台本概要
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タイトル | 舞台【千秋楽】(2) |
---|---|
作者名 | ペペドルトン・ササミ (@pe2dorton) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男2) |
時間 | 20 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
『舞台』 小さな芝居小屋。男(役者)が一人芝居をしている。 チケット代2000円。 オムニバス形式で、男の前に、女性二人の演目があった。 今日は【千秋楽】。 『舞台(1)』をご経験の上で、この台本をご使用になることを強くお勧めします。 『舞台(1)』https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/1376 続きがあります。 『舞台【幕】(3)』https://taltal3014.lsv.jp/app/public/script/detail/1380 ・アドリブ・セリフの過度な改変禁止。 ・性別変更可(語尾変更可)。 ・少しでも自由に演じていただけるよう、「!」「…」等の表記はなくしています。 ご利用の際、ご一報くださるとうれしいです。 469 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
役者 | 男 | 75 | 舞台をしている人 |
客 | 男 | 75 | 舞台をみている人 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:【役者舞台に板付きで明転】
役者:「あぁー。くそっ。もう少しだったのに。」
0:【鈴の音。役者、スマホゲームをしている。】
役者:「ん?なんだよ?」
役者:「あ、そう?聞こえなかった。で、なに?」
役者:(ゲームをしながら)「できたってなにが?」
役者:「えっ。」
役者:「ほんとうに?」
役者:「お前はどうしたいの?」
役者:「そ。そっか。ん。うん。そっか。わかった。じゃぁそうしよう」
0:【鈴の音。ほぼ同時に客乱入】
客:もういいわ。もうやめちまえよ。うんざりだわ。
役者:(一人芝居の続きをしようとしている)そりゃびっくりした。でも俺が最初に
客:どうせオチは離婚することになって、後悔して、ちょっと改心するんだろう?ちがうか?
0:【間】
客:ありきたりなんだよ。そんなの何度も見た。他のお客様も、みーんなわかったよ?(客席に向かって)そうだろ?
役者:(続き)でも俺が最初に
客:まだ続ける気?聞こえてる?
役者:(続き。集中力が切れ始める)思ったのはやはり、
客:「めんどくさいことになったな」だろ?
役者:(続き)めんどくさいことになったな。
客:(ため息)いい歳していつまでこんな事やってんの?いつまでもいつまでも夢とか希望を追ってこんなとこにしがみつくのか?
役者:(続き)でもまぁ、断ったところでもめる方が面倒だった
客:みんなに楽しんでほしいってだけ?全然楽しくないし。テレビで垂れ流されてるクソつまんないお笑い芸人の方がマシだよ。
役者:(続き)普通だったらここで何を考えるのか。
客:もうやめろって。
役者:(しびれを切らして)うるさい。
客:やっと止めた?
役者:あんた、何。
客:お客様。他の皆さんと一緒です。お前に2千円と貴重な時間を浪費した客。
役者:他のお客様の迷惑なんですけど
客:お前こそ、こんな芝居見せて迷惑だと思わないの?
役者:そんな屁理屈――
客:――屁理屈でもなんでもないだろ。こっちは金払ってやってんだから、文句の一つくらい言ったっていいだろ?
役者:それは終わってからアンケートに書いてもらえますか?それか、終わってからなら俺を殴ろうが何しようが構わないんで
客:あとどれぐらい続ける予定だった?10分?20分?
役者:それくらい待てませんか?
客:待てないね。こんなしょうもない芝居のために1分たりとも待てないから、こうなったの。
役者:だったら黙って出ていけばよかったでしょう。
客:いやいや俺だけじゃないよ。ここにいる全部のお客様の時間を浪費させたくないから俺が声をあげたってわけ。
役者:は?そんな勝手な
客:お前、気付いてないだろうけど、お客様の何人かが芝居中に時計気にしてたぞ。
役者:そんなの気づきませんよ。
客:だろうな。そこで自分勝手に芝居してたからね。
役者:そんなことない。
客:じゃあ何してたんだよ。お客様の空気も感じずに何してた。
役者:おれは、つたえようと——
客:——え?伝える?お前の演技で何が伝わる?自分が何か伝えられるほど上手いと思ってんの?上手いとか下手とかそういうレベルじゃねぇよお前は。台本書いた奴だれ?
役者:俺です。
客:はっ。やっぱりな。ますますしょうもない野郎だな。で、脚本家として、役者として何をつたえたかったの?
役者:それは——
客:——前も一人芝居やったのか?その時もアンケートとったんだろ?コレみたいに(アンケートをペラペラ見せる)
役者:まぁ
客:何て書いてあった?
役者:それは
客:どうせ「たのしかった」とか「おもしろかった」とか「また観たいです」とかそういうのばっかりだろ?
役者:それの何が?
客:そんな薄っぺらい言葉、どうにでもとれるし、誰にでも言えるじゃねぇか。
客:幼稚園児でも言えるようなインスタントな感想で一喜一憂してんじゃねぇよ。お客様が何に感動して、何を面白がってるのか全然わからないからカスみたいな台本書いて、カスみたいな芝居が本気で出来るんだよ。
役者:それは、書いてくれた人たちに失礼じゃないですか?
客:でも事実だろ? そんな安っぽい感想しか引き出せないお前も問題なんだよ。
役者:そんなこと
客:事実だろ。俺たちがどんなに足掻こうと、そんな感想しか引き出せなかった。
役者:え?
客:スゴイとかカッコイイとかオモシロイとかマタミタイデスとかコエガスキデスとか。
客:俺たちの芝居は、そんな言葉しか残せないのか。そんな言葉が欲しくてやってんのか。
役者:何言ってんの。
客:これはこんな言葉の為にやってるんじゃないだろ。観てるお客様に喧嘩売るためだろ?インスタントな言葉で済ませんなって言いたかったんだろ?
役者:(客席に向かって)すいません。やり直します。(「客」に向かって)台本に戻れって。
客:なのに、なんで伝わらないんだよ。どうしてそんな言葉が出てくるんだ。
役者:いいから戻れ。
客:考えさせられましたってさ、一体何を考えたのか教えてほしいよな。
役者:いい加減にしろよ。
客:台本に戻るのはお前だ。
役者:は?
客 :お客様はこれも台本だって思ってる。そうだよ、台本通りだよ。
0:【客、舞台へ】
客:俺たちの言葉は全部セリフだ。キレる俺も、うろたえるお前も全部シナリオ通り。役者なんだろ?最後まで演れ。飛ばしてんじゃねぇよ。
役者:そんなこと――
客:――稽古通りに芝居しろ。セリフは飛ばすな。シナリオ通りにやれ。――
役者:――どうしようもないだろ。――
客:――戻れよ。
0:【間】
役者:客に残ったものがすべてだ。客に何か残そうとか伝えようなんてただの傲慢。自分勝手なんだよ。
客:だったら、メッセージなんてどうでもいいのはお客様だろ。分からない自分から目を背けて、馬鹿にみられないように、嫌われないように、それっぽい言葉を並べてるだけ。
役者:もうやめろって。お前の言いたいことはわかる、わかるけどな。
客:カッコイイって何だよ?スゴイってなんだよ?
役者:俺が知るか。
客:じゃあどうして、カッコイイなんて書くんだよ。俺たちの何がそんなにカッコよかったんだ。
役者:いい加減にしてくれ!俺たち役者は、お客様が居ねぇと役者じゃないんだ。たとえ、どんなお客様でも。重箱の隅を突くお客様も、カッコイイとかスゴイしか言えないお客様も、何も言わないお客様も、俺たちを見下すお客様も。
役者:どんなに虚しくても、悔しくても、辛くてもだ。それに、そう言わせたのは役者の責任。ただカッコイイだけの演技だったんだ。
客:俺だって最初はそう思ってたよ。お客様の薄っぺらい、黄色い声の上にアグラかいて、声優ぶって、役者面して、偉そうにして、台本そっちのけでチヤホヤされたいだけの独りよがりな芝居しやがって、そんな人間クソみてぇだって。
役者:そうだよ。
客:でもな、ふと思ったんだ。誰かが「カッコイイ」「イケてますね」なんて言わなきゃ、コイツはこんな事にならなかったんじゃねぇかって。
役者:そんなのタラレバだろ。
客:お客様が居ねぇと役者になれないなら、役者を生み出すのはお客様じゃねぇのか?
役者:は?
客:ここまで好き放題本音を言っても、ありのままの俺たちで会話しても、「カッコイイ」「スゴイ」しか言えないお客様は、ただの馬鹿野郎じゃねぇか。
役者:もうやめろって。イケボもカワボも吐息も、選ばれるために必要なんだろ。お客様がそれを求めてるなら。
客:アンケートは要望書か?客は、俺たちにカッコよさとか、イケボとか、吐息を求めてるから、遠回しに伝えてきてんのか?
役者:違うだろ。きっと。
客:だったら――
役者:――俺たちは所詮人形だ。人間になりたい、認められたいと思えば思うほどに人間から遠ざかる。哀れな人形。客の欲望に合わせるだけの人形。でもそうしないと自分を見失う。
客:違う。作り物の人間を演じていても、そこに居るのは間違いなく俺だ。俺の意志だ。
客:でもな、選ばれるために、褒められるために演れば、本当の人形じゃないか。それこそ自分を見失ってんじゃないのか?
役者:だったら、お客様が居なくてもお前は芝居ができるか?お客様を置いてけぼりで、自由にやって、「これが俺だ」って。それが自分勝手でわがままな自己満足の芝居っていうんだろ。
客:そんな言葉の為にお前は『舞台』を書いたのか?
役者:そんなわけねぇだろ。
客:でもお客様に残ったものが全てだ。だったらこの台本もカッコイイ「だけ」なんだろ。
役者:違う。
客:チヤホヤされるために「役者っぽい」こと書いただけなんだろ。
役者:違う。
客:じゃぁなんだ。ちゃんと言わなきゃ誰にも伝わんねぇんだよ。
役者:言ってどうなる?あそこまで言ってわかんねぇ奴に何を言えっていうんだ。
客:結局伝わってねぇんだよ!だからこうなってんじゃねぇのか。深そうに綺麗な言葉でまとめたから、お客様は「深いですねぇ」に甘えるんだ。
役者:そんなんじゃない。そんなんじゃない。
客:じゃぁ何なんだよ。
役者:芝居を、芝居を観て欲しいんだ。俺たちは飾り物じゃなくて、人間だ。舞台上の絶望も虚しさも全部抱えて、それでも舞台で生きる人間を。その人間が作る芝居を観て欲しくて。
客:お客様もみてほしくてここにいる。わかるか?
役者:は?
客:俺たちみたいな大したことない奴見つけて、テキトーにカッコイイって言って、「ありがとう」って言うの待ってんの。自分がカッコイイって言った人に振りむいてもらえた自分が愛おしい。
役者:だったら言葉は何でもいいのか?
客:そう。ウマイとかカッコイイって叫ぶ自分が大好きなだけ。そうだろ?
役者:「人を褒めた自分」、「人を評価した自分」が偉くなった気がして気持ちいいだけ。役者の事、「スゴイスゴイ」と見物しながら、心の底では見下してんの。優越感を感じたいだけ。
客:他大勢がカッコイイって言ってるってだけでもいいんだろ?大勢いると正しい気分になるから。
それでも、「私は違う」「私は考えてる」「私はわかる」って、また空っぽな言葉でアピールして。
役者:お客様は人形か?だったら俺たちはなんのために。
客:しまいにはファン同士でお熱になって、騒いで、家族ごっごやガチ恋とか師匠とか先生とかナントカ様だとかほざいて、アンチを排除して。馬鹿げてる。
役者:しょうもない。
客:そんな言葉しかねぇから、イケボ・カワボ・吐息だけの雰囲気芝居になるんだろ?「チヤホヤされたい」の代わりに「芝居が好き」って言うんだろ?
客:そんな言葉しかねぇから、ただ読めるだけで、ただ書けるだけで「役者」や「脚本家」名乗って偉そうに講釈垂れるクソ共が増えるんだ。
役者:みて欲しかったら、心を動かしてみろ。人間なんだろ。人形じゃないんだろ。俺たちは観て欲しいから、自分で考えて自分で芝居してるんだ。ここに俺はいるんだ。
0:【間】
客:言えたな。
役者:『舞台』に全部書いたと思ったけどな。どこまで言えば伝わるんだ。
客:無理だって。メッセージなんて興味ねぇんだよ、お客様は。
役者:俺はそうなりたくなくて、芝居してたはずなのに。傲慢、か。
0:【間】
客:どんな気分だ。
お客様にはこれが台本か、俺たちの言葉かわからねぇかもな。
役者:もしこれが台本だとしたらひでぇな。
客:たしかに。
役者:複雑だよ。
0:【間】
役者:お客様にこれだけ文句言って、でもそれが全部自分に返ってきて、何が正しくて、何が間違ってるのか、もうごちゃごちゃだよ。
客:そうかもな。
役者:お前は?
客:少しすっきりしたかな。
役者:そりゃあれだけ文句言ったからな。
客:そうじゃなくて、これを台本だと思って黙ってみてるお客様が、なんかおかしいだろ。
でも、結局俺たちは人形に見られてんのかな。そうだな。複雑だな。
役者:お客様はお客様、役者様は役者様。距離は縮まらない。どんなに俺たちが引き寄せようとしたって、どんなに俺たちが歩み寄ったって、客席との距離は遠いまま。手を伸ばせばすぐ触れられる距離なのにな。
客:どこまでやったって、俺たちはハコから出られない。文字列を上手に読む人形のようにしか思われない。ほんと何のためにやってんだろうな。
役者:まだ人間になりたいか?
客:あぁ。
役者:堂々巡りでも?
客:ここが自分の生きる場所だって思うから、ここにいる。ただそれだけだ。
役者:ははっ
客:笑うなら笑えよ。俺の人生でもなんでも笑え。
役者:おまえの勝ちだ。お前がここにいる価値だ。
客:お前に俺の真似ができないだろ?
役者:そうだな。こんなに台本も劇場内の空気も滅茶苦茶にして、俺にはできないよ。
客:うらやましいか?
役者:少し。
客:俺、無責任かな。
役者:かなりな。
客:だよな。哀れか?
役者:どうだろうな。客に聞けよ。
客:無理だよ。あんなに遠いんだから。
役者:じゃあ、アンケートを楽しみにしとけ。
0:【役者立ち上がって、舞台袖へ】
客:おい。
役者:お前が滅茶苦茶にしたんだ。お前がオチつけろよ。
0:【役者ハケ】
0:【間】
客:どんな観客も全て俺の肥料にしてやる。しょうもない感想も、重箱の隅をつつくような批評も、全部おれのものだ。
だから全部正直に書きやがれ。あんたたちも綺麗にまとまるんじゃねぇ。全部食って、呑み込んでやる。そしてまたどこかで芝居にして吐き出してやる。
客:俺は無責任か?自分勝手か?現実逃避か?自己満足か?哀れか?・・・俺は、自由だったか?
客:・・・ばーか
0:【暗転・幕】
0:【役者舞台に板付きで明転】
役者:「あぁー。くそっ。もう少しだったのに。」
0:【鈴の音。役者、スマホゲームをしている。】
役者:「ん?なんだよ?」
役者:「あ、そう?聞こえなかった。で、なに?」
役者:(ゲームをしながら)「できたってなにが?」
役者:「えっ。」
役者:「ほんとうに?」
役者:「お前はどうしたいの?」
役者:「そ。そっか。ん。うん。そっか。わかった。じゃぁそうしよう」
0:【鈴の音。ほぼ同時に客乱入】
客:もういいわ。もうやめちまえよ。うんざりだわ。
役者:(一人芝居の続きをしようとしている)そりゃびっくりした。でも俺が最初に
客:どうせオチは離婚することになって、後悔して、ちょっと改心するんだろう?ちがうか?
0:【間】
客:ありきたりなんだよ。そんなの何度も見た。他のお客様も、みーんなわかったよ?(客席に向かって)そうだろ?
役者:(続き)でも俺が最初に
客:まだ続ける気?聞こえてる?
役者:(続き。集中力が切れ始める)思ったのはやはり、
客:「めんどくさいことになったな」だろ?
役者:(続き)めんどくさいことになったな。
客:(ため息)いい歳していつまでこんな事やってんの?いつまでもいつまでも夢とか希望を追ってこんなとこにしがみつくのか?
役者:(続き)でもまぁ、断ったところでもめる方が面倒だった
客:みんなに楽しんでほしいってだけ?全然楽しくないし。テレビで垂れ流されてるクソつまんないお笑い芸人の方がマシだよ。
役者:(続き)普通だったらここで何を考えるのか。
客:もうやめろって。
役者:(しびれを切らして)うるさい。
客:やっと止めた?
役者:あんた、何。
客:お客様。他の皆さんと一緒です。お前に2千円と貴重な時間を浪費した客。
役者:他のお客様の迷惑なんですけど
客:お前こそ、こんな芝居見せて迷惑だと思わないの?
役者:そんな屁理屈――
客:――屁理屈でもなんでもないだろ。こっちは金払ってやってんだから、文句の一つくらい言ったっていいだろ?
役者:それは終わってからアンケートに書いてもらえますか?それか、終わってからなら俺を殴ろうが何しようが構わないんで
客:あとどれぐらい続ける予定だった?10分?20分?
役者:それくらい待てませんか?
客:待てないね。こんなしょうもない芝居のために1分たりとも待てないから、こうなったの。
役者:だったら黙って出ていけばよかったでしょう。
客:いやいや俺だけじゃないよ。ここにいる全部のお客様の時間を浪費させたくないから俺が声をあげたってわけ。
役者:は?そんな勝手な
客:お前、気付いてないだろうけど、お客様の何人かが芝居中に時計気にしてたぞ。
役者:そんなの気づきませんよ。
客:だろうな。そこで自分勝手に芝居してたからね。
役者:そんなことない。
客:じゃあ何してたんだよ。お客様の空気も感じずに何してた。
役者:おれは、つたえようと——
客:——え?伝える?お前の演技で何が伝わる?自分が何か伝えられるほど上手いと思ってんの?上手いとか下手とかそういうレベルじゃねぇよお前は。台本書いた奴だれ?
役者:俺です。
客:はっ。やっぱりな。ますますしょうもない野郎だな。で、脚本家として、役者として何をつたえたかったの?
役者:それは——
客:——前も一人芝居やったのか?その時もアンケートとったんだろ?コレみたいに(アンケートをペラペラ見せる)
役者:まぁ
客:何て書いてあった?
役者:それは
客:どうせ「たのしかった」とか「おもしろかった」とか「また観たいです」とかそういうのばっかりだろ?
役者:それの何が?
客:そんな薄っぺらい言葉、どうにでもとれるし、誰にでも言えるじゃねぇか。
客:幼稚園児でも言えるようなインスタントな感想で一喜一憂してんじゃねぇよ。お客様が何に感動して、何を面白がってるのか全然わからないからカスみたいな台本書いて、カスみたいな芝居が本気で出来るんだよ。
役者:それは、書いてくれた人たちに失礼じゃないですか?
客:でも事実だろ? そんな安っぽい感想しか引き出せないお前も問題なんだよ。
役者:そんなこと
客:事実だろ。俺たちがどんなに足掻こうと、そんな感想しか引き出せなかった。
役者:え?
客:スゴイとかカッコイイとかオモシロイとかマタミタイデスとかコエガスキデスとか。
客:俺たちの芝居は、そんな言葉しか残せないのか。そんな言葉が欲しくてやってんのか。
役者:何言ってんの。
客:これはこんな言葉の為にやってるんじゃないだろ。観てるお客様に喧嘩売るためだろ?インスタントな言葉で済ませんなって言いたかったんだろ?
役者:(客席に向かって)すいません。やり直します。(「客」に向かって)台本に戻れって。
客:なのに、なんで伝わらないんだよ。どうしてそんな言葉が出てくるんだ。
役者:いいから戻れ。
客:考えさせられましたってさ、一体何を考えたのか教えてほしいよな。
役者:いい加減にしろよ。
客:台本に戻るのはお前だ。
役者:は?
客 :お客様はこれも台本だって思ってる。そうだよ、台本通りだよ。
0:【客、舞台へ】
客:俺たちの言葉は全部セリフだ。キレる俺も、うろたえるお前も全部シナリオ通り。役者なんだろ?最後まで演れ。飛ばしてんじゃねぇよ。
役者:そんなこと――
客:――稽古通りに芝居しろ。セリフは飛ばすな。シナリオ通りにやれ。――
役者:――どうしようもないだろ。――
客:――戻れよ。
0:【間】
役者:客に残ったものがすべてだ。客に何か残そうとか伝えようなんてただの傲慢。自分勝手なんだよ。
客:だったら、メッセージなんてどうでもいいのはお客様だろ。分からない自分から目を背けて、馬鹿にみられないように、嫌われないように、それっぽい言葉を並べてるだけ。
役者:もうやめろって。お前の言いたいことはわかる、わかるけどな。
客:カッコイイって何だよ?スゴイってなんだよ?
役者:俺が知るか。
客:じゃあどうして、カッコイイなんて書くんだよ。俺たちの何がそんなにカッコよかったんだ。
役者:いい加減にしてくれ!俺たち役者は、お客様が居ねぇと役者じゃないんだ。たとえ、どんなお客様でも。重箱の隅を突くお客様も、カッコイイとかスゴイしか言えないお客様も、何も言わないお客様も、俺たちを見下すお客様も。
役者:どんなに虚しくても、悔しくても、辛くてもだ。それに、そう言わせたのは役者の責任。ただカッコイイだけの演技だったんだ。
客:俺だって最初はそう思ってたよ。お客様の薄っぺらい、黄色い声の上にアグラかいて、声優ぶって、役者面して、偉そうにして、台本そっちのけでチヤホヤされたいだけの独りよがりな芝居しやがって、そんな人間クソみてぇだって。
役者:そうだよ。
客:でもな、ふと思ったんだ。誰かが「カッコイイ」「イケてますね」なんて言わなきゃ、コイツはこんな事にならなかったんじゃねぇかって。
役者:そんなのタラレバだろ。
客:お客様が居ねぇと役者になれないなら、役者を生み出すのはお客様じゃねぇのか?
役者:は?
客:ここまで好き放題本音を言っても、ありのままの俺たちで会話しても、「カッコイイ」「スゴイ」しか言えないお客様は、ただの馬鹿野郎じゃねぇか。
役者:もうやめろって。イケボもカワボも吐息も、選ばれるために必要なんだろ。お客様がそれを求めてるなら。
客:アンケートは要望書か?客は、俺たちにカッコよさとか、イケボとか、吐息を求めてるから、遠回しに伝えてきてんのか?
役者:違うだろ。きっと。
客:だったら――
役者:――俺たちは所詮人形だ。人間になりたい、認められたいと思えば思うほどに人間から遠ざかる。哀れな人形。客の欲望に合わせるだけの人形。でもそうしないと自分を見失う。
客:違う。作り物の人間を演じていても、そこに居るのは間違いなく俺だ。俺の意志だ。
客:でもな、選ばれるために、褒められるために演れば、本当の人形じゃないか。それこそ自分を見失ってんじゃないのか?
役者:だったら、お客様が居なくてもお前は芝居ができるか?お客様を置いてけぼりで、自由にやって、「これが俺だ」って。それが自分勝手でわがままな自己満足の芝居っていうんだろ。
客:そんな言葉の為にお前は『舞台』を書いたのか?
役者:そんなわけねぇだろ。
客:でもお客様に残ったものが全てだ。だったらこの台本もカッコイイ「だけ」なんだろ。
役者:違う。
客:チヤホヤされるために「役者っぽい」こと書いただけなんだろ。
役者:違う。
客:じゃぁなんだ。ちゃんと言わなきゃ誰にも伝わんねぇんだよ。
役者:言ってどうなる?あそこまで言ってわかんねぇ奴に何を言えっていうんだ。
客:結局伝わってねぇんだよ!だからこうなってんじゃねぇのか。深そうに綺麗な言葉でまとめたから、お客様は「深いですねぇ」に甘えるんだ。
役者:そんなんじゃない。そんなんじゃない。
客:じゃぁ何なんだよ。
役者:芝居を、芝居を観て欲しいんだ。俺たちは飾り物じゃなくて、人間だ。舞台上の絶望も虚しさも全部抱えて、それでも舞台で生きる人間を。その人間が作る芝居を観て欲しくて。
客:お客様もみてほしくてここにいる。わかるか?
役者:は?
客:俺たちみたいな大したことない奴見つけて、テキトーにカッコイイって言って、「ありがとう」って言うの待ってんの。自分がカッコイイって言った人に振りむいてもらえた自分が愛おしい。
役者:だったら言葉は何でもいいのか?
客:そう。ウマイとかカッコイイって叫ぶ自分が大好きなだけ。そうだろ?
役者:「人を褒めた自分」、「人を評価した自分」が偉くなった気がして気持ちいいだけ。役者の事、「スゴイスゴイ」と見物しながら、心の底では見下してんの。優越感を感じたいだけ。
客:他大勢がカッコイイって言ってるってだけでもいいんだろ?大勢いると正しい気分になるから。
それでも、「私は違う」「私は考えてる」「私はわかる」って、また空っぽな言葉でアピールして。
役者:お客様は人形か?だったら俺たちはなんのために。
客:しまいにはファン同士でお熱になって、騒いで、家族ごっごやガチ恋とか師匠とか先生とかナントカ様だとかほざいて、アンチを排除して。馬鹿げてる。
役者:しょうもない。
客:そんな言葉しかねぇから、イケボ・カワボ・吐息だけの雰囲気芝居になるんだろ?「チヤホヤされたい」の代わりに「芝居が好き」って言うんだろ?
客:そんな言葉しかねぇから、ただ読めるだけで、ただ書けるだけで「役者」や「脚本家」名乗って偉そうに講釈垂れるクソ共が増えるんだ。
役者:みて欲しかったら、心を動かしてみろ。人間なんだろ。人形じゃないんだろ。俺たちは観て欲しいから、自分で考えて自分で芝居してるんだ。ここに俺はいるんだ。
0:【間】
客:言えたな。
役者:『舞台』に全部書いたと思ったけどな。どこまで言えば伝わるんだ。
客:無理だって。メッセージなんて興味ねぇんだよ、お客様は。
役者:俺はそうなりたくなくて、芝居してたはずなのに。傲慢、か。
0:【間】
客:どんな気分だ。
お客様にはこれが台本か、俺たちの言葉かわからねぇかもな。
役者:もしこれが台本だとしたらひでぇな。
客:たしかに。
役者:複雑だよ。
0:【間】
役者:お客様にこれだけ文句言って、でもそれが全部自分に返ってきて、何が正しくて、何が間違ってるのか、もうごちゃごちゃだよ。
客:そうかもな。
役者:お前は?
客:少しすっきりしたかな。
役者:そりゃあれだけ文句言ったからな。
客:そうじゃなくて、これを台本だと思って黙ってみてるお客様が、なんかおかしいだろ。
でも、結局俺たちは人形に見られてんのかな。そうだな。複雑だな。
役者:お客様はお客様、役者様は役者様。距離は縮まらない。どんなに俺たちが引き寄せようとしたって、どんなに俺たちが歩み寄ったって、客席との距離は遠いまま。手を伸ばせばすぐ触れられる距離なのにな。
客:どこまでやったって、俺たちはハコから出られない。文字列を上手に読む人形のようにしか思われない。ほんと何のためにやってんだろうな。
役者:まだ人間になりたいか?
客:あぁ。
役者:堂々巡りでも?
客:ここが自分の生きる場所だって思うから、ここにいる。ただそれだけだ。
役者:ははっ
客:笑うなら笑えよ。俺の人生でもなんでも笑え。
役者:おまえの勝ちだ。お前がここにいる価値だ。
客:お前に俺の真似ができないだろ?
役者:そうだな。こんなに台本も劇場内の空気も滅茶苦茶にして、俺にはできないよ。
客:うらやましいか?
役者:少し。
客:俺、無責任かな。
役者:かなりな。
客:だよな。哀れか?
役者:どうだろうな。客に聞けよ。
客:無理だよ。あんなに遠いんだから。
役者:じゃあ、アンケートを楽しみにしとけ。
0:【役者立ち上がって、舞台袖へ】
客:おい。
役者:お前が滅茶苦茶にしたんだ。お前がオチつけろよ。
0:【役者ハケ】
0:【間】
客:どんな観客も全て俺の肥料にしてやる。しょうもない感想も、重箱の隅をつつくような批評も、全部おれのものだ。
だから全部正直に書きやがれ。あんたたちも綺麗にまとまるんじゃねぇ。全部食って、呑み込んでやる。そしてまたどこかで芝居にして吐き出してやる。
客:俺は無責任か?自分勝手か?現実逃避か?自己満足か?哀れか?・・・俺は、自由だったか?
客:・・・ばーか
0:【暗転・幕】