台本概要

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タイトル 陽炎
作者名 やいねん  (@oqrbr5gaaul8wf8)
ジャンル ミステリー
演者人数 5人用台本(男2、女3)
時間 50 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 とある夏の出来事。
高校の卒業を機に疎遠になった同級生達が集まり、再び青春を謳歌しようとお盆に旅行を計画。
楽しいバカンスを過ごしていた矢先、次々とアクシデントが起きてしまう。
それは仕組まれていた事象なのか、それとも…

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
幸大 156 大学生。不器用で友達が少ない。彩菜と同じ大学に通う。麻由子とは幼馴染。
彩菜 128 幸大と同じ大学に通う高校の同級生。幸大を追って同じ大学に入学。幸大が好き。幸大と幼馴染みの麻由子に嫉妬している。
結弦 153 高校の同級生。ヤンキーだった。卒業後は就職。卒業の日に美奈に告白し、交際中。
麻由子 101 高校の同級生。都内の名門大学に通っている。幼少の頃から魔女に傾倒していて、オカルトが大好き。幸大とは幼馴染み。不器用。
美奈 95 高校の同級生。関西出身。転校生だったが彩菜を起点にみんなと仲良くなる。結弦と交際中。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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0:(SE)ある夏の日の夜。麻由子は熱心に呪文を唱えていた。 麻由子:「エコエコアザラク、エコエコザメラク、エコエコケルヌンノス、エコエコアラーディア(数回繰り返し)……はっ、見えた……。ビジョンが……見えた……!」 0: 0:(SE)翌日。とあるファミレスにて。幸大は同じ大学に通う彩菜に呼び出されていた。 彩菜:「……はい、コーヒー。」 幸大:「うん、ありがとう。久々に来たなぁ、このファミレス。高校ん時はよくたむろしてたよな。」 彩菜:「そうだね。ドリンクバーだけでずっと粘ってたよね。懐かしいなぁ。」 幸大:「ああ、思い出すなぁ。……それで、話ってなんだ?」 彩菜:「そうそう!コウちゃんさ、お盆休みってなんか用事あるの?」 幸大:「あー……多分バイトかな。稼ぎ時っぽいし。」 彩菜:「そっかー、今年の夏こそはみんなで旅行したいって思ってたのになぁ。」 幸大:「みんな?みんなって、誰のことだ?」 彩菜:「ほら、それはさ……」 結弦:「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」 0:こっそり到着してた結弦が幸大を驚かせる 幸大:「うおっ!びっくりしたぁ!……お前、結弦か?」 結弦:「久しぶりぃ!元気してた?」 幸大:「彩菜、これは一体……」 彩菜:「コウちゃんを驚かせようと思ってね。こっそり来てもらったんだ。」 幸大:「なんだよ、言ってくれよ。心臓に悪いなぁ……と言うか、かなり雰囲気変わったな、お前。なんかこう、落ち着いたったっていうか……ポロシャツ着るような奴だっけ。」 結弦:「だって彼女がこう言うファッション好きなんだもん!ねぇ、美奈!」 幸大:「美奈?」 美奈:「ハハハッ、そのアホ面!幸大は高校ん時からなんも変わらんなぁ!おもろー!」 幸大:「おいおい、久しぶりだってのに最初にそれ言うのかよ。……え。ってことは、お前ら付き合ってんのか。」 美奈:「せやで。実は卒業式の後、結弦が校舎裏に呼び出しよってなぁ……」 幸大:「え、マジで?そんな前から?」 結弦:「ストップストップ!その話はトップシークレット!」 彩菜:「フフっ、二人とも来てくれてありがとうね。」 結弦:「そりゃ来るっきゃないっしょ!久しぶりの再会なんだからさ!高校卒業して以来だもんな!」 美奈:「ホンマやねぇ。ウチら今日会えんの、めっちゃ楽しみにしとったんよ。」 幸大:「そうか、卒業してからもう二年経つのか。早いもんだな。」 彩菜:「あ、麻由子!こっちこっち!」 0:麻由子が遅れてやってくる。 麻由子:「お待たせ。少し遅れてしまった。」 幸大:「おお、麻由子も呼んでたのか。」 結弦:「マユちゃーん!相変わらずバストおっきいねぇ、ナイスだねぇ!何カップになったの?」 0:(SE)美奈にシバかれる結弦。 結弦:「痛ぁっ!」 美奈:「なにをセクハラしとるんや、ボケ!それかなんや、ウチのがちっぱいからって当て付けしとんのか!」 結弦:「ごめんごめん!そんなつもりないって!」 美奈:「ったく、すまんね麻由子。気ぃ悪くせんでな。」 麻由子:「大丈夫、慣れてるから。むしろ、みんな変わってなくて安心した。」 幸大:「お前、忙しいんじゃないか?超名門大学に通ってるんだし。」 麻由子:「大丈夫、心配ない。仮に忙しくても、みんなと再会出来るなら、いつでも来るつもりだったから。」 彩菜:「来てくれてありがとう、麻由子。よし、これでみんな揃った訳なんだけど……ぐすん……。」 0:感極まり涙ぐむ彩菜。 幸大:「ん、どうした彩菜。……泣いてんのか?」 彩菜:「ごめん……なんかさ、こうやってみんなが集まってくれるのが嬉しくて……つい……。」 結弦:「アヤちゃん、そんな泣くほどのことじゃないって……」 美奈:「せやで。ウチらはずっと友達なんやから。心配せんでええねんで。」 彩菜:「みんな……ありがとう……!」 麻由子:「ほら、おいで。」 彩菜:「ぐすん……麻由子ー!」 0:麻由子の腕の中で泣く彩菜 麻由子:「よーしよーし。」 彩菜:「えーん、えーん!」 美奈:「毎度お馴染み、泣き虫彩菜を麻由子が慰めるくだり……ホンマ昔と変わらんなぁ。」 結弦:「マユちゃん、俺も泣いたら抱きしめてくれのかな?」 美奈:「なに言っとんねん!性懲りもなしに、このアホンダラ!フンっ!」 0:(SE)シバかれる結弦 結弦:「痛ぁっ!」 0:泣き止む彩菜。 麻由子:「……落ち着いた?」 彩菜:「ぐすん……うん、ありがとう。落ち着いた。」 幸大:「ところで彩菜、さっきの旅行の話なんだけど。」 麻由子:「っ!?」 結弦:「旅行?なにそれ初耳!」 彩菜:「実は、その話がしたくてみんなに集まってもらったんだよね。」 美奈:「ええやん素敵やん!旅行先は決まっとう?」 彩菜:「それをこれからみんなで話し合うと思ってたの!一応お盆で考えてたんだけど、幸大が予定合わなそうだから……」 幸大:「行くよ。」 彩菜:「え?」 幸大:「みんなで行こう。お盆休み、絶対にとるからさ。」 彩菜:「幸大……ありがとう!」 美奈:「よっしゃ!ほな、これから候補地を決めな!やっぱ夏やから海が近いのがええなぁ。」 結弦:「美奈、天才かよ!」 美奈:「ホ、ホンマ?なんや、照れてまうわ……。」 結弦:「だってみんなの水着姿が見れるじゃないか!」 美奈:「結弦~……顔パンパンにしたろか?おお?」 結弦:「じょ、冗談だって!マジになんないでよ!」 麻由子:「お盆……。」 幸大:「麻由子、どうした?」 麻由子:「ううん、気にしないで。……きっと思い過ごし。」 幸大:「?」 0: 0:(SE)八月十四日、旅行初日。日中、海水浴を満喫した一行。夕方頃に予約した山奥コテージに向かう。運転席に結弦、助手席に美奈、後部座に幸大を挟んで彩菜、麻由子が座ってる。 美奈:「いやぁ~最高やったね、海!」 彩菜:「うん!ちょ~楽しかった!」 幸大:「まさか、ノリでバナナボートに乗るなんてな……。」 結弦:「コウちゃん、ああゆうのからっきし駄目だもんね!」 幸大:「彩菜がどうしてもって言うから仕方なくだよ。大人しく見学してりゃよかった……。」 彩菜:「ごめんね、コウちゃん。どうしてもみんなで乗りたくって……。」 幸大:「いや、いいんだよ。思い出にはなったからさ。」 麻由子:「……。」 彩菜:「麻由子、どうかしたの?」 麻由子:「え?……ああ、バナナボート。うん、楽しかった……っ!?」 0:(SE)道に飛び出して来た動物を轢いてしまう。 彩菜:「キャッ!」 幸大:「なんだ、今の揺れ!?」 結弦:「あちゃ~、轢いちゃったよ……。」 美奈:「まぁ~、しゃあないて。避けきれんかったもん。」 0:振り返る幸大。 幸大:「……あれは。」 彩菜:「なんの動物かな?かわいそうに……。」 麻由子:「……ハクビシン、タヌキ、ネコ。たぶんそのどれかだと思う。」 幸大:「……そうかな?」 結弦:「バンパーへこんでたら親父に殺されちまうよ!……って、いっけねぇ!そろそろガソリン入れないと!」 美奈:「大丈夫なんか?市街地を抜けてからしばらく経っとうで。」 結弦:「んー、もうそろそろ峠入るからなぁ。日が暮れる前には到着したいんだけど……途中ガソスタあるのかなぁ。」 幸大:「彩菜、予約したコテージまでどのくらいかかるんだ?」 彩菜:「ちょっと待ってね。この調子なら一時間もかからないはずなんだけど……」 美奈:「ちょっと結弦!あれガソスタちゃうか?」 結弦:「お、ホントだ!よかったぁ~!ちゃちゃっと給油しちゃおう!」 0:(SE)寂れた有人のガソリンスタンドに停車する。 美奈:「じゃあウチ、声かけてくるわ。」 結弦:「ありがとう美奈、よろしくー。」 幸大:「……営業してんのか?このガソスタ。とりあえず飲みもんでも買ってくるか。」 0:美奈が受付の店内を向かい、幸大は自販機へ向かう。その間、結弦は車を降りて身体を伸ばし、車内から窓を開けて外を覗く彩菜。 彩菜:「ねぇ、見て麻由子!夕陽が綺麗だよ!」 麻由子「あの揺らめき……」 彩菜:「そう思わない?麻由子。」 麻由子:「あ、うん……。」 結弦:「んー、運転疲れたー!」 幸大:「ご苦労さん。ほら、コーヒー。」 結弦:「お、サンキュー!……ん?あれ、なんかモヤがかかってるのか、道路の向こうが歪んで見えるぞ。」 麻由子:「局地的に密度の異なる大気が混ざり合う事で光が屈折し、生まれる揺らぎ。」 結弦:「……え?」 幸大:「麻由子……あんまりわかりづらい言い方するなよ。」 麻由子:「そんなつもりじゃないけど。……あの現象を『陽炎』と言う。」 結弦:「あー、あれが陽炎ね!名前は知ってる!」 彩菜:「陽炎が煽るように太陽と重なって、水平線に溶けてるみたい。スゴい幻想的な光景ね……。」 麻由子:「……。」 0: 0:(SE)入店する美奈。辺りを見渡すが、係員は居ない。 美奈:「こんにちはー。係員さーん、給油したいんやけど……なんや、誰もおらんのか?あー、暑ぅ~。空調壊れとんのか?」 0:カウンターに飾られたコルクボードにびっしり写真が貼られている。 美奈:「お、コルクボードやん。めちゃくちゃ家族写真貼っとうなぁ。……ん?なんやろ、この写真。ボロっちい家に……お稲荷さんの、祠?」 0:(SE)奥の部屋の扉が勢いよく開き、噛み煙草を噛みながら係員が現れる。 美奈:「イヤッ!びっくりしたわぁ~!そんな勢いよく扉開けんでも……。」 0:(SE)噛み煙草の咀嚼音をこれでもかと鳴らしながら、上から下に舐め回すように見る係員。 美奈:「……給油、お願いしてもええですか?」 0:(SE)僅かに頷き給油に向かう係員。 美奈:「あ、ありがとうございます。……なんやねん、あのオッサン。頷くだけで一言も喋らんと、噛み煙草クチャクチャしながら、イヤらしい目付きでジロジロ見よって。気ぃ悪いでぇ。」 0: 0:(SE)店内から係員が車へ向かってくる。 結弦:「お、やっと係員さん来たー!レギュラー満タンでお願いしまーす!」 彩菜:「あ、そうだ!」 幸大:「彩菜、どうしたんだ。」 彩菜:「ちょっと係員さんに質問してくる!」 0:(SE)給油中の係員に話し掛ける。 彩菜:「あのー、すみません!この先に大きなコテージがあると思うんですけど、この地図の経路であってますよね?」 0:(SE)目は合うが、噛み煙草の唾を吐き出すだけで喋らない係員。相手の聴力を疑い始める彩菜 彩菜:「……あの、聞こえてますか?」 0:(SE)突然彩菜に耳打ちするやいなや、お尻を触る係員。 彩菜:「え?……キャッ、何するんですか!」 0:(SE)同時に給油を終え、無言のまま店内に帰る係員。 幸大:「おいどうした、大丈夫か!」 彩菜:「あの人にお尻触られたの!」 幸大:「なんだと!ふざけやがって!」 彩菜:「いいの、少し驚いただけ!」 幸大:「だってよぉ……」 彩菜:「給油はして貰ったんだから!もう行こう!」 0:支払いを済ませた美奈が戻ってくる。 美奈:「お待たせー!ほな行こかー!」 結弦:「おっしゃ!ラストスパートかますよー!」 0:ガソスタを出て数十分が経過。浮かない顔をしている彩菜。 彩菜:「……。」 幸大:「彩菜、具合でも悪いのか?」 彩菜:「いや、そうじゃないの。……その、さっきお尻触れる前にね……なんか、耳打ちされたの。」 0:それを聞いた麻由子が前のめりに聞き返す 麻由子:「彩菜、なんて言われた!」 彩菜:「うえっ!?麻由子、急にどうしたの!」 麻由子:「いいから!教えて!」 彩菜:「『くようしろ』って。」 麻由子:「……!」 結弦:「どうしたのー?なんか騒がしいね。」 麻由子:「今すぐ引き返そう!」 美奈:「どないしたん、麻由子。」 結弦:「そうだよ、急に引き返すなんて……」 0:(SE)フロントガラスに何かが当たる衝撃音。 結弦:「ぐわっ!な、なんだ今の音!」 美奈:「飛び石か虫やろうな。驚き過ぎやて。」 麻由子:「どうしよう、このままじゃ……!」 彩菜:「麻由子、どうした?落ち着いて。」 幸大:「昔からの悪い癖だぞ、麻由子。まだ魔女ごっこ治ってないんだな。」 麻由子:「違う!今回ばかりは……っ!?」 幸大:「うおっ!」 彩菜:「キャッ!」 0:(SE)突然エンストする車。停車する。 結弦:「みんなごめん!クラッチ入れ間違えたのか、エンストしちゃって。」 美奈:「結弦~、しっかりせえってホンマ。」 結弦:「……あれ?」 美奈:「なにしとう、はよエンジンかけな。」 0:(SE)何故かエンジンはかからず。 結弦:「……なんで?セルモーターは回ってるのに、全然かからないよ。」 美奈:「ほな、バッテリーちゃうな。あそこのガソリン腐っとったんちゃうか?」 結弦:「まさか~。」 麻由子:「同じ……同じ事が起きてる……!」 幸大:「麻由子……。」 0:パニックに陥る麻由子の頭に手を乗せる幸大。撫でるわけでもなく、ただ乗せるだけ。 麻由子:「っ!?あ、あ……あ……。」 結弦:「出た!必殺技、手を頭に添えるだけ!さっすがぁ、幼馴染みパワーは違うね!」 美奈:「せやなぁ。麻由子がああなった時に落ち着かせられるの、幸大だけやもんな。でも……。」 0:ふくれる彩菜 彩菜:「ぷー……。」 幸大:「彩菜、そうふくれるなよ。」 麻由子:「ありがとう……幸大。ごめんね、彩菜。もう冷静だから、大丈夫。」 彩菜:「フン、別に?気にしてないし!いいから早く車出してよ!」 結弦:「それがなぁ……全然エンジンかからないんだよね。」 美奈:「プラグかぶっとんちゃうか?」 結弦:「それだけならまだいいんだけど……」 幸大:「もうすぐ真っ暗になる。こんなところで立ち往生するのはマズイぞ。」 麻由子:「心配ない。コテージはすぐ近くにあるから。」 彩菜:「え……どうしてわかるの?」 麻由子:「みんな荷物をまとめて、付いてきて。」 0: 0:(SE)荷物をまとめて、歩く一行。道を外れ、沢を下っている。人一倍の荷物を運ぶ結弦。 結弦:「ゼェゼェ……美奈~、この荷物超絶重いんですけど……。」 美奈:「服、選びきれんくて。面倒やから全部持ってきたんだわ。」 結弦:「もっとコンパクトに出来たでしょ……。」 幸大:「麻由子、本当にこの先にコテージがあるのか?下手したら遭難するぞ。」 麻由子:「間違いない。この沢を下るビジョンを見た。それに、もうこれ以外に手段はない。」 彩菜:「ビジョンって、なんの事?」 麻由子:「詳細は省くけど、私は見ることが出来たとしか言えない。」 彩菜:「麻由子って頭良すぎて、時々ついていけないよ……。」 幸大:「……おい、あれ!」 彩菜:「ホントだ……みんな、コテージに着いたよ!」 美奈:「よかったー。一事はどうなるか思たわ……」 彩菜:「スゴいよ、麻由子!」 麻由子:「……問題はこの後。」 幸大:「問題?」 結弦:「いいから……早く行こう。荷物下ろしたい……。」 0: 0:コテージの入り口に荷物を置く一行。案内図の通りに分電盤を探す彩菜。 彩菜:「確か、この辺りに分電盤が……あった!ブレーカー上げたから明かり着けてみて!」 0:(SE)電気をつける幸大。 幸大:「オッケー、電気きてるー!へぇ、新築みたいに綺麗なんだな。」 彩菜:「そうなの!今年の始めに出来たばかりなんだって!超穴場なんだよ!」 結弦:「うっひょ~テンション上がるー!」 美奈:「こんな良いとこ、よう見付けたな。……ん?なんや、このキュウリとナス。箸が。刺さっとうけど。」 麻由子:「精霊馬(しょうりょううま)……どうしてこんなものが。」 彩菜:「それってお盆に帰ってくるご先祖様をお迎えするものでしょ?自宅ならまだしも、貸切専用のバンガローに供えておくなんて変だよね。もしかして、ガソリンスタンドの人が言ってたのって……いやいや、まさかねぇ。」 麻由子:「彩菜、ここの管理者に連絡出来る?」 彩菜:「緊急連絡用の電話線が引いてあるみたいけど、どうして?」 麻由子:「聞かなければならない事がある。……この土地について。」 0:麻由子、管理者に連絡を試みる。 美奈:「さっきから忙しいなぁ、麻由子は。とりあえず、腹減ったなぁ。夕飯の準備せな。彩菜、手伝ってな。」 彩菜:「う、うん。もちろんだよ!」 0:キッチンに向かう二人。 幸大:「うーん、やっぱ駄目か。」 結弦:「お?どうしたコウちゃん。」 幸大:「電波が入らない。」 結弦:「え!マジかよ!……うわ、ホントだぁ!」 幸大:「こういう時ぐらいは自然を楽しめって事だな。」 結弦:「まあそうだね。しかし嬉しいよね、またこうしてみんなと遊べるなんてさ。」 幸大:「確かにな。」 結弦:「コウちゃんとアヤちゃんは同じ大学通ってるけど、マユちゃんは都内の名門大学行って、俺と美奈は就職してさ。……次はいつ集まれるんだろなぁ。ひょっとしたらこれが最後かも知れないし。」 幸大:「そうだな、これからみんな忙しくなったらわからないもんな。」 結弦:「だから今回はたくさん思い出作っておきたいね。……ところで、アヤちゃんとはうまくいってるのか?」 幸大:「……まあな。」 結弦:「本当は他の良い大学受かってたのに、お前を追っかけて同じところに入ったんだもんな、アヤちゃん!」 幸大:「……嘘だろ?初めて聞いたぞ。」 結弦:「え……そうだったの?」 0:麻由子が戻ってくる。 麻由子:「幸大、結弦。」 幸大:「どうした、麻由子。」 結弦:「そんな神妙な面持ちで、何かあった?」 麻由子:「電話が……繋がらない。」 幸大:「さっき話してた、管理者のとろに?少し留守にしてるだけだろ。」 麻由子:「そうじゃない。こちら側から発信が出来てない。」 幸大:「え?」 結弦:「なんだろうね。ちょっと外でも見てみようか。」 0: 0:(SE)キッチンにて。美奈と彩菜が会話している。 美奈:「彩菜、ジャガイモ剥き終わったら、次は玉ねぎ切っといてな。」 彩菜:「うん、わかった!」 美奈:「……彩菜とおると、高校の時を思い出すわぁ。」 彩菜:「私もだよ、美奈。」 美奈:「転校生だったウチをよう気にかけてくれとったもんな。」 彩菜:「だってみんな酷かったじゃん最初!美奈の関西弁バカにしてからかってさ!許せなかったもん!」 美奈:「そうそう、ウチはあんま気にせんかったけど、突然彩菜が泣きながら男子に怒ってな。それからやね、よう話すんなったんは。」 彩菜:「私、美奈の関西弁が好きなんだよね。なんか落ち着くっていうかさ。」 美奈:「ホンマかいな。……でも、嬉しかったで。ありがとうな。」 彩菜:「なによ、急に改まって。らしくないよ?」 美奈:「ハッハッハッ、せやな。……なんか色々思い出して来たわ、あの頃のみんなのこと。不登校の幸大に、めっちゃ不良やった結弦、ほんでボッチで魔女っ子の麻由子。よう考えたら普通交わらんような連中やのに、彩菜がお節介で世話焼きなお陰でみんな友達になれたんやもんね。」 彩菜:「私は、別になにも……」 美奈:「なにゆうとんねん。結弦ん時やって、退学寸前の所を先生に泣きついて撤回させてたやん。」 彩菜:「あれは結弦くんがちゃんと先生に説明して誤解を解かなかったのがいけないんだよ!」 美奈:「仲間の罪を被って退学しようなんて、かなり突っ張っとったもんな、アイツ。ほんで次は幸大と幼馴染みの麻由子。毎回プリントを幸大ん家に届けてる麻由子を不憫に思ったんか知らんけど、ウチと結弦も呼びつけて毎朝4人で玄関先までよう押し掛けとったな。根負けした幸大とみんなで毎日登下校しとったなぁ。」 彩菜:「小学校の登校班みたいで楽しかったよね!」 美奈:「ホンマやで。そう考えると、いつも彩菜を中心にみんなが集まってんやね。今回だってそうやん。」 彩菜:「いいや、みんながいるから、私がいられるだけ。だから美奈……ぐすん……今回はぁ……来てくれてありがとうね……。」 美奈:「またー、そんな泣かんでええんやで。……あれ?」 彩菜:「ぐすん……どうしたの、美奈。」 美奈:「今、廊下に誰か居たように見えたんやけど……気のせいやな。」 0: 0:(SE)コテージの外。三人は外部からの配線が集まる保安器を探す。 結弦:「いやぁ、避暑地の夜は結構寒いねぇ。」 麻由子:「……幸大、あれ。」 幸大:「ん、あれは……祠か?狐の石像がなんとも不気味だな。」 結弦:「こんな小さい祠、なんの役に立つんだろうね。」 麻由子:「きっとあの祠は『屋敷神』を祀るもの。だとすればこの辺りには元々、人が住んでいたということになる。」 結弦:「ん?なんだ、この小さな木箱。」 麻由子:「結弦、それは祠の……!」 結弦:「紙で封してある。何が入ってるんだろ……。」 麻由子:「開けちゃ駄目!」 結弦:「ちょっと、マユちゃん……わぁっ!」 0:(SE)麻由子が奪おうとした木箱は足元に落ち、石にぶつかった衝撃で中身が散乱する。 幸大:「あーあ、中身が散らばっちまった。結弦、お前罰当たるぞ。」 結弦:「今のは事故だって!」 麻由子:「そんな……こんなのって……。」 結弦:「えっと中身は、爪と……髪の毛?」 麻由子:「呪符で封印されていた箱の中身が、人間の身体の一部……そして何者かが供えた精霊馬と、彩菜が聞いた『くようしろ』と言う助言……」 結弦:「キター、不思議ちゃんタイム。あのゾーンに入ってるマユちゃん、どうも苦手なんだよなぁ……お、あった!これこれ!」 幸大:「保安器か。外部の配線に問題があった感じか。」 麻由子:「幸大。」 幸大:「なんだ?」 麻由子:「私達は、もう引き返せないかも知れない。」 幸大:「どういう意味だ、それ……」 結弦:「おい、見てくれ!」 幸大:「結弦、どうした。」 結弦:「電話用の引き込み線が千切れてる。ネズミがかじったかな。」 麻由子:「……。」 結弦:「困ったなぁ。これじゃ、いざって時に連絡出来ないじゃん。今からでも車を直しておいた方がいいかもね。」 麻由子:「車には戻らない方がいい。」 結弦:「なんでよ。」 麻由子:「イヤな予感がする。最悪の場合……死ぬかもしれない。」 結弦:「ちょっとマユちゃん、悪ふざけも大概に……」 幸大:「結弦……麻由子の言うことに従った方がいいかも知れないぞ。」 0:(SE)茂みの奥から物音がする。 結弦:「な、なんだ?何かいるのか?」 幸大:「静かにしろ。ゆっくり、中に戻るぞ。」 麻由子:「動物……もしくは、人間。」 結弦:「人間って……こんな時間の山奥に、俺達以外いるはずがない……」 0:(SE)バキッと、小枝の折れる音が響く 幸大:「ヤバい、走れ!気付かれた!」 結弦:「マジかよ!」 麻由子:「キャッ!」 0:(SE)転ぶ麻由子。 結弦:「マユちゃん!」 幸大:「結弦!扉を開けといてくれ!」 結弦:「わ、わかった!」 0:麻由子に駆け寄る幸大。 幸大:「麻由子、大丈夫か!」 麻由子:「ごめん……木の枝が、足に刺さって。」 幸大:「わかった、じっとしてろ。抱えあげるからな。」 0:麻由子を持ち上げる幸大。明かりによって、追ってくる正体が熊だとわかる。 結弦:「熊!追ってきてたのは熊だ!2人とも早く中に!」 0:(SE)駆け込む幸大。騒ぎを聞き付け美奈と彩菜がやってくる。 幸大:「はぁ、はぁ、間に合った。」 美奈:「どないしたんや!」 彩菜:「ねぇ、一体なんの騒ぎなの!」 結弦:「熊がいるんだよ!外に!」 0:窓の外を覗く美奈 美奈:「なんやて?……ホンマや!しかも子連れちゃうか、あれ!」 麻由子:「子連れの親熊はとても凶暴……だから絶対に外に出ちゃ……痛っ!」 彩菜:「麻由子、怪我してるじゃない!」 幸大:「ああ、早いとこ手当てしないと。」 彩菜:「手当てって、まずは救急車呼ばないと!」 幸大:「それが、出来ないんだ。」 彩菜:「え……どうして?」 0: 0:(SE)寝室、応急措置を受ける麻由子。 幸大:「これで……とりあえずは大丈夫だ。」 麻由子:「ありがとう、幸大。」 彩菜:「……。」 美奈:「どこにも連絡つかんなんて。車も壊れとうのに……」 結弦:「これじゃ埒が明かないよ。さっきのガソスタまでは車で一時間くらいだったから、歩いて三時間か。」 美奈:「結弦?」 結弦:「俺、行ってくるよ。」 彩菜:「外に出ちゃ駄目だって!熊に襲われるかも知れないんだよ!」 結弦:「大丈夫、なんとかなるっしょ。救急車とロードサービスも呼ばないといけないわけだしさ。」 幸大:「外は真っ暗だ。無事ガソリンスタンドに辿り着くとは思えない。」 結弦:「じゃあどうするんだよ、この状況!」 0:結弦、言葉遣いが荒くなり怒鳴る。 美奈:「……結弦、あんま怒ったらアカンて。」 結弦:「……ああ、ごめん美奈。ホント、俺の悪い癖だよなぁ。」 麻由子:「みんな……聞いて欲しい事がある。」 幸大:「なんだ?」 麻由子:「『また麻由子が変なことを言っている』と思ってくれて構わない。……私はみんなと再会する前夜、呪文を唱えていた。」 結弦:「今する話か、それ。」 美奈:「ええから、聞いてあげようや。」 麻由子:「幼い頃から私は分岐点となりえる出来事が訪れる前には決まって呪文を唱え、占っていた。今までは言葉や感情が巡るだけのものが多かった。しかし時折、現在味を帯びるビジョンが現れる。今回は夢を見ているかのように鮮明なビジョンが断片的に映し出された。」 彩菜:「それって……」 麻由子:「車を降り、道を外れた沢を下ってコテージに向かうビジョン。他にも海の光景、夕陽に重なる陽炎、運転中の衝撃音、壊れる車、寂れた祠……」 幸大:「寂れた祠……。」 結弦:「確かに不思議だよ。マユちゃんが居なかったらコテージに辿り着けなかったかもしれない。……だったらどうして怪我したんだよ。未来を予知してたんなら、避けれたんじゃないの?」 麻由子:「……未来の全てを見通す事は、出来ない。」 結弦:「……ごめん、マユちゃん。俺はそう言うの一切信じないからさ。出鱈目とは言わないけど、ただの偶然だよ。」 彩菜:「本当に……そうなのかな。」 結弦:「え?」 美奈:「……ウチもそう思う。」 結弦:「美奈まで……どうしてよ。」 幸大:「……結弦、卒業の前にスキーに行こうって話してだろ?」 結弦:「ああ、結局行かなかったやつでしょ。」 幸大:「俺達が乗る予定だった夜行バスの事故。あの乗客全員死んだやつ。……実は麻由子がやめようって相談してきたんだ。」 結弦:「え?マユちゃんの意見で中止にしたの?初耳なんだけど。」 彩菜:「だって結弦くん、怒ると思ったから……。」 結弦:「……美奈も、知ってたのか。」 美奈:「結弦、あん頃のアンタはキレると手ぇつけられんかったやん。だから……」 結弦:「『仲間外れ』にしたんだな……。」 美奈:「ちゃうて、そんなんじゃ……」 結弦:「ちゃんと話してくれれば良かったのに……みんな俺をそんなふうに思ってたのか……。」 彩菜:「ごめんね……。」 結弦:「……いや、いいよ。もう過ぎたことだもん。俺も悪いし。んで?マユちゃんがやめようって言った理由は、今回みたいに何か見えたからってこと?ぶっちゃけ、全部偶然としか思えないね。」 麻由子:「そう、偶然なんだと思う。……ただ、今回のように偶然が重なることは滅多にない。今のところ、私達はビジョンの通りに行動している。」 結弦:「じゃあなに?さっき話と繋げるなら、バスの事故で死ぬはずだった俺達は、今日ここで熊に食い殺される運命にでもあるって言いたいわけ?」 幸大:「結弦、もういいだろ。落ち着け。」 麻由子:「……大方、そう言うことになる。どんな形であれ、死ぬ確率は高い。」 0:静まり返る一同。 彩菜:「……麻由子、冗談だよね。」 麻由子:「残念だけど、このままだと……」 美奈:「もっと早く言うとってくれたらよかったのに……。」 結弦:「そうだよ!知ってたなら言えば良かったんだよ!」 美奈:「結弦、ちょっと黙っとき!」 麻由子:「……言えなかった。」 0:泣き出す麻由子 幸大:「……麻由子?」 麻由子:「だって、私の所為でスキーは中止になったし、もう誘われないって思ってたから……彩菜が声かけてくれたのが、嬉しくて……大学で、またひとりぼっちなっちゃって、寂しくて……だからみんなと、どうしても会いたくて……もう変なこと言うのはやめようと決めてたのに……ごめんなさい、ごめんなさい……」 結弦:「……。」 幸大:「大丈夫、いいんだよ麻由子。お前は悪くない。」 0:麻由子の頭に手を置く幸大。うつむき咽びなく麻由子。 麻由子:「(号泣)」 彩菜:「……。」 美奈:「……女の子泣かして、気ぃ済んだか?ど阿呆。」 結弦:「……っ!」 0:(SE)部屋を抜け出す結弦 美奈:「ちょっと、結弦!」 0:(SE)追う美奈 幸大:「おい、二人ともどこ行くつもりだ!彩菜、麻由子を頼んだ!」 彩菜:「……。」 0: 0:(SE)結弦を追う美奈。キッチンを漁ってる結弦。 美奈:「結弦!キッチンでなにしとんや!」 結弦:「決まってるじゃん……」 美奈:「……そんな、包丁なんてもって、どないするつもりなん?」 幸大:「結弦、なにやってるんだ!美奈、離れろ!」 結弦:「行くんだよ……ガソスタに!」 美奈:「……え?」 結弦:「包丁がありゃ、熊ぐらい倒せるでしょ!大丈夫だから心配しないで!」 幸大:「まだ言ってるのか……。いくら喧嘩が強いからって、熊は流石に無理だろ。」 結弦:「やってみなきゃわかんねぇじゃん!やっぱ思ったんだ、俺。この強さは人の為に使わないとなって。マユちゃんの為にも。だからなんとかしてガソスタに行って、助けを呼んでくるから……」 0:(SE)突然、銃声が響く 美奈:「キャアッ!なんや、今の?」 幸大:「銃声だ。こんな時間にどうして。それも、かなり近い。」 結弦:「近くに人が居るってことだよな?」 幸大:「やめとけ。急に外に出たら、獲物と間違えられて撃たれるぞ。」 結弦:「でも、助けを呼ばないと……。」 0:彩菜が駆けつける。 彩菜:「ねぇ、大丈夫!」 幸大:「ああ。外からの音だ。麻由子はどうだ?落ち着いたか。」 彩菜:「……うん。」 幸大:「そうか。ありがとな、彩菜。」 彩菜:「……。」 結弦:「……やっぱり今しかないよ!」 0:(SE)結弦、扉を開けて助けを求める。 結弦:「すみませーん!助けてくださーい!」 美奈:「あ、バカ!」 結弦:「どこにも連絡が取れませーん!怪我人がいまーす!助け……」 0:(SE)再び銃声が響く。猟師に気付く。 結弦:「え……なんで、あのオッサンが。」 幸大:「いいから閉めろ!」 0:(SE)幸大に無理やり閉められる。 美奈:「アンタ、なにやっとんねん!」 結弦:「俺、撃たれてないよね?痛くないもんね?」 幸大:「ああ、見たところ平気だ。たぶん、熊が近くに居たのを教えてくれたんだろ。」 結弦:「あ、そうだよコウちゃん!さっきの猟師、ガソスタのオッサンだったんだよ!」 幸大:「なんだって?」 0:(SE)再び銃声。何が倒れる音がする。 彩菜:「キャッ!まただわ!」 幸大:「なんか、崩れる音が聴こえなかったか?」 美奈:「あ、窓の外を見て!」 結弦:「熊が……倒れてる!」 幸大:「死んでるのか?」 0:(SE)遠くから悲鳴が聞こえる。 結弦:「今度はなんだ!」 美奈:「断末魔みたいな声やったな……。」 幸大:「……結弦、行くぞ。」 結弦:「ああ、わかってるよ。」 幸大:「俺達二人は猟師と合流して、助けを呼んでもらう。美奈と彩菜は麻由子と一緒にいてくれ。」 美奈:「任しとき。彩菜、いこ。」 彩菜:「うん。二人とも、気を付けてね。」 0: 0:(SE)外に出る二人。辺りを散策する。 結弦:「すみませーん!ガソスタのおじさーん!さっき会いましたよーね!俺達ですー!」 幸大:「まさか、もう帰ったのか?」 結弦:「いや、そんなことないよ。だってほら、あそこに軽トラがある!」 幸大:「あれに乗って来たのか。……おい、あっちを見てみろ。」 結弦:「え……あ!さっきの子熊だ!でも、なんか口元が真っ赤だぞ?」 幸大:「様子がおかしい。」 0:(SE)逃げる子熊。 結弦:「お、逃げてった。」 幸大:「行くぞ、結弦。」 結弦:「あ、うん。」 0:ガソスタの係員の死体が食い散らかされている。 幸大:「……これは、酷い有り様だ。」 結弦:「あの子熊に付いてた赤いのって……」 幸大:「血だ。」 結弦:「ガソスタのオッサン……なんでこんなところで……まさか、あの子熊が!」 幸大:「いや、違う。死体を食ってただけだろう。」 結弦:「え、じゃあなんで……。」 幸大:「首元に傷がある。致命傷だ。誰かに殺されている。」 結弦:「嘘だろ?!誰がどうやって、何のために殺すんだよ!」 幸大:「そんなのわかるわけないだろ。とりあえず……」 結弦:「猟銃と弾薬……そんなもの、何に使うの?」 幸大:「身を守る為だ。……軽トラの鍵、刺しっぱなしじゃないか?」 結弦:「見てみる!……うん、刺しっぱ!かけてみるね!」 0:(SE)エンジンはかからない。 結弦:「くっそー、かからない!なんでだよ!」 幸大:「……。」 結弦:「コウちゃん?」 幸大:「麻由子に聞こう。他もまだ聞けてないことが……」 0:二人を追ってくる美奈と彩菜。 美奈:「幸大ー!結弦ー!」 結弦:「美奈!こっちに来ちゃダメだ!そこで止まって!」 彩菜:「大変なの!麻由子が!」 幸大:「なにっ!」 0: 0:寝室に集まる一同。麻由子の姿はない。 美奈:「二人が行ったあと、直ぐに部屋へ向かってんけど……見ての通り、いなかったんや。」 彩菜:「美奈と手分けした探したんたんだけど、見付からなくて……。」 結弦:「あんな怪我してるんだから、このコテージから出るのだって大変なはずなのに。」 幸大:「……クソッ!麻由子、どこに行ったんだ!」 彩菜:「……。」 0: 0:(SE)リビングに集まる一同。日付を跨ぐ十分前。時間だけだ過ぎてゆく。 結弦:「……そろそろ日付が変わるね。」 幸大:「こんなに探しても見付からないなんて。麻由子……。」 彩菜:「……『神隠し』かもしれない。」 美奈:「なんやて?」 彩菜:「さっき麻由子が言ってたの。」 幸大:「そうだ、彩菜。さっき俺達が一階に降りた時、麻由子と二人で何を話したか教えてくれないか。」 彩菜:「え?」 幸大:「憶えていることならなんでもいい、教えてくれ!」 0: 0:回想シーン。寝室を結弦が飛び出した後のシーン。彩菜と麻由子が話している。 麻由子:「ぐすん……彩菜、ありがとう。」 彩菜:「……。」 麻由子:「いつもは私が貴女を慰めてるのに。おかしいね。」 彩菜:「……麻由子。」 麻由子:「なに?」 彩菜:「麻由子はいま、幸大の事を……どう思ってるの。」 麻由子:「……今も昔も変わらず、ただの幼馴染み。」 彩菜:「……幸大はたぶん、麻由子が好き。」 麻由子:「本人が言ってたの?」 彩菜:「いいや、私が感じただけ。」 麻由子:「……幸大は、幼い頃から不器用なんだ。感情を表に出すのが苦手で。それが、何だか私と似ている様な気がして、ずっと親近感があった。」 彩菜:「正直、私なんかより麻由子の方がお似合いのカップルだと思ったんだよね。」 麻由子:「……彩菜。」 彩菜:「……何。」 麻由子:「もっと自分の気持ちに正直になりな。」 彩菜:「……。」 麻由子:「私は二人のこと応援してるから。ずっと。」 彩菜:「……。」 麻由子:「ねぇ、彩菜……私が居なくなった時の代わりに、みんなに伝えて欲しい事がある。これはとても重要な情報。本来、これから話す内容を他言すること自体が自然の摂理に背く行為であるから……とても危険。何が起こるかわからないけど、きっとみんななら、私達なら、この運命を乗り越えられるはず。」 麻由子:「それに幸大は、特別な守護霊に護られているから……きっとみんなを助けてくれる。」 0: 0:現在に戻る。 幸大:「特別な守護霊……。」 彩菜:「幸大の光にみんなは導かれて、やがて必ず救われるって……。」 彩菜:「麻由子から聞いた話……ここに居るみんなはもう、『何かしら』に取り憑かれている可能性が高いって。ここに向かう途中に轢いてしまった動物の霊。『精霊馬』によって浄土から招かれたこの土地に根付く御先祖様達。祠に祀られる屋敷神。山に棲む高位の霊。……そして問題は、お盆最終日である明日が十五日だって事。」 美奈:「なんや、悪い条件が揃ったっちゅう風に聞こえるんやけど。」 彩菜:「そうなの。明日には、みんな『あっちの世界』に連れて行かれるかもしれないって。……そして麻由子は続けて言ったの。『私が居なくなったら、それは神隠しだ』って。」 結弦:「そ、そんな……そんなの有り得ないよ!」 彩菜:「私だって信じられないよ!……でも実際に麻由子は居なくなった。この中で麻由子が一番霊感があるから、最初に狙われるだろうって。みんなで夕陽を見た時から、なんとなく気が付いてたって。」 結弦:「全部偶然だよ!霊感とか言ってるけど、そんなもの存在しない!それで人が死ぬなんて、なおさら……」 幸大:「オッサンの死体を目の当たりにしてるのに、まだそんなこと言えるのか。」 結弦:「だって、あれは誰かに殺されたんでしょ!」 美奈:「殺された?」 幸大:「ああ、間違いない……。頸動脈を深く切付けられていた。自然のものとは思えない傷だった。」 彩菜:「……これは、きっと『狐の祟り』なんだって。」 美奈:「狐……確か、ガソスタのカウンターに飾られた写真の中に、お稲荷さんの祠があったで。」 結弦:「なんだよそれ……あのオッサンはここと関係があったって事かよ。」 彩菜:「麻由子の想像だと、この土地には何か問題があったんじゃないかって。『禁足地』なのかも知れないって……。」 幸大:「そんなとこにコテージを作ったのかよ……。」 美奈:「だから麻由子は管理者に連絡しとったんか。」 彩菜:「神様や御先祖様は元々怒っていて、私達が来た事でもっと怒らせちゃったんだ……。今からでも遅くないかも。」 幸大:「どうするつもりだ?」 彩菜:「供養するの。そうすれば、麻由子を返してくれるかも。」 結弦:「今さらそんなことをしても時間の無駄だよ!」 彩菜:「なに言ってるの!?結弦が祠の木箱を開けなければ、こんなことになってなかったかも知れないんだよ!」 結弦:「あんなただの木箱で人が死ぬわけないだろ!そもそもどうやって俺達を殺すって言うんだ!呪い殺すってか?馬鹿馬鹿しい!幽霊だのお化けだの居るわけないんだよ!」 美奈:「見たで、ウチ。」 結弦:「え?」 美奈:「彩菜と夕食の支度しとる時に。気のせいや思っとったけど……」 0:(SE)時計の秒針が零時を周り、鐘が鳴る。 幸大:「鐘の音……日付が変わった。」 彩菜:「十五日……!」 結弦:「なんだよ……特に何も起きないじゃ……」 0:(SE)床下から何かが床を突き上げるように叩く。 彩菜:「キャッ!」 幸大:「なんだ、この音!」 結弦:「床下に何か居るぞ!」 彩菜:「……これが、霊障!?」 0:しばらくして、叩く音が止む。 幸大:「……音がやんだ。」 結弦:「美奈、大丈夫だからな!俺がついてる!」 美奈:「……。」 結弦:「……美奈?」 0:美奈の様子が変わる。 美奈:「……ロス。」 結弦:「どうしたんだ、美奈。恐くてしゃべれない……」 美奈:「殺スッ!」 結弦:「な、おい!やめろ……クハッ!」 0:(SE)結弦の首を締める美奈。 幸大:「美奈、何やってんだ!」 彩菜:「まさか、憑依して……!」 結弦:「カハッ……!」 美奈:「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス……!」 0:結弦の首を締める美奈を引き剥がそうとする幸大。 幸大:「やめろ、美奈!クソ、なんて力だ!」 彩菜:「これが……祟りなの……!?」 幸大:「放せ……!」 美奈:「邪魔スルナッ!」 0:(SE)結弦を締める手を放し、幸大を払い飛ばす美奈。 幸大:「グワッ!」 彩菜:「コウちゃん!」 結弦:「ゲホッゲホッ……美奈、お前……。」 美奈:「憎イ……憎イ憎イ憎イ憎イ!」 結弦:「取り憑かれてるんだな……本当に。」 幸大:「くぅ……。結弦、逃げろ……!」 結弦:「逃げるって……美奈を見捨てて?そんなこと出来ないよ。」 美奈:「殺スッ!」 0:再び結弦に襲いかかる美奈。 結弦:「クッ……!」 幸大:「結弦!」 結弦:「美奈に……殺されるなら……本望だ……。」 美奈:「殺ス……!」 結弦:「美奈……。」 美奈:「……。」 結弦:「愛……してる……。」 美奈:「……ウチも。」 0:首を締める手が緩む。 美奈:「ウチも……愛しとうで、結弦。」 幸大:「憑依が……解けた。」 結弦:「……戻ったな……美奈。」 美奈:「ウチ、どうしてこんな事を……」 麻由子:「下級の怨霊は使い物にならんのう。」 0:(SE)美奈の背中に刃物を突き刺さす麻由子。取り憑かれている。 美奈:「グハッ……!」 結弦:「……美奈?」 麻由子:「人間の心緒に劣るなぞ、怨霊の風上にも置けんのう。」 美奈:「ゆ……ずる……。」 結弦:「美奈ぁあああ!」 幸大:「麻由子……お前、何やってんだ。」 麻由子:「お主じゃな、我を解放したんは。」 結弦:「マユ……ちゃん。」 麻由子:「ほほぅ……お主ら、過去に死を免れておるのう。彼岸の者共が歓迎しとるぞ?」 結弦:「なに言って……グハッ!」 0:(SE)麻由子に刺される結弦。 麻由子:「不敬極まりないのう、お主。お盆の殺生は御法度じゃぞ?それも女狐を殺めたとな。」 結弦:「はぁ…はぁ……。」 幸大:「麻由子!目を醒ませ!」 麻由子:「嗚呼、あの忌々しい一族の老いぼれも熊を狩っとったのう……。まあよい、もれなく彼奴も葬ったところじゃ、僥倖僥倖。」 幸大:「その返り血……お前が殺したのか……!」 結弦:「美奈……。」 美奈:「結弦……。」 麻由子:「しぶといのう……。安心せい、番い(つがい)で黄泉へ航るがよい。」 結弦:「俺達……ずっと……」 美奈:「うん……一緒やで……」 幸大:「やめろおおおお!」 0:(SE)二人に止めを刺す麻由子。 麻由子:「……フフフ、捗るのう。妖(あやかし)を心得とる小娘の身は使い易い。」 幸大:「クッ……なんなんだ、お前!麻由子を返せ!」 彩菜:「……また麻由子。」 0:彩菜の様子が変わる。取り憑かれている。 幸大:「……彩菜?」 彩菜:「また麻由子って言った。麻由子ばっかり。どうして麻由子なの。ねぇコウちゃん、私と麻由子……どっちが好きなの?」 幸大:「まさか、お前まで憑依して……」 彩菜:「答えてよぉ!」 0:(SE)銃を向ける彩菜 幸大:「お前、いつの間に銃を……!」 麻由子:「フフフ、ようやく憑かれたようじゃな。」 幸大:「落ち着け彩菜!お前は取り憑かれておかしくなってるだけだ!」 0:泣き出す彩菜 彩菜:「……もうわかんないよ、どうしたらいいのか。コウちゃんが麻由子の名前を呼ぶたびに、胸が苦しくて……何も考えられないくらいに嫉妬しちゃって……私、おかしくなっちゃうよ……。」 幸大:「彩菜、俺の声を聞け!」 彩菜:「ねぇ……好きって言って?」 幸大:「おい、やめろって……」 彩菜:「好きって言ってよぉぉお!」 0:(SE)彩菜に撃たれる幸大。彩菜、正気に戻る。 幸大:「グハッ……!」 麻由子:「愚かじゃのう……人間は。」 彩菜:「あ、ああ……私、どうしてこんなこと……」 麻由子:「タガが外れたのじゃ。己の醜いの情動がのう。」 幸大:「グゥ……彩菜……」 彩菜:「麻由子……私……。」 麻由子:「用済みじゃな。」 彩菜:「……え?」 0:(SE)麻由子に頸動脈を切られる彩菜。 幸大:「あ……彩菜ああああ!」 彩菜:「コウ……ちゃん……。」 麻由子:「けったいじゃのう。睦まじい者共が血で血を洗う様は……フフフ、傑作じゃのう!」 彩菜:「ごめん……ね……コウ…ちゃん……。」 0:力尽き倒れる彩菜。 幸大:「どうして……みんなこんな目に……ゲホッゲホッ。」 麻由子:「宴も酣(えんもたけなわ)じゃなぁ。」 幸大:「クソ……絶対に、許さねぇ……」 幸大:「神だろうが……悪霊だろうが……ぶっ殺してやる……」 麻由子:「ほほぉ、この期に及んで大した人間じゃのう。威勢の良さも好みじゃ。よかろう、小娘を返してやる。ただし……フンッ!。」 0:(SE)胸に包丁を突き刺される幸大。 幸大:「グハァッ!」 麻由子:「お主は今際の際(いまわのきわ)じゃがなぁ!神々を尊ばぬ不敬者共め!あの世で悔いるがよい!ハッハッハッハッ!」 幸大:「はぁ、はぁ……はぁ……」 0:正気に戻り、突然泣き出す麻由子。 麻由子:「あ……ああ……私が……!」 幸大:「麻由……子……なのか……。」 麻由子:「幸大……ごめんなさい、ごめんなさい!」 幸大:「もう……謝……るな……。」 麻由子:「こんなはすじゃ、なかったのに……」 幸大:「はぁ……はぁ……。」 麻由子:「……でも、幸大なら。私よりも、きっと。」 麻由子:「みんなを幸せに導いてくれるはず……っ!」 0:(SE)幸大にトドメをさす麻由子 幸大:「グハッ!………。」 麻由子:「みんなを……救ってね、幸大。」 幸大:「麻由……子……。」 麻由子:「最後だから言わせて……私、昔から……幸大のことが大好きだった。ずっと言えなくてごめん。次に逢う私は今の私と違うけど……これからもずっと……大好きだよ。」 0: 0:幸大、死にゆく意識の中。 幸大:(M)視界が遠退く。何も聞こえない。麻由子は何かを言い残してくれている。だか、声の振動が伝わるだけで、理解できなかった。そして全ての感覚が消えて、無が訪れる。 幸大:しばらくして、一筋の光が射し込む。その光は何かを伝えようとしている。ずっと昔の、とても懐かしい声で。 0:幼少の記憶。幼い麻由子が幸大に話し掛けている。 麻由子:『幸大には、特別な守護霊様が憑いていてね、すごい力で護られているんだよ。』 麻由子:『だって、ワタシと約束したんだもん。【死が二人を別つまで】ってね!』 幸大:(M)ああ、そんなことあったかなー、と過去の記憶に思いを馳せていると、光が次第に近付いてきて、そして…… 0:(SE) 0:八月十四日、旅行初日。日中、海水浴を満喫した一行。夕方頃に予約した山奥コテージに向かう。運転席に結弦、助手席に美奈、後部座に幸大を挟んで彩菜、麻由子が座ってる。 美奈:「いやぁ~最高やったね、海!」 彩菜:「うん!ちょ~楽しかった!」 幸大:「……ん……ん?」 結弦:「コウちゃーん!バナナボートで絶叫し疲れて夢見心地だねー!」 幸大:「あ……ああ、バナナボートな。」 彩菜:「ごめんね、コウちゃん。どうしてもみんなで乗りたくって……。」 幸大:「彩菜……」 彩菜:「な、なにコウちゃん。そんなに見つめられると、恥ずかしいんだけど……。」 美奈:「なんや~、このタイミングで告白タイムかいな~!ヒューヒュー!」 結弦:「ちょっと!運転してて後ろ見れないんだけど!せめてコテージ着いてからやってよね!」 彩菜:「コウちゃん……。」 幸大:「……あ、いや!な、なんでもない。寝ぼけてたと言うか、凄く悪い夢を見ていたようで……。」 麻由子:「悪い夢……?!」 彩菜:「麻由子、どうかしたの?」 麻由子:「え?……いや、なんでもない。」 0:(SE)動物が道に飛び出し、轢いてしまう。 彩菜:「キャッ!」 0:急いで振り返る幸大。 幸大:「こ、これは……!」 結弦:「あちゃ~、轢いちゃったよ……。」 美奈:「しゃあないて、避けきれんかったもん。」 彩菜:「ああ……かわいそうに……。」 幸大:「あれは、祠で見た……狐。」 麻由子:「……幸大?」 幸大:「麻由子、ひょっとして……」 麻由子:「……うん。」 0: 0: 幸大:(M)麻由子の瞳を見つめる。不器用で言葉数の少ない彼女の瞳はやけに物言いたげで、しかし躊躇いがあって。そんな彼女に、どこか親近感を覚えていた自分がいた。 幸大:きっと俺と麻由子だけが気付いている。あの轢かれた狐から立ち上る陽炎が、いつになく揺らめいていた事に。

0:(SE)ある夏の日の夜。麻由子は熱心に呪文を唱えていた。 麻由子:「エコエコアザラク、エコエコザメラク、エコエコケルヌンノス、エコエコアラーディア(数回繰り返し)……はっ、見えた……。ビジョンが……見えた……!」 0: 0:(SE)翌日。とあるファミレスにて。幸大は同じ大学に通う彩菜に呼び出されていた。 彩菜:「……はい、コーヒー。」 幸大:「うん、ありがとう。久々に来たなぁ、このファミレス。高校ん時はよくたむろしてたよな。」 彩菜:「そうだね。ドリンクバーだけでずっと粘ってたよね。懐かしいなぁ。」 幸大:「ああ、思い出すなぁ。……それで、話ってなんだ?」 彩菜:「そうそう!コウちゃんさ、お盆休みってなんか用事あるの?」 幸大:「あー……多分バイトかな。稼ぎ時っぽいし。」 彩菜:「そっかー、今年の夏こそはみんなで旅行したいって思ってたのになぁ。」 幸大:「みんな?みんなって、誰のことだ?」 彩菜:「ほら、それはさ……」 結弦:「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!」 0:こっそり到着してた結弦が幸大を驚かせる 幸大:「うおっ!びっくりしたぁ!……お前、結弦か?」 結弦:「久しぶりぃ!元気してた?」 幸大:「彩菜、これは一体……」 彩菜:「コウちゃんを驚かせようと思ってね。こっそり来てもらったんだ。」 幸大:「なんだよ、言ってくれよ。心臓に悪いなぁ……と言うか、かなり雰囲気変わったな、お前。なんかこう、落ち着いたったっていうか……ポロシャツ着るような奴だっけ。」 結弦:「だって彼女がこう言うファッション好きなんだもん!ねぇ、美奈!」 幸大:「美奈?」 美奈:「ハハハッ、そのアホ面!幸大は高校ん時からなんも変わらんなぁ!おもろー!」 幸大:「おいおい、久しぶりだってのに最初にそれ言うのかよ。……え。ってことは、お前ら付き合ってんのか。」 美奈:「せやで。実は卒業式の後、結弦が校舎裏に呼び出しよってなぁ……」 幸大:「え、マジで?そんな前から?」 結弦:「ストップストップ!その話はトップシークレット!」 彩菜:「フフっ、二人とも来てくれてありがとうね。」 結弦:「そりゃ来るっきゃないっしょ!久しぶりの再会なんだからさ!高校卒業して以来だもんな!」 美奈:「ホンマやねぇ。ウチら今日会えんの、めっちゃ楽しみにしとったんよ。」 幸大:「そうか、卒業してからもう二年経つのか。早いもんだな。」 彩菜:「あ、麻由子!こっちこっち!」 0:麻由子が遅れてやってくる。 麻由子:「お待たせ。少し遅れてしまった。」 幸大:「おお、麻由子も呼んでたのか。」 結弦:「マユちゃーん!相変わらずバストおっきいねぇ、ナイスだねぇ!何カップになったの?」 0:(SE)美奈にシバかれる結弦。 結弦:「痛ぁっ!」 美奈:「なにをセクハラしとるんや、ボケ!それかなんや、ウチのがちっぱいからって当て付けしとんのか!」 結弦:「ごめんごめん!そんなつもりないって!」 美奈:「ったく、すまんね麻由子。気ぃ悪くせんでな。」 麻由子:「大丈夫、慣れてるから。むしろ、みんな変わってなくて安心した。」 幸大:「お前、忙しいんじゃないか?超名門大学に通ってるんだし。」 麻由子:「大丈夫、心配ない。仮に忙しくても、みんなと再会出来るなら、いつでも来るつもりだったから。」 彩菜:「来てくれてありがとう、麻由子。よし、これでみんな揃った訳なんだけど……ぐすん……。」 0:感極まり涙ぐむ彩菜。 幸大:「ん、どうした彩菜。……泣いてんのか?」 彩菜:「ごめん……なんかさ、こうやってみんなが集まってくれるのが嬉しくて……つい……。」 結弦:「アヤちゃん、そんな泣くほどのことじゃないって……」 美奈:「せやで。ウチらはずっと友達なんやから。心配せんでええねんで。」 彩菜:「みんな……ありがとう……!」 麻由子:「ほら、おいで。」 彩菜:「ぐすん……麻由子ー!」 0:麻由子の腕の中で泣く彩菜 麻由子:「よーしよーし。」 彩菜:「えーん、えーん!」 美奈:「毎度お馴染み、泣き虫彩菜を麻由子が慰めるくだり……ホンマ昔と変わらんなぁ。」 結弦:「マユちゃん、俺も泣いたら抱きしめてくれのかな?」 美奈:「なに言っとんねん!性懲りもなしに、このアホンダラ!フンっ!」 0:(SE)シバかれる結弦 結弦:「痛ぁっ!」 0:泣き止む彩菜。 麻由子:「……落ち着いた?」 彩菜:「ぐすん……うん、ありがとう。落ち着いた。」 幸大:「ところで彩菜、さっきの旅行の話なんだけど。」 麻由子:「っ!?」 結弦:「旅行?なにそれ初耳!」 彩菜:「実は、その話がしたくてみんなに集まってもらったんだよね。」 美奈:「ええやん素敵やん!旅行先は決まっとう?」 彩菜:「それをこれからみんなで話し合うと思ってたの!一応お盆で考えてたんだけど、幸大が予定合わなそうだから……」 幸大:「行くよ。」 彩菜:「え?」 幸大:「みんなで行こう。お盆休み、絶対にとるからさ。」 彩菜:「幸大……ありがとう!」 美奈:「よっしゃ!ほな、これから候補地を決めな!やっぱ夏やから海が近いのがええなぁ。」 結弦:「美奈、天才かよ!」 美奈:「ホ、ホンマ?なんや、照れてまうわ……。」 結弦:「だってみんなの水着姿が見れるじゃないか!」 美奈:「結弦~……顔パンパンにしたろか?おお?」 結弦:「じょ、冗談だって!マジになんないでよ!」 麻由子:「お盆……。」 幸大:「麻由子、どうした?」 麻由子:「ううん、気にしないで。……きっと思い過ごし。」 幸大:「?」 0: 0:(SE)八月十四日、旅行初日。日中、海水浴を満喫した一行。夕方頃に予約した山奥コテージに向かう。運転席に結弦、助手席に美奈、後部座に幸大を挟んで彩菜、麻由子が座ってる。 美奈:「いやぁ~最高やったね、海!」 彩菜:「うん!ちょ~楽しかった!」 幸大:「まさか、ノリでバナナボートに乗るなんてな……。」 結弦:「コウちゃん、ああゆうのからっきし駄目だもんね!」 幸大:「彩菜がどうしてもって言うから仕方なくだよ。大人しく見学してりゃよかった……。」 彩菜:「ごめんね、コウちゃん。どうしてもみんなで乗りたくって……。」 幸大:「いや、いいんだよ。思い出にはなったからさ。」 麻由子:「……。」 彩菜:「麻由子、どうかしたの?」 麻由子:「え?……ああ、バナナボート。うん、楽しかった……っ!?」 0:(SE)道に飛び出して来た動物を轢いてしまう。 彩菜:「キャッ!」 幸大:「なんだ、今の揺れ!?」 結弦:「あちゃ~、轢いちゃったよ……。」 美奈:「まぁ~、しゃあないて。避けきれんかったもん。」 0:振り返る幸大。 幸大:「……あれは。」 彩菜:「なんの動物かな?かわいそうに……。」 麻由子:「……ハクビシン、タヌキ、ネコ。たぶんそのどれかだと思う。」 幸大:「……そうかな?」 結弦:「バンパーへこんでたら親父に殺されちまうよ!……って、いっけねぇ!そろそろガソリン入れないと!」 美奈:「大丈夫なんか?市街地を抜けてからしばらく経っとうで。」 結弦:「んー、もうそろそろ峠入るからなぁ。日が暮れる前には到着したいんだけど……途中ガソスタあるのかなぁ。」 幸大:「彩菜、予約したコテージまでどのくらいかかるんだ?」 彩菜:「ちょっと待ってね。この調子なら一時間もかからないはずなんだけど……」 美奈:「ちょっと結弦!あれガソスタちゃうか?」 結弦:「お、ホントだ!よかったぁ~!ちゃちゃっと給油しちゃおう!」 0:(SE)寂れた有人のガソリンスタンドに停車する。 美奈:「じゃあウチ、声かけてくるわ。」 結弦:「ありがとう美奈、よろしくー。」 幸大:「……営業してんのか?このガソスタ。とりあえず飲みもんでも買ってくるか。」 0:美奈が受付の店内を向かい、幸大は自販機へ向かう。その間、結弦は車を降りて身体を伸ばし、車内から窓を開けて外を覗く彩菜。 彩菜:「ねぇ、見て麻由子!夕陽が綺麗だよ!」 麻由子「あの揺らめき……」 彩菜:「そう思わない?麻由子。」 麻由子:「あ、うん……。」 結弦:「んー、運転疲れたー!」 幸大:「ご苦労さん。ほら、コーヒー。」 結弦:「お、サンキュー!……ん?あれ、なんかモヤがかかってるのか、道路の向こうが歪んで見えるぞ。」 麻由子:「局地的に密度の異なる大気が混ざり合う事で光が屈折し、生まれる揺らぎ。」 結弦:「……え?」 幸大:「麻由子……あんまりわかりづらい言い方するなよ。」 麻由子:「そんなつもりじゃないけど。……あの現象を『陽炎』と言う。」 結弦:「あー、あれが陽炎ね!名前は知ってる!」 彩菜:「陽炎が煽るように太陽と重なって、水平線に溶けてるみたい。スゴい幻想的な光景ね……。」 麻由子:「……。」 0: 0:(SE)入店する美奈。辺りを見渡すが、係員は居ない。 美奈:「こんにちはー。係員さーん、給油したいんやけど……なんや、誰もおらんのか?あー、暑ぅ~。空調壊れとんのか?」 0:カウンターに飾られたコルクボードにびっしり写真が貼られている。 美奈:「お、コルクボードやん。めちゃくちゃ家族写真貼っとうなぁ。……ん?なんやろ、この写真。ボロっちい家に……お稲荷さんの、祠?」 0:(SE)奥の部屋の扉が勢いよく開き、噛み煙草を噛みながら係員が現れる。 美奈:「イヤッ!びっくりしたわぁ~!そんな勢いよく扉開けんでも……。」 0:(SE)噛み煙草の咀嚼音をこれでもかと鳴らしながら、上から下に舐め回すように見る係員。 美奈:「……給油、お願いしてもええですか?」 0:(SE)僅かに頷き給油に向かう係員。 美奈:「あ、ありがとうございます。……なんやねん、あのオッサン。頷くだけで一言も喋らんと、噛み煙草クチャクチャしながら、イヤらしい目付きでジロジロ見よって。気ぃ悪いでぇ。」 0: 0:(SE)店内から係員が車へ向かってくる。 結弦:「お、やっと係員さん来たー!レギュラー満タンでお願いしまーす!」 彩菜:「あ、そうだ!」 幸大:「彩菜、どうしたんだ。」 彩菜:「ちょっと係員さんに質問してくる!」 0:(SE)給油中の係員に話し掛ける。 彩菜:「あのー、すみません!この先に大きなコテージがあると思うんですけど、この地図の経路であってますよね?」 0:(SE)目は合うが、噛み煙草の唾を吐き出すだけで喋らない係員。相手の聴力を疑い始める彩菜 彩菜:「……あの、聞こえてますか?」 0:(SE)突然彩菜に耳打ちするやいなや、お尻を触る係員。 彩菜:「え?……キャッ、何するんですか!」 0:(SE)同時に給油を終え、無言のまま店内に帰る係員。 幸大:「おいどうした、大丈夫か!」 彩菜:「あの人にお尻触られたの!」 幸大:「なんだと!ふざけやがって!」 彩菜:「いいの、少し驚いただけ!」 幸大:「だってよぉ……」 彩菜:「給油はして貰ったんだから!もう行こう!」 0:支払いを済ませた美奈が戻ってくる。 美奈:「お待たせー!ほな行こかー!」 結弦:「おっしゃ!ラストスパートかますよー!」 0:ガソスタを出て数十分が経過。浮かない顔をしている彩菜。 彩菜:「……。」 幸大:「彩菜、具合でも悪いのか?」 彩菜:「いや、そうじゃないの。……その、さっきお尻触れる前にね……なんか、耳打ちされたの。」 0:それを聞いた麻由子が前のめりに聞き返す 麻由子:「彩菜、なんて言われた!」 彩菜:「うえっ!?麻由子、急にどうしたの!」 麻由子:「いいから!教えて!」 彩菜:「『くようしろ』って。」 麻由子:「……!」 結弦:「どうしたのー?なんか騒がしいね。」 麻由子:「今すぐ引き返そう!」 美奈:「どないしたん、麻由子。」 結弦:「そうだよ、急に引き返すなんて……」 0:(SE)フロントガラスに何かが当たる衝撃音。 結弦:「ぐわっ!な、なんだ今の音!」 美奈:「飛び石か虫やろうな。驚き過ぎやて。」 麻由子:「どうしよう、このままじゃ……!」 彩菜:「麻由子、どうした?落ち着いて。」 幸大:「昔からの悪い癖だぞ、麻由子。まだ魔女ごっこ治ってないんだな。」 麻由子:「違う!今回ばかりは……っ!?」 幸大:「うおっ!」 彩菜:「キャッ!」 0:(SE)突然エンストする車。停車する。 結弦:「みんなごめん!クラッチ入れ間違えたのか、エンストしちゃって。」 美奈:「結弦~、しっかりせえってホンマ。」 結弦:「……あれ?」 美奈:「なにしとう、はよエンジンかけな。」 0:(SE)何故かエンジンはかからず。 結弦:「……なんで?セルモーターは回ってるのに、全然かからないよ。」 美奈:「ほな、バッテリーちゃうな。あそこのガソリン腐っとったんちゃうか?」 結弦:「まさか~。」 麻由子:「同じ……同じ事が起きてる……!」 幸大:「麻由子……。」 0:パニックに陥る麻由子の頭に手を乗せる幸大。撫でるわけでもなく、ただ乗せるだけ。 麻由子:「っ!?あ、あ……あ……。」 結弦:「出た!必殺技、手を頭に添えるだけ!さっすがぁ、幼馴染みパワーは違うね!」 美奈:「せやなぁ。麻由子がああなった時に落ち着かせられるの、幸大だけやもんな。でも……。」 0:ふくれる彩菜 彩菜:「ぷー……。」 幸大:「彩菜、そうふくれるなよ。」 麻由子:「ありがとう……幸大。ごめんね、彩菜。もう冷静だから、大丈夫。」 彩菜:「フン、別に?気にしてないし!いいから早く車出してよ!」 結弦:「それがなぁ……全然エンジンかからないんだよね。」 美奈:「プラグかぶっとんちゃうか?」 結弦:「それだけならまだいいんだけど……」 幸大:「もうすぐ真っ暗になる。こんなところで立ち往生するのはマズイぞ。」 麻由子:「心配ない。コテージはすぐ近くにあるから。」 彩菜:「え……どうしてわかるの?」 麻由子:「みんな荷物をまとめて、付いてきて。」 0: 0:(SE)荷物をまとめて、歩く一行。道を外れ、沢を下っている。人一倍の荷物を運ぶ結弦。 結弦:「ゼェゼェ……美奈~、この荷物超絶重いんですけど……。」 美奈:「服、選びきれんくて。面倒やから全部持ってきたんだわ。」 結弦:「もっとコンパクトに出来たでしょ……。」 幸大:「麻由子、本当にこの先にコテージがあるのか?下手したら遭難するぞ。」 麻由子:「間違いない。この沢を下るビジョンを見た。それに、もうこれ以外に手段はない。」 彩菜:「ビジョンって、なんの事?」 麻由子:「詳細は省くけど、私は見ることが出来たとしか言えない。」 彩菜:「麻由子って頭良すぎて、時々ついていけないよ……。」 幸大:「……おい、あれ!」 彩菜:「ホントだ……みんな、コテージに着いたよ!」 美奈:「よかったー。一事はどうなるか思たわ……」 彩菜:「スゴいよ、麻由子!」 麻由子:「……問題はこの後。」 幸大:「問題?」 結弦:「いいから……早く行こう。荷物下ろしたい……。」 0: 0:コテージの入り口に荷物を置く一行。案内図の通りに分電盤を探す彩菜。 彩菜:「確か、この辺りに分電盤が……あった!ブレーカー上げたから明かり着けてみて!」 0:(SE)電気をつける幸大。 幸大:「オッケー、電気きてるー!へぇ、新築みたいに綺麗なんだな。」 彩菜:「そうなの!今年の始めに出来たばかりなんだって!超穴場なんだよ!」 結弦:「うっひょ~テンション上がるー!」 美奈:「こんな良いとこ、よう見付けたな。……ん?なんや、このキュウリとナス。箸が。刺さっとうけど。」 麻由子:「精霊馬(しょうりょううま)……どうしてこんなものが。」 彩菜:「それってお盆に帰ってくるご先祖様をお迎えするものでしょ?自宅ならまだしも、貸切専用のバンガローに供えておくなんて変だよね。もしかして、ガソリンスタンドの人が言ってたのって……いやいや、まさかねぇ。」 麻由子:「彩菜、ここの管理者に連絡出来る?」 彩菜:「緊急連絡用の電話線が引いてあるみたいけど、どうして?」 麻由子:「聞かなければならない事がある。……この土地について。」 0:麻由子、管理者に連絡を試みる。 美奈:「さっきから忙しいなぁ、麻由子は。とりあえず、腹減ったなぁ。夕飯の準備せな。彩菜、手伝ってな。」 彩菜:「う、うん。もちろんだよ!」 0:キッチンに向かう二人。 幸大:「うーん、やっぱ駄目か。」 結弦:「お?どうしたコウちゃん。」 幸大:「電波が入らない。」 結弦:「え!マジかよ!……うわ、ホントだぁ!」 幸大:「こういう時ぐらいは自然を楽しめって事だな。」 結弦:「まあそうだね。しかし嬉しいよね、またこうしてみんなと遊べるなんてさ。」 幸大:「確かにな。」 結弦:「コウちゃんとアヤちゃんは同じ大学通ってるけど、マユちゃんは都内の名門大学行って、俺と美奈は就職してさ。……次はいつ集まれるんだろなぁ。ひょっとしたらこれが最後かも知れないし。」 幸大:「そうだな、これからみんな忙しくなったらわからないもんな。」 結弦:「だから今回はたくさん思い出作っておきたいね。……ところで、アヤちゃんとはうまくいってるのか?」 幸大:「……まあな。」 結弦:「本当は他の良い大学受かってたのに、お前を追っかけて同じところに入ったんだもんな、アヤちゃん!」 幸大:「……嘘だろ?初めて聞いたぞ。」 結弦:「え……そうだったの?」 0:麻由子が戻ってくる。 麻由子:「幸大、結弦。」 幸大:「どうした、麻由子。」 結弦:「そんな神妙な面持ちで、何かあった?」 麻由子:「電話が……繋がらない。」 幸大:「さっき話してた、管理者のとろに?少し留守にしてるだけだろ。」 麻由子:「そうじゃない。こちら側から発信が出来てない。」 幸大:「え?」 結弦:「なんだろうね。ちょっと外でも見てみようか。」 0: 0:(SE)キッチンにて。美奈と彩菜が会話している。 美奈:「彩菜、ジャガイモ剥き終わったら、次は玉ねぎ切っといてな。」 彩菜:「うん、わかった!」 美奈:「……彩菜とおると、高校の時を思い出すわぁ。」 彩菜:「私もだよ、美奈。」 美奈:「転校生だったウチをよう気にかけてくれとったもんな。」 彩菜:「だってみんな酷かったじゃん最初!美奈の関西弁バカにしてからかってさ!許せなかったもん!」 美奈:「そうそう、ウチはあんま気にせんかったけど、突然彩菜が泣きながら男子に怒ってな。それからやね、よう話すんなったんは。」 彩菜:「私、美奈の関西弁が好きなんだよね。なんか落ち着くっていうかさ。」 美奈:「ホンマかいな。……でも、嬉しかったで。ありがとうな。」 彩菜:「なによ、急に改まって。らしくないよ?」 美奈:「ハッハッハッ、せやな。……なんか色々思い出して来たわ、あの頃のみんなのこと。不登校の幸大に、めっちゃ不良やった結弦、ほんでボッチで魔女っ子の麻由子。よう考えたら普通交わらんような連中やのに、彩菜がお節介で世話焼きなお陰でみんな友達になれたんやもんね。」 彩菜:「私は、別になにも……」 美奈:「なにゆうとんねん。結弦ん時やって、退学寸前の所を先生に泣きついて撤回させてたやん。」 彩菜:「あれは結弦くんがちゃんと先生に説明して誤解を解かなかったのがいけないんだよ!」 美奈:「仲間の罪を被って退学しようなんて、かなり突っ張っとったもんな、アイツ。ほんで次は幸大と幼馴染みの麻由子。毎回プリントを幸大ん家に届けてる麻由子を不憫に思ったんか知らんけど、ウチと結弦も呼びつけて毎朝4人で玄関先までよう押し掛けとったな。根負けした幸大とみんなで毎日登下校しとったなぁ。」 彩菜:「小学校の登校班みたいで楽しかったよね!」 美奈:「ホンマやで。そう考えると、いつも彩菜を中心にみんなが集まってんやね。今回だってそうやん。」 彩菜:「いいや、みんながいるから、私がいられるだけ。だから美奈……ぐすん……今回はぁ……来てくれてありがとうね……。」 美奈:「またー、そんな泣かんでええんやで。……あれ?」 彩菜:「ぐすん……どうしたの、美奈。」 美奈:「今、廊下に誰か居たように見えたんやけど……気のせいやな。」 0: 0:(SE)コテージの外。三人は外部からの配線が集まる保安器を探す。 結弦:「いやぁ、避暑地の夜は結構寒いねぇ。」 麻由子:「……幸大、あれ。」 幸大:「ん、あれは……祠か?狐の石像がなんとも不気味だな。」 結弦:「こんな小さい祠、なんの役に立つんだろうね。」 麻由子:「きっとあの祠は『屋敷神』を祀るもの。だとすればこの辺りには元々、人が住んでいたということになる。」 結弦:「ん?なんだ、この小さな木箱。」 麻由子:「結弦、それは祠の……!」 結弦:「紙で封してある。何が入ってるんだろ……。」 麻由子:「開けちゃ駄目!」 結弦:「ちょっと、マユちゃん……わぁっ!」 0:(SE)麻由子が奪おうとした木箱は足元に落ち、石にぶつかった衝撃で中身が散乱する。 幸大:「あーあ、中身が散らばっちまった。結弦、お前罰当たるぞ。」 結弦:「今のは事故だって!」 麻由子:「そんな……こんなのって……。」 結弦:「えっと中身は、爪と……髪の毛?」 麻由子:「呪符で封印されていた箱の中身が、人間の身体の一部……そして何者かが供えた精霊馬と、彩菜が聞いた『くようしろ』と言う助言……」 結弦:「キター、不思議ちゃんタイム。あのゾーンに入ってるマユちゃん、どうも苦手なんだよなぁ……お、あった!これこれ!」 幸大:「保安器か。外部の配線に問題があった感じか。」 麻由子:「幸大。」 幸大:「なんだ?」 麻由子:「私達は、もう引き返せないかも知れない。」 幸大:「どういう意味だ、それ……」 結弦:「おい、見てくれ!」 幸大:「結弦、どうした。」 結弦:「電話用の引き込み線が千切れてる。ネズミがかじったかな。」 麻由子:「……。」 結弦:「困ったなぁ。これじゃ、いざって時に連絡出来ないじゃん。今からでも車を直しておいた方がいいかもね。」 麻由子:「車には戻らない方がいい。」 結弦:「なんでよ。」 麻由子:「イヤな予感がする。最悪の場合……死ぬかもしれない。」 結弦:「ちょっとマユちゃん、悪ふざけも大概に……」 幸大:「結弦……麻由子の言うことに従った方がいいかも知れないぞ。」 0:(SE)茂みの奥から物音がする。 結弦:「な、なんだ?何かいるのか?」 幸大:「静かにしろ。ゆっくり、中に戻るぞ。」 麻由子:「動物……もしくは、人間。」 結弦:「人間って……こんな時間の山奥に、俺達以外いるはずがない……」 0:(SE)バキッと、小枝の折れる音が響く 幸大:「ヤバい、走れ!気付かれた!」 結弦:「マジかよ!」 麻由子:「キャッ!」 0:(SE)転ぶ麻由子。 結弦:「マユちゃん!」 幸大:「結弦!扉を開けといてくれ!」 結弦:「わ、わかった!」 0:麻由子に駆け寄る幸大。 幸大:「麻由子、大丈夫か!」 麻由子:「ごめん……木の枝が、足に刺さって。」 幸大:「わかった、じっとしてろ。抱えあげるからな。」 0:麻由子を持ち上げる幸大。明かりによって、追ってくる正体が熊だとわかる。 結弦:「熊!追ってきてたのは熊だ!2人とも早く中に!」 0:(SE)駆け込む幸大。騒ぎを聞き付け美奈と彩菜がやってくる。 幸大:「はぁ、はぁ、間に合った。」 美奈:「どないしたんや!」 彩菜:「ねぇ、一体なんの騒ぎなの!」 結弦:「熊がいるんだよ!外に!」 0:窓の外を覗く美奈 美奈:「なんやて?……ホンマや!しかも子連れちゃうか、あれ!」 麻由子:「子連れの親熊はとても凶暴……だから絶対に外に出ちゃ……痛っ!」 彩菜:「麻由子、怪我してるじゃない!」 幸大:「ああ、早いとこ手当てしないと。」 彩菜:「手当てって、まずは救急車呼ばないと!」 幸大:「それが、出来ないんだ。」 彩菜:「え……どうして?」 0: 0:(SE)寝室、応急措置を受ける麻由子。 幸大:「これで……とりあえずは大丈夫だ。」 麻由子:「ありがとう、幸大。」 彩菜:「……。」 美奈:「どこにも連絡つかんなんて。車も壊れとうのに……」 結弦:「これじゃ埒が明かないよ。さっきのガソスタまでは車で一時間くらいだったから、歩いて三時間か。」 美奈:「結弦?」 結弦:「俺、行ってくるよ。」 彩菜:「外に出ちゃ駄目だって!熊に襲われるかも知れないんだよ!」 結弦:「大丈夫、なんとかなるっしょ。救急車とロードサービスも呼ばないといけないわけだしさ。」 幸大:「外は真っ暗だ。無事ガソリンスタンドに辿り着くとは思えない。」 結弦:「じゃあどうするんだよ、この状況!」 0:結弦、言葉遣いが荒くなり怒鳴る。 美奈:「……結弦、あんま怒ったらアカンて。」 結弦:「……ああ、ごめん美奈。ホント、俺の悪い癖だよなぁ。」 麻由子:「みんな……聞いて欲しい事がある。」 幸大:「なんだ?」 麻由子:「『また麻由子が変なことを言っている』と思ってくれて構わない。……私はみんなと再会する前夜、呪文を唱えていた。」 結弦:「今する話か、それ。」 美奈:「ええから、聞いてあげようや。」 麻由子:「幼い頃から私は分岐点となりえる出来事が訪れる前には決まって呪文を唱え、占っていた。今までは言葉や感情が巡るだけのものが多かった。しかし時折、現在味を帯びるビジョンが現れる。今回は夢を見ているかのように鮮明なビジョンが断片的に映し出された。」 彩菜:「それって……」 麻由子:「車を降り、道を外れた沢を下ってコテージに向かうビジョン。他にも海の光景、夕陽に重なる陽炎、運転中の衝撃音、壊れる車、寂れた祠……」 幸大:「寂れた祠……。」 結弦:「確かに不思議だよ。マユちゃんが居なかったらコテージに辿り着けなかったかもしれない。……だったらどうして怪我したんだよ。未来を予知してたんなら、避けれたんじゃないの?」 麻由子:「……未来の全てを見通す事は、出来ない。」 結弦:「……ごめん、マユちゃん。俺はそう言うの一切信じないからさ。出鱈目とは言わないけど、ただの偶然だよ。」 彩菜:「本当に……そうなのかな。」 結弦:「え?」 美奈:「……ウチもそう思う。」 結弦:「美奈まで……どうしてよ。」 幸大:「……結弦、卒業の前にスキーに行こうって話してだろ?」 結弦:「ああ、結局行かなかったやつでしょ。」 幸大:「俺達が乗る予定だった夜行バスの事故。あの乗客全員死んだやつ。……実は麻由子がやめようって相談してきたんだ。」 結弦:「え?マユちゃんの意見で中止にしたの?初耳なんだけど。」 彩菜:「だって結弦くん、怒ると思ったから……。」 結弦:「……美奈も、知ってたのか。」 美奈:「結弦、あん頃のアンタはキレると手ぇつけられんかったやん。だから……」 結弦:「『仲間外れ』にしたんだな……。」 美奈:「ちゃうて、そんなんじゃ……」 結弦:「ちゃんと話してくれれば良かったのに……みんな俺をそんなふうに思ってたのか……。」 彩菜:「ごめんね……。」 結弦:「……いや、いいよ。もう過ぎたことだもん。俺も悪いし。んで?マユちゃんがやめようって言った理由は、今回みたいに何か見えたからってこと?ぶっちゃけ、全部偶然としか思えないね。」 麻由子:「そう、偶然なんだと思う。……ただ、今回のように偶然が重なることは滅多にない。今のところ、私達はビジョンの通りに行動している。」 結弦:「じゃあなに?さっき話と繋げるなら、バスの事故で死ぬはずだった俺達は、今日ここで熊に食い殺される運命にでもあるって言いたいわけ?」 幸大:「結弦、もういいだろ。落ち着け。」 麻由子:「……大方、そう言うことになる。どんな形であれ、死ぬ確率は高い。」 0:静まり返る一同。 彩菜:「……麻由子、冗談だよね。」 麻由子:「残念だけど、このままだと……」 美奈:「もっと早く言うとってくれたらよかったのに……。」 結弦:「そうだよ!知ってたなら言えば良かったんだよ!」 美奈:「結弦、ちょっと黙っとき!」 麻由子:「……言えなかった。」 0:泣き出す麻由子 幸大:「……麻由子?」 麻由子:「だって、私の所為でスキーは中止になったし、もう誘われないって思ってたから……彩菜が声かけてくれたのが、嬉しくて……大学で、またひとりぼっちなっちゃって、寂しくて……だからみんなと、どうしても会いたくて……もう変なこと言うのはやめようと決めてたのに……ごめんなさい、ごめんなさい……」 結弦:「……。」 幸大:「大丈夫、いいんだよ麻由子。お前は悪くない。」 0:麻由子の頭に手を置く幸大。うつむき咽びなく麻由子。 麻由子:「(号泣)」 彩菜:「……。」 美奈:「……女の子泣かして、気ぃ済んだか?ど阿呆。」 結弦:「……っ!」 0:(SE)部屋を抜け出す結弦 美奈:「ちょっと、結弦!」 0:(SE)追う美奈 幸大:「おい、二人ともどこ行くつもりだ!彩菜、麻由子を頼んだ!」 彩菜:「……。」 0: 0:(SE)結弦を追う美奈。キッチンを漁ってる結弦。 美奈:「結弦!キッチンでなにしとんや!」 結弦:「決まってるじゃん……」 美奈:「……そんな、包丁なんてもって、どないするつもりなん?」 幸大:「結弦、なにやってるんだ!美奈、離れろ!」 結弦:「行くんだよ……ガソスタに!」 美奈:「……え?」 結弦:「包丁がありゃ、熊ぐらい倒せるでしょ!大丈夫だから心配しないで!」 幸大:「まだ言ってるのか……。いくら喧嘩が強いからって、熊は流石に無理だろ。」 結弦:「やってみなきゃわかんねぇじゃん!やっぱ思ったんだ、俺。この強さは人の為に使わないとなって。マユちゃんの為にも。だからなんとかしてガソスタに行って、助けを呼んでくるから……」 0:(SE)突然、銃声が響く 美奈:「キャアッ!なんや、今の?」 幸大:「銃声だ。こんな時間にどうして。それも、かなり近い。」 結弦:「近くに人が居るってことだよな?」 幸大:「やめとけ。急に外に出たら、獲物と間違えられて撃たれるぞ。」 結弦:「でも、助けを呼ばないと……。」 0:彩菜が駆けつける。 彩菜:「ねぇ、大丈夫!」 幸大:「ああ。外からの音だ。麻由子はどうだ?落ち着いたか。」 彩菜:「……うん。」 幸大:「そうか。ありがとな、彩菜。」 彩菜:「……。」 結弦:「……やっぱり今しかないよ!」 0:(SE)結弦、扉を開けて助けを求める。 結弦:「すみませーん!助けてくださーい!」 美奈:「あ、バカ!」 結弦:「どこにも連絡が取れませーん!怪我人がいまーす!助け……」 0:(SE)再び銃声が響く。猟師に気付く。 結弦:「え……なんで、あのオッサンが。」 幸大:「いいから閉めろ!」 0:(SE)幸大に無理やり閉められる。 美奈:「アンタ、なにやっとんねん!」 結弦:「俺、撃たれてないよね?痛くないもんね?」 幸大:「ああ、見たところ平気だ。たぶん、熊が近くに居たのを教えてくれたんだろ。」 結弦:「あ、そうだよコウちゃん!さっきの猟師、ガソスタのオッサンだったんだよ!」 幸大:「なんだって?」 0:(SE)再び銃声。何が倒れる音がする。 彩菜:「キャッ!まただわ!」 幸大:「なんか、崩れる音が聴こえなかったか?」 美奈:「あ、窓の外を見て!」 結弦:「熊が……倒れてる!」 幸大:「死んでるのか?」 0:(SE)遠くから悲鳴が聞こえる。 結弦:「今度はなんだ!」 美奈:「断末魔みたいな声やったな……。」 幸大:「……結弦、行くぞ。」 結弦:「ああ、わかってるよ。」 幸大:「俺達二人は猟師と合流して、助けを呼んでもらう。美奈と彩菜は麻由子と一緒にいてくれ。」 美奈:「任しとき。彩菜、いこ。」 彩菜:「うん。二人とも、気を付けてね。」 0: 0:(SE)外に出る二人。辺りを散策する。 結弦:「すみませーん!ガソスタのおじさーん!さっき会いましたよーね!俺達ですー!」 幸大:「まさか、もう帰ったのか?」 結弦:「いや、そんなことないよ。だってほら、あそこに軽トラがある!」 幸大:「あれに乗って来たのか。……おい、あっちを見てみろ。」 結弦:「え……あ!さっきの子熊だ!でも、なんか口元が真っ赤だぞ?」 幸大:「様子がおかしい。」 0:(SE)逃げる子熊。 結弦:「お、逃げてった。」 幸大:「行くぞ、結弦。」 結弦:「あ、うん。」 0:ガソスタの係員の死体が食い散らかされている。 幸大:「……これは、酷い有り様だ。」 結弦:「あの子熊に付いてた赤いのって……」 幸大:「血だ。」 結弦:「ガソスタのオッサン……なんでこんなところで……まさか、あの子熊が!」 幸大:「いや、違う。死体を食ってただけだろう。」 結弦:「え、じゃあなんで……。」 幸大:「首元に傷がある。致命傷だ。誰かに殺されている。」 結弦:「嘘だろ?!誰がどうやって、何のために殺すんだよ!」 幸大:「そんなのわかるわけないだろ。とりあえず……」 結弦:「猟銃と弾薬……そんなもの、何に使うの?」 幸大:「身を守る為だ。……軽トラの鍵、刺しっぱなしじゃないか?」 結弦:「見てみる!……うん、刺しっぱ!かけてみるね!」 0:(SE)エンジンはかからない。 結弦:「くっそー、かからない!なんでだよ!」 幸大:「……。」 結弦:「コウちゃん?」 幸大:「麻由子に聞こう。他もまだ聞けてないことが……」 0:二人を追ってくる美奈と彩菜。 美奈:「幸大ー!結弦ー!」 結弦:「美奈!こっちに来ちゃダメだ!そこで止まって!」 彩菜:「大変なの!麻由子が!」 幸大:「なにっ!」 0: 0:寝室に集まる一同。麻由子の姿はない。 美奈:「二人が行ったあと、直ぐに部屋へ向かってんけど……見ての通り、いなかったんや。」 彩菜:「美奈と手分けした探したんたんだけど、見付からなくて……。」 結弦:「あんな怪我してるんだから、このコテージから出るのだって大変なはずなのに。」 幸大:「……クソッ!麻由子、どこに行ったんだ!」 彩菜:「……。」 0: 0:(SE)リビングに集まる一同。日付を跨ぐ十分前。時間だけだ過ぎてゆく。 結弦:「……そろそろ日付が変わるね。」 幸大:「こんなに探しても見付からないなんて。麻由子……。」 彩菜:「……『神隠し』かもしれない。」 美奈:「なんやて?」 彩菜:「さっき麻由子が言ってたの。」 幸大:「そうだ、彩菜。さっき俺達が一階に降りた時、麻由子と二人で何を話したか教えてくれないか。」 彩菜:「え?」 幸大:「憶えていることならなんでもいい、教えてくれ!」 0: 0:回想シーン。寝室を結弦が飛び出した後のシーン。彩菜と麻由子が話している。 麻由子:「ぐすん……彩菜、ありがとう。」 彩菜:「……。」 麻由子:「いつもは私が貴女を慰めてるのに。おかしいね。」 彩菜:「……麻由子。」 麻由子:「なに?」 彩菜:「麻由子はいま、幸大の事を……どう思ってるの。」 麻由子:「……今も昔も変わらず、ただの幼馴染み。」 彩菜:「……幸大はたぶん、麻由子が好き。」 麻由子:「本人が言ってたの?」 彩菜:「いいや、私が感じただけ。」 麻由子:「……幸大は、幼い頃から不器用なんだ。感情を表に出すのが苦手で。それが、何だか私と似ている様な気がして、ずっと親近感があった。」 彩菜:「正直、私なんかより麻由子の方がお似合いのカップルだと思ったんだよね。」 麻由子:「……彩菜。」 彩菜:「……何。」 麻由子:「もっと自分の気持ちに正直になりな。」 彩菜:「……。」 麻由子:「私は二人のこと応援してるから。ずっと。」 彩菜:「……。」 麻由子:「ねぇ、彩菜……私が居なくなった時の代わりに、みんなに伝えて欲しい事がある。これはとても重要な情報。本来、これから話す内容を他言すること自体が自然の摂理に背く行為であるから……とても危険。何が起こるかわからないけど、きっとみんななら、私達なら、この運命を乗り越えられるはず。」 麻由子:「それに幸大は、特別な守護霊に護られているから……きっとみんなを助けてくれる。」 0: 0:現在に戻る。 幸大:「特別な守護霊……。」 彩菜:「幸大の光にみんなは導かれて、やがて必ず救われるって……。」 彩菜:「麻由子から聞いた話……ここに居るみんなはもう、『何かしら』に取り憑かれている可能性が高いって。ここに向かう途中に轢いてしまった動物の霊。『精霊馬』によって浄土から招かれたこの土地に根付く御先祖様達。祠に祀られる屋敷神。山に棲む高位の霊。……そして問題は、お盆最終日である明日が十五日だって事。」 美奈:「なんや、悪い条件が揃ったっちゅう風に聞こえるんやけど。」 彩菜:「そうなの。明日には、みんな『あっちの世界』に連れて行かれるかもしれないって。……そして麻由子は続けて言ったの。『私が居なくなったら、それは神隠しだ』って。」 結弦:「そ、そんな……そんなの有り得ないよ!」 彩菜:「私だって信じられないよ!……でも実際に麻由子は居なくなった。この中で麻由子が一番霊感があるから、最初に狙われるだろうって。みんなで夕陽を見た時から、なんとなく気が付いてたって。」 結弦:「全部偶然だよ!霊感とか言ってるけど、そんなもの存在しない!それで人が死ぬなんて、なおさら……」 幸大:「オッサンの死体を目の当たりにしてるのに、まだそんなこと言えるのか。」 結弦:「だって、あれは誰かに殺されたんでしょ!」 美奈:「殺された?」 幸大:「ああ、間違いない……。頸動脈を深く切付けられていた。自然のものとは思えない傷だった。」 彩菜:「……これは、きっと『狐の祟り』なんだって。」 美奈:「狐……確か、ガソスタのカウンターに飾られた写真の中に、お稲荷さんの祠があったで。」 結弦:「なんだよそれ……あのオッサンはここと関係があったって事かよ。」 彩菜:「麻由子の想像だと、この土地には何か問題があったんじゃないかって。『禁足地』なのかも知れないって……。」 幸大:「そんなとこにコテージを作ったのかよ……。」 美奈:「だから麻由子は管理者に連絡しとったんか。」 彩菜:「神様や御先祖様は元々怒っていて、私達が来た事でもっと怒らせちゃったんだ……。今からでも遅くないかも。」 幸大:「どうするつもりだ?」 彩菜:「供養するの。そうすれば、麻由子を返してくれるかも。」 結弦:「今さらそんなことをしても時間の無駄だよ!」 彩菜:「なに言ってるの!?結弦が祠の木箱を開けなければ、こんなことになってなかったかも知れないんだよ!」 結弦:「あんなただの木箱で人が死ぬわけないだろ!そもそもどうやって俺達を殺すって言うんだ!呪い殺すってか?馬鹿馬鹿しい!幽霊だのお化けだの居るわけないんだよ!」 美奈:「見たで、ウチ。」 結弦:「え?」 美奈:「彩菜と夕食の支度しとる時に。気のせいや思っとったけど……」 0:(SE)時計の秒針が零時を周り、鐘が鳴る。 幸大:「鐘の音……日付が変わった。」 彩菜:「十五日……!」 結弦:「なんだよ……特に何も起きないじゃ……」 0:(SE)床下から何かが床を突き上げるように叩く。 彩菜:「キャッ!」 幸大:「なんだ、この音!」 結弦:「床下に何か居るぞ!」 彩菜:「……これが、霊障!?」 0:しばらくして、叩く音が止む。 幸大:「……音がやんだ。」 結弦:「美奈、大丈夫だからな!俺がついてる!」 美奈:「……。」 結弦:「……美奈?」 0:美奈の様子が変わる。 美奈:「……ロス。」 結弦:「どうしたんだ、美奈。恐くてしゃべれない……」 美奈:「殺スッ!」 結弦:「な、おい!やめろ……クハッ!」 0:(SE)結弦の首を締める美奈。 幸大:「美奈、何やってんだ!」 彩菜:「まさか、憑依して……!」 結弦:「カハッ……!」 美奈:「殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス殺ス……!」 0:結弦の首を締める美奈を引き剥がそうとする幸大。 幸大:「やめろ、美奈!クソ、なんて力だ!」 彩菜:「これが……祟りなの……!?」 幸大:「放せ……!」 美奈:「邪魔スルナッ!」 0:(SE)結弦を締める手を放し、幸大を払い飛ばす美奈。 幸大:「グワッ!」 彩菜:「コウちゃん!」 結弦:「ゲホッゲホッ……美奈、お前……。」 美奈:「憎イ……憎イ憎イ憎イ憎イ!」 結弦:「取り憑かれてるんだな……本当に。」 幸大:「くぅ……。結弦、逃げろ……!」 結弦:「逃げるって……美奈を見捨てて?そんなこと出来ないよ。」 美奈:「殺スッ!」 0:再び結弦に襲いかかる美奈。 結弦:「クッ……!」 幸大:「結弦!」 結弦:「美奈に……殺されるなら……本望だ……。」 美奈:「殺ス……!」 結弦:「美奈……。」 美奈:「……。」 結弦:「愛……してる……。」 美奈:「……ウチも。」 0:首を締める手が緩む。 美奈:「ウチも……愛しとうで、結弦。」 幸大:「憑依が……解けた。」 結弦:「……戻ったな……美奈。」 美奈:「ウチ、どうしてこんな事を……」 麻由子:「下級の怨霊は使い物にならんのう。」 0:(SE)美奈の背中に刃物を突き刺さす麻由子。取り憑かれている。 美奈:「グハッ……!」 結弦:「……美奈?」 麻由子:「人間の心緒に劣るなぞ、怨霊の風上にも置けんのう。」 美奈:「ゆ……ずる……。」 結弦:「美奈ぁあああ!」 幸大:「麻由子……お前、何やってんだ。」 麻由子:「お主じゃな、我を解放したんは。」 結弦:「マユ……ちゃん。」 麻由子:「ほほぅ……お主ら、過去に死を免れておるのう。彼岸の者共が歓迎しとるぞ?」 結弦:「なに言って……グハッ!」 0:(SE)麻由子に刺される結弦。 麻由子:「不敬極まりないのう、お主。お盆の殺生は御法度じゃぞ?それも女狐を殺めたとな。」 結弦:「はぁ…はぁ……。」 幸大:「麻由子!目を醒ませ!」 麻由子:「嗚呼、あの忌々しい一族の老いぼれも熊を狩っとったのう……。まあよい、もれなく彼奴も葬ったところじゃ、僥倖僥倖。」 幸大:「その返り血……お前が殺したのか……!」 結弦:「美奈……。」 美奈:「結弦……。」 麻由子:「しぶといのう……。安心せい、番い(つがい)で黄泉へ航るがよい。」 結弦:「俺達……ずっと……」 美奈:「うん……一緒やで……」 幸大:「やめろおおおお!」 0:(SE)二人に止めを刺す麻由子。 麻由子:「……フフフ、捗るのう。妖(あやかし)を心得とる小娘の身は使い易い。」 幸大:「クッ……なんなんだ、お前!麻由子を返せ!」 彩菜:「……また麻由子。」 0:彩菜の様子が変わる。取り憑かれている。 幸大:「……彩菜?」 彩菜:「また麻由子って言った。麻由子ばっかり。どうして麻由子なの。ねぇコウちゃん、私と麻由子……どっちが好きなの?」 幸大:「まさか、お前まで憑依して……」 彩菜:「答えてよぉ!」 0:(SE)銃を向ける彩菜 幸大:「お前、いつの間に銃を……!」 麻由子:「フフフ、ようやく憑かれたようじゃな。」 幸大:「落ち着け彩菜!お前は取り憑かれておかしくなってるだけだ!」 0:泣き出す彩菜 彩菜:「……もうわかんないよ、どうしたらいいのか。コウちゃんが麻由子の名前を呼ぶたびに、胸が苦しくて……何も考えられないくらいに嫉妬しちゃって……私、おかしくなっちゃうよ……。」 幸大:「彩菜、俺の声を聞け!」 彩菜:「ねぇ……好きって言って?」 幸大:「おい、やめろって……」 彩菜:「好きって言ってよぉぉお!」 0:(SE)彩菜に撃たれる幸大。彩菜、正気に戻る。 幸大:「グハッ……!」 麻由子:「愚かじゃのう……人間は。」 彩菜:「あ、ああ……私、どうしてこんなこと……」 麻由子:「タガが外れたのじゃ。己の醜いの情動がのう。」 幸大:「グゥ……彩菜……」 彩菜:「麻由子……私……。」 麻由子:「用済みじゃな。」 彩菜:「……え?」 0:(SE)麻由子に頸動脈を切られる彩菜。 幸大:「あ……彩菜ああああ!」 彩菜:「コウ……ちゃん……。」 麻由子:「けったいじゃのう。睦まじい者共が血で血を洗う様は……フフフ、傑作じゃのう!」 彩菜:「ごめん……ね……コウ…ちゃん……。」 0:力尽き倒れる彩菜。 幸大:「どうして……みんなこんな目に……ゲホッゲホッ。」 麻由子:「宴も酣(えんもたけなわ)じゃなぁ。」 幸大:「クソ……絶対に、許さねぇ……」 幸大:「神だろうが……悪霊だろうが……ぶっ殺してやる……」 麻由子:「ほほぉ、この期に及んで大した人間じゃのう。威勢の良さも好みじゃ。よかろう、小娘を返してやる。ただし……フンッ!。」 0:(SE)胸に包丁を突き刺される幸大。 幸大:「グハァッ!」 麻由子:「お主は今際の際(いまわのきわ)じゃがなぁ!神々を尊ばぬ不敬者共め!あの世で悔いるがよい!ハッハッハッハッ!」 幸大:「はぁ、はぁ……はぁ……」 0:正気に戻り、突然泣き出す麻由子。 麻由子:「あ……ああ……私が……!」 幸大:「麻由……子……なのか……。」 麻由子:「幸大……ごめんなさい、ごめんなさい!」 幸大:「もう……謝……るな……。」 麻由子:「こんなはすじゃ、なかったのに……」 幸大:「はぁ……はぁ……。」 麻由子:「……でも、幸大なら。私よりも、きっと。」 麻由子:「みんなを幸せに導いてくれるはず……っ!」 0:(SE)幸大にトドメをさす麻由子 幸大:「グハッ!………。」 麻由子:「みんなを……救ってね、幸大。」 幸大:「麻由……子……。」 麻由子:「最後だから言わせて……私、昔から……幸大のことが大好きだった。ずっと言えなくてごめん。次に逢う私は今の私と違うけど……これからもずっと……大好きだよ。」 0: 0:幸大、死にゆく意識の中。 幸大:(M)視界が遠退く。何も聞こえない。麻由子は何かを言い残してくれている。だか、声の振動が伝わるだけで、理解できなかった。そして全ての感覚が消えて、無が訪れる。 幸大:しばらくして、一筋の光が射し込む。その光は何かを伝えようとしている。ずっと昔の、とても懐かしい声で。 0:幼少の記憶。幼い麻由子が幸大に話し掛けている。 麻由子:『幸大には、特別な守護霊様が憑いていてね、すごい力で護られているんだよ。』 麻由子:『だって、ワタシと約束したんだもん。【死が二人を別つまで】ってね!』 幸大:(M)ああ、そんなことあったかなー、と過去の記憶に思いを馳せていると、光が次第に近付いてきて、そして…… 0:(SE) 0:八月十四日、旅行初日。日中、海水浴を満喫した一行。夕方頃に予約した山奥コテージに向かう。運転席に結弦、助手席に美奈、後部座に幸大を挟んで彩菜、麻由子が座ってる。 美奈:「いやぁ~最高やったね、海!」 彩菜:「うん!ちょ~楽しかった!」 幸大:「……ん……ん?」 結弦:「コウちゃーん!バナナボートで絶叫し疲れて夢見心地だねー!」 幸大:「あ……ああ、バナナボートな。」 彩菜:「ごめんね、コウちゃん。どうしてもみんなで乗りたくって……。」 幸大:「彩菜……」 彩菜:「な、なにコウちゃん。そんなに見つめられると、恥ずかしいんだけど……。」 美奈:「なんや~、このタイミングで告白タイムかいな~!ヒューヒュー!」 結弦:「ちょっと!運転してて後ろ見れないんだけど!せめてコテージ着いてからやってよね!」 彩菜:「コウちゃん……。」 幸大:「……あ、いや!な、なんでもない。寝ぼけてたと言うか、凄く悪い夢を見ていたようで……。」 麻由子:「悪い夢……?!」 彩菜:「麻由子、どうかしたの?」 麻由子:「え?……いや、なんでもない。」 0:(SE)動物が道に飛び出し、轢いてしまう。 彩菜:「キャッ!」 0:急いで振り返る幸大。 幸大:「こ、これは……!」 結弦:「あちゃ~、轢いちゃったよ……。」 美奈:「しゃあないて、避けきれんかったもん。」 彩菜:「ああ……かわいそうに……。」 幸大:「あれは、祠で見た……狐。」 麻由子:「……幸大?」 幸大:「麻由子、ひょっとして……」 麻由子:「……うん。」 0: 0: 幸大:(M)麻由子の瞳を見つめる。不器用で言葉数の少ない彼女の瞳はやけに物言いたげで、しかし躊躇いがあって。そんな彼女に、どこか親近感を覚えていた自分がいた。 幸大:きっと俺と麻由子だけが気付いている。あの轢かれた狐から立ち上る陽炎が、いつになく揺らめいていた事に。