台本概要

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タイトル 帰郷
作者名 伯方SHIO  (@shio_voice_)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 2人用台本(不問2)
時間 30 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 一年に一度の奇跡
また来年も逢えますように

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 75
不問 78
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
 : 0:お墓  : 女:よ、久しぶり! 男:・・・久しぶり。 女:元気してた? 男:まぁ、ぼちぼち。そっちは? 女:私?私は変わらずといえば変わらずかなぁ。 男:そっか。まぁ、当たり前か。 女:そうだね。当たり前だ。  :*   :*   : (間)  :*  :* 女:ねぇ、いつまでもこんなとこにいないでさ、 女:どこかに移動しようよ! 女:っていっても、どこ行こうか。うーん。 男:じゃあさ、海行かない? 女:海? 男:昔、海行きたいって言ってたじゃん。 女:えー、言ったっけ?いつ? 男:病院入る前。 男:元気になったら絶対海で遊ぶんだー!って。 女:うっわ、懐かしい。それ何年前の話よ。 男:えーっと・・・五年前くらい? 女:え、もうそんなに経つの?時の流れ早すぎない? 女:どおりであんたも老けたわけだ。 男:そんなことない、僕はまだまだお兄さんだ! 女:ははは、その冗談はきつい。 男:うるさい、行くぞ。 女:うん!  :*   :*  :* 0:商店街 女:わー、このあたりかなり変わったね。 女:ねぇ、あのお店なに? 男:ん?あぁ、シェアキッチン。 男:いろんな店が入れ替わり立ち代わり入って 男:営業してるの。 男:今はカレー屋が入ってるみたいだね。 女:へー、おもしろい。 女:・・・そういえば、このあたりに 女:大黒っていう和菓子屋さんなかった? 男:あー、そこが無くなってシェアキッチン。 男:あそこのばぁちゃん年でもう店立てなくなったの。 男:んで、引退して息子夫婦に店任せたんだよね。 男:でも、その息子夫婦そのまま 男:権利も何もかも売っちゃってさ。 男:ばぁちゃんを川沿いの介護施設に預けて、 男:息子夫婦はそのまま海外に移住したらしい。 女:誰か会いに来る人はいるのかな。 男:さぁ、どうだろうね。 男:ばぁちゃん若いころに戦争で 男:兄ちゃん亡くしたって言ってたし 男:他にそういった話も聞かないから 男:一人なんじゃない? 女:そっか、寂しいね。 男:寂しい? 女:うん、寂しいよ。 女:住み慣れたところから一人 女:離れたところに暮らして。 女:そりゃ、もしかしたら友達とかできて 女:毎日わいわい過ごすかもだけど。 女:お友達のご家族がお友達に会いに来てるのを見たら 女:たぶんものすごく寂しく感じるんだろうなって。 女:それに、いつかお別れは来ちゃうから。 女:寂しいなって。 男:・・・。 女:っていうかさ、よく覚えてたね。 男:何が? 女:おばあちゃんの兄妹事情。 女:そんなに仲良かったっけ。 男:いや、小学生の頃さ 男:戦争の悲惨さを学ぶーみたいな授業で 男:ばぁちゃん学校に来たろ? 男:その時に言ってたじゃん。 女:あぁ、あったね、懐かしい。 男:ほら、僕んち姉ちゃんと僕の二人姉弟じゃん。 男:なんか他人事とは思えなくてさ。 女:なるほどね。 女:・・・姉弟か。 男:そういえば弟来てんの? 女:ううん。 女:それどころかお父さんもお母さんも来てないや。 女:今何してんだろうね。 男:会いに行けばいいじゃん。 女:久しぶり、元気?って? 男:そう。 女:びっくりしすぎてひっくり返りそう。 男:たしかに。 男:そういえば子どもの頃さ、 男:三人で肝試しに行ったときのこと覚えてる? 女:あれは結果的にそうなっただけで 女:肝試しじゃないから。 男:まぁね、たしか忘れ物を取りに行ったんだっけ。 女:そうそう、 女:次の日の朝提出しなきゃいけないプリントがあって。 男:朝やればいいじゃんっていったのに 男:真面目だから。 男:一人で行くのが怖いからって 男:弟を連れだしたはいいものの、 男:弟もびびりで全然頼りにならないーって 男:わざわざ僕まで呼び出して。 女:案の定、私たちより 女:あの子のほうがめちゃくちゃビビって騒ぐから 女:宿直の先生に見つかっちゃって。 男:僕は付き合わされただけだって言ってるのに 男:お前が付き合わせたんだろうって。 男:それに弟が騒いだのは君のせいでもあるだろ。 女:えー、そうだっけ。 男:そうだよ、 男:あれ?なんかトイレから声聞こえない?とか、 男:この階の踊り場でるんだって・・・とか 男:あの時お前らに付き合うとろくな目に遭わないって 男:子どもながらに思った。 女:ほんとごめんって。 女:・・・あ、この道懐かしい! 男:あからさまに話を逸らすな!  : 0:女、脇道に駆け出していく  : 男:あぁ、もうそうやって・・・! 女:えへへ、ごめんごめん、 女:まだ時間あるんだしいいじゃない。 男:どこにいくつもり? 女:なんか学校の話きいてたら 女:学校に行きたくなってきた。 男:は? 女:行こ行こ!! 女:どうせ学校の前通ると近道じゃん、 女:ついでに学校寄ってこうよ! 男:ほら、言ったそばから。 男:君はいいだろうけど僕は・・・。 男:それに今は 女:ほら、早くー!!ってあれ?門閉まってるじゃん。 男:今、学生はみんな夏休みだろ。 男:開いてるわけないじゃん。 女:あ、そっか・・・残念。 男:この道通るんだったら久しぶりにあそこ寄らね? 女:あそこってあの鯛焼き屋さん? 男:そうそう! 男:あそこのおばちゃんまた新メニュー作っててさ、 男:今はタピオカミルクティが 男:流行ってるんでしょって。 男:鯛焼きの中に 男:ミルクティクリームとタピオカ入れて出してた。 女:タピオカってなに? 男:あぁ、悪い、なんかわらび餅の黒糖版みたいな 男:もちもちした丸いやつが流行ってたんだよ。 男:なんだっけな、 男:すっげー面白い名前の植物が原料なの。 男:なんだっけ・・・あれだよあれ! 女:あれじゃわかんないよ、 女:それにやっぱり物忘れ酷くなったんじゃない? 男:違いますー!えーと、あ、あれだなんとかサバ!! 女:いや、全然思い出せてないじゃん。 女:サバ?魚じゃん。 男:いや、植物なんだって・・・。 男:あーもういい、スマホ見る! 男:・・・あ、キャッサバだって。 女:キャッサバ?変な名前。 男:あ、着いた。買ってくるよ、何がいい? 女:えー、迷うな・・・。 女:いつものカスタードも捨てがたいし 女:サバも気になる・・・。 男:キャッサバね。 男:じゃあ、半分ずつにする? 女:え、いいの?あ、でもお金・・・。 男:いいんだよ、久しぶりに会えたしおごらせて。 女:ありがとう。 男:うん。じゃあ、ちょっと待っててね。   : 0:男、鯛焼きを持って帰ってくる  : 男:お待たせ。はい、こっちがタピオカのやつね。 男:とりあえずあっちのベンチで座って食べない? 女:賛成!  :  : (間)  : 女:頭としっぽどっちがいい? 男:えー、どっちでもいいよ。  女:(鯛焼きを二つに分けて)はい。 男:そういえばさ、 男:鯛焼きの食べ方で性格診断できるらしいよ。 女:なにそれ。 男:普段はどうやって食べる? 女:え、どうやって?んー、頭からかじりつくかな。 女:ほら、魚を頭から食べると 女:頭よくなるっていうじゃん。 男:そうだっけ?てかすでに発想が馬鹿。 女:え、酷い!・・・で、頭から食べるとどうなのよ。 男:えーと、たしか・・・あ、あった。 男:物事を大雑把にとらえることが多く、 男:細かいことは気にしないタイプ、だって。 女:そんなことないよ、 女:細かいことめっちゃ気にするよー! 男:はいはい。 女:そういうあんたはどうなのよ。 女:どこから食べるの? 男:僕?僕は背びれから。 女:はぁ!?背びれ?変なの。 女:そんなの診断結果あるわけないじゃん。 女:なんであえてそこからなのよ。 男:いや、背びれの部分カリカリしてておいしいじゃん。 男:あそこが鯛焼きの部位で一番おいしい部分だと思ってる。 男:・・・あ、あった。 女:え、あるの? 男:えーっと、 男:こどもっぽくて甘えん坊で寂しがりやなところがあります・・・。 女:ぷ、あはははは、ぴったりじゃん。 男:違うよ、どこがだよ。 女:えー、寂しくなるとすぐ泣きつきに来るじゃん。。 男:いつの話してんだよ、そんなことないよ! 女:あはは、そういうことにしといてあげる。 男:…ん、意外とタピオカありだな。 男:中に餅が入ってるみたい。 女:これがタピオカ? 女:口の中でもちもちする!おいしいね! 男:あぁ、そうだこれ。 女:なにこれ? 男:マリトッツォ鯛焼き。 女:マリ・・・なんだって? 男:マリトッツォ。 男:なんか今年流行ってるみたい。 男:本来はブリオッシュの生地の間に 男:生クリームが詰まってるお菓子なんだけど 男:それを鯛焼きで表現してみたって。 女:口から生クリームが溢れててなんかグロいんだけど? 男:試作したからサービスだって渡されたんだけど 男:僕生クリーム苦手だから食べていいよ。 女:すごい見た目だなぁ、・・・いただきます。 男:どう? 女:え、なにこれめっちゃおいしい。 女:黒糖風味の生地でこのパンの部分は甘いんだけど 女:中のクリームはさっぱりしてて食べやすい。 男:それはよかった。 男:・・・ほんと昔から幸せそうに食べるな。 女:実際幸せだからね、んー甘い。  :   : (間)  : 男:のんびりしすぎたな、そろそろ夕方だし行くよ。 女:あらま、ほんとだ、行こっか。  :   : (間)  : 男M:海までの道を二人で並んで歩く。 男M:彼女とは一年に一度この日にしか会えない。 男M:彼女は五年前の今日、亡くなった。病死だった。 男M:彼女の家族は娘が亡くなってすぐどこかへ引っ越してしまった。 男M:一応墓の手入れを最低限してくれる業者に手配はしているようだが 男M:まったくお参りには来ていないようだ。 男M:彼女が亡くなって一年、墓参りに行くとそこに彼女がいた。 男M:それからは毎年命日に行くと、その一日だけ彼女と会うことができた。 男M:彼女と僕は幼馴染で、僕の初恋の人だった。 男M:機嫌よさげに歩く彼女の横顔。 男M:僕は年月が経てばどんどん老けていく。 男M:彼女は亡くなったあの当時のままの姿で毎年僕の前に現れる。 男M:なんだかそれがどうしようもなく苦しく僕の胸を締め付ける。  :  0:浜辺 女:着いたよ!わぁ、きらきらしてるねぇ!! 男:もっとなにか感想ないのかよ。 女:えー、心に浮かんできた言葉を 女:そのまま口にしただけだもん!  :  : 男M:むーっと頬を膨らませる彼女がとても愛おしい。 男M:彼女と過ごせる時間は日没までのわずかな時間。 男M:波打ち際ではしゃぐ彼女が僕に声をかけてきた。  :  : 女:ねぇ! 男:なにー? 女:こっち来て!私一人で遊んだって楽しくないよ。 男:あぁ、悪い悪い。今から行くよ。 女:・・・えいっ! 0:海水をかけられる 男:うっわ、しょっぱ。なにするんだよ。 女:考えてることばればれ。 女:あとちょっとでお別れだなぁとか考えてたんでしょ。 男:・・・。 女:もしかしたら来年も会えるかもしれないじゃん。 男:もしかしたら、だろ! 男:もしかしたら 男:今年でこんな奇跡が起こるのはこれが最後かもしれない。 女:だとしてもね、 女:ほんとはもう二度としゃべることができなかったはずなのに 女:こうやっておしゃべりできてる。 女:一緒にご飯も食べられるし触ることだってできる。 女:私、それだけですっごく嬉しいんだよ。 男:僕もそっちに・・・。 女:だめだよ、君までこっち来ちゃうと 女:私に世間の流行りを教えてくれる人いなくなっちゃうじゃん。 女:こっちでいっぱい生きて、 女:私にたくさん教えてよ。 男:ずっと一緒にいたい。 女:私はずっとそばにいるよ。 男:好きなんだ。 女:去年も一昨年も聞いた。私も好きだったよ。 男:どうして過去形なんだよ!俺は今でも好きだよ! 女:うん、ありがとう。でもね、私はもう死んでるの。 女:私はもうこの見た目のまま成長できないの。 女:君と一緒に隣で歩いて年を取ることができないんだよ。 女:ねぇ、あとちょっとの時間だけどさお話しようよ。 女:まだまだお話聞き足りないんだもん。 男:・・・うん。  :   : 男M:日が暮れるまで残り30分。 男M:去年最後に会った時から今日までの話をたくさんした。 男M:就職したこと、一人暮らしを始めたこと、 男M:新しくペットを飼い始めたこと。 男M:彼女は嫌な顔一つせずうんうんと楽しそうに話しを聞いてくれた。 男M:・・・太陽はもうすぐ海に沈む。 男M:君の姿がだんだん薄くなる。 男M:あと少し。あと少し。一分一秒でも長く一緒にいたい。 男M:そんな思いから気が付けば僕は彼女の手を強く握っていた。 男M:それに彼女もそっと返してくれる。 男M:気が付けば二人とも何もしゃべらなくなった。 男M:でも空気はとても穏やかで心地がよかった。  :  : 女:・・・そろそろいくね。 男:・・・うん。 女:今年もすごく楽しかった。 男:そういってもらえてよかったよ。 男:来年もまた会えるかな。 女:きっと会えるよ。 男:そっか。 女:うん。じゃあね。また来年。 男:うん、また来年。  : 0:女、消える  : 男M:先程まで握っていた彼女の手のぬくもりも感触も 男M:どこにもなくなっていた。 男M:彼女は自分のいるべき世界へと還っていったのだ。 男M:空には夏の大三角形にかかるように 男M:天の川が流れている。 男M:今年も僕の夏が終わった。

 : 0:お墓  : 女:よ、久しぶり! 男:・・・久しぶり。 女:元気してた? 男:まぁ、ぼちぼち。そっちは? 女:私?私は変わらずといえば変わらずかなぁ。 男:そっか。まぁ、当たり前か。 女:そうだね。当たり前だ。  :*   :*   : (間)  :*  :* 女:ねぇ、いつまでもこんなとこにいないでさ、 女:どこかに移動しようよ! 女:っていっても、どこ行こうか。うーん。 男:じゃあさ、海行かない? 女:海? 男:昔、海行きたいって言ってたじゃん。 女:えー、言ったっけ?いつ? 男:病院入る前。 男:元気になったら絶対海で遊ぶんだー!って。 女:うっわ、懐かしい。それ何年前の話よ。 男:えーっと・・・五年前くらい? 女:え、もうそんなに経つの?時の流れ早すぎない? 女:どおりであんたも老けたわけだ。 男:そんなことない、僕はまだまだお兄さんだ! 女:ははは、その冗談はきつい。 男:うるさい、行くぞ。 女:うん!  :*   :*  :* 0:商店街 女:わー、このあたりかなり変わったね。 女:ねぇ、あのお店なに? 男:ん?あぁ、シェアキッチン。 男:いろんな店が入れ替わり立ち代わり入って 男:営業してるの。 男:今はカレー屋が入ってるみたいだね。 女:へー、おもしろい。 女:・・・そういえば、このあたりに 女:大黒っていう和菓子屋さんなかった? 男:あー、そこが無くなってシェアキッチン。 男:あそこのばぁちゃん年でもう店立てなくなったの。 男:んで、引退して息子夫婦に店任せたんだよね。 男:でも、その息子夫婦そのまま 男:権利も何もかも売っちゃってさ。 男:ばぁちゃんを川沿いの介護施設に預けて、 男:息子夫婦はそのまま海外に移住したらしい。 女:誰か会いに来る人はいるのかな。 男:さぁ、どうだろうね。 男:ばぁちゃん若いころに戦争で 男:兄ちゃん亡くしたって言ってたし 男:他にそういった話も聞かないから 男:一人なんじゃない? 女:そっか、寂しいね。 男:寂しい? 女:うん、寂しいよ。 女:住み慣れたところから一人 女:離れたところに暮らして。 女:そりゃ、もしかしたら友達とかできて 女:毎日わいわい過ごすかもだけど。 女:お友達のご家族がお友達に会いに来てるのを見たら 女:たぶんものすごく寂しく感じるんだろうなって。 女:それに、いつかお別れは来ちゃうから。 女:寂しいなって。 男:・・・。 女:っていうかさ、よく覚えてたね。 男:何が? 女:おばあちゃんの兄妹事情。 女:そんなに仲良かったっけ。 男:いや、小学生の頃さ 男:戦争の悲惨さを学ぶーみたいな授業で 男:ばぁちゃん学校に来たろ? 男:その時に言ってたじゃん。 女:あぁ、あったね、懐かしい。 男:ほら、僕んち姉ちゃんと僕の二人姉弟じゃん。 男:なんか他人事とは思えなくてさ。 女:なるほどね。 女:・・・姉弟か。 男:そういえば弟来てんの? 女:ううん。 女:それどころかお父さんもお母さんも来てないや。 女:今何してんだろうね。 男:会いに行けばいいじゃん。 女:久しぶり、元気?って? 男:そう。 女:びっくりしすぎてひっくり返りそう。 男:たしかに。 男:そういえば子どもの頃さ、 男:三人で肝試しに行ったときのこと覚えてる? 女:あれは結果的にそうなっただけで 女:肝試しじゃないから。 男:まぁね、たしか忘れ物を取りに行ったんだっけ。 女:そうそう、 女:次の日の朝提出しなきゃいけないプリントがあって。 男:朝やればいいじゃんっていったのに 男:真面目だから。 男:一人で行くのが怖いからって 男:弟を連れだしたはいいものの、 男:弟もびびりで全然頼りにならないーって 男:わざわざ僕まで呼び出して。 女:案の定、私たちより 女:あの子のほうがめちゃくちゃビビって騒ぐから 女:宿直の先生に見つかっちゃって。 男:僕は付き合わされただけだって言ってるのに 男:お前が付き合わせたんだろうって。 男:それに弟が騒いだのは君のせいでもあるだろ。 女:えー、そうだっけ。 男:そうだよ、 男:あれ?なんかトイレから声聞こえない?とか、 男:この階の踊り場でるんだって・・・とか 男:あの時お前らに付き合うとろくな目に遭わないって 男:子どもながらに思った。 女:ほんとごめんって。 女:・・・あ、この道懐かしい! 男:あからさまに話を逸らすな!  : 0:女、脇道に駆け出していく  : 男:あぁ、もうそうやって・・・! 女:えへへ、ごめんごめん、 女:まだ時間あるんだしいいじゃない。 男:どこにいくつもり? 女:なんか学校の話きいてたら 女:学校に行きたくなってきた。 男:は? 女:行こ行こ!! 女:どうせ学校の前通ると近道じゃん、 女:ついでに学校寄ってこうよ! 男:ほら、言ったそばから。 男:君はいいだろうけど僕は・・・。 男:それに今は 女:ほら、早くー!!ってあれ?門閉まってるじゃん。 男:今、学生はみんな夏休みだろ。 男:開いてるわけないじゃん。 女:あ、そっか・・・残念。 男:この道通るんだったら久しぶりにあそこ寄らね? 女:あそこってあの鯛焼き屋さん? 男:そうそう! 男:あそこのおばちゃんまた新メニュー作っててさ、 男:今はタピオカミルクティが 男:流行ってるんでしょって。 男:鯛焼きの中に 男:ミルクティクリームとタピオカ入れて出してた。 女:タピオカってなに? 男:あぁ、悪い、なんかわらび餅の黒糖版みたいな 男:もちもちした丸いやつが流行ってたんだよ。 男:なんだっけな、 男:すっげー面白い名前の植物が原料なの。 男:なんだっけ・・・あれだよあれ! 女:あれじゃわかんないよ、 女:それにやっぱり物忘れ酷くなったんじゃない? 男:違いますー!えーと、あ、あれだなんとかサバ!! 女:いや、全然思い出せてないじゃん。 女:サバ?魚じゃん。 男:いや、植物なんだって・・・。 男:あーもういい、スマホ見る! 男:・・・あ、キャッサバだって。 女:キャッサバ?変な名前。 男:あ、着いた。買ってくるよ、何がいい? 女:えー、迷うな・・・。 女:いつものカスタードも捨てがたいし 女:サバも気になる・・・。 男:キャッサバね。 男:じゃあ、半分ずつにする? 女:え、いいの?あ、でもお金・・・。 男:いいんだよ、久しぶりに会えたしおごらせて。 女:ありがとう。 男:うん。じゃあ、ちょっと待っててね。   : 0:男、鯛焼きを持って帰ってくる  : 男:お待たせ。はい、こっちがタピオカのやつね。 男:とりあえずあっちのベンチで座って食べない? 女:賛成!  :  : (間)  : 女:頭としっぽどっちがいい? 男:えー、どっちでもいいよ。  女:(鯛焼きを二つに分けて)はい。 男:そういえばさ、 男:鯛焼きの食べ方で性格診断できるらしいよ。 女:なにそれ。 男:普段はどうやって食べる? 女:え、どうやって?んー、頭からかじりつくかな。 女:ほら、魚を頭から食べると 女:頭よくなるっていうじゃん。 男:そうだっけ?てかすでに発想が馬鹿。 女:え、酷い!・・・で、頭から食べるとどうなのよ。 男:えーと、たしか・・・あ、あった。 男:物事を大雑把にとらえることが多く、 男:細かいことは気にしないタイプ、だって。 女:そんなことないよ、 女:細かいことめっちゃ気にするよー! 男:はいはい。 女:そういうあんたはどうなのよ。 女:どこから食べるの? 男:僕?僕は背びれから。 女:はぁ!?背びれ?変なの。 女:そんなの診断結果あるわけないじゃん。 女:なんであえてそこからなのよ。 男:いや、背びれの部分カリカリしてておいしいじゃん。 男:あそこが鯛焼きの部位で一番おいしい部分だと思ってる。 男:・・・あ、あった。 女:え、あるの? 男:えーっと、 男:こどもっぽくて甘えん坊で寂しがりやなところがあります・・・。 女:ぷ、あはははは、ぴったりじゃん。 男:違うよ、どこがだよ。 女:えー、寂しくなるとすぐ泣きつきに来るじゃん。。 男:いつの話してんだよ、そんなことないよ! 女:あはは、そういうことにしといてあげる。 男:…ん、意外とタピオカありだな。 男:中に餅が入ってるみたい。 女:これがタピオカ? 女:口の中でもちもちする!おいしいね! 男:あぁ、そうだこれ。 女:なにこれ? 男:マリトッツォ鯛焼き。 女:マリ・・・なんだって? 男:マリトッツォ。 男:なんか今年流行ってるみたい。 男:本来はブリオッシュの生地の間に 男:生クリームが詰まってるお菓子なんだけど 男:それを鯛焼きで表現してみたって。 女:口から生クリームが溢れててなんかグロいんだけど? 男:試作したからサービスだって渡されたんだけど 男:僕生クリーム苦手だから食べていいよ。 女:すごい見た目だなぁ、・・・いただきます。 男:どう? 女:え、なにこれめっちゃおいしい。 女:黒糖風味の生地でこのパンの部分は甘いんだけど 女:中のクリームはさっぱりしてて食べやすい。 男:それはよかった。 男:・・・ほんと昔から幸せそうに食べるな。 女:実際幸せだからね、んー甘い。  :   : (間)  : 男:のんびりしすぎたな、そろそろ夕方だし行くよ。 女:あらま、ほんとだ、行こっか。  :   : (間)  : 男M:海までの道を二人で並んで歩く。 男M:彼女とは一年に一度この日にしか会えない。 男M:彼女は五年前の今日、亡くなった。病死だった。 男M:彼女の家族は娘が亡くなってすぐどこかへ引っ越してしまった。 男M:一応墓の手入れを最低限してくれる業者に手配はしているようだが 男M:まったくお参りには来ていないようだ。 男M:彼女が亡くなって一年、墓参りに行くとそこに彼女がいた。 男M:それからは毎年命日に行くと、その一日だけ彼女と会うことができた。 男M:彼女と僕は幼馴染で、僕の初恋の人だった。 男M:機嫌よさげに歩く彼女の横顔。 男M:僕は年月が経てばどんどん老けていく。 男M:彼女は亡くなったあの当時のままの姿で毎年僕の前に現れる。 男M:なんだかそれがどうしようもなく苦しく僕の胸を締め付ける。  :  0:浜辺 女:着いたよ!わぁ、きらきらしてるねぇ!! 男:もっとなにか感想ないのかよ。 女:えー、心に浮かんできた言葉を 女:そのまま口にしただけだもん!  :  : 男M:むーっと頬を膨らませる彼女がとても愛おしい。 男M:彼女と過ごせる時間は日没までのわずかな時間。 男M:波打ち際ではしゃぐ彼女が僕に声をかけてきた。  :  : 女:ねぇ! 男:なにー? 女:こっち来て!私一人で遊んだって楽しくないよ。 男:あぁ、悪い悪い。今から行くよ。 女:・・・えいっ! 0:海水をかけられる 男:うっわ、しょっぱ。なにするんだよ。 女:考えてることばればれ。 女:あとちょっとでお別れだなぁとか考えてたんでしょ。 男:・・・。 女:もしかしたら来年も会えるかもしれないじゃん。 男:もしかしたら、だろ! 男:もしかしたら 男:今年でこんな奇跡が起こるのはこれが最後かもしれない。 女:だとしてもね、 女:ほんとはもう二度としゃべることができなかったはずなのに 女:こうやっておしゃべりできてる。 女:一緒にご飯も食べられるし触ることだってできる。 女:私、それだけですっごく嬉しいんだよ。 男:僕もそっちに・・・。 女:だめだよ、君までこっち来ちゃうと 女:私に世間の流行りを教えてくれる人いなくなっちゃうじゃん。 女:こっちでいっぱい生きて、 女:私にたくさん教えてよ。 男:ずっと一緒にいたい。 女:私はずっとそばにいるよ。 男:好きなんだ。 女:去年も一昨年も聞いた。私も好きだったよ。 男:どうして過去形なんだよ!俺は今でも好きだよ! 女:うん、ありがとう。でもね、私はもう死んでるの。 女:私はもうこの見た目のまま成長できないの。 女:君と一緒に隣で歩いて年を取ることができないんだよ。 女:ねぇ、あとちょっとの時間だけどさお話しようよ。 女:まだまだお話聞き足りないんだもん。 男:・・・うん。  :   : 男M:日が暮れるまで残り30分。 男M:去年最後に会った時から今日までの話をたくさんした。 男M:就職したこと、一人暮らしを始めたこと、 男M:新しくペットを飼い始めたこと。 男M:彼女は嫌な顔一つせずうんうんと楽しそうに話しを聞いてくれた。 男M:・・・太陽はもうすぐ海に沈む。 男M:君の姿がだんだん薄くなる。 男M:あと少し。あと少し。一分一秒でも長く一緒にいたい。 男M:そんな思いから気が付けば僕は彼女の手を強く握っていた。 男M:それに彼女もそっと返してくれる。 男M:気が付けば二人とも何もしゃべらなくなった。 男M:でも空気はとても穏やかで心地がよかった。  :  : 女:・・・そろそろいくね。 男:・・・うん。 女:今年もすごく楽しかった。 男:そういってもらえてよかったよ。 男:来年もまた会えるかな。 女:きっと会えるよ。 男:そっか。 女:うん。じゃあね。また来年。 男:うん、また来年。  : 0:女、消える  : 男M:先程まで握っていた彼女の手のぬくもりも感触も 男M:どこにもなくなっていた。 男M:彼女は自分のいるべき世界へと還っていったのだ。 男M:空には夏の大三角形にかかるように 男M:天の川が流れている。 男M:今年も僕の夏が終わった。