに何の意味がある?無理やりにでも意味を見つけて、見つけた自分をほめてやるのか?「俺はわかったぞ」ってひけらかして、満足するのか? 役者:だからお前らはおかしいんだ。メッセージをわからないものは面白くないだとか、意味がわからないと言って突っぱねる。 客:意味の分からないものは、空箱同然だ 役者:そうやってあんたたちは「わからない自分」から目を背ける。やってる側だってわからない。それでも「わからない自分」と向き合ってもがきながら、やるんだ。 客:そんなのただの自己満足だろ?そんな自分に酔ってるだけ。哀れなんだよ。 役者:哀れ? 客:結局、客は、お前をばかにしてんの。おれたちはみんな、お前ら役者の事、「スゴイスゴイ」と言って見物しながら、心の底では見下してんの。 客:「どうせ金にもならないこと、よくやれるよな」「有名になれる人なんてたった一握りしかいないのに」。そうやって馬鹿にして、そんなお前たちを見て、自分が安定した所にいることを確認して、「自分はここでいい、ここにいてよかった」って安心してるんだ。優越感を感じたいだけなんだ。 役者:だったらあなたは何でここに来たの? 客:は? 役者:じゃあ何のためにここにいるの?何のために金払って、時間消費して、芝居観に来てるわけ? 客:だから言ってるだろ 役者:本当に馬鹿にするためだけにここに来たの?正社員とか、安定した収入とか、社会的地位とか、世間からの信用とか、俗に言うまっとうな生活?そりゃいいよ。普通はそれを望みますよね。でも、あんたたちみんな、俺たちの事どこかでうらやましいんじゃないの? 客:なにいってんだ? 役者:あんたたちがバカバカしいと思ってることに対して、金も時間も惜しまずに必死になって、表現しようとしてる俺たちがうらやましいんじゃないの? 客:馬鹿げてる 役者:そう。馬鹿げた事をあんたはこんなにも堂々と主張できないだろ?あんたに俺の真似ができないだろ? 自分には出来ない何かを求めてここに来てるんじゃないの? うらやましくて仕方なくて、でもこんな底辺の人間をうらやんでる自分を認めたくなくて、必死になって見下そうとする、優越感に変えようとする。 役者:俺の舞台は俺にしかできない。誰にも真似できない。俺の自由だ。 役者:俺はどんな客でもいい。それでいい。優越感に浸るためでも、うらやましくても暇つぶしでも仕方なしにでもなんでもいい。俺の芝居にどんな価値を見出そうが、どんな意味を拾おうがなんでもいい。この空間全てが自由なんだ。俺だけじゃなく、あなたたちも。 役者:俺は何に縛られることなく、とがめられることなく、自由に表現する。差別的な事も、性的な事も、忌み嫌われることも、汚いことも。俺のやり方で、やりたいようにやる。 どんな観客も全て俺の肥料にしてやる。しょうもない感想も、重箱の隅をつつくような批評も、全部おれのものだ。 だから全部正直に書きやがれ。あんたたちも綺麗にまとまるんじゃねぇ。全部食って、呑み込んでやる。そしてまたどこかで芝居にして吐き出してやる。 0:【長い間】 客:自由ね。 役者:そうだよ。 客:甘いんだよ。 役者:あまい? 客:お前の言ってるのは自由じゃない。自分勝手だ。「自分のやり方で、自分のやりたいように、やりたい事をやる。」聞こえはいいが、本当にそれでいいのか。 役者:そういってるだろ 客:忘れるな。こっちは中身の分からないものに対して、金と時間を先払いしてるんだ。ただの好き勝手にやられてたまるかよ。役者のわがままに付き合わされてたまるか。多くの人から金と時間をとる以上は責任持て。 役者:責任? 客:そうじゃないとお前の芝居は本当にしょうもない現実逃避になるぞ。 0:【間】 0:【客出入り口からいつの間にか退場】 役者:芝居やってる人間が全部、有名になりたいからやってるとか、大きな勘違いだ。もちろんそんな人だっているさ。でもオレは違う。 役者:俺は、ここが自分の生きる場所だって思うから、ここにいる。ただそれだけだ。 役者:笑うなら笑えよ。俺の人生でもなんでも笑え。優越感だろうがなんだっていい、心を動かしてみろ。誰かが俺を見て何かを感じたのならば、何か心が動いたのなら。それで俺の勝ちなんだ。それが俺がここにいる価値なんだ。 0:【長い間】 0:【舞台袖から客入り】 客:もういいよ。もうわかっただろ?全部ばれてんの。今まで俺たちがやってたこと、全部芝居だって。当り前だよな。みんなそれを見に来てるんだから。 役者:そりゃそうだろ。 客:でも、俺たちがどうあがいたって、客と俺たちの距離は縮まらない。 客:どんなに俺たちが引き寄せようとしたって、どんなに俺たちが歩み寄ったって、客席との距離は遠いまま。手を伸ばせばすぐ触れられる距離なのにな。 役者:恋愛小説かよ。 客:たしかに。でも、俺が言ったこと、間違ってるか? 役者:さぁ。 客:どこまでやったって、俺たちはハコから出られない。文字列を上手に読む人形のようにしか思われない。 客:なんのためにやってるんだろうな。 役者:しゃべる人形か。だったら、おとぎ話みたいに、人間になるためじゃないか。 0:【間】 役者:血の流れる人間になりたい。だから、人間が見せたくないところをわざわざ表に出して、人間の弱い所にスポットライトをあてて、人間のいいところを感動的に描く。でも、そうやってる限り俺たちは人形なんだろうな。 客:堂々巡りか。 役者:それでも捨てきれない夢なんだよ。きっと。 0:【暗転 -幕ー】