台本概要

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タイトル 一蓮托生
作者名 akodon  (@akodon1)
ジャンル 時代劇
演者人数 5人用台本(男3、女2)
時間 40 分
台本使用規定 非商用利用時は連絡不要
説明 二人の少年は、とある約束をした。

作者がふわっとした知識で書いた、なんちゃって人情物になっております。
江戸時代くらいを想定。しっかりした時代考証じゃないと許せない!という方はご容赦ください。

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キャラ説明  

名前 性別 台詞数 説明
清太 140 せいた。義賊「猫ノ目」の首領。面倒見が良い。腕っ節と身の軽さには自信がある。頭の回転が早い。雄之進とは幼馴染。
雄之進 106 ゆうのしん。武士。若くして町奉行を務めている。おっとりした性格。一見ぼやっとしているが、実は切れ者。絵を描くのが趣味。清太とは幼馴染。
りん 56 清太の仲間。元気で明るいお調子者。身の軽さと手先の器用さには自信がある。食い意地が張っている。元は清太に拾われた孤児。
捨吉 31 すてきち。清太の仲間。幼いが賢く、物覚えが良い。人懐っこく天真爛漫な少年。いつも腹を空かせている。元は清太に拾われた孤児。
草間 31 くさま。雄之進の部下。生真面目な性格。雄之進のことは認めてはいるが、自分より年下の彼に従うことを不服に思っている。曲がったことは嫌い。
※役をクリックするとセリフに色が付きます。

台本本編

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清太:「一蓮托生(いちれんたくしょう)! 清太:この先何があろうとも、俺はお前を裏切らない」 雄之進:「一蓮托生。 雄之進:例えどんなことが起きようとも、私はお前の友でいると誓おう」 りん:これは、約束の話。 りん:幼い二人の少年が交わした、誓いの話。 0:『一蓮托生』 0:(街中、立て看板を見ている清太と、その両脇にりん、捨吉が立っている) 清太:「義賊『猫ノ目』。今度は悪名高い役人の屋敷から、五十両を持ち逃げ・・・ねぇ」 りん:「・・・ねぇねぇ。清(せい)さぁん!」 捨吉:「兄貴ィー、兄貴ィー」 りん:「清さん!清さんってばぁ!」 清太:「・・・あぁ、もううるせぇな!テメェら! 清太:さっきからぎゃあぎゃあピイピイと!」 りん:「だってさぁ、清さん。もう昼飯時だよ? りん:あっちこっちの飯屋から、いい匂いが漂ってきててさァ〜。 りん:アタシ、腹が減っちまったんだよォ」 捨吉:「オイラもだよー、兄貴ィ〜。 捨吉:腹が減りすぎて、今にも背中とくっつきそうだよ」 清太:「馬鹿野郎、そう簡単に腹と背中がくっついてたまるか! 清太:飯屋(めしや)の匂いで腹が減るなら、息止めながら歩きやがれ!」 りん:「そんなことしたら死んじまうよ!」 清太:「仕方ねぇだろ、昨夜(ゆうべ)の稼ぎは、ほぼほぼ使い切っちまったんだ。 清太:次の仕事まで飯屋の飯なんざ、食う余裕はねぇんだよ」 捨吉:「そんなこと言ったって、ここんとこ毎日大根の切れっ端のみそ汁と、麦飯だけじゃねぇか。 捨吉:オイラ、そんなんじゃ身体がもたねぇよ」 りん:「そうよそうよォ」 清太:「あーーー!喚くな、みっともねぇ!」 りん:「清さぁん」 捨吉:「兄貴ィ・・・」 清太:「だァーーー!わかった!何か食わしてやる! 清太:ただし、一人15文(もん)以内!15文以内で食えるもんだぞ!」 捨吉:「やったぁ!オイラは蕎麦にする!」 りん:「アタシは団子!!」 清太:「・・・ったく・・・いざと言う時の為に取っておいた金も、全部お前らの腹の中に消えちまう・・・」 清太:(清太の懐から木簡が落ちる) りん:「・・・ん?清さん、懐(ふところ)から何か落ちたよ?」 捨吉:「なんだい?食い物かい?」 清太:「あぁ・・・そいつは・・・」 雄之進:(遠くの方で雄之進が叫ぶ) 雄之進:「誰かァーーー!その者を捕まえてくれぇーーー!」 0:(物盗りが清太たちに向かって走ってくる) りん:「あらあら、なんだい?物盗り?」 清太:「チッ・・・くだらねぇことしやがって 清太:・・・おらよッ!」 0:(清太が脚をひっかけ、物盗り転ぶ。そのまま焦って逃げていく) りん:「よっ!鮮やかな足捌(あしさば)き!」 捨吉:「足癖の悪さは天下一!」 清太:「褒めてんのか貶(けな)してんのか・・・」 雄之進:「ハァ・・・ハァ・・・ありがとう、助かったよ」 清太:「ああ、これアンタの財布だろ?」 雄之進:「いやぁ、すまない。ちょっと気を抜いた隙に盗られてしまって・・・」 りん:「へぇ〜、アンタ、刀差してるってことは、お侍様だろ? りん:随分鈍臭い(どんくさい)お侍様もいるもんだねぇ〜」 雄之進:「ハハ、面目(めんぼく)ない」 清太:「気を付けろよ。ここら辺は治安が悪いからなぁ。 清太:刀差してようが、アンタみたいなボンクラは格好の的になるぜ」 雄之進:「そうだね、肝に銘じておくよ」 清太:「・・・ボンクラ、って俺らみたいのに言われて怒らねぇとは・・・やっぱり相当なボンクラだぜ。アンタ」 捨吉:「そんなことより兄貴!蕎麦食いに行こうよ!」 清太:「くそっ・・・今ので忘れたかと思ってたのに・・・」 りん:「あっ、そうそう! りん:アタシも忘れないうちにコレ!清さんに返しておくね!」 りん:(りん、先程拾ったものを清太に渡す) 清太:「おう、ありがとよ」 雄之進:「・・・!それは・・・!」 清太:「なんだい、アンタ?そんなにコイツが珍しいかい?」 雄之進:「いや、珍しいんじゃない! 雄之進:珍しいんじゃなくて、その・・・ 雄之進:(雄之進、懐から仏画を取り出す) 雄之進:これ!」 清太:「ん?・・・木簡(もっかん)に描かれた仏画(ぶつが)に『一蓮托生』の文字・・・!? 清太:おい・・・お前、まさか・・・?」 雄之進:「・・・久しぶりだね。清太」 清太:「雄(ゆう)・・・?お前、雄か!?」 雄之進:「いやぁ、まさかこんなところで会えるなんて・・・」 清太:「ははは!なんだよお前、随分でっかくなりやがって!」 雄之進:「それはお互い様だろう?」 捨吉:「・・・何だかオイラにゃ状況が読めねぇや・・・」 りん:「うーんと・・・感動の再会ってヤツ・・・かねぇ?」 0:(しばしの間。場面転換、団子屋にて) りん:「美味しい!やっぱり団子は最高だねぇ!」 捨吉:「りん姉ちゃん!二本も手に持ってズルいよ! 捨吉:オイラにもくれよぉ!」 清太:「コラぁ、そんなに頬張って喉に詰まらせんじゃねぇぞ」 雄之進:「ははっ、団子は逃げないから、ゆっくりお食べ」 清太:「悪いな、雄。 清太:昼飯どころか甘味(かんみ)までご馳走になっちまって」 雄之進:「いや、こちらこそ。 雄之進:財布を取り返してもらったお礼だと思って、遠慮なく食べてくれよ」 捨吉:「遠慮なくご馳走になります!雄兄ちゃん!」 清太:「捨(すて)!ちったぁ遠慮しやがれ!」 雄之進:「ははは、楽しそうだなぁ。清」 清太:「楽しいもんか、騒がしいだけだ。全く」 雄之進:「いや、元気そうで安心したよ」 清太:「お前もな。なまっ白くて女みたいだったクセに、すっかり立派になってて驚いたぜ」 雄之進:「おや、そんなに私は弱々しかったかい?」 清太:「吹けば飛ぶような弱々しさだったなぁ。 清太:まぁ、今も昔もぼんやりしてるところは変わらなそうだが」 雄之進:「うーん。これでも結構しっかりしてると思うんだけどなぁ」 清太:「プーッ!さっき財布スられといて、何言ってんだ。 清太:ちゃんちゃら可笑しいぜ」 りん:「ねぇねぇ!そういや、雄さんはうちの清さんとどういう関係なんだい?」 雄之進:「あぁ、清と私は同じ寺子屋に通っていてねぇ」 りん:「へぇ!清さん、寺子屋なんて通えるほど頭の出来が良かったのかい?」 清太:「りん、お前あとで覚えておけよ・・・」 雄之進:「ふふ、清は頭の回転は誰よりも速かったんだ。 雄之進:寺子屋でも指折りの秀才でね」 りん:「ふぅーん」 清太:「なんだよ、その疑いの目は・・・」 りん:「別にぃ」 清太:「てめぇ、信じてねぇな?」 りん:「まぁ、いくら秀才だったとしても、うちのガサツな清さんと、優しくて繊細そうな雄さんが友達っていうのは、にわかに信じ難いよねぇ」 清太:「ガサツは余計だ。ガサツは」 雄之進:「いやいや、清と居るのはなかなか刺激があって楽しかったよ。 雄之進:背中にカエルを入れてきたり、イモリを顔に投げつけてきたり・・・」 捨吉:「なになに?新しい遊びの話?」 りん:「・・・捨坊。お前は絶対に真似しちゃいけないよ」 清太:「ああもう!余計な事言うんじゃねぇ! 清太:つまり、俺とコイツはただの昔馴染みだよ!」 雄之進:「ははは、そういう事だ」 りん:「じゃあ、二人が同じ絵を持っているのは、寺子屋の仲間だから、ってこと?」 清太:「・・・あぁ、そいつぁ・・・」 雄之進:「・・・おっと、悪いんだが、そろそろ私は務めがあるのでお暇(いとま)するよ」 捨吉:「ええっ!雄兄ちゃん、もう行っちまうのか? 捨吉:聞きたいこといっぱいあるのに・・・」 雄之進:「すまないね、捨吉。 雄之進:また今度、会った時にでもゆっくり話をしよう」 捨吉:「でもぉ」 りん:「こぉら、捨坊。ワガママ言うんじゃないよ。 りん:雄さんだって仕事があるんだよ」 捨吉:「うん・・・」 清太:「悪かったな、雄。忙しいのによ」 雄之進:「いいや、久々に楽しい時間を過ごせたよ」 清太:「そうか、ありがとよ。また機会があったら、のんびり茶でも飲もうや」 雄之進:「あぁ。そうだな」 清太:「じゃあな。また・・・」 雄之進:(雄之進、食い気味に) 雄之進:「清。最後に一つだけ聞きたいことがあるんだが」 清太:「あ?どうした?」 雄之進:「最近、この辺で噂になっている『猫ノ目』について何か知っていることは無いか?」 清太:「(ちょっと間を置いて)・・・さぁな」 雄之進:「そうか、わかった。何も知らないんならそれで良いんだ」 清太:「・・・ああ、すまねぇな」 雄之進:「いや。急に変なことを聞いたな。じゃあ、また」 清太:「・・・おう」 0:(雄之進、清太たちの元を去る。しばらく行った先に草間が待っている) 草間:「雄之進様」 雄之進:「・・・様付けは勘弁してくれと言ったじゃないですか。草間(くさま)殿」 草間:「仕方がないでしょう。一応、貴方の方が位(くらい)は上です」 雄之進:「そんなことより、例の情報は手に入りましたか?」 草間:「はい。どうやら、猫ノ目はこの辺りを根城(ねじろ)にしているようで・・・ 草間:ただ、民衆からの人気は高く、奴のことを庇う為か、皆一様に言葉を濁すばかり。 草間:残念ながら、これといった情報は出てきませんでした」 雄之進:「・・・そうですか」 草間:「どう致しましょう? 草間:町人たちを捕え、無理矢理にでも情報を吐かせるという手も・・・」 雄之進:「いや、そんなことをしては我らが反感を買うだけです」 草間:「しかし、今のところの手がかりが、主犯は若い男、というだけでは・・・」 雄之進:「そういえば、被害にあった屋敷の方から、何か証言はとれましたか?」 草間:「ああ・・・それなんですが、夜中に厠(かわや)へ行く為に起きた幼い倅(せがれ)が、途中微(かす)かですが、子どもと女の話す声を聞いたような気がする、と」 雄之進:「子どもと、女・・・」 草間:「いかがされましたか?」 雄之進:「・・・草間殿。一つ頼まれ事をお願いしてもいいでしょうか?」 草間:「はい、なんなりと」 0:(しばしの間。場面転換、夜の武家屋敷周辺) りん:「・・・いやぁ、随分立派なお屋敷だねぇ」 捨吉:「ホントホント。塀(へい)も高いし、見上げてるだけで首が痛くなりそうだ」 清太:「こらっ、てめぇら・・・こそこそ喋ってんじゃねぇよ。 清太:見張りに見つかっちまうだろうが」 りん:「あっ」 清太:「ったく・・・おい、捨。外の見張りの人数はどれくらいだ?」 捨吉:「東の正門に二人。西の裏門に二人。北と南に一人ずつだよ」 清太:「・・・交代の間隔は?」 捨吉:「だいたい一刻(いっこく)ごと」 りん:「さすがアタシ。事前に集めた情報そのまんま」 清太:「調子に乗ってんじゃねぇぞ、りん。 清太:忍びこめそうな場所は探してきたのか?」 りん:「門からはとても無理そうだけど・・・ほら、あそこに見える立派な松の枝。 りん:南側の見張りさえどうにかしてくれれば、あれを使って入れるよ」 清太:「・・・そうか。なら俺があの見張りを気絶させる」 りん:「どうやって?」 清太:「なぁに、そんなに難しいことじゃねぇ。 清太:捨、交代の一刻まであとどれくらいだ?」 捨吉:「多分、あと四半刻(しはんとき)くらいかな?」 清太:「そうか、なら丁度いい。 清太:(清太、見張りにこっそり近寄る) 清太:・・・おい、交代の時間だァ」 0:(見張り、倒れる) りん:「・・・なるほど、交代だと思ってうっかり気を抜いた瞬間に、仕留めるって寸法かぁ」 清太:「感心してねぇで、とっとと登っちまいな」 りん:「はいはい。そらよっ・・・と!」 りん:(りん、縄を枝に引っ掛けて、塀に登る) 清太:「さて、捨。お前は終わるまでどこかに隠れてな」 捨吉:「えーっ、オイラも着いていきたいよォ」 清太:「ダメだ。お前はまだこの縄を伝って登れるほど、力がねぇだろ?」 捨吉:「でもぉ・・・」 清太:「捨、今のお前に出来ることは何だ?」 捨吉:「・・・言われたことをしっかり覚えて、二人に正確に伝えること。 捨吉:兄貴たちの帰りを、誰にも見つからないよう隠れて待つこと」 清太:「そうだ。チビのお前でも、それだけの仕事ができれば充分だ。 清太:必ず帰ってくるから、大人しく待ってろよ。な?」 捨吉:「うん、わかった・・・」 清太:「よぉし、じゃあ行ってくるからな」 0:(清太。屋敷の庭に入り、りんと合流する) りん:「・・・遅いよォ。清さん」 清太:「悪いな・・・蔵の位置は?」 りん:「こっちだよ。もう鍵も開けた」 清太:「早ぇな。今日は随分手際がいいじゃねぇか」 りん:「今日は、じゃなくて、いつでも、でしょ?」 清太:「無い胸張って威張ってんじゃねぇよ。蔵はどっちだ?」 りん:「こっちこっち」 0:(清太とりん、蔵に入る) 清太:「へぇ・・・こりゃあ溜め込んでやがるなぁ」 りん:「なんでも、ここの主は税をちょろまかして自分の懐に入れちまう、とんだクソ役人だって話だよ」 清太:「なら遠慮はいらねぇな。持てるだけ頂いていくぞ」 りん:「よっしゃ、千両箱はこっちだよ」 清太:「おう」 りん:「ひゃあ、すごいねぇ。大判小判がざっくざくとはまさにこのこと」 清太:「余計なおしゃべりしてねぇで、さっさと詰めちまいな。 清太:早くしねぇと見張りが来る」 りん:「平気だよォ。 りん:今夜はこの屋敷、外回りばかり固めて、中の見張りは手薄だって話だから」 清太:「・・・お前、今回はやたらおしゃべりな情報屋に当たったな」 りん:「へへへ。アタシの魅力に負けて、思わずぺらぺら喋っちまったんだよ。きっと」 清太:「気を付けろよ。口が軽いやつほど信用ならねぇからな」 りん:「わかってるよぉ。 りん:よし・・・!じゃあアタシは先に捨坊と合流して・・・ りん:ひゃあ!!」 清太:「りん・・・?オイ、どうした!?」 草間:(蔵から顔を覗かせた清太に、草間が刀を突きつける) 草間:「動くな」 清太:「・・・ッ」 草間:「猫の面を被った若い男・・・お前が猫ノ目だな?」 清太:「・・・ああ、そうだ」 草間:「逃げようなどと思うな。蔵の周りは完全に囲まれている。 草間:それに・・・」 0:(捕らえられたりんと捨吉が立っている) りん:「・・・悪い、捕まっちまった・・・」 捨吉:「兄貴・・・ごめんよ・・・」 清太:「お前ら・・・! 清太:・・・チッ、なんだか今日は上手く行き過ぎると思ったんだ。 清太:どうやら、アンタらの策にまんまとハマっちまったようだな」 草間:「その通り。 草間:残念ながら、そこの女に掴ませたのは、こちらが事を有利に運ぶ為の情報よ」 清太:「だから口が軽いヤツは信用ならねぇんだよな・・・」 りん:「アタシのせいだ・・・ごめん、ごめんよぉ・・・」 清太:「謝んじゃねぇ。それを怪しいと気付けなかった俺にも落ち度がある」 草間:「・・・さて、猫ノ目。 草間:お前も大人しくお縄についてもらおうか?」 清太:「くっ・・・こうなったら・・・」 雄之進:「暴れたところで無駄だよ。何処にも逃げ場は無い」 清太:「・・・ッ!雄・・・お前、どうしてここに? 清太:うぐっ・・・!」 捨吉:「兄貴!」 雄之進:「そのまま三人とも、奉行所(ぶぎょうしょ)へ連れて行ってください」 清太:「奉行所・・・?雄、お前、まさか・・・」 草間:「黙れ罪人。大人しく着いてこい」 清太:「ぐっ・・・くそっ、俺らをハメたのはお前、なのか・・・?」 雄之進:「・・・すまないね、清。今の私はお前と相反(あいはん)する立場に居るんだよ」 0:(しばしの間。場面転換、幼い頃の清太と雄之進) 清太:「へぇ、上手いもんだなぁ」 雄之進:「あぁ、ビックリした」 清太:「おいおい、俺はそんな呑気(のんき)な声でビックリしたなんて言った奴、初めて見たぜ」 雄之進:「いやぁ、夢中になっていたから本当に気付かなかったよ 雄之進:・・・おや?清。頬に立派な紅葉(もみじ)ができているね。 雄之進:また叱られるような真似をしたのかい?」 清太:「(ちょっと間を置いて)・・・別に、蚊が居たから、思いっ切り自分でひっぱたいただけだ」 雄之進:「大方(おおかた)、イタズラでもしてお母上に叱られたな?」 清太:「・・・なんでわかるんだよ?」 雄之進:「清は嘘をつく時、ほんの少し躊躇(ちゅうちょ)する」 清太:「チッ、よく見てやがるぜ・・・」 雄之進:「ははは、一応お前の一番の友人だと自負(じふ)しているからね」 清太:「へぇへぇ、ありがとさん」 雄之進:「ふふふ」 清太:「そんなことより・・・なんだい?そいつは仏画かい?」 雄之進:「そうだよ。私がこうやって描いた仏画を見ると、母上が心安らぐと言って喜んでくれるんだ」 清太:「確かに優しい顔した仏様だ。きっと描くヤツの性格を現しているんだなぁ」 雄之進:「清も描いてみるかい?」 清太:「いや、俺みたいなヤツが描いたら、きっとどんな菩薩(ぼさつ)も仁王(におう)様みたいな顔になっちまうさ」 雄之進:「ははは、そんなことは無いさ。 雄之進:清は暴れん坊だけど、誰よりも正義感に溢れた優しい人間だ。私は知っている」 清太:「よせやい。そんな褒められたって、俺にはビタ一文だって返せるモンがねぇや」 雄之進:「返さなくたっていいさ。 雄之進:清はひとりぼっちでぼんやりと毎日過ごしていた私の手を引いて、皆の輪に入れてくれた。 雄之進:野山を一緒に駆け回って、色んな事を教えてくれた。 雄之進:返してもらうどころか、私の方が貰いっぱなしだ」 清太:「別に・・・そんなの大したことねぇよ」 雄之進:「・・・そうだ、清。私にお礼をさせてくれないか?」 清太:「お礼、ってお前。俺はそんなことしてもらうほど、何も・・・」 雄之進:「いや、私がお礼をしたいんだよ。 雄之進:・・・もうじき、会えなくなってしまうかもしれないから」 清太:「なんだ・・・お袋さん、そんなに良くねぇのか?」 雄之進:「・・・ああ、ここ最近ずっと伏せっていてね。 雄之進:そろそろ、遠縁の親戚を頼ろうという話になった」 清太:「母一人、子一人の家族じゃ大変だもんな・・・けど、そうか・・・行っちまうのか」 雄之進:「だからこそ、清には今のうち、何か返しておかないとと思ったんだ。 雄之進:何でもいい。欲しい物や、してほしいことはないか?」 清太:「うーん・・・そうだ!雄、俺にもその仏画を描いてくれよ!」 雄之進:「いいけど、そんな事で良いのかい?」 清太:「おうよ!二人で同じモンを持ってれば、いつかシワシワのジジイになったって、互いを見つける目印になるだろう?」 雄之進:「ああ・・・なるほど、それは名案だ」 清太:「だろう?」 雄之進:「それなら、そこに誓いを立てよう」 清太:「誓い?」 雄之進:「そう、何年経とうとずっと私たちは一番の友人だと、決して忘れないために」 清太:「そりゃいいな!どんな誓いにするんだ?」 雄之進:「そうだなぁ・・・ 雄之進:では、この蓮華座(れんげざ)にちなんで『一蓮托生』はどうかな?」 清太:「へぇ、何があっても運命を共にするなんて、ガキの誓いにしては大仰(おおぎょう)だねぇ」 雄之進:「いいじゃないか。この誓いは一生有効なのだから」 清太:「よぉし、そういうことなら、俺も誓おう。男同士の約束だ」 雄之進:「ああ、私も二言は無いよ」 清太:「一蓮托生!・・・」 0:(しばしの間。場面転換。牢の中) 清太:「うっ・・・ここは・・・?」 雄之進:「気が付いたかい?清」 清太:「雄・・・!・・・ぐっ」 雄之進:「悪いな。お前が暴れようとしたものだから、少々手荒に扱ってしまった」 清太:「はは、道理で全身が痛てぇわけだ・・・」 雄之進:「すまないが、今は手当てをしてやれない。許してくれ」 清太:「まぁ、そうだろうな・・・お奉行様が罪人なんか手当てした日にゃ、お前の首が飛ぶかもしれねぇもんな」 雄之進:「・・・そうだな」 清太:「・・・なぁ、アイツらは無事か?」 雄之進:「りんと捨吉は別の牢に入ってもらっている。 雄之進:二人とも憔悴(しょうすい)してはいるが、怪我はしていないよ」 清太:「そうか・・・アイツらには手荒な真似しないくれて、ありがとうよ」 雄之進:「ああ」 清太:「・・・なぁ、いつから気付いてた?俺が猫ノ目だってこと」 雄之進:「質問をしただろう。猫ノ目について何か知っていることは無いか、と」 清太:「それだけでわかるモンか?」 雄之進:「清は嘘をつく時、ほんの少し躊躇する」 清太:「ふっ、ガキの頃からの癖、よく覚えてやがったな」 雄之進:「当たり前だろ?これでも、一番の友人を自負してたからね」 清太:「そうか、だからまんまとお前の策に引っかかっちまったのか」 雄之進:「まぁ、私の記憶違いであればいい、と願ってはいたが」 清太:「何で?」 雄之進:「お前をこうして捕えなくて済んだから」 清太:「ははは、お優しいこと」 雄之進:「優しくなんかないさ。 雄之進:あの時、気付かないフリをしておくことだってできたんだから」 清太:「それは無理な話だろう?」 雄之進:「・・・そうだね。無理な話だ」 清太:「しかし、驚いたなぁ。 清太:庶民ばかりの寺子屋で、机並べて一緒に手習いをした雄が、まさかこんなに出世してたとは」 雄之進:「別に驚く事でもないさ。 雄之進:母上が亡くなった後、しばらくして父と名乗る男が現れてね。 雄之進:大層ご立派なご身分だというその父が、色々と手を回して、今の仕事を与えてくれたんだ」 清太:「へぇ、ありがたいことだな」 雄之進:「ありがたい・・・か。素直にそう思えたら良かったんだがな 」 清太:「どうした?」 雄之進:「・・・なぁ、なんで清は盗っ人なんかになったんだ?」 清太:「俺か? 清太:俺はそうだな・・・お前みたいな力も地位もなかったからだな」 雄之進:「力と・・・地位?」 清太:「ああ、去年の飢饉(ききん)があったろう? 清太:あの時、うちの親父が打ち壊しに参加してなぁ。参加したは良いが、運悪く逃げ遅れて役人共に殺されちまった」 雄之進:「・・・!」 清太:「お袋はその時の心労が祟って、後を追うように逝っちまってな。 清太:死ぬ間際まで言ってたよ。お上(かみ)が税を少しでもまけてくれたら、親父は死なずに済んだかもしれないのに、って」 雄之進:「・・・」 清太:「まぁ、天災は仕方ねぇ。お上がどうこうしたところで、防げるモンじゃねぇからな。 清太:ただ、俺は許せなかったんだ。 清太:下々(しもじも)の者が苦しんでいる中、自分の保身ばかりを考え、私腹を肥やしている金持ちや、役人共をな」 雄之進:「・・・だから、そういう奴らの屋敷に忍び込んで金品を奪い、庶民に分け与えていた、と」 清太:「そういうこった。 清太:元々、身の軽さと、腕っぷしには自信があったからな。 清太:それくらいの事はやってのけるつもりだった」 雄之進:「けど、それは罪だ。 雄之進:知っているだろう?十両以上の金を盗めば、その者は・・・」 清太:「ああ、知ってるさ。 清太:十両以上の窃盗は死罪、なんだろ?」 雄之進:「・・・それを知っていて、何故」 清太:「さっきも言ったろ?俺にはお前のような力も、地位も無い。 清太:力が無いものが何をしようと、それはいとも簡単に潰されちまう。 清太:・・・うちの親父のようにな」 雄之進:「・・・」 清太:「そう思った時、俺にはこうするしか無かったよ。 清太:目の前で腹を空かせて今にも死にそうな奴を救うには・・・ 清太:力の無い俺が、力ある者に楯突く(たてつく)には、こうするしかなかった」 雄之進:「もう少し・・・もう少し早く私達が再会していれば、どうにかなったと思うか?」 清太:「いいや、ならねぇよ。 清太:義賊なんて大層なこと言われているが、所詮俺がやったことは汚ぇ盗っ人。一番の友と言ってくれたお前に対する裏切りだ。 清太:口が裂けても助けてくれ、なんて言えねぇさ」 雄之進:「そんなこと・・・」 清太:(清太、雄之進の言葉を遮るように) 清太:「雄、俺の事をまだ友だと思ってくれるなら、頼みがあるんだ」 雄之進:「頼み?」 清太:「ああ、りんと捨のことだ。 清太:アイツらは先の飢饉で親兄弟を失った憐れな孤児だ。 清太:虫のいい話だが、できればアイツらは見逃してやってくれねぇか?」 雄之進:「清・・・」 清太:「雄、頼む。この通りだ」 雄之進:「・・・わかった。どうにかしてみよう」 清太:「恩に着る。これで心置きなく最期が迎えられるぜ」 雄之進:「清、私は・・・」 清太:「さぁ、お奉行様! 清太:夜明けももう近い。本日の名裁き(めいさばき)、楽しみにしてますぜ」 雄之進:「・・・すまない。すまない。清・・・」 0:(雄之進、木簡を牢の前に置いてその場を去る) 清太:「・・・はは、やっぱりアイツの描いた菩薩様は、優しい顔してやがるなぁ・・・」 0:(しばしの間。場面転換。処刑場) 草間:「只今より、罪人の処刑を行う!」 0:(しばしの間。場面転換。草間邸にて) りん:「はぁ・・・今日もいい天気だねぇ。 りん:こんな日はサボって団子でも食べに行きたくなっちまうよ」 草間:「・・・こら、りん。洗濯は終わったのか?」 りん:「げぇっ、草間様・・・」 草間:「全く、雄之進様の頼みで雇ったは良いものの、暇があればサボりおって・・・ 草間:女中頭(じょちゅうがしら)も呆れていたぞ」 りん:「仕方ないじゃないか・・・ りん:天気が良い日にゃ腹が減って、集中できなくなっちまうんだよォ」 草間:「そんな言い訳があるか、馬鹿者」 捨吉:「おーい!草間様!」 草間:「おお、捨吉。 草間:頼んでいた仕事は終わったか?」 捨吉:「うん!帳簿整理の手伝いが終わったから、暇があったら算盤の勉強に付き合ってほしくて」 草間:「ほれ、捨吉を見習え。りん」 りん:「うう・・・」 草間:「まぁ、それが済んだら飯の時間になるだろう。 草間:頑張って終わらせることだな」 りん:「はぁ・・・まるで姑のようなお侍様だ・・・」 草間:「何か言ったか?」 りん:「いいえ!何も」 捨吉:「・・・ねぇねぇ、草間様。今日もお仕事行かなくて良いの?」 草間:「ああ、この先半年、私は暇(いとま)を頂いているからな」 りん:「自分だって働いてないじゃないか」 草間:「・・・働いていない故(ゆえ)、今はうちの台所事情も厳しいからな。 草間:りんの分の飯は抜いてもらうか」 りん:「すみません!働きます!」 捨吉:「ごめんね、草間様。 捨吉:オイラたちを助ける為に、お上から色々お叱りを受けたんだろ?」 草間:「いいや、お前たちの事は上手く誤魔化した。だから気にせずとも良い。 草間:だが、暇を出された一番の原因は・・・」 りん:「まぁ、まさか死罪にするはずの人間を目の前でとり逃がしました、なんて、前代未聞だもんねぇ」 草間:「お陰様で私は半年の謹慎だ。 草間:全く、どうしてくれるんだ、あのお方は・・・ふふっ」 捨吉:「あれ?草間様、何で笑ってるの?」 草間:「ん・・・ああ、この一件でお上からお触れがあってな。 草間:税を誤魔化し、私腹を肥やしていた者共に対して、処罰を下すことになったのだ」 捨吉:「へぇ、そいつはすごいや!」 草間:「本当にな・・・今思えば罪人を逃しておいて、あっけらかんと 草間:『申し訳ございませんでした。私は追放処分にてご容赦願います』 草間:・・・と言い放ったところまで、あのお方の計算だったかもしれぬ」 りん:「でも意外だったよ。 りん:草間様は今回の件に関して、もっと腹を立てているかと思ったのに」 草間:「ふっ・・・私も薄汚い金策(きんさく)ばかりに頭を使っていた奴らが、許せなかったらしい」 りん:「あらあら、草間様とは案外話が合いそうだ」 草間:「案外とはなんだ」 りん:「あーぁ、あの人は今頃どこで何をしてるのかなぁ・・・」 草間:「こんなによく晴れた日だ。 草間:きっと呑気に欠伸(あくび)でもしてるに違いない」 りん:「ふふ、そうだね。そうだと良いね・・・」 0:(しばしの間。場面転換。とある茶屋にて) 雄之進:「ふぁーあ・・・いい天気だねぇ。 雄之進:腹も膨れたし、今日は絶好の昼寝日和だ」 清太:「オイオイ、呑気なこと言ってんじゃねぇよ。 清太:この峠を夕方までに越えねぇと、今晩は野宿だぞ」 雄之進:「野宿かぁ・・・いいね、楽しそうだ」 清太:「ったく・・・こんなお気楽なヤツがついこの前まで、お奉行様だったなんて誰も気付かねぇな」 雄之進:「それを言うなら、そのお奉行様が盗っ人と一緒に旅をしてるなんて、誰も思わないさ」 清太:「はぁ・・・」 雄之進:「おや?何でため息なんかつくんだい?」 清太:「全く、とんでもねぇ事をしてくれたぜ。 清太:お前が俺を逃がした時は、何してやがるんだ、って思わず目を疑ったよ」 雄之進:「いやいや、うっかりしていたよ。 雄之進:縄の結び目があんなに簡単に解けるなんて」 清太:「けっ、よく言うぜ。 清太:『追え、逃すな』なんて言いながら、目が笑ってたぞ。この大根役者」 雄之進:「はは、演技に関してはもう少し学ばないといけないね」 清太:「・・・そいつはそうと、お前、あんな大事(おおごと)起こしちまって、家の方は大丈夫なのかい?」 雄之進:「はは、大丈夫さ。元々、私は妾(めかけ)の子だ。 雄之進:義理の母には疎まれていたし、兄弟とも仲が良いわけじゃない。 雄之進:それに・・・」 清太:「それに?」 雄之進:「実は父も裏でコソコソと金策に走っていたんだ。 雄之進:私はそれが嫌で仕方なかった。今回は良いきっかけになったよ」 清太:「はは、親父さんにとっては親不孝な息子だな」 雄之進:「今までずっと大人しく言う事を聞いてきたんだ。もう充分親孝行はしたさ」 清太:「全く、普段はへらへらしてるくせに、こういう時は遠慮がねえから恐ろしいよ」 雄之進:「お褒めに預かり光栄だよ」 清太:「はいはい。さて・・・これからどうするよ?」 雄之進:「そうだね。父には勘当されたし、私は晴れて自由の身だ。 雄之進:これからは心置き無く、自分のしたい事をしようと思う」 清太:「したい事?」 雄之進:「ああ、旅をするんだ。 雄之進:各地を巡って困っている人を見つけたら、助けて歩く。そんな旅を」 清太:「またそれは、難儀な旅だなぁ・・・そんな事ができるのか?」 雄之進:「できるさ。もちろん清も着いてきてくれるだろう?」 清太:「・・・仕方ねぇな。俺とお前にはコイツがあるからな」 清太:(清太、懐から木簡を取り出す) 雄之進:「ああ、この誓いは一生有効だ」 雄之進:(雄之進、懐から木簡を取り出す) 清太:「言われなくても、今度は絶対守ってやるよ」 雄之進:「私もこの先、死ぬまでこの誓いを守り抜こう」 清太:「一蓮托生! 清太:この先何があろうとも、俺はお前を裏切らない」 雄之進:「一蓮托生。 雄之進:例えどんなことが起きようとも、私はお前の友でいると誓おう」 りん:これは、約束の話。 りん:幼い二人の少年が交わした、未来へ続く誓いの話。 0:〜了〜

清太:「一蓮托生(いちれんたくしょう)! 清太:この先何があろうとも、俺はお前を裏切らない」 雄之進:「一蓮托生。 雄之進:例えどんなことが起きようとも、私はお前の友でいると誓おう」 りん:これは、約束の話。 りん:幼い二人の少年が交わした、誓いの話。 0:『一蓮托生』 0:(街中、立て看板を見ている清太と、その両脇にりん、捨吉が立っている) 清太:「義賊『猫ノ目』。今度は悪名高い役人の屋敷から、五十両を持ち逃げ・・・ねぇ」 りん:「・・・ねぇねぇ。清(せい)さぁん!」 捨吉:「兄貴ィー、兄貴ィー」 りん:「清さん!清さんってばぁ!」 清太:「・・・あぁ、もううるせぇな!テメェら! 清太:さっきからぎゃあぎゃあピイピイと!」 りん:「だってさぁ、清さん。もう昼飯時だよ? りん:あっちこっちの飯屋から、いい匂いが漂ってきててさァ〜。 りん:アタシ、腹が減っちまったんだよォ」 捨吉:「オイラもだよー、兄貴ィ〜。 捨吉:腹が減りすぎて、今にも背中とくっつきそうだよ」 清太:「馬鹿野郎、そう簡単に腹と背中がくっついてたまるか! 清太:飯屋(めしや)の匂いで腹が減るなら、息止めながら歩きやがれ!」 りん:「そんなことしたら死んじまうよ!」 清太:「仕方ねぇだろ、昨夜(ゆうべ)の稼ぎは、ほぼほぼ使い切っちまったんだ。 清太:次の仕事まで飯屋の飯なんざ、食う余裕はねぇんだよ」 捨吉:「そんなこと言ったって、ここんとこ毎日大根の切れっ端のみそ汁と、麦飯だけじゃねぇか。 捨吉:オイラ、そんなんじゃ身体がもたねぇよ」 りん:「そうよそうよォ」 清太:「あーーー!喚くな、みっともねぇ!」 りん:「清さぁん」 捨吉:「兄貴ィ・・・」 清太:「だァーーー!わかった!何か食わしてやる! 清太:ただし、一人15文(もん)以内!15文以内で食えるもんだぞ!」 捨吉:「やったぁ!オイラは蕎麦にする!」 りん:「アタシは団子!!」 清太:「・・・ったく・・・いざと言う時の為に取っておいた金も、全部お前らの腹の中に消えちまう・・・」 清太:(清太の懐から木簡が落ちる) りん:「・・・ん?清さん、懐(ふところ)から何か落ちたよ?」 捨吉:「なんだい?食い物かい?」 清太:「あぁ・・・そいつは・・・」 雄之進:(遠くの方で雄之進が叫ぶ) 雄之進:「誰かァーーー!その者を捕まえてくれぇーーー!」 0:(物盗りが清太たちに向かって走ってくる) りん:「あらあら、なんだい?物盗り?」 清太:「チッ・・・くだらねぇことしやがって 清太:・・・おらよッ!」 0:(清太が脚をひっかけ、物盗り転ぶ。そのまま焦って逃げていく) りん:「よっ!鮮やかな足捌(あしさば)き!」 捨吉:「足癖の悪さは天下一!」 清太:「褒めてんのか貶(けな)してんのか・・・」 雄之進:「ハァ・・・ハァ・・・ありがとう、助かったよ」 清太:「ああ、これアンタの財布だろ?」 雄之進:「いやぁ、すまない。ちょっと気を抜いた隙に盗られてしまって・・・」 りん:「へぇ〜、アンタ、刀差してるってことは、お侍様だろ? りん:随分鈍臭い(どんくさい)お侍様もいるもんだねぇ〜」 雄之進:「ハハ、面目(めんぼく)ない」 清太:「気を付けろよ。ここら辺は治安が悪いからなぁ。 清太:刀差してようが、アンタみたいなボンクラは格好の的になるぜ」 雄之進:「そうだね、肝に銘じておくよ」 清太:「・・・ボンクラ、って俺らみたいのに言われて怒らねぇとは・・・やっぱり相当なボンクラだぜ。アンタ」 捨吉:「そんなことより兄貴!蕎麦食いに行こうよ!」 清太:「くそっ・・・今ので忘れたかと思ってたのに・・・」 りん:「あっ、そうそう! りん:アタシも忘れないうちにコレ!清さんに返しておくね!」 りん:(りん、先程拾ったものを清太に渡す) 清太:「おう、ありがとよ」 雄之進:「・・・!それは・・・!」 清太:「なんだい、アンタ?そんなにコイツが珍しいかい?」 雄之進:「いや、珍しいんじゃない! 雄之進:珍しいんじゃなくて、その・・・ 雄之進:(雄之進、懐から仏画を取り出す) 雄之進:これ!」 清太:「ん?・・・木簡(もっかん)に描かれた仏画(ぶつが)に『一蓮托生』の文字・・・!? 清太:おい・・・お前、まさか・・・?」 雄之進:「・・・久しぶりだね。清太」 清太:「雄(ゆう)・・・?お前、雄か!?」 雄之進:「いやぁ、まさかこんなところで会えるなんて・・・」 清太:「ははは!なんだよお前、随分でっかくなりやがって!」 雄之進:「それはお互い様だろう?」 捨吉:「・・・何だかオイラにゃ状況が読めねぇや・・・」 りん:「うーんと・・・感動の再会ってヤツ・・・かねぇ?」 0:(しばしの間。場面転換、団子屋にて) りん:「美味しい!やっぱり団子は最高だねぇ!」 捨吉:「りん姉ちゃん!二本も手に持ってズルいよ! 捨吉:オイラにもくれよぉ!」 清太:「コラぁ、そんなに頬張って喉に詰まらせんじゃねぇぞ」 雄之進:「ははっ、団子は逃げないから、ゆっくりお食べ」 清太:「悪いな、雄。 清太:昼飯どころか甘味(かんみ)までご馳走になっちまって」 雄之進:「いや、こちらこそ。 雄之進:財布を取り返してもらったお礼だと思って、遠慮なく食べてくれよ」 捨吉:「遠慮なくご馳走になります!雄兄ちゃん!」 清太:「捨(すて)!ちったぁ遠慮しやがれ!」 雄之進:「ははは、楽しそうだなぁ。清」 清太:「楽しいもんか、騒がしいだけだ。全く」 雄之進:「いや、元気そうで安心したよ」 清太:「お前もな。なまっ白くて女みたいだったクセに、すっかり立派になってて驚いたぜ」 雄之進:「おや、そんなに私は弱々しかったかい?」 清太:「吹けば飛ぶような弱々しさだったなぁ。 清太:まぁ、今も昔もぼんやりしてるところは変わらなそうだが」 雄之進:「うーん。これでも結構しっかりしてると思うんだけどなぁ」 清太:「プーッ!さっき財布スられといて、何言ってんだ。 清太:ちゃんちゃら可笑しいぜ」 りん:「ねぇねぇ!そういや、雄さんはうちの清さんとどういう関係なんだい?」 雄之進:「あぁ、清と私は同じ寺子屋に通っていてねぇ」 りん:「へぇ!清さん、寺子屋なんて通えるほど頭の出来が良かったのかい?」 清太:「りん、お前あとで覚えておけよ・・・」 雄之進:「ふふ、清は頭の回転は誰よりも速かったんだ。 雄之進:寺子屋でも指折りの秀才でね」 りん:「ふぅーん」 清太:「なんだよ、その疑いの目は・・・」 りん:「別にぃ」 清太:「てめぇ、信じてねぇな?」 りん:「まぁ、いくら秀才だったとしても、うちのガサツな清さんと、優しくて繊細そうな雄さんが友達っていうのは、にわかに信じ難いよねぇ」 清太:「ガサツは余計だ。ガサツは」 雄之進:「いやいや、清と居るのはなかなか刺激があって楽しかったよ。 雄之進:背中にカエルを入れてきたり、イモリを顔に投げつけてきたり・・・」 捨吉:「なになに?新しい遊びの話?」 りん:「・・・捨坊。お前は絶対に真似しちゃいけないよ」 清太:「ああもう!余計な事言うんじゃねぇ! 清太:つまり、俺とコイツはただの昔馴染みだよ!」 雄之進:「ははは、そういう事だ」 りん:「じゃあ、二人が同じ絵を持っているのは、寺子屋の仲間だから、ってこと?」 清太:「・・・あぁ、そいつぁ・・・」 雄之進:「・・・おっと、悪いんだが、そろそろ私は務めがあるのでお暇(いとま)するよ」 捨吉:「ええっ!雄兄ちゃん、もう行っちまうのか? 捨吉:聞きたいこといっぱいあるのに・・・」 雄之進:「すまないね、捨吉。 雄之進:また今度、会った時にでもゆっくり話をしよう」 捨吉:「でもぉ」 りん:「こぉら、捨坊。ワガママ言うんじゃないよ。 りん:雄さんだって仕事があるんだよ」 捨吉:「うん・・・」 清太:「悪かったな、雄。忙しいのによ」 雄之進:「いいや、久々に楽しい時間を過ごせたよ」 清太:「そうか、ありがとよ。また機会があったら、のんびり茶でも飲もうや」 雄之進:「あぁ。そうだな」 清太:「じゃあな。また・・・」 雄之進:(雄之進、食い気味に) 雄之進:「清。最後に一つだけ聞きたいことがあるんだが」 清太:「あ?どうした?」 雄之進:「最近、この辺で噂になっている『猫ノ目』について何か知っていることは無いか?」 清太:「(ちょっと間を置いて)・・・さぁな」 雄之進:「そうか、わかった。何も知らないんならそれで良いんだ」 清太:「・・・ああ、すまねぇな」 雄之進:「いや。急に変なことを聞いたな。じゃあ、また」 清太:「・・・おう」 0:(雄之進、清太たちの元を去る。しばらく行った先に草間が待っている) 草間:「雄之進様」 雄之進:「・・・様付けは勘弁してくれと言ったじゃないですか。草間(くさま)殿」 草間:「仕方がないでしょう。一応、貴方の方が位(くらい)は上です」 雄之進:「そんなことより、例の情報は手に入りましたか?」 草間:「はい。どうやら、猫ノ目はこの辺りを根城(ねじろ)にしているようで・・・ 草間:ただ、民衆からの人気は高く、奴のことを庇う為か、皆一様に言葉を濁すばかり。 草間:残念ながら、これといった情報は出てきませんでした」 雄之進:「・・・そうですか」 草間:「どう致しましょう? 草間:町人たちを捕え、無理矢理にでも情報を吐かせるという手も・・・」 雄之進:「いや、そんなことをしては我らが反感を買うだけです」 草間:「しかし、今のところの手がかりが、主犯は若い男、というだけでは・・・」 雄之進:「そういえば、被害にあった屋敷の方から、何か証言はとれましたか?」 草間:「ああ・・・それなんですが、夜中に厠(かわや)へ行く為に起きた幼い倅(せがれ)が、途中微(かす)かですが、子どもと女の話す声を聞いたような気がする、と」 雄之進:「子どもと、女・・・」 草間:「いかがされましたか?」 雄之進:「・・・草間殿。一つ頼まれ事をお願いしてもいいでしょうか?」 草間:「はい、なんなりと」 0:(しばしの間。場面転換、夜の武家屋敷周辺) りん:「・・・いやぁ、随分立派なお屋敷だねぇ」 捨吉:「ホントホント。塀(へい)も高いし、見上げてるだけで首が痛くなりそうだ」 清太:「こらっ、てめぇら・・・こそこそ喋ってんじゃねぇよ。 清太:見張りに見つかっちまうだろうが」 りん:「あっ」 清太:「ったく・・・おい、捨。外の見張りの人数はどれくらいだ?」 捨吉:「東の正門に二人。西の裏門に二人。北と南に一人ずつだよ」 清太:「・・・交代の間隔は?」 捨吉:「だいたい一刻(いっこく)ごと」 りん:「さすがアタシ。事前に集めた情報そのまんま」 清太:「調子に乗ってんじゃねぇぞ、りん。 清太:忍びこめそうな場所は探してきたのか?」 りん:「門からはとても無理そうだけど・・・ほら、あそこに見える立派な松の枝。 りん:南側の見張りさえどうにかしてくれれば、あれを使って入れるよ」 清太:「・・・そうか。なら俺があの見張りを気絶させる」 りん:「どうやって?」 清太:「なぁに、そんなに難しいことじゃねぇ。 清太:捨、交代の一刻まであとどれくらいだ?」 捨吉:「多分、あと四半刻(しはんとき)くらいかな?」 清太:「そうか、なら丁度いい。 清太:(清太、見張りにこっそり近寄る) 清太:・・・おい、交代の時間だァ」 0:(見張り、倒れる) りん:「・・・なるほど、交代だと思ってうっかり気を抜いた瞬間に、仕留めるって寸法かぁ」 清太:「感心してねぇで、とっとと登っちまいな」 りん:「はいはい。そらよっ・・・と!」 りん:(りん、縄を枝に引っ掛けて、塀に登る) 清太:「さて、捨。お前は終わるまでどこかに隠れてな」 捨吉:「えーっ、オイラも着いていきたいよォ」 清太:「ダメだ。お前はまだこの縄を伝って登れるほど、力がねぇだろ?」 捨吉:「でもぉ・・・」 清太:「捨、今のお前に出来ることは何だ?」 捨吉:「・・・言われたことをしっかり覚えて、二人に正確に伝えること。 捨吉:兄貴たちの帰りを、誰にも見つからないよう隠れて待つこと」 清太:「そうだ。チビのお前でも、それだけの仕事ができれば充分だ。 清太:必ず帰ってくるから、大人しく待ってろよ。な?」 捨吉:「うん、わかった・・・」 清太:「よぉし、じゃあ行ってくるからな」 0:(清太。屋敷の庭に入り、りんと合流する) りん:「・・・遅いよォ。清さん」 清太:「悪いな・・・蔵の位置は?」 りん:「こっちだよ。もう鍵も開けた」 清太:「早ぇな。今日は随分手際がいいじゃねぇか」 りん:「今日は、じゃなくて、いつでも、でしょ?」 清太:「無い胸張って威張ってんじゃねぇよ。蔵はどっちだ?」 りん:「こっちこっち」 0:(清太とりん、蔵に入る) 清太:「へぇ・・・こりゃあ溜め込んでやがるなぁ」 りん:「なんでも、ここの主は税をちょろまかして自分の懐に入れちまう、とんだクソ役人だって話だよ」 清太:「なら遠慮はいらねぇな。持てるだけ頂いていくぞ」 りん:「よっしゃ、千両箱はこっちだよ」 清太:「おう」 りん:「ひゃあ、すごいねぇ。大判小判がざっくざくとはまさにこのこと」 清太:「余計なおしゃべりしてねぇで、さっさと詰めちまいな。 清太:早くしねぇと見張りが来る」 りん:「平気だよォ。 りん:今夜はこの屋敷、外回りばかり固めて、中の見張りは手薄だって話だから」 清太:「・・・お前、今回はやたらおしゃべりな情報屋に当たったな」 りん:「へへへ。アタシの魅力に負けて、思わずぺらぺら喋っちまったんだよ。きっと」 清太:「気を付けろよ。口が軽いやつほど信用ならねぇからな」 りん:「わかってるよぉ。 りん:よし・・・!じゃあアタシは先に捨坊と合流して・・・ りん:ひゃあ!!」 清太:「りん・・・?オイ、どうした!?」 草間:(蔵から顔を覗かせた清太に、草間が刀を突きつける) 草間:「動くな」 清太:「・・・ッ」 草間:「猫の面を被った若い男・・・お前が猫ノ目だな?」 清太:「・・・ああ、そうだ」 草間:「逃げようなどと思うな。蔵の周りは完全に囲まれている。 草間:それに・・・」 0:(捕らえられたりんと捨吉が立っている) りん:「・・・悪い、捕まっちまった・・・」 捨吉:「兄貴・・・ごめんよ・・・」 清太:「お前ら・・・! 清太:・・・チッ、なんだか今日は上手く行き過ぎると思ったんだ。 清太:どうやら、アンタらの策にまんまとハマっちまったようだな」 草間:「その通り。 草間:残念ながら、そこの女に掴ませたのは、こちらが事を有利に運ぶ為の情報よ」 清太:「だから口が軽いヤツは信用ならねぇんだよな・・・」 りん:「アタシのせいだ・・・ごめん、ごめんよぉ・・・」 清太:「謝んじゃねぇ。それを怪しいと気付けなかった俺にも落ち度がある」 草間:「・・・さて、猫ノ目。 草間:お前も大人しくお縄についてもらおうか?」 清太:「くっ・・・こうなったら・・・」 雄之進:「暴れたところで無駄だよ。何処にも逃げ場は無い」 清太:「・・・ッ!雄・・・お前、どうしてここに? 清太:うぐっ・・・!」 捨吉:「兄貴!」 雄之進:「そのまま三人とも、奉行所(ぶぎょうしょ)へ連れて行ってください」 清太:「奉行所・・・?雄、お前、まさか・・・」 草間:「黙れ罪人。大人しく着いてこい」 清太:「ぐっ・・・くそっ、俺らをハメたのはお前、なのか・・・?」 雄之進:「・・・すまないね、清。今の私はお前と相反(あいはん)する立場に居るんだよ」 0:(しばしの間。場面転換、幼い頃の清太と雄之進) 清太:「へぇ、上手いもんだなぁ」 雄之進:「あぁ、ビックリした」 清太:「おいおい、俺はそんな呑気(のんき)な声でビックリしたなんて言った奴、初めて見たぜ」 雄之進:「いやぁ、夢中になっていたから本当に気付かなかったよ 雄之進:・・・おや?清。頬に立派な紅葉(もみじ)ができているね。 雄之進:また叱られるような真似をしたのかい?」 清太:「(ちょっと間を置いて)・・・別に、蚊が居たから、思いっ切り自分でひっぱたいただけだ」 雄之進:「大方(おおかた)、イタズラでもしてお母上に叱られたな?」 清太:「・・・なんでわかるんだよ?」 雄之進:「清は嘘をつく時、ほんの少し躊躇(ちゅうちょ)する」 清太:「チッ、よく見てやがるぜ・・・」 雄之進:「ははは、一応お前の一番の友人だと自負(じふ)しているからね」 清太:「へぇへぇ、ありがとさん」 雄之進:「ふふふ」 清太:「そんなことより・・・なんだい?そいつは仏画かい?」 雄之進:「そうだよ。私がこうやって描いた仏画を見ると、母上が心安らぐと言って喜んでくれるんだ」 清太:「確かに優しい顔した仏様だ。きっと描くヤツの性格を現しているんだなぁ」 雄之進:「清も描いてみるかい?」 清太:「いや、俺みたいなヤツが描いたら、きっとどんな菩薩(ぼさつ)も仁王(におう)様みたいな顔になっちまうさ」 雄之進:「ははは、そんなことは無いさ。 雄之進:清は暴れん坊だけど、誰よりも正義感に溢れた優しい人間だ。私は知っている」 清太:「よせやい。そんな褒められたって、俺にはビタ一文だって返せるモンがねぇや」 雄之進:「返さなくたっていいさ。 雄之進:清はひとりぼっちでぼんやりと毎日過ごしていた私の手を引いて、皆の輪に入れてくれた。 雄之進:野山を一緒に駆け回って、色んな事を教えてくれた。 雄之進:返してもらうどころか、私の方が貰いっぱなしだ」 清太:「別に・・・そんなの大したことねぇよ」 雄之進:「・・・そうだ、清。私にお礼をさせてくれないか?」 清太:「お礼、ってお前。俺はそんなことしてもらうほど、何も・・・」 雄之進:「いや、私がお礼をしたいんだよ。 雄之進:・・・もうじき、会えなくなってしまうかもしれないから」 清太:「なんだ・・・お袋さん、そんなに良くねぇのか?」 雄之進:「・・・ああ、ここ最近ずっと伏せっていてね。 雄之進:そろそろ、遠縁の親戚を頼ろうという話になった」 清太:「母一人、子一人の家族じゃ大変だもんな・・・けど、そうか・・・行っちまうのか」 雄之進:「だからこそ、清には今のうち、何か返しておかないとと思ったんだ。 雄之進:何でもいい。欲しい物や、してほしいことはないか?」 清太:「うーん・・・そうだ!雄、俺にもその仏画を描いてくれよ!」 雄之進:「いいけど、そんな事で良いのかい?」 清太:「おうよ!二人で同じモンを持ってれば、いつかシワシワのジジイになったって、互いを見つける目印になるだろう?」 雄之進:「ああ・・・なるほど、それは名案だ」 清太:「だろう?」 雄之進:「それなら、そこに誓いを立てよう」 清太:「誓い?」 雄之進:「そう、何年経とうとずっと私たちは一番の友人だと、決して忘れないために」 清太:「そりゃいいな!どんな誓いにするんだ?」 雄之進:「そうだなぁ・・・ 雄之進:では、この蓮華座(れんげざ)にちなんで『一蓮托生』はどうかな?」 清太:「へぇ、何があっても運命を共にするなんて、ガキの誓いにしては大仰(おおぎょう)だねぇ」 雄之進:「いいじゃないか。この誓いは一生有効なのだから」 清太:「よぉし、そういうことなら、俺も誓おう。男同士の約束だ」 雄之進:「ああ、私も二言は無いよ」 清太:「一蓮托生!・・・」 0:(しばしの間。場面転換。牢の中) 清太:「うっ・・・ここは・・・?」 雄之進:「気が付いたかい?清」 清太:「雄・・・!・・・ぐっ」 雄之進:「悪いな。お前が暴れようとしたものだから、少々手荒に扱ってしまった」 清太:「はは、道理で全身が痛てぇわけだ・・・」 雄之進:「すまないが、今は手当てをしてやれない。許してくれ」 清太:「まぁ、そうだろうな・・・お奉行様が罪人なんか手当てした日にゃ、お前の首が飛ぶかもしれねぇもんな」 雄之進:「・・・そうだな」 清太:「・・・なぁ、アイツらは無事か?」 雄之進:「りんと捨吉は別の牢に入ってもらっている。 雄之進:二人とも憔悴(しょうすい)してはいるが、怪我はしていないよ」 清太:「そうか・・・アイツらには手荒な真似しないくれて、ありがとうよ」 雄之進:「ああ」 清太:「・・・なぁ、いつから気付いてた?俺が猫ノ目だってこと」 雄之進:「質問をしただろう。猫ノ目について何か知っていることは無いか、と」 清太:「それだけでわかるモンか?」 雄之進:「清は嘘をつく時、ほんの少し躊躇する」 清太:「ふっ、ガキの頃からの癖、よく覚えてやがったな」 雄之進:「当たり前だろ?これでも、一番の友人を自負してたからね」 清太:「そうか、だからまんまとお前の策に引っかかっちまったのか」 雄之進:「まぁ、私の記憶違いであればいい、と願ってはいたが」 清太:「何で?」 雄之進:「お前をこうして捕えなくて済んだから」 清太:「ははは、お優しいこと」 雄之進:「優しくなんかないさ。 雄之進:あの時、気付かないフリをしておくことだってできたんだから」 清太:「それは無理な話だろう?」 雄之進:「・・・そうだね。無理な話だ」 清太:「しかし、驚いたなぁ。 清太:庶民ばかりの寺子屋で、机並べて一緒に手習いをした雄が、まさかこんなに出世してたとは」 雄之進:「別に驚く事でもないさ。 雄之進:母上が亡くなった後、しばらくして父と名乗る男が現れてね。 雄之進:大層ご立派なご身分だというその父が、色々と手を回して、今の仕事を与えてくれたんだ」 清太:「へぇ、ありがたいことだな」 雄之進:「ありがたい・・・か。素直にそう思えたら良かったんだがな 」 清太:「どうした?」 雄之進:「・・・なぁ、なんで清は盗っ人なんかになったんだ?」 清太:「俺か? 清太:俺はそうだな・・・お前みたいな力も地位もなかったからだな」 雄之進:「力と・・・地位?」 清太:「ああ、去年の飢饉(ききん)があったろう? 清太:あの時、うちの親父が打ち壊しに参加してなぁ。参加したは良いが、運悪く逃げ遅れて役人共に殺されちまった」 雄之進:「・・・!」 清太:「お袋はその時の心労が祟って、後を追うように逝っちまってな。 清太:死ぬ間際まで言ってたよ。お上(かみ)が税を少しでもまけてくれたら、親父は死なずに済んだかもしれないのに、って」 雄之進:「・・・」 清太:「まぁ、天災は仕方ねぇ。お上がどうこうしたところで、防げるモンじゃねぇからな。 清太:ただ、俺は許せなかったんだ。 清太:下々(しもじも)の者が苦しんでいる中、自分の保身ばかりを考え、私腹を肥やしている金持ちや、役人共をな」 雄之進:「・・・だから、そういう奴らの屋敷に忍び込んで金品を奪い、庶民に分け与えていた、と」 清太:「そういうこった。 清太:元々、身の軽さと、腕っぷしには自信があったからな。 清太:それくらいの事はやってのけるつもりだった」 雄之進:「けど、それは罪だ。 雄之進:知っているだろう?十両以上の金を盗めば、その者は・・・」 清太:「ああ、知ってるさ。 清太:十両以上の窃盗は死罪、なんだろ?」 雄之進:「・・・それを知っていて、何故」 清太:「さっきも言ったろ?俺にはお前のような力も、地位も無い。 清太:力が無いものが何をしようと、それはいとも簡単に潰されちまう。 清太:・・・うちの親父のようにな」 雄之進:「・・・」 清太:「そう思った時、俺にはこうするしか無かったよ。 清太:目の前で腹を空かせて今にも死にそうな奴を救うには・・・ 清太:力の無い俺が、力ある者に楯突く(たてつく)には、こうするしかなかった」 雄之進:「もう少し・・・もう少し早く私達が再会していれば、どうにかなったと思うか?」 清太:「いいや、ならねぇよ。 清太:義賊なんて大層なこと言われているが、所詮俺がやったことは汚ぇ盗っ人。一番の友と言ってくれたお前に対する裏切りだ。 清太:口が裂けても助けてくれ、なんて言えねぇさ」 雄之進:「そんなこと・・・」 清太:(清太、雄之進の言葉を遮るように) 清太:「雄、俺の事をまだ友だと思ってくれるなら、頼みがあるんだ」 雄之進:「頼み?」 清太:「ああ、りんと捨のことだ。 清太:アイツらは先の飢饉で親兄弟を失った憐れな孤児だ。 清太:虫のいい話だが、できればアイツらは見逃してやってくれねぇか?」 雄之進:「清・・・」 清太:「雄、頼む。この通りだ」 雄之進:「・・・わかった。どうにかしてみよう」 清太:「恩に着る。これで心置きなく最期が迎えられるぜ」 雄之進:「清、私は・・・」 清太:「さぁ、お奉行様! 清太:夜明けももう近い。本日の名裁き(めいさばき)、楽しみにしてますぜ」 雄之進:「・・・すまない。すまない。清・・・」 0:(雄之進、木簡を牢の前に置いてその場を去る) 清太:「・・・はは、やっぱりアイツの描いた菩薩様は、優しい顔してやがるなぁ・・・」 0:(しばしの間。場面転換。処刑場) 草間:「只今より、罪人の処刑を行う!」 0:(しばしの間。場面転換。草間邸にて) りん:「はぁ・・・今日もいい天気だねぇ。 りん:こんな日はサボって団子でも食べに行きたくなっちまうよ」 草間:「・・・こら、りん。洗濯は終わったのか?」 りん:「げぇっ、草間様・・・」 草間:「全く、雄之進様の頼みで雇ったは良いものの、暇があればサボりおって・・・ 草間:女中頭(じょちゅうがしら)も呆れていたぞ」 りん:「仕方ないじゃないか・・・ りん:天気が良い日にゃ腹が減って、集中できなくなっちまうんだよォ」 草間:「そんな言い訳があるか、馬鹿者」 捨吉:「おーい!草間様!」 草間:「おお、捨吉。 草間:頼んでいた仕事は終わったか?」 捨吉:「うん!帳簿整理の手伝いが終わったから、暇があったら算盤の勉強に付き合ってほしくて」 草間:「ほれ、捨吉を見習え。りん」 りん:「うう・・・」 草間:「まぁ、それが済んだら飯の時間になるだろう。 草間:頑張って終わらせることだな」 りん:「はぁ・・・まるで姑のようなお侍様だ・・・」 草間:「何か言ったか?」 りん:「いいえ!何も」 捨吉:「・・・ねぇねぇ、草間様。今日もお仕事行かなくて良いの?」 草間:「ああ、この先半年、私は暇(いとま)を頂いているからな」 りん:「自分だって働いてないじゃないか」 草間:「・・・働いていない故(ゆえ)、今はうちの台所事情も厳しいからな。 草間:りんの分の飯は抜いてもらうか」 りん:「すみません!働きます!」 捨吉:「ごめんね、草間様。 捨吉:オイラたちを助ける為に、お上から色々お叱りを受けたんだろ?」 草間:「いいや、お前たちの事は上手く誤魔化した。だから気にせずとも良い。 草間:だが、暇を出された一番の原因は・・・」 りん:「まぁ、まさか死罪にするはずの人間を目の前でとり逃がしました、なんて、前代未聞だもんねぇ」 草間:「お陰様で私は半年の謹慎だ。 草間:全く、どうしてくれるんだ、あのお方は・・・ふふっ」 捨吉:「あれ?草間様、何で笑ってるの?」 草間:「ん・・・ああ、この一件でお上からお触れがあってな。 草間:税を誤魔化し、私腹を肥やしていた者共に対して、処罰を下すことになったのだ」 捨吉:「へぇ、そいつはすごいや!」 草間:「本当にな・・・今思えば罪人を逃しておいて、あっけらかんと 草間:『申し訳ございませんでした。私は追放処分にてご容赦願います』 草間:・・・と言い放ったところまで、あのお方の計算だったかもしれぬ」 りん:「でも意外だったよ。 りん:草間様は今回の件に関して、もっと腹を立てているかと思ったのに」 草間:「ふっ・・・私も薄汚い金策(きんさく)ばかりに頭を使っていた奴らが、許せなかったらしい」 りん:「あらあら、草間様とは案外話が合いそうだ」 草間:「案外とはなんだ」 りん:「あーぁ、あの人は今頃どこで何をしてるのかなぁ・・・」 草間:「こんなによく晴れた日だ。 草間:きっと呑気に欠伸(あくび)でもしてるに違いない」 りん:「ふふ、そうだね。そうだと良いね・・・」 0:(しばしの間。場面転換。とある茶屋にて) 雄之進:「ふぁーあ・・・いい天気だねぇ。 雄之進:腹も膨れたし、今日は絶好の昼寝日和だ」 清太:「オイオイ、呑気なこと言ってんじゃねぇよ。 清太:この峠を夕方までに越えねぇと、今晩は野宿だぞ」 雄之進:「野宿かぁ・・・いいね、楽しそうだ」 清太:「ったく・・・こんなお気楽なヤツがついこの前まで、お奉行様だったなんて誰も気付かねぇな」 雄之進:「それを言うなら、そのお奉行様が盗っ人と一緒に旅をしてるなんて、誰も思わないさ」 清太:「はぁ・・・」 雄之進:「おや?何でため息なんかつくんだい?」 清太:「全く、とんでもねぇ事をしてくれたぜ。 清太:お前が俺を逃がした時は、何してやがるんだ、って思わず目を疑ったよ」 雄之進:「いやいや、うっかりしていたよ。 雄之進:縄の結び目があんなに簡単に解けるなんて」 清太:「けっ、よく言うぜ。 清太:『追え、逃すな』なんて言いながら、目が笑ってたぞ。この大根役者」 雄之進:「はは、演技に関してはもう少し学ばないといけないね」 清太:「・・・そいつはそうと、お前、あんな大事(おおごと)起こしちまって、家の方は大丈夫なのかい?」 雄之進:「はは、大丈夫さ。元々、私は妾(めかけ)の子だ。 雄之進:義理の母には疎まれていたし、兄弟とも仲が良いわけじゃない。 雄之進:それに・・・」 清太:「それに?」 雄之進:「実は父も裏でコソコソと金策に走っていたんだ。 雄之進:私はそれが嫌で仕方なかった。今回は良いきっかけになったよ」 清太:「はは、親父さんにとっては親不孝な息子だな」 雄之進:「今までずっと大人しく言う事を聞いてきたんだ。もう充分親孝行はしたさ」 清太:「全く、普段はへらへらしてるくせに、こういう時は遠慮がねえから恐ろしいよ」 雄之進:「お褒めに預かり光栄だよ」 清太:「はいはい。さて・・・これからどうするよ?」 雄之進:「そうだね。父には勘当されたし、私は晴れて自由の身だ。 雄之進:これからは心置き無く、自分のしたい事をしようと思う」 清太:「したい事?」 雄之進:「ああ、旅をするんだ。 雄之進:各地を巡って困っている人を見つけたら、助けて歩く。そんな旅を」 清太:「またそれは、難儀な旅だなぁ・・・そんな事ができるのか?」 雄之進:「できるさ。もちろん清も着いてきてくれるだろう?」 清太:「・・・仕方ねぇな。俺とお前にはコイツがあるからな」 清太:(清太、懐から木簡を取り出す) 雄之進:「ああ、この誓いは一生有効だ」 雄之進:(雄之進、懐から木簡を取り出す) 清太:「言われなくても、今度は絶対守ってやるよ」 雄之進:「私もこの先、死ぬまでこの誓いを守り抜こう」 清太:「一蓮托生! 清太:この先何があろうとも、俺はお前を裏切らない」 雄之進:「一蓮托生。 雄之進:例えどんなことが起きようとも、私はお前の友でいると誓おう」 りん:これは、約束の話。 りん:幼い二人の少年が交わした、未来へ続く誓いの話。 0:〜了〜