台本概要

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タイトル 悪魔の悪戯
作者名 天馬  (@voicone_te)
ジャンル ファンタジー
演者人数 3人用台本(不問3)
時間 20 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
ヴェリテ 不問 49
ブラーグ 不問 56
イロニ 不問 49
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

文字サイズ
0:登場人物 ヴェリテ:「クールで冷静沈着。」 ヴェリテ(N): ブラーグ:「落ち着きが無く、好奇心旺盛。」 ブラーグ(M): イロニ:「落ち着いた風貌だが、キレやすい。」 : :本編 : ヴェリテ(N):かつて悪魔が人間と契約をし、その抱いた欲により生み出された、悪魔の遺物があった。 ヴェリテ(N):強大過ぎる力ゆえに隠されていたその遺物が、数世紀の時を経て、さらに欲深い人間の手に渡り、各地で奇妙な事が起こっていた。 ヴェリテ(N):人間の欲望に満ちた魂を食べる悪魔と共に、悪魔の遺物を収集すべく各地を回る青年の物語。 : : 0:客席でヴェリテとブラーグがサーカスを眺めている。 ブラーグ:「ったく始まってからずっと、すげぇ歓声だなぁ。」 ヴェリテ:「今流行りのイロニサーカス団だからな。」 ブラーグ:「この大勢の人間の中に、今回のターゲットが本当にいるってぇのかぁ?どうやって見つけるんだ、ヴェリテ?」 ヴェリテ:「まあ見てろよ。じきにクライマックスだ。」 ブラーグ:「ん、誰かステージに出てきたぞ?」 0:ステージのセンターで、イロニが声を上げる。 イロニ:「皆さま、わたくしがこのサーカスの団長、イロニでございます。」 イロニ:「さあ、次がお待ちかねの最後の演目でございます。こちらをご覧ください!」 0:歓声が上がる。 ブラーグ:「ん、なんだぁ?あの、人間がまるごと中に入れそうなデカい箱は?」 ヴェリテ:「このサーカスの一番の見世物、人が消えるイリュージョンだとさ。」 ブラーグ:「はぁ?イリュージョン?...ってなんだ?」 ヴェリテ:「あー、どうせあの箱に人を入れて、次に開けた時には、中には誰もいないって客を驚かせる手品だ。」 ブラーグ:「人間ってのは、そんな事ができるのか?まるで悪魔か天使みたいな芸当じゃないか。」 ヴェリテ:「悪魔はお前だろ、ブラーグ。まぁ普通なら何を言ってるんだって返すところだが、今回の狙う"悪魔の遺物"はアレだ。」 ブラーグ:「本当にあの箱が遺物か?つまりターゲットは持ち主の団長、イロニってやつか。」 イロニ:「こちらに見えますのは、当サーカス自慢のマジックボックスでございます。」 イロニ:「そして今回この箱を使ってのイリュージョンに参加していただくのは、ポール・リオンヌ氏でございます。」 ブラーグ:「あー?誰だ、アレ?」 ヴェリテ:「あいつは、鉄道の実業家だ。このサーカスは、一公演毎にスポンサーを募って、ああやってゲストに招待してクライマックスのイリュージョンに参加してもらうのさ。」 ブラーグ:「それに何の意味があるんだ?」 ヴェリテ:「色々と宣伝になるんだろう。一躍話題のサーカスで脚光を浴びれば、そのまま自分に利益が返って来ると踏んでるわけだ。」 0:ゲストを誘導するイロニ。 イロニ:「さあ段差にお気をつけて。えぇ、そのまま、このマジックボックスの中へどうぞ。」 イロニ:「では皆様、ご覧ください!いきますよ!さあ今、マジックボックスの扉を閉じました!」 イロニ:「見た目通り古めかしい箱でございますので、剣を刺したり、槍で貫いたりなどは出来ませんが、おやおや、おやおや?既にこのマジックボックスの中からは人の気配がしません。」 イロニ:「今私がおこなったのは照明も切らず、扉を閉じただけ。この口を開いて喋っている間にゲスト様は一体どうなったのでしょうか!」 イロニ:「では、マジックボックスの扉を開けましょう...そして、夢は現実へ。」 0:歓声が上がる。 ブラーグ:「ほう、本当に消えてやがる!」 ヴェリテ:「消えた...ねえ。確かにその通りだな。」 イロニ:「大成功でございます!これにて終演とさせていただきます!!」 0:外へ。(間をあける) ブラーグ:「あーっ、やっと外に出られた。人が多いんだよまったく。」 ヴェリテ:「初めてのイリュージョンショーはどうだった?」 ブラーグ:「そりゃ凄いんだろうけど、とりあえずアレが遺物だっていうなら、さっさと貰いに行こうぜ。」 ヴェリテ:「それが簡単にはいかないのさ。あの団長のイロニというやつは、普段あのマジックボックスとか呼んでいる遺物を、テントの中の鍵付きの部屋に隠してるらしい。」 ヴェリテ:「それまで客がからっきしだったサーカスが、遺物の箱のおかげで大流行だとさ。」 ブラーグ:「ふん。それじゃあ一体どうやって箱を奪うんだ?」 ヴェリテ:「それなんだがブラーグ、これからお前にこのサーカスの入団試験を受けてもらう。」 ブラーグ:「は?...にゅ、入団試験!?」 ヴェリテ:「安心しろ、悪魔的な身のこなしのお前なら簡単な事だ。もう手続きもしてある。」 ブラーグ:「そうかいそうかい、こき使ってくれるじゃねぇか。」 ヴェリテ:「時折様子を見に行く。進展があればその時に報告してくれ。」 ヴェリテ:「それと、ほら申請書だ。これを持ってこのサーカスのテントの裏で待っていればいいそうだ。」 ブラーグ:「はいよ。ったく。」 ヴェリテ:「そう怒るなよ。今回もきっと、悪魔のお前に極上の魂を喰わせてやれるだろうよ。」 ブラーグ:「へいへい。」 0:二人は別れ、グラーヴはテントの裏へ。(間をあける) ブラーグ:「はぁ...ここでいいのか?誰もいやしないぞ。」 0:背後からナイフが飛んでくる。 ブラーグ:「ふっ!」(よける) ブラーグ:「ナイフが飛んで来た!?」 ブラーグ:「おい誰だ!ナイフ投げの練習中か?危うく刺さっちまうところだったぜ?!」 イロニ:「反射神経、危機察知能力、運動能力、全て問題無し。」 ブラーグ:「おまえは!?」 イロニ:「おっと失礼。入団テストもいちいちやっていられないもので、飛んできたナイフにどう対処するのかを見させていただきました。」 ブラーグ:「もし死んでいたらどうするつもりだ?」 イロニ:「ふふふ。そのときは、それまでの人間だったという事です。」 ブラーグ:「はぁ?!まったく、なんてやつだ。」 イロニ:「ご存知かと思いますが、私は団長のイロニ。あなたがブラーグさんですね。ひとまず合格という事で。さあ、テントの中へどうぞ。」 0:テントの中へ入る。 イロニ:「どうですか、テントの中は?」 ブラーグ:「あぁ、意外と広いな。器具やら仕掛けの装置やら、こんなに色々あるのか。」 イロニ:「ええそうですとも。とりあえず、あなたにはここで、次の公演までにサーカスの団員として使えるように、しっかりと練習してもらいます。」 イロニ:「そうですね、まずは玉乗りから。」 0:ブラーグが大玉に乗る。 ブラーグ:「よっ!ほらよ、玉乗りなんてっ...簡単だろっ?」 イロニ:「ほう...なかなかにやりますね。」 イロニ:「なら他にもいろいろ覚えてもらう事にしましょう。」 0:数日が経つ。(間をあける) ブラーグ:(外へ出て休んでいる) ブラーグ:「あー、やっと休憩だ。何日も毎日毎日練習なんて、疲れて仕方ないっての。」 ヴェリテ:「ブラーグ、数日経ったが調子はどうだ?追い出されていないところを見ると、順調そうだな。」 ブラーグ:「やっとお出ましか?何もかも大変だっつーの。」 ヴェリテ:「それで、マジックボックスとやらは盗み出せそうか?」 ブラーグ:「ありゃぁ無理だね。まずどこにあるのかわかりゃしない。」 ヴェリテ:「ほぅ、お前でも手こずる事があるんだな。」 ブラーグ:「バカ言うなよ、イロニの目を盗んで探索なんざ至難の業だぞ。」 ヴェリテ:「早速その至難の技とやらを発揮してきてくれ。」 0:紙を手渡す。 ブラーグ:「はぁ?...これは?」 ヴェリテ:「最後の見せ場のイリュージョンあるだろ?あれに参加する為の証明書だ。スポンサーの証ってやつだ。契約やらの細かい事は、下っ端の奴らとやり取りして、本契約してからイロニの元へ届くらしい。」 ヴェリテ:「そして、次回のスポンサーの証明書と、そいつを入れ替えてきてくれ。」 ブラーグ:「ばっ..おまえ!」 ヴェリテ:「しっ!誰か来る。じゃ、頼んだぞ。」 ブラーグ:「ったく人使いが荒いんじゃないのか!?」 イロニ:「ここにいたのかブラーグ。」 ブラーグ:「ん?何か用でもあるのか?」 ブラーグ:「まさか、更に新しい芸をやらせようとしてるんじゃ...。」 イロニ:「いや、そうじゃない。今日は用事があって、少しの間サーカスを離れる。その間に怪我などされては困るから、念を押しにきただけだ。」 ブラーグ:「出掛けるのか?一体何しに?」 イロニ:「なに、サーカスの公演には、たくさん準備する事があるってだけだ。」 ブラーグ:「あぁ、そうか。」 ブラーグ(M):「つまりは、チャンスってことじゃないか!?こいつの部屋に行って証明書をすり替えられるってことだろ!」 0:サーカスの奥の部屋の前(間をあける) ブラーグ:「イロニがやっと出て行った。ったく頑丈そうな扉だなぁ。鍵は、...おっ!意外と単純――」 イロニ:(少し大きな声で) イロニ:「ブラーグ。」 ブラーグ:「わっ!?な、なんだ!?」 イロニ:「私が出かけている隙に何か企んでいましたね?」 イロニ:「練習中も目が泳いでいて、ずっと私の部屋の方を見ていた。そろそろ痺れを切らしてボロを出す頃だと思ったよ。」 ブラーグ(M):「ま、まずいまずいまずいまずい!このままヤラれる!」 0:逃走をはかる。 ブラーグ:「はぁ、はぁ。とにかく外へ!ヴェリテに知らせないと!!俺たちのたくらみは、始めからバレてやがったんだ!!くそっ!一体どうすれば――」 イロニ:「どこへ行こうというんです?」 0:捕まる。 ブラーグ:「んな!!なぜ先回りされてるんだ!?」 イロニ:「このテントの中は仕掛けだらけでね。あなたに教えていないモノも沢山ある。そして私は誰よりも速く移動することが可能だ。」 イロニ:「おや?手に持っているのは、何の紙ですか?ふむふむ証明書。私の部屋から盗みましたか。」 ブラーグ(M):「こいつ、気づいてない?その証明書はすり替えようとしたほうだ。」 イロニ:「まあ良いでしょう、あなたが今後上げるであろう功績に免じて見逃してあげます。それほどあなたの身のこなしや技は見事ですから。」 ブラーグ:「芸は身を助けるってやつか。ははっ。」 ブラーグ(M):「後でまた忍び込んで、本物の証明書を盗んでおくか。」 0:(間をあける) ヴェリテ:「随分遅かったな。すり替えは上手くいったか?」 ブラーグ:「色々あったが、成功だ。本物の紙は燃やしておいた。」 ブラーグ:「一体誰の証明書とすり替えたんだ?そういや、内容は見てなかったんだが。」 ヴェリテ:「よくやったブラーグ。すり替えた人物は当日の楽しみにしておけ。ひとまず任務は終わりだな。あとはピエロとしてサーカスを楽しむといい。」 ブラーグ:「ふざけた事を。ちゃんとあのイロニの魂を食えるんだろうな?」 ヴェリテ:「おそらく問題ないだろう。じゃあ、サーカスの公演当日にまた会おう。」 0:サーカス当日。(間をあける) ヴェリテ:「さて、今日がサーカス当日だ。あの遺物の箱の性質を利用して、上手くいけば箱も魂もいただけるわけだが、どうしてくれようか...。」 ヴェリテ:「この私の元に、事前に招待状をよこすとは、律儀なサーカス団ではあるようだ。」 ヴェリテ:「ブラーグは驚くかもしれないな、ゲストはこの私なのだから。そろそろ会場へ向かうとしよう。」 0:サーカス舞台裏。 イロニ:「知っているか、ブラーグ?」 ブラーグ:「はぁ?なにがだ?」 イロニ:「マジックボックスのイリュージョンで、消えたゲスト達のその後。」 ブラーグ:「その後って、どこか舞台の外にでも出して、そのまま帰らせるようなもんじゃないのか?」 イロニ:「いや、どういうわけか誰も戻ってはこない、そして、何か大事なことも忘れさせられている気分になる。」 ブラーグ:「おい、それって。」 イロニ:「だが心配するな。不思議な事に、誰一人として捜索願いすらでていないんだ。」 ブラーグ:「じゃあ今日のゲストとやらも...。」 イロニ:「もちろんそうだ。どこかへ消える。」 ブラーグ(M):「今回の遺物はとんでもない代物《しろもの》だなぁおい。」 0:テント前。 ヴェリテ:「さて着いたが、ここから入れとばかりにテントが開いている。」 ヴェリテ:「ほう、中は結構広いな。」 イロニ:「これはこれは、ようこそいらっしゃいました、ルイ・アベラール様。」 ヴェリテ:「ああ、どうも。この有名なサーカスの団長にお会い出来て光栄です。」 イロニ:「いえいえ何をおっしゃいます、この度は当サーカス団のスポンサー並びに、ラストを飾るイリュージョンの特別ゲスト様として手厚くおもてなしさせていただきます。」 ヴェリテ:「あの、マジックボックス?を使ったイリュージョンはとても見ものですね。私も楽しみです。」 イロニ:「はい、ありがとうございます。それではこちらの控室にて、こちらからお呼びするまでお待ちください。」 ヴェリテ:「あぁ、どうも。」 イロニ:「それでは、失礼いたします。」 0:扉を閉じてイロニが去る。(間をあける) ヴェリテ:「全く疑う気も無しか。今日ここに来るはずだった本物のスポンサーと偽装して来てるんだがな。」 ヴェリテ:「ルイ・アベラール。財閥の御曹司らしい。この私と背格好や、見た目の年齢が近いゆえに利用させてもらった。」 0:係のものが呼びに来る。 ヴェリテ:「ん?あぁ、そろそろ出番ですか。それでは参りましょう。」 0:ブラーグがサーカスの演目をこなしている。 ブラーグ:「よっ!はっ!ったく、俺ばっかなんでこんな事しなくちゃ!いけないんだ!次でラスト!はぁ、はぁ。やっと、...終わったぁ。」 0:イロニが客席へ言葉を放つ。 イロニ:「御会場の皆様、いかがでしたでしょうか!」 イロニ:「実は最初からずっと舞台でパフォーマンスをしているのは、ブラーグという所属したばかりの新米でございます。」 イロニ:「どうか大きな拍手を!」 0:拍手が起きる。 ブラーグ:「ふぅ。問題はここからだ、ヴェリテのやつがどう仕掛けてくるのか。」 イロニ:「そして、申し遅れました!わたくがこのサーカスの団長、イロニでございます。」 イロニ:「さあ、次がお待ちかねの最後の演目でございます。こちらをご覧ください!」 0:歓声が上がる。 イロニ:「この箱こそが、当サーカス自慢のマジックボックスでございます。」 イロニ:「そして今回この箱を使ってのイリュージョンに参加していただくのは、ルイ・アベラール氏でございます。」 ヴェリテ:「御客席の皆様、只今ご紹介いただきました、わたくしルイ・アベラールでございます。」 0:舞台裏でブラーグがヴェリテに気づく。 ブラーグ:「あー?あいつ、ヴェリテだろ?!こいつは驚いた。わざわざイリュージョンのゲストと入れ替わるとはな!どう楽しませてくれるんだ?」 イロニ:「アベラール様は今回の公演のスポンサー。そして、ゲストとしてもお招きいたしました。」 ヴェリテ:「皆様楽しんでおられますでしょうか、今宵このイロニサーカス団の終焉《しゅうえん》を仰せつかっております。どうぞ最後までよろしくお願いいたします。」 イロニ:「さあ段差にお気をつけて。そのままマジックボックスの中へどうぞ。」 0:ヴェリテが箱の中へ。 イロニ:「では皆様、ご覧ください!いきますよ!さあ今、マジックボックスの扉を閉じました!」 イロニ:「見た目通り古めかしい箱でございますので、剣を刺したり、槍で貫いたりなどは出来ませんが、おやおや、おやおや?既にこのマジックボックスの中からは人の気配がしません。」 イロニ:「今私がおこなったのは照明も切らず、扉を閉じただけ。この口を開いて喋っている間にゲスト様は一体どうなったのでしょうか!」 イロニ:「では、マジックボックスの扉を開けましょう...そして、夢は現実へ。」 0:箱を開ける。 ヴェリテ:「どうも。」 イロニ:「は?」 ブラーグ:「すげぇ!消えずに残ってやがる!」 イロニ:「な、なぜ!?だ、弾幕を閉めろ!!」 0:弾幕が閉まる。 イロニ:「一体、どういう事だ!なぜ消えない!」 ヴェリテ:「まず、消えないという表現はどういう事ですか?」 ヴェリテ:「あなたが意図的にイリュージョンと称してやっている事なら"消せない"が正しい表現なのではないですか?」 イロニ:「なんだいきなり!」 ヴェリテ:「あなたがマジックボックスと呼んでいるこの箱、人を消すには条件があるんですよ。」 イロニ:「わけのわからないことを!?」 ブラーグ:「その話聞かせてもらいたいね。もう舞台裏から出てきてもいいだろ?」 ヴェリテ:「あぁ、いいとも。」 イロニ:「おまえら仲間だったのか!?」 ヴェリテ:「ひとまず聞いてください。」 ヴェリテ:「この箱で人を消すには、その人間の情報が必要なんです。簡単な話、名前だけでいいんです。」 イロニ:「名前なら事前に確認済みだ!箱に入る前にも呼んでいるだろう!?」 ヴェリテ:「ルイ・アベラールは私の名前ではありません。私はヴェリテ・ルロワ。世界各地に散らばった悪魔の遺物を探しています。」 イロニ:「悪魔の遺物?!マジックボックスがそうだっていうのか!」 ヴェリテ:「ええ、そうです。欲深い人間が悪魔と契約をしてこの世ならざる力を得られる代物《しろもの》の事です。」 イロニ:「この箱は、確かにどこかへ消える力を持っているが、この世の力以上なんて思えない――」 ヴェリテ:「あなたは勘違いをしていますよ。」 ヴェリテ:「この箱は、人を移動させているのではなく、人の存在そのものを消してしまう特殊なモノなのです。」 ヴェリテ:「もちろん突如、人がいなかった事になれば、矛盾が生じます。なのでぼんやりとしか覚えていないといった感情で止まりますが。」 ブラーグ:「ほう、そういうことか。確かにこの世の力以上だな。」 イロニ:「全てでまかせじゃないのか、何故そんなことを知っている?!」 ヴェリテ:「だってこれ、もともと私のモノですから。」 0:慌て出すイロニ。 イロニ:「そんなわけ無いだろう!これは私が見つけたものだ!こんな事してタダで済むと思っているのか?前代未聞だぞ!」 イロニ:「そもそも何しに来たんだ、私だってこの名前は芸名だ!箱を使ったところで消されはしないぞ!」 ヴェリテ:「箱に入る前に言ったじゃありませんか、サーカス団の終焉《しゅうえん》と。終わらせにきたんですよ。」 イロニ:「なんだと!今までガラガラだった客席を、やっとの思いで常に満員にし、各地で話題になるまで上り詰めたんだ!そして来てくれるお客様に、子供に、私は夢を与えているんだぞ!」 ヴェリテ:「夢...ですか。」 ヴェリテ:「他人に夢を与えている人間が、無自覚とはいえやっている事は大量殺人と変わらない。」 ヴェリテ:「あなたはもうピエロ失格なんですよ。」 0:動揺し、崩れるイロニ。 イロニ:「うぅ、ゔぁぁああ。私は、私はただ!全ては、このサーカスの為に!」 ヴェリテ:「ブラーグ、どうだ?こいつの状態は。」 ブラーグ:「あぁ。こいつの魂グラグラだぜ!」 ヴェリテ:「それは良かった、もう食っていいぞ。」 0:ブラーグがイロニに近づき、心臓に手を当て魂を取り出し食べる。 イロニ:(苦しそうに) イロニ:「うぅ、あっ...あああ!」 ブラーグ:「それじゃあ、遠慮なく。あーー。」 ヴェリテ:「どうだ?うまいか?」 ブラーグ:(食べながら) ブラーグ:「あぁ、なかなかだ。悪人ほど味が上質なんだが、精神を揺さぶられると、より一層深い味わいになる。」 ヴェリテ:「そういうものか。」 ヴェリテ:「揺さぶられた不安定な魂を喰らう悪魔...か。」 ヴェリテ:「何かと後始末が面倒そうだし、もうここを離れるぞ。箱を持て、回収するぞブラーグ!ほら、ボサッとするな。」 ヴェリテ:「ん?向こうの方角から遺物の匂いがする急げ!」 ブラーグ:「へいへい。次は今回ほど、こき使われるのは、ごめんだぜ?」 ヴェリテ:「あぁ、ほどほどにしておいてやる。」 ヴェリテ:「今回の遺物は、気に入らない、消したい奴を都合良くこの世から排除する"悪魔の箱"だった。いつの時代も、人間という生き物は欲深い。」 : : : 0:finー

0:登場人物 ヴェリテ:「クールで冷静沈着。」 ヴェリテ(N): ブラーグ:「落ち着きが無く、好奇心旺盛。」 ブラーグ(M): イロニ:「落ち着いた風貌だが、キレやすい。」 : :本編 : ヴェリテ(N):かつて悪魔が人間と契約をし、その抱いた欲により生み出された、悪魔の遺物があった。 ヴェリテ(N):強大過ぎる力ゆえに隠されていたその遺物が、数世紀の時を経て、さらに欲深い人間の手に渡り、各地で奇妙な事が起こっていた。 ヴェリテ(N):人間の欲望に満ちた魂を食べる悪魔と共に、悪魔の遺物を収集すべく各地を回る青年の物語。 : : 0:客席でヴェリテとブラーグがサーカスを眺めている。 ブラーグ:「ったく始まってからずっと、すげぇ歓声だなぁ。」 ヴェリテ:「今流行りのイロニサーカス団だからな。」 ブラーグ:「この大勢の人間の中に、今回のターゲットが本当にいるってぇのかぁ?どうやって見つけるんだ、ヴェリテ?」 ヴェリテ:「まあ見てろよ。じきにクライマックスだ。」 ブラーグ:「ん、誰かステージに出てきたぞ?」 0:ステージのセンターで、イロニが声を上げる。 イロニ:「皆さま、わたくしがこのサーカスの団長、イロニでございます。」 イロニ:「さあ、次がお待ちかねの最後の演目でございます。こちらをご覧ください!」 0:歓声が上がる。 ブラーグ:「ん、なんだぁ?あの、人間がまるごと中に入れそうなデカい箱は?」 ヴェリテ:「このサーカスの一番の見世物、人が消えるイリュージョンだとさ。」 ブラーグ:「はぁ?イリュージョン?...ってなんだ?」 ヴェリテ:「あー、どうせあの箱に人を入れて、次に開けた時には、中には誰もいないって客を驚かせる手品だ。」 ブラーグ:「人間ってのは、そんな事ができるのか?まるで悪魔か天使みたいな芸当じゃないか。」 ヴェリテ:「悪魔はお前だろ、ブラーグ。まぁ普通なら何を言ってるんだって返すところだが、今回の狙う"悪魔の遺物"はアレだ。」 ブラーグ:「本当にあの箱が遺物か?つまりターゲットは持ち主の団長、イロニってやつか。」 イロニ:「こちらに見えますのは、当サーカス自慢のマジックボックスでございます。」 イロニ:「そして今回この箱を使ってのイリュージョンに参加していただくのは、ポール・リオンヌ氏でございます。」 ブラーグ:「あー?誰だ、アレ?」 ヴェリテ:「あいつは、鉄道の実業家だ。このサーカスは、一公演毎にスポンサーを募って、ああやってゲストに招待してクライマックスのイリュージョンに参加してもらうのさ。」 ブラーグ:「それに何の意味があるんだ?」 ヴェリテ:「色々と宣伝になるんだろう。一躍話題のサーカスで脚光を浴びれば、そのまま自分に利益が返って来ると踏んでるわけだ。」 0:ゲストを誘導するイロニ。 イロニ:「さあ段差にお気をつけて。えぇ、そのまま、このマジックボックスの中へどうぞ。」 イロニ:「では皆様、ご覧ください!いきますよ!さあ今、マジックボックスの扉を閉じました!」 イロニ:「見た目通り古めかしい箱でございますので、剣を刺したり、槍で貫いたりなどは出来ませんが、おやおや、おやおや?既にこのマジックボックスの中からは人の気配がしません。」 イロニ:「今私がおこなったのは照明も切らず、扉を閉じただけ。この口を開いて喋っている間にゲスト様は一体どうなったのでしょうか!」 イロニ:「では、マジックボックスの扉を開けましょう...そして、夢は現実へ。」 0:歓声が上がる。 ブラーグ:「ほう、本当に消えてやがる!」 ヴェリテ:「消えた...ねえ。確かにその通りだな。」 イロニ:「大成功でございます!これにて終演とさせていただきます!!」 0:外へ。(間をあける) ブラーグ:「あーっ、やっと外に出られた。人が多いんだよまったく。」 ヴェリテ:「初めてのイリュージョンショーはどうだった?」 ブラーグ:「そりゃ凄いんだろうけど、とりあえずアレが遺物だっていうなら、さっさと貰いに行こうぜ。」 ヴェリテ:「それが簡単にはいかないのさ。あの団長のイロニというやつは、普段あのマジックボックスとか呼んでいる遺物を、テントの中の鍵付きの部屋に隠してるらしい。」 ヴェリテ:「それまで客がからっきしだったサーカスが、遺物の箱のおかげで大流行だとさ。」 ブラーグ:「ふん。それじゃあ一体どうやって箱を奪うんだ?」 ヴェリテ:「それなんだがブラーグ、これからお前にこのサーカスの入団試験を受けてもらう。」 ブラーグ:「は?...にゅ、入団試験!?」 ヴェリテ:「安心しろ、悪魔的な身のこなしのお前なら簡単な事だ。もう手続きもしてある。」 ブラーグ:「そうかいそうかい、こき使ってくれるじゃねぇか。」 ヴェリテ:「時折様子を見に行く。進展があればその時に報告してくれ。」 ヴェリテ:「それと、ほら申請書だ。これを持ってこのサーカスのテントの裏で待っていればいいそうだ。」 ブラーグ:「はいよ。ったく。」 ヴェリテ:「そう怒るなよ。今回もきっと、悪魔のお前に極上の魂を喰わせてやれるだろうよ。」 ブラーグ:「へいへい。」 0:二人は別れ、グラーヴはテントの裏へ。(間をあける) ブラーグ:「はぁ...ここでいいのか?誰もいやしないぞ。」 0:背後からナイフが飛んでくる。 ブラーグ:「ふっ!」(よける) ブラーグ:「ナイフが飛んで来た!?」 ブラーグ:「おい誰だ!ナイフ投げの練習中か?危うく刺さっちまうところだったぜ?!」 イロニ:「反射神経、危機察知能力、運動能力、全て問題無し。」 ブラーグ:「おまえは!?」 イロニ:「おっと失礼。入団テストもいちいちやっていられないもので、飛んできたナイフにどう対処するのかを見させていただきました。」 ブラーグ:「もし死んでいたらどうするつもりだ?」 イロニ:「ふふふ。そのときは、それまでの人間だったという事です。」 ブラーグ:「はぁ?!まったく、なんてやつだ。」 イロニ:「ご存知かと思いますが、私は団長のイロニ。あなたがブラーグさんですね。ひとまず合格という事で。さあ、テントの中へどうぞ。」 0:テントの中へ入る。 イロニ:「どうですか、テントの中は?」 ブラーグ:「あぁ、意外と広いな。器具やら仕掛けの装置やら、こんなに色々あるのか。」 イロニ:「ええそうですとも。とりあえず、あなたにはここで、次の公演までにサーカスの団員として使えるように、しっかりと練習してもらいます。」 イロニ:「そうですね、まずは玉乗りから。」 0:ブラーグが大玉に乗る。 ブラーグ:「よっ!ほらよ、玉乗りなんてっ...簡単だろっ?」 イロニ:「ほう...なかなかにやりますね。」 イロニ:「なら他にもいろいろ覚えてもらう事にしましょう。」 0:数日が経つ。(間をあける) ブラーグ:(外へ出て休んでいる) ブラーグ:「あー、やっと休憩だ。何日も毎日毎日練習なんて、疲れて仕方ないっての。」 ヴェリテ:「ブラーグ、数日経ったが調子はどうだ?追い出されていないところを見ると、順調そうだな。」 ブラーグ:「やっとお出ましか?何もかも大変だっつーの。」 ヴェリテ:「それで、マジックボックスとやらは盗み出せそうか?」 ブラーグ:「ありゃぁ無理だね。まずどこにあるのかわかりゃしない。」 ヴェリテ:「ほぅ、お前でも手こずる事があるんだな。」 ブラーグ:「バカ言うなよ、イロニの目を盗んで探索なんざ至難の業だぞ。」 ヴェリテ:「早速その至難の技とやらを発揮してきてくれ。」 0:紙を手渡す。 ブラーグ:「はぁ?...これは?」 ヴェリテ:「最後の見せ場のイリュージョンあるだろ?あれに参加する為の証明書だ。スポンサーの証ってやつだ。契約やらの細かい事は、下っ端の奴らとやり取りして、本契約してからイロニの元へ届くらしい。」 ヴェリテ:「そして、次回のスポンサーの証明書と、そいつを入れ替えてきてくれ。」 ブラーグ:「ばっ..おまえ!」 ヴェリテ:「しっ!誰か来る。じゃ、頼んだぞ。」 ブラーグ:「ったく人使いが荒いんじゃないのか!?」 イロニ:「ここにいたのかブラーグ。」 ブラーグ:「ん?何か用でもあるのか?」 ブラーグ:「まさか、更に新しい芸をやらせようとしてるんじゃ...。」 イロニ:「いや、そうじゃない。今日は用事があって、少しの間サーカスを離れる。その間に怪我などされては困るから、念を押しにきただけだ。」 ブラーグ:「出掛けるのか?一体何しに?」 イロニ:「なに、サーカスの公演には、たくさん準備する事があるってだけだ。」 ブラーグ:「あぁ、そうか。」 ブラーグ(M):「つまりは、チャンスってことじゃないか!?こいつの部屋に行って証明書をすり替えられるってことだろ!」 0:サーカスの奥の部屋の前(間をあける) ブラーグ:「イロニがやっと出て行った。ったく頑丈そうな扉だなぁ。鍵は、...おっ!意外と単純――」 イロニ:(少し大きな声で) イロニ:「ブラーグ。」 ブラーグ:「わっ!?な、なんだ!?」 イロニ:「私が出かけている隙に何か企んでいましたね?」 イロニ:「練習中も目が泳いでいて、ずっと私の部屋の方を見ていた。そろそろ痺れを切らしてボロを出す頃だと思ったよ。」 ブラーグ(M):「ま、まずいまずいまずいまずい!このままヤラれる!」 0:逃走をはかる。 ブラーグ:「はぁ、はぁ。とにかく外へ!ヴェリテに知らせないと!!俺たちのたくらみは、始めからバレてやがったんだ!!くそっ!一体どうすれば――」 イロニ:「どこへ行こうというんです?」 0:捕まる。 ブラーグ:「んな!!なぜ先回りされてるんだ!?」 イロニ:「このテントの中は仕掛けだらけでね。あなたに教えていないモノも沢山ある。そして私は誰よりも速く移動することが可能だ。」 イロニ:「おや?手に持っているのは、何の紙ですか?ふむふむ証明書。私の部屋から盗みましたか。」 ブラーグ(M):「こいつ、気づいてない?その証明書はすり替えようとしたほうだ。」 イロニ:「まあ良いでしょう、あなたが今後上げるであろう功績に免じて見逃してあげます。それほどあなたの身のこなしや技は見事ですから。」 ブラーグ:「芸は身を助けるってやつか。ははっ。」 ブラーグ(M):「後でまた忍び込んで、本物の証明書を盗んでおくか。」 0:(間をあける) ヴェリテ:「随分遅かったな。すり替えは上手くいったか?」 ブラーグ:「色々あったが、成功だ。本物の紙は燃やしておいた。」 ブラーグ:「一体誰の証明書とすり替えたんだ?そういや、内容は見てなかったんだが。」 ヴェリテ:「よくやったブラーグ。すり替えた人物は当日の楽しみにしておけ。ひとまず任務は終わりだな。あとはピエロとしてサーカスを楽しむといい。」 ブラーグ:「ふざけた事を。ちゃんとあのイロニの魂を食えるんだろうな?」 ヴェリテ:「おそらく問題ないだろう。じゃあ、サーカスの公演当日にまた会おう。」 0:サーカス当日。(間をあける) ヴェリテ:「さて、今日がサーカス当日だ。あの遺物の箱の性質を利用して、上手くいけば箱も魂もいただけるわけだが、どうしてくれようか...。」 ヴェリテ:「この私の元に、事前に招待状をよこすとは、律儀なサーカス団ではあるようだ。」 ヴェリテ:「ブラーグは驚くかもしれないな、ゲストはこの私なのだから。そろそろ会場へ向かうとしよう。」 0:サーカス舞台裏。 イロニ:「知っているか、ブラーグ?」 ブラーグ:「はぁ?なにがだ?」 イロニ:「マジックボックスのイリュージョンで、消えたゲスト達のその後。」 ブラーグ:「その後って、どこか舞台の外にでも出して、そのまま帰らせるようなもんじゃないのか?」 イロニ:「いや、どういうわけか誰も戻ってはこない、そして、何か大事なことも忘れさせられている気分になる。」 ブラーグ:「おい、それって。」 イロニ:「だが心配するな。不思議な事に、誰一人として捜索願いすらでていないんだ。」 ブラーグ:「じゃあ今日のゲストとやらも...。」 イロニ:「もちろんそうだ。どこかへ消える。」 ブラーグ(M):「今回の遺物はとんでもない代物《しろもの》だなぁおい。」 0:テント前。 ヴェリテ:「さて着いたが、ここから入れとばかりにテントが開いている。」 ヴェリテ:「ほう、中は結構広いな。」 イロニ:「これはこれは、ようこそいらっしゃいました、ルイ・アベラール様。」 ヴェリテ:「ああ、どうも。この有名なサーカスの団長にお会い出来て光栄です。」 イロニ:「いえいえ何をおっしゃいます、この度は当サーカス団のスポンサー並びに、ラストを飾るイリュージョンの特別ゲスト様として手厚くおもてなしさせていただきます。」 ヴェリテ:「あの、マジックボックス?を使ったイリュージョンはとても見ものですね。私も楽しみです。」 イロニ:「はい、ありがとうございます。それではこちらの控室にて、こちらからお呼びするまでお待ちください。」 ヴェリテ:「あぁ、どうも。」 イロニ:「それでは、失礼いたします。」 0:扉を閉じてイロニが去る。(間をあける) ヴェリテ:「全く疑う気も無しか。今日ここに来るはずだった本物のスポンサーと偽装して来てるんだがな。」 ヴェリテ:「ルイ・アベラール。財閥の御曹司らしい。この私と背格好や、見た目の年齢が近いゆえに利用させてもらった。」 0:係のものが呼びに来る。 ヴェリテ:「ん?あぁ、そろそろ出番ですか。それでは参りましょう。」 0:ブラーグがサーカスの演目をこなしている。 ブラーグ:「よっ!はっ!ったく、俺ばっかなんでこんな事しなくちゃ!いけないんだ!次でラスト!はぁ、はぁ。やっと、...終わったぁ。」 0:イロニが客席へ言葉を放つ。 イロニ:「御会場の皆様、いかがでしたでしょうか!」 イロニ:「実は最初からずっと舞台でパフォーマンスをしているのは、ブラーグという所属したばかりの新米でございます。」 イロニ:「どうか大きな拍手を!」 0:拍手が起きる。 ブラーグ:「ふぅ。問題はここからだ、ヴェリテのやつがどう仕掛けてくるのか。」 イロニ:「そして、申し遅れました!わたくがこのサーカスの団長、イロニでございます。」 イロニ:「さあ、次がお待ちかねの最後の演目でございます。こちらをご覧ください!」 0:歓声が上がる。 イロニ:「この箱こそが、当サーカス自慢のマジックボックスでございます。」 イロニ:「そして今回この箱を使ってのイリュージョンに参加していただくのは、ルイ・アベラール氏でございます。」 ヴェリテ:「御客席の皆様、只今ご紹介いただきました、わたくしルイ・アベラールでございます。」 0:舞台裏でブラーグがヴェリテに気づく。 ブラーグ:「あー?あいつ、ヴェリテだろ?!こいつは驚いた。わざわざイリュージョンのゲストと入れ替わるとはな!どう楽しませてくれるんだ?」 イロニ:「アベラール様は今回の公演のスポンサー。そして、ゲストとしてもお招きいたしました。」 ヴェリテ:「皆様楽しんでおられますでしょうか、今宵このイロニサーカス団の終焉《しゅうえん》を仰せつかっております。どうぞ最後までよろしくお願いいたします。」 イロニ:「さあ段差にお気をつけて。そのままマジックボックスの中へどうぞ。」 0:ヴェリテが箱の中へ。 イロニ:「では皆様、ご覧ください!いきますよ!さあ今、マジックボックスの扉を閉じました!」 イロニ:「見た目通り古めかしい箱でございますので、剣を刺したり、槍で貫いたりなどは出来ませんが、おやおや、おやおや?既にこのマジックボックスの中からは人の気配がしません。」 イロニ:「今私がおこなったのは照明も切らず、扉を閉じただけ。この口を開いて喋っている間にゲスト様は一体どうなったのでしょうか!」 イロニ:「では、マジックボックスの扉を開けましょう...そして、夢は現実へ。」 0:箱を開ける。 ヴェリテ:「どうも。」 イロニ:「は?」 ブラーグ:「すげぇ!消えずに残ってやがる!」 イロニ:「な、なぜ!?だ、弾幕を閉めろ!!」 0:弾幕が閉まる。 イロニ:「一体、どういう事だ!なぜ消えない!」 ヴェリテ:「まず、消えないという表現はどういう事ですか?」 ヴェリテ:「あなたが意図的にイリュージョンと称してやっている事なら"消せない"が正しい表現なのではないですか?」 イロニ:「なんだいきなり!」 ヴェリテ:「あなたがマジックボックスと呼んでいるこの箱、人を消すには条件があるんですよ。」 イロニ:「わけのわからないことを!?」 ブラーグ:「その話聞かせてもらいたいね。もう舞台裏から出てきてもいいだろ?」 ヴェリテ:「あぁ、いいとも。」 イロニ:「おまえら仲間だったのか!?」 ヴェリテ:「ひとまず聞いてください。」 ヴェリテ:「この箱で人を消すには、その人間の情報が必要なんです。簡単な話、名前だけでいいんです。」 イロニ:「名前なら事前に確認済みだ!箱に入る前にも呼んでいるだろう!?」 ヴェリテ:「ルイ・アベラールは私の名前ではありません。私はヴェリテ・ルロワ。世界各地に散らばった悪魔の遺物を探しています。」 イロニ:「悪魔の遺物?!マジックボックスがそうだっていうのか!」 ヴェリテ:「ええ、そうです。欲深い人間が悪魔と契約をしてこの世ならざる力を得られる代物《しろもの》の事です。」 イロニ:「この箱は、確かにどこかへ消える力を持っているが、この世の力以上なんて思えない――」 ヴェリテ:「あなたは勘違いをしていますよ。」 ヴェリテ:「この箱は、人を移動させているのではなく、人の存在そのものを消してしまう特殊なモノなのです。」 ヴェリテ:「もちろん突如、人がいなかった事になれば、矛盾が生じます。なのでぼんやりとしか覚えていないといった感情で止まりますが。」 ブラーグ:「ほう、そういうことか。確かにこの世の力以上だな。」 イロニ:「全てでまかせじゃないのか、何故そんなことを知っている?!」 ヴェリテ:「だってこれ、もともと私のモノですから。」 0:慌て出すイロニ。 イロニ:「そんなわけ無いだろう!これは私が見つけたものだ!こんな事してタダで済むと思っているのか?前代未聞だぞ!」 イロニ:「そもそも何しに来たんだ、私だってこの名前は芸名だ!箱を使ったところで消されはしないぞ!」 ヴェリテ:「箱に入る前に言ったじゃありませんか、サーカス団の終焉《しゅうえん》と。終わらせにきたんですよ。」 イロニ:「なんだと!今までガラガラだった客席を、やっとの思いで常に満員にし、各地で話題になるまで上り詰めたんだ!そして来てくれるお客様に、子供に、私は夢を与えているんだぞ!」 ヴェリテ:「夢...ですか。」 ヴェリテ:「他人に夢を与えている人間が、無自覚とはいえやっている事は大量殺人と変わらない。」 ヴェリテ:「あなたはもうピエロ失格なんですよ。」 0:動揺し、崩れるイロニ。 イロニ:「うぅ、ゔぁぁああ。私は、私はただ!全ては、このサーカスの為に!」 ヴェリテ:「ブラーグ、どうだ?こいつの状態は。」 ブラーグ:「あぁ。こいつの魂グラグラだぜ!」 ヴェリテ:「それは良かった、もう食っていいぞ。」 0:ブラーグがイロニに近づき、心臓に手を当て魂を取り出し食べる。 イロニ:(苦しそうに) イロニ:「うぅ、あっ...あああ!」 ブラーグ:「それじゃあ、遠慮なく。あーー。」 ヴェリテ:「どうだ?うまいか?」 ブラーグ:(食べながら) ブラーグ:「あぁ、なかなかだ。悪人ほど味が上質なんだが、精神を揺さぶられると、より一層深い味わいになる。」 ヴェリテ:「そういうものか。」 ヴェリテ:「揺さぶられた不安定な魂を喰らう悪魔...か。」 ヴェリテ:「何かと後始末が面倒そうだし、もうここを離れるぞ。箱を持て、回収するぞブラーグ!ほら、ボサッとするな。」 ヴェリテ:「ん?向こうの方角から遺物の匂いがする急げ!」 ブラーグ:「へいへい。次は今回ほど、こき使われるのは、ごめんだぜ?」 ヴェリテ:「あぁ、ほどほどにしておいてやる。」 ヴェリテ:「今回の遺物は、気に入らない、消したい奴を都合良くこの世から排除する"悪魔の箱"だった。いつの時代も、人間という生き物は欲深い。」 : : : 0:finー