台本概要
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タイトル | Eclipse-エクリプス-(男性版) |
---|---|
作者名 | 紫音 (@Sion_kyo2) |
ジャンル | その他 |
演者人数 | 2人用台本(男2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
『なあラインハルト、お前は何者だ?』 とある刑務所内の特別面会室。向かい合って座る殺人犯とその友人。 彼はなぜ罪もない人間を手にかけたのか。――見つめ続ければきっと見えてくる。さあ、答え合わせの時間だ。 ―――――――――――――――――――――――――――――――― エクリプス、男性版台本です。 時間は20分~30分を想定しています。 楽しんでいただけたら嬉しいです。 760 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
ラインハルト | 男 | 74 | どこにでもいる普通の「良い人」。 |
レナード | 男 | 74 | 殺人犯。ラインハルト曰く「優しくて思いやりに溢れた、明るく真っ直ぐな人」。 |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:
0:とある刑務所内、特別面会室にて。
0:二人の男が向かい合って座っている。
0:
レナード:……よォ、ラインハルト。お前もしつこい野郎だな。
ラインハルト:……気を悪くしたならすまなかったよ、レナード。
レナード:よくもまあ、毎日毎日、こんな刑務所の特別面会室なんかに来るもんだよな。俺なら二日で嫌になってるぜ。
ラインハルト:だって……キミは僕の、『友達』だから。
レナード:……友達ィ?
ラインハルト:そう。大事な大事な、僕の『友達』だ。
ラインハルト:だから、毎日だって会いにくるさ。
レナード:……ククッ……そうだな、そうだよなァ。『友達』、だよなァ。
レナード:俺は幸せだぜ、ラインハルト。こんなステキな『友達』をもってよ。
ラインハルト:……どうしてなんだ、レナード。
レナード:……あァ?
ラインハルト:どうしてこんなことをしたんだ。
レナード:こんなこと?……はて、なんのことだかな。
ラインハルト:おふざけじゃないんだよ、レナード。答えてくれないか。
レナード:だから、こんなことって?
ラインハルト:殺人だ。
レナード:……。
ラインハルト:何人も殺したんだろう?その手で。……どうしてなんだ。
ラインハルト:キミは、そんなことをするような人じゃない。……一体、どんな理由があって、こんなことを……
レナード:……ククッ。
レナード:クククッ……ハハハハッ!
ラインハルト:な、何がおかしいんだ……?
レナード:あーあーあ、悪かった悪かった、ハハッ。
レナード:いやあ……お前のその「何が何だか分からねぇ」っていう顔がよ、面白くてつい。
ラインハルト:……レナード、真面目に答えてくれ。
ラインハルト:僕がここに何度も足を運んでいるのは、キミがどうして殺人を犯したのか、その理由を知りたいからだ。
ラインハルト:どうしてこんなことをしたんだ。どうしてそんな風に笑っていられる?
ラインハルト:僕には分からないんだよ、レナード……。
レナード:理由なんて、必要か?
ラインハルト:……え?
レナード:お前今、こう思ってんだろ、ラインハルト。「自分の目の前にいるこの男は、異常そのものだ」……ってよ。
ラインハルト:それは……
レナード:ハッ、図星か?
ラインハルト:……本当は、友達に対してこんなこと言いたくない。
ラインハルト:でも、そう言わざるを得ないよ。……キミは『異常』だ、レナード。
レナード:なんで、そう思う?
ラインハルト:だってそうだろう、何の罪もない人を何人も殺したっていうのに……そうやって笑っていられるだなんて……
ラインハルト:一体何があったっていうんだ……どうしてそんな風になってしまったんだよ、レナード……!
レナード:……ククッ……ハハハハッ!
ラインハルト:答えてくれ!
レナード:こりゃあ傑作だ!……お前本当に面白れぇなァ、ラインハルト。
レナード:『どこにでもいそうな優等生くん』。真面目で健気、無知で純粋。
レナード:そうさなァ、それがお前だ、ラインハルト。……それならそれでいいさ。
レナード:そうだ、焦る必要はねぇ。“まだ”分からないとしても……どうせ、すぐに分かる。
ラインハルト:……“まだ”……?
レナード:話を戻そうか。
レナード:そうだ、おそらくお前から見れば『俺は異常』。……『正常な』お前から見ればな。
レナード:『正しいお前』が、『間違っている俺』の行動の理由を、果たしてどこまで理解できると思う?
ラインハルト:それ、は……
レナード:無理だろ。だって最初から、お前にその意志はねぇ。……そうであるのに、理由を問いただすことに意味があると思うか?
ラインハルト:……僕は、諦めてなんていないよ、レナード。キミを理解しようという意志ならある。
レナード:いいや違う、お前は最初から目を背けてんだよ。
ラインハルト:そんなこと――
レナード:お前の言う「理解」は、本当の意味での「理解」じゃあねぇ。
レナード:この現実を受け入れたくない、正面から向き合いたくない。だから何か、自分が納得できる『理由』を見つけてぇんだよ。……そして、都合の悪いもんは見えないふりをする。
レナード:だがそこに、真実はねぇだろ。お前にとって都合のいいものだけチョイスして、それに縋ってみたって……それは所詮「お前のための嘘」だ。
レナード:ならば最初から理由なんて必要ねぇ。どうせお前は、『異常である俺』の並べ立てる『理由』を……『真実』を、真っ向から否定し、拒絶する。
レナード:違うか、ラインハルト。
ラインハルト:……ああ……そうだな。
ラインハルト:キミの、言う通りかもしれない。
ラインハルト:それでも、僕は知りたいよ。どうしてキミがそこに至ったのか……キミが辿った道筋だけでも、知りたい。……知らなくちゃいけない気がするんだ。
ラインハルト:キミを、理解したいと思うから。……『納得』はできなくても、『理解』はできるかもしれないだろう?
レナード:……クククッ。
レナード:そうか……それがお前の答えか、ラインハルト。
レナード:なら、いいぜ。……辿ろうじゃねぇか、その『プロセス』。
レナード:お前になら、理解できそうだ。
ラインハルト:……さっきとは、まるで真逆のことを言うんだね。僕には理解できないと言ったくせに。
レナード:それは、この先のお前次第さ。
ラインハルト:……さっきから何が言いたいんだ、レナード。
レナード:自分の胸に手ェ当てて、考えてみたらどうだ?
ラインハルト:……え?
レナード:ククッ、それがヒントだ、ラインハルト。
レナード:さぁ、答え合わせの時間だ。
ラインハルト:答え、合わせ……?
0:レナードは一呼吸置いてから話し始める。
レナード:……始まりは、どこだったか。
レナード:なぁ、ラインハルト。お前はさっき俺に、こう言ったな。「どうしてそんな風になってしまったのか」と。
レナード:こうも言った。「キミはそんなことをするような人じゃない」。
レナード:じゃあ、ラインハルト。
レナード:お前の知ってる『俺』は、一体、どんな人間だった?
ラインハルト:……キミは、とても優しい人さ、レナード。
ラインハルト:優しくて思いやりに溢れた、明るく真っ直ぐな人だ。……僕の憧れだったよ。
ラインハルト:キミのようになれたら……って。何度そう思ったか分からない。
レナード:『とても優しい人』。
レナード:『優しくて思いやりに溢れた、明るく真っ直ぐな人』。
レナード:……クククッ、典型的だなァ。
ラインハルト:僕は……キミのことを、本当に良いやつだと思っていたよ。
ラインハルト:だからこそ分からないんだ……どうしてキミが、こんなふうに……
レナード:ああそうだなァ、分かるはずがねぇよ、ラインハルト。
レナード:なぜならお前は最初から……『俺』のことをまるっきり分かってねぇんだから。
ラインハルト:……え?
レナード:『俺』に限った話じゃあねぇな。
レナード:ラインハルト、お前はいつも、相手の「うわべ」しか見ねぇ。そいつの本質を、見ようとしない。
ラインハルト:どういうことだ?
レナード:最初に殺したのは、ウォルターだったな。
レナード:あいつのこと覚えてるか?
ラインハルト:……もちろんさ。
ラインハルト:ウォルターは頭が良くて、社交的で優しくて……いつもみんなの中心にいた。
レナード:そうさなァ……そうだ。
レナード:『頭が良くて、社交的で優しくて、いつもみんなの中心にいたあいつ』。
レナード:さあここで問題だ。どうしてあいつは殺されたんだと思う?
ラインハルト:どうしてって、そんなの……こっちが聞きたいくらいだよ、レナード。
ラインハルト:キミがやったことだろう、理由なんてキミにしか分からないじゃないか。
レナード:考えろ。ウォルターに殺されるような理由はあったか?
ラインハルト:……そんなもの、思いつかないさ。本当に良い人だったんだから。
レナード:良い人。……なんでそう思う?
ラインハルト:……ウォルターは、悩んでいた僕を励ましてくれたことがあったんだ。
ラインハルト:失敗ばかりで落ち込んでいた僕に、彼は的確なアドバイスをくれて、進むべき方向を示してくれた。『キミならきっとできるはずだよ』って、背中を押してくれた。……僕はあのとき、彼に救われたよ。
レナード:……クククッ。
ラインハルト:……今度は何が可笑しいんだい?
レナード:『救われた』だと?本当にそうか?
ラインハルト:……どういうことだ。
レナード:なあ、ラインハルト。その時のお前は確かに、ウォルターに感謝をしたのかもしれねぇ。だが同時に、こうは思わなかったか?
レナード:『どうしていつも、お前の方が上にいるんだ』って。
ラインハルト:……そんなこと、思いもしなかったさ。
レナード:そうだなァ、ラインハルト。お前は『良い子』くん、だもんなァ。
レナード:人の気遣いや好意は素直に受け取り、感謝するものだ。……それがこの世の中における『正しい』考え方だ。
ラインハルト:……言っていることの意味が、よく分からないよ。
レナード:けどな、ラインハルト。
レナード:人間はそんなにも、「出来た生き物」じゃあねぇよな?
ラインハルト:……どういう意味だよ。
レナード:親切ってのは人を救うかもしれねぇが……時に人をねじ伏せる力にもなりうる。
レナード:そう、それこそ……「的確なアドバイスと、進むべき方向性の提示」という行為も、行き過ぎれば自分の正しさの押し付けってことだ。
レナード:高慢だと……お前がそう感じたとしたって間違っちゃいねぇよ。
ラインハルト:レナード、待ってくれ。論点がずれてるんじゃないか。
ラインハルト:今は僕の話じゃなくて、キミの話をしているんだろう。
レナード:……。
ラインハルト:……レナード?
レナード:……ククッ、そうさな。話を戻そうか。
ラインハルト:……ああ。
レナード:だがこれで、少しは思い当たっただろ?ラインハルト。
レナード:なぜ、ウォルターは殺されたのか。
ラインハルト:……僕には……まだ……
レナード:分からねぇってか?……じゃあ、解説してやろうか。
レナード:ウォルターは、利口で社交的で、いつもスポットライトの中心にいながら……自分より劣る人間を導いて、感謝されて、そうして『優越感』に浸っていただろうさ。
レナード:だから言葉の端々に滲み出る。……「自分はお前らとは違う、お前らより優れた人間なんだ」っていう、高慢な顔が。
ラインハルト:……そんなの、キミの憶測だろう。ひねくれているよ。
レナード:ああそうだな、お前から見ればそうだろうよ。
レナード:『ひねくれている俺』は思った。……「どうしてお前に、他の人間を否定し、そして正す権利が存在するのか」ってな。
ラインハルト:じゃあ、キミは……
レナード:そうさ、形容するなら『怒り』だ。あるいは『嫉妬』だ。
レナード:俺より上に立ち、そこから見下ろし、自分の価値観を絶対的な正義と勘違いをして、優しい顔をしながら他人のプライドをぐちゃぐちゃに踏み潰していく、あのウォルターに対しての、そういう濁った感情だ。
ラインハルト:そんな理由で……殺したっていうのか……?
ラインハルト:そんな……ウォルターが上から目線なのが気に食わないからって……自分より優れているのが許せないからって……そんな理由で……
レナード:ちょーっと違う。……『俺は、俺の正義を貫いただけだ』。
ラインハルト:……え?
レナード:正しさに「普遍性」というものは通用しねぇ。誰にでも当てはまる正解なんて所詮ありゃしない。
レナード:ならば、俺の正義は俺だけのもんだ。それは他の奴らが勝手に踏み込んで荒らしていいものでも、書き換えていいものでもねぇ。
レナード:だから俺は……『俺の信じる正しさを、守ったんだ』。
レナード:そしてそれを負け犬の遠吠えだと否定する奴らが、俺は許せなかっただけだ。
ラインハルト:そんなの……暴論だ。
レナード:世間一般的に言えば、な。
レナード:クククッ……あいつ、ナイフを振りかざした俺を見て、真っ青な顔で叫んでたよ。
レナード:「お前は異常だ、頭がおかしい」ってよォ。
レナード:だがその顔を拝んでやるのが、最高に愉快でもあった。……「やっと俺は、こいつに見下ろされる立場から、見下ろしてやる立場になったんだ」ってな。
ラインハルト:……そんなのって……
レナード:そうやって、世間一般的には正しくないやり方で自分の正義を守ろうとする『俺』は……自分の正義を否定されることに過剰に反応する『俺』は、こう言われるんだよ。
レナード:『狂っている』、『異常だ』ってな。
レナード:……パトリック、アグネス、オリバー、シルビア、エリック。
レナード:「親切で優しいみんなのリーダー」であるやつらを、俺は片っ端から潰して、見下ろしてやった。……クククッ、怖いくらいに気分が良かったなァ。
ラインハルト:レナード……キミは……
レナード:なあ、ラインハルト。
レナード:どこからが正常で、どこからが異常だ?
レナード:“狂ってる”ってのは、なんだ?
ラインハルト:……それは……
ラインハルト:僕には……分から、ない……
レナード:人間ってのは、プライドの生き物だ。自分を認めてほしい、認めさせたい。自分が正しいと信じたい、いや、正しいはずだ。
レナード:それを否定されれば、人はもちろん傷付く。怒りも湧く。当然だろう?
ラインハルト:でも……社会の中で、集団の中で生きている以上、他人とうまく折り合いをつけながら生きていかなくちゃいけない。
ラインハルト:協調性は大切にされるべきだ。自分の正義ばかり振りかざしていたら、それは他人の排除になる。……独裁みたいなものだよ、そんなのは認められない。
レナード:なぜ認められない?……自分が絶対的正義でいたいと思うのは、そんなに悪いことか?
レナード:そもそも今の社会が掲げてる協調性なんて上っ面だけのもんだろうに。
ラインハルト:人間は、完璧な生き物じゃない。だからこそ、人に間違いを指摘されることだってあるし、時に誰かより劣ることだってある。それは仕方のないことだ。
レナード:そんな風に『正常に』考えることのできない『異常な俺』は……どこにも、誰にも、受け入れられないわけだ。
レナード:社会から排除され、存在することすら許されない。……だから人ってのは隠すんだろうよ。
ラインハルト:……隠すって、なにを。
レナード:その『異常な自分』を。
ラインハルト:……異常な、自分……?
レナード:正常と異常ってのは、いつだって紙一重だ。誰もがその内側に、黒くどんよりとした『何か』を孕んでる。だがそれを表に出せば、排除されちまう。だから隠して、「みんなと同じように」、正常でいようとする。
レナード:だが……他人なんざとうまく付き合うために、“本当の自分”を隠して、押し殺して生きるなんてのは、愚かじゃねぇか?
ラインハルト:……僕は……
レナード:なあ、ラインハルト。
レナード:『お前は、何者だ?』
ラインハルト:……え?
レナード:「優しくて思いやりに溢れた、明るく真っ直ぐな人間」。
レナード:それがお前だよな、ラインハルト。
レナード:……それが『周りから見たお前』だよなァ?
ラインハルト:周りから見た……僕……?
レナード:……じゃあ『本当のお前』は?
ラインハルト:……やめろ。
レナード:俺は知ってるぜ。『本当のお前』を。
ラインハルト:……やめろ、レナード。
レナード:本当のお前は……『正義感が強く』て、『プライドが高く』て。
レナード:だが『臆病』だから、排除されるのが怖くて……必死に自分を押し殺して『良い子くんを演じてる』。
ラインハルト:やめろよレナード……!
レナード:いい加減気付けよ、ラインハルト。
レナード:もっとよく、自分を見つめろ。
ラインハルト:嫌だ、違う……僕は違う……!
レナード:本当はもう、分かってるはずだ。
レナード:『ラインハルト、お前は何者だ?』
ラインハルト:やめてくれ……やめてくれよ……!
レナード:耳を塞ぐな、目を閉じるな。
レナード:俺の言葉を聞け、俺の目を見ろ、ラインハルト。
レナード:自分の中の声に、きちんと気付け。
ラインハルト:……嫌だ……!
レナード:お前は最初から目を背けてんだよ。
レナード:この現実を受け入れたくない、正面から向き合いたくない。だから何か、自分が納得できる『理由』を見つけてぇんだよ。自分が納得できる理由を。
レナード:……その理由はもう、俺が明かした。
レナード:パズルは既に出来上がってる。……さあ真正面から見つめてみろ、そこに、どんな絵が描かれているのか。それが答えになるはずだ。
ラインハルト:違う、僕は……僕は何も……!
レナード:最初から何一つ『俺の話じゃねぇんだよ』。
レナード:なあ、ラインハルト。……最初から全部『お前の話だろ?』。
ラインハルト:違う……!!
レナード:『ウォルターに見下ろされるのが気に食わなかったのも』。
レナード:『自分の正しさを踏み潰されるのが許せなかったのも』。
レナード:『自分こそが絶対的正義だと信じて疑わなかったのも』。
レナード:……『正常な“お前”の殻を破って、異常な“俺”を最初に認めたのは……紛れもなく、お前自身だっただろう?』
ラインハルト:やめろ……嘘を言うな!
レナード:嘘じゃねぇよ、ラインハルト。
レナード:分かるだろ?……『俺はお前』だ。
ラインハルト:違う……違う、僕は……ッ!
レナード:周囲に見せている「普通の人間の顔」。それがお前だ、ラインハルト。
レナード:だが、内側に押し込めている「本当の自分」。……それが、俺。
レナード:俺はお前の一部だ。お前は俺であり、俺はお前。つまり、二人で一人の人間さ。
ラインハルト:……違う、そんなの……キミの妄想だ……
ラインハルト:僕はウォルターを殺してない……パトリックもアグネスもオリバーもシルビアもエリックも殺してない!
ラインハルト:全部キミがやったんだろう、レナード!!
レナード:……ああ、そうだ。
レナード:『お前の中の俺』がな。
ラインハルト:ち、が……
レナード:妄想してんのはお前だろうよ、ラインハルト。
レナード:ほら、目ェ覚ませ。……ここはどこだ?
ラインハルト:ここは……特別面会室……
レナード:いいや違う。
レナード:最初から俺たちは……お前の頭の中で話してるだろ?
レナード:『俺』という『異常な自分』を認めないお前が、何度もこの特別面会室を作り上げて、俺をここに呼び出すんだよ。『俺』を否定するために。
レナード:なあ、ラインハルト。お前に自覚してもらうために同じ説明を何度もすんのは、さすがに疲れるぜ?
ラインハルト:……僕、が……
レナード:そうだ、お前が。
ラインハルト:僕がみんな……
レナード:そうだ、気付けよ。
レナード:『一人二役』は、もうおしまいだ、ラインハルト。
ラインハルト:……。
ラインハルト:……ああ、そうだった。
ラインハルト:僕たちは……『友達』なんかじゃなかった。
レナード:そうだ、ラインハルト。
レナード:『俺』を押し殺し続けるのは、もうやめにしようぜ?
ラインハルト:……そう、だね。
ラインハルト:だって僕は……疲れちゃったんだよ。
ラインハルト:ずっと良い子で居続けるなんて……もう……
ラインハルト:……どうしてなんだ……僕は正しいのに……間違ってないのに……
レナード:さあ、ラインハルト。
レナード:……目を、覚ます時間だ。
0:
0:
0:
0:刑務所内にて。
0:暗い部屋の中、光のない目で虚空を見つめるラインハルト。
ラインハルト:……。
ラインハルト:そうだ……目を、覚まさなくちゃ。
ラインハルト:『良い子くん』のラインハルトは……もういないんだ……
ラインハルト:これが本当の……俺……なんだから……
ラインハルト:……クククッ。
ラインハルト:クククッ……ハハッ、ハハハハッ……!
0:
0:
0:とある刑務所内、特別面会室にて。
0:二人の男が向かい合って座っている。
0:
レナード:……よォ、ラインハルト。お前もしつこい野郎だな。
ラインハルト:……気を悪くしたならすまなかったよ、レナード。
レナード:よくもまあ、毎日毎日、こんな刑務所の特別面会室なんかに来るもんだよな。俺なら二日で嫌になってるぜ。
ラインハルト:だって……キミは僕の、『友達』だから。
レナード:……友達ィ?
ラインハルト:そう。大事な大事な、僕の『友達』だ。
ラインハルト:だから、毎日だって会いにくるさ。
レナード:……ククッ……そうだな、そうだよなァ。『友達』、だよなァ。
レナード:俺は幸せだぜ、ラインハルト。こんなステキな『友達』をもってよ。
ラインハルト:……どうしてなんだ、レナード。
レナード:……あァ?
ラインハルト:どうしてこんなことをしたんだ。
レナード:こんなこと?……はて、なんのことだかな。
ラインハルト:おふざけじゃないんだよ、レナード。答えてくれないか。
レナード:だから、こんなことって?
ラインハルト:殺人だ。
レナード:……。
ラインハルト:何人も殺したんだろう?その手で。……どうしてなんだ。
ラインハルト:キミは、そんなことをするような人じゃない。……一体、どんな理由があって、こんなことを……
レナード:……ククッ。
レナード:クククッ……ハハハハッ!
ラインハルト:な、何がおかしいんだ……?
レナード:あーあーあ、悪かった悪かった、ハハッ。
レナード:いやあ……お前のその「何が何だか分からねぇ」っていう顔がよ、面白くてつい。
ラインハルト:……レナード、真面目に答えてくれ。
ラインハルト:僕がここに何度も足を運んでいるのは、キミがどうして殺人を犯したのか、その理由を知りたいからだ。
ラインハルト:どうしてこんなことをしたんだ。どうしてそんな風に笑っていられる?
ラインハルト:僕には分からないんだよ、レナード……。
レナード:理由なんて、必要か?
ラインハルト:……え?
レナード:お前今、こう思ってんだろ、ラインハルト。「自分の目の前にいるこの男は、異常そのものだ」……ってよ。
ラインハルト:それは……
レナード:ハッ、図星か?
ラインハルト:……本当は、友達に対してこんなこと言いたくない。
ラインハルト:でも、そう言わざるを得ないよ。……キミは『異常』だ、レナード。
レナード:なんで、そう思う?
ラインハルト:だってそうだろう、何の罪もない人を何人も殺したっていうのに……そうやって笑っていられるだなんて……
ラインハルト:一体何があったっていうんだ……どうしてそんな風になってしまったんだよ、レナード……!
レナード:……ククッ……ハハハハッ!
ラインハルト:答えてくれ!
レナード:こりゃあ傑作だ!……お前本当に面白れぇなァ、ラインハルト。
レナード:『どこにでもいそうな優等生くん』。真面目で健気、無知で純粋。
レナード:そうさなァ、それがお前だ、ラインハルト。……それならそれでいいさ。
レナード:そうだ、焦る必要はねぇ。“まだ”分からないとしても……どうせ、すぐに分かる。
ラインハルト:……“まだ”……?
レナード:話を戻そうか。
レナード:そうだ、おそらくお前から見れば『俺は異常』。……『正常な』お前から見ればな。
レナード:『正しいお前』が、『間違っている俺』の行動の理由を、果たしてどこまで理解できると思う?
ラインハルト:それ、は……
レナード:無理だろ。だって最初から、お前にその意志はねぇ。……そうであるのに、理由を問いただすことに意味があると思うか?
ラインハルト:……僕は、諦めてなんていないよ、レナード。キミを理解しようという意志ならある。
レナード:いいや違う、お前は最初から目を背けてんだよ。
ラインハルト:そんなこと――
レナード:お前の言う「理解」は、本当の意味での「理解」じゃあねぇ。
レナード:この現実を受け入れたくない、正面から向き合いたくない。だから何か、自分が納得できる『理由』を見つけてぇんだよ。……そして、都合の悪いもんは見えないふりをする。
レナード:だがそこに、真実はねぇだろ。お前にとって都合のいいものだけチョイスして、それに縋ってみたって……それは所詮「お前のための嘘」だ。
レナード:ならば最初から理由なんて必要ねぇ。どうせお前は、『異常である俺』の並べ立てる『理由』を……『真実』を、真っ向から否定し、拒絶する。
レナード:違うか、ラインハルト。
ラインハルト:……ああ……そうだな。
ラインハルト:キミの、言う通りかもしれない。
ラインハルト:それでも、僕は知りたいよ。どうしてキミがそこに至ったのか……キミが辿った道筋だけでも、知りたい。……知らなくちゃいけない気がするんだ。
ラインハルト:キミを、理解したいと思うから。……『納得』はできなくても、『理解』はできるかもしれないだろう?
レナード:……クククッ。
レナード:そうか……それがお前の答えか、ラインハルト。
レナード:なら、いいぜ。……辿ろうじゃねぇか、その『プロセス』。
レナード:お前になら、理解できそうだ。
ラインハルト:……さっきとは、まるで真逆のことを言うんだね。僕には理解できないと言ったくせに。
レナード:それは、この先のお前次第さ。
ラインハルト:……さっきから何が言いたいんだ、レナード。
レナード:自分の胸に手ェ当てて、考えてみたらどうだ?
ラインハルト:……え?
レナード:ククッ、それがヒントだ、ラインハルト。
レナード:さぁ、答え合わせの時間だ。
ラインハルト:答え、合わせ……?
0:レナードは一呼吸置いてから話し始める。
レナード:……始まりは、どこだったか。
レナード:なぁ、ラインハルト。お前はさっき俺に、こう言ったな。「どうしてそんな風になってしまったのか」と。
レナード:こうも言った。「キミはそんなことをするような人じゃない」。
レナード:じゃあ、ラインハルト。
レナード:お前の知ってる『俺』は、一体、どんな人間だった?
ラインハルト:……キミは、とても優しい人さ、レナード。
ラインハルト:優しくて思いやりに溢れた、明るく真っ直ぐな人だ。……僕の憧れだったよ。
ラインハルト:キミのようになれたら……って。何度そう思ったか分からない。
レナード:『とても優しい人』。
レナード:『優しくて思いやりに溢れた、明るく真っ直ぐな人』。
レナード:……クククッ、典型的だなァ。
ラインハルト:僕は……キミのことを、本当に良いやつだと思っていたよ。
ラインハルト:だからこそ分からないんだ……どうしてキミが、こんなふうに……
レナード:ああそうだなァ、分かるはずがねぇよ、ラインハルト。
レナード:なぜならお前は最初から……『俺』のことをまるっきり分かってねぇんだから。
ラインハルト:……え?
レナード:『俺』に限った話じゃあねぇな。
レナード:ラインハルト、お前はいつも、相手の「うわべ」しか見ねぇ。そいつの本質を、見ようとしない。
ラインハルト:どういうことだ?
レナード:最初に殺したのは、ウォルターだったな。
レナード:あいつのこと覚えてるか?
ラインハルト:……もちろんさ。
ラインハルト:ウォルターは頭が良くて、社交的で優しくて……いつもみんなの中心にいた。
レナード:そうさなァ……そうだ。
レナード:『頭が良くて、社交的で優しくて、いつもみんなの中心にいたあいつ』。
レナード:さあここで問題だ。どうしてあいつは殺されたんだと思う?
ラインハルト:どうしてって、そんなの……こっちが聞きたいくらいだよ、レナード。
ラインハルト:キミがやったことだろう、理由なんてキミにしか分からないじゃないか。
レナード:考えろ。ウォルターに殺されるような理由はあったか?
ラインハルト:……そんなもの、思いつかないさ。本当に良い人だったんだから。
レナード:良い人。……なんでそう思う?
ラインハルト:……ウォルターは、悩んでいた僕を励ましてくれたことがあったんだ。
ラインハルト:失敗ばかりで落ち込んでいた僕に、彼は的確なアドバイスをくれて、進むべき方向を示してくれた。『キミならきっとできるはずだよ』って、背中を押してくれた。……僕はあのとき、彼に救われたよ。
レナード:……クククッ。
ラインハルト:……今度は何が可笑しいんだい?
レナード:『救われた』だと?本当にそうか?
ラインハルト:……どういうことだ。
レナード:なあ、ラインハルト。その時のお前は確かに、ウォルターに感謝をしたのかもしれねぇ。だが同時に、こうは思わなかったか?
レナード:『どうしていつも、お前の方が上にいるんだ』って。
ラインハルト:……そんなこと、思いもしなかったさ。
レナード:そうだなァ、ラインハルト。お前は『良い子』くん、だもんなァ。
レナード:人の気遣いや好意は素直に受け取り、感謝するものだ。……それがこの世の中における『正しい』考え方だ。
ラインハルト:……言っていることの意味が、よく分からないよ。
レナード:けどな、ラインハルト。
レナード:人間はそんなにも、「出来た生き物」じゃあねぇよな?
ラインハルト:……どういう意味だよ。
レナード:親切ってのは人を救うかもしれねぇが……時に人をねじ伏せる力にもなりうる。
レナード:そう、それこそ……「的確なアドバイスと、進むべき方向性の提示」という行為も、行き過ぎれば自分の正しさの押し付けってことだ。
レナード:高慢だと……お前がそう感じたとしたって間違っちゃいねぇよ。
ラインハルト:レナード、待ってくれ。論点がずれてるんじゃないか。
ラインハルト:今は僕の話じゃなくて、キミの話をしているんだろう。
レナード:……。
ラインハルト:……レナード?
レナード:……ククッ、そうさな。話を戻そうか。
ラインハルト:……ああ。
レナード:だがこれで、少しは思い当たっただろ?ラインハルト。
レナード:なぜ、ウォルターは殺されたのか。
ラインハルト:……僕には……まだ……
レナード:分からねぇってか?……じゃあ、解説してやろうか。
レナード:ウォルターは、利口で社交的で、いつもスポットライトの中心にいながら……自分より劣る人間を導いて、感謝されて、そうして『優越感』に浸っていただろうさ。
レナード:だから言葉の端々に滲み出る。……「自分はお前らとは違う、お前らより優れた人間なんだ」っていう、高慢な顔が。
ラインハルト:……そんなの、キミの憶測だろう。ひねくれているよ。
レナード:ああそうだな、お前から見ればそうだろうよ。
レナード:『ひねくれている俺』は思った。……「どうしてお前に、他の人間を否定し、そして正す権利が存在するのか」ってな。
ラインハルト:じゃあ、キミは……
レナード:そうさ、形容するなら『怒り』だ。あるいは『嫉妬』だ。
レナード:俺より上に立ち、そこから見下ろし、自分の価値観を絶対的な正義と勘違いをして、優しい顔をしながら他人のプライドをぐちゃぐちゃに踏み潰していく、あのウォルターに対しての、そういう濁った感情だ。
ラインハルト:そんな理由で……殺したっていうのか……?
ラインハルト:そんな……ウォルターが上から目線なのが気に食わないからって……自分より優れているのが許せないからって……そんな理由で……
レナード:ちょーっと違う。……『俺は、俺の正義を貫いただけだ』。
ラインハルト:……え?
レナード:正しさに「普遍性」というものは通用しねぇ。誰にでも当てはまる正解なんて所詮ありゃしない。
レナード:ならば、俺の正義は俺だけのもんだ。それは他の奴らが勝手に踏み込んで荒らしていいものでも、書き換えていいものでもねぇ。
レナード:だから俺は……『俺の信じる正しさを、守ったんだ』。
レナード:そしてそれを負け犬の遠吠えだと否定する奴らが、俺は許せなかっただけだ。
ラインハルト:そんなの……暴論だ。
レナード:世間一般的に言えば、な。
レナード:クククッ……あいつ、ナイフを振りかざした俺を見て、真っ青な顔で叫んでたよ。
レナード:「お前は異常だ、頭がおかしい」ってよォ。
レナード:だがその顔を拝んでやるのが、最高に愉快でもあった。……「やっと俺は、こいつに見下ろされる立場から、見下ろしてやる立場になったんだ」ってな。
ラインハルト:……そんなのって……
レナード:そうやって、世間一般的には正しくないやり方で自分の正義を守ろうとする『俺』は……自分の正義を否定されることに過剰に反応する『俺』は、こう言われるんだよ。
レナード:『狂っている』、『異常だ』ってな。
レナード:……パトリック、アグネス、オリバー、シルビア、エリック。
レナード:「親切で優しいみんなのリーダー」であるやつらを、俺は片っ端から潰して、見下ろしてやった。……クククッ、怖いくらいに気分が良かったなァ。
ラインハルト:レナード……キミは……
レナード:なあ、ラインハルト。
レナード:どこからが正常で、どこからが異常だ?
レナード:“狂ってる”ってのは、なんだ?
ラインハルト:……それは……
ラインハルト:僕には……分から、ない……
レナード:人間ってのは、プライドの生き物だ。自分を認めてほしい、認めさせたい。自分が正しいと信じたい、いや、正しいはずだ。
レナード:それを否定されれば、人はもちろん傷付く。怒りも湧く。当然だろう?
ラインハルト:でも……社会の中で、集団の中で生きている以上、他人とうまく折り合いをつけながら生きていかなくちゃいけない。
ラインハルト:協調性は大切にされるべきだ。自分の正義ばかり振りかざしていたら、それは他人の排除になる。……独裁みたいなものだよ、そんなのは認められない。
レナード:なぜ認められない?……自分が絶対的正義でいたいと思うのは、そんなに悪いことか?
レナード:そもそも今の社会が掲げてる協調性なんて上っ面だけのもんだろうに。
ラインハルト:人間は、完璧な生き物じゃない。だからこそ、人に間違いを指摘されることだってあるし、時に誰かより劣ることだってある。それは仕方のないことだ。
レナード:そんな風に『正常に』考えることのできない『異常な俺』は……どこにも、誰にも、受け入れられないわけだ。
レナード:社会から排除され、存在することすら許されない。……だから人ってのは隠すんだろうよ。
ラインハルト:……隠すって、なにを。
レナード:その『異常な自分』を。
ラインハルト:……異常な、自分……?
レナード:正常と異常ってのは、いつだって紙一重だ。誰もがその内側に、黒くどんよりとした『何か』を孕んでる。だがそれを表に出せば、排除されちまう。だから隠して、「みんなと同じように」、正常でいようとする。
レナード:だが……他人なんざとうまく付き合うために、“本当の自分”を隠して、押し殺して生きるなんてのは、愚かじゃねぇか?
ラインハルト:……僕は……
レナード:なあ、ラインハルト。
レナード:『お前は、何者だ?』
ラインハルト:……え?
レナード:「優しくて思いやりに溢れた、明るく真っ直ぐな人間」。
レナード:それがお前だよな、ラインハルト。
レナード:……それが『周りから見たお前』だよなァ?
ラインハルト:周りから見た……僕……?
レナード:……じゃあ『本当のお前』は?
ラインハルト:……やめろ。
レナード:俺は知ってるぜ。『本当のお前』を。
ラインハルト:……やめろ、レナード。
レナード:本当のお前は……『正義感が強く』て、『プライドが高く』て。
レナード:だが『臆病』だから、排除されるのが怖くて……必死に自分を押し殺して『良い子くんを演じてる』。
ラインハルト:やめろよレナード……!
レナード:いい加減気付けよ、ラインハルト。
レナード:もっとよく、自分を見つめろ。
ラインハルト:嫌だ、違う……僕は違う……!
レナード:本当はもう、分かってるはずだ。
レナード:『ラインハルト、お前は何者だ?』
ラインハルト:やめてくれ……やめてくれよ……!
レナード:耳を塞ぐな、目を閉じるな。
レナード:俺の言葉を聞け、俺の目を見ろ、ラインハルト。
レナード:自分の中の声に、きちんと気付け。
ラインハルト:……嫌だ……!
レナード:お前は最初から目を背けてんだよ。
レナード:この現実を受け入れたくない、正面から向き合いたくない。だから何か、自分が納得できる『理由』を見つけてぇんだよ。自分が納得できる理由を。
レナード:……その理由はもう、俺が明かした。
レナード:パズルは既に出来上がってる。……さあ真正面から見つめてみろ、そこに、どんな絵が描かれているのか。それが答えになるはずだ。
ラインハルト:違う、僕は……僕は何も……!
レナード:最初から何一つ『俺の話じゃねぇんだよ』。
レナード:なあ、ラインハルト。……最初から全部『お前の話だろ?』。
ラインハルト:違う……!!
レナード:『ウォルターに見下ろされるのが気に食わなかったのも』。
レナード:『自分の正しさを踏み潰されるのが許せなかったのも』。
レナード:『自分こそが絶対的正義だと信じて疑わなかったのも』。
レナード:……『正常な“お前”の殻を破って、異常な“俺”を最初に認めたのは……紛れもなく、お前自身だっただろう?』
ラインハルト:やめろ……嘘を言うな!
レナード:嘘じゃねぇよ、ラインハルト。
レナード:分かるだろ?……『俺はお前』だ。
ラインハルト:違う……違う、僕は……ッ!
レナード:周囲に見せている「普通の人間の顔」。それがお前だ、ラインハルト。
レナード:だが、内側に押し込めている「本当の自分」。……それが、俺。
レナード:俺はお前の一部だ。お前は俺であり、俺はお前。つまり、二人で一人の人間さ。
ラインハルト:……違う、そんなの……キミの妄想だ……
ラインハルト:僕はウォルターを殺してない……パトリックもアグネスもオリバーもシルビアもエリックも殺してない!
ラインハルト:全部キミがやったんだろう、レナード!!
レナード:……ああ、そうだ。
レナード:『お前の中の俺』がな。
ラインハルト:ち、が……
レナード:妄想してんのはお前だろうよ、ラインハルト。
レナード:ほら、目ェ覚ませ。……ここはどこだ?
ラインハルト:ここは……特別面会室……
レナード:いいや違う。
レナード:最初から俺たちは……お前の頭の中で話してるだろ?
レナード:『俺』という『異常な自分』を認めないお前が、何度もこの特別面会室を作り上げて、俺をここに呼び出すんだよ。『俺』を否定するために。
レナード:なあ、ラインハルト。お前に自覚してもらうために同じ説明を何度もすんのは、さすがに疲れるぜ?
ラインハルト:……僕、が……
レナード:そうだ、お前が。
ラインハルト:僕がみんな……
レナード:そうだ、気付けよ。
レナード:『一人二役』は、もうおしまいだ、ラインハルト。
ラインハルト:……。
ラインハルト:……ああ、そうだった。
ラインハルト:僕たちは……『友達』なんかじゃなかった。
レナード:そうだ、ラインハルト。
レナード:『俺』を押し殺し続けるのは、もうやめにしようぜ?
ラインハルト:……そう、だね。
ラインハルト:だって僕は……疲れちゃったんだよ。
ラインハルト:ずっと良い子で居続けるなんて……もう……
ラインハルト:……どうしてなんだ……僕は正しいのに……間違ってないのに……
レナード:さあ、ラインハルト。
レナード:……目を、覚ます時間だ。
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0:刑務所内にて。
0:暗い部屋の中、光のない目で虚空を見つめるラインハルト。
ラインハルト:……。
ラインハルト:そうだ……目を、覚まさなくちゃ。
ラインハルト:『良い子くん』のラインハルトは……もういないんだ……
ラインハルト:これが本当の……俺……なんだから……
ラインハルト:……クククッ。
ラインハルト:クククッ……ハハッ、ハハハハッ……!
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