台本概要
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タイトル | 奇跡を、咲かせ |
---|---|
作者名 | 栞星-Kanra- |
ジャンル | ラブストーリー |
演者人数 | 4人用台本(男2、女2) |
時間 | 30 分 |
台本使用規定 | 非商用利用時は連絡不要 |
説明 |
環境を破壊し続けた人類 過去に何度も起きた、神による、地球のリセット ならば、それよりも先に人類の手でリセットをしてやる そんな方針を各国が打ち出し、合意 残された時間は、二ケ月 最期のとき。あなたは何をしていますか?何をしていたいですか? 性別変更:不可 誤字、脱字等ありましたら、アメブロ『星空想ノ森』までご連絡をお願いいたします。 読んでみて、演じてみての感想もいただけると嬉しいです。 1155 views |
キャラ説明
名前 | 性別 | 台詞数 | 説明 |
---|---|---|---|
桔梗 | 男 | 74 | 桔梗(ききょう)。研究チームのリーダー。後半は、バイオレット |
葵 | 女 | 77 | 葵(あおい)。研究チームのサブリーダー。後半は、ローズ |
城井 | 男 | 73 | 城井(しろい)。研究チームのムードメーカー。後半は、アネモネ |
雫 | 女 | 62 | 雫(しずく)。研究チームの最年少。後半は、スノー |
※役をクリックするとセリフに色が付きます。
台本本編
0:キャラクター名の変更、および、一人称、語尾等の変更は、演者様間でお話の上、ご自由に楽しんでいただければと思います。
0:なお、世界観、内容が変わるほどの変更やアドリブは、ご遠慮ください。
0:
0:(役紹介)
0:【桔梗】桔梗(ききょう)。研究チームのリーダー。後半は、バイオレット
0:【葵】葵(あおい)。研究チームのサブリーダー。後半は、ローズ
0:【城井】城井(しろい)。研究チームのムードメーカー。後半は、アネモネ
0:【雫】雫(しずく)。研究チームの最年少。後半は、スノー
0:
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:――(上演開始)――
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桔梗:ニュースで聞いて知っている者もいると思うが、昨日、各国首脳が共同声明を発表した。
桔梗:内容は、二ケ月後に、この地球を破壊し、全生命活動の終止符を人類の手で打つ、というものだ。
桔梗:それに伴い、国、企業からの資金援助の停止が決まった。
桔梗:故に、この研究チームも今日で解散する。
桔梗:荷物は今日中にまとめてくれ。 以上だ
葵:ちょっと待ってよ! いくら何でも急すぎる! 資金援助が打ち切られたとしても、ここにあるものは使える! まだ研究は続けられるでしょ?
桔梗:研究室も使用禁止になった。 ……わかるだろう? 地球を滅ぼすと決まった今、俺たちのような研究者は不要なんだ。 必要とされたければ、地球を崩壊させる側の研究者にでもなれ
葵:そんな……
雫:桔梗(ききょう)さんは、本当にそれでいいんですか?
桔梗:決まったことだ。 どうしようもない。 ……話すことはもうない。 理解したなら、荷物の整理をし始めてくれ
葵:ちょっと待ってよ! あっ……!
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:(桔梗、退室)
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城井:……いいのか? 雫(しずく)
雫:イヤだ……。 絶対、イヤっ!
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:(雫、桔梗を追いかける)
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葵:ちょっと! もう……雫ちゃんまで
城井:放っておけばいいよ。 どうにかなるって。 それより、葵(あおい)さんはどうするの?
葵:えっ?
城井:いや。 研究できなくなるじゃん? あと二ケ月、どうするのかなぁって
葵:地球からの悲鳴を無視して環境を破壊し続けて、このままだと恐竜よろしく絶滅させられるって、わかったから、
葵:神の審判の前に、自分たちで壊そうだなんて馬鹿げたことを言い出して。
葵:それが各国満場一致で決定したことに衝撃を覚えていたら、研究まで取り上げられる始末。
葵:完全に思考停止状態。
葵:あーぁ、こんなことになるなら、学生時代、もっと遊んだり、色んな人生経験をしておくんだった。 彼氏作って、デートしたり
城井:えっ、彼氏いたことないの?
葵:研究者になることしか頭になかったから、時間の無駄になることは、全部除外してきた
城井:無駄って……。 じゃあ、今から彼氏作ればいいじゃん
葵:今から? あと二ケ月しかないのよ? 出会い求めて合コンとか行ってる間にタイムリミットを迎えることになるでしょ。 まぁ、妥協したらいくらでも相手なんてすぐに見つかるんだろうけど
城井:なんで今から出会う必要があるの? 俺で良くない?
葵:え?
城井:だから、彼氏! 俺で良くない? 俺もちょうど、フリーだし
葵:はぁ。 お互いにフリーだからって理由で付き合うのは、どうかと思うけど? それに、城井も彼女が欲しいのなら、雫ちゃんの方がいいんじゃない? 男って可愛い子の方が好きでしょ? あの子、彼氏いないわよ、多分
城井:あぁ、雫はパス。 前に付き合ってた彼女が、アレ系で面倒臭かったんだよね
葵:……。 あんたたち、よく意気投合してなかった?
城井:アレはアレ。 仕事仲間や友達としてはいいけど、彼女には有り得ない。 ってか、そもそも、他に好きなヤツいる女はなぁ
葵:えっ、雫ちゃん、好きな人いるの?
城井:うそ、気付いてなかったの? ……葵さん、鈍感って言われない?
葵:え? 何? 今度は喧嘩売ってるの?
城井:何でもないでーす。 で? 俺と付き合ってくれる?
葵:まぁ、身元もしっかりしてるし、その点では無難か
城井:うわっ! なんか、妥協点、微妙なんですけど
葵:じゃあ、やめとく?
城井:いやいや! 滅相もございません! ……これから、よろしくお願いします、葵さん
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:(少し間を置く)
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雫:見つけた! 桔梗さん
桔梗:あぁ、何の用だ?
雫:本当に諦めちゃうんですか? 研究を続けるの
桔梗:続けられないんだから、仕方がないだろう。 何か続ける方法でもあるのか? あるのなら言ってみろ。 打開策も思い付かず、ただ期待と理想を口にしているだけなら子供と一緒だ
雫:……思い付きません。 思い付いてません! でも……でも、このままはイヤなんです
桔梗:はぁ。 いい加減にしろ。 残された時間はあと二ケ月しかないんだ。 ちょっとは有意義に使う方法でも考えたらどうなんだ?
雫:じゃあ、桔梗さんはどうなんですか? 何かしたいことはあるんですか?
桔梗:っ! ……やめろ。 俺のことは放っておいてくれ……
雫:……桔梗さん?
桔梗:ずっと……ずっと、子供の頃から研究者になる。 それを目標に、ただそのためだけに生きてきた。 努力してきたんだ。 それを、こんな急に失って……他にしたいこと? あるわけないだろう!
雫:……桔梗さん
桔梗:……ははっ。 偉そうなことを言って、結局自分は何も思い付いていないんだ。 かっこ悪いよな
雫:そんなことないです! 桔梗さんは、誰よりも、凄く、凄くかっこいいです!
桔梗:今の俺を見てもか? 心にもないことを言うのも大概にしろ
雫:思ってます! かっこいいって!
雫:だって、ずっと……ずっと、桔梗さんのこと好きだったから! いつも、かっこよくて、冷静で、みんなを引っ張っていってくれて。
雫:この人に着いていったら、ううん、一緒だったら絶対に大丈夫だ! 間違いない! って、思わせてくれる。 安心できる。
雫:そんな桔梗さんが、桔梗さんだから……好きになったんです!
雫:……もし、これから、したいことがないなら……それなら、残った時間を私にください!
桔梗:……ください? 何をするつもりだ?
雫:桔梗さんは、研究一筋だし、でも、ずっと一緒にいられるなら、それでもいい、って、思ってきました。
雫:でも、研究が終わっちゃうなら……一緒にいられなくなっちゃう。 会えなくなっちゃう。 そんなのはイヤです!
雫:最後まで、桔梗さんのそばにいたいんです……
桔梗:……そばにいたい。 それつまり、端的に言うと、付き合いたいってことか?
雫:……はい。 もちろん、桔梗さんが良かったら……ですけど
桔梗:……今から付き合ったとしても、後二ケ月後には何もかもがなくなる。 何も残らないんだぞ?
雫:残ります! 私にとっては、素敵な、幸せすぎる時間が。 大切な思い出が。 桔梗さんと作れます!
桔梗:はぁ。 ……そんなに言うなら、好きにしろ
雫:えっ、じゃあ、付き合ってもらえるんですか?
桔梗:あぁ。 但し、デートプランの丸投げはしてくるなよ
雫:はいっ! じゃあ、じゃあ、明日! 明日、早速、デートしてください!
桔梗:ははっ。 その切り替えの速さは何なんだ。 わかった。 で、どこに行くんだ?
雫:水族館!
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:(少し間を置く)
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桔梗:で、デートの鉄板コースか
雫:映画もいいなぁって思ったんですけど、それだと、観たいものが絶対割れる気がして
桔梗:まぁ、俺なら、洋画一択だな
雫:私は、邦画ばっかりです
桔梗:だろうな
雫:ですよね。 あっ、エイだー、可愛い!
桔梗:泳いでいる姿は優雅だとは思うが、可愛いか?
雫:可愛いじゃないですか! あれが目で、あれが口って思ったら、可愛い顔してませんか?
桔梗:実際には、鼻、だけどな
雫:いいじゃないですか! ぱっと見、可愛いんですから、それで!
雫:桔梗さんは、どの子が好きなんですか? ラッコとか……クラゲとか?
桔梗:あぁ。 クラゲも確かに幻想的でいいな。 ……そうだな、今、思いつくのは、イルカかな?
雫:イルカですかー。 イルカも可愛いですよね
桔梗:頭が良いことでも有名だしな。 研究対象にできるなら、色々と試してみたいことがある
雫:桔梗さん、すぐにそっちに行っちゃう
桔梗:悪かったな
雫:いいんですよ、それが桔梗さんだから。 あっ、もうすぐイルカショーがあるみたいですよ! 行きましょう!
桔梗:あぁ。 ……。 おい、そこのベンチに座れ
雫:え? はい……。 どうしたんですか?
桔梗:ここで待ってろ
雫:えっ? ちょっと待ってくだ……って、行っちゃった。
雫:どうしたんだろう?
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:(少し間を置く)
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桔梗:これ、貼っておけ
雫:えっ?
桔梗:そこのインフォメーションで貰って来た。 靴擦れ。 隠し通せると思ったのか?
雫:うっ
桔梗:だいたい、いつも試薬を運んだりするために、フラットな靴を履いているだろう。 それなのになぜ、ヒールのある靴を履いてきた?
雫:だって……だって、せっかく桔梗さんとデートできるのに、かっこいい桔梗さんの隣は、いつもの私じゃ釣り合わない気がして……
桔梗:それで、怪我してたら、意味ないだろ
雫:それでも、お洒落したかったんですもん……
桔梗:はぁ
雫:ごめんなさい
桔梗:いや。 他の相手だったら、到底理解ができない言葉だ。 理解する気がない、が、正確か。 何にせよ、面倒だと感じただろうな。 でも、お前なら……なんとなく理解できる。 伝わってくる、が相応しい表現か。
桔梗:……それだけ、同じチームで仕事をしてきた仲ってことなんだろうな。
桔梗:さて、と。 ここからだと、お前の家の方が近いだろ?
桔梗:その足で歩き回るのも辛いだろうし、お前の家で昼ご飯にするか。 イルカショーは、また今度におあずけだ
雫:えっ、あの……私、料理得意じゃない
桔梗:知ってる。 期待してない
雫:うっ
桔梗:俺が作る。 指示は出してやるから、サポートに入れ。 ……得意だろ? 俺のサポートだったら
雫:っ! はいっ!
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:(少し間を置く)
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城井:いやー、まさか手料理食べさせてもらえるなんて
葵:このご時世、営業しているご飯屋さん探す方が大変でしょ。 簡単なものばっかりだけど
城井:そんなことない、そんなことない! 手料理とか久々だし
葵:彼女に作ってもらってなかったの?
城井:2年目くらいまではいたんですけど、それっきりかな? 結局、仕事が楽しくなっちゃって、連絡を疎かにしてたら、それにあっちが勝手にキレて、自然消滅
葵:そういうところはマメなのかと思ってた
城井:いやー、基本一途だから、仕事に一途になりすぎちゃって
葵:あっ、聞いた私が悪かった。 さっさと食べて?
城井:へーい。 ……何? そんな見られると、めっちゃ食べ辛いんですけど
葵:あっ、ごめん! 他人(ひと)に作ったことないから、どうだろう……って、気になって
城井:えっ? ウソ? 友達とかには?
葵:友達の方が料理上手だったから、作ってもらう側だった。 料理をし始めたのは、社会人なって、一人暮らしを始めてからの必然
城井:へー、じゃあ、俺が初めての男なんだ?
葵:……言い方、なんとかならないの? というか、『男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる』 ……本当に言う人いるんだ
城井:俺の最後、あげるよ?
葵:後、二ケ月しかないのに、既に別れるつもりなら、最初っから付き合うとか言わないでくれる?
城井:はい、正論来たー
葵:……研究室から、何か薬、持ってくればよかった
城井:ちょ、それは犯罪だから、やめて
葵:どうせ、誰も気付かないでしょ
城井:……毎日のように行ってた場所だったのになぁ。 当たり前に、家みたいになってた
葵:……ホント。 家族じゃないのに、四人でいることが普通になってた
城井:って、冷める前にいただきまーす
葵:もう冷めてると思うけど?
城井:大丈夫! 俺の心はいつでも温かいから
葵:(無視)
城井:うわ、無視決め込まれた。 ……! えっ、めっちゃ旨! 俺の部屋、調味料とか何にもなかったよね? えっ、なんでこんなの作れんの? やっぱ、葵さん、凄ー! 天才っ!
葵:調味料はおろか、冷蔵庫の中も想定以下で衝撃を受けた
城井:すみませんでしたー。 でも、本当に美味しいんだけど! ……喋るのやめて、こっち集中していい?
葵:……っふ! そんなに喜んでもらえると思ってなかったから、なんか嬉しいわ。 ……ありがとう
城井:(反応なし)
葵:……いっつもふざけたことばっかり言ってるくせに、本当に集中すると無言になるんだから。 仕事のときもそうだけど……
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:(少し間を置く)
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城井:はー、美味しかった
葵:まだ入るなら、おかわりあるよ?
城井:えっ、マジ? でも、こっちからおかわりが欲しいな
葵:えっ? は? ちょ、何っ?! こっち来ないでっ!
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:(城井、葵に近寄る)
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城井:……ったー!
葵:えっ?
城井:何か、降ってきた
葵:天罰
城井:ひど! ちょっと彼女にくっつこうとしただけじゃん
葵:自業自得
城井:えっ、待って! ……ムードが台無しじゃん
葵:大丈夫。 元からないから
城井:いや、あった、あった! ……って、あっ、これか、落ちてきたの
葵:何それ? 金属の……塊?
城井:なんか、中に入ってるっぽいんですよねー。 この仕事に就くって言ったら、じいちゃんがくれて
葵:お祖父さん、何されてた方なの?
城井:ん? 一緒。 研究者
葵:……ねぇ、せっかくだから、その中身が何なのか、解明しない?
城井:え?
葵:研究室にある機械を使って
城井:……マジ?
葵:マジ! ……どうせ、バレないわよ。 こんなご時世だし
城井:イヤ、でも、せっかくのお家デートしてる――
葵:(城井のセリフに被せて)じゃあ、行こっか。 IDカード持って?
城井:……はい、了解でーす
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:(少し間を置く)
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葵:なんだろう? 内部に亀裂が入っているみたいだけど
城井:いっそ、壊しちゃいます?
葵:中身が無事である保証が取れないから、却下
城井:ですよねー
葵:桔梗たちにも連絡しよう
城井:えっ、きっと向こうもデートしてるから、邪魔しちゃマズい……って、聞いてないか
葵:あっ、もしもし? 今、忙しい?
桔梗:いや、ちょうど昼食を食べ終わったところだから大丈夫だ
葵:実はね、相談したいことがあって。 雫ちゃんとも共有したいから、このまま待っててくれる?
桔梗:あぁ、雫なら、ここにいる
城井:ほら、デートしてるじゃん、やっぱり邪魔だか――
葵:(城井のセリフに被せて)あっ、そうなんだ。 じゃあ、テレビ通話に切り替えるね
城井:俺の言葉は無視なんですねー!
桔梗:おい、そこ、研究室じゃないのか
葵:そう。 機械を動かしてる
桔梗:は? お前たち、何やっているんだ? 使用は禁止されたって伝えただろ
葵:城井の家で、変な金属の塊を見つけて、解析中。 中身は不明。 内部に亀裂と空洞は確認できたんだけど、それ以外はお手上げ状態
桔梗:……はぁ。 データを転送しろ
葵:了解
桔梗:……。 なんだろうな。 亀裂……空洞の体積を合計すると、中央への通路ができそうだが……。 まさか……からくり箱?
葵:えっ、なんて?
桔梗:からくり箱。 開けるために仕掛けが施されていて、その謎を解かないと開けられない箱だ。 秘密箱とも言われていたらしい。
桔梗:本来は木製のはずだが……なぜ金属で?
桔梗:あっ、悪い、話がそれたな。 からくり箱なら、きっと開ける方法があるはずだ
葵:と言っても、外から操作できなさそうなのよね。 外には亀裂がないし
桔梗:他に一緒にもらったものはないのか?
城井:いやぁ、これしか貰ってないんですよねー
桔梗:でも、絶対に開ける方法があるはずだ
雫:……溶けちゃったりして
桔梗:は?
雫:なんか、前に読んだお話でね。 そこでは、粉々になっちゃうことの言い換えで使われてたんだけど。 からくり箱が溶けちゃうって表現されてて、なんか印象に残ってたから
桔梗:溶ける……か。 おい、外側はすべて同じ金属が使われてるのか?
葵:確認する! ……あった! 一ヵ所、違う金属が混ざってる!
桔梗:その金属のみを溶かすものを探せ。 俺たちも今から研究室に向かう
葵:わかった
桔梗:足、大丈夫か?
雫:はい、大丈夫です! ありがとうございます。 ……やっぱり、そうしてる桔梗さんの方がかっこいい
桔梗:……はぁ。 ほら、行くぞ
雫:はいっ!
:
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:(少し間を置く)
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桔梗:どうだ?
葵:ちょうど、溶かしてるところ
城井:せっかくのデートの邪魔してごめんな
雫:ううん。 それに、ああやって、指示出してたりしてる時のほうが、生き生きしてて、楽しそうなんだもん
城井:俺の方も。 結局、ああいうとこに惚れたんだろうなぁって思うわ
雫:なんだかんだ言って、結局、こうしている時が一番幸せなんだよね
城井:ホントだな。 あーぁ、せっかく付き合えたのになぁ。 やりたいこと、いっぱいあるんだけどなぁ
雫:でも、買い出しとかでもなく、二人だけでお出掛けできたのは、楽しかった
城井:あー、確かに。 俺も手料理食べれるとは思わなかったわ
雫:えっ、葵ちゃん、料理作ってくれたの? 良かったね
城井:お前はやめとけよ。 せめて、セラミック包丁にしとけ?
雫:えっ、ちょっと待って! それ、怪我する前提だよね?!
城井:普通の包丁より、カラバリ豊富だぞ。 いいじゃん。 あっ、それか、ミネストローネとか、失敗してもバレないんじゃない?
桔梗:(城井のセリフに被せてもよい)雫! 喋っているだけで実験に参加する気がないなら、出て行け
雫:ごめんなさい! すぐ行きます!
葵:もう……。 あと二ケ月しかないのよ。 いい加減、雫ちゃんの名前だけ出して注意するのやめなさいよね?
桔梗:別に、雫にだけ言っているつもりはない
葵:無自覚か。 桔梗、このメンバーで定着するまでに辞めた人、桔梗の言い方が原因だった人も多いからね?
葵:みんながみんな、自分と同じレベルで仕事ができるわけじゃない。 集中力が保てるわけでも、ストレス耐性があるわけでもない。
葵:リーダーとしての資質で欠けているところを述べろと言われたら、そこを挙げる。
葵:……きつく言っても離れていかないってわかっているからって、さすがに限度はあるから。 それ、ただの甘えだよ? ちょっと優しくしてるくらいでちょうどいいんじゃない?
桔梗:優しく……か
:
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:(少し間を置く)
:
:
桔梗:よし、開いた!
葵:これは……植物の種?
雫:何の種だろう?
桔梗:これだけ長い時間、この箱の中に閉じ込められてたんだ。 芽を出させるのは難しいかもしれないな
葵:でも、お祖父さんも研究者だったんでしょ? 無駄なものを託さないと思う
桔梗:賭けてみるか。 残り二ケ月。 最後の研究だ
雫:はい!
葵:(雫のセリフと同時でもよい)うん
:
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:(少し間を置く)
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:
城井:結局、最後まで研究かぁ
葵:何? 不満?
城井:いや? こんなことになってなかったら、葵さんと付き合えてなかっただろうし
葵:えっ?
城井:だって、何かあったら気まずいじゃん。 ずっと四人でやってきたのに
葵:そんなこと、気にするんだ
城井:するよ
葵:なに? 案外、小心者なの?
城井:……本気で欲しいって思ったの、葵さんが初めてだって言ったら、信じてくれます?
葵:……さて、次は何を試そうかなぁ
城井:また無視かー!
葵:……ねぇ、今晩、ご飯作りに行ってもいい?
城井:えっ?
葵:だって、私を城井の最後の女にしてくれるんでしょ? それなら、私も、城井を初めての男にしてあげてもいいかな、って。 じゃあ、先に戻ってるから
城井:……くーっ! あーぁ、結局、葵さんには敵わないなぁ
:
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:(少し間を置く)
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桔梗:結局、デートも一回しかしてないな
雫:でも、今が楽しいから、いいんです! それに、かっこいい桔梗さんを、すぐ側で見れてるの、特権かなって
桔梗:それは、付き合う前から変わってないだろ
雫:今は、本人公認だから、また違うんですー
桔梗:(桔梗、雫にキスをする)
雫:えっ?
桔梗:それで我慢しろ
雫:えっ、えっ?
桔梗:……いつも、ごめんな。 それと、ありがとう。 葵に言われて、気が付いた。 きっと俺は、何を言っても、どんな言い方をしてもお前なら離れていかない。 それをわかっていて、無意識に甘えていた
雫:っ! うっ……
桔梗:……泣くところか?
雫:嬉しすぎです……
桔梗:せめて、あれが、芽を出してからにしろ
雫:無理です……待てません……
桔梗:はぁ。 ……じゃあ
桔梗:(桔梗、雫を抱きしめる)
雫:えっ!
桔梗:泣きたいなら、ここで泣けばいい
雫:……桔梗さんが優しすぎます
桔梗:そういうときもある
雫:……好きです
桔梗:……知ってる
:
:
:(少し間を置く。 以降、全員が人非ざるもの)
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城井:(以降、アネモネ)へぇ、ニンゲンって空を飛べなかったんだー。 移動、面倒くさくない?
葵:(以降、ローズ)クルマとかって、移動手段を使ってたらしいよ。 環境破壊しながら
城井:だから、滅んだんじゃん
葵:最後は、自分たちで消える道を選んだらしいよ。 神に対抗するぞーって
城井:ウソでしょ? それ、対抗したことになるの? それも、神が定めたことだって言われて終わりじゃん
雫:(以降、スノー)ローズ! アネモネ! あっちでも見つかったって
城井:おー、了解ー
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:(少し間を置く)
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:
雫:何かを大事そうに守ってる……っぽいね。 なんだろ?
桔梗:(以降、バイオレット)あー、それは、ハナっていうヤツだ
葵:へぇ。 綺麗
桔梗:そんな綺麗なものが生きる世界を奪ってまで、生き続けたのがニンゲンだ
城井:ふーん。 自分勝手な生き物だったんだ
桔梗:ん? 待て、それ、最後の時代には絶滅していたはずのハナだ
葵:えっ、そうなの? じゃあ、なんでここにあるの?
城井:さぁ?
桔梗:ここは研究施設だったみたいだ。 案外、最後の最後まで、研究に命を捧げた……ってところじゃないのか
雫:……実ったんだね
城井:えっ?
雫:研究が、実ったんだね
桔梗:そうだな
葵:壊しちゃったものを、蘇らせようとしたニンゲンもいたってことか
城井:そして、最後に奇跡が起きた……か
桔梗:研究者としては、これ以上ない幸せな最後だな
雫:……凄いことだよね。 終わるって知りながらも、最後の最後まで諦めずに続けられるなんて
城井:仲間がいたから続けられたんじゃない?
葵:それに、研究者が諦めたら、そこで終わっちゃうものね
桔梗:わずかでも、希望があるなら、奇跡が起こせる可能性があるのなら、信じて進み続ける。 それが、研究者だ
葵:……なんか、私たちも負けていられないね。 同じ研究者として
城井:そうだな
桔梗:俺たちも、やるか
雫:うん!
城井:奇跡を
葵:咲かせ
:
:
:――(上演終了)――
:
:アフタートーク用情報 名前の由来
:
:紫のトルコキキョウ(バイオレット桔梗) 花言葉は『希望』
:青いバラ(葵ローズ) 花言葉は『夢が叶う』
:白いアネモネ(城井アネモネ) 花言葉は『希望』
:スノードロップ(スノー雫) 花言葉は『希望』
0:キャラクター名の変更、および、一人称、語尾等の変更は、演者様間でお話の上、ご自由に楽しんでいただければと思います。
0:なお、世界観、内容が変わるほどの変更やアドリブは、ご遠慮ください。
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0:(役紹介)
0:【桔梗】桔梗(ききょう)。研究チームのリーダー。後半は、バイオレット
0:【葵】葵(あおい)。研究チームのサブリーダー。後半は、ローズ
0:【城井】城井(しろい)。研究チームのムードメーカー。後半は、アネモネ
0:【雫】雫(しずく)。研究チームの最年少。後半は、スノー
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:――(上演開始)――
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桔梗:ニュースで聞いて知っている者もいると思うが、昨日、各国首脳が共同声明を発表した。
桔梗:内容は、二ケ月後に、この地球を破壊し、全生命活動の終止符を人類の手で打つ、というものだ。
桔梗:それに伴い、国、企業からの資金援助の停止が決まった。
桔梗:故に、この研究チームも今日で解散する。
桔梗:荷物は今日中にまとめてくれ。 以上だ
葵:ちょっと待ってよ! いくら何でも急すぎる! 資金援助が打ち切られたとしても、ここにあるものは使える! まだ研究は続けられるでしょ?
桔梗:研究室も使用禁止になった。 ……わかるだろう? 地球を滅ぼすと決まった今、俺たちのような研究者は不要なんだ。 必要とされたければ、地球を崩壊させる側の研究者にでもなれ
葵:そんな……
雫:桔梗(ききょう)さんは、本当にそれでいいんですか?
桔梗:決まったことだ。 どうしようもない。 ……話すことはもうない。 理解したなら、荷物の整理をし始めてくれ
葵:ちょっと待ってよ! あっ……!
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:(桔梗、退室)
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城井:……いいのか? 雫(しずく)
雫:イヤだ……。 絶対、イヤっ!
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:(雫、桔梗を追いかける)
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葵:ちょっと! もう……雫ちゃんまで
城井:放っておけばいいよ。 どうにかなるって。 それより、葵(あおい)さんはどうするの?
葵:えっ?
城井:いや。 研究できなくなるじゃん? あと二ケ月、どうするのかなぁって
葵:地球からの悲鳴を無視して環境を破壊し続けて、このままだと恐竜よろしく絶滅させられるって、わかったから、
葵:神の審判の前に、自分たちで壊そうだなんて馬鹿げたことを言い出して。
葵:それが各国満場一致で決定したことに衝撃を覚えていたら、研究まで取り上げられる始末。
葵:完全に思考停止状態。
葵:あーぁ、こんなことになるなら、学生時代、もっと遊んだり、色んな人生経験をしておくんだった。 彼氏作って、デートしたり
城井:えっ、彼氏いたことないの?
葵:研究者になることしか頭になかったから、時間の無駄になることは、全部除外してきた
城井:無駄って……。 じゃあ、今から彼氏作ればいいじゃん
葵:今から? あと二ケ月しかないのよ? 出会い求めて合コンとか行ってる間にタイムリミットを迎えることになるでしょ。 まぁ、妥協したらいくらでも相手なんてすぐに見つかるんだろうけど
城井:なんで今から出会う必要があるの? 俺で良くない?
葵:え?
城井:だから、彼氏! 俺で良くない? 俺もちょうど、フリーだし
葵:はぁ。 お互いにフリーだからって理由で付き合うのは、どうかと思うけど? それに、城井も彼女が欲しいのなら、雫ちゃんの方がいいんじゃない? 男って可愛い子の方が好きでしょ? あの子、彼氏いないわよ、多分
城井:あぁ、雫はパス。 前に付き合ってた彼女が、アレ系で面倒臭かったんだよね
葵:……。 あんたたち、よく意気投合してなかった?
城井:アレはアレ。 仕事仲間や友達としてはいいけど、彼女には有り得ない。 ってか、そもそも、他に好きなヤツいる女はなぁ
葵:えっ、雫ちゃん、好きな人いるの?
城井:うそ、気付いてなかったの? ……葵さん、鈍感って言われない?
葵:え? 何? 今度は喧嘩売ってるの?
城井:何でもないでーす。 で? 俺と付き合ってくれる?
葵:まぁ、身元もしっかりしてるし、その点では無難か
城井:うわっ! なんか、妥協点、微妙なんですけど
葵:じゃあ、やめとく?
城井:いやいや! 滅相もございません! ……これから、よろしくお願いします、葵さん
:
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:(少し間を置く)
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:
雫:見つけた! 桔梗さん
桔梗:あぁ、何の用だ?
雫:本当に諦めちゃうんですか? 研究を続けるの
桔梗:続けられないんだから、仕方がないだろう。 何か続ける方法でもあるのか? あるのなら言ってみろ。 打開策も思い付かず、ただ期待と理想を口にしているだけなら子供と一緒だ
雫:……思い付きません。 思い付いてません! でも……でも、このままはイヤなんです
桔梗:はぁ。 いい加減にしろ。 残された時間はあと二ケ月しかないんだ。 ちょっとは有意義に使う方法でも考えたらどうなんだ?
雫:じゃあ、桔梗さんはどうなんですか? 何かしたいことはあるんですか?
桔梗:っ! ……やめろ。 俺のことは放っておいてくれ……
雫:……桔梗さん?
桔梗:ずっと……ずっと、子供の頃から研究者になる。 それを目標に、ただそのためだけに生きてきた。 努力してきたんだ。 それを、こんな急に失って……他にしたいこと? あるわけないだろう!
雫:……桔梗さん
桔梗:……ははっ。 偉そうなことを言って、結局自分は何も思い付いていないんだ。 かっこ悪いよな
雫:そんなことないです! 桔梗さんは、誰よりも、凄く、凄くかっこいいです!
桔梗:今の俺を見てもか? 心にもないことを言うのも大概にしろ
雫:思ってます! かっこいいって!
雫:だって、ずっと……ずっと、桔梗さんのこと好きだったから! いつも、かっこよくて、冷静で、みんなを引っ張っていってくれて。
雫:この人に着いていったら、ううん、一緒だったら絶対に大丈夫だ! 間違いない! って、思わせてくれる。 安心できる。
雫:そんな桔梗さんが、桔梗さんだから……好きになったんです!
雫:……もし、これから、したいことがないなら……それなら、残った時間を私にください!
桔梗:……ください? 何をするつもりだ?
雫:桔梗さんは、研究一筋だし、でも、ずっと一緒にいられるなら、それでもいい、って、思ってきました。
雫:でも、研究が終わっちゃうなら……一緒にいられなくなっちゃう。 会えなくなっちゃう。 そんなのはイヤです!
雫:最後まで、桔梗さんのそばにいたいんです……
桔梗:……そばにいたい。 それつまり、端的に言うと、付き合いたいってことか?
雫:……はい。 もちろん、桔梗さんが良かったら……ですけど
桔梗:……今から付き合ったとしても、後二ケ月後には何もかもがなくなる。 何も残らないんだぞ?
雫:残ります! 私にとっては、素敵な、幸せすぎる時間が。 大切な思い出が。 桔梗さんと作れます!
桔梗:はぁ。 ……そんなに言うなら、好きにしろ
雫:えっ、じゃあ、付き合ってもらえるんですか?
桔梗:あぁ。 但し、デートプランの丸投げはしてくるなよ
雫:はいっ! じゃあ、じゃあ、明日! 明日、早速、デートしてください!
桔梗:ははっ。 その切り替えの速さは何なんだ。 わかった。 で、どこに行くんだ?
雫:水族館!
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:(少し間を置く)
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桔梗:で、デートの鉄板コースか
雫:映画もいいなぁって思ったんですけど、それだと、観たいものが絶対割れる気がして
桔梗:まぁ、俺なら、洋画一択だな
雫:私は、邦画ばっかりです
桔梗:だろうな
雫:ですよね。 あっ、エイだー、可愛い!
桔梗:泳いでいる姿は優雅だとは思うが、可愛いか?
雫:可愛いじゃないですか! あれが目で、あれが口って思ったら、可愛い顔してませんか?
桔梗:実際には、鼻、だけどな
雫:いいじゃないですか! ぱっと見、可愛いんですから、それで!
雫:桔梗さんは、どの子が好きなんですか? ラッコとか……クラゲとか?
桔梗:あぁ。 クラゲも確かに幻想的でいいな。 ……そうだな、今、思いつくのは、イルカかな?
雫:イルカですかー。 イルカも可愛いですよね
桔梗:頭が良いことでも有名だしな。 研究対象にできるなら、色々と試してみたいことがある
雫:桔梗さん、すぐにそっちに行っちゃう
桔梗:悪かったな
雫:いいんですよ、それが桔梗さんだから。 あっ、もうすぐイルカショーがあるみたいですよ! 行きましょう!
桔梗:あぁ。 ……。 おい、そこのベンチに座れ
雫:え? はい……。 どうしたんですか?
桔梗:ここで待ってろ
雫:えっ? ちょっと待ってくだ……って、行っちゃった。
雫:どうしたんだろう?
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:(少し間を置く)
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桔梗:これ、貼っておけ
雫:えっ?
桔梗:そこのインフォメーションで貰って来た。 靴擦れ。 隠し通せると思ったのか?
雫:うっ
桔梗:だいたい、いつも試薬を運んだりするために、フラットな靴を履いているだろう。 それなのになぜ、ヒールのある靴を履いてきた?
雫:だって……だって、せっかく桔梗さんとデートできるのに、かっこいい桔梗さんの隣は、いつもの私じゃ釣り合わない気がして……
桔梗:それで、怪我してたら、意味ないだろ
雫:それでも、お洒落したかったんですもん……
桔梗:はぁ
雫:ごめんなさい
桔梗:いや。 他の相手だったら、到底理解ができない言葉だ。 理解する気がない、が、正確か。 何にせよ、面倒だと感じただろうな。 でも、お前なら……なんとなく理解できる。 伝わってくる、が相応しい表現か。
桔梗:……それだけ、同じチームで仕事をしてきた仲ってことなんだろうな。
桔梗:さて、と。 ここからだと、お前の家の方が近いだろ?
桔梗:その足で歩き回るのも辛いだろうし、お前の家で昼ご飯にするか。 イルカショーは、また今度におあずけだ
雫:えっ、あの……私、料理得意じゃない
桔梗:知ってる。 期待してない
雫:うっ
桔梗:俺が作る。 指示は出してやるから、サポートに入れ。 ……得意だろ? 俺のサポートだったら
雫:っ! はいっ!
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:(少し間を置く)
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城井:いやー、まさか手料理食べさせてもらえるなんて
葵:このご時世、営業しているご飯屋さん探す方が大変でしょ。 簡単なものばっかりだけど
城井:そんなことない、そんなことない! 手料理とか久々だし
葵:彼女に作ってもらってなかったの?
城井:2年目くらいまではいたんですけど、それっきりかな? 結局、仕事が楽しくなっちゃって、連絡を疎かにしてたら、それにあっちが勝手にキレて、自然消滅
葵:そういうところはマメなのかと思ってた
城井:いやー、基本一途だから、仕事に一途になりすぎちゃって
葵:あっ、聞いた私が悪かった。 さっさと食べて?
城井:へーい。 ……何? そんな見られると、めっちゃ食べ辛いんですけど
葵:あっ、ごめん! 他人(ひと)に作ったことないから、どうだろう……って、気になって
城井:えっ? ウソ? 友達とかには?
葵:友達の方が料理上手だったから、作ってもらう側だった。 料理をし始めたのは、社会人なって、一人暮らしを始めてからの必然
城井:へー、じゃあ、俺が初めての男なんだ?
葵:……言い方、なんとかならないの? というか、『男は最初の男になりたがり、女は最後の女になりたがる』 ……本当に言う人いるんだ
城井:俺の最後、あげるよ?
葵:後、二ケ月しかないのに、既に別れるつもりなら、最初っから付き合うとか言わないでくれる?
城井:はい、正論来たー
葵:……研究室から、何か薬、持ってくればよかった
城井:ちょ、それは犯罪だから、やめて
葵:どうせ、誰も気付かないでしょ
城井:……毎日のように行ってた場所だったのになぁ。 当たり前に、家みたいになってた
葵:……ホント。 家族じゃないのに、四人でいることが普通になってた
城井:って、冷める前にいただきまーす
葵:もう冷めてると思うけど?
城井:大丈夫! 俺の心はいつでも温かいから
葵:(無視)
城井:うわ、無視決め込まれた。 ……! えっ、めっちゃ旨! 俺の部屋、調味料とか何にもなかったよね? えっ、なんでこんなの作れんの? やっぱ、葵さん、凄ー! 天才っ!
葵:調味料はおろか、冷蔵庫の中も想定以下で衝撃を受けた
城井:すみませんでしたー。 でも、本当に美味しいんだけど! ……喋るのやめて、こっち集中していい?
葵:……っふ! そんなに喜んでもらえると思ってなかったから、なんか嬉しいわ。 ……ありがとう
城井:(反応なし)
葵:……いっつもふざけたことばっかり言ってるくせに、本当に集中すると無言になるんだから。 仕事のときもそうだけど……
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:(少し間を置く)
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城井:はー、美味しかった
葵:まだ入るなら、おかわりあるよ?
城井:えっ、マジ? でも、こっちからおかわりが欲しいな
葵:えっ? は? ちょ、何っ?! こっち来ないでっ!
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:(城井、葵に近寄る)
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城井:……ったー!
葵:えっ?
城井:何か、降ってきた
葵:天罰
城井:ひど! ちょっと彼女にくっつこうとしただけじゃん
葵:自業自得
城井:えっ、待って! ……ムードが台無しじゃん
葵:大丈夫。 元からないから
城井:いや、あった、あった! ……って、あっ、これか、落ちてきたの
葵:何それ? 金属の……塊?
城井:なんか、中に入ってるっぽいんですよねー。 この仕事に就くって言ったら、じいちゃんがくれて
葵:お祖父さん、何されてた方なの?
城井:ん? 一緒。 研究者
葵:……ねぇ、せっかくだから、その中身が何なのか、解明しない?
城井:え?
葵:研究室にある機械を使って
城井:……マジ?
葵:マジ! ……どうせ、バレないわよ。 こんなご時世だし
城井:イヤ、でも、せっかくのお家デートしてる――
葵:(城井のセリフに被せて)じゃあ、行こっか。 IDカード持って?
城井:……はい、了解でーす
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:(少し間を置く)
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:
葵:なんだろう? 内部に亀裂が入っているみたいだけど
城井:いっそ、壊しちゃいます?
葵:中身が無事である保証が取れないから、却下
城井:ですよねー
葵:桔梗たちにも連絡しよう
城井:えっ、きっと向こうもデートしてるから、邪魔しちゃマズい……って、聞いてないか
葵:あっ、もしもし? 今、忙しい?
桔梗:いや、ちょうど昼食を食べ終わったところだから大丈夫だ
葵:実はね、相談したいことがあって。 雫ちゃんとも共有したいから、このまま待っててくれる?
桔梗:あぁ、雫なら、ここにいる
城井:ほら、デートしてるじゃん、やっぱり邪魔だか――
葵:(城井のセリフに被せて)あっ、そうなんだ。 じゃあ、テレビ通話に切り替えるね
城井:俺の言葉は無視なんですねー!
桔梗:おい、そこ、研究室じゃないのか
葵:そう。 機械を動かしてる
桔梗:は? お前たち、何やっているんだ? 使用は禁止されたって伝えただろ
葵:城井の家で、変な金属の塊を見つけて、解析中。 中身は不明。 内部に亀裂と空洞は確認できたんだけど、それ以外はお手上げ状態
桔梗:……はぁ。 データを転送しろ
葵:了解
桔梗:……。 なんだろうな。 亀裂……空洞の体積を合計すると、中央への通路ができそうだが……。 まさか……からくり箱?
葵:えっ、なんて?
桔梗:からくり箱。 開けるために仕掛けが施されていて、その謎を解かないと開けられない箱だ。 秘密箱とも言われていたらしい。
桔梗:本来は木製のはずだが……なぜ金属で?
桔梗:あっ、悪い、話がそれたな。 からくり箱なら、きっと開ける方法があるはずだ
葵:と言っても、外から操作できなさそうなのよね。 外には亀裂がないし
桔梗:他に一緒にもらったものはないのか?
城井:いやぁ、これしか貰ってないんですよねー
桔梗:でも、絶対に開ける方法があるはずだ
雫:……溶けちゃったりして
桔梗:は?
雫:なんか、前に読んだお話でね。 そこでは、粉々になっちゃうことの言い換えで使われてたんだけど。 からくり箱が溶けちゃうって表現されてて、なんか印象に残ってたから
桔梗:溶ける……か。 おい、外側はすべて同じ金属が使われてるのか?
葵:確認する! ……あった! 一ヵ所、違う金属が混ざってる!
桔梗:その金属のみを溶かすものを探せ。 俺たちも今から研究室に向かう
葵:わかった
桔梗:足、大丈夫か?
雫:はい、大丈夫です! ありがとうございます。 ……やっぱり、そうしてる桔梗さんの方がかっこいい
桔梗:……はぁ。 ほら、行くぞ
雫:はいっ!
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:(少し間を置く)
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桔梗:どうだ?
葵:ちょうど、溶かしてるところ
城井:せっかくのデートの邪魔してごめんな
雫:ううん。 それに、ああやって、指示出してたりしてる時のほうが、生き生きしてて、楽しそうなんだもん
城井:俺の方も。 結局、ああいうとこに惚れたんだろうなぁって思うわ
雫:なんだかんだ言って、結局、こうしている時が一番幸せなんだよね
城井:ホントだな。 あーぁ、せっかく付き合えたのになぁ。 やりたいこと、いっぱいあるんだけどなぁ
雫:でも、買い出しとかでもなく、二人だけでお出掛けできたのは、楽しかった
城井:あー、確かに。 俺も手料理食べれるとは思わなかったわ
雫:えっ、葵ちゃん、料理作ってくれたの? 良かったね
城井:お前はやめとけよ。 せめて、セラミック包丁にしとけ?
雫:えっ、ちょっと待って! それ、怪我する前提だよね?!
城井:普通の包丁より、カラバリ豊富だぞ。 いいじゃん。 あっ、それか、ミネストローネとか、失敗してもバレないんじゃない?
桔梗:(城井のセリフに被せてもよい)雫! 喋っているだけで実験に参加する気がないなら、出て行け
雫:ごめんなさい! すぐ行きます!
葵:もう……。 あと二ケ月しかないのよ。 いい加減、雫ちゃんの名前だけ出して注意するのやめなさいよね?
桔梗:別に、雫にだけ言っているつもりはない
葵:無自覚か。 桔梗、このメンバーで定着するまでに辞めた人、桔梗の言い方が原因だった人も多いからね?
葵:みんながみんな、自分と同じレベルで仕事ができるわけじゃない。 集中力が保てるわけでも、ストレス耐性があるわけでもない。
葵:リーダーとしての資質で欠けているところを述べろと言われたら、そこを挙げる。
葵:……きつく言っても離れていかないってわかっているからって、さすがに限度はあるから。 それ、ただの甘えだよ? ちょっと優しくしてるくらいでちょうどいいんじゃない?
桔梗:優しく……か
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:(少し間を置く)
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桔梗:よし、開いた!
葵:これは……植物の種?
雫:何の種だろう?
桔梗:これだけ長い時間、この箱の中に閉じ込められてたんだ。 芽を出させるのは難しいかもしれないな
葵:でも、お祖父さんも研究者だったんでしょ? 無駄なものを託さないと思う
桔梗:賭けてみるか。 残り二ケ月。 最後の研究だ
雫:はい!
葵:(雫のセリフと同時でもよい)うん
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:(少し間を置く)
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城井:結局、最後まで研究かぁ
葵:何? 不満?
城井:いや? こんなことになってなかったら、葵さんと付き合えてなかっただろうし
葵:えっ?
城井:だって、何かあったら気まずいじゃん。 ずっと四人でやってきたのに
葵:そんなこと、気にするんだ
城井:するよ
葵:なに? 案外、小心者なの?
城井:……本気で欲しいって思ったの、葵さんが初めてだって言ったら、信じてくれます?
葵:……さて、次は何を試そうかなぁ
城井:また無視かー!
葵:……ねぇ、今晩、ご飯作りに行ってもいい?
城井:えっ?
葵:だって、私を城井の最後の女にしてくれるんでしょ? それなら、私も、城井を初めての男にしてあげてもいいかな、って。 じゃあ、先に戻ってるから
城井:……くーっ! あーぁ、結局、葵さんには敵わないなぁ
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:(少し間を置く)
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桔梗:結局、デートも一回しかしてないな
雫:でも、今が楽しいから、いいんです! それに、かっこいい桔梗さんを、すぐ側で見れてるの、特権かなって
桔梗:それは、付き合う前から変わってないだろ
雫:今は、本人公認だから、また違うんですー
桔梗:(桔梗、雫にキスをする)
雫:えっ?
桔梗:それで我慢しろ
雫:えっ、えっ?
桔梗:……いつも、ごめんな。 それと、ありがとう。 葵に言われて、気が付いた。 きっと俺は、何を言っても、どんな言い方をしてもお前なら離れていかない。 それをわかっていて、無意識に甘えていた
雫:っ! うっ……
桔梗:……泣くところか?
雫:嬉しすぎです……
桔梗:せめて、あれが、芽を出してからにしろ
雫:無理です……待てません……
桔梗:はぁ。 ……じゃあ
桔梗:(桔梗、雫を抱きしめる)
雫:えっ!
桔梗:泣きたいなら、ここで泣けばいい
雫:……桔梗さんが優しすぎます
桔梗:そういうときもある
雫:……好きです
桔梗:……知ってる
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:(少し間を置く。 以降、全員が人非ざるもの)
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城井:(以降、アネモネ)へぇ、ニンゲンって空を飛べなかったんだー。 移動、面倒くさくない?
葵:(以降、ローズ)クルマとかって、移動手段を使ってたらしいよ。 環境破壊しながら
城井:だから、滅んだんじゃん
葵:最後は、自分たちで消える道を選んだらしいよ。 神に対抗するぞーって
城井:ウソでしょ? それ、対抗したことになるの? それも、神が定めたことだって言われて終わりじゃん
雫:(以降、スノー)ローズ! アネモネ! あっちでも見つかったって
城井:おー、了解ー
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:(少し間を置く)
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雫:何かを大事そうに守ってる……っぽいね。 なんだろ?
桔梗:(以降、バイオレット)あー、それは、ハナっていうヤツだ
葵:へぇ。 綺麗
桔梗:そんな綺麗なものが生きる世界を奪ってまで、生き続けたのがニンゲンだ
城井:ふーん。 自分勝手な生き物だったんだ
桔梗:ん? 待て、それ、最後の時代には絶滅していたはずのハナだ
葵:えっ、そうなの? じゃあ、なんでここにあるの?
城井:さぁ?
桔梗:ここは研究施設だったみたいだ。 案外、最後の最後まで、研究に命を捧げた……ってところじゃないのか
雫:……実ったんだね
城井:えっ?
雫:研究が、実ったんだね
桔梗:そうだな
葵:壊しちゃったものを、蘇らせようとしたニンゲンもいたってことか
城井:そして、最後に奇跡が起きた……か
桔梗:研究者としては、これ以上ない幸せな最後だな
雫:……凄いことだよね。 終わるって知りながらも、最後の最後まで諦めずに続けられるなんて
城井:仲間がいたから続けられたんじゃない?
葵:それに、研究者が諦めたら、そこで終わっちゃうものね
桔梗:わずかでも、希望があるなら、奇跡が起こせる可能性があるのなら、信じて進み続ける。 それが、研究者だ
葵:……なんか、私たちも負けていられないね。 同じ研究者として
城井:そうだな
桔梗:俺たちも、やるか
雫:うん!
城井:奇跡を
葵:咲かせ
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:――(上演終了)――
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:アフタートーク用情報 名前の由来
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:紫のトルコキキョウ(バイオレット桔梗) 花言葉は『希望』
:青いバラ(葵ローズ) 花言葉は『夢が叶う』
:白いアネモネ(城井アネモネ) 花言葉は『希望』
:スノードロップ(スノー雫) 花言葉は『希望』