台本概要

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タイトル 夏につむぐ春の希望
作者名 ぴー  (@p_kouhai_chan)
ジャンル ラブストーリー
演者人数 3人用台本(男1、女1、不問1)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 【内容】
男1女1不問1です

ラブストーリーになっていますが恋愛的な愛ではなく『家族・友人を思う愛』がテーマです

【あらすじ】
大人になりきれない夫『冬樹』
過去の流産から立ち直れない妻『夏菜』
助産師という仕事に誇りを持ちながらも苦悩する友『秋』

そんな3人の背中を押したのは新しい命だった

前を向いて歩き出す3人
だが…別れは突然訪れる


以前投稿したものを作者が本当に望む形に修正いたしております
また秋のセリフも女性寄りに変更しております

演じる際、男女不問・一人称の変更・語尾の変更等ご自由にお読みください


現在日本では男性助産師不採用につきましては作者留意の上執筆しておりますので、そちらの内容に関する批判はおやめ下さい

当作品はあくまでフィクションですので、細かいことは気にしないで頂ければと思います

作中に出てくる『親族託命権』も作者の妄想ですのでご了承ください


修正はその都度行います

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
不問 124 30歳  通称:アキ 助産師 姉貴(兄貴)肌で2人の幼馴染 演じる際は男女不問
冬樹 67 29歳  通称:フユ 高校の体育教諭 頭は良くないが身体は丈夫 甘党で子供っぽいところもある
夏菜 89 29歳  通称:ナツ 専業主婦 3年前に流産し精神的に弱っている AB型rhマイナスという千人に一人の血液型
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:秋と5歳の女の子が公園のベンチで座っている 秋:どうしたの? 秋:…え?何か面白い話してって? 秋:パパに似て自分勝手だなぁ。そうだ! 秋:じゃあ、キミが生まれる前のパパとママの話をしようか 秋:あれは11月の終わりだった… 0:(夕方のマンション一室) 夏菜:どうしてアナタはこんな事も出来ないの! 夏菜:何回同じこと言えば出来るようになるのっ!アナタ高校の先生よね? 冬樹:仕方ないだろ!仕事で疲れてるし! 冬樹:そんな皿置く場所ひとつで大袈裟だろ! 夏菜:だからやめてって言ってるでしょ! 夏菜:どうせ私に全部任せるつもりだからテキトーなんでしょ! 夏菜:ねぇフユくんは私が死んだらどうするの?1人で生きていけるの? 冬樹:オレだって努力してるんだよ!でもオレ頭悪いから…! 冬樹:でも…少しずつ出来るようになってきてるだろ…っ! 夏菜:さすが体育教師ですねー。困ったら精神論ですかー 夏菜:もしかしてフユくんが高校生に勉強教えてもらってるとかー? 夏菜:そんなお子ちゃまだから私の身体に負担がかかって… 冬樹:ナツ…!お前いい加減にしろよ…っ! 0:コンコンとノック音が響く 秋:お二人さん、夫婦喧嘩はそこまで 秋:外まで丸聞こえで近所迷惑。あとカギあけっぱ 夏菜:アキちゃんっ! 夏菜:聞いてよ!フユくんが全然何もしてくれないの! 夏菜:カギだって最後フユくんだし 冬樹:なんだよそれ… 秋:はいはい。私の聞いていた感じだと二人とも悪い 夏菜:そんな…だってフユくんがもっとしっかりしてれば…こんなことに… 秋:ナツ?落ち着きなさい。フユは悪いことしてないよ? 秋:それに、そんなに怒るとフユは本当に何もできなくなるよ? 夏菜:ごめんなさい… 秋:謝る相手は私じゃない 秋:あとフユも自分に甘すぎ。フユならもう少し出来るでしょ? 冬樹:…ごめん。ナツもゴメン…。オレ甘えてた… 夏菜:ううん。私も言い過ぎた…ゴメン… 秋:はいっ!仲直りっと! 秋:まったく…キミたち二人は私がいないと、相変わらず仲直り出来ないのねー 冬樹:そんなコトないって!オレらだっていつまでも子供じゃないし! 秋:はいはい。んじゃ、大人の飲み物に付き合ってもらおうかな 秋:ってことでフユ、ワイングラス持ってきて 冬樹:あいよー 冬樹:ったく、アキくんは相変わらず人使いが荒いな 冬樹:とりあえず座って待ってて 0:ワイングラスを取りに行く冬樹、2人はソファーに座りワインを取り出す秋 夏菜:アキちゃん…そのワインって… 秋:ん、あぁ…さすがだね 夏菜:そっか…今日…ダメだったんだね…ゴメンねアキちゃん… 秋:ナツが謝ることないって… 秋:助産師って感謝される仕事って思ってたけど…泣かない赤ちゃん取り上げると今までの喜びが無くなるくらい辛くてね… 秋:その結果アルコールに逃げて…この歳まで恋人なし。こんなことなら学生時代もっと遊んどけば良かったなぁ… 夏菜:そんなコト言わないでアキちゃん… 0:グラスを持って戻ってくる冬樹 冬樹:おまたせーグラス持ってきたよー 冬樹:ついでにツマミもテキトーに持ってきたー 秋:おっ!フユにしては気が利くじゃん 秋:…ってグラス2つだけ?フユ、禁酒中だっけ? 夏菜:違うよアキちゃん、禁酒してるのは私 夏菜:実は… 冬樹:赤ちゃん…できたんだ 秋:まじ…? 秋:やったな!良かったじゃん!私も嬉しいよ! 秋:ホントにおめでとう! 夏菜:ありがとう!…今度は上手くいくと良いんだけどね 秋:大丈夫だって!上手くいくから! 秋:ったく、なのに2人は喧嘩してたわけー? 冬樹:ごめん… 秋:良いって!こんなコトならもっと良いワイン買ってくれば良かったー 秋:そうだ!せっかくだからピザ頼もうよ! 夏菜:いいね!アキちゃんに報告できたしお祝いしなきゃね! 秋:よしっ決まりっ! 秋:ということで、フユ注文任せた! 冬樹:えー!またかよー! 秋:そう言うなって、フユの好きなもん頼んで良いからさ! 秋:もちろん私がおごるから! 冬樹:へいへい、じゃあついでに外行って飲み物も買ってくるよ 秋:サンキュー!ほい、2万あれば足りるよね? 秋:私は追加で良いワインも飲みたいからよろしくー!フユも飲みたいものあったら買って良いからね! 冬樹:相変わらずアル中だなあ 秋:うるせー。ってかお釣りは返せよ! 冬樹:分かってまーす、んじゃ行ってくる! 0:部屋を出ていく冬樹 夏菜:はーい。アキちゃん本当に大丈夫なの? 秋:ん?大丈夫!私、稼ぎは良い方だから 夏菜:そうじゃなくて…フユくんに注文任せたの不安しかないんだけど… 秋:…確かに。テンション上がりすぎて忘れてた 秋:昔からフユだけやたら甘いもの食べてたな。…確かお好み焼きにハチミツかけてた事あったような記憶が… 夏菜:あー、あったね。私たちはパンケーキだと思って食べて泣いたよね 秋:そーそー!でも、もうフユも大人だから大丈夫でしょ? 夏菜:…この前、納豆ご飯に練乳かけて喜んで食べてたよ? 秋:…マジ? 秋:ま、まぁピザだし、メニューからしか選べないから大丈夫でしょ… 夏菜:うん…そういうことにする… 夏菜:…話変わるけど、真面目な話しても良いかな? 秋:ん?大丈夫だよ? 夏菜:ありがとう。アキちゃんに2つお願いがあって… 夏菜:1つは…この子をアキちゃんに取り上げて欲しいの 秋:私で良いの…? 夏菜:アキちゃんが良いの。私の身勝手だけど…みんなで前に進もう? 秋:分かったよ…ありがとう… 夏菜:こちらこそありがとう。もう1つのお願いなんだけど… 夏菜:今度は私じゃなくて、お腹の子を優先して欲しい 秋:縁起でもない…。気持ちは分かるけどまだ早すぎる… 夏菜:でも…アキちゃんも知ってるでしょ。私の血液型が珍しいこと 秋:うん…覚えてる。でもあれは失血だけが原因じゃない… 夏菜:分かってる…でもね、万が一の時に私の命を繋ぐだけの量を確保するのは難しいんだって… 夏菜:今少しずつ自己輸血用に貯血してるんだけど貧血持ちだから中々量を確保出来なくて… 秋:そうだったんだ… 夏菜:それに私と同じ血液型って千人に一人なんだって…そこそこいると思っていたけど少ないの、だから… 秋:わかった覚えておく。私の方でも他の病院当たってみる 秋:ちなみにこの話フユには? 夏菜:1つ目だけ伝えてる 夏菜:2つ目を言っちゃうと動揺して日常生活に支障出そうで… 秋:確かにフユならありえるね 秋:きっと大丈夫だから心配することないさ 秋:何にしても身体大事にしなきゃだね。家事の手伝いでも何でも良いから困ったら頼りなよ? 夏菜:ありがとう。その時は遠慮なくお願いするね? 秋:あぁ 0:冬樹帰宅 冬樹:ただいまー!色々買わせてもらったよー。はいお釣り 0:お釣りを秋に返す 秋:あいよ。結構使ったな、まっ良いけど 冬樹:オレがいない間に俺の悪口言ってなかったー? 冬樹:くしゃみ3回位出たんだけどー 夏菜:それは知らないよ、薄着で外出たからじゃないのー? 冬樹:えー、じゃあ何の話してたのさ 夏菜:えっと… 秋:フユには言えない楽しい話だよー、だからフユには内緒ー 冬樹:ふーん。アキくん、ウソ付いてるね 秋:はー?なんでウソだって決めつけるんだよ?ウソじゃないから! 冬樹:左眉 秋:は?左眉がどうした? 冬樹:昔からアキくんはウソ付くとき左眉が一瞬上がるんだ 冬樹:だから今アキくんはウソ付きましたー! 秋:…っ!フユのくせに生意気な 冬樹:さー!何を話してたか素直に言いたまえー! 夏菜:そ、そんなコトより…何のピザ頼んだの? 冬樹:ん?今フェアやっててLサイズ2枚頼めばお得って言われたからそれにした! 夏菜:そう…なら大丈夫そうね。変なの頼んでたらどうしようって話してたの 冬樹:2人ともひどいなー、ちゃんとみんなの好きなピザにしたよ 冬樹:オレが今までに変な物頼んだことあったか? 夏菜:…ノーコメントで。でも変な気使わせてごめんね 秋:ナツ… 冬樹:仕方ないな、でも分かったぜ! 冬樹:ではピザのお披露目といこうか! 0:ピザの箱を開ける冬樹 冬樹:じゃーん!ほら!うまそうだろ! 0:ピザを見て絶句する夏菜と秋 冬樹:あれ?2人ともどうした? 秋:なぁ…フユ?これは? 冬樹:ミートパイン 秋:こっちは? 冬樹:チーズパイン 秋:なんで両方パインなんだよ!常夏かよ!パインフェアかよ!せめて1枚は4種類入ってるピザにしろよ! 冬樹:でもみんなパイン好きだろー? 秋:確かにパインは好きだよ、でも温めるのはナシだって! 冬樹:マジか…アキくんは4種類の梨のピザが良かったのか… 秋:そうじゃないって!フユあれだろ?酢豚にもパイン入れるだろ? 冬樹:当然っ!パインの入ってない酢豚は酢豚じゃないからな! 秋:ハンバーグの上に乗せるのは? 冬樹:おろしそ 秋:そこはパインじゃないのかよ! 冬樹:さっぱりしてうまいじゃん! 秋:美味しいけどさ 秋:はぁ…ナツの言う通りだったよ…ほら、ナツも頭抱えてる… 夏菜:…ふふっ 秋:ナツ…? 夏菜:あははははっ 夏菜:ごめん、ガマン出来なかった!あー笑いすぎて苦しいー 夏菜:はぁはぁ…ふーっ… 夏菜:はぁー、なんか久しぶりに笑った気がする 冬樹:…だな、ナツの笑い声久しぶりに聞いたかもな 秋:そうだね… 秋:じゃ、ピザ食べよう!みんなの新しい一歩にカンパイしよう! 夏菜:そうね!フユくん私の飲み物って? 冬樹:もちろん買ってきた!ほらぶどうジュース。せっかくだからワイングラスに入れようぜ! 夏菜:ありがとう!アキちゃんお待たせ! 0:グラスを持つ3人 秋:んじゃ、みんなの新しい一歩と明るい未来を祈って… 秋:カンパイっ! 冬樹:(M)それから時は少し流れ、新年を迎えたとある寒い日に秋は夏菜から呼び出される 0:玄関の扉を開けて家の中に入る秋 秋:ナツー、大丈夫かー? 秋:頼れるアキさんが来たぞー 夏菜:アキちゃん来てくれてありがとう! 夏菜:寒かったでしょ?今お茶淹れるからソファーに座ってて? 秋:元気そうじゃん!とりあえず安心した 秋:私に気使わなくて大丈夫だからさ 秋:で、何からやればいい? 夏菜:え?何もしなくて大丈夫だよ? 秋:家事の手伝いで呼んだんじゃ… 0:リビングの扉を開けて秋は部屋を見渡す 秋:思ったより…いや、普通に片付いてんじゃん 0:夏菜は自慢げにニヤニヤ笑う 夏菜:でしょー!スゴイでしょー! 秋:スゴイでしょ…って、ナツ…アンタそんな無理して… 夏菜:ムリ?私してないよ? 秋:自慢したい気持ちは分かるけどさ…ここまでやる必要ないって… 夏菜:これはフユくんがやったんだよ! 秋:フユが!? 0:秋はもう一度部屋を見回す 秋:…へーっ。アイツもやれば出来んじゃん 夏菜:でしょ?ということで安心して座って下さい。 夏菜:用事って言うのは話があってね…。とりあえずお茶持ってくるから座って待ってて? 秋:分かった 0:秋は言われるままに座り、夏菜を待つ。数分後、夏菜はお茶をテーブルと1つのA4サイズの封筒を持ってくる 夏菜:お待たせ。隣座るね 秋:あぁ。その封筒って… 夏菜:アキちゃんなら詳しいと思って、色々聞きたかったの 0:夏菜は封筒から1冊のパンフレットを取り出す。その表紙を見た秋は頭を抱える 秋:やっぱりか…。ナツ、悪いけどこれは… 夏菜:お願い教えて!私どうしても、この子を産みたいの! 夏菜:その為なら私の命なんて…! 秋:ナツ!落ち着きなさい! 夏菜:だったら教えてよ!どうやったら『親族託命権』を使えるの! 冬樹:(M)『親族託命権』とは、2親等以内に限り自身の生命維持不可相当のものであっても臓器や身体の一部・血液等委(ゆだ)ねることが出来る権利である 冬樹:(M)昨今の命の在り方について政府が認め、数年前に施行(しこう)された 冬樹:(M)だが数多く縛りがあり、この権利が行使された件数は国内で10件程度しか認められていない 秋:無理…。胎児にこれは使えない 夏菜:どうしてなの?先生も同じこと言ってたし… 夏菜:アキちゃんなら抜け道とか分かるでしょ… 秋:胎児に戸籍がないからムリ 秋:もちろんそれだけじゃないけど…今の制限じゃ絶対無理なの 冬樹:(M)大まかな制限としてはドナー(提供者)とレシピエント(被提供者)双方に戸籍があること 冬樹:(M)レシピエントが生命の危機に瀕しており、その程度が移植等により蘇生が可能と認められる状態に限られる 夏菜:…そうなのね。ごめんアキちゃん 秋:気にしないで?不安になるのは分かるよ? 秋:でも今は身体を大事にして貯血を頑張ろ? 秋:そうすれば大丈夫だからさ? 夏菜:でもこの子も可哀そうよね。こんな脆弱(ぜいじゃく)な私の所に来ちゃって… 秋:そんな事言わない!この子がナツの所に来たのは運命なんだから 夏菜:運命… 秋:うん。だから前に進むことで希望が生まれるから頑張ろ? 秋:ちなみになんだけど、赤ちゃんの名前の候補って決まった?さすがにまだ早いか 夏菜:フユ君と何となくは話してるけど、生まれてから決めようって感じになってるよ 秋:なら楽しみが待ってるね。二人の子供だから絶対かわいいだろうし 夏菜:かな?アキちゃん…私頑張るね 秋:あぁ!さてと安心したらお腹すいてきたなぁ 夏菜:私もお腹すいた! 夏菜:アキちゃん、一つワガママ言っても良い? 秋:ん?どうぞ? 夏菜:久しぶりにアキちゃんのお好み焼き食べたい! 0:秋はニカっと笑う 秋:良いよ!んじゃ材料買ってくるね! 夏菜:はーい!じゃあフユくんにも連絡入れておくね! 秋:よろしくっ! 夏菜:(M)さらに時は流れ安定期に入り、春が訪れた 夏菜:(M)季節外れの大雨に襲われる中、突然…私の身体に異変が起きてしまう 夏菜:(M)そして別れは突然訪れる 0:昼前、秋自宅で就寝中ケータイの着信音が響き渡る 秋:…んっ、ナツから電話…? 秋:はい、もしもし… 夏菜:ごめんアキちゃん…寝てたよね… 秋:大丈夫。何かあったの? 夏菜:ちょっと体調悪くて…あと血みたいなの出てたから病院行った方が良いのかなって思って… 0:布団から飛び起きる秋 秋:それはいつから!? 夏菜:朝起きてからかな…お腹が気持ち悪くて、つわりみたいな感じと強めの貧血みたいなのが続いてて… 秋:出血は!?いつから!?量は!? 夏菜:血は今さっき。量は血っぽいかな?って位で、ほんのちょっとだけだよ? 夏菜:だから慌てるほどでもないよ? 秋:…分かった。とりあえず私から病院に連絡入れておくね 秋:だからナツは病院に行く準備しておいて? 夏菜:わかったよ。この雨だし気を付けてね 秋:うん…ゴメン。私は行けないから救急車向かわせる… 夏菜:え…?どうして救急車なの?アキちゃんが忙しいならタクシーでも… 秋:ごめん。不安にさせたくなかったから言わないつもりだったけど… 秋:ナツ…落ち着いてよく聞いて… 秋:今…お腹の赤ちゃんと、もしかしたらナツも危険な状態かもしれない… 夏菜:ウソ…だよね…? 夏菜:ここまで順調だったんだよ!?何事もなかったんだよ!? 秋:そうだよね…でもナツ…私はこんな冗談は言えないよ… 秋:だからお願い…落ち着いて私の言葉を受け入れて… 夏菜:…そうだよね 夏菜:アキちゃんがこんな冗談言うはずないよね… 夏菜:…アキちゃん…あとはお願いします 秋:…うん、ありがとう 秋:あとは任せて 0:電話をきる 秋:…くそっ!なんで…っ!なんでなんだよっ! 夏菜:(M)それから氾濫(はんらん)の影響で救急車の到着が大幅に遅れてしまったが、私は病院に搬送される 夏菜:(M)だが私は救急車到着前に気を失ってしまったようでその後の記憶はない 夏菜:(M)そして…私の意識は深く暗く冷たい海の底のような場所に沈んでいくのであった 0:(病院内) 冬樹:アキくん!ナツは!?2人は無事なのか!? 秋:…お腹の子はきっと大丈夫 冬樹:それって…どういう…? 秋:ナツからの頼みだった… 秋:万が一の時は、子供を優先してくれって… 冬樹:ウソだろ…どうしてナツは助からないんだよ…っ!なぁ!アキくんっ! 秋:輸血用の血液が足りない… 秋:ウチで確保していた分だけじゃ、とてもじゃないけど間に合わない… 秋:来週ほかの病院から来る予定だったのに…っ!なんで今なんだよ…っ! 冬樹:分かった…。ごめんよアキくん… 冬樹:…何かオレに出来るコトってある? 秋:…赤ちゃんが無事に生まれてくることを祈ってて 冬樹:わかった 冬樹:…あ、アキくん忙しいのにごめん、もう一つだけ聞いても良いかい? 秋:あぁ、大丈夫だよ。なに? 冬樹:血液検査ってすぐ出来るかな?今まで大きなケガや病気してこなかったから、ちゃんと検査したことなくて… 冬樹:万が一、オレの血液使えないかなって気になってさ… 秋:分かった。すぐに準備する 0:夏菜の意識は徐々に遠のいていく 夏菜:どこまで沈んでいくんだろう? 夏菜:冷たすぎて身体の感覚なくなってきた… 夏菜:赤ちゃん無事かな?フユくん一人でちゃんと子育て出来るかな? 夏菜:こんなことなら…もっとフユくんに優しくすれば良かった… 夏菜:…あれ?急に身体が軽く…? 夏菜:なに…?この温かさ…?どこか懐かしい… 冬樹:ナツ…よく頑張ったね! 冬樹:元気な女の子だよ… 0:病室のベッドの上で目覚める夏菜 夏菜:フ…フユく…ん…っ 秋:ナツ!良かった…。よく頑張ったね…っ! 夏菜:あ、あれ…?フユくん…は…? 夏菜:さっき…元気な女の子って…教えてくれた…のに… 秋:…ここにはいないよ 秋:でも伝言…預かってる。…見るかい? 夏菜:うん…見たい… 秋:わかった。今準備するね… 0:スマホをテーブルの上に置く 秋:…そのまま再生押せば見れるよ 夏菜:フユくんのスマホ…? 0:動画を再生する夏菜 冬樹:ナツ!よく頑張ったね!オレも嬉しいよ! 冬樹:男の子かな?女の子かな?オレとナツどっちに似てるかな? 夏菜:えっ?さっき女の子って言ったよね…? 冬樹:この動画はナツが赤ちゃんを救うために頑張ってる時に撮ってます! 冬樹:正直…オレに出来るコトって、応援とこれ位しかないからね 冬樹:だから、ナツが喜んでこの動画を見てくれていたら嬉しいな 夏菜:ふふっ…嬉しいに決まってるしょ! 夏菜:早くこっちに来てよー!早く一緒に赤ちゃんに会いに行きたいよー! 秋:ナツ…実は… 冬樹:じゃあ…ここから真面目な話 冬樹:この動画をナツが見てるってコトは、ナツと赤ちゃんは無事だったってコト 冬樹:そしてオレはもうこの世にいないってコトだ 夏菜:えっ…?冗談だよね…? 夏菜:ね、ねぇ…アキちゃん…? 秋:…ごめん 夏菜:なんで!なんで謝るのアキちゃん!冗談って言ってよ!ウソって言ってよ! 夏菜:前もって死ぬことが分かるなんてありえないでしょ! 秋:…一つだけあるんだ。その方法はナツも知ってるよ 0:夏菜はそれに気付き呆然とする 夏菜:…親族託命権 夏菜:でも赤ちゃんには使えないはずよね? 秋:あぁ。使えない。だからフユはナツに行使したんだよ 夏菜:ウソよ!だって私に血液は… 秋:適合したんだよ。奇跡に等しい確率で 0:遡ること数時間前、病室で待つ冬樹の元に戻る秋 冬樹:アキくん!結果は!?どうだったんだ!? 秋:適合した!これでもしかしたら助かるかもしれない! 冬樹:奇跡…。奇跡だ…っ!良かった!良かった! 秋:奇跡なんかじゃないよ…。二人が出会ったのは運命だったんだよ 冬樹:なら秋くんが助産師としてここにいるのも運命だったんだね 秋:フユのくせに偉そうなこと言いやがって 秋:…でも手放しで喜んでられないんだ フユ:…どういうこと? 秋:血液の量が圧倒的に足りないんだ。それにこの雨の影響で他の病院からの輸送も望めない 秋:だから…このままだとナツは… 冬樹:オレの血液が最後の希望ってわけか 秋:あぁ、だから助けてくれ 冬樹:もちろんだ。オレはどうなっても良いから、ナツと子供を… 秋:ふざけるな!私はそこまで言ってない! 冬樹:アキくん? 秋:勝手に諦めるな!希望を捨てるなよ! 冬樹:でも万が一っていうか… 秋:だったら生きろよ!カッコつけるなよ! 秋:ナツと二人の間に出来た命を守り通せよ! 冬樹:オレとナツの間… 0:冬樹は息を大きく深く吸う 冬樹:アキくん、オレやっぱり親族託命権つかうよ 秋:フユ、お前話聞いてたか? 冬樹:あぁ、その上で守る為に使う。もちろん死ぬ気はないよ 秋:…分かった。書類準備する 冬樹:それと学校とか親にも連絡したくて…10分位ここ使わせてもらって良いかい? 秋:構わないよ。でも先に輸血用の血液だけもらっていくよ 冬樹:あぁ、よろしく頼む 0:時は戻り現在 夏菜:そんなことって…ありえるの…?信じられない… 冬樹:まさかこんなセリフを本当に言う日が来るとは思わなかったけどな 冬樹:でも…オレが選んだコトだし、オレの血液が適合したのも運命だって思ってる 冬樹:それに…アキくん、オレ気付いてたからね? 冬樹:オレが病院に到着して、2人が無事かどうか聞いた時、左眉一瞬上がったよ? 冬樹:それを見たとき、あぁ…赤ちゃんも危ないって分かったよ 秋:…っ、気付いてたのか 冬樹:だから適合してるって言われたとき本当に嬉しかった 冬樹:何のためらいもなくオレの命はどうでも良いから2人を助けて下さいってお願いできた 夏菜:私はそんなコト望んでなかった!赤ちゃんとフユくんが無事ならそれで良かったのに…っ! 冬樹:もし…オレも生きていたら3人でこの動画見て泣こう? 冬樹:子供が大きくなったら4人で見て笑おう? 冬樹:その時にはアキくんも結婚してるかな…? 秋:勝手な事いうなよ!バカ野郎っ!! 秋:フユがいねぇと意味がねぇだろ! 秋:勝手なコト言うんじゃねぇ…よ…っ! 冬樹:最後に…子供の名前考えたから、もし気に入ってもらえたら使って欲しい 冬樹:一応、男の子でも女の子でも使える名前にしてる 0:名前を書いた紙を見せる 夏菜:…っ。 秋:…フユにしては良い名前だね…っ 秋:ナツ?動画止めてどうしたの? 夏菜:赤ちゃんに会いたい、会って名前を呼びたい 夏菜:パパが最期に残してくれた贈り物を渡したいっ! 秋:うんっ! 秋:まだ歩くの辛いだろうから車イス乗って? 夏菜:ありがとう、アキちゃん 0:(新生児室) 秋:ほら、あそこだよ。 秋:低体重児だから保育器の中だけど、元気だよ。見えるかな…? 夏菜:うん…っ、見えるよ…っ、とてもかわいい…っ 秋:先生も驚いてたよ。とても生命力の強い子だって 秋:正直、先生もあの時は諦めかけてたって言ってたし 夏菜:そうだったんだ… 夏菜:なら…本当にフユくんのおかげだね…っ 秋:それは、違うよ?ナツ? 夏菜:え…? 秋:ナツとフユが頑張ったから、この子は生まれて来れたんだよ? 秋:ナツとフユがママとパパだったからこの子は強く生きてるんだよ? 秋:だから…キミたち親子は大丈夫 夏菜:そうね…っ!困ったら頼れるアキちゃんもいるし! 秋:あぁ…!任せとけっ! 秋:(呟くように)…だから…フユも安心して見守っててくれ 夏菜:ありがとうアキちゃん… 夏菜:そして…生まれてきてくれてありがとう…私の…私たちの… 冬樹:ハルキ。春に希(のぞみ)で『春希』 冬樹:名前の意味は… 冬樹:冬から… 夏菜:夏につむぐ春の希望 0:終

0:秋と5歳の女の子が公園のベンチで座っている 秋:どうしたの? 秋:…え?何か面白い話してって? 秋:パパに似て自分勝手だなぁ。そうだ! 秋:じゃあ、キミが生まれる前のパパとママの話をしようか 秋:あれは11月の終わりだった… 0:(夕方のマンション一室) 夏菜:どうしてアナタはこんな事も出来ないの! 夏菜:何回同じこと言えば出来るようになるのっ!アナタ高校の先生よね? 冬樹:仕方ないだろ!仕事で疲れてるし! 冬樹:そんな皿置く場所ひとつで大袈裟だろ! 夏菜:だからやめてって言ってるでしょ! 夏菜:どうせ私に全部任せるつもりだからテキトーなんでしょ! 夏菜:ねぇフユくんは私が死んだらどうするの?1人で生きていけるの? 冬樹:オレだって努力してるんだよ!でもオレ頭悪いから…! 冬樹:でも…少しずつ出来るようになってきてるだろ…っ! 夏菜:さすが体育教師ですねー。困ったら精神論ですかー 夏菜:もしかしてフユくんが高校生に勉強教えてもらってるとかー? 夏菜:そんなお子ちゃまだから私の身体に負担がかかって… 冬樹:ナツ…!お前いい加減にしろよ…っ! 0:コンコンとノック音が響く 秋:お二人さん、夫婦喧嘩はそこまで 秋:外まで丸聞こえで近所迷惑。あとカギあけっぱ 夏菜:アキちゃんっ! 夏菜:聞いてよ!フユくんが全然何もしてくれないの! 夏菜:カギだって最後フユくんだし 冬樹:なんだよそれ… 秋:はいはい。私の聞いていた感じだと二人とも悪い 夏菜:そんな…だってフユくんがもっとしっかりしてれば…こんなことに… 秋:ナツ?落ち着きなさい。フユは悪いことしてないよ? 秋:それに、そんなに怒るとフユは本当に何もできなくなるよ? 夏菜:ごめんなさい… 秋:謝る相手は私じゃない 秋:あとフユも自分に甘すぎ。フユならもう少し出来るでしょ? 冬樹:…ごめん。ナツもゴメン…。オレ甘えてた… 夏菜:ううん。私も言い過ぎた…ゴメン… 秋:はいっ!仲直りっと! 秋:まったく…キミたち二人は私がいないと、相変わらず仲直り出来ないのねー 冬樹:そんなコトないって!オレらだっていつまでも子供じゃないし! 秋:はいはい。んじゃ、大人の飲み物に付き合ってもらおうかな 秋:ってことでフユ、ワイングラス持ってきて 冬樹:あいよー 冬樹:ったく、アキくんは相変わらず人使いが荒いな 冬樹:とりあえず座って待ってて 0:ワイングラスを取りに行く冬樹、2人はソファーに座りワインを取り出す秋 夏菜:アキちゃん…そのワインって… 秋:ん、あぁ…さすがだね 夏菜:そっか…今日…ダメだったんだね…ゴメンねアキちゃん… 秋:ナツが謝ることないって… 秋:助産師って感謝される仕事って思ってたけど…泣かない赤ちゃん取り上げると今までの喜びが無くなるくらい辛くてね… 秋:その結果アルコールに逃げて…この歳まで恋人なし。こんなことなら学生時代もっと遊んどけば良かったなぁ… 夏菜:そんなコト言わないでアキちゃん… 0:グラスを持って戻ってくる冬樹 冬樹:おまたせーグラス持ってきたよー 冬樹:ついでにツマミもテキトーに持ってきたー 秋:おっ!フユにしては気が利くじゃん 秋:…ってグラス2つだけ?フユ、禁酒中だっけ? 夏菜:違うよアキちゃん、禁酒してるのは私 夏菜:実は… 冬樹:赤ちゃん…できたんだ 秋:まじ…? 秋:やったな!良かったじゃん!私も嬉しいよ! 秋:ホントにおめでとう! 夏菜:ありがとう!…今度は上手くいくと良いんだけどね 秋:大丈夫だって!上手くいくから! 秋:ったく、なのに2人は喧嘩してたわけー? 冬樹:ごめん… 秋:良いって!こんなコトならもっと良いワイン買ってくれば良かったー 秋:そうだ!せっかくだからピザ頼もうよ! 夏菜:いいね!アキちゃんに報告できたしお祝いしなきゃね! 秋:よしっ決まりっ! 秋:ということで、フユ注文任せた! 冬樹:えー!またかよー! 秋:そう言うなって、フユの好きなもん頼んで良いからさ! 秋:もちろん私がおごるから! 冬樹:へいへい、じゃあついでに外行って飲み物も買ってくるよ 秋:サンキュー!ほい、2万あれば足りるよね? 秋:私は追加で良いワインも飲みたいからよろしくー!フユも飲みたいものあったら買って良いからね! 冬樹:相変わらずアル中だなあ 秋:うるせー。ってかお釣りは返せよ! 冬樹:分かってまーす、んじゃ行ってくる! 0:部屋を出ていく冬樹 夏菜:はーい。アキちゃん本当に大丈夫なの? 秋:ん?大丈夫!私、稼ぎは良い方だから 夏菜:そうじゃなくて…フユくんに注文任せたの不安しかないんだけど… 秋:…確かに。テンション上がりすぎて忘れてた 秋:昔からフユだけやたら甘いもの食べてたな。…確かお好み焼きにハチミツかけてた事あったような記憶が… 夏菜:あー、あったね。私たちはパンケーキだと思って食べて泣いたよね 秋:そーそー!でも、もうフユも大人だから大丈夫でしょ? 夏菜:…この前、納豆ご飯に練乳かけて喜んで食べてたよ? 秋:…マジ? 秋:ま、まぁピザだし、メニューからしか選べないから大丈夫でしょ… 夏菜:うん…そういうことにする… 夏菜:…話変わるけど、真面目な話しても良いかな? 秋:ん?大丈夫だよ? 夏菜:ありがとう。アキちゃんに2つお願いがあって… 夏菜:1つは…この子をアキちゃんに取り上げて欲しいの 秋:私で良いの…? 夏菜:アキちゃんが良いの。私の身勝手だけど…みんなで前に進もう? 秋:分かったよ…ありがとう… 夏菜:こちらこそありがとう。もう1つのお願いなんだけど… 夏菜:今度は私じゃなくて、お腹の子を優先して欲しい 秋:縁起でもない…。気持ちは分かるけどまだ早すぎる… 夏菜:でも…アキちゃんも知ってるでしょ。私の血液型が珍しいこと 秋:うん…覚えてる。でもあれは失血だけが原因じゃない… 夏菜:分かってる…でもね、万が一の時に私の命を繋ぐだけの量を確保するのは難しいんだって… 夏菜:今少しずつ自己輸血用に貯血してるんだけど貧血持ちだから中々量を確保出来なくて… 秋:そうだったんだ… 夏菜:それに私と同じ血液型って千人に一人なんだって…そこそこいると思っていたけど少ないの、だから… 秋:わかった覚えておく。私の方でも他の病院当たってみる 秋:ちなみにこの話フユには? 夏菜:1つ目だけ伝えてる 夏菜:2つ目を言っちゃうと動揺して日常生活に支障出そうで… 秋:確かにフユならありえるね 秋:きっと大丈夫だから心配することないさ 秋:何にしても身体大事にしなきゃだね。家事の手伝いでも何でも良いから困ったら頼りなよ? 夏菜:ありがとう。その時は遠慮なくお願いするね? 秋:あぁ 0:冬樹帰宅 冬樹:ただいまー!色々買わせてもらったよー。はいお釣り 0:お釣りを秋に返す 秋:あいよ。結構使ったな、まっ良いけど 冬樹:オレがいない間に俺の悪口言ってなかったー? 冬樹:くしゃみ3回位出たんだけどー 夏菜:それは知らないよ、薄着で外出たからじゃないのー? 冬樹:えー、じゃあ何の話してたのさ 夏菜:えっと… 秋:フユには言えない楽しい話だよー、だからフユには内緒ー 冬樹:ふーん。アキくん、ウソ付いてるね 秋:はー?なんでウソだって決めつけるんだよ?ウソじゃないから! 冬樹:左眉 秋:は?左眉がどうした? 冬樹:昔からアキくんはウソ付くとき左眉が一瞬上がるんだ 冬樹:だから今アキくんはウソ付きましたー! 秋:…っ!フユのくせに生意気な 冬樹:さー!何を話してたか素直に言いたまえー! 夏菜:そ、そんなコトより…何のピザ頼んだの? 冬樹:ん?今フェアやっててLサイズ2枚頼めばお得って言われたからそれにした! 夏菜:そう…なら大丈夫そうね。変なの頼んでたらどうしようって話してたの 冬樹:2人ともひどいなー、ちゃんとみんなの好きなピザにしたよ 冬樹:オレが今までに変な物頼んだことあったか? 夏菜:…ノーコメントで。でも変な気使わせてごめんね 秋:ナツ… 冬樹:仕方ないな、でも分かったぜ! 冬樹:ではピザのお披露目といこうか! 0:ピザの箱を開ける冬樹 冬樹:じゃーん!ほら!うまそうだろ! 0:ピザを見て絶句する夏菜と秋 冬樹:あれ?2人ともどうした? 秋:なぁ…フユ?これは? 冬樹:ミートパイン 秋:こっちは? 冬樹:チーズパイン 秋:なんで両方パインなんだよ!常夏かよ!パインフェアかよ!せめて1枚は4種類入ってるピザにしろよ! 冬樹:でもみんなパイン好きだろー? 秋:確かにパインは好きだよ、でも温めるのはナシだって! 冬樹:マジか…アキくんは4種類の梨のピザが良かったのか… 秋:そうじゃないって!フユあれだろ?酢豚にもパイン入れるだろ? 冬樹:当然っ!パインの入ってない酢豚は酢豚じゃないからな! 秋:ハンバーグの上に乗せるのは? 冬樹:おろしそ 秋:そこはパインじゃないのかよ! 冬樹:さっぱりしてうまいじゃん! 秋:美味しいけどさ 秋:はぁ…ナツの言う通りだったよ…ほら、ナツも頭抱えてる… 夏菜:…ふふっ 秋:ナツ…? 夏菜:あははははっ 夏菜:ごめん、ガマン出来なかった!あー笑いすぎて苦しいー 夏菜:はぁはぁ…ふーっ… 夏菜:はぁー、なんか久しぶりに笑った気がする 冬樹:…だな、ナツの笑い声久しぶりに聞いたかもな 秋:そうだね… 秋:じゃ、ピザ食べよう!みんなの新しい一歩にカンパイしよう! 夏菜:そうね!フユくん私の飲み物って? 冬樹:もちろん買ってきた!ほらぶどうジュース。せっかくだからワイングラスに入れようぜ! 夏菜:ありがとう!アキちゃんお待たせ! 0:グラスを持つ3人 秋:んじゃ、みんなの新しい一歩と明るい未来を祈って… 秋:カンパイっ! 冬樹:(M)それから時は少し流れ、新年を迎えたとある寒い日に秋は夏菜から呼び出される 0:玄関の扉を開けて家の中に入る秋 秋:ナツー、大丈夫かー? 秋:頼れるアキさんが来たぞー 夏菜:アキちゃん来てくれてありがとう! 夏菜:寒かったでしょ?今お茶淹れるからソファーに座ってて? 秋:元気そうじゃん!とりあえず安心した 秋:私に気使わなくて大丈夫だからさ 秋:で、何からやればいい? 夏菜:え?何もしなくて大丈夫だよ? 秋:家事の手伝いで呼んだんじゃ… 0:リビングの扉を開けて秋は部屋を見渡す 秋:思ったより…いや、普通に片付いてんじゃん 0:夏菜は自慢げにニヤニヤ笑う 夏菜:でしょー!スゴイでしょー! 秋:スゴイでしょ…って、ナツ…アンタそんな無理して… 夏菜:ムリ?私してないよ? 秋:自慢したい気持ちは分かるけどさ…ここまでやる必要ないって… 夏菜:これはフユくんがやったんだよ! 秋:フユが!? 0:秋はもう一度部屋を見回す 秋:…へーっ。アイツもやれば出来んじゃん 夏菜:でしょ?ということで安心して座って下さい。 夏菜:用事って言うのは話があってね…。とりあえずお茶持ってくるから座って待ってて? 秋:分かった 0:秋は言われるままに座り、夏菜を待つ。数分後、夏菜はお茶をテーブルと1つのA4サイズの封筒を持ってくる 夏菜:お待たせ。隣座るね 秋:あぁ。その封筒って… 夏菜:アキちゃんなら詳しいと思って、色々聞きたかったの 0:夏菜は封筒から1冊のパンフレットを取り出す。その表紙を見た秋は頭を抱える 秋:やっぱりか…。ナツ、悪いけどこれは… 夏菜:お願い教えて!私どうしても、この子を産みたいの! 夏菜:その為なら私の命なんて…! 秋:ナツ!落ち着きなさい! 夏菜:だったら教えてよ!どうやったら『親族託命権』を使えるの! 冬樹:(M)『親族託命権』とは、2親等以内に限り自身の生命維持不可相当のものであっても臓器や身体の一部・血液等委(ゆだ)ねることが出来る権利である 冬樹:(M)昨今の命の在り方について政府が認め、数年前に施行(しこう)された 冬樹:(M)だが数多く縛りがあり、この権利が行使された件数は国内で10件程度しか認められていない 秋:無理…。胎児にこれは使えない 夏菜:どうしてなの?先生も同じこと言ってたし… 夏菜:アキちゃんなら抜け道とか分かるでしょ… 秋:胎児に戸籍がないからムリ 秋:もちろんそれだけじゃないけど…今の制限じゃ絶対無理なの 冬樹:(M)大まかな制限としてはドナー(提供者)とレシピエント(被提供者)双方に戸籍があること 冬樹:(M)レシピエントが生命の危機に瀕しており、その程度が移植等により蘇生が可能と認められる状態に限られる 夏菜:…そうなのね。ごめんアキちゃん 秋:気にしないで?不安になるのは分かるよ? 秋:でも今は身体を大事にして貯血を頑張ろ? 秋:そうすれば大丈夫だからさ? 夏菜:でもこの子も可哀そうよね。こんな脆弱(ぜいじゃく)な私の所に来ちゃって… 秋:そんな事言わない!この子がナツの所に来たのは運命なんだから 夏菜:運命… 秋:うん。だから前に進むことで希望が生まれるから頑張ろ? 秋:ちなみになんだけど、赤ちゃんの名前の候補って決まった?さすがにまだ早いか 夏菜:フユ君と何となくは話してるけど、生まれてから決めようって感じになってるよ 秋:なら楽しみが待ってるね。二人の子供だから絶対かわいいだろうし 夏菜:かな?アキちゃん…私頑張るね 秋:あぁ!さてと安心したらお腹すいてきたなぁ 夏菜:私もお腹すいた! 夏菜:アキちゃん、一つワガママ言っても良い? 秋:ん?どうぞ? 夏菜:久しぶりにアキちゃんのお好み焼き食べたい! 0:秋はニカっと笑う 秋:良いよ!んじゃ材料買ってくるね! 夏菜:はーい!じゃあフユくんにも連絡入れておくね! 秋:よろしくっ! 夏菜:(M)さらに時は流れ安定期に入り、春が訪れた 夏菜:(M)季節外れの大雨に襲われる中、突然…私の身体に異変が起きてしまう 夏菜:(M)そして別れは突然訪れる 0:昼前、秋自宅で就寝中ケータイの着信音が響き渡る 秋:…んっ、ナツから電話…? 秋:はい、もしもし… 夏菜:ごめんアキちゃん…寝てたよね… 秋:大丈夫。何かあったの? 夏菜:ちょっと体調悪くて…あと血みたいなの出てたから病院行った方が良いのかなって思って… 0:布団から飛び起きる秋 秋:それはいつから!? 夏菜:朝起きてからかな…お腹が気持ち悪くて、つわりみたいな感じと強めの貧血みたいなのが続いてて… 秋:出血は!?いつから!?量は!? 夏菜:血は今さっき。量は血っぽいかな?って位で、ほんのちょっとだけだよ? 夏菜:だから慌てるほどでもないよ? 秋:…分かった。とりあえず私から病院に連絡入れておくね 秋:だからナツは病院に行く準備しておいて? 夏菜:わかったよ。この雨だし気を付けてね 秋:うん…ゴメン。私は行けないから救急車向かわせる… 夏菜:え…?どうして救急車なの?アキちゃんが忙しいならタクシーでも… 秋:ごめん。不安にさせたくなかったから言わないつもりだったけど… 秋:ナツ…落ち着いてよく聞いて… 秋:今…お腹の赤ちゃんと、もしかしたらナツも危険な状態かもしれない… 夏菜:ウソ…だよね…? 夏菜:ここまで順調だったんだよ!?何事もなかったんだよ!? 秋:そうだよね…でもナツ…私はこんな冗談は言えないよ… 秋:だからお願い…落ち着いて私の言葉を受け入れて… 夏菜:…そうだよね 夏菜:アキちゃんがこんな冗談言うはずないよね… 夏菜:…アキちゃん…あとはお願いします 秋:…うん、ありがとう 秋:あとは任せて 0:電話をきる 秋:…くそっ!なんで…っ!なんでなんだよっ! 夏菜:(M)それから氾濫(はんらん)の影響で救急車の到着が大幅に遅れてしまったが、私は病院に搬送される 夏菜:(M)だが私は救急車到着前に気を失ってしまったようでその後の記憶はない 夏菜:(M)そして…私の意識は深く暗く冷たい海の底のような場所に沈んでいくのであった 0:(病院内) 冬樹:アキくん!ナツは!?2人は無事なのか!? 秋:…お腹の子はきっと大丈夫 冬樹:それって…どういう…? 秋:ナツからの頼みだった… 秋:万が一の時は、子供を優先してくれって… 冬樹:ウソだろ…どうしてナツは助からないんだよ…っ!なぁ!アキくんっ! 秋:輸血用の血液が足りない… 秋:ウチで確保していた分だけじゃ、とてもじゃないけど間に合わない… 秋:来週ほかの病院から来る予定だったのに…っ!なんで今なんだよ…っ! 冬樹:分かった…。ごめんよアキくん… 冬樹:…何かオレに出来るコトってある? 秋:…赤ちゃんが無事に生まれてくることを祈ってて 冬樹:わかった 冬樹:…あ、アキくん忙しいのにごめん、もう一つだけ聞いても良いかい? 秋:あぁ、大丈夫だよ。なに? 冬樹:血液検査ってすぐ出来るかな?今まで大きなケガや病気してこなかったから、ちゃんと検査したことなくて… 冬樹:万が一、オレの血液使えないかなって気になってさ… 秋:分かった。すぐに準備する 0:夏菜の意識は徐々に遠のいていく 夏菜:どこまで沈んでいくんだろう? 夏菜:冷たすぎて身体の感覚なくなってきた… 夏菜:赤ちゃん無事かな?フユくん一人でちゃんと子育て出来るかな? 夏菜:こんなことなら…もっとフユくんに優しくすれば良かった… 夏菜:…あれ?急に身体が軽く…? 夏菜:なに…?この温かさ…?どこか懐かしい… 冬樹:ナツ…よく頑張ったね! 冬樹:元気な女の子だよ… 0:病室のベッドの上で目覚める夏菜 夏菜:フ…フユく…ん…っ 秋:ナツ!良かった…。よく頑張ったね…っ! 夏菜:あ、あれ…?フユくん…は…? 夏菜:さっき…元気な女の子って…教えてくれた…のに… 秋:…ここにはいないよ 秋:でも伝言…預かってる。…見るかい? 夏菜:うん…見たい… 秋:わかった。今準備するね… 0:スマホをテーブルの上に置く 秋:…そのまま再生押せば見れるよ 夏菜:フユくんのスマホ…? 0:動画を再生する夏菜 冬樹:ナツ!よく頑張ったね!オレも嬉しいよ! 冬樹:男の子かな?女の子かな?オレとナツどっちに似てるかな? 夏菜:えっ?さっき女の子って言ったよね…? 冬樹:この動画はナツが赤ちゃんを救うために頑張ってる時に撮ってます! 冬樹:正直…オレに出来るコトって、応援とこれ位しかないからね 冬樹:だから、ナツが喜んでこの動画を見てくれていたら嬉しいな 夏菜:ふふっ…嬉しいに決まってるしょ! 夏菜:早くこっちに来てよー!早く一緒に赤ちゃんに会いに行きたいよー! 秋:ナツ…実は… 冬樹:じゃあ…ここから真面目な話 冬樹:この動画をナツが見てるってコトは、ナツと赤ちゃんは無事だったってコト 冬樹:そしてオレはもうこの世にいないってコトだ 夏菜:えっ…?冗談だよね…? 夏菜:ね、ねぇ…アキちゃん…? 秋:…ごめん 夏菜:なんで!なんで謝るのアキちゃん!冗談って言ってよ!ウソって言ってよ! 夏菜:前もって死ぬことが分かるなんてありえないでしょ! 秋:…一つだけあるんだ。その方法はナツも知ってるよ 0:夏菜はそれに気付き呆然とする 夏菜:…親族託命権 夏菜:でも赤ちゃんには使えないはずよね? 秋:あぁ。使えない。だからフユはナツに行使したんだよ 夏菜:ウソよ!だって私に血液は… 秋:適合したんだよ。奇跡に等しい確率で 0:遡ること数時間前、病室で待つ冬樹の元に戻る秋 冬樹:アキくん!結果は!?どうだったんだ!? 秋:適合した!これでもしかしたら助かるかもしれない! 冬樹:奇跡…。奇跡だ…っ!良かった!良かった! 秋:奇跡なんかじゃないよ…。二人が出会ったのは運命だったんだよ 冬樹:なら秋くんが助産師としてここにいるのも運命だったんだね 秋:フユのくせに偉そうなこと言いやがって 秋:…でも手放しで喜んでられないんだ フユ:…どういうこと? 秋:血液の量が圧倒的に足りないんだ。それにこの雨の影響で他の病院からの輸送も望めない 秋:だから…このままだとナツは… 冬樹:オレの血液が最後の希望ってわけか 秋:あぁ、だから助けてくれ 冬樹:もちろんだ。オレはどうなっても良いから、ナツと子供を… 秋:ふざけるな!私はそこまで言ってない! 冬樹:アキくん? 秋:勝手に諦めるな!希望を捨てるなよ! 冬樹:でも万が一っていうか… 秋:だったら生きろよ!カッコつけるなよ! 秋:ナツと二人の間に出来た命を守り通せよ! 冬樹:オレとナツの間… 0:冬樹は息を大きく深く吸う 冬樹:アキくん、オレやっぱり親族託命権つかうよ 秋:フユ、お前話聞いてたか? 冬樹:あぁ、その上で守る為に使う。もちろん死ぬ気はないよ 秋:…分かった。書類準備する 冬樹:それと学校とか親にも連絡したくて…10分位ここ使わせてもらって良いかい? 秋:構わないよ。でも先に輸血用の血液だけもらっていくよ 冬樹:あぁ、よろしく頼む 0:時は戻り現在 夏菜:そんなことって…ありえるの…?信じられない… 冬樹:まさかこんなセリフを本当に言う日が来るとは思わなかったけどな 冬樹:でも…オレが選んだコトだし、オレの血液が適合したのも運命だって思ってる 冬樹:それに…アキくん、オレ気付いてたからね? 冬樹:オレが病院に到着して、2人が無事かどうか聞いた時、左眉一瞬上がったよ? 冬樹:それを見たとき、あぁ…赤ちゃんも危ないって分かったよ 秋:…っ、気付いてたのか 冬樹:だから適合してるって言われたとき本当に嬉しかった 冬樹:何のためらいもなくオレの命はどうでも良いから2人を助けて下さいってお願いできた 夏菜:私はそんなコト望んでなかった!赤ちゃんとフユくんが無事ならそれで良かったのに…っ! 冬樹:もし…オレも生きていたら3人でこの動画見て泣こう? 冬樹:子供が大きくなったら4人で見て笑おう? 冬樹:その時にはアキくんも結婚してるかな…? 秋:勝手な事いうなよ!バカ野郎っ!! 秋:フユがいねぇと意味がねぇだろ! 秋:勝手なコト言うんじゃねぇ…よ…っ! 冬樹:最後に…子供の名前考えたから、もし気に入ってもらえたら使って欲しい 冬樹:一応、男の子でも女の子でも使える名前にしてる 0:名前を書いた紙を見せる 夏菜:…っ。 秋:…フユにしては良い名前だね…っ 秋:ナツ?動画止めてどうしたの? 夏菜:赤ちゃんに会いたい、会って名前を呼びたい 夏菜:パパが最期に残してくれた贈り物を渡したいっ! 秋:うんっ! 秋:まだ歩くの辛いだろうから車イス乗って? 夏菜:ありがとう、アキちゃん 0:(新生児室) 秋:ほら、あそこだよ。 秋:低体重児だから保育器の中だけど、元気だよ。見えるかな…? 夏菜:うん…っ、見えるよ…っ、とてもかわいい…っ 秋:先生も驚いてたよ。とても生命力の強い子だって 秋:正直、先生もあの時は諦めかけてたって言ってたし 夏菜:そうだったんだ… 夏菜:なら…本当にフユくんのおかげだね…っ 秋:それは、違うよ?ナツ? 夏菜:え…? 秋:ナツとフユが頑張ったから、この子は生まれて来れたんだよ? 秋:ナツとフユがママとパパだったからこの子は強く生きてるんだよ? 秋:だから…キミたち親子は大丈夫 夏菜:そうね…っ!困ったら頼れるアキちゃんもいるし! 秋:あぁ…!任せとけっ! 秋:(呟くように)…だから…フユも安心して見守っててくれ 夏菜:ありがとうアキちゃん… 夏菜:そして…生まれてきてくれてありがとう…私の…私たちの… 冬樹:ハルキ。春に希(のぞみ)で『春希』 冬樹:名前の意味は… 冬樹:冬から… 夏菜:夏につむぐ春の希望 0:終